●趣味の部屋『塔矢愛好会』Part37○

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952名無し草:03/07/17 23:29
新すれ。アキラたん(;´Д`)ハァハァ
http://that.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1058452029/l50
953名無し草:03/07/17 23:40
それでは開店致します

              ┌─────――――┐
              │Bar チチャーイ山猫    │
              └─────――――┘   
     \ 三   \    /|||||"|||ヽ
    三 \ ∧∧ \  ,|||* ゚▽゚)||  イラッシャイマセ!! ゴチュウモンハ?   
    三三 (   ゚)   .h  ( つ)U)
      三/ ̄(つu Ц\    | 
     三 (┳_ \  三 ̄ ̄ ̄ ̄
         ╋━J   ̄ ̄ ̄三 ̄ ̄ ̄ ̄  
         ┻   三 三 三
954pocket size:03/07/18 21:33
(1)
前期試験も終わった木曜日。
読み切りも終わり胸にポッカリと穴が空いたような気分だった俺は、
一人で弁当を持って散歩に出かけた。

下宿のある住宅街から少し離れて、舗装されていない坂道を上っていくと
小高い丘みたいになっている場所に出る。
静かで見晴らしがいいし、木々が木陰を作って夏でもわりと涼しいので
一人でのんびりしたい時には絶好の場所だ。
ベンチも何もないので、草の上に直接座り込むとジーンズを通して草と地面の
ひんやりとした感触が伝わってくる。
(さてと・・・)
ガサゴソとコンビニの袋から弁当と烏龍茶のペットボトルを取り出す。
弁当を開けると中華おこわの飯粒がいくつかフタにくっついていた。
来る途中結構揺れたもんな、とか思いながらフタを傍らの草の上に置いて、
俺はのんびりメシを食い出した。
955pocket size:03/07/18 21:34
(2)
(こんな時、隣にアキラたんがいてくれたらなあ・・・)
コンビニ弁当も悪くはないが、一人で食うとなるとやはり侘しい。
アキラたんが北斗杯合宿の時みたいに横で甲斐甲斐しくお茶を淹れてくれたり、
アキラたんそれ美味そうだね、えいっ一口いただき!パクッ!あっひどい英治さん!
なんてじゃれあいながら二人で食えたらどんなに幸せなんだろう。
・・・でもアキラたんはいない。
少しぬるくなったペットボトルの烏龍茶を開けてゴクゴクと飲む。
ぷは〜、と切なさ混じりに一息ついてふと傍らを見ると、そこに何か違和感があった。
「?」
なんだろう・・・さっき置いたフタはそのままあるし、周りにも特に変わった様子は
ないのに、何かが違う。
気のせいかな。
気を取り直して弁当の続きを口に運ぼうとした時、箸が滑ってうずらの玉子を一つ
草の上に落としてしまった。
トホホと思いながら小さな玉子を指でつまみ上げ、後で捨てるものとしてフタの上に置く。
それからまた数口食べ進んで、苦手な酢豚の中のパイナップルを箸で選り分け、
これも後で捨てるものとしてフタの上に隔離しようとした。
「???」
また何か違和感がある・・・なんだろう。
(あ、そうか)
違和感の正体に気がついた。今目の前にあるフタの上には、何も載っていないのだ。
おこわの飯粒も、さっき載せたうずらの玉子もきれいに消えてなくなってしまっていた。
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(3)
蟻・・・なら飯粒はともかく、こんな短時間に彼らの体重の何倍もあるうずらの玉子を
運び去ることはできないだろう。
腹を空かせた野良猫か何かが音もなく忍び寄って、俺の気づかないうちに食物を取って
いったのかもしれない。実家の猫にもしばらく会っていないし、もし猫がいるなら
久しぶりに撫でたかった。
「・・・・・・」
試しにパイナップルをフタの上に置き、そのまま放置してみることにした。
全身の神経をフタ側に集中させながら、無関心を装って食事を続行する。
するとさわさわ草を掻き分けて、何かが近づいてくる気配がした。
まだだ、もう少し引き付けてから、驚かさないように・・・でもずいぶん軽い足音だな。
よっぽど小さい仔猫か何かなのか・・・
好奇心に耐えかねてそーっと横目でフタのほうを見た俺は己が目を疑った。

見間違えるはずなんてなかった。
あの漫画を知ってから約1年間、昼も夜も想い続けたその相手がそこにいた。
きっちり切り揃えられた黒い髪。大きなネコ目に作り物のように整った顔立ち、
スラリとした白い体。
絵じゃなく三次元だけど一目でわかった。絵から抜け出してきたようなという表現が
ぴったりな、漫画の絵そのままのアキラたんだった。
ただ漫画のアキラたんと違っていたのは、そのアキラたんが人形みたいに小さくて
おまけに裸だったことだ。
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(4)
「・・・・・・」
息をすることも忘れて見守る俺に気づかない様子で、
そのちさーいちさーいアキラたんはコンビニ弁当の透明のフタの傍らに膝と手をつき、
身を乗り出してそこに置かれているパイナップルの匂いをふんふんと嗅いだ。
少し首を傾げて、それから両手を伸ばしてパイナップルを抱え上げ、うんしょと
運んで行こうとする。
あっ、待って・・・行ってしまう。行かないでくれ!

「アキラたん!」
思わず大声で呼びかけた。
アキラたんの痩せた白い背中がびくぅぅっとして、俺を振り返る。
驚いて見開かれたネコ目。ああその目だよアキラたん。やっぱりアキラたんなんだね!
夢にまで見たアキラたんに会えた喜びで感動している暇もなく、
俺に見つかったアキラたんは泣き出しそうな顔で「ごめんなさい」と叫び、
パイナップルをそこに投げ置いて駆け出した。
「あっアキラたん。待ってくれ!」

