さみすぃ。休日前に「妖しの恋」続きおながいします。>作家様
>>647 88
・・・ひとつ命、ひとつ運命、共に生き、共に死する連理の枝。我が妹にして我が想い人、我が妻たる者。うつし世から去ることは許さぬ。
我と共に生きるが唯一のそなたの定め・・・
遠くから呼びかける声は同時にキャロルの中に強く熱い生気をももたらす。
希薄となりその主の許から流れ出すばかりであった命に、新たなる命が混じり、再びキャロルの肉体の中に流れ込む。
生気はキャロルの鼓動に力を与え、健康な呼気を蘇らせる。キャロルは遠い意識の淵の中で自らの鼓動の音を聞き、鼓動と共に力強く呼びかける声を聞いた。
生きよ、と彼女に呼びかけ、請い願う必死の呼びかけを。
・・・私は生きなければならないわ・・・
キャロルは、ぼんやりと考えた。無に還っていく心地よい浮遊感の中に、まるで命綱でもあるかのように呼び声は降りてきた。キャロルは意識をその呼び声に向けた。
力強い呼び声。深い淵から明るい大地へと引き上げてくれる。暖かさが、生気が流れ込み身体を巡る。
・・・私は生きたい・・・
キャロルはぐんぐん登っていった。駆け上がるように軽々と、上へ上へと声に導かれて。
・・・・・キャロルはゆっくりと目を開けた・・・・・・。
キャロルを抱きしめ、必死に祈るうちにイズミル王子もすっかり冷え切り、消耗していった。禁忌の呪術ごときに負けるつもりはなかったけれど、
それでもアイシスの妄執が為した悪しき術の力はあまりに強く、このヒッタイトの地を護る神々の愛でし若者も圧倒されるのだった。目を瞑り、
うつつと夢の狭間で愛しい者を抱き護る青年。
だが。
何かが朦朧とした王子の意識の中ではじけた。何かを知らせるように、何かを呼び覚ますように。
王子はゆっくりと目を開け、雛鳥を守る母鳥がするように本能的に腕の中を覗き込んだ。
そこに見たのは青い瞳。ほのかな、しかしもはや消える心配のない命の炎の煌きを宿した懐かしい青い瞳。キャロルの。
89
本当なら、腕の中の愛しい娘を抱きしめて生還の喜びを語り、愛を請い、神々への感謝を口にしただろう、イズミル王子は。
本当なら、自分を愛してくれる青年に微笑を返し、救ってくれた礼を言い、愛を告げる言葉を口にしただろう、キャロルもまた。
しかし二人はあまりに消耗しきっていた。夢ならば覚めるなと祈りつつお互いの瞳を見つめたまま、ひたひたと押し寄せる喜びの潮に
ひたすら身を任せるままだった。
(ああ・・・神々よ、感謝いたします。我が手の中に、我と命を・・・未来を共にせし娘を返したもうたことに。私は・・・もう一人ではない・・・)
イズミル王子は、誰にも見せたことのない暖かい慈しみに満ちた視線をひたとキャロルにすえ、優しい声音で語りかけた。
「目覚めたか・・・。もう安心だ。災いは去った。私がいてやる。いま少し休め・・・」
キャロルもまた夢見るような微笑を返した。
イズミル王子は大胆に抱き寄せたキャロルの脚に自分の脚を絡めるようにした。もっともっと大事な娘を側近く感じようと。
互いに毛布の中で生まれたままの姿でいるにもかかわらず、キャロルはそれを拒まなかった。ただ暖かく心地よいだけで、
幼子のように甘えて、微笑を浮かべたまま再び眠りの中に─健康で安らかな快復のための眠り─引き込まれていった。
翌朝、侍女たちを従えて部屋に入ってきたムーラはこの人にしては非常に珍しいことにいささか取り乱して部屋の外に退却した。
「王子様たちはまだお休みのご様子。今しばししてから参上いたしましょう」
抱き合って眠る恋人たちの姿は、このような光景を見慣れているはずの世慣れた乳母をして羞恥させ狼狽させるような、
初々しさと艶めかしさに彩られていたというわけか。
(まぁ、王子がこのように日も高くなる時刻まで女人と過ごされるなんて珍しいこと。あの子供のような金髪のお方が
よほど王子のお心を捕らえたのでしょうか・・・?
