〇趣味の部屋『塔矢愛好会』Part50●

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952名無し草:04/01/09 22:31
我こそは 勃つぞ勃てるぞ キミがため 逸る心を 抑えがたしや

ガンガってみる!
953名無し草:04/01/09 22:36
新スレ勃ちますた。
●趣味の部屋『塔矢愛好会』Part51〇

http://etc.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1073655214/
954名無し草:04/01/10 22:17

          ::/|||||~||||ヽ     
          ||(゚ー゚*||||::
           ::i ヽ  `ヽ
           し し(_つ::    ..,.,.,.,
''"~`゙"'''' iw..,,_,、ノルwil;::riw..,,_,
           i  ..::::::.....'’"''"~`''"~`゙"'''' iw..,,_
          ||( ....:::::::::::....            ':レノ     ..,.,.,.,
 ...:::::;;;;;;::::::.    ヽ..::::::::::::::::....       :......   `゙"'''',.ilv
                                 ..il
         ....:::::;;;;;;::::::........   .....:::::::::::
955名無し草:04/01/11 01:51

   ┌─────――――┐
   │Bar. チチャーイやまねこ│
   └─────――――┘
お待たせしました! 開店致します!!

日 凸  ▽ ∇ U.   
≡≡≡≡≡≡≡ /|||||"||ヽ パトヤシロガイナイト サミシイネ…
 U ∩ [] %..  ||(*゚ぺ)|     /
_________(つ)Uと)___/    ヽヽヽ.イ,,  ワン!!
―――――――――――――┐    ∠,从从, シ  /~||
                    │  / ∪・ェ・∪,,,。,,ノ ||
 ━┳━   ━┳━        │/   ( u u ),    ||
 ̄ ┻  ̄ ̄ ̄┻ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄~
956名無し草:04/01/12 01:21
アキラたんハァハァ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)客来るとエエなハァハァ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ホッシュ
957名無し草:04/01/13 00:27
           /||||"||ヽ …ッ!!
    __      |||||*´-)
     \\   {{ ノ 、_))
      \\  (_ ) }}
       ( ̄ ̄ ̄)し
        > <
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
958名無し草:04/01/14 00:14
アキラたんハァハァ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)客来ないな・・・ホッシュ!
(65)
社はその場で四つん這いになったかと思うと、ぐるんぐるんと首を捻り、
フーッと息を一息大きく吐いて、口の中で何か呟いた。
それと同時に――光は初め、社が衣の中で軽業師のように
不思議な技で体を動かしているのだと思った。
だってこんなことはあり得ない。
こんな風に奇妙な光を放ちながら人の背中がどんどん盛り上がって、
胴体が膨れ上がって、顔が伸びて――え?
長く伸びた顔は一面に白い毛で覆われ――
「嘘だろ・・・!」
社が身に着けていた水干がぱさりと地面に落ちた。
月の光を浴びてそこに立っていたのは、雪のような白銀色をした、
神々しいおおいぬだった。

「・・・・・・」
光はしばらく、その姿から目が離せなかった。
と、大犬の目が炎のようにぎらぎら光り始め、
光を睨みつけながらぐるるるるる、と喉の奥で恐ろしい唸り声をあげた。
――!!
身構えた瞬間、吉川上人ののどかな声が響いた。
「アカンで、社。坊主もその手、引っ込めーや」
「え?」
「この手や」
ピシッと上人が人差し指と中指を揃えて、光の右手をはたいた。
「あっ・・・」
光は思わず己を恥じた。
検非違使として鍛えられた本能は、無意識のうちに刀の柄に手をかけていたのだ。
(66)
「す、すいません」
「まぁこないに大きな犬や。この姿見たら、大抵の人間は怯えるか攻撃しようとするか、
どっちかやな。坊主を責めるつもりはあらへんけど・・・さっきも云うたように、
生き物を労わる気持ちは忘れんように、な。たとえ護身の為に獣を斬る時でも、
どっかに済まない気持ち持っとくとエエで。獣は人間と違うて、私利私欲のために
人を襲うんとちゃうからな」
「はいっ」
恥じ入りながら光は姿勢を正し、もう一度その白い大犬を見た。
「上人様、今社って呼んだよな。それじゃこいつは・・・」
「あぁ。社や」
上人は穏やかに微笑みながら、己の腰ほどまでも背丈のある大犬の背中を軽く叩いた。
直前まで殺気を漲らせていた大犬は、ハッハッと嬉しそうに上人を見上げ
大きな尻尾を振った。
「見てのとおり、わけあってこういう体質でな。そのせいで親に疎んじられて、
人の中では暮らせんようになった。今は御仏の縁で、儂とこで修行しとる。
犬のシロやなくて人の社がここに住んどる云うことは一応内緒にしとるさかい、
さっきは坊主に山に入られて焦ってもたみたいやけど――何でも呑み込みが早いし、
薬の調合から炊事洗濯掃除まで、よう手伝ってくれよるわ。なぁ社」
そんな二人――一人と一頭の姿を見ながら頭を擡げた考えを、光は口にした。
「・・・えっと・・・それじゃあさ、もしかして上人様が飼ってるシロっていうのは・・・」
「ああ、こいつのことや。ここに来てから、儂がこいつを社て呼んどるのを聞いた童らが
聞き違えてシロ、シロ云い始めてな。昔、町で痛い目に遭わされたよって
こいつは人嫌いなんやけど、童とだけは仲がええんや。大人と違って童は
こいつを無闇に怖がったりせんさかい」
「そうなんだ・・・」
だとすれば、先ほど変身した社の姿を見ただけで刀に手をかけた己は
社を傷つけてきた人間と同じ行いをしたことになる。
胸の奥で、改めて済まなく思った。
(67)
「まあ、そういうわけや。せやから馬はここで休ませて、
坊主はこいつの背ぇに乗って都まで行ったらええ。馬よりよっぽど速いで」
光をちらっと見た社が不服そうにフンッと鼻を鳴らしたのがやや不安だが、
促されるままその白銀の胴体に跨った。
上人が地面に落ちた社の衣類を拾い上げて光に渡す。
「コレ、向こう着いたら着せたってな。振り落とされんように、よお捕まって」
「う、うん」
馬と違って鞍も手綱もない社の背中は、いかにも不安定に感じられた。
だが、今この時にも妖しに苦しめられているかもしれない明のためならば
どんなことでも乗り越えてみせようと思った。
「それじゃ上人様、ありがとう。賀茂が良くなったら、二人でお礼に来ます!」
「ああエエて、早よ行き。最初の一跳びで落ちたら死ぬさかい、しっかりな」
「え?死ぬ?・・・あ、うわっ!・・・かっ、賀茂―――おぉ―――ぉぉぉ――――――・・・!」
社の大きな一跳びと共に、光の声は遠ざかった。
「う〜ん、いつ見てもええ跳びっぷりやわ」
二人の飛んでいった跡を眺めつつ、吉川上人は腕を組んでうんうんと頷いた。

