「あっ……」
緊張で硬くなった野梨子の耳に清四郎の声が聞こえる。
「野梨子……僕は……あなたが……」
ふいに彼は顔を近づけてきて、野梨子の唇に己の唇を重ねた。
思いもかけない出来事に野梨子は動くことができない。
ただ自分の唇を押しつけてくる清四郎に抗うことすら忘れていた。
ふいにプアンとクラクションの音がして、ハッとして二人は身を離した。
清四郎は息を切らし、その顔は紅潮していた。
我を取り戻した野梨子は思い切りその頬を張った。
ぱあんという音と共に彼の顔が左に揺れ、野梨子の右手が痛んだ。
清四郎になにか罵声を浴びせたかったが、何も言葉が出てこなかったので、
野梨子は涙をこらえながら足早にそこを去った。
つづく
ドキドキ感がたまりません。
ういういしい2人ですね。
嫉妬してる野梨子が、妙にかわいく感じました。
少しずつ、みんなの関係がこじれて来てますね。
丁寧な文章なので、映像が自然と浮かんでくるようです。
おもしろいです!
最高です!
野梨子の気高い平手打ちは、かなりツボ。
続きキタワァ.:*・゜(n‘∀‘)η゜・.:*
赤くなってる2人がカワエエ
「……坊ちゃま、今なんと?」
「だからヘリウムスリーだよ」
五代もとうとう耳が遠くなったかと失敬なことを思いつつ、
「D-3He核融合はエネルギーの変換効率が抜群によくてね。そのうえ中性子を
ほとんど出さないんだ。つまり放射能の心配がない。それで理想のエネルギー
源と言われているんだよ」
親切に説明をほどこす豊作だが、しかし相手はただの年寄りではない。
世界に冠たる剣菱財閥。万作がその大黒柱だとすれば、さしずめ五代は筋交
だ。とてつもない重さの屋台骨を幾十年と支え続けた年輪は、豊作ごとき青二
才の及ぶところではない。―――のだが豊作にはそれがわからない。
驚愕の表情をただ理解できずに呆けているととった豊作は、コホンと咳払いを
みせてから、なおも釈迦に説法をつづけてみせる。
「でも天然に存在する量はごくわずかでね。だから普通はリチウム6に中性子を
当てて三重水素をつくって、これがβ崩壊すると安定核種の…」
「そのような事はどうでもようございますッ」
講釈はすっぱり断ち切られた。
「お聞きしたいのは本当にマイタイにそれがあるのかという事でございますよッ」
ああそっちの話か、と首をふりふり豊作は再びくちを開く。
「太陽の核融合でできた3Heがレゴリスに吸着されたように、なんらかの原因で
大気を突き抜けたヘリウム3が蓄積されたのか、それとも地球誕生時に大量
にかたまったのか、その辺りはわからないんだけどね。とにかくその貴重な
元素が豊富に存在する可能性は否定できないんだ―――というより、確実と
言っていいだろうね。鉱床の位置はまだ解読の途中なんだけど、国土の…」
「ちょおっと待ったあぁッ!」
今度は万作に妨害される。
「かいどく? いま解読と言うただか? まさかおめ、マイタイの古文書を?」
つくづく年寄りは気が短い、などと思いながらも得意分野に話が向いてきたのに
気をよくした豊作はおもむろに向き直った。
「いいえ、マイタイで発見された文書ではありません。サングリア文書と言って、
二十年ほど前にサングリア諸島の洞窟から発見されたものです。
それを解読したところによると、文書が記された紀元前一千年の当時、南太
平洋には広大な陸地が存在し、そこでは独自の高度文明が発達していた…
―――その文明を支えた原動力こそ、3Heの生み出すエネルギーだったとい
うわけなんです」
自信満々の豊作であるが、間髪入れずに五代が反駁する。
「お言葉ですが坊ちゃま。太陽光のスペクトル分析でヘリウムの存在が予見さ
れたのでさえ高々140年ほど前のことですぞ? 現代科学をもってそれなの
でございますから、そのご解釈はいくらなんでも…」
さすがは万作の懐刀、五代の知識量は侮れない。
けれども一撃でKOされた筈の豊作は、奇妙な余裕を漂わせてフンフンと頷いて
いる。
「うん、その通り。中性子の発見に至っては1930年代のことだしね。だから最
初は僕も半信半疑だったんだ。でもね五代、聞くところによると―――」
と、そこで妙な間をあけた豊作。ぐるりと面々を見回してから、おもむろに続きを
口にした。
「南太平洋には超高度文明を発達させた幻の大陸、つまりムーたいり…」
「もうええ。おめは部屋で休め」
戯言をほざきだした息子に対する最大限の労わりである。
「もー父さん、まじめに聞いてくださいよっ!」
あまりに突飛な論説に、日ごろ豊作の味方である五代でさえ扱いあぐねたような
顰めっ面で視線のやり場を床に求めた。
だが豊作はへこたれない。呆れ顔の万作を正面に見据え、躍起になって捲くし
立てた。
「僕は悠理から聞いた話で確信したんですッ!
