武器っつーよりも、完全に食料じゃねーかw
でも夏場はすぐに傷みそうだなあ
千鳥・中山功太・笑い飯編を書いていた者です。
長い間が出来てしまいましたが、投下を再開します。
まとめサイト投下番号90の続きです。
島中に響いていた放送が終わり、夜の静寂が戻ってくる。
しかし、クラブハウスの中の異質と化した空気は元に戻らなかった。
「あの人、なに死んどん」
しばらくして、ようやく大悟が声を発した。力はなかった。
教室で名前を呼ばれ「はあーい」と間延びした返事をして出て行った。振り返ることのなかったその後姿が、大悟が最後に見た西田の姿だった。
インディーズ時代から付き合いのある先輩である。仲間にする芸人として笑い飯は真っ先に名前が出てきた。
あんな素っ気ない別れを最後にしたくはなかったのに。
「ほんまに、なんで……」
功太は涙の滲んだ目を押さえた。功太も大悟に比べれば長い付き合いではないが、笑い飯とは親しかった。こんな放送だけで
死んだと納得できるわけがない。しかし、首に巻きついた輪が、学校の出口の死体が、ここは殺し合いの場だと告げている。
「はよ、人集めんと」
大悟の声はまだ少し震えている。
「知らんところで死なれたりすんのはもう嫌じゃ」
その気持ちは痛いほどわかる。しかし、ただ仲間を集めて一緒にいるだけでは何の解決にもならないのではないか。
大悟には何か考えがあるのか。
「集めて、どうするつもりですか?」
少し、間があった。
「人集めてけば、わしより頭ええ奴はいっぱいおるけえの、これを止めさせる考えが浮かぶかもしれん。
ほかにも、プログラムに詳しい奴とか、器用な奴とか強い奴とか、一緒におったほうがみんなで生き残れる可能性あるやろ?」
大悟の言葉を黙って功太は聞いている。
「そんなうまいこといくか思うとるやろ」
「はい、正直」
「思うとんのかい」
即答され、大悟はがっかりしたようにソファに体を預ける。
「でも、バラバラになってるよりはずっとええんちゃいます? 安心やし。俺も一人でいたときは怖くて動けませんでしたもん」
「そうか。功太落ち着いとるなあて思うとったけどな」
落ち着いていられるのは大悟と一緒だからだ。出発前、そして直後に起こったことを正直に話してくれて、それを悔やんでいたのを見て、
功太は大悟を全面的に信頼すると決めた。その後から以前のような観察眼が戻ってきたように思える。
このプログラムのことを様々な角度から考えた結果、破壊する方法は思いつかなかったが、どう動けばよいかは大体わかった。
せっかく大悟という信頼できる人間に出会えたのだから、これからずっと行動を共にしていけるようにしなければならない。
「わし考えなしで動くから、お前みたいな奴に止めてもらうと助かるわ」
それが自分に求められているなら、大悟のためにそうあるつもりでいる。心配なのは運動神経の無さだ。襲われたときにはまず確実に
大悟の足手まといになるだろう。
「俺も物凄く弱いんで大悟さんに世話かけると思いますけど」
「そんなん構わん。ちゃんと守ったる」
力強い言葉が功太の胸に響いた。
「……ありがとうございます」
そういって目を合わせる。なんだか照れくさい。それは大悟も同じだったようで、、
「あ、すまんな、功太寝てええよ」
唐突にそう言われた。功太は素直に返事をして、ソファに深く身を沈めた。
すぐに眠くはならなかったが、大悟もそれ以上はしゃべらなくなり、やがて功太の意識はまどろんできた。
すっかり寝入った功太の顔を見て、大悟はさっきのやり取りを思い返す。
「守ったる」なんて、随分と大見得を切ったものだ。しかし、その言葉に嘘偽りはない。
もう、誰にも死んでほしくないのだ。
プログラムの破壊が出来たら理想的だが、仲間を集めるのはそれが第一目的ではない。
ただ、無事を確認したいだけ、そして、それ以上傷つかないようにしてやりたいだけだ。
知り合いがプログラムに乗ったかもしれないことは考える気にもなれなかった。
人殺しを肯定し、積極的に行動する人間が仲間にいるはずはない。万が一誰かを手に掛けてしまったとしても、
それはこのプログラムに追い詰められた末の不幸な結果に決まっている。
そこで大悟は山里のことを思い出す。
あいつの言動こそプログラムに追い詰められた人間のものではないか。
小心な山里が事実を認めたくないがゆえにあんなパフォーマンスをしてみせたのも不思議ではない。その代償は大きかったが。
山里に再会する可能性は限りなく低い。いまさら自分の行動を悔やんでも取り返すことは出来ないのだ。
だから、この先は間違えてはいけない。自分がこれからやろうとしていることは、きっととてつもなく難しいことなのだろうから。
【千鳥 大悟
所持品:煙草 ライター 木製バット
第一行動方針:ノブと仲間を探す
基本行動方針:自分から攻撃はしない 襲われれば反撃
最終行動方針:できるだけ多くの仲間と生き残る】
【中山功太
所持品:ホワイトボード 専用マーカー(黒・赤・青)
第一行動方針:仲間を探す
基本行動方針:大悟についていく 戦いは極力避ける
最終行動方針:まだわからない】
【現在位置:D-7・ゴルフ場のクラブハウス】
【8/16 00:20】
【投下番号:238】
>>483 力作乙!
最初はどうなる事かと思ったけど持ち直してくれて本当によかった…
田中同盟のこれからに期待。
>>490 復活乙!
大悟かっこいいぜ大悟!
これから二人が誰にめぐり合うのか期待。
>>426-431 松竹編第八話
芸人魂〜ガチレース〜(前編) 森三中大島・ますだおかだ岡田・ななめ45°岡安
人々が笑ってくれるなら、私は裸にでもなろう。
あなたが喜んでくれるなら、私は全てを曝け出そう。
みんなが楽しんでくれるなら、私は人殺しにでもなろう。
体を張れる希少な女芸人として生きる日々は、大島にとって素晴らしく充実していた。どんなに
顔が悪くても、どんなにバカな事をやらかしてしまっても、明るく笑い飛ばしてしまえば生まれる
はずの苦しみも芸人としての喜びに変化する。陰湿なイジメにあっていた過去を思えば、芸人とし
て味わう痛みも恥ずかしさも歯痒さも、全てちっぽけなものにしか感じない。
例えばこの斧で自分の体を引き裂いても、とても幸せな一生でしたと笑っていられる自信がある。
大島はデイパックに入っていた支給武器である斧を握り、そんな事を考えた。重量感のあるその
斧を片手で支えるのは中々大変なものである。それでも大島は、まるでダンベル体操でもするかの
ように高い位置で斧を持った腕を上下させた。しかしすぐに止めて呟いた。
