◇◆◇◆有閑倶楽部を妄想で語ろう34◇◆◇◆

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1名無し草
ここは一条ゆかり先生の「有閑倶楽部」が好きな人のためのスレッドです。

前スレ 
◇◆◇◆有閑倶楽部を妄想で語ろう33◇◆◇◆
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1226656641/

お約束
 ■sage推奨 〜メール欄に半角文字で「sage」と入力〜
 ■妄想意欲に水を差すような発言は控えましょう
*作品への感想は大歓迎です。作家さんたちの原動力になり、スレも華やぎます。

関連サイト、お約束詳細などは>>2-6の辺りにありますので、ご覧ください。
特に初心者さんは熟読のこと!
2名無し草:2009/01/30(金) 11:01:18
◆関連スレ・関連サイト

「有閑倶楽部 妄想同好会」 http://houka5.com/yuukan/
 ここで出た話が、ネタ別にまとまっているところ。過去スレのログもあり。
 *本スレで「嵐さんのところ」などと言う時はココを指す(管理人が嵐さん)

「妄想同好会BBS」 http://jbbs.livedoor.jp/movie/1322/
 上記サイトの専用BBS。本スレに作品をUPしにくい時のUP用のスレあり。
 *本スレで「したらば」と言う時はココを指す

「有閑倶楽部アンケート スレッド」
 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/1322/1077556851/
 上記BBS内のスレッド。ゲストブック代わりにドゾー。

「画像アップロード用掲示板」
※これまでの競作などに使用した暫定的な掲示板です。
途中で消えることもあり。
http://cbbs1.net4u.org/sr4_bbs.cgi?user=11881yukan2ch
3名無し草:2009/01/30(金) 11:01:48
◆作品UPについてのお約束詳細(よく読んだ上で参加のこと!)

<原作者及び出版元とは全く関係ありません>

・初めから判っている場合は、初回UP時に長編/短編の区分を書いてください。

・名前欄には「題名」「通しNo.」「カップリング(ネタばれになる場合を除く)」を。

・性的内容を含むものは「18禁」又は「R」と明記してください。

・最終レスに「完」や「続く」などの表記をしてもらえると、読者にも区切りが
 分かり、感想がつけやすくなります。

・連載物は、2回目以降、最初のレスに「>○○(全て半角文字)」という形で
 前作へのリンクを貼ってください。

・リレー小説で次の人に連載をバトンタッチしたい場合は、その旨明記を。

・作品UPする時は、直前に更新ボタンを押して、他の作品がUP中でないか
 確かめましょう。重なってしまった場合は、先の書き込みを優先で。

・作品の大量UPは大歓迎です!
4名無し草:2009/01/30(金) 11:02:17
◆その他のお約束詳細

・萌えないカップリング話やキャラ話であっても、 妄想意欲に水を差す発言は
 控えましょう。議論もNG(必要な議論なら、早めに別スレへ誘導)。

・作家さんが他の作品の感想を書く時は、名無しの人たちも参加しやすいように、
 なるべく名無し(作家であることが分からないような書き方)でお願いします。

・あとは常識的マナーの範囲で、萌え話・小ネタ発表・雑談など自由です。

・970を踏んだ人は新スレを立ててください。
 ただし、その前に容量が500KBを越えると投稿できなくなるため、
 この場合は450KBを越えたあたりから準備をし、490KB位で新スレを。

※議論が続いた場合の対処方法が今後決まるかもしれません。
 もし決定した場合は次回のテンプレに入れてください。
5名無し草:2009/01/30(金) 11:02:39
◆初心者さん・初投下の作家さんへ

○2ちゃんねるには独特のルール・用語があるので、予習してください。
 「2ちゃんねる用語解説」http://webmania.jp/~niwatori/

○もっと詳しく知りたい時
 「2典Plus」http://www.media-k.co.jp/jiten/
 「2ちゃんねるガイド」http://www.2ch.net/guide/faq.html

○荒らし・煽りについて
・「レスせずスルー」が鉄則です。指差し確認(*)も無しでお願いします。
 *「△△はアオラーだからスルーしましょう」などの確認レスをつけること

・荒らし・アオラーは常に誰かの反応を待っています。
 反撃は最も喜びますので、やらないようにしてください。
 また、放置されると、煽りや自作自演でレスを誘い出す可能性があります。
 これらに乗せられてレスしたら、「その時点であなたの負け」です。

○誘い受けについて
・有閑スレでは、同情をひくことを期待しているように見えるレスのことを
 誘い受けレスとして嫌う傾向にありますので、ご注意を

○投下制限
・1レスで投下出来るのは32行以内、1行は全角128文字以内ですが、
 1レス全体では全角1,024文字以内です。
 また、最新150レスの内の15レス以上を同じIPアドレスから書き込もうと
 すると、規制に引っかかりますので気をつけてください(●持ちを除く)。
6名無し草:2009/01/30(金) 11:03:06
◆「SSスレッドのガイドライン」の有閑スレバージョン

<作家さんと読者の良い関係を築く為の、読者サイドの鉄則>
・作家さんが現れたら、まずはとりあえず誉める。どこが良かったとかの
 感想も付け加えてみよう。
・上手くいけば作家さんは次回も気分良くウプ、住人も作品が読めて双方ハッピー。
・それを見て自分も、と思う新米作家さんが現れたら、スレ繁栄の良循環。
・投稿がしばらく途絶えた時は、妄想雑談などをして気長に保守。
・住民同士の争いは作家さんの意欲を減退させるので、マターリを大切に。

<これから作家(職人)になろうと思う人達へ>
・まずは過去ログをチェック、現行スレを一通り読んでおくのは基本中の基本。
・最低限、スレ冒頭の「作品UPについてのお約束詳細」は押さえておこう。
・下手に慣れ合いを求めず、ある程度のネタを用意してからウプしてみよう。
・感想レスが無いと継続意欲が沸かないかもしれないが、宣伝や構って臭を
 嫌う人も多いのであくまでも控え目に。
・作家なら作品で勝負。言い訳や言い逃れを書く暇があれば、自分の腕を磨こう。
・扇りはあまり気にしない。ただし自分の振る舞いに無頓着になるのは厳禁。
 レスする時は一語一句まで気を配ろう。
・あくまでも謙虚に。叩かれ難いし、叩かれた時の擁護も多くなる。
・煽られても、興奮してレスしたり自演したりwする前に、お茶でも飲んで頭を
 冷やしてスレを読み返してみよう。
 扇りだと思っていたのが、実は粗く書かれた感想だったりするかもしれない。
・そして自分の過ちだと思ったら、素直に謝ろう。それで何を損する事がある?
 目指すのは神職人・神スレであって、議論厨・糞スレでは無いのだろう?
7名無し草:2009/01/30(金) 13:38:33
>>1
乙。
良いスレになりますように…
8Graduation:2009/01/31(土) 07:43:48
>>1
乙です

>全スレ521より 今回6レスいただきます。
9Graduation第十話storm(24):2009/01/31(土) 07:46:14
(わたくしは……、わたくしは……、清四郎の幼馴染である前に、一人の……、
白鹿野梨子という一人の女性ですわ……。)
野梨子のこのセリフは魅録にとって少なからずショックだった。魅録にとって、
まさに野梨子は、清四郎が大事にしている女性という位置づけだったからだ。
清四郎と野梨子はいつも一緒で、どちらが欠けてもおかしかった。二人が一緒に
いることは魅録を安心させた。親友として野梨子を思うときですら、それは
清四郎の隣にいる野梨子だった。清四郎と野梨子の空間は魅録にとって、
常に神聖で、侵すべからざる領域であった。

(なになさるの いやらしい はなしてくださいな)
(いやらしい……まあ 死にたきゃはなすけど……。)
出会いは鮮烈だった。野梨子は、公立中学で魅録の周りにいる少女達とは、全く別の生き物だった。
魅録は、野梨子の芯の強さ、気高さ、聡明さを尊敬していた。誤魔化しや狡猾さを嫌い、
それらを自分に寄せ付けまいと努める高潔な人格は、稀に見る高雅な気品となって
野梨子の佇まいを決定付けていた。しかし、この様に素晴らしさを認めながらも、
清四郎の隣にいる野梨子は、魅録にとって生生しい現実の女性にはなり得なかったのだ。

いや、全く心を動かされなかったといえば、それは嘘になる。『月の光』を共演
することになった時、魅録は内心焦った。自分に、清四郎に代わって野梨子の
隣に立つ資格があるのだろうか?少なくとも野梨子の邪魔をしてはいけない。
その心配から、自ら積極的にピアノの練習をしようと思い立った。しかし、
魅録は初めから清四郎との差を思い知らされた。ごく些細な事であったが、
ピアノの練習の為に、予約を取りに音楽室へ野梨子と足を運んだ時、野梨子の
歩調を全く念頭に置かず、つい、いつもの調子で歩き続けて、彼女を無駄に
疲れさせてしまったのだ。清四郎は、あんなにゆったりとした歩調に、十何年
もの間、毎日合わせて来たのだろうと思うと、二人の間の想像を超えた絆を思い、体が震えた。

しかし、出だしはそうだったものの、思いがけなくも『月の光』の練習は楽しかった。
自分でも不思議な程、興が乗った。野梨子とは趣味嗜好が全く違う為、話題に困るかと思いきや、
それは全くの杞憂だった。

10Graduation第十話storm(25):2009/01/31(土) 07:52:07
二人でいる時に話題につまる事など一度もなかった。それは、本当に些細な事……。
流れていく雲の形とか、アイスのフレーバーは何が好きとか……、そんな他愛ない話ばかりだったが、
何故だかいちいち盛り上がった。自分が何か言えば、野梨子は簡単に笑った。
勿論、野梨子は悠理のように大きな口を開けて笑うことはしない。
鈴の音が鳴るような笑い声とはこの事だろうか。
品の良い、甘く軽やかな笑い声が、白い歯を少し見せた赤い口元から漏れる。
いつも凛とした、近づきがたい佇まいが少しほころんで、頬を染めた少女の様になる。
その笑顔を見たくて、そして笑い声を聞きたくて、次の話題を探し、それは容易に見つかった。
あの時、二人は熱に浮かされてでもいたように、何を見ても、何を話しても、笑っていた気がする。
そして、彼女が、時折垣間見せる、子どものような青い純粋さに惹かれていた。

しかし、本番で月の精の衣装を纏い、化粧を施した野梨子は、神々しいほど高雅で美しく、
そこに自分の前で笑っていたあどけない少女の面影は見えなかった。魅録は、文化祭の終了と共に、
楽しかった時間も終わるのだと悟り、再び見えない一線を二人の間に引いた。
(文化祭の練習、俺、すげー楽しかったよ。野梨子と一緒にやれて良かったと思ってる。)
(わたくしも……。)
(これで、最後だ。思いっきりやろうぜ。)

続くバイク事件の際は、野梨子が勢いからバイクに乗ると言い出したのは明らかで、
ただ、引くに引けない様子に仏心を出したのだった。が、野梨子があまりにも
恥ずかしそうに自分に手を回すので、自分まで妙に照れてしまったのを覚えている。
(つかまれよ。)
(どっ、どこにですの?)
(ばっ、ばかっ!俺にだよっ!)
途中で降参すると思った野梨子が最後までバイクに乗ってくれたのは嬉しかった。
(もし、よろしかったら……。)
(ん?)
(今日はこのまま送って下さいます?)
(んじゃ、しっかりつかまってろよ!)
(はいっ。)

11Graduation第十話storm(26):2009/01/31(土) 07:53:38

翌日、わざわざ六時間目から登校したのは、本当は野梨子に会いたかったからだ。
野梨子がバイクを好きになってくれたと聞いた時は、自分でも驚く程嬉しかった。
(上手く言えませんけれど……とっても素敵な気持ちでしたわ。)
(そう?俺、バイクが大好きだから、他のやつがバイク、好きなってくれると、それも本当に嬉しいんだ。)

清四郎すらも知らない、二人だけの体験は、何となく魅録の気持ちを高揚させた。
野梨子と以前よりも目が合うようになり、彼女が微笑みを返してくれると
何故だか幸せな気持ちになった。

そして、魅録にとって忘れがたい一日となった、偶然が産んだデート。
デパートの屋上での二人だけのピクニック。
青い空、白い雲。緑の空間。金色の明るい木漏れ日。林檎のウサギに缶ビール。揺れる黒髪。赤い唇。

そう、あの一時、自分は確かに野梨子に心を奪われていた。気持ちの良いそよ風を
体に感じながら、野梨子とオープンサンドをパクついていると、ただそれだけで
幸せな気持ちになった。後片付けをする野梨子の横顔を盗み見ながら、
今は懐かしいかつての短い恋を思い出し、その女性の面影を野梨子に見出して驚いた。
金色の眩しい木漏れ日の中、時間が止まったかのような数十分間。
魅録は、ただ心のおもむくままに、野梨子をいつまでも眺めていたかった。
その時、魅録は、いつも彼女の隣にいる、落ち着いた漆黒の瞳を持つ男の存在を忘れた。
しかし、彼はそこにいた。白い首元に光る、シルバーのペンダントという形をとって。

(清四郎が昨年のお誕生日にくれましたの。)
それは、魅録を一瞬にして現実に引き戻した。
そうだ、目の前の可憐な少女は、既に他の男に属しているのだ。
思いがけず胸に走る、鋭い刃物で切りつけられたような痛み。
(そりゃ、お仲のよろしいこって。)
魅録は年甲斐もなく、拗ねた様な、捨て台詞を吐いた事を覚えていた。

12Graduation第十話storm(27):2009/01/31(土) 07:54:48

しかし、野梨子に関して清四郎に嫉妬を抱いたのは、この時だけだった。

その日の帰り、剣菱邸の前から二人が並んで帰って行くのを見ると、諦めとも
安堵ともつかない奇妙な感覚に襲われた。
これでいいのだ、と魅録は思った。
悠理を待っている間に、一人仰ぎ見た、白く輝く月は、自分の中の小さな怪しい
炎を吸い取ってくれた気がした。

その後の野梨子との関係は、実にあっけないほど淡々としたもので、魅録は
とまどいながらも、自分の考え過ぎかと疑問を口にも出せず、今日まで来たのだった。

(ハッ!、行けねえ、早く戻らなきゃ……。)
顔から水を滴らせながら、給湯室でそんな事を考えていた魅録は、やっと我に返った。
慌てて、給湯室から出て行くと、野梨子が椅子から立ち上がって、視線の定まらない目をして、
ぼうっと前を向いていた。何かぶつぶつ言っている。魅録の背中を冷たいものが流れる。
高熱のせいなのか、薬のせいなのか分からない。だが、これは……。
(幻……覚……?)

野梨子の目に、一本の道が見える。
(清四郎ちゃん、待って、清四郎ちゃん。)
おかっぱ髪の女の子が、少し前を歩く男の子を追いかけている。前髪を切り
そろえた黒い瞳の男の子は、微笑みながら立ち止って、女の子を待っている。
(野梨子ちゃん、待ってたよ。さあ、一緒に行こう。)
二人は仲良く手をつないで、笑い合って歩き出す。
ふと見ると、隣にもう一本の道。
一人で歩いているのは……悠理……?
子どもの悠理は、ただ、淡々と道を歩いている。
13Graduation第十話storm(28):2009/01/31(土) 07:55:47

(野梨子、大丈夫ですか?)
(え?ええ、清四郎。)
いつ、野梨子ちゃんは、野梨子になり、清四郎ちゃんは、清四郎になったのだろう?
中学の制服を着た二人は、相変わらず同じ道を一緒に歩いているが、もはや手はつながない。
悠理の笑い声が聞こえる。隣の道では、今まで一人だった悠理の隣に、野梨子
の初めてみる、目の少しつりあがった少年がいる。
二人は昔の自分達のように、笑い合って、道を走っていた。

しばらく、二本の道は平行に続いて行った。いつしか制服は高校生のものになっている
(きゃあっ!)
突然、野梨子は何かにぶつかり、転んだ。
顔を上げると、目の前で、魅録が同様に、びっくりした顔をして道にしりもちをついている。
道にいるのは二人だけだ。
目の前で道は三本に分かれて続いている。

(野梨子、こっちですよ。)
(魅録、こっちだ!)
清四郎と悠理が道の先から呼ぶ声が聞こえる。
しかし、道の先には靄がかかっていて、どの道を選んだら良いのか分からない。
三本の道のうち、一本は清四郎に、一本は悠理に続いている。
そして、もう一本は……。

野梨子と魅録は、しばし道の真ん中で休んでいる。
ここに二人でこうしているのは、気持ちがいい。
ちょっとだけのはずが、思いがけなく長い休憩になってしまった。
(もう行かなきゃな。)
魅録が立ち上がる。どの道を選ぶのだろう。
彼はゆっくりと歩き出した……。

「いや……!行かないで!」
14Graduation第十話storm(29):2009/01/31(土) 07:56:52

突然、野梨子が大声を出し、手を伸ばして宙を切った。目は大きく見開かれている。
「野梨子!」
魅録が慌てて駆け寄って、野梨子を抱きとめる。しかし、非常に興奮している
野梨子は、魅録を振り払うようにして、身をもがき、ヒステリックな声を出す。

「行かないで、魅録!行かないで!」
野梨子を落ち着かせようとしていた魅録の動きが止まる。

続いて、野梨子は涙にかきくれ、顔を両手で覆いながら声を絞り出す。
「ああ、清四郎、ごめんなさい……、悠理、ごめんなさい……」
「わたくしは……、わたくしは……」

野梨子は魅録の腕に支えられたまま、ガクリと膝をついた。

「わたくしは……魅録が……好き……、好きですわ……。」
「!」

そして、野梨子は、一瞬、魅録の驚愕に大きく見開かれた目と、自分の涙の
湧き溢れる目を合わすと、再び意識を失って、魅録の腕に倒れ込んだ。

続く

15名無し草:2009/01/31(土) 08:40:27
>Graduation
今までの出来事の時の魅録の気持ちがわかって興味深く読みました。
そしてついに野梨子が!う〜ん、続きが気になる・・・
続き楽しみに待ってます。
16Graduation:2009/02/02(月) 09:15:55
>>9 今回5レスいただきます。
17Graduation第十話storm(30):2009/02/02(月) 09:17:31

停電は、学園一帯に限った局地的なものだった。その晩、剣菱邸の不夜城の如き灯りは、
吹雪の中においてさえ、禍々しいほどにその輝きを誇っていた。邸内はぬくぬくと暖かく、
趣味の良さの論議はさておき、贅をつくしたダイニングテーブルには、今宵の
為にわざわざ香港から自家用ジェットで連れて来た、九江が作った中華料理が所狭しと並べられていた。
そしてそれは、このディナーに剣菱夫妻がどれほど力を入れているかを如実に物語っていた。

出だしは順調だった。万作と百合子は、これ以上ない位、上機嫌で清四郎を出迎え、
豊作も同席した。夫妻は、悠理が無事国際文化学部へ進学出来たのは、偏に
清四郎の御蔭であると、その才能と手腕とを褒めまくり、悠理との相性の良さを
力説した上で、是非剣菱にも彼のような人材が欲しいものだと、暗に悠理との
結婚を仄めかしながら話しを進めていた。
清四郎は、こういう展開になることは予想済みであったので、不謹慎とは思ったが、
この茶番劇に、内心滑稽さを感じながら、のらりくらりと話しをかわしていた。
悠理はと見れば、こういった話しには全く興味がないといった様子で、料理を
一心不乱に口に運んでいる。一方、兄の豊作はと言えば、口を挟むことこそないものの、
その顔には、清四郎に対して申し訳ないといった表情が、ありありと浮かんでおり、
清四郎は彼に対して同情と共に興味を抱いた。

稀に見るカリスマである万作と比較されるが故に、物足りなさを周囲に感じ
させてしまうわけで、万作とはタイプが違えど、信頼できる優秀なブレインがつけば、
彼とて後継者の席にそれなりに収まるだろうと思われた。そして、おそらく
万作は長命だろうから、彼が存命中に、次の世代を上手に育てることが出来れば良いのだ。
清四郎は、悠理の婿養子という立場ではなく、単純に豊作のブレインとして
剣菱を動かすこと事には少なからず興味があった。しかし、万作や百合子が
望んでいるのはそれだけではない。

彼等は、清四郎と悠理の子どもが欲しいのだ。
清四郎の優秀なDNAを受け継いだ孫が。

18Graduation第十話storm(31):2009/02/02(月) 09:18:51

だが、それは、裏を返せば、豊作が優秀な頭脳を持った嫁を娶れば解決する問題でもある。
剣菱のことだ。既にありとあらゆる情報網を使って豊作の花嫁候補を探していることだろう。
数は多くないにしろ、条件を満たす女性は皆無ではないだろうが、しかし、
昨今の女性達は自由恋愛の末の結婚を求めている。自ら富を作れる様な優秀な
女性は、玉の輿を考える必要などないのだから、自らが豊作に愛を感じない限り、
政略結婚に首を縦に振るものはいないのだろう。

清四郎は紹興酒の注がれた小さなグラスを口に当てながら、再び悠理に目をやった。
孫の事だけ考えれば、華族の血を引く魅録もまた、決して剣菱に相応しくないわけではない。
が、彼の持って生まれた天分は、権謀術数渦巻く中で、己の力を試しながら、
マネーゲームをする為に与えられてはいない。
周囲は以外に思うかも知れないが、清四郎は、自分は組織に向いていると思っている。
組織のトップ、または黒幕として、配下の人間たちのデータを詳細に調べ上げた上で、
彼等を適材適所に配置し、動かし、結果、最大の利益を上げるというゲームに興味がある。
確かに自分は万作達に言われるまでもなく、剣菱に向いている。

だが、一方、金に不自由のない、一人っ子のお坊ちゃまである魅録は、実は
メンバーの中でも、一番、我が儘かつ不器用な人間だ。
彼は人間に対して純粋すぎる。
彼は決して損得で人と付き合わない。どんな階層の人間とも心根が合えば親しくなる。
だからこそ、彼を慕う人間は多いのだろう。しかし彼の仲間想いは諸刃の剣だ。
特に、何よりも利益を生み出すことが最優先である経済界において、上に立つ者は、
時に冷徹な判断を下さねばならない。だが、人一倍情の厚い魅録には、一旦
親しくなった者を切り捨てることは出来ないだろう。
私利私欲には全く関心がなく、正義を尊び、弱者に優しい。
そんな所は野梨子に似ている。
清四郎は箸を持つ手を、ふと止めた。
(そう、あの二人は似ている……。だからこそ、野梨子は魅録に惹かれたのだろう……。)

19Graduation第十話storm(32):2009/02/02(月) 09:20:23

菊正宗総合病院は日本でも有数の大病院だが、所詮民間だ。ここまで来るには、
医師達の腕だけではどうにもならない事もある。そう、大病院もまた魑魅魍魎
蠢く奇怪な場所だ。元々感の鋭い清四郎は、幼い頃からそういった病院の暗の
部分を垣間見て育ったので、世の中の光と闇とを自然なものとして受け入れる
ことが出来ている。

美童もまた、父親の外交官という職業を思えば、それこそ世の中の表と裏、
目的を達する為には、顔で笑って、裏で舌を出す、本音と建前の必要性を嫌というほど理解している。
可憐にいたっては、父親という後ろ盾もなく、母親と二人で生きて来たのだ。
女性一人で、あれだけの店を切り盛りして行くのがいかに大変な事か、社会の、
綺麗ごとだけではない厳しさを、身をもって体験している。あれほど玉の輿に
乗る事に執着したのは、偏に母親に楽をさせてやりたかったからだ、ということは衆知の事実だ。
持って生まれた部分は大きいが、環境も要因となり、いわば自分、美童、可憐の
三人は性悪説に基づいて生きていると思う。悪い意味ではない。
人間の愚かさ、弱さを認めた上で、それでも尚、人を愛し、前を向いて生きて行く。
その姿は、強く、逞しく、ひたむきで、いとおしい。

一方、野梨子、魅録、悠理は性善説の人間だ。野梨子は、結果として富と名声を
手に入れているとはいえ、本人は画さえ描いていられれば幸せである、真の
芸術家である父親と、精神性を何よりも尊ぶ、茶の世界のトップに君臨する母親に、
俗っぽさを極限まで排除された世界で、純粋培養されて育った。そして他でもない、
自分自身が、野梨子のその純粋さを、第二の保護者として守って来たのではないか。
悠理は、育った世界はこれ以上ない位、世俗的ではあるが、しかし両親が元々
金儲けに興味のあるわけでもなく、しかも持って生まれた資質が並外れて素朴
かつ単純な為、自分の境遇を肯定も否定もせず、ただあるがままに受け入れて、
世の中に何の疑問を持つ事もなく、真夏の太陽のように熱く、明るく育って来た。

20Graduation第十話storm(33):2009/02/02(月) 09:22:32
そして、魅録。彼もまた、国に守られている官職についている、それこそ
正義感の塊である時代錯誤の熱血漢の父親と、血統と育ちの良さに裏打ちされ、
劣等感のかけらもない不良貴族の母親との間で育ち、ひたすら世の中と人間を肯定して生きて来た。
彼には、可憐が言ったように、恵まれた人間にありがちな、傲慢とも言える鈍感さがある。
魅録は、他人の心の痛みには敏感だが、他人が自分をどう見ているかという
ことには全く興味がない。彼には他人の尺度は必要ではないのだ。だが、
それはまた、自分が周囲に与える影響にも無頓着だということでもある。
野梨子や悠理の気持ちにも気が付かないのはその為だ。しかし、一旦、相手の
気持ちを知ったら、そしてそれに応えられないとしたら、誰よりも苦しみが
大きいのも彼だ。それを察するが故に、野梨子も悠理も想いを口に出せないのだろう。

魅録は、自分の夢を追求することを許されている幸せな人間の一人だ。
彼がすべきことは、ひたすら己の信じる所を突き進み、その結果として、世の中に
大きな貢献をすることだ。それは、研究者か技術者か、いずれにせよ、外部の雑音を
気にすることなく仕事に邁進する姿こそ、彼には相応しい。俗世間の
地位や名誉、または私利私欲にとらわれない、そんな姿に、人は惹きつけられ、
自ら応援したくなる。気が付けば、彼はその分野のトップに立っていることだろう。

結論。魅録は剣菱には向かない。剣菱では彼の能力は生かせない。
剣菱に入ったら、彼は自分の存在意義を見失うだろう。
悠理はこんな理屈が分かっているわけではない。が、彼女は持ち前の勘で、
魅録が剣菱に入るべきでないことを肌で感じている。もし、今後二人が一緒になる
可能性があるとすれば、それは悠理が剣菱を出て行くということだ。
しかし、今までずっと、親の敷いたレールの上を歩いて来た、苦労知らずの
お嬢様に、それを求めるのは……。
清四郎がそう思った、その時だった。

いち早く食事を終えた悠理が、ナプキンで口を拭うと、今日、この席で初めて口を開いた。
「父ちゃん、母ちゃん、そして兄ちゃんも清四郎も聞いてくれ。あたいは
国際文化学部へ進むのは止めようと思う。あたいは体育学部に進みたいんだ。」

21Graduation第十話storm(34):2009/02/02(月) 09:23:23

恐ろしいほどの静けさが座を襲った。万作と百合子は石になったかのように固まっていた。
誰も、一言も発しなかった。ただ、百合子の目がスッと細められただけだった。
悠理も当然、覚悟の上だったのだろう。ごくりと唾を飲み込むと、ぞっとする
ような沈黙の支配する中、再び話し出した。

「いっ……、今まで、はっきり言わなかったのは、そりゃ全部あたいが悪いよ。
でも、あたいは、ずっと悩んでたんだ。このままでいいのかって……。決める
まで時間がかかり過ぎたせいで、清四郎や皆に迷惑かけちまったことは、本当
にすまないと思ってるよ。母ちゃん達にも無駄な期待をさせて悪かったって
心から思ってる。けど、もう決めたんだ。」

百合子は眉間に深い皺を寄せ、全身を震わせ始めていたが、怒りを全て飲み込んで、冷静な質問をした。
「それで、体育学部へ進んで、悠理は何をしたいと言うの?」
悠理は、取りあえず、母が返事をしてくれた事にほっとした様だった。
「具体的な事は分かんないけど……。でも、あたいは体動かす事が好きだし、
逆に、あたいに出来る事ってったら、体動かす事しかないって思うんだ。
あたいは……、あたいだって……、何か、人の役に立つような大人になりたいんだよ。」
「剣菱の為に、世界に通用するレディーになることだって、立派に役に立つ大人ですよ。」
百合子が、威厳を持った態度で、悠理に正面から向き合って言った。
悠理は母親のこういう態度に弱かった。彼女はしどろもどろになった。
「わ、分かってるよ……。あたいもそう思ってたから……、悩みながらも
今まで決心がつかなかったんだよ……。そんなこと……あたいは……分かってるんだよ……。」
悠理の声は今や消え入りそうになり、結局、この勝負はいつも通り百合子の
勝利に終わるかと思いきや、今宵、悠理はきっと顔を上げて反撃に出た。

続く

22名無し草:2009/02/02(月) 13:13:52
>Graduation
清四郎の自分自身と仲間に対する考え(分析?)がなるほどと思えておもしろかったです。
そして悠理は百合子さんを納得させられるのかどうか、気になります。
続き待ってます。
23名無し草:2009/02/03(火) 00:28:45
>Graduation
なんか、ウルトラクイズの時の仲間割れを思い出すなあ、性善説と性悪説。
いつも、本編のエピがさりげなく入っていて、お見事です、作者様。
悠理、がんばれ!
24Graduation:2009/02/03(火) 08:59:26
>>17 今回5レスいただきます。
25Graduation第十話storm(35):2009/02/03(火) 09:01:28

「あっ、あたいは、剣菱が好きだ。ご先祖様と父ちゃん、母ちゃん、そして
兄ちゃんたちが守っているこの剣菱を愛してるし、あたいがこんな生活をして
られるのも、剣菱と皆の御蔭だって感謝してる。だから、絶対、剣菱を潰したくないし、
その為に、あたいに出来る事は何でもしたい。レディーになる努力だって……、
ううん、剣菱の為に、どんな男と結婚する覚悟だってあたいにはある。けど……。」
「けど……?」
思いがけない悠理の剣菱への想いを知って、百合子の心は動き始めていた。
「けど……、このままじゃ、嫌なんだ。このまま何となく国際文化学部に入っても、
あたいは結局4年間無駄に過ごしちまう気がする。この4年間は、あたい自身で
決めた学部で、何かを探してみたいんだよ。あたいの心が……、そう叫んでるんだ。」

悠理はこれだけの事を、言葉を考え、考え、非常に長い時間をかけて言い終えたので、
最後には疲労困憊してぐったりとしていた。しかし、かつて見たことのない
悠理の真剣な口上は、百戦錬磨の両親に感銘を与えていた。万作と百合子は、
お互い、長いこと顔を見合わせていたが、ついに万作が難しい顔をしながらも口を開いた。

「悠理の言い分は分かっただ。今すぐどうこうは言えないだが、とにかく母ちゃんと考えて見るだよ。」
「父ちゃん!」
悠理はパッと顔を輝かすと、万作に駆け寄って、その頬に何度もキスを浴びせた。
「ゆ、悠理、止めるだ!こんな所で!」
「父ちゃん!ありがとうっ!」
「まだ、決まったわけではありませんよ。」
百合子は悠理にきつい流し目を送ったが、悠理はここまで来ればもう勝ったも
同然だと分かっていた。悠理は百合子の頬にも熱いキスを浴びせた。

「母ちゃん、ありがとうっ!父ちゃんも母ちゃんも愛してるっ!」

26Graduation第十話storm(36):2009/02/03(火) 09:02:34

清四郎は、夢でも見ているかのように、半ば口を開けて一部始終を見守っていたが、
ふと同じく傍観者となっている豊作と目が合った。豊作は、両親と妹との、
激しい情景には慣れているとはいえ、さすがに驚いた表情を見せていたが、
清四郎と目が合うと、身内の事とて、少しはにかんだ笑顔を見せてグラスを上げた。
そして、再び両親と妹に目を移したが、その優しい表情には家族に対する愛情が
溢れており、清四郎はこの男に益々の好感を持った。

両親の説得に、エネルギーのほとんどを使って疲れたのか、悠理は先に部屋に戻り、
食後のデザートと中国茶の席は、万作と百合子、豊作と清四郎だけになった。
絶好の機会とばかりに、万作は真面目な顔で清四郎に言った。
「なあ、清四郎君。さっき話していた件だが、ありゃ冗談じゃないだがや。
豊作も含めてわしらは皆、君と悠理に結婚してもらいたいと思っているだよ。
前回は、時が早過ぎたから失敗に終わったが、もう高校も卒業することだし、
今度は、どうか、今すぐでなくてもいいから、真面目に前向きに考えてみてはくれないだか?」

清四郎は落ち着いていた。
「……悠理は何と言っているんですか?」
万作は頭をかきながら言った。
「まだきちんとは話していないだがや。でも、さっきの話しを聞いても分かるように、
悠理にも剣菱の娘という自覚がしっかりあるだ。悠理は今、成長したがっているだよ。
そして、清四郎君といれば自分も成長出来ることは、今回の事で自分自身も
分かっているはずだがや。それに、どこの誰とも分からない男よりも、気心
知れている清四郎君と一緒になる方が、悠理もどれだけ幸せだか分からないだよ。」

「僕が、悠理を女性として愛していなくてもですか?」
清四郎は敢えて意地の悪い質問をした。
悠理を心の底から愛している万作と百合子は、困ったように顔を見合わせた。
以前の清四郎ならこの様な物の言い方はしなかった筈だ。
27Graduation第十話storm(37):2009/02/03(火) 09:03:39

清四郎は薔薇色の茶の入った小さなカップを置くと、口元に笑みを浮かべながら
二人を真っ直ぐに見詰めた。その目は笑っていなかった。彼は凛とした声を響かせた。
「このお話しはお断り致します。今後、二度と、この件についてはお考えになりませんように。」

しばしの沈黙の後、百合子が眉を下げ、唇を少し歪めて言った。
「清四郎ちゃん……。大人になったわね。誰か、心に決めた女性が出来たの?」
「そういうことです。」
先ほどの、冷徹とさえ言える厳しい表情とは打って変って、清四郎は、かすかに頬を染め、
しかし誇らしげに自分の気持ちを語った。
目の前の、既に王者の風格を身に纏う端正な若者がふと見せた、その年相応の
初初しさは、万作と百合子、そして豊作の胸を強く打った。

やがて、百合子が、皆に聞こえるような大きなため息をついた後、表情を変えて、
もう全て割り切ったようにハキハキと言った。
「そう。それじゃ、仕方ないわね。この話しは忘れて頂戴。残念だけど、
悠理には、また別の男性を探さなくちゃ……。」
「おばさん。」
清四郎は百合子の話しを遮った。彼は、今、言わなくてはと思った。
「?」
「おばさん。そして万作さんも、豊作さんも、聞いて下さい。僕は、家庭教師
として悠理に勉強を教え、合格を勝ち取らせることが出来た。でも、それは、
本当は僕だけの力じゃない。」
「……。」
「僕は、悠理を水飲み場に連れて行って、水の飲み方を教える事は出来る。
でも、悠理自身が水を飲みたいと思わなければ、それらは全て無駄な事です。」
「……。」
「そして、悠理に水を飲みたいと思わせることが出来るのは、僕じゃない。
それが出来るのは、恐らくこの世に只一人。そして、その男が望めば、
悠理はきっと、世界一のレディーにもなって見せるでしょう。」

28Graduation第十話storm(38):2009/02/03(火) 09:04:46
万作と百合子は目を見開いて、息を飲んだ。豊作も驚いて清四郎を凝視している。
清四郎は言って気が済み、澄ました顔で、薔薇茶を一口飲んだ。
(もっとも、その男が悠理にそんな事を望むかどうかは、また別の話ですけれどね……。)

ディナーが全て終わった時、時刻は10時を過ぎていた。外は幾分弱まったとはいえ、
まだ吹雪のままだった。交通は完全に麻痺している。清四郎は剣菱邸に泊まって行くことになった。
清四郎が、用意された部屋に案内されて直ぐ、悠理が青い顔をしてやって来た。
不安気な様子が隠しきれない。清四郎は嫌な予感に襲われた。
「せ……、清四郎……。」
「どうしました?」
悠理は弾かれたようにベッドに腰掛けている清四郎の横に飛び移ると、
彼のジャケットの袖を強く握り締めた。
「今……、魅録の声が聞こえたんだ……。『悠理、来てくれっ』て……。」
「……。」
清四郎は思いっきり眉を顰めた。
「詳しく話して下さい。」
悠理は激しく首を横に振った。
「いや、それだけなんだ。でも、本当にはっきりと聞こえたんだよ……。
『悠理、来てくれっ』って、助けを呼ぶ様な声が……。あと、『寒い』って
言ってたような気がする……。あいつ、今日はダチのライブに行くって言ってたんだけど……。
この天気だからどうしたんだろうな。場所が近くだからって、しばらく生徒会室で
時間つぶしてくって言ってたけど……。」

清四郎は顔色を変えた。
「……!悠理、今、何て言いました?魅録は……魅録は何時頃まで生徒会室にいたんです?」
「……?ライブは6時っからだけど、今日は学校に残っちゃいけない日だから、
4時半には出るって言ってたっけかな……。清四郎?」
悠理は、顔を強張らせて清四郎の顔を覗き込んだ。
(4時半……。野梨子が家から引き返したのが4時……、15分かかるとして、
生徒会室でほぼ確実に二人は遭遇している……。)
29Graduation第十話storm(39):2009/02/03(火) 09:06:02

「悠理、それで、魅録には連絡を取ったんですか?」
「それが、あいつ、今日は携帯忘れてんだよ……。家にかけても誰も出なかった……。」
悠理が泣き出しそうな様子で頭をかいた。
(確か、野梨子も充電が切れていると言っていた……。)
その時、清四郎の携帯に着信が入った。
「野梨子かっ!?……はっ、はい、清四郎……です……。こんばんは……。
えっ!そ、そうですか……。はい、至急調べて見ます。分かったら直ぐに連絡します。では。」
カチリと清四郎が力なく携帯を閉じた。
「誰からだ?」
悠理が心配そうに聞く。
「野梨子のご両親からです……。吹雪を心配して、出先から家に電話しても
誰も出ないから、心配して僕に聞いて来たというわけで……。野梨子は、
今日忘れ物をして、4時頃生徒会室に戻ったんです。」

その時、ついと豊作がやって来た。
「おい、悠理。さっき、テレビでやってたけど、おまえの学校周辺、5時過ぎから
ずっと停電だそうだぞ。雪で電線に影響が出たせいらしいけど、この吹雪で
修復作業が出来なくて、下手をすれば明日まで影響が出るかもしれないって。
……どうした?悠理も清四郎君も怖い顔して……。」
「兄ちゃん……、車……出せるか……?」
悠理は震える声で聞いた。
「え?この吹雪じゃ、普通の車じゃ無理だよ。」
カーテンを開け、窓の外を見て、考える。
「風は少しおさまって来てるから、今なら除雪機能付きの四駆なら何とか行けるかもしれないけど……。」
悠理は最後まで待たなかった。
「名輪っ!名輪はどこだっ!今すぐ学校に行くぞっ!」

続く
30名無し草:2009/02/03(火) 12:42:48
>Graduation
とりあえず百合子さんと万作さんにわかってもらえたようでほっとしました。
自分をまっすぐに出せる悠理と清四郎が眩しい。
でもって続きが気になりすぎます。
楽しみに待ってます。
31名無し草:2009/02/03(火) 15:53:33
>Graduation
急展開が続きますね〜。
悠理の進路変更は、この後どう影響してくるのかな。
百合子さんも、悠理の恋に気づいてしまいそうだし、
前回「誰よりも苦しむのは魅録」とあったのも心配で。
次回が今すぐ読みたいいいいい
32名無し草:2009/02/03(火) 21:41:39
>Graduation
野梨子もそうだけど、悠理が清四郎か魅録とどっちとくっつくのか(くっつかないのか)気になる〜。実は最後に急展開で全員シャッフルとかも好きだけど伏線なさそうだからないと思うし。う〜ん気になるw
33ぼくらは目覚めぬ夢をみる0:2009/02/03(火) 22:13:24
長ネタになってしまいそうですが投下させてください。

・悠理と美童中心の不条理(SF?)ものです。
・恋愛要素、CP要素はネタバレになるので明記しませんが悠理総受です。
・原作にない妄想設定以外にパラレル設定がありますので、苦手な方はスルーお願いします 。
・乙女悠理がダメな人もスルーお願いします。

34ぼくらは目覚めぬ夢をみる1:2009/02/03(火) 22:20:38
 目を開けると、あたしは一人で寝ていた。
「美童? 」
 隣りで寝ていた筈の美童は消えていて、先に起きたのかと首を傾げた。制服に着替える時、ワードローブに美童の服が一枚もないことに気が付いた。
 あたしは嫌な予感に足元が寒くなった。
「どうして? 」

 慌てて部屋を飛び出すと、じいが驚いた顔をする。
「嬢ちゃま。お早いですな」
「じい、美童がどこにもいないんだ。荷物もない」
 そう言ったのにじいは首を傾げた。
「美童さまはお泊まりになられていたんですか? じいは存じておりません」
 その様子に何かの冗談なのかと思い至った。母ちゃんがちょうど来たから、母ちゃんにも来いてみる。
「母ちゃん、美童知らない、見当たらないんだ」
「美童ちゃん? こんな早くから探してるの? 」
 不思議そうな顔にあたしはますます混乱した。

「美童様。悠理様からお電話です」
 朝食の最中に、メイドが声をかけて、僕は顔を上げた。こんな朝から、いったいなんだろう。
「こっちに回して」
 そう答えると、メイドは変な顔をした。悠理が何か変なことでも言ったのだろうか。
「悠理? 」
 受話器に向かって話しかけると、悠理の泣き声が聞こえて来た。
「どうしたの悠理? 」
「美童? 何で? あたし、探して・・・」
 そこまで言うと、わぁあああっと声を上げて泣き出した。
「何処にいるの? いったい何があったんだよ」
 驚いて声を上げると、悠理は更に泣きじゃくった。
「朝、起きたら、美童がどこにもいなくて」
 しゃくり上げながらそう言う悠理に、訳も分からず僕はすぐ行くと伝えた。
「もう、向かってるもん」
 そう言った悠理はそれから10分後にやって来た。
35ぼくらは目覚めぬ夢をみる2:2009/02/03(火) 22:23:30
 車から出て来た悠理は、既に泣きじゃくっていた。ボロボロと零れる涙に驚いて、悠理を見つめる。
 悠理は泣き虫だ。だから泣いてる顔は何度も見てる。なのに、なんだかいつもと違って見えて僕は狼狽えた。
「どうしたの? 悠理」
「酷いよ美童〜。なんで勝手にいなくなっちゃうんだよ〜」
 悠理はいきなり僕に抱き着いて、わんわんと泣き始めた。はっきり言って意味が分からない。
「美童、あなたまさか・・・悠理ちゃんと」
「兄貴まさか悠理さんに・・・」
「いけませんな美童くん。女の子を泣かせては」
 だが、この状況は知らない人間が見たら、まさに痴情のもつれの修羅場だろう。案の定、後ろから聞こえてきた家族の声に、僕は目眩を感じた。僕には悠理が女に見えたことが一度もない。
「あのね〜、悠理となんかどうにかなる訳、ないだろ。女に見えたことなんか一度もないよ」
 そう言った途端、胸の中の悠理の泣き声がぴたりと止まった。
 真っ青な顔で僕を、見上げた悠理の傷付いた顔。奇麗な瞳は、疑うことを知らない子供のようだった。
「悠理もほら、あのね、うちの家族が変なこと言うから・・・」
 悠理は、まだ呆然と僕を見上げていた。
 涙だけがボロボロと零れる姿に、僕も言葉を失った。なんで悠理はこんな顔で僕を見るんだろう。
 こんな哀しそうな瞳で。裏切られたとでもいうように。だってこんな台詞、何度も言っているんだから。
 悠理はもしかして、僕を好きだったのか?だけど、こんな急にそんなこと言われても
「今、言ったこと、本当か? 」
 突然真っ青な顔で聞き返され、僕は思わず口籠もった。
「え、あの、ね、悠理。本当に何があったんだよ」
 悠理は呆然と僕を見てたけど、突然、僕を突き飛ばした。
「ちょっと悠理っ」
 勢い余って玄関で腰を打った僕は、文句を言ってもいいはずだ。だけど、悠理を見上げて、ぼくの声は喉で止まってしまっ
た。
「美童の馬鹿っ、お前なんか最初から信じてなかったんだ」
 なんでそんなこと言われてるか謎だけど、悠理は泣いている。酷く哀しそうに。
「美童なんか大嫌いだ」
 悠理はそう叫んで、走って行った。
「悠理」
 跳び起きて僕も追いかけたけど、悠理の足に適う訳がなかった。
36ぼくらは目覚めぬ夢をみる3:2009/02/03(火) 22:29:19
 ピーポピーポと鳴ったメールを見ると、悠理からだ。
件名 会いたい 本文なし
 なんだこりゃ、と思いすぐにかけ直すと悠理が出た。
「何処だよ。何があった? 」
 電話の向こうで悠理の泣き声が聞こえ、俺は驚いた。その声がいつもと違うように感じたからだ。
「何かあったのか悠理? 」
「会って話したい」
 そう言って、電話は切れた。三十分後に悠理は来た。いつから泣いてたのか、悠理は既にへんな泣き癖がついていた。
「座れ、お茶でいいか? 」
 しゃくりあげる悠理を座らせ、涙をティッシュで拭った。
「何があったんだよ」
 少し落ち着きを見せた悠理に聞くと、またボロボロと涙を零した。
「美童がいなくなったんだ・・・」
「それって・・・」
 事情を聞こうと口を開くと、ピーポーピーポー独特の音階の音。美童からの電話だった。出ようとすると、悠理の手が俺の手に重なった。
「出ないで。まず、話を聞いてほしい」
 悠理の見たこともないような真剣な顔に、俺も電話に出るのをやめた。
「分かったよ。それで何があったんだ」
 悠理は一旦俯いてから、ゆっくりと顔を上げた。ポロリと涙が零れた。
「朝、起きたら、美童がいなかったんだ。荷物もなくて・・・あたし、びっくりして」
 そこまで言うと、悠理はまた声を震わせて泣いた。
「お前らまさか・・・」
 美童と悠理がそんな関係になるなんて、信じられなかった。
 しかし、今、悠理は目の前で泣いていた。
「あんなに、あたしのこと好きだっていうから、愛してるって、信じたのに、嘘だったんだ」
 そこまで言うと悠理は言葉に詰まって、わあああと声を上げて泣いた。子供みたいに声を上げて泣く悠理。
 恋愛なんか興味ねえって言ったくせに、裏切られたと泣いている。細い体を震わせて泣く、その姿は痛々しくて、俺は思わず抱き締めた。
「悠理」
 きつく抱くと、ほそっこい悠理はすっぽりと腕の中に収まった。悠理もきつくしがみついてくる。脅えた子猫みたいに。
 柔らかい猫っ毛を撫でながら、長いことそうしていた。
「変だと思ったんだ。あたしなんかをさ・・・美童モテるし・・・」
 悠理は笑いながらそう言うと、また涙を零した。その姿を見ながら、俺はフツフツと沸き上がる怒りを押さえるのに必死だった。
37ぼくらは目覚めぬ夢をみる4:2009/02/03(火) 22:30:05
「そんなことねえよ。悠理は美童なんかにゃもったいねえよ」
 まさか美童が仲間に
 それも悠理に手を出すなんて・・・
 しかもこんな簡単に捨てるなんて。
「嘘ばっかり。あたしのこと、女に見えたことがないって言ってたじゃないか」
 そう言って笑った悠理の顔があんまり奇麗で、俺は一瞬黙った。
 確かに今まで一度だって、悠理が女に見えたことはない。
 男同士の付き合いだった。
 同じ布団で抱きつかれて寝ても、じゃれあっても、何も感じなかったじゃないか。
 だけど、本当に感じなかっただろうか。
 悠理の下着のラインから目を反らしたことや、背中に感じる淡い膨らみから意識を反らすのに意味はなかったのか。
 無防備な寝顔に息苦しさを感じて、溜め息を吐いたのは一度じゃねえのに。
「悠理は奇麗だ。お前は魅力的な女だよ」
 俺の言葉に、悠理はうれしそうに笑った。
「嘘でも嬉しい。ありがと」
 奇麗に笑う悠理は、今まで見た中で一番、女の顔をしていた。
「嘘じゃねえよ」
 美童がこんな顔をさせているのだと思うと、我慢できなくなって腕の中の悠理を抱き締めた。
 きつく抱き締めながら、悠理の目尻に溜まった涙を吸った。
 ちゅっと音がして、口の中に広がった味はしょっぱいはずなのに、酷く甘かった。
「魅録? 」
 悠理の声が不安げに響いた。
「悠理」
 気が付いたら顎に手を掛けて、顔を寄せていた。
「や、やだ、魅録っ」
 いきなり暴れだした悠理に臑を蹴られ、俺は腕から逃げ出した悠理の手首を掴んだ。
38ぼくらは目覚めぬ夢をみる5:2009/02/03(火) 22:34:13
「悠理、見てないわよ」
 私の答えに美童は不安げな顔で頷いた。集まった部室には、悠理と魅録を除く、野梨子と清四郎、私と美童の四人がいた。
「悠理が変なんだよ。清四郎〜、また何かに取り付かれているのかも」
 半べそをかいた美童の言葉に、またかという雰囲気が立ち込める。
「それで、いったいどう変なんですか? 」
「それが、朝、急に悠理から電話があったんだけど、なんか凄く泣いてて取り乱してた」
 清四郎の言葉に美童は思い出すように、首を傾げた。
「ぼくを探してたみたいで、その、なんか悠理、僕に惚れちゃってるみたいなんだよね」
 なんだか頬を染めて、困っちゃうよね〜と続けた美童に私達は顔を合わせた。
「悠理、泣きながら抱き着いてくるからさぁ、それで、家族に誤解されて。いつもみたいに、女に見えないって言ったら、真っ青になって走って逃げちゃったんだ」
 美童は溜め息を吐くと、携帯を弄った。
「家に電話しても出掛けたって言うし、学校には来てないみたいだし、電話もメールも無視。様子も変だったし気になっちゃってしょうがないよ。」
「魅録も来ていませんし、連絡もとれないのでしょう? 清四郎」
 野梨子の言葉に私も頷くと、清四郎の鶴の一声が鳴いた。
「まずはそこを当たりましょうか。可憐と美童は一応、自宅の方を当たって見てください」
「ぼくもそっちに行くよ」
 美童の言葉で私と野梨子が剣菱家に行くことになった。

                ※

 魅録の部屋に案内されると、中から悠理と争う声が聞こえた。
「やだ、魅録」
「悠理」
 切羽詰まったような声に扉を開けると、魅録に押し倒された悠理の姿が飛び込んでくる。制服のスカートが捲れ上がり、紺色のタイツが膝上まで見えていた。床の上で魅録にのしかかられている姿は、どう見ても同意の上の行為ではなく、泣き濡れた顔に頭に血が上った。
 しかし、こちらが動くより前に一瞬の隙を突いて、悠理の膝が魅録の腹に決まった。
「うっ」
 呻いた男の下から這い出すと、悠理は走ってやってきた。
「うわぁぁ〜ん」
 悠理はこっちへ突進して来たと思ったが、そのまま脇を通り抜け、美童の胸にポスンと埋まった。
「悠理、大丈夫? 」
 さすがの美童もこの展開には驚いているようで、髪の毛を撫でていた。
39ぼくらは目覚めぬ夢をみる6:2009/02/03(火) 22:35:07
「悠理・・・」
 起き上がろうとした魅録の肩に、足を乗せ動きを封じた。
 苦痛を与えるようにした為だろう、魅録の表情が歪んでいた。
 痛いでしょうが、案ずる気分にはなれず、更に力を込めた。
 もっとも折れない程度ではあるが、起き上がることは無理だ。
 人間には一部を押さえるだけで、動きを封じる場所がある。
 ここもその一つだ。
「う、清四郎・・・」
「あなたらしくもないですね。嫌がる女性に乱暴を働くなんて」
 実際、悠理に対し、魅録がそんな真似をするなんて考えてもいなかった為、怒りも大きかった。
 背中から聞こえる悠理の泣き声が、よりいっそう怒りを煽った。
 しかし、魅録にはこちらの声は届いてもいないようで、その目は悠理を追っていた。
「なんでだよ、悠理。そいつのせいで泣いてたんじゃねえかっ」
 美童の腕の中で泣いていることが気に入らないのか、魅録は殺気の籠もった視線を送っている。
「あたし、そんなつもりできたんじゃないよ。魅録がそんなことするなんて」
「もう大丈夫だよ、悠理」
 その声に振り返れば、悠理は美童の腕の中にいる。
 その姿に、軽い違和感を覚える。
 悠理と美童が抱き合う所など何度も見てるのに、こんな気になるのは二人の間に今まで見たことのない色が見えるからだろう。
「なんでだよ悠理。そんな女たらしより俺の方が絶対幸せにしてやんのに」
 魅録の言葉に悠理の細い肩が、一瞬震えた。
 悠理の肩はこんなに細かっただろうか?
 なんだか、目眩を感じて悠理と美童を見つめた。
「力ずくでどうこうしようとする程、ぼくは最低じゃないつもりだけどね」
 美童の腕の中では、混乱したような悠理が泣いている。
「どっちにしても、あなたのした行為は犯罪ですよ」
 そう言うと魅録の顔に朱が昇った。
 恥じ入るように赤くなると、悠理に視線を移した。
「悪かった、悠理。どうかしてたんだ」
 悠理は美童の腕の中で、困惑したように魅録を見ていた。
40ぼくらは目覚めぬ夢をみる7:2009/02/03(火) 22:37:45
「それで一体何がどうしたんですか? 」
 取り敢えず事実確認をしておきたくて、悠理に訪ねた。
「朝、起きたら、美童がいなくて、クローゼットにも荷物がなくて・・・」
 悠理はそこまで言うと、自分を抱き締めている男の顔を見てから、また泣き出した。
「なんで黙って出て行ったんだよぉ、もぉあたしのこと嫌いになたのか? 」
 美童に向かってそう言う悠理の言葉に、向いに座った魅録からの殺気が流れてくる。もしかしなくても最悪なシュチュエーションじゃないだろうか。
 座っている美童の腕の中で丸くなっている姿は、悠理さえ泣いていなかったら、どう見てもバカップルだ。
「だからね、悠理、話が読めないんだけど。ぼくは昨日、悠理の家に行った覚えもないし、何で悠理が泣いてるか分からないんだ」
 悠理は美童のことを、きょとんとした顔で眺めていた。自分を悠理だという認識はあるようだが、確かにどこかおかしい。
「何言ってんだよ・・・美童。もしかしてあたしを担ごうとしてるのか? 冗談ならたちが悪いよ」
 悠理は美童を見てから、魅録をへてこちらに顔を向けた。
「だって、殆どあたしの部屋で暮らしてたじゃん。皆も知ってるだろ? 」
「残念ながら二人がそんな関係だったなんて全然知りませんでしたよ」
 悠理にというより、むしろ美童に向かって言うと、ぶんぶんと首を振った。
「違うだろ、悠理。僕たち一度だってそんな関係になったことないじゃないか」
「何でそんなこと言うんだよ」
 泣き出した悠理の指を見とがめたのはその時だった。
「悠理、それは何ですか? 」
「え」
 こちらへ顔を向けた悠理の左手を取ると、薬指の指輪を指さした。年代物のそれは金の台座に大きなスターサファイヤが埋め込まれていた。
「婚約指輪だよ。清四郎だって知ってるじゃないか」
 悠理の言葉に、美童に目を向けると、驚いたようにその指輪を見つめていた。
「なんでそれを悠理が持ってるの? 」
「グランマニエ家のものですか? 」
 まず間違いないだろうと踏んでいたが、やはり美童は頷いた。
「それに、その指、料理でも練習してるんですか? 」
 悠理の手には小さな火傷や切り傷が、指先を中心にいくつも出来ていた。一日二日で出来たはずじゃない傷なのに、昨日別れた時は確かになかった。
41ぼくらは目覚めぬ夢をみる8:2009/02/03(火) 22:44:04
「じゃあ、悠理は美童と婚約していたって言うんですね」
「そうだよ、清四郎も皆も婚約披露のパーティーには一緒にいたじゃないか」
 そう言って見渡しても、野梨子や可憐、魅録や美童まで呆然とした顔であたしを見てる。あたしの頭がおかしくなったってそう思ってるのが分かる顔。
「残念ながらそのパーティーに行った覚えも無ければ、二人が婚約した話も聞いたことがあしません」
 あたしは清四郎の言葉を聞きながら、背筋が寒くなるのを感じていた。
「悠理、どっかで頭、打付けなかった? 」
 可憐の声に首を振った。打付けてないんていない。あたしはマトモだ。
「呪の指輪じゃありませんの」
 野梨子の言葉に、あたしは右手で指輪を抑えた。皆がまるで知らない人のように感じた。
「指輪を見せて貰ってもいいですか? 」
 清四郎に手を出され、あたしは首を横に振った。
「嫌だ。絶対ヤダ」
 今、あたしは自分の部屋にいるけれど、ここは余所余所しい顔をしている。だって、美童のものが一つも無い。
 二人で写した写真も、二人で選んだマグカップも、美童が好きそうだから用意したオーダーメードの北欧の家具も。
 タマとフクですら、なんだかどこか変わってしまったような顔で、野梨子の膝で丸くなっている。今、身近に感じることができるのは、この指輪だけだ。
 絶対渡すことなんか出来ない。シンと、静まりかえった部屋で、携帯の着メルが鳴った。この音は
「杏樹からだ・・・」
 思わず漏れた言葉に美童がビクッとした。
「なんで悠理が・・・」
 知ってるに決まってるじゃん。だって、あんなにずっと一緒にいたんだよ。美童のことならあたしだって、結構知ってるんだから。なのに美童は驚いた顔のまま、電話に出た。
「・・・うん、そうか・・・悪いけど持ってきてくれないか? 」
 電話を切ると、美童は清四郎の方を見た。
「清四郎、家に指輪、あったよ」
 その言葉にあたしは、どうしていいか分からなくなる。どういうこと?この指輪はどうなっているの?どうしてどのアルバムにも美童と二人で撮った写真が残って無いの?
「美童はあたしと婚約してないの? 」
 美童に向ってそう聞いたのに、美童は黙ったままだった。まるであたしを怖がってるみたいだ。
42ぼくらは目覚めぬ夢をみる9:2009/02/03(火) 22:47:23
「あたしのこと、全然好きじゃないの? 」
 そう聞くと美童は困った顔をする。大好きだよ、悠理。ぼくのお姫様。そう言ってくれたのは美童じゃないか。
 涙腺が壊れてしまったんじゃないかってくらい、涙が溢れて美童が滲んだ。
「あ、あのね、悠理はもちろん好きだよ」
 美童の声は優しいけど、あの熱も甘さも全然無い。
「やだ、こんなのやだよぉ〜。なんでイキナリこんな変な世界になっちゃったんだよ〜」
 泣き出したあたしを、皆奇異の目で見てる。おかしいのはあたしだって。
「信じるよ、おまえが嘘をついてないって。帰れるように手伝ってやるから、泣くんじゃない」
 清四郎の手があたしの頭の上にあって、ポンポンって二回叩いてから、撫でてくれる。ねえ、清四郎、それどういうこと。

                 ※

「つまり、ここにいる悠理が、別の世界から来たっていいたいんですの? 」
「いくらなんでも小説の読み過ぎよぉ」
 野梨子と可憐はそう言ったが、目の前にいる悠理からはずっと違和感を感じている。
「だけど、確かにここに指輪は二個あるんだよね」
 美童の出した指輪と、悠理の指に嵌まった指輪を見比べて、可憐も頷いた。
「確かによく出来てる、どちらかがイミテーションだとしても、簡単に作れるもんじゃないわ」
 悠理はしょんぼりと肩を落として、ゆっくりと周りを見渡した。
「じゃあ、清四郎はここがあたしの世界じゃないって言うの? 」
「ああ、多分平行世界の一つと、入れ替わってしまったんじゃないかと考えている」
 悠理は居心地の悪そうな顔で、こちらを見てから美童を見上げた。
「じゃあ、あたしの世界では別のあたしが美童の側にいるの? 」
「それはどうか知りませんが」
 何にしろ目の前の悠理の関心は、美童の一点に掛かっているようだった。
「どうやったら帰れるの? 」
「とりあえず、前の世界との相違点を教えてください」
 そう言うと悠理は、青白い顔で頷いた。
43ぼくらは目覚めぬ夢をみる10:2009/02/03(火) 22:50:59
「ねえ、野梨子、本当に別世界なんてもんがあると思う? 」
 可憐の言葉に私は首を振った。
「今一つ信憑性がありませんわ。あの指輪一つだけじゃ」
「確かにね・・・でも、あんな悠理見てると、その世界があるなら帰して上げたくなるわよ」
 可憐の言葉は分からなくもなかった。悠理は彼女の美童を酷く恋しがっている。
 食事も禄に取らない悠理を見るのは忍びないですわ。

               ※

 清四郎から招集が掛かったのは、悠理かおかしくなった明くる日の午後だった。
「それで、何か分かったのか」
 俺達は悠理の部屋に集まっていた。清四郎はデスクに置いたパソコンの前に座り、俺と野梨子と可憐はソファに、美童と悠理はベッドに座っていた。俺は二人から視線を逸らした。
「悠理の話に寄ると、昨日の二時頃から七時頃の間に入れ替わったということになる。そうですね、悠理」
 悠理の方を見ると、べったりと美童に寄り添ったまま、不安げに頷いた。美童は当然のような顔で悠理の細い肩を抱いて、頭を撫でていた。
 その姿に胸がズクリと疼いた。
「いろいろ調べて見たのですが、この日は東京に異常気象が発祥していました」
 画面に写し出された低気圧は、一気に高気圧に変わって、三時には点滅したように東京を中心に気圧が変化していた。
「うそでしょう」
 可憐の声に野梨子も驚いたように画面を見ていた。
「気象異常は気圧だけなく、磁場もです」
 衛生の観測データが写し出されると、三時に、日本は、いや東京は磁力が一気に高まったようだ。
「研究者の一部には隕石が落ちたと疑いをかけた者もいるようです。磁場の強かった中心部はお察しの通り、ここです」
「本当でしたのね」
 野梨子の呟きに、悠理が立ち上がった。
「清四郎、帰れるのか? 」
 清四郎は自信ありげに悠理を向いた。
「安心しろ。絶対帰してやるから」
 その言葉に、悠理はほっとしたように笑った。美童は少し不安げな顔で悠理を見ていた。

つづきます
44名無し草:2009/02/04(水) 02:27:30
>>33
美悠好きなんで、嬉しいですw
別世界から来た悠理に混乱してなにやら変化があるようだけど、別世界に行った悠理も、さぞ混乱しているでしょうね
そっちも見れたら見たいかも

誰かとくっついたキャラがそうでない世界に来た場合、混乱度は悠理か清四郎が一番大きいと思うのは私だけ?
45Graduation:2009/02/04(水) 09:23:06
>>25 今回6レスいただきます。
46Graduation第十話storm(40):2009/02/04(水) 09:24:46

「万事、私にお任せ下さい。お嬢様。」
剣菱の誇る運転の達人、名輪は、悠理、清四郎、そして助っ人として参加した
豊作を、剣菱自動車に特別に作らせた、取り外しの出来る除雪機能付きの、
チェーンを巻いた四駆に乗せ、吹雪の中、人っ子一人いない暗灰色に煙る街を、
彼ならではの安定感ある運転をして進んで行った。途中、口を開く者は誰一人
いなかった。しかし、心の中では各々様々な不安と戦っており、清四郎は、
自分の恥ずべき恐ろしい想像に悩まされていた。

(これが……運命というものなのだろうか……。)
先日、東郷邸で聞いたばかりの魅録の中学時代の告白が、こんな時に生生しく蘇って来る。
(俺が男で、あいつが女だったから……。)
勿論、魅録はもう思春期の少年ではない。ましてや魅録はその時の事を自分の
過ちとして、あれだけ悔やんでいるではないか……。いや、心配なのは魅録だけじゃない。
問題は野梨子だ。寒さ、吹雪、暗闇、密室、密かに想う相手と二人っきり……、
これだけの異常な条件が重なって、彼女がパニックにならない方が不思議だ。
彼女が何か奇怪な行動に出て、それがきっかけとなって……。
清四郎は、いけないと思いながら、悪い方に悪い方に考えるのを、止める事が出来なかった。

校門まで着くと、すぐさま悠理と清四郎は、今だ吹きすさぶ雪の中に飛び降りた。
何本もの白い鉄の槍が、天にその矛先を向けているように見える正門は、停電で
センサーが切れているものの、頑丈な鉄の錠で固く閉まっており、通用門も
同様だった。守衛室には既に誰もいなかった。首からパワー最大の懐中電灯を
紐で下げた清四郎と悠理は、目にも見えない速さで正門を登り、時間短縮の為、
てっぺんから雪の中に体をドサリと落として、学園の中に入り込むと、吹雪になぶられ、
雪に何度も足を取られながらも、非常灯を頼りに、わき目も振らずに昇降口に向かい、
豊作がその後を追った。昇降口の扉は既に閉められていた。清四郎は絶え間なく
激しく打ち付ける雪の粒に顔をしかめながら、外に面している一階の窓を、一枚一枚確かめ始めた。
「一枚位は鍵の掛け忘れがあるもんです……。」
果たしてその一枚は有り、二人は窓から校舎内へ体を滑り落とすと、全速力で生徒会室へ向かった。
47Graduation第十話storm(41):2009/02/04(水) 09:27:10
生徒会室。廊下側の窓の奥は真っ暗だ。
鍵はかかっていない。雪まみれの清四郎と悠理は顔を見合わせ、頷いた。
ガチャッ!
「魅録っ!いるかーっ!」

真っ暗な部屋の中に懐中電灯を向け、最初に悠理と清四郎の目に入ったのは、
ぼうっとした光の中、床に無残に転がった何脚かの椅子だった。そして、
テーブルの上の、蝋燭の残骸とかすかな薔薇の香り。電池が切れたらしい懐中電灯。
二つのカップ麺の容器と割り箸。茶封筒。茶色い液体のこぼれる2脚の白いカップ&ソーサー、
ガラスのコップが二つ。割れたカプセル……。
そして、テーブルの向こうには……。
テーブルに寄りかかって、椅子に座っている、薄ピンクの短髪の男が一人。
この寒いのに白シャツ一枚だ。向こうを向いているので、顔は初め見えなかった。

悠理の声に男が振り向く。疲れたような顔。顔は蒼白で、唇には色がなかった。
寒さの為か、体が震えているのが分かる。
「ゆ……悠理……。来てくれたのか……。」
歯をガチガチと鳴らしながら、ようやく発っせられたその声は、とても
彼のものとは思えない程、弱弱しかった。
「あっ、ああっ……。」
頷きながら、悠理と清四郎が中に踏み込む。ようやくやって来た豊作が、非常用ランプをテーブルに置いた。
頼もしい明かりが辺りを照らしたその時、清四郎の目に入ったのは、魅録が
腕に抱いている毛布から、黒い髪の毛だけ覗かせている野梨子の姿だった。
清四郎は咄嗟に声が出ず、悠理の声が代わりに響いた。
「野梨子っ!大丈夫かっ!?」
その声に野梨子がピクリと体を震わし、埋めていた魅録の胸から顔を起こして、
目を薄っすらと開いた。野梨子の目に清四郎が映ると、どこにこんな力が残って
いたのかと思うほど、彼女は素早く身を起こし、魅録の腕と毛布を跳ね除け、
走って、清四郎の胸に飛び込んだ。

「清四郎!清四郎!遅いですわよっ!」
48Graduation第十話storm(42):2009/02/04(水) 09:28:16

清四郎の胸で、狂ったようにしゃくりあげる野梨子。尋常ではない錯乱状態だ。
しかし、清四郎は、野梨子が着ている詰襟から目が離せなかった。
小柄な野梨子は、スカートが全て詰襟の中に隠れ、彼女が詰襟から足だけ出している様は、
タイツを穿いたままだという事に意識が向かない程、既に極度の興奮状態に
あった清四郎の神経を、ついに極限まで逆撫でした。
魅録に強い視線を飛ばす。
くたびれたような、うつむいた魅録の横顔。
魅録は清四郎と目が合うと、恐らく二人が出会って初めて、その目を逸らした。
魅録の目には、今まで清四郎が、かつて魅録の中に一度も見たことのない、
後ろめたさのような翳りが宿っていた。
清四郎は生まれて初めて理性が完全に吹っ飛んだ。

「貴様っ!野梨子に何をしたっ!」
清四郎は誰が止める間もなく、凄まじい勢いで魅録に飛び掛り、その胸倉を
掴むやいなや、満身の力を込めて魅録の左頬を拳で殴りつけた。
魅録は数メートル先に吹っ飛び、壁に頭と上半身を打ち付け、その場に崩れ落ちた。

「きゃああっ!」
「魅録っ!」
野梨子は清四郎の後ろで、豊作の腕に気を失って倒れ込み、悠理は一足飛びに魅録に駆け寄った。
「魅録!魅録っ!」
悠理が魅録を抱き起こそうとすると、彼はぐったりとして動かない。
口元からはダラリと血が流れ、白シャツを紅に染めていた。
「魅……。」
悠理の顔から一瞬にして血の気が引いた。悠理は、魅録の頭をそっと床に戻すと、
ゆらりと立ち上がって、後ろを振り向き、目に炎を燃やした鬼の形相で、
清四郎を正面から睨みつけた。
そして、拳を握りしめると、体を屈めて、目を涙で一杯にしながら叫んだ。

49Graduation第十話storm(43):2009/02/04(水) 09:29:18

「清四郎のバカッ!魅録が、魅録が、野梨子に何かするわけないだろっ!
魅録は……、あのお人好しの大バカ野郎は、おまえが……、おまえが大好きだから、
親友としておまえが大好きだから、どうしても、野梨子のこと、女として見られないんだよっ!
おまえは頭いいくせに、それ位のこと、わかんないのかよっ!」
「……。」
「魅録に……、魅録に何かあったら……、いくら清四郎でも、あたいは絶対、許さないっ!」

最初の激情が通り過ぎた清四郎は、立ちすくんだまま、青ざめ、言葉もなく、
自分の拳と悠理の突き刺すような視線とを、見比べていた。
悠理の双の目は赤く爛爛と燃え、あたかも雌豹が、つがいの手負いの雄豹を守って
全身の毛を逆立て、牙をむき出しているようであった。

「魅録は……、初めて会った時からおまえが好きだったよ。こいつは、それまでも
ダチは一杯いたけど、いつもお山の大将だったから、おまえに会えて、
『すごい奴だ』、『あいつにはかなわねえ』ってすっげえ喜んでた。あの頃は
あたいがやきもち焼く位、毎日おまえの事ばっかり話してたさ。聖プレジデントに
来たのもおまえがいたからだよ。だから……、だから、その親友のおまえが何
よりも大切にしている野梨子に、黙って手を出すなんて事は絶対にあり得ないんだ。
もし、こいつが本気になったら、誰よりも先ず、おまえに話すはずなんだよ!」
悠理は言い終わると、唇を噛みしめて、再び魅録に目を落とす。
「み……魅録……?」
頬を叩いてみても、何の反応もない。
「魅録っ!」
悠理は横たわったままの魅録に抱きつくと、声を限りに叫んだ。

「魅録っ、死んじゃ嫌だっ!魅録が死んだら、あたいも死ぬっ!」

50Graduation第十話storm(44):2009/02/04(水) 09:30:16

「……ゆう……り……。」
「!」
「バ…カ……人を勝手に……殺すなよ……。」
「魅録っ!」
魅録は、血の滴る口元を手で拭いながら、よろよろと上体を起こした。
「つぅー……。あんまり……でかい声出すなよ……頭に……響く……。」
悠理は、もう言葉も無く、魅録にひしと抱きついた。
魅録の目の前にスッと手が差しのべられた。
「申し訳ありませんでした……。つい、我を忘れてしまい……。冷静になれば、
分かる事なのに……。」

清四郎の表情は痛々し過ぎて、魅録はまともに見られなかった。
常日頃、誰よりも冷静さを誇るこの男に我を忘れさせる程、この男にとって
その女性が大事だと言うことなのだ。
「いや…いいんだ……。それより…野梨子は……?大丈夫か……?
あいつ……ここにいる間に…すごい弱って……。」
魅録は声を出すのもやっとだった。
「僕が受け止めていますから、大丈夫ですよ。ただし、すごい熱だ。」
豊作の声が聞こえた。
「インフル…エンザだと……思う……。薬は飲ませた……。直ぐに…病院に
連れて行ってくれ……。」
そして、魅録は再び目を閉じた。

51Graduation第十話storm(45):2009/02/04(水) 09:31:20

深夜0時近く、野梨子と魅録は、菊正宗病院に緊急入院した。

野梨子はやはりインフルエンザだった。特効薬を飲めば一日で熱は下がるはずだが、
何しろ寒さと精神的疲労で免疫力が著しく低下しており、悪化する可能性も
十分考えられた為だった。
魅録は、頬と、壁に打ち付けられた時の上半身の打撲に加え、口の中を激しく
切っており、また、やはり寒さによる衰弱もかなり激しく、更にはインフルエンザに
かかっている可能性も疑えない為であった。

清四郎と悠理は、その晩一睡もせず、各々野梨子と魅録の病室で、愛しい人の手を握り、
その寝顔を見守っていた。

吹雪はついに止んだ。
しかし、嵐が、去った後に何を残して行ったのか、まだ誰にも分からなかった。

第十一話last danceに続く

52名無し草:2009/02/04(水) 11:19:57
>ぼくらは目覚めぬ夢をみる
読んでてぐいぐいとお話の世界に引き込まれてしまいました。
ホラーじゃないのにちょっとゾクッときてしまった。
別世界の悠理も本物?の悠理もどうなっちゃうのか気になります。
続き待ってます。

>Graduation
それぞれに感情移入してしまってもう見守るしかないなと思って読んでます。
嵐は4人にどういう影響を残していったんだろう・・・
続き楽しみです。


53名無し草:2009/02/04(水) 14:09:14
>Graduation
清四郎と悠理が痛々しすぎて悲しすぎる
本当にこの恋が実らないと一生誰も愛せそうにないですね
54名無し草:2009/02/04(水) 19:19:13
>Graduation
自分はむしろ魅録と野梨子が可哀想になってきた。
清四郎と悠理の想いが強すぎて、自分たちの想いを押し殺しちゃいそう…。
でもそれじゃ清四郎も悠理も本当の意味で幸せじゃないし…。
う〜ん、早く続きが知りたいです。
55名無し草:2009/02/04(水) 20:23:20
>>54
同じ事思った!
言ったもん勝ちみたいになっちゃうのがね……。
>Graduation
サクサク進むし読み応えあるし、すごく次が待ち遠しいです。
56名無し草:2009/02/04(水) 21:06:35
>Graduation
4人の想いが複雑に絡んで切ないんだけど、そんな4人がどうしようもなく愛しく感じるw
おもしろくなってきました。
次もお待ちしています。
57名無し草:2009/02/05(木) 17:59:45
>ぼくらは目覚めぬ夢をみる
平行世界の悠理がどんな波紋を広げるのか楽しみです

>Graduation
実るとしたら魅録と野梨子だと思ってます、
清四郎と悠理が二人に恋愛対象として意識されない限りは
清四郎と悠理は相手が好きじゃなくてもいいから、とは思わないだろうし
58名無し草:2009/02/06(金) 09:38:05
久々にスレ覗きました。
なんとまぁ、大盛況!