思い出してください、イアウカ島の神殿を。あそこはダイキリさんの戴冠以来、
ずっと放っておかれたんですよ。王室の人たちでさえ場所を知らなかったぐら
いですから、当然メンテナンスは入ってない。それ以前にも保守作業などは
一切おこなわれなかったでしょうね。何故ならあの場所を知っていたのは、
代々神官の長だけだったんですから。
それなのに悠理たちが行ったときにも各種の仕掛けは滞りなく機能した。
レバーを引く、メダルをはめる、たったそれだけで巨石を動かすほどの大装
置ですよ? 定期的な保守もなしに何百年も動き続けるわけがないじゃありま
せんか。でもあの神殿はそれを可能にしている。そうなんです、あのイアウカ
の神殿こそが幻の超高度文明――そのレリックなんですよッ!」
「お説ご尤もっ」
と、すかさず五代。
本当に納得したのか、それとも賛同を得んがために奮闘する豊作を憐れんで
の発言であったのか、ともかくその一言で豊作の興奮もいくらか鎮まった。
漫然と聞いていた万作も呆れ顔をひっこめて目を閉じる。
確かに――イアウカ島での話をよくよく思い起こしてみれば、なにやら高度文明
の名残が匂わないでもない。たとえば洞窟の入り口に立つ巨大な石像、あれも
巨石文明と言って言えないことはないだろう。王冠が乗せられた台座などは、積
載量の加減を感知して矢が飛び出る仕組みになっていたとも聞く。
もしかしたら、と心が動かないでもないが、しかし決め手に欠ける印象も拭いき
れずに万作はううんと唸った。
「…それでその動力源が3Heだとお前はゆうだな?」
「はい」
即答だ。
「所謂ロストテクノロジーですね。文書にはエネルギー変換装置の設計図も記さ
れていましたし。各装置には神々の名が冠せられていましたが、現代で言うと
ころのD-3Heトカマク炉…あっ、またそんな顔して。いい加減信じてくださいよ」
「…一万歩ゆずってその解釈が合っているにしても、なんで3He鉱床がマイタイ
にあると言えるだがや? あん辺りに天然ガス鉱床はごまんとあるだぞ?」
「そうでございますよ。大体にしてサングリアで見つかったのならば、サングリア
の文書と見るのが筋でしょうに。なぜ唐突にマイタイが出てくるのでございます
か。文明の名残でしたら、それこそ太平洋全域に散らばってございますぞ?」
口を揃えて反論する二人に、豊作は諦めたような溜息をひとつ吐き、それじゃあ
仕方ないですねと前置きしてから、まるで秘密ごとでも打ち明けるような調子で
こう言った。
「マイタイのシンボルに画かれる島のうち、実に6島までがそのままの名称で
登場しているんですよぉ…」
「ぅへっ!?」
なぜ先にそれを言わないのだ、と万作は胸倉を掴みたい衝動に駆られたが、
どうにか我慢をする。そんな万作を尻目に、豊作は得意満面で島名をあげてみ
せた。
「イアウカ、イカロモ、ウハイニ、エウラオホカ…」
まるで呪文だ。
その呪文に悪酔いしたのか、ダイキリは半ば目を閉じ、赤黒い顔をゆらゆらと
揺らしている。昏倒するのも時間の問題かもしれない。
「―――ときに豊作。そん文書の内容、だれかに言うただか?」