「鍛えちゃだめでしょ。二の腕引き締まるじゃんか」
揺れる二の腕は商売道具なんだから。そうも呟いて、掲げた腕をゆっくり下ろした。
蝉の声はよく響く。
大島は当てもなく島をさ迷いながら、耳に入る全てのものを受け入れた。蝉の鳴く音しか存在し
なかったスタート直後からすると、今は随分と騒々しい。遠くから悲鳴のように轟く銃声は、逐一
参加者たちにプログラムの進行を知らせた。
もう、戻る場所はない。
大島はこの現状さえも受け入れたつもりでいた。
額の汗を柔らかい腕で拭う。
大島は学校をスタートして数時間、今後の身の振り方について考え続けていた。
「人殺すってキャラじゃないしなあ」
風船を持った可愛い客寄せパンダが子供の首を狩るようなものだ。大島はこのバトルロワイアル
で、自分に一番似合う行いをすると決めていた。自分らしい行動……そのヒントは、これまで共に
支え合って生きてきた大島の夫が握っている。
「私が死んでも、笑って欲しいし」
大島は、妻に「面白さ」を求める夫の事を思った。決して映画やドラマのような美しい恋愛をし
たわけではない。そのせいだろうか。大島はもう会う事もないであろう夫を思っても、涙一つ流せ
なかった。そのかわり大島は、その夫にだけはずっと笑っていて欲しいと願っていた。これから先
の長い人生、ちょっとした合間に自分をふと思い出した時、腹を抱えて笑ってしまうような爪跡を
遺したい。そう考えた。
大島は立ち止まり、大地に斧を置いた。
「とりあえず、脱ぐか」
バトルロワイアルという殺伐とした空気の中に女が全裸で闊歩している。その光景を思い浮かべ、
ひとまず掴みとしては充分だと納得する。
シャツに手をかけ上半身を曝け出そうと思ったその時、大島はある男と出会った。それは大島の
行動方針を全面的に肯定するような、この状況に相応しい相手だった。
「パァッ! 出たっ! ……さようなら〜。えっ帰んのっ?」
もしこの出会いがもう数時間ほど後だったら、この男は間違いなく死んでいただろう。大島が平
常心である今だからこそ許される、会心のギャグである。
ただ一つ問題があった。このような芸風の持ち主を弄ったり膨らませたり出来る引出しが、大島
にはなかったのだ。
大島はただ呆然と、その男を見つめていた。
「よっしゃ、今日もええ切れ味やな」
世界中の誰もが納得しないであろう独り言を呟いた男――岡田圭右は、氷のように固まっている
大島に気付き嬉しそうに歩み寄ってきた。何故か脳裏によぎった逃げ出したい気持ちをグッと堪え、
大島は軽く会釈をした。
「あ、おはようございます、岡田さん」
よく考えてみれば、楽屋で会った芸人同士のノリで挨拶している大島も充分的外れである。しか
しここからの展開こそが、二人の芸人魂を見せつけるお笑いバトルロイヤルの始まりなのだ。
スタートのゴングは、岡田から発せられたこの一言だった。
「大島、あっこにカメラあんで」
大島は空を見上げるようにして顔を動かした。岡田の言う通り、指差す方向にはカメラがあった。
木の枝に括りつけられた小さなカメラが、横を向いている。
芸人にとってカメラは「窓」である。世間と芸人を繋げる大事な「窓」だ。芸人がボケるという
行為そのものは、見てくれる人がいて始めて成り立つ。カメラが存在するからこそ、そして窓の向
こうで笑ってくれる人がいるからこそ、芸人は輝けるのだ。
大島の足が動いた。カメラの視界に確実に入る、出来る事ならセンターを意識して、大島は歩い
た。
ベストポジションだと思った。普段の番組収録ならこんな位置取りしたくても出来ない。
そこで大島は気付いた。この世界は自由なのだ。このプログラム中は何をやっても咎める者がい
ない。つまらない規制に縛られる事なく、自分が思うように行動できるのだ。言葉に気を使う必要
もないし、センターに行きたければ行けばいい。先輩芸人を押しのけても、誰も文句は言わないの
だ。
大島は希望の光とやらを見た。色に例えるなら黄色。実体がないのだから分からないが、恐らく
そんな色の光だ。今大島は世間とを繋ぐ窓の真ん中を陣取っている。世間の中心は大島だ。あのカ
メラが働いている限り、例えこれが1分にも満たない1コーナーであったとしても、今この瞬間は大
島が主役なのだ。
大島は隣に立つ岡田を見た。その瞬間、岡田の口が何か話そうとする仕草で動いた。だから大島
は岡田の腕を掴んだ。
岡田を自由にさせるわけにはいかない。折角今自分を抜いているカメラが、岡田を映す別のカメ
ラに切り替わってしまうかもしれないからだ。
当然現実にはそんな事など起こり得ない。しかし大島は続けた。カメラが芸人を撮る理由など、
大島は一つしか知らない。
掴んだ腕を引っ張ると、大きな体はバランスを失った。岡田の驚いた顔が目の前まで来たところ
で、大島は右腕を真横に広げ思い切り振り抜いた。
「うぐっ!」
何の工夫もないラリアットであるのに、岡田の体は驚くほど吹っ飛んだ。
バトルロワイアルという環境を思えば大島のやった事は立派な殺人未遂である。けれど当の大島
にはなんの悪気もなく、あくまでちょっと過激なバラエティ番組のテンションで笑いを取りにいっ
たに過ぎない。
大島は気付いていない。普段なら「何やってんだよ」と笑いながら突っ込まれるとか、周りが同
調して岡田をボコボコにするとか、次の笑いに繋がる何らかの展開が得られるものだ。しかしこれ
はバトルロワイアルである。殺し合いを強いられている今の立場で同じ事をしたとしても、同じ笑
いは生まれない。むしろ周りの恐怖心を煽るばかりで、意図した笑いとはどんどんかけ離れていく。
大島が望む大爆笑な展開など、バトルロワイアルでは起こり得ないのだ。
ところが例外もあり得る。例えば、その場に居た全員が大島と同じものを求めていたらどうだろ
う。「殺し合い」という言葉に踊らされる事なく自分を貫こうとする芸人たちが、たまたま同じ場
所に居合わせたとして、それでも本当に笑いが生まれる事などないのだろうか。
どう足掻いても大島の思いは報われないのだろうか。答えは、数分後訪れる。
ラリアットを決め例え様のない満足感に浸る大島は、中々勢いのあるオイシイ画が撮れたはずだ
と思い自画自賛していた。だが上体を起こす岡田を見てある事に気付く。この場合本当にオイシイ
のは攻めた大島ではなく、完全に受身だった岡田になるのではないか。きっと今カメラはあたふた
している岡田を映しているに違いない。その上岡田は、律儀にリアクションをとるのだ。
「なんや! この見事なラリアット! あんたはスタン・ハンセンか!