特に野梨子の絡みが好きなので、
>Graduation
>薄情女
楽しみにしてます。
59名無し草:2009/02/06(金) 17:26:30
ゴゼンニジノウタと魅可の後編もお待ちしています。
60ぼくらは覚めない夢を見る:2009/02/07(土) 12:42:21
>>34今回は5スレお借りします。
61ぼくらは覚めない夢を見る11:2009/02/07(土) 12:43:22
「そこで悠理の出番です。磁力発生装置を買ってください」
 清四郎がそう言ったとき、その部屋にいた誰もがすぐに悠理を元に戻せると思っていた。
 いや、少なくとも可憐はそう思っていた。
 力いっぱい頷いた悠理は、すぐに電子マネーを使い、磁力をコントロール出来る機械と幾つかの装置を買った。
 その日から、私達は剣菱邸に泊まり込んだ。
 だけど、正直、私と野梨子はたいして役にたたなかったような気がする。
 可憐は胸のうちで独りごちた。
 いや、正直に言えば、役に立たなかったのは私だ。
 野梨子も、清四郎も、魅録も装置の使用方法や、条件の数値化など計算をしているし、少なくとも方法を探しているように見える。
 だけど、私には清四郎と野梨子の宇宙語も、魅録の異次元語も理解できなかった。
 そして美童のように悠理を元気づけることも、出来きていない。
 不安がって泣いている悠理に、美童はすごく優しい。
 その態度は、正直に言えば、思った以上の面倒見のよさに、美童のことをかなり見直すことになった。
 もともと女の子の扱いに慣れているせいか、優しく肩を抱いて丁寧に話を聞いてるうちに悠理はだいぶ落ち着いたように見えし、少なくとも泣きやんでいた。
「長期戦になるかもしれませんから、野梨子たちは休んだほうがいいですよ」
 野梨子があくびをした時、清四郎が言った一言で、とりあえず私達は休むことになった。
「悠理は、多分この部屋にいた方がいいでしょう。場所が関係しているかもしれませんから」
「うん・・・」
 悠理は頷きながら、一瞬縋るような視線を野梨子と可憐に向けた。
 もしかしたら、気のせいだったかも知れないほどの時間だったが、逆にその短さが可憐に不安を与えた。
 客間に行くように言われたても、不安げな悠理を見ると先に寝ることなんてできない。
「私はまだ眠くないわ」
 可憐の言葉に、野梨子も微笑を浮かべた。
「悠理のそんな顔を見て、寝るなんて無理ですわ」
62ぼくらは覚めない夢を見る12:2009/02/07(土) 12:43:56
 時計が三時の鐘を打ったとき、悠理は美童と共にソファに座り、船を漕ぐ美童を切なそうな顔で眺めていた。
その顔は、酷く静かだった。
 可憐が欠伸をすると、悠理は済まなそうに皆を見わたした。
 そして可憐に向かって、小さく声をかけた。
「可憐、少し寝た方がいいよ。肌が荒れちゃうよ」
 その様子を野梨子は不思議な気分で見つめていた。
 悠理の静けさが、不思議な気がした。
 ただ、大人しくしているという違和感ではない。
 いつも見ていた、悠理とは空気が違うのだ。
 別の人間なのだから、当然と言えば当然かも知れない。
 しかし、動作にしろ、表情にしろ、何かが子供のときから知っている悠理だった。
 それが違和感となって、不思議な気分にさせていた。
 野梨子の堂々巡りする違和感を破ったのは、可憐の声だった。
「私なら平気よ、それより、美童との馴れ初めを教えてよ」
 可憐の明るい声に、悠理の頬がほんのりと染まった。
 その声に、部屋の空気が和らいだことは確かだった。
 彼女のそういう所に、いつも助けられている気がする。
「私も聞きたいですわ」
 野梨子も、我知らず微笑むとそう言っていた。
 清四郎や魅録もじっと悠理を見て、部屋の中はしんと静まり返っていた。
「えっ、あの、別に馴れ初めなんてないよ。なんとなく」
 見る見る真っ赤になった悠理は、顔の前で両手を振ってそう答えた。
 どうやら、その話をするのはかなり恥ずかしいことのようだ。
 初心な様子は可愛らしく、野梨子はますます、興味を感じた。
「なんとなくって、向こうの美童はGFとかいませんでしたの? 」
 野梨子の言葉に、悠理の顔が強ばり、目付きがきつくなったので、どうやら世界の恋人とまではいかなくても、それなりに遊んでいたことが分かった。
いけないことを言ってしまいましたのね。
 野梨子の後悔を他所に、悠理は不機嫌そうに、隣りで眠っている美童を睨んだ。
63ぼくらは覚めない夢を見る13:2009/02/07(土) 12:44:43
「編入した時は、すご〜く、いっぱいいたよ。可憐みたいにモテルことが美童の生きがいだったもん」
「美童と一緒にされるのは正直、心外だわね」
 可憐は眉を潜めてそう言うと、悠理は美童に向かって小さく首を振った。
「美童は今もそうなんだ・・・」
 隣りに座った美童を見つめながら、悠理は細い声でそう呟いていた。
 その声は悠理とは思えないくらい、儚げで、野梨子も可憐も言葉に詰まってしまった。
しかし、好奇心に勝てなかった。
「どちらから告白したんですの」
 そう声をかけると、悠理の顔に光を指したような微笑みが浮かんだ。
「あたしも、本当にどうしてか分かんないんだけど、美童はあたしが好きだって言い出したの」
「いつ頃から? 」
 可憐の言葉に、悠理はますます赤くなって、チラリと美童を見つめた。
「中三の半ばくらい・・・かな」
「え〜、じゃあ、美童が来てからすぐじゃない」
 可憐が興奮したように声を上げると、悠理は慌てたように首を振った。
「でもね、最初は冗談だったの。あたしの事からかって、そう言っただけで、全然そんな感じじゃなかったし、皆も笑ってて、勿論あたしも、からかわれて怒ってたし・・・」
 悠理はそこまで言うと、突然、黙ってしまった。
 耳どころか、指先まで染めていた。
「それで、付き合い始めたのは何時なのよ、悠理? 」
「高三の冬・・・」
 もじもじとしながら答えた悠理に、清四郎は呆れたように呟いた。
「去年ですか? それはまた気が長い」
 悠理は少し恨めしげに清四郎を見た。
 いつもの悠理とは違うせいか、清四郎は少し赤くなってから気まずそうに目を逸らした。
「ううん、今年・・・なんか、よく分からないうちに付き合ってることになってた」
64ぼくらは覚めない夢を見る14:2009/02/07(土) 12:45:19
「よく分からないうちに? 」
 魅録がもっともな疑問を口にすると、悠理の眉間に小さく皺が寄った。
「クリスマスに偶然美童と会って、二人で食事することになったとき、喧嘩しちゃったのを、フォーカスされちゃったんだ。バレンタインの破局って見出しで。三流週刊誌でさ」
 悠理は隣りで眠っている美童を見ていたが、その瞳はもっとずっと遠くを見ているようだった。
「そしたら母ちゃんが、美童を呼び出して、どうなってるのか聞いたら、破局なんかしてないって美童が言って・・・そしたら婚約することになって、なんか美童があたしの部屋に引っ越しして来ちゃって」
「じゃあ、まだ二カ月しかたってないじゃありませんの」
 驚きのあまり声を上げると、悠理はこちらを向いた。
「うん・・・」
「でも、婚約したってことは、悠理も好きだったんでしょ」
 可憐の言葉に悠理は不思議そうに、可憐を見返した。
そして一瞬ぼんやりとした顔で美童を見てから、コクンと子供みたいに頷いた。
「うん」
 顔を上げた悠理の瞳から、ポロポロと涙が零れ。
 その涙は、野梨子にまた不思議な感覚を呼び起こした。
 なんて静かな、憂いを帯びた瞳なんでしょう。
悠理がこんな顔をするのを見る日が来るなんて、思いませんでしたわ。
野梨子は、どうしていいか分からずに、驚いて見つめるだけだった。
「あたし、まだ、ちゃんと美童に好きって言ったことない。美童が優しいのをいいことに、一度も言わなかった」
 しゃくり上げながらそう言う悠理は、恋人と別れたばかりの女性というよりは、小さな子供のようで、野梨子は何故か少しだけ安心した。
 こんな時に私ったら、何を考えているのかしら。
 目の前の悠理と、自分の中にする悠理の存在を比べていることに、一種の罪悪感のような感情が沸き、野梨子は少し困惑した。
「あたしも、美童のこと、ちゃんと好きだったのに、恥ずかしくて怒ってばっかりで、自信がなくて、いつも拗ねて甘えてばっかで・・」
「代丈夫よ、悠理。美童だってそんなのちゃんと分かってるわよ」
65ぼくらは覚めない夢を見る15:2009/02/07(土) 12:46:15
 可憐は感動したようで、泣きながら悠理を抱き締めた。
 そのストレートな感情表現が、野梨子には羨ましく感じられた。
 自分はまだ、目の前の悠理に慣れることが出来ずに、戸惑っているというのに。
「そのネイル、美童の為にしたんでしょ」
 可憐が悠理の手を握ってそう言った。
 野梨子も悠理のネイルには気がついていた。
 確かに『こちら』の悠理も爪を彩ることはあった。しかし、野梨子の覚えている限り、黒や票柄といった奇抜なものであった。
しかし、短めの爪に施された、フレンチネイルはミントグリーンに、
爪先だけイエローのシェルカラーの上品なもので、不思議と悠里に似合っていた。
奇麗に塗られている親指と小指にだけ、ラインストーンがついていた。
 だけど、その指には料理の練習で出来たという、痛々しい切り傷や、火傷の跡が無数にあった。
「うん、あたし、女らしくないから、少しでもなんとかしようと思ったんだけど・・・」
 そこまで言うと、悠理の顔がくしゃくしゃに歪んで、子供みたいに泣き出した。
「でも、あたし、爪、短いし、手だって、傷だらけで汚いから似合わないのに」
「そんなこと無いわよ。料理の練習したんでしょ。美童だって、嬉しいに決まってるわよ」
「そんなことない。美童は反対だったんだ、せっかく婚約したのに、一緒にいられる時間が減るし、怪我して危ないからって。
 あたし、ただ、喜んで欲しかっただけなのに・・・美童に、あたしが作った料理、食べて欲しかったのに」
 ウワーンと声を上げて泣く悠理の姿に、この悠理も、やはり悠理なのだと思え、安心した。
 その泣き顔は、確かに私達の知っている悠理のものだった。
「じゃあ、悠理、ここにいる間、教えて上げますわ。和食は得意ですのよ」
 野梨子の言葉に、悠理の泣き声が一瞬止まり、小さく口を開いたまま、私を見た。
「そうよ、悠理、この可憐さんも教えてあげるわよ」
「可憐と野梨子にはいっつも教えて貰ってたんだ。覚え悪いのに」
 悠理はワンワンと声を上げて泣きながら、可憐にしがみついた。
「もう、あんたは鼻水、付けんじゃないわよ」
 可憐も泣きながら、母親のような口調でそう言った。

つづきます。
66名無し草:2009/02/07(土) 14:49:03
>ぼくらは〜
う〜ん、ますます先が読めないです。
こちらの世界の悠理はどうしてるんだろう。
ちゃんと入れ替わりに帰れるんだろうか。
続き楽しみです。
あと、題名が最初と微妙に違ってるようです。
67ぼくらは目覚めぬ夢を見る:2009/02/07(土) 19:44:27
>>60-65 すみません。題、間違えてました。正確には目覚めぬです。
68名無し草:2009/02/08(日) 07:55:33
>ぼくらは〜
新連載、毎回楽しみにしています。
美童にベタボレの悠理が可愛いですね。
続きお待ちしております。
69名無し草:2009/02/08(日) 17:18:43
>>55
言ったもん勝ちって酷いいいかただなあ
今の思い人じゃなければ他はもう一生愛さないくらいの強い思いの二人を
先に言ったもん勝ちになるの?
魅録と野梨子がくっついたら他の二人は一生幸せになれないって約束されてる
そしたらどんなふうに終わってもハッピーエンドにはならないよね
キャラが不幸になる当て馬表現は誰でも嫌うでしょ
清四郎と悠理それぞれの恋が叶うか、4人誰ともくっつかない以外の終わりなら
キャラを侮辱してるのでやめてほしい
70名無し草:2009/02/08(日) 18:12:38
>>69
>キャラを侮辱してるのでやめてほしい

その受け止め方それぞれ。
個人の感性の違いだよね。
作者様は気にせず妄想してくださいませ。
71名無し草:2009/02/08(日) 18:27:48
魅録と野梨子くっつかせるつもりなら
清四郎と悠理の思いを強くしなけりゃいいでしょ
その思いを知ってて友人裏切ってまでくっつかせる描写がないから
くっつかせるなら作者の腕不足
72名無し草:2009/02/08(日) 18:42:35
>>71
>・萌えないカップリング話やキャラ話であっても、 妄想意欲に水を差す発言は
> 控えましょう。議論もNG(必要な議論なら、早めに別スレへ誘導)。

作者さんや読者の妄想意欲に水を差す発言は、お約束違反だよ。
70さんの言うように、受け止め方それぞれ。
反論があって議論したいというのなら、スレ違いだから↓こっちで。

ネットでの議論 「議論 = ケンカ腰」という感覚
http://pc11.2ch.net/test/read.cgi/internet/1195779437/
73名無し草:2009/02/08(日) 18:55:21
一生このキャラを幸せにさせませんみたいなのは
誰でも気に入らないと思うんだけど?
陵辱やら暴力表現があったら注意書きするのが当たり前なのに
精神的に一生を引きずるくらいに傷つけるのはOK?
しかもそれくらい思ってるほうを悪者みたいにいってる>>55がね
作者がそんなつもりはないなら言わないよ
>>55は人が傷つくことなんてなんとも思ってない人なんだろうけどね
74名無し草:2009/02/08(日) 19:12:50
>>73
反論があって議論したいというのなら、スレ違いだから↓こっちで。

ネットでの議論 「議論 = ケンカ腰」という感覚
http://pc11.2ch.net/test/read.cgi/internet/1195779437/
75名無し草:2009/02/08(日) 19:50:04
とりあえず、連載を最後まで読んでから言え。



76名無し草:2009/02/08(日) 20:51:26
>73
プライベートで何か嫌な事があったのかな?
55もそこまで酷いこと書いたように見えないですが…。
色んな捉え方や感じ方があるけど、毎回「自分の望む形のハッピーエンド」になるわけじゃないんだし、そんな大袈裟に噛みつくのもどうかと思いますよ。
あくまで二次元。
嫌なら読まなきゃいいだけ。
そのへん割り切って楽しんだ方が良いんじゃないですかね。
ということで、作家さんは気にせずに続きをお願いします!!
77名無し草:2009/02/08(日) 20:59:26
もし今後の展開が気に入らなかったら73は大暴れするっていう予告みたいw
なんでそんなに必死なのか
そんなに嫌なら自分で好きに納得いく話を書けばいいじゃん

作家さん方、気の向くままに萌ストーリーをお願いしますね
おかしなのが暴れてもスルーしてください
なんか妄想したんで、投下。
元ネタは、とよ田みのる氏のラブロマの
コネタのつもりだったが、既に別物。
全部で12スレくらいだと思うが、長く(短く)なるかも。

カップリング 清四郎×悠里
エロなし下品ネタ、バカ小噺。
嫌な人はスルーよろ^/^
今回8スレくらい。
 それはバレンタインを控えた、とても寒い日のことでした。
 今日の清四郎がおかしいと幼なじみとして、心配しておりました。
 今朝、眉間にはくっきりとした二本の皺を寄せ、
 どろどろとした暗雲を立ち込める清四郎と、一緒に登校しましたわ。
 正直、隣を歩くのは嫌でしたが、
 清四郎がどうかしてるののは、慣れていますもの。
 もちろん、我慢しましたわ。
 あまりの迫力に、どうしましたの? 
 と声をかけることもできませんでしたの。
 クラスの皆も怖がって、誰も近付けませんでしたわ。
 HRが終わると、ノートを借りに悠理が現れましたの。
 その時、清四郎の瞳がまるで恨み事でもあるかのように、
 ギラギラと光り酷く睨みつけたのもですから、
 悠理ときたら可哀想に、何も持たずに、逃げてしまいましたわ。
 その際、んぎゃっと尾っぽを踏まれた猫のような声を上げましたわ。
 よっぽど、怖かったのでしょう。
 もしかするとこの間、清四郎の大事にしている碁石をばら蒔いてしまい、
 いくつか無くしたことが、とうとうバレテしまったのかしら。
 それとも、清四郎の部屋にあった壷を割ってしまい、
 接着剤でくっつけたのがバレタのかしら。
 もし、そうだとすると、割った悠理もですが、
 接着剤で直した魅録も無事ではすまないかもしれませんわ。
 しかし、私の心配を余所に、悠理が逃げてしまえば、
 清四郎はまた窓の外に顔を向け、そして時々思い出したように
 チラチラと私を見ているじゃありませんの。
 今も窓を睨んでいる清四郎は、はっきり言って不気味ですわ。
「野梨子」
 肩に手を置かれたのは、そっとしておきましょうと、背を向けた時でした。
「何ですの」
 振り向くと、清四郎は険しい顔のまま、フムッと溜息をつきましたわ。
 そして顔を上げると、私の目を見てこう切り出しましたの。
「この前、野梨子が言った事なんですが、
 昨晩から突然に気になってしまい、眠れないんです」
 何のことか分からず、訊ねますと清四郎は更に眉間の皺を深くいたしました。
「野梨子が、悠理を愛しているように見えないと、言ったことなんですが」
「・・・」
 いきなり言われて何のことか分からりませんでしたわ。
 ようやく婚約騒動のことを思い出したのは、清四郎がこう続けたからですの。
「悠理はもしかして、この気持ちを理解していないのかと考えたのですが
 野梨子の考えを聞かせてもらえませんか」
 その瞬間、クラス中がわっと沸き返りました。
「嘘、菊政宗さんって、剣菱さんが好きだったんだ」
「いやですわ〜、白鹿様とお付き合いされていたんではないんですの?? 」
「ならば、何故、婚約解消なさったの? 」
 しかし蜂の巣をつついたような騒ぎには頓着せず、
 清四郎は更に私に問いかけましたわ。
「野梨子はこの愛が伝わっていないと、思いますか? 」
「この気持ちも、この愛も、私には何のことかさっぱり分かりませんわ」
 まったくの不幸としか言えませんが、
 ここで、たちの悪い冗談だと笑い飛ばすには、
 私は清四郎を知り過ぎていたのでしょう。
「分からないんですか? 本当に」
 真顔でそう言った清四郎の言葉を遮るように、私は笑いましたわ。
「ほほほほほ、清四郎ったら、驚きましたわ。冗談が過ぎますわ」
「笑うとは失敬ですね。本気で聞いているんですよ」
「ほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ。
 もう、清四郎、参りましたわ。すっかり騙されましたわ」
 かなり苦しいことは分かっていましたが、
 幼なじみの微妙な恋を応援する為に、私はあえて笑いましたの。
 ここで、変な流れで悠理に伝わるのは、あまり得策だとは思えませんもの。
 もっとももう手遅れかも知れませんけれど。
 そう、思いながら、私は苦しい笑いを絞り出し、
 教室から連れ出そうとしましたの。
 人が真剣な相談をしているというのに、突然野梨子は笑い出した。
 それは、幼なじみにしては珍しいことだ。
 変だと思っているうちに連れてこられた場所と言えば、いつもの部室だ。
 しかし、ドアが閉まった瞬間、
 野梨子の顔から笑みが消え、こちらに向き直る。
「清四郎、TPOって言葉を知らないんですの? 」
 ドアに背を向けたまま、そう言う野梨子はどうやら怒っているようだ。
「知っていますよ。馬鹿にしているんですか? 」
「じゃあ、どうして教室であんな話をしたんですの?
 誰かの口から悠理の耳に入ったら、どうしますの。気を悪くしますわ」
 野梨子の剣幕から考えると、どうやら失敗してしまったようだ。
 しかし、分からないのは、何を失敗したのかということだった。
「何がいけなかったんです。悠理に対する気持ちを表現することで、
 今まで野梨子が怒ったことはなんて無かったじゃないですか」
 そう言うと、野梨子は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
 ちなみに瞳は小さな○で口は◇になっていた。
「野梨子、嫁入り前の女性がそんな面白い顔をしてはいけませんよ」
「まぁ、失礼ですのね」
 野梨子は真っ赤になって怒ったが、いつもの顔に戻っていたので
 逆に感謝されてもいい筈だと思えた。
「しかし、野梨子、教えてください。
 いままで、事あるごとに示してきた愛情が
 もしかしたら理解されて無いのではないかと思えてきたんです」
 野梨子はドアにもたれ掛かったまま、
 勝ち気な彼女には珍しく張りの無い声をだした。
「清四郎はもしかして、悠理に恋愛感情を持って好いてますの? 」
 その口調は、まるで聞きたくない、
 もしくは聞くのが面倒だとでも言うような口調だった。
 いつになく、幼なじみの薄情な態度に、多少腹を立てながら頷いた。
「当たり前でしょう。
 悠理と初めて会った時からずっと・・・その・・なんですよ」
 好きだと言おうと思ったのに、どういう訳か言うことができず
 顔が熱くなるのを感じた。
 前々から感じてはいたが、何げにシャイな性分なのだ。
「言わなくても、分かるでしょう」
 そう言うと、野梨子はジロジロと人のことを眺めまわした。
 幼なじみは元来、こんなことをする性分ではない。
 いったいどうしたというんだろうか。
 不躾な視線を感じると、なんとも言えない羞恥が沸いて来て
 ますます血が顔に昇ってくるのが分かった。
「真っ赤ですわよ・・・・清四郎」
 野梨子の驚いたような声に、居心地の悪さを感じた。
 そもそも野梨子が、そんなことを言わせようとするからでしょう。
 すると突然、プッと吹き出した。
「からかったんですか」
「違いますわ」
 本気で憤慨すると、野梨子は笑いながら、
幼児がイヤイヤするように首を振る。
「寧ろ、清四郎にそんな可愛いところがあって、
幼なじみとして安心したんですの」
 野梨子はひとしきり笑うと、こんどは急に真顔になった。 
「けれど、口に出して伝えないと、分からないこともありますのよ」
 そして大きく溜息をつくと、まるで哀れを催すような視線を向けた。
 テーブルを指さし、お座りなさいな、と言った声は教師のようだった。
 そしてこちらが座るか早いか、向かいに腰掛けて、諭すように話始めた。
「残念ですが、悠理に清四郎の気持ちは、多分伝わっていませんわ」
「何故ですか? 昨日も、可愛いと連呼したし、
好きだと言ったじゃないですか」
 それなのに、この気持ちが届いていないなんて、
 野梨子も悠理もどこまで鈍感なんだ。
「言葉を返しますが、清四郎はただ可愛いと言えばよかったんですわ。
 バカ犬のように可愛いなんて言い方しますから、悠理が怒ったんですわ」
「しかし、本当にバカ犬のように可愛いと思ったから言ったんですよ」
 思ったことを言ったのに、
 どうしてこんなことを言われなくてはいけないのか。
「バカは清四郎ですわ。
 愛しく思う相手に言う言葉じゃありませんもの。
 それに、あんなことを言った後で、
 そういうところが好きだと言っても厭味にしか聞こえませんわ」
 バカと言われてカチンときたが、もし本当にそうだとすると、
 もしかして今まで示してきた愛情表現は、
 すべてスルーされてしまったんだろうか?
 じゃあ、あの婚約破棄も、悠理よりも
 剣菱を動かすことが楽しいと誤解させた為に
 拗ねてしまっただけの痴話喧嘩ではなく、
 本当に嫌がっていたんだろうか?
 いや、でも悠理は一昨日、清四郎ちゃん、大好きと言ってくれた。
「そのすぐ後、魅録に愛してるって言ってましたわ」
 心を読んだかのような、野梨子の言葉に現実に引き戻された。
 確かに野梨子の言ったように、悠理の魅録に対する言葉は
 不安を煽るものだった。
「そもそも清四郎はちゃんと悠理を愛してますの?
 バカ犬や、異常食欲なんて言葉は
 好いた女性に使うものじゃありませんわ」
 分かってませんね、野梨子は。
「そういう所も・・なんですよ。その可愛いじゃありませんか」
「だいたい清四郎は悠理のどこを好きになったんですの」
「あの、騒々しいところがいいですね。
 あと、底無しのにバカなところも可愛いですよ。
 女とは思えないような思いきりのいい暴れっぷりや、
 色気皆無のとこも好きです」
 何しろ、あいつはああ見えても美人ですからね、
 変に色気なんかあったら、気が気じゃありませんよ。
 しかし、野梨子はこの回答が気に入らなかったようで、
 妙な迫力を出しながら、睨んできた。
「清四郎は失礼ですわ。
 照れもあるのかも知れませんが、恋愛では素直が一番ですのよ」
 野梨子はそう言うと、まるでなっていないと言うように首を振った。
「以前、私に友達ができない原因は
 上から見ているからと言ったのは清四郎じゃありませんか。
 恋愛も同じですわ」
「これはこれは。
 野梨子がそんなに恋愛に詳しいとは知りませんでしたよ」
 野梨子の口から恋愛もなんてことを聞くとおかしくて、
 思わず笑みが漏れると、野梨子の眉間にビシッと青筋が浮かんだ。
「お言葉ですけど、清四郎の心配をしてますのよ。
 そんなことでは、そのうち鳶に油揚げで、どこかの誰かに
 悠理を捕られてしまいますもの。
 隠してますけど悠理、最近、殿方に人気がでてきたんですのよ」
 その言葉は、眠っていた、怒りを呼び覚ました。
「この前、悠理にラブレターを寄越した、
 あの身の程知らずのストーカーの事だったら安心しろ。
 二度と悠理の前に現れないと泣いて誓ったから」
 もうカタがついた筈の男を想い出し、首を振った。
 たいした覚悟も無く、よく悠理に言い寄れたもんだと呆れてしまう。
 この僕でさえ、ちゃんと口を聞いて貰えるまで、十年経ったのだから。
 しかし野梨子はますます気に入らないというように、溜息をついたので、
 なんだか不安になった。
「清四郎は悠理のどこを綺麗だと思いますの。
 どんな時にドキドキしますの? 」
 その質問は、たしかにこちらの平常心を奪った。
 そして再び顔が火照った。
 しかし、野梨子も今度は笑わなかった。
「どんな時って、特別な時じゃないですよ。
 ・・・大口開けて笑ってる時も、子供みたいに泣いてる時も、
 はしゃいでる時も、拗ねてる時も、全部特別なんですよ」
 悠理のことを思い出しているのでしょう。
 清四郎はとても優しい瞳で微笑んでいました。
 いままで、愛情欠損者だと信じていた清四郎の変わりように、
 私は微笑ましい気持ちで見つめましたわ。
 清四郎も人の子でしたのね。
「そうやって、悠理にも素直に言えばいいんですわ。
 変に言葉を作らずに思ったまま言えばいいんですわ」
 そう言うと、清四郎はまるで初心な少年のように頬を染め、
 頷きましたの。
「でも、悠理に告白する時は、ちゃんと細かく心情を言わなくてはいけませんわ。
 じゃなければきっと、分かって貰えませんもの」
「細かくですか」
 清四郎の眉間に皺が寄り、またドロドロとした暗雲が立ち込め
 私は憂鬱になりました。
 本当に、大丈夫かしら。
「でも、あまりはっきり言うと、怒られそうで・・・」
「どうしてですの? 」
 首を傾げたると、女心は分かっても
 男心は分からないでしょうなんて言いますのね。
「悠理にはいつまでも今のまま無垢でいて欲しいとか、
 世間から守ってやりたいとか言ったら嫌がりそうじゃないですか」
「そうですわね。それは言わない方がいいですわ」
 私は頷きましたわ。
 だって自分が言われたらやっぱりいい気持ちがしませんもの。
「それに、悠理の亜麻色の瞳に吸い込まれそうとか
 笑顔を見ると、動悸息切れがするなんて言うと
 気持ち悪がられませんか」
「まぁ、そこはちゃんと言わないといけませんわ。
 吉とでるか、凶とでるか分かりませんが、その時はその時ですわ」
 どっちにしても、情緒が欠落していると信じていた清四郎の
 告白を見届けたいですわ。
「それから、動悸息切れなんて疾患のような言い方はいけませんわ。
 ちゃんと悠理をこう思ってるから、ドキドキするって言い方をなさいませ」
「そんな事を言ったら、引っぱたかれますよ」
 首を振る清四郎に向かい、私は言い聞かせましたわ。
「確かに悠理は照れて怒るかもしれませんが、
 そんなことを気にしてはいけません」
 そこを省くと、きっと気づいてもらえませんわ。
「じゃあ仮に、野梨子が告白される時、
 悠理の細い肩を見ると、抱き寄せたくなるなんて言ったらどうですか」
 その言葉に吹き出すのを我慢した私は、自分を褒めてあげますわ。
 いつも澄ましているくせに、そんなことを考えてましたのね。
「好きな殿方でしたら、嬉しいですわ」
 私の返事は予想外だったのでしょう。
 清四郎は驚いた顔をして、私を見てから、真顔になって頷きましたの。
「わかりました。ありがとう、野梨子。覚悟を決めましたよ」
 ああ、決めてくださいましたのね、清四郎。
 私、清四郎の初恋の行く末を、失恋にしろ成就にしろ、
しっかり見届けますわ。
 そんな風に思った私は、やっぱり清四郎を分かっていなかったんですわ。
87名無し草:2009/02/08(日) 21:53:09
>>77
スルーしましょ。
某カプ好きで野が嫌いないつもの荒らしさんでそ。
88名無し草:2009/02/09(月) 00:46:49
>サイレント棋士〜

元ネタは知らないけど、色々とズレてる清四郎が妙にツボにはまったw
覚悟を決めた清四郎がこの後どう行動するのか、楽しみにしてます。


>このスレにいる作者さん・小ネタ職人さん方へ。

多くの読者は、他者と自分では考えや感性が違っていて当然だし
違っているからこそ面白いという事、そして、幸せでないキャラや
後味の悪い展開があったとしても、それはその物語の創作上の都合である
という事を分かって読んでいると思います。

それにこのスレではCP標記等を参考に「読まない」という選択もできるし、
読んでいる作品が結果的に苦手な展開や結末になったとしても、自分の世界と
他者の世界を区別すればよいだけの話だと思うのです。

だから皆さんどうか、思う通りのお話を書いてください。
これからも色々な世界に触れる事ができるのを楽しみにしています。
89名無し草:2009/02/09(月) 00:50:17
>サイレント棋士エキセントリック
この流れで投下した勇気を讃えたい、ありがとう!
おかしな清四郎が笑えましたw
清四郎の恋がどうなるのか楽しみです

>>55 の言ったもん勝ちって言い方は私も酷いと思った
相手を牽制する為に言ったんじゃないでしょ、自分の気持ちに素直になっただけで
ただ、これで4人ががんじがらめになったな、とは思った
友人の一生にただ一人の相手と思いを遂げるには、魅録と野梨子の友情は強すぎるはず
それでもくっつくのなら、その間の4人の葛藤とか、共感の持てるようにして欲しい
それが出来れば理性で制御できない燃えるような恋になるし、
出来なければ魅録と野梨子の他の二人への友情が薄っぺらになってしまう
まだ先は長いし、今後の作者に期待です
ただ、魅録と野梨子がくっつくとして、
他の二人があっさり諦めて単に残った者同士くっつく、なんて安易にはせず、諦める時も、
仮に清四郎と悠理がくっつく時も、納得のいく流れ・表現であって欲しいです
嫉妬に狂えとは言わないけど、あんな表現する相手を簡単に諦めると、その気持ちが軽くなってしまうので
(悠理に関しては諦めてる部分もあるのである程度納得できるけど)
90名無し草:2009/02/09(月) 03:09:35
「言ったもん勝ち」って、「意図的に」っていうんじゃなくて結果的にそういう状況になっちゃうって意味じゃないの?
自分にはそう解釈できたけどね。
実際の恋愛にも少なからずある状況じゃない?
作者さんには作者さんの考えた展開があるんだから、あれこれ注文つけてハードル上げるのは良くないでしょ。
書きづらくしちゃって中断しちゃったら身悶えするぞ。
なんでROMってる立場で作者さんに対して上から目線の人が居るのか、全く理解できん。
91AA清四郎:2009/02/09(月) 03:11:17
初めて作ったけど、ずれるかな?
            _________
          /??????????¥?????????????\
          /?????????????? ????????????????\
       ′????????????????? ????????????????????ヘ
      /???????????????????? ??????????????????????ヽ
     /????????????????????? ???????????????????????
     0???????/f f          川 !  ヽ??????????
      0??????/‖ ‖       ‖ ‖  ヽ????????|
     0?????/‖‖ U        U  |   I ヽ???????|
     0?????/ 」 へ==ヾ     ´== ̄ ̄ヽ---」,?????|
      r????|| r ̄ ̄(I `、    ´_? ̄?ii ヽ |?????ヽ
      |??‖   `^   }!       `^  || ?????/
     ヽ?ハl!        j:!          |  }????′
      ヾぃ       ノ:}         ,イ???
         \_       ヽ:          /??
          ヘ     、_,. _,._,    /
          \   `ニニ´    /|
            |ヽ        , '  |
           |  \    /   |
               }    ̄ ̄     |
          | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄? ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
           丿      I         、
        /        I          \
 
92名無し草:2009/02/09(月) 03:31:56
何がしたいの。
93名無し草:2009/02/09(月) 03:51:33
>>89
もっともなこと言ってるように見えるが、その意見はすごく作家の好きに書くという
創作活動を押さえつけてるように聞こえる。
>友人の一生にただ一人の相手と思いを遂げるには〜
から下全部。

そうすることは作家さんの自由であるし、カプも流れもどういう過程でカプになるか、
はたまたくっつかないかは全部作家さん次第。
魅野がくっつくかどうかもまだ全然分からないのに。
しかもここで投下してる作家さんはあくまで素人で、ROMの自分達が金を払って見てるわけでもない。
自分達は読ませてもらってる側。

だけど、すごくキツイ話(誰か一人がブラックになってたり性格悪すぎたり)なら文句書きたくなる人が出ても分かるんだが
こういうみんないい子の話で話題が出たのが不思議。
94名無し草:2009/02/09(月) 03:58:02
みんないい子だけに、
誰かが絶対傷つくような話の流れが嫌だってことじゃないの?
清四郎と悠理の劇場を言ったもん勝ちと表現することほど、
よっぽど作者さんにとって失礼なんでは?
95名無し草:2009/02/09(月) 04:00:13
×劇場
○激情
96名無し草:2009/02/09(月) 05:19:16
荒らしがこっそり混じってたりして
97名無し草:2009/02/09(月) 06:47:56
ここまで熱く感情移入してもらえるってすごいよな〜
そういう自分も先週はPCの前に釘付けで、家事がはかどらなかったw
続き待ってます。
98Graduation:2009/02/09(月) 09:34:43
>>46
十一話の総レス数まだ分かりませんが(多分、長くなります……)、
ぼちぼち投下します。今回8レスいただきます。
99Graduation第十一話last dance(1):2009/02/09(月) 09:36:37

あれだけ苦労したにも拘らず、結局、野梨子は卒業文集に載せる、文化部長としての総論の原稿を落とした。
40度代の高熱は翌日の金曜日には治まったものの、その後も38度前後の熱が続き、
インフルエンザだけでなく、風邪も併発させた為で、衰弱もひどかった野梨子の入院
生活は、木曜日の晩から3日間に及んだ。

一方、魅録もまた、ひどい風邪から始まって、恐らく野梨子からもらったインフルエンザも発症し、
頬と上半身の打撲も相まって、野梨子よりも長い4日間という入院生活を送った。
吹雪明けの早朝、一度、目を覚ました時、傍らに清四郎がいるのに気が付き、彼から自分達の
現状を一しきり聞くと、魅録は、懇願するように言った。
「頼む、清四郎……。あの晩、野梨子が、俺と一緒に生徒会室にいたってことは、
あいつら以外、誰にも漏らさないでくれ……。特に、野梨子の両親には……。男と一緒に
二人だけでいたなんて知ったら、どんなに心配するか……。それと、勿論、学校関係にもだ。
へたな噂でも立てられたら……俺は…俺は…一生、野梨子に顔向けできない。
俺と野梨子は、本当に何もなかったんだから……。中学の時の……あんな思いはもう
二度と嫌なんだ……。おまえの力で……頼む……!」
「……分かりました……。」

清四郎は、初めからそのつもりで、既に手は打っていた。魅録を安心させる為に、ゆっくりと説明した。
「……野梨子のご両親には、野梨子が一人で生徒会室に閉じ込められた事として説明しました。
雪の影響で交通機関が未だ麻痺しているので、お二人が病院に着くのは午後になりそうです。
野梨子が何かおかしな事を口走っても、僕が絶対にフォローしますから、安心して下さい。
父から、病院関係者にも口止めをお願いしています。魅録には申し訳ありませんが、
魅録のご両親には、今回の事はまだ知らせていません。暫くはきついでしょうが、命に
別状があるわけではありませんし、二人が同じ病院に入院していると分かったら、
それこそ痛くもない腹を探られますからね。おばさんはまだ暫くは海外だそうですし、
おじさんも一週間は戻らない。家に戻っていない事が分かると面倒なので、その間、
うちに泊まっている事にしましょう。」

100Graduation第十一話last dance(2):2009/02/09(月) 09:39:40
「それと、僕と悠理はこれから学校へ行きます。僕等が、4人も一度に休んだら、絶対に
変に勘ぐられますからね。野梨子のクラスは元々インフルエンザが流行っていますし、
魅録は風邪って事にしておきます。いずれにせよ、今日は大雪の後で、停電は解消したとはいえ、
学校は混乱していると思いますし、交通事情の悪さから、欠席も多いでしょう。明日から土、日で幸いでした。」
「もう……そこまで手配してくれてたのか……。全く、おまえにはかなわねえな……。」
魅録は自嘲するように口はしを少し上げると、言った。
「……有難う……。」
そして、再び、貪るような眠りについた。

深夜に、野梨子と魅録の病室に分かれて入ってから初めて、学校の中休みに、
清四郎と悠理は学校の廊下で顔を合わせた。
二人は、窓から外に身を乗り出しながら、小声で話した。窓の外には、昨晩とは一転して青い空の下、
一面の美しい雪景色が広がっていたが、今の二人には全く目に入らなかった。
「野梨子、どうだった?」
心配そうに悠理が聞く。心労と寝不足の為、一晩でげっそりと頬がそげている。
「取りあえず、高熱は落ち着きました。早めに薬を飲んだのが良かったのでしょう。魅録のおかげです。」
「……。」
「ただ、まだ38度前後の熱があるので、回復までには、まだ少し時間がかかるでしょう。
でも、病院にいるので、余計な心配をする必要はありませんよ。魅録は……。」
「熱がやっぱり38度……、でも、これは風邪だろうって。インフルエンザにかかってる
かもしれないから、その場合、これから高熱になるだろうってさ……。」
「魅録は、元々体力があるから、病院でしかるべき処置を受けていれば、心配することはないと思いますよ。」
「うん……。たださ、あいつ、夜、結構うなされてて……その……。」
「……何か言っていたんですか……?」
「うん……。」
悠理は自分の顔を手で覆った。
「 『野梨子、野梨子、嘘だろう 』って……。」
「……。」
「野梨子は……何か、言ってたか……?」
悠理の声は震えていた。

101Graduation第十一話last dance(3):2009/02/09(月) 09:40:47

(清四郎、ごめんなさい……、悠理、ごめんなさい……。)
野梨子はうわ言で繰り返した。しかし、何と言っても、一番多く彼女の口に上ったのは、
もう一つの名前だった。
(魅録、ごめんなさい……)
いったい、何度、彼女はこれを繰り返しただろう。
しかし、清四郎はこう言っただけだった。
「いえ、別に、何も……。」
悠理は、清四郎が嘘をついているのが分かったが、それ以上何も聞かなかった。
チャイムが鳴った。
二人は無言のまま、各々の教室に戻った。

その日の夕方、野梨子の両親が病室に着いた時、野梨子は薬の影響もあり、まだ眠っていた。
学校から直接戻った清四郎は、二人に現状を詳しく説明した。38度代になったとはいえ、
熱はまだ高い。とはいえ、一山超えた事は二人を安堵させ、暫く愛娘の目覚めを待っていたが、
急がしい二人の事とて、今日の仕事を取りあえず片付けに一旦家に帰った。
息子同然に思っている清四郎と、その家族に多大な感謝をしながら。

入院して三日目の日曜日の午後、野梨子が目を覚ますと、可憐が花瓶の花を活け
換えて戻って来たところだった。可憐はパッと顔を輝かすと嬉しそうな声を上げた。
「ああ、丁度良かった、目が覚めたのね。お見舞いに来ても、いつも寝てるところだったから。気分はどう?」
可憐は、ベッドサイドのテーブルに白いぽってりとした花瓶を置いて、脇の椅子に座った。
野梨子は、顔を傾けて、花瓶の中の、優しく甘いピンク色のチューリップを眺めた。
手を伸ばして、たおやかに首をしなだらせている茎の先の、ビロードのような花びらに触れる。
すべすべして、ほんの少しひんやりとしたその手触りは、一瞬、ある、夢のような感触を
思い出させ、思わず野梨子は自分の唇に手をやった。

102Graduation第十一話last dance(4):2009/02/09(月) 09:41:53

「どうしたの?」
可憐が微笑みながら、不思議そうに首をかしげる。優しい可憐。ふわふわした柔らかい
茶の巻き毛に、乳白色の肌。いかにも健康そうな、薔薇色の頬。茶の長い睫に縁取られた
温かみのある茶褐色の瞳。そのちょっと下についているチャームポイントの泣ぼくろ。
リップを塗っている艶のあるオレンジピンクの唇。サーモンピンクのオフタートルのセーターに、
膝で裾が揺れる白いフレアースカート姿の可憐は、全体が金茶と白とピンクで出来た、
甘い砂糖菓子のようだった。前から可憐は美しかったが、それにしても最近の美しさは
どうしたことだろう。玉の輿願望に燃える、色気を前面に押し出した強気の派手な美しさとも、
受験勉強中の、ストイックな美しさとも違って、俗っぽさが無くなりながらも、匂い立つ
ような色気を醸し出している。
ああ、そうか……、野梨子は思う。

可憐もまた……恋をしているのだ……。
恐らくその相手は金髪碧眼のあの親友……。

可憐は今まで、恋に関して何度も涙を流して来た。
それをあさはかなと笑う事は、自分には、もう、出来ない。
恋とは、何て愚かで、盲目で、分別を人から奪ってしまうものなのだろう……
そして、何て甘くて、切なくて、やりきれなくて……素晴らしいものなのだろう……
そして、その終わりは何て……

可憐は何度もそんな経験を繰り返して来たのだ。
傷ついても傷ついても、尚、人を信じ、次の恋こそは本物だと常に前向きに生きて来た。
今、野梨子は、素直に心から可憐を尊敬していた。
可憐はいい表情をしている。今度の恋はいい恋なのだろう。
失敗しても失敗しても、諦めずに求め続ける者にこそ、神は真に必要な物を与えてくれる。
(可憐が、今度こそ、幸せになりますように……。この恋が、可憐にとって本物でありますように……。)

103Graduation第十一話last dance(5):2009/02/09(月) 09:43:03

何も言わず、自分を子どものように不躾に、じっと見つめる野梨子に、可憐は可笑しそうに微笑んだ。
「なあに?あたしの顔に何かついてる?」
「いいえ……、ただ、可憐があんまり綺麗だったから……つい、見惚れてしまったんですわ……。」
「あら、野梨子も言うようになったわね。でも、有難う。素直に受け取っておくわ。で、気分は?」
野梨子は、ベッドの背に身を起こした。
「もう、大分良いですわ。熱も、お昼に計った時には37度少しでしたのよ。」
「もう一息ね。話を聞いた時は本当にびっくりしたわ。」
野梨子は、何度か瞬きをした後、チューリップに目をやりながら聞いた。

「……魅録は……どんな具合ですの?昨日は高熱が出始めたと聞きましたけれど……。
清四郎も、あまりはっきりした事は教えてくれなくて……。」
「……そうね、昨日はけっこう熱が高かったらしいけど、でも原因が分かってるから、
薬を直ぐ飲んだし、あいつはあんたと違って、体力あるから大丈夫よ。何たって、
菊正宗病院にいるんだし。」
「わたくしの……せいですわ……。」
あの寒さの中、自分に、詰襟を着せ、毛布まで巻いたから、魅録は風邪を引き、
その上、インフルエンザまでうつったのだ。いや、自分がいなければ、魅録は自力で
あの吹雪を何とか抜け出していただろう。自分がいたために、魅録を道連れにしてしまった……。

「それは、言いっこなしよ。そんな事で野梨子が自分で自分をせめても、魅録は嬉しくも
何ともないと思うわ。あいつは、あんたを守る為に、自分に出来ることを精一杯やったのよ。
あんたのせいだなんて、あいつも、誰も、思わないわ。」
「……。」
「それと、清四郎から聞いてると思うけど、あたし達と、清四郎の関係者、あと豊作さん
以外は皆、野梨子は一人で生徒会室にいたって思ってるから。今のところ、上手く行ってるわよ。
魅録も、それが一番気になってたみたいだから。」
「魅録が?」
野梨子が、目をチューリップから可憐に移した。

104Graduation第十一話last dance(6):2009/02/09(月) 09:44:07

「……ほら、魅録は、中一の時、自分の迂闊さで、女の子に変な噂を立てちゃった事、
すごく悔やんでいたでしょう?もう、女性にはあんな思いはさせたくないって。だから、
今回の事、すごく気にしてたらしいの。自分と一緒にいたことで、野梨子に変な噂を立てられたら大変だって。」
「……。」

清四郎から、両親を心配させない為に、また、風評の為に、一人でいたことにするよう
にと言い含められてはいたが、魅録がそんなに自分を気遣ってくれていたということは、今、初めて聞いた。
「可憐……。」
「んっ?」
「あの……、分かっているとは思いますけれど……あの晩、わたくしと魅録は、何も
ありませんでしたのよ……。」
可憐はくったくなく笑った。
「分かってるわよ、そんなこと。あの、見た目とは反対に、バカみたいに女に疎い魅録だもん。
何か起きる方が不思議だわ。」
実際は、野梨子は、温まる為に、魅録の腕の中に入ってから以降のことは何も覚えていなかった。
ただ、時折、前触れもなく訪れる、唇の甘やかな感覚以外には……。

暫くの沈黙の後、可憐が楽しそうに言った。
「ねっ、野梨子、話は全く変わるんだけど、ダンス・パーティーに着るドレスの最終チェックを、
今度の土曜日にシン・トーゴーの銀座本店でする予定なんだけど、それには間に合いそうよね。
この間、ちらっと見せてもらったけど、どれも、すっごく素敵だったわよ。」
「ああ……。」
野梨子の顔が少し明るくなった。

105Graduation第十一話last dance(7):2009/02/09(月) 09:45:46

聖プレジデント学園高等部は、卒業式の一週間前に、大講堂にて盛大な卒業ダンス・パーティーが催される。
これは、設立時からかかせない、重要な行事であった。もともと名家の令息、令嬢たちの
為に設立されたので、その卒業は、社交界へのデビューをも意味し、その前祝と練習を兼ねて、
三年生全員が、ブラック・タイとドレスという正装にて、華やかな一夜を送るのだ。
前半は伝統に則して、学園主催の、生バンドによる、ワルツ中心のクラシックな社交
ダンス・パーティーだが、近年はそれに後半が付け加えられ、在学生達のバンド演奏により、
ロックあり、ポップスあり、オールディーズありの、無礼講のダンス・パーティーへと変わるのであった。

これは、ある意味、卒業式よりも興奮するものだった。なぜなら、社交ダンスの練習や、
衣装選びもさることながら、パートナー探しという、今までの学園生活最大の課題があったからだ。
学園内に決まった恋人がいる者は問題がないが、共学とはいえ、そこは世間の常識から、
かなりずれたお坊ちゃま、お嬢様の学園だ。有閑倶楽部のメンバーに想いを寄せて
満足している者が多いように、現実の恋人など、考えても見たことのない生徒がほとんどだった。
しかし、このダンス・パーティーでは、生徒が自力で相手を見つけなければならない。
それもまた、学園の趣旨でもあったのだ。
しかも、女性にとって恐ろしい事には、パートナーの決定は、男性から申し込むという
形でしか出来ないのである。高校入学時には、男女の数は同じだが、途中、転校等の為、
若干人数に変更が出ることがある。編入という形で調整はしているが、卒業時に必ずしも
同数になっているとは限らない。その場合、余った生徒たちは、独身教師か、後輩と
踊る可能性も出てくる。これが、男性だったら笑い話で済むが、女性の場合はしゃれにはならない。
ダンス・パーティーが近づいてくると、皆、戦々恐々として、極秘裏に隠密活動が始まるのだ。
バレンタインなどは、その最たるもので、この年ばかりは、どんな男子学生にも一つや
二つ、チョコが渡ったものだ。ただ、今年はそれが土曜日に当たっていたので、かけひきはまた、
一層込み入ったものになっていた。

106Graduation第十一話last dance(8):2009/02/09(月) 09:46:43

有閑倶楽部のメンバーがどんなに人気があろうとも、彼等とパートナーになろうなどと
考える能天気な者はさすがにいなかった。彼等にせっせとラブレターを送り続け、影から
覗き見するのは楽しいには違いないが、しかし、現実は、現実だ。卒業ダンス・パーティーに
パートナーがいないなどというのは、末代までの恥なのだ。そしてまた、このダンス・
パーティーで、パートナーとなったことにより、今までただのクラスメイトであった男女が、
思いがけず親密になって交際を始め、そのまま大学卒業とともにゴールインするという
パターンは決して少なくなかった。双方、家柄は保証されている為、親としてもそれは望ましい事であったのだ。

「ドレス……楽しみですわね。ええ、今度の土曜日でしたら、ほぼ大丈夫ですわ。
退院は明日出来そうですの。その後も何日かは家で療養しなければなりませんけれど。土曜日なら……。」
野梨子と悠理と可憐は、ソフィーの計らいで、ダンス・パーティー用に、シン・トーゴーの
オートクチュールのドレスを、破格な値段で作って貰っていたのだ。
「本当なら、到底手の届かない高価なドレスを……。申し訳ないですわ。」
「いいのよ、ソフィーったら、本当にあんたたちが気に入っちゃってね。もう、おお張り切りよ。
ソフィーお勧めのデザインそのものは、シンプルだしね。これ位シンプルな方が
高校生には映えるっていうのよ。」
「ええ。」
「生地見本だけ持って来たわ。パートナーに渡すようにって。花束用にね。」

可憐はバッグから、かすかにピンクがかった、真珠色のサテン地を野梨子に渡した。

それはまた、いつから始まったのか、今やダンス・パーティーの伝統となっている習慣だった。
当日は男性が女性を迎えに行くのだが、その際、女性のドレスに合わせた花束を持って行き、
その花束から抜き取った花を、男性が女性の髪に差し、女性は男性の襟のボタンホールに差すのだ。
この小さな儀式によって、二人はその夜の正式なパートナーとなる。
この、聖プレジデントにしかあり得ないような、ロマンチック過ぎる習慣は、文句を言う
ものがありながらも、しかし、いっこうに無くなる気配を見せなかった。

続く
107名無し草:2009/02/09(月) 10:34:40
>Graduation
いいなぁ、ダンスパーティー
有閑らしい豪華さが楽しみw
続きをwktkで待ってます!
108名無し草:2009/02/09(月) 11:52:35
>>90.93
同意

>>89
作品に口出し杉でぽかーん。
個人的に作品に気に入らない箇所があってもスルーできんのだろうか、こんなレスする人って。
昔の作品の方がよっぽどハードだったけどね、不倫ネタからいいこちゃんでも傷つくメンバーまでいた。
気に入らない苦手な箇所はスルーが鉄則だと思うけど。
読者の意見を89ほどいうと作家は書きにくい事この上ないだろうな。
109名無し草:2009/02/09(月) 12:33:18
>Graduation
3人のドレスの描写が今からwktk
そして早く苦悩する魅録が見たい。
>>108
まあまあ…
確かに>>89は書き過ぎだと思うが、ちゃんと嗜めてるレスもついてるし
この作品に、それほど熱くなってしまう魅力があるっていうことで。
暴走愛の時のように、作品論で盛り上がるのもまた一興。
そして作者さんには、オマイラ思う壺だよとほくそえんでてほしいw
>>89
ここまで丁寧な物語を書ける人に、安易な展開にするななんて
言うまでもないと思うよー。
マターリ続きを待とうよ。
110名無し草:2009/02/09(月) 13:24:55
>Graduation
原作の社交ダンス部の話を読んで、きっと卒業ダンパもあるんだろうなと妄想してた自分にとって
めちゃ嬉しい展開です。
自分もドレスが楽しみ。あと、恋する可憐が気配りができて大人で素敵です。
続き楽しみにしています。
111名無し草:2009/02/09(月) 14:26:27
>Graduation
野梨子が恋してなかったら、可憐の変化も気づかなかったのかなと思いました。
野梨子も成長してるんだな。
作家さんの思うがままの、Graduationをぜひ書いてくださいね。
自分はそれを読めるのが一番だと思ってますんで。
がんばってください。
112名無し草:2009/02/09(月) 20:21:16
野梨子に悠理が豊作だから
可憐さんメインのお話も読みたいな
113名無し草:2009/02/09(月) 23:13:59
>112さんに同じく。
可憐メインのお話、以前のお話の続き
首を長〜くしてお待ちしております。
114名無し草:2009/02/10(火) 01:53:38
>112,113さんに同意ですが、

>野梨子に悠理が豊作だから
可憐さんメインのお話も読みたいな

↑を一瞬、悠理の兄ちゃんの豊作さんだと思い、豊作さんキター(^o^)/
可憐×豊作だぁって誤解してヌカ喜んじゃった・・・
好きなんですよ。このカプ・・・
115名無し草:2009/02/10(火) 07:14:55
>>114
うん。
私もそれが可憐にとって一番幸せなカップリングだと思ってるw
悠理のカアチャンにも可愛がってもらえそうだしな。立ち回りうまそうだ。
なにげに女子3人の中で一番「嫁」が向いてそうwww
116名無し草:2009/02/10(火) 09:08:12
>>114
豊作さん、大好きだ〜〜。有閑男キャラで一番、好きかも。
顔立ちは整っているし、あの環境でまともに育っている事も凄いよな〜
117Graduation:2009/02/10(火) 09:33:37
>>99 今回7レスいただきます。
118Graduation第十一話last dance(9):2009/02/10(火) 09:38:00
「ところで、可憐はパートナーは決まりましたの?」
「ああ、うん……。」
可憐はちょっと赤くなって、目を落とした。
「やはり、美童……ですわよね?」
「……フン……、ラブレターはくれても、皆、いざとなると度胸がないのね。結局、
申し込んで来たのって、あいつだけなんだもの。仕方ないじゃない?」
野梨子は、やけに早口になった親友を嬉しそうに見つめた。
「……二人とも華やかで……とてもお似合いだと思いますわ。」
「ま、まあね。あたしのダンスについて来られるのなんて、やっぱり美童くらいしか、
いないしね……。ま、こんなもんよ。で、野梨子はどうなの?」

今度は、野梨子が目を落とす番だった。
「……今朝……、清四郎に申し込まれましたわ……。」
「そう……。それで、OKしたの?」
「……ええ……お受けしましたわ……。」
「良かった!じゃ、あとは悠理だけね!」
可憐が嬉しそうに手を叩いた。
「悠理はまだ……決まっていませんの?」
「あの子に申し込む勇気のある男がいるっていうの?まあ、それを言ったら、あたし達
皆、そうかもしれないけど……。でも、あんたが清四郎で決まったなら、自動的に、
悠理も決まるでしょ?あたしたち、男三人、女三人の仲間なんだから。」
「……そうですわね。」

「僕のパートナーになってくれますか?」
清清しい、朝の陽光のきらめきの中、幼馴染はそう言った。
窓の外の鳥の動きを目で追っていた野梨子は、ゆっくりと振り向いた。
彼は真面目な顔をしていた。いつもの落ち着いた深い漆黒の瞳は、かすかに揺らめき、
頬は緊張に震え、眉根はわずかに下がり、口元は不自然な程引き締められていた。
(清四郎ったら、そんなに緊張しなくてもよろしいのに……。)
野梨子は微笑んだ。

119Graduation第十一話last dance(10):2009/02/10(火) 09:39:35

幼稚舎の時から、16年間共に聖プレジデントに足を運んで来た。
春も夏も秋も冬も。
晴れの日も雨の日も風の日も雪の日も。
聖プレジデント学園最後のダンス・パーティーのパートナーは、清四郎しかあり得ないではないか。
他に誰がいるというのだ?

「わたくしでよろしければ、お受け致しますわ。」
野梨子の声が、迷いのない、きっぱりとしたものだったので、清四郎は安堵の表情を浮かべた。
野梨子は少し不思議だった。
何故、最近、清四郎はこの様な表情を浮かべるのだろう?
彼は、いつだって、憎らしい程、自信満々で、不遜な態度に満ち満ちていたのに。
野梨子がじっと自分を見つめているので、清四郎は一瞬とまどいの表情を見せた。
(ほら、またあんな顔をする……。何だか、清四郎らしくないですわ。)
野梨子は小首をかしげた。

そして、その後、清四郎が学校の配布物や伝達事項等を要領よく説明し終えた時、
野梨子は思い切って聞いてみた。
「あの……、清四郎、お聞きしたいのですけれど……、わたくし、意識のない間、何か口走りました?」
清四郎は動きを止めて、野梨子を真っ直ぐに見た。
「それは、どういう意味ですか?」
「つまり……わたくし、あの吹雪の夜の事は、途中から……何も覚えていないのですけれど、
その間の事などを、何か口走りましたかと思いまして……。」
「いえ、そういう事は一切ありませんでしたよ。」
清四郎は、顔を背けて鞄に教科書をしまいながら、わずかに強い口調で、話を打ち切った。
「そうですか……。」
清四郎が本当の事を言っているかどうかは疑問だが、野梨子はそれを信じる事にした。
それはむしろ有難かった。もしかしたら、自分は何か魅録の前で口走ったかもしれない。
しかし、覚えていないのだから、それは無い事も同然だ。無い事にするのだ。
そう、忘れるのだ……かわした会話も、彼の胸の鼓動も、そして唇の感覚も……。
自分は、一人で生徒会室にいたのだから。
120Graduation第十一話last dance(11):2009/02/10(火) 09:44:36

野梨子は月曜日の昼過ぎに退院した。
「どうもお世話になりました。」
両親と、病院関係の皆にお礼の挨拶を済ませた後、庭から病棟を見上げた。
魅録の病室は自分とはずっと離れた所にあり、入院中、一度も二人は顔を合わさなかった。
今朝、学校へ行く前に病室に寄った清四郎から、魅録が土、日とかなりの高熱を出していたが、
今朝は落ち着いたとの報告を聞いていた。
「野梨子さん、早くいらっしゃい。タクシーを待たせてあるのよ。」
萌黄色の着物姿の母が、芽吹き始めた柳の陰から野梨子を呼んだ。
母に向かって一歩を踏み出す。しかし、そこから先が進まない。
野梨子は、魅録の病室が、5階のあの角部屋であると分かっていた。
「野梨子さん、どうしたの?」
「野梨子?」
野梨子は、突如込み上げてくる想いに突き動かされ、後ろを向いて走り出した。
「お父様、お母様、わたくし、忘れ物を致しましたわ。ちょっと待っていて下さいな!」

はぁ、はぁ……。
約一分後、野梨子は、「松竹梅」のネームプレートのかかった病室の前で、肩で息を
していた。
ノックをしようとして、思い直す。そのまま、静かにドアを開けた。
(……。)
いつの間にか春めいた、午後の柔らかい日差しを浴びて、魅録はベッドで眠っていた。
野梨子は音を立てないようにドアを閉め、ゆっくりと、震える足でベッドに近づいた。
病院の寝巻き姿で、腕に点滴のチューブをつけたままの、寝乱れた様子の魅録は、
普段の不敵で快活な様子は影を潜め、別人とも思える弱弱しいほどの印象を見せた。
左頬の大判の白い湿布は、野梨子の胸を何故かざわつかせた。

(この頬は……どうしたのですかしら……?わたくしが知らない間に、何が起こったというの……?)
野梨子は、眉を顰めながら、懸命に記憶の糸を手繰り寄せた。あの晩の事は途中から
全く覚えていなかったが……。

121Graduation第十一話last dance(12):2009/02/10(火) 09:45:45

野梨子は思い出した。
(清四郎!清四郎!遅いですわよっ!)
(貴様っ!野梨子に何をしたっ!)