「いいえ、誰にも。これは完成してからチチにプレゼントしようと思っていたので、
それまでは秘密にし…アッ」
ドンッと床を鳴らして立ち上がった三人に囲まれ、豊作は思わず仰けぞった。
「しゃべっただかッ!?」
「…ひとりだけ」
「誰に言うただ?」
「ずいぶん前のことですが、サングリア文書に興味があるという男性が訪ねて
きたことがあって、その人とちょっと話を…」
「そん男の名は?」
「たしか…クラモリとかいう、メガネをかけた男で…」
蔵守正造、五代の報告書に載っていたあの男だ。
「所属は東西古文書研究所、兼六が脱税目的で運営する組織でございますな」
「…ケンロク?」
事の成り行きに耳を済ませていたダイキリが、はたと膝を叩いて語りだした。
「あれは昨年の今ごろだったか。我が国の採掘権を買いたいと…」
王室に申請があったのだ。
「たしか、ケンロク鉱業とかいう…」
マイタイにおいて採掘は国営事業。外資は一切参入できないということは、採掘
業界ではよく知られた話だ。にもかかわらずしつこく食い下がり、ピンガが顔を
顰めていたことを思い出したのだ。
そしてその直後のことだった。王の側近が消え、ジュニアから第一の脅迫があっ
たのは。
ピンと弦を張ったような緊張が走る――とその時、バタンと大きな音を響かせて
扉が左右に開け放たれた。
「旦那さまあっ!」
興奮の面持ちで駆け込んできたのは名輪だ。
「チ、チチ様を連れ去った車の行方がわかりましたあっ!」
「なにっ!?」
あれから名輪は関東一円の運転手仲間と連絡をとり、情報収集に奔走していた
のだ。そしてついに最終目的地と思われる場所を探り当てたのである。
「車は一般道を東京方面へ南下、一旦神奈川へ入り環状線を迂回しつつ、再び
都内へ。最後の目撃情報は東京都○区東町8番地、兼六データセンターへの
ゲート内ですッ」
―――チチと古文書はセットだ。
蔵守と名乗る男を通して内容を知った兼六が文書を強奪。しかし一向に採掘許
可を出さない王室に業を煮やし、マイタイの反乱分子と結託して全国土的採掘
権を手に入れようとしたのだ。
「でかしたッ! 五代、悠理はッ」
「は、嬢ちゃま方は予定通り、例の件でお出掛けになっておられますッ」
「よし、すぐに連絡をとるだがや!」
がぜん意気の揚がってきた万作に、豊作もようやく笑顔を取り戻した。
「ああ父さん、やっと信用してくれたんですね。力説した甲斐がありま…」
「アホッ!」
と万作は一喝する。
「そんなもん誰が信じるだがやッ。いま問題なんは、その与太話を真に受けた
阿呆がおめ以外にもおるっちゅうことだがやッ!」
がっくりきた豊作であったが、考えてみればその通りだ。文書の真偽は別にして
も、それが契機となってチチが攫われてしまったのは事実らしい。
又ぞろ不安がぶり返して、オロオロと縋るような目を向けた豊作。その脇では
五代がせかせかと携帯電話を操作しながら、ダイキリと豊作に向けて古文書奪
還作戦を手短に説明した。
「ぼくのために悠理が…」
「そうでございますよ。嬢ちゃまはお優しい方でございますから。さ、坊ちゃま」
促がされるまま携帯電話を耳にあてると、目の前で父が頷いていた。せめて
