1 :
ナフテラ ◆rBscQDAo :
<今までの経緯>
☆キャラネタ板→難民板と流れてきました。理由は主にこの2つです。
・キャラネタ板はキャラになりきって交流するスレのため、スレ違いを指摘されたこと
・住人の中から、作品への感想をなりきりで書くのは辛い、という声が挙がってきたこと
移転先としていくつか候補があった中から、マターリできそうなところということで、
ここ難民板を選びました。難民板の皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。
<お約束>
・sage推奨でお願いします(メール欄に半角文字で「sage」を入れる)。
・ここは社交場ですので特に形式は決めません。質問・雑談・作品発表ご自由に。
・作品がほのぼの系なので、あまり殺伐とした雰囲気はご勘弁を。
あとは常識的マナーの範囲で。
<作品掲載について>
・非公式ファン交流広場なので、原作者及び出版元とは一切関係ありません。
・王家を愛する作家さんたちの創作も大歓迎です。ジャンルは問いませんが、
極端なエロや中傷など確信犯的な作品はご遠慮くださいね。
・作家さんは名前欄に作品のタイトルをお願いします。
連載の場合は巻頭に通しb書き、「>○○」という形で前作へのリンクを
貼ってもらえると助かります。
・18禁作品にはタイトルにΨ(`▼´)Ψを記入して下さい。
ナフテラ殿乙華麗〜!
ナフテラ殿あってこそのスレですね
前スレの953です。ナフテラさま、ありがとうございました!
ナフテラ様、ありがとうございます&おつかれさまです。
ナフテラさま〜ありがとう&お疲れさまです。
前スレ940です。939さまのお話を948さまが小説化してくださるなんて
うれしい!楽しみです。ワクワク☆
ナフテラ様マンセー!
ナフテラさま、新しいスレを立てていただきありがとうございました。
前スレ939さまの素晴らしい夢をもとに片思いキャロル、余裕のニヤリ王子のお話を書かせていただきました。
結構長くなるかもしれませぬ。どうかよろしくお願いいたします。
始まりにあたって939様の夢のお話引用させていただきます(ぺこり)。
>王子の次の目標はキャロルに「あなたになら何されてもいい」って
>くらい惚れさせておきながらキャロルの方から「抱いて」と言うまで
>一切手を出さない…でも毎晩同じベッドで眠る…言い出せないキャロル&
>見透かしてニヤリの王子、かしら。
1
「おやすみなさい、王子」
キャロルは寝間着用のゆったりとした服のの胸元を掻き合わせるような格好で言った。その子供っぽい仕草が可愛らしく思われて王子は微笑した。
ここは王子の私室。いつも執務の終わった王子はキャロルのお妃教育を買って出ている。王子と金髪の生徒の授業は結構遅くまで続いた。ヒッタイトの歴史、気候風土、産業に政治の仕組み、王家に連なる王族貴族達についての説明、貿易に外交、王宮の典礼・・・。
講義は多岐に渡る。普通、女性にはここまでは求められないのだけれど王子は容赦なく、この熱心で怜悧な生徒を鍛えた。
とはいえ、そこは相思相愛の男女のこと。ただ勉強だけでなく、他愛のない話しもするし、ゲームの類にも興じるし、キャロルが王子に20世紀(21世紀?)の知識を伝授することもあった。
今夜は講義の後、ゲームをして時間はいつもより遅くなったようだ。
「おやすみ、姫。今宵は風が強いようだ。冷えぬようにするのだぞ」
王子は童顔の恋人の頬を優しく撫でながら、からかうような調子で言った。
「ま!王子ったら!私は子供じゃないわ。そういう言い方、やめてくださいな」
「ははは・・・。だが実際そなたは子供ではないか。違うか?私の知らぬ間に大人の女になっているのならそちらのほうが問題だ」
王子の露骨な言葉に真っ赤になってキャロルは自分の部屋に駆けていった。
王子はくっくとさも面白そうに笑いながら続き部屋に消えていった少女の面影を反芻していた。
2
(ひどいわよ、王子ったら!わ、私は子供じゃないわ。あんな言い方ばっかりして私をからかって。あんな品のない言い方って・・・)
キャロルはぷりぷりしながら寝台に倒れ込んだ。そして溜め息。
(私はそんなに子供っぽいかしら?・・・手を出そうという気にもなれないくらい?キスもしてもらえないくらい?)
キャロルは起き上がって自分の身体を見おろした。薄い胸。張り出しに乏しい腰つき。細長い手足。ほっそりとしているといえば聞こえは良いけれど、ヒッタイトの王宮に集う美姫・寵姫に比べれば貧相な体つきだ。
(私は魅力がないの?考えまいとは思うけれど王子が私に惹かれた一番の理由って・・・この変わった髪や目の色のせい?私の中身じゃないの?)
キャロルは深い溜め息をついた。彼女は王子が大好きだった。子供じみたままごとのような恋しか知らなかったキャロルは王子に初めて本当の恋を教えられ、年の離れた若者に―しかも彼は文字通り王子様だ―に心から恋い焦がれるようになった。
王子は巧みに彼女に様々なことを教えた。優しく抱き合うこと、相手にそっと触れること、接吻を交わすこと。
でもそれだけだった。最初こそ、王子の教えや仕草に恐れや嫌悪にも似た感情を抱いたキャロルだったが今は違う。
3
王子に触れられば嬉しい。王子を見つめればときめく。
王子と言葉を交わせれば幸せ。どきどきする。
笑いかけてもらえれば息が止まるほど嬉しい。
でもそれだけでは不満。
もっともっともっと・・・。この頃、キャロルはいつも心の中で叫んでいる。
王子の接吻がつい喉元にまで達すれば、身体の芯が震えるような喜びを感じるようになった。
(昔はあれほど嫌っていたのに。触られるのはおろか視線を当てられることすら嫌だったのに)
キャロルは自分を抱きしめるような格好で寝台に倒れ込んだ。
(今は・・・?今は違う。ずっと王子を見ていたい。王子を感じていたい。離れたくない。離れたくない。ずっとずっとずっと・・・・。
何て忘れっぽいのかしら?前は王子のこと大嫌いだったのに。今はこんなにも・・・)
キャロルは身体が火照ってくるのを感じた。今まで知らなかった熱感。でも本能的に分かってはいた。
(私は王子に・・・)
はしたない、と思う。恥ずかしい、と思う。恐ろしく厭わしい、とも思う。
もし自分がこんなことを考えてのぼせたようになっているなどと王子が知ったなら・・・?
(きっと嫌われてしまう。何て淫らなと呆れられてしまう。嫌だ、嫌だ・・・)
潔癖なキャロルは王子に心ゆくまで抱きしめて甘やかして欲しいなどと思う自分が許せない。
抱きしめて甘やかして接吻で覆って・・・。多分それ以上のことも望んでいる自分。
4
イズミル王子は先ほどまで腕の中に抱いていた娘の体温の名残を感じていた。
初めてハットウシャの王宮に連れてきた頃に比べればずいぶん、あの気むずかしい
処女(おとめ)は柔らかく解れてきたと思う。
(最初は続き部屋で寝むことすら厭うていたのに今は夜着を着たまま私と話をする
までになったのだからな。ふふっ・・・ここまで懐かせるのにずいぶんとかかった)
王子は思いだし笑いを漏らした。
怯えて闇雲に牙を剥く小動物を慣らすように少しずつ少しずつ。好きな食べ物を与
え、好みにあった身の回りの品々を与え―それも相手のプライドを充分考慮して―、
学問を好むようだと分かれば惜しみなく好奇心を満たしてやり、家族を恋しがって
いると分かれば父のように兄のように優しく気遣ってやった。
自尊心の強い、でもひどく寂しがり屋で意地っ張りの娘の望むものは何でも与えて
やった。
それでも故郷から引き離され、さらうように王子が連れてきた娘は情緒不安定で王
子に手ひどい言葉を投げつけ、一度などは自殺さえしようとした。
(全く・・・この私を拒んで自殺まで目論むのだからな。あの時はまことこちらの
心臓が止まるかと思った。おとなしく優しげな外見に似ず、大胆な娘であったとい
うことだ。
・・・普段の私ならあのような娘、辱めてうち捨ててしまうのに。やはり惚れてい
たということか)
5
最初は珍しい外見をした娘に興味を持っただけだった。いかにも男の好む可憐な容姿でありながら子供っぽく異性を拒む娘は、かえって王子の征服欲を煽った。
だが。
じきに王子はその娘―ナイルの姫と呼ばれる金髪の少女キャロル―の内面をこの上なく貴重な美しいものと悟るに至った。
他者に対して分け隔てなく与えられる優しさ、思いやり。彼女の持つ英知。優しげな外見の内に潜む強い意志と誇り。
ファラオ メンフィスの想い者、寵姫とも噂されていた女と一時の火遊びに興じ、エジプトに一泡吹かせてやろうとしたイズミル王子の思惑はあっさりとはずれた。
(気がつけば恋の虜になっていたのだからな、この私ともあろうものが)
王子は苦笑した。初めての恋の苦しみは彼を打ちのめし、混乱させた。周囲の人間はおおよそ普段の彼らしからぬ振る舞いを見てどう噂した事やら?
それでも。
苦労は報われた。今やキャロルは心から彼を愛するようになっている。親切な「兄さんのように優しい良い人」としてではなくて一人の男性として。
今まで数知れぬ女性から心捧げられてきた王子である。真実の恋に目覚め、愛しい人の心を渇望する女性を見抜くのはたやすいこと。
王子の心は喜びに震え、今すぐにでも自分を翻弄した愛しく憎い姫を我がものとしたいくらいだった。でも今度は王子の自尊心がそれを止める。
(今まで散々に私を苦しめ翻弄した憎き姫よ。そなたもまた恋の苦しみを知るがよい)
続く
ナフテラ様、新スレを立ててくださって有難うございます。
「いつか晴れた日に」作家様、今読ませていただいて感激の嵐です。
イメージがぴったりというより私の夢よりはるかに素晴らしいです。
結構長くなるかもしれませぬ、とのお言葉にワクワク・ドキドキ幸せを感じつつ
続きを楽しみにしています。
おおっ、さっそく素敵なお話が!
原作者(×2)様、作家様、ありがとうございます。
「生への帰還」作者様
ダイジェストだなんてもったいないです。
ぜひぜひもっと書いていただきたいのですが、いかがでしょうか。
妄想力膨らむお話ですよ。
>20
禿同〜!速い展開のダイジェストもすごくよかったけど
ここはひとつ、キャロルをひどい目に合わせた王子に対して
ラージヘテプが何か感じるのか注目したいところです。
"いつか晴れた日に"作家さま、ステキなお話ありがとうございます。
王子はやーーーっと苦しい思いをキャロルにぶつけることができる日が来たのですね!
キャロルには覚悟してもらわないと。
ホント、長い長い苦しみだったもの!
はやく続きが読みたくて落ち着きません!!
王子ファンの願いを叶えてくださって本当にありがとうございます。
新しいスレおめでとうございます!
何とリクエスト小説(?)がアップされてるじゃないですか。
こーいう企画もありっすか?
私はメンフィス(または王子)と婚儀を目前に控えながらも王子(またはメンフィス)と出会ってしまって真実の愛に目覚めたキャロルが苦悶する話を希望しまする。
どなたかおながいします。
6
冷たい風は夜半過ぎから嵐になった。内陸のハットウシャの嵐は激しい。強い風は石造りの王宮をもきしませ、女の悲鳴のような音を立てて大地を吹き抜けた。
キャロルはもちろん眠れるはずもなく頭から布団をかぶって震えていた。20世紀では風の音や雷の音にここまで怯えることはなかった。でも古代の石造りの建物は20世紀生まれの人間が忘れていた自然の荒々しさ、恐ろしさを直截に伝えてくる。
(どうしよう、どうしよう・・・怖い・・・怖い・・・)
稲光と雷鳴の間隔が徐々に短くなっていき、空が裂けるような恐ろしい音がひっきりなしに響く。
雷鳴に眠りあぐねているのは王子も同じだった。
(お・・・。今の音、市内に落ちたか・・・。雨が強い故、火災には至らぬであろうが。
・・・にしても姫は大丈夫なのか?さぞ怯えておろう。あの意地っ張りは決して私には弱音は吐かぬし、今も必死に平気なふりをしているのではないのか)
王子は起き上がると続き部屋の扉を開けた。
「姫、大丈夫か?」
王子の声に答えたのは雷の音も霞むほどの、怯えきったキャロルの悲鳴だった。
「姫、私だ。様子を見に来たのだ。そのように怯えるな。大丈夫だ、もう」
冷たい汗をかいたキャロルを抱いて落ち着かせながら王子は言った。
「ご、ごめ・・・ごめんなさい。怖くて・・・びっくりして・・・急に扉が開いて大きな影・・・」
「そなたの様子を見に来たのだ。全くこのように怯えきって・・・。砂漠の荒野の嵐も、荒れ狂う海も物ともせず、獣の跋扈する夜道を駆け抜けようとした勇敢なそなたが・・・」
7
王子は少し皮肉に笑いながら言った。全く今のキャロルは怯えた子猫のようだ。だがキャロルはいつもの憎まれ口もなくただ王子に抱きつくだけだった。
(こういうのを手のひらを返したような態度と言うのだ・・・。まぁ、可愛らしいところもあるということだな)
「困ったな・・・。このように抱きつかれては私が横になれぬ」
王子はわざと淡々と言った。
「今宵はそなたのために宿直をつとめてやろうほどに・・・怖がらずに眠れ。私がそばにいてやるから」
キャロルは驚いたように王子を見上げた。
「あの・・・・・それって・・・」
「ここでいっしょに眠るということだ。仕方あるまい?そなたは怯えて私を離さぬではないか?嫌とは言わせぬぞ?」
「本当にいいの?本当?あの・・・嬉しい。いえ!変な意味じゃなくて。こんな晩に一人では嫌だったの。だから誰かがいっしょなら心強いし。ありがとう、王子」
「いつもそのように素直に可愛くあればよいのにな。ふ、本当のことではないか?
さぁ・・・眠るとするか・・・」
王子は当然のようにキャロルの頭を自分の肩に置き、目を瞑った。
8
とはいえ二人とも眠れるはずもなかった。
キャロルは王子の体温と匂いにのぼせたようになり、先ほどの大胆な望み―王子にもっともっと触れたい、触れられたい―を思いだし、自然に呼吸が速くなっていった。
王子は添い寝する―文字通り添い寝だけにするつもりだった、少なくとも今夜は―キャロルの頼りない柔らかさに体が火照るのだった。そしていつもの何倍も感覚が鋭敏になった王子が添い寝するキャロルの呼気の速さ、甘く切迫した調子に気付いたのはじきだった。
(姫は・・・まさか姫は・・・?)
王子は嬉しい驚きを感じながらそっとキャロルの様子を窺った。常夜灯に照らされて、キャロルの艶めかしくも初々しく紅潮した顔色が見えた。
今まで王子が相手にした女達も王子に抱かれるにあたってこのようになっていた。甘く悩ましい吐息をついて・・・。
(そうか・・・。まぁ、子供のような外見をしていても、もう身は娘盛り、か)
王子は好色な微笑を漏らして、キャロルの耳朶に囁きかけた。
「姫・・・眠れぬか?」
手は馴れ馴れしく敏感なキャロルの背筋を探る。
「あ・・・あの・・・ええ・・・眠れない、私・・・」
「少し熱っぽいのか?ほら、こんなに動悸が激しい」
王子の唇はいつしか首筋に移り、手は胸の膨らみを包み込むように触る。
(何とまぁ、教えられもせぬのに敏感なことよ。これではいじめたくもなるではないか・・・)
続く
「いつか晴れた日に」作家殿、あぁ、こんな展開を望んでたんだ!!
と感動しながら続きを待つ長い週末を過ごしました。
いやー、スゴイ!待ちきれない!
待ちきれない!と書いてるまさにそのとき続きを出して下さってたことに
今戻ってきて気が付いた。素晴らしい展開に眩暈が…
作家殿〜今回も絶妙のタイミングで寸止めなさる!でもずっと続いて欲しい
と思うほどハマるお話ありがとうございます!!!
おっ 王子、ちょぉーっと待ったぁー! それ以上はだめ!
その女はあなたを「苦しめ翻弄した憎き姫」でしょ?恋の苦しみをたっぷり教えてあげるんでしょ?!
甘やかしたらすぐに調子に乗って立場逆転・また苦しめられるよ。
学習するのよ王子!
だから今は鼻の穴が破裂しても我慢してーっ!!
>29よ
安心いたせ。いじめたくもなる・・・と申されたとおり
からかっておられるだけじゃ。
今度の王子はチョト違う。しっかりバージョンアップして読者の心をわしづかみに
してくれることじゃろう。
しかし、鼻の穴が破裂しても我慢…にはワロタ!間違いではなかろう。
王子の鼻って。。穴まで想像したこと無かったよ。。。コワッ。
ここを覗くのが日課になってしまった。作家さま、参りました。
「いつか晴れた日に」作家様
先週末から寝る前にこのお話読んで私も夢で王子と会ってみよう(!)
などとおバカな試みを続けてます。でも寝つきが良く眠りが深いため
そんなヒマもなくあっという間に朝。
前スレ939様がウラヤマスィ!
王子ってどんな匂いするんだろ?
>34
あたしゃウッディーな香りがすると勝手に決めつけてるよ。
いつか晴れた日に、今日はキャロルちんどうなるのかしらっ。
、と今日も続きが読めるとこれも決めつけ…
>34
あなたにもし恋人や旦那がいるならきっとその人と同じ匂いですじゃ(藁。
体温と肌の匂いにどきどき・・・って鼻血ものの色っぽさだと思う。
>>26 9
キャロルの動悸や羞恥など知らぬげに王子の手は妖しく動く。キャロルはただ身を固くして王子に自分の欲望を知られぬようにすることしかできなかった。
「姫・・・汗をかいているのか?こんなに・・・身体が熱い。熱があるのではないのか?確かめてやろう」
王子はキャロルを自分に押しつけるように抱きしめ、柔らかな薔薇の唇に自分の舌を差し入れ、相手の舌を探った。ひゅっと息を吸い込むキャロル。
(ふふふ・・・男の体の変化は分かるらしいな。のぼせあがって。だがまぁ逃げもせずに。いや、驚いて固まっているのか?
・・・今宵はこれくらいにしておこう。少しずつ焦らしてやるほうが面白い)
王子はキャロルを抱く手を緩め、いつもの優しい青年の顔に戻った。
「本当にどうしたのだ?水でも飲むか?可哀想に、きっと疲れているのだ。私がいるからゆっくり安心して休むがよいぞ・・・」
王子は口移しでキャロルに水を飲ませ、今度は本当に体をくつろがせ間もなく眠りに落ちていった。
キャロルは王子が戯れにつけた身体の火照りを消しかねて長いこと眠れないまま、王子の逞しい腕に縋っていた。
翌朝。
キャロルの寝室から王子が出てきたのを見てムーラ達は驚いたようだった。だがすぐに嬉しげに主の世話を焼き、心配そうにキャロルの伏せる寝台を見やった。
「姫は疲れているようだ。起こすことはない。それから起きてより後も常の通り扱ってやるように」
「は、はい・・・!それはもう!心得てございますとも」
浮かれる女達が好き勝手に想像を逞しくするのを止めもせず、王子は悠々と政務のために表の宮殿に出ていった。
10
明け方、ようやく眠りについたキャロルが起きたのは昼頃のことだった。寝過ごした恥ずかしさに赤面するキャロルを侍女達は世話をする。キャロルは昨夜のことですっかり混乱してしまって、あのムーラすら何だか浮き浮きとしているようなのにも気付かない。
(昨日の王子は・・・何だかいつもと違って怖かった。怖かったけれど嫌ではなかった。あんなふうに触られたのは初めて・・・。もっと・・・)
キャロルは、はっとして慌てて首を振った。
(もっと・・・だなんていやらしいっ!何を考えているの、私は。こんなこと王子に知られたら私、生きていられないっ!)
「姫君?いかがなさいました?」
「ムーラ、何でもないのよ。あ・・・少しお水をくださいな。何だかのぼせたみたい・・・」
「お疲れなのではございませんか、姫君。涼しいところで少しお休みなさいませ。そこは西日がきつうございます」
(姫は・・・どうしているかな)
一日の政務も終え、自分の宮殿に戻りながら王子は考えた。昨夜の艶めかしく惑乱した表情が忘れられない。今日も少しでも気を抜けば、あの初々しく紅潮した貌(かお)が脳裏にちらついた。
(焦らして思い知らせてやろうと思ったのにこれでは・・・。私の方が持たぬわ。全く恋とは度し難い)
「おや・・・?お珍しいこと、イズミル王子様」
艶めかしい女の声が王子の夢想を破った。豊満な身体つきをした妖艶な美女―ヒッタイト王の後宮の寵姫デリア―が王子に微笑みかけていた。
11
「デリアか。久しいな」
王子も馴れ馴れしい調子で答えた。だがその気安さも当然のこと。デリアはヒッタイト王の寵姫でもあったけれど、その昔、若い世継ぎの王子に男女のことを指南した女性でもあったのだから。
諸国に名高い自慢の息子に、父国王は気前よく自分の寵姫を貸してやったというわけだった。
王子は最初、このような心遣いを嫌悪したがデリアのさばさばした男性的な気性や、後宮のどろどろとは距離を置く頭の良さに惹かれてつかず離れずの関係で愉しんできていた。
「どうなさいましたの?早くお気に入りの姫君の所にお戻り遊ばせな。皆が噂をしておりますわよ。あの小さな姫君をお連れになってからの王子はまるで甲斐甲斐しく恋女房に仕える旦那様のようだって。
あんなに遊んでおいでだったのが嘘のよう。私がお教えしたことは試してご覧になりまして?」
「ふふっ、そなたの雑言は相変わらず辛辣だ。皆の噂だと?そなたが言っているだけではないのか?」
王子はデリアを引き寄せ、廊下の柱の影に連れ込んだ。昨夜のキャロルを想いだして悶々としていた欲求はデリアを見てにわかに燃え上がったようだ。
「まぁ・・・!王子!このような場所で。せめてどこかの小部屋にお連れ下さいな。無粋な方ね」
デリアは素早く王子の欲望を悟って悩ましげに促した。
続く
以前のスレで書いた番外キャラ、デリアをもう一度出してしまいました。
でもあの話と今回の話は全く違う話です。(ぺこり)
>34さま
うーん、少なくとも汗くささはナイと思ってます。35さまのおっしゃるようなウッディーな香りなら杉とかヒノキ系かと。
36さまのお答えは唸りました。うまいっ!
作家様(はぁと)ますます面白くなってきて今日もドキドキさせられました。
>34様
私は叔母からお土産で貰った白檀のしおりをコミックスに挟んでたら
いつのまにか「王子=白檀の香り」になっちゃった。
ナフテラ風味のマターリスレで読むドキドキ小説。
ああ、このうえなく幸せでございます。
>「いつか〜」作家様
あなた様は、あのデリアのお話を書かれた方なんですね。
このように息の長い執筆活動をして下さる作家様がいて嬉しいです!
これからもご活躍をお祈りいたしております〜
>38, 39
デリア、大好きなキャラだった。また会えてうれしいよ。
>>39 12
「それで・・・。王子はまだあの金髪の方を“姫君”のままにしておいでですのね」
行為のあとの気怠い身体を王子に預けながらデリアは無遠慮に尋ねた。その声にはどこか面白がっているような、それでいて妙に白けているような調子が含まれていた。
「どういうことだ?」
王子はわざと、とぼけてみせた。キャロルに手を着けていないのは本当なのだから。
「分かりますわよ、それくらい。私の相手をして下さりながら心はここにあらず。思うに任せぬ乙女への恋に狂う愚かな若者が、身代わりの女に見せる貌(かお)をしておいででしたわ。
全くね!昔は違いました。お相手はあまたあれど、それぞれに王子の思い人は私だけと夢見せてくれるだけのお心遣いはありましたのに」
「・・・すまぬ」
王子は素直に謝った。デリアは勿論、キャロルとは全く違う存在だが、しかし女としては珍しくある種の信頼に値する希有な存在と考えていたからだ。
他の女がこんなことを言うのは許さなかっただろうが、デリアが言えばそれは今までの自分らしからぬ油断を見透かされたのだと王子は考えることができた。
「そなたを侮っているわけではないのだ。ただ・・・。許せ」
デリアは弟のようにも思っている戯れの恋の相手―深い信頼関係をも伴う奇妙な愛人関係の年下の相手―の狼狽えぶりに苦笑した。
13
「謝ったりなさらないで。本当にあなたらしくもない。今までのあなたなら何かきつい一言があったのに。・・・私の申し上げたこと、図星ですのね。
本当にあのナイルの姫君に首っ丈ですのね。おめでとうを申し上げますわ!」
「・・・」
「皮肉でもなんでもありませんの。あなたが人間らしく、誰かに恋して狼狽えるなんて素晴らしく人間的な心暖まる光景ですわ。私、あなたに色事は教えられたけれど、恋は教えられなかった・・・。
さぁ、早く姫君の所においで遊ばせ。そしてモノにしておしまい遊ばせよ!
・・・ふふふっ、私も行きますわ。国王様の酒席に侍るんですの。国王様は私に夢中。息子のあなたも私には弱い。後宮暮らしは楽しいこと!」
デリアは素早く衣装を整えると、自分の唇につけた指先を王子の頬につけた。
そして振りかえらずに回廊を去っていく。
蠱惑的で、頭のいい女性である。王子は苦笑して年上の女性を見送った。
(とはいえ・・・姫に素直に跪くのは業腹だ。姫にはもっと思い知ってもらわねばな)
欲望の熱気も醒め、冷静になった王子はそう思いながらキャロルの待つ居間へ戻っていった。
「王子、お帰りなさい!今日は遅かったのね。忙しかったの?大丈夫?」
キャロルは子猫のようにまつわりついてきた。彼女もだいぶ落ち着いたらしい。王子はキャロルの首筋から頬にかけての敏感な場所を撫で上げながら耳朶に息を吹きかけるように囁いた。
「良い子にしていたか?もう熱はひいたか?」
キャロルは再び真っ赤になり、恥ずかしげに王子から離れた。
(デリア。とはいえ、恋の相手に素直に跪くのはどうも気が進まぬぞ。姫の方から折れて私に・・・請うようにしなくてはな)
14
王子は昨夜とは明らかに違う馴れ馴れしさでキャロルに触れた。それを見る侍女達は「やっぱりね・・・」と目引き袖引きして忍び笑いを漏らす。
「もう大丈夫」
目を伏せたキャロルの耳の赤さが王子を喜ばせた。
ムーラが王子に夜食を勧めた。キャロルは強いて明るく無邪気にお喋りをしたりするが、何とも調子外れだった。
王子は地中海産のワインを口に含みながらキャロルに言った。
「姫、やはりそなた風邪でも引いたのではないか?顔が赤いし震えているではないか?