いずれにせよ、あのお方はこれまでの女人方とは違うよう。お扱いに注意せよと他の者にもそれとなく注意しておいたほうがよいやも・・・)
まだまだ目が離せない〜。続きUP有り難うございます!>「妖しの恋」作家様
>>656 90(ダイジェスト版)
瀕死の状態でアイシスはトロイへと戻った。彼女の魂はもはや醜い煙か何か実体を持たぬモノと化し、不吉な気配を漂わせる化け物となっていた。
しかし、その煙の中にあって一点、未だ輝きを失わぬ個所がある。そここそは、アイシスがキャロルの許から引きむしってきたメンフィスの魂魄。アイシスの生気を吸い、かりそめの生を得ているメンフィス。
(やっと・・・戻った・・・)
アイシスはもはや視界すら定かでない。寝台の上に置き去ってきた己の肉体に戻るアイシス。弱りきった彼女の魂に僅かな暖かさ、力が戻る。
だが、なんと言うこと。それまで美しかったアイシスの容貌は魂の帰還と共に見る見る老いさらばえ、醜く崩れ、ミイラのような老女の姿となった。
「お戻りか、アイシス様・・・」
暗がりの中から現れたのはキルケーであった。
「よく生きて。もはや黄泉の地へと旅立たれたものとばかり・・・。おいたわしや、すっかり御身の力を使い果たされましたなぁ」
90.5
「な・・・に・・・?」
キルケーは無言でよく磨かれた鏡を衰えたる女王の前に差し出した。常夜灯の薄い灯りの許、おぞましく変わり果てた己の姿を見てアイシスはかすれた悲鳴をあげた。
「・・・肉体の器より離れし魂は弱きもの。ましてや・・・貴方様の魂に衝撃を与えたるは一体、どのような力の持ち主でありましょうや? 実体なき御身にこれほどまでの傷を与えるとは。
鏡をご覧なされましたや? 魂の力、生気失せたるがゆえに貴方様の身体から生気も・・・若さも失われて。術の引き換えとは申せ、おいたわしやなぁ・・・」
キルケーもまた、魔力と引き換えに若さを失った哀れな「年若き老婆」であるのだ・・・。
「キルケー、メンフィスはっ?!メンフィスはいかがいたした?無事であろうな?」
「はい・・・。貴方様の命と共に生きておいででございます。若く力強きファラオとして・・・ね。
貴方様は生命転移の術に成功されたのでございますよ」
アイシスの皺だらけの顔に笑みが刻まれた。それはぞっとするような光景だった。
「それを聞いて安堵しました。我が弟は・・・我が最愛なる夫は死なぬ。何としても生き長らえさせましょう。私が愛するは天にも地にもかの者一人ゆえ。
・・・キルケー、そなた、私を笑いまするか?私のオシリス、メンフィス一人のためにここまで愚かになれる私・・・」
「・・・今はお休みなされませ。我が女王よ。誰が貴方様の一途さを笑ったりいたしまするか。貴方様こそは真のイシス・・・」
アイシスはゆっくりと目を閉じた。
91(ダイジェスト版)
トロイの地でエジプトの女王アイシスは病に倒れ、正妃にして異父姉を慮るファラオ メンフィスは帰国の途につくことを決意した。
女王アイシスの病は重く、許された医師─キルケー─とメンフィスだけしか病人には会えなかった。誰にもその姿を見せることなく、
分厚いベールに隠された輿に乗り、アイシスは旅路を辿る・・・・。
「・・・姉上、目覚めたか? 怪訝そうな顔だな。ここは地中海だ。我々はエジプトに還るのだ」
夜半過ぎ、ふと目覚めたアイシスは枕頭にメンフィスの姿を認めてたいそう驚いた。トロイの都で密かに真実を全て知らされて以来、
彼はアイシスに直接会おうとはしなかった。
妻として、女としては愛してはいなかったが、かけがえのない血縁、頼りになる姉として尊敬し、重んじてもいたメンフィスだが、
アイシスの為した忌まわしく邪な術、それによって変わり果てた容貌に底知れぬ恐れを感じていた。
そして正義と秩序の体現者ファラオとして育てられた彼には、アイシスの行為は到底、理解できず許しがたいものであったのだ。
「メンフィス・・・・そなたか?いてくれたのか?」
メンフィスはほとんど禿げ上がったアイシスの頭に僅かに残った白髪をそっと撫でた。その仕草は驚くほど優しく思いやりに満ちていた。
「私が・・・姉上から離れられぬは知っておろう。私は姉上と・・・」
「メンフィス・・・許して欲しい。でも私はそなたが厭う術を解いてやることはできませぬ。そなたに生きてほしいのじゃ・・・私が生きている限りは」
「姉上は自分の命と私を結びつけた。私は・・・姉上のやり方を許すことはできぬ。姉上は私に命を・・・全てを与えようとして私の全てを奪ったのだ。
私は生きたる死人ぞ」
アイシスは震え上がった。気性の激しい弟が今にも自害しはてるように思ったのだ。死人でありながら生者と交わらねばならぬ厭わしさ、悲しさ、
神々の嫌う邪術によって生きねばならぬおぞましさ。メンフィスをこんな目に遭わせた張本人は二目と見られぬ醜い老婆の姿。
そして美しく若さの盛りにあるメンフィスを愛している正妃・・・!
92(ダイジェスト版)
だが。
メンフィスの口から出たのは思いもかけぬ言葉だった。
「姉上、私はあなたを哀れに思う。あなたは私を生ける屍とした。だが私は生者としてエジプトを統べていく。それが私の定めだからだ。
そしてあなたこそは・・・死者のごとく人も訪れぬ宮殿の奥深くで生きてゆかねばならぬ。その容貌では・・・人前に出ることも適うまい。
あなたは間違いなく生きている。しかしその姿はもはや生者のものにあらず。あなたは二度と生者と交わることは許されぬ。それがあなたの定めだ」
アイシスはミイラのように灰色にしぼみ、ひび割れた皮膚からは黄色い体液が滲む己の身体を見下ろした。そこにはもはや傾国の美女の姿はない。
だがアイシスは平気だった。目の前には神のような美丈夫メンフィスがいるではないか。メンフィスさえ生きていてくれるなら・・・!
メンフィスはそっと身をかがめ、かさかさの皮膚にそっと口付けた。
「姉上、アイシス、我が正妃であった人よ。私はそなたを哀れに思う・・・哀れに思う・・・」
メンフィスは部屋を出て行った。
アイシスはメンフィスの唇の触れた場所をそっと撫でながら嗚咽を漏らした。
その後。
エジプトの女王アイシスは病治癒を祈って神殿に入った。実質上、正妃の地位を失ったものとみなされる。
そして、メンフィスは正妃を置かず、国内や近隣諸国から側室や寵妃を召し出し多くの子供たちを得た。彼は生涯、キャロルを忘れなかった。
金髪の乙女の姿を思い起こすとき、彼は忌まわしい自分の境遇を忘れることが出来た。しかしアイシスはメンフィスに決してキャロルのことを話さなかったし、
国内に専念したメンフィスは、ヒッタイト王子の寵を受ける金髪の娘─やがては王妃─のことも詳細には知ることは無かったのである。
メンフィスの治世は15年にわたったという。正妃アイシスとほぼ同時に亡くなった彼は、脇腹の世継ぎの年若い王子に丁重に葬られた。
正妃アイシスはようやく最愛の人との安らぎの時を得たのである。
余談ではあるが、亡くなったアイシス妃は二十歳前後の若い女性のような美しさを湛えた死に顔で、ファラオの遺族たちの目を驚かせたそうである。
彼女は死によって禁断の秘術の呪縛から解き放たれたのであろうか・・・?