事態を告げる役目くらい果たせと言うことらしい。
萎えそうになる気力を振り絞って呼び出し音に耳を済ませていると、ダイキリが
ぼそっと囁いた言葉がザックリ胸につき刺さった。
「またミロクが…ミロクがチチを助けてくれる」
見る見る萎んでいく豊作。五代は堪らず目を伏せた。
ほっぽり出された地下道に有刺鉄線。この説明から穴蔵のようなものを想像し
ていた美童と野梨子は、きちんと舗装されたそれにホッと安堵した。
「ふつうの地下道ですわね」
入り口には有刺鉄線もなく、なだらかなスロープが地中へと潜っていくだけだ。
これならば蛇やコウモリに出くわす心配もないだろう――否、コウモリはいるか
もしれない、この暗さならば。使われていないだけあって、照明のたぐいは皆無
なのである。
「い、行きますわよ」
「うん…」
にわかに高まる緊張におのずと口数も減るが、しかしここで引き返すわけにも
いかず、一歩、また一歩。まるで地雷原にでも踏み込んだかのような足どりで
地中の道を進んでいく。
いくらも進まぬうちに外光が届かなくなったのは、道がうねっているせいだ。
あたりは鼻をつままれてもわからぬほどの真っ暗闇。平衡感覚さえあやしくさせ
る高密度の闇が手に足にまとわりついてくる。
その上どこからかポタリ、ポタリと聞こえてくる水の滴りがうす気味の悪さに拍車
をかけて、先を歩く野梨子は思わず唇を震わせた。
「美童、あまり離れないでくださいな…」
さっきまでのツンケンした態度とは打って変わり、その声音は随分としおらしい。
闇への恐怖、それに敵地へと忍び込んだ緊張がより合わさってそんな調子にな
るのだろう。
美童にしても不安の海を泳いでいるようなものなのだが、眼の前でいかにも頼り
なげな声を出されてはそうも言っていられない。
「大丈夫、僕ここにいるから」
囁き声でこたえてやると、安堵の吐息が小さく聞こえた。
美童は苦笑する。
自分がついていたところで、なにが大丈夫なものか。腕力の無さは言わずもが
な。度胸という点においても野梨子のほうが数段上だろう。
そんなことは互いに百も承知のはずなのに、このような会話が成立するのだか
ら男女の性差は奥深い。
「足もと、気をつけて」
「ええ」
「寒くない?」
「大丈夫ですわ」
「お腹、空いてない?」
「こんな時に…私は悠理ではありませんわよ」
表面的な労わりの言葉が美童の不安をみるみるほぐし、平常心を取り戻すまで
にさほどの時間はかからなかった。
(お化け屋敷みたいだなあ)
そんな暢気な考えが浮かぶようになった頃、ふと思い出したのが何時であったか
可憐が何気なく口にした一言だった。
『ねぇこのごろ野梨子へんだと思わない? 何かあったのかしら』
この時は適当な相槌で流してしまったのだが、改めて思い起こしてみると確かに
様子が違っていたように思う。
考えてみれば、機械音痴の野梨子が魅録の手伝いにあそこまでの情熱を示した
のもおかしな話だ。一体なにが野梨子を駆り立てていたのだろうか。
(清四郎とケンカでもしたのかな? でもイヤミの応酬ぐらいならいつもやってる
し。それ以上のことって言うと…)
言うと?
(…無理やり何かされちゃった、とか?)