ムーラ、姫にも杯を。姫、少し葡萄酒を試してみよ。酒は百薬の長と申す」
王子は有無を言わさずキャロルに葡萄酒を飲ませた。甘いのに喉を滑るときは焼け付くようでキャロルはむせてしまった。そんなキャロルを抱きかかえ背中をさすってやる王子の様子に、居合わせた人々は微笑ましく見守っていた。新婚の二人、と思いこんでいるのだから。
「さぁさぁ姫君。落ち着かれましたら先にお湯をお召し遊ばせ。早くお休みにならなくては」
如才なくムーラが声をかけた。有能で育て子を愛することこの上なしの忠義者の乳母は、目顔で王子にお任せ下さいませ、と合図した。
かくて。
湯浴みを終えたキャロルはひどく艶めかしい夜衣を着せられて寝室に送り込まれた。
薄い衣装は前で合わせる打ち合わせの深い形。胸元のリボンが慎ましく前裾を閉じているだけ。肌にはいつものジャスミンの香油ではなく、濃厚な乳香と薔薇の香油が擦り込まれた。
ムーラに手を引かれてキャロルは自分の寝室に入った。そこには王子が待っていた。
15
戸口に立ちすくむキャロルを王子は優しく手招きした。
「早くこちらへ参れ」
「あ・・・。王子は今日もここで・・・?」
「嫌か?」
王子に引っ張られ、崩れるように寝台に連れ込まれたキャロルは黙って首を振った。自分の艶めかしい夜着、誘うように香る香油、キャロルは我知らずときめいた。
(では・・・では・・・今夜が・・・!)
潤んだような瞳で見上げるキャロルの表情に王子は満足を覚えた。戦きと甘い恐れがない交ぜになった赤い顔。
(ふふ・・・。いい表情だ。もう無闇に私を怖れる子供ではなくなったのだな。この・・・子供っぽい娘が女に目覚める日をどれほど待ったか)
王子は胸元にキャロルを抱き寄せるとそのまま横になった。キャロルは身を固くして王子に縋っている。
「どうした?何やら固くなっているような。もっと楽にいたせ。体重をかけてくれて良いのだぞ。それでは疲れるだろう」
「ええ・・・。いいえ。何だか恥ずかしい。今夜は嵐じゃないのに・・・でもいっしょなの?」
「嫌か?」
「・・・」
「うん?嫌なら向こうに行っても良いが」
長い沈黙の後、キャロルは小さな小さな声で言った。
「・・・嫌じゃない・・・」
「可愛いことを言ってくれる」
王子はキャロルの敏感な耳朶を甘く噛みながら囁いた。
続
デリアって・・・いい女なんですねぇ!
>私、あなたに色事は教えられたけれど、恋は教えられなかった・・・。
何かすっごくカッコイイ!と思いました。
うん・・・。
デリアってなんかイイ。
嫉妬深いだけのバカじゃないんだ。キャロル、ぼーっとしてたら盗られるぞ、マジで。
私がオトコならデリア姐さんのほうがいいよぉ。
新作ありがとうございます>作家様
デリアのほうが深みのある描写をしてもらっているよーな・・・などと偉そうにも思ってしまいました。
セリフとかすごい良いんですよ〜。
デリアは王子をいじめ、王子はキャロルをいぢめ・・・ですか?
続きが楽しみです。
余裕の王子って最高!キャロル、一週間でいいから替わってくれ〜
>あなたが人間らしく、誰かに恋して狼狽えるなんて素晴らしく人間的な心暖まる光景ですわ
王子、アナタは今までどーいう人生を・・・。
続きが気になるよー。
続きが気になって仕事中なのに来てしまったー。
今日も読めるかなぁ。。。
ちぇ、続きはまだかぁ。。。。。
残念。
作家さま〜どうか続きを!
今夜もキャロルは王子の寸止めにもがき苦しむのでしょうか?
王子の寸止め継続希望〜。
キャロルは一度きっちりしめておくべきだと思います。
>56
納得〜おっしゃるとおりです。
あー、でも続きが待ちきれないよ。
>いつか晴れた日に 作家様
毎日毎日楽しみです。
わたしもデリア姉さんに惚れた!
キャロルも寸止めに苦しんでいるけど、
私も続きが読みたくて苦しんでいる・・・
>58の姫
さげられよ… "sage"はメール欄に、じゃ。頼んだぞ。
「いつか晴れた日に」の作家さま
私も作家さまの寸止め苦しんでおります。
恥ずかしいけど素直に言います…。
いぢわるしないで…どうか つ、続きを…読ませ..て?
>>47 16
その晩も。
キャロルは眠れなかった。王子が眠らせなかったのだ。恥ずかしさにのぼせ上がり、全身を真っ赤にしているキャロルを優しく気遣うふりをしながら、焦らすようにキャロルの身体を苛む王子。
彼の指は決してキャロルの夜着の中に入ってこない。ただ薄物の衣装の上から優しく甘やかに、そして執拗に触れるだけだ。
キャロルがびくっと身体を震わせれば、王子の手は余計優しくなり、同時に与えられる接吻は切なさを増すのだった。
「どうしたのだ・・・?どうしたのだ、姫・・・。こんなに身体が熱い。心配ではないか。どこか痛むのか?苦しいのか?姫・・・姫・・・姫」
王子は時々、偶然のように興奮しきった自身をキャロルに押し当てた。一瞬の戯れのように。だがその意味をキャロルは知っている。そして知っている自分が恥ずかしくて涙ぐみさえして切ながる。
(ふふふ・・・。何とまぁ艶めかしく男心をそそる姫か。あの怒りっぽい人見知りの子猫のような小娘が・・・こんなに)
王子は眉間にしわを寄せ、唇をかみしめて甘い苦痛に耐えるキャロルを見おろして感動すら覚えた。キャロルの肌は薔薇色に染まり、薄い布地をそれとわかるほどに尖った胸の突起が押し上げている。
とうとう堪えきれずにキャロルは言った。
「もう・・・大丈夫です。もう・・・眠れます。撫でてくれなくて・・・いいの」
(意地っ張りめが!)
王子は苦笑すると、腕の力をゆるめキャロルを解放してやった。キャロルの小さな背中は泣いているかのように痙攣している。
(そなたが・・・素直に請うようになるまで苛むことはやめぬぞ)
17
王子はあの日以来、当然のようにキャロルの寝室でいっしょに休むようになっている。といってもムーラや、それとなく事情を知らされた国王夫妻が期待するようなことは全くなかった。
王子はキャロルに添い寝するだけ。キャロルにきわどく触れ、今まで散々、自分を翻弄してきた憎らしい姫をいじめて愉しんでいるだけだった。
キャロルだって王子の暖かさを身近に感じながら眠るのは大歓迎だった。ずっと王子の側にいて甘やかして欲しい、と望んできたのだから。
でも最近は、王子の側で眠るのはどちらかと言えば苦しいことになってきていた。
キャロルだって思い合う男女が何をするかを知らないわけではなかった。王子はそんな欲望に目覚めた自分をからかうように焦らしている・・・と思うことも再三だった。
でもきわどく好色な仕草をしながら、あくまで王子は優しく気遣いに溢れた兄の雰囲気をも忘れなかった。
だからキャロルも、自分の望み―王子だけのものになれたなら―を悟られないように必死に心を抑えて妹のように王子に添い臥すだけだった。
とはいえ、王子はとっくにキャロルの葛藤などお見通しだった。
(くっくっく・・・。早く降参せぬものか?私とて辛いのだぞ。こんな薄布一枚に隔てられて、そなたと肌を合わせることも叶わぬとは。
こんなに息を荒くして、こんなに肌を熱く染めて、こんなにも甘く匂い立って私を誘いながら・・・意地を張る!私の欲望にも気付いておろうのに。
呆れた姫よ。潔癖な子供の扱いは難しい。このままでは私が我慢し切れぬ)
18
王子はデリアを相手にすることがまた多くなった。デリアは口も堅く、信頼できる相手だと特別に思っていたから。後宮の女性としては珍しい。だからこそ、王妃にも一目置かれているのだけれど。
「まだ姫君は“姫君”のままですのねぇ」
デリアは手慣れた様子で自分の肌を薄布で覆いながら王子に流し目をくれた。
「ふ・・・ん」
「あなたが私の所に来て下さるのは嬉しいけれど、あのちっちゃな姫君の身代わりだと思い知らされるばかりなのは嫌ですわ。
王子様、私、あなたにお教えしましたわね?たとえ火遊び相手でも、遊びの間は相手に対して本当の誠意をもっていなくてはいけませんよって。
でなければ、いらぬ怨みを買いますわ。男女のことで身を誤るなんて愚の骨頂ですわよ」
デリアは辛辣に言い放った。
「あの姫君、お見かけしましたけれどお身のほうも大人であられるのでしょ?あなた様を見る時の仕草や表情、一人前の証拠ですわよ。拙いながら誘うようなこともなさるんでしょ?何を遠慮しておいでなのだか?」
「ふふん・・・。だがあの姫は女の欲望を必死にうち消そうとしているようだぞ。面白いな、汚らわしいと思っているのだろう。男女のことなど」
デリアは残酷に微笑む王子を呆れたように見て吐息をついた。
「あなたという方は!姫君を得られて、少しは人間らしくおなりかと思えば相変わらず冷たい傲慢な方ね!焦らして面白がっているのですか」
「そなたとて男を焦らす」
「焦らされることを駆け引きだと知っておいでの方にはね。何も知らないねんねさんを弄ぶようなことはしませんわ」
19
(王子は私を嫌いなのかしら?毎晩、一緒に眠れる。それは嬉しいのだけれど・・・大好きな王子と一緒に過ごせて・・・これ以上、望んだら罰が当たるもの。でも・・・でも・・・もっと・・・)
昼下がりの屋上でキャロルはほっと溜め息をついた。金色の髪を高地の風が弄び、青い瞳は光の加減かより深い色合いを帯びて見える。ほっそりとした優雅な容姿の姫が物思わしげにしている図はなかなか美しかった。
(毎晩、王子は私を抱いて寝かしつけてくれる。まるで小さな子供にするように。私・・・もう子供じゃない。
でも、私がこんないやらしいこと考えてるって王子が知ったら、きっと私は嫌われてしまう。それは嫌だわ)
キャロルはまた溜め息をついた。
「ナイルの姫君?」
声をかけたのは美しく臈長けた美姫。きらびやかに着飾り、物腰には堂々たる気品が窺われる。
ヒッタイト王の寵姫デリアである。王子の想い人と一度、差し向かいで会ってみたかったのである。
キャロルは突然、現れた美しい女性に驚きながらも落ち着いて品のある挨拶を送った。
「ご機嫌よう・・・。時々お見かけする方ですね。ごめんなさい、お名前は存じ上げないのですよ。うかがってもよろしい?」
後宮の女だろうということはすぐ分かった。自分が王子の許に嫁ぐに当たり多くの女性から恨まれていることは痛感していたのでキャロルの対応も用心深いものになる。
(何て綺麗な人かしら?きっと後宮でも高い地位にある人だわ。この堂々とした物腰はどう?それに上品で穏やかで・・・露骨な敵意みたいなものがまるでない)
デリアは美しく大人びた装いをし、貴婦人風の物腰で口を開いたキャロルの、未だ少女のままの細い声に少し驚いた。
(まぁ、本当に子供なのね)
ん?タイトルが「ある晴れた日に」になった??
作家様、いつもありがとうございます。今日も早速楽しませていただきました。
>意地っ張りめが!
って王子に対してデリアが思うことでもあったりして。
もうすっかりこの作品の虜です!
あ、本当だ。作家様、タイプミス?(笑)
>私・・・もう子供じゃない
今までの番外小説では王子がキャロルに奉仕してばかりだったから、今度はキャロルが王子に奉仕したりして(爆・爆・爆)
乙女の悶々がたまらないです。
ところでこの小説の本当の主人公はデリアですか?何か今までのアンチキャロルキャラと違っていいですね。
>65さま、66さま。すみません。タイトル間違ってました。訂正します〜。
>>64 20
デリアはにこやかに微笑み、優雅に膝を折った。
「まぁ、名乗りもしなかった失礼をお許しあそばしてね。私はデリアと申します。国王様にお仕えしておりますよ」
デリアはキャロルに警戒されないように細心の注意を払って言葉を続けた。
「気持ちの良い風。私も時々、ここに風に吹かれに参りますの。良い気分転換ですわ。姫君もご婚儀間近でいろいろお忙しいことでしょうね」
キャロルは少し困ったようにデリアを見た。ヒッタイト王の寵姫―しかもなかなか力のある女性らしい―であることは豪華な身なりや余裕と気品に溢れた物腰からも知れた。
「どうなさいましたの?何だか気鬱のご様子。あぁ・・・花嫁になられる前ですもの、気が塞がれることもございましょうね。
女性とはそうしたものですわ。後宮に上がる時の私も、恐れながらそうでございました。まして、あなた様はご正妃の尊い位に昇られるのですもの」
後宮の女性についてキャロルが抱いていたイメージと目の前のデリアの様子はまるで違った。気取らない裏表のなさそうな口振り、好奇心も気遣いの後ろに巧みに隠されている。
知らない大人に話しかけられて戸惑う子供のようにも見えるキャロルを見て、デリアは考えた。
(まだ子供だわ、これは!王子も人が悪いこと。そりゃ、子供でも女なら恋愛沙汰に憧れますよ。でも子供には難しい駆け引きはできないのに。
後宮の女達は、王子のお妃がこんな子供だなんて知らないのね!)
「ああ・・・ついご無礼を申し上げましたわ。何だか、放っておけないような気がいたしましたの。お節介の年増女よと笑ってお許し下さいね」
お、新作。
作家様、乙かれーです。
しかしデリアって何かいい女ですねぇ。世慣れてて如才ないってゆーか。
誰かデリア主人公の話書いてくれませんか?後宮に上がるまでのこととか後宮成り上がり物語とか。
作者さま乙〜。
>68さんと同じくデリア話きぼーん!
ぜひ王子の筆下ろし・・・じゃなかったデリアとの恋のレッスンとか、
デリアの後宮@春日局物語とか。
作家サマ〜タイトル訂正のついで(?)にもう一話オマケありがとー!
王子、キャロルをいぢめて自分はデリアお姉さまに遊んでもらうのは
少しズルイよー。自分のことは自分でしよう。(爆)
>70
スマソ。そのちょっとズルい王子がなぜかたまらん。人間的というか。
キャロルがきわめつけの聖女じゃないのもいいぞ。オレ的にも画期的な逸品です。
もしデリアと王子の関係に気づくとしたら「きゃーフケツよ」と叫ぶのかそれとも
「わたしにもして」と迫るのか?まだまだ終わってほしくないけど今後の展開が待ち遠しい。
>71
いや、ずるいと言いつつ実はワシもたまらんのじゃ。
妄想に耽って自己処理の王子も何かコワいもん見たさで…
デリアと王子の関係を知って→「きゃーフケツよ」と叫ぶに1票。
で見透かしてる王子が「そういうそなたも…」と逆ギレで
キャロル自爆コースってどう?
そういえば以前王子の初体験がデリアだった・・というお話ありましたね。
いいぞ、デリア、すっかりファンになりました。
>>67 21
「まぁ。そんなこと」
キャロルは慌てて言った。世間知らず、とは怖い物知らずと同義である。警戒はしながらもキャロルはこのデリアに心許してもよいような気がしてきていた。
「私・・・確かにちょっと考え事をしていましたから。どうして分かったのかしらって・・・」
少しはにかんだように言う様子は海千山千のデリアでも感動を覚えるほど楚々として初々しかった。
「婚儀が近くて、まぁ、色々と・・・。何だか自信がなくなってきてしまって」
デリアは少し強い調子で言った。
「姫君、自信がないなど弱気なことをおっしゃってはなりませんよ。ここは宮殿です。もし私が悪い女で、あなた様のお言葉の揚げ足を取って悪い噂をまき散らすようなことをしたらどうなさいます?お気をつけにならなくては」
デリアは本気だった。彼女自身、後宮でここまでの地位に上り詰めるまで並々ならぬ苦労をしてきているし、今だって決して油断はしていない。
キャロルの無防備さに腹が立ち、同時に守ってやらなくてはという奇妙な義侠心が姉御肌の美姫の胸に萌す。
王子の身勝手さや勝手なお喋りにつき合わされて、キャロルに少し同情していたのかも知れないが、さすがのデリアもそこまでは気付いていない。
「あ・・・ごめんなさい」
反射的に謝ったキャロルをまた窘めてデリアは言った。
22
「お悩み事がおありなら、どうして王子にお話なさいませんの?一人、静かに考え事をして胸の内を整理するのも結構ですけれども、王子にお縋りなさいませ。
・・・王子を・・・愛しておいでなのでしょう?」
デリアの語尾は少し震えていたかも知れない。
「だって・・・恥ずかしいんですもの。自分でも何を悩んでいるのかよく分からなくて。王子はこんな子供の愚痴にはつき合いたくないでしょう。」
(やれやれ・・・)
デリアは頭を振った。
(結局、このお嬢ちゃんも王子に首っ丈ということね。おおかた、恋の病が高じて抱き合うだけじゃ満足できなくなったってところでしょう。王子が駆け引きを仕掛けているって気付いていないところが子供だわ。
育ちが良すぎるのも考えもの。好きなら誘うくらいできなきゃねぇ)
「姫君、何が恥ずかしいものですか。お縋りなさいませ、話すべき事などその時になれば勝手に出てくるもの。縋られれば男はそれが嬉しいのですからね。
何も難しくお考えになることありませんわ。男と女、しかも好きあっているのなら・・・。素直におなり遊ばせ」
デリアは年の離れた姉か、若い叔母のような調子でキャロルに語りかけた。
「ね、無礼な女とお腹立ちでしょうが年上の経験者を敬うことは、あなた様ならご存知でしょ。好きな相手に気持ちをぶつけるのに恥ずかしいも嫌だもありませんよ。
男に振り回されるなんてつまらないこと。男など指先で踊らせてこき使ってやればいいのですよ」
キャロルは笑った。花のような笑みを見てデリアは思わずうっとりとなった。
23
結局。デリアはキャロルに親切にしてやる以外のことはできなかった。
(この私がほだされて小娘に親切にしてやるなんて!)
デリアは自分でも驚いてしまっている。でも世慣れぬ物知らずの子供に親切にしてやる自分、というのはなかなか新鮮で良かった。
「さ、姫君。そろそろ戻りましょう。先ほど申し上げたことお忘れにならないで。王子だって男ですわ。男なんて単純な生き物ですのよ。つけあがらせてはいけません。誘って焦らしてきりきり舞いさせなくては」
キャロルは無邪気に笑った。
「ありがとう、デリア。何だかすっかり気が楽になりました。
あなたって不思議な方ね。何だか・・・後宮の女の人ってかんじじゃないわ」
デリアは苦笑いして言った。
「どういう意味でしょう?私だって意地悪で性悪な女狐かもしれませんよ。無防備すぎる方ね、呆れてしまうわ。
王子をしっかり見張っておいでなさい。あの方、あれで結構遊び人よ。早くモノにしないと盗られてしまいますよ」
デリアと話せたせいかキャロルはだいぶ気が楽になった。婚儀のための様々な雑用もいつもよりずっと楽にこなせた。
とはいえ、夜が来て寝支度が整うとやはりまた心が震えた。王子のからかいはますます際どくなってきていて、キャロルは涙ぐむこともあった。王子はまた実に巧みにキャロルに触れてみせるのだ。
でも今夜は。キャロルの脳裏にデリアの言葉が蘇る。
(男なんて単純な生き物ですのよ。つけあがらせてはいけません)
24
「疲れたな・・・」
王子はそう言うと寝台の脇に置かれた卓から杯を取り上げて葡萄酒を飲み干した。
湯を浴びた王子は腰に無造作に布を巻き付けているばかり。
喉をならして葡萄酒を干す王子は驚くほど艶めかしく、キャロルは目を離すことができない。
鍛えあげられた体は無駄な肉など全くなく、彫刻のような筋肉で覆われている。とはいえ、決して武骨一辺倒れではなく肉食獣のような精悍なしなやかさが一種の優雅さを添えている。
王子は顔を赤らめながら自分から目を離せないでいるキャロルをちらりと見やった。
「どうした?そのような所にいないで早くこちらへ参れ。眠いのではないのか?婚儀の準備に忙殺されているのであろう?」
王子の胸に抱きすくめられて声も出ないキャロル。
「さて、と。今日はどのようにして過ごしたのだ?」
「あの、ええっと。屋上で・・・デリアという方と会ったわ」
「何?!」
王子は思わず大きな声を出してしまった。驚いたように王子を見上げてキャロルはかいつまんでデリアとのことを話した。勿論、話の終わり頃の教訓部分―男はつけあがらせるべからず―は話さないでおいた。
「とても感じの良い方。私、あんな方、初めてだわ。何て言うのかしら?お友達になれたらって思えるような方よ。でもこんなこと、あの方が知ったら無防備すぎるって呆れて叱ると思うわ」
王子は安堵した。
(あのデリアがつまらない浅はかな真似や告げ口などするはずもないか。しかし・・・気になるな。愛人と妻を仲良くさせる趣味は私にはないし)
25
「ふぅん・・・。デリアは私も知っている。ま、後宮の女性にしては良くできた傑物だな。母上も一目置いて奥向きの仕事の執務の補佐役にしておられるようだ。
だが、確かにそなたは無防備すぎる。怖がらせるつもりはないが父上の後宮とはなかなか難しき場所ぞ」
「はい・・・」
「ふふ。とはいえ、私は女を集めて後宮を作る趣味はない。今のところはな。そなたが居ればよい・・・」
王子は甘く囁いてキャロルに接吻した。長い接吻のあと、名残惜しく唇を離す。
そして。
「!!!」
さすがの王子も狼狽えた。キャロルが王子の唇に接吻を返してきたのである。不器用な一瞬の接吻ではあったけれど、それは少女が恋人に贈るそれであった。キャロルは恥ずかしげに王子を見返した。
「そ、そんなに驚かないで。私も・・・王子にキスしたいことってあるわ」
王子は無言でキャロルの細い手首を掴んで寝台に押し倒した。
思いもかけない媚態に体中の血が沸き立つような気がした。腰に巻いた薄手の布は雄々しく持ち上げられている。
「誘っておるのか、そなた・・・」
予想外に激しい王子の反応にキャロルはすっかり怖じ気づいてしまった。待ちに待った瞬間であるのに口から出たのは拒絶を表す子供っぽい甲高い声だった。王子もキャロルの涙目にすぐ正気に返った。
「驚かせたか?すまぬ、少し酔っているのかも。そのように怖がるな、私がそなたに無体などするはずもないものを」
王子はそう言って優しくキャロルを抱きしめ、落ち着くまで背中を撫でてやった。とはいえ、思いがけず虐める相手に翻弄されたという屈辱感は消しがたく。その夜の王子は何時にも増して際どく執拗にキャロルを責めたのである。
(全く・・・油断のならぬ姫よ。私の方が負けそうだ。思い知らせてやらねば。意地を張るのを止めて早く私に許しを請えばいいのに。そうすれば・・・そなたの考えたこともないやり方で慰めて可愛がってやるものを)
続く
きゃあ〜〜〜〜!!この勝負どうなるのぉ〜!
作家様、ありがとう。愛してます。
新作〜。鼻血がぁぁぁっ!!!
いつΨ(`▼´)Ψモードに入るんでしょう?
こ、腰布〜。
王族鼻血侍女の必須アイテム〜(謎&爆嬉)!