そんならわしゃ長州か! えー、藤波、俺はお前の噛ませ犬じゃない。
……そら似てないわ。見てみぃこの空気、どないしてくれんねん!」
カメラから伝わってくる沈黙の原因をなすりつける岡田に、大島はまたも固まった。しかし同時
に嫉妬もした。岡田は自らのキャラクターを忠実に演じる。それはバトルロワイアルという環境に
あっても全く揺るがないようだ。世間は今岡田に釘付けである。もちろんこれらは、大島の勝手な
思い込みでしかないのだが。
大島は吠えた。譲れないものがある人間は、強い。
「負けられっかぁぁああああああっ!」
カメラを指差した。バッターボックスに立つ選手がバットでピッチャーを差す時のように、大島
は視聴者を威嚇した。よく見とけ。そんな思いでカメラを睨んだ。
「え、え、何っ?」
「岡田圭右をぶっ潰す!」
立てた親指を大地に向けた。宣戦布告、大島は沸き上がる観衆の声援とリングを揺らすブーイン
グの嵐を同時に聞いた。
視線は集まった。大島は歴史に名を刻むその瞬間を思い描き、満面の笑みを零した。注目を浴び
るのは、どんな状況にあっても心地よいものだ。
大島の様子を見て危機感を感じた岡田は、真っ青な顔で悲鳴をあげた。
「が、ガチはあかんやろ! シューターはいらん! プロレスの美学に反すっ……いたたたた!」
大島は岡田の髪の毛を力強く引っ張った。持ち上がった顔は固く目を瞑り感じるままの痛みを声
に出していた。大島は迷わず、岡田の頭部に自分の頭部を打ち付けた。
「だっ!」
荒々しいヘッドバットを受けた岡田の上体は一瞬だけゆらゆらとさ迷い、音を立て地に落ちた。
改めて横たわる岡田を尻目に、大島はまたもカメラを指差した。
ここら辺りでハプニング的なポロリでもあった方が面白いだろうか。しかしまだ全ての攻撃が終
わったわけではない。
大島はこの島に放り込まれた女の中で自分にしか出来ないであろう最高の技を繰り出すと決めた。
仰向けに倒れ込む岡田の足元へ移動すると、その岡田の両足を掴んだ。そしてもう一度、カメラを
見た。
「お前ら飯食ってないでよく見てろよコノヤロー!」
ありったけの声量で叫んだ。それからすぐに岡田の足を広げ、今度はその岡田に向けて絶叫した。
「先輩! いただきまーすっ!」
小さい目を垂らしヘラッと笑うと、大島は岡田の股間めがけて勢い良く頭突きした。大島の一撃
必殺――急所ヘッドバットを食らった当の岡田は、声にならない呻き声を上げその場でのた打ち回
っていた。戦線離脱、岡田はもうまともに喋る事すら出来ないでいる。大島の勝ちが確定した瞬間
だった。
「よっしゃーっ!」
何が良かったのかは定かではないが、大島は天を突き刺すほどのガッツポーズをカメラに向けた。
地球が揺れるほど盛り上がる会場を見まわし、大島は無事窓のセンターを勝ち取った事を自覚する。
岡田が小さく「これがお前のやり方か」と呟く声も掻き消すほど、大島の喜びによる雄叫びは大き
かった。
ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ……
大島が念願のセンターを手にして間もなく、その不快な音が二人に近付いた。
未だ苦しそうな表情を浮かべる岡田がうつ伏せながらその方向を見やったため、大島も同じよう
にそちらを向いた。
ゆっくりとした足取りで男が歩いていた。左手を翼のように横に伸ばし右手を口元にやり、途切
れる事なく音を鳴らし続けている。何事かと思いながらも、大島はこれから起こる何らかのハプニ
ングに期待せずにはいられなかった。大島の胸が膨らみすぎてブラジャーとTシャツが破れてしま
う。それほどまでに大きな期待感を抱いていた。
近付いた男は大島の周りを旋回しながら鳴らしていた音を止め、今度は「それっぽい」口調で喋
り始めた。
「はい、こちら岡安です。ただいま私は上空2000メートル付近を飛ぶヘリコプターから、
国内某所にある無人島を一望しております。
本日この島で第50回バトルロワイアルが開催されたという事で、
今その様子を伺っているところなんですが……あ、人が居ますね。少し話を聞いてみましょう。
地上へ降り立つまで少々時間がかかりますのでいったんスタジオにお返しします」
流暢な中継が終わるとその男――ななめ45°岡安章介は、またヘリコプターの音真似をし次第に
歩行スピードを落としていった。大島の目の前で回るのを止め、音だけでなく体全体を使って着陸
するヘリコプターの様子であろうモノマネを見せた。音が鳴り止み気が済んだのかと思いきや、今
度は電車の発車ベルの音真似を始め、岡安の十八番である車掌モノマネを仕掛けてきた。
「間もなくー1番ホームにーななめ45°岡安によるー爆走列車が通過します。
白線の内側まで下がってーお笑いください」
溢れ返った期待はどこへやら、呆気に取られる大島に対して岡安は手のひらをこちらに向け押す
ようなジェスチャーをした。大島は意味が分からず岡安の顔を見た。すると岡安はもう一度「白線
の内側まで下がってお笑いください」と言い、同じような手の動きを見せた。そこでようやく「下
がれ」と言いたいのだと理解し、大島は片足を下げかけた。だがすぐに思い直し動きを止める。岡
安は不思議そうな表情を浮かべ、更にもう一度繰り返した。
「白線の内側まで下がっ……ったぁっ!」
轟音以上に迫力を帯びた音が響き渡る。大島の平手打ちは見事に岡安の頬を直撃し、その反動で
岡安は地を這った。そんな岡安を指差した大島は、ふんぞり返って一言、強い口調で言い放った。
「つまんねー事何度も言ってんじゃねーよ! ぶっ潰す!」
またカメラを見上げた。
暴れる自分を見て大笑いする少し変わった夫の顔を思い浮かべ、大島は得意げに笑った。
【森三中 大島美幸】
所持品:斧
第一行動方針:岡安をぶっ潰す
基本行動方針:旦那を笑わせる
最終行動方針:死ぬ覚悟は出来てるつもり
【ますだおかだ 岡田圭右】
所持品:ブラインド
第一行動方針:とりあえず安静
基本行動方針:カメラに向かって一発ギャグ
最終行動方針:何も求めない
【ななめ45° 岡安章介】
所持品:不明
第一行動方針:謎
基本行動方針:謎
最終行動方針:謎
【現在位置:J5 森】
【8/15 14:55】
【投下番号:239】
>>490 乙です!
復活楽しみにしてました。
大悟の活躍に期待で胸が張り裂けそうです。
>>490 おかえり!
大悟とか飯とかの話好きだったから復活してくれて嬉しい。
続き楽しみにしてるよ。
>>500 乙!
何このカオスwww
つーかプロレスネタ折り込みすぎだろ。笑ったけどw
>>500 >「とりあえず、脱ぐか」
吹いたw
ぜひやってほしかった。
爆笑問題太田編行きます。
『No longer human』
「人非人でもいいぢやないの。私たちは、生きてゐさへすればいいのよ」(太宰治『ヴィヨンの妻』)
ふと空を見上げてみた。
終戦記念日の空は雲一つなく晴れ渡っていて、その事が少し私を苛立たせる。おまけに蚊の飛ぶ音も煩い。
舌打ちをして私は首を下げた。
ポケットから煙草とライターを取り出す。
煙草をくわえ、火を点けようとするが、汗で手が滑りなかなか上手くいかない。
軽い試行錯誤の末ようやく点いた火が、狭い緑の空間での熱気を彩る。
煙草に火を点ける。
不健康な煙を吸い込むと共に、細長い物体の先端から、自由自在に変化する何かが空に昇っていくのをうっとりと眺める。
燻ったような焦げから発せられるそれを見て、ちょっとだけ心が落ち着いた。
乳白色の煙をゆっくりといとおしむように吐き出しながら、自分の身に起こった出来事を反芻する。
見知らぬ教室で目が覚めた。
大量の芸人仲間とともに兵士に囲まれていた。
ドアからたけしさんが入ってきて、殺し合いをしろと言われた。
わけも分からないままゲームが始まった。
わけも分からないまま外に放り出されていた。
外に出てからはあてもなく歩き回って、気がついたらこの森の中にいた。
要するにこういう事だ。
私たちは今、バトルロワイヤルに参加している。
何故、我々が参加する事になったのだろうか。
50回目だから芸人だなんて正直意味不明だ。独りよがりなシュールとしか思えない。
たけしさんに殺し合いをしろと言われたのも気に入らない。
中二の時の正月に初めて聴いた『ビートたけしのオールナイトニッポン』。
ハイスピードで繰り広げられる東京弁、今では考えられない危ないネタ。全てが衝撃だった。
あの時感じたカルチャーショックは今でも鮮明に覚えている。
あの頃のたけしさんには、危険を顧みず思う存分毒を吐く事の面白さを教えてもらった。
いつしか私は彼にのめり込んでいった。ただ単純に、彼の事が大好きになっていた。
あれから25年。私たちは今、そのたけしさんに殺し合いを強制させられている。
なぜ、たけしさんがあの役なのだろうか。
たけしさんにはもっと笑える事、あるいは芸術的な事をやって欲しいのに、あんな役は似合わない。
……それとも、まだ若かった頃に言ったあのギャグが原因なのだろうか。
たけしさんの代打で『ビートたけしのオールナイトニッポン』に出た時、私が言ったギャグ。
『たけしは風邪をこじらせて死にました』
ネタの中で、私は自然にたけしさんを殺していた。
もしかしたら、たけしさんが私に殺し合いを命じたのは、この事へのオマージュなのかもしれない。
はるか昔の私のネタふりに今になってたけしさんが反応して、私を殺し合いに参加させた。
そう考えると、少しだけ笑いがこみ上げてくるような気がした。
タバコを木に押し付け、火を消す。目の端に映ったスーツの袖は惨く汗ばんでいて、軽い不快感が湧く。
ここまで来る過程での私の様子を想像してみる。心もとない様子でふらふら歩くその姿はリストラされたサラリーマンみたいで滑稽だった。
まあ、この状況も人生からのリストラを言い渡されたようなものだから同じようなものかとくだらない事を思いつく。
でも、私はやっぱり芸人であって、サラリーマンではないのだ。
その証拠に、私はネタを作り出す事が出来る。
その時ふと前方にキラリと光る監視カメラを発見した。
鬱陶しい蚊の鳴く音をBGMにして、いつものように私はカメラに向かってボケてみる事にする。
「どうせならさ、バトルロワイヤルじゃなくて、”蚊取るロワイヤル”でもやればいいんだよ」
しかし響くのは相変わらず蚊の音だけ。誰も突っ込んでくれる者はいない。
おかしい。いつもなら田中の小僧が『くだらねえこと言ってんじゃねえよ!』とか言って突っ込んでくれるのに。
諦めきれず更にボケ続ける。
「えー、今日は君達に、ちょっと蚊の潰し合いをしてもらいます」
教室でのたけしさんの口調を真似して、もったいぶった感じで言う。
しかしそれでも周りで響くのは蚊の鳴く声のみ。
『うるせえよ!』と突っ込んでくれる奴は相変わらず出てこない。
これではつまらない。
首を振ってデイパックを開ける。
……食糧等とともに入っているのは、ただのマイクだった。
芸人としてはまずまずである。しかし、殺人者としてはどうだろうか?