93
物語は再びヒッタイトの朝の場面へと戻る。アイシスの脅威から解放された恋人同士が昏々と眠るヒッタイトの朝へと。
その朝、先に目覚めたのはキャロルだった。その時の驚きと戸惑いを生涯、彼女は忘れえなかった。夫君は二人きりの折など、その時のことを話題にしたりもした。。それは幸せな国王夫妻二人だけに通じる秘密の冗談のようなものだった。
─あの時は驚いたな。そなたは不器用に掛け布と私のマントを羽織り、まるで泥棒か何かのように逃げ出そうとしていた。
─だって仕方ないわ。何も着ていないって気がついて・・・。とにかく逃げなきゃってそればかり。
─私がそなたの命をアイシスより救ってやったというのに。私が抱き寄せても嫌がらず、身を任せ喜ばせておきながら、朝になれば私を捨てようとした。とても初夜を済ませたばかりの花嫁のやり方とは思えぬ。
そなたの気性はあらかた飲み込んだつもりであったが、あの時はまこと驚かされたぞ?
─しょ、初夜だなんて!あの時は何もなかったわ、知っているでしょう?! それなのに、あなたは誤解する召使やミタムン王女様に何も言ってくれなかったわ。皆、好きなように想像して本当にいやらしい!
私がいくら言っても誰も耳を貸してくれないんですもの!
─そうそう、そなたは心底腹を立てて泣いていたな。しばらく拗ねてつんけんしてばかりで。私は潔癖な乙女に困らされた!
93.5
エジプトのファラオ夫妻が帰国したとの報告がイズミル王子にもたらされたのは、あの夜からしばらくたってからのことだった。季節はいつしか移り変わり、キャロルもずいぶんヒッタイトに、
いや彼女の心を切望する若者に馴染んできたところだった。
(となると、キャロルの処遇を本格的に考えてやらねばな。全く私も辛抱強いものだ。この私と共寝はしても肌は許さぬ女など初めてだ! キャロルを一日も早く我が妻とし、いずれは正妃の地位に冊立・・・)
これまで側室や寵妃しか持たなかった若者はキャロルと過ごす月日のうちに、彼女をこそ彼、ヒッタイトのイズミルの妻、正妃としたいと思うようになっていた。キャロルは気性が温和で優しいだけでなく、
怜悧でイズミルですら驚くような冷静な現実主義者でもあった。その素質を見抜いた王子は、内にあっては永遠の恋人、心安らぐ妻、外にあっては気高く優れた為政者の正妃としてキャロルを守り育てていこうと決心したのである。
キタ━*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*━!!!!!
>>650 9
アフマドは幾度も訪れたリード邸を来訪し、顔馴染となったばぁやの愚痴とも心配ともつかぬ
キャロルの話に相槌をうち、そっとキャロルのいるテラスの方へ向かった。
今キャロルは疲れているように見えたので、ばぁやに休息を取るようにとテラスのカウチで過ごしてるとのことだった。
あの地中海の底で得がたい宝石のようなキャロルを見つけてから2年ほどになるか・・・と思い出しながら
アフマドはじき自分の求婚の回答を当然受け入れられるだろうと、やや自嘲気味に唇を曲げて見せた。
キャロルが自分の側にいればよい、考古学の研究もライフワークのようだし、無理にやめさせずとも構わない。
どうせ何処に行くにも自家用機があるのだから、世界中どこにいても変わらないだろう。
全ては自分の計画どおりに進んでいる、とアフマドは満足していた。
もっとも形式的な求婚の返事はまだ貰っていないが、断わることはないだろう。
前回は突然の事でキャロルも動転したのだろうし、キャロルが自分を嫌っているようにも思えない。
時折一緒に過ごすヴァカンスも、自分はキャロルの優美な仕草に、機転に富んだ受け答えに驚かされても
いつも楽しいものだった。
部族の中には王族に列なる者もいるが、キャロルはその者達にも全く引けを取らず
戯れで民族衣装を着けさせてみても、裾払いも堂にいった優雅な物腰で嫣然と微笑んでみせた。
わが部族の花嫁衣裳を着けさせればきっと映える・・・。
身勝手な計画を立てる男は足音を忍ばせてテラスへ近寄った。
キャロルは長い金髪をそよ風に嬲られながらカウチに身を任せ眠っていた。
声を掛けようとアフマドは口を開きかけたが、キャロルの横に自分と同じような民族衣装を身に着けたようなぼんやりとした影がキャロルをまるで守るように寄り添っているのを見、
何者かと目を凝らした。
その影は確かに人の形をしているように見えたが、悪意のある様子には見えず、
やがてはアフマドの目の錯覚だったかと思うほどふっと空中に掻き消えたのである。
キャロルはよく眠っている、気のせいか安心したような表情で。
「あの娘には、エジプトの王家の呪いが憑いてるって専らの噂だぜ・・・・。」
アフマドの耳に友人のガーシーの怯えたような声が木霊のように聞こえてきた。
ここいらでまたΨ(`▼´)Ψな作品キボンヌ!