これで残業も辛くないっすー。
>>78 26
次の日。
朝湯をつかってさっぱりとしたキャロルはムーラに伴われて王妃の居間に向かった。婚儀に先立ってのお妃教育である。
気丈な王妃は、王子の選んだ娘を気に入っていたのでキャロルもそう窮屈に思うことはない。
「姫、王子とは仲良くやっていますか?今日は昼餉を一緒に摂ることにしましょう。王子にも顔を出すように言ってありますよ」
王妃は上機嫌だ。彼女は頭のいい良くできた人で、浮気者の国王も頭が上がらない。庶子が増えれば母子の行く末を決めてやり、寵姫が増えれば増長して王国を揺るがすことのないよう釘を差す。
強面の女丈夫になることなく、一人の女として夫君の心を掴み、優雅に毅然と君臨し、万人から仰がれるのはやはり人徳か。
王妃は心密かに息子イズミルを征服した金髪の小柄な少女の手腕に感服してもいる。息子の屈折した想いなど知らないのだ。
やがて王妃の宮殿の入り口付近が騒がしくなった。
「王子が参ったようですね。出迎えてやりましょう」
王妃は軽やかに立ち上がり、廊下の先へと向かった。何やら華やいだ声がする。
そこで王妃とキャロルが見たのは、王子に戯れかかる後宮の宮女達であった。
かつて王子の寵愛を受けたことのある女達は久しぶりに訪れた男に精一杯の媚態を示していた。
「王子様、ご婚儀がお決まりになってからは冷たくて寂しい」
「お久しぶりでございますわ。少し音楽などお聞かせしたいのですけれど」
意味ありげな目、目、目。それに応えてやる王子の妙に物慣れた様子。
皆の手前、敢えて平静を装うキャロルの脳裏にデリアの言葉が渦巻く。
(王子をしっかり見張っておいでなさい。あの方、あれで結構遊び人よ。早くモノにしないと盗られてしまいますよ)
キャロルはすぅっと深呼吸した。
27
「王子・・・」
キャロルはにこやかに微笑み、王子に手を差し伸べた。王子に群がっていた女達が意地の悪い視線を投げつけるが知らん顔。涼やかに無邪気な微笑みを浮かべ、最愛の人の視線を捕らえる。
イズミル王子もその手を取り、軽く微笑んだ。
「待たせたか?」
端で見ている方が気恥ずかしくなるような甘い仕草だ。王子はそのままキャロルの手を握り、母王妃に会釈すると宮殿の置くに入った。
後に残された女達は悔しさに歯がみしたが、キャロルの小気味よい振る舞いに心の内で快哉を叫び、残された女達を笑い者にして愉しむ女達もいるのが、後宮という場所である。
ヒッタイト王妃の昼餐会は和やかな雰囲気の内に終わった。
王妃は、先ほどの後宮の女達のこれ見よがしの媚態にも動じることなく、優雅に振る舞ったキャロルに痛く感心していた。そしてキャロルという得難い姫を手に入れながら未だに後宮での戯れを止めておらぬらしい息子に嘆息した。
母王妃から見れば先ほどの王子の振る舞いは、いかにも子供っぽくこれ見よがしで、自慢の息子に似つかわしくないものに思えた。
(国王様の御子とも思えぬ、物堅い息子だと思っておりましたのに。そりゃ、若い男なのですからそれなりに遊んでいるのは知っておりますが・・・。あんなに大っぴらに宮女と戯れるとは。あのような露骨な振る舞いをする女は嫌ってはねつけると思ったのに)
キャロルも内心穏やかではなかった。表面上はにこやかに振る舞うが先ほどの王子を見て平気なわけはなかった。
そんなキャロルの心は王妃にはお見通しであった。
(姫も可哀想に。イズミルの妃になれば私のような苦労はしなくてすむと思うておりましたのに。
しかし妙だこと。王子は・・・姫を恋い焦がれて患ったようになっておりましたに、いざ手に入れたとなるとあのように意地の悪いことを。王子は心根の優しい子なのに)
28
「それで姫・・・。私に何か申したいことがあるのではないか?」
その夜。王子は長椅子にくつろぎながらキャロルに尋ねた。
「何か・・・って?」
キャロルは王子の目をまともに見ないまま答えた。
「何もないわ。王子は私に何を言わせたいのかしら?」
王子は生意気に答えるキャロルに少し腹を立てた。王子はキャロルに嫉妬させたくてあんな戯れを見せつけたのだから。キャロルが嫉妬して泣いて怒れば、抱きしめて慰めて・・・その薔薇の唇から自分を求める言葉を言わせて・・・自分のものにしてしまおうと思っていたのだ。
「昼間のことだ」
王子はぶっきらぼうに言った。
「昼間のことに決まっている。女達が私に戯れかかって、そなたを挑発したことだ。怒らぬのか?」
キャロルはすうっと息を吸った。
「王子は・・・まぁ、整った凛々しい容姿の持ち主よ。女性なら大抵誰だって惹かれるわ。私と王子が知り合うよりもっと前から王子を知っていて、好きだった女性(ひと)もたくさんいるでしょう。
・・・仕方ないわ。」
キャロルはつんとそっぽを向いた。泣いて怒りたいところだが彼女にだってプライドはあった。
今度は王子が驚いて狼狽えて息を呑む番だった。キャロルが嫉妬をしてくれない!嫉妬させたくてあんな優男の真似をして見せたのに?
「これは・・・そなた本気で怒っているのか?」
つい機嫌を取るような調子でキャロルの顔を覗き込む王子。心配になったのだ。
「・・・嫉妬して欲しい?」
キャロルはすくい上げるような視線で王子を見つめた。嫉妬と怒りの涙目の中にどこかあだな色香が漂う。
「え?」
キャロルはいきなり王子に抱きついた。そこにはもういつもの甘えっ子の妹のような少女しかいなかった。
「あんなことしないで。私が平気だったと思う?私にだって自尊心はあるわ。だから無闇に怒れない。でもだからって、ああいうことされて平気なわけじゃないわ。私、お人形じゃないわ。試されるのは嫌い」
続
「何事か?」
一日の政務を終えたイズミル王子は愛しい妃であるキャロルの待つ寝所へと帰ってきた。
湯浴みをし終えた王子は寝台の横にある台の上にある、小さな壷に気がついた。
煌く黄金の髪を梳いていたキャロルは王子の声に、手を止めた。
「・・その壷のことかしら?王子」
「いや、そなたが具合でも悪くしたのかと思ったのだ。」
小さな壷にはなにやら薬が入っているように見えた。
キャロルのことなら細やかなことにも気のつく王子に、侍る女達も声を潜めて
仲むつまじいその様子をくすくすと笑う。
「唇が少し荒れてしまったの、ムーラがそういう時には蜂蜜を塗るといいって持ってきてくれたのよ。」
そう答えるキャロルの唇は確かにいつもよりも光沢があり、紅を塗っているわけではないが
艶やかなその光沢は王子を誘っているようだった。
「もうよい、下がれ」と王子は侍女らに言うと、静に波が引くように退出していった。
「・・・少し疲れたゆえ、私もその蜂蜜を貰おう」
王子が寝台の上のキャロルに並んで座ると、がっちりした腕がキャロルを巻き込み抱きしめた。
そして甘い唇を貪った。
驚いたキャロルは体を一瞬だけ硬直させたが、直に力を抜き、王子に応えた。
「・・ふふ、甘いな。」
ハシバミ色の目を細め、満足げなイズミル王子と王子の腕の中で頬を紅潮させるキャロル。
「・・・折角ぬったのに・・・。また塗りなおさなきゃ・・・。」
「私がしよう、だがその前に存分に味あわせてもらわぬとな。」
王子は手馴れた仕草でキャロルの纏っている夜着を滑らせていく。
「きゃっ、冷たい!」とキャロルは小さな悲鳴をあげた。
自分の胸元に急にひんやりしたどろりとした液体がかかったのだ。
「動いてはならぬ」
イズミル王子がキャロルの白い胸元の金色の液体に唇を寄せる。
王子の舌がキャロルの肌を掠め、蜂蜜を掬い取っていく。
柔らかな胸の曲線をたどりながら、時々その頂きを悪戯するように嬲っていくちに、
キャロルの白い肌がぽっと薄薔薇色に染まり、唇からは悦びの戦きが零れ落ちた。
「動くと零れ落ちるゆえ、おとなしくいたさぬか。」
イズミル王子は意地悪そうにクスリと笑い、キャロルの頬を恥ずかしさで更に紅潮させる。
「・・・ひどいわ、唇に塗ってくれるとばかり思ってたのに・・・。」
「そなたが私を誘ったのだろう?賢きそなたのことだ、知らぬとは言わせぬ。」
首筋に唇を寄せてくるイズミル王子の温もりを感じながら、キャロルは思い返してみた。
(・・そうだわ、蜂蜜は滋養強壮の薬でもあったけど、精力がつくと言われてたんだわ!
だから王子は・・・。)
イズミル王子の手はキャロルの体の線をなぞり、唇は白い肌に転々と愛した跡を残していく。
「次はどこで味あわせてもらおうか?姫・・・。」
キャロルの耳には王子の言葉は入ってこなかった・・・。
終わり
「甘い誘い」作家です。
「いつか晴れた日に」作家様のお邪魔でなければよかったですが・・・。
つい書き込んでしまいました。
お目汚し、失礼致しました。
「いつか晴れた日に」作家様も「甘い誘い」作家様もありがとうございます。
嗚呼イズミル王子・・・
>「いつか晴れた日に」作家様
優男っぽく女達をあしらう王子も結構好き・・
キャロルに抱きつかれた王子が次回どうするのか気になるです。
>「甘い誘い」作家様
蜂蜜プレイ、マンセー!ぐるぐるテイストのお話でウマー!!
ムーラは蜂蜜の減りの激しさをどう思うん・・(ワラ
>>84 29
「・・・ということがあってな」
イズミル王子は苦笑しながらデリアに昨夜のキャロルのことを話してやった。ここはデリアの私室。国王の一番の寵姫であり、その国王も公認の王子の愛人でもあるデリアの部屋には暖かな西日が射し込んでいる。
「子供だと思っていた姫があのように申すとはな。一本取られた。私にだって自尊心はある、か」
デリアは積み重ねたクッションの上でくつろぐ若者に香り高いお茶を勧めながら苦笑した。
「のろけにいらしたの?呆れた方ね。こんなところでお喋りをしていないで早くお姫様のところにおいでなさいな。それともやりこめられた気まずさに帰りにくいのでしょうか?」
「そなたは辛辣だ」
王子はお茶を飲みながら言った。
「私にだって自尊心はあります」
デリアはキャロルの言葉を繰り返しながら言い返した。
「馬鹿な男のお遊びの自慢話は懲り懲り。女を馬鹿にするのもいい加減に遊ばせ。本当に好きな相手がありながらその心を弄ぶなんて許せませんわ。
あの姫君は頭の良い方みたい。本気で怒れば躊躇無くあなたを捨てますよ、私みたいにね。
さぁ、坊や。今日はお帰りなさい。おいたが直ればまた遊んであげますよ」
イズミル王子はさすがに赤くなってデリアの私室を後にしたのである。
デリアは苦く笑いながら愛して止まない若者を見送った。彼女はキャロルが羨ましかった。正妃として相思相愛の男の許に嫁ぎうる姫が。
だが嫉妬したり、哀しんだりするには彼女は誇り高すぎた。その矜持故に彼女はキャロルを祝福することしかできないのだ。
30
「デリア・・・?またお会いしましたわね」
黄昏の屋上。キャロルは思いがけない先客に少し驚いた。昨日の王子とのやりとりに少し疲れて気分転換に来たのだ。王妃やムーラが様々に気遣ってくれるのも少し有り難迷惑だった。
「まぁ、姫君」
デリアは微笑んだ。彼女もまた先ほどの王子とのやりとりで、くさくさしていたのだ。
全く男というのはどうしてああ馬鹿なのだろう?あんなことをして一番大事なものを失ったらどうするつもりなのだろう?あんな鼻持ちならない年下の若者をそれでも愛している自分は何なのだろう?
「デリア、私がいては邪魔ですか?」
「まぁ、いいえ。・・・姫君、昨日はお昼間、ちょっとした騒ぎがございましたのですってね」
「ああ・・・。ご存知ですのね」
キャロルは曖昧に言った。
「すぐ噂になるのね。ほうっておいてくれればいいのに」
「仕方ありませんわ、後宮とはそういうところですから」
デリアはわざとさばさばと言ってのけた。
「姫君は口惜しく思われまして?」
面白そうなデリアの顔にキャロルは少しむっとした。
「何も感じないわけないでしょ。でも、嫌だけれど嫉妬しているって皆に分かってしまうのは嫌。
それに・・・王子が私を嫉妬させようとしているみたいなのはもっと嫌。
そうはいっても王子が他の女の人に構うのはもっともっともっと嫌」
デリアは一気に言い切ったキャロルに少し驚いた。おとなしい上品なだけのお姫様かと思ったのに結構気の強い跳ねっ返りの一面もあるらしい。
「あけすけすぎるって呆れられてしまうかしら、デリア」
31
デリアはくすっと笑った。このお侠(きゃん)な少女の新鮮な魅力に心惹かれた。
「さぁ?そのお言葉通り、王子に強気にお出になれるなら私、あなたを見直しますわ。私、あなたも王子が振り向いてくれるまでひたすら待つ方かと思ってましたの。そんなのつまらないわ。
あの方が本当に好きで盗られたくないなら、そのように動かれませ。申しましたでしょ、あの方、遊び人だって」
さすがにキャロルの顔色が変わる。
「誘って絡め取っておしまいなさい。下手な手練手管は不要。一心にお縋りなさいませ。王子だってそれを待ち望んでおいでです。あなたがあの方を捕まえてしまわないから・・・後宮の女はかりそめのお情けに夢を繋ぐことになるのですよ罪作りですよ」
デリアは意味ありげな流し目をくれた。
(ワタシハ オウジサマト タノシンダコトガアリマスノヨ)
キャロルも女である。王子が自分を扱う物慣れた様子や、女達が自分に異様に嫉妬していることから自分以前に多くの女が王子と戯れたことも察していた。
特にそれが不道徳だとは責められない。王子はそういう時代環境に育ってしまっただけの話なのだから。
ただ自分を知った後は自分だけを見つめて愛して欲しい。王子にとって特別の存在で居たい。それがキャロルの望みだった。
(デリアは・・・王子と・・・まさか?)
キャロルは愕然とした。確信はない。でも・・・!王子はだからデリアのことを話したときあんな・・・!
でもキャロルの口から出た言葉は。
「そうね。せいぜい人の軽口の種にならぬよう振る舞いますわ。ご機嫌よう。冷えない内にお戻り遊ばせ。・・・国王様もお待ちでしょう」
相手の意地の悪さを無視した無邪気な答えだった。キャロル自身の潔癖さが国王の愛妾と王子の関係について考えを巡らせることを禁じていたのだ。
32
「姫、こんな時間まで外にいるとは良くないな。冷え切っているではないか」
固い表情で私室に戻ったキャロルを王子は心配そうに出迎えた。
「何でもないの。ちょっと考え事をして空を眺めていたら時間がずいぶん経ったみたい」
キャロルは身を避けようとしたが、差し出された王子の手の誘惑には勝てなかった。
「・・・ごめんなさい。心配かけてしまって」
素直に王子の手に自分の冷え切った手を預けるキャロル。
「さぁさぁ、お食事を。姫君には暖かいお茶を差し上げましょう。夕暮れの風は冷とうございます」
ムーラは優しくキャロルを気遣った。後宮の女達と王子を見て、キャロルがショックを受けたことを心配していたのだ。
王子はいつになく優しくキャロルを気遣った。キャロルを怯えさせないように、性的なことは少しも感じさせないように。まるで最初の頃、兄妹のように接していた頃のように。
キャロルはそんな王子の暖かさに、疑いも誇りも何もかも忘れて縋ってしまうのだった。
キャロルはただ王子を独占したかった。
一方、デリアの言葉は予想外にイズミルの心をかき乱していたのだ。自分に冷たくあたった娘を懲らしめてやろうとしたのに、反対に娘を失うようなことになっては堪らない。
(恋はより相手を想った方が負けだと言うが、私ときたらざまはないな。こんな小娘一人にきりきり舞いをさせられる。
とはいえ・・・私の方から折れるのも、な。何とか姫の方から私に跪くようにできぬものか?)
王子の身勝手な望みは存外早く叶えられることになる。
勝手に
>>86さまの続きを書かせていただきました。ごめんなさい。
王子の舌と唇はキャロルの白い肌に戯れを繰り返し、薔薇色の花を咲かせていった。
王子はキャロルの脚を無造作に開かせると、そのまま肩に担ぎ上げた。
「いやっ、恥ずかしいの。やめて。見ないで」
「だめだ」
王子は潤んで震える薔薇の花を舌先で弄ぶように味わった。ぴったりと閉じ合わさっていた花弁はじきに開き、隠されていた珊瑚色の真珠も勃ちあがって震えた。
王子は慰めるように珊瑚珠を吸い上げながら、キャロルの胎内に続く狭い泉に指を差し入れた。キャロルが恥ずかしがって腰を捻れば、内部の襞は妖しく濡れ王子にからみつく。
やがて王子の指は2本になり、あまつさえ中で大きく逆Vの字に開かれた。声にならない喜悦と羞恥の悲鳴をあげるキャロル。その拡げられた内部に王子は壷の中の蜜を流し込んだ。
「ああっ!」
痺れるような痛いような焼け付くような・・・・・快楽。苦痛。喜悦。羞恥。
「私に味あわせてくれ。甘い蜜を。そなたを」
王子は濡れ溢れかえる泉に口をつけ、甘く無尽に湧き出す蜜を吸った。
>94
「甘い誘い」作家です。
きゃあ、あの続きが!!!
ありがとうございます!
もしよろしければ更に続編を希望します。(赤面)
「いつか晴れた日に」作家様、いよいよ王子の宿願(笑)が叶えられるのですね!!!
王子、甘い顔見せちゃダメだぞ。原作者の夢のとおり「余裕のニヤリ」でキャロルにおねだりさせるのよぉぉぉ(爆)。
>「いつか晴れた日に」作家様。
気が強くて意地っ張りで、きわめつけオメデタ聖女じゃないキャロルが新鮮でイイ!です。
ただ王子におねだりするだけのおバカちゃんじゃないように書いてくださって嬉しいです(涙)。
でもおねだりキャロルも待ち遠しい私って・・・(赤面)。
デリアは何だか辰巳芸者ってかんじ(謎)?気が強くて誇り高い。でも情は深いと。
>>94作家さま
蜂蜜プレイにぐるぐるー。
高価な蜂蜜をこういうふうに使える王子って・・・。
ムーラ達がどう思うでしょう(笑)
「いつか晴れた日に」作家様
>王子の身勝手な望みは存外早く叶えられることになる。
最後の一行で早くも鼻血&滝涙が〜〜!王子がんがれ〜〜!
「甘い誘い」作家様・94作家様
両作家様、ぐるぐる執筆ありがとうございます。
蜂蜜壷はムーラが全てを承知の上で置いていったとか??
だとしたら、さすがはムーラだ・・・
「いつか晴れた日に」作家様
今日はおあずけですか〜?仕事が手につきませぬ…
>>93 33
「姫君?いかがなさいました?のぼせておしまいになりますよ」
ムーラが浴室の垂れ幕の後ろから気遣わしげに声をかけてきた。
「あ・・・。ごめんなさい。ちょっと身体が冷えたようなの。もう少し暖まらせて
くださいな」
キャロルはそう言って香料入りの湯に改めて身を沈めた。
(王子が好きなら・・・誰にも盗られたくないなら・・・私は・・・)
キャロルは身体がすり減りそうなくらい入念に肌を擦り、清めた。自分が今からし
ようとしていること―あえて考えようとはしないけれど、それはとてもはしたない
ことだということは分かっている―は正しいのだろうか?全部、自分の勘違いと思
いこみにすぎないのではないだろうか?
(王子は、どう思うかしら?王子に嫌われたら?呆れられたら?蓮っ葉な女だと軽
蔑されたら?)
そう思うすぐあとからデリアの言葉が浮かび上がった。
(誘って絡め取っておしまいなさい。下手な手練手管は不要。一心にお縋りなさい
ませ。王子だってそれを待ち望んでおいでです。)
キャロルの白い手がぱしゃんと湯を打った。
(考えたって仕方ないじゃない?何も考えずに・・・王子に甘えたいもの。私・・・
私・・・王子に私だけを見て欲しい)
キャロルは湯から上がった。
「まぁ、姫君。おのぼせになったのではございません?こんなに赤くおなりになっ
て・・・・・・きゃあぁっ!誰かある!姫君っ、しっかりなさいませっ!」
ムーラはぐらりと力無く倒れかかってきたキャロルを支えながら叫んだ。
真っ先に垂れ幕の中に飛び込んできたのは王子であった。
34
「おのぼせになったのですねぇ・・・」
ムーラは扇でキャロルに涼風を送りながら首を振った。キャロルは王子の腕の中でぐったりと目を閉じている。
王子は冷たい水を満たした杯を取ると、口移しでキャロルに飲ませた。
「う・・・ん・・・」
「姫、そなたはのぼせて倒れたのだ。大丈夫か?全く、どうしてあんなに長湯をしたのか」
王子は窘めながらも優しくキャロルの頬を撫でてやる。キャロルはわざと黙ったまま王子に身を寄せたままでいた。王子の手が、逞しい胸が、ほのかにかかる吐息がこの上もなく心地よい。
王子はなおもしばらく心配そうにキャロルの顔をのぞき込んでいたが、やがてムーラを下がらせた。
「体温は普通のようだし、息づかいももう安らかだ。湯疲れであろう。後は私が見ておく」
ムーラ達は恭しく頭を下げ、出ていった。王子はキャロルを軽々と抱き上げると寝台の上にそっと降ろし、耳朶に囁きかけた。
「姫・・・。目を開けよ。もう誰もおらぬ。私とそなただけだ。どうした?黙っていてはどうしていいか分からぬ」
「王子・・・」
キャロルはわざと気付かない振りをしていたのがばれていた恥ずかしさで赤くなりながら、王子に抱きついた。
「どうした・・・?」
(このように甘えて身を寄せてきたりして・・・。何と積極的ではないか?)
女の扱いに慣れた王子の目は、鋭くキャロルの不器用な媚態を見抜いた。とはいえ、王子は嬉しく思いながらも長く自分を焦らした娘への恨み辛みを忘れたわけではない。
「暑いのか・・・?衣装が苦しいのか?」
王子は敏感な箇所に巧みに触れながらキャロルの衣装をくつろげていった。
キャロルは目を瞑って王子の際どい仕草をそのままにしていた。
続
「いつか晴れた日に」作家さま
キャロル、随分がんばりますね〜。私ならとっくに限界を超えて
後先考えず王子の望みどおりに…(w
みなの者、落城は間近ぞ〜〜!
おお〜〜!
>103
つ…ついにそのときが!?
王子はもちろん、読者もじらされるよね。
何度生唾飲み込んだことか…。
>105
うんうん、じらされまくってるよね。
作家様は土日はお休みされて英気を養われてるご様子だから
金曜日に落城しなければまた来週の月曜までオ・ア・ズ・ケ!ってことに。
想像しただけでも苦しい〜。
今まで王子×キャロルのΨ(`▼´)Ψ話はたくさんあったけど
この寸止めで余裕のニヤリ王子のお話がいちばんドキドキするぅぅぅ。
あぁ溜息モノです作家様。o ○
こんな夢を見た前スレ939様、あなたはとてーーーもえっちです!
>>101 35
王子の手は優しくキャロルの頬の線をなぞり、着せつけられた夜着を打ち合わせている飾りの前紐を解いた。
キャロルがほうっと吐息をついた。常夜灯の元でもそれと分かるほど肌は上気して薔薇色に染まり、苦しげに寄せた眉根が何とも艶めかしい。
「姫・・・」
王子は動作を止めて、キャロルの耳朶に囁きかけた。自分に触れられて、吹き散らされることを待っている小さな花のような娘に。
キャロルはびくっと身を震わせたが目は瞑って黙ったままだった。
「姫」
王子はもう一度言った。
「目を開けよ。私を見るのだ。何故、私を見ぬ?」
キャロルはそっと目を開けた。夏の空の色をした瞳は潤んで、言うに言われぬ切ない恋の望みを恋人に訴えかける。
王子は起き上がって膝の中にキャロルを抱えるように抱きなおした。その拍子に夜着の前がはだけかけて、キャロルは大急ぎで前を押さえた。
その子供っぽい仕草に王子の頬は思わず緩んだ。初々しい愛らしい姫。愛しい姫。その子供っぽさがことさら愛しくも、また飽き足らなくも思えた。
でも今は王子が望んだ通り、恋の炎に身を灼かれ、羞じらいつつ王子に腕を差し伸べている。
(私を望むか、姫よ。どれほどこの時を待ったか。そなたが苦しんで私を恨めしく思っているのを知らぬとでも思ったか?ああ・・・私を求めよ、姫。私の前にその身を投げ出せ、姫。そなたの苦しみを鎮めてやれるのは私だけだ)
36
黙ったまま、自分を見つめる王子にキャロルはいたたまれない思いをした。
「王子・・・」
キャロルは恐る恐る王子の頬に触れた。片方の手はしっかりと夜着の前を押さえて。王子は自分が痛いほどに高ぶっているのを感じた。
「何か言って・・・。黙っていては恥ずかしい」
王子は微笑した。それは自分の勝利を確信して楽しんでいる傲慢な勝者の微笑だった。
「言いたいことがあるのはそなたではないのか?申してみよ。私に恨み言を言いたいのではないかな?母上の宮殿で女達と戯れる私を見て・・・そなたが泣き出したらどうしようと心配したのだぞ。あるいは怒って出奔でもしたらと」
キャロルは顔を赤くした。
「平気ではなかったけれど・・・でも王子の側を離れるなんてできない」
「可愛いことを言ってくれる」
王子はキャロルのうなじに唇を寄せ、片方の手をさりげなく胸元に添えながら囁きかけた。
「でも、そなたは何か言いたいことを我慢しているように見えるぞ。意地っ張りの子供のように。申してみよ、私のような男は嫌いか?私が他の女と一緒にいて、ただ“平気ではない”だけか?私は嫉妬もして貰えぬか?」
王子は今度は耳朶を甘く噛みながら囁いた。
「そなたにとって私はその程度の者か?もしそうなら私はそなたにこれ以上、嫌われぬように退散しようか?」
「嫌っ・・・!」
キャロルは王子の技巧に身震いし、涙ぐみながら答えた。
「行かないで・・・!どこにも行かないで」
キャロルは深く息を吸い、王子に身を寄せた。
「王子、お願い。私の、私だけの側に居て。ずっと居て。私は・・・あなたの妃なのに。これ以上、隔たっているのは嫌」
37
「姫・・・!」
王子はこの上ない嬉しさで体が燃え上がるような心地がした。有頂天、とは今のこの人のことだろう。
キャロルは溢れそうな涙を誤魔化そうともせず、王子の膝の中から身を離し膝立ちになった。
寝台の上で王子と向かい合ったキャロルは王子の瞳を一瞬見つめ、すぐ目を伏せると震える薄紅色の指先で夜着の前を開いた。
しっとりとした艶のある白と薄紅色の肌が王子の前に晒される。薄い夜着は細い肩から滑り落とされた。華奢な鎖骨。紅色の果実を飾った小さくまろやかな胸の膨らみ。淡く頼りない茂みがほのかに覗く下腹。
王子が長いこと恋い焦がれた身体が、今こそ差し出されている。そのあまりの美しさに王子は不慣れな少年のように口がきけなかった。
白日夢を見ているかのように忘我の境地にあった王子は、とん、という軽い衝撃で我に返った。キャロルが、一糸纏わぬキャロルが王子に抱きついたのである。
「あなたが・・・好きです。お願い、私を・・・」
キャロルは最後まで言えなかった。気がつけば彼女は王子に組み敷かれ、貪るような激しい接吻を与えられていた。
「良いのか?まことに良いのか?」
かすれた声で王子は問うた。
「そなたを・・・私のものにするぞ?私はそなたがこの上なく愛しい。そなたが嫌がることはしたくない。でも・・・でも私は・・・男は自制できぬ獣ぞ。愛しい女をどのように男が扱うか、そなたはまだ本当には知らぬ」
「王子、ではあなたが教えて。私のことをはしたない女だと思わないで。私にはあなたしか・・・」
「誰がそなたをそのように思うものか。ずっとそなたが・・・子供から女になってそう言うのを待っていた・・・」
王子は衣装越しに自分の欲望をキャロルの身体に擦り付けた。
38
王子はいきなり、キャロルの身体を改めた。普段の彼なら、初めての女をもう少し気遣い、優しく少しずつ事を進めてやっただろう。
だが自分の前にやっと身を投げ出してきた乙女のそこが、すでに青い瞳と同じように切ない涙に潤みかけているのを見て、王子の中の獣は解き放たれた。
頭の隅では、もっとキャロルに優しくしてやらねばと思うのに、獣はこれまでつれなかった姫を罰するように愛してやれとそそのかす。
「ずっとずっとこの時を待っていた」
王子は白い身体の柔らかさ、滑らかさを愛でる暇も惜しんで囁いた。開かせた脚の間に自身をあてがえば、キャロルはびくっと震えた。
「嫌っ・・・熱い・・・!怖い、王子。やっぱり私・・・っ」
「もう待たぬ。もう待たされるのは嫌だ。愛している、愛している。愛しているから、だから・・・私だけのそなたに・・・」
王子は片手でキャロルの両手首を捕まえると素早く頭上に押さえつけた。空いた片方の手は愛を与える場所を確かめる。まだ充分に準備もできていない頼りないその場所の手触り。
そしてそのまま狭い場所に自身を沈める。
「あーっ!」
キャロルの悲鳴はすぐ王子の唇に塞がれた。これまで経験したことのない身を裂くような苦痛に悶える幼い身体を押さえつけるようにして王子は最奥目指して進んでいった。
「そなたが・・・私を望んだのだ・・・」
王子は涙を流し首をうち振る少女を見つめながら言った。最愛の娘をこのまま無茶苦茶にしてしまいたいという嗜虐的な倒錯した欲望が王子を突き動かす。
王子の動作は大きくなり、穿たれたキャロルは声も出ない苦痛に歯を食いしばって乱暴な王子の動きに耐えた。
「愛している、愛している。ああ・・・これでそなたは私だけのものだ。愛している・・・私の姫」
キャロルの胎内で激しく脈動しながら王子は永遠の愛を誓う言葉を囁いた。
しつこくまだ続く
作家さま…あのっ、鼻水が‐いえ、鼻血がー!
