108 :
三戦志演義:
日和見が三戦復興のために活躍する物語
――――800年の歴史をもつ三戦朝は乱れていた。
相次ぐ政治腐敗、また各地で蜂起する賊徒ども。
もはや三戦朝にそれを収める力は無く、派遣した者に統治を任せているのみであった。
農民は賊におびえながら生活をし、派遣された者の中には賄賂を好み、暴政を敷いた者も少なくはなかった。
日和見はそんな三戦朝の腐敗を見て育った。
しかし、14歳の日和見はそれが普通だとは思わず、なんとか三戦朝の権威を取り戻したいと思っていた。
「ああ、今日もまた各地で罪無き民が虐げられる」
日和見の心痛は多感な少年期であることも含め増すばかりであった。
日和見の父は死別し、母は農作業に忙しくあまり日和見の面倒を見なかった。
14歳ながら日和見は10歳で長沙のはいだらーの門を叩き、その教えをこいた。
今故郷へ4年ぶりに戻ってきた日和見はその貧しき現状を見てため息をついた。
「これがこの世の光景か。朝廷は全く機能していないし、賊はやりたい放題、私は我慢できない」
日和見は唯一の友人である迅義にそう語っていた。
迅義は日和見より年上であり、また名門の出であるためその権力は大きかった。
しかし迅義の父奮迅はあえて甘えた生活をさせようともせず、遠くはいだらーへ師事させたのであった。
日和見とはその時の学友である。彼らは常に天下のことについて論じ合っていた。
帰郷の際、日和見の実家を訪れた迅義は日和見と共に世の中に絶望した。
「こんな世の中は間違っている。日和見、君はどうするつもりか」と迅義。
「僕の父奮迅は三戦朝の重臣であり益州の統治は父が行っている。
自慢ととられるかもしれないが益州では恐らくここまでではないだろう」
「いや迅義、そんなことはないよ。朝廷の権威がなくなった今各地で反乱が相次いでいる。
現在世間を騒がせている無双厨勢力がその代表的な例だ。君の父もその討伐に苦戦していると聞く」
「うむ。我が蜀の地にも無双厨が蜂起したとは聞いている。僕は行かねばならない」
「ああ、君の父上をいち早く助けるべきだ」
次の迅義は日和見に別れを告げて去った。日和見はまた一人ぼっちになってしまった。
「迅義は天下のために動き出したというのに私は・・・」
悩む日和見に母は声をかけた。
「日和見や・・・お前がそこまで天下のことを思うんなら朝廷に仕えたらどうかね?」
「母上。それはもちろんそうしたいのですが何分私は農民の出。朝廷には見向きもされますまい」
「今無双厨の反乱が相次ぎ、呉の接触者が討伐軍を募集している。その応募は広くこの平原にまで伝わり、
お前も近く徴兵されるだろう。」と母はため息をつきながら言った。
「母上・・・申し訳ありません。私は徴兵されたら最後、朝廷のために身を滅ぼすつもりです。」
「お前がやりたいことをやりなさい。私はそれが望みです」
日和見は泣いて母にすがりついた。母も日和見を優しく抱きしめた。
日和見の初めての親の愛のような気がした。その夜は親子で遅くまで語った。
次の日、日和見の元へ太守可児爺から徴兵が来た。物々しい兵士が3名訪れ日和見を連れていった。
母は泣く泣く見送っていたが、やがて何事も無かった様に家へ戻っていった。
その顔には笑みのようなもの見えた。
日和見がいなくなり食料の負担も消えたことがこの母にとってどれほどの幸福だったかはわからない。
一ヶ月後、可児は無双厨軍の砦を打ち破るべく日和見を呼んだ。
「ご存知の様に我が城とあの砦は兵が入って以来今まで一戦もせずに睨み合っている。
そろそろ時期が来たと思うので打ち破りたいが、君はあの堅牢な砦をどう打ち破れば良いと思う?」
「いけません、あの砦に篭るは恐らく無双厨軍の最強の将であると思われる馬です。