「――――ぉぉ――・・・」
夜空を飛びながら、眼下には暗い山の木々と小さく小さく見える里の姿があった。
随分と長い間飛んでいたような気がするが、明の名を呼ぶ一声が続く程度の
時間だったのだから、本当は一瞬だったのかもしれない。
地面がぐんぐん近づいて光が目を閉じた時、社は驚異的な静けさでふわりと着地した。
「ぉうわっ!」
「・・・ふん、落ちんかったか。けど途中で落ちたら置いてくで」
「え、え・・・っ?オ、オマエ犬の時も喋れ――」
「あぁ!?犬が喋れたらアカン云うんか!?そんなん俺の勝手やー!
もぉ早よ済ませて帰りたいわ、こんな仕事!」
「そ、そんなつもりじゃ・・・うわっ!」
光を乗せたまま軽く身を屈めると、ぎゅんと疾風のように社は夜の地上を駆け出した。
今にも振り落とされそうに揺れる社の白銀の背中にしがみつきながら、
気が遠くなりそうな己を戒めるように光はひたすら賀茂!賀茂!賀茂!と繰り返していた。
(68)

室内には独特の湿気と、人の吐息で温められた生ぬるい空気が籠もっていた。
明は胸と裾を大きくはだけ、辛うじて帯の所で衣が引っかかっているだけの姿で
白い脚を大きく開いたまま失神していた。
クチナハの淫液を擦り込まれた両の乳首は少し腫れて淫靡な桜色に輝き、
裸の腹から胸にかけて青臭い精液が飛び散っている。
萎えた陰茎にまだ白い指が絡みついていたが、その指も先刻までの力を失っていた。
涙と涎に汚れた顔にはぐったりと満足げな表情があり、
気を失っているはずなのに下半身はまだ絶えずビクッ、ビクビクッと激しく痙攣している。
内部のクチナハの動きに、おのずと反応しているのだろう。
緒方は半ば放心状態でそんな明を見下ろしていた。
「――脚が、よく開くんだな・・・」
どうでもいい感想が口をついて出る。
それから己の目がひどく乾いているのに気づき、何度か強めに瞬きをした。
どうやらしばらく瞬きをすることも忘れていたらしい。

今しがた、己とクチナハに責められながら明が見せた嬌態。
それは今まで緒方が目にし、また思い描いてきた「賀茂明」の姿とは
かなりの隔たりがあった。
清廉で物静かで、どんな欲望とも無縁の存在。
禁中の女房たちの間では藤原佐為と並んで密かな人気の的であるのに
浮いた噂の一つもない。無論、男に言い寄られて応じたという話も聞かない。
難攻不落のその明に、いつか己が手で一から快楽を教え込みたい。
それが緒方の人生における野望の一つだったというのに、
その緒方の目の前で明はいかなる声を上げたか。
その細腰がいかに淫らにくねり、清らかな白い指がいかに激しく動いたか――
満ち足りた顔でなおも誘うように腰を痙攣させている明を前に、
高揚した己が一物を持て余して緒方は途方に暮れた。
963 ◆pGG800glzo :04/01/14 19:59
アリとキリギリスで言うと俺はキリギリスだった。
夏の間好きなことしかしないで遊んでた分、冬に頑張らないとあかんかった。
それでしばらく来られませんでした。
でも色々一段落して、今はサルのようにエンドレスで正月アニメのビデオ見てる。
これからまたよろしくおながいします。2004年もアキラたん(;´Д`)ハァハァ
964名無し草:04/01/15 14:07
| |_
| ||||,||ヽ
| |ー゜)_|  チンボジウム…
| |⊂)
| |∧|   
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
965名無し草:04/01/15 22:12
| |_
| ||||,||ヽ
| |Д`)_|  チンボジウム…"シンポジウム"ノ シャレ…
| |⊂)
| |∧|   
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
966名無し草:04/01/16 22:08
アキラたんハァハァ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)チンポチンポチンポジウムハァハァ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ホッシュ
(16)
店は混んでいたが幸い空いたばかりの席があり、並ぶこともなく通された。
喧騒の中森下がアキラを連れて店内を歩くと、
それまで酒を飲んで騒いだり背を丸めて丼を掻き込んだりしていた客たちの中に、
時折アキラの姿に気づいて目を丸くする者がある。
「な、今の子、超可愛くね?」
通り過ぎた席のどこかで、若い男が興奮気味に囁くのが聞こえた。

森下たちが席につく頃には、店中から好奇心の籠もった視線が集まっていた。
目立つ人間とはどこへ行っても目立つものらしく、先刻繁華街の街角でカップルの男を
見蕩れさせていたのと同じように、ここでもアキラは人目を惹く存在だった。
今まで娘のしげ子や交際時代の妻、仕事仲間の女流棋士などを連れて
店に入ったことは何度もあるが、周囲からこんな視線を受けた経験はない。
一方のアキラは、自分が注目を集めていることに気づいているのかいないのか、
仕事帰りのサラリーマンで賑わう大衆的な造りの店内を物珍しそうに眺めている。

明るい中で間近に見るアキラは、なるほど眉目秀麗な少年だった。
単に整った造りの顔をしているというだけではなく、
姿形を構成するパーツの一つ一つが実に美しい。
動くたびにサラサラと音がしそうな、素直で真っ直ぐな黒髪。
くっきりと切れ上がった目尻を持つ大きな瞳は艶やかな睫毛に縁取られ、
照明の光を受けてキラキラと輝いている。
肌寒い中を歩いてきたせいか、ぴんと張りつめた肌理細やかな頬に少し赤みが差して、
形良い唇の薔薇色と調和して美しい。
――この年まで生きてきた中で、単語として知ってはいても実感したことはなかった
「美少年」という言葉が、森下の脳裏をよぎった。
(17)
店員が運んできたメニューを、アキラは「ありがとうございます」と微笑んで受け取った。
生涯のライバルは息子をしっかり躾けているらしい。
「先に選べ。何でも、好きなもんを頼みな」
「はいっ」
アキラは嬉しそうに頷いて、メニューを指で辿りながらあれこれと悩んでいる。
そういう所はしげ子や、少し前までの一雄と変わらない。
囲碁界では早くもひとかどの棋士として一目置かれている感のあるアキラだが、
素顔はまだ十五かそこらの子供だと思うと微笑ましかった。
その時、アキラが怪訝な顔でメニューから顔を上げた。
「森下先生、これってどんなお料理なんですか?」
「ん?どれだ」
アキラは向かい側に座る森下にも見えるようにメニューを横にした。
森下が覗き込んでも、アキラは顔を引っ込めようとはしない。
柔らかな石鹸の香りが薄く鼻腔をくすぐる。
「・・・・・・」
先刻アキラと歩いている時にも少しは頭を掠めたことだが、
普通、この年頃の男がこんな香りを纏っているものだろうか。
女よりも男は獣に近いのだと思うことがある。
どれだけ清潔にして、人工的に香りを纏おうと、
男はすぐ自分自身の臭いに取って代わられてしまうものだ。
まるで臭いによって縄張りを主張しようとする獣の生態の名残りのように。
だがアキラが発する匂いはひたすらに柔らかで、控えめで甘い。
それは自己の領域に他者を容れまいとする攻撃的な匂いではなくて、寧ろ――