アキラたんはアキラたんなりに全速力で走っていたのだと思う。
だが何せ体の大きさが違いすぎるから、3秒と追いかけっこしないうちに
あっさり俺の両手に捕まえられてしまった。
「やっ・・・!」
アキラたんはじたばた手足を動かし、かぷ、かぷ、と俺の手に何度も噛みついたりして
必死で逃れようとして。
「アキラたん、落ち着いて。何もしないよ、大丈夫だから」
俺も必死で説得を試みた。アキラたんはそんな俺の言葉も耳に入らない様子で
しばらく暴れていたが、やがて観念したのか抵抗をやめ、泣きそうな顔で俺を見つめた。
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(5)
「ええと、その・・・アキラたん、いや、塔矢アキラくんだよね」
アキラたんの恐怖心が少しでも和らぐように俺は手の力を緩め、努めて落ち着いた声で
確認した。アキラたんが驚いた顔をした。
「そうですけど・・・ボクだってわかるんですか?こんな姿なのに・・・」
「わかるよ!どこからどう見てもアキラたんだよー。アキラたん、なんでこんな所に・・・
いや、っていうかそれ以前に、どうしてそんな姿に?良かったら、わけを聞かせて
くれないか」
俺は体育座りみたいに両膝を揃えて座り、その揃えた膝の上にアキラたんの体を
ぐらつかないよう両手で支えながら座らせた。
俺がアキラたんを両手で捕まえているという体勢よりも、こうしてお互い座りながら
対等に話すほうが、誇り高いアキラたんを遇するにはふさわしいと思ったのだ。
「どうしてこんなことになったのか・・・ボクにもわからないんです。昨日進藤と一緒に
散歩していたらいきなり目眩がして、気がついたらボク一人でここに・・・民家や警察を
探して助けていただくということも考えたのですが、何しろこんな体になってしまった
ので思うように移動もできなくて・・・それに、こんな姿を人に見られたら気味悪がられる
んじゃないかと思うと、それも怖くて」
アキラたんはため息をついて言った。
ちょっとハスキーな声も聞きなれたアキラたんの声そのままで、俺はドキドキしてしまう。
「そうだったのか・・・大変だったんだね。どうしてそんなことになったのか、どうしたら
君を元に戻してあげられるのか俺はわからないけど、でも自分の力の及ぶ限り
君の力になりたいと思うよ。アキラたん、とりあえず俺のうちにおいで」
アキラたんはビックリした顔で俺を見た。
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(6)
「そんな・・・初対面の方にそこまでしていただくわけには・・・」
「何言ってるんだアキラたん。そんな姿でこの先ずっとここにいるわけにも
いかないだろ?今は夏だからまだいいけど、冬になったら凍えちゃうよ。
野良猫とか野鳥に襲われるかもしれないし・・・そんな危険な状態でアキラたんを
放ってなんかおけないよ!君を知ってる俺がここに通りかかったのも何かの縁だ。
根本的な解決にはならないかもしれないけど、君を俺のうちで世話させてくれ。いいだろ」
アキラたんは考え込みながら俺の言葉を聴いていたが、やがてコクリと頷いて、
「そう言ってくださるのでしたら、ありがたくお言葉に甘えさせていただきます・・・
ご迷惑をおかけしますが、しばらくの間よろしくお願い致します」
とはっきりした口調で述べ、俺の膝の上で深々と頭を下げた。
まだ工房になったばかりくらいの年なのに、やっぱりアキラたんはしっかりしてるな〜
礼儀正しい子なんだな〜と感心する。

「よし、じゃあそれで決まり!早速うちに行こうか・・・あ、弁当がまだ残ってたか。
アキラたん、帰るの弁当食ってからでいい?アキラたんも昨日からここにいるんだったら
お腹空いてるよね。一緒に食べるかい?コンビニ弁当だけど・・・」
「あ、えっと、ボク・・・」
アキラたんが何か言う前に、ちさーい体からク〜キュルルルと可愛い音が返事をした。
アキラたんが赤くなって言う。
「・・・すみません」
「いいよ。俺今ちょうど食べながら、ここにアキラたんがいてくれたらな〜って
思ってたんだよ」
まさかそれが実現するとは思わなかった。俺はいそいそと一旦アキラたんを持ち上げると
胡坐をかき、片方の膝にアキラたんを座らせもう片方の膝に弁当を載せた。
960pocket size:03/07/18 21:37
(7)
「口に合うかどうかわからないけど・・・」
言い訳しながら箸で酢豚や野菜の揚げ物を小さく切り、箸と一緒についてきた爪楊枝で
バーベキューのように串刺しにしてアキラたんに渡した。
それからペットボトルのフタを引っ繰り返して、烏龍茶を注ぎ入れる。
「アキラたん、お茶もどうぞ」
こぼさないよう注意しながら渡そうとアキラたんのほうを見ると、
ちょこんと姿勢良く俺の膝に座ったアキラたんは両手で爪楊枝を持って小さな口で
少しずつ食物を噛み切り、もぐもぐと細かく口を動かして咀嚼している。
ああ、やっぱりアキラたんは上品に物を食べるんだなあ。でも、あんまり美味しそうには
食べてないな。やっぱコンビニ弁当じゃ口に合わないのかな。
そうだ、家の冷蔵庫にスイカが冷えていた。帰ったらあれを食べさせてあげよう。
そんなことを思いながら「お茶、ここに置くよ」と烏龍茶の入ったペットボトルのフタを
アキラたんの白い膝の上にそっと載せた。

と、上品に酢豚に齧りついたアキラたんのネコ目から、急にぽろぽろぽろと大粒の涙が
こぼれ落ちたので俺はドキッとしてしまった。
「ア、アキラたん、どうしたんだい。やっぱり口に合わなかった?」
焦ってオロオロする俺に、アキラたんは涙を流しながら首を振った。
涙を流しながら酢豚を噛み切り、もぐもぐと咀嚼しながらまた後から後から涙を流す。
「違うんです・・・なんだかホッとして・・・」
コクンと食物を嚥下してしゃくりあげながらアキラたんは言った。
「本当は一人でとても不安だったんです。お腹は空いてくるし、この先どうしようって・・・
酢豚、美味しいです・・・」
961pocket size:03/07/18 21:37
(8)
しくしく泣き出してしまったアキラたんの震えるちさーい肩を見ながら、
俺もギュウッと胸が締めつけられて涙が出そうになってきた。
たった一人でわけもわからずこんな所に放り出されて、しかも自分はちさーくなっている。
どんなに心細かったろう。怖かったろう。
食べるものもないまま一夜を明かして、たまたま気まぐれにやって来た見知らぬ学生の
コンビニ弁当のフタについた飯粒や、一度地面に落としたうずらの玉子をこっそり
取らなければならないくらい、アキラたんは追いつめられていたのだ。
あの誇り高い塔矢アキラ、兄貴の奢る寿司やなんかで舌が肥えているはずのアキラたんが。
「アキラたん、こんなので良かったらいくらでもお代わりしてくれよ。急に食べて
お腹痛くするといけないからゆっくり、お茶も飲みながらさ。ね?」
「はい」
しゃくりあげながらアキラたんは野菜の揚げ物に齧りついた。
そんなアキラたんを見ながら、俺もまたゆっくり弁当を口に運び出した。