何という事だろう。自分は魅録の目の前で、彼の腕を振り解き、他の男の胸に飛び込んで行ったのだ。
しかも大声で名前を呼びながら。そして、誤解をした幼馴染は、思い切り魅録を殴りつけた……。
野梨子の目にたちまち涙が浮かび上がった。
(ごめんなさい……魅録……痛かったでしょう……?)
野梨子は両手で口を押さえ、何とか嗚咽を漏らすまいと努めた。

布団の上に放り出されたもう一方の手には、バイク雑誌が広げられている。読んでいる
うちに眠ってしまったのだろう。
(少し、痩せましたわね……。)
野梨子はハンカチで目尻を押さえると、やおら雑誌を取り上げ、サイドテーブルに置き、
魅録の腕を布団の中に戻して、布団を掛け直してやった。
「う……ん……。」
魅録が、自分の顔近くに寝返りを打ったので、野梨子は慌てて息を潜めた。
起きそうもないと分かると、もう暫くそのまま魅録の寝顔を見つめた後、そっと髪を
指で整えてやり、静かに席を立った。

122Graduation第十一話last dance(13):2009/02/10(火) 09:47:08

入院して4日目の月曜日の夕方、身を起こした魅録が窓の外を眺めていると、コツコツとドアを叩く音がした。
「悠理か?」
「僕だよ。良かった、起きてて。」
美童が、笑いながら入って来た。入り口に備え付けてある蛇口で手を荒い、うがいをすると、
ベッド脇の椅子に腰掛けた。
(痩せたな……。)
美童は目を細めて目の前の親友を見た。水色の寝巻きを着て、寝乱れて額に垂れている前髪、
そして、大判の湿布越しにも、腫れが相当だったことが分かる左頬と、反対に少しこけた右の頬。
病み上がりだから仕方ないとはいえ、ベッドに横たわる魅録には、今までとは異なる、
どこか物憂い雰囲気が纏わりついていた。
バイク雑誌の最新号を鞄から取り出す。

「これは、悠理から。今日、剣菱の何かがあって、来られないんだって。魅録が退屈してるだろうからってさ。」
「ふうん……。」
魅録は嬉しそうな顔をして雑誌を手に取った。
「あと、これは僕から。」
美童は、ニヤリと笑うと、違う雑誌を取り出した。なぜか、表紙のカバーが裏表にされている。
「何だ?」
魅録は、ページを捲ると、途端に顔を真っ赤にして、雑誌を閉じた。
「なっ、何だよ、これっ!こんなの、俺、頼んでねーぞ!」
「え、要らないの?スウェーデンからの出張者が持って来てくれたレアものだよ。
元気が出ると思ったのにな。だったら、持って帰るけど……。」
美童が雑誌を取ろうとすると、魅録は慌ててそれを、背中に回した。
「い、いや、コホン、せっかくの美童の気持ちだから、貰っとくけど……。
(す、すげーな、これ……。スウェーデンって、爽やかそうな国なのに……。やっぱ、
冬が長い国は違うな……。ど、どこに置いておこう……。看護婦さんや、悠理に見つかったら……。)」
「ここに隠しておけばいいよ。」
まるで、魅録の胸の内を見透かしたように、美童は魅録の背中から雑誌をひょいと取ると、
澄ましてそれを、窓側の壁に接しているベッドのスプリングの間に押し込んだ。

123Graduation第十一話last dance(14):2009/02/10(火) 09:48:12

「でも、良かった。大きな声が出るってことは、大分回復したんだね。」
美童は傍らの椅子に座ると、にっこり笑った。
「そうらしいな。丈夫に産んでくれた両親に感謝するよ。もう、熱もほとんどないんだ。
昨日、おととい、ガッと出て、菌を一気にやっつけてくれたらしいや……。野梨子も、
今日、午後一で退院出来たらしいし、良かったよ。」
魅録は本当に嬉しそうに笑顔を見せた。

「ところで、学校の方はどうだ?」
「うん、あの吹雪の後、嘘みたいにいい天気が続いて、あんなに積ってた校庭の雪も
もうすっかり溶けちゃったよ。今は、三年生全員が、ダンス・パーティーの事で盛り上がってる。」
「そうか……、もうあと、三週間だもんな……。」
魅録は顎に手を当てて考えていた。
「美童は、パートナーは決まったのか?」
美童は、良く聞いてくれたとばかりに、青い目をキラリと輝かせた。
「うん。可憐だよ。ちなみに、清四郎は野梨子に決まったよ。」
「そうか……。」
魅録の唇が一瞬振るえ、しかし直ぐにそれは笑みに変った。

「魅録は、どうするのさ。悠理、可哀想だよ、まだ決まってなくって。」
「……そうだな……、すっかりダンス・パーティーなんて忘れてたけど、あいつに申し
込める奴なんて、学校にゃ、俺達以外いないもんな。美童も清四郎も決まったなら、
俺しか、いねえな。もっとも、あいつが嫌がらなけりゃの話だけど。」
「……それは、絶対ないと思うよ……。」
美童は、苦笑した。
124Graduation第十一話last dance(15):2009/02/10(火) 09:49:06

レースのカーテンが揺れ、窓から生暖かい風が入って来た。吹雪の後、自然界は一気に
春を目指し始めたようだった。今年の桜は早いかもしれない。何かは分からないが、
甘い花の香りが風に乗って入って来て、二人の鼻腔を擽った。
「なあ、美童……。」
魅録は、美童から顔を背け、窓の外に顔を向けたままで、何かに怯えている様な声を出した。
「何?」
「この間……、ソフィーさん家で、夜、俺が立ち聞きしちまった、おまえと清四郎の話なんだけど……。」
「うん?」
「あの時、俺、途中からしか聞いてなかったから、野梨子が想ってる相手って、誰だか
聞いてなかったんだけどさ……、それって、もしかして……、俺の良く知ってる男か?」
美童の顔がひきしまった。

「……うん……そうだよ。」
「……それで……、聖プレジデントにいて、おまえや清四郎も良く知ってて、悠理や可憐も良く知ってる奴か……?」
「うん……。」
「……そいつは、バイクや、機械いじりが好きで…ロックが好きで…煙草を…吸ってるか……?」
「うん……。」
「……そいつは、何学部に進むんだ……?」
「……工学部だよ……。」
「……!」

125Graduation第十一話last dance(16):2009/02/10(火) 09:49:56

魅録の声は振るえを帯びた。
「野梨子は……、いつから、そいつが好きだったんだ……?」
「……僕がはっきり気が付いたのは、中間テスト明けからだけど……、でも、今思うと、
文化祭の練習頃から始まってたんじゃないかな……。いずれにしても、二学期になってから。秋からだよね。」
(中間テスト明け……、あのデートの後だ……、野梨子の様子がおかしくなったのも
あの頃……ああ、そうか、それで、清四郎は球技大会の時、あんなに……!可憐が
あんなに俺にからんだのも……!)
「その事は……悠理も可憐も……気が付いてたのか?」
「……多分……。」
(何てこった!じゃあ、気が付いてなかったのは、俺だけってことか!?)

魅録が黙ってしまったので、美童は自分から話し出した。
「野梨子はずっと自分の気持ちを隠してたんだよ。多分、仲間だったから……じゃないかな?
仲間としての、いい関係を壊したくなかったんだと思うよ。良くやってたよ。ただ、
あの時、色んな偶然が続いて、次第に気持ちが隠し切れなくなってきたっていうか……。」
「……。」

魅録は、相変わらず黙って、尚も長いこと窓の外を見ていたが、突然、体を揺らして笑い出した。
「ハッ!全く、大笑いだぜ!そいつは……、そいつは、世界一の大馬鹿野郎だなっ、
野梨子も、趣味がわりぃや!」
そして、横を向いたままベッドに横になると、頭から布団をかぶり、言った。

「悪い……、美童、ちょっと疲れた。今日はもう帰ってくれないか?一人になりたいんだ……。」

続く
126名無し草:2009/02/10(火) 12:19:17
>Graduation
やっとはっきり野梨子の気持ちを知った魅録がこれからどうでるのか楽しみです。
続きドキドキして待ってます。
127三千世界の鴉を殺し、:2009/02/10(火) 19:47:03
まさにヤマなしオチなしイミなしの小ネタ投下させてください。
できあがってる魅録×可憐のつもりですが、薄味でそんなに甘くはないです。
4レスお借りしますので、苦手な方はスルーお願いします。
128三千世界の鴉を殺し、 1/4:2009/02/10(火) 19:47:56

爪を塗り忘れた、と気づいたのは日づけが変わるころのことだった。

自分が男と一対一で会うときにこんな失態をやらかすなんて、我ながら信じられない。
単色のマニキュアすら塗っていない裸の爪を見やって彼女は眉をひそめた。

――しかし今さら裸の爪やらすっぴんやらを見られたからといって何が変わるわけでもない。
つきあいはじめてそれほど時間は経っていないのにもかかわらず、そういった関係はすでに超越していた。
今さら取り繕っても、猫をかぶっても、もうどうにもならないくらいの時間を悪友として過ごしてしまった。

嘆息した彼女に気づき、隣に寝ている男が目線をこちらに向けた。

「何だよ」
「……何も」

ふうん、と大して興味もなさそうに相槌を打つ男は、すっかり眠る体勢に入っている。
自分勝手な八つ当たりとわかっていても毒づきたくなる。
彼女だって寝不足だった。
129三千世界の鴉を殺し、 2/4:2009/02/10(火) 19:49:19
――彼と彼女が恋愛関係にあるということは、他の四人の友人たちにさえも口外していなかった。
ふたりの間での暗黙の了解だった。

人に言えないような事情があったというわけではない。
単純に、硬派で仲間思いのこの男にとってはいちいち言うのも恥ずかしいということだろう。
他の四人に気を遣わせるのは悪い、と思っているのかも知れない。
どちらにしろ、そんなところだ。

しかし彼女の方の理由は異なる。
玉の輿の夢を常々口にしてきた自分だ。
それこそ、一時は某国の王子とも恋に落ちたこともあるくらいに(顛末は思い出したくはないが)。

確かに、見た目は悪くない。
性格だって許される範囲だし、女にだらしなくもない。
父親は警察のトップ、母親の実家は元華族。
権力と財力を併せ持つその家系も申し分ない。
舅や姑も悪い人じゃない。


だが、しかし。
だけど!
あれだけ映画のような恋愛を夢見ていた自分が!
玉の輿の夢を恥ずかしげもなく語っていた自分が!
それこそ某国の王子をはじめ劇的な恋を経験した自分が!
こんな、悪友だか腐れ縁といった類のごくごく身近な男を選ぶなんて!
そんなの、絶対にあいつらに言えるわけがない!
130三千世界の鴉を殺し、 3/4:2009/02/10(火) 19:50:35
ベッドサイドのデジタル時計を覗きこむと、日付はとうに変わっていた。
明日、いや今日も朝から学校だった。

「サボっちゃおうかしら」

彼女のつぶやきを聞いてとり、彼は片目を開けた。

「……別に止めはしないが、一限から数学の小テストだって言ってなかったか?」

ぐっと息を飲みこまざるを得なかった。
ここ二、三日、そのために友人のひとりにヤマをかけてもらっていたのだった。
あの努力をすべて捨てるのは悔しいし、
何より今学期の成績に直結するテストを無視してしまえるほど、彼女の学業態度は模範的ではなかった。
理数系だけで言えば学年トップクラスのこの男にとっては、寝不足だろうが何だろうが、
いっそのことサボってしまっても問題ではない程度のものだろうけれど。

――ふたりの関係は、誰にも口外していなかった。

となると、それ相応に振る舞う必要があった。
例えば、週末。
倶楽部の連中と出かけるという話になればそちらが優先だし、
特にやたらと顔の広いこの男は、そうでなくても休日はあちこちを飛び回っている。
彼女の方も彼女なりに付き合いというものがある。
……そんなわけで、ふたりきりで堂々と過ごす、というわけにはなかなかいかないのだ。

しわ寄せは平日の夜にやってくる。
さらにそのしわ寄せは、翌日の朝にやってくる。
彼女の方はときどきサボってしまうこともあるが、
それにしたって明日(日付が変わっているからもう『今日』か)のように、
気分で休んでしまえないようなときだってある。
それゆえ、最近の彼女は慢性的に軽い寝不足だった。
肌に悪いことこのうえない。
131三千世界の鴉を殺し、 4/4:2009/02/10(火) 19:51:15

なぜかと問われてもうまく言葉では説明できない悔しさを感じ、
眠りかかっている男の足を爪先で軽く蹴飛ばした。
「ったく、何だよ」と小さくこぼしはしたものの、彼はそれ以上文句を言わなかった。
結局、自分の方が子供なのだ。
悔しい。

あーあ、と寝返りを打ちながら彼女は思う。
それは、彼女が今まで願ってきた、玉の輿やら衰えない美貌やら映画みたいな恋やら、
そういう望みよりも遥かにささやかで、そして遥かに切実なものだった。



――せめて一度でいいから、隣で寝ているこの男と、ゆっくり朝寝がしてみたい。
132名無し草:2009/02/10(火) 21:15:26
>三千世界の〜
GJでした。
可憐と魅録らしい眠りに落ちる前のひとときでおもしろかったです。
133名無し草:2009/02/10(火) 21:45:17
>三千世界の〜

魅×可はとても好きなので、嬉しかったです。
魅録視点でのお話も読んでみたいです。
134名無し草:2009/02/10(火) 22:12:59
>三千世界の〜
タイトル、都都逸ですねw
魅録と可憐のカップルには粋が似合うと思っているので、まずタイトルで
にやけてしまいました。
可憐の葛藤が可愛くて、楽しめました。
135名無し草:2009/02/11(水) 00:24:42
>三千世界の〜
たった4レスなのが残念なくらいの素敵なお話でした。
また新作が出来たら、是非読ませて下さいませ。
有難うございました。
136Graduation:2009/02/11(水) 07:45:41
>>118 十一話は74レス前後になりそうです。今回7レスいただきます。
137Graduation第十一話last dance(17):2009/02/11(水) 07:47:22

その日の晩9時頃、魅録の病室に悠理がひょっこり現れた。黒い薄手のコートの下から、
この場にはとても不似合いの煌びやかな装飾のついたスカートが、見え隠れしている。
「へへ……。」
「何だ、おまえ、今日、用があって来られないんじゃなかったのか?剣菱の。」
「ああ、ちょっとパーティーを抜け出してきた。直ぐ戻るよ。」
「無理すんなよ。どうせ、明日、退院だしよ。」
魅録が呆れたように言った。
「……だって、おまえ、親も入院してること知らなくって、何か、可哀想じゃんかよ。」
「……。」

自分の入院中、悠理は毎日来てくれた。身の回りの物は清四郎が手配してくれたが、
日常の細々とした事は、悠理が身内代わりになって色々と世話を焼いてくれたのだ。
その事に、魅録は口では言い表せないほど感謝していた。
それに、意識を回復して以来、常に悶々とした状況にいる魅録にとって、
悠理の明るさは確かに癒しになっていた。
(そういや、中一の落ち込んでいる時も、喧嘩場で悠理と会うと、何か元気が出たっけ……。
思ったより早く立ち直れたのも、悠理のお蔭だったのかもしれないな……。)

138Graduation第十一話last dance(18):2009/02/11(水) 07:48:22

「そうか……有難うな。おまえには本当に感謝してるよ。」
魅録が真面目な顔をして、右手を伸ばした。悠理は、一瞬躊躇したが、唇をそっと噛みながら、
その手を握った。そのはにかんだような、頬を染めた横顔を、ほっとしたように眺めながら、魅録はふと言った。

「なあ、悠理、遅くなったけど、おまえのドレスの色、教えてくれよ。」
「えっ!?」
悠理は目を見開いて、魅録に振り向いた。
「ほら、ダンス・パーティーの。花、選ばなきゃなんねえだろ?」
「! だ、だって……、魅録、あたい、まだ……。」
「ああ、悪い。勝手に決めちまってた。」
あらたまって言おうとすると、魅録は何だかくすぐったいような気持ちになった。
照れたように、頭をかきながら言う。
「そ、そのう……、清四郎も美童も決まっちまったし……。残ってんのは俺だけなんだけど、
ダンス・パーティーのパートナー、俺でもいいか?」
「……。」

悠理は言葉を発する事が出来なかった。美童と可憐がまず決まり、その後、清四郎が
野梨子に申し込み、野梨子がそれを承諾した事を知った。確かに、仲間という単位で
考えれば、残っているのは自分と魅録だけだ。
でも、それでも……それでも、悠理は不安だった。
しかし、悠理は、バッグを開けると、ドレスが決まって以来、毎日密かにバッグに忍ばせ
ていた小さな薄紙を魅録に渡した。魅録が中を開くと、光沢と張りのある、赤とオレンジと
ピンクの混ざったような、鮮やかな朱色の生地が現れた。
「元気そうな色だな。おまえにピッタリだ。」
悠理は子どもの様に嬉しそうな顔をした。つられて、魅録も思わず笑った。

139Graduation第十一話last dance(19):2009/02/11(水) 07:49:14

(魅録に……、魅録に何かあったら……、いくら清四郎でも、あたいは絶対、許さないっ!)
(魅録っ、死んじゃ嫌だっ!魅録が死んだら、あたいも死ぬっ!)

(こいつが、あんな事を言うなんて……。)
野梨子のこととは別に、ほとんど意識のなかった中で、これらのセリフだけがはっきりと耳に残っていた。
それと、魅録はふと思い出し、ずっと抱いていた疑問を悠理に投げかけた。
「悠理、不思議だったんだけど、おまえら、どうして俺達が生徒会室にいるって分かったんだ?」
悠理はきょとんとした顔で魅録を見つめた。
「え……?だって、おまえ、あたいを呼んだろ?『悠理、来てくれ』って……。」
「……。」
確かに、魅録は悠理を呼んだ。心の中で。懐中電灯の灯りが心細くなって、蝋燭も残り
少なくなり、身体に急激に寒さを感じ出した時、藁をもすがる思いで悠理に助けを求めた。
霊感の強い悠理なら、通じるかもしれないと思ったのだ。しかし、それが現実になったかと思うと、
魅録は強い感慨にふけった。
世間話を楽しげに続ける悠理を眺めながら、魅録は思った。
(悠理……、いつか、おまえに何かあったら、必ず俺が助けに行ってやるからな……。)

剣菱邸。今日の予定を全て終え、寝室で、好みのネグリジェに着替え、ロココ調の
鏡台で髪を梳いていた百合子は、コツコツとドアを叩く音に振り向いた。
「はい。どなた?」
「あたい……。」
これもやはりフリフリネグリジェに身を包んだ愛娘が、もじもじしながらそっと部屋に入って来た。
百合子はいぶかしげな顔をして、コトリとブラシを鏡台に置いた。
「どうしたの、こんな時間に。体育学部へは、無事行けるようになったんでしょう?」
結局、剣菱夫妻は悠理の学部変更を認め、高等部と大学側の双方にかけあって、
特例の変更を認めさせたのであった。国際文化学部から体育学部への変更は不可能
であったが、その逆は、体育学部が聖プレジデント大にて余り人気が無いため、以外と
あっさりと認められた。剣菱の寄付金で体育館の一つでも建てようとしているのかもしれなかったが。

140Graduation第十一話last dance(20):2009/02/11(水) 07:50:08

「うん……、今日、正式に校長から連絡があったよ。母ちゃんと父ちゃんには、あたいの
我が儘きいてもらって本当に感謝してる。でも、あの、今、あたいが話したいのは、その事じゃなくて……。」
「?」
悠理は妙に歯切れが悪かった。顔が紅潮し、額には汗までかいている。
「あっ、あの……、あたい、母ちゃんに、けっ、化粧の仕方、教えてもらいたくって……。」
「!」
「かっ、母ちゃんも知ってる通り、今度、卒業のダンス・パーティーがあるだろ?そっ、それで、
今作ってるドレス着るんなら、絶対化粧くらいしなきゃ駄目だって、可憐が言うんだよ。」
「まあ、そうでしょうね。オートクチュールにノーメイクではね。」
「で、パーティーの当日は、シン・トーゴーのブライダルサロンを使わせてくれて、ヘアと
メイクはプロがやってくれるらしいんだけど、可憐曰く、プロにまかせっきりにすると、
自分らしさが出なくなるから、事前にこうなりたいっていうイメージを描いとくべきなんだって。
でも、あたい、化粧なんて全く興味ないから……、剣菱のパーティーの時もいつも人に
まかせっきりだし……、だから、ちょっと母ちゃんに色々教えて貰いたいなって……。
自分に似合う色とかって、母親が一番分かってるもんらしいんだよ……。」

百合子は、目の前の娘を、まるで見知らぬ者であるかのように見つめた。この、頬を赤く染め、
眉根を下げ、唇を噛みしめながら、消え入りそうに小さな声を出している、うら若き乙女は、
本当に自分の娘なのだろうか?今まで、数え切れない程、悠理に化粧の仕方を教えようとし、
その度に激しい勢いで拒否されて来た。すっかり諦めかけていたこの時に、本人の方から言って来るとは……。

141Graduation第十一話last dance(21):2009/02/11(水) 07:51:17

「……いいわよ。ドレスが出来上がったら、直ぐに合わせてみましょう。色の問題が
ありますからね。……ところで、悠理、パートナーは決まったの?」
清四郎が野梨子を選んだ事は、悠理に聞いて知っていた。
悠理は耳まで真っ赤になって、下を向いた。
「……けっ……警視総監の……息子だよ……。」
「……。」

恥ずかしさのあまり、相手の名前すらも口に出せない娘心。
百合子はイブの夜の、雪の絨毯の上の男の足跡と、その直後のバイク音を思い出した。そして、清四郎の言葉を。
(そして、悠理に水を飲みたいと思わせることが出来るのは、僕じゃない。
それが出来るのは、恐らくこの世に只一人。そして、その男が望めば、悠理は
きっと、世界一のレディーにもなって見せるでしょう。)

確かに、今、悠理は水を飲みたいと思っているのだ。
その男の為に、自ら化粧をして、少しでも綺麗になりたいと……。
あの若者を嫌いではない。いや、むしろ好きだ。
だが、彼は、剣菱には……。
百合子はため息をついた。
悠理を見つめる。幸せそうだ。
百合子は娘の気質を知っている。一度、この男と思い込んだら、それは絶対だ。
そうなる前に、娘が本物の恋を知る前に、結婚を決めてしまいたかった。
しかし、悠理は、自分が思っていたよりもずっと早く、只一人の相手に出会ってしまった。
悠理は体育学部を選ぶ事で、親の敷いたレールから一度降りた。
そして、それは、親離れの、ひいては剣菱離れの、最初の一歩であったに違いない。
(この娘は……いつか、剣菱を出て行くかもしれない……。)

百合子はもう一度大きなため息をついた。
さっきは剣菱の妻として。
そして今度は母親として。
142Graduation第十一話last dance(22):2009/02/11(水) 07:52:18

野梨子は、日曜に退院し、自宅療養の後、水曜日には学校に来た。魅録は一日遅れて、木曜日から登校した。
魅録がやっと登校して来た日の朝、野梨子は昇降口で彼を待っていた。

「清四郎、わたくし、ちょっと用がありますの。先に行っていて下さいな。」
昇降口で野梨子は言った。
清四郎は軽く瞬きをした後、何も言わずに野梨子に背中を向け、一人校舎の中に入って行った。
野梨子は清四郎が視界から消えるまで見送ると、新鮮な朝の空気と清らかな陽光の中、彼を待った。
続々と生徒達がやって来る。昇降口の脇に一人で佇んでいる野梨子を見ると、皆一様に驚いた様な顔をした。

一際賑やかな、紺色の集団の中に、彼はいた。魅録は元から男友達が多かったが、
球技大会以降、B組は特に結束力が強くなり、いつもその中心に魅録がいた。
今も、久し振りの魅録を取り囲むようにして、男子生徒数人が嬉しそうに肩を寄せ合ってやって来た。
しかし、野梨子の姿を見ると、そして彼女がどうも魅録を待っていたらしいと気付くと、
彼等は自然に魅録から離れて行った。
「じゃあな、魅録。あとで、また。」

その朝、魅録が登校すると知っていた悠理は早めに家を出た。ほとんど一番に教室に
入った悠理は、窓辺に立って、生徒達が続々とやって来る中、探している人物を見逃
さないように目を凝らして昇降口を見ていた。悠理の気持ちにはおかまいなく、彼は
中々姿を現さない。清四郎と野梨子がやって来て、昇降口に入る。美童と可憐も各々
やって来て、昇降口に吸い込まれていった。
「あ」
ついに、待ち人が現れた。沢山のB組の男子生徒達に囲まれて。
(あいつは、男に人気あっからな。)
「おーい、魅……!」
悠理が口元をほころばせ、次に、窓を大きく開けて、彼の名を呼ぼうとした時。
男子生徒達が、立ち止まった魅録を置いて、先に昇降口に消えて行き、代わりに
白百合のような少女が視界に現れた。少しの間、見つめあっていた二人は、少女を
先にして、本校舎の裏に回り、悠理の視界から消えて行った。
悠理が思わずカーテンの陰に隠れた時、隣のクラスでは、丁度、清四郎が窓から離れたところだった。
143Graduation第十一話last dance(23):2009/02/11(水) 07:53:18

昇降口前で、野梨子が一歩進み出る。
魅録が驚いた顔を見せると、野梨子は笑って言った。
「お早うございます、魅録。お時間少しよろしいですかしら?お話したいことがありますの。」
「あ、ああ……。」
野梨子は魅録を人気のない本校舎の裏にいざなった。二人だけになると、野梨子は言った。
「今日から来ると、悠理から聞いていたものですから。その節はどうも有難うございました。」
頭を深々と下げ、丁寧なお礼のお辞儀をする。魅録は慌てて手を左右に振った。
「いや……、俺の方こそ、何も出来なくて……。でも、あの時の事は……。」
野梨子は、顔を上げるとにっこりと笑った。
「分かっていますわ。わたくしは、一人で生徒会室にいた……、そうでしょう?」
「……ああ……。」
「この事について話すのは、これが最初で最後ですわ。ただ、一度きちんとお礼を言っておきたかったのですの。」

野梨子は、咲きかけている沈丁花の固い蕾に触れながら、話し続けた。沈丁花からは
独特の爽やかでつんとした、それでいて強く甘い香りが立ち上っていた。
「わたくしは、あの時の事は途中から……魅録に暖めて頂いてから後の事は、何も覚えていませんの。
もし、わたくしが何かおかしな事を言ったとしたら、全て忘れて下さいね。全て、熱が言わせたことですわ。」
野梨子は真っ直ぐに魅録の目を見た。その目には野梨子らしい、凛とした強い輝きがあった。
「……分かった……。」
魅録は瞬間、野梨子の迫力に圧倒されたが、野梨子の言わんとするところを直ぐに理解し、微笑んだ。
「俺も、あの時の事は皆忘れるよ。いや、もう、忘れた。これで、いいな。」
「ええ。」
野梨子は話が済むと、直ぐに魅録から視線を外し、逃げるように昇降口へ走って行った。

続く
144名無し草:2009/02/11(水) 13:36:44
>Graduation
野梨子…
やはし自分を抑えたか…
セツナス…(ノД`)
145名無し草:2009/02/11(水) 14:38:48
>Graduation
>野梨子の言わんとするところを直ぐに理解し
野梨子がこう言った理由を、魅録はどうとらえたのかな。
単に仲間の関係を崩したくないという気持ちからだと?

魅録も野梨子も、悠理と清四郎に想われていて、しかもそれを
相手に知られている状態だとわかったら、どうするんだろう。
悠理には魅録と踊ってほしいけど…複雑。
146名無し草:2009/02/11(水) 15:05:26
>Graduation
百合子さんにお化粧の仕方を教えてほしいと頼む悠理がかわいくて、魅録に
申し込まれて良かったねと思ったけど、自分を抑えてしまう野梨子もせつなくて…
147名無し草:2009/02/11(水) 17:37:15
百合子さんの心情描写に泣けた…
148名無し草:2009/02/11(水) 20:50:30
>Graduation
魅録がどう受け取ったのか気になりますね。魅録も仲間を優先しそうだし…
ダンスパーティーで踊る組み合わせが決まったけど、ここからもう一波乱とかあったりするのかな?
サブタイトルのLastDanceが、単に高校最後という意味なのか、
それとも誰かと誰かのLastDanceになるのか(←深読みしすぎ?w)、ずっとひっかかってます。
とにかく続きが楽しみです。
149Graduation:2009/02/12(木) 09:33:42
>>137 今回5レスいただきます。
150Graduation第十一話last dance(24):2009/02/12(木) 09:35:28

野梨子が言いたかったのは、こういう事だろう。
(自分はあの特殊な状況において、無意識のうちに何か告白めいたことをしたかもしれないが、
それは本来ならば言うつもりのなかった事であるし、これからもずっと言うつもりは無いのだから、
全て聞かなかった事にして欲しい……。)

魅録は、野梨子に言われるまでもなく、あの時の事は全て忘れるつもりだった。
あれらは全て、特異な状況下でしか起こりえない幻の様なものなのだ。

(わたくしは……魅録が……好き……、好きですわ……。)
野梨子の言葉を思い出す度、身体の芯が痺れるように熱くなり、その熱を持て余して、途方に暮れていた。
しかし、魅録は、未だに信じられなかった。
野梨子が想う相手が自分だということを。
自分が野梨子を想うことはあっても、その逆は考えられなかった。
また、疑問もあった。

(ああ、清四郎、ごめんなさい……、悠理、ごめんなさい……)
どうして、野梨子は清四郎と悠理に謝ったのだろう?
いや、清四郎はまだ分かる。だが、どうして悠理に……?
更には……

(清四郎!清四郎!遅いですわよっ!)
魅録ははっきりと覚えていた。あの状況の中で、清四郎の存在を確認するやいなや、
持てる以上の力を出して、彼の元へ走り去って行った野梨子を……。
そして……

(貴様っ!野梨子に何をしたっ!)
あの……あの清四郎が、理性を全て吹き飛ばした、あの瞬間を。あの目を。
魅録は、まだ少し赤黒さの残る左頬に手をやった。
151Graduation第十一話last dance(25):2009/02/12(木) 09:36:34

菊正宗清四郎……。

(なんて男だよ……ケタがちがうな)
初めて会った時、そう思った。中三の清四郎は、紅顔の美少年の面影をわずかに留め、
まだ少しあどけなさを残していたが、醸し出す雰囲気は、既に王者のそれだった。
知性のみ、腕力のみの男は知っていたが、その両方を合わせ持ち、かつ、幼少の
みぎりから帝王教育を受けてきた者のみが持ちうる、隠しても滲み出る威厳と風格に、
魅録は圧倒された。魅録は、生まれて初めて自分の前に立ちはだかった、同い年の
端正な少年に、あっという間に男惚れした。清四郎を追うように、それまで考えても
見なかった聖プレジデント学園高等部に入学した。それまで、いつも当然のように、
数々のグループのトップに君臨していた魅録は、何の疑問も持たず、あっさりと二番手に落ち着いた。

自分は専門馬鹿だ、と魅録は思う。自分の興味のある事には、他の追随を許さない自信があるが、
それ以外の事となるとお手上げだ。清四郎の想像を絶する幅広い知識、教養、頭の回転の速さ、
読心術、思考力、そして自分の自己流の喧嘩ではとても太刀打ちできない、武道のたしなみ。
そのような男が存在する事自体が、それまで公立の世界で育ってきた魅録には、新鮮であり、
脅威であり、また嬉しかった。
清四郎のようになりたいと思ったことはない。自分は自分で十分満足している。
だが、それでも、時折、かすかな妬ましさも感じ、それを恥ずかしいと思い、その内、
清四郎にも人間臭さがあることを知り、それに安堵を感じるとともに好ましさも思い、
結局は清四郎の親友であることを嬉しく、誇りに思って、4年間を過ごして来た。

清四郎が、自分を殴ったのは当然だ。自分は、あの時、清四郎の視線を受け止めることが出来なかった。
彼は、その瞬間、自分の中に潜む、野梨子への怪しい想いを見抜いたのだ。
清四郎の、野梨子への真剣な愛を知っているにも拘らず、生まれてしまった、あの秘すべき感情に。
それは、あの場で生まれたものなのか、それとも、気が付かないだけで、実は自分の中
にずっとあったものなのか、魅録には分からなかった。

152Graduation第十一話last dance(26):2009/02/12(木) 09:37:50

異常な事態の中での野梨子の告白は、美童によれば、真実らしい。
そして、自分もまた、今、野梨子にかつてなく惹かれている……。
だが、だからといって……、この先自分達がどうにかなるということは、今なお、魅録には考え難かった。
実際、野梨子が未だに自分の気持ちを隠し続けるということは、それには何らかの
意味があると思われた。そして、恐らく、それには清四郎と、そして何故か分からないが、
悠理が関係しているのだろう。
自分の内部に生まれた火種を持て余しながらも、魅録にとっては、依然として、
野梨子は、清四郎の隣に女王の如く存在していることこそ相応しかった。

(俺はいったい、清四郎にどんな顔をして合えばいいんだろう……?)
入院中も清四郎は何度か自分の様子を見に病室に来たらしいが、寝ていたり、病院
関係者がいたり等で、ほとんど話す機会はなかった。久し振りの登校で、魅録は
清四郎との再会を内心恐れていた。
だが、清四郎はやはり一枚上手だった。

「退院、おめでとうございます、魅録。また、6人揃えて、嬉しいですよ。」
色々思う事は自分以上にあるに違いないが、それをおくびにも出さず、あの時のことは、
あらためて、殴った事を頭を下げて丁寧に謝罪し、その後は無き物とした。
有閑倶楽部は上手く行っていた。少なくとも、表向きは。
しかし、親しければ、親しいほど、ほんの僅かな変化にも気が付くものだ。
魅録は、高校生活の最後に、何か大切なものを失った気がして、寂しかった。

153Graduation第十一話last dance(27):2009/02/12(木) 09:41:35
ダンス・パーティーまであと約一週間。そしてその一週間後には卒業式だ。
来週、三学期の期末テストが行われるものの、それはほとんど形だけのものであり、
今や、三年生全員が、学園生活の総仕上げのイベントに向けて、異常な興奮状態に
あるのも無理はなかった。
生徒会室では、連日、美童と可憐による社交ダンスの練習が行われていた。
「うぇーっ、俺がいない間に、おまえら上手くなってやがんなー!」
魅録は、清四郎と悠理のワルツのステップを軽々と踏む姿に驚いた。
「元々、運動神経とリズム感がいいですからね。」
「おまえらも、ブツブツ言ってないで、早く練習しろよ。あたいらに、恥かかすなよ。」

確かに、ブツブツ言っている暇はなかった。美童と可憐は、しばらく魅録と野梨子に
つきっきりで教える事になった。魅録はともかく、野梨子は元々の運動神経の問題と、
病み上がりということもあり、かなり努力を必要としたが、それでも、本番前には何とか形になって来た。
当然といえば、当然ではあるのだが、美童や可憐と踊っている時はまあまあ見られる
他の四人が、それぞれのパートナーと組むと、どこかぎこちなくなった。
特に、清四郎と野梨子は素人が見ても、身長差があり過ぎた。
「野梨子はハイヒールを履かなきゃ駄目ね。それも、10cm位の。」
可憐はきっぱりと言い切った。普段、ヒールのある靴を履くことのない野梨子はクラクラした。
「10cmなんて、想像もつきませんわ。せめて、5センチとか……。」
「駄目。10cm。ああ、でも、靴もトーゴーの店で頼んでるんだったわね。ドレスとお揃いで。
確か、あたしに合わせて6センチヒールだったから……、早く連絡しとかなきゃ。」
可憐は早速携帯を取り出した。

「それじゃあ、最後は、チーク・ダンスね。」
「チッ、チークッ!」
教師役以外の四人は大声を出した。
「そうだよ。ダンス・パーティーのラスト・ダンスはチークに決まってるよ。高校での
ラスト・ダンス、踊りたいだろ?」
美童が艶然と微笑んだ。

154Graduation第十一話last dance(28):2009/02/12(木) 09:42:45

「チークは、難しいステップとかないから、楽だよ。これはまあ、雰囲気というか、その場の盛り上がりというか……。」
「2パターンあるんだけど、お手本、見せるわ、一つ目はこれ。」
可憐が、美童の首に両手を回し、ぐっと自分の体を美童に密着させた。
「ほらね。この体勢で、男性は女性の腰に手を回すのよ。注意点は、女性は男性の首
にぶらさがったりはしないこと。見苦しいし、動きにくくなっちゃうわ。そこに気をつけて、
このまま曲にのれば、自然に体が……、あら?」

可憐は、何かの気配を感じ、顔を上げて驚いた。美童が、あの美童が、こぼれ落ちる
長い金髪の隙間から、真っ赤な顔を覗かせ、口を半ば開けて、どこか困ったような
様子で可憐を見下ろしていた。
「!」
可憐は、思いがけない展開に、自らも顔を赤く染めた。
二人はつかの間、声も出さず、見詰め合った。

「まっ、まあ、こういう事さっ!大丈夫、本番はきっと、踊らずにはいられない雰囲気になるからっ!」
美童は可憐から体を離すと、金髪を大きく振って、大げさに笑ってこう言ったが、
後ろを向くと、一人唇を噛みしめた。胸の鼓動が早い……。
(……なっ、何だ、今のはっ……?ぼっ、僕としたことが……たかが、チークに……。)
可憐の様子を窺うと、彼女もまた動揺しているのか、バタバタと片付けを始めている。
「さっ、今日はこれでお終いよっ。明日、また総復習するから、家で各々練習してくる事!」
残りの四人は、ポカンとして二人を見つめていたが、二人があたあたと出て行ってしまうと、
皆、思いっきり頬を緩めた。
「あの……、百戦錬磨の美童と可憐が、あんな顔見せるなんてなあ……。」
「何だか、二人ともむちゃくちゃ可愛かったぞ!」
「素敵な事ですわね……。」
「まあ、僕らに出来るのは、彼らを暖かく見守る事ですね。」
清四郎の言葉に、残りの三人は黙って頷いた。

続く
155名無し草:2009/02/12(木) 16:38:28
>Graduation
魅録、その火種を消すなぁ〜って叫びたくなったw
可憐と美童の出番が少なかったんで、今回の可愛い姿に満足でした。
続きが待ち遠しい!
156名無し草:2009/02/12(木) 21:24:06
>Graduation
魅録にとって清四郎の存在は本当に大きいものなんですね。
これからどうなるのか見守りたいと思います。
自分も美童と可憐に癒されました。
続き待ってます。
157Graduation:2009/02/13(金) 09:08:31
>>150 今回6レスいただきます。
158Graduation第十一話last dance(29):2009/02/13(金) 09:12:26

そしてついに、ダンス・パーティー当日。
聖プレジデント学園の三年の女性徒たちは、美しい者もそうでない者も、賢い者もそうでない者も、
遊び慣れている者もそうでない者も、皆一様に朝から鏡に釘付けだった。
幸い、天気は上々だった。パーティーは6時から始まるが、化粧直しや場所取りの為、皆早めに学校へ来た。
黒タキシードを着たパートナーが花束を持って女性を迎えに来る直前まで、女性徒たちは少しでも自分を
美しく見せようと必死だった。男子生徒たちは、免許を持っている者は自分の運転で、無い者はお抱え運転手か、
ハイヤーで、女性徒を迎えに行った。

その日、可憐、野梨子、悠理の三人は、午前中から、銀座のシン・トーゴー本店の奥にある、
ブライダルサロンに篭っていた。そこは、本来は、シン・トーゴーのウェディングドレスで
結婚式を挙げる花嫁の為の、トータル・ビューティー・サロンで、エステ、ネイル、ヘア、
メイク、着付けなどをトータル・コーディネイトしていた。そこを、特別に貸してくれたのだ。
三人は、薔薇の花びらを浮かべたフラワーバスにゆっくりとつかった後、全身を好みの
アロマオイルで軽くエステしてもらい、その後、フカフカした上質なガウンを纏ったまま、
髪をシャンプー、ブロー、セットしてもらっている間に、手と足の爪をネイルしてもらっていた。
色は、爪の短い野梨子と悠理は透明の薄ピンクだったが、適度な長さのある可憐は
ピンクベージュと白のフレンチネイルにしてもらった。髪型については、アップにするか
ダウンにするかで、皆さんざん迷った末、結局、野梨子はおかっぱ頭の毛先をふんわりと
内巻きにカールするにとどめ、悠理もいつも通りのダウンスタイルで、レイヤーの部分を
きつめにカールして、華やかさを出した。一番悩んだのはやはり可憐で、ロングヘアの分、
バリエーションも豊富な為、ありとあらゆる髪型を試した末、両サイドの髪のみをすくい
とって後頭部でまとめ、あとは華麗に背中に流す事にした。前髪はひっつめず、
柔らかい巻き毛を適量残して、両耳の前に垂らしていた。
最後にドレスを着込み、メイクの直しをして、細かいところの総仕上げをすれば、後は自由だった。
午後三時には、三人は各々一旦自宅に戻った。後は、パートナーが迎えに来るのを待つばかりだった。

159Graduation第十一話last dance(30):2009/02/13(金) 09:15:24

「ちょっとは、落ち着きなさいよ、清四郎。」
和子が呆れたように、さっきからそわそわし通しで、珍しくそれを隠そうともしない弟に言った。
「女じゃあるまいし、何度、鏡見れば気が済むのよ。」
清四郎は横目でチラリと姉を見た。和子は真っ赤になった。
「あっ、あんた、今、あたしを哀れむような目で見たわねっ!青春が終わった者は可哀想だ、みたいな。」
「考え過ぎですよ。」
清四郎はわざと和子を刺激するような微笑を見せた。和子は、普段なら、弟のこんな態度には、
自分もそれ相応の態度でもって応戦するのだが、今日は、ブラック・タイの正装に身を包み、
髪もいつにも増して完璧に整えられている弟の、正に水も滴るいい男ぶりを目の前にして、
彼が今宵の主役であることを認めないわけにはいかず、どこか調子が狂っていた。
とはいえ、持って生まれた性分として、若干の憎まれ口はやはり叩かずにはいられない。

「ふんっ。野梨子ちゃんと組めたからって、いい気なもんね。いくら、パートナーになれたからって、
ラスト・ダンスを踊れなかったら、却って不幸だっていうのに。」
清四郎のこめかみがピクリと動いた。
「……どういう事ですか?」
見事ピンポイントをついたとばかりに、和子がにんまりと笑い、目が半月型になった。
「あら、生徒会長を四年もやってて、知らなかったの?聖プレジデント学園には、卒業
ダンス・パーティーでラスト・ダンスを踊れなかったカップルは、将来結ばれないって
ジンクスがあるのよ。少なくとも、ラスト・ダンスだけは踊っておきなさいよね。無理してでも。」

「……それは、姉貴の時代に限ったことではないですか……?」
清四郎が眉を顰めて、胡散臭そうに言う。
「信じないんなら、それでいいわよ。ただ、あたしの時にそういうジンクスがあったのは確かよ。
ラスト・ダンスは今も昔もチークだから、野梨子ちゃんに嫌がられないように、頑張ってね。」
思いがけず興をそがれた清四郎は、悪魔のような微笑を見せた。
「……では、姉貴はラスト・ダンスを踊れなかったというわけですね……。」
「! 失礼ねっ!踊れなかったんじゃなくて、踊らなかったのっ!」
和子から飛んで来た文庫本をひょいとかわすと、しかし、清四郎は少し考え込んだ。

160Graduation第十一話last dance(31):2009/02/13(金) 09:16:47
和子は、黙ってしまった弟を複雑な表情で見つめた。この間の吹雪の夜のことは鮮烈に覚えている。
清四郎から電話で呼び出され、緊急外来の入り口で待っている所へ、雪にまみれた
清四郎が、野梨子を抱きかかえて走ってやって来た。そして、そのすぐ後から、豊作が、
清四郎の親友をおぶって入って来たのだ。傍らには、涙で顔がぐちゃぐちゃになった悠理がいた。
和子は、弟の、あんなに取り乱した様子をかつて見たことがなかった。見た目には冷静を装い、
落ち着こうとしていたが、それが却って、内面の高ぶりを目の色に表すこととなっていた。
清四郎同様に勘の良い和子は、野梨子と魅録が病室におさまる頃には、この四人の
関係を大方推測してしまっていた。勿論、詳しい事情は分からないし、聞くつもりもない。
ただ、弟が、この可憐な幼馴染を今まで以上に大切に思い、それが必ずしも上手く
行っていないということは分かった。だから、彼のパートナーが野梨子に決まったと
聞いた時は、姉として、とても嬉しかった。和子としては、野梨子は家族同然だったし、
小さい時からの二人を良く知っているだけに、憎まれ口を叩きながらも、弟の真剣な恋を心から応援したく思っていた。

気が付けば、それなりの時間になっていた。母が姿を現した。顔良し、頭良しの
自慢の息子の晴れ姿に、ほうっとため息を漏らす。
「もうすぐ5時ですよ。準備は出来たの?」
「はい。」
「で、車はどうしたのよ?ハイヤー?小型リムジンくらい頼んだの?」
「……考えたのですが、いつも通りにしました。」
「えっ!歩いて行くってこと?」
母と姉が同時に批判的な声を発した。だが、清四郎は全く動じなかった。
「はい。家からは近いですし。聞いたら、野梨子もそれで良いと言いますから。」
「う〜……。」

161Graduation第十一話last dance(32):2009/02/13(金) 09:23:23
清四郎を待つばかりの野梨子は、午後の橙色がかった西日の差し込む洋間で、
曽祖父の代からの華奢なチーク材の椅子に、ドレスの裾をふわりと垂らして腰掛けていた。
父が、娘の晴れ姿をデッサンしていた。
白鹿家には、雪月花以外にも、門外不出の国宝級の日本画が幾つかある。
それらは清洲が娘の成長の節目節目に描いて来たもので、家の者以外誰の目にも
触れたことがない。お宮参りに始まって、七五三や、入学式、誕生日、芸事の発表会
などの折にふれて描いて来たものだ。清洲のアトリエには、出来上がったばかりの一つの
作品がある。それはまだ娘の目にすら触れていない。

そして今、目の前の娘は何と美しいことだろう。大輪の牡丹が花開く、一歩手前のようだ。
彼女は、一つ前の作品を描いた時の野梨子からも、既に変貌を遂げており、短期間にこれだけの
変化を見せる女性というものに、清洲は憧憬を抱くとともに、掌中の玉である愛娘の、そう遠くない
かもしれない巣立ちを思い、心を震わせた。そう、自分が野梨子の母親を見初めた時の、彼女の年齢は、
今の娘の年齢とあまりかけ離れていないではないか。
芸術家である清洲は、清四郎がイブの夜に見出した、野梨子の成熟しつつある内面を見抜いていた。
世の多くの父親と同様、娘に、いつまでもあどけない少女のままでいて欲しいと願う、
父としての清洲にとっては、娘の中に女性という性を見るのは辛いものでもあった。
しかし、白鹿清洲という芸術家としての魂は、一瞬で通り過ぎてしまう、少女から大人へ
移行する、この時期ならではの輝きをキャンバスに焼き付けたいという、熱い思いに燃えていた。

「あなた。もうそろそろ清四郎君が迎えに来る時間ですわよ。もう、いいかげんになさらないと。」
娘に生き写しの妻が心配してやって来た。いや、娘が妻に似ているのだ。
「ん?あ、ああ……。そうだな。もう大方出来上がったし……では、この辺にしておくか。」
青洲は筆を置いた。
(野梨子は恋をしている……。だが、その相手は誰だ?)
青洲の脳裏に、昨秋の文化祭の舞台が蘇る。
(『月の光』……。)
そして、今の野梨子の表情が、恋の喜びに満ち満ちているというよりは、むしろ
大人びた憂いを含むものであるということは、それが悲恋であることを物語っている。

162Graduation第十一話last dance(33):2009/02/13(金) 09:24:43
「さあ、もうすぐ5時ですわ。お待たせしたら悪いですから、もう玄関に行っていましょう。
野梨子、忘れ物はありませんか?」
今でも少女のような可憐さを持つ母は、自分の方が興奮しているようだった。
何より、清四郎は彼女のお気に入りだった。

午後5時。黒いタキシード姿の上にベージュのトレンチコートを羽織った清四郎は、
真ん中がうっすらとピンクがかっている、白薔薇の小ぶりな花束を持って、白鹿邸の門の前で蝶ネクタイを直していた。
呼び鈴を鳴らそうとして、一瞬、躊躇する。清四郎は首をかしげた。
(ふむ……。僕は……緊張しているんですかね……?)
しかし、彼はそんな自分が嫌ではなかった。むしろ、この高揚した独特の気分を、思う存分味わいたかった。
コホン。
軽く、咳払いして、ついに呼び鈴を鳴らした。
待っていたかのように、見事な日本家屋の扉が開いた。まず、見慣れた和服姿の父と母が出て来る。
清四郎はいつもこの二人の前では背筋が伸びる思いがした。
「今日は、宜しくお願いしますね。」
「よろしく頼むよ。清四郎くん。」

その後から、少し恥ずかしげに野梨子が現れた。
清四郎は文字通り、息を飲んだ。
高校生らしい薄化粧を施した野梨子は、うっすらとピンクがかった、とろりとした真珠色の
シルク・サテンで出来たドレスを纏っていた。それは、肩を出したデザインで、鎖骨の
下からウエストまで、光沢のある真珠色のサテンがぴったりと身にはりつき、膝下までの
スカート部分は、パニエで大きく膨らみ、小粒のパールビーズが散りばめられた、
蝉の羽のように薄いオーガンジーが幾重にも重なりあっていた。細いウエストはオーガンジーの
大きなサッシュで絞られて、後ろにふんわりと大きなリボンとなって垂れ下がり、袖は、
肩から少し落ちた部分に、やはりビーズつきのオーガンジーでパフスリーブのように
ついており、野梨子の白い腕が透けて見えていた。その腕には白い長手袋をつけ、
シルクのストッキングに、ドレスとお揃いのサテン地で作られた華奢な靴を履いている。
象牙色のほっそりとした首には、白鹿家代々受け継がれている、一連のパールの
ネックレスが上品な光を放っており、おそろいのイヤリングが耳に光っていた。
163Graduation第十一話last dance(34):2009/02/13(金) 09:26:39

それは、野梨子の持つ、乙女らしい清らかさ、純粋さ、清潔さという魅力を最大限に
引き出しており、その期待を超えた美しさに清四郎は言葉が出なかった。
「……。」
清四郎は顔を紅潮させ、震える手で、持っていたブーケから白薔薇を一輪抜き取ると、
折って、用意していた専用のピンで、それを野梨子の優しくカールされた黒髪に差した。
野梨子は、自分も一本白薔薇を抜き取ると、細い指で折り、それを、清四郎の
タキシードの左襟のボタンホールに差した。
その瞬間、清四郎は震えた。

そしてこれで、二人は完璧に今宵のパートナーとなった。

続く
164名無し草:2009/02/13(金) 12:20:21
>Graduation
やっぱりドレスの描写が素敵ですね。
可憐と悠理も楽しみ。
そしてラストダンスはそれぞれ誰と踊るのかwktkして待ってます。
165名無し草:2009/02/13(金) 12:52:26
違うパートナーと踊られたら
学校中にふられたことがばれてしまうのでは?
166Graduation:2009/02/13(金) 15:51:44
作者です。ふと嫌な予感がして調べてみたら、野梨子父の名前は
清州さんですね。青洲だとか、清洲だとか、二重に間違えていて
本当に情けないです。ごめんなさい。
167名無し草:2009/02/13(金) 22:00:10
>Graduation
読んでるだけで野梨子の綺麗さが伝わってきました。
やっぱり倶楽部内メンバーはみんな高嶺の花。
続きお待ちしています。
168名無し草:2009/02/14(土) 18:41:47
>Graduation
続き楽しみです。
そろそろ終盤ですよね。
展開が読めなくてドキドキです。
169名無し草:2009/02/15(日) 03:43:51
三千世界の鴉を殺しってタイトルパク?
津守って小説家が書いてるのと題名一緒
170名無し草:2009/02/15(日) 04:08:52
>169
「三千世界の鴉(烏)を殺し 主と朝寝がしてみたい」
元々は小説のタイトルじゃなくて高杉晋作が唄ったって言われてる都々逸だよ。
ここの作者さんがどっちを意識したのか分からないけど。
(私はその小説を知らないんで…)
171Graduation:2009/02/15(日) 07:57:39
>>158 今回5レスいただきます。
172Graduation第十一話last dance(35):2009/02/15(日) 07:59:19

「あ〜あ、いいわねえ……。」
千秋は、鏡を見ながら顎を上げてブラック・タイをつけている息子を、ソファに寝転びながら眺めていた。
「高校の卒業ダンス・パーティーだなんて、思い出すわぁ……。はぁっ……、青春よねぇっ……。
ダンス・パーティーは数多くあるけど、やっぱり、10代最後の卒業ダンス・パーティーっていうのは、
特別よねぇ……。」
ぶんぶんとウェーブのかかった髪を振って、一人盛り上がっている母親を横目に、
魅録は淡々と支度を進めて行った。

卒業式に合わせて、先週、久し振りに海外から戻って来た千秋は、その鋭い眼力で、
一人息子の変化を既に見抜いていた。ワルの世界に出入りしているくせに、何故かいつまでも、
どこか少年っぽい青臭さが抜け切らなかった彼は、少し痩せたせいか、それまでには
見られなかった、大人びた気だるさの様なものを身に纏っていた。元から、そう口数の
多い方ではなかったが、一層無口になっており、時折小さなため息をついているのを
千秋は知っていた。その他にも、沈みこんでいたかと思えば、急にはしゃぎ出したり……
そして、何といっても、時折目に浮かぶ、何かにとまどっているような、そこはかとない憂い。

(恋に落ちる寸前の男の目だわ……。でも、相手は誰?悠理ちゃん……?違うわね。)
パートナーが悠理なので、散々悠理の話はして来たが、彼女の話をする時の息子は
以前と同じで、そこに変化は見られなかった。千秋の脳裏を、文化祭で観た『月の光』が一瞬横切った。
(まあ、ともかく、この晩熟の息子も人並みに恋を知りそうで良かったわ。恋に苦しむ…ああ、青春ねぇ…。)

母親の胸の内など何処吹く風の魅録は、支度を済ませると、ヘルメットを取った。
千秋は呆れたように言った。
「ねえ、魅録……、気持ちは分からなくもないけど、悠理ちゃんはドレスだし、ヘアもセットしてあるのよ。
やっぱり、車にしたら?時宗ちゃんのポルシェだって、実家の車だって、選り取りみどりなんだから。
和貴泉のおじいちゃんは車道楽だったから。」

173Graduation第十一話last dance(36):2009/02/15(日) 08:02:58

しかし、息子は少し照れたように、鼻の頭を掻きながら言った。
「うん……。俺も最初はそう思ったんだけど、悠理がバイクがいいって言うんだよ。
で、結局、これが一番俺達らしいってことになったんだ。」
「そう……。」
「じゃ、行って来る。」
「あ、忘れ物。」
千秋は鮮やかな朱色の薔薇のブーケを放った。キャッチした魅録はニヤッと笑った。
「サンキュ。千秋さんも、今日は親父と仲良くな。早く帰って来るんだろ?」
ブーケをポケットにつっこむと、自分に片手を上げて、あっという間にバイクに乗って
消えて行った息子を、自分でも驚いたことに、千秋は煙草を銜えながら少し寂しいような思いで見送った。

(思えば、よく、まともに育ったわね……。)
一人息子とその母親にありがちな、べったりとした関係ではなかった。千秋は犬は好きだったが、
元々人間の子どもにはあまり興味がなかったし、それは実際に子どもを産んでからも大して変らなかった。
勿論、自分の子どもは特別だ。親として十分な愛情は注いで来たつもりだ。だが、子育てについてまわる様々な雑務が煩わしかった。
幼稚園の弁当もフミさんに任せっきりだったし、家柄からして、本来なら行かせるべきだった
私立小学校も、お受験が面倒くさくて止めてしまった。幼い頃から不在がちな両親で、
魅録はかなり寂しい思いをして来たはずだ。若い頃、ピアニストになるのが夢だった
千秋は、ピアノの練習の時だけは魅録に付きっ切りになった。かなりきつい練習だったと思う。
結局、ロックに目覚めた中二で止めてしまったが、それまで彼は一度も練習をさぼらなかった。
今思うと、ピアノを練習している間だけは、母親と一緒にいられると思っていたのかもしれない。
自分の名前が、母親の飼っていた犬からつけられたと知った時は、さすがにぎょっと
した顔を見せたが、直ぐに笑って言った。
(……一番、可愛がってたんだろ?なら、いいや。)

魅録が成長して、対等に話が出来るようになってからは、立場が逆転して、自分の方が
息子にかまって欲しくなった。しかし、魅録はこんな自分勝手な母親を見捨てることなく、未だ母と慕ってくれる。
そして、今、彼は、初めての本格的な恋のとまどいの中にいる。
母親よりも他の女性を取る日が近づいているのだ……。

174Graduation第十一話last dance(37):2009/02/15(日) 08:04:27

(もう、添い寝も出来なくなるわね……。散々、ほったらかしておいたくせに、いざ
自分から離れて行くとなると、寂しい気がするなんて、あたしも相当酷い母親だわ。)
千秋はフーッと煙草の煙を空に放った。
(……そうね、今日は時宗ちゃんと仲良くしようかな……。最後はやっぱり、夫婦だもんね。)

「母ちゃん、あたい、おかしくないか?」
悠理は、今日、もう何十回目かの質問をした。
「全然おかしくありませんよ。本当に、綺麗よ、悠理。」
「そうかあ……?」
悠理はまたもや鏡を覗き込む。シン・トーゴーの店から戻って来て以来、ずっとこの調子だった。
「母ちゃんの言う通りだがや。本当に綺麗だがや、悠理。」
万作も手放しの喜びようだ。

通りかかった豊作が、部屋に入って来た。艶やかな正装をした妹を眩しげに見つめる。
悠理は、今までも何度も正装をして剣菱のパーティーには出席しているが、妹が
こんなに美しく見えたのは初めてだと豊作は思った。きっと、父も母も同じ事を思っているに違いない。
「悠理、本当だよ。本当に綺麗だ。」
「兄ちゃん!」
悠理が嬉しそうに豊作に振り向く。この兄妹は、今までも決して仲が悪かったわけではないが、
この間の吹雪の夜以来、その親密さの度合いがぐっと増していた。豊作は野梨子の
事だけ両親に説明し、魅録がその場にいたことは兄妹の秘密だった。二人は何を話した
わけではなかったが、豊作には、折りしも同じ日、ディナーの席上で清四郎が言った、
悠理に水を飲みたいと思わせることが出来る、この世に只一人の男が誰か、もう、
分かりすぎるほど、分かっていた。

(魅録っ、死んじゃ嫌だっ!魅録が死んだら、あたいも死ぬっ!)
(子どもだ、子どもだと思っていた悠理が、あんな事を言うようになっていたなんて……。)
175Graduation第十一話last dance(38):2009/02/15(日) 08:05:42

豊作は元から魅録が好きだった。彼の、表裏のない、真っ直ぐな性格はすがすがしく、
彼といる時、いつも妹は最高の笑顔を見せていた。しかし、彼の生き方と剣菱とは……。
両親も、今日の悠理の相手が清四郎ではないことに、色々思うところがあるだろう。
だが、結局、悠理のこの幸せそうな顔を見れば、そんな雑念は吹っ飛んでしまう。
豊作はパートナーの登場を心ときめかせて待つ妹の、咲きかけた花の美しさを、
目を細めて眺めつつ、決心していた。
(剣菱の長男は、僕だ。もっと、もっとしっかりしなければ。剣菱と、そして妹の為に……。)

午後5時。キキィッ……。
「来たっ!」
途方もなく広い正面玄関で待っていた悠理が飛び上がった。ベルが鳴る。
正面の大門が開いてからも、剣菱邸の玄関までのアプローチは長い。
暫くして、やっと玄関のベルが再び鳴らされた。
「どうぞ。」
百合子の声に、ドアが開く。
最初に、ドアの隙間から現れたのは、鮮やかな朱色の薔薇の花束だった。
「よお。」
次に、黒タキシードに身を包んだ魅録が、全身を現した。が、彼は、万作、百合子、
豊作、はては五代、タマ、フク、アケミとサユリまでがそこにいるのを見てとると、
一瞬、気まずい顔をした。
(ゲッ、家族総出かよ。)
しかし、肝心の悠理はそこにいない。

「あ、あの、こんばんは。ゆ、悠理を……、いや、お嬢さんを迎えに来ましたっ……。」
「今晩は悠理をよろしく頼むだ。魅録くん。」
万作に挨拶され、魅録の背中がピーンと伸びる。
「はっ、はいっ!……ところで、悠理は……どこですか?」
「フフ……。あの子ったら、恥ずかしがってるのよ。早くしなさい、悠理。遅くなるわよ。」
ニャア。タマとフクに催促されながら現れた悠理を、魅録はポカンとした顔をして見つめた。

176Graduation第十一話last dance(39):2009/02/15(日) 08:14:03
爪を噛みながら、そろそろと現れた悠理は、同色の細かいクリスタルのビーズを星屑のように散らした、
鮮やかな光沢のある、薔薇色のシルク・シャンタンのドレスに身を包んでいた。
それは、織り方の為、光の角度によって、朱がかったり、オレンジがかったり、ピンクめいたりと、
様々な表情を見せた。やはり細い肩を出し、胸の上からウエストまでがぴったりとして、ウエストのサッシュは
正面の左部分で大きなリボンとなって全体のアクセントとなっていた。張りのある生地は、膝下までのスカート
部分で、やはり大きく膨らみ、絹のストッキングにやはりお揃いの生地を張られた靴を履いていた。
陶器の様なすべらかで長い首には、同じ生地で作られた、燃える水晶のビーズを散りばめた
チョーカーが巻かれ、首の後ろで大きなリボン結びになって、白い背中にヒラリと垂れ下がっていた。
腕には同色の長手袋、耳には雫型のルビーのイヤリング。それは、悠理の持つ、ほとばしる情熱、生命力、
一本気さ、などの魅力を最大限に引き出していた。

魅録は、太陽の化身のような悠理の艶姿に、しばし我を忘れて見惚れていたが、
やがて、ブーケに気が付いて言った。
「そっ、そうだ、これ……。」
魅録が一輪、紅薔薇を取ろうとすると、悠理が止めた。
「今は、駄目だよ。学校に着いてから。」
「どうして?」
百合子が不思議そうに聞く。
「バイクだから。これ、つけちまうと、メット、つけられないだろ?」
「バイクッ!?」
呆れた顔で魅録を見る剣菱家の人々。魅録は赤くなった。
「いっ、いやっ……、俺は、親父の車でも、おふくろの実家の車でも使おうかって
言ったんだけど……、悠理が、いや、お嬢さんが、バイクがいいって……。」
「そうだよ。あたいが、バイクがいいんだ。」
悠理は、満足気にそう言うと、やっと恥ずかしさが治まったのか、いつもの調子に戻り、
黒いたっぷりとしたスプリングコートをバサッと羽織ると、玄関に置いてあった、真っ赤なヘルメットを片手に、
朱色の花束を片手に持って、勢い良く外に跳び出て行った。黒いタキシードに黒いコート、
そこから覗く薔薇色のドレス。銀と赤のヘルメットをかぶった二人は、大きなバイク音を
轟かせて、門まで出てきた家族達の前から、夕方の街に走り去って行った。

続く
177名無し草:2009/02/15(日) 11:52:04
>Graduation
悠理にぴったりのドレスで、想像してうっとりしてしまいました。
あと、千秋さんの母心が興味深かったです。
次は可憐ですね。楽しみです。
178三千世界の鴉を殺し、:2009/02/15(日) 12:59:41
>>169
>>170さんがおっしゃるとおり、都都逸からいただいたものです。
唄った方の死後50年は経っているはずなので、
著作権には抵触しないだろうと判断し使わせていただきました。
勉強不足なので、その小説家さんの作品については知りませんでした。
誤解させて申しわけありませんでした。
179名無し草:2009/02/15(日) 14:43:18
過疎です、先生。
180名無し草:2009/02/15(日) 16:13:09
バレンタインネタはなかったか…
181名無し草:2009/02/15(日) 16:25:51
ぐらじゅえーしょんの作者は自分がこのスレを乱す悪の根源になっているのに
何事もなかったかのように投下できるなんてその神経の太さに恐れ入ります。

少しは自重したら?
182名無し草:2009/02/15(日) 17:50:13
>自分がこのスレを乱す悪の根源

みんなー、181が自己紹介してるから聞くように
183名無し草:2009/02/15(日) 17:51:37
不覚にも吹いたw
184名無し草:2009/02/15(日) 19:29:46
私も爆笑しました(笑)
185名無し草:2009/02/15(日) 20:39:18
182の正しさに脱帽だw
186名無し草:2009/02/15(日) 20:39:43
そういえば、先週の日曜の夕方にも……
187名無し草:2009/02/15(日) 22:16:15
過疎って言葉、使いすぎてて相変わらず特徴出てますな
188Graduation:2009/02/16(月) 11:44:38

皆様のお心遣い、いつも感謝しております。

そして、すみません、皆様お忙しい中、誠に勝手なお願いなのですが、
もし二次創作における著作権についてお詳しい方がいらしたら、
是非教えて下さい。
登場人物が歌を歌うシーンで、歌詞の一部をカッコつきで引用する
(本人たちが歌っているという形)というのは、やはり禁じられて
いるのでしょうか?
自分で調べたところ、止めておいた方が良さそうなのですが、明確に
お分かりになる方がいらしたら、ご指導頂ければ幸いです。
どうぞ宜しくお願い致します。
(御回答を頂けない場合は、止めておくことにします。)


189名無し草:2009/02/16(月) 12:13:16
>>188
いつも乙です。
投下楽しみにしています。

質問の件は、自分もあまり詳しくはないけど、ヤバそうなら止めといた方がいいと思う。
190名無し草:2009/02/16(月) 12:52:48
自分も詳しくはないけど、ぐぐってみたところ小説等への歌詞引用は
非常に曖昧な感じ。
このあたりを参考に、自己責任でどうぞ。
ttp://members.at.infoseek.co.jp/b8270/kashi.html
個人的にはやめておいた方がいい、に賛成。
191名無し草:2009/02/16(月) 12:53:25
ゴメン、ageてしまった。申し訳ない。
192名無し草:2009/02/16(月) 13:12:18
>>182
このやる気の無さそうな感じがじわじわクるw
193名無し草:2009/02/16(月) 13:51:52
>>188
乙です。
自分はSSに歌と使っているのを見たことあるけど・・
自己責任くらいでいいんじゃないだろうか。
金銭がからんでる訳でもないし。
でも、ヤバそうならやめておいたほうがいいと思うけど。
194Graduation:2009/02/16(月) 14:11:07
>>189
>>190
>>193
早速のレスをどうも有り難うございました。
やはり、やめておいた方が良さそうですね。
好きなシーンだったので残念ですが、投下前に
分かって良かったです。
195名無し草:2009/02/16(月) 16:38:41
>>194
その歌が、JSRAC保護の対象外なら問題ないのでは?
せっかくのシーンを読めないのは残念ですね。
196名無し草:2009/02/16(月) 19:38:35
歌詞 小説 引用

でググッだらいろいろでてきました
歌題は法的になんとか桶でしたが歌詞はやはりNGのようですね
有名な歌であればそれを匂わせてくれれば読者にも光景が見えるのではないかと思います
197名無し草:2009/02/16(月) 20:38:27
好きなシーンと聞くと、読みたくなっちゃうな。
196さんの言うように、匂わせてくれると嬉しいです。
いつも連載わくわくして読んでます。
楽しみにしてます。
198名無し草:2009/02/16(月) 21:24:31
youtubeとかでその歌貼るのはだめかな?
199名無し草:2009/02/16(月) 21:54:58
youtubeは違反なんだろうけど、歌手にとって宣伝になってるらしいから、黙認してるんじゃないの?
200名無し草:2009/02/16(月) 22:39:12
嵐さんの掲示板で歌詞ありバージョンもうpして、後で削除してもらう…。面倒臭いか。
JPOP系は駄目だけど、仰げば尊しとかならおkだよね。
洋楽はどうなんだろ?
何の曲なのかすごい気になるw
201名無し草:2009/02/17(火) 01:49:49
駄目なものは駄目なんだから
気になる気になる言ってる人は諦めなよ
それで問題が起こるとしたら全部作者にふりかかるんだよ
202名無し草:2009/02/17(火) 07:02:00
ああごめん。>>200だけど
好きなシーンだというから方法がないかと考えてみただけで、
別にどうしても歌詞ありで読みたい訳ではないの。
今までの作品に出てきた歌から考えて、流行りのJPOPでもなさそうだし
一時的なうpくらいいいのでは思うけど、アラシさんにも面倒だし
不法行為を勧めているようにとられると本意ではないので取り消しておくよ。
作者さんごめんね。
203Graduation:2009/02/17(火) 09:10:15
>>172 今回7レスいただきます。

>>195->>202
皆様、お忙しい中、様々なご意見を有難うございました。
そして、思わせぶりな書き方をしてしまってすみませんでした。
正確に言うと、話の流れに「必要な」シーンです。なので、
歌詞抜きで歌わせます。ちなみに、懐かしのJPOPです。
(皆さんがご存知かどうかは微妙……。)
204Graduation第十一話last dance(40):2009/02/17(火) 09:12:30

「やっぱり、金髪に黒は良く似合う。」
美童は黒いタキシードを身に着けた自分を鏡に映し、髪をサラリとかきあげると、満足気に笑みを漏らした。
「ハッ!よく言うよ。」
たまたま暇で家にいた杏樹が、興味ない風を装いながら、それでもやっぱり気になると見えて、
さっきから意気揚々と身支度をする兄の近くをフラフラとしては、憎まれ口を叩いていた。
「兄貴が迎えに行くんだろ?可憐さんのドレス姿が見られなくて、残念だなあ〜。きっと、
凄い色っぽいんだろうな……。胸なんか、こう、ここまで出しちゃってさ……。まったく、
可憐さんの胸ときたら……。」
杏樹が一人妄想に入っていると、いきなり頭をゴンとやられた。
「杏樹、何、想像してんだよっ。やめろっ。」

真剣に怒った様子の兄に、杏樹はヒュウと口笛を吹いた。
「へええ……。兄貴ってば、今回は結構、マジなんだ。」
ニヤニヤと笑う弟に、美童は決まり悪そうな顔をしながらも、つんと澄まして兄としての威厳を見せた。
「……僕は、いつでも本気だよ。」
「でも、さっきの怒り方、いつもの兄貴っぽくなかったぜ。」
「……可憐は、親友だからさ……。」
「あれっ?まだ彼女になってなかったの?」
「うっ……。」

杏樹は首をかしげた。弟であることが情けなくなる位の女たらしだった兄は、最近、
すっかりその面影が消えている。暇さえあれば、携帯で女の子と連絡を取り合っていた姿を、
この頃は見たことがない。この間も、日曜だというのに、家にいて、ハードカバーの本を読んだり
している。ふざけて、その本を取り上げてみると、『ジュエリーの歴史〜欧州編〜』という題名だった。
「?」
「杏樹、返せよっ!」
顔を赤らめて、凄い勢いで本を取り返した兄は、プリプリ怒りながら自室に引き籠った。
兄が宝石商の娘に友情以上のものを抱いているのを、その時杏樹は確信したが、
あの手の早い男が、未だ何の行動も起こさないでいるとは……。

205Graduation第十一話last dance(41):2009/02/17(火) 09:13:38

兄と同じく、父親からプレイボーイの血と、整った容姿を受け継いでいる杏樹は、インターの
中学でも、国籍を問わず女の子に非常にモテている。兄のように、自ら進んで女の子を
誘うわけでもないし、まめなタイプでもないが、スウェーデン貴族の騎士道を教え込まれている為、
女の子に対して平等に優しい。そのくせ、特定のガールフレンドを持たないところが、
多国籍の少女達の胸を掻きむしるらしい。実際、小さい時からモテるのに慣れっこの
杏樹は、反動で女の子に余り興味がなかった。兄は、幼い頃の失恋がきっかけとなって、
プレイボーイの道を歩み始めたようだが、杏樹は幸いというか、失恋の経験が無かった。
というよりも、初恋の経験がまだなかったのだ。しかし、それを兄に知られるのは嫌だった。
従って、兄の前では、それなりの遊び慣れた風を装っているのだが、実際は、本物の
恋ってどんなものだろう?と純粋に憧れている、思春期の少年だったのだ。
そんな彼にとって、今回の兄の変化は興味深かった。
今度の恋は、いったい、今までの恋とどこが違うのだろう?
ああ、知りたい……。でも、聞けない……。

杏樹は時計に目をやると、テーブルの上に置かれていた、見るも鮮やかな濃いピンクの
薔薇の花束を手に取って、顔をそっと埋めながら上目遣いで言った。
「それで、何で迎えに行くのさ?大使館の小型リムジンでも使うつもり?運転手付きで。」
後ろを向いて、カフスを留めていた美童は、一瞬、ビクリと震えた。
「そのつもりだったんだけど……、今朝、大使館の急な仕事が入って、使えなくなっちゃったんだよ……。」
「えー、じゃあ、ハイヤー?」
「それが……、もう今日の分の予約は全部埋まってて……、だから、うちのベンツだよ……。」
「うちのって……、誰が運転するのさ?まさか……。」
額に縦線を何本も寄せた杏樹が、ゴクリと唾を飲み込んだ。
その後に続く兄の声は、弟として十分同情するに値する響きを持っていた。

「僕が……運転するんだよ……。」
206Graduation第十一話last dance(42):2009/02/17(火) 09:14:36

「ママ、どうお?」
愛娘の晴れ姿を人目見ようと、5時前に、店から一度マンションに戻って来たあき子は、
想像以上の娘の華やかな美しさに驚いた。娘は前から美しかったが、ここ最近の美しさは際立っている。
「まあ……、可憐ちゃん、素敵よ。本当に。天国のパパもきっと、そう言ってるわ。」
あき子は感慨深かった。娘は、今、自分のこれからの新しい人生のパートナーとなる
男性の作ったドレスを纏っている。その顔は若い娘らしい輝きに満ちて、本当に幸せそうだ。
自分の結婚が決まってから、色々あったけれど、今、可憐は前よりもずっと落ち着いて、
自分自身に満足しているように見える。以前は、あまりに強い玉の輿願望に、何か
大切なものを忘れているような娘を、母親として心配もしていた。しかし、自分の再婚を
きっかけに、娘は自分自身の力で新しい生き方を見つけ、挫けそうになっても怯むことなく、
運命に向かって挑戦して行き、そして最初の成功を手にした。

(この娘は、あなたに似ていますわ……。)
可憐はアルバムの中でしか父親の顔を知らない。父親は、可憐がまだ歩き出す前に、
不慮の事故で逝ってしまったのだ。それ以来、あき子は、彼の事を思い出さない日は
一日もなかった。それは、再婚してからも変らないだろう。
可憐は、容姿もだが、人生を楽しもうとする並々ならぬエネルギーを父親から譲り受けている。
その贈り物は、今後の彼女の人生が実りあるものになる事を保証している。
幼い頃、父親がいないということは、可憐の心に多大な影響を与えたであろう。
しかし、可憐は不満を言ったことは一度もなかった。彼女は何度も繰り返した。

(あたしが、ママを幸せにしてあげる。)

幼い少女の上にも、男たちの視線は正直だ。自分の美しさは、人生を上手く渡って
行く上での武器であると、かなり早い時期から可憐は気がついていた。そして、それは
いつの頃からか、玉の輿願望という形になった。しかし、生来ロマンチストな可憐は、
クールに徹することが出来ず、いつもそれは失敗に終わった。だが、それでも、可憐は
いつも再び明るく前を向いた。次の恋こそ、本物であると……。

207Graduation第十一話last dance(43):2009/02/17(火) 09:15:34

そして、玉の輿願望が無くなった今、可憐は純粋に恋だけを追い求めることが出来る。
あき子は思い出した。
去年のクリスマス・イブの雪の夜に、突然押された玄関のチャイム。
心当たりも無く、不審な気持ちで出てみると、そこには真っ赤なポインセチアを抱え、
金髪に白い雪をまぶした、昔見た外国の絵本の中から抜け出てきたような美青年が、笑って立っていた。

(メリー・クリスマス、おばさん。可憐、まだ起きてますか?)
(メ、メリー・クリスマス……、ええ、部屋で勉強中よ。入って。)
彼は、幾分興奮しているようで、少し頬が紅潮していた。
あき子が見守る中、彼は娘の部屋をノックした。
(はあい。ママ?)
娘の部屋の扉が開き、そして閉じた。

娘が今これほど美しいのは、きっと彼が原因だろう。しかし、あき子は正直、美童という
青年をどう考えたら良いのか分からなかった。彼は、非常なプレイボーイであると、
当の娘からずっと聞いていたからだ。ただ、この日、あき子がココアを差し入れに部屋に入った時に、
二人が醸し出していた雰囲気は、第三者がどうのこうの言えるものでは、もうなかった。
ずっとカリカリしていた娘は、一瞬のうちに、全ての鎧を脱ぎ捨てたようだった。
その後も、娘からは、特に美童と付き合う事になったという話は聞いていない。
ただ、ダンス・パーティーのパートナーが美童に決まったと聞いた時は、はまるべき場所に
ピースがはまった時のように、非常な充足感と安堵感とを味わった。

午後5時。母と娘で世間話をしていると、チャイムが鳴った。
「美童だわ!」
頬を染めて玄関に走る娘の後ろ姿を、あき子は嬉しそうに見守った。
「美童っ!」

208Graduation第十一話last dance(44):2009/02/17(火) 09:22:01

勢いよくドアを開けて走り出てきた可憐の光り輝くばかりの眩しさに、さすがの美童も圧倒された。
可憐は、しっとりと光沢のある、明るいローズピンクのシルク・タフタのドレスに身を包んでいた。
やはり肩を出し、胸元はV字にカットされて自慢の胸をいやらしくない程度に強調し、
しぼったウエストからたっぷりとしたスカートが膝下まで広がっていた。可憐の場合、
身体のラインそのものが芸術品のようなものなので、余計な装飾はいっさい無かった。
シルクのストッキングにお揃いの靴。腕には同色の長手袋。娘らしく上品に開いた背中では、
自慢の茶色い柔らかい巻き毛が、波打つようにこぼれ落ちて揺れている。耳には大きな一粒ダイヤ。
思わず唇を当てたくなるような、なまめかしい乳白色の首には、懐かしい、ピジョン・ブラン・ルビーの
豪華なネックレスが光っていた。
「新しく作らせた物なの。良く出来ているけど、所詮はイミテーションよって言ったんだけど、可憐が、
思い出の品だから、どうしてもつけたいって……。その代わりといっては何だけど、イヤリングは本物よ。」
あき子が微笑みながら説明した。
それは、可憐の持つ、眩しいばかりの華麗さ、艶やかさ、女らしさを存分に引き出していた。
美童は青い目を見開いて、可憐を惚れ惚れと見つめた。
そして、この時、彼は決心した。
(絶対……今夜こそ……!)