是非しつこくまだまだ続けてくださいな。
★悪魔の囁き★
王子、キャロルは痛がってたから体を気遣うフリでまたしばらく放置しましょ。
我慢できずに迫ってきたら自分の手で鎮める方法をそれとなく教えてやって
キャロルが試しているところを発見して反応を楽しむも良し。
何もしてないと誤魔化したら嘘をついた罰を、開き直っても「はしたない」といって罰を
与えよう。
>111さま、何てオニな・・・いいえ素晴らしいアイデア!!!
ああ、キャロルとうとう落城!王子を怒らせたら痛い目にあうということで・・・。
>112さま
お恥ずかしい…やっぱりオニですよね…
お褒めくださった112さまもオニだということで…(笑
王子になってキャロルをオニ系でいじめたいと思ったり
王子にいじめられてみたいと思ったり自分が理解できません。
二頭の獣を飼う111でした
>111
大丈夫、私もオニだ!(爆)
「いつか晴れた日に」作家様
オニさんがたくさん出てるようですが続きはどうなるのでしょうか?!
早く続きを読みたいです。
>>110 39
「姫・・・すまぬ・・・。苦しかったか?そなたを気遣うことを忘れていた」
ようやく身を離したイズミル王子は心配そうに腕の中の少女に問うた。だがキャロルは王子のあまりの激しさに気を失ったか、ぴくりとも動かない。
結ばれたばかりの二人の体は驚くほど多量の血に濡れ、寝台の覆い布も何があったかと思うほどの汚れようだった。
(まさか・・・はずみで別の器官を傷つけたか?)
王子はさすがに恐ろしく思いながらキャロルの身体を確かめた。だがそれは王子の杞憂であったようだ。
王子は先ほどの荒々しさとはうって変わった優しさと慈しみに満ちた手つきでキャロルを清めてやると、しっかりと腕の中に抱きしめた。
王子はまるで神聖なものを護っているような気持ちでキャロルの顔を見つめた。言葉にならない感動、哀しみに近いような喜びが胸にこみ上げてきて、王子の瞳も涙に濡れるのだった。
「そなたを、そなただけを愛している。これからは私の側にいつもそなたが居てくれる。私はもう一人ではないのだ。
姫、私の妃。愛している。私だけを愛してくれ。私を嫌いにならないでくれ」
次の日。
居間で王子達が起きてくるのを待って朝食の準備を整えていたムーラは、王子の常にない晴れ晴れとした顔に少し驚いた。そしてそれに続く王子の言葉はさらにこの忠義者の乳母を驚かせた。
「ムーラ、今日は私が姫の世話をするゆえ、下がっておれ。湯殿の世話も食事の世話も、だ。姫は今日は一日休養いたす故そっとしておいてやってくれ。私以外の者が姫に近づくことがないように計らえ」
「え・・・?王子、あのそれは・・・?姫君はどこかお悪いのですか?王子が表宮殿にお出ましの間も姫君をお一人に?医師を召しだしましょうか?」
王子は少し赤くなりながら手にした布包みをムーラに見せた。
「今日は急ぎの案件もない。早く戻る。
それから、吉日吉時を選んで姫と神殿に参る。・・・イシュタルに捧げものをいたさねばならぬゆえ」
「まぁ・・・!」
ムーラは驚きの声をあげた。王子は新婚の報告をしに行くというのだ。布包みの中身は乙女の純潔の証と知ったムーラは早々に下がっていった。
40
キャロルが物憂く目を開くと、王子のはしばみ色の瞳が驚くほど間近にあった。寝室の中はもうすっかり明るくなっている。
「きゃっ・・・」
起き上がろうとしたキャロルは、すぐに自分が何も着ていないことを悟り布団に潜り込んでしまった。急に動いたせいか身体の奥の痛みがぶり返す。
「お・・・王子、あちらに行って。恥ずかしい・・・」
震える声で嘆願するキャロルを王子は優しく抱き起こした。
「妃よ、気分はどうか?身体は大丈夫か?昨夜はずいぶん辛かったであろう。許せよ」
キャロルは恥ずかしさと、昨夜の王子の恐ろしさを忘れかねて冷や汗をかいて震えている。
「姫、そのように怯えてくれるな。恥ずかしがってくれるな。そなたは私の妃となったのだ。
さぁ・・・起きられるか?まずは湯に入れてやろう、不快であろう?」
王子は心配そうにキャロルの顔をのぞき込んだ。自分の欲望が満たされ、理性が戻った今となっては新妻のことがひたすら気がかりだった。昨夜はあまりに強引乱暴だったとのではないだろうか?
王子は優しくキャロルを湯に入れてやり、丁寧に清めてやった。
「王子・・・嫌。自分で入れます。洗うのだって・・・してもらうのは嫌。お願い・・・」
「だめだ」
医師のような慎重な手つきでキャロルを確かめつつ洗ってやりながら王子は言った。
「そなたが傷ついておらぬか確かめられるのは私しかおらぬ。それにまた湯あたりでもされたら一大事ぞ」
やがて湯殿から出ると王子は幼子の面倒を見るようにキャロルに寛衣を着せ、膝の中にかいこむように抱いて手ずから食事を与えた。
キャロルは真っ赤になってろくに食事が喉を通らない。でも熱っぽく痛む身体はだるく、王子の腕の中からすり抜けるのも億劫に感じられた。
食事もすむと王子は新妻をまた寝台に戻し、執務に出ていった。
「静かに休んでおれ。疲れの色が濃い。・・・良い子にしておとなしく私の帰りを待っておれ」
王子の言葉にキャロルはこくんと頷いて、引き込まれるように眠ってしまった。
41
王子は早々に執務を切り上げるとキャロルの許に向かった。午後の早い時間である。
キャロルは寝台の上でまだ眠っていた。だが王子がそっと接吻すると目を開け、困ったように曖昧に微笑んだ。
「起きられるか?さぁ、少し何か飲むがよい」
王子は甲斐甲斐しくキャロルの面倒を見た。
「私・・・どれくらい眠っていたのかしら?起きなきゃ。寝過ごしたりして恥ずかしいわ。王妃様のところに伺わないと」
キャロルはわざと普段通りの口調で言った。とはいえ、王子の顔はまともに見られない。
「今日は外に出てはならぬ。そなたは疲れているのだから身体を休めねばならぬ」
王子は少し意地悪い微笑みを浮かべた。
「初めてのことであったのだ。さぞ疲れておろう?私が側についていてやろうほどに・・・」
馴れ馴れしく王子は寝台に滑り込むとキャロルを抱きしめた。一瞬、キャロルは身を固くしたがすぐに王子に抱きついてきた。
「暖かくて気持ちいい・・・。こうして甘えているのは好き」
「ふふ・・・・・」
王子は優しく微笑むと背中をゆっくりと撫でてやった。キャロルはまるで驕慢な子猫のように満足そうに目を閉じてくつろいでいる。そんなキャロルの様子を見守るうちに王子の胸の内に少し意地の悪い気持ちが萌してきた。
(もうこの身は私の妃であるのに、一時の恐ろしさを忘れればまた私を翻弄する小憎たらしい子猫に戻ろうとする!
もはや私を翻弄することなど赦さぬぞ。そなたは私のものなのだから)
「気持ちいい、か。そなたがそのように安心しきって身を任せてくれて良かった。・・・・・・昨日のことで嫌われたかと心配だったのだ」
「そんな・・・」
離れようとするキャロルを抱きしめて王子の手つきはキャロルを甘く苛むそれに変わっていった。
「怖がらなくて良い。大丈夫だ、そなたを痛めつけるようなことはもうせぬ。力を抜いて私に全てを任せておれ。何もかも・・・教えてやる。ただそなたは私の言うとおりにしていればよい・・・。抗うな、抗えばまた辛いぞ。さぁ」
キャロルが目を開けたときにはもう次の日の朝日が寝室に差し込んでくる時間だった。
「目覚めたか?」
先に起きて腰布を纏っていた王子は微笑んだ。
「王子、どこかに行ってしまうの?ここに居て」
心細げに、そして甘えたように囁くキャロルのうなじには王子の刻印が色鮮やかだった。
「名残を惜しんでくれるか?これは先々、鍛え甲斐、教え甲斐がある生徒だ。そなたは今しばし休んでおれ。寝室より外に出ることは叶わぬぞ。私が執務より戻るまでおとなしくしておれ」
Ψ(`▼´)Ψ終わり:でも続
>「いつか晴れた日に」作家様
2日間の休載が辛ろうございました。
続きを書いていただいて有り難うございます!
キャロルの身体が辛そうで、ちょっと可愛そうだけど
王子が優しくしてくれるから、やっぱりうらやますぃー!
>「いつか晴れた日に」作家様
ありがとうございます!!!
ちょっぴり意地悪な王子も素敵でしたぁ。(感涙
次回作を期待していますわ。
お疲れ様でした。
>121
作家さまは「でも続」と書かれてるからまだ終わりじゃないよ。
>「いつか晴れた日に」作家様
毎週末お話の続きが待ちきれなくて土日の2日間が長く感じます。。。
これからもずーっと続けてください。
キャロルがもっと良い子になるようしっかり躾けて!…と王子にお伝えくださいね(嬉涙
ひとまずは完結ですね。
わくわくしながら続きを楽しみにしていました。
王子とキャロルはこれで幸せですが
個人的にはデリア姐さんの様子も気になる・・・。
えっ?!これで完結なの??
「Ψ(`▼´)Ψ」が終わりで「いつか晴れた日に」は続くのかと。
作家様、教えてください。
すみませぬ、Ψ(`▼´)Ψ編は終わりですが、そうじゃないほうはもう少し続きます。
どうかおつきあいください。
>>119 42
しばらく不例が続き、部屋に籠もっていたキャロルが王子に伴われ人々の前に現れ
たのは、デリアが最後に王子と話をしてから4日ほどたってからだろうか。
婚儀間近であるにもかかわらず倒れた姫の容態を巡っては相当姦しい噂が飛び交って
いた。自分の娘を王子の側室にと思っていた人々は、ここぞとばかりに身体の弱い
外国生まれ(しかも神の娘なのだから異世界生まれでもある)の王子妃を戴く不安
を語り合った。
後宮の女達もまた好奇の目でキャロルの伏せる王子の宮殿を窺っていた。あわよく
ば再び王子の寵をと思って
のことである。
デリアは無関心を装って成り行きを見守っていた。だが心のどこかでは、自分が追
い出したのにいつまでたっても仲直りに来ない青年が今度こそ、宿願を果たしたで
あろうことが分かっていた。
床上げを済ませたキャロルは国王の謁見の席に王子と共に現れた。美しく装い、ま
だ婚儀は挙げていないので国王夫妻、王子からは一段下がった場所に侍立している。
並み居る人々もキャロルの美しさに改めて目を奪われた。キャロルは元々派手やか
な美貌の持ち主ではない。露に濡れた小さな花のような優雅な姿。内気な性格のせ
いもあるだろうが、髪や瞳の色が変わっているという以外ぱっと目を奪われるよう
な華やかな色香漂う容姿ではないのだ。
ところが病み上がりのキャロルは何やら内側から輝くような、しっとりとした美し
さが添うている。まろやかな魅力。小さいが香り高い白い花のような風情。
43
その変わり様にデリアですら息を呑んだ。
その日の夕刻、彼女は執務を終え、宮殿に戻る若者に自分から声をかけた。
「ご機嫌よう、王子。姫君・・・いえお妃様のご回復、重畳ですわ」
「デリアか。・・・久しいな」
王子は微笑んで答えた。穏やかな笑みだった。
愛する女がいて、その心を手にしながら、それを手の中で珍しい玩具のように弄ん
で笑っていた青年。女が焦らされ、涙を流して悶えているのを面白げに観察し、デ
リアに話して聞かせた青年イズミル。
寡黙で近づきがたい雰囲気の若者が、ごく親しく思っている女にだけ見せる魅力的
な微笑み。
「そなたにはお見通しというわけか?ふ、さぞ面白く思っているのだろうな」
デリアはもうその微笑みが自分だけのものではないと悟った。
「とんでもない。おめでたいことですわ。あのお可愛らしい姫君を虐めて楽しんで
いるあなたは・・・こう申しては何ですけれどお父君にそっくりで空恐ろしいほど
でした。
でも今はお妃に夢中であられるのね。お妃様のご不例の間はずいぶん執務も早くに
終わらされたそうで。お早いお戻りは何のため?ただ・・・ご病床のお妃を優しく
見舞っておいでなだけだったのかしら?姫君はこの4日でずいぶん女らしく、生来
の可憐さに何とも言えない色香が加わりましたわね」
44
デリアは露骨に当てこすって見せた。部屋に籠もって恋人同士、飽きもせず何をしていたのかというわけである。
「きついな。まぁ・・・・・たまには愚行に溺れるのも面白かろう。ふふ・・・笑うか?骨抜きになった情けない男を?」
王子ははデリアだけが知っていたあの悪魔的な魅力を湛えた微笑を浮かべた。
「私はそなたにも惹かれている・・・。長いつきあいは伊達ではないな。こんな不実な男は嫌いか?」
デリアはくすっと笑った。共犯者じみた笑み。何とも艶めかしく、それでいて油断できない強かさを湛えた微笑。
「嬉しいことを言ってくださるのね、私の王子様、私の教え子さん。でも悪ぶるのはおやめなさい。あなたは不器用な方よ、色恋に関してはね。認めたくないかも知れないけれど、あなたはもう奥方様に首っ丈。他のどんな女にも勝ち目はありません。
・・・私、他の女の下で居るのは嫌ですわ。他の女と競うのは良いけれど、あなたの姫君相手では競うまでもなく最初から負けなのは明らかですもの。
見くびらないで。二番手として、犬みたいに振り返ってくれそうもないご主人の背中を見ているのは真っ平。私はそんな安い女ではないし、あなたもそんな下卑た真似をするような方じゃないでしょう」
一気にデリアはまくし立てた。後宮で生きると、誰よりも輝いて決してみじめに生きたりはしないと決心した寵姫の、それは矜持であった。
45
王子は片眉を上げて微笑した。天晴れな女に対する、それは敬意であった。
「私の負けだ、デリア。・・・やはりそなたは見事な女だな」
「今更、何をおっしゃるの」
「私はそなたには勝てぬな」
「私にも・・・それからナイルの姫君にも勝てませんわよ。言ったでしょう?恋は相手を先により深く好きになったほうの負け」
王子は声をたてて笑った。寡黙で冷徹と評される若者のそれとは思えぬほど豪快で楽しげな笑い声だった。つられてデリアも甲高い作り声ではない、本当に楽しげな笑い声をあげた。
今までのわだかまりが全て空に溶けてゆく・・・。
デリアは言った。暖かい誠実な声で。
「イズミル王子様、でも今まで通り私の大事な友人で居て下さるなら嬉しいですわ。私とあなたは何というか・・・馬が合います。後宮だとか王宮だとか・・・狭い気詰まりな場所で気の合う友人を持っているのは心強いことですわ。
友人なら・・・私はあのナイルの姫君を謀(たばか)っていると気が咎めることもありません」
「ほう・・・?」
「あの方を傷つけたくないのよ。これは本気よ。あの方がつまらない聖女様だったら虫酸が走るほど嫌だけれど、あのお姫様はちゃんと自分というものを持っているもの。それに下卑た想像を巡らせて陰謀に精出す方でもないみたい。気性の良い方、ちゃんとした人間ですもの」
デリアは王子の手を握った。
「さ、私は行かなくては。あなたをお友達と思ってよろしい?」
「そなたは得難い友人だ。妻は男なら大概娶る。だが心許せる友を持てる男は意外に少ない」
二人の男女はにっこりと笑みを交わして静かにすれ違った。それぞれの居場所に。
続く
良かったー、昨日ので終わりじゃなかったんだ。
キャロルと王子は天河みたいに一室に籠もってあーんなことやこーんなことばかりしてたんでしょうか?(爆)
続いててよかった!
王子がキャロルを簡単には小憎たらしい子猫にもどれないように教育する
Ψ(`▼´)Ψな(?)お話もこの先あることを期待してます。>作家様
続きがあって良かった!
ところでデリアって実はいい人?今まで出てきたアンチキャロル・キャラとは違うタイプと思ってましたが、何か本当に苦労人のいい女ってかんじで。
王子を調教していた頃のデリア話きぼーん。
勘違いしていた123です。
あー恥ずかしい。
でもデリアが登場してくれて嬉しい。
デリア姐さん、今回のお話でも光ってるね。
ヒッタイト王にはもったいないかも?
作家様
>「たまには愚行に溺れるのも面白かろう。
ふふ・・・笑うか?骨抜きになった情けない男を?」
きゃ〜!このセリフが妙に好きです。
王子ったら、デリア姐さんの前では素直よね。
>133
そだね。テリア姐さんもそうだし、
それから正妻も息子もヒッタイト王にはもったいない。
>>129 46
イズミル王子とキャロルの婚儀は荘厳に挙行された。神殿での儀式、披露のための宴。
疲れ果てたキャロルがようやく下がることを許されたのはもう真夜中に近いような時間だった。
「姫君、お疲れでございましょう。さぁ、お飲物を差し上げましょう。王子が姫君にと特別に調製をお命じになられたものです」
ムーラが差し出した杯にはとろりとした黄金色の飲み物が入っていた。甘い良い香り。キャロルは一気にそれを干した。暖かく甘い液体が心地よく喉を滑り降りていく。
「何が入っているのかしら?お酒みたいだけれど苦くもないし・・・」
有り体に言えばそれは興奮作用のある媚薬であるのだが、勿論ムーラは微笑むばかりで何も教えない。
「じきに王子も参られます。私はこれで・・・」
静かにムーラは下がっていった。寝台の上に一人残されたキャロルは不思議に身体が火照るのを感じた。初めて結ばれて以来、王子はキャロルの身体を気遣ってか指一本触れない。
(早く・・・王子・・・)
やがて。扉が開き王子の大きな体躯が現れた。腕を差し伸べ、王子に羞じらいがちに微笑むキャロル。王子はにっこり笑ってキャロルを抱きしめた。
「嬉しいな、そなたがそのように微笑んでくれるとはな」
キャロルは子猫のように王子の肌に鼻をすりつけて甘えた。
47
(ほほう・・・。私が遣わした薬酒は飲んだらしいな。効果のほどはまだ気付いてはおらぬか。あれは・・・良く効く。どのような夜になるか楽しみだな)
「疲れたであろう?」
王子は囁きかけた。腕の中に抱きしめた身体は熱く火照り、甘く匂い立つ。
「・・・さぁ、私がそなたを護ってやる。明日からは忙しいぞ。体を休めよ」
王子はそういうとわざと目を瞑り、寝入ったふりをした。
(ふふ・・・。私も酷い男だな。しかし焦らしてやりたいのだ、この娘を。昼間は大切に傅き護ってもやろう。でも夜は私の望むままに、仕えさせたい)
「王子・・・?眠ってしまった・・・の?」
キャロルが耳元に囁きかけた。目は冴え、身体は妙に熱く切ない。本能的に彼女は悟っていた。自分が王子を待ちこがれているのだと。それなのに王子は。
キャロルはそっと王子に身体を押しつけた。眠らなくてはと思いながら、頭の芯は冴えわたり、疲れたはずの身体すら眠りを拒否する。
「王子・・・大好き・・・」
不意に王子が目を開けた。
「それならば証拠を見たいものだな。そなたを・・・見たい。どうなっているのか」
王子の指が夜着の前紐を解いて滑り落とした。キャロルは王子が目顔で促すまま、自分の下腹を指で押し開いた。
王子は散々、楽しんだ後ようやくキャロルの乾きを癒してやった。キャロルが望む以上に・・・。
48
次の日の朝。
王子は眠り足りない様子のキャロルを優しく湯に入れ、召使い達を下がらせた居間の長椅子の上で食事を与えた。
「目が覚めぬか?困ったな、今日は謁見などで昨日以上に多忙な日であるのに。体を休めよと申したのに、夜更かしをいたすから・・・」
王子はさも面白そうに言った。キャロルは真っ赤になり小さな声で反論した。
「だって・・・王子が。王子だって・・・」
「私は日頃から鍛えている。そなたとは違うぞ」
やがて食事を終えたキャロルはムーラ達に手伝われて美しい王子妃の衣装に着替えた。この日のためにと王子自らが調製させた衣装は、簡素な形ながら心砕いて染め上げられた薄薔薇色の絹が複雑な襞を形作る上品な物だった。王子が贈った高い身分を表す宝飾品も目映い。
「本当にお美しゅうございますこと!」
最後に冠をかぶせながらムーラが感に堪えないように言った。王子は満足げに微笑んだ。これまで仮初めの情けをかけた女に物を贈ってやったことはあった。だがここまで深い満足感を与えてくれた女はいなかった。
「ふむ。なかなか似合うな。選んだ甲斐があったというものだ」
王子はそう言って手ずから耳飾りをつけてやった。母王妃から、王子の妃になる女性にと贈られていた紅玉とラピスラズリを組み合わせた耳飾りがキャロルの桜貝のような耳朶で揺れた。
「よく映える」
王子は言ってからキャロルにだけ聞こえる声で付け加えた。
「邪魔な衣装がなければ、そなたの白い肌に紅玉が映える様がもっと美しかろう。今宵、私のために見せてみるように」
49
王子に伴われたキャロルは後宮の女達から挨拶を受けた。どの女も綺羅を競い、新しい王子妃を値踏みしていた。ヒッタイト王は息子には寛大であったから、王の寵姫であり王子の情人であった女も少なくなかったのだ。
最初に挨拶をしたのは後宮で王妃に次ぐ地位にある第一の寵姫デリアであった。豪華に装い、女王のような気品と踊り子のようなあだっぽい艶めかしさを併せ持った女性はまっすぐにキャロルを見つめた。
キャロルもまた臆せずにデリアの黒曜石の瞳を見つめかえした。
同じ男性を愛し、一人の女は男を人生をともにするかけがえのない夫として得た。もう一人の女は男を生涯最良の友として得た。得難い男性を手にした二人の女性。
キャロルの胸には王子とデリアがおそらくは深い仲であるのだろうという確信があった。自分が知らない絆が二人の間にはあるのだと聡明な彼女は分かっていた。
(でも・・・そのことについては私・・・何も言うまい。いくら夫婦でも探ってはいけないことはあるわ。それに・・・デリアは私に誠実だった。親切だった。何か探ればきっと私、大事なものを失ってしまうわ)
デリアもまた感無量でキャロルの青い瞳を見つめた。もし後宮で生きるのでなければ、もし同じ男性を愛したのでなければ、あるいはこの年下の少女と友達になっていたかもしれないという思いが胸を去来する。
(でもまぁ・・・この方になら王子を渡してもいい。私の愛した王子を・・・一番大事な友人を幸せにできるのはこの姫しかいないことくらい分かりますとも)
二人の女性は暖かな笑みを浮かべ、心を込めて挨拶を交わした。
窓の外の空の明るさ。ヒッタイトの王宮は幸せなざわめきに満ちていた。
終わり
長い話におつきあい下さいましてありがとうございました。くだくだしい話もこれで終わりです。
何かうっとおしくて嫌だと思われた方、ごめんなさい。
暖かいお言葉を下さった方、どうもありがとうございました。
タイトルの「いつか晴れた日に」はJ・オースティン原作「分別と多感」の映画化タイトルからです。
分別のある姉と感情的な妹がそれぞれの経験を通して成長して幸せになるというオハナシ。
大人のいい女デリアと子供っぽく可愛いキャロルのイメージは・・・全然伝わってない訳のわからんタイトルです。
ごめんなさい。
最後に。この話を書くきっかけをくださった原作者さま、本当にありがとうございました。原作者様の夢をぶちこわしていなければいいのですが。
次の作家様のご登場をお待ちしつつ・・・。
>「いつか晴れた日に」作家様
とうとう最終回なのですね。さみしゅうございます。
題の「いつか晴れた日に」がお話しとどんなふうに関係していくのか
ずっと気になってましたので、最後に丁寧な解説までいただき感激です。
これからますますの御活躍をお祈り&お願い申し上げます。
>原作者様
ナイスネタありがとう!