当然失格である。
マイクによって人が死ぬなんて展開、下手なコントでもありえない。
それなら本来の用途で使うしかない。
「涙が〜あふれる〜悲しい〜季節は〜誰かに〜抱かれた〜夢〜を見る〜♪」
こうやって歌っていればいい加減誰かが来るかもしれない。
サザンの曲でも歌ってツッコミを待つ。しかし誰も来ない。
おかしい。こんなところでうるさくしてる奴なんか絶好のツッコミ対象のはずなのに。
最後まで歌い切っても誰も来なかった。歌い切ったところでようやくマイクのスイッチが入ってなかった事に気がついた。
これじゃあ誰もやって来ないはずだ。
「……ふざけんじゃねーぞバカヤロー」
そう呟きながら、私はマイクを投げ捨てる。
いい加減面倒くさくなってきたので、その場に寝転がる事にした。
もはやネタを続ける気にもなれない。これも年を取りすぎたせいだろうか。
鬱蒼とした木々の間からのぞく雲のない空を見上げて、私は考える。
それにしても、この舞台で一体私は何になるべきなのか。
たけしさんは私たちに向かって芸人の諸君と言っていた。
ここ数年になって文化人的発言を繰り返してきた結果もはやアイツは芸人とはいえないと言われるようになった私にとって、これはある意味名誉と呼べるものなのかもしれない。
しかしこの世界ではいくらボケても突っ込んでくれる奴がいない。この世界での自分はやはり芸人ではない。
一体この世界での自分は何者なんだろうか。
望むべくは平和か、それとも殺戮か。
子供の頃の自分の口癖を思い出す。
何かあるたびにすぐ私は「殺す」と口走っていた。
あの頃は命というものを本当に軽く考えすぎていた。自分の命さえも。
己の中の攻撃性がコントロールできなかった。破壊衝動を抑えられなかった。
少年少女が凶悪犯罪を犯す時の心境に似てるかもしれない。”病気”でも”特別”でもない殺意。理由のない暗黒。
でも、本当に人を殺す機会が来た今、私は殺す事が出来るのだろうか。
あの頃の殺意を、大人になった今も再現できるのだろうか……。
* * *
「――さん! 起きてください! 太田さん!」
掛け声とともに全身に振動が入る。
ゆっくりと目を開けると、淡い光とともに馴染み深い顔が映りこんできた。
「んー? なんだ、猿かよ……」
「なんだじゃありませんよ! 動かないもんだからびっくりしたじゃないですか!」
安堵半分、呆れ半分といった感じの表情をしているのは、事務所の後輩である5番6番の猿橋英之だった。
覗き込んでくる顔から汗を垂らしてくる。妙に冷っぽいのは気のせいだろうか。
「ああ、悪ィな。ちょっと考え事してたもんで」
「ちょっとじゃないですよ! 危ないじゃないですか、こんなところに無防備に寝っ転がってちゃ!」
どうやら私のことを心配してくれているらしい。まあ後輩だから当然なんだろうが、真面目な奴だ。
起き上がって時計を確認してみたら、寝転んでから一時間以上も経過していた。
やれやれ、考え事に夢中になりすぎたか。迂闊過ぎる。よく誰にも見つからなかったものだ。
「分かった分かった、悪かった。てかお前、何でこんなところにいるんだよ。
お前ならてっきり田中か樋口でも待ってると思ったんだがな」
時計を見た限りではもう田中が出発する時間は過ぎていた。
こいつの性格を考えれば、わざわざ一人で私を探すより校舎近くで相方の樋口か番号の近い田中を待ってから動くほうが自然なはずだ。
「いやー、実はそのつもりだったんですけど、なんか待ってる途中で学校辺りから激しい銃声が聞こえてきましてね。
それであの辺りにいるのは危ないかなって思って一旦逃げてきたんですよ」
「……ということは、もう既に、殺し合いに乗った奴がいるってことか……」
「はい、残念ながら……」
眉尻を下げ、沈痛な表情を作って猿橋は答える。
いずれにせよ、これでこの殺戮を望む奴がいることが確定したのは興味深い事実だ。
「……で、お前はどうするつもりなんだ? 俺や樋口たちと一緒に殺して回ったりするつもりなのか?」
とりあえず試しに聞いてみる。
案の定猿橋は顔色を変えると、手をばたばたと振った。
「そ、そんなわけないじゃないですか! 人殺しなんて出来るわけがない!」
「つーことはあれか? 殺し合いを止めさせるとか、そんな事でも考えてるのか?」
「当たり前でしょう! こんなのおかしいですよ、芸人同士で殺し合いなんて! 太田さんもそう思いますよね!?」
きっぱりと猿橋は答える。あまりにも毅然としすぎていて逆に胡散臭いぐらいだ。
とりあえず適当にああ、と答えておく。
「よかった! やっぱそうですよね! 太田さんもそう思いますよね!