玄関に入り、ドアを閉じると、美童は持っていた艶やかな濃いピンクの大輪の薔薇の花束から、
一輪を抜き取った。それを可憐のふわふわとした髪につけると、可憐の色艶は一層ひきたった。
ローズピンクという色は、ある意味赤よりも主張が強い為、一歩間違うと色ばかりが目立ってしまい、
つけている女性を下品にしてしまうが、可憐の美貌はその色をも完全に自分の配下に置いてしまっていた。
可憐はうっとりと、自分も一輪を抜き取って、美童のタキシードのボタンホールにつける。
美童もまた、この色に負けない天下の伊達男ぶりだ。
これで、二人は晴れて今宵の正式なカップルになった。

209Graduation第十一話last dance(45):2009/02/17(火) 09:24:26

あき子は、お互い言葉もなく、相手しか見えていない二人を、その昔を思い出しながら、甘苦しい様な
気持ちで見つめていた。しかし、あまり長い間二人が見詰め合っているので、ついに苦笑しながら言った。
「美童くん、今日は可憐をよろしくね。」
「あっ、はっ、はいっ!勿論ですっ!」
美童がピシッと背筋を伸ばす。
「もう、時間よ。車なんでしょう?ハイヤー?」
美童は、歯切れ悪く言った。
「……うちのベンツで、僕の運転です……。」

「えっ!?」
可憐の細い眉がピンと跳ね上がった。悪いが、美童の運転する車に乗って、良い思い出はない。
可憐の訝しげな表情を見てとった美童は、顔を赤らめた。
「だっ、大丈夫だよっ。今日は、何かに追いかけられてるわけじゃないし……。
普通に運転すればいいんだから。此処までだって、無事に来れたし……。」
可憐は美童の戯言等聞いている暇はなかった。
「……早く行った方がいいわ。世の中、何が起こるか分からないから。」
可憐は素早い決断を下し、顔をひきしめると、美童の腕をむんずと掴んで玄関を出て行った。

5時過ぎに学園に到着した三年生たちは、一旦各自の教室に荷物を置いた後、
お化粧直し等、身づくろいの最後の点検をして、パートナーと共に今日の大舞台である、
大講堂に入って行った。大講堂は、さすが聖プレジデント学園といった、ダンス・
パーティー用の華やかで豪華な飾りつけをされ、いつもとは全く異なる様相をしていた。
プロの生バンドがステージで楽器を既にかき鳴らしている。開始前なので、中央の
ダンスフロアにはまだ誰も出ていない。ダンスフロアの周りには、さすがにアルコールはないものの、
サンドイッチやプチフール、飲み物等の軽食を用意してあるコーナーと、休息用の
丸テーブルと椅子が用意されていた。早目についた者たちは、良い席を取れるが、
遅れると、ずっと立ちっぱなしという目に合う可能性も大だった。しかし、一番目立つ、
良い席は、勿論、有閑倶楽部の為に空けてあった。

210Graduation第十一話last dance(46):2009/02/17(火) 09:26:37
続々とカップルが会場に入って来る。後から来る者たちはどうしても注目されてしまう。
入って来た時の周囲のざわめき方で、その人物の人気度が手に取るように分かった。
有名な人物たちほど、歓声と拍手が貰えていた。5時45分を過ぎると、ほとんどの生徒
たちはもう会場に入っており、後は6人を待つばかりとなった。

6時間近に、ようやく6人はまとまって姿を現した。カップルごとに順番に入場して来る。
最初は、艶然として、余裕で腕を組みながら入って来る美童と可憐。次に、照れを
ごまかすためか少し澄ました魅録と、満面の笑みの悠理。最後に凛とした微笑みを
浮かべた清四郎と野梨子が続いた。
6人の入場に、会場は沸きに沸いた。各メンバーのファン達も、さすがに今日は隣に
パートナーがいるので、大騒ぎは出来ないが、憧れの人の晴れ姿を少しでも目に
焼き付けようと、懸命に首を伸ばしていた。

午後6時。いよいよパーティーが始まった。パーティーは三部構成で、前半の第一部は
全員参加の、クラシック曲によるワルツを中心とした社交ダンス。第二部は踊りたいもの
だけが踊ればよい、フリータイム。曲はクラシックに限らず、あらゆるジャンルのダンスに
なる。ここまでが学園主催で、後半の第三部は、在校生達の主催になり、腕に覚えの
あるメンバーがバンドを組み、ロックやポップス、ジャズ等を演奏し、ここに来ると、
いつの間にかどこからかアルコールもお目見えし、お上品な社交ダンス・パーティーの
様相は崩れ、学園生活最後の無礼講が始まるのだ。

第一部は、予行練習通り、まずは男子生徒が女子生徒をエスコートする形で、全員が
フロアに出て、パートナーと並びながら、男女別に交互に列を作る。15人ずつの黒い
列と色とりどりの花のような列が5列ずつ、大講堂に交互に並んだ様はまさに、これぞ
聖プレジデントと言わしめるほど、圧巻だった。今日は、基本的にパートナーチェンジは行われない。
男子生徒はパートナーのエスコート役に徹し、席をとったり、飲み物、食べ物を持って
来るのも彼らの役目だった。ましてや、他の女性に目を移したりするのは絶対に御法度だ。
ダンスは、もっとも難しいとされているワルツから始まった。
高校生活の最後を飾る、夢の大舞踏会が開幕した。

続く
211名無し草:2009/02/17(火) 09:31:39
>Graduation
いよいよパーティ!
6人の踊る様子が楽しみだ。
文章がすごく好みで、続きが楽しみ〜。
212名無し草:2009/02/17(火) 10:44:15
>Graduation
杏樹や可憐ママ視点でも描かれる美可の描写が、すっごくステキでよかったです。
魅野も気になるんですが、この作品の美可はすごく癒される…この二人の組み合わせ、大好きです。
ダンスも楽しにしています。
213名無し草:2009/02/17(火) 11:18:19
>Graduation
杏樹が『フィガロの結婚』のケルビーノみたいで可愛い!GJです。
>212と同じく、自分も美可には癒される。美童はどうしてもカサル王子の時の
ヘタレ運転が記憶に残っているけど、池の鯉の時はちゃんと運転してたね、そういえばw
214名無し草:2009/02/17(火) 13:08:52
>Graduation
美童は普通に大使館の車だと思ったのに、オチがあるなんてw
3人娘のドレス姿を描いてくれる絵師さんいないかな…
歌詞なしで内容を表現するのは一苦労かもしれませんが、
続き待ってますので頑張ってくださいね。
215名無し草:2009/02/17(火) 20:38:58
>Graduation
可憐の女から見ても溜息が出そうな美しさが想像できました。
美童、無事に行けてよかったw
続き楽しみです。
216Graduation:2009/02/18(水) 09:20:17
>>204 今回4レスいただきます。
217Graduation第十一話last dance(47):2009/02/18(水) 09:21:36

絢爛豪華な第一部が終わり、第二部になると、ほとんどの生徒たちは休息の為、一旦
ダンスフロアから引き上げ、男子生徒たちは飲み物と軽食の確保に走った。清四郎と
野梨子、魅録と悠理は一先ず引き上げたが、美童と可憐はこの時とばかりに、フロアの
センターで華麗なステップを踏んでいた。彼等と同じ土俵に上がりたい等と考える者は
ほとんどおらず、社交ダンス部の面々がかろうじて、二人の周囲で華を添えていた。

野梨子は、ダンスの激しい動きに、既に息が上がっていた。清四郎に身長を合わせる為、
普段縁のないハイヒールを履いているので、足も相当疲れていた。
「野梨子、少し疲れたみたいですね。」
靴を脱いで、踵を摩っている野梨子に、清四郎が心配そうに聞いた。
「ええ……。大したことはありませんけれど。今は、休憩させて頂きますわ。」
「何か、食べ物でも持って来ましょうか?」
「では、お水と…サンドイッチを少し、お願いしますわ。」
清四郎は微笑んで、軽食コーナーに行った。隣の席の魅録と悠理はさっきから軽食
コーナーに入り浸りだ。野梨子はぼんやりと、目の前で踊っている美童と可憐を眺めていた。
清四郎は中々戻って来なかった。様子を窺うと、軽食コーナーで、どうも校長につかまっているようだ。
(清四郎は校長先生の、大のお気に入りでしたものね。きっと、お寂しいのですわ……。)

「ふぅ……。」
ふと目をやると、同じく軽食コーナーで、悠理が皿に山盛り一杯のサンドイッチやら
カナッペやらをよそっている。
(昼間準備をしている間は、さすがの悠理も緊張して、ろくに食事をしていませんでしたものね。)
野梨子がクスリと笑うと、隣にスッと風の通る気配がした。

空気が一瞬にして変った。
218Graduation第十一話last dance(48):2009/02/18(水) 09:23:02

「あれ?悠理、まだ戻ってないんだ。」
魅録が驚いた様に言った。手にはこれまた山盛り一杯の皿。
「悠理なら、あそこにいますわよ。」
野梨子が指差した方を見ると、魅録は眉を顰めた。
「あのヤロー、女であそこにいるのなんて、あいつ位のもんじゃないか。
全く、パートナーとしての俺の面子丸つぶれだよ。」
「……まあ、そこは悠理ですから……、皆分かっていますわよ。」
「……まあな……。」
魅録は皿を丸テーブルに置きながら、椅子に座った。

二人っきりで話しをするのは、魅録が久し振りに登校してきた朝以来、初めてだった。
勇気を出してチラリと魅録を盗み見ると、彼は腕と足を組み、ちょっと怒ったような顔をして、
目の前のダンスフロアを睨みつけている。組まれた足が落ち着きなく、小刻みに揺れていた。
居心地の悪さを感じた野梨子は、何か話さなくてはと焦った。
「可憐が、美童の運転で、また大変な目に合ったって怒っていましたわ。どういうことですの?」
魅録は、ダンスフロアから目を離さずに答えた。
「ああ、夕方の渋滞に巻き込まれたんだと。ほら、可憐のマンションは都心にあるからさ。
確かに、運転する方はその辺も考えなきゃな。」
「そういう事でしたの……。でも、間に合って良かったですわ。」
「お前たちは歩いて来たんだって?」
「ええ。車に乗る程の距離でもありませんし……。天気も良かったですしね。
これまでもずっと歩きでしたし。」
「……そうだよな。俺達も、色々考えたんだけど、結局バイクで来たよ。」
「……バイク!」
バイクと聞いて、野梨子の心臓が大きく飛び跳ねた。
野梨子の大きな声に、それまで前を向いていた魅録が、驚いた顔で野梨子に振り向いた。

二人の目が、合った。
219Graduation第十一話last dance(49):2009/02/18(水) 09:24:16

丁度その時、待っていたかのように、『Can’t Take My Eyes Off You』のイントロが誇らしげに流れ出した。
それは、昨秋の文化祭のフィナーレで、魅録と野梨子が一緒に踊った、思い出の曲だった。
2人で、そして6人で、ただ、ただ、笑い合って踊っていられたあの時間を、野梨子は
奇妙な胸の痛みと共に、懐かしく思い出した。

「うん、バイク……。野梨子、どうした?」
「……。」
野梨子はずっと魅録のバイクに乗りたいと思っていた。
あと一度だけでいいからと……。
今を逃せば、恐らくもう一生その機会は訪れないだろう。
思い出の曲は、野梨子の心を思いがけなく勇気付けた。
野梨子はありったけの勇気を振り絞り、黒い瞳を大きく見開き、魅録から目を離さずに言った。
「あの……魅録……わたくし……ずっと……あなたのバイクに…もう一度乗りたいと思っていましたの…。」
(言えた!いや、言ってしまった!どうしよう……!)

この曲を好きなものは多いと見え、フロアはまた生徒達で埋まってきた。
若者らしい元気な曲が会場一杯に高らかに鳴り響く中、
今、魅録は魅入られたかのように、野梨子の大きな黒い瞳から目が離せなかった。
野梨子の瞳をこんなに間近に、はっきりと見たのは初めてだった。
魅録の目がうっすらと細まり、唇が震え出す。

(吸い込まれてしまいそうだ……。)
心臓が音を立てて非常な速さで動き出す。

激しい音楽と若者たちの異常な興奮と熱気のるつぼの中、
魅録と野梨子は、まるでここには自分達しか存在していないかのように、
長い、長い間、見詰め合っていた。
220Graduation第十一話last dance(50):2009/02/18(水) 09:25:29

ふと、これは、デート後の、野梨子の初めての意思表示だということに、魅録は気付いた。
魅録は、野梨子の目に、勇気と不安の混ざった色を認めた。
「……。」

なおも長い沈黙。
ついに、魅録は、思いっきり口の片端を上げて、笑った。
そして、勢い良く立ち上がると、野梨子の手をグイッと力強く引っ張って、言った。

「来い、野梨子!ひとっ走りしようぜ!」

魅録は、野梨子の手を掴んだまま、大勢の生徒達でひしめくダンスフロアの中央を横切り、
出口に向かって走り出した。
出口の手前の軽食コーナーで、清四郎に出会う。清四郎の目が大きく見開かれる。
黒いタキシードの裾を翻し、挑戦的に眉を上げ、切れ長の目を楽しげに光らせている親友と、
顔を真っ赤にして、ドレスのオーガンジーを、泡立てたクリームのように翻して走って来る、
自分のパートナー。

「悪い、清四郎、野梨子を一時間ばかり借りるぜっ!バイクでひとっ走りして来る!
悠理に一時間で戻るって伝えておいてくれ!」
清四郎はその必要はなかった。
身動き出来ない清四郎の後ろで、ガチャンと何かが落ちて割れる音がした。

しかし今、魅録と野梨子は全てを後にし、パーティー会場を手に手を取って抜け出した。

続く
221名無し草:2009/02/18(水) 09:31:35
>Graduation
掻っ攫いキタ―――(゚∀゚)―――― !!
222名無し草:2009/02/18(水) 10:17:15
全校生徒の前でふられる二人可哀想すぎる
魅録と野梨子をこんな友達のことを考えないキャラにしてほしくなかった
最低最悪
223名無し草:2009/02/18(水) 10:39:39
まだ終わってないし、決め付けることはないでしょ
二人が不在の間の清四郎と悠理の反応が気になる
224名無し草:2009/02/18(水) 10:59:17
ヘイト創作でしょ
清四郎と悠理を痛めつけたいために書いてるようにしか見えない
わざわざ注目されてると前書きしておいて
衆人環視の前でパートナーが別の人と逃げ出したんだから
清四郎と悠理の気持ち知ってる魅録と野梨子がそんなことするわけない
だらだら長く書き続けてるのに唐突で説得力もない
こういうシチュが書きたいってつめこんでるだけで
清四郎と悠理が嫌いだから痛めつけたいがために魅録と野梨子まで嫌なキャラになってる
225名無し草:2009/02/18(水) 11:04:48
>いや、言ってしまった!

って野梨子らしくないなー
言葉遣いはキャラから外れるともう別物になるから気をつけて欲しい
226名無し草:2009/02/18(水) 11:16:22
パーティーから掻っ攫いって状況にしたかったから矛盾が出るね
前に清四郎と美童の会話を盗み聞きした魅録の時も
わざと相手がわからないように魅録をあの男って清四郎に言わせてたり
長編だからどんどんぼろが出てる
227名無し草:2009/02/18(水) 11:49:47
やっと魅録が自分の意思で動いた(つД`)

実際の十代は、自分の湧き上がる感情を上手く抑えられるほど大人じゃないから、ある意味リアルだな〜と思う。

しかし、本当に耐性がない人が多いね。
性格がらしくないとか、メンバーがもっと酷い目に遭うSSなんか過去にいっぱいあったのに。

気に入らなきゃ自分で気に入る結末のを書けと何度言われりゃ気が済むんだ?
228名無し草:2009/02/18(水) 11:55:21
ドレスの描写にさんざん行数使って
肝心の心情描写がおざなりだから不満が出るんだよ

湧きあがる感情より、清四郎との友情のほうに行数割いてる
野梨子の魅力を魅録が覚える描写より
友人を大事にしてる魅録の描写のほうが多いのに
その友人のプライドも心も傷つけてまで行動するのが不自然なんだよ

長いのに遅々として進まない話の中でいきなり重要な場面になってるのに
説得力ない行動をキャラにされたら意味がわからない
カップリングが気に入らないんじゃなく、書き方が下手すぎる
229名無し草:2009/02/18(水) 12:06:06
>>227
>しかし、本当に耐性がない人が多いね

一人の連投(ry
230名無し草:2009/02/18(水) 12:13:38
>>227
その人はいつもの耐性のない清×悠厨荒らしですw
気に入らない展開、詳しくは野梨子がモテるか清×野がラブ展開になると
短時間に自演で書き込むのでみんな知ってます。
231名無し草:2009/02/18(水) 12:15:08
可憐の出かけるシーンに7レス使って
クライマックスっぽい今回4レスだよ

悠理のことを思い出しもしないで
(言えた!いや、言ってしまった!どうしよう……!)
だけで話を進めるっていうペース配分が明らかにおかしいでしょ

擁護するのは自由だけど野梨子がひどいキャラにしか見えない
ドレスのこと細かい描写なんかより重要なところをちゃんと描写してほしいんだけど
読んでて不自然
232Graduation:2009/02/18(水) 12:40:57
今回の投下内容については、反響あるだろうなと思っていました。
公共の場に作品を出すことの責任を、つくづく感じています。
力量不足については素直に認めます。皆様のご意見、ご指摘もしっかりと
受け止めたいと思います。
ただ、自分は6人全員が好きだし、ヘイト創作はしていません。
最後まで作品を読んで頂きたいと思いますが、途中で、嫌な思いをさせて
しまった事は申し訳なく思っています。
233名無し草:2009/02/18(水) 12:54:17
前もって予測できたならネタバレになろうが
最終的にくっつくカプを提示して、○○好きな人には辛い表現がある
と書いておいてほしい

人のキャラ使って創作してるんだから自分の作品のネタバレより
好きなキャラがひどい扱いされてる読者の気持ちを考えられないんですかね
234名無し草:2009/02/18(水) 12:58:54
>>232
全員に愛情を持って書かれてることは、これまでの描写でちゃんと
伝わってますよ。大丈夫、みんなわかっています。
いつもの人が一人で暴れてるだけですから、お気になさらず。
続きを楽しみにしています。
235名無し草:2009/02/18(水) 13:03:16
本当に不満あるのが一人と思ってるのかね
IDあるところにいっても構わないんだけど

少なくともヘイトに見えると感じた人間がいるってことは忘れないでほしい
こんなやっつけ描写の擁護こそ一人が頑張ってる印象
236名無し草:2009/02/18(水) 13:43:26
清四郎と悠理大好きだけど、全然嫌な思いしてないよー。
むしろ、一途でいい男(いい女)だなと読者から思われるおいしい役どころだなと思う。
237名無し草:2009/02/18(水) 13:47:31
>実際の十代は、自分の湧き上がる感情を上手く抑えられるほど大人じゃないから、ある意味リアルだな〜と思う。
今回の魅録と野梨子はまさしくこれですよね
でも二人の場合理性が強いから、この後どうなるのか

>性格がらしくないとか、メンバーがもっと酷い目に遭うSSなんか過去にいっぱいあったのに。
そういうのはキャラの性格が破綻しているとか、読む側も別物と扱えたのでは?
この作品の場合、基本的な性格、友情がしっかりしていて、
かつメンバー同士での問題で、悪意がないのに辛い状態だから余計にキツイかも

>肝心の心情描写がおざなりだから不満が出るんだよ
全体的に丁寧なんだけど、魅録と野梨子が惹かれ合う描写は確かに少な目かも
メンバー外の第三者視点での変化とかすごくいいなと思う
他が丁寧だから、普通に丁寧にしたんじゃ、あっさり感じてしまうのかな
くどい位に、友情をひっくり返す様な恋情の描写があれば、もっといいとは思う
今後に期待というか、最後まで気を抜けないというか
これって、気に入らないからあれこれ口を出す、ってことになる?

>カップリングが気に入らないんじゃなく
これ、魅録と清四郎、野梨子と悠理の立ち位置が逆だったら、読み手の反応ってどうなっていたんだろう
238名無し草:2009/02/18(水) 13:50:24
>>235

> 本当に不満あるのが一人と思ってるのかね
> IDあるところにいっても構わないんだけど

じゃ 行けばいいじゃんw
そういう板でスレ立てして、誰からも不満が出ない立派な作品を自分で書けば?
239名無し草:2009/02/18(水) 13:58:47
清四郎と悠理が好きな人には気にならないかもしれないけど
魅録と野梨子が好きな私は、友達の目の前でその思い人と逃げるのがちょっとね

>湧き上がる感情を上手く抑えられるほど大人じゃない
というほど強く惹かれあう描写が魅録と野梨子にない
清四郎と悠理の思いを知って応援しようと心から思ってたくらいなのに
なぜか友達を傷つけるような真似ばかりしてる

言ったもの勝ちは嫌だから魅録と野梨子でくっついてほしいとか前に誰か言ってたけど
本人に言ったもの勝ちしてるのは野梨子だよね?
行動を起こすにしても場所と時を選んでないから友情を無視されてる感じ
魅録はともかく、野梨子は何がしたいのか前後が繋がってないよ
240名無し草:2009/02/18(水) 14:00:45
>>238
そういう煽りしてる時点で同レベル
241名無し草:2009/02/18(水) 14:13:29
要するに期待が大きいから反響が大きいってことかな?

昔みたいに同時期に幾つかの作品が投下されてないから、皆の反応も一点集中になっちゃってるんだろうね。

作者さんは気にせずご自身で思い描いていたまま書き上げて下さい。
人の反応で話の流れを変えちゃったら、それこそ軸がブレまくって収集がつかなくなっちゃうかもよ。
せっかくここまでの長編を頑張って来たんだから、あとちょっと頑張って下さいね!!
242名無し草:2009/02/18(水) 14:14:34
>>239
>友達の目の前でその思い人と逃げるのがちょっとね
確かに友情ないがしろにして見えるから、それをやるのが好きなキャラだと余計に嫌かもね
ちょっとドライブ行くだけ、って言っても残った人たち(当人+外野)にはそう見えないし

>というほど強く惹かれあう描写が魅録と野梨子にない
今までの描写では魅録と野梨子は、友情>恋愛に見える
私だけがそう見えるわけじゃないんだと少しほっとした
243名無し草:2009/02/18(水) 14:27:23
実際悠理はお皿?落とすくらいショック受けてるし
清四郎も怒って追いかけようとしてるのに
それを振り切ってまで逃げるほどのものが感じられない

今までのすべてのシチュエーションが魅×野に都合のいいように存在してて
偶発的に惹かれてっただけにしか見えないんだよ
初めて自発的に起こした行動で友情をまったく顧みないのが駄目なんじゃないかな
244名無し草:2009/02/18(水) 14:53:50
書き方変えても、一人の連投(ry
245名無し草:2009/02/18(水) 14:59:41
なんで毎度こうも野梨子主役作品の批判に必死かねえ。
バレバレすぐるのに。
246名無し草:2009/02/18(水) 15:03:44
連投じゃないことは書いた自分がわかってるから滑稽なんだけど

悠理と野梨子の立場が逆でも同じ批判は上がったと思うよ
擁護してる人は友情を大事にしている部分を今回の投稿分から示してくれ
話はそこから。できないだろうけどね、皆無だから
247名無し草:2009/02/18(水) 15:05:26
過ぎちゃったけど、バレンタインネタ。
女の子達が、逆チョコ貰ってあたふたしてたら
可愛いな。美童とかたくさんばらまきそう。
248Graduation:2009/02/18(水) 15:09:08
>>233 ネタばれの件に関しては、少し前から責任を感じていました。
初めに書かなかったのは、書かなくても問題ないと思ったからです。
でも、好きなキャラの運命が気になる気持ちは良く分かるので、
ここで簡単にお知らせします。
最終的に不幸になるメンバーはいません。
249名無し草:2009/02/18(水) 15:09:52
>>244
とりあえず、一人じゃないから、この作品に批判的なのは
ヘイトだとか最低最悪とかいう気はないけど、惹かれあう描写が足りないとは思ってる
だからより強く思っていると見える清四郎と悠理が哀れに見える

>>245
ただのいちゃもんと苦言とは別に考えた方がいいよ
言い方もあるだろうけど、少し分かる部分もある
全員が野梨子主役だから嫌、というだけではないでしょ
それだけの人もいるだろうけど
250名無し草:2009/02/18(水) 15:13:45
>>248
4人の誰かは絶対に失恋するんだから不幸にならないといわれてもさ…
カップルじゃなく、書かれ方が悪いって批判なんだけど

誰かが諦めて余りがくっついても今までの心情描写を見る限り
ハッピーエンドだといわれても納得できないものになりそうな気がする
はっきり言ってこんがらがった関係を書く腕が足りない
251名無し草:2009/02/18(水) 15:23:23
自演が一人ずーっと荒らしレスしてるが、スルーしようよ。

後、>>248さん
マジレスしないでください。誰か分かりきってるんだからさ。
252名無し草:2009/02/18(水) 15:31:50
自演自演いう前に
今回の投稿分から友情を感じられる場所を示してってば
友情壊れて、顧みないままで誰も不幸にならないとかありえませんよ

自演認定のほうがよっぽど荒らしだ
253名無し草:2009/02/18(水) 15:33:07
いちゃもんはともかく苦言って・・・
苦言を述べるほどのひどい作品じゃ全然ないじゃん。
自分の好みどおりの話なんて普通ない。
それなら前からみんなが書いてるとおり、自分で書けばいい。
とにかく作者さんは変な粘着にも負けず頑張ってくれてるし
作品だってすごいと思う。
苦言を言う人はこの作者さんより素晴らしいものが書けるってこと?
苦言でもいちゃもんでも作者さんがかわいそうだ。
254名無し草:2009/02/18(水) 15:36:00
>>253
同意 作者さんにはめげずに頑張ってもらいたい

あ〜なんで難民板はID出ないんだ…
255名無し草:2009/02/18(水) 15:37:50
次スレからでもここへ移動しませんか?

創作発表
http://namidame.2ch.net/mitemite/
IDは出るし、純粋な創作だけでなく二次創作スレも多いので、
引っ越しても全く問題なさそうなんですが、どうでしょう。
256名無し草:2009/02/18(水) 15:43:39
なかったことにしようと言いながら
ちょっと二人きりになっただけで「言っちゃった!」
とかいうノリの野梨子は野梨子好きからしても首をひねるんだけどね

長編にはありがちだけど話の中で破綻が生じているでしょう
苦言、いちゃもんじゃなく指摘してるだけ
誰も答えられないってことは、ちゃんとしたものが書けてない証拠でしょう
擁護派は理論だててくれない?
257名無し草:2009/02/18(水) 15:49:28
>>255
賛成。
作品の率直な感想を読めるのがにちゃんのいい所だし、自分も気になった時は
遠慮なく指摘させてもらってるけど、誹謗中傷にはうんざり。
ID表示が万能じゃないとはいえ、一度様子を見たい。
258名無し草:2009/02/18(水) 15:50:00
>>235さん、引越しについてのご意見お願いします。
259名無し草:2009/02/18(水) 15:52:34
移動には賛成だけど
R作品は全部エロパロの移動しなけりゃならないと思う
260名無し草:2009/02/18(水) 16:00:14
>>259
それに関しては、明確に線引きはなされていないようです。
↓創作発表板ローカルルールスレ 126あたりをご参照くだしあ
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1230477589/101-200
261名無し草:2009/02/18(水) 16:03:45
>>260
そんなに古くからいる住人じゃないんだけど
R作品が結構多く過去に投稿されてたのが元々気になってたんだ
全年齢板で、創作板っていう目に触れやすい場所に移るなら
R作品は完全に移動にしたほうがいいという提案を一緒にさせてもらいたいな
262名無し草:2009/02/18(水) 16:06:10
移動したとしても今までどおりで問題ない
263名無し草:2009/02/18(水) 16:07:08
>※エロ・18禁等の作品はお絵描き・創作板、エロパロ板へお願いします。
って書いてあるが…
264名無し草:2009/02/18(水) 16:07:48
>>256
もう原作だけ読んどけよ。
265名無し草:2009/02/18(水) 16:12:41
>>262
全年齢板でR作品をやるのは荒らしと同じような行為だと思うんだけど
荒らしを防ぐために移動するのに、
子供がいる場所でエロOKだよと傍若無人な振る舞いをしてもいいの?
266名無し草:2009/02/18(水) 16:17:29
>なかったことにしようと言いながら
ちょっと二人きりになっただけで「言っちゃった!」
とかいうノリの野梨子は野梨子好きからしても首をひねるんだけどね

確かにそうかもしれない。
でも物語が面白くなるんなら、自分は全然構わないけどな。
魅録も野梨子も自分を押し殺してるのを見る方がもどかしかったから。
逆に清四郎と悠理が魅録と野梨子の恋心に勘付いていながら、自分達の気持ちを最優先にしているのは友情としてどうなの?

絡まった恋愛なら誰かは必ず傷つくんもんだし、その過程で友情が一時期不安定にだってなるでしょうよ。
自分は作品を読む上で、そういう過程も楽しんでるよ。
だから今回の展開もわくわくしながら読んでる。

あ、私も賛成です。<引越
Rを含む作品はエロパロスレに、じゃだめかな?
あっちも結構質の高い作品あるし。
267名無し草:2009/02/18(水) 16:18:00
>>263
そのあたりを>>260のスレで話し合ってるから読んでみて。
見たところ、人によってRのラインが違うので、
結局は各人の裁量で…という感じになっているようです。
なので、現状のとおりにエロパロ板と使い分ければ問題ないかと。
268名無し草:2009/02/18(水) 16:20:05
つか、難民板も全年齢対象なんじゃないの?
テンプレにエロ作品に対する注意書きを加えて、後は作者と住民の良識に任せればいいと思う。
エロパロスレが今にも落ちそうなのが気にかかるけどw
269名無し草:2009/02/18(水) 16:20:30
>>265
あくまで引越し先のローカルルールに従うべきかと。
>>260のローカルルールスレを見てみてください。
そもそもここも全年齢板じゃないっけ。
270名無し草:2009/02/18(水) 16:20:52
>>266
清四郎と悠理は自分の気持ちを最優先にしてるけど
相手に告げようとはしてないからちょっとずれてる

生徒会室で無意識に告白したのはOKだけど
正常な状態でバイクの話を出したのは野梨子の自発的行動だよ
271名無し草:2009/02/18(水) 16:23:30
>>268-269
ここが全年齢板なのはわかってる
元々ここにもR作品を投稿するのはどうなのかと思っていたので

各人の裁量といっても、このスレでは完全にRでも
ここで投稿する人もいたようだから
272名無し草:2009/02/18(水) 16:24:33
マジレスしないでくれ
273名無し草:2009/02/18(水) 16:28:53
>>272
ごめん
でも難民板だとまずたどり着ける人が少ないと思うけど
二次創作板となると未成年が紛れ込む確率は今より高くなると思うんだ

だからテンプレのこれを変えられないだろうか
・性的内容を含むものは「18禁」又は「R」と明記してください。

・全年齢板のため制的内容を含むものはbbspinkへ投稿してください。
微エロなど判断に困るものは良識に従って投稿はお任せします。

とか。いい文案が思いつかないんだけど
274名無し草:2009/02/18(水) 16:33:18
難民は結構アバウトだけど
以前、別ジャンルで全年齢板でエロありで二次をやってたスレは
削除依頼が出てないのに削除人判断で、一発即死を食らってた
エロ度は大体このスレに投下されたR18作品と同じくらい

もし移動するならR-18はエロパロへのほうが安全だと思う
275274:2009/02/18(水) 16:36:37
ちなみにその場合は2chとPINKが別物だから
板違いでログ移動してくれない
即日あぼーん

リスクを抱えるより完全に分けたほうがいいと思う
276名無し草:2009/02/18(水) 16:40:20
>>274
ちなみにどの板ですか?
277274:2009/02/18(水) 16:41:29
>>276
漫画サロン
削除人が来ないことでは難民と同じくらいの板
そんな板でも削除されちゃったので油断はできないと思う
278名無し草:2009/02/18(水) 16:58:07
R-18って具体的に言うと
病院坂や雨僕はNGで
エロパロの美悠はおk程度?
279名無し草:2009/02/18(水) 16:58:20
>>277
そもそも創作系の板ではないからじゃない?
ともあれ、論点がブレるのでとりあえずは
引越しをするかどうかに絞りませんか。
280名無し草:2009/02/18(水) 17:01:22
そうだね。また投票する?
281274:2009/02/18(水) 17:04:27
>>279
漫サロにはSSスレはたくさんあって他の創作系はスレストされてない
あぼーん時の状況が今までのログ全部あぼーんで
削除人の「このスレの内容は全年齢板に相応しくないので削除します」
というレスだけ残ってスレスト
次スレを立てても3時間くらいでスレストされた

引越しには賛成なんだけど、引っ越すなら同時にテンプレを変えないとまずい
282名無し草:2009/02/18(水) 17:04:54
・このまま移転に賛成
・Rと完全分離して移転に賛成
・移転に反対

選択肢はこのみっつかな。
283名無し草:2009/02/18(水) 17:08:59
>>281
ここも一応エロ禁止の板なんだよね。
284名無し草:2009/02/18(水) 17:11:29
・Rと完全分離して移転に賛成

私はこれに一票
285名無し草:2009/02/18(水) 17:11:37
>>283
>>271

逆にRと分けちゃいけない理由って何?
未成年だから入れないっていう勝手な理由しか思いつかないんだけど
286名無し草:2009/02/18(水) 17:14:44
>>285
長い連載などで一箇所だけRな場合、どちらへ投下してよいか迷うとか、
そういう不便はあるんでない?
個人的には現状維持でいいと思う。使い分けられてると思うし。

というかこの話はエロパロにスレができたとき、すでに結論が出てるよ。
287名無し草:2009/02/18(水) 17:18:09
投票はここでするの?
288名無し草:2009/02/18(水) 17:18:40
夜組の意見を聞いてからのほうがいいと思う>投票
289名無し草:2009/02/18(水) 17:21:09
>>286
スレストされるリスクはその時に話し合われたの?
290名無し草:2009/02/18(水) 17:26:41
>>286
同意。
Rっていっても、あっちは完全にエロが主役。
こっちは話が主役で、話の流れ的にRを入れたいと言う人がいると思う。
たぶん、そういう人のほうが多いだろう。
前も出た話だが現状維持でいいでしょ。
291名無し草:2009/02/18(水) 17:28:39
>>290
それでスレストされたら?
292名無し草:2009/02/18(水) 17:34:03
Rは入れなくても話は作れるし
エロパロ板はエロなしや微エロが歓迎されてるスレもあるよ
投稿するのに不便だということを一般常識より優先するの?
293名無し草:2009/02/18(水) 17:34:15
>>291
>>260を読んでみて。それでもスレストされると思う?
294名無し草:2009/02/18(水) 17:34:51
テンプレを>>273のように変える案も、現状維持派に含まれるってことで良い?

万が一スレストされたとしても、まとめサイトに避難用スレッドがあるので
そこで話し合いはできるし、何とかなるのでは?
嵐さんお忙しそうなので、何かと頼りにしてしまうのも心苦しいけど…
295名無し草:2009/02/18(水) 17:41:21
>>293
ローカルスレで語ってるのは板住人の主観ででしょ?
削除人判断で削除されるんだったら関係なくスレストされるんじゃない?
296名無し草:2009/02/18(水) 17:43:56
>>295
少なくとも住人はそういう認識を持っていて、
それで進行してるわけだから、線引きの参考になると思う。
297名無し草:2009/02/18(水) 17:46:34
でもここは各人の裁量どころか
Rと書いておけばどんなエロでもOKってことだよね?

260を読んでもエロ大歓迎なんてことは誰も言ってないよ
298名無し草:2009/02/18(水) 17:47:12
>>273のような一文を入れればいいんでない?
299名無し草:2009/02/18(水) 17:49:01
>>297
エロパロができてからは、露骨なものが投下されなくなってるんじゃない?
ちゃんと住人の裁量で住み分けしていると思う。
300名無し草:2009/02/18(水) 17:51:42
>>299
でもそれを明文化しておかないと
未成年が新たに入ってきてエロ投下してもいいんだーってならない?
今までの住人がわかってても移転したら新しい住人が入ってくる可能性を考えて
301名無し草:2009/02/18(水) 18:07:37
本スレでやらずどっか違う板か、嵐さんとこの掲示板かID出るとこで意見を述べたら?
こんなとこでやっても、R嫌いな人が何回も連投してるかもしれんし。
302名無し草:2009/02/18(水) 18:09:30
R話に、荒らしも密かに混じって混乱させようとしてるヨカーンw
303名無し草:2009/02/18(水) 18:10:26
R嫌いって…
未成年にR見せたら駄目だという一般常識も持ってない人がいるのか
304名無し草:2009/02/18(水) 18:11:15
ではここで

ネットでの議論 「議論 = ケンカ腰」という感覚
http://pc11.2ch.net/test/read.cgi/internet/1195779437/
305名無し草:2009/02/18(水) 18:14:55
未成年にR18を見せたら見せた方が罪になるのは知ってる?
全年齢板でR18を載せたら載せた人間が罪になる

上の歌詞の時にも思ったけど
自分がいいものさえ読めればスレや作者さんがどうなろうと構わないの?
306名無し草:2009/02/18(水) 18:35:35
流れを切って悪いけど、何か話がややこしくなってない?
引越のメリットは分かるので移転にはいい機会だと思うけど、敢えてマジレスさせてもらうと
一連のムキになっている人達の様な住人がいる限り、引越してもまた同じ事は起こると思う。

そもそも作品展開やキャラには正解など無いし、他人の脳が勝手に生み出した物なのだから
嫌ならパラレルワールドだと思ってスルーすればよいだけの事。
「こんなの○○っぽくない!」って、もちろん原作の性格が基本だけど、想像の余地はある。
キャラを理想化してる人がいる様だけど大体、原作キャラだって時には無神経だったりして
他者を傷つけたりケンカになったりしてる。(アドベンチャークイズや「剣菱家の事情」とか)
それでも最後には仲直りしてまとまる、っていうのが有閑の醍醐味なんじゃないかねえ。

「読みたくない展開を読まされた!不愉快!」って、なぜわざわざ読むのか。
長期連載なのだし、色々な感情がもつれているのは前から明らかだった。だから少なくとも
「途中」で誰かが可哀想な思いをするのは分かりきっていたし、それが嫌なら読まなきゃいい。
予測できないとしたらその人はまともに読んでいないか、読解力不足かのどちらかでしょ。

「友情が感じられないのは作者の力量不足」とか、「特定のキャラを傷つける為に書いている」
とか言ってる人には、あなたがそう感じたなら仕方が無いね、としか言い様が無い。
確かに作者に未熟な所も色々とあるかもしれないが、仕方が無い。プロでもないのだし。
ただ少なくとも自分は普通に読んでいて、作者はどのキャラにも愛着を持って書いていると
感じたし、友情も感じられた。
けどそれはそれこそ各自の受け止め方なので他者に押付けはできないし、するつもりもない。
ただ、「こういう場所では、読みたくない物が目に入る事を完全に避ける事は不可能。
読んでしまった物は我慢するかスルーして、後は読まない方がいい」と言いたい。

だから結局、「自分の読みたくない物を読まない為には、お約束に頼るだけでなく
自分の頭で考える」こと、そして
「気に入らない物を読んだとしても自分は自分と割り切る」っていう、普通なら当たり前に
出来る事をやればいい話で、それが出来ない人はスルーするしかないと思うな〜。
307名無し草:2009/02/18(水) 18:38:53
荒らしに正論を説いても無駄でしょ
荒らしをスルーできないほうもできないほうだし
308名無し草:2009/02/18(水) 18:47:57
引越しをするかどうか

論点をここに絞らない?
Rをどうするかは後回し。
309名無し草:2009/02/18(水) 18:55:36
IDなんて簡単に変えられる。
ID違うから別人!とか言い張って結局同じということもあるので。
>>307に同意だけして移転はどっちでもいい。
310名無し草:2009/02/18(水) 18:57:31
二次創作に相応しい板があるなら、そちらでやるのが筋だと思う。
移転に賛成。
Rの注意書きは要検討。
311名無し草:2009/02/18(水) 19:14:43
有閑好きが集って妄想するスレなので、必ずしも二次創作板でなくてもいいと思うが…
まあ実質そうなってるけど。

難民板が好きだしいずれは戻ってきたい。
でもいくら言っても荒らしをスルーできない現状をどうにかしたいので
とりあえず移転してみるに賛成。
312名無し草:2009/02/18(水) 19:16:03
ごめん、二次創作板じゃなくて創作発表板だった
313名無し草:2009/02/18(水) 19:28:48
R問題はまた熟考の必要があるとして、
とりあえず本スレは難民にとどまってほしいな。
314名無し草:2009/02/18(水) 20:37:03
移転には反対。
アラシや作品への多少の意見もここの醍醐味。
住人はスルースキルを。
315名無し草:2009/02/18(水) 20:58:44
IDの出ないスレで投票してもね
316名無し草:2009/02/18(水) 21:13:05
アラシが醍醐味とはまったく思わないし、迷惑でしかないが、
移転には反対。
なんでアラシにあわせなきゃならん。
まあ住人のスルースキルを鍛えないといけないのには同意だし、
キツイ意見はアリだとは思ってるが。
(上の方で揉めたレスは、キツイ意見というより中傷に見えるけど)
317名無し草:2009/02/18(水) 21:16:13
移転することが「アラシにあわせる」ことになるのが理解できん。
むしろここに留まることが「アラシにあわせる」ことじゃないのか。
ID出なければそりゃアラシには都合がいいだろうw

移転することによるデメリットがないなら留まる意味はないと思うのだが。
318名無し草:2009/02/18(水) 21:27:00
R表現に関してはとりあえずおいといて、

移転のメリット
・ID表示により荒し行為が(多少)しにくい
・二次創作など創作活動メインの板であるのでスレ主旨には合致する
移転のデメリット
・荒し行為に屈服したように思える

移転しないメリット
・慣れ親しんだ板を離れないで済む
移転しないデメリット
・荒し行為はこれまでと変わらない

補足ヨロ
319名無し草:2009/02/18(水) 21:51:39
移転する必要ないと思う
320名無し草:2009/02/18(水) 21:55:13
移転大反対
321名無し草:2009/02/18(水) 22:02:18
移転すると荒らしに負けたみたいでやだ
322名無し草:2009/02/18(水) 22:19:03
デメリット
・移転先候補の板が、どれもこのスレに馴染まない気がする
323名無し草:2009/02/18(水) 22:20:34
自分も移転反対。
荒らしのために住人が皆動くなんてばからしい。
ただ明らかにいつもの荒らしなのに、荒らしに構ってしまう人がいるので、
テンプレかまとめサイトにでもこれまでの特徴などまとめて対策して欲しい。
荒らしくる→荒らしに構う人が出てくるの流れは、せっかくのスレの流れを
ぶった切られたみたいでキツイ。
324名無し草:2009/02/18(水) 22:23:17
私も荒らしのために移転するのは嫌。
325名無し草:2009/02/18(水) 22:25:13
反対意見も多いし、移転は無しでFAってことで。

Rについては全面排除でいいと思う。全部エロパロ行きにすべき。
連載途中のものでRが含まれる可能性があるのは、
全部あっちで引き受けてもらえばすむことだし。
326名無し草:2009/02/18(水) 22:56:57
>>325
同意。R18は見せた方が罪になる。犯罪者になりたくなんかない。
327名無し草:2009/02/18(水) 23:03:09
ID出るところで投票しない?今日の0時から。
賛成反対の理由もきちんと添えることにして。
328名無し草:2009/02/18(水) 23:04:12
移転は無しでいいんだよね?
Rはエロパロ行きに賛成。あとはカップリングの明記を徹底して欲しいな。
329名無し草:2009/02/18(水) 23:17:52
>>247
美童、バラマキに買ったチョコの一部を杏樹に対抗する為のカウント用にストックしてたりしてw
330名無し草:2009/02/18(水) 23:37:03
移転無しなの?今きっちり話し合ったほうがいいと思う。
賛成の人も反対の人も、理由をきちんと説明してほしい。
331名無し草:2009/02/18(水) 23:37:17
最低限のカップリング明記は必要だろうけど、
(たとえば○×■と△×■の三角関係です、とか)
最終的なカップリングについては、ネタバレになるし、作家さんの裁量でいいんじゃないかな。

最終カプが分からないと不安で読めない人は、オチがついてからまとめて読むのをオススメする。
332名無し草:2009/02/18(水) 23:43:24
>>327
ID出る場所ってどこで?
それにもう結論出てるよ
333名無し草:2009/02/18(水) 23:46:49
ここでいいんじゃないの

ネットでの議論 「議論 = ケンカ腰」という感覚
http://pc11.2ch.net/test/read.cgi/internet/1195779437/
334名無し草:2009/02/18(水) 23:48:38
と、IDが出るのがまずい人が申しております

スマン、煽ってしまった
335名無し草:2009/02/18(水) 23:50:30
昼組は移転賛成が多め、夜組は移転反対がほとんど
それで移転無しと決め付けるのもどうかと思うけど、反対者が多いのならすることないか
それも、ID出ないから実際何人なのか分からないといわれそうだけど
336名無し草:2009/02/18(水) 23:51:31
移転しないメリットがいまいちわからん。
337名無し草:2009/02/18(水) 23:52:19
したくないから。以上。
338名無し草:2009/02/18(水) 23:54:37
だから移転しないって投票ではっきりさせようよ。
きちんと理由を書いてない人は無効ね。
339名無し草:2009/02/18(水) 23:56:47
仕切んなよ
いいじゃん移転なしでもう
340名無し草:2009/02/19(木) 00:03:43
読み手の都合より書き手の気持ちに配慮したら?
ID付きの場所で書くことに抵抗がある人もいるかも
書き手がぜひID付きでと言ってるなら別だけど
341名無し草:2009/02/19(木) 00:28:33
書き手の自分からしたら、創作意欲にIDの有る無しはあんまり関係ない。
ただ、難民に愛着があるから、なんとなく移転はなぁ…という感じ。
たとえば、本スレ廃止して、したらばで連載しろと言われたのと似たような気分。
342名無し草:2009/02/19(木) 01:16:07
自分はとにかく、Graduationを始めとして連載陣の続きや小ネタ妄想が読みたいし、書きたい。
今までも荒されたりはあったけど、それでも難民で30スレやってきたんだから、このままでいいじゃないか。
343名無し草:2009/02/19(木) 02:03:06
伸びてるからwktkして開いてみたらごらんの有様だよorz
344名無し草:2009/02/19(木) 02:10:24
結局は荒らしに踊らされた状態か、このスレ
345名無し草:2009/02/19(木) 02:34:38
>>343
同感。寝る前の楽しみなのに。゚(⊃д`)゚。

悪いけど、このスレで移転議論を続けている人たちも、>>4のお約束
違反だよ。
>議論もNG(必要な議論なら、早めに別スレへ誘導)。

>>304の時点で既に誘導されているんだし、この後も議論や投票を
続けたいなら、↓こっちに移動して欲しい。
ネットでの議論 「議論 = ケンカ腰」という感覚
http://pc11.2ch.net/test/read.cgi/internet/1195779437/

妄想スレは妄想や作品投下のためのスレ。
大切な議論であっても、それによって妄想レスが書きにくくなったり、
作品投下がしにくくなってしまったりするなら、本末転倒だよ。
346名無し草:2009/02/19(木) 02:50:04
向こうにこれまでのまとめを書いてみた。
http://pc11.2ch.net/test/read.cgi/internet/1195779437/34-
補足・意見・投票などは、向こうのスレでよろしく。
347名無し草:2009/02/19(木) 03:06:34
>>247 >>329
バレンタイン妄想を書き損なっていたから、今になって話せて嬉しいw
逆チョコブームで、今までとは違う展開がありそうだよね。

杏樹の方が美童より若い分、流行にも敏感で、逆チョコブームをうまく
利用したピンポイント攻撃をしそうなイメージ。
美童は「何で逆チョコ?」と、つい今までのやり方に引きずられてしまい、
杏樹に大差で敗れるとかw
348名無し草:2009/02/19(木) 06:51:11
>>343
ワロタw全く同じ。
Graduationいいところで終わってて、続きが気になる。
作品投下どんどんしてほしい〜!
349Graduation:2009/02/19(木) 09:44:57
>>217 今回9レスいただきます。

最善は尽くしますが、自分には今の自分の実力以上の物は書けません。
「このレベルの作品」として割り切って読んで頂けない方は、お手数ですが、
スルーして頂いた方が良いと思います。
スレを乱して申し訳ありませんでした。
350Graduation第十一話last dance(51):2009/02/19(木) 09:46:23

裏門の近くのいつもの場所に、バイクはあった。魅録は、置いてあった自分のヘルメットを野梨子に手渡した。
「悠理のないから。ちょっと大きいと思うけど。」
「でも、魅録は……?」
「俺は、大丈夫だよ。」
魅録は笑った。魅録はフワリとドレス姿の野梨子を後部シートに乗せた。悠理の時は
燃える太陽のように思ったが、野梨子は今、夜空に浮かんでいる青白い月のようだった。
魅録は、野梨子がヘルメットをつける前に、髪に差してある白薔薇を痛まないように取って、
そっとポケットにしまった。自分の胸には朱色の薔薇。その事実は、二人の間が近い
ようで遠いことを表していた。魅録はタキシードの上着を脱ぐと、野梨子に渡した。
「今夜はかなり暖かいけど……風をきったら、肩が出たままじゃ、さすがに寒いだろ。」
野梨子は頷いて、素直に羽織った。
「いいか、しっかり掴まれよ。今日は今までよりも飛ばすぜっ!」
「はいっ!」
言われるまでもなく、野梨子は魅録に力いっぱい抱きついた。
「行くぞっ!」

魅録がバイクを停めたのは、学校からあまり遠くない、しかし都心というよりは郊外に
あたる土手の下だった。土手を登ろうとすると、柔らかい土の階段のため、野梨子の
10cmのヒールが土に埋まってどうにもならなかった。魅録はひょいと野梨子を抱き上げ、
さっさと階段を登ると、広い川辺にやって来た。そこからは土も固くなっており、野梨子も歩くことが出来た。
川の向こうは違う県だ。清々として広々とした空間に、土手に沿って桜が並木道を作っており、
早い種類のものはもう薄桃色の花を満開にしていた。
見上げれば空には大きな満月。眼前を見れば、暗青色の揺らめく川面にその満月が映っていた。
近くで、野外ダンス・パーティーを催しているらしく、人々の歓声とざわめき、
そして生バンドによる演奏が聞こえて来た。
351Graduation第十一話last dance(52):2009/02/19(木) 09:47:19

川辺は、驚く程暖かかった。野梨子は上着を魅録に返した。
二人は川面を見下ろせるベンチに腰を下ろそうとした。
「汚れてないか?せっかくのドレスが心配だな。」
魅録は白いポケットチーフを取り出すと、ベンチに敷こうとし、手を止めた。
「あ、これ……。」
白い布を広げると、優美なYの飾り文字が見えた。
去年のクリスマス・プレゼント交換で、魅録が野梨子から貰ったものだった。
二人は思わず顔を合わせ、クスリと笑い合った。魅録が頭を掻きながら言った。
「シルクのチーフが見つからなくってさ、白いハンカチでいいやと思って、最初に目に
入ったやつ、持って来たんだけど……、偶然だな。でも、これじゃ、もったいなくて下に敷けないな。」
「ハンカチは使う為にありますのよ。」

野梨子はそっと魅録から自分の刺繍したハンカチを取ると、ベンチに惜しげもなく敷いて、
その上にスカートに気をつけながら座った。座ると、妖精の羽のような薄いオーガンジーが、
本領を発揮するかのように、煙るようにフワリと広がった。魅録も、その横に腰を下ろす。
するべき事をして、一応落ち着くと、妙な静寂が二人を襲った。
あんなに二人で話したいと思っていたのに、いざとなると、野梨子は何を話したら
良いのか全く分からなかった。
風に乗ってやってくる、パーティーのざわめきと演奏が有難かった。

「今日は、かなりスピード出したけど、怖くなかったか?」
「もう、慣れましたわ。それに、魅録の運転だと、安心できますの。楽しかったですわ。
有難うございます。これで……。」
「これで?」

(これで、もう、心残りはありませんわ……。)
しかし、野梨子は微笑んだだけだった。

352Graduation第十一話last dance(53):2009/02/19(木) 09:48:08

魅録は月明かりの下の野梨子を、目を細めて、眩しげに見つめた。
ふと思い出して、ポケットから白薔薇を出し、野梨子の髪に戻してやる。
その時、パーティー会場から、大きなアナウンスが聞こえた。
「それでは、次が今日のパーティーのラスト・ダンスになります。曲は、『unforgettable』。
今宵ひとときの美しい思い出を、永遠に忘れないように!」

ナタリー・コールに似たベルベット・ボイスが、桜の花びらと共に、甘く優しい春風に乗って流れて来た。
二人は顔を見合わせた。
「……どうする?」
「……踊りたいですわ……。」

二人は見詰め合ったまま、どちらからともなく静かに立ち上がった。
美童たちから教わった、もう一つのチークダンス。
魅録は左手で野梨子の右手を取り、野梨子の左手は魅録の右肩に、魅録の右手は野梨子の背中に回された。

ぎこちない、不器用な、二人のダンス。

魅録の胸には赤い薔薇。野梨子の髪には白い薔薇。
それは本来ならば、パートナーではない者同士の、禁じられたダンスだった。
しかし今、二人は周囲を気にする事なく、お互いの目を食い入るように見詰め合い、踊り続けた。

353Graduation第十一話last dance(54):2009/02/19(木) 09:48:59

春風に舞う、緑の黒髪。細くたおやかな、泣き出しそうに下げられた眉。
黒目がちの潤んだ大きな瞳。紅潮した頬。
そして、もの問いたげな、小さな赤い唇……。
忘れようとしても、忘れられない。
それは、優しく、柔らかく、しっとりと甘く自分を包み込んだ……。

シャープな頬と顎のライン。鋭角的な眉と目尻は、今は哀しげに下がっている。
品の良いすっきりとした鼻。不敵な笑みがトレードマークの口元は、少し開けられ、震えている。
その唇を、自分は知っている。
それは、接吻としての意味は持たなかったかもしれないけれど……。
それでも、それは、燃えるように熱く、痺れるように力強く、自分を押さえつけた……。

そして、今、その瞳は熱っぽく、狂おしげに、野梨子の瞳を捉えて離さない。
野梨子は、この様な魅録の瞳を見たことがなかった。
野梨子の全身が甘い予感に慄いた。
(もしかして……魅録も……わたくしを……?)

満月の下、早咲きの桜の花びらの散る中で、二人は踊る。
今宵、最初で、最後のダンスを……。
野梨子は眩暈がするような幸せに酔い、目を閉じる。
Unforgettable……今日、この時をわたくしは決して忘れない……

354Graduation第十一話last dance(55):2009/02/19(木) 09:49:57

魅録は野梨子の黒い瞳を見つめながら思う。

もし、今、自分が燃え上がったばかりの熱い想いを放流し、野梨子を思いっきり抱きしめ、
その唇に想いのたけの情熱をぶつけたら……
……自分たちの人生は大きく変わってしまうのだろうか……?
野梨子は何を得て、何を失うのだろう……
そして、自分は……

野梨子の気持ちを知っている今、それをしてはいけないという絶対的な理由はない。
なのに、それを躊躇わせるのは……
清四郎の、野梨子への真剣な愛情を知っているから……?

(僕は野梨子を愛している……)
(清四郎!清四郎!遅いですわよっ……)
「……」

あのような状況の中でさえ、最終的には清四郎の名を呼んだ野梨子。
19年間彼女の隣にいる、心から野梨子を愛している清四郎から、今、野梨子を奪ったとして、
果たして自分は、野梨子を清四郎よりも幸せに出来るのだろうか?
野梨子はそれを望んでいるのだろうか?
野梨子は心の奥底ではやはり……?

その時、ふいに、魅録の脳裏に、悠理の泣きそうな顔が浮かんだ。
あれは、いつの事だっただろう……

(おまえは、傍にいてくれるよな?あたいを置いて、どっかへ行っちまうなんてこと、ないよな?)

魅録の動きが止まった。
355Graduation第十一話last dance(56):2009/02/19(木) 09:50:58

野梨子が顔を上げる。
魅録は、怒ったような、泣きそうな顔で宙を睨んでいた。
曲が終わった。
二人はどうしていいか分からず、立ち尽くしていた。

「ちょっと、歩こうか。」
野梨子は、少し丸めた魅録の背中を追うように早足で歩いた。
途中で魅録は何かに気が付いたように、立ち止まって後ろを振り向いた。
「ごめん。」
そして、野梨子の歩調に合わせて、歩いた。時々、手が触れる。
野梨子が、その感覚に居心地の悪いものを感じて、体を魅録から離そうとすると、
ふいに、野梨子の手が、大きく熱い手の平に包まれた。
「……!」
魅録はただ、前を向いたまま、黙って歩き続けている。
魅録は迷っているのだ……と野梨子は悟った。
野梨子は、泣かないようにするのが、やっとだった。
二人は、手をつないだまま、満月と星と山桜と川面に囲まれた土手を歩き続けた。

幾つかの藪を越えた所に開けた場所があった。そこは先ほどのパーティー会場の跡だったようで、
ステージや、楽器、椅子等がそのままの状態で残されていた。ステージから垂れて
いる案内を見ると、どうやら明日また開かれるらしい。たまたま誰もいなかった。
野梨子の目に、ピアノが映った。
「魅録……。今日は、お願い事ばかりで申し訳ないですけれど……わたくし、魅録の
ピアノが聞きたいですわ……。弾いて下さいます?」
魅録は頷くと、真っ直ぐにピアノに向かった。少し弾き鳴らす。
「いけそうだな。何か、リクエストあるか?」
いつ、人が戻って来るか分からない。野梨子は急いだ。
「まずは、ショパンのノクターン9番を。そしてその後に『月の光』をお願いしますわ。」
魅録は口はしを少し上げると、姿勢を正して座り、ピアノに向かい合った。

356Graduation第十一話last dance(57):2009/02/19(木) 09:51:51

ショパンの夜想曲が流れる。野梨子は魅録がピアノを弾く姿が好きだった。
全ては音楽室で魅録がピアノを弾いた、あの時から始まっていたのかもしれなかった。
夜想曲の優しくて、甘く切ない調べは、野梨子の、既に抑え切れなくなる一歩手前の感情を刺激した。
野梨子は息を殺し、瞬きもせず、ピアノを弾いている魅録の姿をひたすら見つめ続けた。

(わたくしは……あなたが好き……)
(もし……もし、わたくしが、今、そう言ったとしたら……)
(あなたはどんな顔をするのだろう……?)

目の前の魅録は、かすかな微笑みを浮かべながら、視線を鍵盤に落として弾いている。
野梨子は少し前の、自分を見つめる魅録の狂おしげな瞳を思い出す。
そして、彼らしくなく丸められた背中と、手の平の熱さを。
野梨子は目を伏せた。

(でも……わたくしには言えない……)

あれだけ激しく、魅録をこの世で只一人の男性として愛している悠理。
魅録の目の前で、清四郎の胸に飛び込むような自分は、そんな悠理を泣かせてまで、
魅録に気持ちを伝える資格はない……。
悠理には魅録の他、誰もいない。
でも、自分には……。

夜想曲が終わると、魅録が言った。
「今度は俺からのリクエストだ。野梨子、『月の光』を舞ってくれないか?」
野梨子も同じ事を考えていた。自分達は似ているのだ。
野梨子はステージではなく、川辺に立った。
照明が落ちている今、彼女を照らす明かりは、まさに月の光そのものだった。

357Graduation第十一話last dance(58):2009/02/19(木) 09:52:47

魅録が弾き始める。
野梨子の体が自然に動く。
ピアノの音色がとろりとした蜜のように甘く、官能的に、野梨子の全身に纏わりつく。
野梨子は舞いながら、ピアノの調べを通して、魅録に全身を愛撫されているような狂おしい感覚に陥った。

野梨子の真珠色のドレスは、満月の下で、ぼうっと怪しく輝き、本物の月の精のようだ、と魅録は思った。
自分の奏でるメロディーに合わせ、一寸の狂いもなく舞い踊る野梨子は、この上なく
清純でありながら妖艶でもあり、一種狂ったような危険な魅力を放っており、魅録は
指は鍵盤を追いながらも、目は野梨子から一瞬たりとも離せなかった。
これは、自分の知っている野梨子ではない。
彼女は月の精だ。

曲が終わった。
野梨子は、文化祭の時と同じように、ベールをピアノに放った。想いのたけを込めて。
見えないベールは、二人の間を放物線を描いて渡り、魅録は立ち上がって、右手でそれを取った。
それは、二人が、この秘密の恋の共犯者であることを認め合った瞬間であり、
同時に、この短い恋の終焉でもあった。
舞が終われば、月の精は月へ帰らなければならない。

ついに、魅録は言った。
「もう、9時だ……。悠理と…清四郎の所に戻らないとな。一時間を大分過ぎちまった。」
荒れ狂う波のように、絶え間なく打ち寄せる互いへの想いは、結局、何も語られることなく、
それぞれの心の内に再び飲み込まれた。

358Graduation第十一話last dance(59):2009/02/19(木) 09:53:46

再び魅録の上着を羽織ってヘルメットをつけ、バイクに乗る直前、野梨子は魅録に言った。
「遅くなったので、皆心配していると思いますの。学校に着いたら、わたくし先に会場に戻りますわ。
魅録はバイクを片付けて、後からいらして下さいな。」
「……分かった。」

帰りは行きよりも速かった。二人はあっという間に学校の裏門に着いた。
ブロン、ブロン、ブロ………。
エンジンが完全に停まった後、魅録はバイクに跨ったまま、一服した。
夜空に白いゆらめきが上って行くのをぼんやりと見つめる。
煙草が半分になったところで、地面に落として、足で火を踏み消す。
ゆっくりと後ろを振り向く。
目に入ったのは、後部シートの上にきちんとたたまれた黒い上着と、銀のヘルメット……。
大講堂へ向かう並木道に目をやる。
月明かりに照らされた暗闇の中、ずっと先の方に、ぼんやりと小さな白い輝きが見えて、消えた。

事務的に上着を取り上げ、羽織る。ポケットに手をやると、何か柔らかいものが手に触れた。
出してみると、くったりとした白薔薇が現れた。
「ああ……」
魅録は、足を投げ出すと、空を仰いで、手で顔を覆った。

後悔はない。だが、これは……、この気持ちは……。
魅録は動けなかった。

続く

359名無し草:2009/02/19(木) 10:58:47
>Graduation
書き続ける気持ちが萎えてしまったのでは、と気になっていたので、
続きが読めて本当に嬉しいです。

読んでいて、もどかしくも切ない気持ちがこみ上げてきました。
うまく言えませんが、忘れていた大切なものを思い出させてくれる
お話だなと感じました。
完結した時はもう一度じっくり読もうと、今から楽しみにしています。
360名無し草:2009/02/19(木) 11:07:37
昨日大荒れだったので、投下があるか心配していました。
来てくれてよかったです。

会場に清四郎や悠理はいなかったのかなと
気になってます。
361名無し草:2009/02/19(木) 11:10:03
>Graduation
乙です。
ピアノを弾く魅録を久しぶりに読めてうれしかった。
愛撫って言葉が出てきたのにドキっとしました。

作品の感想とは関係ないですが、作家さん自体が煽りレスをスルーするスキルを上げていただかないと。
「腕がない」ってレスは前にも全く同じ煽り方をしたレスがあったし
いつもの粘着荒らしというのは、大体分かると思うんですが。
作家さんが煽りにレスすると、煽りもつけあがりますよ。

バカなレスには構わず、Graduationだけを投下してくれるのを望んでいます。
本当に作品は楽しみにしてるだけに、前のときも思いましたが気になります。
362名無し草:2009/02/19(木) 13:31:53
>Graduation
投下してくださってありがとう。
透明感のある繊細な描写に、浸ってしまいました。
ギリギリまで迷いながら、結局踏み出せない二人がもどかしく、切ないです。
これがラストダンスだとしたら悲しすぎる…

それと魅録と野梨子の心理描写についてですが、自分は精神的に深く惹かれあってしまう二人に
心から共感しているし、清らかで初々しいこのカプのイメージそのものだと思っています。
続き楽しみです。
363名無し草:2009/02/19(木) 16:41:43
>Graduation
魅録と野梨子がお互いに惹かれあっているのを自覚しながらも自分の気持ちを押し込めている
様子がせつなくて、やはりこの二人はすごく似ているのかなと思いました。
バイクやダンスなど、動きがあったのに二人にとってすごく濃密で静かな時間が過ぎていったように
感じました。
続き待っています。
364名無し草:2009/02/19(木) 16:57:45
むしろこの状況で連載を続けられるその神経がわからない。

全然面白くない連載のために消費されたレスのことも考えてよ。

少しは遠慮したらどう?

