夢の舞台に立った大山加奈
そこに至る道のりは、決して平坦なものではなかった
歯を食いしばり、ようやくつかんだ日の丸のユニフォーム
そしてそこには娘を支え続け、共に戦ってきた家族がいた
しかし、アテネのコートで全日本に最後を告げたサーブ
無惨にもそのボールは大山の手をはじいた
実況「アテネの夏がココで今終わりました」
大山の新たなる試練
加奈「ココって言う時に決められる本当のエースになりたいです」
大山加奈 試練 そして飛躍---
入団2年目で、チームの大黒柱に成長した大山加奈、二十歳
オリンピックからVリーグに戻った今シーズン、彼女の意気込みは去年とは違った
今年の大山には嬉しい出来事があった
一つ下の妹・未希が同じ東レに入団したのだ
高校バレー界に旋風を巻き起こした大山姉妹
二人の呼吸がコートに及ぼす影響は大きい
未希は姉と同じバレーの名門・下北沢成徳出身
姉妹ともキャプテンという大役で、チームを全国の頂点に導いた
そんな妹が同じ東レのチームメイトとなったことで、姉はさらに大黒柱としての意識を高めた
未希「今までもずっと一緒にやってきたから、一緒のチームに入ってやっぱり良かったと思います」
加奈「私の気持ちを何も言わなくても分かってくれるし、人に言えないことも言えるのですごく心強いです」
--お姉さんの考えてることって分かりますか?
未希「顔で(笑)」
加奈「(笑)」
さらに大山加奈にとって、今年のVリーグのタイトルに賭ける気持ちは大きかった
それは昨シーズン、誰よりも悔しい思いをしたからだった
コートで涙を流す大山
東レが決勝リーグ進出を決めた大切な試合で、活躍を期待されていた大山はベンチにいた
腰痛のためにプレーすることが許されず、チームの勝利にも心境は複雑だった
加奈「ベンチから大きな声を出して、少しでもみんなのチカラになれるようにと思って」
大山はこのチームが大好きだ
だから今年は勝利に貢献したい
達川「小さいことにこだわらず、大きい選手に育って欲しいですね」
そして2年目にして課せられたエースの責任を、大山は今シーズン必死に果たそうとしている
加奈「去年ケガして出られなくて最後、みんなに迷惑をかけてみんなに助けられたリーグだったので、今年は自分がみんなを助けて、優勝したいなって思います」
オリンピックという大舞台を経験し、大山はこの一年で飛躍的に成長した
しかし夢の舞台につながる道は、試練の連続だった
その道のスタートは、全日本プレーヤーとなった時から…
大山の最大の武器は、日本人離れしたパワフルなスパイク
デビュー当時から、女子バレー復活の鍵を握る逸材と謳われた
全日本の柳本監督が、アテネオリンピックに向けて大山に期待したのは、真のエースになること
それは世界の頂点に立つための、柳本の長期的なプランの一つでもあった
柳本「足りないところがまだまだあるんだから、今できなくてもそう思うことによって明日できたり明後日できたりしていくと思う。
彼女がやってくれないと、日本の将来はないんだから」
柳本は合宿で大山に、世界で勝つための厳しさを一から叩き込んだ
オリンピックの舞台に立つことは幼い頃からの夢
しかしその夢への想いは何度も消えかけた
柳本「どこにおんねん、お前!」
柳本「出て行け!」
成田「カナー」
「カナ」
大山にとってそれは、耐え難い試練だった
エースにのしかかるプレッシャー
加奈「もう夜寝るのも辛かったです」
--寝るのが辛いていうのは、どういう感じなんだろ?
加奈「また明日なっちゃうから」
試合にすら出させてもらえない日々
声を出すことしかできない時もあった
そんな苦しむ大山を支え続けたのは家族だった
--そういう時に一番支えになったのは?
加奈「家族ですね」
崩れかけようとしていた大山を支えたのは、家族からのメールだった
『元気?かなりキツイ状態が続いているみたいだね。少しは母にも愚痴ってよ。
いつでもどこでもとーちゃんとかーちゃんは加奈の大ファンだから!
加奈が頑張っているかと思うと、私も泣き言言えないなと頑張れるよ♪
一緒に頑張ろうね!自分のために☆大山久美子』
離れていても母は娘のそばにいた
保険の外交員として多忙な毎日をすごす母は、会場で娘のプレーを応援することはできない
「あの時の『OQT出られないから』って言っていた時が一番きつかったかな。
精神的につぶれないで欲しいって言う…うん。
やっぱりね、加奈の良さは試合で勝った時のガッツポーズって、みんなによく言われるんですよね。それと笑顔と」
そして父もまた、娘のことを心配しない時はない
トラックの運転手を30年続けている父
仕事は深夜に及ぶため、試合に足を運ぶことはほとんどできない
ただたまにかける電話が、娘をおおいに元気づけるという
--なかなか応援とか行けないんですか?
英一「んーなかなかねー。是非(応援に)行きたいですよね」
--お父さんもたまに電話するんですか?
英一「本当にたまになんですよね。気がむいた時に。
ただね、心配なのはケガとか、元気にやってるのかとかそういうことばっかりですよね」
アテネオリンピック、大山加奈の姿が夢のコートにあった
家族がいたからあきらめなかった
そして夢を追い続けられた
加奈「最初コートに入った時は、観客席に両親がいたのもあって、すごく嬉しくて涙が出てきました」
夢の舞台で大山は、持つものすべてをコートにぶつけた
全日本はメダルを手にすることはできなかったが、大山はエースの自覚という大きな収穫を得た
そして、幼い頃からの夢には続きがあることに気づいた
再びVリーグのコートに戻った大山
一回り成長した姉を待っていたのは妹・未希だ
お互いになんでも話合える相手が同じチームにいることは心強い
未希「お気に入りの品を言って下さい」
加奈「えーっとこれです。これを抱いていつも寝てます」
未希「汚い」
加奈「成徳4番です」
未希「近すぎる!着てるみたい!デブみたい(笑)」
大山は落ち込むたび、妹に救われてきた
ずっと姉の背中を追ってきた妹は、誰よりも大山加奈を知っている
そして自分もまた、全日本で活躍する姉の姿に勇気づけられてきた
未希「高校時代とかも二人でチームを引っ張って優勝に導いたりとかしていたんで、
東レもそうやって二人で優勝に貢献できたらいいし、
そしてそのまま北京オリンピックに二人で出られたらいいと思います」
今年、二人の娘を応援するために、大山の両親は後援会を発足させた
久美子「一つのことに向かって頑張っていくっていう部分では、
(加奈と未希の想いは)すごい一緒なんだろうなって」
11月、Vリーグが開幕
新しいステージに立った妹・未希
まだ試合に出場する機会は少ない
しかし大山姉妹が目指すものは…
二人で同じコートに立ち
二人でチームを優勝に導き
そして、二人でオリンピックの舞台に立つこと
だから、大山加奈は走り続ける
アテネで目覚めたエースの自覚を胸に、これから新たな挑戦が始まる
二十歳の大砲は、まだ夢の途中
大山加奈 今、さらなる飛躍の時--