どなたかおながいします。
>>663 94
「キャロル」
美しく設えられた居間に入ってきた王子を、キャロルと侍女たちは淑やかに迎えた。
「姫君のご機嫌は如何かな?」
「まぁ・・・」
口付けられた手の甲を抱きしめるようにしながらキャロルは頬を染めた。
自分をすっかり妃扱いして、周囲の人々の好意的ではあるが、いささか好色な好奇心を含んだ視線を特に咎めないイズミルに潔癖な
キャロルは複雑な感情を抱いている。
「下がっていよ。私はキャロルと話がある」
ムーラは侍女たちを促して、イズミル王子お気に入りの佳人の部屋を下がっていった。イズミル王子は金髪の女性に夢中で、
自分の居住区を形ばかり仕切って彼女の居室とした。彼が訪れ、飽くことなく夜を過ごすのは専らキャロルと呼ばれる
少女の部屋ばかりだった。彼女の素性がどのようなものかはムーラには、はっきりとは分からなかったけれど王子のみならず、
ミタムン王女や国王夫妻も憎からず思っている彼女の未来はごく安泰で華やかなものと思われた。
「メンフィス王の一行がエジプトに無事戻ったそうだ。ファラオは留守中に溜まった政務に忙殺され、
女王アイシスは何故か神殿に篭もりきりだそうだ。ファラオ夫妻が並び立つ姿を見た者はいない。
姿を現すのはメンフィスのみだ。アイシスに面会できるのもどうやらメンフィスだけらしい。
・・・女王アイシスはあるいは帰国途中で死去、公に発表できるまではその死が公表されないだけ
である可能性もある・・・と報告が上がってきている」
問い掛けるような王子の視線をキャロルはしっかりと受け止めた。
94.5
「・・・そう。アイシスは死んではいないわ。だってメンフィスが生きているんですもの」
「そうだな。だが先々、彼女が再び人前に現れるかな?私は実体なきあの女を確かに傷つけた。
吹き散らされる煙のようになって、あの女は消えていった。
・・・禁断の秘術がどのようなものかはよく分からぬ。だが命の本質たる魂を傷つけられて無事ではおられまい。
おそらくは瀕死の状態で、メンフィスを生き長らえさせる装置としてのみ彼女は存在するのだろう。
・・・それ以外のことは何もできない。ある意味、死んだのはアイシスのほうだ」
これが何を意味するかわかるな?と王子は乾いた口調でキャロルに問うた。アイシスによって異世界よりこの世界に引きずり込まれ、
未だ故郷を家族を忘れえぬ娘に。
「・・・私は・・・ここで生きるしかないのね。・・・やっと・・・認められるわ・・・」
キャロルの瞳から涙が零れ落ちた。
>>617 火照った彼の体をよく冷やされた布が滑っていく。目を開けられれば白い顔が見えるだろう。
細く白い指。今までのそう長くない人生で一番優しいもの。
目が覚めたら言おう、一生傍にいろと。
金の髪に指を絡めようと手を伸ばす。
意識が覚醒に向かい、視界に彼の傍にいた侍女の怯えた顔が入ってきた。
王は目覚めた後まで体に触れていられるのは嫌い、機嫌が悪ければ打擲されることもあるのだ。
あわてて下がろうとする侍女を無視して王は傍らのデキャンタからワインを飲んだ。
杯を持つ彼の手は少年のものではなく、鏡を見れば老境に入った男が目に入る。
「まだ忘れられぬとは・・・。もう30年以上も前のことだというのに。」
自分を裏切った娘など玩んだら、すぐに忘れられるはずだった。
自分から逃げ出したりするから攫われたのだと思い込もうとした。
リビアからの妃を娶り、側室もいた。イズミルの娘は死者とヒッタイトへの半ば嫌がらせで娶った。
女はいくらでも手に入る。
それなのにただ一人の少女が忘れられない。
うまく隠れているようだが息子ともども見つけ出し罰することができれば今度こそ忘れられる。
彼女との穏やかな幸福を得たいのだと、自分が夢見たのは彼と共にいて幸福である彼女だと、
自分の内にあるものを彼が認めたのは少女がウァジェト女神から取り返したその生が終わる瞬間であった。
自分の内に湧く人間的な感情をありのまま認めて、それとちゃんと向き合って、
受け容れ消化してから実際の行動に移す作業って、一種つらいよね。
「彼の見る夢」のメンフィスがある意味人間的に成熟しかけた瞬間は、本人が
死ぬときだったんだね。
なおは慌てて体を放そうとしたが床に倒れ込んだイズミルはなおの腕をつかみそれを阻む。
「まさかこのわたしが押し倒されるとは・・・・」
「べ・・・別に押し倒したわけじゃぁ!!」
叫ぼうとしたなおに悪戯に微笑んだイズミルは問いかける。
イズミルはなおの髪を愛しげに梳いて笑った。
「怖いか?」
自分の体を支えていた腕をすくわれイズミルの胸に倒れ込み、同時に抱きしめられ強引に唇を重ねられる。
「ちょっ・・・んっ・・・・っ・・・待ってって・・・。」
なおは身動き一つできない状態の中で抵抗を試みる。
しかし口づけが深くなるにつれてその抵抗も徐々に薄らいでゆく。
その様子を眺めイズミルは悪戯っぽくなおの耳に唇を寄せる。
「愛している・・・・・・なお」
「きゃぁっ!!」
体中を走る刺激に呼吸を荒くしていたなおは視界の180度回転に悲鳴を上げ、イズミルにしがみつく。
そして気がつけばイズミルに組み敷かれていた。
「なおっ・・・」
「・・・・っ・・」
イズミルの唇と指がなおの身体の線をゆっくりとなぞってゆく。
「・・・・ん・・っ・・・・・あっ!!」
「なおっ・・・」
>>668 95
「私は・・・二度と還れない。私はここで・・・死ぬのね。ママ・・・兄さん・・・皆にもう会えない。思い描いていた未来も・・・親しい人達も・・・皆、さよならなのね」
抑えきれない感情の赴くまま、嗚咽を漏らす少女をしばらくイズミル王子は痛ましげに見つめていた。
「認めるわ。私は・・・ここで・・・この世界の人間として死んでいくのね」
王子はぐっと華奢な身体を引き寄せた。
「そうだ、そなたは還れぬ。惨いことだ。そなたが失った全てのものを思うと、愛しい娘御を失った母君のお心を思うと胸が痛む。アイシスは何と非道なことをいたしたのか」
その言葉にキャロルはとうとう声を放って泣き出した。
「だがキャロル。そなたはこの地で生きるのだ。生きて生きて、力いっぱい生きて・・・生きた証を、その血を残し、そして彼岸の国へと渡るのだ。そうだ、死ぬ前にそなたは生きるのだ。