期せずしてアキラたんと初めてのランチの夢を果たした俺は、その後人目につかないよう
アキラたんをシャツの胸ポケットに入れて、下宿までの道を急いだ。
ちさーいアキラたんの身長は俺の手首から中指にかけての長さと同じくらいで、
ポケットの中で膝を抱えるとすっぽり隠れてしまうくらいの大きさだった。
自分は夢を見ているんじゃないかと思いながらアパートの部屋に帰りついて、
「もう出てきてもいいよ」とポケットの中を覗き込むとアキラたんは膝を抱えたまま、
スースーと小さな寝息を立てていた。
疲労と、安堵と、満腹感が重なって眠り込んでしまったんだろう。
起こすのも気が引けて、俺はそのまま床に仰向けになり、アキラたんの入った
胸ポケットを両手で包みながら一緒に昼寝することにした。
午後の日差しが柔らかく俺たちを包む。

ポケットサイズのアキラたんと俺の生活は、こうして始まったのだった。
962名無し草:03/07/19 21:01
ほしゅ
963名無し草:03/07/20 17:06
ポケットサイズのアキラたんは全裸なんだね(;´Д`)ハァハァ保守
>934-936

(14)
アキラは思いのほかバカ力を発揮して、ヒカルをがっちりと押さえ込むと
唇を貪り、舌を舐り、吸い、口蓋を犯した。
コイツなんてバカ力なんだろ。
大体、具合悪かったんじゃなかったか?……もしかして、仮病?
それに塔矢って、こんなキャラクターだったっけ?
とにかく、こんなことあり得ないよ!?
ヒカルはアキラの下で、しゃにむに暴れもがいた。
捕まれた手首に食い込むアキラの指が痛い。

と、不意にアキラが身体を離した。
「オマエ、何考えてんだよっ!痛てーし、何だよ」
肩で息をしながらヒカルは両手首を代わる代わるにさすった。
アキラはヒカルを見ようとせずに、自分の布団に潜るとヒカルに背を向けた。
「ごめん…。ボク、休ませてもらうよ」
「ったく…」
口をとがらせたヒカルも、アキラに背を向けて布団をかぶった。
アキラの我儘には本当につきあいきれない。
いや、でも、待てよ?前もこんなことあったような気がする。
そうだ、あの時は、なんともないような素振りだったから
気にも留めずに放っておいたら、結果、ひどい目にあった。
(15)
結局ヒカルは、口をとがらせたままアキラの布団に身体を移した。
後ろから抱き締めてやると、アキラがぴくりと身じろいだ。
「塔矢ぁ、どうしちゃったんだよ、もぉ…」
前に回した手でアキラの顔をそっと撫でると、アキラは嫌がらなかったから
そのままやわやわと続けた。これで、少しは落ち着くだろう。
あーあ、オレなんでいっつもコイツの機嫌ばっか取ってんだろ。
今日なんか、公園でもそうだったし、今だって、近い未来にあるかもしれない
小さな報復を怖れて、コイツの機嫌を気にしている。
あーやだやだ。オレって小っちゃいなー。

と、アキラの舌と遊ばせていた指に衝撃があり、思わず手を引いた。
「…ぃぃ゛い゛っっでーっ゛! なっ、何すんだよっ!」
一瞬の空白の後に、咬まれたのだと認識した。
「進藤は、こういうこと、考えたことなかった?」
「はあぁ?」
「ずいぶん無防備だったみたいだけど。考えたことなかった?」
抑揚のない声が冷たく響く。
「ね、ねーよ!大体、お前だって、考えたことあるのかよ?」
ヒカルが、いつも口に含むアキラの中心を握りながら聞き返すと
アキラはしばらく考えて、そういえば、ないかな、と呟いた。
「まぁったくっ、それが普通じゃん!オマエ何考えてんだよ?
……とにかくオレ、塔矢なんか、もう絶対!知らないからなっ!」
(16)

「――ごめんなさい…、…ひっ…うぅっ…、ごめ…なさ……… 」
泣いているボク。遠い日の記憶。あぁ、これは、夢だ…。
これはいくつの時だろう?幼稚園くらいだったかな?
おかあさんと縁日に行って、金魚すくいをしたら一匹も取れなくて
何回もしたけど全然とれなくて、帰り際におじさんが見かねて
お椀で2匹掬って持たせてくれて、それが凄く嬉しくて、
家に帰ったら金魚鉢がなかったから、お気に入りの青いサラダボウルに入れて
器の斑のある青と、金魚の赤の対比が凄く綺麗で、それがまた嬉しくって
飽きずにずっと眺めて、餌もやって、楽しみにしてたのに
ある朝起きたら二匹とも死んでて、淋しくて、悲しくて、それより
ちゃんと金魚さんたちの面倒を見てあげてなかった自分が悔しくて
金魚をくれたおじさんにも申し訳なくって、金魚さんやおじさんやおかあさんや
とにかくあらゆる人たちに、ごめんなさいって……