作家様、連載終わりなんですね(滝涙)。
毎日すっごく楽しみにしてました。ニヤリ王子と悶えキャロル(爆)だけでなく、デリアがすっごく良かったです。
あれほどの女性が何でヒッタイト王なんかで我慢しているのか?(笑)
>原作者さま
いいネタをありがとうございました。また素晴らしいネタで作家様を誘いだして下さい。
139作家様、140さま、141さま
原作者だなんて私には勿体無いです…
お礼を言いたいのは私のほうです。
「いつか晴れた日に」作家様、私が見たささやかな夢をこんなに素晴らしい作品に
仕上げてくださってありがとうございました。
今後更なるご活躍をお祈りいたします。
作家様にリクエストネタ提供だけでもありでしょうか?
私は久しぶりにメンフィス×キャロルネタが読みたいです〜。
>143さま
私もです〜!
コミックス13巻の初夜の続き・・なんていいなぁ。
妻の座もいいが友人というのも面白そうだ>デリア
ああ、最終回。
毎日楽しみにしてたのに。。。
他の作家様の降臨を熱望します。
>作家様:ネタリクエストです。
メンフィスを(またはイズミルを)振ってイズミル(かメンフィス)のもとに走るキャロル。
でも走られた相手はキャロルに無関心で、キャロルが必死にアタックを・・・っていうのを希望します。
原作者の夢の話を見たとき、またエロなだけの話が始まるのかと思った自分が恥ずかしい。
きちんとストーリーがあって、脇役もなかなかでお約束のエロも入れてある!
長かったけど続きが楽しみだった。長編でもいいからまた楽しめる話きぼーん。
「生への帰還」作家様、ご再臨をお待ちしております。
急に寂しくなってるね。
>148
そろそろこちらにいらしてほしいですよね。
前スレ961の「生への帰還13」は読まれましたか。
ラージヘテプ様の大人びた口のきき方にほれぼれしますよ〜
もう読んでたらスマソ。
よみがえれ〜!!
あの新作ラッシュの日々よ!
王子ファンです。王子ネタで書かせてください。(ぺこり)
1
「姫、疲れておらぬか?あまり無理をしてはならぬ。そなたは私の妃なのだから」
イズミル王子は拡げた書類の上にかがみ込むようにしているキャロルにそっと声をかけた。
「あ、王子。大丈夫よ。皆が手伝ってくれるから、私なんて楽なものよ。
・・・王妃様は奥向きのこと全部に目を配っておいでだったのよ」
「そうだな・・・」
イズミル王子はそう言いながら書類を脇にどかして、キャロルのうなじに顔を埋めた。顔には出さないが若者には疲労の色が濃く、キャロルは母親のように優しくその頭を撫でた。
ヒッタイトにこの人ありとうたわれた賢王妃の没後一年。追悼の儀式も一通り終わり、キャロルは亡き王妃に代わり奥向きの細々とした仕事を監督するようになっていた。
イズミル王子も、王妃の没後、急に覇気を失ったように見える父国王を助けてますます多忙な日々を送っていた。
でも、ただそれだけならばイズミル王子もここまで消耗することはなかっただろう。キャロルの雑務も桁外れに煩瑣になることもなかっただろう。本当にヒッタイト王妃が亡くなって、世継ぎの王子を取り巻く環境はがらりと変わってしまった。
「・・・姫、すまぬ。そなたに心配をかけてしまったか?私は大丈夫だ。そんな顔をされてはどうしていいか分からないではないか」
顔をあげた王子は、キャロルに接吻すると軽々と抱き上げ寝台へと運んでいった。
(王子、あなたはそうやって平気なふりをする。何もできない私が口惜しい)
キャロルはただ王子の屈託には気付かない振りをして、ささくれた心を癒してくれる暖かさを求める若者に自分の全てを与えることしかできなかった。
(王子、あなたが少しでも安らぐなら私、あなたが求めるこのを全て与えたいの。あなたが望むなら・・・)
2
ヒッタイト王妃の病没後一年。ヒッタイト王は魂を抜かれたような状態だった。王妃は王の最愛の妻であり、あの傲慢な王が唯一尊敬するヒッタイトの国母であり、信頼できる参謀であり、同志・相談者だった。
戦巧者であり、外交・内政においてもなかなか巧みな統治者であったヒッタイト王の唯一の弱点もこの王妃が上手く庇い、王は名君として怖れられていた。
だが王妃が亡くなり、弱点を庇い、王の不名誉を種火の内に消し止めてくれた女人がいなくなると、心弱くなっていた国王の心は一気に暴走した。
すなわち女癖の悪さである。
英雄色を好む、を地でいくようなこの王の元にはあちこちから美女が集められていた。王の後宮はヒッタイト史上最大級と言われ、あまたの美女が王の心を得んと日夜しのぎを削っていた。王の愛顧を得ようとする女達の暗闘、陰謀、念願の王の子を産み得た女達の野望。
そんなものが渦巻く後宮が、ぴしりと統制されていたのは偏に賢い王妃の手腕によるものだった。寵姫・側室がその分を越えることがないように、庶子を産んだ女が時期王位を狙ったりせぬように、幼い庶子が陰謀の道具にされることがないように、王妃は心配った。
全くその手腕は見事なもので、浮気性でともすれば女にだらしなくなりがちだったヒッタイト王も全くこの美しく頭の良い王妃には頭が上がらなかった。後宮の女達も王妃を畏れ敬い、分不相応な振る舞いをする不埒な女もいなかった。
だがそれもみな過去の話だ。王妃を亡くし、落胆した王を絡め取ったのはキプロスから献上された美姫サフィエであった。イズミル王子とさして年の変わらぬサフィエは王を籠絡し、その寵を専らにした。
そして今。彼女は王の子を身籠もっており・・・イズミル王子を差し置いてお腹の中の我が子を王とする野望に取り付かれている。
3
冷静沈着、文武両道、稀にみる優れた若者・・・と様々に称えられる王子イズミル
も後宮の女が企んだ陰謀に気付くのは少々遅すぎた。
調査旅行よ、政務よ、視察よ、との多忙さが重なったせいかもしれない。
女が、後宮に献納されるような女ごときに何ができるかと侮っていたせいかもしれ
ない。自分の正妃キャロルが陰謀や卑劣な策謀と無縁の女であったので、女とはそ
ういうものよと安心していたせいかもしれない。
長い孤独の日々の後やっと得た王子妃キャロルとの幸せな日々に心傲っていたせい
かもしれない。
いずれにせよ、王子が父国王の後宮での不穏な動きに気付いたときにはもう、サフィエ
は4ヶ月の身重であり、その周囲にサフィア派とでもいうべき一派を作り上げ国王を
すっかり籠絡してしまっていた。
王妃が生きていた頃は身籠もった女がいれば、すぐに子供の行く末は決められた。
産まれたのが王女であれば、後宮で育ていつかしかるべき所に降嫁する。格式の高
い神殿の最高巫女になる。王子であれば、早々に信頼できる傅育官の家に預け、
軍人や地方執政官になる教育を受けるか、神官になる準備をする。
つまり、ヒッタイト王の正妃である王妃が産んだイズミル王子の地位は決して脅か
されることはなかったのである。故・王妃の心配りはまさにこの一点に集中されて
いたと言ってよいだろう。自分の子を万人に仰がれる名君に育て上げ、いつか王位
に就けること・・・。ヒッタイト王にも否があるわけがなかった。王もまた、多く
の庶子を蹴散らして今の地位を得たのだから。
しかしサフィエは。
身籠もったのとほぼ同時に「未来の王の生母」たらんという野望に目覚めた。生ま
れるのは男でも女でもいい。ヒッタイトは女でも王位に就けるのだ。
「国王様、どうか生まれてくるあなた様の御子を護ってやって下さいませ」
若い母親の願い事は、徐々に野望の色を濃くして王の理性を曇らせるのだった。
きゃ〜!!!待ちに待った新作・・・。
うれしゅうございます。
前スレ
>>961からです。
遅筆で申し訳ありません。
天幕の中に入ったイアンは少し戸惑った。いかにもという感じの高級軍人がホルス将軍以外に複数いる。
確かに敵国の王子を捕虜にしたのだ。交渉の手段として使うなら首都から高級官僚なり軍人が来ておかしくないだろう。
だがそんな段階で何故自分がよばれるのか?よほど怪訝な顔をして立ち止まっていたらしい。ホルス将軍が目で奥にはいるよう促した。
「イアン・ムスタファ・ガマルお呼びにより帰還しました。」
末席で会議を傍聴するのだが高級軍人ばかりの会話でひどく居心地が悪い。
イズミル王子についての処遇は一応交渉が済むまでは特別待遇の捕虜であるようだ。結果次第によっては処刑ということで話がまとまりそうになったとき一番の上座にいたミヌーエとかいう将軍が気まぐれにだろうがイアンに意見を促した。
他の上位軍人達に値踏みされているのを感じながらこちらの陣営で暗殺される可能性があるだろうから隔離と慎重な人選をしたうえでの護衛の必要性があるだろうと述べてみる。
反応を見ながらどうやら意見ではなく声を聞くのが目的だったのではないかと推測する。
中央から来た彼らは天幕に入ったとき自分の顔を品定めではない視線で観察していた。かって自分の「指揮下」にあった兵士達がおらず、手柄を立てれそうな部隊を選んで自分が死ぬことなぞ考えもせずにもぐりこんだ。
体格も(特に左目がつぶれている分)顔も大分変わったはずだ。
彼らの名前と顔を知っているということを表情には出してないはずだ。今更自分の王から与えられた名前と身分など意味が無い。
利用できるものはすべて利用するが二度とあの名前で権力争いに参加する気は無い。唯一人の人を救えればこの国にはおさらばだ。
その夜自分の天幕に戻った彼の幼い呟きを聞いたものはいなかった。
「母さん・・・。キャロル。」
そういえば、イズミル=アイシスっていう物語を読んだ事あるな?あれ最後らへんまで
未完成だったけど結構面白かった。
>生への帰還
待ってました!
待ってた甲斐がありました。
続きが楽しみです。イアンて父親似なんでしょうか。
そして親父はいったい何をしているんだろうか。
気になります。
>158
親父は「10」でラージヘテプ様の出生を中傷したカーフラを叱責したり
「11」でネバメンの陰謀により「王は神々の不興をかっている」と噂を
流されたりしています。今回はおそらく息子を探させるため、ミヌーエを
送り込んだものと思われます。(作家様、違ってたらスマソです)
>生への帰還作家様
お待ちしておりました。おかえりなさいませっっ!
続きが楽しみです。メンフィスとキャロル、そしてイアン親子揃って幸せになってほしいです。
>お家騒動作家様
いきなりきな臭い設定・・・。ヒッタイト王は女に溺れて自分より良くできた息子を嫌うようになるんでしょうか?
王子が賢いのはぜーんぶ母親の血なんですね(笑)。
>>154 4
サフィエは夜毎日毎、王に囁いた。
「私が産み参らせる御子をお守り下さい。男でも女でも私の手許で手ずから育てることをお許し下さい。国王様の膝下で育つ幸せを我が子に与えてやりたいのです」
「イズミル王子様が・・・私のことを疎んじておいでのようです。私、あの方が恐ろしいのです。うまくは言えないけれど。どうかこの不安を除いて下さいませ。あの方の異母弟妹を産む私を嫌っておいでなのかしら?」
「生まれてくる子がずっと国王様のお側にいられるようにしてください。すでにお世継ぎがおいでだからって、後から生まれた子がどうして差別されねばなりませんの?同じ王の御子なのに」
王は初めこそサフィエの繰り言を聞き流していた。どのみち子が小さい内は手許に置くのも一興だと思っていたことだし。
だがサフィエの言葉は徐々にその毒を増していった。
「国王様を補佐まいらせるイズミル王子様は最近、変わられました。私をことさらに軽く扱おうとなさるのです。私への侮辱は国王様への侮辱です」
「イズミル様は慢心しておいでなのではありませぬか?何だかそのような言動が目に付きますわ。共同統治者だからって・・・国王様の一臣下にすぎませんのよ」
サフィエとの遊蕩の日々に溺れ、政治への情熱も失せ、怠惰に過ごすのが常になってきていた王の内に疑惑が芽生えはじめた。
小さな疑惑はじき確信に近い警戒心になった。サフィエと彼女を担ぐ大臣の一派はイズミル排斥を目指していたのだ。念の入ったことにサフィエはヒッタイト王に特別な薬酒を常用させていた。
遠い東洋の国からもたらされた粉薬。赤い花からとれるという真白の粉。キャロルならそれを阿片と呼んだだろう。王は徐々に正気を失っていった。
5
イズミル王子がこの状況の中でただ手をこまねいていたわけがない。彼は今まで以上に政務に精励し、大帝国の安定をはかった。サフィエ派の牽制、いまだ王子に心寄せる臣下の一層の結束。
(何故、今まで気付かなかったのだ。今の私があるのは全て母上のお心遣いの賜物だったのだ。それを・・・我一人の手柄のように思い心傲りしていた。ざまはないな。
いまはただ、王国の安定をはからねばならぬ。私の地位を守ることはすなわち、王国の民を無用の混乱から護ることだ。内乱を引き起こし、外国につけこまれることだけは避けねば・・・!)
そして王子は何よりも大切な物を護らねばならなかった。キャロルである。王子はキャロルを愛したことで自分が大きな弱点を抱え込んだことを自覚していた。
王子に打撃を与え、潰そうと謀る者は正面から斬りこんでくるとは思えない。むしろ、搦め手から・・・抵抗できないキャロルを狙い、かけがえのない王子の宝を滅茶苦茶にする可能性が高いようにも思えるのだ。
王子はキャロルの警護を一層厳しくした。召使いは信用のおける者だけにし、外に出るときは必ず王子が同行できる時に限った。
「姫、窮屈であろうが我慢いたせ。そもそも高貴な女人はあちこち身軽に歩き回ったりはせぬのだ。淑やかに居間に座り、ひなが一日、私だけを恋い焦がれてみぬか?恋歌の女のように」
王子は冗談めかしてキャロルに言い聞かせた。
「何、ずっと籠もっておれとは言わぬ。良い子で居れば私がまた外に連れていってやろう」
王子は優しくキャロルの髪を撫でた。
6
「王子ったら・・・」
キャロルは微笑もうと思った。わざとおどけて子供のように口を尖らせて王子に口
答えしようと思った。
でも涙がこぼれてうまくいかない。
キャロルは知っていた。今の王子が置かれた難しい立場を。王妃亡き後、後宮第一
の地位にある彼女はサフィエが未来の王の生母を目指して不気味に蠢動しているこ
とを。
「ごめんなさい・・・私、サフィエを・・・押さえられない・・・」
堪えきれずに零れる大粒の涙。
優しい、キャロルだけに与えられる包み込むような笑みを浮かべて、王子はキャロル
の涙を口づけで拭ってやった。
「ふ・・・。そなたは何も悪くない。全ては私の不明だ。泣いてくれるな、そなたが
泣くと私はどうしてよいか分からぬ」
王子はキャロルの背を撫でて落ち着くまで辛抱強く待ってやった。すすり泣きの声
が低くなったのを見計らって王子は語りだした。表宮殿のことは―政治・経済・
外交など―ある程度、キャロルに語り相談もしてきた王子だが、今日のようにもっと
深い陰謀のような政治の暗部について語るのは初めてだった。
「姫、残念なことだが父上は母上亡き後、変わられた。母上の死と入れ違いのよう
に現れたサフィエがお腹の子を盾に、父上に取り入り・・・私のことを・・・まぁ、
讒言したわけだ。
今の私の立場は非常に難しい。いつ濡れ衣を着せられ、追い落とされるか分からぬ
よ」
「そんな・・・そんな・・・今までの王子の功績はどうなるの?国王様はあなたの
実の父親でしょうっ?」
「ふふ、私とて油断はしておらぬ。今一番、恐ろしいのは私とサフィエの対立から
内乱が起こり、民草が苦しむことだ」
7
王子は長い長い時間をかけて、これまでのいきさつと未然に防がれたサフィエとその一派の陰謀を明らかにした。淡々と話すその口調に、隠された激しい怒りを感じ、キャロルは鳥肌立った。
「つまりサフィエは私が邪魔なのだ。あの女は自分の子をヒッタイトの王なり女王なりにしたいのだな。
父上は正気を無くされつつある。あの女の傀儡になられるのも時間の問題。しかし今!正面から斬りこんで国家の病根を絶つには、サフィエの影響力はあまりに国の深部に食い込んでいる。今は時期ではないのだ」
キャロルはしばらく無言で王子の顔を見つめていた。
「では・・・では私たちはどうすればいいの?これ以上、事態が悪くならないように、無用の流血を避けるために私たちは何をすればいいの?
私は・・・王子を助けてあげることはできないの?」
「・・・ありがとう」
王子はそっと妃の頬を撫でた。この女はいつも優しい。いつも強い。決して裏切らず、一途に信じ、ついてきてくれる。これ以上、何を望む?最高の味方。
「私はしばらくハットウシャを離れようと思う。ここにいても泥沼のような権力争いに絡め取られ動きがとれなくなるばかりだ。私の存在自体が敵と・・・父上の神経を逆なでし、彼らの悪意と疑念は私の理性を曇らせ、状況は悪化するばかりだろう。
私は共同統治者となる以前はカネシュの執政官であった。かの地は私と縁も深い。カネシュでしばし大人しく時勢を見ようと思うのだ。ま・・・自主的な謹慎かな」
王子の決意のほどはキャロルにもすぐ知れた。
(王子は行ってしまう。だって王子は私だけのただの人じゃないもの。ヒッタイトの世継ぎだもの。私は一人で・・・いつ王子が帰っても良いようにここを守らなきゃ・・・!)
キャロルの頬を大粒の涙が伝う。
「泣くなと申すに。カネシュにはそなたも同行せよ。そなたを守ってやれるのは私しかおらぬ」
1
満月の明かりが深く差し込む寝室。ファラオ夫妻のために特に豪華に設えられたその部屋でキャロルは深い吐息をついた。
カーフラ王女のせいだ。これ見よがしにメンフィスに媚態を振りまく王女。キャロルを蔑ろにし、メンフィスを独占する態度に穏和なキャロルも煮えくり返っていた。
王女が国賓であるせいだろうか?メンフィスも王女の好きにさせているように思える。今夜だって、王女をもてなす内宴からまだ戻らないではないか。普通ならファラオ夫妻は一緒に退出するのに、王女の我が儘でその典礼も破られてしまった。
キャロルを先に下がらせたのはメンフィスの思いやりなのだけれども。
(メンフィスを・・・・・誰にも渡したくない。メンフィスが私以外の人を見つめるのはイヤ。メンフィスに・・・・私だけを焼き付けたい。今まで以上に、私だけを!)
キャロルは部屋中の灯火を明るく大きくした。真夜中過ぎの満月の冷たい冴えた光と、灯火の暖かい光は、寝室に不思議な陰影に満ちた明るさを与えた。
寝所に飾られた花が高く薫る。
(メンフィスが私しか見えなくなるようにしたい)
先ほどの宴で少し嗜んだ酒のせいだろうか。嫉妬に悶えるキャロルは、いつもの慎みをかなぐり捨て、紗を脱ぎ捨てると寝台に横たわった。
2
メンフィスの足音が聞こえた。キャロルは背筋がぞくぞくするのを覚えた。
(今夜は・・・私がメンフィスを欲しい・・・!)
寝室に入ってきたメンフィスはまず室内の明るさに驚いた。そして視線が寝台の上に来た途端、若者は驚きで目を丸くて息を呑んだ。
メンフィスの方を向いて身体を横たえたキャロルは恥ずかしそうに、腰を捻り下腹部を隠すようにしていた。金色の髪は滝のように白い身体を覆い、その下に隠された美しい隆起を予感させた。
「・・・・・待っていたの・・・・・」
「そのような・・・。身体が冷えたのではないか?」
かすれた声でメンフィスは言うと、夜着を脱ぎ捨て大股で近づいてきた。メンフィスはいきなりキャロルに覆い被さると、貪るような接吻を与えた。
「髪の毛が邪魔で・・・そなたが見えぬ」
「あ・・・・待って。その前に・・・・・あなたが見たいの」
メンフィスはうめき声を上げて寝台に引き倒されるままにされた。
キャロルはメンフィスに覆い被さるようにして、明るい光に照らされた夫の彫刻のような体にじっくりと視線を這わせた。優雅な力強さを秘めた首筋、力強い腕、広く逞しい胸。筋肉の陰影も美しい腹部、均整のとれた脚の線。
わざと視線を外していた場所にも、やがてキャロルは容赦なく視線を浴びせた。黒々とした茂み、そこから隆々と立ち上がる力強い欲望。キャロルが視線を動かしただけで、それはいきり立った。
「キ、キャロル・・・」
「まだ・・・・まだよ。もっと見たい」
3
キャロルはメンフィスの形の良い唇に接吻した。
「あなたが・・・・好き」
唇をつけたままキャロルが囁くとメンフィスはびくっと体を震わせた。
キャロルは足元に移動すると、ゆっくりと熱い吐息を吹きかけながら、琥珀色のメンフィスの肌に口づけていった。足指、体毛の薄い脚、腰。
メンフィスのうめき声がキャロルの身体をも熱くした。触れられても居ない乳嘴が痛いほどに強ばり、身体の芯は熱く疼いた。
キャロルの唇はメンフィスの脇腹を通り、一瞬の戯れのように勃ちあがった欲望に息だけを吹きかけ、鍛え上げられた腹筋をなぞった。小さな小さな胸の突起に口づければ、メンフィスの体は思わずといったように痙攣した。指先でそこに触れながら、うなじに耳朶に唇を這わせる。
「キャロル・・・・・ああ・・・・ああ・・・・」
メンフィスの悩ましい声はキャロルの唇に吸い込まれた。
「そなたが欲しい、すぐにだ」
でもキャロルはまだまだ満ち足りなかった。いつもメンフィスがそうしてくれるように、彼女がメンフィスに愛の極限を与え、悦びで我を忘れさせたかった。
「だめよ。もっとあなたを確かめたいの」
「・・・・・・好きにいたせ」
メンフィスはかすれた声で言った。
キャロルは再び、メンフィスに覆い被さり接吻の雨を降らせた。耳朶を甘く噛めばメンフィスの熱い吐息がキャロルにかかった。
それからあらゆる場所に舌を這わせる。喉元に。鎖骨の窪みに。乳嘴に。メンフィスはキャロルの臀部を揉みしだこうとしたが、彼女はそれには構わず移動していった。
荒々しく勃ちあがったそれに一瞬ためらった。でもメンフィスの手が促すように彼女の頭を掴んだので自分からそっと口に含んだ。不器用に舌を動かせば、メンフィスが彼女の喉を衝く。キャロルが初めて耳にする男の苦しげな喘ぎ声。キャロルはメンフィスに合わせて動いた。
やがてメンフィスは情熱のたぎりをキャロルの中に解き放った。キャロルは極上の美酒ででもあるかのようにそれを飲み干したのだった。
4
苦しげに眉根を寄せ、荒く息をするメンフィスを見てキャロルはかつてない高揚感に包まれた。
やがて目を開けたメンフィスはキャロルの頬に触れながら言った。
「キャロル・・・・・。今のことは全て・・・現(うつつ)であったのか?それとも・・・・」
「夢などではありませんとも」
キャロルはそう言うとメンフィスの首筋に舌を這わせた。指は胸の突起を弄ぶ。
「もっともっと・・・・あなたを知りたいわ」
たまらずにメンフィスがうつ伏せるとキャロルは背筋に唇を這わせた。腰の窪み、固い双丘の
谷間、膝の後ろの窪み・・・・・。キャロルがちらちらと舌で味わう度にメンフィスはびくっと
体を震わせた。
キャロルが促してメンフィスを再び仰向けにすると、メンフィスは再び完全に力を取り戻していた。
キャロルはわざと焦らすように滑らかな琥珀色の肌に頬ずりした。ぎゅっと身体をすり寄せ、固く
なった乳嘴のうずきを宥めてみる。脚の間をとろりとしたものが流れ落ちるのを感じた。
メンフィスは肘をついて上体を起こすと、期待を込めた目でキャロルを見つめた。
キャロルはさも愛おしげにメンフィスを口に含み、先ほどとは比べものにならない丁寧さで慰めた。
(メンフィスは私だけのもの。私だけの愛しい人。こんなことができるのは私だけ)
メンフィスの恍惚の極みを飲み干した後もなお、愛しげにキャロルはそれを味わい、やがて名残惜し
げに離れた。
「・・・・キャロ・・・ル・・・・」
メンフィスはかすれ声で囁いた。妻を抱き寄せようとする腕はすっかり力を失い、やがてメンフィスは
目をしばたく努力も捨て、瞼を閉じた。
(私は、私の愛とメンフィスが私に教えてくれたことで作り出せる限りの快楽をメンフィスに与えることが
できたんだわ。こんなことができるのは私だけ。メンフィス、私だけの愛しい人)
5
メンフィスの傍らでキャロルがうつらうつらしだした時、唐突にメンフィスが体を起こした。
「眠ることは許さぬぞ。散々、私を翻弄しおって。もう否とは言わせぬ」
眠りの淵から急に引き上げられたキャロルは喜んでメンフィスに従った。
先ほどの例に従って、メンフィスの手指と舌は、白い身体のあらゆる場所を探り、味わった。
胸の双丘の頂の突起を舐め、甘く囓りながらメンフィスの手はキャロルの脚の間の小さな突起をなぶった。キャロルは身体を弓なりに反らし、甘く呻いた。
唐突にメンフィスの唇がキャロルの熱い亀裂に移動した。舌は馴れ馴れしく亀裂を割り開き、悦びの突起に優しく押し当てられた。
キャロルを強い力で押さえつけ、メンフィスはその身体を弄んだ。突起は倍以上に膨らんで震えた。メンフィスの舌は蜜壷にまで入り込んで中身を啜った。
キャロルはすすり泣いて身を捩ったがメンフィスは復讐でもするかのように執拗だった。
やがて夜空が白々と明るくなる頃、メンフィスはキャロルに押し入ってきた。キャロルは我を忘れてメンフィスの動きに合わせた。
やがてメンフィスは獣じみたうめき声と共にキャロルの中に自分を解放した。
それと殆ど同時にキャロルは意識を手放した。
次の日。
メンフィスは片時もキャロルを側から離さなかった。威厳あるファラオの顔を保ちながらもメンフィスの脳裏からは昨夜の光景が片時も離れなかった。
無垢な少女のような顔をしたキャロルの中にあんな一面があったとは!
