【誰か】軍事板難民キャンプ76【あの夏の日を】

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923ぽこ山ぽこ太 ◆AUqcjk7kV6

アメリカの片田舎の町はずれに、母一人女の子一人、
ふたりきりの家族が暮らしていました。

ある日のこと。
親戚の見舞いの為、母親はどうしてもひと晩、
家をあけねばならなくなりました。ところが折悪しく、
テレビが嫌なニュースを流し始めたのです。
「隣町の刑務所から、凶悪犯が脱走しました。
 くれぐれも注意してください」と。

「大丈夫よママ!」不安でいっぱいの母親に向かって、
可愛がっているペットのコリー犬を抱きあげながら、
女の子はにっこり笑って返事しました。
「ちゃんと戸締りすればいいんでしょう?
 この子もついててくれるし。 平気!」
924ぽこ山ぽこ太 ◆AUqcjk7kV6 :2005/08/26(金) 17:17:30 BE:173203788-#

お留守番中の子どもがすることは、みんな一緒です。
思い切りお菓子を食べ散らかし、
存分に夜更かししてテレビを見る。
いつの間にか女の子はテレビをつけっぱなしにしたまま、
居間のソファでぐっすり眠ってしまいました。

ふと目を覚ますと画面はすっかり砂の嵐。
女の子はあわてて、家中をくるくると走り回って、
戸締りを点検して回りました。コリーも一緒です。
玄関のドア、裏口、幾つもの窓……地下室の明かり取りの窓が、
まだ背の低い女の子には手が届かなくて、
確認できなかったけれど。

寝巻きに着替えて明かりを消して、さて、おやすみなさい。
いつも通り、コリーはベッドの下に丸くなります。
……どれくらい眠ったでしょうか。
ふと、女の子は頬に風を感じて目を覚ましました。
起き上がりかけて、はっと身を固くします。
窓はどこも、全部締め切ってあるはず。
夜風が入ってくるなんて、そんなこと。
おまけに何やら物音まで聞こえます。

ぽた、ぽた、ぽた。
925ぽこ山ぽこ太 ◆AUqcjk7kV6 :2005/08/26(金) 17:18:40 BE:48714236-#

怖くなった女の子は、そっとベッドの下に指を差し出しました。
コリーがそこに居てくれるはずです。
何かあったら、きっとこの子が守ってくれる……すると、
女の子の細い指を、ぺろぺろ、と、
温かい舌が舐める感触がしました。
ああ、よかった。
安堵した女の子は、毛布をかぶりなおすと、
そのまま、また眠りに落ちてゆきました……。

翌朝。
耳をつんざくような悲鳴、何かを床に落とす重い音。
女の子はびっくりして飛び起きました。
おそるおそる声のした、居間を覗き込みます。
帰って来たお母さんが、荷物を床にぶちまけて、
床に座り込んだまま、がたがた震えていました。
お母さんの視線をたどって上を見上げると。
926ぽこ山ぽこ太 ◆AUqcjk7kV6 :2005/08/26(金) 17:20:17 BE:173203788-#

元の形をとどめないほどに、
ずたずたに切り裂かれたコリーが、
無残にも天井から吊り下げられています。
床一面に黒く大きく広がった血だまり。
じゃあ、あの、昨夜の、しずくが落ちる音は……。

居間のしっくいの白い壁には、コリーの赤黒い血で、
こう殴り書きしてありました。

「指を舐めるのは犬だけじゃないんだぜ! お嬢ちゃん!」