幸せに、私の側で、長い年月を」
王子は優しい、しかし有無を言わせぬ強い調子でキャロルに言った。
「そなたを私の側に迎える。そなたは一人きりではない。そなたは私の妃として生きるのだ。この地にしっかりと根をおろし、子をなし、血を残す。
・・・よいな、逆らうことは許さぬ。私はそなたを迎える」
キャロルは呆然としてはしばみ色の瞳を見返した。兄のように優しく、いつもいつも自分に穏やかに接してくれた夢の王子様の思いもかけぬ強引さに驚いたのだ。キャロルはいつかの夜、
泉のほとりで王子が自分に対してどれほど強引であったかを忘れていた。
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「私・・・は・・・」
キャロルは呟くような声で言った。
「私は禁断の呪術を受けてこの世界に引きずり込まれた身です。あなたにはふさわしくない。
いえ、呪いを受けた身など誰もが厭う。あなたに災いがあるかもしれない。
私はあなたを知らない。あなたはきっと私の珍しい外見に惹かれているだけです。
誰か相応しい人をお妃にしてください。
私は、私は・・・。」
「だめだ」
王子はいきなり唇で、キャロルの言葉を遮った。
「そなたが失った全てのものに、この私がなりかわってやろう。私はそなたの親であり、
兄弟であり、友だ。そして夫となる。そなたは私の娘で妹で恋人で妻だ。
キャロル、この地で私と命運を共にしてくれないか? 私はそなたを・・・愛している」
「そんなこと、急に言われても・・・。分かりません、私は。私があなたを好きなのか、
私はあなたに相応しいのか。あなたが本当に心からそんなことを言うのかも・・・」
やれやれと王子は内心苦笑した。キャロルの言葉は不器用な愛の告白であることを、
武骨一点張りなどではない繊細な心の機微も理解し得る青年は見抜いていた。
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(この乙女は本当に子供だ。自分の心すら見定めかねている。私が一時ののぼせや気まぐれで愛を請うているかと疑いすらして!
手練手管などでなく本気でそう思っているらしいな。水臭い!そこそこ長い付き合いではないか。)
王子はひょいと小柄なキャロルを抱き上げた。
「私にはわかっているぞ。私は心からそなたが愛しい。そなたの強い、でも存外幼いところもある優しい心根を何よりも愛しいと思う。
そなたとは身も心も結ばれたい。
そなたとて本心では私を愛しく思っていてくれているのだろう?私には分かるぞ」
イズミル王子はキャロルの唇を自分のそれで塞いだ。今度こそ抗いの言葉など言わさぬように。
その日の夕刻、ようやく王子はキャロルの寝所を後にした。
「キャロル、まだ気持ちの整理に時間がかかろう。しばらくは時間を与えよう。だが、そなたの命運はもはや定まったぞ。
吉日を選んでそなたを私の許に迎える。・・・よいな?」
キャロルは真っ赤に頬を染めて、あるかなきかの様子で王子に許諾の意を伝えた。王子は説得の甲斐があったものよと
心ひそかにほくそえみながら悠々と自室に引き取っていった。
後刻、王子は先ほど後にしたばかりのキャロルの部屋にやって来て、当然のようにその部屋の女主とひとつ寝床に入った。
ただ添い寝するだけではあったけれど、キャロルは侍女たちにひどくなまめかしい夜化粧を施されていた。
ムーラ達は、王子が政務もそっちのけ、太陽が時々刻々その座を動くのも構わず金髪の佳人と睦まじく戯れていたのだと思っていたのだ。
「王子、老婆心ながら申し上げます。何卒、ご自分の義務と責任をお忘れになりませぬよう。
それから御方様(とはキャロルのことだろう)をお労わりくださいますよう。女人とは殿方と違いまする。ましてや、子供のような御方様では・・・」
「分かった、ムーラ。無粋な心配いたすな」
王子はさらりと言うと耳まで赤くしたキャロルを抱きかかえるように寝所に入った。
その晩、キャロルは召使たちの屈辱的な勘違いと、それを質さぬ王子にひどく腹を立て、世慣れた若者を大いに困らせたのだった。
98
黄金色の日差しまばゆい秋の午後。
きらびやかな行列がハットウシャの王宮に吸い込まれていった。行列はあまたの兵士に厳重に守られ、美々しく着飾った侍女や従僕が沢山従っていった。
彼らに守られているのは厚くベールをたれこめた立派な輿。輿の中にあるのは、このたびトロイの地よりヒッタイトのイズミル王子の許に参上する姫君であった。
輿はイズミル王子の宮殿に丁重に担ぎこまれ、王子自ら輿のベールを上げ、待ちわびた姫君を迎えた。
「待ちかねたぞ、姫」
王子の手は性急に、姫君の顔を隠していたベールを取り去った。金色の豊かな髪に彩られた白い美しい顔があらわになった。
姫君の─キャロルの─青い瞳が恥じらいと喜びを含んで背の君の顔を見上げた。
あれから。
イズミル王子はキャロルがこのヒッタイトで、自分の妻として過ごすに当たり何の不自由も引け目もないように心砕いて準備した。
まずキャロルはルかに守られて慎重に城外に出された。彼女はトロイの神官貴族の娘ということにされた。まず、名家名流でかつ子孫が絶え、
今は忘れられかけ当主すら定かでない家系が選ばれ、架空の当主が設定された。代々、神官を務める貴族ということで。
キャロルはその当主と、エジプトの貴族の娘の間に生まれたということになっていた。今はかつての栄華栄耀の影もないが
血筋だけはこの上ない家に生まれた娘は、その美しさゆえに諸国を旅するヒッタイトの王子に見初められたのだ。
いくら古代でも、この手の作り話はすぐばれるだろうとキャロルは思ったが、王子は頓着しなかった。
彼は巧みにエジプトのナイルの女神の黄金の娘の噂を広め、キャロルの金髪も人目にさらした。
だから人々は、いつしか信じるようになったものだ。イズミル王子は不思議な力を持った異国の神の娘を娶った。
異国の神の娘は王子をそれは慕っている。我らが王子はたいしたものだ、異国の神の血筋すら心服させる・・・。
すいません、sage忘れ・・・
きゃー!