慎ましく優雅な身のこなしで朝食の席に現れたキャロルに、メンフィスはそれとなく昨夜のことに触れた。だがキャロルは真っ赤になって恥じらった。
その可憐な様子がどれほどメンフィスを喜ばせたか。キャロルの目論みにまんまとはまったことにも気付かずに、メンフィスはひたすら夜を待ちわびるのだった。
終
久しぶりに見に来てみたら新作がざくざく〜。
>生への帰還作家様
お戻りをお待ちしてました。父親と息子の和解できるのか?キャロルの運命は?続きが待ち遠しいです。
>ヒッタイトお家騒動編作家様
いきなり不幸なイズミル王子。まさかとは思うけれど悲劇オチだけは嫌ですー。王子を幸せにしてやってください。
>魅惑の宵作家様
メンフィス×キャロルの正当派カップリングに超目新しい切り口。もう感謝感激の滝涙でごじゃりまする。
ああっ、キャロルになりたひっ!!!
久しぶりに主人公カプールのオハナシ。
二人の名前部分をお好みの人物の名前に置き換えれば、ぐるぐる系の話がいくつでも〜。
新しいスレに移ってからキャロルの性格も多様化しましたなぁ・・・。
先別のところでかいたけどイズミルXアイシスっていうネタ有るけどここで披露していい?
っていうか私のじゃあないけど。結構暗いはなしなんだけどね。
お家騒動マンセー
イズミル王子もエエけどイルハン王子もエエね
>>164 8
ヒッタイト王は、世継ぎのカネシュ行きをあっさりと許可した。もともとカネシュは王家の直轄領である。定期的に王族が巡察する必要がある。それに豊かなカネシュ領をサフィエが生まれてくる我が子のためにねだったというのも大きかった。
「ふうっ、空が大きいな。どうだ、姫。久しぶりの外は」
馬上の王子はどこまでも広がる無窮の青空を見上げて晴れ晴れと言った。背後に見えるハットウシャの城壁も今はもう小さい。
王子の馬に同乗するキャロルはにっこり微笑んだ。鬱屈していた王子の心が解放されていく喜びがその胸に伝わる。
(良かったわ・・・。カネシュに発つときは何だか不安で落ち着かない気がしたけれど、杞憂だったのね、きっと。馴染みあるカネシュの土地で王子はすっかり元気になるわ。私もできるだけ王子の力になりたい・・・)
そのキャロルの喜びがまた王子を安心させ、喜ばせた。王子を気遣ってか最近のキャロルは元気がなく萎れていた。
王子の胸中には、出発の挨拶をしにいった折りの父王の顔が去来する。
弛緩しきった初老の男。それがヒッタイト王だった。目の周りには隈ができ、しなびた手は側に侍らせたサフィエをさぐっている。
(父上は変わられた・・・。私がもっとサフィエの動きに早く気付いていればここまで父上は心弱りされなかったのであろうか)
息子の感傷を、だがヒッタイト王はあっさりとうち砕いた。酔眼で息子を見やり、王は傲慢な口調でカネシュへの出発と勤務精励を命じた。カネシュはじき生まれるサフィエの子の領地となるのだからと。
格式高いカネシュ領が一庶子のものとされる・・・!代々の世継ぎの監督領であったのに!青ざめるイズミル王子。驕慢に微笑むサフィエ。
(・・・父上は・・・私の知る強大な父上はもうおられぬ。私がしっかりせねば。私がしっかりせねばヒッタイトは滅びる!)
イズミル王子はカネシュに続く空を見上げた。自分は逃げるのではない。カネシュで時期を待ち、王者として都に君臨する日のためにハットウシャを離れるのだ、と胸に呟きながら。
9
カネシュでの日々は穏やかに流れていった。
かつてこの地の執政官であったイズミル王子には人望があり、自ずと人々は公明正大な為政者である王子の許に集うようになった。
そしてイズミルの妃であるキャロルも人々から暖かく迎え入れられた。
(皆が私を大切にしてくれるのは、私が王子の妃だからだわ。皆が王子を尊敬するが故に私のことも慕ってくれる。ありがたいこと)
キャロルはこんなふうに思っていたが、厳正・公正さゆえに畏れられ、尊敬される王子の側に、優しく暖かなキャロルがいるだけで皆
は安らぐような気がするのだった。彼女は王子を助けて人々の暮らしに目を配り、困っている人々には自分の倉庫から施しをするだけ
の度量もあった。
王子もキャロルも不必要に目立つような真似は慎重に避けていた。ハットウシャから付き従ってきた人々の中にはサフィエ派の息のか
かった者もいた。彼らは独自の報告をハットウシャに送っていた。
だが彼らも、下手に王子を陥れるような讒言はできなかった。王子の振るまいが申し分ないものであるのは無論のこと、彼らの同行者
―王子に心寄せる人々―の無言の牽制が頸城(くびき)となったのだ。
サフィエが寵姫としてにわかに台頭してきたとはいえ、長年、人々の尊敬を一身に受けてきた世継ぎの王子の権威は生半可なことでは
崩れない。
王子と、王子を快く思わない人々は相互に監視しながら日々を過ごしているようなものだ。
10
とはいえ、王子とキャロルの時間は久しぶりに穏やかに流れていっていた。
政務が終われば二人は僅かばかりの従者と共にあちこちに出かけた。それは市井の雑踏であったり、
郊外の森であったりした。森の中には小さな滝と泉があった。二人は人払いをして清涼な水と戯れた。
「ハットウシャを離れてもう・・・3ヶ月になるか」
浅い滝壺で、逞しい背中を水に打たせながら王子は呟いた。口には出さなかったが、そろそろ次の決断を
下さねばならない時が迫ってきているのだ。
すなわち、サフィエの出産。国王はサフィエに溺れ、最近は政務も大宰相に任せきりだという。大宰相が
王子の師であり、また王子派の筆頭大貴族だというのが今はありがたい限りだ。
「王子・・・」
浅い泉でゆっくりと身体を伸ばしていたキャロルがそっと起きあがり、厳しく強ばった王子の頬に優しく触れた。
二人きりの気安さで何も纏っていないキャロルは日差しの中で水の精のようにも見える。
「次が・・・始まるのね」
キャロルも愚かではない。このカネシュでの平和が仮初めのものだと弁えている。ハットウシャに残してきた
女官は定期的にキャロルに奥向きでの事柄を報告してきていた。
サフィエは後宮での実権を握るつもりでいるが、どう考えても実務向きの頭の持ち主ではないのでヘマを繰り返し、
人々の失笑を買っていること。サフィエのヒステリックで強権的なやり方で傷つく者が多いことなど・・・。
だが彼女は王の権威を嵩に着ているので、女官ごときには手出しができない。
「そうだ・・・。じき王の新しい子が生まれるであろう。それまでに我らはまたハットウシャに戻る。
だが案ずるな。私がそなたを守ってやる。そなたはずっと私の側に控えておれ」
浅い泉の中でキャロルを慈しみながら王子は囁いた。キャロルは飛沫に涙を紛らわせながら王子に縋った。
そして。
カネシュの宮殿に帰った二人を待っていたのは王の使いだった。
「王子妃様には至急にハットウシャにお戻り下さいますよう」
続く
>お家騒動編作家様
キャロルは王子と引き離されるんですか?帰る先にはアブナイおっさんと化した王子の親父が・・・。
気になりまする。
>千尋さま
他の作家様の作品を無断でアップされるのはおやめになったほうがよいかと・・・。
老婆心ながら、ですが。オリジナルをお願いしてはだめですか?
>魅惑の宵作家さま
ををっ、新しい!新しすぎですっ!!!我らがメンフィス様が〜!!!
キャロルにこんな面があったのかと仰け反ったのはメンフィス様だけではありませぬ。
ワタシハ コーイウノ ケッコウ スキダ(恥じ入り)
>魅惑の宵作家様
すばらしい! も、もう一話所望させていただいても宜しゅうございますか?
キャロルとメンフィス様の愛の日々をおぉ〜!!!
メンフィス様、昼夜お構いなしに、キャロルを愛してやってくださいましッ〜!!
>魅惑の宵作家さま
ええ、あなたについていきますとも。
>魅惑の宵作家様
是非私もお供の一人にしてくださいまし。
生への帰還作家様ー、続きをおながいいたします。
お家騒動作家様ー、こりはひょっとして悲劇なんですか?
ああー、続き〜。
>魅惑の宵作家様
★アクマの提案でごじゃります。
メンフィス様は別に夜まで待たなくても良いと思います。だってファラオなんだも。
カーフラのお色気体当たり作戦に切れたキャロルが昼間からメンフィスを寝室に誘うというものいいかもです。
>>156 人払いされた天幕の中ではミヌーエ、ウナス、ホルスの3将軍が密会を続けていた。一番の年長者であるホルス将軍が半ば確認で問うた。
「やはりあの少年はラージへテプ王子であろうか?」
ウナスはイズミル王子の処分に関する協議の間殺していた感情をあふれさせていた。
ウナスは遠征の際付いていかなかったことを後悔していた。
後方からの補給に信用できる人間をつけたいといって自分をおいて行った。遠征の成功と王子の戦死の報。
遺体は見つからなかったが暗殺者と戦っての死であり、ひそやかに囁かれる噂では首班はネバメン派の貴族と神殿勢力らしい。おそらくそれは事実であろう。
「間違いないでしょう。あの顔立ちは紛れも無く王の血筋だ。・・・・・生きておられた。」
ホルス将軍は難しい顔になった。
「『王弟』ネバメンに対抗するには確たる証が必要だ。それに今のあのお方は自分の『正体』を流布されたらまた姿を消しかねない。」
「どういうことです?」
ミヌーエが質問の形で促した。
「軍功と自称の出自の割にはありすぎる教養のおかげでたいそうな二つ名を付けられ、大家の庶子ではないかとの噂が流れたとき最初に言い出した兵士に盛大に文句を言っていた。それまで目にしたことの無い子供っぽさだったが
『そんな言いをされたら敵には必要以上に目を付けられる貴種であるなどといわれるのは迷惑だ。
お前らの分の苦労まで自分達が引き受ける気は無い』とまで言った。
首都に赴任させるなら相当に理論だてた理由が必要だ。」
ミヌーエは少し考えていった。
「ではイズミル王子の一件を使いましょう。彼は下エジプトのここから一番近いノモス(州都)に移動後、交渉が決裂したら首都で処刑する。そう決定しておけばまずノモスまで先程の提案を理由に護送を命じる形で連れ戻すことが出来ます。」
>160・170様
悲劇になりそうです。
>お家騒動作家様
とにかくお預けが苦しゅうございます。
ご光臨お待ちしておりまする。
>>176 11
「行ってはならぬっ!そなたは我が妃ではないか?どうして私と離れることを許すことができよう?」
イズミル王子は人払いした居間でキャロルの肩を掴み揺さぶった。キャロルは先ほどの使者の要請に諾の返事を与えたのだ。王子の許しも得ずに。
「姫っ、何か申せ!何故、黙っている?私に詫びよ、勝手な真似をしたことを!私は赦さぬぞ」
キャロルは切なさと、果てしない優しさの混ざった目で見つめて黙って首を振った。
「いいえ、王子。私はハットウシャに行きます。王の・・・命令に従います。行かなくてはならないの」
「姫っ!」
「分かっているでしょう?王子。逆らうことは許されないの。逆らうことは・・・王子の破滅を招くわ。覚悟はしていました。王子不在の間にも不安と疑念を募らせた王が何かをすることを」
王子はだらりと手を下げた。自分の無力がこの時ほど恨めしかったことはなかった。サフィエにたきつけられた王は、王子がカネシュの土地で力をつけ、王位簒奪を企てはしないかと恐れた。そして王子がもっとも大切にしている妃キャロルを人質に求めたのだ。
王の使者は露骨にキャロルを人質に差し出すことを求めたのではない。ただ出産間際のサフィエのいる後宮をきちんと差配してくれる女性が欲しいこと、サフィエが神の娘キャロルに側にいて欲しがっていることだけを求めてきた。
全ては見え透いた嘘だ。王子の放った密偵の報告は、人質を取らねば安心できなくなるまでに疑心暗鬼を募らせた病的な王の有様を告げていた。
「王子。お願い。私をハットウシャに行かせてください。・・・私は大丈夫よ。あなたが帰ってきてくれるのをずっと待っています。あなたのこと、毎日、神様に祈って待っています。
あなたのためにできることが私にもあって・・・私、嬉しいの。ね、私を行かせてください」
「ひ・・・め・・・」
王子はキャロルを抱きしめた。その声は嗚咽に震え、逞しい胸は無念の思いに波立っていた。
自主謹慎のようなかたちでカネシュにいる今の王子はあまりに無力だった。
12
「許せ・・・許せよ。そなたに、私が守ってやらねばならぬそなたにそこまで言わせる不甲斐ない男の私を。
ああっ、何故サフィエの台頭を許したのだ。私が至らなかったせいで・・・そなたを苦しめ、我がヒッタイト
の誇る父上の身の上まで汚すことになるとは!奸臣どもの謀略にがんじがらめになり自由に動けぬとは!」
王子の怒りの激しさ、悲しみ、口惜しさがキャロルを圧倒する。王子はそのまましばらくキャロルを抱きしめ、
激情に身を震わせていた。
愛しい愛しい娘を敵地に行かさねばならないのだ。さもなければ狂った王は、世継ぎたる自分の息子に戦をしか
け、その結果、多くの人々が傷つき、また諸外国がヒッタイトに干渉する絶好の機会を与えることになるだろう。
王子はキャロルを愛する一人の男としての立場を捨て、国を預かる王族としての判断を優先させねばならない。
キャロルに出会う以前の王子であれば、私情など何のためらいもなく捨てたであろう。だが今は・・・!
「王子・・・」
抱きしめられていたキャロルはそっと顔を上げると憔悴しきった王子を優しく自分の胸に抱き寄せた。柔らか
く暖かな胸は母の限りない優しさと労りで王子を包み込む。
「大丈夫。大丈夫よ、王子。何の心配もないわ。そんなに自分を責めないで。私は大丈夫。本当よ。
ハットウシャには気心の知れた人たちがたくさんいます。きっと皆が力になってくれるわ。何よりも私
には王子、あなたがいてくれるわ。あなたが元気でいてくれるということだけで私はこの上ない力を与えられるのよ。
ね・・・私を行かせて。そして・・・そして迎えに来て。私、待っているから」
王子は顔をあげ、万感の思いを込めてこの優しく強い女に接吻した。
「約束する・・・約束する!私がそなたを迎えに行く。そなたを助け出してやる。そなたは何も怖れるな。
たとえ・・・離ればなれであろうとも私の心は常に側にあり、そなたを守る!」
続く
>生への帰還作家さま
やっぱり悲劇ですか?個人的にはどこか救いのある話が好きです。
個人的にどーだこーだなんて作家様には言っちゃいけないんですがでも救いのない暗いオチは〜。
メンフィスにもキャロルにもラージヘテプにもそれぞれの幸せと癒しがあたえられますよーに。
>お家騒動作家様
悲劇はいやだよーと思いながらヒッタイトの王子様には無条件の幸せよりも陰影のある不幸のほうが似合うような気がするサドファンです。
続きが気になります。
イズミルとアイシスが姉弟という設定です。 文章が全然上手じゃあ無いんですがよろしければ読んでみて下さいね。
回想 〜幼少編〜 その1
長い行列が続いていた。太陽が従者や兵士に容赦なく照りついていた。
「アイシス様、もうすぐですよ」
侍女のアリが輿の小さな小窓から外の様子を見ていた。
「長い旅だったわ、、」アイシスは小さくため息をついた。「ねえ、アリ、私の異母姉弟のイズミルはどんな子?」
アイシスは大きな瞳でアリを見つめた。
「ええ、アイシス様と3つ違いで、、聡明な王子とお聞きしました。幼いながら冷静沈着で、また王子の乳母のムーラ様という女性がまたよく出来た方で、」
アリはアイシスの顔を見た。アイシスは少し緊張した顔でアリの話しを聞いている。
「心配は要りませんよ、アイシス様、きっと良い方ばかりですよ、父上にもアイシス様の成長して美しくなったお姿を見てもらいましょう」
アリは少しでもアイシスの緊張をほぐすため笑ってみせた。
回想 〜幼少編〜 その2
「ハットゥシャッシュ到着!」外から兵士が叫んだ。
アイシスはそっと輿から外を見た。周りを城壁で囲まれていた大きな要塞都市のようであった。アイシス達の行列は西から入ると二頭の大きな獅子門があり、この門は2頭の獅子に両側を守られていて、獅子は巨大な問石の前に座り、敵軍の侵入を防ぐ為に大きく口を開けている。
アイシスはその獅子に食べられてしまうような錯覚になり怖くなった。
市街地のサルカレ、ボテルネの町を行列が進む。
「王室達がいらっしゃるお城はこの奥の壁に囲まれているビュユクカレにいらっしゃいますよ。ほら、あれがそうですよ」
アリはそう言って指をさした。アイシスはその方向に目をやった。王の城は更に壁で覆われていてここからでは様子が見えない。
「アイシス様のご到着!」と同時に大きな門が開く。「いよいよですね、アイシス様、、大丈夫ですよ」
アリはアイシス様の様子を察して手を握った。「ええ、」
アイシスは少しここに来た事を後悔していた。母の命令とは言えあの時もう少し反抗して側に居たいと言えばよかった。自分達が住んでいた国よりも数十倍大きい国、母の居ないこの国でこれから生きていかなければならなかった。不安がまだ小さなアイシスに押し寄せてきた。
「アイシス様、輿からおりて中へお進み下さい。」兵士らしき男が話しかける。
「はい」アイシスは言われた通りに中へと進んだ。アイシスは男を見た。頬と首筋への覆いのついた兜をかぶり、長い髪を後に束ねていた。右腰には鎌型の剣を備えていて、その剣のさやは先端で急カーブを描いていた。
「ここです、さあどうぞ」兵士がある部屋の前で止まった。アイシスは我に返り中に進んだ。
慌てて中に入る。
「待っていたぞ、アイシス、、」
アイシスは驚いて声のする方向を見た。ひげをはやし大きな男が近寄って来た。
「ヒッタイト王、お久しゅうございます」
そう言ってアリが深くおじぎをした。アイシスもそれに見習い慌てておじぎをした。まだアイシスがもっと小さい頃にしか会ったことが無い自分の父がそこにいた。
「まあ、堅苦しいことは無しだ、アイシス、美しくなって、、将来が楽しみだな!ハハハ」
そういうとヒッタイト王はアイシスの手を引いて歩きだした。ある部屋へとアイシスを連れて行くために、、。
1
「ムーラ、姫はどうしているか」
「は、はい。侍医が鎮静のお薬を差し上げ、今はもう落ち着かれました。
・・・・・あ、あの王子。どうか落ち着かれませ。婚儀を前にした女性というのはとかく不安定なもの。姫君も王子の許から逃げ出されようとしたこと、痛く後悔し、反省しておいででございます」
「・・・・そなたは黙っていてくれ。私から姫によっく言い聞かせる」
3日後に王子との婚儀を控えたキャロルが性懲りもなく脱出を目論んだことを聞き、王子は急ぎ表宮殿から戻ってきていた。
「姫・・・・」
王子は物憂く寝台に伏せるキャロルを無理矢理抱き起こした。恐怖に顔を強ばらせるキャロル。だが先ほど飲んだ薬が効いており、身体は思うように動かない。
「そなた、また性懲りもなく逃げようとしたのだな・・・・。そなたはもう我が妃にしかなれぬ身であるに。エジプトのことは忘れよ。
・・・・メンフィス王もじき、そなたのことは忘れよう」
「嘘よっ!メンフィスは私を待っていてくれるわ。帰るのよ。王子なんて大嫌いっ!私、嫌よ。結婚なんてしな・・・・嫌っ、きゃあっ!!!」
神経を逆なでするキャロルの拒絶の言葉に、王子の堪忍袋の緒が切れた。
「なれば・・・そなたがもう、私の側以外のどこにへも行けぬ身体にしてくれる!私の心を知りながら、私を翻弄する憎きそなた・・・っ!」
王子はキャロルの衣装を乱暴に引き裂いた。
2
「いやーっ!いや、いや、いやっ!!誰か・・・っ!」
キャロルは必死に抗うが薬のせいか身体は痺れて重い。声もかすれたような小さなのしか出ない。
「おとなしくいたせ・・・・。そなたがいけないのだ。素直に私に答えてくれぬから」
王子はキャロルの身体を押さえつけ、小振りな乳房を舐めあげ、乳首をなぶった。膝で脚を割り開けば、年の割にはひどく未熟な秘所があらわになる。
「何と幼い身体よ・・・・」
王子はキャロルの脚を肩に担ぎ上げ、薔薇色をした肉厚の花を舐め回した。舌先で巧みに花芯を剥きあげ、花弁を割り開き、狭い泉を探る。
「ひいっっ・・・!」
キャロルの身体が痙攣する。今まで味わったことのないおぞましい感覚が、快感なのだということを知るには彼女はまだ幼い。
王子は花を弄び、賞味しながら胸の紅玉を捻りあげたり、ふくらみの中に押し込んだりして弄んだ。
「幼い味だ・・・・。だが丹精次第では素晴らしく美味な蜜を蓄えるようになろう・・・・」
にやりと笑う王子。
「嫌っ!!大嫌いっ!メンフィス、助けてぇ!」
あられもない格好をして泣きながら憎い恋敵の名を呼ぶ愛しい娘。
キャロルの身体を改め、半ば夢心地であった王子の心は冷たく凍った。
「二度とその名を呼ぶことは許さぬ!そなたは私のモノだ」
王子は言い、腰から短剣を鞘ごと引き抜き、キャロルの顔の前にかざした。柄頭に大きな荒削りの宝石を填め込み、手が滑らぬように柄全体に革ひもを巻いた柄。使う人の手に合わせ武骨に大きいそれ。
「そなたがもう、どこにも行けぬ身体にしてやる」
3
王子の唾液と自らの蜜に濡れる幼い場所を乱暴に拭くと・・・・いきなり、短剣の柄を突き立てた。
「きゃあぁぁぁぁっ!!」
激痛と恐怖に痙攣し弓なりになる白い身体。青い目はいっぱいに見開かれ、声にならぬ悲鳴をあげる口からは一筋の唾液。
「あ・・・・ああ・・・・あああああ・・・・・」
王子はねじ込むように柄を突き立てた。狭い場所は乱暴に引き裂かれ、軋む。
「そなたが悪いのだ・・・・・」
王子は激痛に痙攣し、血の匂いを漂わせる花芯に舌を這わせながら囁いた。
「それでも・・・・私はそなたを愛している」
王子が柄を抜き差しする。薄い小さな花弁がむごたらしく捻れる。
「どこにも行かぬと申せ・・・。そなたはもう私のものだ・・・」
王子の言葉にキャロルは人形のようにがくがくと頷いた。
「良い子だ・・・・・」
王子は優しく微笑むとキャロルの胎内から血塗れの柄を引き抜いた。寝台を汚す大量の血・・・・。キャロルの涙であるようにわき出る赤い液体・・・。
「そなたは私の花嫁だ・・・・・」
明るい昼の日差しが差し込む浴室で王子はキャロルに言った。痛めつけた身体を優しく馴れ馴れしく清めあげる王子。虚ろな顔をしたキャロルは抗いもせず無言だった。
(ワタシハ モウ メチャクチャニ サレテシマッタ・・・・)
深い絶望がキャロルを蝕む。無理矢理、の屈辱が彼女を叩きのめす・・・・。
だが。
彼女はすでに王子の子を身籠もっていた。長い長い月日の後、彼女はヒッタイトで自分の居場所を得るのだが今はそれを知らない・・・・。
end
久々の新作ラッシュ!!!
嬉しいです。
>お家騒動作家さま
「たとえ・・・離ればなれであろうとも私の心は常に側にあり、そなたを守る!」
こーいう一言にくらっときます。何かかっこいいなぁと。
>パオパオさま
いきなり引き込まれました。ヒッタイト王がいいお父さんしてますね。このスレでは王子父=とんでもねーやつということになってるようなので新鮮でイイです。
>Ψ(`▼´)Ψさま
王子本懐とげたんですねっ!鼻血が一斗缶でした!
>>187 13
ハットウシャに戻ったキャロルを待ちかまえていたのは予想外に堕落した魔窟と化した王宮であった。
かつてアナトリアの雄と怖れられていたヒッタイト王は気力を失い懶惰(らんだ)な日々を送っていた。
役に立たなくなった国王を巡る臣下達。王子の影響力ゆえか、決定的な王権の失墜はなく、王子派の人々が国の乱れが政務に悪影響を及ぼさぬよう尽力してくれている。
しかし王子派、サフィエ派の小競り合いは姦しく際限のない権力争いが人心を荒廃させていた。
そしてサフィエは意外なことに臨月であるがゆえか自慢の容色もやや衰え、かつての権勢も若干ではあるが衰えたようであった。
「ようこそお戻りなさいませ、王子妃様」
寝椅子に横たわったサフィエは鷹揚に手を差し伸べた。キャロルに付き従うムーラは愛妾の分不相応の振る舞いに怒り狂ったが、キャロルはまるで頓着しない。
「あなたが戻ってきて下さって嬉しいこと。じき和子が産まれるというのに後宮の者達は私を少しも労ってくれませぬ。こんな体では慣れぬ雑務も手につきませぬし。
あなたの手助けが欲しかったのですよ。本当に・・・・早く和子が産まれてきて欲しいわ。そうすれば体も楽になるでしょう」
「とにかく大切になさいませ。あなたに何かあれば・・・国王様もお嘆きでしょう・・・?」
探るように言うキャロルにサフィエはめんどくさそうに答えた。
「国王様は・・・・この頃はあまり私にかまってくださいませんのよ。ま、臨月ですもの、あまりにご寵愛が激しいのも困りものだけれど。・・・・あの方もすっかり変わられたわ。でも和子の父上なのですからねぇ・・・」
(サフィエは国王様を愛していないんだわ。あの方に縋るのはただ王が自分が産む子供の父親―子供を世継ぎにできる力を持った人―だから!)