ゆっくりと視界が開け、目の前の白い枕には小さな湖が記されていた。
夢から持ち帰った切なさがきりきりと痛んで苦しい。
隣に眠るヒカルの右手をそっと取って、注意深く眺めると
中指の第二間接だけ、青く強調されている。
碁打ちの右手、しかも中指に歯を立てるなんて。まだ、痛むだろうか?
この痣だけで済んでいればいいけど…。
アキラはその手にゆっくり頬を寄せた。
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(9)
「う〜ん・・・」
という聞こえるか聞こえないかの小さな声と、胸の上で何かがモゾモゾ動く感覚に
目が覚めた。
なんだかとてもいい夢を見ていた気がする。
腕や脚が痒いと思ったら、寝ている間に何ヶ所か蚊に刺されていたようだ。
ん?
「あ・・・おはようございます・・・」
「あ、アキラたん!」
仰向けに寝た体勢のままの俺の胸ポケットから、ちさーいアキラたんが目を擦りながら
ピョコンと顔を覗かせた。
(夢じゃなかったんだ・・・)
感動しながらアキラたんを落とさないように、そーっと起き上がった。
胸ポケットを通じてアキラたんの小さな温もりが伝わってくる。
「あ・・・え・・・と、どうしようか。・・・とりあえず、外出る?」
「はい」
床だと何となく踏み潰してしまいそうで怖かったのと、ここのところ掃除機をかけて
いないから埃が溜まってそうだったのと、あとはやっぱり少しでもアキラたんと近い目線
でいたかったから、俺は急いで机の上を片し、そこにアキラたんを両手で下ろした。
アキラたんの温もりがポケットから脱け出ていってしまったのをちょっと残念に思う。
968pocket size:03/07/21 21:44
(10)
「ふぅっ」
狭いポケットから解放されたアキラたんは机の上でウーンと伸びをして、
清々としたように息をついた。
「すみません、いつの間にか寝てしまっていて・・・ゆうべはあの場所は蚊が多くて、
ほとんど眠れなかったものですから」
「いいよ。俺も試験明けで疲れが溜まってたから、アキラたんと一緒に寝ちゃったよ」
(や・・・やっぱちいせえよなあ・・・)
キャラクターズガイドに載っていたアキラたん本来の身長は164cm。
育ち盛りだからそれからまた少し伸びているかもしれないが、目の前で興味深げに
机の上を見てまわっているちさーいアキラたんの身長は、恐らく本来の1/10くらいに
縮んでしまっているのではないだろうか。
でも、ちゃんとアキラたんだ。
真っ直ぐ切り揃えられたおかっぱも大きなネコ目も。凛々しい眉もチェリーの唇も、
スラリとしたカッコイイ体つきも信じられないくらい肌理の細かい白い肌も。
それからキュッと丸く締まったお尻に、桜色のビーチクと、桜色の

(はっ!いかんいかん!)
俺は慌てて首を横に振った。
ちさーくなってしまったアキラたんにとって、今頼れる奴は俺しかいないのだ。
その俺がアキラたんを邪な目で見るようなことがあってはならない。
もし俺がそんな目で自分を見ていると知ったら、アキラたんはどんなにショックを受け、
自分の置かれている状況を不安に思うことだろう。
俺の部屋から逃げ出そうとして、外の世界で危険な目に遭うかもしれない。
そこまでいかなくとも食欲をなくしたり、ストレスから体調を崩してしまったり
するかもしれない。
俺がついていて、アキラたんをそんな目に遭わせるわけにはいかなかった。
ハァハァしたくなる気持ちは抑えて、アキラたんを守ることを第一に考えよう――
殊勝にも、強くそう思った。
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(11)
「アキラたん。いつまでもその格好じゃいけないよな。アキラたんに合いそうな服が
今ないんだけど、とりあえずこれを被って我慢しててくれるかい」
「あ、はい。お気を遣わせてしまってすみません」
アキラたんは俺の差し出した薄手の白いハンカチをふわっと身にまとい、ふんふんと
匂いを嗅いで嬉しそうにきゅっと顎の辺りで閉じあわせ、微笑んだ。
「石鹸の、いい匂いがします・・・!」
「そうか、良かった」
本当に良かった。ちゃんと洗ってあるハンカチがあって・・・と内心胸を撫で下ろす。

時計を見るともう夕方の6時だった。
「もうこんな時間か。アキラたん家では何時くらいに夕飯食うの?」
「父やボクの仕事の都合にもよりますけど、だいたい7時くらいまでには。でも今日は
お昼をしっかりいただいてしまったので、夜はあまり入らないかも・・・」
ハンカチの上から小さな手でお腹をさすりつつ、小首を傾げてアキラたんが言う。
その手がちさーいのにちゃんと五本の細い指を備えていて、一本一本の指にはちゃんと
小さな関節とピンク色の小さな爪が揃っていて、それらが精巧な作り物のように器用に
滑らかに動いていることに、俺はなんとなくだけど凄く感動してしまった。
「そっか、アキラたんはもうプロなんだよな。俺より年下だけど、ちゃんと働いてるんだ。
今日の夕飯は・・・一人暮らしでロクなもんがないんだけど、冷やし中華なんかどうかな。
冷やし中華に豆板醤とマヨネーズかけて食うの今ハマッてて結構オススメなんだけどさ、
アキラたんは米のゴハンのほうがいいのかな」
「冷やし中華、大好きです!辛いのも。マヨネーズは、ボクは結構です」
「あ、じゃあ冷やし中華と、あと豆腐があるから豆腐と、食後にスイカ食お。
退屈だろうけどここに座って少し待っててくれるかな。今仕度するから」
「はい!」
アキラたんは元気良くお返事して、座布団代わりの折りたたんだハンドタオルの上に
ぽふっと座り込んだ。
970pocket size:03/07/21 21:45
(12)
冷蔵庫を覗いてため息をつく。
普段コンビニ弁当とレトルト中心の食生活なので、本当にロクなものが入っていない。
今夜はなんとか凌げそうだが、明日になったら野菜とか色々買って来たほうがいいな。
掃除もしないとな。アキラたんに埃っぽい空気を吸わせるわけにはいかない。
普段だったら面倒臭いけど、アキラたんのためだと思うとなんかヤル気が出るな。

当然のことながらアキラたんに合う食器はないので、小さいお猪口を丼代わりにする
ことにした。冷やし中華と豆腐をアキラたん用に小さく切ってそれぞれ美的センスの
能う限り綺麗に盛りつけ、箸の代わりに爪楊枝二本を添える。先が尖っていて危ない
ような気がしたので先端を少し丸く削っておく。
(よしっ!あとは麦茶を淹れて・・・と)
冷蔵庫から麦茶のペットボトルを取り出している時、机のほうからか細い悲鳴が聞こえた
気がした。

「・・・アキラたん?どうした!?」
慌てて様子を見に行くと、白い布がちょうちょのようにひらひら跳ね回っては
ふわりふわりと翻っている。アキラたんが机の上をとてとて走り回りながら、
身に巻きつけていた白いハンカチを闘牛士のように振り回しているのだ。
「アキラたん?アキラたん、どうしたんだ危ないよ!落ち着いて!」
「やっ、嫌だ・・・っ!来ないで!あっ」
アキラたんがぺちんと転び、ハンカチがふわりと机の外に舞った。
その時俺は漸く、アキラたんのパニックの原因を悟った。
「うっ・・・!」
すぐには立ち上がれず両手両膝をついてお尻を突き出した格好のアキラたんに、
ヴ〜ン・・・と迫り来る怪しい影。――蚊だ。
ちさーくなってしまったアキラたんに翅を広げて襲い掛かる蚊がやけに大きく見えて、
その対比が妙にエロティックに感じた。
971pocket size:03/07/21 21:46
(13)
蚊は無遠慮にもアキラたんの可憐なお尻に留まると、その肌理細やかな白い皮膚の表面に
今にも口針を突き立て吸血しようとした。
「やっ・・・やーぁぁ・・・っ!」
アキラたんが細い悲鳴を上げると同時に、俺は「アキラたんごめんっ」と断り
ぺちっとそのお尻を叩いて、アキラたんを襲っていた蚊をツブした。