馬の軍師のワイワイは馬と並び四天王と呼ばれる存在です。迂闊に攻めれば必ず計にかかるでしょう」
「そんなことはない。何故ならば馬は一ヶ月篭りっきりで砦から出た試しがない。
何をやっているか知らんが、食料も尽きてきたところだろう。
我が一族の陳留の可児隙とは椅角の構えもとれる。攻めるのは今だ」
「駄目です。私が観察したところ馬の砦には並々ならぬ殺気が漂っています。
食料切れを狙うのならばこちらもあと一ヶ月待っても遅くはないでしょう」
「可児様。そやつはいたずらに戦を延ばし、自分の保身しか考えておりません。
私に5000の兵をお与え下さい。まず奴の砦を囲み、門を力づくで突破し馬の首をとってきましょう」
「おお、比叡坊。その言葉はまさに我が意と重なる。しかし日和見の言う通り恐らくは黙って篭城しているわけではないであろう。
それにここ一ヶ月何の動きがないのも不審だ。砦の前に陣を構え、奴らを挑発してから攻めろ」
比叡坊は勇躍して準備をはじめた。日和見は不安そうに見守っていたが
「気の荒い比叡坊の手前ああ言ったが、私も君の言う通り慎重に動くべきだと思っている。
しかし時期は今しかないのだ。私はこの城を守るので君は比叡坊を補佐してくれ」
日和見は了解して、比叡坊の陣へ加わった。
「今、我が義兄ちんこは可児爺様の命で北海の永井を助けに向かっている。
我が軍の主力となるのはこの比叡坊である。お前は我が戦を黙って見ておればよい」
比叡坊は自分より若い日和見が大抜擢を受けたことに不満を持っていたので日和見を後陣に下げ出陣した。
「我は三戦朝の名族可児家が先鋒の比叡坊!敵将出て来い」
比叡坊は馬が立て篭もる砦の前に陣を展開し、大声で馬を呼んだ。
砦はしーんと静まり返り、人がいる気配すらない。予想通りなので比叡坊は
「砦にこもるは生きる屍か。それとも反乱の大罪を恥じて出られぬのか」
と挑発してみた。しかし城内からは物音ひとつ聞こえない。
比叡坊は苦りきって「これはどういうことだ」と頭を抱えていた。
比叡坊は最前日和見に「下がっていろ」と罵声を飛ばすような性格ではあるが
仮にも可児の眼鏡にかなった将である。迂闊には城攻めとはいかなかった。
困りきった比叡坊は陣を下げ、一回離れた場所で休をとることにした。
そのまま二日が過ぎたが砦には何の動きも見られない。ある日比叡坊は日和見を呼んで聞いた。
「君は前に城攻めは危険といったが、あの様子だと城の兵は餓死してるか食料がなくなって動けなくなってるに違いない。
俺は明日こそ本格的に攻めようかと思うのだが如何に」日和見は少し口を濁して言った。
「やはり危険だと思います。が、砦の中には人気がありません。この謎が解けない限り、
われわれは馬の手中にあるようなものです。本格的な城攻めの前に降伏勧告を試みてはどうでしょう」
比叡坊は「なるほど」と思い、「貴殿らの城は包囲されてはや一ヶ月。食糧問題も深刻であろう。
今降伏すれば、命は救ってやる。ただし猶予は二日だ」といった内容の矢文を打ち込んでみた。
しかし、それから二日しても何の反応もない。
比叡坊は「今こそ攻めるとき」と城攻めにかかった。
全く反応のない砦なので、比叡坊もむしろどう攻めるべきなのか迷ったが、
工作兵を持ち出して壁のもろい部分を壊し始めた。
城内の攻撃に備えて弓兵をその後ろに備えて万全の中での城攻めだった。
途中から日和見も比叡坊も中には本格的に兵がいないことに気づいた。
壁が壊され始めても城内は無反応だった。城壁の一角が破壊され、比叡坊の軍は慎重に中に入ったが何もない。
「我が監視下をくぐり抜けて撤退に成功したというわけか」
比叡坊は一人納得して全軍を砦に入れた。中は人どころか人がいた形跡すらなかった。
ただ、旗や武具をつけている人形がおいてあっただけであった。