知らず知らず目を閉じて、その香りを追っていた。
ややあってアキラの黒い目がじっとこちらを見ているのに気づき、
心臓がドクンと一つ脈打った。
(18)
「・・・お、すまん。どの料理だって?」
「これです」
アキラがにこっと笑ってメニューの一行を指差した。
森下の説明を聞きながらアキラが頷くたびにあの柔らかな匂いがする。
その匂いを嗅いでいると――心がどこか遠くへ連れ去られてしまいそうになる。
防衛本能にも似た力が働いて、森下はメニューを音を立てて閉じると
無雑作にアキラに押しつけた。
「まあこういうのは、話を聞いても自分で食ってみなけりゃわからねェもんだ。
あとは、自分で選びな」
つい突き放すような口調になってしまった。何故自分はこんなにも動揺しているのか。
アキラは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに「そうですね」と頷いて
またあれこれメニューに悩み始めた。
メニューに目を落とすアキラの、伏せた睫毛が長い。

そんなやりとりを交わす間にも、四方から時に無遠慮に、時にはチラチラと
こちらを見る視線は止むことがなかった。
彼らの視線は主に、首を傾き加減にしながらメニューに悩むアキラの上に集中していたが、
それと同時に森下とアキラがどういう関係であるのか彼らが思案しているのは明らかだった。
自分たち二人は、彼らの目にどう映っているのだろう。
親子か。学校の教師と生徒か。
大き過ぎて決まりが悪いのか、アキラが時折袖の中から指だけ出して、
森下の上着をきっちりと着直す。
そんなアキラを、いつの間にか彼らに見せつけているような気分になっていた。
970覆水2:04/01/17 00:03
(1)
アキラはホテルのロビーを出口に向かってゆっくりと歩いていた。
気分に淀みは無かったが、体が鉛のように重く感じられる。
ここから電車を乗り継いで家に帰るのが急に億劫になったアキラは、出口を
抜けると迷わずタクシーに乗り込んだ。
行き先である自宅の住所を告げ、静かに大きく息を吐き出しながら目を閉じた。
自宅まで結構距離があるので、その間少し眠ろうと思ったが、体は疲れて
いるのに神経は冴えていてスムーズに眠りに落ちる事が出来なかった。

あれ程、重く苦しくアキラの体に燻っていた火種は嘘のように消えて、
今は静寂が体全体を包んでいた。
凪いだ心であの頃を、そして今を想い起こすと、何か大きな忘れ物をしている
気がしてならない。
これから先に進むためにも何かをはっきりさせなければならない。
今なら、これまで決して出来なかった、自分の気持ちを正直にぶつける事が
出来る気がする。さらに知りたい事もすんなり聞けそうな気がした。
なぜだろう?
なぜここまで穏やかな気持ちになれるのだろうか?
さっき囲碁センターで緒方と顔を合わせた時には考えられなかった心の変化に、
アキラ自身が驚いて思わず目を見開いた。
そこに見えたのは紛れも無く現実の世界で、夢の中の光景では無かった。

───もうそろそろ過去の事にしたい・・・・

そうなんとなく決心すると、アキラはタクシーの運転手に行き先の変更を告げた。
971覆水2:04/01/17 00:04
(2)
目的地の前でタクシーを降りると、ゆっくりとマンションを見上げた。
周りの住宅にマッチした落ち着いた低層マンションのあちこちの窓から明かりが
漏れている。緒方の部屋は入り口の反対側にあるので通りからは見えない。
駅から歩いて来ると細い横道と住宅の間からかろうじて窓が見えるが、歩いて
ここまで来たのは、最後に来たあの時だけだった。
必ず車に乗せられて、何処か別世界に吸い込まれて行くような、そんな感覚を
抱きながら駐車場に運ばれて行くのが常だった。
一階の入り口を助手席から横目で見ながら、ぼんやりと、あそこから入って
みたいな、と思っていた事を思い出す。
どこから入っても同じなのに、あの頃はなぜかあそこからは入る事が出来ない、
と勝手に寂しく思っていた。
今日初めて落ち着いた気持ちでエンタランスの前に立つと、あの頃のあの感覚が
自分の心の迷いの証だったと気付く事が出来る。
アキラは、今日は迷う事無く階段を上った。
1,2,3,4,5。一段一段を踏みしめて上り、アキラはゆっくりとインターフォンの前に
歩み寄った。

インターフォンの前に立って部屋番号を見つけると、そこに人差し指をかける。
だが、すぐに押す事が出来ずに、一度大きく深呼吸をした。
少し心を落ち着かせてから、思い切って力を入れてボタンを押すと、急に心臓が
勝手に大きな音をたてて時を刻み出した。
ボタンを睨みつけ、緒方の気だるそうな第一声を想像しながら暫く待ったが、
予想していた声は聞こえて来なかった。
どうしてまだ帰っていない事を考えなかったのか、と迂闊だった自分にあきれながら
もう一度ボタンを押すが、やはり応答は無かった。
972覆水2:04/01/17 00:04
(3)
急激に静かになる心臓の音を感じながら部屋番号ボタンを呆然と眺めた。
タクシーを帰さなければ良かったとか、駅まで歩くのはしんどいなとか、疲れたな
とか思いながら、アキラにしては珍しく間の抜けた表情で呟いた。
「どうしよう・・・」

その時後ろから誰かが近付いてくる足音がした。
その音にドキリと心臓が跳ね上がる。
自分が予想しない形で相対する事になるのかと思うと、さっきまで平静だった
気持ちが大きく揺れるのを感じた。
階段を上がる靴音にアキラは身動き出来なかったが、予想に反して靴音はアキラには
近付かずに直接ガラス扉に向かい、その前でピタリと止まった。
男は鍵を探しながら、そして鍵を開けながら、動かないアキラを横目でチラチラと
訝しげに見ていたが、特に気にする様子も無くマンション内に入って行った。

アキラは安堵の溜息をつきながら、もう一度部屋番号ボタンを見て苦笑した。
───緒方さんは車だからここを通るわけはないのに・・・・
───でも・・・緒方さんが居たら、部屋に入るつもりだった?

