◇◆◇◆有閑倶楽部を妄想で語ろう21◇◆◇◆

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624Deep River(42)
慣れた手つきで珈琲を落とす清四郎の背中を睥睨しながら、悠理は徐に口を開いた。
「何でなんだ?」
清四郎は悠理に背を向けたまま、応える。
「随分、漠然とした質問ですね。答えようがありませんよ」
「はぐらかすなよ。お前が剣菱を潰そうとしていることだよ!」
「ああ、其の事ですか。相変わらず、直球勝負なんですね」
カップを両手に振り返った清四郎の口角は微かに上がっていた。
悠理の前にその一つを置き、もう一つのカップに自らも口を付ける。
「復讐なら、あたい一人にすればいいだろ? 剣菱を――魅録を巻き込まないでくれ」
「何か、誤解しているようですね」
清四郎がわざとらしく肩を竦めて見せる。
「誤解?」
眉を吊り上げて問い返す悠理に、清四郎は笑みを浮かべて応える。
「僕はあなたにも、勿論魅録にも復讐しようなどと思ってはいませんよ。
それとも、僕に復讐されるような心当たりでもあるんですか?」
「ないけど……じゃあ、どうしてこんなことに……」
「……聞かないほうが、知らないほうがいいこともあるんですよ、悠理」
昔に戻ったような、優しい口調で清四郎が言った。
「清四郎?」
「僕はね、悠理。あなたにも魅録にも、勿論可憐や美童や……
野梨子にも……あの頃のまま笑いあっていて欲しいと、願っているんですよ。嘘じゃない。
でも――あなたと魅録が剣菱の人間である以上、僕は容赦しませんよ」
清四郎が腕時計を見つつ、立ち上がりながら告げた。
「タイムアウトです。もう、いいですね?」
有無を言わせぬ口調に、悠理はしぶしぶ腰を上げた。
黙したまま玄関まで送ってきた清四郎が、抑揚の無い声音で言う。
「怨むなら、あなたの父親を怨むんですね」
「――どういう――」
皆まで訊けず、悠理は口を噤んだ。
目の前の扉が、冷たく閉じられた。

<続きます>