続きがあるー!
ありがとう、作家様!
堪能してま〜〜〜す。ある意味Ψ(`▼´)Ψ系よりツボにはまっているので
モエ〜〜〜〜。
・・・・自分にこんな純情が残っていたのかとハッとしますた。
>>675 99
改めてハットウシャの王宮に入ったキャロル。だが豪華で美しい彼女の新しい部屋に最初に訪れたのはイズミル王子ではなく、
ミタムン王女であった。いたずらっぽい光をその目に湛え、15歳の王女は16歳の新しい義姉に微笑みかけた。
「ごきげんよう、キャロル義姉さま。ミタムンと申しますわ。義姉さまのご結婚のお祝いの品をお持ちいたしましたの。ご覧になって」
王女が差し出したのは、小さな手箱だった。いつぞやの手ひどい悪戯─焼き菓子の入れ物の中から蛙が飛び出した─を覚えているキャロルは、
少し戸惑った。
「まぁ、何でしょう。王女様?」
「大丈夫よ、キャロル。もうお前に怪我をさせるような真似はしないわ。ね、開けて見て!」
キャロルはそっと箱を開けた。中にあったのは花嫁の幸福を願う銀製の小さなお守りだった。
「幸せになって、キャロル。お前がお兄様に嫁いで私の義姉さまになってくれるのが嬉しいわ。
お前はルカの従僕だった時も、私の小姓だった時も、変わらず私に良くしてくれたわ。
・・・お前は私の初めての友達でもあるのよ。あの泉のほとりで慰めてくれたときから。
・・・・お前には幸せになってほしいの。本当よ」
「ミタムン王女様・・・」
いじらしい王女の心にキャロルは涙をこぼした。
「どうしたのだ?私より先に、そなたの部屋を訪れた不調法者がいるのか?」
イズミル王子は妹と妻となる娘の会話を漏れ聞いていたのだろうか?暖かな笑みを浮かべている。
「私はお邪魔ですわね、お兄様。お叱りは明日にでも。今宵は寸暇も惜しいのでしょう?」
ミタムン王女は蓮っ葉な捨て台詞と共に出て行った。苦笑する兄。真っ赤になるキャロル。
「さて・・・よく来てくれたな、姫。明日はそなたのお披露目だ。だが、その前に・・・」
ひそやかな黄昏の薄明かり。イズミル王子は有無を言わさぬ強引さで華奢な身体を寝台に運ぶ・・・。
「怖がるな、今宵はまだそなたを娘のままでいさせよう」
イズミルはそういってソファの上に半裸のキャロルを座らせた。形の良い小ぶりな胸乳に接吻の後が濃くついている。その頂きの紅玉は固く勃ちあがって息づいている。
息を乱してイズミルの胸に顔を埋め、恥ずかしさのあまり愛しい人を見つめ返す余裕もないキャロルのうぶな様子が王子を喜ばせた。
「何も知らぬそなたには、まず男女の違いから教えねばならぬかな?」
王子は好色に笑い、自分の衣装をくつろげ自身を見せた。隆々たるそれにおののきつつ目を離せないキャロルの手を導いて、手触りを教えてやる王子。
「これが・・・男の部分だ。これがそなたの中に入る。そなたはこれを受け入れられる身体を持っているのだ。教えてやろう・・・」
王子はキャロルを膝の中に抱え込むように座らせ、衣装の裾を開くと彼女の最も女性らしい部分を指先で押し開いた。
「大丈夫だ、まだ、そなたに私を受け入れさせたりはせぬ。ただ、頑なな場所をくつろげて、その日の苦痛を和らげる準備をするだけ」
キャロルは恥ずかしがって身を引こうとしたがそうすると王子自身が押し当てられる。結局、彼女は王子の指に自分の一番秘密の場所をゆだねるしかなかった。
王子は巧みに彼女に男女のことの悦びを教えるのだった・・・。
100
恋人たちにとっては黄泉の世界に通じるという永劫の闇すらも夏の短夜(みじかよ)。
イズミルは大理石の彫像のように緊張し、冷たい汗を滲ませて自分に縋るキャロルが愛しくて愛しくてたまらなかった。
白い裸形を飽かず愛でる男の視線に戦き、固く身体を閉ざしながらも、手馴れた巧みな愛撫の前に少しずつ身体を
開いていくキャロル。
イズミルは慣れぬキャロルを気遣って時に優しく、時にためらいがちに白い肌をなぞり、その身体を確かめた。
「まこと初心(うぶ)な娘よ。そのように羞恥の殻に篭もらずにもう少し奔放になってくれればよいのに。楽にして全てを私に委ねよ。
理性も恥じらいも捨てよ。ただ私に縋れ。
・・・ほら、力を抜いてくれぬと・・・指一本も入らぬではないか。もっとくつろげねば、そなたが辛いぞ?