キャロルは密かに身震いした。こんな人間に愛する王子は苦しめられたのだ!
だが表面上は至って穏やかに慎ましく、キャロルはじき母となるサフィエに仕えるのだった。そんなキャロルを見て心ある人々は涙をこぼすのだった。
14
「ふーむ・・・・。ナイルの姫が戻ったか・・・」
その夜、催されたキャロル帰還を祝うささやかな宴で。
すでに正気を無くすほどに酔ったヒッタイト王は呟いた。
「よくイズミルが手放したのう。美しい瑞々しい金色の姫。ずっとわしが欲しいと思うていた」
「? 国王様?何かおっしゃいまして?」
臨月で不快な身体をようやく宴の広間まで引きずってきたサフィエは怪訝そうに聞いた。
「・・・・・なんでもない。サフィエ、ナイルの姫はずっと奥の宮殿に留まるのかのう?」
「え?ええ。だってあの方には色々お願いしたいことがありますもの」
「そうか・・・・」
国王はぐっと杯を干した。
(では・・・わしがあの姫を手に入れて何の不都合もないわけじゃ。王妃も王子も今はおらぬ。サフィエにも・・・・飽きてきた所じゃ。子を産めば少しは大人しくなるかのう?今は所領よ、宝石よと煩いばかりじゃ)
ヒッタイト王の好色な視線にキャロルは思わず身を震わせた。あれほど王子と約束したのに・・・・言いようのない絶望と不安がキャロルの心を引き裂く。
15
「ナイルの姫君、お起き下さいませ!サフィエ様が産気づかれました!姫君をお呼びでございます!」
宴から数日後の真夜中。キャロルは慌ただしい下女の声にたたき起こされた。
声の様子から通常の出産ではないのだということが察せられる。キャロルはムーラを伴って急ぎ産屋に向かった。
産屋ではサフィエが言いようのない苦痛に身を捩り、悶え苦しんでいた。細い腰に大きな腹部、美しかった顔は苦痛に見る影もなく歪んでいる。
「あっ、王子妃様っ!お待ちしておりました。陣痛自体は早くから進んでいたのに・・・水も出ましたのに和子様が・・・お生まれになりませぬ」
狼狽えた産婆が訴えた。キャロルはサフィエの手を握り、波立つ腹部を撫でて慰め力づけてやることしかできない。
「サフィエ、サフィエ、しっかりして!」
翌日の夜、苦しみ抜いてサフィエは王女を産んだ。産婆に引き出されるようにして産まれてきた子は青白く、泣き声も力無かった。
「サフィエ、よく頑張ったわ」
キャロルは憎いはずの若い母親を力づけるように言った。そして疲れ果て惚けたようになっている産婆や、期待はずれで項垂れている侍女達を叱りとばして罪のない赤子の世話を命じた。
「さぁ、早くこの子を暖めてやって。それから乳母を。お乳を吸う力がないようだから、ずっと抱いていつでもお乳が吸えるようにして
それからサフィエのことも!充分に休ませて、暖かいものを取らせて。
・・・何をしているの?王子じゃないですって?何を言っているの!」
キャロルはこの母子をめぐる複雑な心境を忘れ果て、その世話に没頭するのだった。
続
>ヒッタイトお家騒動作家様
何か展開早いですね。ヒッタイト王はキャロルをモノにするため暗躍するのか?
王子もとっとと王位を奪っちゃえばいいのに
>パオパオ様
新しい設定の物語ですね。これからメンフィスやキャロルがどういうふうにからんでくるのか楽しみです。
>Ψ(`▼´)Ψ様
いきなりストレートなタイトル・・・・・。王子はやっぱりサドですか?
個人的には余裕で優しく自分を嫌う相手(キャロル)を靡かせるってゆーのが好きですが。
こーいうのも何かどきどきする私もかなりオニ?
>「ヒッタイトお家騒動編」作家様
続きが楽しみです。
なにとぞ今日もお出まし下さいますように(願)
ヒッタイトの王様はやっぱりキャロルを狙っている?
私もお家騒動編気になりまする。
お家騒動作家様、生への帰還作家様、お預けは辛いっす。
涙の悲劇でもいいです。続きを〜。。。。。。。。
>Ψ(`▼´)Ψ様
こんどはMおうぢにサドC嬢書いてください。
ああ・・・・以前の平日毎日連載の頃がなつかすぃ。。。。。。。
何かちょっと寂れ気味だね。
「キャロル・・・?」
メンフィスがそっと声をかけた。ファラオ夫妻の寝室。先に部屋に下がったキャロルは待ちくたびれて寝入ってしまったらしい。珍しいことだ。
灯火に照らされた白い顔。細い鼻梁、甘く微笑んでいるようにも見える唇。細い肩、小さな手。
(こんなにも華奢であったか・・・)
今更ながらメンフィスは作り物めいた繊細さを漂わせるキャロルに驚いた。その小柄な身体は日毎夜毎確かめているはずなのに。
寝台の脇に置かれた小さな卓にもたれ掛かるようにして眠るキャロル。金色の長い髪の毛が豊かに流れている。メンフィスが一度も切ることを許さない髪の長さが、二人で過ごした年月の長さを物語る。
(愛しい愛しい愛しいそなた。切ないほどに哀しいほどにそなたが愛しい。このような気持ちになるとは・・・?)
メンフィスはそっとキャロルを抱き上げ、優しく寝台に横たえた。額にかかる髪を掻き上げ、起こさぬように腕の中に抱きしめる。
「・・・・メン・・・フィス・・・?ごめん・・・なさい。うたた寝・・・」
キャロルがうっすらと目を開けて呟いた。
「お・・・すまぬ。起こしたか?そのままで良い。今宵はゆっくりと休め。疲れておるのだ、きっと」
「ん・・・」
キャロルは昏々と眠ってしまう。
(本当に疲れ切っているようだ。珍しいな。あるいはこの乾期の暑さゆえだろうか?滋養を取らせねば。離宮に休養に行くのも良いな。黙って頑張るばかりゆえ、私もつい気遣いを忘れてしまう。いかんな)
月の光の青白さが不吉なまでの美しさをキャロルの頬に添える。メンフィスは無意識に魔除けの呪文を唱えながら、キャロルの額に口づけるのだった。
>203
それは贅沢というものでは?
作家様たちの作品がこれだけ読めるということはありがたいことかも。
本編コミックスが出るのを待つよりずっと楽だ・・・
作家様方、いつもありがとうございます〜
>>204 優しいメンフィス様萌え〜〜〜〜〜〜〜vvvvv
続き楽しみにしてます!!
>>184 神殿勢力の横暴は民衆の反感と正比例していた。前線から引き上げられるとあって部下達は護衛の対象にかかわらず喜んだがすぐ街の状態にうんざりしてきていた。
ややすさんだ街中でイアンは2度目の動乱を始めるきっかけとなる老人と出合った。
フィっと入った酒場で彼は飲んだくれてくだをまいていて相席になってしまったイアンと副官のフナヌプは相手をすることになってしまった。下級貴族らしいが家族は何をしているのだろう?
「俺だってな娘とその子供が生きてりゃこんなとこ居ねえでもっといい生活してるさ。まったくあの時は先王の情けを受けて子が・・・。ネバメン様と同じくらい・・・だがあの方より優秀・・・。」
危険な台詞にイアンとフナヌプは周りを見回したが回りはいつものことなのと存外小さな声だったのとで気にされていないようだ。ふと思いついてこの男をミヌーエ将軍達に引き合わせようと思ってみる。
なかなかに好き者だったという先王が同時期に複数の女性を寵愛した事実があってもおかしくは無い。
だが謎の多い王弟ネバメンの出生を知る手がかりになるかもしれない。娘のライバル達をこの老人が知っていておかしくないのだ。
結果として間一髪だった。その翌日神官達がその老人を捕えようとしたのだから。
老人はカームテフという名で昔娘の一人を遠征に来た王の侍女として送り彼女は身篭ったが出産で母子共に命を落とし砂漠に葬られたらしい。
今は長男の家族と暮らしているが折り合いが悪く街に出ては酒場でくだをまいているというわけだ。
ミヌーエはネバメンが持っていた証拠の文書は随分状態が悪かったことを記憶していたので葬られた場所を聞き出し密かに調査を命じた。一息つきながら信頼できる同僚ウナス、ホルス将軍に声を掛けた。
「さて、この後はしばらくヒッタイトとの交渉だな。イアンの力量と正体も見極めねばならん。」
>>197 16
サフィエ失寵・・・・・・・。
漠然とした噂が既成事実として人々に認められたのは、サフィエが弱々しい王女を産み落としてから半月も経たない頃だった。
難産ですっかり容色も衰え、一度も起きあがれず、頼みの綱の赤子は女でしかも虚弱で醜かった。国王は一度か二度、寵姫と新しい王女を見舞ったがサフィエのあまりの変わり様に驚いたのか、訪れはぱったりと止んでしまった。
そうなれば人の心の頼みがたさ、サフィエの周りから人々は離れていき、今度は如何にイズミル王子派に復帰するかを画策する始末。
サフィエが衰弱と王の失寵による心労のあまり、取り巻きの離反にまで気付かないことはかえって幸いだったかも知れない。
そして。
寵姫を見捨てた国王は当然のように金髪の王子妃にその毒牙を向ける。
サフィエの部屋を出て、自室に戻ろうとするキャロルの手をいきなり国王は掴み、酒と阿片の匂いの混ざった息を吐きながら侮辱的な口説き文句を言った。
「のう、姫よ。今宵、わしのものになれ。毎日毎日、病人の看病。夜は独り寝。さぞやさぞや・・・体が辛かろう?わしが慰めてやろう」
「お、おやめくださいませっ!!」
キャロルは真っ青になって王の手を振りほどいた。お付きの人々も必死に王の無体を止めようとする。だが正気を失った国王は馬耳東風だ。
「よいではないか。わしが真実、欲しいのはそなただ。生意気にもイズミルめが横取りをしおったが。これは命令じゃ。今宵からは我が王妃となれ。わしの子を産め!わしとそなたの血を受けた和子を・・・新たな世継ぎとする!」
「汚らわしいっ!」
キャロルは悲鳴をあげ、一散に自室に駆け込んだ。国王は自分に無礼を働いた王子妃の後ろ姿を濁った眼差しで見送った。
(そなたを我がものとするぞ・・・。邪魔な王子など・・・殺しても良い。世継ぎはまた新しく産ませればよいのだ)
17
「皆の者、よいなっ!命に代えても姫君をお守りするのですっ!姫君に無体を働き、王子のご尊厳を汚す不埒者は・・・殺しても構わぬ!不埒者と差し違える覚悟で姫君をお守り申せ!」
きりりと鉢巻きをしめたムーラは配下の侍女、兵士に檄を飛ばした。力強い声がムーラに答える。
王子とキャロルの宮殿は殺気立っていた。先ほどの国王は理性の失せたケダモノと化していた。実の息子の妻を奪おうとするとは、もはや正気の人間のすることではない。悪魔ですら赤面
するような汚らわしい行為だ。
騒ぎを聞きつけた王子派の人々、これを機に王子派に復帰しようとする人々がキャロルのいる宮殿に参集していた。まるで戦の前のような雰囲気であった。
この時代の人々は、神の怒りというものを今よりももっと切実に現実的に感じて生きていた。今のヒッタイト国王の行為は神の逆鱗に触れる冒涜的な行為だった。戦勝国の王が、敗戦国の
王妃を奪うのは正当だと見なされるが、父親が息子の妻を奪うのは人倫に悖(もと)る行為であり、ヒッタイト全体が神の怒りに晒されるかも知れないのだ。
そのようなことだけは避けねばならない。表沙汰になったらエジプトは絶好の機会とばかりにヒッタイトに攻め入るだろう・・・。
人々のざわめきを遠くに聞きながらキャロルは寝台にふせって泣いていた。義理の父である国王がひたすら厭わしく汚らわしく・・・恐ろしかった。
(わしの子を産め!わしとそなたの血を受けた和子を・・・新たな世継ぎとする)
王の言葉が脳裏を駆けめぐる。
(まさか・・・まさか王は王子に危害を加えようとしているの?新たな世継ぎ。それは王子の廃嫡?!)
キャロルはぶるっと震えた。あの王ならばやりかねない。残酷で理不尽な権力者。王子妃となる前、幾度か言っていたではないか?ナイルの姫をわしに呉れ、と。
(そんなことになったら・・・死ぬわ!私は王子を裏切れない!)
その時、宮殿の入り口がにわかに騒がしくなった。キャロルの許に訪れた国王の護衛兵と、キャロルを護る兵士達が衝突し流血沙汰になったのだ。
18
「何事です・・・?!」
宮殿の入り口に現れたキャロルは言葉を失った。
きらびやかに美しいそこは血に汚れた死傷者で溢れかえっていた。
「姫君!お戻りなされませ!出ていらしてはなりませぬっ!」
「姫君、どうかどうか御身お大切に!我らが命に替えてお守り申し上げます」
ムーラや兵士の声に国王の蛮声が被る。
「おお、ナイルの姫!待っておったぞ!今宵、そなたを我が王妃とする。
・・・何という顔をしておる?こやつらは王たるわしに逆らった許し難き反逆者じゃ!死を以て償わせる」
そういうと泥酔した国王は手近にいた不運な侍女を斬り捨てた。侍女は悲鳴も上げず、倒れ臥した。
「やめて、やめて、やめてぇっ!!」
キャロルは絶叫した。異様に惨たらしく凄惨な光景に、涙が滂沱と流れ、手足はわなわなと震えた。
「罪もない者を殺すなんて・・・許されることではありません。ひどい、ひどすぎるわ!この者達が一体何をしたというのです?」
「そなたを王妃にしてやろうとしたわしに逆らったのじゃ。そなたは我がものとなり、我が息子を産めい!わしがそなたを可愛がって喜ばせてやる。王子のような青二才など比べものにならぬほど・・・わしは上手いぞ・・・?」
酒臭い息を吐きながら、王はキャロルの頬に触れようとした。
「触らないでっ!!!」
キャロルは王の頬を思い切り打った。凄まじい音。口の中が切れたのか、王の唇からは血が涎混じりの血が流れる。
「おのれ・・・小娘が・・・!」
王は凄まじい力でキャロルを突き飛ばし、首を絞めようとした。
「こ、国王様!おとどまりを!」
不意に一人の兵士が走り出て、王をキャロルから離した。
「国王様に危害を加えるとは、この女、王のお情けを受けるに値せぬ反逆者でございます。このような女に関わられますな!さぁさぁ、今宵はお戻りを」
巧みに王を押し出しながら、その兵士はキャロルの方を向いた。
「さぁ、この反逆者めはもはや王子妃の身分にふさわしからず!罪を犯した不埒な女を憂いの館へ押し込めるのだ!」
兵士はそういうと驚き、脱力した人々を尻目にキャロルの腕を乱暴に掴んで連れ出していった。
後宮の敷地の北の隅にある「憂いの館」へ。そこは罪を犯したり、死病に侵された宮女を押し込めておく牢屋であった。
続く
げっ、すげーハードな展開
>生への帰還、お家騒動 両作家様
どうなるのか目が離せません。どうかどうか悲劇だけは避けて下さい〜。
保守age
>>210 19
暗く狭い通路。その先には憂いの館がある。きらびやかな王宮の建物とは対照的な粗末で陰鬱な、それでいて堅牢な館。それは牢屋であり、死を待つ女人の室であり、絶望と悲しみの涙に染まった嘆きの館なのだった。
キャロルの手を引く兵士は無言で小館の前に立った。
(ここで・・・私は死ぬの・・・?)
先ほどの衝撃的な体験で心が麻痺したようになっているキャロルは、無感動に憂いの館を眺めやった。
そんなキャロルの前に兵士は唐突に跪いた。
「姫君、どうかお許し下さい。国王の狂気からあなた様をお守りするには、ここにお連れするしかなかったのです」
「ルカ!あなたなの?!どうして?王子は?」
ルカは油断無くあたりを見回し、館の扉を開け中にキャロルを導いた。
「とりあえず中に。人目があるやもしれませぬ」
灯火に照らされる殺風景な室内。かび臭く陰気な空気が満ちている。窓は高い位置に小さなものがあるだけ。隅の低い衝立があって、側には壊れかけた寝台らしいものが置かれているだけだ。
ルカが扉を閉めるのも、もどかしくキャロルは王子の近況を聞いた。
「さっきの騒ぎは知っているでしょう?王は・・・実の息子である王子を廃嫡して亡き者にしようとしているのよ!」
「王子はすでにご存知です。ただサフィエの失寵が予想外に早く、何もかもが王子のお考えになっていたよりも早くに進みすぎました。
姫君、かくなる上はこの憂いの館が王宮で最も安心できる場所となりました。忌まれたこの場所にはさすがの王も近づけませぬ。
王子はすぐ行動を起こされ、あなた様をお救いになりましょう。私が・・・そして心ある者達が全力でその日まで姫君をお守り申し上げます。どうかどうか・・・その日までご辛抱を・・・!」
20
涙ながらに語るルカをキャロルは優しく抱き起こした。
「ルカ、ありがとう。あなたの機転のおかげで私・・・助けられました。
それに王子は無事なのね。良かった・・・良かったわ・・・。王子にもし万が一のことがあったら私、生きていけないもの・・・」
ルカは女主人の手を押し頂いた。
「姫君、しばしのご辛抱でございます。ご不自由がないようはからいます。どうか御身お大切に。王子はそれはあなたさまのことを
一番心配しておいででございます」
キャロルは頷いた。
「ありがとう。でもルカ。危ないことはしないで。王宮は、王の力が強いわ。もう、もう・・・さっきみたいに関係ない人たちが死
んだり・・・き、傷ついたりするのは嫌なの。お願い、これ以上、犠牲になる人を増やしたくないの。私はそこまでして護ってもら
う価値のある人間ではないわ。私一人だけのことですむことなら、いつだって私はこの身をヒッタイトに捧げます。
・・・私は大丈夫です。だから皆で王子の帰還を待ちましょう」
健気なその言葉にルカは深く胸を打たれた。
(姫君、あなたをお守りするために誰もが喜んで身を投げ出しましょう。あなたは我がヒッタイトの未来を担う王子の魂そのものな
のです。あたなに何かあれば王子は魂を失われましょう。魂を無くした人間はもう・・・生ける屍なのですよ。
我らは新しい王を戴かねばなりませぬ。新しい力に満ちたイズミル王を。そのためにも、あなたの存在は不可欠、万難を排して護ら
ねばならぬのです)
「姫君、私が夜通し外でお守りいたします。ご不自由ではございましょうが、どうかお休み下さいませ。明日になれば、お身まわり
の品々など手配いたしましょう」
キャロルはこくんと頷いた。ルカは出ていった。キャロルは闇の中に一人取り残された。
続く
新作だー。作家様、感謝!他の作家様の続きも熱望しまする。
ところでこのスレでの受け線ってヤパーリ、イズミル(メンフィス)×キャロルのラブラブロマンスかオニ系の話なわけ?
確かにその線だと受けるね(笑)。
でも、それが全てとは限らないし作家さまには色々なオハナシを書いていただきたいなー。
>215
本編での軟弱化したイズミルを見る辛さを番外編で紛らわしてる。
キャロルとのラブラブ系やオニ系はよく効く鎮痛薬です!(w
>>214 21
夜は長く冷たく、哀しみと心細さにキャロルは声のない涙を流した。
気丈に振る舞わねばと思いながらも、幽霊でも出そうな憂いの館の闇は少女の心を蝕む。
(王子・・・王子・・・。あなただけは無事でいて下さい。神様、どうか私たちを・・・ヒッタイトをお守り下さい。どうかどうか・・・王子をお守り下さい)
窓から蒼い月の光が射し込む。壁のシミがここで死んでいった女人の姿に見え、風の声はすすり泣きにも思える。虫でもいるのだろうか?カサカサとほのかな音がする。
哀しい思いの中で死んでいった人々は、キャロルを新しい仲間と思っているのであろうか?
(大丈夫・・・大丈夫・・・。泣いてはダメ。怖がってはダメ。強い心でいなくてはダメ。王子が助けに来てくれるまでは・・・私がハットウシャでの王子の名代なのだから)
それでも溢れる涙は押さえ難く、キャロルの押さえた嗚咽は一晩中、途切れることはなかった。
憂いの館でキャロルは一体何日を過ごしたことになるのだろう?
人々から幽鬼の住処よ、忌まわしい場所よと怖れられている場所に幽閉されているキャロルの身は皮肉なことにハットウシャに着いてから最も安全であった。
館の周辺はルカがそれとなく守っていてくれるらしいことが気配から分かる。
食事や身の回りの品はひどく不足したが、それでも気丈なムーラが何とか手配してキャロルに届くようにしてくれた。キャロルに味方した人々は王の逆鱗に触れ、ひどく辛い状況に追い込まれていた。
キャロルは知らされなかったが、すでに狂った国王と王子の戦は避けられない状況であったのだ。
何も分からない状況の中、やつれ疲れ果てたキャロルはただただ祈ることしかできなかった。
どうか王子が無事であるように、と。
22
「明後日にはハットウシャに入る・・・」
商人のような頭巾を深くかぶって顔を隠した王子は厳しい表情で地図を見つめた。
街道を外れた夜の灌木林。王子は自らが率いる主力軍を信頼する将軍に託し、自分は少数の精鋭と共にハットウシャへ向かって先行した。
どのみち、国王軍との衝突は避けられない。そうなれば敵味方の損害は計り知れないだろう。王子は自軍の大部分を囮とし、自らはハットウシャに潜入する覚悟だった。
自分だけが知っている通路を通り、王宮の奥深く入り込み国王と対決し・・・おそらくは亡き者とし、失われた秩序と正義を取り戻す。国王さえいなくなれば、そして王子が王宮にすでに入っていると知れば求心力を失った国王軍はなし崩しに王子の元に下るであろう。
そして・・・キャロルを救い出す。
(姫よ、姫。愛しいそなた。どうか無事でいてくれ。どれほど恐ろしく思っておろう。ルカがいるから安心ではあるが・・・憂いの館のような忌まわしき恐ろしい場所にたとえ僅かの間なりともそなたを置いておかねばならぬとは!)
夜明けの直前に星が流れた。あれは何の象徴であろうかと囁き交わす兵士達。王子は力強く言った。
「あれこそは古き力の凋落の印ぞ!落ちたる星の次には新しき星が輝く!さぁ、参ろうではないか!我らが勝利のために!」
イズミル王子の言葉に兵士は歓声で応えた。そして王子の一行は昇る朝日の中、出発する。士気は高く、皆が勝利を信じていた。
しかし。
しかし、ただ一人イズミル王子だけは落ちる星に何とも言えない不吉な予感を感じて、体がしんしんと冷えていくような心地がするのであった。
夜空に輝いていた金色の星。それは何故か王ではない別の人物を予感させて・・・。
23
「ええい!憎きイズミルめがっ!実の父に向かって反旗を翻しおるとはっ!」
狂気に陥った国王は獣のように吠えた。王子軍はその行程で確実に数を増やしながらハットウシャに向かってくる。
側室にうつつを抜かし、臣下国民が深く尊敬するイズミル王子を廃そうとした王の横暴ぶりは知れ渡っていて、国王
軍は早々にハットウシャ籠城を強いられていた。
「おのれ・・・おのれっ!だがイズミル!お前の思うとおりにはさせぬぞ。我が手の内にはまだ・・・ナイルの姫が
ある。この上なき人質じゃ。
わしの子を孕ませ・・・そのまま王子の目の前で殺してくれるわっ!
誰かある?これから姫の許に参る!」
「ええっ?国王様、おやめくださいませ!王子妃様、いえ、あのナイルの女神の娘は反逆者でございますぞ!憂いの
館は忌むべき場所。戦という大事を前にして国王様があのような汚れた場所においでになってはなりませぬ」
「ええいっ!うぬは黙っておれい!」
王は大臣を斬り捨てると、広間を突っ切って後宮の端にある憂いの館を目指した。獣欲と嗜虐的で残虐な心が相俟って、
もはや王は人ではなかった。
「ムーラ様!国王様がナイルの姫君の御許に向かっておいででございます!」
侍女から報せを受けたムーラは、見張りの兵士を突き飛ばすようにして軟禁されていた居室から飛び出た。
「何故です?憂いの館は限られた世話係の奴隷しか近づかぬはず。あのような場所に王が・・・!ルカはどこです?
ルカに知らせよ、姫君をお守り申せと!」
ムーラに合流した人々は、一散に憂いの館目指す。そこは正気の人間であれば近づきたがらぬ場所。幽霊話や呪い
だのといった話には事欠かない。死を忌む古代人にとっては、そこは何よりも近づきたがらない場所であったのに。
だからこそ、今回、キャロルの避難場所に選ばれたというのに。
24
国王が薬物中毒者とも思えぬ速さでルカの守る憂いの館の前に到着したのと、ムーラ達がやって来たのはほとんど同時であった。
「ムーラ、何用かっ!そなたらには謹慎を命じておいたぞ!」
「こ、国王様。恐れながらこちらにおわす御方様は尊いご身分の姫君。どうかどうか、手前勝手なご無体はおよしあそばせ」
国王の前に無言で立ちふさがるルカ。その手には短剣が握られている。
「おのれ・・・おのれ、貴様ら皆殺しにしてくれるわっ!召使い風情がイズミルめと結託してわしを愚弄するか。衛兵、何をぼっとしておるか、こやつらを皆、殺せ!わしとナイルの姫の婚礼の祝儀じゃ・・・。
わっはっはっはっはっは・・・・・」
その時、扉が開いて蒼白な顔をしたキャロルが姿を現した。
「おやめ・・・おやめくださいませ、国王様・・・!もうこれ以上、誰かが傷つくのは嫌です。お望みのことにはできる限り・・・添うようにいたしましょう。だからもう・・・」
「姫・・・か。そのような所に隠れたりして困ったおなごじゃ。早く来い。そなたはわしのものになるのじゃ・・・」
国王はにやりと嫌らしい笑みを浮かべて手を差し伸べた。抗しがたい力に引っ張られるように王に近づくキャロル。
「姫君っ、おやめくださいませ!ルカ、姫君はご乱心じゃ。早くお止め申せ」
ムーラの悲痛な叫びにキャロルは優しい微笑で応えた。多くの人々を魅了してやまなかったその微笑み。透き通るようなあえかな美しさ。
キャロルは足を止め、王に問うた。
「・・・何故、私を望まれます?何故、王子をお憎みになります?強大な父王、優れた世継ぎの息子、かつてはあれほどにヒッタイトの令名をとどろかせておいででしたのに」
王はしばらくキャロルに見とれていたが、やがて吠えるように叫んだ。
「わしはずっとずっと、そなたが欲しかったのじゃ!それなのに・・・それなのに王子はわしの望みを無視した!わしは欲しいものは手に入れる主義じゃ!そなたを奪ってイズミルに吠え面かかせてやるっ!