文才もキャラへの愛情もまったく感じられない作者さん。
365名無し草:2009/02/19(木) 17:03:35
お前がな、荒らしさんよ
366名無し草:2009/02/19(木) 17:13:42
愛撫って表現はやめてほしい
野梨子の思考からは考えられないような言葉だから
367名無し草:2009/02/19(木) 17:13:42
○荒らし・煽りについて
・「レスせずスルー」が鉄則です。指差し確認(*)も無しでお願いします。
 *「△△はアオラーだからスルーしましょう」などの確認レスをつけること

・荒らし・アオラーは常に誰かの反応を待っています。
 反撃は最も喜びますので、やらないようにしてください。
 また、放置されると、煽りや自作自演でレスを誘い出す可能性があります。
 これらに乗せられてレスしたら、「その時点であなたの負け」です。
368Graduation :2009/02/19(木) 17:14:46
すみません。
以後気を付けます。
369名無し草:2009/02/19(木) 17:16:07
お、今スルー検定開始になってるねw
370名無し草:2009/02/19(木) 17:16:17
>>368
だからスルーしなきゃだめだって!反応したら負けですよ。
371名無し草:2009/02/19(木) 17:16:58
>>366
だったらここくるなカス




消えろ。
372名無し草:2009/02/19(木) 17:19:48
367が言ってるそばから、誘い出してるなーw
「煽りや自作自演でレスを誘い出す可能性があります」に当てはまっててわろす。
373名無し草:2009/02/19(木) 17:24:00
「Graduation」の作者には「大女優は幸あれといった」の作者くらいの文才が欲しいな
374名無し草:2009/02/19(木) 17:30:18
大嫌いな大女優を巻き込もうと必死w
375名無し草:2009/02/19(木) 17:44:21
大女優は面白かった。
毎日楽しみにしながらこのスレを覗き込んだものだ。
376名無し草:2009/02/19(木) 17:45:05
グラジュエーション  タヒね
377名無し草:2009/02/19(木) 17:48:03
>>376
お前がなwwwwwwww
378名無し草:2009/02/19(木) 18:47:09
現実タンが今日こんなにおお暴れしてるのは
Graduationの清×野の「僕は野梨子を愛している……」
が余程気に入らなかったみたいだなw
379名無し草:2009/02/19(木) 19:24:04
私は移転までしなくっても、スルーすりゃそのうち飽きて止むよ。と思ってる派。
ってか、何度かあったんでしょ?こんな事。
そもそも、名前「名無し草」の発言は基本的に読んでないし。

でも、板移転でも別にOK。
上で誰かが言ってたけど、「作者さん新規開拓」っていうのができそうなのがいいな。
まぁ、創作板住民がどんなメンツか、どんな空気かわからないけど。

というかですね〜
基本的な問題なんですが、

「難民」ってそこまでしがみつくような板か???

と、思うと「別に移転でもいっか〜」と思ってしまうwww
380名無し草:2009/02/19(木) 19:25:23
>>379
すみません!板間違えました!スルーしてください!
381名無し草:2009/02/19(木) 19:28:07
現実タンは分かっているのだろうか?
君のおかげでもし清悠書いたとしても投下しにくいんだぜ?
382名無し草:2009/02/19(木) 19:36:59
現実タンって誰ですか?
383名無し草:2009/02/19(木) 20:21:23
現実たんはもうどこかに逝きなさ〜い
384名無し草:2009/02/19(木) 20:23:27
いきなり静かになったな。
385名無し草:2009/02/19(木) 20:27:38
食事中か、寝てるかか。
相変わらず短時間集中型だな。
386名無し草:2009/02/19(木) 21:11:40
明日またGraduationの続きが投下されたら、私は作者の野太い神経を疑う。
きっと作者は、デブで豚な引きこもりオバちゃんにちがいない。
387名無し草:2009/02/19(木) 21:12:54
食事は終わりましたか?
388名無し草:2009/02/19(木) 21:13:20
あら、お食事終わったの??
389名無し草:2009/02/19(木) 21:14:10
>>386
きっと自分がそうなんだろうな〜>デブで豚な引きこもりオバちゃん
390名無し草:2009/02/19(木) 21:16:07
>>388.389
スルー検定が休憩挟んでまた始まったよ!スルースルーww
391名無し草:2009/02/19(木) 21:26:36
きゃははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
392名無し草:2009/02/19(木) 21:28:27
>>388
荒らしに構う前にsageてねww
393名無し草:2009/02/19(木) 22:36:41
ごめんなさい。。
394名無し草:2009/02/19(木) 23:18:46
有閑メンバーがネットしてたら

魅録と野梨子は何年やっても荒らしスルーできなさそう
清四郎は荒らされたら即時に相手を特定して徹底的につぶしそう
悠理は剣菱の財力で敵を消滅させそう
美童と可憐は常に華麗にスルーしてそうだ
特に可憐は「醜い人間の嫉妬って気持ちいいわ〜」と高笑いしてそうw

みんなも可憐になーあれ
395名無し草:2009/02/19(木) 23:26:01
え…?
魅録や野梨子のほうが完全にスルーしそうな気がするが。
396名無し草:2009/02/19(木) 23:31:39
>>394
荒らしスルー出来ない=全然褒められたもんじゃないんだから
そこを有閑メンバーに当てはめんなよ。
それとも、これも荒らしが野梨子KYとでも書きたいための釣りなのか?
397名無し草:2009/02/19(木) 23:38:37
あまり面白くないけど、喜んでる人もいるんだし、
ツマラなければ読み飛ばそうぜ。
別の作家がせっかく自分好みの話を書いてくれるかもしれないのに、
こんな雰囲気じゃ次の人も投下しづらい。
そんな事もわからんのか。
398名無し草:2009/02/19(木) 23:49:41
>>395>>396

>>394です
自分は野梨子や魅録のの生真面目さがスルー苦手そうだと思って書いたんだ
自分の友達見てると生真面目なヤシほどスルーが苦手だから
友達の悪口とか書かれたらPCの画面にむかってムキーとなって
「わたくしを悪く言うのは勝手ですけれど、わたくしの友人に関する罵詈雑言は許せませんわ」
と息巻いている野梨子を妄想してしまっていたよ
申し訳ない
そういう野梨子や魅録って愛いヤツ〜って気分で書いてた
ごめんなさい
399名無し草:2009/02/20(金) 00:08:31
>>398
いんや、私にはそのニュアンス伝わってきたよ
元気出せ
400名無し草:2009/02/20(金) 00:17:35
>Graduation
正直、え、なんでこの展開、と思うことはある
けどそれ言ったら嵐認定されるだけだから、スレの事考えるならスルーしとこう
本当に嵐ならどうしようもないけど、そうでないと認識しているのなら止めた方がいい
嵐認定する方も粘着でウザいし、それでスレが荒れるのは本意ではないだろうし
作品に対する捕らえ方は人それぞれ、と自重するしかないし、嫌なら読まなきゃいい
もうすぐクライマックスだし、このハイペースで投下できたのはすごいと思う
作家さんには最後までがんばって欲しいし、気持ちよく投下して欲しい
401名無し草:2009/02/20(金) 00:44:50
とにかく皆、落ち着いて欲しいな。

ここはあくまでも「楽しむために」各自が妄想を「語る」スレなのであって、
他者の妄想を批判したり、論理性や正しさを競う場所ではないという事を
心に留めておいて欲しい。
402名無し草:2009/02/20(金) 09:40:09
今日は汚物(Graduation)の投下ないみたいだね。

あ〜平和でいいゎ〜www
403Graduation:2009/02/20(金) 09:46:32

作者です。レスについてですが、おとといの>>232>>248は自分本人ですが、
昨日の>>368は自分ではありません。自分に成りすました偽者です。

今回は他愛のない内容だったので大きな問題はなかったですが、
これが、自分に成りすまして、大きなトラブルになるような悪意のある
書き込みをされていたらと思うと、本当にぞっとします。
以後、自分は絶対に単独でレスはしませんので、今後自分の名前を語った
レスがあり、いかにもっともらしく書いてあったとしても、それらは全部偽者だと
思って下さい。

そして、このような行為をこのスレに招いたのは、自分の投下が原因であり、
投下を続ければ、この先このスレに大きな迷惑をかける可能性が大きいと判断し、
今後の投下は自粛することに致しました。連載が長い事はずっと気になっており、
一日でも早く完結させることを目標に、まさに最近は、平日は引き籠り状態で
連続投下してまいりましたが、今は、自分の作品の完結にこだわるよりも、
スレが一刻も早く平和になって、早く他の作家様方に戻って来ていただき、
再びこのスレが華やぐことを第一に考えるべきだと考えた次第です。

作品は、最終話は長くなりそうもなく、本当にあと少しだったので、積極的に
読んで下さっていた方々には、いつかどこかで続きを読んでいただければとは
思っていますが、今のところ全くの未定です。本当に申し訳ありません。

今まで、暖かいレスを下さった方々、作品を擁護して下さった方々、
歌詞の際にご意見を下さった方々、そして駄文にもかかわらず読んで下さった方々、
いきなりやって来た新参者に、これまで多くのレスを使う事を許して下さった皆様、
そして管理人さん、言葉では言い表せないほど、心より感謝しております。
本当に今までどうも有り難うございました。

>>402 自分の周囲にはあなたの様な方はいらっしゃらないので、
本当に世の中には色んな方がいるものだと驚いています。
404名無し草:2009/02/20(金) 09:48:00
あ、起きたんだ?ずっと寝てていいのに。
405Graduation:2009/02/20(金) 09:49:00
ああ、本当にすみません!最後にあげちゃいました……。
本当にごめんなさい。
406名無し草:2009/02/20(金) 09:56:08
>>403
ずっと寝てればよかったのに。
407名無し草:2009/02/20(金) 10:06:14
>>403
お願いです。冷静になって!
ここまで投下してやめるなんて、応援しつづけた多くの住人の気持ちを踏みにじり、
一人の荒らし行為に屈服するつもり!?
それこそこのスレが住人の怒りでめちゃくちゃになります。思いとどまって!

なりすましは2chの荒らしの常套手段ですので、誰も本気になどしていません。
単独でひどい攻撃対象にされ、傷つくお気持ちは十分察しています。
だからこそ、住人は現在真剣に今後の対応を話し合っています。
個人のサイトを開設し、移動されても仕方ない状態だと思いますが
お願いですから、この連載だけは最後まで投下してください。
ここが嫌であれば、嵐さんの長編スレッドに書いてください。
どうかどうかお願いします。
408名無し草:2009/02/20(金) 10:10:25
>>403>>407
自演乙
409名無し草:2009/02/20(金) 10:19:51
Graduationさん、とりあえず乙です。
しかし少々気になる所があるので、書かせてください。

まず「自分の投下が原因で荒れた」と書いてありますが、荒れてるのは清×野嫌いの
「たった1人の荒らしの自演」が原因です。
清×野がこの荒らしにはとにかく気に入らないカプなのです。原因はそこにあります。
大女優は幸あれといったの作家さんも、それは酷い荒らし行為を受けました。
この人は同じ自演荒らしに、作品を乗っ取りまでされました。
しかしこの作家さんは酷いことをされても、荒らしには完全スルーをされていました。
個人的にGraduationさん自身は真面目すぎる印象で、丁寧にレスを返していましたが、
そのレス先は荒らしの自演したレスだったように思います。

Graduationの投下が未定になって喜んでるのは、結局毎度荒らし行為を行ってきた
清×野嫌いの自演荒らしでしょう。
今のままでは荒らしの完全勝利の状態になってしまうでしょうね。
個人的には荒らしに負けることなく、落ち着いたらこのスレで最後まで投下してくれればと思っています。
またGraduationが終わっても作品を投下していただければと思います。
410名無し草:2009/02/20(金) 10:23:47
>>402 自分の周囲にはあなたの様な方はいらっしゃらないので、
本当に世の中には色んな方がいるものだと驚いています。

>>402 自分の周囲にはあなたの様な方はいらっしゃらないので、
本当に世の中には色んな方がいるものだと驚いています。

>>402 自分の周囲にはあなたの様な方はいらっしゃらないので、
本当に世の中には色んな方がいるものだと驚いています。

>>402 自分の周囲にはあなたの様な方はいらっしゃらないので、
本当に世の中には色んな方がいるものだと驚いています。

>>402 自分の周囲にはあなたの様な方はいらっしゃらないので、
本当に世の中には色んな方がいるものだと驚いています。
411名無し草:2009/02/20(金) 10:40:40
>>403
なりすましを防ぐために、2chにはトリップ機能があります。
名前の後に半角で「#好きな文字列」を入れるだけです。本人の証明になります。
412名無し草:2009/02/20(金) 11:17:57
>Graduation作者様
あぁ、ついに、と残念な気持ちと荒らしに対する怒りの気持ちでいっぱいです。
>>368のレスもタイミング的に荒らしの自演かなと思っていました。
ここは2チャンなので荒らしは排除してもまたやってくるのは覚悟してスルースキルをアップするしかないと
思います。作者様がいなくなってもスレが平和になるとは思いませんし荒らし行為は繰り返されると思います。
喜ぶのは清×野、野梨子嫌いの荒らしだけです。
あと、長編であることを気にされているようですが、長編、大歓迎ですよ。
読み手側からして一番哀しいのは未完のまま終わってしまうことです。

とはいえ、もし自分が書く側で書いたものに対して荒らしの仕業だとわかってはいても誹謗中傷を浴びせられたら
気持ちが萎えてしまうのもわかるので、落ち着いたら、そしてもう一度書いてみようかなという気持ちになったら
ぜひ続きを読ませて頂きたいです。



413名無し草:2009/02/20(金) 11:42:32
>Graduation作者様
乙でした。
荒らしの集中砲火を浴びる心労、僭越ながらお察しします。
作者さん側に少しも非はないということは覚えておいてください。

事情があって連載が中断、中止してしまうのは仕方のないことです。
待つのに慣れたスレ住人はいつまでも待てるでしょうし、
もしも連載を終わらせられないのが心苦しいならば、
>>2のリンク先のBBSに投稿するのはいかがでしょうか。

何回か大荒れしたこともあるこのスレです。
2chにつきものだと思ってあまり気に病まないでくださいね。
414名無し草:2009/02/20(金) 11:46:24
本物かナリか見分けがつかないw

本物だとして……
>Graduation
トリップも知らないんだったら、今から凄い勢いで2ちゃんをあちこち見てきたほうがいいよ
そもそもスルースキルが足りないから、嵐を喜ばせている事は自覚して
自分を初め投下を楽しみにしている人間は確実にいるから、それは分かって欲しい
貴方の作品、好きですよ

今度からテンプレに「連載するならトリップ推奨」って入れたほうが良さそうだね
415名無し草:2009/02/20(金) 12:27:31
トリップ、R作品、誘導用荒らし対策テンプレと、いろいろ練り直しが必要になるね。
移転案は頓挫するかもしれないけど、また話し合いはしないと…
でも悲しくて力が出ない。
生ハムのオープンサンド食べて元気つけてくる(ノД`)
416名無し草:2009/02/20(金) 12:30:10
移転は無しになるだろうね。嵐さんに下りられちゃ困るもの。
417名無し草:2009/02/20(金) 13:52:12
>読み手側からして一番哀しいのは未完のまま終わってしまうことです。

御大に聞かせてやりてええええええええええええええええええwwwwwww
418名無し草:2009/02/20(金) 15:03:54
「Graduationの連載やめるらしいよ」
「ほんとう?うれしー」
「でもここまでスレ乱しておいてラストまで書かないってそれはそれで責任放棄だよね」
「作品を待ってる読者もいるのにね」
「そういう人の気持ちもわからないような作者だから、作品中のキャラもひどい扱い受けるんだよ」
「あぁ。なるほど」
「とにかくもう二度とこのスレには来ないでほしいね」
「うん」
「本当にね」
「ばいば〜い」
419名無し草:2009/02/20(金) 15:11:43
えぇぇぇ〜?
ここまで来てそりゃないよ〜〜!!
荒らしてたのが清*悠好きだったとしても、どっちも悲しい状態のまま中断って、不本意じゃないのかな?って思うんだけど、そう考えたら、荒らしてたのは有閑のどのキャラも好きじゃないヤツってことかな?

作者さん、続きが気になって仕方ないです〜。
ここ最近の数少ない楽しみだったのに…。
つらくなっちゃったのは分かるし、無理強いはできないけど、応援してる人、待ってる人は沢山居ますから、頑張って欲しいです。
あとちょっとなら尚更。スレのためにもアラシに負けるな!!

自分は正座して続きを待ってます。
420名無し草:2009/02/20(金) 15:31:25
もしかしてGraduationの続きを書きたくないから、わざと自演してスレ荒らしたんだったりして

それで自分は被害者っぽく装っているとか>作者
421420:2009/02/20(金) 15:34:44
連投スマソ

ちょっと言い方がアレかもしれないけど、なんか今までのレスとか見てると、
あまりにも素直に荒らしに反応してたり、続きも「もう書かない」宣言してるものだから
ついそう思っちゃって。
今まで叩かれてた長編作者さんってみんな荒らしスルーして完結させてたからさ。
422名無し草:2009/02/20(金) 15:38:57
わざとらしい自演すんな>>420
423名無し草:2009/02/20(金) 15:40:21
418〜421って全部自演くさいなww
424名無し草:2009/02/20(金) 15:42:39
私は「もう書かない」宣言がアラシのなりすましだと思う。思いたい。
だって続き読みたいもん。
あれで中断なんて、悶々とするじゃん!!
アラシは華麗にスルーして、作者さん、続きをカモ〜ン!!
425名無し草:2009/02/20(金) 15:45:26
>>423
そんなの皆分かってるから

それにして皆につっこまれてるのに、やっぱ短時間集中で荒らしてくるな
学習能力が足りないって言うか
419も援護してるように見えて、自分が好きな清×悠に被害が及ばないようにしてるのがバレバレでありw
426名無し草:2009/02/20(金) 15:52:00
418=419=420=421=424
このレスに騙されるやつって本当にいるんだろうか…。

大女優の時の荒らし方となんも変わってない。
けっきょく最後には本性が丸見えになってくるw
427名無し草:2009/02/20(金) 15:58:12
>>425
いやいや、ごめん、書き方が悪かったかな?

自分419だけど、魅*野スキーです。だからこそ続きが異常に気になる。

ただ、今回この状態で荒らすって、何が理由?と考えたら、ホントに清四郎や悠理が好きなら、やっぱりそっちの目線でもこのまま中断って嫌じゃないのかな〜って、単純に思ったもんで。

誤解や不快感を生んでたら申し訳ないです。
428名無し草:2009/02/20(金) 16:02:07
>>426
もうスルーしようZE
429名無し草:2009/02/20(金) 16:03:37
「投下を続ければ、この先このスレに大きな迷惑をかける可能性が大きいと判断し、
今後の投下は自粛」と書かれてますが、
連載で荒らしを呼ぶのと荒らしに負けて連載をやめるのと、どっちが迷惑かといわれれば
後者です
連載を止めることに成功した荒らしはさらに増長し今後の作家さんに迷惑をかけますし
応援していたのに結果的に荒らしより軽視された読者は悲しいおもいをします
荒らしはスルーすればいいだけです
すごく真面目で気を遣う方なのだと思いますが気を遣う相手と方法を間違えないでください
もちろん強制はできませんが変な前例を作らないためにもきちんと完結させて欲しいです
430名無し草:2009/02/20(金) 16:04:23
自分は420と421しか書いていない。
他のと一緒にしないでほしいな
431名無し草:2009/02/20(金) 16:04:30
>>427
言ってる意味がよくわかんないけど、清四郎と悠理がくっつくとかそういうこと?
そのようなフラグは立ってないと思うんだけど?
432名無し草:2009/02/20(金) 16:05:34
>>430
わざとらしくて萎えます。
433名無し草:2009/02/20(金) 16:06:45
>>432
そういう根拠のない自演認定はむなしいだけだよ。
だいたいID出ない板なんだから誰にもわかないんだし。
余計な争いはやめようね。
434名無し草:2009/02/20(金) 16:07:55
いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
435名無し草:2009/02/20(金) 16:09:59
>>429
全面的に同意。
やっぱり荒らしに負けて投下を自粛される方が、読者としても嫌だ。

しかし、今荒らしの活動時間らしいから、変なレスで沸いてるから、読みにくいなー。
436名無し草:2009/02/20(金) 16:11:32
もう何が荒らしで何が通常レスかわからなくなった
437名無し草:2009/02/20(金) 16:12:29
現実タンいい加減にしろや
438名無し草:2009/02/20(金) 16:13:37
>>417
御大?温帯?
439名無し草:2009/02/20(金) 16:14:27
現実大暴れしすぎだろw
440名無し草:2009/02/20(金) 16:19:30
>>427
誰も魅野スキーだなんて知りたくないし、聞いてない。
441名無し草:2009/02/20(金) 16:20:52
>>438
日本語ワカリマスカ〜〜〜?
442名無し草:2009/02/20(金) 16:22:28
>>440
ヒント
過去のレスでも現実タンは自分が荒らしだと疑われると、自分は野梨子スキーと反論しましたw
443名無し草:2009/02/20(金) 16:52:12
弥勒スキーでミノフスキー粒子を思い出した。

誰が誰を好きかは自由だから、仲良くしようよ。
444名無し草:2009/02/20(金) 16:57:23
みろくものりこもだいっきらい!!!!!
445名無し草:2009/02/20(金) 17:24:58
>>441
あ、ごめんw
2ちゃんで温帯と呼ばれる作家がいるんだよ
小説で、その人のは本当に未完で終わりそうだと言われている
446名無し草:2009/02/20(金) 17:57:22
いや、そういう意味じゃなくて、今のままだととりあえず清四郎も悠理も可哀想なままに感じられたので、そのキャラが好きなら、何らかの形で救いがある終わりを見ないとスッキリしないんじゃないかなって思ったので。これは私の感じ方だから、共感を得なかったら仕方ないけど。
447Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/02/20(金) 19:49:27

作者です。トリップを使ってみました。
初めてなので一度試させて下さい。


448Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/02/20(金) 19:51:38

トリップ、成功したようですね。
皆様のレスを拝見して、様々な角度から考えてみました。
自分は、スレを乱す事を何よりも申し訳なく思っていたのですが、
作品を途中で止める事の方が、読者の方にも、他の作家様方にも、
ご迷惑をかける事になるのですね。
そういう事ならば、自分は今まで投下してきた責任を持って、作品は
必ず最後まで投下することに致します。荒らしには負けません。
取りあえず、スレが落ち着いたら投下を再開したいと思いますが、
その際、また荒れる可能性があります。それでもこのスレに投下して
良いのか、他に移った方が良いのか、その点をアドバイス頂けると、
こちらも気兼ねなく投下できると思います。
どうぞ宜しくお願い致します。

449名無し草:2009/02/20(金) 19:53:39
正直、単独のレスで酉つけられてもナリと見分けがつかないというw
本人なら、投下する意志があるという事で嬉しい限り
450名無し草:2009/02/20(金) 19:56:13
>>448
あ、リロってなかったw
このスレ投下でおk
みんなでスルーすれば良いだけの事
これからも楽しみにしてるよ!
451名無し草:2009/02/20(金) 19:57:13
ちょw本物ですか?
今、泣きながら説得のレスを打っていたところなんですがww
もし本人なら証拠として、続きを少し投下できないですか?w
452名無し草:2009/02/20(金) 20:00:34
このスレに投下するのが一番。
自演荒らしは過去に、「清×悠以外はしたらばに投下しろ」とレスしたことがあるから、
したらばに投下する事も荒らしにとっては『嫌いな作品の追い出し成功』と言えると思います。
どうしても作家さんにとって本スレが負担になるならしたらばを考えてもいいですが、
このスレに最後まで投下して微妙なレスには絶対スルー、これが一番だと思います。
もうこのスレの人達は荒らしの件は分かってるだろうから、投下を恐れる必要はありません。
453名無し草:2009/02/20(金) 20:08:11
>>451
さすがに本人では。
トリップついてれば次に投下してもらったら文章とかですぐ分かるし
そこは急かさずに投下を待ちましょうよ。
少しだけ投下は作家さんとしても切る所が難しいだろうしさ。
454名無し草:2009/02/20(金) 20:12:12
>>453
そうですね。万が一騙りだったら許せないと思って。すみませんw
あー涙涙の訴えを投下するところだったので恥かかなくてよかったww
455名無し草:2009/02/20(金) 20:38:12
私も続きを書いて欲しくて、過去にもっとの荒れた事あるし、気にしないで!
と作者さんを引き止めようと、昔の荒れたスレを読み返してたところだったwww
でも、凄く嬉しい!
456名無し草:2009/02/20(金) 20:48:10
ぜひ本スレに投下してほしいです。
したらばはなかなかチェックできないので。
457名無し草:2009/02/20(金) 21:57:48
>>402 自分の周囲にはあなたの様な方はいらっしゃらないので、
本当に世の中には色んな方がいるものだと驚いています。

>>402 自分の周囲にはあなたの様な方はいらっしゃらないので、
本当に世の中には色んな方がいるものだと驚いています。

>>402 自分の周囲にはあなたの様な方はいらっしゃらないので、
本当に世の中には色んな方がいるものだと驚いています。

>>402 自分の周囲にはあなたの様な方はいらっしゃらないので、
本当に世の中には色んな方がいるものだと驚いています。

>>402 自分の周囲にはあなたの様な方はいらっしゃらないので、
本当に世の中には色んな方がいるものだと驚いています。


こんなことを言う奴がこのスレで連載する権利なし。

身の程をわきまえろ。
458名無し草:2009/02/20(金) 22:01:11
ファビョってるファビョってるw
戻ってきた作家さんGJ!
459名無し草:2009/02/20(金) 22:12:12
ファビョるとは?
460名無し草:2009/02/20(金) 22:23:27
>>459
ggrks
461名無し草:2009/02/20(金) 22:24:13
明日もしもGraduationの続きが投下されたら





















ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふwwwwwww
462名無し草:2009/02/20(金) 22:24:43
楽しみに待ってますよ>Graduation
463名無し草:2009/02/20(金) 22:25:38
>>458>>461
464名無し草:2009/02/20(金) 22:28:41
458 :名無し草:2009/02/20(金) 22:01:11
ファビョってるファビョってるw
戻ってきた作家さんGJ!


459 :名無し草:2009/02/20(金) 22:12:12
ファビョるとは?


460 :名無し草:2009/02/20(金) 22:23:27
>>459
ggrks
465名無し草:2009/02/20(金) 22:39:40
静かになったな
466名無し草:2009/02/20(金) 22:41:34
本当だw
467sage:2009/02/20(金) 22:54:27
ぐだぐだ言うな。私はただただ読みたいだけなのに‥‥!
468名無し草:2009/02/20(金) 22:58:15
>>467
しむらー、名前!名前!
469名無し草:2009/02/21(土) 02:05:48
帰って来られるようで嬉しいです。続き、楽しみにしてます。<Graduation
470名無し草:2009/02/21(土) 10:08:53
投下すんじゃねぇぞ
471名無し草:2009/02/21(土) 11:19:21
誰か荒らし報告スレに報告してくれないかな?
これだけ荒らしのレスがそろってりゃ、やってくれそうな気がするんだが。
472名無し草:2009/02/21(土) 11:22:02
まぁ今のところ平和なのはうれしいことだw
473名無し草:2009/02/21(土) 11:52:19
また釣りか
474名無し草:2009/02/21(土) 16:16:54
なんか荒れてるね
週末しかここにこれないので展開についていけないんだけど
今は小ネタとか妄想とかSSは投下禁止期間なの?
475名無し草:2009/02/21(土) 16:32:34
釣りかしらんが、ちょっと前のログぐらい読めないのか?
476名無し草:2009/02/21(土) 16:49:14
気分転換に有閑のカセットブックを久しぶりに聴いたら、
発売年がちょうど20年前と記載してあって、ふと
ただひたすら有閑が好きで
カセットの発売日も本当にワクワクして待っていた
当時の気分を思い出したよ。

そして、好きなキャラ・シーンやCP妄想について
友達ときゃいきゃい盛り上がっていた事も。

あの頃の気持ちを思い出したら、近頃ついついピリピリしがちに
なっていた気分が、何だか落ち着いてきた気がする…。
自分でも不思議なんだけどね。
477名無し草:2009/02/21(土) 17:08:46
>>476
教えてチャンでごめん。
カセットブックって初めて聞いたんだけど何? 声優がキャラの
声をあててるのかな。

友達と盛り上がれたなんて羨ましい。
もし覚えてる妄想があったら、ネタとして書いて欲しいな。
小ネタでマターリ語り合いたい人、私の他にもいると思うから。
478名無し草:2009/02/21(土) 19:09:00
今書いて大丈夫か不安だけど、
子供のころ、普通に悠理は清四郎が好きだと思い込んで読んでたから、
どっかで御大が美童と悠理一番似合いと書いてあるのを読んで、
ズガーンとショックを受けたことがある。
もっとも勘違いが甚だしい子供だったから、勘違いだろうけど
子供心にショックだった。
でも、それから素直に美×悠になって、いつ結婚するんだろうって待ってたよ。
御大、美×悠説覚えてる人いる?
ものすげ〜昔だったと思うけど
479名無し草:2009/02/21(土) 19:13:10
>>478
美×悠説は初めて聞いた!
テニスの時辺りかな?
異性として意識するなら魅録と野梨子だけ、ってのは知ってる
480名無し草:2009/02/21(土) 19:16:42
いや、もっと全然前だった。
姉ちゃんのリボンで見た気がするけど、幼稚園生かその前だったからなぁ。
まだ悠理があたしって言ってて、野梨子との絡みが多かった時。
481名無し草:2009/02/21(土) 19:46:45
なんか記憶の片隅にあるな〉美悠がお似合い

ルックス的な意味で描いて絵になる二人みたいなことを読んだような…
長く描いてたらその時その時で変わって行くよね
昔ラノベみたいな雑誌の編集にいたけど作者さんの中にはシリーズが長く続けば
好きキャラが変わっていく人もいたから御大もそういうタイプなのかもね
482名無し草:2009/02/21(土) 19:54:16
>481多分それっす。
御大にはたいした意味のない言葉だったんだろうけど、
園児の自分は真に受けて、王子様の魔法に掛かる成金娘を只管待っていたw
しかし、今になると、なんで悠理が清四郎に熱烈ラブだと思ったのか分からん。
表紙で対称ポーズが多かったからかな?
483名無し草:2009/02/21(土) 19:57:50
御大の美×悠説は知らなかったけど、このスレで色々読んでいくうちに
美×悠もいいなぁと思うようになった。

ヘタレ気味な美童には野生児の逞しさを持つ悠理が合うのかもとか、
うっかり悠理に惚れてしまって振り回される美童が見たいぞとか、
美童に惚れてしまって女の子っぽくなる悠理も見ものだなとかw
484名無し草:2009/02/21(土) 20:03:29
>うっかり悠理に惚れてしまって振り回される美童が見たいぞ
>>見たい。それ見たいなw

>美童に惚れてしまって女の子っぽくなる悠理も見ものだな
>>しかもこっちはもっと見たい。

女らしくなろうと奮闘する、悠理が今キタ。
それで、明後日の方向に爆走しちゃってくれたら言うこと無い。
485名無し草:2009/02/21(土) 20:05:48
>>483
私もここで美×悠に目覚めた

普段が普段の二人だから、余計にちょっとした接触が印象に残る
テニスの時の悠理を叱咤する美童とか、
ごめんなさいと泣く悠理と宥める美童とか
そう言えば、悠理って美童相手にはスキンシップしないよね
無意識の内に男として認識していたりして(実際は頼りにならないだけかな)
486名無し草:2009/02/21(土) 20:35:27
>明後日の方向に爆走
これはありそうだなー
なんせバックには百合子さんが控えているから、
二人で物凄い方向に走っていきそうな悪寒w

ふと思ったけど、美童のお母さん(名前が出てこない)が
悠理と百合子さんに絡んでも面白そう。
有閑本編ではちょっとしか出てきてないよね。
487名無し草:2009/02/21(土) 20:44:40
>美童のお母さん、真理子さんだよ。
意外とさっぱりしてるんだよね。
なんかはじめ驚いたけど、逆に似合いだよね。

だけど、夫、息子でうんざりしてそうなのに、
嫁、舅にまで振り回されたら可哀想だよねw
488名無し草:2009/02/21(土) 21:08:41
流れをd切りの上に、亀レスでごめん。

>>477
そうだよね、20年も昔の事だから知らない人も少なくないよね…。
カセットブックは、原作の第1・2話を中心に声優と効果音で音声ドラマ化した物で
いわゆるラジオドラマと同じ作りだと思ってくれてOK.
声優も豪華だし原作に忠実に作ってあって、自分は結構気に入ってるよ。
それに音声だけだとかえって何だか妄想を掻き立てられる感じで、結構楽しい。

昔の妄想は覚えている物もあるけど、大体はここで今までに語られ尽くした感じかな。
このスレで他の人の色々な妄想を読める様になって、自分が思いもつかない様なネタを
読むのもすごく楽しいけど、自分と同じ様な萌えのレスがあると、それも嬉しい。
自分も妄想した事がある題材を扱った作品も幾つかあって、それらを読んだ時は特に感激したな〜。
子供の頃はもちろんだけど大人になった今でも、自分は小説は書けないし…。
489名無し草:2009/02/21(土) 22:12:19
美童のママが6人のママの中で一番好きかも。
若そうだし、大人の女性って感じ。
490名無し草:2009/02/21(土) 22:14:29
私も美童ママが一番好き。
あと、修平パパがパパの中で一番好きだ。
一番、いい男だと思う。
491名無し草:2009/02/21(土) 22:44:54
ヴィヨンさんもかっこいいよねえ。美童の彼女がついて行っちゃうのもわかるよ。
美形夫婦だな。
492名無し草:2009/02/21(土) 23:03:59
自分はパパなら野梨子パパだ。
493美×悠xx Annick Goutal *Rose Absolue*:2009/02/21(土) 23:49:14
>483
美童に惚れる女の子っぽい悠理に触発されて小ネタ落とします。
美×悠で悠理が特に偽物くさいきもするが、
猿の中身は女の子がコンセプトなので嫌いな人はスルーで
 鏡を見て溜め息をついた。
 しょうがないと思う。
 だってあたいは女らしくも、可愛くもない。

 最近は倶楽部へ顔を出すのも憂鬱だ。
 そのくせ、すごく浮足立ってふわふわしてる。
 嬉しいのか、嫌なのかそれすらもはっきりしない。
 正直、こんなのあたいじゃないって思うのに、皆はそう思わないらしい。

「おはよー」
 ドキドキしながらドアを開けると、野梨子と清四郎がこちらを向いた。
 二人は並んで茶を啜りながら、行儀よくおはようございますと言った。
 ついてでに清四郎は、「相変わらず騒々しいですね」と言い、
 野梨子は「たねやの白桃ゼリーがありますわよ」なんて言うものんだから、
 あたいの頭は白桃ゼリーでいっぱいになった。
 緊張したせいで喉が乾いてるし、いつもよりもっとお腹も空いてるのだ。
「食べる食べる食べる」
 テーブルに向かおうとすると、ふとムスクの香りがふわりとして、あたいの心臓がでんぐりがえった。
「相変わらずだよねえ。悠理の食欲は」
 上の方から声が聞こえて、嬉しいのか苦しいのか分からくて、あたいは変になる。
「だって、腹が減るんだから、しょうがないだろ」
 本当は顔が見たいのに、振り向けなくてフンって反らして野梨子の所へ走っていく。
 だけど、内心ほっとしてる。
 だって今日のフレグランスはメンズだもん。
 女のとこから来たんじゃないんだ。
「悠理もさ、女の子なんだからたまにはお茶くらい入れないよ」
 隣りに座った美童はそう言って笑ったから、あたいの中でまた大運動会が起ってしまう。
 美童が隣りにすわって嬉しいのと、笑った顔が綺麗なのと、
 お茶すら満足に入れられないことが悲しいやら、とてもあたいには処理しきれない。
>493すまんsage忘れた
以降、気をつけます。

「む〜」
「何だよ、その顔」
 美童の言葉に、清四郎も吹き出した。
 パンクしそうなあたいの顔を見て、皆笑った。
 後からやってきた、魅禄も可憐も、もちろんあたいも。
 おかしかったけど、悲しかった。
 悲しかったのに、おかしくて、楽しい。
 本当、恋愛ってくだらなくて疲れちまう。
 ずーと、ずーとこのままでいたいのに、このままじゃ嫌だって思っちまう。
「恋愛しろとまでは言わないけど、せっかく女に生まれたんだから、
 少しは女らしくしなさいよ」
 可憐はそう言った。
 あたいは、ずーっと前から恋愛してんのに。
「無理無理、悠理ですわよ」
 野梨子もそう言って笑う。でも言った後で、VIPのチョコレートをくれた。
 でへへと笑って、その場でばくつくと、美童はにっこり笑ってあたいを見るから、
どうしていいか分からなくてバリバリと食べた。
「誰も取ったりしねえから、ゆっくり食くえよ」
 魅禄が呆れたように言うのを聞きながら、あたいは隣りの美童が気になってしょうがなかった。
 さっきからずっとこっちを見てる 
「しかし、悠理って本当に性別不明だよね〜。悠理を女に見える奴っているのかな? 」
「失礼なこと言うな。あたいは女だぞ。生理だってあんだからなっ」
 考えるより先に行動すんのが、あたいのいけないとこだと思う。
 気づいた時には、立ち上がって叫んでた。
 だけど恥ずかしいと思う前に美童が言った。
「本当にあんの? 僕そういうの、聡いほうなのに、今まで気づいたことないよ」
 上から下までジロジロ見てそう言った美童の目には、珍しい無性の生き物が写ってるんだ。
 悔しいのに、そんなことすら慣れっこな自分が悲しい。
>495題美×悠xx Annick Goutal *Rose Absolue1*じゃなくて2です。
たびたび、ごめんなさい。

「けっ」
 美童に向かって吐き捨てたその言葉が、女らしくなかったと気づいたのはドアを出た後だった。
「ちょっと〜、怒っちゃったわよ〜」
 後ろで聞こえてくる声に、聞き耳立ててる自分があたいは嫌だった。
 だて、こんなのあたいじゃない。
 それとも、こんなのが、あたいなのかな? 
 バカだから分からないよ。
 ただ分かるのは、恋をしただけじゃ女らしくも綺麗にもなれないってこと。
 好きになって貰うのは、夢のまた夢。

 努力は大嫌いだけど、やってみよう。
 あたいはやっと決心がついた。
 だけど、どうすればいいんだろう。
 分からないから、清四郎の所へ行ってみた。
 授業が始まるまで後5分はあるからいいだろう。
「なぁ、清四郎、女らしいってどういうこと? 」
 清四郎は驚いたようで、気にしてたんですかと呟いた。
「気性、態度、容姿などが、いかにも女性だと思えるようすですよ。
女性のもつべきと考えられる特質を兼ね備えた人のことです」
 ニヤニヤしながら言った言葉は、あたいにはよく分からない。
「難しいこというなよ。あたいに分かるように言えよ」
「つまり、可憐のような動作を女らしいとする人もあれば、
野梨子のような方が女らしいとする人もあるとういう、極めて主観による感じ方ですからね」
「でも、あたいは女らしくない」
 むっつりと言うと、いつのまにか来ていた野梨子が笑った。
「そんなに気にしていましたの? 跳び蹴りをやめて料理でもすれば少しは女らしくなれますわよ」
 あたいは、そう言った野梨子をじっと見つめた。
 確かに、野梨子は女らしい。
 目玉が大きくて睫がバサバサしてて、首を傾げるとなんだか可愛い。
 気が付いたら、鏡のように野梨子の真似して首を傾げていた。
「喧嘩やめて、料理して、美容体操して、パックして、化粧してワンピース着れば女らしくなれるのか? 」
 真顔で聞くと、二人は顔を見合わせた。
「どうでしょうね。でも、方法はどうであれ、自分を磨くのはいいことだと思いますよ」
「そうですわ。お料理や、お作法なら私が教えて差し上げますわ」
 なんだか冷や汗をかきながらそう言った野梨子。
「うん、教えてくれる」
 あたいは少し考えながら答えると、清四郎に向き直った。
 そんないっぺんに、あたいが覚えられるだろうか?
 ワンピースと髪形くらいからなら楽だけど、料理して、化粧して、美容体操して・・・
 無理だ。
 うん。絶対無理。
 優先順位を付けてもらおう。
「清四郎は何が一番、女らしいと思う」
「ええっ、また、なんていうか哲学的な問題ですね」
 含み笑いをする清四郎に、あたいはむっとした。
「哲学の話なんかしてないよ。清四郎の個人的なシュカンって奴を聞いてんだよ」
「個人的と言われても・・・貞淑、柔順、慈悲、寛容、優しさ、弱さや、受動性でしょうか?」
 くそう、難しい言い方しやがって、しかも弱さって弱くなんなきゃいけないのかよ。
「悠理、清四郎の言うことなんか聞く必要ありませんわ。清四郎は女性をバカにしてますわ」
「してませんよ。ただ一般の女性らしいとされる特質について述べただけです」
 清四郎はそう言ったけど、野梨子はなんだか怒っていた。
 どうやら清四郎は、野梨子の機嫌を損ねたらしい。
 だけど、お陰で野梨子はあたいの味方になってくれた。
 やった。
 あたいは教室に戻ってから、魅禄に告げた。
「魅禄、あたい、喧嘩やめたから、週末の喧嘩旅行無しにして」
「は? 何でだよ。悠理が行きたいっつったんだろ?」
 魅禄はムッとはしてたけど、怒ったというより驚いていた。
 確かに知らない場所で喧嘩でもして憂さを晴らそうと思ってたけど、そんなんもうどうでもいい。
「あたい、今日から少しづつ、女らしくすることにした。
いろいろ忙しくなるから、今日のライブも行けないや」
「はぁ? あんなん気にしてたのかよ。悠理が女らしくなんてなれる訳がないんだからやめとけよ」
 魅禄の言葉はあたいの闘志に火をつけた。
 たぶん、あたいも無理だと思っていたから。
 だけどね、昔の人も言ってた素敵な言葉があんだよ。
 諦めたらそこで試合終了だって。
 ダメでモトモトって言葉もある。
「そんで、テイシュクで、ジュウジュンでカンヨウになりたいんだけど」
 そう言ったら、魅禄はブフォと吹き出した。
 失礼なやっちゃ。
 しかし、テイシュクってどんなだろう。
 何はともあれ、剣菱悠理、真っ向勝負します。


「可憐〜、女らしい化粧と洋服、美容方法教えてくれ〜」
 昼休みに可憐の所に行くと、可憐は驚いた顔をした。
「へぇ〜、悠理がねえ。いいわよ。可憐姉さんに任せなさい」
 だけど、ニヤニヤとしたと思ったら、ノリノリでOKしてくれた。
 放課後は、野梨子と可憐と三人で買い物に行くことになった。
 可憐に連れてこられたのはランジェリーショップだった。
「なんで下着? 」
「いつまでもタマフクパンツ履いててもしょうがないでしょ。
ここの補正下着って凄いんだから、バスト3カップは上がるのよ。
ウエストだって括れるし、その癖見た目もよくって、とっても補正下着に見えないし」
 力説する可憐のナイスバディに、野梨子とあたいの視線が集中してもしょうがない。
「まぁ、可憐ったら、そんなものでごまかしてたんですのね」
「違うわよ。私のは天然よ」
 野梨子の言葉に剥きになって否定したけれど、あたいは前に美童が言った言葉がぐるぐる回ってた。
 可憐ってスタイルいいよね。並んで歩くと気分いいや。
 あたいもスタイル良くなりたい。
 並んで歩きたいやい。
「可憐、あたい、スタイル良くなりたい!!」
 そう宣言すると、野梨子と可憐がいっせいに振り返り、少しだけあたいは後悔した。
 あたいはフィッティングルームに連れて行かれ、着せ替え人形にされた。
 店員も野梨子も可憐もあーだ、こーだと色々言って、色んなもんを着させられた。
「まぁ、悠理にはやっぱり、ベビードールですわ」
「以外とテディみたいの着てたほうが、そのギャップに男はグッとくるのよ」
 良く分からないけど、ハイテンションになってる二人は止められなくて、やっぱりちょっと怖かった。
「本当にこんな格好すんのか? なんかあたい、商売女になった気分だじょ」
 あたいはただ、スタイル良くなりたいって言っただけなのに、
スケスケレースのエロエロな格好にされていた。
 野梨子の選んだオレンジのヒラヒラした格好にガーターベルトまでつけて、
シルクのストッキングを履いていた。
 ショーツもブラもレースだから、なんだか凄く恥ずかしい。
「何言ってんのよ。それくらい普通よ」
「そうですわ。ドレスなんかの場合はそうですのよ。
それに、そうやって恥ずかしがってますと、女らしく見えますわ」
「う〜、でも、恥ずかしいじょ」
「次はこれよ。着方分からないだろうから、手伝ってあげるわ」
 今度は黒のビスチェを渡されて、あたいは可憐を追い出した。
 パンク少女をなめんなよ。
 着方くらいわかるわい。
 結局、そこではブラやショーツや数十種類ののランジェリーを、言われるままに買った。
 しかも、白いキャミとお揃いのブラとショーツとガーターは制服の下に着たままだった。
 なんか足元がスースーして心もとない。
「どうしたの?悠理、歩き方が違うじゃない♪」
 可憐はそう言うけど、なんか恥ずかしくていつもみたいに跳びはねれない。
 そのまま、連れてかれたブティックでも、あたいに似合わなそうな、趣味じゃ無い服を着せられた。
 窮屈で、心もとないふわふわした洋服は、そのままあたいの美童に対する想いみたい。
 あたいには似合わない。
 だけど、皆は似合うって言ってくれたから、頑張ってあたいは着た。
 化粧を見るころはぐったりしてて、もう二人のいいなりだった。
 ただ、香水だけは自分で選んだ。
 ローズ・アヴソルって名前のそれはなんだか、嗅ぐと美童のことを思い出したから。

つづく
501名無し草:2009/02/22(日) 00:31:25
483です。作品化キタ ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !!!
これだから妄想スレ通いは止められない。

恋する女の子な悠理が可愛いです。
他の5人の描写も、らしいなぁと笑いながら読みました。
そういう質問を清四郎に質問する時点で間違ってるよとか、
突っ込みどころも満載で楽しかったです。続きが楽しみだ。

>>488
教えてくれてありがとう。20年前にも、そういうのがあったんだ。
姉御な上に色仕掛けで迫る可憐とか、ロクサーヌな野梨子の
声が聞けるなんて羨ましい。
502名無し草:2009/02/22(日) 01:00:14
サルだけど女の子な悠理が可愛いです。
けどせつない。
って思っていたら「喧嘩旅行」に吹きました。マジで。
続きが待ち遠しいです。

結構美×悠好き多くてうれしい
503名無し草:2009/02/22(日) 08:46:43
>Annick Goutal〜
自分はこのスレきて美悠好きになりました。
女らしくなろうとする悠理がかわええ。
しかし清四郎の女らしさ考…
>あと諦めたらそこで試合終了だって。
に笑いました。スラムダンクも好きなんでw
>>494多分、7レスくらい借ります。

 家にたどり着いた時、あたいはもうへとへとだった。
「嬢ちゃま」
「それ以上言ったら、家出する」
 言葉を詰まらせたじぃにそう言うと、じぃは黙って頷いた。
「おかえりなさいませ」
 しかたないと思う。
 あたいはいつもより酷い仮装をしてる。
 幾重にも重なった花びらみたいなスカートのワンピースは
背中と胸元が大きくVラインに開いている。
 フェミニンなパフスリーブのブラウスを着たあたいは、妖精のようだ。
 もちろん、悪い意味で。
 しかも、エロ下着のせいで、なんだか早く着替えたかった。
 食事の前に風呂に入って、それから、脱衣所で裸のまま、可憐にならった美容体操ってのをやった。
 そんで、つけろって言われた化粧水と、美容液と、クリームを塗ってたら、
子供の時に兄ちゃんが読んでくれた、注文の多い料理店の客のような気分になってきた。
 ああ、女って面倒くせえ。
 それから首の後ろに一吹きだけ、ローズ・アヴソルを吹いた。
 良い匂い。
 薔薇だけど、甘すぎない、上手く言えないけどドキドキする匂い。
 美童は今頃何してんだろう。
 そう思うと、胸がズキズキと痛みだした。
 夜の町に遊びに行けば、美童に会えるかもしれない。
 でも、今日は疲れちゃったし、きっと女と一緒だ。
 ふりふりのネグリジェを着て鏡を見る。
 やっぱり全然女らしくないあたいが見えた。
 部屋に戻って、おやつを食べながらロック雑誌を捲った。
 ベッドにタマとフクと一緒に寝そべりながら、肉まん食べる。
 そんな当たり前のことに、酷く癒される。
 あ〜、こうしてるとマジ落ち着くなぁ。
 そんなことを考えてると、ふとしたチャートが目についた。
 意中の彼を絶対落とせる攻略法。
 ドキンと心臓が跳ね上がり、あたいはドキドキしながらチャートを見た。

チャート
□夢や目標に向けて頑張っている
□機転は利かないほう
□目立つのがあまり好きじゃない
□内面に芯が通っている
□あきらめが遅い
□自己主張が強い
□周りの評判をあまり気にしない
□ほめると無性に喜ぶ
□頼りがいがある
□身につけている小物がハデ

 どうだろう?
 夢や目標に向けて頑張っているだろうか?
 違うと思う。その日その日を楽しく生きてるよね。
 ノーチェック。
 機転は利かないほう?
 ううん。あれで結構機転効くもん。
 ノーチェックっと。
 目立つのがあまり好きじゃないわけないジャン。
 目立つの大好き。チェック。
 内面に芯が通っている?
 勿論通ってるじょ。だって美童だもん。チェック。
 あきらめが遅いかなぁ。
 うん、そんなイメージだし、チェックと。
 自己主張が強くない。ノーチェック。
 周りの評判をすごく気にする。ダブルチェック。
 ほめると無性に喜ぶな。ダブルチェック。
 頼りがいがある?
 うーん、以外とある気がする。
 幽霊の時だって、なんだかんだ言って側にいてくれるもんな。
 チェックと。
 身につけている小物は凄く洒落てる。チェックっと。
 んー、Dね。

「えーと、Dの彼は唯我独尊タイプだって〜。合ってねえよこれ」
 あはははとあたいは笑いながら、タマに話しかけた。
「目立ちたがり屋の気があり、自らを特別な存在だと思っている彼は、恋愛に対しては唯我独尊タイプだって。
「変わってるね」と言われることに喜びを感じ、「普通だね」と言われるとショックを受ける。
感性を武器に生きる、クリエイターに多いのがこのタイプ。
立ち直りが早く、処世術にも長けている反面、束縛されることをすごく嫌うので、
浮遊する雲をキャッチするようなエッジの効いたワザが、彼の攻略には必要だってさー。」

1そんな彼には特別扱い
 ふ〜ん、確かに美童は特別扱いに弱そうだな。
 あたいは雑誌に顔を近付け、ふんふんと読み耽った。
何々、自分のことを特別な存在だと思っている彼には、「特別扱い」をすることが効果的。
彼だけ高級なお茶っぱにしたり、バレンタインチョコを手作りしてみよう。
手作りチョコかぁ。そんなの上げても食べてくれないに決まってる。
美童は可愛い子の美味しそうなチョコだけ、手作りならうれしいって言ってたもん。
あたいは可愛くないし、料理もダメ。
可憐や野梨子のだったら皆喜ぶのにな。
実際あたいも、貰ったら嬉しいし。
仕上げに「あなただけ特別よ」なんてささやけば、好感度アップは間違いなし!
って、そんなハズイ真似出来るかぁ。
ううううう
でも、でももし、そう言ったら、あたいのことちょっとは女だって思ってくれるかな?
2可能性ありと匂わす
女性経験は豊富そうなのに、意外と状況に流されやすいのが彼の特徴。
 合ってるかも・・・くるもの拒まず(可愛い子オンリー)だけかもしれないけど
「彼女いるんですか?」と軽くアプローチするだけでも、「オッ!俺のこと好きなのか」とくみ取ってくれる。
 そーか、今、女いるか聞くだけでいいんだ。こっちの方が簡単だ。
直接的なアプローチを繰り返して、彼女という「特別扱い」の座に納まってしまおう。
 特別扱いかぁ。そんなんされたら、夢みたいだじょ。
 うっとりとした、あたいの目に可愛く思える女の子の仕草の項目が目についた。

・少し首をかたむけて話す。
 ああ、野梨子がたま〜にやるあれだ。
 多分可憐のは違うよな?だって、疲れて見えんもん。
 いや、ぶりぶりしてる時のあれかな。
・相手の目を見る。
 へー目を見るだけでいいのか。っていつも見てんじゃん。
 いや、最近はまともに見れてないかも。
 あ〜、でも意識すると恥ずかしいかもしんない。
・恥ずかしそうに目をそらす。そらすときは真下じゃなく、心持ち左下に。
 え〜、恥ずかしいから反らしてるけど、でも真下だったかな。
 思い出せないよ。
 左下?こうか?いや、こうかな?
 でもこれって、前後左右前後、美童がどこにいても左下に反らすのかな?
 まあ、いいや。今度やってみよう。
・とにかく女らしさを見せる。
 また女らしさかよ〜
・相手をたてる。時折無邪気な面を見せる。
 たてるってことは誉めるってことだよな。
 美童格好良い。とか、素敵よ。とか愛してるとか言やいいのかな。
・たまにじっと見る。
 う…恥ずかしい。あ、でも、これで、たまにはじっと見れるじゃん。
 ラッキー。あたい本当は美童のことじっと見たかったんだ。
・相手の話題につまんなくても楽しそうに笑う。
 ふーん、笑うのね。美童、よく無視されてさみしそうにしてんもんな。イッチョ豪快に笑うぞ。
どれも過剰にならない程度にか、よしよし。
 あたいは一人ほくそ笑んだ。
       ◇◆◇◆
 部室に行くとなんだか、ガランとして見えた。
 それもその筈、女性陣が一人もいないのだ。
「あれ、今日は、野梨子も可憐も悠理もいないの? 」
「ええ、悠理も可憐も野梨子もいません」
 清四郎が答えると、後ろでなんの機械か工具を弄っていた魅禄が吹き出した。
「お前のせいで、悠理の女修行が始まってるんだよ」
「どっちかっていうと、マイ・フェア・レディになりそうですけどね」
 堪え切れないという感じで、清四郎もくすくす笑いだした。
 悠理がマイ・フェア・レディ? 嘘だろ。
 きっと、野梨子と可憐が面白がって、悠理をうまく騙して連れ出したんだ。
 まったく、単純だからすぐ遊ばれるんだような。
「だいたいさ、その場合、誰がヒギンズに教授なるの? 」
「そりゃ、清四郎だろ? 」
 魅禄が笑いながら言うと、清四郎は苦笑した。
「勘弁してくださいよ。悠理のお守りは慣れてますが、そっちの方は御免こうむりますよ。
きっと野梨子が喜んで引き受けてくれます。」
「だって、お前に好みの女を聞きに言ったんだろ? 」
 くくくと笑う魅禄の顔を見ながら、僕は清四郎に向き直った。
「清四郎、悠理に告白されたの? 」
「違いますよ。女らしさの定義を聞かれただけですよ」
 澄まして答える清四郎を、ぼんやりと見た。
「女らしさ? 悠理が? 」
 あの悠理が女らしさだって? マジありえないんだけど。
「ええ、どうやら女らしくなりたいようで、その前に女らしさを聞きに来たんです」
「そしたら、兄さん、悠理に向かって、貞淑、柔順、慈悲、寛容、優しさ、弱さや、受動性が女らしさだって言ったんだぜ。ひでえよな」
 くっくっくと笑う魅禄に、僕も笑いが漏れた。
 悠理に貞淑、柔順、慈悲、寛容、優しさ、弱さや、受動性?
 なんつーかさ、慈悲と、優しさはいいよ。
 悠理はああみえて情け深いし、優しいよ。
 でも女らしさって言葉に慈悲はないだろう。仏教用語だろ?それって。
 普通に優しい子でいいと思う。
 まぁ、それと貞淑はいいよね、貞淑は。しとやかじゃないけど、悠理は操は堅いもん。
 それに悠理は大きな意味では、かなり寛容な性格だと僕は思う。
 これは、悠理に限り豪快にも繋がる言葉だけどさ。
 だけど、柔順って何だよ。弱さや、受動性って悠理と真逆じゃないか。
「ってゆーかさ、清四郎は悠理に何求めてんの? 女じゃないじゃないでしょ悠理は」
「別に何も求めてないですよ。ただ、主観的な意見が聞きたいと言われたから言ったまでですよ」
 まぁ、どうせ、悠理の思いつきに決まってるから、すぐ飽きるだろうけど、どうして清四郎に聞くかなぁ。
 そういう事なら僕の方が絶対いいアドバイスできんのに。
 魅禄がいれてくれたコーヒーを飲みながら、僕は少しだけ不満だった。
「可憐と野梨子に連れ回されて、今頃着せ替え人形にされてますよ」
「途中で逃げ出すに、シャトー・マルゴーの76年もの賭けてもいいよ」
「乗った。俺も途中で逃げるにシャトー・コス・デストゥルネルの82年賭けるぜ」
 乗ってきた魅禄の背中を僕は叩いた。
「って皆、悠理が逃げるに賭けたら賭けが成立しないじゃないか」
 一頻り笑いあった僕らにむかい、清四郎は言った。
「明日悠理はぐったりしながらも、少しだけ女らしくなって登校するほうに賭けますよ。
 もっともどんな女らしさか、考えると恐ろしい気もしますけどね」
「へー、随分自信があるんだ」
 片目を瞑ってそんなことを言う清四郎に聞き返すと、にっこりと微笑みを浮かべた。
「多少は、ありると思いますよ。
野梨子も随分入れ込んでいましたし、どんな教授っぷりを見せて貰えるか楽しみです」
 清四郎はそう言ったけど、僕は絶対悠理が変わるなんて思ってなかった。
     ◇◆◇◆
 デートをドタキャンされたあげく振られた僕は、努めて不幸そうな顔をしていた。
 振られたばかりの男は、不幸じゃなきゃ行けないような気がするし、
それに僕は憂い顔がよく似合うんだもの。
 この顔で行きつけのクラブに行けば、女の子たちが慰めてくれるに違いない。
 ドアを開けると案の定、僕は女の子たちに囲まれてしまう。
 人気者の宿命だね。
 すると、もう悲しい顔をするのが困難になってしまう。
 しょうがないよね。だって僕はこんなに若くて美しくて、人生は楽しいんだもの。
 ふと、カウンターに可憐と魅禄が見えた。悠理は一緒じゃないんだ。
「やあ、二人だけ? 珍しいじゃない」
 声を掛けると、可憐はマルガリータを、魅禄はジントニックを傾けた。
「冗談じゃないわよ。この可憐さんが振られるなんて」
 ブツブツと文句を言っている可憐も、どうやら振られたらしい。
「まったく、悠理を女らしくしてる場合じゃないわ」
 ふと漏れた言葉に僕も興味がわいた。
「本当に悠理を女らしくしてるの? 」
 そう言うと、急に可憐の瞳がキラキラした。
「そうよ。面白かったわ。あの子素直なんだもの。最後はやりすぎて妖精になっちゃったのよ」
 そう言うと、きゃははははと声を上げて笑い出した。
「何だよ。妖精って」
「何か、可愛くしようって野梨子と一緒に頑張ったんだけど、
フェミニンな服着せてたら、学芸会の妖精って感じになっちゃったのよ」
「どんなだよ。そりゃ」
 魅禄が聞きたがると、可憐はマルガリータを煽った。
「あれは花びらみたいなワンピに、野梨子の選んだパフスリーブが悪かったのかも。
しかも悠理が以外と素直で、下着もちゃんとセクシーなの着せてさぁ。
化粧までさせてくれたのよ。本当に別人みたいだったんだから」
「悠理がかぁ? 本当かよ」
 疑い深そうな魅禄に、可憐は首を傾けた。
「本当だってば、そうだ。悠理呼ぼうよ。
疲れたから帰るっつってたから家にいるはずだし、どうせなら清四郎と野梨子も呼んでさ、皆で飲みましょうよ」
 可憐はうきうきと携帯を取り出した。
「ほらほら、あたしは悠理にかけるから、清四郎と野梨子に連絡して」
「どっちかける?」
 僕が聞くと、魅禄はいいさと手を降った。
「俺が野梨子と清四郎にメールするから」
 魅禄は見かけによらず忠実だから、こういうことは大抵やってくれる。
 もっとも僕だってかなり気のつくタイプだと辞任している。
 しかし、気が付けば、今いるのは倶楽部ないでも屈指の世話焼きメンバーじゃないか。
「あー、よかった悠理? 今ベラにいんのよ。あんたも出てこれない?
 んー、魅禄と美童も一緒だし、せっかくだから野梨子と清四郎も呼んで皆で飲もうって話になったのよぉ」
 目の前に置かれたマンハッタンを飲みながら、機嫌よく悠理に電話している可憐を見ていた。
 可憐は酷く楽しそうで、僕もなんだかわくわくしてきた。
「そうよ。あ、悠理、今日買った服着て着てよ。駄目。可愛かったって言ってるじゃない。
 勿論よ。下着も絶対あれじゃなきゃ駄目よ。そうよ。そう。絶対よ。待ってるからね」
 電話を切ると、可憐はうふふと笑った。
「あんた達、楽しみにしてなさいよ」
   ◇◆◇◆
 結局、悠理は最後にやって来た。
 ドアを開けた瞬間、すぐに悠理が入って来たって分かった。
 何のことはない。悠理のファンが取り囲んだからだ。
「いや〜、可愛いじゃない」
「妖精さんみたい」
「悠理は今日もキマッテルわね〜」
 彼女たちは悠理ならなんでもいいようで、スカートの悠理を褒めちぎっていた。
 悠理は膝丈のスカートが気になるのか、一生懸命押さえながら落ち着きのないようすで相手をしていた。
 悠理は淡いピンクの薄いワンピに、ピンクのインナーを着ていた。
 そしてピンクのラメラメサンダルに、スパンの淡いピンクのショールを羽織っていた。
 なんで全身ピンクなんだよ。ピンク女になっちゃうだろ?
 そして、可憐の言う通り妖精さんにされていた。
つづく入れ忘れました。
513名無し草:2009/02/22(日) 16:25:30
早くも続きが!
恋愛チャートと攻略法に一生懸命な悠理が可愛い。
疲れて見えるなんて可憐が聞いたら怒るぞとか、憂い顔が
似合うなんて美童は相変わらずだなとか、仏教用語とか
小ネタが聞いててGJ! そして注文の多い料理店w
514名無し草:2009/02/22(日) 21:54:19
>Annick Goutal
恋愛チャートがぴったりでおもしろかったです。
妖精悠理、見て見たい〜
515名無し草:2009/02/22(日) 23:39:02
>Annick Goutal
恋する悠理がかわいいです
女の子な悠理に、美童の反応が気になります
意識するのもいいけど、逆に反発しちゃうのもいいかも
単に面白い、っていうだけの反応じゃかわいそ


516名無し草:2009/02/23(月) 19:10:05
>Graduation
続きお待ちしています。
他の連載も!
517名無し草:2009/02/24(火) 10:05:33
>Graduation
>>448の後の発言がないようで、少し不安になっています。
一度うpがあれば、安心できるんですが…
2chなのであまり熱心な感想はつけにくいんですけど、
本当にのめりこんで読んでいるので、再開お願いします。
518名無し草:2009/02/24(火) 15:03:27
>>517
まぁまぁ、まったり待ちましょうよ。

Annick Goutalさんのチャート、魅録や清四郎に当てはめて考えてもおもしろい。
トリップ入れることにしました。8レス程かります。
>>61
「まったく、泣きつかれて眠ってしまうなんて、子供みたいな奴だな」
 清四郎はベッドに運ぶと、悠理をシーツの上に降ろした。
「でも、やっと悠理だって思えましたわ。なんだか別人のようでしたもの」
 眠っている姿は、悠理そのものですわ。
 野梨子は幼子のような寝顔を見ながら、清四郎に笑い掛けた。
 しかし、清四郎は深そうに首を振った。
「我々の悠理とは別人ですよ。同じ名前で、多少似たところがあったとしてもね」
 その言葉は少し冷たく聞こえ、野梨子は清四郎を見つめた。
 その顔を見つめながら、野梨子の心に不安がよぎった。