「あっ・・・、・・・はぁ・・・っ」
お尻への衝撃に振り向いて、助かったことを知ったアキラたんがほぉっと息をつきながら
うつぶせに横たわった。
「ありがとうございます・・・」
「いや、怖い思いをさせちゃってゴメン。俺がもっと気をつけてればよかったね」
今のアキラたんにとっては、蚊だって凄い大きさなんだよな・・・そりゃ怖いよな。
こんな小さい体で普通サイズの人間と同じように刺されたらどうなるかわからないし、
明日は蚊取り線香も買ってきたほうがいいな。
「はー・・・」
アキラたんはまだ興奮冷めやらぬ涙目で息を整えている。
蚊を潰した指を見てみると結構な量の血がついていた。昼寝中に刺された俺の血だろう。
ちらっと目をやるとアキラたんのお尻にも同じだけの量の血がついている。
全裸で涙目のアキラたんの白いお尻から太ももにかけて、こびりついた赤い血・・・
あらぬ方向へ意識が飛びそうになる。
頭を振って慌てて打ち消す。
いかんいかん。
「アキラたん、メシの支度が出来たんだ。もう入る?」
「あ、はいっ」
アキラたんのお尻にこびりついた血をなるべく無造作にティッシュで拭き取って、
落ちたハンカチをもう一度しっかり体に巻きつけさせて、アキラたんと俺は豆板醤入り
冷やし中華で一緒にゴハンにした。
972名無し草:03/07/21 22:11
ちたーい極小サイズアキラたんキタ━━━━ヽ(・∀・)人(・∀・)ノ━━━━!
カワイイよ。かわいいよアキラたん!
ハンカチを闘牛士のように振り回すアキラたん! まろやかなオシリを蚊に刺された
アキラたん!!!
ああアキラたん! アキラたん!
>964-966

(17)
まだ眠るヒカルの指に、アキラは軽く口付けながら考える。
それにしても、なんで進藤はあんなに怒ったのに帰らなかったんだろう。
いつもなら、もう知らない、の次は、帰る、で出ていくところなのに
今日は、もう寝る、って、首だけそっぽを向いただけだったな…
巡らせた思考は、自分を呼ぶヒカルの声で遮られた。

何か違和感を感じて目覚めたヒカルのすぐ側で、アキラが無心に
自身が噛んだヒカルの指を舐めている。ぴちゃぴちゃいう音と、
ちろちろ見える舌が、まるで猫のようだとヒカルは思った。
そうだ、コイツって猫みたいだ。気まぐれで勝手で、プライドが高くて。
あーでも猫は噛みついたりしないよな。
猫っぽくて、もっと凶暴な感じって…、トラ、かな?うん、そうかも。
だけど、いつからこうしてるんだろ?何のために?なんかのおまじないとか?
…うーん、それはないか。そういうの信じる奴じゃないし。
「塔矢、なにしてんの…?」
アキラはびくりと動きを止めた。
ヒカルを見ずに、逆にもっと顔を伏せるようにして、アキラはまた続きを始めた。
「塔矢…」
空いていた左手でアキラの頬を捉えると、アキラが身を堅くしているのが分かった。
「なーに、してんの?」
(18)
何をしているのかと問われたところで、別に何をしていたわけでもない。
強いて言うなら、気休め、とでも言えようか。
答えに窮したからヒカルの問いは聞かなかったことにしたが
それでは済まないようだ。頬に当てられた手が、行為の中断を余儀なくする。
アキラに解放された右手を、ヒカルはアキラのもう片頬にあて、顔を上げさせた。
おびえるように伏せた目がちらりと赤く見える。
更に覗き込むようにすると、アキラはわずかに身体を引き、顔を背けた。
「もしかして、泣いてた?」
アキラは小さく、でも力強くかぶりを振って否定したが、そのそばから震え始め、
あっというまにしゃくり上げて泣き出した。
驚いたヒカルは慌ててアキラを宥めたが、ますます激しく泣き始めるアキラに
涙の理由どころか、泣く姿すら想像できなかったヒカルには為す術も無い。
顔を隠すように両手のひらで目元を拭うアキラを、ただ胸に抱えるだけしか
できなかった。


「すまなかった、みっともない所を見せてしまって」
収まったアキラの言葉は、いつも通りのよそゆきだった。
「昔の夢を、見たんだ……」
アキラは言い訳をするように、自ら話し始めた。
975名無し草:03/07/24 00:17
日 凸  ▽ ∇ U.   
≡≡≡≡≡≡≡ /|||||"||ヽ
 U ∩ [] %..  |(゚ぺ*)||
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976名無し草:03/07/24 00:25
>975
アキラたん!キメッコ顔で小説待ちか!?(*´Д`*)ハァハァ
俺も一緒に待つ!
977名無し草:03/07/24 19:56
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978追憶 ◆dolce/987s :03/07/24 23:27
ここに書くのって久しぶりだなあ。
無題〜誘惑の流れから、シリーズ最終話(予定)
だからって、なんなんだよ、このセンチメンタリズムは。
いつまでも梅雨が明けないのがいけないんだ、きっと。
979追憶 ◆dolce/987s :03/07/24 23:27
時計を見るともう朝とはいえない、かろうじて午前であるような時刻だった。
それなのに、隣のメッシュ頭はまだ起きる気配も見せず、惰眠を貪っている。
ベッドを抜け出し、シャツを一枚羽織って、窓際に立ち、カーテンをそっと開ける。
外は静かに雨が降っている。昨日の夜も雨だった。今日も一日降り続くのだろうと天気予報は言って
いた。けれどそれも構わない。今日は何の予定も無いし、雨に降り込められて一日彼と怠惰に過ごす
のもいい。
窓の外から見える庭木は雨に濡れてより鮮やかに緑を増したように見えた。