この喜びの夜にそなたを泣かせたくないのに・・・」
王子はやがて他の女に対するように、キャロルを強引に弄ぶように触りだした。ある意味、これが男の本性のようなものだ。
初めて愛しいと思い、何が何でも欲しいと思った相手を組み敷いて、男はいつにも増して興奮していた。
キャロルは今まで想像もしたことのない激しい愛されかたに息も絶え絶えの心地を味わった。相手の指が唇が舌が、
キャロルを蕩かした。
・・・・男女の激しい息遣いがひとつに収束したのは夜明けも近い刻限・・・・・。
「そなたが女になる日が待ち遠しかった・・・」
まだ繋がったままでイズミルは新妻の涙ぐんだ顔を接吻で覆った。
「いや・・・動かないで。もう・・・お願い、私・・・」
イズミルは激しく動いて再びキャロルに惑乱と喜悦の涙を少し流させてから体を離した。
離れたイズミルにキャロルは身を起こし素早く接吻した。
「大好きだわ・・・。お願い、少し抱きしめて。あなたといると暖かで安心するの」
イズミルは喜んで新妻の願いをかなえてやった。これは先々、鍛え甲斐のある女人よと好色に微笑みながら・・・。
『Ψ(`▼´)Ψ系』は続きものですか?>作家様
Ψ(`▼´)Ψ系、妖しの恋両作家様〜昼休みの愉しみをありがd!うれすぃ〜。
「妖しの恋」のつづきが待遠しいでつ。外寒かったよう。。(´・ω・`)
キョロ (・_・≡・_・)キョロ
タイクツダナ⊂(・ ̄・)⊃ゴロ。サッカサマ⊂(・_・)⊃イツモアリガトウ。⊂(・ ̄・)⊃ゴロ。⊂(・_・)⊃ゴロン。⊂(._.)⊃...ネヨウカナ。
ウツブセ ジャ⊂ (_ _;) ⊃クルシイヨ... ⊂(・ ̄・)⊃ゴロ。コレナラ⊂(- ̄-) ⊃ネレルカナ?⊂(- ̄-)⊃ 。゜ア...ネムクナッテキタ。
⊂(・ ̄・)⊃ パチ。 ワスレテタヨ!⊂(・o・)⊃ツヅキヨンデナイ! ...マダダッタ⊂ (_ _ ) ⊃...キニナルナァ...デモネムイカモ。
シマッタ!⊂ (_ _; ) ⊃マタウツブセ... ゴロン。⊂(- ̄-) ⊃フウ。オヤスミ ⊂(- ̄-)⊃ 。゜ナサイ...⊂(- ̄-)⊃ 。゜zzz...
>685
かわいい!おやすみ〜
私も続きを心待ちにしている名無し草でございます。
作家様方、いつもありがとう。
ぼちぼち490Kbですが、そろそろ次スレに行った方がよさそうだね。
>>681 101
「このたびは王妃冊立おめでとうございます、義姉様。お兄様とますますお幸せそうね。ライアニウス王子も正式に王太子の地位にお登りになるんですもの。本当に心からお祝い申し上げますわ」
「ありがとう、ミタムン王女。でも冊立の式典が終われば、あなたは東方に行ってしまうんですもの。寂しいわ。・・・といっても素敵なだんな様と一緒ですもの、あなたは寂しくないわね」
芳紀二十歳、匂うばかりの美しさと犯しがたい気品を漂わせるヒッタイト王の寵厚い妃キャロルは先日、婚儀を終えたばかりの義妹ミタムンに微笑みかけた。
キャロルの言葉に頬を赤らめたミタムンは、国王イズミルの信厚い将軍ルカに降嫁したばかり。将軍はヒッタイトの東方領土統治のため、新たに太守の地位をも賜り、新妻と共に赴任するのである。夫に首っ丈の王女は、しおらしくまめまめと夫に仕え、人々を驚かせている。
ルカもまた、この妻を愛し、またしっかりと手綱を握り、水も漏らさぬ睦まじさであるという。
二人の女性はしばらく話に興じていたが、イズミルが部屋に入ってきたのをしおにミタムン王女は腰を上げた。
「時々はこちらにも戻ってきますわ、義姉様。お兄様、どうかお元気でね。
・・・そうそう、仲の良すぎる夫婦にはかえって子供が出来にくいんですって。義姉様、たまにはお兄様を邪険になさいませ!そしたら今度、お目にかかるときはライアニウス王子にご兄弟が増えているかも!」
ミタムン王女は華やかに笑いながら出て行った。
102
イズミルは苦笑しながら、乙女のように顔を赤らめている妃を抱き寄せた。
「ライアニウスの兄弟・・・。なるほど私は不調法ゆえ、ミタムンに言われるまで気づかなかった」
「いやだ、イズミル・・・・。誰かが来たら?ライアニウスがやって来たら?」
「誰も来ぬよ・・・。国王の命令で王妃が大切な勤めに励んでいるのに。国王の血を享けた子供を産みだすという大事な勤め・・・」
ややあって。
国王は妻の相変わらず華奢な身体に手馴れた様子で衣装を着せ掛けてやりながら呟いた。
「そなたは私にいかなる魔法をかけたのやら。娶って手ずから女にしてやり、いく年にもなるのに愛しくてたまらぬ。このように妖しい心持になるとはな・・・」
妻のうなじに顔を埋めながらイズミルは胸のうちに呟く。この私が今は他の女のことなど忘れはて恋の奴隷に成り下がっているではないか、と。
キャロルは首をめぐらせて慣れ親しんだ唇にそっと口付けながら答えた。
「私たちはお互いがいて、はじめて一人前なのじゃないかしら?あなたは私の命、私はあなたの・・・」
「・・・命だ。何よりも愛しいキャロルよ。我らはひとつ命、ひとつ定めを生きるのだからな」
その言葉どおり、二人は長い年月を共に喜び、嘆き、生きて、やがて彼岸の国に旅立ったという・・・。
終
長いことおつきあいくださった皆様方、本当にありがとうございました。
>「妖しの恋」作者様
お疲れ様です&ありがとうございました
毎回毎回楽しみに読ませていただきました。