             *

 清四郎の言うとおりに、人工的に磁場を強くするだけで、
 本当に悠理は帰ってくるんだろうか?
 そんなことを考えながら、俺はパソコンを眺めていた。
「どうですか魅録」
「いや、特に変化は見られないな」
 人工衛生からの情報では、いまだ剣菱邸を中心に僅かな磁場の狂いはあるが、
 三時に起きたような以上数値がでる気配はなかった。
 野梨子と可憐は別室で休んでいたし、悠理はとうにベッドで夢の中だし、
 美童もソファで眠っている。
 気が付けば、いつの間にか起きているのは、俺と清四郎だけになっていた。
 自業自得とはいえ、俺は気まずい思いをしていた。
 清四郎の態度は、特に変わった様子はないように思えたが、
 いつもより余所余所しいような気がした。
 もとも、今、清四郎を見ても、その表情からは感情を読み取ることは出来なかった。
 悠理は俺と目を合わせようとしないし、美童はあからさまな敵意を示してきた。
 可憐と野梨子には話していないが、おかしいと思ってはいるだろう。
 特に可憐は、何度か、もの云いたげな視線を向けていた。
 ソファに目を向けると、安らかな顔で眠っている美童が目に入り、苦々しい気持ちになった。
「気まずいなら、ちゃんと謝ったほうがいいですよ」
 澄ました声の清四郎を見れば、ニヤっと笑われた。
「謝ろうにも、可憐や野梨子がずっといるし、
 第一話題にしようにも、悠理は口も聞いてくれそうにねえよ」
 実際、何であんな真似をしてしまったのか分からない。
 頭に血が昇ってしまい、どうかしてたとしか言いようがない。
 清四郎にやられた肩がまだ痛んだけれど、文句を言う気分にはなれなかった。
 むしろ、あれから面と向かって責められないほうが辛かった。
「まぁ、悠理も怖い目にあったんだから、女性がいたほうがいいでしょう」
「・・・かもな」
 何と言っていいか分からずに、俺が黙った。
 清四郎は超常現象の確立のデータという、うさん臭げな数値と睨めっこしていた。
 しばらく、パソコンのウィィィィンという音だけが、部屋の中に響いていた。
「魅録は悠理が好きなんですか? 」
「え? 」
 脈絡も無く突然聞かれた言葉は、俺の中でズシンと響いた。
 俺は悠理が好きなんだろうか。
 好きか嫌いかと言われたら、勿論好きだ。
 悠理はマブダチだ。
 あんな奴は二人といねえ。
 有閑倶楽部の連中は勿論、皆特別だが、
 なかでも悠理は一番長い時間一緒にいる相手だ。
 ひどい時には48時間以上一緒に過ごすこともある。
 だけど、思わず悠理にキスしそうになってしまった時の、
 焼け付くような嫉妬がどこから来ているのか分からなかった。
 確かに、悠理と男の付き合いをしているとき、
 ふとした瞬間に、息苦しさを感じる時はある。
 しかし、それがはたして恋愛感情なのかと聞かれると、分からなくなってしまう。
 ちょっと前までなら、はっきりと違うと言えた。
 俺は悠理と男同士として付き合っていた。
 勿論性別は理解してるし、守ってやろうとも思っていた。
 だけど、正確に女として考えたことはただの一度もなかった筈だ。
 こうやって冷静になってみると、悠理の女の部分に触れた時のあの感情は、
 悠理が女だという事実を受けいれたくねえ俺の葛藤じゃないかと思えて来た。
 もし、あいつが男だったら、十年経っても二十年経ったとしても、
 時々は二人でツーリング出来るかもしれない。
 だけど悠理は女だ。
 その上、日本でも有数の財閥の令嬢だ。
 いずれはそれ相当の相手に嫁ぐことが予想される。
 もし二十年後、悠理と一緒に旅行に行くにしても、
 同じ毛布に包まって野宿出来る可能性は、かなり低いことは俺にも分かる。
 あの、焦燥は、いづれ、今のように一緒にバカをやれなくなるという、
 恐怖に似た寂しさの現れじゃないだろうかと思えた。
 勿論思えただけで、それが本当だと確証は得ない。
 何故なら、本物の悠理は不在だ。
 そして、確証を得ない一番の原因は、泣きつかれてベッドで眠っている。
 時々、寝ながらもしゃくり上げているところを見ると、悲しい夢を見てるのだろう。
 何故か、今、すぐ側で眠っている、悠理の存在が俺を揺さぶるのだ。
「あー・・・分かんねぇ」
「分からないんですか? 」
 頭を抱えると、清四郎は驚いた顔をしてこちらを見ていた。
 何だよそれは、と思って見返すと、フムと真顔で頷いた。
「魅録でも、自分自身のことが、分からないなんて事もあるんですね」
 無表情でそんな事を言われ、俺はなんだか脱力した。
「当たり前だろう。人間なんだから」
 テーブルに突っ伏した俺を見ながら、清四郎はクスクスと笑った。
「なんだか安心しましたよ」
「どこにだよ」
 いったい今のやり取りのどこに安心する要素があったのだろうか?
「正直、この間の魅録の行動には、随分と衝撃を受けました。
 まるで知らない人間に取って代わったような違和感を感じていたんですよ」
 清四郎は俺を見て、目を細めた。
 その表情からは感情は読み取れず、俺はいったい清四郎の瞳に、
 どう映っているのか気になった。
「魅録にも、いろいろ葛藤が存在するんですね」
「当たり前だろう」
 清四郎の瞳が少しだけ柔らかくなり、口元に一瞬、笑みが浮かんだ。
 なんか格好悪りいなと思いながら、俺は今すぐ悠理に会いたいと思った。
 おまえが帰って来てくれないと、なんだか変な感じなんだ。
 清四郎の視線を感じて、俺は見透かされているような、不快を感じた。
 真顔でフムと呟いたあと、清四郎は無症状まま言った。
「念のためクギを指しておきますが、魅録がこの前した行為は犯罪ですよ」
「分かってるよっっ」
 自分の顔が熱くなるのを感じながら、思わず怒鳴ると美童と悠理が起きます。
 静かにしてくださいと涼しい顔で返された。
 ソファで眠る美童が目の端にちらついて、やはり胸がモヤモヤして
 俺はなんだか落ち着かない気分になる。
 悠理、早く帰ってこい。
 頭に入らなくなりそうな、データを目で追いながら俺は願う。
「あいつに会ったら、答えが出るのかな」
 気が付いたら、思わず言葉が漏れていた。
「さぁ、どうでしょうね」
 清四郎の声を聞きながら、俺は俺達の悠理のことを考えた。
 トラブルメーカーのあいつが、無事でいるのか。
 泣き虫のあいつが泣いてねえのかと。
 この空の下にいないらしい、悠理に思いが飛ぶ。
 どうか、あいつが笑っていますように。
 誰にとも無く、そう祈った。
 目が覚めると美童の顔が見えて、あたしは跳び起きた。 
 ああ、やっぱり美童だ。 
「美童っ」
 美童の首にしがみついて、あたしは夢の話をした。
「美童、すっごい怖い夢見たんだ。何だと思う? 」
 そこで、腕を緩めようとした。
 だけど、向こうに魅録と清四郎の姿を見たとき、
 あたしは膨らんだ気持ちが、急激に萎んで行くのが分かった。
「夢じゃないの? 」
 あたしの言葉には、誰も何も言わなかった。
 シンと静まり返った部屋は、ここに始めに来た時に感じたように、
 やっぱりよそよしかった。
 ふと気づくと、美童の顔がすぐ側にあり、
 あたしは美童を、突き飛ばすようにして距離を取った。
「うわっ」
 乱暴な動作に、美童はヨロヨロと蹌踉けてサイドボードに足を打付けた。
 突き飛ばしたのはあたしなのに、
 突き飛ばされたのは美童なのに、
 何故か美童は、酷く申し訳なさそうに、あたしを見ていた。
「ごめん・・・ごめんね美童」
 謝罪は考える前に、口から滑り落ちていた。
 その言葉は、突き飛ばしたことにたいしてなのか、
 それとも、そんな顔をさせているからなのか分からなかった。
 だけど、自分の口についた言葉は、酷く哀しかった。
「いや、あの・・」
 何て返していいか分からないように、
 美童は困ったような顔であたしを見てる。
 なんであたし達は、どちらも済まなそうにしてるんだろう。
 清四郎の言うとおり、ここはあたしの世界じゃない。
 目の前にいるのは、あたしの美童じゃない。
 美童はいつも、優しい瞳で見つめてくれた。
 からかうような軽口や、言葉のやりとりで、あたしの状態を見ていてくれた。
 いつも、いつも、愛を注いでくれてた。
 あたしは、どうして不安だったんだろう、あんなに愛してくれたのに。
 離れてしまった今は、それが良く分かるのに、どうして分からなかったんだろう。
「夢じゃないんだね」
「夢じゃありませんよ。悠理」
 清四郎の言葉がいやに重く響いた。

         *

 翌日届いた超電導磁場発生装置には、ぼくら全員、かなり期待していた。
「届いたの? 清四郎」
「ええ、思ったより早く到着しましたね」
 悠理は部屋から出ようとしなかった。
 清四郎がこの場所にいたほうが、戻れる確立が高いのじゃないかと言ったからだった。
 食事も部屋で取り、トイレ以外ずっと部屋にいた。
 悠理の部屋に機材が運び込まれて、組み立てられた。
「それが、そうですのね、清四郎」
「ええ、そうですよ、野梨子」
 清四郎は頷くと、悠理の顔を見ながら静かに言った。
「ベッドに横になってください悠理」
 当時の状態と近くしたほうがいいという清四郎の言葉にしたがって、悠理はベッドに横たわった。
 装置は悠理の足元に置かれ、魅録が取扱所を広げながら待機していた。
 ソファの前のテーブルに置かれたパソコンのモニター前を、清四郎と野梨子は見つめていた。
 可憐とぼくはといえば、悠理の枕元に立っていた。
 悠理は不安げな顔でぼくを見上げていた。
「なんだか洗濯機みたいね」
 可憐の言う通り、それは大型のドラム式洗濯機のような形だった。
 目を閉じたまま、胸で両手を組んだ悠理は祈っているようだった。
 すぐにこの悠理がいなくなるのかと思うと、なんだか不思議な感じだ。
 もちろん、この娘はぼくらの悠理じゃない。
 あの、騒々しくて、食欲魔神で、暴力的で、破壊的な、
 霊感レーダーのトラブルメーカーがいないと、ぼくらは淋しい。
 なのに、なんだろう、この感じ。悠理はぼくを見てる。
 もしかしたらぼくじゃない誰かをみてるのかも知れないけど
 いや、もしかしなくても、ぼくと同じ名前の別の誰かを見てるのだろう。
「ねえ、美童・・・お願いがあるんだ」
「何? 」
 悠理の言葉にぼくは頷いた。
 なんで、君に向こうのぼくが恋をしたのか分からないけど、
 もし、君がもっと長く側にいたら、分からなかったよ。
 ぼくはそんなことを考えていた。
「もし、上手く言ったら、一度だけでもいいから、試して見て」
「何を? 」
 悠理の睫がこんな長いなんて、気が付かなかった。
 そんなことを考えていたから、ぼくは悠理が何を言ってるのか全然分からなかった。
「剣菱悠理を恋愛対象として考えられないか」
 うんってぼくが言えば、この娘は安心するのだから、言ってあげればいいと思う。
 だけど、ぼくが頷けなかったのは、彼女の瞳があまりにも真剣だったからじゃない。
 彼女が、剣菱悠理の名前をもつ少女だったからだ。
「悠理、ぼくが、君の婚約者じゃないように、ぼくたちの悠理も君じゃない」
 そう言った瞬間、ぼくは正しいことを言ったつもりだった。
 だけど、悠理の瞳にみるみる涙が盛り上げるのを見ると、
 どうしていいか分からなくなってしまう。
 続けようとした言葉が何かも、もう分からなくなってしまった。
「分かってるけど、それでも、嫌なんだもん。
 美童があたし以外の人を好きになるなんて・・・どうしても嫌」
 ボロボロと泣く、悠理を見ると落ち着かなくなる。
「お願い、一回だけでもいいから、女として見て欲しいの」
 うんって言えばいいと思う。別に守る必要のない約束なんだから。
 なのに何でぼくは頷くことが出来ないんだ。
「お願い・・・一度だけ試して・・・」
 悠理はもう一度繰り返した。
 勝敗は最初から分かってた気がする。
「分かったよ。約束する」
 そう言うと、悠理は安心したように笑った。
 どっちにしても、守らなくてもばれない約束だ。
 守ったところで、悠理が女に見える訳なんかない。
「じゃあ、スイッチを入れるぞ」
 魅録はそのインチキ臭い機械のスイッチを押した。
「磁場が上がって来ましたわ」
 野梨子の言葉に魅録も緊迫した面持ちで、悠理を見つめていた。
「どう、悠理、何か感じる? 」
 可憐の言葉に悠理は首を振った。
「分かんない」
「どう云うこと、清四郎」
 清四郎を顧みると、静かに首を振った。
「磁場だけではなくて、別の不確定要素もあるのかもしれません」
「そんな・・・」
 悠理は小さく呟いて、唇を咬んだ。
 時間が関係あるのかもしれないという、言葉にも従い、
 明け方まで何度も試したけれど、結局何も起こらなかった。
「少し、休んだほうがいいでしょう」
 そう言った清四郎の声もかなり疲れていた。
 女の子達は悠理のキングサイズのベッドに、
 寝ることにして、僕たちは雑魚寝をすることになった。

          *

 私と野梨子で悠理を挟んで眠ったのは、
 青ざめた悠理が心配だったからかもしれない。
 悠理は今度は泣いていなかったが、
 その表情は泣いている方がずっとましだった。
「清四郎、ずっと起きてただろ? ぼくが代わるよ」
 パソコンの前にまだ座ったままの清四郎にそう言ったが、清四郎は首を振った。
「美童もそんなに寝て寝てないんですから、今は眠ったほうがいいでしょう」
「でも・・・」
「代わったって、データの読み方も禄に分からないじゃねえか」
 魅録の声は、言葉とは裏腹にとても優しいものだったけれど、
 ぼくは返事をする気になれなかった。
 目が合うと、魅録は少し赤くなって照れたように笑った。
 ぼくも顔が熱くなるのを感じた。
「今は休みましょう」
 清四郎はそう言うと、立ち上がってぼくの肩を叩いた。
 布団には、ぼくを挟んで、清四郎と魅録の川の字に寝た。
 こんな時だと言うのに、なんだか旅行やキャンプの時のことを思い出してしまう。
 もうじき終わる高校生活を淋しいと思ってたけど、
 まさかこんなトラブルがあるなんて思ってもみなかった。
 こんな状況じゃ眠れないって思ったのに、ぼくはすぐに眠りに落ちた。

 朝起きると、清四郎は忙しそうにパソコンと睨めっこをしていた。
 魅録がこちらをチラっと見るから嫌な気分になった。
 なんだかぼくらは変な感じだ。
「悠理は? 」
 姿が見えなかったから聞いて見ると、清四郎は苦笑した。
「女子はお風呂に行きましたよ」
「そっか」
 布団から出ると、魅録と目が合ってどちらともなく反らした。
 なんだかすごく居心地が悪い。

続きます

すみません9スレでした。
529名無し草:2009/02/24(火) 22:52:46
>ぼくらは目覚めぬ〜
お待ちしてました。リアルタイムで読めて嬉しいです。
異世界からきた悠理が一途で儚げでかわいいです。
でもこの悠理をはさんで魅録と美童が怪しい雰囲気ですが、そこに清四郎も加わるのかな?
続き楽しみに待ってます。
530名無し草:2009/02/24(火) 23:46:10
>ぼくらは目覚めぬ〜
待ってました!
清四郎の別人発言に、確かに、と納得。
魅録と美童は別世界の悠理に惹かれているようにも見えるけど、こちらの悠理が戻ってきた時にどうなるんでしょう。
余所余所しい清四郎が気になります。
続きをお待ちしています。
531名無し草:2009/02/26(木) 21:46:05
突然過疎ですな
532名無し草:2009/02/27(金) 10:21:02
まとめサイト更新キタ!いつも乙です。

「連載中の作品」が増えてるのを見るのは嬉しい。
「連載中の作品」が「完結した作品」に移っているのを見るのは、さらに嬉しい。
「連載中の作品」が「中断している作品」に移っていることに気づくのは、すごく悲しい…。
533名無し草:2009/02/27(金) 18:43:47
自演いつもお疲れさまです^¥^
534名無し草:2009/02/27(金) 18:51:44
やっぱりIDの出る板に移った方がいいと思う。
自演とかしにくいだろうし。
535名無し草:2009/02/27(金) 21:55:35
荒らしをスルーできなくなったり住人の意見が対立し始めたりで
移転したり分割したりしたスレをこれまで色々見てきたけど
事態が好転するのは稀で移転や分割を機に衰退するのがほとんど
現時点でにぎわってるわけでもないここが移転したら
今以上に過疎るのは目に見えてる
536名無し草:2009/02/27(金) 22:27:48
清四郎が花粉症だったら楽しいな。
あれこれ必死に研究してたりして。
537名無し草:2009/02/27(金) 22:47:03
>>536
ぜひともすごく効く新薬を開発してもらいたものだ。
花粉症が一番似あわなそうなのは悠理のような。気合いで治すとかってわざわざ大量の杉花粉を浴びに
行ったり無茶しそうだ。
538名無し草:2009/02/27(金) 23:05:27
そして、菊正宗製薬設立
539名無し草:2009/02/28(土) 00:23:16
自分は花粉症じゃないんだけど、好きな女の為に何とか開発する清四郎
バラの花束と薬を手に、告白をすっ飛ばしてプロポーズ、なんて妄想してしまった
540名無し草:2009/02/28(土) 01:42:07
可憐と美童も花粉症が似合いそうだね。
「あーもう、なんでこんなに鼻がムズムズするのよお〜」
「とほほ…僕の美しい顔がマスクでだいなしだよ〜」
とか。魅録、悠理、野梨子は花粉症っぽくないな。
541名無し草:2009/03/01(日) 00:39:15
保守がてら。
自分はダンスの回の大関クンが好きなんだけど、一話きりの登場キャラでお気に入りってのはいる?
542名無し草:2009/03/01(日) 05:18:16
大関くんか、しぶいっすねw
ぱっと浮かぶのは賀茂泉くん(合ってる?)かなぁ。
543名無し草:2009/03/01(日) 16:56:07
実は高千穂哲郎が結構気に入ってるw
悪い事もしたけど、最後には改心したというか情にほだされていたし
案外素直で憎めないと思った。
544名無し草:2009/03/01(日) 17:07:45
だが一歩間違えば清四郎をおかしな道へ引きずり込もうとしてた奴だよw
545名無し草:2009/03/01(日) 20:16:01
焼き芋屋三人組かな。あのままずっと
あの畑提供されて屋台引っ張る気かと気になってます。
546名無し草:2009/03/01(日) 22:37:35
歴代有閑女性キャラの中でも一番の美形に思えた、ドメイヌ・ドゥ・シュヴァリエ。
547名無し草:2009/03/01(日) 23:03:47
修学旅行の話に出て来た、殺し屋ベライヒ!!!

548名無し草:2009/03/02(月) 00:15:52
お、同志ハケーンw
べライヒかっこよかったよね。テロの標的にされたローマ法王もイイ!!
549名無し草:2009/03/02(月) 01:51:00
御園柾臣!
一番かっこよく見えた…可憐と同じ趣味w
550名無し草:2009/03/04(水) 01:20:31
喜屋武ちあきの腐女子道:第5回「有閑倶楽部」 ぶっとびセレブが憎めない
ttp://mainichi.jp/enta/mantan/column/fujoshi/archive/news/2007/20071013mog00m200016000c.html

ネットサーフィンしてたら見つけた。ちょっと古いコラムだけど。
彼女の原作ベスト3は、1位「男子禁制殺人事件」、2位「剣菱家の事情」、
3位「南海の秘宝」だとか。
551名無し草:2009/03/04(水) 09:04:41
薄情女の投下はもうないのだろうか……
作者様、お待ちしてます〜!
552名無し草:2009/03/05(木) 10:11:58
ぷぷぷぷぷぷぷぷwwwwwwwwwwwww
553名無し草:2009/03/05(木) 23:07:57
>>550
自分の原作ベスト3は『豪華客船』、『蛇様』、『エメラルド』だな。
ある意味、美童が大活躍w
初期のゴージャスな6人が好きだ。
554sage:2009/03/06(金) 09:53:34
同じく
薄情女の投下希望
作者様、お待ちしてます〜!
555名無し草:2009/03/06(金) 10:35:57
>>550
私は『欧羅巴トラブル・ツアー』『香港より愛をこめて』『池のコイ誘拐事件』だな。

清四郎の武道、魅録の銃、悠理の喧嘩(?)が生かされて、かつ他のメンバーにも活躍がある話が好き。
舞台が海外だとさらにいいし、悪者を倒したり、犯罪すれすれのぶっ飛んだことをする初期の6人が素敵w
556名無し草:2009/03/06(金) 20:06:01
少数派な気もするけど、可憐とカサル王子の玉の輿エピもメンバーそれぞれの味が出てて好きだ。
アクションもあり、清四郎のプライド刺激、魅録の時宗ちゃんドン引き、美童のヘタレっぷり、悠理のおバカ発言、
可憐のミーハー、野梨子のツッコミ、とお約束満載。妄想スレ的には清四郎が野梨子を抱えて脱出!もあるし。

>>550のコラムの人のチョイスは確かに腐女子的かもしれんw

557名無し草:2009/03/07(土) 18:36:24
>>550
これドラマ始まる前に読んだけど、このこに語って欲しくないと思った。
漫画オタクで有名だからこういうコラム書いてと言われたんだろうが。
軽く読んでるだけなんだろうなって思った。

野梨子の口が悪いとか、言い方違うくないか?知らない人なら本当に口悪いって思いそう。
清四郎の常識人っていうのもちょっと違うし。一番の常識人は有閑ファンなら魅録だろう。
あと彼女は悠理好きのような気がする。
558名無し草:2009/03/07(土) 18:52:13
しょこたんと同じようにヲタ系アイドル狙ってる人だからね。
普段コスプレしてるアニメと有閑は正反対のタイプだし、ファンという訳じゃないと思う。
そして腐女子っぽい。
559名無し草:2009/03/09(月) 00:40:48
男性陣の女装や清四郎の乱れ髪、美童と悠理の同室エピ、と萌えどころが多いのかもね。
>男子禁制
清四郎の乱れ髪では、修学旅行の回で変装して捕まった時のが色っぽくて好きかも。
あの回、美童がガールフレンドの家に助けを求めにいくんだけど、照れている魅録に対して、
「夜分遅く失礼」と涼しい顔している清四郎の方が色恋慣れしているのかと思っちゃったよ。
初期の『遊び人魅録』設定は、結構早い時期から無くなっていたんだなあ。
560Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/03/09(月) 08:26:19
>>350 今回6レスいただきます。
561Graduation第十一話last dance(60):2009/03/09(月) 08:31:18

第二部フリータイム時は、盛り上がって外へ抜け出すカップルが少なくなかった。
特に、今日は月明かりと、気候の良さ、白木蓮の香りに誘われて、美しい春の宵闇の中、
学園の庭ではあちらこちらで愛の囁きが聞こえていた。
美童と可憐もその中の一組だった。正確に言うと、少し前にようやく美童は可憐を外へ
連れ出すことに成功したばかりだったのだが。二人が、思う存分ダンスを満喫して笑顔で
席に戻って来た時、そこで待っていたのは、悠理の世にもしょんぼりした顔だった。
パートナーであるはずの魅録と、そして野梨子がいない。清四郎から事情を聞くと、
いつも明るく楽観的な二人も、さすがに難しい顔をした。
周囲は、自分達の事で精一杯で、周りが見えていない者が多かったが、それでも、
何となく有閑倶楽部に起こった異変を感じ取っている生徒達もいるようで、不躾では
ないものの、チラチラと好奇の視線を送ってくる。

清四郎は堂々と椅子に座り、微笑みさえ見せるポーカーフェイスで、ゆったりと軽食を
口に運び、背後には、「今、パートナーは席を外していますが、それが何か?」との
強気のオーラを発していた。しかし、悠理ときたら、もう魂の抜け殻のようで、泣いて
こそいないものの、その意気消沈した様は目も当てられなかった。それも当然だった。
この世で一番好きな人とのダンス・パーティー、その幸せの絶頂で、突然相手が自分を
置いていなくなったのだ。
普段とあまりにもかけ離れた悠理の様子に、ついに、一部のファンの女生徒たちが
心配そうにやって来た。清四郎は安心させるように、彼女達に余裕の笑顔を見せた。
「悠理は、ちょっと腹痛を起こしていましてね。今、魅録と野梨子が薬を取りに行って
いるところですから、安心して下さい。」

美童と可憐、そして清四郎も、自分の事はさておいて、悠理を気遣った。その方が楽だったのかもしれないが。
そして結局、可憐はその後ずっと、悠理を自分の胸に抱きかかえていたのだ。美童が、誘ってみる。
「ちょっと、僕と踊る?少しは気が晴れるかもよ。」

562Graduation第十一話last dance(61):2009/03/09(月) 08:33:26

「いい……。今日は、自分のパートナーとしか、踊っちゃいけないんだから……。」
しかし、悠理は弱々しく首を振るばかりだった。そして、溜息混じりに言った。
「一時間したら、戻って来るって言ってたから……。」

しかし、二人は、一時間しても戻って来なかった。一時間半が過ぎようとした時、
ついに悠理は小さな声を出した。
「ごめん、美童。可憐を独占しちまって。おまえらだって、二人切りになりたいだろ?
あたいは大丈夫だよ。……清四郎もいるし。」
「そうですよ。二人とも、何も食べてないでしょう。少し、口にした方がいいですよ。
アルコールが入る前に。」
美童と可憐はそういえば、腹がすいている事に気が付いた。無礼講の第三部が始まる前に、
確かに少し食事をした方が良さそうだ。
「それじゃ、お言葉に甘えて、ちょっと行ってくるわ。悠理をよろしく。」

そして、可憐と美童は少し軽食をつまんだ後、会場の熱気とダンスでほてった体を冷やしに、
外に出て来たのであった。実は、美童はとっくに可憐を外に連れ出している予定だったのだが、
こういう事情では仕方がなかった。また、二人切りになったところで、仲間思いの二人には、
悠理と清四郎の事が気になって、とても愛を語る雰囲気ではなかった。二人は裏門に続く、
本校舎の裏のポーチに並んで座ったが、話す内容といえば、悠理と清四郎、そして
野梨子と魅録のことばかりだった。

「あんな悠理、見ていられないわ……。」
可憐は膝をかかえて、顔を、たっぷりとした濃い桃色のシルクタフタの波に埋めた。
「そりゃあ、恋が走り出したら止まらないってこと位、分かってるけど、でも……。」
普段とは別人のような神妙な顔つきの美童は、吐息交じりに言った。
「清四郎はさすがだね。顔には出してないけど、本当は悠理同様、相当応えてるはずさ。」
「あの二人……戻ってくると思う?」
可憐が上目遣いで美童を見上げた。
563Graduation第十一話last dance(62):2009/03/09(月) 08:35:16

「うん……。」
美童は、金髪を振り上げて、満月を仰いだ。
「それは、それで切ないけど……でも……多分……。」
「何でこうなっちゃたのかしら……?」
「……。」

その時、裏門に続く暗い道から、ぼうっとした白い輝きが現れた。それは、段々大きくなり、
形をはっきりと取り始めた。
「野梨子!」
可憐が立ち上がって叫ぶと、野梨子は顔を覆っていた両手を外して、涙でぐしゃぐしゃの顔を見せた。
「可憐っ!」
野梨子は可憐に抱きついた。

「可憐っ、可憐っ!もう、終わりましたわ!本当に終わりましたわ!」
そして、そのまま、わああっと泣き崩れた。

可憐は美童に目でそっと合図をし、美童はそっと微笑むと一人で会場に戻って行った。
可憐と野梨子は並んで座り直した。可憐はそっと野梨子の額を自分の肩に乗せた。
「野梨子……。もう、大丈夫よ。どうしたの?何があったの?話したければ、話してちょうだい。
勿論、話したくなければ、無理に話さなくていいのよ。」
野梨子は、激しくしゃくりあげながら、それでもポツポツと話し出した。
「わたくし……、わたくし……魅録が好きでしたわ……。」
「……知ってたわ。」
「……魅録を、好きになるつもりではありませんでしたの……。魅録は、仲間でしたもの……
止めよう、止めようと何度も思って……でも、止めようと思えば思うほど、気になるようになって……。」
「恋って、そういうものなのよ。」
「……悠理が、魅録をあんなに好きだなんて……知りませんでしたの。好きなのではとは、
思っていましたけれど……、あんなに……あんなに激しくだなんて……!」
「東郷邸で、聞いていたのね。そうだと思ってた。」

564Graduation第十一話last dance(63):2009/03/09(月) 08:36:44

「……わたくし、悠理を応援しようと思いましたの……本当ですわ……上手く行って
いましたのよ……、でも、あの吹雪になって……ああ、やっぱり、魅録が好きだって
気が付いてしまいましたの……。」
「仕方のないことよ。」
野梨子は、涙で濡れる顔を上げて可憐に尋ねた。
「わたくし……いけない事をしていたのではありませんの?悠理の気持ちを知っていながら、
やっぱり魅録が好きだって思った時、まるで悠理を裏切ったような気がしましたわ……。」
「馬鹿ね。真面目な恋ですもの。いけないわけ、ないじゃない。悠理は悠理で真剣。
あんたは、あんたで真剣だったのよ。」
「……。」

可憐の言葉は、興奮の極みにいた野梨子を少しだけ落ち着かせた。
長い沈黙の後、野梨子は小さく首を振って言った。
「いいえ……、やはり、わたくしは、悠理とは違いましたわ……。」
「どういうこと?」
野梨子は、未だ流れ出る涙を拭こうともしないで話し続けた。
「悠理には、魅録の他、誰もいませんわ。でも、わたくしは……わたくしには……。」
「……清四郎……?」
野梨子はこっくりと頷いた。
「ええ……。わたくし……わたくしが魅録を好きなことが清四郎に分かったら、
清四郎はわたくしから離れて行ってしまうと思いましたの……。それが怖くて……、
ずっと、自分の気持ちに正直になれなかったんですわ……。」

次に可憐から発せられた言葉は、野梨子には意外なものだった。
「……この際だから聞くけど、野梨子、清四郎のことはどう思っているの?」
野梨子は直ぐに返事が出来なかった。
「え?清四郎は……生まれた時からの幼馴染で……いつもわたくしの傍にいて、
わたくしを助けてくれて……。」

565Graduation第十一話last dance(64):2009/03/09(月) 08:37:37

「野梨子。」
可憐の声には、ある種の凄みがあり、野梨子はビクッと体を震わせた。
「野梨子。あんた、清四郎のこと、もっと真剣に考えてあげるべきだと思うわ。
彼にだって、心があるのよ。」
「……。」
「厳しいことを言うみたいだけど、あんた、幼馴染であることをいいことに、清四郎に甘え過ぎよ。
魅録の事がどうのこうのっていう以前にね。もう、いいかげん、清四郎を卒業しなさい。
でないと、また同じことを繰り返すわ。あんたの背後に清四郎の影が見える限り、
あんたの恋は上手く行かないと思う。あんただって、正々堂々と相手に想いを告げられないでしょう?
今回だって……結局、そういう事じゃないの?」
「……。」

可憐は、口調を変えて言った。
「それで、魅録とは、どうなったの?もう終わったって、さっきは言ってたけど?」
野梨子は夜空を見上げると、自嘲するように微笑んだ。
「ふふ……おかしいですわね。終わったというどころか……始まったとも言えませんでしたのに……。
悠理と清四郎には本当に申し訳ない事をしましたわ……。わたくし、ずっと、魅録の
バイクにもう一度だけ乗りたいと思っていましたの。そう出来たら、全てを吹っ切れるような気がして……。
そして、今日、これが最後のチャンスだと思った途端、頭の中が真っ白になって、
その事しか考えられなくなってしまって……そして、乗せてもらった、それだけですわ。
ただ…何となく、これで本当に終わったんだって…思いましたの……。」

566Graduation第十一話last dance(65):2009/03/09(月) 08:38:25

「……。」
可憐は、本気の恋心というものが、そんなに簡単に無くなるものでないと分かっていた。
それは、ゆっくり、ゆっくりと、時だけが解決して行ってくれる。短くて数ヶ月、長ければ数年……、場合によってはそれ以上……。
だが、癒される時は必ず来る。実を結ばなかった恋に、時は限りなく平等に優しい。
恐らく、野梨子は、この短い逃避行の行きと帰りでは、何かが今までとは確実に変った
ことを感じ取っているのだろう。
野梨子と魅録の間には、二人だけが了解している何かがあったに違いない。
それは、永遠に二人だけの秘密だ。
女友達でも、立ち入ることが出来るのはここまでだ。

尚もしばらく、野梨子は可憐の白い肩に頭を持たせかけていたが、その内、すすり泣きと共に小さな声を出した。
「可憐……。」
「ん?」
「美童と良い雰囲気だったのでしょう?わたくしの為に、申し訳なかったですわ。」
「何言ってるのよ。女友達って何のためにいると思う?」
「……。」
可憐の言葉は、ふんわりとした焼き菓子のように優しく、甘く、そして赤ん坊の真綿の
おくるみのように、野梨子の心を暖かく包み込み、慰めた。
「ほら、涙を拭いて。あーあ、化粧が取れちゃって……。まぶたが腫れかかっているし、
化粧も直さなきゃいけないから、一回、教室に戻らなきゃ。大丈夫、あたし、泣いた後の
顔の誤魔化し方、上手なテクニック知ってるから。」

続く
567名無し草:2009/03/09(月) 11:38:59
>Graduation

お待ちしておりました〜!
続き楽しみにしておりました。
四人の胸中を思うと苦しくなりそうなところですが、美可の存在がそれを和らげますね。
このカップル好きすぎるw
野梨子が清四郎から卒業出来る日を見守りたいな〜と思います。
568名無し草:2009/03/09(月) 18:24:35
>Graduation
お待ちしてました。
揺れ動く二人の気持ちから、終わったと野梨子が感じるまでの描写が
凄く丁寧で、感情移入して切なくなりました。
ほんと、美可の存在がありがたいw
楽しみに待ってますので、最後まで頑張ってくださいね。
今感想が少ないのは多分、大規模規制のせいだと思います。
569名無し草:2009/03/09(月) 20:27:17
>Graduation
続き待っていました!
逃避行中の二人が、第三部の前にちゃんと戻ってきてよかったです。
パートナーがいなくても清四郎の強気な様子&さりげないフォローがらしくて感心しました。
切ない展開ですが、今後の展開が楽しみです。
570名無し草:2009/03/09(月) 21:41:56
>Graduation

野梨子の気持ちにはある意味での区切りがついた感じですね。おそらく魅録も。
そうなるとこの後、悠理&魅録と野梨子&清四郎、そして悠理&野梨子と魅録&清四郎が
それぞれどう向き合うのか、続きが待ち遠しいです。

あと、可憐が本当に強くて優しくて素敵です。文章を読んでいると、内面からも美しく輝く
彼女の姿が目に浮かぶようでした。
美童も本当の意味で紳士な感じで魅力的で…。彼もこれから仲間のフォローをしてくれると
思いますが、どんな言葉を紡ぎ出してくれるのか楽しみです。

それにしても、続きが読めて本当に嬉しい!どうか最後まで毅然として頑張って下さいね。
571名無し草:2009/03/09(月) 22:31:04
可憐の言葉は至極ご尤もだし、野梨子はそれでいいかもしれないけど
気持ちを自覚したばかりで行き場のない想いを抱えた魅録がかわいそう。
二度と会わない相手ならともかく、これでお互い気持ちに区切りなんてつけられるのかなー。
続き待ってます。
572名無し草:2009/03/10(火) 05:22:09
悠理の意気消沈した姿見て何も思わない魅録じゃないでしょ
573Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/03/10(火) 09:17:26
>>561 今回8レスいただきます。
574Graduation第十一話last dance(66):2009/03/10(火) 09:19:24

時刻は9時半になり、ついに第三部が始まった。ここからは生徒中心の会になり(一応、
監視はそれとなく入ってはいるが)、こっそりと飲み物にはアルコールが混ぜられたりする。
が、そこは聖プレジデント、ドラッグまでは手を出さないし、幾ら恋人同士が盛り上がったところで、
せいぜいキス止まりだった。それでこそ、学校側も、多少のはめの外し方には目を瞑っていたのである。

ギュイーン……。
今までとは趣の異なる、若者の胸を刺激するエレキギターの音が響き始めた。ロックの
曲調はお上品な男女にも熱いものを与える。激しい旋律を全身で受け止めているうちに、
悠理はハッと体が震えた。
(この曲……いつか、魅録とロック・フェスティバルに参加した時に演奏したやつだ……。)
悠理は体を起こして、食い入るように生バンドの演奏するステージを見つめた。
ボーカルは女の子だ。清四郎は、悠理の変化に気が付き、怪訝そうに彼女を眺めた。
「悠理?どうしました?」
しかし、悠理はじっとステージを見つめたまま動かない。

ボーカルの、この学園には珍しいボーイッシュな女の子が、元気良く次の曲を説明する。
「えー、では、次の曲は、プリンセス・プリンセスの『ダイアモンド』です!先輩達が、
聖プレジデント学園で過ごした日々を、様々な場面を、ダイアモンドのような宝物にされますように。
そしてその宝物が、先輩達のこれからの輝かしい人生の、大きな糧となりますよう、
心を込めて歌わせてもらいたいと思います!」

そこへ、美童が戻って来て、清四郎に耳打ちした。清四郎の表情が変った。
「悠……。」
清四郎が、悠理に話しかけようとしたその時。
ガタッ!
悠理はふいに勢い良く立ち上がった。
「清四郎っ!美童っ!行くぞっ!」
「え……?」
575Graduation第十一話last dance(67):2009/03/10(火) 09:23:22

「キャーッ!剣菱さまーっ!」
「美童さまっ、それに菊正宗さまもっ!」
悠理、清四郎、そして美童がバンド演奏のステージに上がると、生徒たちから歓声が上がった。
悠理はちょっとすまなさそうに頭を掻くと、ボーカルの女性徒に向かって手を合わせた。
「せっかくあたい達のために歌ってくれてんのに、本当に悪いんだけど、この曲だけ、
ボーカルとベースとドラムを代わってくれないか?どうしても歌いたいんだ。」
「あっ……!はっ、はい……、勿論ですっ!」
女性徒は真っ赤になって、マイクを悠理に手渡した。

この曲は、高二の文化祭で、有閑倶楽部がバンドを組んだ時に演奏したものだった。
その時は、悠理がボーカル、魅録がギター、清四郎がベース、美童がドラムで、
野梨子がキーボード&コーラス、可憐がタンバリン&コーラス&ダンス担当だった。
悠理はこの元気な曲が大好きだった。
今の状態は自分らしくないと分かっていたし、早く吹き飛ばしたいと思っていた。
そして、何より、どん底まで苦しんだ末、今や悠理は、もはやどうにもならないくらい、怒っていた。

(バカ野郎!バカ野郎!魅録のバカ野郎っ!)
(とにかく今日はっ、今日だけはっ、おまえのパートナーはあたいだろっ!)
(何で、あたいを置いて、どっか行っちまうんだよっ!何で戻って来ないんだよっ!)
(もう、お前なんか、知らないからなっ!お前なんか、お前なんか、お前なんかっ……!)

悠理の本来の気質がゴォと音をたてて燃え出し、そのありったけを歌にぶつけようとしていた。
清四郎と美童はそれを察知し、それぞれ、ベースをかかえ、ドラムの席に着くと、微笑んで頷いた。
「ワン、ツー、スリー、フォー……」
美童がスティックで合図する。今や全身、触れれば火傷しそうな火の固まりになった
悠理は、まさに燃えさかる朱色のドレスに身を包んだまま、マイクをぐっと握った。

(魅録の……バカ野郎───!)
576Graduation第十一話last dance(68):2009/03/10(火) 09:26:14

前奏を始めた清四郎と美童にニッと笑いかけると、悠理はクルッと正面を向いて
ダンスフロアにいる生徒達に艶然と微笑み、拳を突き上げた。
「みんなっ!行くぞーっ!」
「キャー、剣菱さまーっ!」
「ウォォォォォーッ!」
もう、パートナーの事などかまっていられなかった。

「冷たい……」
悠理はキュッと顔を上げ、手を広げて、歌い始めた。

ベースをかき鳴らしながら、清四郎が悠理を励ますように近くに寄ってくる。
悠理と目が合うと、眉を上げて、黒い双の目を楽しげに光らせた。

教室で化粧直しを終えた野梨子と可憐は、大講堂に戻る途中だった。
「明日起きたら、まぶたがパンパンかもしれないけど、今は取りあえず見られるようになったわ。」
「本当に可憐には、お世話になりっぱなしですわ。」
「皆の所に、本当に戻れる?……魅録も……戻って来てると思うけど……。」
「……大丈夫ですわ。戻らないと、清四郎に申し訳ないですもの。」
野梨子は確固とした表情を見せた。可憐は感心したように笑みを浮かべた。
「あんたはいざとなると強いもんね。あら、この曲……?」
会場に入る直前始まった歌に、野梨子と可憐は耳を澄ませ、顔を見合わせた。
「悠理の声ですわ……!」
「多分、ベースとドラムは……。野梨子、あたしたちも早く行かなきゃ!」

577Graduation第十一話last dance(69):2009/03/10(火) 09:27:41

悠理が力強く頷きながら後ろを振り向く。
美童がドラムをリズムよく叩きながら満面の笑顔を見せる。

悠理はハッとした。
乾ききっていた悠理の心に、再び暖かいものが流れ込んできた。
(あたいは……あたいは、一人じゃない……)
(あたいには……こいつらがいるんだ!)

一方、ようやくバイクから離れて、のろのろと一人大講堂へ戻っていた魅録の耳にも、
馴染みのある曲と、歌声が届いた。魅録はうな垂れていた顔を上げた。
「悠理だ……。」
暫し立ちすくんで聴いていると、ベースとドラムの音で、清四郎と美童の参加も把握できた。
「ちぇっ、あいつら……。」
魅録の顔が泣き笑いのように歪んだ。
「……。」
心に、懐かしいような、熱い塊が転がり込んできた。体中の血が再びドクドクと流れ出す。
仲間たちの顔が次々と浮かび、数秒の後、魅録は大講堂に向かって走り出した。

悠理は目に力を込めて前に向き直り、紅潮した顔で左手の人差し指を下へ降ろす。
「針が……」
悠理の脳裏に、今までの6人での日々が蘇ってくる。
やけっぱちだった歌が意味を持ち、本物の笑顔が浮かび上がってきた。

悠理が清四郎にマイクを向ける。
 清四郎がすかさず入って歌う。
美童が後方から笑いながら声を出す。
三人の声が爆発する。

ワン・ツー・スリー・フォー!
生徒全員が拳を振り上げて飛び上がった。
578Graduation第十一話last dance(70):2009/03/10(火) 09:28:59

───……だね……ああ……───
悠理が声を響かす。その時。
「ああ」

たおやかな女性たちの声が聞こえた。
腰に手を回しあった可憐と野梨子が笑顔でステージに上がって来る。

「か・れ・ん!か・れ・ん!」
「のーりーこぉぉぉぉ──……。」

清四郎が満足そうな笑みを浮かべ、美童がヒュウと口笛を吹く。

途中、清四郎の目と野梨子の目が合った。
野梨子は謝罪の気持ちを瞳に込めて清四郎を見つめた。
清四郎は返事として微笑みを浮かべ、頷く。

とにかく今は、四年間のきらめく数々の場面を思い出しながら
この曲に思いっきり身を任せるだけだ。

「ああ」 キーボードを交代した野梨子がマイクに口を寄せる。
「ああ」 タンバリンを片手にした可憐は、驚いている悠理のマイクを奪い取って歌う。
歌い終わると、可憐は思いっきり派手に悠理にウィンクして、
後方のスタンドマイクに下がった。

悠理は胸がどうにかなりそうだった。
(野梨子が戻って来た!ということは……?)

579Graduation第十一話last dance(71):2009/03/10(火) 09:30:54

間奏に入ってすぐ、ギターの音が変わった。
悠理の目が大きく見開かれる。
「キャー、松竹梅さまーっ!」

(やっぱり……)
今や、三年生全員がこう思っていた。
(やっぱり、有閑倶楽部は6人でなくっちゃ!)

「あ……。」
悠理は今度こそ、その場につったったまま、動く事が出来なかった。

眩しい照明、大声援、大音響の中、悠理に見えるのはただ一人────

魅録は体をしなやかにそらせてギターをかき鳴らし、清四郎の隣に並んだ。
二人の目が合う。
しかし、魅録はもう、目を逸らせなかった。
眉を上げて、真っ直ぐに清四郎の瞳を捉える。
(パートナーを借りちまって悪かったな……けど……)
(……野梨子はおまえの所に戻って来たぜ……。)

清四郎は、さっき美童が耳打ちした言葉を思い出す。
(野梨子、戻って来たよ。もう、本当に終わったって言ってた……。)
清四郎は一瞬複雑な表情と共に目を伏せたが、
次には目に光を宿し、魅録の視線をしっかりと受け止めた。

魅録は清四郎の目の色を確認すると、
後ろを向いて美童と三人、強く頷き、笑い合って間奏を終え、
そして悠理の隣に戻って来た。
悠理の大好きな、あの微笑を浮かべて。

580Graduation第十一話last dance(72):2009/03/10(火) 09:32:57
未だ歌うことの出来ない悠理が落ち着くまで、野梨子と可憐がボーカルを引き受けた。
悠理は微動だにせず、肩を落としてマイクを握った手をだらりと下げ、
唇を震わせながら、戻って来たパートナーを見つめていた。
その瞳が徐々に涙に濡れてくる。

野梨子は悠理の様子を見て、吐息と共にそっと微笑み、目を閉じた。
言いようのない安堵感に包まれる。
(これで……本当にこれで……)
(良かったのですわ……。)

途中で我に返った悠理は、マイクを握りなおした。
そして、ぐいっと拳で涙を拭い取ると、周囲をぐるりと見回した後、
再び顔を上げて、一層声を張り上げた。

今度は清四郎が魅録の隣にやって来て、二人同じ方向を向いて並ぶと、
お互い、目に悪戯っぽい輝きを光らせながら笑い合って、
ギターとベースを同じポーズで動かし合って弾いた。

今まで一緒に過ごして来たこの4年間の日々は、
結局、何をもってしても、決して消す事は出来ないのだ。
確かに存在した、いくつもの場面
それらは未来永劫6人の宝物……

野梨子が微笑む。
可憐が踊る。
悠理が歌う。
そして6人の声が一つになる。

ワン、ツー、スリー、フォー!
生徒達の興奮はここに極まった。

581Graduation第十一話last dance(73):2009/03/10(火) 09:34:37

悠理は、声を限りに歌い、この身が引きちぎられんばかりに踊った。

魅録がギターをかき鳴らしながら、悠理の体すれすれに近寄って来る。

「ああ」
魅録が悠理のマイクに入る。
二人の頬と頬が触れ、目と目が合う。

悠理は真っ赤な顔をして振り返る。
清四郎、野梨子、美童、可憐が笑っている。

「ああ」
「今」
6人が一斉に叫ぶ。
悠理は渾身の力を込めて最後のフレーズを歌った。

─── D・I・A・M・O・N・D ───

続く

582名無し草:2009/03/10(火) 09:59:55
>Graduation
続けて読めて嬉しい。
6人の表情や仕草までアリアリと見えるような描写に、自分がその場に
いる気持ちになって、声援を送ってしまいましたw

>(やっぱり、有閑倶楽部は6人でなくっちゃ!)
本当にそう思います。
まだまだ波乱があるのかもしれないけど、この6人ならきっと乗り越えて
いけるだろうと。
583名無し草:2009/03/10(火) 13:25:51
>Graduation
やっぱり、悠理はキラキラと元気一杯に輝いているのが似合いますね。

一心不乱にドラムを叩く美童の姿を妄想したら、某バンドの失神ドラマーの姿になってシモタw
584Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/03/11(水) 08:33:27
>>574 今回7レスいただきます。
585Graduation第十一話last dance(74):2009/03/11(水) 08:35:37
「ごめん!勝手に出て行って、本当に悪かった!」
魅録は、悠理を会場の外へ連れ出すと、両手を合わせ、頭をこれ以上は無いという程低く下げて謝った。
「野梨子がバイクに乗りたいって言ってくれたから、ひとっ走りして来ただけなんだ。
俺、バイクの事になると、突っ走っちまうだろ?けど、ガキみたいに後先考えない行動とって、
軽率だったって本当、反省してる!」

悠理は、さっき、あんなに怒っていたことを、もうすっかり忘れていた。
自分でも単純だと思う。でも、戻って来てくれれば、それでいいのだ。
そして魅録は……戻って来た!
悠理は、潤んだ瞳に最上級の喜びを浮かべて、魅録を見上げた。
「ううん……。あたいの方こそ、魅録に謝らなくっちゃ……。戻って来るって言ったんだから、
信じてなきゃいけなかったのに、あたい、途中で、おまえはもう戻って来ないんじゃないかって……
疑っちまった……。ごめん。おまえは、絶対に嘘なんかつかないのに……。」
「悠理……。」

魅録の顔が激しくゆがんだ。どんな悪口雑言の責め文句よりも、悠理のこの言葉は彼の胸を突き刺した。
魅録は苦しげに喘ぎながら頭を振った。
(悠理……、おまえはどうして……そんなに……)
悠理を一人にしたことへの後悔でたちまち胸が一杯になり、魅録は返す言葉が出なかった。
(今晩は悠理をよろしく頼むだ。魅録くん。)
悠理を迎えに行った時の万作の言葉が蘇る。そして、愛娘を自分に託した剣菱家の人々の顔が……。
(俺は……!)

魅録は眼下の少女に目を落とした。
濃い琥珀色の瞳は、迷い無く、一心に自分を見つめ、身体がわずかに震えている。
魅録には分かった。
悠理が、自分が戻って来たことをどんなに喜んでいるかということが……。
そして、どんなに不安に自分の帰りを待っていたかということが……。
それなのに、自分を責める言葉一つ言わない悠理……。
魅録は、突然自分を襲った新たな激情に、立っているのがやっとだった。

586Graduation第十一話last dance(75):2009/03/11(水) 08:36:52

(今まで真剣に考えたことなかったけど、こいつは……、俺が本当にいなくなったら、どうなっちまうんだろう……?)
(そして、こんなに……、こんなに俺を信頼してくれるこいつに……俺はいったい何をしてやれるんだ?)
(……野梨子には……清四郎が……)
(でも、悠理は……?)

その時、会場から激しいロックの曲が聞こえ出した。
「魅録!」
悠理が嬉しそうに目を輝かす。
魅録は、今度こそ、この目の輝きを失わせたくなかった。
「よし、行くか!」
二人は笑い合い、薔薇色のドレスの裾を翻して、会場の中に走り戻った。

一方、野梨子と清四郎もまた、二人して外に出ていた。
「ごめんなさい、清四郎。勝手な事をして、本当に申し訳ありませんでしたわ。
わたくし、ずっと、もう一度だけバイクに乗ってみたくて……。今日が最後のチャンス
だと思いましたら、その事で頭が一杯になって、他の事が考えられなくなってしまいましたの。
それで、魅録に無理やりお願いしたのですわ。」
清四郎の究極の怒りを覚悟していた野梨子は、目を瞑って深々と頭を下げた。
(何を言われても……仕方がありませんわ!)
しかし、清四郎はこう言っただけだった。
「無事に戻って来て、安心しましたよ。」
野梨子は、ハッと顔を上げた。

「……。」
「どうしました?」
野梨子は小首をかしげて、哀しげな目で清四郎を見つめた。
「清四郎……、わたくしを、責めませんの?わたくし、清四郎に対して、酷い事をしましたわ……。」
「……野梨子がそういう行動を取るからには、それなりの理由があると思いますからね。」
「清四郎……。」

587Graduation第十一話last dance(76):2009/03/11(水) 08:38:08

野梨子の感じやすい胸は、清四郎にすまないと思う気持ちで、はちきれそうになった。
彼女はうつむいて、唇を噛みしめた。身体が震える。
(清四郎……優し過ぎますわ……そんな風に言われたら、わたくし、どうしたら……?)

野梨子の脳裏を、可憐の言葉が横切った。
(清四郎のこと、もっと真剣に考えてあげるべきだと思うわ。彼にだって、心があるのよ。)
(あんた、幼馴染であることをいいことに、清四郎に甘え過ぎよ。)
野梨子は力なくうな垂れ、再び目を閉じた。
全く可憐の言う通りだ……。
自分は、またも清四郎の心を考えず、彼に甘えてしまった……。

黙り込んだ野梨子に、清四郎は何事もなかったように、話しかけた。
「それで、バイクは楽しかったですか?」
「ええ……。もう、思い残すことは何もありませんわ。」
野梨子は顔を上げて微笑んだ。
その毅然とした声には、少しの迷いも見出すことは出来なかった。
清四郎は、ステージ上での、魅録の何かを吹っ切った様な、真っ直ぐな視線を思い出した。

「……。」
清四郎は、黙って野梨子の白い顔を眺めていたが、ふと気付いたように言った。
「何か違うと思ったら……、髪に差していた薔薇がありませんね。」
「ああ……。」
野梨子は髪に手をやった。
「ヘルメットを被る時に、痛めてしまいそうだったので、取りましたの……。」
それを何処へ忘れてきたかは、言えなかった。
588Graduation第十一話last dance(77):2009/03/11(水) 08:39:20

清四郎はそれ以上野梨子が何も言わないのを見て取ると、スッと自分のタキシードの
ボタンホールから白薔薇を抜き取った。
「あ……。」
野梨子の髪に挿そうとする。しかし、専用のピンのついていないそれは、くせのない、
真っ直ぐな野梨子の黒髪からスルリと滑り落ちてしまう。清四郎の眉が少し悲しげに下げられた。

そこへ、丁度、可憐と美童が通りかかった。
清四郎が何を試みているのかを察すると、可憐が助け舟を出した。
「あら、野梨子の髪は真っ直ぐ過ぎて、ピンがなきゃ無理よ。」
可憐は、自分のサイドの髪をまとめてあるUピンを自ら抜き出した。野梨子は慌てた。
「可憐、いけませんわ。せっかくの素敵な髪型が……。」
「平気よ。あたし、どんな髪型も似合うから。ねっ、美童。」
可憐が楽しげに美童にウィンクした。
美童は、そんなパートナーが愛しくてたまらないという様に、首を傾けて微笑んだ。

可憐はトップにまとめていたサイドの髪をフワリと下に垂らして、完全なダウンスタイルになった。
そして、Uピンを細い指先で器用にねじりながら、白薔薇を野梨子の髪につけてやった。
「ほおら。出来た。」
「感謝しますよ、可憐。」
清四郎は満足気に野梨子を見た。野梨子には白薔薇が一番良く似合う。
これで、野梨子は完全に自分のパートナーに戻ったのだ。

ついに、チークタイムが始まった。
それまでとは全く雰囲気の異なる曲と照明に、もじもじとしているうら若き紳士淑女の中で、
真っ先にフロアに上がったのは、勿論、美童と可憐だった。続いて、ダンス部の面々が進み出る。
アルコールもちょっと入った生徒たちは、特に本物の恋人たちは、次第にいてもたっても
いられなくなって、次々とフロアに出始めた。始まって分かったことは、踊っている者
たちは、もうお互いしか見ていないということだった。これでは、踊らない方が損に決まっている。
誰も他人のことなど気にしていないのだから。

589Graduation第十一話last dance(78):2009/03/11(水) 08:40:15

魅録と悠理はチークが始まってからは椅子に座ったままだった。練習中から、悠理は
自分とのチークを何となく避けていたから、興味がないのだろうと魅録は思っていた。
それに、自分の高校時代のラスト・ダンスはもう……。
それ故、特に悠理を誘うこともなく、フロア上の幸せそうなカップル達をぼんやりと眺めていると、
ふいに、悠理が隣で下を向きながら、消え入りそうな声を出した。

「ああああああ、あの……、みみみみみみ、魅録……、もももももも、もし……、
よよよよよよ、良かったら………、あっ、あたあたあたあたあた……あたいと………」

びっくりした魅録が、体を屈めて、下から悠理の顔を覗き込むと、悠理は真っ赤になって、
震えながらドレスの裾を握りしめている。魅録の眉根が下がる。
「……。」
「いっ、いいいいいいいいいいい……嫌だったら……いいんだっ……けどっ……」

「バーカ。」
悠理の唇が、突然、人差し指で塞がれた。
悠理が顔を上げると、魅録が笑いながら、手を差し出していた。
「こういうのは、男から誘うもんだろ。」
「!」

「悠理、俺と踊ってくれるか?」
590Graduation第十一話last dance(79):2009/03/11(水) 08:41:23

一方、清四郎と野梨子も、少し離れた場所で、フロアを見つめていた。
清四郎は、一度申し込んだ。しかし、野梨子は、悪いと思いながらも、それを断った。
「ごめんなさい、清四郎。わたくし、今夜はもう大分疲れてしまいましたの。
遠慮致しますわ。本当にごめんなさい。」
疲れているのも事実だが、本当は、高校のラスト・ダンスは、魅録との思い出として、取って置きたかったのだ。
「分かりました。」
野梨子の意思がはっきりしているのを見てとって、清四郎は一度、引いた。
しかし、和子の声が、さっきからずっと頭の中でリフレインしている。
(……卒業ダンス・パーティーでラスト・ダンスを踊れなかったカップルは、将来結ばれ
ないってジンクスがあるのよ……)

「では、次の曲が今夜のラスト・ダンスです!高校時代のラスト・ダンス!どうぞ、皆さん
思い残すことのないように!曲は……『ONLY YOU 』 !」

ラスト・ダンス……!
清四郎はもう黙っていられなかった。
清四郎は、野梨子の細い肩を両手でぐいと掴むと、驚いている野梨子の目を間近から、
思いのたけを込めて、じっと覗き込んだ。
「野梨子……お願いだ!これは……、このラスト・ダンスだけは、僕と踊ってくれないか?頼む……!」
清四郎の思わぬ迫力に野梨子は圧倒された。それは、野梨子の知っている清四郎ではなかった。
目はギラギラと熱く光り、口元は苦しげに歪められている。もし野梨子が断れば、
どうにかなってしまいそうな、かすかな狂気の片鱗のようなものを感じ、野梨子は動揺した。

しかし、その時彼女は思い出した。
聖プレジデント学園における、清四郎との、長い、長い年月を。
春も夏も秋も冬も。
晴の日も雨の日も風の日も雪の日も。
(清四郎ちゃん)(野梨子ちゃん)
呼び合った幼い日。

591Graduation第十一話last dance(80):2009/03/11(水) 08:42:35

この時までに、野梨子は既にある決意をしていた。
そうだ、これは確かに、ラスト・ダンスになるかもしれない。
これまでの自分と……清四郎の……。

「さっきはお断りしてごめんなさい。こちらこそ、お願い致しますわ。」
野梨子は頷いて、清四郎の手を取った。そのままダンスフロアに進む
右手が清四郎の手にとられ、清四郎の右手が背中に回る。清四郎は自分の知っている
もう一人の男性よりも、少し背が高い。武道をしている手は外見に似合わずしっかりしている。
ふと知っている顔が目に入る。

可憐と美童は瞬きもせず、何かに魅入られたように、お互いを食い入るように見つめ合って踊っている。
そして……。
その向こうでは、悠理が、魅録の首にきつく両腕を回し、顔を全部魅録の肩に埋め、
もう絶対に離れないとばかりに踊っている。魅録は、少し困ったように、顔を赤らめて、
それでも悠理の腰に手を回して、リードしていた。

野梨子は顔を上げた。清四郎はこの間、一瞬も自分から目を離さなかったと見える。
黒い目同士が合った。
清四郎は、また、あの不思議な表情をしている……と、野梨子は思った。
その意味は、もしかしたらよく考えれば……分かるのかも知れない……。
でも、今はまだ……。
これから、自分がすべき事は決まっている。
野梨子はそっと長い睫を伏せ、無心にラスト・ダンスに身をゆだねた。

最後のボーカルが会場に響く。

───────── ……ONLY YOU…… ─────────

最終話graduationに続く
592名無し草:2009/03/11(水) 09:33:05
>graduation
早く終われ♪

感想が少ないのは規制だけのせいじゃないと思うよw
みんなもう飽きてるw
593名無し草:2009/03/11(水) 10:14:36
>Graduation
今日も読めて良かった。朝の楽しみになっています。(・∀・)
どもりまくって魅録を誘う悠理が可愛い。
冷静なようでいて、和子さんに言われたことを意外と気にしていた
清四郎も、微笑ましかったです。

最終話で、いよいよ大団円となるのでしょうか。
野梨子がそれまでの自分を、そして他の5人もそれぞれに「卒業」
していくのが楽しみでもあり、連載終了と思うと寂しくももあり・・・
594名無し草:2009/03/11(水) 11:52:04
>Graduation
連続で読めて嬉しいです!
同じく慌てる清四郎がかわいいw

いよいよ最終話ですね。
毎回タイトルがいろいろな要素を含んだ意味合いを持っていて、自分でもあれこれ考えながらわくわく読んでおります。
どうぞ最後まで頑張って下さいませ!
595名無し草:2009/03/11(水) 18:58:09
>Graduation
とうとうラストダンスの場面に…。
パートナーは元通りになったけど、それぞれが色々な思いを抱えての
ラストダンスな訳で、読んでいるこちらも何だか感慨深いです。

このお話の6人は、今はまだ精神的に未熟な面もあるけれど
こうして様々な事を乗り越えて素敵な大人になっていくんだろうな…、と
思わせてくれる温かさが感じられるので、自分はどのキャラも好きです。

次回からいよいよ最終話ですね。引き続き楽しみにお待ちしてます。
596Graduation:2009/03/12(木) 08:28:45
>>585 最終話は60レス前後の予定です。今回5レスいただきます。
597Graduation最終話graduation(1):2009/03/12(木) 08:30:15

親同士が、お互いに尊敬を基調とする親しい隣人同士であり、また、たまたま彼の
少し後に生を受けた為、この世に生れ落ちた瞬間から、わたくしと清四郎は幼馴染となった。
思えば、何という膨大な時間を彼と二人で過ごして来たことだろう。
3歳で、聖プレジデント学園幼稚舎に通い出してから16年間、わたくしは休みの日以外は、
毎日清四郎と行き帰りを共にした。幼稚舎の頃は、保護者の送り迎えが必須な為、
多忙な母の代わりに、大病院の院長の妻とはいえ、一応専業主婦である清四郎の母が
付き添ってくれていたが、初等部に入ってからは、往復にすれば子どもの足で、40分から
60分の通学時間を毎日二人で過ごして来た。数え切れない程の二人だけの思い出。
幾度笑い合い、ふざけ合い、些細な口喧嘩をし合っただろう。それでも、いつもわたくし達の
間には絶対的な信頼関係があった。決して誇張ではなく、わたくしは清四郎に見守られながら、
今日まで生きて来たのだ。何かあれば、いつも必ず清四郎が助けてくれると信じて……。

だが、わたくしは幼馴染という以外に、いったい何の権利があって、清四郎を自分に
縛り付けているのだろう?
何故、清四郎が自分を助けてくれるのが当然だと思っているのだろう?
あと数日で、わたくしは幼稚舎から高等部まで通った聖プレジデント学園を卒業する。

そして同じ日、わたくしは……。

598Graduation最終話graduation(2):2009/03/12(木) 08:31:37
野梨子ちゃん、僕は一生懸命勉強して、これからもっともっと賢くなるよ。
世界中の誰よりも賢くなるんだ。
野梨子ちゃん、僕は雲海和尚のところで修行しているから、これからもっともっと強くなるよ。
剣菱悠理よりも、いや世界中の誰よりも強くなるんだ。

だから、困ったことがあったら、僕に言って。
いつだって、僕が助けてあげるから……

「ハッ!」
清四郎は、冷たい寝汗と共に布団から飛び起きた。
(夢か……、あれは……確か、昔、中・高等部の文化祭で……)
(赤い金魚とピンクの綿菓子……)
時計を見る。午前6時。土曜日がダンス・パーティーだったので、今日、月曜日は代休だった。
清四郎は、今日は久し振りに雲海和尚の道場で汗を流す事にしていた。ベッドから身を起こしながら考える。
まだ、背中にぞわぞわする感覚が残っている。
(さっき、どうしてあんな昔の夢を見たのだろう……?)
今の今まで、すっかり隅に追いやられていた幼き日の記憶は、しかし、一度蘇ると、
とめどない大きな流れとなって清四郎を襲った。
ふと清四郎は、携帯にメールが届いているのに気が付いた。
清四郎は、それが誰からのものか、もう分かっている気がした。

「野梨子、待ってたわ。さあ、入って!」
午前10時。白いチュニック風のブラウスにブルージーンズ、髪を首の後ろで水色と白のポケット
チーフで束ねた、ラフな格好の可憐はにこやかに野梨子を部屋に招き入れた。
水色のコットンのワンピースに白いカーディガンを羽織った野梨子は、大きな手提げ袋を
持ち上げながら中に入った。
「ママは仕事に行ったわ。朝、いきなり連絡もらった時はびっくりしたけど、丁度良かったわ、
今日は暇だったの。珈琲?それとも紅茶にする?」
「珈琲を頂きますわ。美味しいケーキを買ってきましたの。」
可憐の淹れる珈琲は絶品だ。卒業すれば、今までのように頻繁には飲めなくなるだろう。

599Graduation最終話graduation(3):2009/03/12(木) 08:32:26

数十分後、二人は、苺と生クリームの紅白のコントラストも美しい、卵をたっぷり使った
黄金色のロールケーキと、香り豊かな珈琲を楽しんでいた。
「……で、あたしに頼みたい事って、何?」
「ええ……ご迷惑でなければ良いのですけれど、可憐に暫く預かってもらいたい物がありますの……。」
野梨子は、手提げ袋から、藤色の風呂敷包みを取り出した。膝に乗せて、ハラリと結び目を解く。
「ああ……。」
可憐は溜息をついた。
それは、シルバーピンクの女物のヘルメットだった。可憐は、デパートデートの後、
野梨子が急にヘルメットを買って驚いたという魅録の話を思い出した。
その話をした時の彼の嬉しそうな顔を良く覚えている。

野梨子は愛しそうに暫くそのヘルメットを撫でていたが、また、風呂敷で包み直して、言った。
「……見ると、思い出してしまうので……。処分しようかとも思いましたけれど、一回しか
使っていませんし、それではあまりにこのヘルメットが可哀想だと思いましたの。それで、
いつか、何のわだかまりもなく、このヘルメットを見ることの出来る日まで、可憐に
預かって貰えたらと思いまして……。」
可憐は野梨子の本気の覚悟を理解した。優しい眼差しで野梨子を見つめ、明るく笑う。
「勿論、いいわよ。……で、少しは落ち着いた?」
「ええ……。昨日は本当にのんびり致しましたわ……。そして、わたくし、可憐に
言われた事を良く考えてみましたの。つまり、わたくしが、清四郎に甘え過ぎているということを……。」
「言い過ぎたかしら?」
「いいえ。本当に可憐の言う通りですわ。幼馴染ということに甘えて、いつまでも清四郎に
自分の傍にいて、守ってもらいたいだなんて、本当にわたくしったら、恥ずかしいですわ。」
「そう……。(まあ、清四郎がそうしたくて、そうしてる部分は大きいんだけどね。)」
「実は、可憐に言われてから、ずっと考えていたのですけれど……、でも、昨日一日、
もう一度じっくり考えて……わたくし、決めましたわ。」
野梨子は口を真一文字に結んで顔を上げると、きりっとした声を出した。

「わたくし、高校卒業を機に、清四郎を……」

600Graduation最終話graduation(4):2009/03/12(木) 08:33:11

その日の午後1時、身体にピッタリとした白いTシャツとダボッとした藍色のカーゴパンツ姿の悠理は、
通称「秘密の花園」と呼ばれている剣菱邸の西門に向かっていた。ニャァとタマとフクが
足に纏わり付きながら一緒に付いてくる。特に、フクはお気に入りの誰かさんに会える
ことを期待しているらしく、ひどいはしゃぎようだ。悠理はそんなフクを見て笑った。
「フク、今日は残念だけど、あいつじゃないよ。」

残念なのは、フクなのか、自分なのか……?
朝、今日の待ち人からメールを貰ってから、ずっと考えていた。いや、正確に言うと、昨日からだ。
今も目に焼きついている。魅録と野梨子が手に手を取って会場を抜け出していった後ろ姿が。
ダンス・パーティーでは、自分は魅録のパートナーだった。だから、自分を置いて
野梨子といなくなってしまった行動を非難することが出来る。だが、パーティーが終わった今、
魅録が誰と一緒にいようと、それは全くの自由だ。
悠理は黙々と緑の芝生の上を歩いて行く。前回、西門に向かって通った時は、真っ白だったこの道を。
いつの間にか友情から変わってしまっていた恋心を、何とか無きものにしようと努力していた自分が、
やはりそれは無理だと確信したクリスマス・イブ。
雪の舞い散る中、ただ、ただ、彼に会いたくて、走らずにはいられなかった……。

ついに西門にたどり着く。悠理は長い睫を伏せる。この何分か後には、ついに最後
通牒が突きつけられるのだろうか……。友達のままでいい。覚悟はしていたつもりだったけれど……。
「ニャァ、ニャァ」
フクが早く開けろと催促する。
「バッカだなあ。だから、あいつじゃないって言ってんだろ。」
それでも、悠理はそれがきっかけとなり、蔦の中の隠しボタンを押した。

601Graduation最終話graduation(5):2009/03/12(木) 08:34:22

「急に押しかけてきてしまって、ごめんなさいね。ご予定、大丈夫でしたかしら?」
数分後、悠理と野梨子は西門近くの薔薇園に面した、木製の東屋に腰を下ろしていた。
東屋のフェンスと天井には、つる性の四季咲きのピンクと白の薔薇が、こぼれ落ちるように巻きついている。
テーブルには、メイドが運んで来た薫り高い紅茶と、小さなサンドイッチ、そして野梨子が
土産に持って来た真っ赤な苺のタルトが並べられていた。
(今日は苺づくしですわね……。)
野梨子は一人微笑んだ。

「うん。今日は暇だったんだ。で、野梨子があたいに用って何?」
悠理は、こうなったら一刻も早く話しを済ませてしまいたかった。
(大丈夫、大丈夫、何を言われても、あたいは大丈夫……)

野梨子は悠理の青ざめた、不安気な表情を見て取り、早く話しを進めた方が良いと分かった。
野梨子は両手を合わせ、深々と頭を下げた。
「悠理、今日は謝りに参りましたの。ダンス・パーティーの時は本当にごめんなさい!
悠理のパートナーを借りてしまって。あんな事、絶対してはいけませんでしたのに。」
「ああ……。」
野梨子は顔を上げて、悠理と目を合わせた。悠理の顔は強張り、眉は哀しげに顰められていた。
野梨子は急いだ。
「聞いていると思いますけれど、あの時、わたくしが、魅録にバイクに乗せて欲しいって、
無理やりお願いしましたの。わたくし……、もう一度だけ、バイクに乗りたいって、ずっと
思っていましたのよ。それで、悠理たちがバイクで来たと聞いて、もう、いてもたっても
いられなくなって……、周りが見えなくなりましたの。悠理、本当にごめんなさい!」
「……。」
「つまり、わたくしが、魅録に我が儘を言ってバイクに乗せてもらった、それだけの事だったのですわ。
それ以上でもそれ以下でもありませんのよ。それを悠理に分かっていただきたくて……。」

続く
602名無し草:2009/03/12(木) 09:44:23
>Graduation
ヘルメット、切ないな〜
連載の間、ずっと魅録に恋する野梨子に感情移入して読んできたので
二人にはくっついてほしいんですが、確かに野梨子は清四郎から卒業しない限り
たとえつきあいはじめたとしても、うまくいかないかもしれないなと思いました。
そして清四郎と魅録の会話が楽しみです。このお話、清四郎がすごく優しくて知的で、
かつて原作で彼に幻滅した心の傷が癒されるんですよね…ww
完結まであと一息、どうか頑張ってください。
603名無し草:2009/03/12(木) 11:51:50
>Graduation
毎日投下乙です。野梨子、高校卒業したら清四郎とどうするんだろう…

頑張ってください、楽しみにしてます
604名無し草:2009/03/12(木) 19:16:30
誰と誰にくっついてほしいとかそういう感想はやめないか?
605名無し草:2009/03/12(木) 20:08:02
うざい。
606名無し草:2009/03/12(木) 21:19:35
だから感想書く人が減るんだよ
607名無し草:2009/03/12(木) 23:07:22
>Graduation

悠理がこの後どう応じるのか、続きが待ち遠しい!
今まで悠理と野梨子はちょっと微妙な関係で
お互いに相手に対して本音を言う事が少ない感じだったので、
ここで本心を吐露するのか、それとも言葉には出さずにおくのか…。

「卒業」に向かって皆がどう考え、決断・行動していくのか興味深いです。
続き、楽しみにしています。
608602:2009/03/13(金) 00:07:26
>>604
では「二人にはくっついてほしい」の前に
「 個 人 的 に は 」 と補足致します
609名無し草:2009/03/13(金) 00:35:10
野梨子がもう一度だけ、と思っていたように
悠理もこの時だけは魅録を独占できる、この時しかできない、って感じていたのかな
そう思うとすごく切ない

正直、どういう組み合わせでくっついてもよくなってきた
気になるのは、野梨子が清四郎から卒業できるのか、だけ
卒業できずにお互いに捕らわれた状態になるのか、
卒業してかつ清四郎といることを選ぶのか、
卒業して本気の恋へ体当たりするのか
どれもありだとは思う
この後の野梨子の選択、成長がすごく気になります
続きが楽しみです
610名無し草:2009/03/13(金) 03:55:33
611Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/03/13(金) 10:22:08
>>597 今回5レスいただきます。
612Graduation最終話graduation(6):2009/03/13(金) 10:23:19

「楽しかった?」
「え?」
意表をつかれた第一声に、野梨子は悠理の様子を窺った。悠理は真面目な顔をしていた。
「魅録のバイクに乗って、楽しかった?」
「……ええ……。」
「そ。なら、良かった。」
悠理は木のベンチの上で思いっきり手足を伸ばして、笑った。そして、ベンチに両足を乗せて、
両腕で抱え込むように座り、膝に顔を埋めながら言った。
「あいつはバイク馬鹿だから、野梨子がそう言ってくれれば、乗せた甲斐があるって、
喜んでるよ。そいで、あいつが喜んでれば、あたいも嬉しいんだ。」
「……。」

悠理は顔を斜めに傾けて、野梨子に微笑んだ。
「パーティーの事、もう気にすんなよ。あの日は、魅録はあたいのパートナーだったから、
そりゃ、ずっと傍にいて欲しかったのは確かだよ。それに、一時間で戻るって
言ったんだから、約束は守って欲しかった。でも……。」
悠理は眩しそうに、光のこぼれる頭上の薔薇のアーチを見つめながら続けた。
「人の気持ちって、どうにもならない事ってあると思うし……、それに、済んじまった事は
今更どういっても仕方ないしさ。とにかく、野梨子も魅録も戻って来たんだから、良かったよ。
……清四郎の為にもな。清四郎は男だから、あたいと違って表には出さなかったけど、
本音は凄く辛かったと思う。なのに、あたいの事、色々気遣ってくれたんだ。野梨子、
おまえの幼馴染は、本当にいい奴だよ。」
「……。」
野梨子は、悠理が清四郎のことをそのように評価しているのに、正直驚いた。

悠理は目を半ば閉じて、夢見るように言った。
「清四郎も、変ったってことなのかな?何か、こう、丸くなったっていうか……。
皆、変っていくんだな。これが、大人になっていくって事なのかな……?」

613Graduation最終話graduation(7):2009/03/13(金) 10:24:21

大きく首をかしげる悠理を、野梨子は愛しさを感じながら、目を細めて見つめた。
母親の胎内にいるかのように、身体を丸めて、亜麻色の髪を光に溶かしながら、
無垢な表情で柔らかい日差しを浴びている悠理は印象派の絵画に描かれている
女性のように甘やかで女らしい。野梨子は胸がつまった。
(悠理、あなた自身も……どんどん変っていますわよ……。)

「ニャァ、ニャァ!」
「キャアッ」
「あっ、こら、タマッ!」
一しきり芝生で遊んできたタマとフクが戻って来た。タマは野梨子が気に入ったとみえて、
遠慮なく野梨子の膝に飛び乗って丸くなったが、フクは期待していた人物と違ったのが
いまだ不服らしく、野梨子には見向きもせず、悠理の横で丸くなってふて寝した。
「ごめんな、野梨子。服が汚れちまう。おい、タマ、下りろ!」
「大丈夫ですわ。わたくしの膝を気に入ってくれて、嬉しいですわよ。」
柔らかく暖かい、命の通った生き物の感触は人の心を確かに癒す。野梨子はタマを撫でながら、再び話し出した。

「悠理、わたくし、バイクは楽しかったと言いましたけれど、でも……」
「ん?」
「でも……、もう、乗ることはないと思いますわ。」
悠理は目を丸くして、心の底から驚いた顔を見せた。声が大きくなる。
「どうして?バイクが気に入ってるんだろ!?」
「スピードが遅ければの話ですわ。この間、ちょっとスピードが出たら、もう怖くなってしまいましたの。
やはり、バイクには魅録と悠理がお似合いですわ。」
「……。」
悠理は瞬きもせず、野梨子を穴のあくほど見つめていたが、ふと黙り込んだ後、
思い切ったように質問した。
「野梨子、いい機会だから聞くけど、バレンタインの夜、あたいと可憐が話してた話、
もしかして全部聞いてた?」

614Graduation最終話graduation(8):2009/03/13(金) 10:25:15

野梨子は一瞬の間も置かなかった。真っ直ぐに悠理を見つめる。
「いいえ。起きて直ぐに、お二人のところに行きましたのよ。それが、何か?」
「……ううん、なら、いいんだ。けど、野梨子……あたいに遠慮なんかすんなよ。」
悠理の声は震えている、と野梨子は思った。
「何の事ですの?」
悠理の濃い琥珀色の目と野梨子の黒い目が合い、暫くの間、互いの真意を汲み取ろうと
するかのように見詰め合った。悠理の胸は激しく波打っていた。
(野梨子は、多分、あたいが魅録を好きだって事を知ってる……。だから……身を引こうとしてるのか……?
二人とも好き合ってるのに……そんなのって……!)