雨を見ながら、さっき見ていた夢を思い出していた。
あの人の夢だった。
何を言っていたかはわからない。ただ、あの人がボクに何か囁きかけて、ボクはあの人に背を預けて。
触れている背中はあの人の体温を感じているのに、その温かさが何だかとても哀しくて。
なぜだろう。なぜ、今更。
記憶を辿る耳の奥で、ぽろりとピアノの音がこぼれたような気がした。

ああ、そうか。それでなのか。
この雨の音が、あの人の部屋を尋ねていった時の事を思い出させたのか。
あの時もこんな雨が降っていた。
ボクは独りで、世界中に独りぼっちで、自分の隣には誰もいないと思っていた。
誰かに傍にいて欲しくて、それなのに身体に触れるあの人の身体の熱さえ、心の奥までは届かなく
て、いつも独りで寒さに震えていた。触れられている時は忘れていられるのに、離れた瞬間に冷たい
風にさらされて、空虚さに身が震えるのを感じていた。
980追憶(2) ◆dolce/987s :03/07/24 23:28
その時、ふわり、と、後ろから温かい腕に包まれた。
記憶に残る空虚さと、今現実に感じる温かさとの落差に涙がこぼれそうになる。
キミと出会えたのが奇蹟なら、今こうして二人でいられるのは更に奇跡的な事だ。
この腕にこんな風に抱かれる日が来る事があるなんて、キミがボクの傍にいてくれる事があるなんて、
そんな未来があるなんて、あの時のボクは予想も出来なかった。
「おはよ。」
寝起きの少し掠れた、ふやけたような声が耳に落ちる。
「もう早くもないだろう。」
後ろに手を伸ばして、彼の柔らかな髪を乱す。
「何見てんの?」
「雨。」
「雨?」
「うん。」
「そんなカッコでいると風邪ひくぜ?」
「うん。」
空返事をして窓の外に目を戻すと、車がしぶきを上げながら走り去って行った。
そのまま、雨が降りしきるのをただ眺めていたら、唐突に身体に回された腕に力がこもって、彼がボク
の肩に顔を埋めた。
「…進藤?」
名前を呼んでも彼は答えずに腕の力を強めるだけだった。
その手にそっと自分の手を宥めるように添えると、ビクッと彼の手が震えたような気がした。
そのまま首を伸ばして唇で軽く触れると、ボクを拘束していた手の力が少しだけ緩んだ。
両手でその手を包みこみながらもう一度今度は腕にくちづけすると、微かに彼がボクの名を呼ぶのが
聞こえた。
981追憶(3) ◆dolce/987s :03/07/24 23:29
「塔矢、」
「なに?」
できるだけ穏やかな声になるように、そっと応えたのに、
「さっきさ、外見ながら、誰の事考えてた?」
言われて、ボクは手を止めてしまった。
応えられずにいると、身体に回された腕にきゅっと力がこもり、彼はまたボクの肩に顔を埋めてくる。
「塔矢、」
「……どうしてボクの考えてる事がわかるんだ。」
「わかりたくもねぇよ、オマエが他の男のこと、考えてるなんて。でも、」
ボクは少しだけ怯えていたかもしれない。こうして彼といる時にあの人を思い出してしまう事が、彼に対
する裏切りと思われてしまうのではないかと。それなのに、なぜだか、ボクがあの人のことをどう思って
いるのか、知って欲しいとさえ、ボクは思っていた。そう思うことが、尚更、彼に対して悪い事をしている
ような気もして、何だか混乱してきたボクに、また彼の声が届いた。
「塔矢、おまえさ、」
言いかけて彼は一瞬言葉を飲み込む。
なぜだかボクも緊張して、彼の言葉の続きを待っていた。
「おまえ、あいつの事、好きだろう。」
いきなりストレートに言われて、本当にボクは一瞬、息をする事さえ忘れてしまった。
「おまえの気持ちを疑うわけじゃない。けど、オレとは別に、やっぱりあいつの事好きだろう?」
怒ってるのでも、責めているのでもない、静かな声だった。ずっと言おうと思って言いあぐねていた
事をやっと言えた、そんな感じの声だった。
本当に、どうしてそんなにボクの事がわかるんだ、キミは。
そんなにずかずかと、ボクが認めたくないようなことまで言い当てなくたっていいじゃないか。
982追憶(4) ◆dolce/987s :03/07/24 23:31
「……うん。」
ようやく、なんとかやっと、ボクは返事をかえす。
「そうだね。きっと。ボクにとってキミは誰よりも何よりも、ただ一人"特別"だけど、」
確かに、キミの言う通りに、
「もしかしたら、ボクは自分で思っている以上にあのひとが好きだったのかもしれない。」
逃げちゃ駄目だよ。だってキミが言い出した事だろう。
とても、自分勝手なことを言っているのはわかってる。
こんな事を言うのは、キミにも、あの人にも、ひどい事なんだろう。
でも、それでもキミに聞いて欲しいんだ。だってこれもボクなんだから。
それがどんな事でも、全部を受け止めて欲しい。そう思ってるボクはひどく我儘で、キミに甘えてる
だけなんだって、本当はわかってる。ただ――こんな、肌寒い雨の日だから、甘えさせて。
「考える事があるよ。もしもボクがキミに会わなかったらボクはどうしてたろうって。」
983追憶(5) ◆dolce/987s :03/07/24 23:31
「ボクは遠くからキミを見詰めるだけで、ボクの隣にいるのはキミじゃなくあの人で、時々、キミを思い
出して胸が痛む思いをして、それでももしかしたらそれでボクは幸せだったのかもしれない。
キミがボクのものじゃなくても。」
ゆるくボクを抱いている腕の中でくるりと振り向いて彼を見る。そうして今日初めて、彼の顔を正面から
見る。キミにそんな顔をさせてるのはボクなんだろうけど、ごめん、進藤。それでも聞いて欲しいんだ。
首に手を回して抱きついて、頬にそっとキスする。
「ずっとキミが好きだったけど、それが叶うなんて、思いが通じる事があるなんて、思わなかった。
キミからの応えを、期待なんかしてなかった。
時々、思うことがあるよ。
もしかして、これが全部夢だったらどうしようって、目覚めたらまたボクは一人で、キミは誰か友達と
一緒に笑っていて、ボクはそれを遠くから眺めるだけで、キミを眩しく思いながら何も言うことも出来ず
に、キミに近づく事も出来ずに、一人でいて。こうしてキミを感じているのなんか、やっぱり只の夢で、
現実はボクは一人のままなんじゃないかって思う事が、あるよ。」
でもこれは夢じゃない。現実だ。そうだろう?
ここにいるキミが夢でも幻でもなく現実である事をもっとちゃんと確かめたくて、回した手に力を込める。
抱き返される力が、温かい体温が、キミの存在を確かに現実にしてくれていて、泣きそうになりながら、
それでももっとキミを感じたくて、キミの唇にそっと触れた。
984クローバー公園:03/07/25 22:30
>973-974