俺は太田さんたちについていきます! 一緒にこのゲームを壊しましょう!」
猿橋の顔がやにわに明るくなり、私の手を握ってきた。猿橋はどうやら私を完全に信用しているようだ。
散々バトルロワイヤルをおちょくるようなネタを繰り返してきた我々をずっと間近で見てきたせいかもしれない。
私はそんな奴の顔を冷ややかな目で見つめながら、聞き返した。
「なあお前よお、本当にこの殺し合いを止められると思ってんのか?」
「……正直、難しいとは思います。実際、今もあまりの事に辛くて心が折れそうですし……
でも、素直にゲームに乗るよりはマシだと思います。やっぱ人殺しなんて絶対にやってはいけないことだと思いますし。
それに俺には……絶対に帰らなきゃいけない理由がありますし」
「ん? 帰らなきゃならない理由って何だ?」
「あ、いえ! 別になんでもないです! そうだ、ところで太田さん、実は俺、さっきから小便したくて、それで……
ちょっと見張っててくれませんか? 何なら武器も預けますから」
そう言うと猿橋はデイパックから黒光りするものを取り出してきた。
「これ……拳銃じゃねーか」
「グロック17らしいですよ。
本当はあんまり使いたくないんですけど、小便してる間ってどうしても無防備になる瞬間があるじゃないですか。
だからちょっと万一の時のために太田さんが持っててくれたら安心だと思いまして。
実際俺よりも太田さんの方が上手く扱えそうだし」
私は銃を眺めてみた。
ちっぽけな、そして意外と軽い本物の拳銃。
全てを呑み込むかのような漆黒。
それが反射する鈍い光。
人間の攻撃性の象徴。
これが、これさえあれば。
人を。
殺せる。
「それじゃー頼みますからね」
そう言って猿橋は銃を私に押し付けると、私に背を向け、茂みに向かう。
ギラギラとした目で銃を見つめていたであろう私に対し、何の疑念も抱こうとはしなかった。
弾が装填されているかどうか確かめてみる。校舎近くにいる時に既に装填し終えてたのだろうか、きっちり全弾込められていた。
無防備な背中を見せる後輩に向かって、私は右腕を水平に、まるで前へ倣うかのように上げて。
一発。
間抜けな破裂音、眩しいマズルフラッシュとともに、私の右腕が撥ね上がる。
やはりよほどの事がない限り銃は両腕を添えて撃つのが良さそうだ。
グロック17から昇る硝煙に一瞬目を奪われそうになるも、すぐに目を落とす。
ちょうどチャックを開けたところだった猿橋は、衣服ごと右胸の皮膚を貫かれ、倒れ臥していた。
私はゆっくりと彼に歩み寄る。
「お、太田さ……な、んで……」
私に気づいた猿橋は、うつぶせの状態から顔半分だけを向けて聞いてくる。
その表情にははっきりと「信じられない」と書かれていて。
猿橋の心臓の上に銃を押し当てると、私は。
「今楽にしてやるよ」
それだけ言って、引き金を引いた。
* * *
何故、人を殺してはいけないのか。
こう聞かれた人間は、当たり前のようにこう答える。
いけないから、いけないのだと。
それが生きていく上でのルールだから、人間を殺してはいけないのだと。
だが、その”いけない”に、果たして正当な理由はあるのだろうか。
ルールとかそんなもの抜きで、きちんと論理的に殺人の許されない理由を説く事が出来る人間は、果たして存在するのだろうか。
少なくとも私には分からない。
言葉で人を殺しかねない人生を歩んできた私にとってそんな後付けの決まり事なんか意味を成さない。
私に言える事は、ただ”生きる”事は素晴らしいという事だけだった。
”生きる”事が楽しいから。”生きる”という事に価値があるから。
”生きる”事の面白さを奪う事が申し訳ないから。
そのような理由で、人を殺す事はいけないものだと私は認識していた。
だが、この状況はどうだろうか。
バトルロワイヤル。このイベントにおいて何よりも優先される事は、一人だけ生き残る事。
その過程において、生きている人間を減らさなければ、ゲームは進まない。
つまり、ここにおいては、圧倒的に『”生”より”死”の方が高い価値を持つ』。
人を殺してはいけないというルールはここでは露ほどの意味も持たない。
”死”が正解であるこの世界ではもはや、私に躊躇う理由は無い。
ましてやこの状況が辛いのならなおさらだ。
長年の間バトルロワイヤルをネタにしてきた私だからこそ、このイベントを止める事は不可能に等しいと分かっていた。
辛い思いをしてまで不可能な事に挑戦するくらいなら、死んで解放された方が良い。
猿橋が選ぶべき道は、”生”ではなく絶対的な”死”だった。
だから、殺した。
この空間における正解は”生”ではなく”死”である。ではなぜ、私自身は”死”を選ばないのか。
答えはごく単純なものであった。私にもまた、絶対に帰らなきゃいけない理由があるから。
それを物語るのは、左手薬指に煌く小さな愛の証。
(……みっちゃん)
最愛の妻にして、永遠の私のアイドル。
もう十五年以上の付き合いになる妻。
苦しい時期に不甲斐ない私の変わりに家計を支えて、私をここまでの地位に押し上げてくれた妻。
ちょっと酒癖が悪くて暴力的だけど、それでも本当は優しい妻。
彼女を残して死にたくなかった。まだやりたいことがたくさん残っている。
私の作った映画を見せてやりたい。2人でのんびりと世界一周旅行に生きたい。
今みっちゃんを残して死ぬ事は、私には選ぶ事は不可能だった。
* * *
「みっちゃん、俺、猿殺しちゃったよ。でも許してくれ。俺だってみっちゃんのところに帰りたいからさ。仕方ねえんだよ」
猿橋を殺した事自体には罪悪感は沸かなかった。ただ、彼らの才能をもう発揮させる事が出来ないのが、非常に残念だった。
しかし、それでも私は立ち止まる事は出来ない。死を選ぶ事が出来ない私に残された道は、他の人間に死を与える事だけだから。
猿橋のデイパックに手を伸ばし、水と食糧を自分のデイパックに詰め替えながら、私は考える。
それにしても、これからどうやって時間を潰すか。ただ死を与えて回るのは退屈で仕方がない。
本でも持ってくれば良かったのだが、生憎にも楽屋に忘れてきてしまっていた。どうしよう。
その時私は、あるフレーズが思い浮かぶ。
――桜の美しさは、人間を狂気に導く。
坂口安吾の『桜の森の満開の下』では、満開の美しい桜が人間を殺人に導く過程が書かれている。
そこには桜を媒介として死と恍惚が結びつくさまが表現されていた。
狂気、苦しみ。そういった負の感情に対するエクスタシー。
果たして、本当にそういうものは存在するのだろうか?
興味深い疑問だ。
人間は、頑としてこれを認めたがらなかった。死によって得られる恍惚は、決して有り得てはならないとされていた。
だが、考えてみればどうだ。この場では、むしろ死こそが正義である。
今までの常識とは百八十度異なるこの世界は、この命題に対する答えを見つける絶好のチャンスではないか。
”死”の魅力とは一体どんなものなのか、自らの体験を通して追求できる。
こんな貴重な体験が今までにあっただろうか。
暇潰しの内容が決まった。
知的探究心を満たすべく、私は立ち上がり、歩き始める。
すぐ近くに私が投げ捨てたマイクがそのままの状態で転がっていた。
何となく役立てる機会がありそうな気がして、私はそのマイクを拾う。
マイクに触れた瞬間、ふと私の脳裏に思考が浮かんだ。
(今の俺が考えている事を他の奴らが知ったらどう思うだろうな。ひょっとしらこう言うかもな。
『太田さんはもはや人間じゃない』と)
死を与え、死を楽しむ私の姿。他人から見るこの世界の私は、もはや死神。
今の私は正に、人間、失格。
しかしそれでも一向に構わない。何と言われようが関係ない。
だって私はただ、やりたい事がやれればそれで構わないのだから。
楽しく生きられさえすれば、それでいいのだから。
【5番6番 猿橋英之 死亡(射殺)】
【爆笑問題 太田光
所持品:マイク、グロック17(15/17)・控え銃弾(34発)、煙草、ライター、結婚指輪
第一行動方針:苦しんでいる人々に死を与える
基本行動方針:死の魅力を追及する
最終行動方針:最後の一人まで生き残る】
【現在位置:F7 森】
【8/15 14:38】
【投下番号:240】
乙!
