若い男はなおも不安が払拭されない様子で、おしぼりでしきりに手を拭く。
「僕には……後がありません」
俯きながらの言葉に、年嵩の男が宥めるように肩を叩く。
そのときだった。
「野梨子」
それまでじっと背後の会話を聞いていた八代が、声を潜めて彼女を呼んだ。
見ると、いつになく厳しい表情をしている。
「君、カメラ付き携帯を持っているかい。――出来たらデジカメの方がいいん
だが、贅沢は言わない」
「携帯ならありますけど」
「それでいい。うしろのふたりを撮ってくれ」
「結構ですけど……撮れば、音が出ますわよ」
「構わない。馬鹿っぷるが写真の取り合いっこしてる振りでもすればいい」
八代の言葉は野梨子にとって甚だ不本意ではあるが、どうやら緊急を要する
らしい。仕方なく野梨子は携帯をバックから取り出した。
「ええ〜、僕を撮るのかい、よしてくれよ」
すかさず八代は明るくそう言う。
「ふふ。いいじゃありませんか。スーツ姿のあなたを見るなんて、滅多にない
んですもの」
カシャリ。
言葉と一緒に野梨子は携帯の真中にあるスイッチを押す。――八代に比べる
と若干大根の感が否めないものの。
運良く、ふたりの男はシャッター音にすら気が付かなかったらしい。
「見せてくれよ。僕、写真写り悪いんだよね」
念のため、演技を継続させながら八代が携帯を覗き込む。そして小さい声で、
知らないやつだな、と呟く。
と、そのときタイミングよく二人の目の前で携帯がメールを着信した。
送信者は魅録で、そろそろパーティーが終わるという知らせだった。
ツヅク