慣れた手つきで珈琲を落とす清四郎の背中を睥睨しながら、悠理は徐に口を開いた。
「何でなんだ?」
清四郎は悠理に背を向けたまま、応える。
「随分、漠然とした質問ですね。答えようがありませんよ」
「はぐらかすなよ。お前が剣菱を潰そうとしていることだよ!」
「ああ、其の事ですか。相変わらず、直球勝負なんですね」
カップを両手に振り返った清四郎の口角は微かに上がっていた。
悠理の前にその一つを置き、もう一つのカップに自らも口を付ける。
「復讐なら、あたい一人にすればいいだろ? 剣菱を――魅録を巻き込まないでくれ」
「何か、誤解しているようですね」
清四郎がわざとらしく肩を竦めて見せる。
「誤解?」
眉を吊り上げて問い返す悠理に、清四郎は笑みを浮かべて応える。
「僕はあなたにも、勿論魅録にも復讐しようなどと思ってはいませんよ。
それとも、僕に復讐されるような心当たりでもあるんですか?」
「ないけど……じゃあ、どうしてこんなことに……」
「……聞かないほうが、知らないほうがいいこともあるんですよ、悠理」
昔に戻ったような、優しい口調で清四郎が言った。
「清四郎?」
「僕はね、悠理。あなたにも魅録にも、勿論可憐や美童や……
野梨子にも……あの頃のまま笑いあっていて欲しいと、願っているんですよ。嘘じゃない。
でも――あなたと魅録が剣菱の人間である以上、僕は容赦しませんよ」
清四郎が腕時計を見つつ、立ち上がりながら告げた。
「タイムアウトです。もう、いいですね?」
有無を言わせぬ口調に、悠理はしぶしぶ腰を上げた。
黙したまま玄関まで送ってきた清四郎が、抑揚の無い声音で言う。
「怨むなら、あなたの父親を怨むんですね」
「――どういう――」
皆まで訊けず、悠理は口を噤んだ。
目の前の扉が、冷たく閉じられた。
<続きます>