考えてみれば、あの部屋で平静な気持ちで緒方と話をする自信は無かった。
勢いでここまで来てしまったが、良く考えると、緒方が不在だった事が反って
ありがたかったのかもしれない。

アキラは重い体を押し出すようにして階段を降りた。
973覆水2:04/01/17 00:05
(4)
エンタランスの前でもう一度ゆっくり顔を上げると、そこには東京の空の下で
必死に輝く星があちらこちらに見えた。
そして真上には穏やかに輝く月が闇夜をほんのり照らしている。
そんな当たり前の夜空を、アキラは久し振りに見たような気がした。
───綺麗だ・・・・
心からそう思った。

冷たい空気を大きく吸い込むと、アキラは駅のある方向にゆっくり歩き始めた。
ほんの少し歩くとそこには駐車場の入り口があった。
足を止めて、その中の方を見詰める。
地下に向かうスロープはすぐにカーブがあって、それ以上先は見えない。
暗いコンクリートの壁を見ながら、アキラは気が付くと吸い込まれるように
スロープを降りていた。
いつも車で通っていたこの場所を歩いて通るのが不思議だ。
地下駐車場特有のひんやりとした湿っぽい空気が懐かしい。
地下一階に駐車している車の中に見覚えのある車を何台か見つけると、時間の
連続性を感じる。
ここに頻繁に来ていたのは遠い過去の事のように感じていたが、ほんの一年少し
前の事だったのだ。
地下一階からスロープを曲がってさらに降りて行くと、やはり緒方の駐車スペースに
車は無かった。
───本当にまだ帰ってなかったんだ・・・
アキラは緒方の駐車スペースに暫くぼんやり立っていたが、酷く疲れを感じて
車止めのブロックに力なく座り込んだ。
974覆水2:04/01/17 00:06
(5)
対向車のヘッドライトが痛い程眩しく見えて、緒方は目を細めながら顔を顰めた。
ネオンも街灯も、柔らかい月の光も、微かな星の光でさえ今日は眩しくて
直視できない。

高速を使えばさほど時間のかからない家までの距離だが、今夜は一般道を
いつに無く慎重に運転していた。
こうして車で移動する時間は、緒方にとって貴重な息抜きの時間になっている。
勝敗に関係なく、その日の一局を冷静に振り返る事の出来る場所は検討室でも
自宅でもなく、この愛車の中である事が不思議だ。
気乗りしない仕事の後でも、この車で家に帰る時間の中で頭を切り替える事が出来る。
対局に向かう時はこの車の中で神経を集中させて、気持ちを臨戦態勢に持って行く。
誰にも邪魔されない自分だけの空間。
その自分の味方であるはずの空間でさえ、今日は息苦しく重く感じられる。

幾度となく自分自身に問い質して辿り着いた気持ちの置き場所が、一瞬にして
壊れる音を今日は聞いた様な気がしていた。
少しずつ少しずつ、ブロックを積み上げるようにして作ったせっかくの場所なのに、
崩れる時は本当にあっけなかった。
今までにも一部が崩れて、思わず中身が飛び出てしまった事もあったが、その都度
丁寧に修復して、やっとここまで築き上げたのだ。

何度も溜息をつきながら、改めてその崩れたブロックを大急ぎで修復しようとする。
だが普段と違って運転に気持ちの大半を取られてしまい、いつもの様に上手く
気持ちの整理が出来ない事に苛立っていた。
今日一日の自分の行動を思い出そうとしても、その時その時の自分の感情と上手く
重ね合わせる事が出来ずに後悔の苦い思いだけがこみ上げてくる。
975覆水2:04/01/17 00:06
(6)
こうして車の中で少し冷静になってみると、なぜ自分があのような大人気ない
行動に出たのか理解出来なかった。

たまたま棋院で、八重洲囲碁センターへ講師に行っている棋士からアキラと社の
事を聞いて、最初は純粋に2人の対局の内容に興味を持った。はずだった。
だが、わざわざアキラが八重洲囲碁センターまで出向いている事に違和感を
感じると、次の瞬間には車を東京駅に走らせていた。

そこで、本当に楽しそうに笑うアキラの顔を見た途端に、体中の血液が頭に
上っていくのを感じた。
アキラが小さい頃には自分にも向けられていたあの笑顔。
一体どれくらい振りにあの笑顔を見たのだろうか?
自分の腕の中であの笑顔を独り占め出来ると思っていた。
自分を慕ってくるアキラを慈しむ気持ちに偽りは無かった。
だが、自分の中にある後ろめたさや迷い、そして野心や狡さをアキラは敏感に
感じていたのだろう。
まっすぐなアキラの心は次第に屈折して行った。
そして、アキラが自分に対して憎しみの気持ちを抱いていることを知りながら、
どうする事も出来ない自分が情けなくて、さらに精神的にも肉体的にもアキラを
追い詰めていった気がする。
アキラがそれでも自分から離れていく事は無いと高をくくっていたのだ。
たとえアキラが心の片隅に別の人間への想いを秘めているとわかっていても。
いや、だからこそ自分から離れられない体にする必要があったのかもしれない。

実際アキラは自分から離れようとはしなかった。
敬愛する父親を裏切る事になっても・・・・。
だが自分には出来なかった。
それだけ先生は自分にとって絶対的な存在だったのだ。
976覆水2:04/01/17 00:09
兄貴お誕生日オメ!
977Trap ◆tkF8h.WANA :04/01/17 21:11

遠い過去の記憶に、今の緒方の横顔が重なった。
幼い頃から、傍にいた人。
ボクを救ってくれた、たった一人の――。
アキラは胸に温かいものを感じて「…ありがとう、緒方さん」そっと感謝の言葉を口にした。


「そういえば…緒方さんはどうしてボクの居場所が分かったんですか?」
気になっていたことを訊ねると、緒方は碁会所を出た後のことから話してくれた。
話をまとめるとこうだ。
人との待ち合わせ場所に車で向かっていた緒方は、擦れ違いざま対向車の後部座席に
ぐったりとした様子で男たちに支えられているアキラを目撃したらしい。
サーチライトで一瞬、浮かび上がった車内に見えただけだったので、最初は見間違えかと
思ったが、気になって仕方がなかった。
Uターンして、その車の後を追ったが、埠頭付近で見失ってしまった。
碁会所に電話をしてみると、とうにアキラは出ていて、もうそろそろ家に着いていても
いい頃だと言う。
アキラの家にも電話してみるが出ない。
先生達は台湾に行っていて、家にはアキラだけのはずだ。
胸騒ぎがして、塔矢邸に向かったが、誰もいなかった。
しばらく待ってみたが、帰ってくる気配もない。
978Trap ◆tkF8h.WANA :04/01/17 21:12
そこで車を見失った辺りまで戻って探しまわっていると、ようやくアキラが
乗せられていたらしき車を埠頭近くの倉庫の前で見つけた。そして――。
「……緒方さん、無茶しないでください。警察に連絡しようとは思わなかったんですか」
「本当にアキラくんが囚われているという確証が持てなかったのでね」
一歩間違えていたら、どうなっていたことか。
下手をすると、緒方は今頃、あの倉庫で冷たくなっていたかもしれないのだ。
恐ろしい想像に、アキラはぶるっと小さく震えると、両腕で自分の身体を抱きしめた。
それに……これで終わりだろうか。
緒方さんは顔を見られている。依頼人の正体も分かっていない。
写真やビデオテープも残っているはずだ。
これは終わりではなく『始まり』に過ぎないのではないか――。
「今夜はオレの家に泊まるといい。キミを一人にはしておけないからな」
不安を隠し切れないアキラに、緒方の声は低く優しく響いた。