(19)

「……バッカだなぁ、オマエ。金魚掬いで取ってきた金魚なんて、
すぐ死んじゃうに決まってんじゃん。どーせ、掬われるなんて
間抜けか、そうでなきゃ弱ってるやつなんだから」
―――そう、さっき見た(気がする)赤や青のヒヨコだって…。
「それに、お祭りとかで、金魚もだけど、色つきのヒヨコ取ってきて
大きくなってニワトリになってコケコッコーって毎日鳴いてうるさい、なんて
普通、聞かないだろ?あーゆーのは、長生きしないんだって」
アキラは夢の話をしながらまた少し零れた涙を、指で拭っている。
「そりゃぁ、そうかもしれないけど、あの時はまだ小っちゃくて
そこまで考えられなかったし、凄くショックだったし、
なんかこう、その時の感情がまた沸いてきて……」

また思い出してしまったのだろう、うなだれるアキラを見ながら
改めてヒカルは思う。アキラほど理解出来ない人間はいないに決まっている。
人前で『良い子』を演じることが上手くて、考えてることは表に出さなくて
他人に対して冷めててサバけてて、そのくせ頑固で口うるさくて。
なのに、ずーっと昔に金魚すくいの金魚が死んだの思い出したからって
「金魚さん、ごめんなさい」って突然わんわん泣き出して……
大体さ、『金魚さん』って。いい歳して何だよ、それ?
985クローバー公園:03/07/25 22:31
(20)
弾けたようにヒカルは笑い出し、ぎゅっとアキラを抱き締めて、
ぽんぽんと背中を叩いた。
「塔矢、オマエ、カワイイなぁ〜、ホント、可愛いよ。サイコー!」
「可愛いって、何だよ……。キミだって幼稚園の頃は可愛かったろうに。
そんな昔のこと笑われても、何ともしようがないじゃないか」
この言葉が、ヒカルの笑いをますます煽ってしまった。
ヒカルは笑いが止まらないまま、アキラが逃げようとするのも構わず
顔中にめちゃくちゃに、もう隙間なんてないくらいにキスしまくった。
「ボク、男なんだけど…。可愛いはないだろう?」
「そんなの関係ないって。塔矢、オマエ、マジカワイイよ」
アキラは憮然とした顔でヒカルを睨んでいるが、ヒカルはそんなこと
お構いなしだ。ちょっと考えてから、勢い良く前髪を捲って
両手でしっかりアキラの顔を挟むと、盛大な音を立てて額に口付けた。
一方アキラは当惑気味で、その表情がますます可愛らしく思える。
「塔矢、ほんとカワイイ…」
耳元で囁いてみると、返事はないが、拒絶の言葉ももうない。
いつもクールで冷静、で通っている塔矢アキラが、こんなにもカワイイなんて
誰が思うだろう?そう思ったら、愛おしくてたまらない気持ちになって
ヒカルは、今度はそっと、アキラの唇に自分のそれを押し当てた。
986追憶(6) ◆dolce/987s :03/07/25 22:58
多分、言いたくなかった事を言わせてしまったような気がして、そんな事まで言わせた自分が情けなく
なる。
どうしてもっと早く、おまえの事好きだって気付けなかったんだろう。
おまえがアイツのものになってしまう前に、どうしてさっさと自分のものにしてしまえなかったんだろう。
今更こんな事、言ったってどうしようもないって、わかってる。
それでも時々、どうしようもなく辛くなる。
こんな事、考える方が馬鹿だってわかってるけど。
オレは何も知らなかったから。
何も知らなかったオレは、全部塔矢から教えられたようなもので、だから時々それを全部捨ててしまい
たくなる。忘れる事にしたつもりだったのに、気にしないって決めたはずだったのに、キスの仕方も、
セックスの手順も、全部全部アイツのものなんじゃないかって、塔矢の中に残るアイツの気配に、胸が
焼け焦げそうになる。

何も知らないおまえと、何も知らないオレと、二人で何にもないところから始めたかった。
こんな冷たい雨が降ってる寒い日は、なんだか不安になる。
確かにこの手の中におまえはいるのに、気が付いたら、ふっと目を離したらいなくなってしまうんじゃない
かって。
夢じゃないかって思うのはオレの方だ。
時々、これは全部オレの都合のいい夢なんじゃないだろうかと思うことがあるんだ。
あの日からずっと、オレが見てる夢なんじゃないかって。
本当はおまえはやっぱりアイツのもので、オレは悔しい思いを抱えたまま何もできずに遠くから、おまえ
がアイツといるのをただ見ているだけなんじゃないかって。
987追憶(6) ◆dolce/987s :03/07/25 22:58
この間、棋院でのこと。オレが手合いを終わらせて出てきたら、芦原さんと緒方先生と、おまえと、3人が
楽しそうに何か喋ってた。塔矢はいつもより何だか子供っぽく見えて、3人はとても仲良さそうで、楽しそう
で、なんでだかオレはその中に入っていけなかった。
入っていけずに少し離れた所から見ていたオレに気付いて、塔矢がオレに笑いかけた。それが、見慣れ
ないような、なんだか甘えたみたいな、子供みたいな笑顔で、なんでかオレは胸が痛かった。
これから4人で食事に行かないか、塔矢はそう言ったけど、丁度その時緒方先生の携帯が鳴って、用事
ができたから、と言って緒方先生は帰ってしまった。
だから、結局、オレと塔矢と芦原さんと3人でメシを食いに行ったんだけど。
芦原さんの話は面白かったし、普段は聞けないような塔矢門下の笑い話とか、塔矢のちっちゃい頃の話
とか聞かせてもらって、すごく楽しかったんだけど、大笑いしながらでも心のどこかにトゲが刺さってる
ような気がしてた。
緒方先生の電話って、あれ、本当だったんだろうか。あんまりタイミングが良すぎて、何だかウソ臭いと
さえ思ってしまった。
だってあの時の緒方先生の目が、緒方先生が塔矢を見る目が、あんまり優しくて、でも辛そうだったから。
でも塔矢は全然気付いてなかった。塔矢が顔を上げて緒方先生を見たら、緒方先生の顔はいつも通り、
ちょっと斜に構えたような皮肉な笑みを浮かべていて、さっきの切なそうな表情なんてどこにもなかった。
緒方先生は今でも塔矢が好きなんだ。
ずっと、あんな風に塔矢を見てたんだろうか。
辛くって、見てらんなかった。いっつも自信満々で偉そうで高飛車なあの人が。