太田いいな。太田っぽい。
>>272の続き、ロザン菅編投下いきます。
『彼女の希望と彼の絶望』
――そろそろ日差しも傾いてくる頃だが、菅達は未だ先程までと同じ場所に座り込んで会話をしていた。
先程の銃声を聞いて殺し合いに乗った人物が来る可能性もなくはないのだが、そこまで考えが至っていないようである。
(尤も、菅の場合は他の事を考えすぎる余りその辺りを考えるのが後回しになっているだけなのだが)
強く照り付ける夏の日差しは確実に2人の気力を奪い、次第に考えは他人任せになっていく。特に菅がそうだった。
「あーつーいー! 誰も来えへんし相方どこ行ったかわからへんしほんまにどうしよう!」
「そうだねぇ……なんか誰かに迎えに来て欲しいっていうか、動きたくないよね」
(大丈夫、この人は絶対に裏切らへん人や)
にこにこと笑ってその言葉に同意する伊藤を見て、改めて菅はそう確信する。
それと同時に、自分は相手がここまで素直でなければ信じられないのかと僅かな自己嫌悪も感じた。
(それにしてもほんまに暑いなぁ、何か扇げるもんが欲しいけど……)
菅の持っているナイフや伊藤の持っている銃は確かに生き残る為には必要かもしれないが、この暑さを乗り切るには苦しい物がある。
誰か扇子でも何でも持ってきてくれればいいのに、と何とも理不尽な願いを菅は心の中で呟く。
しかし、それで本当に誰かが何かを持ってくるはずもなく。
仕方なく諦めて、せめてもう少し涼しい所に行きたいと思い声を掛けた。
「そろそろどこか行きません? 暑いし、相方探したいですし」
「うん、そうだよね。早く見つけなきゃ……その、死んじゃうかもしれないし、探しに行こっか」
伊藤が少し悲しげな表情を浮かべてそう返したのは、菅にとって予想外の事だった。
そう思って、彼女の事を希望だけを見ていて現実を見れない人だと思っていた事に気付き心の中で謝る。と、そこで違和感を感じた。
(この人の事は信じてる、はずなのになんでこんなイメージ抱いてたんやろ? ……ま、ええか)
この時、思い詰めてでも違和感の答えを見つけ出していれば何かが変わったのかもしれない。だがそれは彼の性格が許さなかった。
「じゃあどこへ行きますか? 僕はどこでもいいんですけど……」
「私もどこでもいいんだよね……あ、そういえばさっきの人、死体に会ったって言ってたよね?」
「言ってましたねぇ……じゃあ学校戻ってみますか? えっと、誰か死んでたら僕が確かめるんで」
「うん……じゃあ学校行ってみようか? 会えなくても学校ならホテルも近いからそっちに行けば誰かいるかもしれないし」
「そうしましょうか。じゃあそろそろ行きます?」
「うん、とりあえず南……でいいんだよね?」
「はい。1時間ぐらい走れば着くと思うんですけどどうします?」
「……とりあえず、この暑い中を走るのは嫌だな」
そして2人は歩き出す。まだ見ぬ希望と相方を探しに。
行く先には彼女を絶望に叩き落としかねないものが待っている事を彼らは知らない。
――彼は気付かない。否、気付けない。
現実が見えていないという事は他の冷静でいる者より利用しやすいということであり、
つまり自らの抱く信頼というのは相手を利用する事を前提としている事に。
【ロザン 菅広文】
所持品:バタフライナイフ、他不明
状態:良好?
第一行動方針:とりあえず学校へ
基本行動方針:生存優先、その為なら他人を利用しても構わない(自覚はしてない)
最終行動方針:生き残るつもりはない
【北陽 伊藤さおり】
所持品:コルトガバメント(8/9)、替え弾倉×2
状態:良好
第一行動方針:とりあえず学校へ
基本行動方針:生存優先
最終行動方針:
【現在位置:森(F4の東)】
【8/15 16:11】
【投下番号:241】
太田編、ロザン菅編乙!
いいねー!先が気になる終わり方だ。
519 :
名無し草:2007/08/13(月) 18:34:56
ほっしゅ〜
新規書き手です。バカリズム、りあるキッズ・安田編投稿します。
「何処に居るんや、長田・・・」
草木が生い茂る中を掻き分けて進むのは、りあるキッズのボケ担当である安田 善紀。彼は相方の長田 融季を探すために、慣れない山道を一生懸命歩き続けていた。
11歳の頃からコンビを組んで活動している相方。互いの価値観などの違いから、喧嘩をすることもあったけれど、自分にとっては大切な親友でありパートナー。彼に逢ってお礼を言わない限り、死ぬことは出来ない! その思いだけが、安田を突き動かしていた。
「絶対に探し出して合流して、一緒に行動するんやから!」
気合を入れる仕草をし、足を前に大きく踏み出したその時――。
「―――やっと1人かかったか―――」
聞き慣れない男性の声と同時に、安田は足元を取られ、そのまま穴の中へと突き落とされた。突然の出来事だったために、構えなども取れないままだった。
「な・・・・・・、何や、この穴は」
「落とし穴。見たら分かるだろ?」
くすくすと言う笑い声が頭上から降ってくる。安田が痛む身体に鞭を打って顔を上にあげると、そこにはおかっぱ頭の男性が立っていた。一瞬、雨上がり決死隊の蛍原ではないかと思ったが、仲間思いの彼がこんなことをするわけがない。声質や体型的にバナナマン・日村とも違う。
一体誰だ・・・? そう思っていると、男性は素早く穴の中へと降りて、安田の後ろに回りこんだ。
「暫くの間、お前には眠ってもらうから」
慌てて抵抗しようと身体を動かしたが、極端に細い身体ではたいした戦力にならない上、男性の動きの方が一瞬だけ早かったため、攻撃を避けることは出来なかった。
「ううっ・・・・・・!!」
安田はスタンガンを首筋に当てられ、意識を失ってしまった。
意識を失う直前に長田の姿が見えたような気がしたが、それをハッキリと確認するだけの余裕もないままに――。
――あれからどれくらい経っただろう。
安田は口を塞がれて、両手足を縛られ、身動きの取れない状態で、地面の上に転がっていた。周囲を見回してみるが、眼鏡を取られてしまったようで、何も見えない。ただ分かるのは、自分以外に何人か、人が居ると言うことだけだった。
「(俺、捕まったんか。まだあいつのこと、見つけてないのに・・・くそっ!!)」
身体を大きく動かして、ロープを解こうと自棄になる。しかし、ロープは切れるどころか手首に食い込んで、尋常ではないほどの痛みを伴うだけであった。口を塞いでいる布も、全く取れる気配が無い。
安田は自分の隣に座っている男性に、ジタバタと暴れながら訴えた。
「〜〜〜〜〜〜!!」(訳:頼むからこの布を取って!!)
「うるさい奴だな。外してやるから、少しは静かにしろ」
男性はぶつぶつと文句を言いながらも、布とロープを外した。ようやく自由に喋れるようになった安田は、男性に『あなたは誰なんですか? 何でこんなことを!』と顔を真っ赤にしながら詰め寄った。
「うるさいなぁ。名前と俺の目的を言えば良いんだろ? どっちもちゃんと言うから、黙っといて」
男性は溜め息を吐き、更に一息置いてから話し始めた。
「俺はバカリズムの升野、マセキ所属の芸人。宜しく」
バカリズムの升野だと名乗った男性は、何かを企んでいるような笑みを浮かべると、安田に一歩近づいた。そして、『今の段階での計画なんだけど』と前置きをした上で、自らの計画についてを簡単に話した。
「俺は後輩や先輩たちが、こんな戦いで死んでいくのを見るのが嫌なの。だから、ゲームに乗ったふりをして、馬鹿な奴らを殺すつもりでいるんだ」
「馬鹿な奴ら・・・?」
「そう、馬鹿な奴ら。暢気にやってる男とか、そこら辺で銃構えてるアホとかね」
安田は升野の言葉の意味がよく分からず、きょとんとした表情になった。
「暢気にやってるって・・・、え、誰がですか?」
「あれだよ。下手に名前を出すと死ぬかも知れないから、名前は出せないけど・・・」
升野は立ち上がると、学校のある方角を視線で示した。
学校はビートたけしと、兵士が何人か居る場所。そこへ突入して、彼らを殺すと言うのか? そんなことをしたら、自分が死んでしまうというのに・・・。
「ええっ!!? いや、駄目でしょ、それは」
「そのくらいしないと駄目だろ。ま、あそこを攻めるのは最後だけどね」
「何だ・・・・・・いきなり攻めるわけじゃなかったんですね」
「当たり前だ、いきなり出来るわけないだろ!!」
顔を真っ赤にして怒り、スタンガンを向けてくる升野に、安田は必死に『すみません、すみません』と頭を下げた。またスタンガンで気絶させられては、彼としては堪ったものではなかった。
「ごめんなさい。ホンマに反省してるから、勘弁して・・・」
「ちっ・・・分かったよ」
升野は呆れた表情のままスタンガンをしまうと、地図を取り出して兵士たちの居場所を予測し始めた。
最も兵士が多いと疑われるのは本部であるが、升野自身は、本部を攻めるのは一番最後だと決めていた。楽しみは最後に残しておいてこそ、ゲームは楽しくなるもの。そのためには、まず、周りに居る人間から料理をしなければ・・・。
升野は頬が緩みそうになるのを必死で抑えつつ、禁止エリアである海近辺にマークをつけていった。
「・・・・・・あいつらの居場所は、禁止エリアの近辺の可能性が一番高い。そこを狙う」
「禁止エリアですか」
「あくまでも仮説ね。他の場所に居て、バッタリ出逢うって可能性もあるんだから。その時はその時で、容赦なく殺せば良いだろ。よし、行動開始だ!」
そう言うと、彼は安田の腕をつかんで、いきなり走り始めた。
「何をするんですか!! 俺は長田を探さないといけないのにー!」
「今は後回しだよ。あいつらを全員殺したら、一緒に探してやるから。俺の仕掛けた罠に引っかかったお前が悪い」
安田は転びそうになりながらも何とか体制を保ち、升野の足の速さについていったが、体力的な違いから、5分も走らぬうちに息切れを起こす羽目になってしまったのだった――。
【バカリズム升野英知 りあるキッズ安田善紀 同盟結成】
【バカリズム 升野英知】
所持品:スタンガン、地図。他は不明。
状態:良好。
第一行動方針:(表面上)兵士を探す。
基本行動方針:(表面上)兵士と主催者を殺し、ゲームを終わらせる。
最終行動方針:不明。
【りあるキッズ 安田善紀】
所持品:自分のバックだけ。中身は不明。
状態:良好。
第一行動方針:長田を探す。
基本行動方針:上に同じ。
最終行動方針:長田と合流し、2人で最後まで残る。
【現在位置:林の中(H7付近)】
【8/16 11:00】
【投下番号:242】
今日はここまでとさせて頂きます。
りあるキッズとバカリズムのデビューは同時期ですが、年齢は10歳離れているので安田さんは敬語を使っています。
訂正です、初でとんでもないミスやってしまいましたorz
状態が良好となっていますが、これは生存か死亡のことみたいだったようで・・・。
ログはきちんと読みましたが、意味が分からなくて無茶苦茶にしてました;
本当にすみません。まとめサイトでは訂正しています。
>>523 初投下乙です!