深い夜の帳が下りた街を疾走するRX−7。
フロントガラスの先を見つめるアキラの瞳は頼りなげに揺れていた。
979Trap ◆tkF8h.WANA :04/01/17 21:12

まもなくして車は目的地に到着した。
緒方の住む高級マンションは入り口がオートロックになっており、
セキュリティもしっかりしている。
アキラは緒方に身体を支えられるようにして車を降りると、痛みからか
僅かに眉を顰め、けれど安堵の溜め息を短く漏らした。

――部屋に入ると、水槽の明かりだけが、ぼんやりと浮かび上がっていて、
穏やかな沈黙をたたえていた。
緒方がスイッチをつけると、パァッと白熱灯に照らし出された室内に、
ようやくアキラは表情を和らげた。
……ここには何度か来たことがある。
けれど自分がプロになってからは一度も足を運んだことはなかった。
アキラは何となく、それを寂しいことのように感じ、今、傍にいる緒方に
甘えるような気持ちで寄りかかった。

緒方に勧められ、アキラは風呂場へと行った。
自分の身体に起こったことを、緒方に知られているのだと、あらためて
思い知らされたようで、アキラは羞恥に頬を染めた。
……心地よい湯気に包まれる。
何もかも洗い流してしまいたくて、アキラは瞼を閉じて、シャワーを
浴びつづけた。
身体についていた汗や汚れが湯と一緒に流れていく。
アキラはそっと後ろのつぼみに触れてみた。
意を決して、指先で秘処を拡げると、とろとろとした白濁の液体が
中から零れ落ちていく。
「………」
決して現実には結ばれることのない想い人の名を形取った口びる。
それは水音に掻き消されてしまい、誰の耳に届くこともなかった。
980Trap ◆tkF8h.WANA :04/01/17 21:13

緒方の用意してくれた寝巻きに着替えると、アキラは寝室に案内された。
「今夜はここで休むといい。オレはリビングのソファで眠るから、
何かあったら起こしなさい」
緒方さんも一緒に…。
喉まで出かかったが、自分はそこまで子供ではないのだと、アキラは言葉を呑みこんだ。
「オレがたまに服用している睡眠薬だ。これで朝までぐっすり眠ることが出来る」
水と錠剤を手渡された。
アキラはベッドに入り、上体を起こした状態で、それを受け取ると、
「――緒方さん、すみません。お世話をおかけしてしまって」
ふと気がついて、緒方に問いかける。
「そういえば、待ち合わせの方とはデートじゃなかったんですか?
ちゃんと連絡はされたんですか?」
緒方は苦笑すると、
「そんな余裕はなかったからな。たぶん、もう駄目だな。まぁ、大した女でもなかったし、
また他に見つけるさ。そうだな、それまでアキラくんにでも相手してもらうか…」
冗談めかせて言った緒方だったが、ふいに表情が曇った。
その話題の不謹慎さに気がついたのだろう。
アキラを気遣うような眼差しを向ける。けれど、
「――ボクなら大丈夫です。緒方さんの相手なら、喜んでお受けしますよ。
絶対に負けませんから」
口もとに笑みを浮かべたアキラに、緒方はほっと息を吐いた。
「もう寝なさい。薬を飲んで、ゆっくり休めば、悪い夢も見ないさ」
緒方に促され、薬を口にしたアキラはコップの水を口に含んだ。
錠剤が喉を通って、身体の中に入っていく。
ふいに緒方の大きな手が、アキラの頭を撫でた。
それはアキラが子供の時によくしてくれた仕草だった。
『お薬が飲めたね。いい子だよ』
あの日の懐かしい声が聴こえる気がする。
981Trap ◆tkF8h.WANA :04/01/17 21:15

緒方は空になったコップをベッドサイドのテーブルの上に置いた。
そのまま枕もとのランプに手をかけようとすると、
「お願い、明かりは消さないで…。ボクが眠るまで、そばにいてください」
かすかに震えるアキラの声に、緒方は「ああ、そばにいるさ」優しい言葉を返す。
そっと差し出されたアキラの手が、緒方の右手に触れた。
痛々しく白い包帯の巻かれた様子に「…ごめんなさい」小さくつぶやくようにして、
アキラはゆっくりと瞳を閉じた。

一度、弱さを知ってしまった心はどんどん弱くなる。
これからボクは変わっていくだろう。
迫ってくるかもしれないモノに、怯えながら生きていくのだ。
不安と恐怖と痛みと苦しみと戦って。
大人になるというのはこういうことなのかもしれない。
982Trap ◆tkF8h.WANA :04/01/17 21:15

何も知らずにいた子供の頃に戻れるなら……。
しがらみもなく、葛藤もなく、純粋に生きていた。
父の眼差し、母の笑い声、緒方さんの優しい手の温もり。
あの短すぎた幼少期は、懐かしい光に満ち溢れていて――。
「………」
そうだ、夢ならいい。
目が覚めたら、すべてが夢で、光に満ちた世界が現実で。
ああ、みんなが笑っている。
お父さん、お母さん、緒方さん、芦原さん、市河さん、碁会所の人達、
そして――。
桜吹雪が舞う中に、キミの姿が見える。
金色の前髪が揺れて『塔矢ー!』大きく手を振りながら、ボクの名前を呼んでいる。
こぼれるような笑顔で、ボクを呼んでいるんだ……。

「…アキラくん、眠ったのかい?」
穏やかな寝息を立てる、その顔を見つめながら、緒方は小さく呼びかけた。
触れていたアキラの手を掛け布団の中にしまうと、静かに部屋を出て行く。
「――もう悪い夢は見ないよ」
口許に意味深な笑みを浮かべて。

緒方のRX-7が漆黒の闇へと駆け出したのは、それから少し経ってからのことだった。
983名無し草:04/01/18 20:50
| |
| ||||  ホッシュ!!!
| |ヽつ
| | ) )
| |JJ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(10)
スープとサラダを前に、また写真を撮る。
アキラと芦原で一枚。この二人は満面の笑顔。
師匠と夫人で一枚。この二人は穏やかな微笑。
「じゃ、次は緒方さんもお入りになってね。私が撮るわ」
明子夫人が笑顔で手を伸ばしてきた。
だが緒方は「いえ」と軽く笑ってカメラをケースにしまい込んだ。
「オレは、いいです。写真はあまり得意じゃないので」
カメラの前で、自然に笑っていられたためしがない。
物心ついてからのどの写真を見ても、そこに写っているのは強張った顔をして身構えた、
自意識過剰な少年の姿だ。
そんな自分の中の一番嫌いな部分を克明に写し出して突きつけられる気がするので――
写真には極力写らないようにする習慣が出来ていた。