「これは薄気味悪い。まるで本物の兵士のようだ」日和見は一通り見るとそう唸った。
そこに急報が来た。「可児様の本陣、馬の奇襲にあい、全軍壊滅の危機!」
「しまった!」比叡坊は急ぎ軍をまとめて出陣した。
しかし、可児のいる本陣までは思いのほか遠い。それは崖に囲まれた狭い道を
抜けたすぐのところに砦があったため、城攻めの部隊以外はだいぶ離れたところに陣を移さなければならなかったのだ。
比叡坊の軍は撤退する途中、崖から岩を落とされ、伏兵に出会い、5000の兵は半分にまで減らされた。
「なんということだ」日和見は初めて自分の前で起きる惨劇に目を覆いたくなった。
比叡坊はなんとか危機を脱し、本陣まで戻ったが、そこを占領していたのは馬だった。
比叡坊は引くにも引けず、馬にぶつかっていった。
「やあ、比叡坊。君の主人可児は我が偽りの兵に本陣の人員を裂いてわざわざ私の奇襲を受けやすくしてくれたよ。
彼の軍は敗走し、君は四面楚歌の位置に来ているということだ」
「なんだと!」比叡坊は激怒し、馬に打ってかかった。
馬は挑発後、後ろに下がり「奴を倒せる猛者はいないか」と叫んだ。
「それがしが参りましょう」
「おお、とおるか。いけ」
無双厨軍の将とおるは大剣を振り回して比叡坊に迫った。
しかし「来れるのはどこの雑魚だ!」と比叡坊が大喝。とおるは馬から落ちてしまい、走って逃げ戻ってきた。
「なんと不甲斐ない。比叡坊など俺が一撃で」と馬自慢の配下、ペッソは槍を持って比叡坊に一騎討ちを挑んだ。
「三戦王朝腐敗して、今や天下の民が立ち上がるときである。杉・ザ・山P様の改革のため貴様には死んでもらう」
と大声で宣戦した後、比叡坊は大笑いして「賊が何をいまさら正当化しているのだ」と罵った。
激怒したベッソは比叡坊に打ってかかったがまるで敵ではない。
弄ばれた後、「相手にするのもめんどい」と一喝。ベッソの首は比叡坊の一薙ぎで飛んでいった。
これを見た馬は怒髪天を衝き「比叡坊、勝負勝負」と勝負を挑んだ。
比叡坊もそれに応えてお互い譲らず四、五十合戦った。
しかし、頃合はよしと見た比叡坊は馬を凄まじい威圧で退かせると
「我に続け」と部下を督して四方に囲まれてる一角へ突撃し、ついに包囲を脱出した。
その突撃に馬も防ぐことが出来ず、「なんという猛将よ」と舌を巻いていた。
とにもかくにも比叡坊はなんとか逃げ切り、敗走した可児を追って落ち延びていった。
可児の軍は馬に破れ、可児爺の下にたどり着いていた。
「実に馬という男は無双厨最強と呼ばれるだけある」と可児は歯噛みして言った。
「父上。今回は馬の計略にはまり、相手の有利な地形で完敗を喫しましたが次はお任せください」
「しかし、濮陽を失い、我らはどうすればいいのか」
「ご心配なく。先ほど砦に向かっていた比叡坊が戻ってきました。彼を先鋒とし、
陳留の可児隙のところへ向かうのです。すでにあちらには報告してあります」
可児は父を安心させ、早速軍をまとめ陳留に向かった。
可児隙は可児爺の弟の子で幼いころから可児の兄貴分として親交があった。
今可児から「助けてくれ」といわれると可児隙は急ぎ、救援を向かわせ可児を保護した。
「やはり頼りになる男だ」可児は感動し、陳留到着後すぐに可児隙に礼をした。
「おおご無事でしたか」可児隙は可児の手を取り合ってお互いの再会を喜んだ。
「無双厨軍の力は甚だ強大です。あれはただの賊軍ではありません。可児殿が最前戦われた馬は
元は三戦王朝が誇る名将。杉・ザ・山Pの反乱にはこうした多くの名将、名臣が加わっております」
可児隙はそう言い、自分が今対峙している厨軍の将郭周牙のことを説明した。
「郭周牙は杉・ザ・山Pの参謀だった男です。しかし彼には三戦王朝へ刃向かう意思がありません。
山Pの反乱に仕方なく付き従ったものの、彼とは既に内通しており、彼は私を信頼し、全てを教えてくれました」
