一見した処穏やかで折り目正しい青年に見えるこの同僚の、心の裡にどんな魔
物が潜んで居るのか魅録は嫌と云う程知っている。利害の一致する相手に対し
て彼は、この上なく力強い味方足り得る。だが、一旦敵に回せば―――彼は持
ち前の冷酷な手腕を発揮する。奸計を用い策略を巡らして自らの手を汚す事無く
相手を追い詰め葬り去る。
そうやって蹴落とされて来た助手たちを、魅録は何人も知っていた。仕事の面で
多大な影響を受け密かに好敵手とも思い、注目していたからこそ知り得た彼の、
悪魔的な一面である。
同じ冷酷さをもって、この男は婚約者の上に君臨しているのだろうか。華奢な彼
女の肢体を一体どんな方法で嬲っているものか、考えるだに不快であった。
彼に敵対する事がどういう結果を齎すか、それを重重分って居乍らも抑える事の
出来ぬ感情に突き動かされて魅録は口を開いた。
「―――あんたに、聞いてみたいことがある」
微かに眉を寄せ、しかし予測して居た事であったのかすぐに笑みを湛えて清四郎
は振り返った。
「なんなりと」
(続きます)