「悠理。」
悠理の心を見透かしたように野梨子が言った。
「わたくしには、清四郎がいますわ。」

その言葉は、幼稚舎から二人を知っている悠理にとって、特別の重みがあった。
入園式のときから二人はいつも一緒で……他の者には入れない特別なオーラを常に発していた。
そして、そのオーラは今でも確かに存在している。それ故、魅録はずっと野梨子を
恋愛の対象としてみることが出来なかったのだ。しかし、吹雪の晩以来、魅録に変化が訪れた。
そして、パーティーの途中で、とうとう魅録は清四郎と野梨子のオーラを強行突破したはずだ……。
それなのに、何故、この期に及んで野梨子は清四郎の名を出すのだろう?
それだけ、野梨子にとって、清四郎の存在が大きいということなのか?
魅録は野梨子の中で、清四郎の存在を超えることが出来なかったのか?
あの数時間に、二人の間には何が起こったのだろう?

(ああ、分かんねえっ!頭が爆発しそうだっ!)
頭を抱え込んでしまった悠理に、野梨子はもう一度言った。
「悠理、わたくしには、清四郎がいますのよ。」
(……少なくとも、これまでは。だから……だから、わたくしは魅録へ想いを告げる
ことが出来なかったのですわ……。)

615Graduation最終話graduation(9):2009/03/13(金) 10:26:13

悠理は怯えたような顔で野梨子の顔を見た。
野梨子は聖母のような微笑を浮かべていた。
悠理に対し、何も心配することはないというかのように……。

悠理は、実は自分も長い付き合い付き合いである、漆黒の瞳の青年の姿を思い浮かべた。
親の意向に気がつき、実らない恋心の未練を断ち、彼を好きになってみようと思ったこともある。
もっとその時期が早ければ、それもあったのかもしれない。
だが、時は遅すぎた。
自分の想いはもう、自分の手には負えないほど、育ってしまっていたのだ。
そして、恐らく、清四郎も……。
あいつには幸せになってもらいたいと心から思う。
そうだ、清四郎のことを思えば、これは確かに良い事だ。

「……そうだな。」
ついに悠理は声を出した。先の事は誰にも分からない。しかし、悠理は未来に対し、
再び希望が湧いてくるのを感じ、軽く身震いした。
「なあ、野梨子。」
「何ですの?」
「あたい、ガキの時、おまえらが……おまえと清四郎が、本当に羨ましかったよ。すげえ仲が良くてさ。」
そういう悠理は、まさに子どものような無邪気な笑顔だった。

「……それが原因で喧嘩もしましたわよね。」
「ああ、金魚のフンってな。」
野梨子の目が面白そうにキラリと光る。
「あの頃、わたくし、悠理のことが大嫌いでしたわ。」
悠理がふふんと笑う。
「あたいもだよ。」
「今、ここにこうして二人でいるのが不思議な位ですわ。」
「全くだ。」
616Graduation最終話graduation(10):2009/03/13(金) 10:27:15

「でも……」
白い蝶がヒラヒラと目の前を横切っていく。蝶がピンクの薔薇に落ち着くのを見届けると、野梨子は言った。
「わたくし達、ひょっとしたら、似ているところがあるのかもしれませんわね。」
悠理が一瞬、きょとんとした顔を見せる。しかし、何かを考えるかのように首をかしげた末、
目を閉じて静かに言った。
「……そうかもな……。」

(……そう、同じ男性を好きになったのだから……)

何となく、ふわりとした優しい気持ちに包まれて、二人は顔を見合わせると、
ちょっと照れたように笑い合った。
白とピンクの薔薇のアーチに囲まれて、ウィンナーローズのティーセットでアールグレイと
真っ赤な苺のタルトをいただく。薔薇の甘い微香が春風にただよう。
野梨子がカップを持つ手を途中で止めた。
「悠理。」
「あん?」
急に食欲の出たらしい悠理は既に2切れ目のタルトに取り掛かっていた。
野梨子は頬を染めて微笑みながら、つぶらな黒い瞳を悠理に向けた。

「卒業して、大学生になっても、社会人になっても、ずっと、ずっと仲良くして下さいね。」
悠理は真っ赤になって髪の毛を逆立てた。
「あっ!当ったり前だろっ、そんな事っ!何で今更……!」
野梨子の微笑がさざ波のように顔中に広がっていき、ついに満面の笑顔になった。

「分かっていても、時々確認したくなりますのよ。女性って……そうじゃありませんこと?」

続く
617名無し草:2009/03/13(金) 11:09:56
>Graduation
続けて読むことができて嬉しいです。
ずっと楽しませて頂いてますが、ラストに向けてますます目が離せないです。
とにかく頑張ってくださいませ。
618名無し草:2009/03/13(金) 13:11:04
>Graduation
悠理と野梨子って似ている、と自分も思います!
方向性は違うけど、周囲に迎合しない独特のオーラがある気がする。逆に可憐は
周りに気配りをして、人気者になっていくタイプ。この3人の友情って素敵だと思います。
619名無し草:2009/03/13(金) 18:40:29
>Graduation
いよいよ佳境に入って、毎日読むのが楽しみだー。
悠理と野梨子の友情、いいな。
620Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/03/14(土) 07:12:15
>>612 今回7レスいただきます。
621Graduation最終話graduation(11):2009/03/14(土) 07:13:15

その日の夕方。道場から戻った清四郎は、慌しくシャワーで汗を流した後、近所の、
住民たちの憩いの場となっている中規模の公園に向かった。月曜日の4時。公園は
母親連れの幼児達や、学校帰りの、ランドセルを放り出して駆け回っている小学校低学年、
塾に行く前に友達とゲームに興じている高学年たちで賑わっていた。
あいにくベンチが埋まっていたので、清四郎は運良く空いていたブランコに腰をかけた。

キィー、キィー……。
(懐かしいな……。)
ブランコのチェーンの錆び臭い匂いが、清四郎の郷愁を誘った。
最後に、このブランコに乗ったのはいつの事だっただろう……?
幼稚舎の帰りには、よく母に野梨子と二人、ここに連れて来てもらったものだ。
そして初等部に上がってからは二人で……。勿論、野梨子はブランコを漕ぐのが苦手で、
押してやるのはいつも清四郎の役目だった。押してもらっている立場にも拘らず、
押し方が強いだの、弱いだのと野梨子は注文が多かった。試行錯誤の末、その内に
コツを飲み込み、野梨子の思うとおりの押し方が出来るようになった。
(そう、そう、そうですわ……!やっぱり清四郎ちゃん、わたくしのこと、何でも分かりますのね……!)
夕映えに響く野梨子の無邪気な笑い声。あの頃は、大きくなった自分がこんな想いを
するようになるなんて、思ってもみなかった。

ダンス・パーティーで、悠理に言われてステージに上がる直前、外から戻って来た美童に耳打ちされた。
(野梨子、戻って来たよ。泣きながら、もう本当に終わったって、言ってた……。)

清四郎は、二人は戻って来ると信じていた。
いや、自分が信じていたのは、魅録だった。
彼は、小一時間で戻って来ると言った。
そして、彼は約束を破るような男ではないのだ。

622Graduation最終話graduation(12):2009/03/14(土) 07:14:05

とはいえ、その一時間の間に、何か起こるのかは、神任せだった。
吹雪の夜とそれ以後の魅録の様子を見れば、その前後で、彼の中の野梨子の存在意義が
大きく変ったのは一目瞭然だった。
いつも真っ直ぐに自分を見つめる魅録が、初めて自分から目を逸らした。
それが全てを物語っているではないか。
(貴様っ、野梨子に何をしたっ!)
思わず魅録を殴りつけた。
自分の誇る鋼鉄の理性は、人間のもっとも原始的な激情によって脆くも崩れ去った。
あの日から、清四郎は魅録を殴った行為を恥じない日はなかった。その行為は、自分の
人間としての未熟性を思い知らせ、既に失われつつあった己の万能感を粉々に砕いた。

魅録にとって不幸な事に、彼は野梨子への想いを目覚めさせた時には、既に彼の
親友である自分の野梨子への想いを知っていた。
それらは、本当に、神の糸に操られているかの様に、偶然起こったものだ。
自分の為に、野梨子を諦めてくれなどと言う気は毛頭ない。
そんな事は己のプライドが許さない。
だが、頼みもしなくとも、魅録は、勝手に……。

(魅録は……、あのお人好しの大バカ野郎は、おまえが……、おまえが大好きだから、
親友としておまえが大好きだから、どうしても、野梨子のこと、女として見られないんだよっ!)

「……。」
正直、清四郎は今回の事に関して、己の無力を感じ入るばかりだった。
己の才能と努力があれば何でも出来ると思っていた自分は何て傲慢だったのだろう。
神の途方もない力の前に、自分はただ翻弄されるばかりだった。しかし、不思議な事に、
この様な圧倒的に不利に思われる状況の中にあってさえ、野梨子を諦めようという
気には一向になれないのだった。
そんな自分は魅録に比べ、利己的なのだろうか?
623Graduation最終話graduation(13):2009/03/14(土) 07:14:49

自分が身を引けば、魅録と野梨子は互いの想いを遂げられるのだろうか、とは考える。野梨子を愛しているならば、それも男の生き方ではないのかと。惹かれあっている二人を
前にして、そう考えるのは自然なことだ。だが、悠理の存在が事をもっと複雑にしている。
恐らく、野梨子は悠理の気持ちに多かれ少なかれ気が付いているだろう。
自分の気持ちを知っている魅録と、悠理の気持ちを知っている野梨子。
恋愛に不器用で仲間想いの二人は、お互い惹かれあっていながらも、どうすることも出来ない……。
そして、パーティーを抜け出していた数時間に、二人は結論を出したらしい……。

(結局、僕に出来る事は……)
清四郎を今支えているのは、自分の野梨子への気持ちを、一時の状況に流されず、
常に気高く崇高なものにしておけば、いつか必ず想いは通じるのではないかという、
信念のようなものだった。自分がすべき事は、変らぬ愛で野梨子を見守り続け、
同時に己を高めて行く事だけだ。

「だぁ〜れだ?」
ふと、視界が暗くなった。目に、柔らかい感触。清四郎の口元がほころぶ。
そういえば、昔、良くこうやって……。
「彩子、緋沙子、泉、聖子、摩利絵……」
「!?」
「真澄、理香、美智子、緑……」
「まっ……!」
「じゃ、なくて……」
野梨子が真っ赤になって、清四郎の目に回した両手を離そうとした途端、清四郎の手が野梨子の手を掴んだ。

「野梨子。」

清四郎は後ろを振り向くと、漆黒の瞳を光らせて野梨子の目をしっかりと捉えた。
前髪を下ろし、シャンブレーのシャツに、ベージュのチノパンという清四郎は、一瞬、
幼き日の彼を思い出させ、野梨子は目を瞬いた。
(清四郎……ちゃん……?)

624Graduation最終話graduation(14):2009/03/14(土) 07:15:50

「……いやですわ、清四郎ったら冗談が過ぎますわ。」
野梨子は隣のブランコに腰掛けた。チラリと清四郎を見る。
「そうしていると……、何だか昔の清四郎を思い出しますわ。」
「道場から戻ったばっかりで、シャワーの後、髪を整える時間がなかったんですよ。」
「……急に呼びたてましたものね。申し訳なかったですわ……。」
「それで、話したい事とは、何ですか?」
「……。」

野梨子は、キィとブランコを揺らしながら、話を始めた。
「あのう、清四郎……。わたくし達、大学生になってからの事を、特に話したことがありませんでしたわよね?」
「……そうですね。」
「前から思っていたのですけれど、大学生になったら、出席する講義は人によって異なりますから、
毎日同じ時間に来て、同じ時間に帰るというわけにはいかなくなりますわね。」
「……確かに。」
「わたくし……大学生になっても、これまでと同じ様に、ずっと清四郎と一緒に通学を
したいと思っていて、それで、今までこの問題について考えることを先延ばしにしていたのですけれど……。」
「野梨子が望むなら、何か手立てを考えてみますよ?」
「いいえ……、そういう事ではないのですの……。」
野梨子は身体を清四郎に向けると、正面から清四郎の目を見つめた。

「わたくし……高校卒業を機に、清四郎からも卒業しますわ。」
「……。」
625Graduation最終話graduation(15):2009/03/14(土) 07:16:50
野梨子の表情は落ち着いていた。
「わたくしは、物心ついてからずっと、幼馴染だということで、清四郎に守られて、
助けられて、今日まで来ましたわ。そして、その事を、本当に感謝していますわ。」
「……。」
「……でも、もうわたくしも二十歳になりますし、そろそろ誰にも頼らずに、自分の
足だけで立ってみようと思いますの……。勿論、清四郎が幼馴染であり、わたくしに
とって特別な存在であることは、これからも変りありませんわ。でも……。」
野梨子は、何か言葉を捜し、ふと思いついた。
「でも……、これからは、金魚すくいをして、金魚が取れなかったら、潔く諦めて手ぶらで
帰るだけですわ。そして、それでも諦めきれなかったら、次に備えて、家で金魚すくいの
練習をすることだと思いますの。もう、清四郎から、清四郎がせっかく取った金魚を
譲って貰ってはいけないと思いますの。今、そうしないと……わたくし、一生、清四郎に
頼りっきりになってしまいますわ……。」

それでもいいのだ……と、清四郎は思ったが、口には出さなかった。
彼は、今朝見た夢の意味が分かった気がしていた。

「勿論、有閑倶楽部の仲間であることには変りありませんし、家ぐるみのお付き合いもありますから、
基本的な関係は変らないかもしれませんわね。ただ、これからは、わたくしのことを、
ただの幼馴染以上に気にかけて下さらなくて結構ですわ。というより、わたくしが、
清四郎を頼らないようにすれば良いのですけれどね。19年間の習慣を変える事は
直ぐには難しいと思いますけれど、その第一歩として、わたくし、一人で大学へ通学
することにしようと思いましたの。」
「……大学は、数駅とはいえ、バスか電車通学になりますよ。徒歩なら片道45分はかかる。
野梨子は一人で公共の乗り物に乗るのは苦手でしょう?」
「皆、やっている事ですわ。それに、わたくし、免許を取ろうと思いますの。」
清四郎の頭は、話しの流れを見事に無視した思考回路を取った。
「免許?野梨子は一通りの日本の伝統芸能の免許はもう持っているでしょう。今度は
何に挑戦するつもりですか?」
「嫌ですわ、清四郎ったら。免許といったら、車の免許に決まっていますわよ。」

626Graduation最終話graduation(16):2009/03/14(土) 07:17:38

「ええっ!車のっ!」
清四郎は思わず大声を出してしまい、慌てて手で口を塞いだ。
「ええ。車の。」
野梨子は力強く頷いた。
清四郎は激しく迷った。彼女の、この途方もない挑戦を、現実を直視させて諦めさせた方が良いのか、
それとも、素晴らしい試みだ、是非やってみたまえと、褒め称えた方が良いのか……?
野梨子は清四郎の表情を見て笑った。
「ふふ……。清四郎が考えている事くらい、お見通しですわよ。でも、わたくし、やりますわ。
自分で運転が出来ると、今後、お茶のお道具を運ぶのも楽ですのよ。」
世の中には、やる気だけではどうにもならないことがある。野梨子の運動音痴は通常のレベルではない。
彼女がアクセルをかけた瞬間に、車は凶器に変ってしまうだろう。
だが……。清四郎は野梨子の様子を窺った。
何て楽しそうな顔をしているのだろう。
野梨子のこんな表情は久し振りだった。
彼女が、取りあえず新しい目標を見つけ、それに向かって邁進しようという態度を見せているのは良い事だ。

「……。」
ここは一先ず様子を見ようと清四郎が思った時、幼稚園の紺色の制服を着た男の子と
女の子がやって来た。なかなか愛くるしい顔立ちの子ども達だった。
「あのう、お兄ちゃんたち、乗らないんだったらブランコからどいてくれますか?舞子ちゃんが
乗りたくて、ずっと待っているんですけど。ママが二人の邪魔しちゃいけないっていうんだけど、
僕たち、もうすぐ帰らなきゃいけないから……。」
「あっ、あら、ごめんなさいっ!」
野梨子と清四郎は慌てて立ち上がった。
「あ、一つでいいんです。どうせ、僕は押す係りだから。」
「いいのよ。丁度、あそこのベンチが空いたから。」
ベンチへ向かう途中、2人の品の良い母親たちが礼のお辞儀をしてきた。ベンチに移ると、
二人はブランコを眺めた。長い髪を、耳の両側で二つに結んでいる女の子の乗った
ブランコを、前髪を切りそろえた坊ちゃん坊ちゃんした男の子が顔を赤くして押してやっている。
清四郎と野梨子は顔を見合わせて笑った。お互い、何を考えているかは言うまでもなかった。
627Graduation最終話graduation(17):2009/03/14(土) 07:18:40

(清四郎を卒業しますわ……)

清四郎は、それを、前向きに受け取った。
大学に入れば、互いに世界が広がる。野梨子はそれこそ、学業の傍ら、白鹿流の
仕事が増えるだろう。互いに見えない部分が、圧倒的に増える。何でも見えていた今までとは違うのだ。
有閑倶楽部を基調としながらも、それぞれの新しい交友関係も出来るだろう。
いや、出来なければいけないのだ。
野梨子が自分を卒業するという宣言に、寂しい気持ちは勿論ある。
が、それは、自分達の関係を確実に変えていくだろう。
幼馴染以上の存在になる可能性も大いにあるわけだ。

「清四郎……?勝手な事を言って、気を悪くなさいました?」
野梨子が不安気な表情を見せる。

(困ったことがあったら、僕に言って。いつだって、僕が助けてあげるから……)

清四郎は静かに目を瞑り、フッと微笑んだ。
空を見上げる。西の方角は徐々に薔薇色に染まりつつあるが、東側はまだ青く、
この季節というのに、もくもくと入道雲めいた雲が残っている。
「清四郎?」
清四郎は、ベンチに背中をもたせかけると、頭の後ろで両手を組んで、眩しそうに目を細めた。
「あの雲の味は……どんなかなあって考えていたんですよ……。」
「あら、それは……!」
思わず身を起こした野梨子に振り向くと、清四郎は悪戯っぽく目を光らせた。

「桃のシャーベットの味です。これだけは、譲れませんよ。」

続く

628名無し草:2009/03/14(土) 08:51:45
>Graduation
亀ですが、戻ってこられて本当に嬉しいです。
清四郎、大人のいい男になりましたねー。
金魚すくいの話や雲の味のセリフが二人のこれまでの歴史を感じさせてせつないです。
続き楽しみに待ってます。
629名無し草:2009/03/14(土) 09:50:41
>Graduation
628さんと同じく、清四郎がいい男だなぁと思いました。
魅録ならきっと戻って来ると信じていたところも、殴ったのを恥じていた
ことも、とてもいい感じで。

野梨子の教習所通いは実現するんでしょうか。
やる気だけではどうにもならないと、清四郎が密かに判断しているのに
笑ってしまいました。もし実現したら、ひと騒動ありそうw
630名無し草:2009/03/14(土) 11:07:42
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
631名無し草:2009/03/14(土) 20:10:28
>Graduation
清四郎は本当に良い男になったと、自分もしみじみ思いました。
野梨子の「卒業宣言」を前向きに受け止められるというのは
まさしく成長の証だと思います。

そして大人になろうと一歩踏み出した野梨子にも、素直にエールを送りたいです。
ただホントに、運転免許取得は大変そう…w
その件については結構激しく動揺しつつも瞬時にクールな分析をしているのが
清四郎らしくて、何だか微笑ましかったですw
632名無し草:2009/03/15(日) 01:56:41
■報告とお願い■
次スレのテンプレに、18禁作品の注意書きと荒らし対策を
入れようと、議論スレで話し合いが細々と続いているので、
今のうちに意見をよろしく。

話し合い全体
http://pc11.2ch.net/test/read.cgi/internet/1195779437/34-n

テンプレ相談
http://pc11.2ch.net/test/read.cgi/internet/1195779437/102-n
633Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/03/16(月) 08:53:07
>>621 今回8レスいただきます。
634Graduation最終話graduation(18):2009/03/16(月) 08:54:27

代休明けの火曜日の4時間目、魅録は悠理にも黙って、二人の秘密の隠れ処である
裏山の芝生に一人足を投げ出していた。
暖かい。ここで、幾度授業をさぼって悠理と昼寝をし、隠れて煙草を吸っただろう。
「あと少しで卒業なんて、信じられねーな……。」
この場所も、いつか後輩たちの新しい隠れ処になるのだろうか。
フーッ……。
白い煙の輪を青い空に向けて飛ばす。
輪は、ゆらゆらと頼りなげに揺れて上がって行き、次第に形を溶かして消えて行った。
「煙草も……そろそろ卒業かな……あと、この髪も……。」
人一倍早く煙草の味を覚えた魅録は、以前から悠理に、健康がどうのこうのと散々戒められており、
自分でも中毒性のある事を認めないわけにはいかなかったから、高校卒業をきっかけに、
潔く止めてしまおうと思っていた。また、髪の色も、もうピンクという年でもないような気がした。

さっきから、音楽室からピアノの音色が流れていたが、ふとそれが『月の光』になった。
「……。」
自分の選択に後悔はない。が、日常に張り巡らされている、どんな罠にも常に冷静でいられるほど、
傷は浅くはないし、味方となるべき時もまだ経っていない。
(俺は……もう一生、『月の光』は弾かないんだろうな……。)
最後の一服をして、火をもみ消し、ゴロリと芝生に横になって、再び白い輪を放つ。
青い空を背景にゆらゆらと浮かんでいる輪の中に、意外なある顔が現れた。

「清四郎!」
思いがけない訪問者に、ガバッと身を起こす。
「お邪魔していいですか?」
ポカンとしている魅録を尻目に、澄ました顔の清四郎は、さっさと魅録の横に腰を下ろし、自分も横になった。
「お、おまえ、今授業中だぞ。いいのか?」
清四郎にサボリという文字は似合わない。
清四郎はふっと笑った。
「……もう、どうせ消化授業ですし。一度位、僕も授業をさぼってみたかったんですよ。」

635Graduation最終話graduation(19):2009/03/16(月) 08:55:19

魅録は、まだ腑に落ちないといった様子で尋ねた。
「どうして、ここが分かった?悠理に聞いたのか?」
清四郎は笑った。
「悠理が教えてくれるわけありませんよ。此処は、彼女と魅録の秘密の場所なんですから。
ただ、僕らは皆、この辺にあるってことは検討をつけていましたからね。教室の窓から、
魅録が歩いていくのが見えたもので、保健室に行くと言って授業を抜け出して、
自分で探して来たんです。昨日は時間が取れなくてすみませんでした。僕も卒業前に、二人で話したかったんですよ。」
「うん……。」
昨日の昼、ダンス・パーティーでの無礼を直接謝ろうと思って、清四郎に連絡を入れたが、
あいにく都合がつかなかったのだ。吹雪の晩以来、二人の関係の微妙な変化を寂しく
思っていたものの、どうすれば良いのか分からなく、今日まで来たのもまた事実だった。
久し振りに清四郎と二人でいるのは、嬉しいような、緊張するような、落ち着かない気分だった。
サワサワサワ……。二人の間を、春の息吹を感じさせる優しい風が駆け抜ける。
ちょっとの沈黙の後、清四郎は言った。

「魅録は……僕が好きなんですか?」
「はぁっ!?」
思いがけない一声に、魅録は勢い良く振り向いた。清四郎は苦笑いして続けた。
「さすがに唐突過ぎましたかね……。魅録は聞こえていなかったかもしれませんが、
あの吹雪の晩、悠理が言ったんですよ。魅録が、初めて会ったときから、僕のことを好きだったって……。」
「(ゆっ、悠理の奴、そんな事を……!?)うっ……、ま、まあ、そういう言い方もあるかも
しんねーけど……ニュアンスがちょっと……。で、それが何だってんだよ。」
「いや……奇遇だと思いましてね。」
「?」
今度は清四郎が魅録を振り返って、ニヤリと笑った。
「僕も、初めて会った時から、魅録が好きだったんです。」
「……!」

636Graduation最終話graduation(20):2009/03/16(月) 08:56:11

「魅録は、僕に男惚れしてくれたらしいですけれど、僕も、同じでした。魅録と直ぐに
友達になりたいと思ったんです。そんな事は初めてでした。そして、魅録が聖プレジデントに
来てくれた時は本当に嬉しかった……。」
「……。」

魅録の胸にたまらなく熱いものが込み上げて来たが、それでも、まだ、清四郎が何を
言いたいのか、良くわからなかった。
「魅録は、僕にないものを持っていますから……。」
「おまえにないものなんて、あるかあ?」
真剣に首をかしげる魅録を清四郎は可笑しそうに見つめた。
(ほら、そういう素直なところとか……ね……。)
「で、結局、何が言いたいんだ?(全く、何でこいつは、こう遠まわしに物を言いやがるんだ?)
「だから……」
「だから……?」
「だから、僕達は両思いってことですよ。」
「はぁっ?」
魅録は再び体中から力が抜けていく気がした。

「魅録」
しかし、次には清四郎の声色が変った。彼は表情を引き締め、漆黒の瞳を光らせた。
(いよいよ本題か……。)
魅録も目を細める。
「あの、バスケの決勝で魅録に負けた後、僕は、次は必ず勝つ、と誓った。」
清四郎は目に力を込めて、瞬きもせず、魅録を正面から見つめた。強い視線同士が絡み合う。
「今も、その気持ちは変わっていません。だから、魅録、これからもずっと……」
「ずっと……?」
「ずっと、永遠に、僕の最大のライバルであり、最高の親友でいて下さい。」
「……。」
637Graduation最終話graduation(21):2009/03/16(月) 08:57:13

吹雪の晩以来張られていた、二人の間の見えないバリアが今、サラサラと砂になって
崩れ去ったのを感じ、魅録は不覚にも泣きそうになった。表情を隠すために後ろを向く。
「おっ、大げさだなっ、お前は……。そんな事言いに、わざわざ此処に来たのかよっ。」
清四郎は一瞬頬を緩めたが、直ぐにまた調子を戻した。
「あと一つ。どうしても言っておきたいことがあります。」
「何だ?」
「分かっていると思いますが、僕は同情されるのは嫌いだ。」

再び、魅録の目と清四郎の目が合う。
清四郎は少しの遠慮もなく、魅録の目を奥まで覗き込んだ。
「魅録。僕に、遠慮は要りませんよ。最終的な勝敗は、最後の最後まで分からない。
人生は長いんです。そして、どうやら僕は気が長いらしい。」
「……。」

魅録は、ゆったりとした動作で再びポケットから煙草を出し、口にくわえて火を点けた。
無表情に煙草を燻らす魅録を、清四郎は黙って眺めていた。
はるか遠くを見ているような魅録の、今、胸には何が去来しているのだろうか。
自分の中の炎をもみ消すかのように、ついに煙草の火を消すと、魅録は振り向いて、
挑戦するかのように、正面から清四郎の瞳を捉えた。
そして、眉と目をつり上げ、目に鋭くきつい眼光をたたえながら、ゆっくりと言った。
「何の事か、分かんねーな。」
次いで顎をぐいと上げ、下目使いで清四郎を見る。
「俺は、自分の事は自分で決める。そういうくだらない事は、二度と言うな。」
「……。」

一瞬の後、魅録は声と表情を和らげた。
「そういや、この間、ダンパ抜け出した事。あれは、本当に悪かった。昨日、会って話し
たかったのは、その事だったんだ。すまない、この通りだ、許してくれ。」
魅録は芝生の上に正座をすると、手を合わせ、頭を低く垂れて謝った。

638Graduation最終話graduation(22):2009/03/16(月) 08:58:20

「もう、野梨子から聞いてると思うけど、バイクに乗せてやっただけなんだ。けど、
パートナーでもないのに、本当に余計な事したと思ってる。」
清四郎は首を傾けて口角を上げた。
「……野梨子は、喜んでいたでしょう?彼女は、最後のチャンスだと思ったみたいですからね。
僕としては、それならいいんですよ。ただ、悠理が可哀想でしたけれどね。悠理は……女ですから。」
「ああ……、あいつにも、本当に悪い事をしたと思ってる……。」
声を一段と落として、魅録は目を伏せた。

「魅録?」
「あいつ……、俺があんな酷い事したっていうのに、一つも俺のこと責めないで、
俺のこと、信じて待ってられなくて悪かった……なんて言ったんだ。」
「……。」
「それ聞いて、俺……、上手く言えねーけど、何か、あいつのこと、もっと良く考えて
やんなきゃいけないのかなって……。いいダチであることには変りないけど、
こんなに俺のことを信頼してくれるあいつを、裏切るような真似をしちゃ絶対にいけないなって……、
何か、こう、責任みたいなものを感じたっていうか……。」
聞いている清四郎の表情がふっと和らいだ。

魅録は複雑な表情で清四郎を見た。
「おまえが……羨ましいよ……。」
「僕が?」
清四郎は意外だというような表情を見せた。
「ああ……。」
魅録は、後ろに両手をつくと、目を細めて空を見上げた。既に、何の迷いも無く、只一人の
女性を愛する事を決め、その女性を他の誰でもなく、自分こそが幸せにするのだという
目標を持っている清四郎。それに比べて、自分はまだまだ青い。好きだと思う相手に対しても、
他の男ほどに彼女を幸せにする自信を持てず、また、自分をとことん信頼してくれる相手に対しても、
その信頼を裏切るような真似をして……。
いい年をして、自分は未だ女性と対等に向き合う心構えが出来ていなかったのだ。

639Graduation最終話graduation(23):2009/03/16(月) 08:59:16

魅録は、地面についていた手にぐっと力を込め、芝生を握りつぶした。
(でも、これからは……)
(今度、惚れた女には、自分こそがそいつを一番幸せに出来るんだ、という自信を持って、全力でぶつかりたい。)
(だから、その為にも……俺は、早く一人前の男になりたい……!)

少しの間の後、魅録がポツリと話し出した。
「まだ、誰にも言ってないんだけど……、いい機会だから、お前には話しとくよ。
俺、大学受けなおそうと思うんだ。MITに行こうと思う。」
清四郎は驚きを隠せなかった。黒い目を大きく見開く。
「MIT……マサチューセッツ工科大学ですか……!」
「うん……。実は、二学期の初めに、可憐が経営学部を受けるって宣言した時から、ずっと考えてたんだ。
俺のしたい事、すべき事って何なんだろうって。工学部に入るのは希望通りなんだけど、
聖プレジデント大の工学部は、医学部や経営学部とかと違って、レベルが今一だろ?
調べていくうちに、宇宙工学ってのをやってみたくなったんだ。けど、ここにはその学部はないんだよ。
初めはT大の宇宙工学部を考えたんだけど、どうせなら、世界に出てみようかなって。
アメリカなら、NASAもあるしな。今年の合格は無理かもしんねえけど、来年の秋の入学を
目指そうかと思ってさ。……具体的に考え出したのは、ごく最近なんだ。悠理が体育学部に
進む事にしたって聞いた時、自分の気持ちも本気で動いたっていうか。あ、まだ、誰にも言うなよ。
はっきり決まったら、皆には自分の口から言いたいんだ。」
「分かりました……。」
清四郎は、それだけ言うのがやっとだった。自分でも驚くほどの動揺を感じていた。
仲間達の顔を思い出して様々な思いに囚われ、来るべき一波乱を予測したせいもあるが、
何よりも自分自身がショックを受けていた。
(MIT……。確かに、何て魅録に合っているんだろう……だけど、この気持ちは……?)
640Graduation最終話graduation(24):2009/03/16(月) 08:59:59

清四郎の動揺には気がつかず、魅録はくったくなく楽しそうに将来の話を続けた。
「清四郎は、やっぱり医学の道を極めるのか?」
清四郎は何とか平静を装った。
「……僕は、姉にも言われているのですが、魅録と違って、専門を極めるタイプではないんですよ。
勿論、医学は一通り、人並み以上には抑えるつもりですが、医者になるかどうかはまだ分かりません。
もっとも、姉が何等かの都合で菊正宗病院を継がなくなったら、好き勝手は言っていられませんけれどね。」
「継がなきゃならない家がある奴等は大変だな。清四郎、野梨子、可憐、悠理……。
俺と美童はその点、楽だな。警視総監も外交官も継がなきゃいけないってもんじゃないし。
……美童は、いつまで日本にいられるんだ?親父さんの残りの任期もそう長くないだろ?
その後は日本に残るつもりなのか?」
「迷っているような事を言っていましたね……。将来は得意の語学を生かして、国際関係の
仕事に尽きたいようですが、そうすると、やはり日本よりは海外に出た方が勉強や
活躍の場がありますからね。」
「……あいつら、どうすんだろうな……?何か、あいつらには早く幸せになって貰いたいんだ。」
あいつらというのが、誰と誰を指しているのが、清四郎にも良く分かった。同じ気持ちだったからだ。
自分達の分まで、美童と可憐には……。

清四郎と魅録は、再び並びあって寝転んだ。青い空に白い雲がゆっくりと流れていくのが見える。
二人の間の緊張感は既に霧散し、胸のつかえがとれて、魅録は久し振りに、
心から満ち足りた気持ちになった。
「なあ、清四郎……。」
「はい?」
魅録は上を向いたまま続けた。
「……来てくれて、感謝するよ。俺、あのまま卒業するのは、嫌だったんだ……。」
「……結構、勇気がいったんですよ……。」
「けど、ああいう、回りくどい言い方、止めろよ。」

641Graduation最終話graduation(25):2009/03/16(月) 09:01:39
風が凪ぎ、雲の流れが止まった。

(むっ)「……魅録が、単純過ぎるんですよ。」
(むっ)「……いいや、おまえが、素直じゃなさ過ぎるんだよ。」

(むむっ……、何で、こんな事を言われなきゃいけないんですかね……?)
「いいえ。僕は自分を褒めてやりたいほど、素直でした。」
(はっ?……あれでかよ?)
「前置きが、長すぎんだよ。男なら、こう、スパッと言えよ。」

(! せっかく僕から来たというのに……何だか損をした気分ですね……!)
「じゃあ、来ない方が良かったって言うんですかっ!?」
清四郎がガバッと身を起こす。

(何だ、このつっかかった言い方は……?しかも……論点がずれている!)
「そうは言ってないだろっ!」
負けじと魅録も素早く身体を起こした。

「じゃあ、いったい……!?」

二人は、顔を見合わせた。お互い、興奮して顔が紅潮し、口が開いている。
どこからともなく、鶯の鳴き声が聞こえて来た。
鶯の姿を求めて顔を周囲に振りやった後、再び目が合う。

二人は同時に吹き出した。
「……まるで……痴話喧嘩ですね……!」
「……何たって、両思いだからな。」
二人はニヤリと笑い合い、そして芝生に倒れ込むと、大の字になって、
今度こそ、腹の底からの大きな笑い声を裏庭に響かせた。

続く
642名無し草:2009/03/16(月) 09:31:56
>Graduation
魅録も「卒業」をしようとしているんですね。でもMIT行きとは、
またひと波乱ありそうな。

魅録と清四郎の、時に火花散る話し合いが面白かったです。
そして最後1レスの、2人の心の中の声には笑いましたw
性格の違いが出ていて楽しかった。両思い万歳ww
643名無し草:2009/03/16(月) 11:03:34
>Graduation
二人ともすごくいい男だな〜と思いながら読んでいました。
そして同じくオチに笑いましたw
最後まで目が離せないです。
644名無し草:2009/03/16(月) 12:53:35
>Graduation
魅録と清四郎の男の友情イイ!
自分も二人の心の声とオチに笑いました。
でも魅録、マサチューセッツとは。すぐには行かないにしても野梨子と悠理の
反応が気になります。
645Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/03/17(火) 09:38:43
>>634 今回9レスいただきます。
646Graduation最終話graduation(26):2009/03/17(火) 09:42:14

その日は、学食での最後のランチをとることになっていた。同じ様なことを考える生徒達は
多いらしく、学食は三年生で賑わっていた。野梨子が中に足を踏み入れると、既に
着席していた可憐が立ち上がって手を振った。メニューを眺めていると、ふと、カレーの
列に魅録と悠理が並んでいるのが目に入った。バイクから下りて以来、魅録とまともに
顔を合わせるのは今日が初めてだ。野梨子は、今日これからの第一声の重要性を十分理解していた。
頭では整理がついている。が、心が上手く頭に従ってくれるかどうか……。
野梨子は、戦場に向かう兵士であるかのように身震いした。
野梨子が選んだ茶巾寿司セットは女性徒に人気があり、結局野梨子は最後に仲間たちのテーブルに着いた。
6人掛けのテーブルの、可憐の横、清四郎の前の席に腰を下ろした。清四郎の隣に
悠理、その隣に魅録はいる。

「いっただっきまーす!」
悠理の元気な声と共に、ランチは始まった。
「ここで食べるのも、もう最後だと思うと、切ないわねえ。」
可憐の女らしいセンチメンタリズムは、悠理の一声にあっけなく一掃された。
「そうだよ。だから、あたい、この後定番メニュー全制覇に挑戦すっからな!皆、手伝ってくれよ!」
言いながら、物凄い勢いで大盛りのカツカレーを口にかき込んでいる。
「や……やだな。まさか、僕たちを列に並ばせるつもりじゃないだろうね?」
美童が嫌な予感に襲われ、チキンカツレツを口に運びなから、悠理に危ぶんだ視線を飛ばした。
「あ、分かった?美童はやっぱ、洋食系に並びたい?清四郎と野梨子は和食系がいいかな?」
「そういう問題じゃありませんわよ。」
野梨子が呆れたように悠理を見つめると、声がした。

「そういや、野梨子。あれから話す機会なかったけど、おまえ、バイク乗って楽しかったか?
今回、結構飛ばしたけど。」
悠理に向けていた視線をゆっくりと隣の人物に移す。魅録は笑いながら、肘をついて
こちらへ顔を向けていた。野梨子は、彼もまた、同じ事を考えているのだと分かり、
その期待に応えようとした。初めの一声が大事だ。明るく、元気に……!
「ええ。とっても楽しかったですわ。」
647Graduation最終話graduation(27):2009/03/17(火) 09:44:53

美童と可憐がまるで打ち合わせしていたかのように突っ込む。
「そりゃあねえ〜。あれだけ人に迷惑かけたんだもの、せめて、本人達だけでも楽しくなくっちゃ、
割が合わないわよねえ。」
「そうだよ。僕なんか、予定していた計画が全ておじゃんになったんだよ、全く。」
「あら、美童、何か計画してたの?教えてよ。」
可憐が目を輝かす。美童は珍しくちょっと嫌な顔をした。
(そんなの……予想つきそうなものなのに。可憐の奴、本気で言ってるのか?
だとしたら、僕の事何とも思ってないってことなのか……?)
「可憐には関係ないことだよ。」
美童はムスッとした声を出した。
「あっ、あら……、それは失礼致しましたっ……!」
可憐は不穏な気配を感じ取り、顔を心もち赤らめて、凄い勢いでサラダのレタスをフォークで突付き出した。

残りの4人は面白そうに成り行きを見つめていたが、ふと野梨子がはっきりした声で言った。
「バイクに乗せて頂いたのは、とっても楽しかったですわ。」
5人の視線が野梨子に集まる。

「でも、もう乗りませんわ。」

座が一瞬シンとした後、野梨子は続けた。
「バイクが楽しかったのは事実ですけれど、正直、あれが限界ですわ。あれ以上スピードが出たら、
怖くなってしまうと思いましたの。もう、バイクは十分ですわ。魅録、高校生活の最後に、
良い思い出を作って頂いて、本当に有難うございました。心から感謝していますわ。」

648Graduation最終話graduation(28):2009/03/17(火) 09:46:43
魅録は間髪入れず、笑って答えた。
「本当は、バイクが面白くなんのは、これからなんだけどな。けど、野梨子じゃ仕方ないか。
つーか、俺が本気出したら、付いてこれんのなんて、女じゃ、こいつくらいのもんだ……なっ、悠理?」
魅録は言いながら悠理の鼻をつまんだ。
「フッ…フガッ……!あにすんだよっ!」
「褒めてんだよ。」
魅録は澄ました顔で、自分のカツカレーのカツを一切れ悠理にやった。
「あ、サ、サンキュ……。」
「どうせ、おまえに取られっからさ。」
魅録がニヤリと笑う。
「何だとっ!」

和んだ席の雰囲気に、野梨子は胸を撫で下ろした。どうやら上手くいったようだ。
ほっとした野梨子が、小ぶりの茶巾寿司に箸を入れようとした時、清四郎の声が響いた。
「ところで、皆の耳に入れたいことがあるのですが、野梨子は車の免許を取るそうですよ。」
シーン……。
あまりにも長い沈黙に、茶巾寿司を眺めて俯いている野梨子は耳まで赤くなった。
(いっ……嫌ですわ、清四郎ったら。何も今、そのことを言わなくても……。
それにしても、この沈黙……ちょっと長すぎません?)
勇気を出して顔を上げてみると、眉を顰め、唇を噛みしめている4人の顔が目に入った。
清四郎一人だけが、澄まして鯛茶漬けを口に運んでいる。
「う……嘘だろ……?」
「嘘っていうより……冗談だよな?」
「そ、そうよ。やーねー、清四郎ったら!一瞬本気にしちゃったじゃない!」
「ほっ、そうだよね、やっぱり冗談だよね……はは。」

真実と受け取ってさえもらえない……。野梨子は心底情けなかったが、ありったけの威厳をかき集めた。
「コホン。本当ですけれど。それが何か?」
その後、座は野梨子に免許取得を諦めさせようとの説得で大いに盛り上がり、野梨子は
無事最初の関門をくぐり抜けたのだった。

649Graduation最終話graduation(29):2009/03/17(火) 09:48:05

水曜日の放課後。6人は一旦生徒会室に集まってから、卒業式に合わせ、久し振りに
日本へ戻って来たミセス・エールのお茶会に出席する為、理事長室へ行く予定だった。
時間までテーブルに着いて何となく雑談をしていると、扉を叩く音がした。
コツコツ。
6人は顔を見合わせた。表情からすると誰もこの訪問者の心当たりはないらしい。
しかし、気の利く可憐がサッとドアに駆け寄り、愛想良く言った。
「はあい。どなた?」
「前新聞部部長の初亀と、前写真部部長の川鶴です。」
「あら……。」

ガチャ。
銀ぶちのメガネをかけた、中肉中背の丸顔の前新聞部部長と、これも黒ぶちのメガネをかけた、
ひょろりと背の高い、公家顔の前写真部部長が揃いで入って来た。二人とも緊張した面持ちである。
テーブルに勢ぞろいの華々しい6人から一斉に注目され、二人は益々顔を赤くした。
「へえ、珍しい。鶴亀コンビが俺達に、わざわざ何の用?」
魅録が面白そうに目を光らせた。
「かっ、亀から言えよ……。」
「えっ、ずるいよ、元は鶴の仕事だろ……。」
入り口でつっつき合っている二人に、いらいらした悠理が立ち上がって喝を入れた。
「どっちでもいいから、早く用件を言えってば!これからミセス・エールの最後のお茶会に行くんだから、
時間がないんだよっ!」
「はっ、はいっ……!」
哀れな二人は震え上がった。

野梨子は文化部部長である為、クラスは違うが、この二人とは他のメンバー達よりも交流があった。
二人に同情した野梨子は、花のような笑みを向けた。
「悠理、そんな言い方をすると、却って怖がってしまいますわよ。来て下さって嬉しいですけれど、
今日は、お二人揃って生徒会室に、何の御用ですの?」

650Graduation最終話graduation(30):2009/03/17(火) 09:49:47

初亀はボッと顔を赤く燃やすと、一気に話した。
「あっ、あのっ……。今日は、大変遅くなりましたが、皆さんに、これを届けに参りましたっ!」
川鶴が紫の風呂敷で包まれた、平たい、長方形の包みを紙袋から取り出した。
「何だ?」
皆が注視する中、彼は震える手で風呂敷を取り、中身をテーブルに乗せた。

6人の目がその物に注がれ、生徒会室は、時が一瞬止まったように静まり返った。
誰も、一言も発せられなかった。
ついに、震える声で清四郎が言った。
「これは……歴代の……ですね……。」
「そうです。歴代の生徒会役員の卒業写真です。」

生徒会室には、壁の上部を囲むように、歴代の生徒会役員6人たちの卒業写真が飾られている。
数が多いので、過去十年分の写真と、その他に特に殿堂入りした役員たちの写真が、
永久保存のコーナーで不動の地位を保っていた。それらは、伝統にのっとって、
今でもセピア色で現像してあった。

「そういえば、二学期に、衣替えして直ぐ、写真撮ったよね。」
美童が、たった今思い出したかの様に目を細める。
「ああ。あん時は、こんな早くに撮んのかよ、なんて思ったけど、早いもんだな……。」
魅録が小さな溜息をつく。
「あんまり、前だから、すっかり忘れてたわ……。」
可憐が優しい微笑みを口元に浮かべる。
「……でも、何か、皆、いい顔してんな……。」
悠理が鼻をすする。
「本当に……そうですわ……。」
野梨子は写真から目が離せなかった。
651Graduation最終話graduation(31):2009/03/17(火) 09:51:11

それは事実だった。
前列の3脚の椅子には、中央に野梨子が座り、その左右に悠理と可憐。後列には、
清四郎を中心に、魅録と美童が左右に並んでいた。
野梨子は毅然としていながらも、ほんのりはにかんだ微笑を浮かべ、手はきっちりと
膝にそろえて置かれている。悠理は野梨子の腕に自分の腕をからめ、反対の手でVサインを作って、
思いっきり口を開けて笑っている。可憐は野梨子の頬に自分の頬を近づけて、
眉と口角を思いっきり上げてウィンクをしていた。
後ろの三人は、清四郎を中心に肩を組み合い、魅録は眉を上げて片目を瞑り、楽しそうな
笑顔を見せながら右手の親指を立てており、美童は金髪をサラリとかき上げる仕草をしながら、
艶やかな笑顔を見せている。そして、清四郎は、二人の肩に腕を回しながら、
普段、あまり見せる事のない、こぼれるような笑みを浮かべていた。

それは、文化祭の後、バイク事件の前に撮られたもので、6人が、まだ純粋な友人同士でいられた、
最後の瞬間を捉えたものだった。セピア色の写真は、シンプルであるが、質の良い、
伝統のチーク材の額縁にガラス入りで納められていた。

「あ、あの……、お気に召しませんでしたか?」
あまり長い間6人が写真を睨みつけているので、とうとう川鶴が恐る恐る聞いた。
我に返った野梨子が、白いハンカチで目頭を押さえながら言った。
「い、いえ……、その反対ですわ……。あまり素晴らしくて……。」
「そ、そうね、感動しちゃったのよ、あたしたち。」
可憐はわざとらしいはしゃぎ声をあげた。
「すげーな……。」
魅録は未だ写真に釘付けだ。
「いい写真だね。」
美童がしんみりとした微笑を浮かべる。
「さっきは悪かったな。おまえたち、やるな。」
悠理が頭を大げさに頭を掻きながら、謝った。
皆から次々と賞賛の声を聞けて、二人は心からホッとしたように顔を見合わせた。

652Graduation最終話graduation(32):2009/03/17(火) 09:54:08
「では、これはここに。」
清四郎が、10年前の額を取って、自分たちの額をそこに飾ろうとすると、初亀が慌てて止めた。
「ああ、あなた方のはここですよ。」
彼が指さしたのは、永久保存版コーナーの、それもど真ん中の特等席だった。
彼は嬉しそうに、そこの額を外すと、清四郎に促した。
「あなた方以上の生徒会役員は、二度と現れないでしょうからね。」
清四郎は微笑むと、自分達の写真をそこに飾った。
すると、納まるべき所に納まったと、生徒会室が喜びに震えたようだった。

「そして、これは皆さんに。写真部が総力を挙げて作成しました。……僕たちの気持ちです。」
次に、川鶴が分厚いアルバムを一人一人に手渡した。
「内容は、前半は共通ですが、後半は個人ベースになっています。」
皆、緊張した面持ちでページを繰る。
「……!」
それは……、まさに、聖プレジデント学園における、有閑倶楽部の歴史絵巻だった。
シラノ・ド・ベルジュラック、社交ダンスの神無祭、カサル王子の留学、ヨーロッパ修学旅行、
テニスの澤乃井杯、そして体育祭、文化祭、球技大会等の、聖プレジデント学園に
おける有閑倶楽部の数々の思い出の名場面が、先日の卒業ダンス・パーティーに至るまで、
この一枚という名ショットによって、そこに再現されていた。表舞台の写真以外にも、
男友達に囲まれた魅録のクールな笑み、取り巻きの女生徒をはべらせた美童の、
この世の春のような表情、大和撫子そのものの、凛としてかつ優美な佇まいの野梨子、
弁当をほうばる悠理のこの上なく幸せそうな顔、鏡を覗く、女としての自信に満ち溢れた
可憐の華やかな笑顔。そして仲間を見つめる清四郎の暖かい眼差し……。
最後のページは、先のセピア色の卒業写真で幕を閉じていた。

生徒会室は再び静まり返った。川鶴と初亀は場の雰囲気に面食らった。
可憐は美童の胸に顔を埋め、美童はうつむきながら可憐の髪を撫でてやっている。
悠理は魅録の腕にしがみ付きながら身体を震わせているし、魅録は唇を尖らせて
怒ったような顔をしている。そして、清四郎と野梨子は頭をくっ付け合い、そろって
ただひたすら、アルバムをめくっていた。

653Graduation最終話graduation(33):2009/03/17(火) 09:55:29
「素晴らしい写真をどうも有り難うございました。」
ようやく、野梨子が二人に丁寧なお辞儀をした。すると、初亀がある箱を取り出した。
「こ、これを、白鹿さんに差し上げたいと思いまして……。」
「わたくしに?何ですの?」
「これは、今まで、新聞部と写真部で撮りためてきた、あなた方の全ての写真のネガです。
公にしたものも、そうでないものも、全てここに入っています。そして、公に載せたもの
以外の写真は、既に全て破棄致しましたのでご安心下さい。」
野梨子はずっしりとした箱を両手で受け取った。相当な量であることが分かる。
「これを、どうしてわたくしに……?」
野梨子が小首をかしげ、不思議そうに長い睫の下から、大きな黒い目で初亀を見上げる。
初亀は再び真っ赤になった。
「あっ、あのあのあのっ……、実はっ、僕はっ……。」
「亀、頑張れよ。もう最後なんだぞ。」
親友らしい川鶴がささやく。
「……うっ、うんっ……。実はっ、僕はっ、初等部に入学した時から、はっ、白鹿さんの
ことを……ずっと……お慕いしておりましたっ!」
「まあ……。」
野梨子は息を飲んだ。
「当時、既に二年生だったあなたは、それはそれは可愛くて、でも、それだけではない、
気品という言葉はまだ知りませんでしたが、醸し出す雰囲気が他の女の子とは全く違って、
僕は、僕は、身の程知らずにも、あなたに一目ぼれしてしまったのですっ!」
(そして、白鹿さんに、菊正宗くんという、どう転んでも勝てっこない幼馴染がいると
知ったのは、その直後だった……。)
初亀は首をうなだれた。
「読んでもらえないと分かっていても、出したラブレターは数知れません。いや、実際、
白鹿さんとお付き合いがしたいと考えていたわけでは全くないのです。ただ、書かずには
いられなかった……。そして、今日はこれをお渡ししたくて……。」
彼は、下を向きながら、白い封筒を野梨子に両手で差し出した。
「……。」
654Graduation最終話graduation(34):2009/03/17(火) 09:57:29
差し出した両手はぶるぶると震えていた。
「これが、最後のラブレターです。なぜなら、僕は聖プレジデント大学へは進まないので。」
「どちらへいらっしゃるの?」
「T大の文一です。法学部へ進んで、父と同じく弁護士になります。
……受け取って……いただけますか?」
「T大……。」
一瞬、座がざわめく。
「そういや、おまえら、テストでいつも清四郎と野梨子の間の2番と3番だったもんな。頭いーんだ。」
悠理が思い出したように言った。

野梨子は目の前の純情な男子生徒を見た。身体がガタガタ振るえ、先ほど真っ赤だった顔は
真っ青になっている。恋を知った野梨子には彼の気持ちが痛いほど良く分かった。
そして、相手に告白すらも出来なかった野梨子は、こうして正々堂々と告白出来る
初亀を尊敬し、好感を持たずにはいられなかった。

「……読ませていただきますわ……。」
野梨子は封筒を受け取った。そして、読むと言った証拠に、その場で封を開いて便箋に目を通した。
初亀は幸福のあまり倒れそうだった。野梨子はゆっくりと便箋をたたんで封筒に戻し、にっこりと初亀に笑いかけた。
「心に染み入る、素敵なラブレターを有難うございます。このお手紙に恥じない人生を、
この先も送って行きたいと思いますわ。」
「……!」
初亀はついに大泣きに泣き出し、川鶴に肩を抱かれ、そして有閑のメンバー6人にどつかれ、
励まされて、生徒会室を出て行った。校庭の黄色いれんぎょうの低木の木陰に腰を下ろす。
しばらく嗚咽の止まらなかった親友がようやく顔を上げると、川鶴は安堵したように言った。
「亀、良かったな……。」
「うん……。」
初亀はメガネを拭いてかけなおした。涙で汚れた顔を隠そうともせず、眩しい陽光越しに空を見上げる。
目を細めて、彼は笑った。
「……我が聖プレジデント学園生活に悔い無し……だよ。」

続く
655名無し草:2009/03/17(火) 12:11:05
>Graduation
川鶴くんと初亀くんみたいな生徒が他にもたくさんいるんだろうなー。
倶楽部の面々の写真が目に浮かぶようでした。
あと、野梨子と魅録が普通に会話できてよかった。
続き待ってます。
656名無し草:2009/03/17(火) 12:41:37
>Graduation
野梨子がラブレターを読んだシーンで、不覚にも目に汗がじわっと…
初亀君の行動に、自分の卒業の頃の思い出がオーバーラップしてしまいました。
恋を知って野梨子は、自分を思ってくれる人の気持ちも思い遣れるように
なったんだなぁ、というのも感慨深いです。
657名無し草:2009/03/17(火) 22:27:29
>Graduation
野梨子が免許を取る話になった時の、メンバーの反応がおかしいw
写真の6人のポーズにはらしいなぁとうなずき、歴史絵巻には自分が
その場に居合わせたかのような感慨に浸ってしまいました。
読者である私も、6人と一緒に卒業を迎えるような気分です。

初亀君、良かったね。
少し大人になった野梨子を見ることが出来たのも、良かったです。
658名無し草:2009/03/17(火) 22:54:29
学食といえば、原作に何回も出てきてるけど庶民的過ぎるよねーw
おばちゃんが作ってるし、メニューもカレー380円とか…
聖プレジデントなら、シェフが目の前でフランベしながら肉焼いたりしてくれよw
アシ絵とはいえ、食べ物にうるさい御大が何故チェックを入れなかったのだろう。
659名無し草:2009/03/18(水) 00:12:09
>>658
きっと普段食べる機会のない庶民の味が新鮮なんだよw
野梨子なんか悠理にファーストフードに連れて行かれて
「フォークはないんですの?」とかびっくりしてそうだ。
660Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/03/18(水) 08:54:52
>>646 今回6レスいただきます。
661Graduation最終話graduation(35):2009/03/18(水) 08:56:31

「ああ、やっと会えました!さあ、みんな、懐かしい顔を見せて下さい!」
しんみりとした雰囲気を引きずっていた6人は、ミセス・エールの変わらぬ元気な声に救われた。
しかし、それでも勘の良いミセス・エールはすぐに尋ねた。
「どうしました、みんな?何かありましたか?」
「実は……。」
清四郎が、事のいきさつを説明した。
「そのアルバム、ちょっと見せてもらえますか?」
ミセス・エールは、黙ってアルバムのページをめくっていたが、裏表紙を閉じると、満足気な溜息をついた。

「素晴らしい物ですね。作り手の愛が満ち満ちています。これは、結局、あなたたちが
いかにこの学園で愛されていたかという証明ですね。」
「そんな……、わたくしたちは、自分達で好きにやっていただけですわ。」
ミセス・エールは人差し指を立てて振った。
「No!No!、魅力ある優れた人物は、そこにいるだけで周囲に良い感化を及ぼすものですよ。
自分たちが意識しなくてもね。」
「でも、あたい、優れた人物じゃないぞ。成績は悪いし、喧嘩好きだし、全然周りに
いい影響なんて与えてないや。」
悠理がしかめっ面をしながら言う。しかし、ミセス・エールは愛嬌たっぷりの笑顔で言った。
「人は、成績が良くてお行儀が良いから、その人を好きになるわけではありませんね?
悠理、あなたは、欠点を補って余りある長所を持っています。あなたが女性徒たちに
あんなに人気があるのは、単にあなたが綺麗で、強いからだけではありません。
あなたからほとばしっている、情熱のオーラが、生命のエネルギーが、彼女たちを夢中にさせていますね。
あなたを見てると、みんな元気になります。そうじゃありませんか?」
「確かに……。」
「見てると面白くて、退屈しないわよね。」
皆がニヤニヤと悠理を眺める。
「お、おい……あたい、褒められてんのか?」
悠理が恐る恐る魅録を見上げ、魅録が微笑む。
「多分ね。」

662Graduation最終話graduation(36):2009/03/18(水) 08:57:31

久し振りのミセス・エールの手作りのケーキは、ナッツとドライフルーツたっぷりのブランデーケーキだった。
「これ、○○堂のブランデーケーキに似てるなっ!」
一口食べて、悠理が飛び上がった。
「やっぱり、そう思う?とびきり美味しいものっていうのは、似てるのかしらね?」
「○○堂のブランデーケーキって?」
皆がミセス・エールに説明している間、野梨子は一人とまどいの中にいた。
(マドレーヌが昔の事を思い出させたと書いたのは……プルーストでしたかしら…?)
ブランデーケーキのしっとりした甘苦い大人の味は、野梨子にある出来事を思い起こさせた。
野梨子の目が静かに閉じられる。
(そう、あの日、初めて魅録のバイクに……)

「野梨子。どうしました?」
ハッと顔を上げると、ミセス・エールが笑っている。自分に、友達の大切さを教えてくれた、
5年前と変わらぬ笑顔で。野梨子は込み上げて来ていた想いを振り払うことが出来て、
ミセス・エールに心から感謝した。
「ケーキがあまりに美味しくて……。レシピを教えていただけたら嬉しいのですけれど……。」
「いいですよ。秘伝のレシピですけれど、では、あなたたち女性三人への卒業祝いと
いうことにしましょう。でも出来れば、自分の子どもたち以外、他の人へは教えないで下さい。」
「あれ、僕たちには教えてくれないの?」
「その必要ないじゃない。あんたたちには、あたしたちが作ってあげるんだから。」
可憐が呆れたように言った。
「ああ、そうか。」
美童はあっさり納得した。残りの4人も頷いている。

美童と可憐の、この何気ないが実は深い意味のある会話に、本人たちを含め、誰も疑問を
持たなかったらしい事に、ミセス・エールは一人微笑んだ。彼女は6人を眺め回した。
相変わらず、皆、生き生きとして、それぞれの魅力に溢れ、眩しいほどだ。
だが、各自の変化もまた見て取れる。

663Graduation最終話graduation(37):2009/03/18(水) 09:01:15

清四郎は、才能のあり過ぎる人物がしばしば陥る、神をも恐れぬ過ぎた万能感という罠を、
この年にして既に潜り抜けた感がある。己の才能を信じる事は大事だが、所詮万物の
一つでしかない人間には、超えてはならない一線というものがある。それを若者に理解
せよというのは難しい話だが、清四郎は何をきっかけにか、それを悟ったらしい。
彼のような人物がへりくだりの心を持った時、世の中はこの上ない宝を手にしたことになる。

一方、人一倍の情の熱さと理系のクールさの同居が不思議な魅力を放つ魅録は、もって生まれた
真っ直ぐな気性はそのままに、ひたすら純粋だった目の中に、物事の深遠を積極的に
読み取ろうとするような奥深い光を宿し始めた。一人の男として、自分の行動に責任を
持とうとしているその態度は、彼を一回り大人に見せていた。ただ思うがままに生きてきた
長い少年時代に、今、自ら決別しようとしている姿は、若者らしい輝きを放っている。

美童は変わらず、愛すべき茶目っ気たっぷりの心優しいムードメーカーであるが、
いつでも楽しい事を求めて蝶のように飛び回っていた軽薄さが影を潜め、男としての
逞しさが現れてきている。他のメンバーたちよりも圧倒的に多くの恋愛経験をしてきた事は無駄ではなかった。
生きた恋愛から人生を学ぶことは、本人にその気と能力さえあれば、本から学ぶこと
よりもずっと役に立つ。結局、男性三人の中で、一番早く落ち着くのは彼かもしれない。

可憐も同様だ。玉の輿という野心を持つには、彼女はあまりにも自分に正直でロマンチストだった。
玉の輿の呪縛が解かれた彼女は、何と生き生きしているのだろう。内面の充実度が
自信となって外に表れている。元々愛嬌にあふれた社交的で機転の利く、愛すべき娘だったが、
分かりやすく表層的だった美貌に多面性と深みが出て、益々磨きがかかり、彼女なら
きっと、幸せな家庭を維持しながら、店の一つや二つ、軽々と切り回すと思われた。

664Graduation最終話graduation(38):2009/03/18(水) 09:02:55
悠理は女らしくなった。以前と変らぬ人並み外れた元気さの中で、時折垣間見せる艶っぽい表情は
ドキリとするほどだ。好いた男の子どもを生み育てるという、原始的な女の性の角度からみれば、
結局、彼女が女性三人の中で一番女度が高いのだろう。成績が良い、悪いなど問題ではない。
彼女は自分の人生で何が一番大切か本能で分かるタイプの人間だ。そして、頭でっかちの
人間が多い今、彼女のように生きられる人間は少ない。だからこそ、皆が彼女に惹かれるのだろう。

そして、ミセス・エールは野梨子に目を向ける。

5年前、初めて野梨子にアドバイスをした時を思い出す。あの時から、彼女は貴重な
友人を得て、とても変ったが、今回の変化には目を見張るものがある。
恐らく親から譲り受けたであろう、永遠の清らかな少女性はそのままに、それまでには見られなかった、
清濁併せ持つ、ふところの広さのようなものが彼女に生まれていた。また、それは、
母親が我が子に対して持つような、自己犠牲の心ともいえるだろう。自分を無にしても、
周囲の安泰を願いたいと思う心。それは、周りが是か非かと論ずる類のものではない。
そういう人物は、そういう風にしか生きられないのだ。
周囲を無視して、自分の思うままに生きても、彼女たちは幸せには感じない。
ミセス・エールは、野梨子の表情に、ミケランジェロのピエタ像のマリアを思い起こした。