まわりを取り囲む非日常が、一足飛びにそちらの路線へと思考を導く。
瞬時にして想像の及ぶ限りのあんな事やこんな事を頭の中に列挙した美童は
う〜んと唸ってライトの光をすこしだけ上げてみた。
暗闇に浮かび上がる華奢な後ろ姿。
厚さわずかにコンマ7mm、被膜のような羽衣によってあらわになった曲線は
痛々しいまでの清らかさを発散している。
可憐の放つ物理攻撃さながらの色香とは違い、野梨子の場合、慈しみ守って
やりたいという庇護心を十二分に刺激しながら、同時にそれを凌駕する勢いで
苛虐心を煽りたてる類のそれなのだ。
恥じらったり、怒ったり、怯えたり。そういった負の感情があらわになればなる程
ますます怪しげな香が匂い立つ。サディストの素質を存分に具えた清四郎の嗅
覚がそれを見逃すはずはない。
彼の鉄壁の自制心だとて、野梨子の無自覚な色香の前には砂上の楼閣、脆くも
崩れさるのは時間の問題であったろう。辛抱に辛抱を重ねたあげく、ついに劣情
を爆発させてしまったとしても、誰が清四郎を責められようか。
(なるほどねェ…)
そう結論した美童は、今回のパートナーが自分であったことにホッと胸を撫で下
ろした。
「僕でよかったね、野梨子」
「なにがですの?」
「なんでもないよん」
勝手に清四郎を悪役に仕立てた美童は、
(安心して。僕はへんなことしないから)
と口中に軽くつぶやき、再び前方を照らしてみる。
淡い光が野梨子をつつんだ灰色の被膜を嘗め、まるでそれ自体が発光してい
るかのような幻想的な空気を醸し出す。手を出すつもりはサラサラないが、
清四郎の妄挙も致し方なしと思える光景である。
「だいじょうぶ、野梨子? 僕ここにいるからね」
ついフラフラと近づき、寄り添うようにしてもう一声かけてやると、闇よりもなお
黒い髪がサラリと流れて人形のように整った横顔が見えた。
けれどもその瞳は刃のように鋭くて。
「ライトは下へ。今度こちらへ向けたら、本気で怒りますわよ?」
―――これもまた彼女の魅力のひとつ。迂闊に近寄れば眼差しひとつで殺さ
れる。
「…はい。ごめんなさい」
愚にも付かないことを考えている内に、もう半ばは過ぎただろう。
「これなら私たちでも…」
「なんとかできそうだね」
束の間たち止まって向かい合い、任務達成を確信したその矢先であった。
突然。
「――ッ!?」
背後から放たれた強烈な閃光がふたりを包み込んだ。
驚愕に目を見開く野梨子たちに向かい、猛烈なスピードで接近してくるのは
一台の四輪駆動車だった。
(つづきます)
>これ、いただくわ
キターッ! 大好きなんです作者さんアリガトウ
言葉の使い方が妙にツボです。
五代=筋交とか。
続きお待ちしております〜
>>これいただくわ
楽しみに読んでたから戻ってきてくれてウレシイ。
とことんヘタレな豊作がなぜか可愛くて可愛くて……ww
ヘタレ豊作が誘惑されるストーリー読みたいなぁ。
連載読めるのうれしいです(しかも大量up!)、乙です。
これからの展開を大いに期待してます。
「華と散る」うpします。清×野です。
>>240 「なんで清四郎を避けてるの? なにかあった?」
ほんとに美童は油断ならない。
野梨子の変化は一日で見破られてしまった。
怒った顔で視線をそらせ顔を赤らめていると、まるでイエスと言ってるようだと
「なにもありませんわ」
やっと言ってみたものの、あっさりと
「ふーん、なにかあったんだぁ」
とまるで透視されているようだ。
彼女が反論するより早く、美童の言葉が野梨子を打った。
「清四郎もひどいよね。悠理にあんなことしといてさ」
思わず美童の顔を見る野梨子に、美童は苦笑した。
「清四郎も男だったってことかな」
野梨子の顔はこわばった。
そうだ、清四郎は悠理にキスを……。
そして私にも。
「野梨子は清四郎のことを何とも思ってないんだと思ってた」
煩悶する野梨子は美童の声に我に返る。
ズキズキする胸を押さえて笑顔を作った。
「え……そうですわ、なんとも……」
「だよね。野梨子は悠理を応援してるんだもんね」
「……ええ」
「僕も悠理にはがんばってほしいと思ってるんだ、可憐には悪いけど。
清四郎と悠理ってけっこうお似合いじゃない?」
「そう……ですわね」
美童は静かに微笑んだ。
彼が去った後、野梨子は静かに涙をこぼす。
そっと唇に指で触れた。
『野梨子……僕は……あなたが……』
上ずった清四郎の声。熱っぽい彼の瞳。
もしかしたら、と思ったのは錯覚だったのか。
真っ赤になってうつむいた悠理の姿を思い出す。
「あたし、清四郎が好きなんだ」
あのとき、どうして本当のことを言えなかったのだろう。
私も、と。
私もずっと好きでした、と。
ずっとずっと彼ばかり見てきて、彼の声を聞くことだけを楽しみにしてました、と。
彼に叩かれた肩が熱くなったり、ノートを貸したときにわずかに触れる指先が愛おしくて。
でも自分から告げる勇気は無くて。
このままどうもならなくていい。
このままずっと側にいてくれたら、ずっとずっと彼だけを見て。
ずっとずっと彼のことを、清四郎のことだけを見ていられたらと勝手な願い。
ごめんなさい、悠理。
私も、清四郎が好きなんです。
この気もち、どうしたらいいの。
野梨子は静かに涙を流し続けた。
つづく
>華
野梨子の気持ちに、胸がギュっと締め付けられた・・・。
美童は、野梨子の気持ちに気がついてないのかな?
