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「ここは私の部屋です!出ていったりしないんだから!」
「でしたらお召し物が汚れぬよう、少し隅に寄っていただけますか?」
キャロルはてきぱきと見苦しい物を片づけ、床を拭き清めながら言った。どうしようもないほど汚れていた床はあっという間にきれいになった。
途方に暮れていた侍女たちがキャロルに感謝の眼差しを送る。
キャロルは掃除道具を片づけてから、相変わらず仁王立ちの王女の前に畏まって跪いた。
「ど・・・どうしたのです?何か言いたいのではないの?」
沈黙に耐えられなくなった王女が先に口を開いた。
「何か言いたいんでしょっ!た・・・例えばどうして床に食べ物がぶちまけられていたのか、とか!」
「お聞きしてもよろしいのですか?恐れながらあれは夕方の御膳のようでしたが」
「そうよっ!食べたくない物があったから腹が立ったのよ!何回言ってもアレが出るんですものっ!嫌いよっ!どうして皆、意地悪なの?」
我が儘なところもあるが基本的に善良単純な王女は時々、癇癪の発作を起こす。それはたいがい、優れ者よと賞賛される兄イズミルとの比較話が
出たときだと言うことを今のキャロルは知っている。食事の献立云々は副次的な問題なのだろう。
「私、羊肉の干したのは嫌いなのよ。臭いがするもの。それなのに身体に良いからって食べさせようとするのよ!身体に良いからって何よ?
どんなにがんばったって私はお兄さまみたいにはなれないのよ」
「でも王女様・・・お召し上がりにならなくてはいけませんわ。新しい御膳を整えましょう。ね?どうか・・・」
「お黙りっ!」
キャロルは静かに言った。
「王女様はお腹がお空きではないのでしょう。無理にお勧めすることもありますまい」
その途端、育ち盛りの15歳の王女のお腹が鳴った。健啖な彼女にとって一日2度の食事と間食は大きな楽しみだったのだ。
「私が嫌いなのは羊の干し肉だけで・・・あとのナツメヤシの砂糖煮や鳥肉の煮こごり、野菜のスープやクルミ入りのパンなんかは・・・
好きだわよ。お腹は普通に空いているし」