ミセス・エールは、6人の変化が恋に起因していると察した。
美童と可憐は既に二人だけの特別なオーラを発しているし、清四郎の野梨子を見る
眼差しは、単なる幼馴染を見るそれではない。悠理の、魅録を見つめる目もまた、
友人関係を超えたものだ。そして、魅録と野梨子の間の、ちょっと眼力のある者に
とっては、隠そうとしても隠し切れない緊張感……。

ミセス・エールは大方を把握して微笑んだ。
長い人生には色々な時がある。だが、心配することはない。過去に囚われず、
毎日を正直に精一杯生きている者たちは、なるようになるものだ。
今は、混沌としている彼等も、いずれ、落ち着くところに落ち着くだろう。
伊達に年を重ねてきているわけではない。彼等の発する前向きな正のエネルギーは、
必ず彼等に幸せをもたらすと、これまでの経験から、ミセス・エールは確信していた。

665Graduation最終話graduation(39):2009/03/18(水) 09:04:16
木曜日からは学校は午前中だけになった。それでも敢えて6人で生徒会室でランチを取った後、
美童と可憐は、聖プレジデント学園の象徴とも言える染井吉野の老大木に寄りかかっていた。
今年は3月に入って例年になく暖かい日が続き、しかも此処は特に日当たりが良い為、
学園内でも、この桜だけもう5分咲きだった。二人の頭上に、淡くピンクがかった白い
花が花嫁のベールのように広がっている。

「……結局、高校卒業と同時に、皆、それぞれ他のものも卒業するっていうわけね……。」
「うん……、清四郎と野梨子は、保護者、被保護者の関係を卒業するし、魅録と悠理は
男友達関係を卒業して、やっと男女の友達関係になったってところだね。」
「今は、魅録は完全に悠理を女として認めてるものね。もっとも、あいつの事だから、
自分では気が付いてないかもしれないけど。」
「清四郎と野梨子は、野梨子の一人立ちによって、どう関係が変って行くかだね。
一度清四郎を離れてみた野梨子が、今度は彼を一人の男としてどう見るようになるか……。
僕は、今回の事は、結局清四郎にとってはいい方に向くんじゃないかと思ってるんだ。」
「どっちにしても、先の長い話ね。野梨子は、当分は他の男に目を向ける気にはならないだろうし。
本当は、前の恋を忘れるには、積極的に新しい恋をするのが一番なんだけど……野梨子じゃね。
魅録と野梨子は、今回は本当に、タイミングが合いそうで、合わなかったのね。
もっと前とか、もっと後だったら、また違う展開だったんじゃないかしら……。
話は違うけど、卒業といえば、悠理は剣菱も卒業し出した気がするの。体育学部を選んだ事でね。」
「それを言ったら、可憐こそ、玉の輿願望を卒業したよね。」
「美童は、世界の恋人は卒業したの?」
「ああ、それなんだけどさ……。」

美童が、桜の大木に背をもたせかけている可憐の正面に回り、可憐の顔を挟み込む
ようにして両手を幹についた。陽光に透けた金髪がきらめき、可憐は思わず目を細めた。
「僕らも、卒業するっていうのはどう?」
「えっ……何を?」
「男女の友人関係ってやつを。」
風がそよと吹いて、目の前を桜の花びらがハラハラと舞い、可憐がそれに目を奪われたその瞬間、
美童が可憐の唇を盗んだ。

666Graduation最終話graduation(40):2009/03/18(水) 09:05:06

サワサワサワ……。
可憐の茶色い巻き毛と、美童の長い金髪が花びらと共に春風に揺れる。
可憐は空を見上げた。白い花嫁のベール越しに、爽やかな青色が見え隠れしている。
(水色と白で、とっても綺麗……。)
「……嫌だった?」
可憐がぼんやりと空を見上げたままなので、とうとう不安にかられた美童がかすれた声を出した。
可憐は潤んだ茶色い瞳を、良く知ったプレイボーイに戻した。白い肌、青い瞳、長い金髪。
確かに子どもの頃、夢中で読んだ外国の物語の王子の様だ……。
「……可憐?」
早く何か言ってくれないと、気が狂いそうだと言わんばかりの目の前の親友に、可憐は夢見るように呟いた。

「……いつかは、こうなるような気がしてた……。」
美童の顔がたちまち輝きを取り戻した。声に張りが戻る。
「へ、へえ……僕もだよ。可憐は、いつから?」
「う……ん……、やっぱりクリスマス・イブかな……?でも、ひょっとしたら、経営学部の
一般受験をしようかどうか、迷い出した時からかも……?駄目だったら、今まで
みたいに美童と一緒にいられなくなっちゃうんだなって……思った……美童は?」

元世界の恋人は、今自分に出来る、作り物ではない最高の笑顔を見せた。
「……君と初めて会った時からさ。」
「!」
可憐の顔が幸せに歪んだ。
ザァッ……と強い風が吹き、桜の花びらが舞い乱れる。
「全く……」
可憐の細い両手が美童の首に回される。
「そのセリフ、何人に言ったのよ……!」

そして桜吹雪の中、二人は恋人同士になって初めてのキスをした。

続く
667名無し草:2009/03/18(水) 10:30:01
>Graduation
ミセス・エールから見た6人の姿と、可憐・美童から見た4人の姿が
面白かったです。
そして可憐と美童のキスシーンも素敵でした。やっと美童の本領
発揮かなw

桜の花が咲き始め卒業シーズンでもある今、リアルタイムで6人の
卒業物語を読むことが出来て、とても嬉しいです。
668名無し草:2009/03/18(水) 11:55:48
>Graduation
ミセス・エール、原作でも好きだったけどやっぱり素敵な女性ですねー。
自分も可憐と美童の桜の木の下でのキスシーンににんまりしました。
この作品でのこの二人に癒されますw
669Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/03/19(木) 09:20:15
>>661 今回9レスいただきます。
670Graduation最終話graduation(41):2009/03/19(木) 09:21:39

金曜日の昼。学校自体は明日の卒業式の準備の為午前で終わったが、有閑倶楽部の
面々は生徒会役員として、午後も卒業式の式次第の打ち合わせや準備の手伝いがある為、
生徒会室で最後のランチをとった。生徒会室を使うのはこれが最後なので、ランチの後は
部屋の総点検をして、残っていた全てのプライベートの品を持って帰る仕事が残っていた。

清四郎と野梨子は、愛用した囲碁盤を前に相談していた。
「元はわたくしの物ですけれど……、重いですし、後の方たちの為に、やはりここに置いていきますわ。」
「いいんですか?」
「ええ……。これがここにないと、何だか寂しい気がしますもの。」
野梨子は微笑みながら、そっと飴色の囲碁盤を撫でた。

可憐は給湯室で、やはり愛用のミルと珈琲メーカーを見つめて思案していた。
「これも……あたしが持って来た物だけど、ここに置いていくことにするわ。
すごく綺麗に使ってあるし。あと、食器とか、カトラリーも。」
「ロイヤルコペンハーゲンのティーセットはどうします?あれは……、皆で揃えた物ですわよね。」
「あ、あれは……。」
可憐が笑いながら小さな紙袋を6つ出してきた。
「皆で、選ぶ時にどれがいいか、散々話し合って決めたんだものね。カップ&ソーサーは
記念に一人一人持って帰ろうと思って、もう用意ずみよ。」

魅録と美童はロッカーやら資料室やらの細かい所をガタガタと総点検していた。
「酒と煙草はもう処分したし。」
「いけないご本は3人で分けたし……。」
「あっ、バカ、美童……!」
魅録が美童の口を押さえた時には、女性陣の厳しい視線が既に男たちに注がれていた。
「捨っ、捨てるために分けて持って帰ったんだよっ。あんなもん、学校に捨てられないだろっ!」

671Graduation最終話graduation(42):2009/03/19(木) 09:22:36
「では、最後の仕事に取り掛かりましょうかね。」
清四郎の一声に、5人はぞろぞろと生徒会室から出た。これも聖プレジデント学園の
生徒会役員の伝統で、卒業時に、生徒会室に自分達のサインを残していくのだ。
分かりにくい場所に書くほど、価値があると言われている。歴代の生徒会役員の名前を探すのは、
新役員たちの楽しみでもあった。6人は、1年間かけて全てのサインを見つけ出したものだ。
書く場所は他のメンバーにも秘密の為、一人一人中に入ることになる。ジャンケンで、
まず野梨子、次に清四郎が入る。二人とも、あっという間に戻って来る。
次に、美童と可憐が一緒に入ろうとする。

「待てよ。一人ずつだろ?」
悠理が止めようとすると、美童がウィンクした。
「いいんだよ。」
可憐が頬を染めて、美童の後ろに隠れる。
「あっ……。」
サインは基本的に一人で行われるが、卒業時にカップルになっている二人だけは例外で、
一緒に名前を並べて書くことが特権として許されていた。しかも、したければ古典的な
相合傘つきで……。そして、噂ではその効力は強く、かなりの確立でゴールインして
いるらしいと言われている。

「そうかあ、そういうことかー!」
悠理が嬉しさに顔を崩して、美童をバン!と叩く。
「いつかはそうなると思ってたけど……。で、いつからなんだよ?」
魅録も顔中で笑いながら、美童の肩を抱く。
「つい……昨日なんだ……。」
鼻の頭を掻きながら、唇を尖らせて美童が照れくさそうに言う。可憐は美童の陰で、
赤くなりながらも威厳を保とうと、つんと顎を上げている。
「卒業前に、そのお話を聞けて、本当に嬉しいですわ。」
野梨子がそっと目頭を押さえる。
「では、お二人でごゆっくり。」
清四郎が満足気に微笑んで二人を送り出した。

672Graduation最終話graduation(43):2009/03/19(木) 09:23:41

4人は揃って笑顔で待っていた。待っていた。待っていた。待っていた……
「……遅いな……」
イライラし出した悠理が時計を見る。
「いくら何でも遅すぎないか?あいつら、何やってんだ?まさか……!」
「あっ、こら、悠理、止めろっ!」
皆が止める間もなく、悠理がバン!とドアを開けると、案の定、美童と可憐が赤い顔をして
パッと身体を離したところだった。
「やっ、やだなあ……みんな……。」
「……いい度胸してんじゃねーか……。」
ワナワナと震えている悠理の肩を清四郎がポンポンと叩く。
「まあまあ、最後ですからね。大目に見ましょう。」

次に中に入った魅録は直ぐに出てきた。最後に悠理が鼻息荒く入る。……が、中々出てこない。
「何だよ、悠理の奴、人に文句言っといて、自分だって十分長いじゃないか!」
息巻く美童とは反対に、可憐は目を細めて優しい声を出した。
「きっと……場所を探してるのよ。」
「前もって、決めとけって言ってたのにな。要領の悪い奴。」
魅録が呆れたように言う。
しかし、すぐにピンときた美童を含めた他の4人は、悠理が何を探して遅いのか察していた。
恐らく悠理は誰かの名前を探しているのだ。そして、その隣に……。

「ごっめーん!遅くなって!」
「遅すぎるぜ。結局、美童と可憐より時間かかってんじゃねーか。」
悠理は恨めしげな顔で魅録を睨みつける。
「(ちぇっ……。おまえが、分かりにくい場所に書くからいけないんだよっ。)
悪かったって言ってんだろ。あたいだって、色々事情ってもんがあるんだよ。なーっ、清四郎ちゃんっ。」
悠理が清四郎の腕にしがみつき、ニヤニヤしながら彼の顔を見上げる。

673Graduation最終話graduation(44):2009/03/19(木) 09:24:41

「えっ!何のことですか?」
清四郎の眉がピンと跳ね上がる。悠理は目を半月型にしながら清四郎に囁いた。
(へっへー、見ちゃったもんねー。結局、成績がトップだろうが、ビリだろうが、考える
ことは一緒ってことなんだなー。清四郎も、可愛いとこあるじゃん!)
「……。」
清四郎はこの不運に目を閉じた。

6人は再び生徒会室に戻った。テーブルの各自の席に着く。自分達の卒業写真は
ここから良く見えた。もう、仕事は全て済んだ。皆、黙って、生徒会室を見回す。
ここで、数え切れないほどランチをとり、数え切れないほどお茶をし、
あらゆる計画をたて、あらゆる相談をした。
ここで、笑い、泣き、怒り、喜びに震え、恋をした……。
色んな事があった。
でも、いつもここに来れば皆がいた。
6人には見えるようだった。過ぎた昔の自分達が。

テーブルに正座して囲碁を打っている清四郎と野梨子。
陽気にギターをかき鳴らす魅録と悠理。
優雅にステップを踏む美童と可憐が……。

674Graduation最終話graduation(45):2009/03/19(木) 09:25:52

「もう……やり残した事はありませんか?」
清四郎が、皆の顔を見回しながら言った。

皆、中々声が出なかったが、ついに魅録が目を瞑って、口はしを少し上げ、かすれた声を出した。
「……ねーよ……。」
美童が金髪を指で漉きながら、震える声で言う。
「僕も……ないよ……。」
野梨子が途切れ途切れの声を出す。
「……わたくしも……ありま……せんわ……。」
可憐が大きな溜息をついて、巻き毛を振った。
「……ないわ。」
悠理が、言葉の代わりに、両手で顔を覆う。
「……!」

「それでは……行きますか。」
清四郎が微笑みながら席を立った。
675Graduation最終話graduation(46):2009/03/19(木) 09:27:10

全員がノロノロと外へ出る。
野梨子が震える手で生徒会室の鍵を閉めた。
嗚咽している女性三人と、首をうな垂れている男三人。
そこへ、静寂を打ち破る、元気な声が聞こえて来た。

「ったく、どこなんだよっ、生徒会室はっ!京介、おまえ知ってんじゃなかったのかっ?」
「統馬、京介にあたるのは止めて下さいな。」
「実際に来るのは初めてですよ。ああ、ここだ。」
廊下の曲がり角で、有閑倶楽部の6人は、初々しい6人の少年少女と鉢合わせした。
男三人、女三人の彼等は、聖プレジデント学園中等部の制服を着ている。
彼等は、清四郎たちが誰か見て取ると、一瞬、気まずい顔をした。
野梨子が微笑んで言った。
「中等部の皆さんね。生徒会室に何かご用でしたの?」
「はっ……白鹿さまっ……!」
三つ編みの少女が真っ赤になった。
「それとも、僕らに用があったのかな?」
美童が面白そうに微笑む。確かに、彼等はただの中学生達ではない。

仲間のリーダーらしい、背の高い、今時黒髪を七・三に分けて銀縁眼鏡をかけた、
いかにも賢そうな、それでいてどこか人をくったようなところのある、端正な少年が最初に名乗った。
「僕は、天吹京介と言います。祖父はハーバード大物理学教授。父はオックスフォード大化学教授を経て、
現在は東大で教授をしており、母は女医です。僕は趣味として2年連続数学オリンピックで
金メダルを取っています。ちなみに、空手は黒帯です。僕らは、聖プレジデント学園中等部で
生徒会役員をしていました。4月からは高等部で、あなた方以来の、一年にして、
生徒会役員を独占することになるでしょう。」

676Graduation最終話graduation(47):2009/03/19(木) 09:28:09

彼の隣に佇む、これまた今時二本の長い三つ編みを背中に垂らしている、花の様に
可憐で清楚な少女が名乗った。
「わたくしは、春霞桜子と申します。父は春霞流日本舞踊の家元ですの。母は旧華族の出身で、
お作法教室を開いていますわ。」
シャギーの細かく入った、バサッとした金髪の三白眼が、ふてぶてしく言う。
「俺は、新開統馬。親父は防衛大臣。おふくろの方のじいちゃんは元首相。政治家一家だよ。」
黒髪のショートカットの、きりっとした瞳を光らせた少女がスカートを翻して足を蹴り上げ、元気一杯に言う。
「あたしは、黒龍環。父さんは、剣菱財閥に追いつけ、追い越せの、黒龍グループの会長さっ。
あ、ちなみに母ちゃんは元宝塚の男役。男前だぜ。」
長めの茶髪をサラリと後ろにかきあげながら、女かと見紛う色白で甘いマスクの美少年がニコッと微笑む。
「僕は、上善光。父は舞台監督で、母は元女優。名前を言えば誰か皆知ってると思うよ。」
最後に、綺麗な栗色の髪を肩のところで丁寧にくるくるとカールさせている、いかにも
ハーフらしい、えくぼが魅力の明るい美少女が可愛らしく笑った。
「私は聖良・ペルノー。父はオーストリア人で、オーケストラの指揮者。母は日本人のオペラ歌手なの。」

清四郎、魅録、美童、野梨子、悠理、可憐は、感慨深く、そして眩しく、彼等を眺めた。
彼等は何て、若々しく、希望に満ちて、瑞々しいのだろう……。
ああ、生徒会室は大丈夫だ。自分達が卒業して、出て行った後も、こうして優れた後輩たちが
再びそこを愛すべき、大切な場所として使って行く……。
自分達は、彼等に後を任せ、次に自分達を待っている更なる大舞台に、希望を持って進むだけだ。

悠理はまじまじと6人を見詰めた。
「何か……、皆、似てやがるな……。特に、このメガネと三つ編みの雰囲気なんて、
清四郎と野梨子にそっくりだよな。」
5人が頷く。可憐が好奇心から尋ねた。
「あなたたち、ひょっとして、幼馴染?」
677Graduation最終話graduation(48):2009/03/19(木) 09:28:56

「ちげーよ。」
答えは、意外な人物から発せられた。金髪の三白眼が面白くも無さそうに呟いた。
「桜子の幼馴染は俺だよ。京介はイギリスから戻って来て、聖プレジデントは中等部から。
よく、先生たちから間違えられるんだ。よっぽど、あんたたちの印象が強いらしいぜ。」
環がニヤニヤ笑いながら言う。
「統馬は、京介に桜子を取られたと思って、ずっと焼きもち焼いてんだよ。なっ、統馬ちゃん?」
「なっ!環、何言ってんだよっ!」
「見かけによらず、可愛いよねえ。」
「ほーんと。バレバレなんだから。」
光と聖良がクスクスと笑い合う。
しかし、桜子は表情一つ変えずに言った。
「くだらないですわ。」

「で、今日参りました理由ですが。」
京介が眼鏡を形のよい指先で整えながら言った。
「先ほども申しました様に、僕たちは、来年度の生徒会役員を独占します。そして、
それを三年間続けるつもりです。つきましては、有閑倶楽部の名前を引き継がさせて
頂きたいと思いまして、今日は皆様にご挨拶に伺いました。」

先輩達6人は顔を見合わせた。
そして、ゆっくりと微笑み合う。

清四郎が漆黒の瞳で穏やかに京介を見つめた。
「君達みたいに魅力的な後輩たちに、有閑倶楽部の名を引き継いでもらえるのは光栄ですが……。」
魅録が統馬を見てニヤリと笑う。
「でも、それは無理な相談だな。」

意外な返事に、中学生たちはざわめいた。
「どうしてですか?」

678Graduation最終話graduation(49):2009/03/19(木) 09:29:45

美童が光に流し目を送る。
「天は有閑倶楽部の上に有閑倶楽部を作らず」
可憐が聖良に艶然と微笑みかける。
「有閑倶楽部の下に有閑倶楽部を作らず……なのよ。」
悠理が笑いながら環に目を光らす。
「つまりっ」
野梨子が愛情を込めて桜子の瞳を見つめた。
「有閑倶楽部は永遠に、この世に一つだけ。6人だけという事ですわ。」

6人が15歳らしく、一様にしょんぼりした顔を見せたので、野梨子が励ました。
「でも、皆さんは、皆さんの倶楽部名をつければいいことですわ。皆さんだけのね。」
それぞれ癖はありながらも、根が素直な後輩6人は、この言葉にみるみる元気を取り戻した。
「そっそうねっ」
「そうだよねっ」
再び顔を紅潮させる少年少女たちを、卒業していく6人は笑顔で見守った。

去って行くとき、少年たちはそれぞれ崇拝している先輩と握手をした。
「菊正宗さん、僕は、中等部に入った時からずっと、先輩を尊敬していました……。」
「白鹿さまは、私の理想の女性ですわ……。」
「魅録さん、あんた、格好良すぎるぜ……。」
「悠理さん、あたしの……初恋だったよ……。」
「美童さん、世界の恋人として、あなたは僕の永遠のライバルです……。」
「黄桜さま、ああ、どうしてあなたはそんなにお美しいのですか……。」

彼等の後姿を見つめながら、6人は、再びエネルギーが沸々と湧いてくるのを感じていた。

続く
679名無し草:2009/03/19(木) 11:05:30
>Graduation
カップルになりたての可憐と美童が、初々しくも熱々で良かったです。
二人を送り出す時の野梨子と清四郎の反応が、仲人さんみたいで
笑いました。そして、悠理に一本取られる清四郎にもw
それにしても、「ご本」は誰が持ち込んだんだろう?ww

しんみりした後に、威勢のいい後輩たちを見られたのも良かった。
こうして続いていくんだなぁと、ふと自分の母校を思い出したりしました。
680名無し草:2009/03/19(木) 13:00:18
>Graduation
魅録の名前の隣に名前を書こうとする悠理がかわいい。
そして清四郎もw
自分も寂しいなと思いながら読んでいたら元気な後輩たちの様子に癒されました。

681Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/03/20(金) 06:58:25
>>670 今回8レスいただきます。
682Graduation最終話graduation(50):2009/03/20(金) 06:59:39

その日、卒業式の準備が終わったのは午後7時過ぎで、外に出ると、もう真っ暗だった。
美童は待たせていた大使館の車で可憐を送っていき、清四郎と野梨子は徒歩で、
魅録と悠理はバイクで、いつものように帰った。しかし、皆には分かっていた。
聖プレジデント学園の生徒として、学園から家に帰るのは、これが最後だと。

剣菱邸の正門の脇のいつもの場所で、悠理はバイクから降りた。明日は、来賓達が車を使う為、
生徒達の車通学はバイクを含め禁止されている。学校から悠理をバイクで剣菱邸へ
送り届けるのもこれが最後かと思うと、魅録はなんだか離れがたかった。

(おまえは、傍にいてくれるよな?あたいを置いて、どっかへ行っちまうなんてこと、ないよな?)

魅録は思い出す。ああ、あれは、可憐が一般受験すると宣言した日の晩だった……。
あの時、皆がバラバラになってしまうのではないかと、各々が不安に怯えていたのだ。
今、悠理は、やはり立ち去りがたいらしく、制服のポケットに手を突っ込みながら、
ひたすら石ころを蹴っている。魅録は改めて悠理を見つめた。

(来年までは、聖プレ大に通いながら受験勉強することになるけど……)
(俺が……本当にMITに行くことになったら……こいつ、大丈夫かな……?)
(まあ、まだ決まったわけでもないし、それに、それまでに、こいつにもっと好きな男が出来れば……)
(え?)
魅録は自分の考えに驚いた。
(好きな……男……?悠理に……?)
(……ああ、そうだな……。こいつだって女だし……そろそろ好きな男ができたって、
おかしかないな……。そして、そうなったら、ダチの俺はもう必要なくなるのかもしれないな……)
(……その時、俺はどんな気持ちになるんだろう……?)
(だけど……)
魅録は目の前でちょこちょこ動いている悠理を、優しい眼差しで見つめた。
(悠理……。それまでは……俺でいいなら、出来るだけ傍にいてやるよ……。)

683Graduation最終話graduation(51):2009/03/20(金) 07:01:09

魅録はしんみりとした雰囲気を吹き飛ばすような、明るい声を出した。
「なあ、悠理。ダンパの時の詫びをしたいんだけど、春休みになったら、ツーリング行かないか?」
悠理が勢い良く振り向いて、パッと顔を輝かせた。
「いいな!どこのグループと行くんだ?」
魅録はちょっと口ごもった。
「今回は……二人でってのはどうだ?初めてだけど……。」
「えっ!」
悠理の目がまん丸になる。
「そっ……、そりゃ、あたいたちはダチだから……かまわないけど……どっ、どこに泊まるんだっ?」
魅録は赤くなった。
「馬鹿!女と二人きっりで一拍なんて出来るかよ。日帰りだよ、日帰り。なるべく、朝早く出ようぜ。
思いっきり飛ばしてやるよ。」
「あっ、そ、そう……。」
悠理はくるりと後ろを向くと、左の胸を手で押さえた。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……。
(び……びっくりした……。)
悠理の心臓は早鐘のように鳴っていた。しかし、それは決して嫌なものではなかった。
悠理は、女扱いされた事が嬉しかったし、また、何よりも、卒業してからも魅録と会えると
いう事が嬉しかった。それも、向こうから言ってきてくれたのだ……!

「じゃ、俺、行くよ。行きたいとこ、考えとけよ。」
「うん……。あ、ちょっと、待って。」
魅録がヘルメットをつけようとした手を、悠理は止めた。
「ん?」
悠理は、はにかんだような顔で、魅録の銀色のヘルメットに、自分の赤いヘルメットを5回軽くぶつけた。

684Graduation最終話graduation(52):2009/03/20(金) 07:02:01

魅録はきょとんとした顔を見せた。
「何?」
「へへ……、送ってくれて、ア・リ・ガ・ト・ウのサインだよ。ずっとやってみたかったんだ。」
「そっか。じゃ、お返しだ。」
魅録が笑いながら、自分のメットを8回、悠理のメットにぶつける。
「ド・ウ・イ・タ・シ・マ・シ・テ……だよ。さ、明日は卒業式だ。早く寝ろよ。」

悠理が門の中に入ると、すぐさまエンジンの音が聞こえ、それは直ぐに小さくなって消えていった。
悠理は、白い半月の浮かぶ、星の瞬く夜空を見上げた。明日の卒業式はきっといい天気だ。
悠理は琥珀色の瞳をまさに星の様に輝かせ、半月に嬉しそうに笑いかける。

(なあ、お月さん、あいつ、この頃何だか優しいんだ……)
(あたい、少しは……期待しちまってもいいのかな……?)
(……あのサインの本当の意味は……)
(……ア・イ・シ・テ・ル……。)

いつか、お互いにそのサインを交わせる日が来る事を幸せに夢見ながら、悠理は、
マイ・フェア・レディのイライザのように、春の宵闇の中を踊るようにして、剣菱邸の長い
アプローチを走って行った。

一方、清四郎と野梨子は、明日の卒業式の事、そして午後の可愛い6人組の事などを
話しながら帰途についていたが、家が近づいて来ると、二人とも黙りがちになった。
学校から家まで一緒に帰るのはこれが最後だという感傷が、徐々に込み上げてくる。
お互い、ポツリ、ポツリと話しかけても、気のない返事が返って来るだけで、ついには
二人とも一言も話さなくなってしまった。野梨子は不思議だった。自分はともかく、
清四郎はこんなに感傷的だっただろうか?彼は、感傷というものを合理的かつ生産的
ではないと否定していたはずだ。本来ならば、自分は既に思いっきり感傷に浸っている
ところだと思われたが、清四郎が気になって、そうはなっていなかった。
あの角を曲がれば家という所で、ついに清四郎は完全に立ち止まった。

685Graduation最終話graduation(53):2009/03/20(金) 07:04:01
「清四郎……?」
しかし、清四郎は下を向いたまま、動かない。不安に思った野梨子は下から清四郎を覗き込んだ。
「清四郎、どうしましたの?わたくしで良ければ、話して下さいな。」
清四郎は、荒れ狂うとまどいの嵐の中にいた。突然訪れた激しい感情の渦に巻き込まれ、身動き出来なかった。
(本当に、僕は、どうしたというんだろう……?)
額に手の平を当てながら目を瞑る。脳裏に浮かぶのは、仲間達の顔だった。

(わたくし、清四郎を卒業しますわ……)
(あたいは、体育学部に進みたいんだ……)
(経営学部を一般受験するわ……)
この半年の間に、皆、自分たちでそれぞれの道を決めていった。
美童も、遅かれ早かれ、道を決めるだろう。
(MITに行こうと思う……)
魅録のこの言葉を聞いた時、ひどく動揺した。MITは魅録にぴったりだ。心から応援したい。だが……

皆、離れていく……。

(清四郎、何とかしてくれ!)
(清四郎、どうすんだ?)
(清四郎、頼むよ〜!)
(清四郎、お願い!)
(清四郎、清四郎がいますもの……)

4年間、有閑倶楽部のリーダーとして存在してきた。困った事があれば、野梨子を初めとして、
皆が自分に頼ってきた。だが、いつの間にか、皆それぞれの道を自ら決め、一人で
歩いていこうとしている。それを、一番寂しいと思っているのは、実は自分自身ということか。
皆に頼られているようで、本当は自分が一番皆に頼っていたのかもしれない。
生徒会室の卒業写真の自分の笑顔。
あの笑顔には、自分がどんなに仲間達を想っているかということが表れている。
清四郎は、自分があんな笑顔を出せるということすら知らなかった。

686Graduation最終話graduation(54):2009/03/20(金) 07:05:03

そうだ、自分は寂しいのだ……皆が段々と自分から離れて行ってしまうことが……。
この気持ちがずっと続くわけではないことは分かっている。これは、普段自分が馬鹿にしている感傷というものだ。
だが、分かっていても、今は……。

「野梨子」
清四郎は苦しげに野梨子を見た。見上げた野梨子は言葉を失った。
(清四郎の目に光っているものは……あれは……まさか……。)
「野梨子。ごめん……、今だけ……、肩をかしてくれないか……?」
清四郎はこう言うと、身を屈めて野梨子の肩を抱き、頬を野梨子の額につけた。
野梨子は思わず清四郎の背中に手を回した。その背中が波打っている。
野梨子は、清四郎の涙を初めて見た。回した手に力が込められる。

「まあ……清四郎……。大丈夫ですわ……わたくしがいますわ……大丈夫ですわよ
……!」

星を周囲に撒き散らした銀色の半月の下、清四郎の広い背中を撫でながら、
野梨子は突如ある予感に襲われ、大きく身震いした。

(わたくしは明日、清四郎を卒業する……)
(そして、一人立ちして……その後は……)
(もしかしたら……今度は、わたくしが、清四郎を……)
(……守り、助ける時が……いつか……来るのかもしれない……。)

687Graduation最終話graduation(55):2009/03/20(金) 07:06:08

ひどく長いように思われたその時間は、実際には一分にも満たなかった。清四郎は身を起こした。
「みっともないところを見せてしまいましたね。」
そう言う清四郎は、既にいつもの清四郎だった。野梨子は安堵と共に毅然とした微笑みを見せた。
「いいえ。幼馴染ですから。これからも、いつでもどうぞ。悠理にこてんぱんにやられた
姿を知ってますもの。今更、清四郎のどんな姿を見ても驚きませんわ。」

記憶から抹殺していたある事実を思い出させられて、清四郎のこめかみがぴくりと動いた。
しかし、それも野梨子の策略だと、すぐに気付いた清四郎は苦笑した。
(全く、野梨子は一人立ちした後は、どんなに逞しくなってしまうんでしょうかね?
頼りなげな風情も少しは残しておいてもらいたいものです。)

「とにかく、有難うございました。では、また明日。」
二人は見詰め合った。
そうだ、次の「また明日」はもうないのだ。
16年間の歴史は、今、静かに幕を閉じようとしている。
幼稚舎、初等部、中等部、そして高等部の様々な思い出が、走馬灯のように、二人の間を走った。
思い出の量はあまりにも膨大過ぎて、込み上げる想いを語る言葉を、二人は見出すことが出来なかった。
「……。」
「……。」

数分後、とうとう野梨子は言った。

「お休みなさい、清四郎。また、明日。」

688Graduation最終話graduation(56):2009/03/20(金) 07:07:18

土曜日の卒業式当日。天気は素晴らしかった。いつもより早く制服に身を包んで階下に下りて
きた野梨子を、両親は眩しげに見つめた。3歳で幼稚舎の制服を身に着けて以来、
多少のデザインの変化はありながらも、16年間同じ制服姿を見つめ続けてきた。
それも、今日で最後なのだ。

「野梨子、ちょっとおいで。」
父に促されて、母と一緒にアトリエに入る。朝というのに、薄暗いその部屋の中央に、
紫の正絹がかかったイーゼルが置いてある。そこだけに、高い位置の窓から朝日が
差し込んで、まるでそれが神聖な何かであるかのように思わせていた。
「おまえへの卒業祝いだよ。」
清州が布をスルリと取ると、画が現れた。

「去年の文化祭で、おまえと松竹梅君の『月の光』にインスピレーションを受けてね。
筆がのって、あっという間に仕上げてしまったのだが、卒業祝いにと思って見せないでおいたのだよ。
最近では、最も会心の出来だ。おまえさえ良ければ、これは日展に出品しようとも思うのだが、どうだね?」
「……。」

野梨子は声が出なかった。
そこには、月の精の衣装を纏った自分がいた。幻想的な青白い背景に、銀色の混じった白い満月。
白い着物を着た月の精は、初めて知った恋の喜びを全身で表している。
訪れたばかりの恋のときめきに怯え、動揺しながらも、他の何とも比較できない甘さに
酔いしれ、身を委ねている。恋の終わりなど想像もしていない、その表情はひたすらに
初々しく、清らかで、純粋だ。

野梨子はようやく、途切れ途切れに声を出した。
「お父様……申し訳ありませんけれど、この作品は……やはり公には出さないで下さいますか……?」
「……そう言うだろうとは、思っていたよ。」
「そして……、ごめんなさい。少しだけ……わたくしを、ここに一人にして下さいますか?」
父と母は頷くと、黙って出て行った。

689Graduation最終話graduation(57):2009/03/20(金) 07:08:28

ドアが閉まると、野梨子は画に駆け寄って、キャンバスを両手で持ち、食い入るように画を見つめた。
月の精が、幸せと喜びに満ちた目で、誰を見つめているのか、自分には分かりすぎるほど分かっている。
野梨子は唇を噛みしめた。素晴らしい画だ。が、この画は封印しなければならない。
想いを完全に消す為には……。
何年後、いや、十何年後か……。
いつかはきっと、青春の一ページとして、この画を懐かしく見ることが出来るだろう。
でも、それまでは……。
野梨子は目に涙を浮かべ、画をきつく胸に抱きしめた。
(愛しい……わたくし自身……。でも、わたくしは、もう、この頃の自分ではない……
この頃には、もう決して、戻れない……)
(この想いに泣くのは、これが最後……)
(だから、今だけ……許して……。)

数分後、野梨子は画をイーゼルに戻し、正絹を再びかけた。
そして、顔を引き締めると背をのばし、前を向いてアトリエを出て行った。

予定時間より数分早いにもかかわらず、玄関を出たところで、清四郎に会った。
清四郎は完全復活していて、昨晩のことが嘘のようだった。野梨子は少し拍子抜け
したものの、昨晩の記憶は消せるはずもなく、清四郎を見る目が以前とは変っていた。
(清四郎にも心があるのよ)
可憐の言葉が蘇る。
野梨子は、強くなりたい、と思った。
清四郎の、そして世の中の、全ての迷える人々の手助けが出来るように、強くなりたいと。
そして、清四郎を今まで以上に理解したいと思っていた。
そう、清四郎が自分を理解してくれていたように……。


最終回に続く
690名無し草:2009/03/20(金) 08:21:08
>Graduation
魅録と悠理、清四郎と野梨子、それぞれゆっくりだけど、
お互いの関係が今までと違う方向に進んで行っているのが微笑ましかったです。
文化祭の時の自分の絵を見て、泣いてしまう野梨子は切ないけど、これも卒業なのかな?

いよいよ次回が最終回なのですね。
ずっと読んできた者としては最後まで読めて嬉しいような、でも終わってしまうのが淋しいような…
あと1回、楽しみにしています。
691名無し草:2009/03/20(金) 10:47:47
>Graduation
野梨子が切なくて胸が痛い…。(ノД`)
まあ永遠の思い出として生き続けるって、ある意味結ばれるより
幸せなのかもしれないけど……
それにしても次でラスト、感慨深いです。
過去作の中でも一番の長編だよね。作者さん凄いな〜
完結したら、嵐さんのところで後書き書いてもらえると嬉しいです。
692名無し草:2009/03/20(金) 10:55:06
>Graduation
以外な清四郎の涙にぐっときてしまいました。
そしてそれを受け止める野梨子がお母さんみたいでよかったです。
最終回、終わってしまうのは寂しいけど、続きを読むのを楽しみにしています。
693名無し草:2009/03/20(金) 11:56:47
>Graduation
みろくが優しすぎる〜(泣)

ところで、昔オフロードバイク乗りの
彼氏に、「メットは、1回でもぶつけたり
落としたりしたら強度が落ちるから
大事にしなきゃいけない」
と言われたことがあるのですが、
コツンコツンくらいなら問題ないんでしょうか。

いや、「サムライの刀は命より大事」
みたいな精神論の一種かもしれませんが。
694名無し草:2009/03/20(金) 12:30:20
>>693
「軽くぶつけた」だから大丈夫でしょ
悠理が馬鹿力の全てをこめたのなら、危ないかもしれないけど

ヘルメットが木っ端微塵になりそうw
695名無し草:2009/03/20(金) 23:40:42
>Graduation
野梨子が、切なくも成長しているんだな、と実感します。
幼馴染としての依存から卒業して、ちゃんと一人の人間として見始めているのが分かります。
お互いに弱い所を支えあって、もしこの二人が恋愛しても、とてもいい関係になりそうです。

それに比べて魅録と悠理は・・・
魅録は悠理を女と「認識」しても、「意識」することはないのかな、と思ってしまいました。
悠理の気持ちに感づいていても、自分が悠理の隣に立つ事は想像もしないのかと。
そういう状態で傍にいるのは、それはそれで悠理には酷な事かもしれないけど、必ずしも通じ合う訳ではないし。
かわいそうだけど、それもアリなのかな、と。
まあ、これから女として意識していくこともあるかもしれないし。

最終話、楽しみにお待ちしています。
696Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/03/21(土) 07:18:49
>>682 今回9レスいただきます。
697Graduation最終話graduation(58):2009/03/21(土) 07:23:19

野梨子と清四郎は、式次第や送辞、答辞の事などを話していると、これが16年間の
日課の最後だとの余韻を味わう間もなく、学校に着いてしまった。だが、最後の最後、
正門をくぐった時に、野梨子は急に襲ってきた感傷に飲み込まれそうになった。
(帰りは両親と一緒ですから、これで……清四郎と2人での通学は完全に終わったのですわ……。)
小さく鼻を啜る。しかし、清四郎は昨日の恩を忘れたかのように容赦がなかった。
「おや、もう涙ですか?まだ式も始まっていませんよ。」
(……まっ!昨晩、泣いていたのはどこのどなたでしたっけっ!?)
しかし、野梨子は返事の代わりに、思いっきりツンと顎を上げてみせただけだった。
確かに、これこそ、自分たちらしいというものだ。

他の数々の行事と同様に、聖プレジデント学園の卒業式には特徴があった。
ハイスクールのように、卒業生は長いガウンと房飾り付きの角帽を身に着けるのだ。
それらは、学園カラーの紺地に赤のラインが入ったもので、校章は金糸で縫い取られていた。
ガウンは基本的に学園のものを借りるだけだが、角帽には各自の名前が裏に金糸で
刺繍されており、式終了後の恒例の帽子投げの後、在校生が拾い集めて、別途持ち主に
返されることになっていた。各教室で、用意された角帽とガウンを身に着けた卒業生たちは、
一旦校庭に集合する。卒業式ではクラスは関係なく、全員が名前順に卒業証書を授与されるので、
校庭で並び直すのだが、お互いの晴れ姿に興奮している卒業生たちは、小学生で
あるかのようにはしゃいで、中々列につかなかった。有閑倶楽部の6人も例外ではなかった。

「やっぱ、清四郎は似合うな。どっちかっつーと、昔の日本の大学生みたいだけどよ。」
「美童は、似合ってるという次元を越してしまっていますね。」
「魅録もアメリカの学校に留学してる、国籍不明の謎のアジア人って感じだよね。」
「前から思っていたのですけれど、可憐はそういうストイックな格好が意外と似合いますわね。」
「野梨子は……可愛いけど、ちょっとガウンが長すぎないか?てか……スモック?」
「悠理は益々男前ね。凛々しくて、ファンの女の子達は惚れ直しちゃうんじゃない?」

698Graduation最終話graduation(59):2009/03/21(土) 07:24:15

褒めあっているのか、けなしあっているのか分からないままに、時間が来て、6人は
名残惜しげに所定の場所に着いた。騒がしかった150人の卒業生がしんとなる。
卒業式の会場となる大講堂は、既に恩師、代表の在校生、そして保護者を始めとする
来賓たちが、卒業生の入場を今か今かと待っていた。
G線上のアリアが流れ始め、そして、ついに司会の声が響いた。

「卒業生、入場!」

開式の辞、校歌斉唱に続いて、卒業証書の授与が始まった。50音順に、150人の
卒業生一人一人が壇上に出て、学園長から証書を受け取るので、非常な時間がかかる。
有閑倶楽部で一番早いのは清四郎、最後は野梨子だ。

「菊正宗清四郎!」
「はいっ!」
元生徒会長の声が高らかに響く。
壇上に進みながら、清四郎は思っていた。
(僕は、登る。人生の高みへと。まだ、どの道に進むかは決まっていないけれど、この後
襲ってくるだろうあらゆる困難と誘惑に打ち勝ち、正々堂々と天に恥じないやり方で、
才能の全てを使い、努力を惜しまずして、人生の頂上へ登ってみせる。僕の一挙手一動は、
幼馴染の黒くて美しい、しかし厳しくて真っ直ぐな目を、常に意識して取られて行くだろう。
それは、僕の人生の羅針盤だ。そして、名実共に世の名に認められるようになった時、僕の隣には……。)

699Graduation最終話graduation(60):2009/03/21(土) 07:25:19

「黄桜可憐!」
「はいっ!」
元生徒会書記の声が華やかに響く。
壇上に進みながら、可憐は思っていた。
(あたしには目標がある。あたしは大学で、真面目に経営学を勉強するつもり。そして、
同時に店を手伝って実力をつけ、少しでも早くジュエリー・アキを継ぐわ。あたしは
元々頭がそう悪いわけではないし、とても気の付くタイプ。それに、この美貌と社交性が加われば、
多分経営は上手く出来るはずよ。そして、父がいなかったから、あたしは早く結婚して
男性のいる暖かい家庭を持ちたい……。とはいえ、あたしの新しい恋はまだ始まったばかり。
今はとにかく、恋に、勉強に、青春を思い切り楽しまなくっちゃ!)

「グランマニエ美童!」
「はいっ!」
元生徒会経理の声が艶やかに響く。
壇上に進みながら、美童は思っていた。
(これから一年の間に、僕は大きな決定をしなくちゃならない。父の日本での任期の
終了に合わせて、日本に残るか、家族と一緒に新しい国についていくか、それとも
スウェーデンに戻るかってことだ。僕は、将来国際関係の仕事につきたいと思っている。
聖プレジデント大では国際経済を専門にするつもりだ。でも、貴族社会のコネをいかして、
欧州での宝石店の経営なんかも向いているような気がするんだよね。いずれにしても、
今後の決定には、新しい恋人の存在が大きく影響するんだろうって思うんだ……。)

700Graduation最終話graduation(61):2009/03/21(土) 07:26:34

「剣菱悠理!」
「はいっ!」
元生徒会運動部部長の声が元気に響く。
壇上に進みながら、悠理は思っていた。
(あたいの夢は唯一つだ。それは、あいつと結婚して、ガキを産んで、皆がいつも元気で、
笑いで一杯の家庭を作る事だ。ガキは何人いたっていいな。……けど、これは夢で
しかないから、現実に目を向けよう。あたいは、体育学部にして、本当に良かったと思ってる。
まだ、そこで何に出会えるのか分からないけど、あたいは今すごくワクワクしてるんだ。
剣菱の為にレディーになるのも大事な仕事だ。でも、あたいらしくはない。あたいは、
自分にしか出来ない、それでいて人の役に立つ仕事をそこで見つけたいんだ!)

「松竹梅魅録!」
「はいっ!」
元生徒会副会長の声が大らかに響く。
壇上に進みながら、魅録は思っていた。
(俺は、やっぱりMITに行く。いや、行ってみせる。自分の作ったロケットやステーションを、
空に飛ばしたり、宇宙に浮かべるって考えると、どうしようもないくらいゾクゾクする。
どうしてもっと早く思いつかなかったのか不思議な位だ。聖プレ大に通いながらの受験
勉強になるから、これから忙しくなるな。アメリカに行ったら、あいつらとは暫く会えなく
なっちまう……。でも、俺は信じた道を進みたい。気になるのは、悠理のことだ。
出来るだけ悠理の傍にいてやりたいけど、その時が来たら、何て言えばいいんだろう?
あいつのこと、これから、もっと真剣に考えなきゃな……。)
(そして、野梨子……。)
(こんな未熟な俺なんかを好きになってくれて……ありがとう。 結局、俺は、おまえに
何もしてやれなかったな……本当に、ごめん……。俺は、次に新しい恋をしたら、
おまえに出来なかった分まで、そいつを愛して、大切にする。)
(だけど……)
(川辺でおまえと過ごしたあの数時間を、俺は、一生忘れない……)
(おまえの幸せを心から祈ってる。)
701Graduation最終話graduation(62):2009/03/21(土) 07:27:41

「白鹿野梨子!」
「はいっ!」
元生徒会文化部部長の声が凛と響く。
壇上に進みながら、野梨子は思っていた。
(大学生になったら、徐々に白鹿流の仕事を増やしていくとお母様がおっしゃっていましたわ。
いよいよ、時期家元としての修行が本格化するわけですわね。茶道の家元というのは
とてもやりがいのある仕事で、しかもわたくしに向いていますわ。大学では、新しい勉強も
楽しみですけれど、自分がどう一人立ちしていくのかという事にも興味がありますわ。
不安もありますけれど、楽しみだと思う気持ちの方が大きいのは意外ですわね。
そういう時期が来ていたということですかしら?おば様の縁談話が益々活発化するのは
目に見えていますけれど、結婚なんて当分考えられませんわ……。)
(そして……魅録……。)
(こういう結果になりましたけれど、それでもやはり、わたくしはあなたを好きになって良かったと思いますわ……。)
(いつの日かまた、わたくしは他の男性を愛し、結婚するでしょう。そして、子どもを
生み育て、ありったけの愛情をその家庭に注ぎ込みますわ。)
(ですけれど……)
(川辺であなたと過ごしたあの数時間を、わたくしは、一生忘れない……)
(あなたの幸せを……心よりお祈りしていますわ。)
702Graduation最終話graduation(63):2009/03/21(土) 07:28:35

卒業証書授与が全員終わり、その後の式次第も順調に進んでいった。
二年生の送辞が終わると、司会者が待っていましたとばかりに、大きな声を出す。

「卒業生答辞。卒業生代表、菊正宗清四郎!」

一際盛大な拍手を受け、清四郎が再び壇上に上がる。聖プレジデント学園の歴史に
残る名生徒会長の姿を目に焼き付けようと、そして彼の話す一言一言を聞き逃すまいと、
会場は水を打ったように静かになった。そんな期待の高まる中、清四郎の落ち着いた
張りのある声が、朗々と響く。卒業生全員が、彼の元で、学園生活を送れたことを、
今、心から幸せに思っていた。
「……我々は、学園で過ごした比類なき美しい数々の思い出を胸に、そして、学園で
受けた教育を土台にして、これから益々己の才能を磨き、世に役立てて、両親に、先生に、
そして世の中に、恩返しをしたいと思います。聖プレジデント学園、ありがとう。僕は……、」

清四郎は、顔を真っ直ぐに上げて、頬を染め、漆黒の双の目を光らせた。

「僕たちは、聖プレジデント学園で過ごした日々を、一生忘れない!」

703Graduation最終話graduation(64):2009/03/21(土) 07:30:46
嵐のような拍手に倒れそうになりながら、清四郎は段から下り、席へ戻った。魅録が、
美童が、野梨子が、可憐が、そして悠理が、顔を紅潮させ、瞳を潤ませながら、
自分たちのリーダーを誇りに思い、割れんばかりに手を叩き続けていた。

在校生たちによる「蛍の光」斉唱の後、卒業生により、「仰げば尊し」が斉唱された。
この頃になると、女生徒のほとんどは泣いており、号泣している者も多かった。
男子生徒も、拳を目や鼻にあてて、必死に涙をこらえている者が少なくなかった。
有閑倶楽部の6人の脳裏には、今までの全ての冒険が次々と浮かんでは消えていった。
ピジョン・ブラン・ルビーの取替え事件から始まり、学園で、船上で、ラスベガスで、
香港で、スウェーデンで、ローマで、スイスで、そして南の島で、スリルと冒険を楽しむ一方、
命からがらの目に合った。そして恋をし、友情を確認した。清四郎と野梨子が作戦を立て、
美童と可憐が色気で情報収集し、清四郎が武道をふるい、魅録が車を走らせ銃を撃ち、
悠理がとび蹴りを炸裂させた……。
若さにまかせて無茶をやった愛しき日々よ……

───いざ……さらば……─────────

式は終わった。
学園長が再び壇上に上がる。

「これで、卒業式を終わります。諸君、卒業、おめでとう!」

ワ────────ッ!
150個の紺色の角帽が宙に舞った。

いや、正確に言うと、144個だった。
生徒達が一斉に席から飛び出して行った後、6人だけが残っていた。
清四郎、魅録、美童、野梨子、可憐、悠理がゆっくりと大講堂から外に出る。
青空の下、輪になって集まると、6人は、ニッと顔を見合わせて笑った。
6本の右手が真っ直ぐに伸ばされ、手の平が重ねられる。

704Graduation最終回:2009/03/21(土) 07:32:38

「有閑倶楽部―っ!」
清四郎が黒い目に力を込め、逞しい、しっかりとした大きな声で叫ぶ。

「ファイト!」
魅録が挑戦するように眉を上げ、楽しげに目を光らせて叫ぶ。
「オー!」

「ファイト!」
美童が金髪を陽光に透かせ、艶やかな笑顔を見せながら叫ぶ。
「オー!」

「ファイト!」
野梨子が鼻の頭を赤くし、嗚咽を抑えながら叫ぶ。
「オー!」

「ファイト!」
可憐が長い巻き毛を振り上げ、泣き笑いで叫ぶ。
「オー!」

「ファイトッ!」
悠理が涙で顔をくしゃくしゃにして、満身の力を込めて叫ぶ。
「オ──────────ッ!」


そして6つの角帽が青空高く舞い、ガウンを脱ぎ捨てた6人は、輝かしい未来に向かって駆け出した。



705Graduation ◆tYWlAMyX.w :2009/03/21(土) 07:35:08

皆様、最後まで読んでいただきまして、本当に有難うございました。
最後まで書くことができ、また投下できて、今、本当にほっとしています。
そして、卒業シーズン中に6人を卒業させることが出来て嬉しいですw

ラストは最初から決まっていました。なので、最初のカプ表記にしたのですが、途中、
皆様を混乱させてしまい、申し訳ありませんでした。Graduationは卒業までのお話なので
これでお終いですが、カプ問題に関していえば、どこか中途半端に感じる方も多い
かもしれませんね。全体の構成としてはかなり先まで話しが続いているので、こうなってしまいました。
(伏線はそれなりに張ってあるつもりですが、通じていなかったらごめんなさい。)
機会があれば、いつか、大人になった6人を書ければとも思っています。
(その時は長編にはしないつもりです。ご安心下さいw)

また、スルースキルが足りなかったこと、改めて此処にお詫び申し上げます。

繰り返しになりますが、暖かいレスを下さった皆様、応援して下さった皆様、
長い物語を読んで下さった皆様、多くのレスを使うことを許して下さった皆様、
色々アドバイスを下さった皆様、長い間スルーして下さった皆様(御覧になっていれば)、
そして管理人さん、本当にどうも有り難うございました。
作品を完結できたのは、皆様のおかげだと思っております。

作品とは関係ありませんが、連載中感じたのは、このスレは本当に、管理人さんはじめ、
有閑倶楽部を愛する住人の方たちによって大事にされ、守られているのだなということでした。

最後になりましたが、このスレの平和と更なる繁栄を心よりお祈りしております。
706名無し草:2009/03/21(土) 08:48:53
>Graduation
連載、本当にお疲れ様でした!
半年間、季節と行事に沿った内容だったので、自分も倶楽部のみんなと一緒に時を過ごしている
ような気分で読んできました。その分、彼らの成長がほんとに身近に感じられて、それはSSを
読んでいて初めての経験でした。
もう、6人全員が愛しくて愛しくて…
作者さまの描写には全員への愛が溢れているなぁ、と思いました。

大人になった6人の話も是非是非読んでみたい!
半年間、素敵な話をありがとうございました。

707名無し草:2009/03/21(土) 08:54:36
>Graduation
大好きな作品なので、最後まで読むことができて本当に嬉しいです。作者さま、ありがとう。
正に「卒業」の名に相応しいラストですね。
恋を知って大人になった6人の新たな旅立ちに、私もエールを送りたいです。
細かい描写や各々の心情が丁寧に綴られていて、いつの間にかこの作品にどっぷりハマってました。
その後の6人はもちろん、他の作品もぜひ読んでみたいです。
連載中は心労もあったかと拝察しますが、また創作意欲が湧いたら戻ってきて下さいね。
長編の連載、ほんとに乙でした!
708名無し草:2009/03/21(土) 11:02:14
>Graduation
長編お疲れ様でした。
途中挫けず完結させてくれてありがとうございました。

野梨子に感情移入しまくりで読んだ身としては、魅録と両思いだったのに遂げられなかったのが何とも辛くて苦しい最後となり、自分は撃沈状態ですが…orz

作者さん、大人になった6人は勿論ですが、違うシチュエーションも含め、また作品投下をお待ちしております。


「これ、いただくわ」の続きも待ってます。
709名無し草:2009/03/21(土) 14:10:04
>Graduation
冒頭の容赦ない清四郎に笑い、謎のアジア人に吹き出し、その後は
しんみりとしながら読みました。これで完結なんですねぇ・・・シミジミ

心理描写は言うまでもなく、行事の描写もとても丁寧で、その場に
居合わせたような気持ちで読み続けられたのが楽しかったです。
聖プレジデント学園の一員となって、6人に声援を送ったことも
何度もありましたしw

連載、本当にお疲れさまでした。
続編や番外編、又は他の作品など、機会があれば是非読みたいです。
710名無し草:2009/03/21(土) 15:38:10
>Graduation
有閑への愛に溢れた長編力作の完結に、心から拍手を送ります。
今まであるようでなかった正統派学園ストーリーで、
繊細だけど生き生きしていて温かい作風が、とても素敵でした。

魅録と野梨子に関しては、正直何故将来の可能性まできっぱり諦めてしまうのか
よくわかりませんでしたが(特に魅録)、最初から未来までのストーリーがあったんですね。
にもかかわらず、魅野スキーの胸をここまで丁寧に捩りまくってくださって、本当に
……作者タンのドSぅぅぅ!!ヽ(`Д´)ノ (すみません、冗談ですw)

ともあれ半年間楽しませて頂き、ありがとうございました。
土手でのダンスシーンは、私にとっていつまでも心に残る、忘れられない名場面です。
次回作も期待しています。
711名無し草:2009/03/21(土) 20:05:07
>Graduation
連載お疲れ様です。完結おめでとうございます!
最後まで読めたこと、とっても嬉しいです。

お互いの幸せを願う魅録と野梨子に胸がジーンとしました
ラストはもう……「それでこそ有閑倶楽部!」って感じです

Graduationにはいろいろと学ばせていただきました。
ありがとうございました!
712名無し草:2009/03/22(日) 16:58:11
このスレも487KBまで来たから、そろそろ新スレを立てたい。
テンプレ変更や順番に意見がある人は、今のうちに↓こっちに書いて。
http://pc11.2ch.net/test/read.cgi/internet/1195779437/113-
713彼女の瞳1(清+野):2009/03/22(日) 17:47:19
「結婚おめでとー!」

たくさんの人に囲まれてお祝いされている花婿の姿を遠くから見つめる野梨子に傍にずっといたのは幼馴染の長年の習慣ではなく、彼を見つめる野梨子の瞳があの時と似ていて一人にするのが忍びなかったからだった。

そう、あの時。
4年前頭痛がすると言って自主的に学校をサボるという野梨子らしからぬ行動を取った時と似た、彼を追いかける真剣な瞳。
だけど、今と4年前とは状況が違いすぎる。
今はみんなに祝福されている花婿。野梨子には追いかけられない。
だから、心配でずっと野梨子の傍を離れることができなかった。


彼が結婚するという話を聞いた時、1番に野梨子は笑顔で言った。「まぁ!素敵ですわね」と。
だから、過去の恋として思い出の中に既にしまわれていて、素直に結婚を祝福できる状態なのだとここに来るまで思っていたけれど・・・
どうやら、野梨子の中では彼との思い出は完結できていないようだった。

「野梨子、清四郎!裕也さんにプレゼント渡しに行きましょ。」
結婚パーティーということで、華やかに着飾った可憐が野梨子に声をかけに来た。
今日、この日のために6人で買った贈り物は写真立てだった。
714彼女の瞳2:2009/03/22(日) 17:50:43
新しく作られるこの家庭の幸せの足跡を残していけるように、と。

「そうですね。野梨子、行きましょう。」
「えぇ。」

さっきとは打って変わって、いつもと変わらない笑顔を野梨子は僕と可憐に向けた。
その笑顔を花婿にも向けれるだろうか。だが、そんな心配は杞憂に終わった。

「裕也、幸せになれよな。」
魅録や悠理が照れてはにかんでいる花婿の肩をたたく傍らで野梨子はさきほどと変わらぬ表情で言った。
「結婚おめでとうございます。幸せな家庭を作ってくださいな。」と。
花婿はただ、「ありがとう。」とだけ言った。

僕がその時立っていた位置からは野梨子の顔しか判別できなかったので、花婿がどういう顔して「ありがとう」と野梨子に言ったのは分からなかった。
ただ、そう言われた野梨子の瞳が少しだけ揺れたのが分かった。
きっと分かったのは僕だけだろう。他の人から見れば、野梨子は若い新郎新婦を屈託のない笑顔で祝福しているように見えたことだろう。
715彼女の瞳3:2009/03/22(日) 18:00:01
パーティーが終わった後、他の4人と別れ、僕と野梨子は家へ帰る道を二人で歩いた。
空には月が輝いているおかげで、僕から野梨子の顔がよく見えた。道には僕たち二人しか歩いていない。
「今日の結婚式、素敵でしたわね。」
突然、静寂を破る野梨子の声。

今日の野梨子の姿を見ていれば、本当に野梨子がそう思っていたのか甚だ疑問だった。
花婿の隣にいた花嫁の姿を自分に置き換えていたんじゃありませんか。
4年前の恋をまだ引きずっていたんじゃないですか。
本当は野梨子は今日の結婚式に来たくなかったんじゃありませんか。

それらの言葉を言おうとして、飲み込んだのは、野梨子の瞳が月の光に反射して潤んでいるのに気がついたからだった。

「そうですね。」

僕は一言だけそう言った。

「お相手の麻美さんも素敵な方でしたし・・・。」

「裕也さんが幸せになられて本当に良かったですわ。」

「・・・本当に嬉しいですわ。」

野梨子が僕に言う言葉はどれも自分に言い聞かせているのだと気づいた。

本当は結婚の話を聞いてからずっと泣きたかったのだろう。
だけど、泣けなかった。
それどころか笑って「おめでとう」と言わなければならなかった。
ずっと我慢してたのだ。
もう、我慢する必要はない。涙を見せても良いんだよと言いたくて、代わりにそっと野梨子の肩を僕は抱いた。
fin
716名無し草:2009/03/22(日) 18:05:05
すみません。上のSS投下した者です。
次の板に移行するという話を投下してから読みました。申し訳ないです。
携帯からなので改行が変な所があったらすみません。PCは規制中だとは…orz
717名無し草:2009/03/22(日) 21:47:38
>彼女の瞳
ほんの少しの野梨子の表情の変化も見逃さない清四郎がいいです。
718名無し草:2009/03/22(日) 22:53:09
そろそろ次スレ立てたほうがいいかもね。
719名無し草:2009/03/22(日) 23:01:49
そうだね。立ててくる。
720名無し草:2009/03/22(日) 23:10:57
新スレ立てたよ。テンプレの話し合い乙でした。
次も沢山の作品が読めるといいな。

◇◆◇◆有閑倶楽部を妄想で語ろう35◇◆◇◆
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1237730587/
721名無し草:2009/03/23(月) 00:17:08
スレ立て乙です。

埋め立てを兼ねて、久しぶりに点呼でもどうかな。
1.ここに来たのはいつ頃?きっかけは?
2.好きな作品は? 長編、短編、競作etc
3.なんか一言
722名無し草:2009/03/23(月) 18:33:53
1.ドラマ「有閑倶楽部」が始まってから
 原作ファンで、みんなどう思ってるんだろう?!と
 初めて2ちゃんで検索してみて発見

2.彼のバレンタイン・私のホワイトデー
 
 清と野が好きなので
723名無し草:2009/03/23(月) 20:33:54
点呼2
1.自分もドラマが始まるって聞いて見つけた。
 漫画はあまり読まないけどこれだけはずっと好きだった。

2.引火編、星降る夜に、a few minutesシリーズ、彼女の傘、これ、いただくわ、いっぱいあってあげきれない

3.次スレでも素敵な作品をたくさん読めますように。

724名無し草:2009/03/23(月) 20:34:02
>>721
1. 2003年、スレ14の頃。
急に読み返したくなって文庫版購入→検索でまとめサイトを発見→本スレに来ました。
2. 沢山あるけど「酒の競作」、「雨がボクを〜」、「不感症〜」など
3. 次スレでも沢山の妄想・作品をお待ちしています。
725名無し草:2009/03/23(月) 20:52:35
点呼4かな

1.一番最初のスレから
 少女漫画板の一条スレにいたので、妄想スレが出来て大喜びしました

2.長編 剣菱家の事情2 雨がボクを狂わせるので 病院坂 Graduation
 短編 菊正宗清四郎君の××を探せ とうむぎ畑でつかまえて(R)
 競作 水面に映る月 清四郎君からの手紙 色模様 彼女の傘
     薔薇色の憂鬱 発つ女、痕を残さず
 好きな話が多すぎて、絞るのが大変でした

3.感想や小ネタを書くぐらいしか出来ないけど、いつも楽しみにしています
726名無し草:2009/03/23(月) 22:11:59
点呼5

1、有閑倶楽部のスレあるのかなと思って、検索かけたら見つけた。

2、好きな作品はいっぱいあるから、連載中の作品だけ。
薄情女、病院坂。大好きです。

3、ROMしか出来ないけど、投下してくれてる人いつも有り難うございます。
727名無し草:2009/03/23(月) 22:53:37
点呼6

1.2004年頃からかな、単行本を久々に読み返し(唯一所持しているマンガ)
 そういや新しいの出てるのかな?と思っていろいろ検索してたら見つけてはまりました。

2.たくさんありすぎるのですが、引火編・これいただくわ・a few minutes

3.いつも作家の皆さんには感謝してます。
 これからも素敵な作品を楽しみにしてます、次スレも盛り上がりますように。
728名無し草:2009/03/24(火) 00:53:15
点呼7かな?

1.2002年頃?2ちゃんデビューして、面白がって自分の興味あるスレを色々探してたどり着いた。
 その時、ちょうど引火編とか印象に残る連載がいっぱいで一気に引き込まれた。

2.たくさんあるけど
 短編→ネヤ問答、夏姿夢花火(R)、デコボコ、発つ女、跡を残さず
 長編→病院坂、恋をしにと彼女はいった、これいただくわ
 (魅×野が好きだから多くなっちゃった)

3.作家の皆さま、いつもありがとうございます。
 次スレも豊作(お兄ちゃんじゃないよ)でありますように。 
729名無し草:2009/03/24(火) 04:45:35
点呼8

1.最初からいたけど、はまったのは荒れた後のスレ12くらい。

2.長編だと、夏の匂い、雨ボク、病院坂、サヨナラの代わりに
 独特の世界があって、余韻の残る作品が好みかな。今の連載も皆好きです。

3.自分でも書いてみたいと思うもののなかなか…
作家さんはすごいと尊敬しています。
730名無し草:2009/03/24(火) 18:29:09
点呼9

1.ドラマをきっかけに検索かけたパターン。

2.あえて一つに絞ると。長編なら「可憐さんにはかなわない」
 短編では地味かもしれないけど「ある男子学生」
 ギャグでは「紫色の衝撃」
 何でも読むけど、基本的には明るい話が好き。
 
3.これからも沢山の作品が読めますように!雑談も大好き。
731名無し草:2009/03/24(火) 22:45:06
点呼10
1.3年前にやはり2chデビューしたときに、ここに辿り着いた。
2.引火、とうむぎ畑でつかまえて(R)、不感症女
3. 最近は忙しくて中々感想が書けませんが楽しく読ませていただいてます。
  次スレでもたくさん読めますように。投下をお待ちしています。
732名無し草:2009/03/25(水) 18:38:05
点呼11
1・昔過ぎて覚えてない。
2・長編・最近では不感症男&薄情女がお気に入り。とはいえ基本魅×野好き。
3・このスレは、まさに妄想って感じで、楽しくっていいねー。
733名無し草:2009/03/25(水) 21:33:32
点呼12

1.4年以上は前だったかな?
なんとなく検索かけたら嵐さんのまとめサイトをみつけて、ここへ辿り着いた。
しかもそれが初めての2ちゃんだったという。

2.沢山あり過ぎるけど、一番続きが気になっているのは病院坂。
何度も読み返している短編は天気雪。

3.ここに出会ってから今まで考えもしなかった魅野に大ハマり。
ほかの組み合わせも楽しめるようになってしまった。
これも作家さんと住人の皆さんのおかげです。
これからもいろいろな作品が読めますように。
734名無し草:2009/03/25(水) 22:09:19
点呼13

1.最初のスレから。
 ただし、途中で2ch離れしたのでブランク有り。
 手紙の競作の後離脱して、鍵の前に戻ってきました。

2.あり過ぎて難しいけど、印象に残っているのは
 完結した長編だと「君から瞳が離せない」「夏の匂い・秋の手触り」
 短編は「乙女の落書き」「マッチ。売りのしょうじょ」
 競作はどれがではなく、競作そのものが大好き。
 大量に読めるのもそうだけど、お祭り気分で盛り上がれるのが嬉しい。

3.元々好きカプがあったけど、ここで別カプにも開眼しました。
 ギャグもシリアスも、カプ有りもカプ無しも、原作沿いもパラレルも、
 色々な妄想をおいしくいただきました。
 次スレでも、たくさんの妄想で楽しめますように。
735名無し草:2009/03/26(木) 23:42:52
点呼14
1.有閑ドラマ化で久々にコミックス読み返し→サイト探し→妄想同好会の流れで
2.自分もたくさんあって絞るのが難しいが、3個ずつ
完結では『椿三夜』『夏の匂い・秋の手触り』『a few minutes』
未完では『檻』『病院坂』『恋のチカラ』
短編では『紫色の衝撃』『ネヤ問答』『天気雪』
競作では『戀ひやめし夏』『趣味の短歌』『深更の客』
特に『椿三夜』は、スレが荒れてた中でのクオリティの高さにびっくりした。

3.ここでの作品の数々で二次のおもしろさに目覚めたので、今後もスレの発展を心よりお祈りします。
736名無し草:2009/03/29(日) 17:28:29
次スレです

◇◆◇◆有閑倶楽部を妄想で語ろう35◇◆◇◆
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1237730587/
737名無し草:2009/03/29(日) 17:30:19
                      _  ,r―-、_
                 ,.--'" ̄=、`彡ニ -ー 、ー-、      / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               ./   =二、 vレ'二二ミ-、 __ \.     |
               / , /二==ミミY/  二ミ }ト、ヽ. ヽ..  │
              /.///,r、=-、ミY/ r'"ハ ミ jj ハヽ\l!.   |  次スレも楽しみましょ!
              |  ィ l ハミヾ、ヾヽ〃〃' }.j ,ィリ| | |ノハ   |
             /  |ハ ヽ.\          | | .ハイ,イヽヽ `ヽ、\
           _.ノ j  ヽヾ il }       ヽヽ ヾヾ\\_ノ、  l  ヽ.__
          / _ノ.j  .| v'〃ー-.、     ,..-‐ヾ、__ヽ \} .|     ノ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         ( /r' / _.ノ jj' _,..--..._`:   r;ニ-;-;_ ,,ミ ヾヽヾ.} 川
         ゙i   /  /イjゞ'-―-ヾ   ィ'匹フ;ミニヾミ   ノ ノ八
         |ハ.  (  ./ ∧ ~        ´~~.`  ハ l /ハ!,r'~} ~`ー-、
        ノ ハ ヾヽ ヽ l .ハ      _  _      ./ノ / ..y'7. | __.ヽ.  l
    ,r‐' ̄   ノ  \\ \∧.     ゙ '~     ∧ilイノ .V,.┤ |/7 )) ,}
    j   r―'    ハ l ハ ハ   =;;;-;-;;=ァ    / / ) // ,l「./ / 〃 ハ
   r' i  (  / 彡,.リ ,レ  ,へ   ゙ー-‐''   ,ィ' ノ ,ノ./ j レ'゙ ∧ l l  ヽ
   ヽ ヽ ミ 爪 ______rイ\     ./ |./ ノ.ノ / / /(  ≧、ヾ ヽ.\
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738名無し草
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            \このスレ終了だゴルァ!! /
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