バカリズムおもしれー。(表面上)っていうのが気になる。
安田振り回されそうだが大丈夫だろうか。
ダブルブッキング編
まとめサイト226続き
『信じること疑うこと』
「結局、また1人かよ」
日が高くなり一層湿気と熱気が籠もる森の中、地面を這う草を蹴りながら、川元は口の中で呟いた。
たった1人向かうのは、数時間前まで相方と一緒にいた水辺の地点。
本来ならば、あの場所へ戻るのは緊急時。そしてコンビ共々であるはずだったのに。
出渕のせいで、更にそれを庇う相方・黒田のせいで、すっかり思惑が狂ってしまった。
「あのバカが…」
今やかなり後方にいるはずの黒田に対する恨み言が漏れる。
一向に気は向かないが、あんな条件を自分から提示した以上、実行しないわけにもいかないだろう。
とは言えサボる手はいくらでも考え付いたが、まぁせめてもの意地というものだ。
帰還した暁にはまたコンビでの行動に戻れる。それだけが今の行動を支える軸になっている。
コンビでの行動。
(おかしなもんだな…)
何となく、樹木の隙間から、断片的にしか見えない空を見上げた。
微風が、汗にぬれた額を掠める。
人と関わるのが苦手で人間不信。
それが、広く知られている川元の人格。
コンビとしてはやや認知度が薄いとは言え、川元のこのキャラクターは未だに世間に知れている。
それを知る者は彼がこんなにも他の人間との行動に執着することなど、想像もしないに違いない。
「……」
先刻からは大分冷めてきた頭に、ある出来事が去来した。
それはもう、随分昔の話になる。
******
「死んだら、僕が正しかったということですよね」
そんな捨て台詞を吐いた後、川元は「箱」の中に閉じ込められた。
当時人気があった、あるバラエティ番組、子供の教育に宜しくないという風評を受けながら、
「帝国を支えるのは国民の生命力。それを培う番組なのだ」と常々宣伝していた、
何にせよ非常に悪趣味な番組の、一企画に放り込まれたのだった。
溶接された箱の中でのたった1人の生活。孤独で閉鎖された世界。
空白の半年間。何もかもがあっという間だった。
川元は、人嫌いのキャラクターを全面に出した。
面白かろうと思って多少のデフォルメはしていたが、またそれは同時にありのままの自分自身の姿でもあった。
例え周囲に人間がいても、一切頼りにはできない。それをまざまざと思い知ったいい機会ともなった。
自分で発した言葉、即ち、
『誰も助けてくれず、自分が死ぬようなことがあったら、「人間は信じられない」という考えの確かさの証明になる』
それだけを、来る日も来る日も反芻していた。
ただ、所詮はバラエティ番組だから、人が死ぬような事態は起き得ない。
企画自体は、少なくとも当人にとっては然程大したこともなく終わったのだ。
しかし問題は、企画が終わってからすぐに降りかかってきた。
普通の芸人としての生活に戻った川元の前に広がっていたのは、余りにも酷な現実であった。
川元のキャラクターは他人を遠ざけた。人間不信な性格設定は、思った以上に世間の反感を買ってしまったのだった。
ファンは離れ、ライブに出ても笑いは取れず、回りまわって仕事が入らなくなる。
完全な悪循環に陥った。
川元の精神はそれによって更に荒んだ。世の中、箱の中と変わらない。
このまま売れず、食い扶持を失ってしまうのか。
『誰も助けてくれず、自分が死ぬようなことがあったら、「人間は信じられない」という考えの確かさの証明になる』
諦念に取りつかれたまま、日々少ない仕事を潰していた。
ただ1つ、箱に入っていた時と違ったのは、閉鎖された空間の中に自分以外にも人間が存在したことだった。
相方。
相方の黒田は、苦しい状況の中、1度も「解散」という言葉を口にしなかった。
1度だけ川元から、黒田の考えを訊いてみたことがある。
こんなことになってしまって、辛くはないのか。やめたくはないのか。
半ば呟くように尋ねる川元を、目を丸くして見つめた後、彼は言い放ったのだ。
「まあ、でもしょうがないじゃないですか。とりあえず今まで通りやってきましょうよ。だーいじょうぶですって!次のライブでは受け取れますって!きっと!」
底抜けに明るい声だった。深刻な投げ掛けを瞬時に吹き飛ばす程に。
その顔は、しばらく収入が少な過ぎてまともな食事も取れていないためか、酷く痩せてはいたけれど。
余りに予想外の相方の言葉と態度に、川元はそれ以上何も言えなかった。
こんな時にまで、適当だな。そう思いながらも、ただ頷いて、柄にもなく滲みそうになる涙を必死に隠そうとしたものだ。
それからだ。川元が、いい加減極まりなく、話も性格も合わない相方に、誰よりも信頼を置くようになったのは。
だからこそ企画以来、表向き何事もなかったかのようにコンビで活動を続け、やがて本来の土壌を取り戻すことができた。
お笑いという生きる指針を、失わずに済んだのだ。
*****
BRが始まった当初こそ、流石に生命の危機に際してまで相方のことを思う余裕はないだろうと、信用を捨てていた。
が、黒田は川元を探しに来た。歩き通して、ぼろぼろになって、そして人を殺してまで―川元を助けた。
その時から、死ぬまでの間相方のことだけは信じてみようと胸の奥底で決意したのだ。
『誰も助けてくれず、自分が死ぬようなことがあったら、「人間は信じられない」という考えの確かさの証明になる』
しかし川元は生きている。相方に救われながら。
例え先程のように意見がぶつかり合っても、完全に相手を突き放して離れ離れになってしまおうとは考えられなかった。
特に2人でいることのメリットを重視しているわけではない。そもそも、最初から理由などなかった。
相方と共に行動すること自体が、今や生きる目的のようになっているのだった。
本来の落ち着きを取り戻した川元の思考から、黒田への不信感は少しずつ消えていっていた。
静かに回想に浸っていた川元の耳に、いきなり場違いなクラシック音楽が飛び込み、強制的に彼を我に返らせた。
聞き覚えのある、虫唾の走るような旋律。―それは定例の放送。
そういえば、黒田共々まともに放送を聞けたのは今までに1、2度だけ。発表された人間を控えてもいない。
―一体これまでにどれだけの芸人が逝ったのだろう。
心なし眠たそうなたけしの声を無視するように、黙々と足を進め続ける。
時折聞き慣れた名も読み上げられるが、極力気に留めないようにしながら。
しかし、なかなか放送は終わらない。
(着実に死んでる。いや、殺されてる。殺しているやつがいる、だから人が死ぬ)
ぐるぐると頭を駆け巡る考え。
それを更に掻き乱すように、遠方から微かに聞こえてくる銃声。誰かの声。途切れ途切れの。
「くそっ――」
やり切れず。思わず走り出した。
結局誰もかも、自分が生き残るためなら殺しでも何でも厭わないのだろう。人間なんてそんなものだ。
その証拠に、死人は増える一方じゃないか。
その証拠に、自分を襲ってきた人間がいたじゃないか。
みんなそうなんだ、みんな―
『「人間は信じられない」という考えの確かさの証明』
だとしたら。
(あいつは?)