野梨子の変化をすぐ見破るくらい鋭いのに。
それにしても清四郎モテモテですな。
この話の野梨子って可愛いですね。
表では素直じゃないのに、実は健気に清四郎を想う様とか。
こういう娘って、私的にストライクですw
>華と散る
ストーリーで、今の所美童が気になる。
何を考えてるのか一番読めないなぁ。
華と散る、うpさせてください。清×野ですが、今夜は魅×悠です。
魅録は苦い思いで可憐の言葉を思い返しているところだった。
「私、悠理はてっきり魅録のことが好きなんだと思ってたわ」
俺もそう思ってたんだ。
振向くと、白い花が目に入った。
雪山のような花の群れが妙に胸に痛かった。
「こんなところにいたんだ、魅録。なに、話って」
剣菱家の広大な庭園。
庭で待つという魅録を悠理がやっとのことで探し当てたとき、
彼は二本目のタバコに火をつけたところだった。
見事な雪柳が群生している。
白く小さな花がしだれている様は滝のようであった。
待ち人が来たのにもかかわらず、魅録はちらっと悠理を見ると
雪柳のしげみの裏へ回っていく。
訝しく思いながらも悠理は彼について歩いて行った。
そこは白い花の群れに囲まれて、あたかも一つの部屋のようであった。
悠理は思わず声をあげる。
「おえー、すごいな。全然知らなかった、うちにこんなところがあるの」
うれしくってくるくる回ってみる。
その様子を魅録は白い煙を吐きながらじっと見ている。
「すげー。きれーい」
くるくる回る悠理の視界を真っ白な花が埋め尽くす。
と、回り続ける彼女を背後から魅録がつかまえた。
「なに、くるくる回ってるんだよ。あぶねえよ」
回りすぎたせいで、視界が揺れる。
「あ、うん」
悠理は笑って振り向こうとしたが、魅録の手ががっちりと肩に食い込んでいた。
「? どうした、魅録?」
肩をつかんだがっしりとした手がするりと滑り出す。
その腕は悠理の胸の前で交差し、しっかりと彼女の体を捕捉した。
悠理の頭に魅録の頬が当たっている。
魅録は彼女の髪に頬ずりしているようだった。
戸惑いながら、悠理は魅録の顔を見ようとする。
「えと、なに? どうしたの、魅録」
悠理の耳に押し殺したような魅録のつぶやきが聞こえた。
「好きだ、悠理」
その言葉を理解するや否や、悠理は魅録の腕から脱出しようとした。
「……ごめん、魅録、はなして……」
「悠理……!」
魅録は全力で彼女を抱え込んだ。
悠理の声は悲鳴に近くなる。
「はなせよ、魅録」
「いやだ」
「やめろ……やだ!」
「悠理!!」
二人はもつれ合って、白い花の中へ倒れ込んだ。
押さえつけようとする魅録を蹴りつけて、悠理が逃げ出そうとする。
その足首をつかんで引き倒すと、魅録はすかさず彼女の上に回りこみ、どうにか彼女の動きを封じた。
しばらく二人は息を荒げて睨み合っている。
ふいに魅録が顔を近づけてきた。
体の動きを封じられていた悠理は咄嗟に避けることもできない。
悠理の赤い唇に魅録の唇が重なった。深く。深く。
荒々しくからめてくる魅録の舌に悠理は息が止まりそうな思いをする。
「……み」
彼女の髪を愛撫しながら、魅録は口吻をやめようとはしない。
何度も、何回も、繰り返す。
まるで自分でもその行為を止められないかのように。
「悠理……悠理……」
「悠理……悠理……」
うわごとのように呼ぶ愛しい名前。
気づくと悠理は腕の中で静かになっていた。
唇が妙に赤くて痛々しい。
しっかりとつぶっていた目を魅録が名前を呼ぶとうっすらと目をあける。
