(さて、どうやって片付けましょう)
野梨子は口元に薄く笑みを浮かべた。
ポケットに手をしのばせる。指先に触れる物体は2つ。
硬質な感触の方は連絡を取り合う為の通信機。悠理からの連絡はまだ来ていない。
それと、もう一つの乾いた感触は、……麻酔針付吹き矢。自ら作成した武器である。
それ以外にも非力な自分を助けるための小道具を、今回彼女は持参していた。
ばらしていたそれを組み立て自らの唇にあてがう。
(しばらくの間、眠っていてくださいな)
野梨子は息を吹き込もうとした。
(えっ)
思わず、野梨子は目を見開いた。ぱちぱちと瞬きをする。
気のせいではない。
琴子の部屋の重厚な樫の木の扉がわずかに開いている。
(こんなわけがありませんわ)
『あの刑事の奴、期待してたのに駄目だったのよ。全く使えないわ』
苦々しげにつぶやいていた可憐の話では、刑事達は鍵を手に入れていない。
そして、この部屋の鍵は今頃老女の部屋から悠理が盗み出している途中のはずだ。
開いているわけがない――それなのに。
扉に近づいた彼の金色の髪が、月の光に煌いた。
彫像にも似た端正な横顔が浮かび、野梨子はなぜか自身の胸の鼓動が早まるのを感じる。
それにしても彼の目は虚ろで、まるで何かに操られているかのよう、
野梨子が疑問を抱くのと同時に、ドアノブに手がかけられる。
するりと体が飲み込まれた。
そして、彼の姿は、開かずの間の中へと消えてしまった。
どなたか続きお願いします。