求めてきた夫の好色な動作を、キャロルは身をよじって避けた。昨夜の惑乱と快感、その後にきた身体が内側から切り裂かれるような痛みが忘れがたかったので。
「そのように嫌ってくれるな」
イズミルは抗いがたい力でキャロルの衣装を奪ってしまうと、馴れ馴れしく探るように全身を愛撫した。じきキャロルもイズミルに翻弄されていく。
「昨夜の傷は癒えたかな・・・」
イズミルは秘密の亀裂を押し開くと中を改めた。キャロルが彼の頭を押しのけようとすると、痛む場所を舐めて、かたくなになっている新妻に羞恥の罰を与えた。
「少しずつ慣れていけばいいのだから」
しなやかな中指がキャロルの中に差し入れられた。キャロルが抗ううちに指はすっかり中に飲み込まれてしまった。
「そなたは自分の身体を知らねば」
イズミルはキャロルの手を、そこに導き、人差し指を中に入れさせた。初めて知るそこの暖かく濡れた妖しい感触と違和感に戦くキャロル。
イズミルはさらに自分の指を中でキャロルの指に絡めるようにして激しく動かして見せた。淫らな水音に合わせるように男の舌が秘所を舐めた。王子は残酷に言い放った。
「慣れよ、さすればもっと欲しくなる。私を困らせるほどに欲しがって見よ」
よろしくおねがいしまつ。
>692
Ψ(`▼´)Ψについてはどうする?
>>694 性描写のある創作には「Ψ(`▼´)Ψ」をつけてくださいー。ってか推奨。
って一言書けばいいんじゃないの?
>696
乙です
>>669 「ふん、お前にできるのか?この地をすべることが。」
自分を幽閉した息子に父は冷笑を投げた。
「ご心配なくどうにかやれますよ。むしろ遅くなったといっていいでしょう。
国内外からの反発は爆発寸前だった。」
軽くかわした息子に父は
「ふん、私の暴走を止めるためといいながらのんびりとしたものだな・・・。
これがラー・・・」
「言っておきますがこのクーデターに関して私の背中を最後に押したのはイアン・ムスタファ・ガマール将軍ことラージヘテプ兄上です。」
絶句した後、異母兄の行方を問う父に彼はもはや一瞥もくれずに出て行った。
見たことのない質の紙には「選べ」とだけ書かれていた。
異母兄が自分に当てたという手紙。
この決断を自分が迷えば「正体」を知らせた上で渡すようにとの伝言があったという。
義兄の昔馴染みであった人物。何処かで会ったような気がしたのは血が?がっていたからだったのか?
ライアン・ジュニアと名乗った彼は自分に為政者となることを選択させ、意見を聞くことと言いなりになることの違いを教えた。
そして今、自分は父の幽閉という悪名を背負ってでも国内事情と力押しだけだった外交を安定させることを選んだ。
表向きの「病気療養」の情報がどれほど浸透するかで今後の政治情勢も決まる。
最悪の状況も想定した上でアンハトホルラーは自分の治世に望もうとしていた。
彼の夢は婚約者との幸福な家庭・平和な統治。
うまく書けませんでしたがこれで最後です。
>>698 ライアン、ライアンてば、起きなさいよ!いつまで寝てるの?」
妻のけたたましい、だが泣きそうな声がする。
「どうしたんだい?ダーリン。君は笑ってるか少し怒ってる顔が一番きれいだよ。」
手を伸ばしてキスをしようとしたらそれこそ怒った顔で頬をはたかれた。
「1か月も寝くたれておいて言うことがそれ?」
「え?ちょっと待って僕は・・・」
記憶を必死でたどる。
そうだナセル湖のクルーズで子供が落ちそうになっていて・・・。
「あの子供無事?落っこちそうになっていた。」
「無事よ。目撃者が騒いであなたはすぐに救出されたんだけど意識が戻らないと訓練中に連絡があって気が気じゃなかった。」
「ごめんよ。でも怒られついでに言ってしまうよ。子供つくらないか?」
妻が驚いた顔をした。
「どうしたの?今まで子供ができるの怖がってたのに?」
「ここを歩いていてふっ切れた。誰が僕の父でも僕は僕。」
「やれやれやっと解ったの?でも少しタイミングはずしたわね。」
ぎくりとした顔で男は聞いた。
「もう厭きて離婚?」
「違うわよ、できちゃったの。あんたの子供よ。
訓練中わかってあせったわ。ちゃんと一緒に育ててくれるのか。」
「やっぱりいいタイミングだよ。すごくうれしい。」
そこに野暮な声が入り込んだ。
「やっと目覚めたばかりです。検査の後休んだほうがいい。」
モニターの様子で駆けつけてきた医者が手早く処置を始めた。
「そうね、後でまた来るわ。」
妻は軽くキスした後出て行った。
再び眠りにつくとき彼は夢を見る子供と妻との優しく幸福な生活を。
そして彼はそれを実現させる。彼の家族とともに。
Fin
あ、気が付かないうちにエピローグが・・・。彼の見る夢作者さまありがとう。
最後は文章がちょっと駆け足でしたね。お忙しかったのかな。
でも、どの登場人物の心理も大変説得力があってとても素晴らしい物語でした。
それぞれの精神の自立というか、精神的に大人になる過程がとても自然に描かれて
いて、良かったです。また書いてくださいね。
前スレでこっそり終わらせてしまうなんて、
作家様ってばいけずぅですわ。
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─( ゚ ∀ ゚ )< age!! age!!
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(^^)