「ふむ・・・それはよいが、罠ではないのかね?」
「仮に罠としても我が軍には十分に打ち破れるだけの策があります」
可児隙はにやりと笑うと、地図を広げて指をさして言った。
「郭周牙は冒険板と呼ばれる軍を指揮しています。これは無双厨の中でも山Pに狂信的な
人員で構成されており、郭周牙も迂闊な行動には出れません」
「冒険板?」
「はい。すなわち、厨軍精鋭部隊とでも言いましょうか。各地で蜂起した軍は無双厨四天王といわれる
名将四人が指揮しております。その下に何十人もの軍団長を配置し、それぞれが各都市を攻めているというわけです」
「ここには郭周牙率いる冒険板軍が迫っているということだな」
「その通りです。可児殿が先に敗れた馬がここ一帯を受け持ってる四天王筆頭です。
その下に郭周牙、もぐもぐ、司馬憂、梟などの軍団長がいます。冒険板は彼らに与えられた
精鋭部隊で、民の軍とは違い、よく訓練され屈強です。まともに戦ったら大損害は免れないでしょう。」
「つまりわしが先に戦った馬もそれほど強大であったというわけか。それならば敗れても仕方ない」
可児は一人言い訳し、納得した。可児隙は郭周牙を投降させるための手順を示した。
まず郭を孤立させるため、周りにいる司馬憂、梟、月と太陽の陣を撃破することを説明した。
「可児殿にはこの周りの敵をお任せしたいのですが」
「任せろ。まず私が2000の兵で敵の司馬憂の陣に奇襲を仕掛ける。同時刻に比叡坊を先鋒とした5000の兵で梟に正攻法を挑む。
残る月と太陽だが、可児隙、君が当たるかね?」
「いえ、私は伏兵を忍ばし、郭の投降を誘わねばなりません。誰かほかの大将を頼みます」
「うむむ・・・この大任を任せられる大将といえば・・・」
「可児殿。私が参りましょう」
「おお、日和見。しかし、お主はあくまで参謀。こんな大任を果たせるだろうか」
「なんの。私とて戦場に出て戦を学び、はいだらー師匠の教えもこいてきたものです。
この戦の重要性も理解しております。郭周牙が投降すればこの方面の無双勢力は一網打尽に出来るでしょう」
「よく言った。では汝に任せる」
可児は日和見を軍団長に昇格させ、可児、比叡坊、日和見の三部隊が各々厨軍にあたることになった。
郭周牙は無双厨軍の中核に当たる人物だった。彼は三戦朝に若くして仕えていたが、
杉・ザ・山Pの知恵袋でもあった。山Pは無双拡張計画という大計をワイワイから与えられ謀反を実行した。
郭はそのとき全く知らなかったが、朝起きると官軍が自宅を取り囲み、自らの命を狙っていることに気づき、
急ぎ逃げ、山Pのもとへ駆けつけ初めて事を知ったのであった。
「大丈夫。余は君と共にこの無双拡張計画を成功させ、共に腐った三戦朝を
無双の、無双による、無双のための朝廷へと作り変えよう。まずは古き風習の官軍を打ち破らねばならん」
山Pの狂信的な言葉に郭は諌める言葉も知らなかった。
無双厨軍は強かった。各地で朝廷へ恨みを含む者を次々と吸収していき、それに宦官である蕎協の専横が拍車をかけた。
山Pは朝廷内の自分の派閥に属していた者を重用し、各方面へ派遣させ、その地を治めさせていた。
無双厨軍の四天王と呼ばれる馬、柊、ワイワイ、変質社はそれぞれの任地で征服をし始めた。
特に名門可児家の治めるこの地方では馬とワイワイが結託し、その強さは凄まじい勢いで、攻められた県令は次々と無条件降伏をしていった。
馬が征服する一方、別方面から可児隙を攻めていた郭は厨軍のやり方に疑問を感じていた。
彼はある日、参謀のもぐもぐを呼んで言った。
「北海の永井尚志が降伏したようだ」
「そうらしいですね」
「我が軍の勢い、もはや誰にも止められぬ」
「実にいいことです」
「本当にそう思うかね?」
「・・・どういうことでしょう?」