小さくつぶやいた。
「もう、終わったの?」
魅録は我に返って、彼女を解放した。
起き上がった彼女の頬に小さな泥汚れがついている。
その泥を涙が洗い流していった。
激しい後悔の念が魅録を襲った。
涙をこぼしながら立ち上がる悠理の姿がぼやける。
「ゆ、悠理……俺……」
悠理はゆっくりと雪柳の向こうに消えた。
「バイバイ魅録」
つづく
>華
み、魅録ー!! _| ̄|○
魅録好きなんで辛い展開だ
いつか魅録に幸あれ〜
おおー魅×悠きてる〜。
花に囲まれながら、くるくる回る悠理が可愛い〜。
そして、魅録の行動にまさかこのままR展開になってしまうのか?と
ドキドキ(少し期待)してしまった(w
皆せつない思いをしていますね。
話が少しずつ動くのを楽しみにしてます。
日付がなんで3月32日なんだ……
エイプリルフールだから?
魅録頑張れ
魅悠だと高校生っぽくて例えRになっても
なんだか初々しくて清々しいわ
>>274 そっかそっか。教えてくれてありがとう。
他の板でも騙されてやんのと言われてる人がいた……Orz
277 :
名無し草:2006/04/02(日) 20:41:09
勇敢クラブ
278 :
名無し草:2006/04/04(火) 11:06:42
由香理あげ
成分分析なるものを有閑倶楽部でやってみた
●有閑倶楽部の成分解析結果 :
有閑倶楽部の67%は運で出来ています。
有閑倶楽部の31%はやましさで出来ています。
有閑倶楽部の2%は苦労で出来ています。
●菊正宗清四郎の成分解析結果 :
菊正宗清四郎の46%は知識で出来ています。
菊正宗清四郎の29%は理論で出来ています。
菊正宗清四郎の14%は根性で出来ています。
菊正宗清四郎の9%は努力で出来ています。
菊正宗清四郎の1%は世の無常さで出来ています。
菊正宗清四郎の1%は睡眠薬で出来ています。
●白鹿野梨子の成分解析結果 :
白鹿野梨子の58%は乙女心で出来ています。
白鹿野梨子の33%は優雅さで出来ています。
白鹿野梨子の5%は覚悟で出来ています。
白鹿野梨子の3%は知識で出来ています。
白鹿野梨子の1%は誇りで出来ています。
●松竹梅魅録の成分解析結果 :
松竹梅魅録の42%は犠牲で出来ています。
松竹梅魅録の21%は電力で出来ています。
松竹梅魅録の17%は機械で出来ています。
松竹梅魅録の16%はマイナスイオンで出来ています。
松竹梅魅録の4%は華麗さで出来ています。
●剣菱悠理の成分解析結果 :
剣菱悠理の38%は宇宙の意思で出来ています。
剣菱悠理の36%は体力で出来ています。
剣菱悠理の14%はお菓子で出来ています。
剣菱悠理の12%は金で出来ています。
●美童グランマニエの成分解析結果 :
美童グランマニエの80%は女で出来ています。
美童グランマニエの12%は欲望で出来ています。
美童グランマニエの8%は気品で出来ています。
●黄桜可憐の成分解析結果 :
黄桜可憐の69%は玉の輿で出来ています。
黄桜可憐の20%は希望で出来ています。
黄桜可憐の7%はやさしさで出来ています。
黄桜可憐の4%は宝石で出来ています。
感想募集。
>279-280
成分解析、私もダウンロードしたよ。
おもしろいね。
ところで私の持ってるのと>279-280が微妙に結果が違うのだが、バージョン違うのかな。
ちなみに
☆菊正宗清四郎の成分解析結果 :
菊正宗清四郎の46%は希望で出来ています。
菊正宗清四郎の29%は努力で出来ています。