湯気を立てて運ばれてくる料理を横から明子夫人が切り分けてやると、アキラはそれらを
先の丸い子供用フォークを駆使して、少しずつだがせっせと口に運んだ。
「まぁアキラさん、今日はよく食べて偉いのね」
「あとで、いちごのアイス・・・」
「いいわよ。そんなにちゃんとご飯が入るなら、デザートに頼みましょうね」
アキラは顔を輝かせて、やる気を見せるつもりか細い肩を怒らせ、
あーんと目一杯開けた口にとりわけ大きな煮込み肉の一片を押し込んだ。
そんな息子を目を細めて眺めていた師匠が、急にエヘンエヘンと咳払いをしてこちらを見た。
「時に、緒方くん」
「はい」
「さっきの話だが、キミはまだ決まった人はいないと言ったな」
「・・・ええ、まあ」
「実はこの間の結婚式で、キミを娘さんに紹介して欲しいと言ってきた人がいてね。
何でも年はキミより二つ下で、趣味は料理と声楽で、部活動はテニス。将来の夢は――」
「もうあなたったら、そんな一気に。こういうことは、ゆっくり行かなきゃダメなのよ」
夫人にあっさり遮られて、師匠がナイフをカランと取り落とした。
(11)
その女性の父親は長年の囲碁ファンで、愛娘の伴侶にはプロ棋士をとかねてより願っていた。
新婦側の招待客に「塔矢行洋」がいると聞きつけ、娘の写真持参で乗り込んできたのだという。
「もちろん、緒方さんのことも前からご存知で、将来有望だって目をつけてらしたみたいなの」
と夫人が付け加えた。
「人脈のある人物だ。ゆくゆくはキミの後援会を主宰したいともおっしゃっている。
キミにとっても決して悪い話ではないと思う。まずは会ってみるだけでも――どうだね」
だが手渡された数枚のスナップ写真をいくら眺めても、四角い枠の中で笑うその女性の顔が
把握しきれなかった。目に映っても、脳まで達さない。
美形であることは判る。明るくて利発で、幸福そうな女性だ。
だがどうしてもその女性と自分が相対して言葉を交わしている所が想像出来ない。
翳りがなさ過ぎて入っていけないのだ。彼女はきっと燦々と陽の当たる場所でこそ輝く花だ。
自分などがそれに合わせて日の光の下にいては、眩しくて半日で疲弊してしまうことだろう。
そういう意味では、他愛もない打算と倦怠とが見え隠れする交際中の彼女のほうがまだ、
生々しく慕わしい存在に思えた。
緒方はチカチカと目をしばたたいてから、丁重に写真を返した。
「折角ですが、オレはまだそういうことは、一切考えていませんので」
「む・・・そうかね」
視線を合わせて一語一語はっきりと区切るように断りの言葉を告げると、
それ以上押しようがなかったと見え、師匠は少し首を捻りながら残念そうに写真を受け取った。
芦原が興味津々に身を乗り出す。
「先生、あのっ・・・それ、オレも見せてもらっていいですか?」
「む?ああ、いいとも。ほら」
数枚のスナップ写真をいそいそと両手で受け取って、芦原は感嘆の声を上げた。
「うわーっ、綺麗な人じゃないですかぁ〜。緒方さんと並んだら似合いそうなのに・・・
なぁっ、アキラ」
芦原が同意を求めてアキラの目の前に写真を翳すと、アキラはフォークを動かしながらチラッと
見たのか見なかったのかわからないような一瞥を写真の女性にくれて、
「ン・・・そぉ、」と無表情に返事をした。
(12)
頻りに感心しながら、芦原は写真を師匠に返した。
「一度くらい会ってみればいいのに・・・」
「ハハハ、芦原くんに来た話だったらよかったな。もう少し大人になったらキミにもこういう
話が来るだろうから――うむ、芦原くんの好みはこういう女性なんだな、憶えておこう」
「えっ?あっいや、オレは別に・・・確かにその人は綺麗ですけど!オレ、お見合いとかより
やっぱりもとから好きな子と・・・って、あっオレ何言ってんだぁっ!」
芦原が真っ赤になって慌てふためく様子を、緒方は物珍しい気持ちで見た。
師匠と夫人も顔を見合わせ、微笑ましそうにクスクス笑いあっている。
「芦原さん、意外とロマンチストなのね。やっぱり誰か好きな子がいるんじゃないかしら?」
「そういうんじゃ――」
「芦原さん、けっこんするの?」
それまで一人黙々と食事を続けていたアキラが、突然顔を上げて芦原を見た。
「えっ・・・」
「誰とけっこんするの?」
黒い目でじっと芦原を見ながらアキラが首を傾げる。
言葉に窮した芦原が一拍置いて、さあ?というように首を傾げる。
それをどう受け取ったものか、目を輝かせたアキラが不敵な笑みを浮かべ
更にぐいっと首を傾げてみせる。
「・・・・・・」
引っ込みのつかなくなった芦原がアキラと同じ位置まで首を下げる。
と、アキラが更に対抗するように首を――
「はーいアキラさん、そこまでよ。かみのけがご飯に入っちゃうわよ」
明子夫人がアキラの小さな頭を支えて勝負に割って入ると、
アキラは素直にピコンと頭を戻し、なおも聞いた。
「ねぇ、けっこん」
「・・・しないよ」
「えぇ〜、しないの?どうして?」
「・・・なんでだろーな」
急にしんみりした顔になって、芦原は料理を一口ぱくんと放り込んだ。
(13)
芦原が黙ってしまったのでアキラはフォークを動かす手を止めてもじもじし、
「いつかできたらいいね、」と小さな声で言った。
「んっ?・・・おまえひょっとして、気ぃ遣ってる?」
「うんっ!」
「そういう時はううんって言うもんだぞっ!」
「もう、芦原さんとアキラさんたら、ほんとに息が合ってるのねぇ」
明子夫人にクスクス笑われて、芦原がまた少し赤くなる。
「あ〜えっと、その・・・スミマセン」
「あら、どうして?アキラさんは一人っ子だし、芦原さんがお兄さんみたいに
ずっと仲良くしてくれたら、私たちも安心だわ。ねえあなた」
「うむ」
師匠夫妻ににこにこと注目されて、芦原が照れ臭そうに頭を掻く。
何となく面白くなくて、緒方は一人黙々と食事を続けた。