「我々は朝廷から見れば明らかな賊軍だ」
「それは仕方ありません。あの腐りきった朝廷に愛想を尽かし、反乱を起こしたのですから」
「私も君も三戦朝の臣だ。然るに帝に向かって刃を向くなど・・・」
「帝に刃を向いたのではありません。今ある金と欲望でつながれた奸臣に対しての反抗です」
「何とでも言える」
「山P様はまず我が軍が三戦全土の支配権を握り、しかる後帝を補佐して無双による善政を広げようとなさっております」
「君は知らないのか。山P様は帝のお力になろうとなど思っておらぬ。常に山P殿の相談に乗ってきた私だ。それくらいのことはわかる」
「・・・あなたは何をするつもりですか」
「もはや地方の賊でさえ味方につけ、完全な賊徒と化したこの軍を変えねばならない」
郭は何かを決意したかのように言った。もぐもぐは黙って郭の様子を見ていた。
(郭殿には謀反の兆しが見える。しかし私を信用なさってくれているのも事実・・・)
もぐもぐは何も言わずに下がった。
それからしばらくして馬に敗れた可児が可児隙と結託し、攻めて来るとの連絡が入った。
「来たか。私の転機も近い」
郭は迎え撃つ味方を見て一人つぶやいた。
「革命を邪魔する賊どもが。我が精鋭に死角なし。北東西の三方向から攻めてくる奴らを各軍撃破せよ」
郭周牙の同僚で冒険板精鋭部隊の第三軍を受け持つ月と太陽は声高に全軍を指揮した。
「すすめ!」第一軍の将、梟は郭を残し、全軍を進軍させた。そして各軍対峙し、両軍共に宣誓した。
「我は三戦朝の忠臣、可児家の可児爺が長男可児である。朝廷の命により反逆の賊徒共を討伐しに参った。
この大軍を見てわかるとおり貴様らに勝ち目はない。投降すれば今なら罪は軽いだろう」
それに対した梟は唾して言った。
「笑うべき妄言かな。貴様らを動かしているのは帝のご意思ではない。
それに群がる奸臣の自己保身のための出兵だ。お前らはその奸臣の操り人形に過ぎん」
厨軍からどっと笑い声が聞こえた。可児は激怒し、
「おのれ。賊がぬかしおって!可児丸、あのゴミの首をとってこい」
「おお!」
可児一族の可児丸は矛を持って梟へ迫った。
「猪口才な」
梟は自ら剣を持ちそれを迎え撃った。
二人の激戦が開始される少し前、司馬憂が守る厨陣の西に比叡坊が対峙した。
「我は可児家の将、比叡坊。死にたい奴はかかってこい」
司馬憂は比叡坊の威圧に少し引き下がったが
「我に二人の猛将あり。彼らを破ってから大言を吐け」
と威嚇し、すぐ後ろを振り向き二人の武将を比叡坊に当たらせた。
「Mr.ほんにゃらとはわしのことよ」
「凛流興概嵐だ。比叡坊覚悟せよ」
二人は同時に比叡坊にかかっていった。比叡坊はにやりと笑って
「名もなき雑魚が」
と一言、凛流興概嵐を斬り下げ、それに驚き逃げるMr.ほんにゃらを後ろから凛流興概嵐の持っていた槍を投げ串刺しにした。
「な、なんと」
司馬憂は慌て、厨軍も恐怖に飲み込まれた。
「司馬憂覚悟せい」
比叡坊は全軍を束ね突撃を敢行した。
日和見はつい最近可児爺に抜擢されたばかりで、初の軍を率いることとなったため、
敵の猛将月と太陽を破るのは至難の業であった。しかし臆することなく
「敵の将、月と太陽は用兵に疎いと聞く。私も軍を率いた経験はないが、可児殿のもと励んできたこの苦労が勝利を呼び込むであろう」
日和見は兵を督すると月と太陽と対峙した。
「可児軍、第三軍軍団長日和見だ!三戦朝の命のため賊を討ちに参った」
すると笑いながら月と太陽が出てきた。
「可児も我をなめているようだのう。戦の経験のない青二才をぶつけてくるとは」
可児のときと同様、月と太陽の軍から大きな笑い声が聞こえてきた。
「・・・さすが腐っても名将といったところか」
日和見は押し黙ってしまった。彼は既に月と太陽の醸し出す威圧感に呑まれてしまっていた。