黒田と共に残してきた、あの人物。
こちらに対して、一切害意を示さなかった。武器も持っていなかった。怯え切っているだけのように見えた。
それでも。
あいつが「他の誰か」と同じように、自分のことだけ考えているとしたら。
どうなる?
足を止めた。
一瞬強い風が吹き抜けて、夏草をざあっと薙いでいった。
歩き出してからおよそ2時間。
川辺まで、あと1時間。
【ダブルブッキング 川元文太】
所持品:ワルサーPPK(6/7)、眼鏡、紙雷管
第一行動方針:川へ向かう…?
基本行動方針:できるだけ生き残る
最終行動方針:未定
【現在位置:森(F4)】
【8/16 13:10】
【投下番号:243】
番組=電○少年。川元は元「箱男」。
>>523 曲者升野!待ってました。何を企んでいるのだろう…。
次回を楽しみにしています。
>>397-418 続き アームストロング栗山
眩しくてうざったい太陽が高く上がっていた。灰色の雲を避けるようにして光を刺し
てきている。恨みを買った覚えはないのに。
火をつけた煙草を咥えた栗山は、一口目なのにふかすだけで終えた。多めに出てきた
煙が空に向かって伸びていった。厚い雲のように光を隠してくれ、柄にもなくロマンテ
ィックな考えが浮かぶ。苛ついていたからかもしれない。くそったれな放送が新たな喧
嘩を売ってきたからだ。
今度は深く煙を吸い込んだ。吐き出しても苛つきは止められそうも無かった。むしろ
頭に血が上りやすい栗山にしては良く耐えているほうだ。今日が普通の日だったら既に
ぶち切れていただろう。それほどまでに今はおかしい。
仲の良かった人たちが次々にいなくなっていく。コント番組で競演した仲間も含まれ
ていた。歯を食いしばるくらいしかできないのにも腹が立つ。
名前の上に横線が引かれていくだけだ。これだけのことがどれだけの意味を持つか。
考えたくもなくて顔を上げれば、名簿を眺めて黙り込む先輩がいる。童顔に無口という
激しいギャップを持つ人。
栗山が怒り狂わない理由にこれがあった。プログラムが始まってから今まで、ほぼずっ
と同じ行動を続けている相手。口数は少なくても優しいはずの、仲が良い先輩の相方。
そのはずなのに、二人の芸人をあっさり殺してしまった。
栗山はツバを飲む。一緒に煙草の煙を飲み込んでしまったけれど気にしなかった。汗
が出ている理由は暑さだけではない、むしろ寒気がしているくらいだ。
はっきりいって怖かった。
「清人さん」
放送が終わっても顔を上げない相手を呼んだ。考え事をしていた大溝は気づかずに黙
り込んでいる。慣れていたはずの無言がすごく息苦しくて、煙草を外した栗山は大きく
息を吸い込む。深呼吸をしてからもう一度呼んだ。
「清人さん」
「聞こえとる」
シカトだったようだ。肩を落とした栗山は、すぐに体勢を直して聞く。
「これからどうします?」
「今までと変わらん。人を集める」
大溝は目を落としたまま、参加者名簿をひらひらと見せてきた。それぞれの名前の近
くに丸、三角、バツ印がつけられているものだ。マークは栗山達にとって信用できるか
を表すもので、行動を決める基準にもなっている。
ただ、はっきりグループ分けしてしまったせいか、バツ印のついた人に対する疑いは
強くなってしまった。単純と言われる栗山も相当だが、大溝の場合はもっと強いみたい
だ。もともと頑固な性格だったから納得はできる。けど、だからと言って。
栗山はまた思い出す。バツ印をつけられたお笑いコンビの死体。首を振って考えない
ようにしてから、もっと詳しい予定を欲しがった。
「それはそうなんすけど、集めるにしても色々あるじゃないすか。人がいそうなとこに
行くとか、そういう感じの」
大溝は答えない。でも今度は、答えないワケを知っていた。短くなった煙草を消した
栗山は座ったままで空を見上げる。知らない名前の木が辺りを囲っている。
「その前に、ここがどこかわからなきゃ、なんすけどねえ……」
いつもなら笑い飛ばしている状況だ。別荘の集まる場所にいくつもりだったのに、森
に入ってしまったせいで迷子になってしまった。今思えば、木に傷をつけて道しるべに
でもしておけば良かった。後の祭り、というやつだ。
やはり大溝は黙っていた。何も言えないからだろう。迷った原因はお互いにあるから
喧嘩もできない。太陽の方角から位置を割り出すとか、したこともない悪あがきをたく
さんしたせいで大体の位置すらわからなくなっていた。
沈黙がむなしい。死なないための行動と、普段もしなければならないありふれた心配
事を同時にするのは難しい。考えてから動くタイプの人ならまだましだけれど、特に栗
山は違う。
ようやく印のついた名簿が片付けられた。同時に立ち上がった大溝が、どこか適当な
ところを見やって頭を掻いた。面倒そうにため息をつき、落ちていたデイパックを手に
している。
黙ったままで歩き始めてしまった。当然、栗山の準備は終わっていない。慌てて金属
バットを肩に担ぐ。
追いかけようとして止まった。怖いなら離れればいいのか。一緒に行動してきた中で
も初めての疑問だ。少し寂しがりな栗山にとっては簡単に答えらない。結局は場のノリ
と流れに従い、更に離れた距離を小走りで進む。
ヤブ蚊に突っ込んでも止まらなかった。大溝はなぜか早歩きに進む。一応仮眠はした
ものの、疲れた体には堪える。ようやくスピードが緩まったころにはひどく息を切らし
ていた。
「どうしたんすか、急に」
息が整わない上に、格好悪く頭を下ろしながら聞いてみる。肺いっぱいに空気を吸い
込んでから、辛くないくらいのスピードで顔を上げる。
あったのは森の切れ目と街への入口。
「元町か」
大溝がいつの間にか地図を取り出していた。目を見開いた栗山も、先輩の横に立って
地図を覗き込んだ。そのまますぐに決めつけてしまった大溝を疑う。地図を信じるなら、
別荘地からは遠すぎる場所にいたせいだ。
さんざん迷った後ならあり得るかもしれない。無理やり納得してから続いている道路
を眺める。たくさんの飲食店が並んでいるし、人がいる可能性は高いはずだ。森をうろ
ついているよりはいいけれど、その分危険も多い。
大溝が歩き出した。危険なんて気にしない、背中がそんな風に語っていた。手だけは
銃を確認している。
一歩一歩が歩きやすかった。土よりはコンクリートの方が進みやすいからだ。疲れて
いるから助かる、久しぶりについた安心のため息が小さな音になって消えた。相変わら
ず無言は続いている。