「でも、緒方さんや芦原さんも――今はまだ先の事に思えても、いつかお嫁さんを紹介しに
見える時が来るんでしょうねぇ。年長のお弟子さんたち、みんなそうだったもの。
アキラさんもいつか、そうなるのかしら。ねぇアキラさん、この間のけっこん式、
およめさん綺麗だったわねぇ」
「ウンッ」
母親に温野菜を小さく切ってもらいながら、アキラはやけに力強く頷いた。
「アキラさんのおよめさんは、どんな人なのかしら。お母さんはおよめさんと
仲良くしたいけど・・・うちの場合、お父さんのほうがおよめさんに意地悪しそうで心配だわ」
「む・・・そんなことはないぞ」
「だってあなた、前にアキラさんが幼稚園の女の子を連れて来た時だって、
小さい子相手にあんなに邪険にして・・・本当にもう、どっちが子供だかわからないんだから」
師匠は誤魔化すように咳払いをしてコップの水に手を伸ばした。
それは自分のですと言いそびれたので、黙っていた。
そんな両親の遣り取りを、体をゆらゆら左右に揺らしながら不思議そうに聞いていたアキラが
口を開いた。
「あのね・・・お母さん、ボク、およめさんとはけっこんしない」
988 ◆pGG800glzo :04/01/18 21:32
アキラたん、そのオチリを一撫でさせてくれ(*´Д`*)ハァハァ
明日からの活力の源に(*´Д`*)ハァハァ(*´Д`*)ハァハァ(*´Д`*)ハァハァ
989名無し草:04/01/19 20:49
            ∧_∧
            ( ・∀・ )
          /~    "'ヽ
         / /}    l i,
         / < /    ノ__/
        ヽ '\ /||||(mn)))
        r'~ 〉 ,〉 ||(*゚▽゚)|  キャッキャ!
        i、ノjllJ  ノ つと
         丶  丶(,,'⌒)'⌒):-- ヽ
          \  \_,.r ''゙゙´    }
           >  )  ,. -- ''"´
               し'
990名無し草:04/01/20 20:28

  /|||||"||ヽ
  ||(*゚O゚.)つ  ハァー
  ( つ y <
   ヽ ノ∪
    ∪

      /|||||"||ヽ  ンバッ !!
    ( つ*゚ー゚)|
     \  y  ≡つ
      /    \
     ∪ ̄ ̄ ̄\)

    /|||||"||ヽ ハァ────イ!!
    ||(*゚▽゚)|つ
     (つ y  ̄`つ
      \  / ̄///
       ヽ) //

       /||lll|'|ヽ   ウリャ!
       ||||||||| ゚),つ
     ⊂二 55 ヽ
        \  r ニつ /
         し'    //

        /|||||"||ヽ  クルッ !!
      ( つ|*゚ー゚)|))
    ((  \ y⊂ )
        /    \
       ∪ ̄ ̄ ̄\)
(14)
「あら、アキラさんけっこんしないの?なぁぜ?」
明子夫人がアキラの口元についたソースをナプキンでちょんちょんと拭ってやりながら
優しく尋ねると、アキラは目をつぶって言った。
「けっこんはするよぉ?」
「おまえ今、お嫁さんいらないって言ったじゃん」
芦原が当然の突っ込みを入れると、アキラはテーブルの下でぱたぱたと足を動かしながら
得意満面で答えた。
「およめさんとけっこん・・・するんじゃなくて、ボクがおよめさんになるんだもんっ」
パンの欠片が気管に入った。
「大丈夫かね、緒方くん」
噎せ返った弟子の背中を、隣に座る師匠が力の加減を知らない手で
バーン!バーン!と叩いてくれた。
涙目になって顔を上げると、芦原が硬直して言葉を失っているところだった。
「おまっ・・・アキラ、お嫁さんって女がなるもんだぞ!?何で、そんなのになりたいんだよ!」
かなり焦った様子で、声が裏返っている。
緒方がそれに違和感を覚える前に、アキラが事もなげに答えた。
「だって、およめさんのほうがかっこいいでしょ」
「かっこいい?」
「ンーと・・・ひらひらで」
「ヒラヒラ?」
「こういうの・・・」
アキラがレースのテーブルクロスを両手でそっと持ち上げてみせた。
夢見るように幸せそうな顔をする。
「それでね、お花がいっぱいついてるんだよ?」
先頃アキラが出席した結婚式というのがどのようなものだったかは知らない。
ただ、いついかなる時も結婚式の主役と言えばやはり、
非日常的な純白の衣裳とベールに身を包んだ花嫁だろう。
祝福の花と言葉と光に満ちた約束の日。
花嫁の美しさはその日一番の華となり、花嫁の笑顔は人を幸福にする。
幼いアキラもまた、そんな花嫁なるものの存在感に単純に憧れて、
深い意味はなく「およめさんになる」のだと口にしたらしかった。
(15)
「・・・なーんだ」
芦原が一気に力が抜けたような声を出して、背凭れに寄り掛かる。
「そんな理由かよ」
「そうだよぉ?」
食事の手が止まっている息子に子供用フォークを握らせながら、明子夫人が微笑んで言った。
「アキラさんならきっと、およめさんの格好をしても似合うわね」
「でしょ〜?」
アキラは嬉しそうに体を揺すり、皿の上の温野菜をフォークで追いかけて頬張り始めた。
そんな息子の姿を夫人はしばらく愛おしげに眺めていたが、やがて優しい静かな声で切り出した。
「でも・・・ねぇ、アキラさん。アキラさんがおよめさんになっちゃったら、
アキラさんとけっこんする相手の子が、ちょっと可哀相じゃないかしら?」
「え・・・そおかなぁ?」
「そうだよ、アキラ。お嫁さんって普通女の役だぜ。お前がお嫁さん役取っちゃったら
相手の女きっと怒るぞ〜。リコン、とかされちゃうかも」
芦原が脅すと、アキラは一瞬きょとんとした後、にっこりと笑った。
「だいじょうぶだよぉ・・・だってね、ボクとけっこんするの、女の子じゃないもん・・・」

その時何も口に入っていなかったのは幸いと言うべきだった。
人知れず身を凍りつかせて皿の上に目を落としたまま、続く言葉を待っていた。
この師匠の息子は、時に小さな爆弾だ。
離れた所で見ている分にはいいが、
それがいつか自分の心臓の真上で爆発する日が来るのを恐れている。

芦原が混乱した声を上げた。
「ちょ、ちょっと待てよおい、じゃあお前どうするんだよ。結婚するのが女じゃないなら――」
「誰か、けっこんしたい男の子でもいるの?」
明子夫人がさらりと聞いた。
「おとこのこ?」
アキラはしばし小さな口を開いて母親と見つめ合った後、もじもじと言った。
「あのね、えっとねぇ、お母さん・・・クマたんって、男の子?」
(16)
「クマさん?あらまあ、アキラさんはクマさんとけっこんしたいの?」
アキラは抑えきれない笑みで頬をいっぱいにして、コクンと頷いた。
「・・・・・・」
緒方がちらりと横を見遣ると、突然の指名を受けたクマのぬいぐるみは
師匠の向こう側の椅子に行儀よく座っている。
目を戻した時一瞬アキラがこちらを見ていたように思ったが気のせいだったかもしれない。