オレだったら耐えらんない。塔矢を失うなんて、自分から塔矢を手放すなんて、できない。
そうして尚、あんな風に塔矢を見守ってくなんて、できない。
悔しいけど、やっぱりオレはまだガキで、あの人と比べると、全然ガキなんだって思う。
あの人がどんなに塔矢を好きか、どんなに塔矢を大切にしてて、今でも愛してるかって、わかってしまっ
て、辛い。そしてまだまだ追い付けないって、思い知らされて悔しい。
988追憶(8) ◆dolce/987s :03/07/25 22:59
知りたいけど、知りたくない。
いつから、どうして、アイツとそういう関係になったのか。
アイツの事、どう思ってたのか。

本当はおまえを全部独り占めしたい。
髪の毛一本だって、思い出の一欠けらだって、他の人間になんか渡したくない。
脳細胞の一つ一つまで全部オレしか考えられないようにしてしまいたい。
でも、そんな事、できっこない。
人間って奴は、どこまで欲が深くなれるんだろう。
一つを得たらその次が欲しくなる。

変わらないサラサラの髪。黒い瞳。
オレを惹き付けて離さない、真っ黒な瞳。
でも、顔立ちも、身体つきも少しずつ変わっていってる。
何もかも、どこもかしこも綺麗だと思うのは変わらないけど、最近は「綺麗」だけじゃなくて、カッコいい
なあとか、男前だなあとか、思ってしまう。
最初に会った頃は男か女かわかんなかったけど、今じゃもう女の子かもしれないなんて思う奴なんて、
滅多にいないだろう。
それでも、真っ直ぐに見据えるきつい目が、時々、ほんの時々、寂しそうに揺らぐのが堪らなく好きだ
なんて言ったらおまえは怒るかな。
おまえがそんな顔見せるのはオレだけだよな。

緒方先生は本当に塔矢の事、好きだったと思う。そして今でもきっと、同じように愛してる。
だからきっと、塔矢も緒方先生の事、好きだったんだろう。
きっと塔矢と緒方先生の間には、オレには立ち入れない領域があって、それはきっと今は塔矢はオレが
好きだとか、塔矢はオレの恋人だとか、そういった事とは別のことなんだろうと思う。
989名無し草:03/07/26 20:12
      γ⌒ヽ     
   /⌒)/ 人,ノ     
  (,,ノ/|||||,||)            
   (/||*゚o゚)|  
   ノ  つつ      わぁい★   
 O(,, ヽノ⌒)            
 ノ ,,ノ(_ノ''゙              
(_ノ    
990名無し草:03/07/26 20:13
      γ⌒ヽ     
   /⌒)/ 人,ノ     
  (,,ノ/|||||,||)            
   (/||*゚o゚)|  ぼくのことまっててくれたぁ?★
   ノ  つつ          
 O(,, ヽノ⌒)            
 ノ ,,ノ(_ノ''゙              
(_ノ    
991名無し草:03/07/26 20:14
      γ⌒ヽ     
   /⌒)/ 人,ノ     
  (,,ノ/|||||,||)            
   (/||*゚o゚)|  つまらないしょうせつのめじろおしだね★
   ノ  つつ          
 O(,, ヽノ⌒)            
 ノ ,,ノ(_ノ''゙              
(_ノ    
992名無し草:03/07/26 20:14
      γ⌒ヽ     
   /⌒)/ 人,ノ     
  (,,ノ/|||||,||)            
   (/||*゚o゚)| でもボクはがまんしたよ★ 
   ノ  つつ          
 O(,, ヽノ⌒)            
 ノ ,,ノ(_ノ''゙              
(_ノ    
993名無し草:03/07/26 20:14
      γ⌒ヽ     
   /⌒)/ 人,ノ     
  (,,ノ/|||||,||)            
   (/||*゚o゚)|  ボクはいいこだから★
   ノ  つつ          
 O(,, ヽノ⌒)            
 ノ ,,ノ(_ノ''゙              
(_ノ    
994名無し草:03/07/26 20:15
      /つ /つ
      / /__/ /  
     /|||||,||ヽ   
    ||(*゚ー`)| 
  .  ⊂_<∞>⊃  ボクは少し娼婦っぽいイメージだよ★
    ○(\ノ)
     (_ノ(_)
995名無し草:03/07/26 20:15
      /つ /つ
      / /__/ /  
     /|||||,||ヽ   
    ||(*゚ー`)| どちらの塔矢アキラも愛されている★
  .  ⊂_<∞>⊃  
    ○(\ノ)   
     (_ノ(_)
996名無し草:03/07/26 20:16
      /つ /つ
      / /__/ /  
     /|||||,||ヽ   
    ||(*゚ー`)| このスレの
  .  ⊂_<∞>⊃  ますこっとてき存在★
    ○(\ノ)
     (_ノ(_)
997名無し草:03/07/26 20:16
      /つ /つ
      / /__/ /  
     /|||||,||ヽ   
    ||(*゚ー`)| 可愛いボクと淫乱なボク★
  .  ⊂_<∞>⊃  
    ○(\ノ)
     (_ノ(_)
998名無し草:03/07/26 20:16
      /つ /つ
      / /__/ /  
     /|||||,||ヽ   
    ||(*゚ー`)| フフフ★
  .  ⊂_<∞>⊃  
    ○(\ノ)
     (_ノ(_)
999名無し草:03/07/26 20:17
      γ⌒ヽ     
   /⌒)/ 人,ノ     
  (,,ノ/|||||,||)            
   (/||*゚o゚)|  ボクがいちばぁんかわいいんだよぉ〜
   ノ  つつ          
 O(,, ヽノ⌒)            
 ノ ,,ノ(_ノ''゙              
(_ノ    
1000名無し草:03/07/26 20:17
      γ⌒ヽ     
   /⌒)/ 人,ノ     
  (,,ノ/|||||,||)            
   (/||*゚o゚)|  1000★
   ノ  つつ          
 O(,, ヽノ⌒)            
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