菊正宗清四郎の14%は根性で出来ています。
菊正宗清四郎の9%は世の無常さで出来ています。
菊正宗清四郎の1%は理論で出来ています。
菊正宗清四郎の1%は睡眠薬で出来ています。
☆剣菱悠理の成分解析結果 :
剣菱悠理の58%はお菓子で出来ています。
剣菱悠理の36%は知識で出来ています。
剣菱悠理の4%は柳の樹皮で出来ています。
剣菱悠理の1%は理論で出来ています。
剣菱悠理の1%はアルコールで出来ています。
どっちにしろ間違いなく清四郎には睡眠薬が含まれているが、
悠理のお菓子含有率は上がっているw
>289
わたしもこれ少し前にダウンロードしたよ。
279の見て、何でこんなに当たってるんだと思ったけど、
私がやったのと違ったぜ。
でもおもしろかったよ。
でも本当の答えかい、これ。本当だったらすごいw
>281
私も281と同じだ。多分一番新しいヴァージョン。
でも、2人だけじゃかわいそうだぜ。
残りのメンバーの載せてみる。
白鹿野梨子の成分解析結果 :
白鹿野梨子の58%は夢で出来ています。
白鹿野梨子の33%は優雅さで出来ています。
白鹿野梨子の5%は欲望で出来ています。
白鹿野梨子の3%はハッタリで出来ています。
白鹿野梨子の1%は電波で出来ています。
松竹梅魅録の成分解析結果 :
松竹梅魅録の42%は犠牲で出来ています。
松竹梅魅録の21%は海水で出来ています。
松竹梅魅録の17%はカテキンで出来ています。
松竹梅魅録の16%はマイナスイオンで出来ています。
松竹梅魅録の4%は華麗さで出来ています。
美童グランマニエの成分解析結果 :
美童グランマニエの80%は花崗岩で出来ています。
美童グランマニエの7%はツンデレで出来ています。
美童グランマニエの5%は祝福で出来ています。
美童グランマニエの2%は蛇の抜け殻で出来ています。
美童グランマニエの2%は運で出来ています。
美童グランマニエの1%はやさしさで出来ています。
美童グランマニエの1%は株で出来ています。
美童グランマニエの1%は信念で出来ています。
美童グランマニエの1%は夢で出来ています。
黄桜可憐の成分解析結果 :
黄桜可憐の80%は小麦粉で出来ています。
黄桜可憐の8%は電力で出来ています。
黄桜可憐の8%は度胸で出来ています。
黄桜可憐の4%は下心で出来ています。
あまりそれっぽくないのも多い。
可憐の80%は小麦粉て。
美童のツンデレと野梨子の欲望は、逆の方がいいような気がするし、
でも美童のツンデレはぜひ見てみたいw
それにしても美童の項目が多いな。
魅録の半分が犠牲でできているのが泣ける。
>279 280
スマソ 家族に聞いたら私のは今年初めにダウンロードした古いやつらしいです。
今のやつもダウンロードしてみたら281と同じになりました。
逝ってきます
>285
GJ!
新しい方より古い方の解析的中率すごw
美童や可憐なんてほぼそのままだ。清四郎や野梨子もかなり。
魅録の犠牲や悠理の宇宙の意思はよく分からないけど、他の部分はなかなか。
古い方の解析見れておもしろかった。
>286
私は逆に悠理の宇宙の意志と魅録の犠牲に妙に納得したよ。
悠理のわけのワカラン器の大きさと、それゆえの尻拭い役である魅録、みたいな。
清四郎の1%の世の無常と同じく1%の睡眠薬も同じく偉大なる悠理様の所業によるものかとw
ヘロインがまだ体内に残っているのかw
彼らは今だったらどんな事件を起こしてくれるだろうかw