「そうか、アキラはこのクマと結婚したいのか。私の贈り物が気に入ったんだな」
師匠がぬいぐるみの頭に手を置いて上機嫌で言うと、アキラは「ウンッ!」と頷いた。
「ふふ、お母さんも小さい頃、持ってた男の子のお人形のおよめさんになりたいと
思ったことがあったわ。でもアキラさん、他に好きな子はいないの?
幼稚園のおともだちとか・・・ほら、前にうちに遊びに来てくれた女の子、
アキラさんを好きだって言ってたじゃない。あの子なんかは?」
「おともだち・・・」
小さく呟いて、アキラは首をぷるぷる横に振った。
「みんなもう、ボクのこと好きじゃないもん。
おともだちといるより、クマたんといるほうが楽しいもん・・・」
「・・・アキラ・・・」
隣で師匠が絶句した。明子夫人も少し困った顔をしている。
――アキラが最近幼稚園で他の子供たちと馴染めずにいるのだと、夫人は言っていた。
そんな一人ぼっちの寂しさを埋めるかのように、アキラはクマのぬいぐるみを
片時も離さない子供になっていった。
今そのアキラが、クマと結婚したいのだと言う。
それは他愛もなくて切ない望みだ。
(17)
横で鼻を啜り上げる音が聞こえた。
見ると師匠が水のように目を潤ませ、唇を引き締めて込み上げるものを堪えている。
アキラが驚いて目を真ん丸くし、心配そうに首を傾げた。
「・・・おとうさん、どうしたの〜?」
「あぁ、何でもない。目にハエが入っただけだ」
「ハエさんが入っちゃったの〜?だいじょうぶ?」
「ハエさんはもうおうちに帰っていった。大丈夫だ」
「そぉ、」
父親の説明に納得すると、アキラは子供用フォークで赤い焼きトマトのかけらを刺し、
またアーングリと目一杯口を開けて頬張った。

弟子の差し出したティッシュペーパーでそっと鼻をかんでから、
師匠はそんな息子の姿をしみじみと眺め、口を開いた。
「・・・アキラ」
「なぁに?」
「お父さんと結婚するか?」
「エ?」
芦原がぎょっとした顔をする。明子夫人がやれやれという顔をする。
外野のそんな反応に気づく様子もなく、鼻の縁を赤くした師匠は幼い息子に向かって
真摯に語りかけた。
「アキラはお父さんが好きだろう?お父さんもアキラのことが大好きだ!
だからアキラ、クマなんかよりお父さんのお嫁さんになったら、
毎日腹一杯苺のアイスを食べさせてやるずぉ!」
拳を握り親指をグッと突き立ててみせて、師匠はまたグシュンと鼻を鳴らした。
995名無し草:04/01/22 20:37
              ....::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::....
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996名無し草:04/01/22 20:37
1000
(18)
それは師匠なりにアキラを慰め元気づけようとしての発言であったに違いない。
だがアキラは困った顔をしてフォークを握り直した。
「ンーと・・・いい」
「いい?」
「おとうさんには、お母さんがいるでしょ。それにおとうさんはいつもおしごとで
あそべないから、ずっといっしょにいられるクマたんがいいの・・・」
言いながらアキラは、茹でたジャガイモとオクラをぐっさりと突き刺して口に運んだ。
師匠が固まる。
「あら、お母さんは別にいいのよ。アキラさんがもしお父さんとけっこんしたかったら、
あげてもよくてよ?本当にお父さんったら碁のことばっかりだし、
いつまで経っても子供っぽくて、世話ばっかりかかるんですもの」
アキラの胸元のナプキンを直してやりながら、明子夫人がさらりと言った。
師匠がますます固まる。
「明子・・・私と結婚したのを、悔やんでいるのか?」
「誰もそうは言ってませんわ。・・・でも、そうねぇ」
夫人がほんの少しためらうように間を置いてから、溜め息をついた。
「私ってホントにまだ半分子供みたいな年であなたと結婚しちゃったから・・・
もっと世間を知って、色々悩んだ後でも良かったかしらって思うことは、時々あるわ」
カラカランと派手な音を立てて、師匠のナイフとフォークが皿の上に落ちた。

「明子・・・」
しばし硬直していた師匠は、やがて夫人から息子のほうへと向き直り
無理が見える明るい声で問いかけた。
「・・・アキラは、お父さんが好きだなっ?お母さんが冷たいから、アキラとお父さんの
二人で結婚しよう!後から仲間に入れてって言っても遅いんだずぉ!なぁっ、アキラ」
だがアキラは困惑したように父親をチラッと見上げ小さな声で言った。
「お母さんが仲間はずれなんていやだもん・・・
それにボク、クマたんがいいってさっき言ったでしょ?・・・」
師匠が、タイトル戦の対局相手にどんな一手を打たれてもこうまでなるまいという顔をした。
(19)
「・・・人間とクマでは、結婚は出来ん」
ややあって、師匠の重々しい声が響いた。こういう所が確かに子供である。
アキラがフォークに掬いかけのコーン粒を取り落として、目を真ん丸く見開いた。
師匠は腕を組み、瞑目して首を振りながら深刻そうに続けた。
「しかも、これはぬいぐるみだ・・・無職、無収入で、生き物ですらない・・・
こんなモノにおまえを遣るわけにはいかん。アキラ、この者との結婚は諦めなさい」
「あーなーた」
「む・・・」
夫人がたしなめるように呼びかけると、師匠が少し怯む。
だが何もかもを真剣に受け取ってしまうアキラは、
見開いた大きな目で父親を見つめてぷるぷると首を振った。
「いやだもん・・・ボク、クマたんとけっこんするの」
「アキラ、私はおまえの為を思って言っているんだ。お父さんの言う事が聞けないのか?」
「おとうさん、どうして今日はいじわるするの?・・・」
アキラの目が見る見る潤む。その言葉が師匠に衝撃を与えたようだった。
「いじわっ・・・」
「そんなことばっかり言うおとうさんなんて、キライだもん!クマたんをわるく言わないで」
「アキラ・・・!」
潤んだ大きな黒い目にきゅっと睨まれて、師匠はしばらく口をパクパクさせていたが、
やがて隣の椅子に行儀よく座るクマを振り返ると、やり場のないショックをぶつけるように
「こんなクマ!」
とトンと押した。
――大きなクマのぬいぐるみがゆっくりとバランスを崩して、
椅子から床へポーンと落下し跳ね返った。
アキラが息を呑む。
師匠がハッとする。
次の瞬間にはきっとアキラの泣き声が響き渡るだろうと、思っていた。
999名無し草:04/01/23 23:39
1000名無し草:04/01/24 01:00
10011001
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