なんじゃ、その顔は?!わしを軽蔑するのか?お前がいなければ、わしとて狂いはしなかった、おまえの美しさが全ての元凶じゃ!お前さえ来なければ、今日という日の運命は変わったであろうよ、エジプトの魔女め!」
ハードなストーリーも好き。
でもらぶらぶ甘甘なお話も好き・・・・。
ちょっとワガママ・・・。
ヒッタイトお家騒動編作家さま、
なんだかものすごい展開になってて驚きました。
でも悲劇にだけはなってほしくない・・・
作家の皆様、新作心よりお待ちしています。
えっと1年以上前に書き始めてそのままになっていたイズミル王子×キャロルの甘甘ラブストーリーです。
先輩作家様の真似をしてるなーとありありと分かる拙い話ですがよろしくお願いいたします。
1
ヒッタイトの王女ミタムンがメンフィス王の第二王妃となるべくテーベの都に乗り込んできたのはナイルの増水
もじき始まろうかという頃。年若く驕慢な王女に影のように付き添うのは兄王子イズミル。ヒッタイトの世継ぎ
であった。
ヒッタイトの一行を迎えて連日のように催される宴や遊び事、公式・非公式の会談。
ミタムン王女を意識してかファラオの姉にして第一王妃となるアイシスの仕掛ける様々な牽制、後宮の女らしい
企み事。それにいちいち反応するミタムン王女。
イズミル王子は妹を庇い、気遣いつつも女達の争いや、政治というデリケートな遊戯に倦み疲れている自分を自
覚していた。
王子をうんざりさせていることは他にもあった。じき婚儀を行うエジプトの若いファラオ メンフィスが実はある
娘に首っ丈、アイシスやミタムンを差し置いて迎えたい、とごねているらしいことである。おそらくは初めてだろ
う真剣な初恋に溺れる国首の我が儘は、宮廷を混乱させている。
(全く・・・どのような娘なのか。漏れ聞けば珍しい外見をしているとか言うが。しかしファラオともあろう者
が務めを忘れてまで溺れるような女なのか。その娘は側室にでもすればいいのだ。
・・・それとも・・・娘の方が高い地位を強請っているのだろうか)
王子はひそかにファラオの思い人を調査させた。するとさすがの王子も吹き出さずにはおれないような突飛な
報告が上がってきた。
何とその娘は、ナイルの女神の娘だという。無論、その生まれに相応しく美しく賢く、しかも優しい。
ナイルの女神がファラオに与え、ファラオはその娘を手中の珠のように大切にしまい込んでいるらしい・・・と。
(女神の娘だと?もう少しましな嘘はつけんのか)
2
ある夕暮れ時。
ミタムン王女とアイシス女王の鍔迫り合いにほどほど疲れ果てた王子は気晴らしに庭に出た。
夕暮れ時の庭園は涼しく美しく、いつの間にか王子は女達の住む奥宮殿の庭に入り込んでいった・・・。
「ナイルの姫!ベールをおつけ下さい。さぁ・・・」
苛立たしげな女の声に王子は我に返った。いつの間にか随分、歩いたらしい。好奇心に駆られた王子はそっと声の方に近づいた。
(ナイルの姫・・・?誰だ?)
女の声に応えたのは神経質に甲高い子供っぽい声だった。
「大丈夫よ、もう日差しは陰ったもの。ベールはうっとおしいわ、好きじゃないの」
「人目がございますっ!」
「あら、ここは奥庭よ。見られて困る人なんて入れないでしょう」
意地悪そうな侍女に応えているのは輝くばかりの金髪を無造作に垂らした少女だった。透けるような白い肌、それに・・・それに・・・白い顔の中でひときわ目立つ夏空の青の瞳、薔薇色の唇。
さすがの王子もしばし見とれるほどの少女だった。
(何という美しい姫だろう!メンフィスが・・・国主としてのつとめも忘れ、執着している娘とはかの姫か!)
軟禁同様に宮殿奥深くに閉じこめられたキャロルのあえかな姿は王子の魂を捉え、冷静な青年は一目で恋の奴隷に成り下がった。
召使いに付き添われていた金髪の少女―キャロル―もまたほどなく自分を見つめる王子の視線に気づいた。
(! 兄さん?!いえ,違う。誰・・・?綺麗な人・・・)
恋をろくに知らない少女は、おとぎ話の王子様のような容姿の若者から目を離すことができなかった
付き添いの侍女は急に立ちすくんだ少女の視線の先を確かめもせずに、早々に彼女を屋内に引っ張っていった。。
新作が!!
これでまたひとつ日々の楽しみが増えました。
>>221 25
(王子っ・・・・!)
毅然と王を見つめ返しながら、キャロルは心の中で愛しい人の名前を絶叫した。
(王子、助けて・・・)
(姫っ?!)
王子は鋭いキャロルの悲鳴を聞いたように思ってあたりを見回した。商人のなりをした王子の一行はすでにハットウシャ市内に潜入していた。
(姫に何かあった!姫が私を呼んでいる!)
王子は従う兵士らに言った。
「これより宮殿に向かう!計画は変更だ。何やら・・・恐ろしき予感がする」
「し、しかし王子!今はまだ明るすぎまする。衛兵の交代時間まで待った方が」
「よい!私だけが知る通路がある。そこより入れば中庭の隅に出る!そこから油貯蔵庫に火を放て!」
王子は代々の王族しか知らされていない秘密の通路に兵士らを導いた。
(姫よ、姫!あの悲鳴は何だ?すぐに行ってやる。どうか無事であれよ・・!)
「エジプトの魔女、男を狂わせる毒婦め!そうだ、そなたさえいなければ、イズミルもわしに楯突くような真似はしなかった!多くの人間がわしの剣に倒れることもなかった、サフィエのようなつまらぬ女に入れあげることもなかった!
全てはそなたのせいだっ!そなたが我が国を乱したのだ、皆もきっとそう思っている・・・。そのような女は・・・!」
じりっじりっと王は近づいてくる。キャロルは蒼白な顔をして王の言葉を反芻していた。
オマエサエ イナケレバ・・・オマエサエ イナケレバ・・・!
26
(ああ・・・私の怖れていた言葉・・・。20世紀からこの世界に飛ばされた異分子の私がいつもいつも怖れていた言葉)
ムーラ達が自分に逃げよ!と悲鳴のように叫ぶ言葉も耳に入らず、キャロルは王の泥眼を凝視した。醜い狂人。忌まわしい獣。だが同時に容赦なき裁判官。
王は一瞬にして、キャロルがいつも戦き、王子の腕の中で忘れようとしていた不安に対する判決を下した。
――お前の存在そのものが世の理(ことわり)を破壊したのだ。お前さえいなければ多くの男が運命を狂わせることもなかっただろうし、愚かな争いに傷つき死ぬようなこともなかっただろう。お前さえいなければ!!!――
(私がいなければ・・・いなくなれば・・・全ては元通りなの?王子は死なずにすむの?お父様と争わずにすむの?もうこれ以上、誰も傷つかないの?死ななくて良いの?)
キャロルの視線は王の瞳を外れ、憂いの館の側にある小さな、しかし深い井戸に向けられた。
それは人一人がようやく通れるほどの口径しかない井戸だった。いつも冷たく湿った冷気が立ち上ってくるその井戸。あまりに深く底を浚うことはもとより、水を汲み上げることもできない。黄泉に繋がっているなどとも言われていた。
(どうすればいいの?私はどうすればいいの?私は王子に望まれてこの世界に生きることを決めたわ。良い王子妃になろうって努力したわ。そう・・・全ては異分子の私がこの世界全体にしえた謝罪の印・・・。
私がこの世界に居ること自体が罪ではないかといつも思っていた。でも考えることを禁じていた。どうすればいいか分からなかったんですもの・・・)
「姫?どうした?何を考えているっ!」
王の苛立たしげな罵声が飛んだ。キャロルに味方する人々も、少数の王の護衛も薄い夜明け前の光の中で繰り広げられる光景に気圧されて動けない。
27
キャロルは不思議に恐怖心が失せているのを感じた。
一瞬といってもいいほどのごく短い時間のうちにキャロルは驚くほど多くのことを考え、思い・・・そして決断した。
(今はもう分かるわ。何も遅くはない。私にできること。王子のために・・・王子のヒッタイトのためにできること)
キャロルは静かで優雅な足取りで歩き出した。その気品故か、国王は手出しもできぬまま彼女の姿を目だけで追う。
キャロルは井戸の側に立った。
「姫君っ!なりませぬっ!」
ムーラの悲鳴が響きわたった。
ルカは殆ど何も考えぬうちに走り出した。女主人の言葉が頭の中に渦巻く。
(私一人だけのことですむことなら、いつだって私はこの身をヒッタイトに捧げます)
「姫君!お待ちを!」
その瞬間。
どーんという天地を揺るがす凄まじい音がして、空が赤く染まった。
「何事だっ!地震か、雷か、火事か・・・っ!」
「あ、あの方向・・・油貯蔵庫?!何故?」
「お、王子の奇襲っ?」
兵士が口々に叫ぶ。王の顔は醜く歪み,目は爛々と光った。全ては終わりだ!
いや、違う!まだナイルの姫は手中にある!裏切り者の王子に罰を与えることはできる!
「姫っ、こちらに来いっ!何もかも終わりだ!叩き殺してやる、王子への見せしめだ!」
「いいえ・・・」
キャロルは静かに首を振った。赤く染まる空の下、静謐に満ちたその顔。
28
キャロルは軽やかに井戸の縁に登った。冷たい風が吹き上げて彼女の髪を弄ぶ。
「国王様、終わりではありません。手遅れではありません。やりなおせますとも。何もかも。王子とあなた様は和解なさいませ。争いの種は今、消えます。
・・・許して下さい。私の存在故に狂った諸々の存在に許しを請わせて下さい。
愛していたのです。この世界を。だから私の存在故の歪みのことは考えたくなかった。愛していたのです。この世界の人々を。許して下さい。私は消えます。そうすればきっと秩序は取り戻せます。父と子の理も回復します。
愛していたのです・・・王子を・・・王子のいるこの世界を・・・。
愛して・・・でもどうしたらいいのか分からなくて・・・」
キャロルはそこまで言うと、腰が抜けたようにへたりこむ人々に優しく微笑みかけた。
「王子に伝えて下さいね、愛していますって。哀しまないでって。また逢えるもの。寂しくないわ」
そういうと・・・キャロルは何の迷いもなく・・・井戸に身を投じた。
狭い狭い深い深い井戸。落下の風が彼女を無限の奈落へと誘う。
底知れぬこの井戸の彼方にあるのは・・・。
朝日が、彼女が消えた井戸に目映い光を送った。忌まわしい井戸はまるで神の祝福を受けているかのように
短い決戦。長い混乱。悲しみ。絶望。新たな王を喜ぶ人々。失われた命を嘆く途切れることのない潮のような声。
イズミル王子は父国王を廃位し、王位に昇った。王は自分の犯した罪の重さに戦き完全に正気を失った。
その王に独断で毒を盛ったのは神殿の高位神官。神の娘を自害に追い込んだ人間が生きながらえては、国全体が禍を被るであろうと考えて・・・。
神官は何の咎めも受けなかった。
国の秩序は素早く回復され、イズミル王はヒッタイト中興の祖と称えられた。
(だが・・・私は姫を・・・一番大切な姫を守れなかった。私を守るために逝った彼女。もっともっと生きて・・・人生を楽しむことができたであろうに)
だがイズミルは悲しみに自失することはなかった。人から聞いたキャロル最期の言葉が彼の理性をかろうじてこの世に止めていた。
29
(愛しているわ、哀しまないで。また逢えるのよ・・・)
老いたイズミルはあの井戸の側にただずんだ。それが日課であったから。
結局、というか当然というべきかキャロルの遺体は見つからなかった。どんなに長い縄を落としてみても、先端が底に触れる気配すらなかった。
キャロルが逝った夜明け、井戸は朝日に照らされ輝いていたとムーラは涙ながらに言った。とてもとても美しく金色に輝いていた、と。
イズミルは思う。
きっとこの井戸は母親の胎道そのものだったのだと。キャロルは胎道をするりと滑り降りていったのだと。
朝日が金色に井戸を染めた瞬間、キャロルはきっとどこか別の母親の許に生まれ変わった、と彼には妙な確信があった。
それはあるいは母女神の許であったのだろうか?それとも・・・人間の娘として、当たり前の人間の娘として生まれなおしただろうか?
神の娘よと賞賛されることを嫌がるような素振りさえ見せていたキャロル。
(そうだな・・・きっとそなたは当たり前の人間の娘として生まれ変わったのだ。そして何時の日か、当たり前の娘として私の前に現れてくれ。どのような姿形をしていても私にはそなただと分かるから・・・)
王は井戸を優しく撫でた。義務として側室を召しだし、王家のために子を生ませたが彼は生涯、キャロルだけしか愛さなかった。
「姫・・・愛している・・・」
「ライアン、ロディ。見て、今日からあなた達の妹になるキャロルですよ。可愛がってやってね・・・」
リード夫妻は二人の息子に1才になったばかりの女の子を紹介した。兄弟の従姉妹であった幼女は両親を失い、今日から妹になる。
キャロルは嬉しそうに喉をならしてライアンに手を差し伸べた。
(ずっとずっとあなたに会いたかったの!大好きよ!大好き!)
ライアンはにっこり笑って赤ん坊を母親から抱き取った。
「ずっと会いたかったよ。今日からはずっとずっと一緒だからね・・・」
キャロルは笑ってライアンの唇に自分の口を押しつけた。
(王子、ほら、私たちまた逢えたわ)
(姫、今日よりはもう離れぬ。よいな)
終わり
長い話におつきあい下さいましてありがとうございました。(途中でタイトルが「ヒッタイト」になってます。ごめんなさい。)
何とも暗い話でした。結局キャロルは死にますが、最後の最後にとってつけたようにライアンがイズミルの生まれ変わりで〜という落ちをつけました。
本当にわかりにくい話だったと思います。にもかかわらず暖かなお言葉をくださった皆様、ありがとうございました。
読んでくださってありがとうございました。
ヒッタイトお家騒動作家さま、感動いたしました(涙)
ライアン→メンフィス説が定着しつつある中、とても新鮮でした。
毎日続きを楽しみにしてたので、終わってしまって残念ですが・・。
また新作を楽しみにしています。
作家様方の素晴らしい作品がたくさんで毎日幸せでございます。
1ROM人さまのサイトで永久保存していただきたい・・・
>>207 ヒッタイトとの交渉のため首都より王弟ネバメンが派遣された。だが進行はイアンが予測したとおりはかばかしくなかった。
イライラと周囲に当り散らすネバメンの様子を聞いてイアンはミヌーエ将軍達もご苦労なことだと部下を相手に気楽なことを言っていた。
だがカームテフ老人の娘の墓が妙な荒らされ方をしていたことが分かりごたごたに巻き込まれた。
報告によるとその墓はもともと朽ちかけていたのだが誰かが故意に崩した形跡がある。
副葬品はほぼ残っているし、棺は暴かれていたがミイラは無事だった。
普通なら包帯にはさまれる高価な護符を目当てにはがすか酷いときは解体される。
そして棺に入れたはずの先王下賜の書状と短剣が無くなっているのだ。
これらの事から推測できるのは誰かが書状と短剣を持ち出し我が物とし、証拠隠滅のため墓を破壊した。そしておそらく暴いたのは・・・。
カームテフ老人は密かに投獄という形で保護された。
証拠の無い憶測は妄想に近い。ネバメンは神殿勢力と結託しその力は侮れない。王子の暗殺なり反逆なりの明確なそれをつかむ必要がある。
イアンと副官フナヌプは口止めのためという理由でミヌーエ達の幕舎に留められ、特にイアンには詳しい事情が話された。
そしてイアンはイズミル王子を案じてテーベから密かに来ていたルカを利用し、下級悪魔も寝込んで魘されるような悪辣な陰謀で問題を片付けた。
>ヒッタイトお家騒動編作家様
とても素晴らしいお話をありがとうございます。
毎日井戸の側でたたずむ王子の気持ちを思うと泣けてきました。
王子には不幸が良く似合う、とはよく言ったもの…。
次回作も期待してます、ぜひご降臨くださいませ♪
>生への帰還
次は『下級悪魔も寝込んで魘されるような悪辣な陰謀』をやってくれるイアンでしょうか?!
なんだかハッピーエンド方向に行きそうなんですが、それでも悲劇なんでしょうか。
どちらにしても楽しみです。待ってますよ。
「ヒッタイトお家騒動編」作家様
毎日楽しみにしていました。ステキな作品をありがとうございました。
次回は是非王子にお腹いっぱい幸せを味あわせてあげてください。
誰でも一度捕まると王子無しでは生きられないと思わせる
魅力と技を王子はお持ちだと信じつづける、アホ?な名無しより
>>226 3
(ナイルの娘・・・か)
イズミル王子は暗い寝室の中で、夕暮れの邂逅を無限に反芻していた。
ファラオの寵姫だと思っていた。手練手管で男をたらし込む妖艶な美女だと思っていた。つまらない女だと思っていた。
胡散臭い女だと思っていた。
それが。
実際に見かけたのは妹ミタムンよりはるかに年下と思われる少女だった。同じ人間だとは思えない可憐な容姿。
女慣れした王子の目には無邪気で不器用な子供のように―ただしきっかけさえあれば大輪の花を開くつぼみだ―見えた少女。
(参ったな・・・。あんな少女だとは思わなかった)
(あれは誰・・・?)
キャロルは寝台の中でいつまでも目を開けていた。夕暮れ時に見かけた男性。
真昼の砂漠のように輝く明るい色合いの髪。同じ色調の瞳。エジプト人よりは明るい肌の色。長身。整った容貌。
(一瞬、兄さんかと思うほどだった・・・)
キャロルはライアンに似た男性のことをいつまでも考えていた。
翌日。王宮全体が午睡を貪る真昼時。メンフィスの意を受けた侍女監視の目を逃れてキャロルはそっと水浴を楽しんでいた。
たった一人、一糸纏わぬ姿で水と戯れるキャロル。この上ない息抜きだった。
(!・・・ナイルの姫か・・・!何とまぁ・・・)
午睡の習慣には馴染めず、何とはなしに昨日の奥庭に入り込んだ王子は植え込みの影で密かに唾を呑み込んだ。
幼い顔立ちと釣り合う幼い体つき。だが白く華奢な身体つきは、やはり男心をそそるものだった。
手に入れてちょっと手を加えてやれば驚くほど美しく変貌してみせるだろう。
やがてキャロルは水から上がると、手慣れた様子で衣装をつけた。しばらくぼんやりしていたが、
やがて振り返って王子の姿に気付く。
(ま、まさか・・・全部見られた?!)
声も出ないほど恐れおののくキャロルにしかし王子は優しく話しかけた。
「また会ったな。午睡はせぬゆえ散歩に出てみれば、そなたを見かけた。そなたも眠れぬのか?」
王子はキャロルの水浴をのぞき見たことなど、おくびにも出さず言った。
「一人で外に出ることは許されておらぬらしいそなた。そっと戻れ。このことは口外せぬ」
4
次の日の同じ時刻。キャロルと王子は同じ場所で再会した。
「あ・・・」
出逢いを期待してやって来たのに、いざ王子を目の前にすると何もしゃべれなくなったキャロルに王子は親しげに話しかけた。
「また会えた・・・。逢いたいと思っていた。そなた、名は?どこから来たのだ?」
王子は同時に昨日、キャロルが落としていった造花の髪飾りを手渡してやった。白い手は、王子の手に触れるとみるみる桜色に染まった。
「あ・・・ありがとうございます。困っていたの」
(驚いたな、これは百戦錬磨の寵姫どころか世間知らずの小娘ではないか。男慣れしていないにしても・・・王宮にいればおのずと世慣れてきそうなものだが。
本当の箱入りか、私でも騙されるくらい上手なカマトトか?)
しかし辛辣なことを考えながらも王子はキャロルを観察するのを楽しいと思った。
王子は自分の正体を明かさぬまま、キャロルとの短い逢瀬を楽しんだ。優しく包み込むような王子にキャロルは親しみを覚え、
急速に惹かれていき問われるまま、自分のことや故郷のことを語った。
「ふーん・・・。そなたは何だか王宮暮らしが楽しくないようだな。そなたくらいの年の娘なら華やかにときめいた王宮は天国のような場所だと思うが。
・・・あー、それに何というか・・・メンフィス王の側近くで仕えたいという娘が巷には溢れかえっているようだが」
「私は家族のところに帰りたいの。皆が皆、メンフィス・・・いえ、王宮で暮らしたいとは思っていないわ。華やかかもしれないけれど気が休まる暇もない窮屈な嫌な場所。
私は嫌いよ」
キャロルはそう言ってから、さすがに言い過ぎたと思ったのか付け加えた。
「結局は人それぞれよ。王宮が向いている人から見れば私の言いぐさなんて鼻持ちならないと思うわ。どっちが正しいなんて言えないわ。人それぞれ、よ」
「ふーん・・・。面白い娘だな、そなたは。そなたのような娘は初めてだ」
奥庭での逢瀬は続いた。お互いに他愛ないお喋りを楽しむだけで、色めいたことなど何もない。キャロルは兄のように優しく話を聞き、珍しい旅の話などをしてくれる
イズミルを慕うようになっていた。王子は頭も良く、立派に自分の話し相手を勤められる少女の機知や知識、言動の端々から窺われる穏和な優しさに、気付かぬうちに
恋の病を深く患うようになっていった。
シリアス路線もいいけれど、ヤパーリ古典的ラブラブストーリーのほうが安心して読めていいやと思う私は真珠夫人の好きな主婦です
マンネリと罵られようとも、離れられない路線ってあるよね。
殆ど水戸黄門スキーなお年寄りの心理だけど。
私も安心できる古典的路線スキです。
>「出逢い」作家様
いきなり奪うではなく優しく見守る王子も新鮮です。
これから甘甘な展開になることを期待してます。
めんひすの立場は!?
>出逢い
昼メロ路線でしょうか。
キャロルがちいともメンフィス好きではなさそうで、どうなるんでしょう?
とても気になります。
>>241 5
20代半ばを過ぎてまだ独身の若者と少女のおままごとのような語らいは始まって3日とたたぬうちに女王アイシスの知るところとなった。
(あれは・・・キャロルとイズミル王子?!何故にあの二人が一緒にいる?
・・・いや、これは良い機会じゃ。邪魔なキャロルを消すための、な)
アイシスは午睡の頃に庭に出る王子の心を見抜いていた。キャロルがまだメンフィスの心に応える気がないことも知っていた。
アイシスはメンフィスが熱愛するキャロルを遠ざけるために、イズミル王子にでも彼女を呉れてやろうと考えたのだ。
エジプトのために・・・ヒッタイト王子の酔狂をかなえてやるのだ。
そしてそれは自分自身のため・・・。
(メンフィスにはこれ以上、女人はいらぬ。私と・・・ミタムン王女で充分じゃ。いえ・・・メンフィスには私だけいればいい。
兄王子がメンフィスが寵愛するキャロルと通じていたと知れれば彼女とて大きな顔をしてはおられぬ。うまくいけば厄介払いできるではないか。メンフィスとて如何にキャロルを庇おうとも姦通は大罪・・・キャロルは死ぬ!)
「イズミル王子。そなたは金髪の娘が欲しいのでしょう?今宵、そなたを彼女の寝室に案内いたしましょう。後は・・・」
夜。小宴の席を下がって回廊を行くイズミル王子にアイシスは直裁に切り出した。
「知っておりますよ。私だけはね。そなたとキャロルが会っていることを」
「・・・そなた・・・アイシス・・・?」
王子を取り巻く生臭い思惑が、彼の欲望と理性を責め立てる。
王子は蛇のような笑みを浮かべるアイシスの黒曜石の瞳を凝視しながら素早く考えを巡らせた。
(なるほど。あの姫がファラオの寵を独占すればアイシスの地位が危うくなるは必至。アイシスはそれを見越して我が心を利用するか。
ファラオに熱愛されるあの娘がエジプトにあれば・・・第二王妃となる我が妹の立場はどうなる?それにあの姫はファラオを嫌っているらしい。このまま伏魔殿のようなエジプト王宮に置いておくよりはむしろ・・・。
我が願いは成る・・・か?あれほどまでに欲しいと思った姫はない。あの姫を我がものに!アイシスが我が心を利用する気なれば、操られてやりもしよう)
為政者としての冷徹な思考に紛らせながら恋に溺れる若者は自分の望みを叶える可能性に飛びついた。
6
「ふ、よかろう。そなたの茶番につきあってやろう。だが・・・女王アイシスよ!ヒッタイトの王子を愚弄するような真似は許さぬ!」
「全てはそなた次第じゃ。」
アイシスは冷然と言い、夜更けの回廊を先に立ち、王子をキャロルの寝所に導いた。
王子はそっとキャロルの部屋の扉の内側に歩み入った。月光と常夜灯に照らされた部屋は存外質素で殺風景だ。侍女の部屋のような、といえばいいだろうか。
メンフィスに執着されている神の娘とはいえ、宮殿の奥向きを司るのはアイシス。恋敵に何故、贅沢で心地よい居室を与えねばならない?
キャロルは最低限のものしか与えられていなかった。メンフィスに呼ばれたときに着る衣装以外は質素である。ほの見える今着ている夜衣もすり切れたような荒いリネンのもの。本当なら薄くしなやかな紗をまとうであろうに。
「誰・・・?」
人の気配を感じたキャロルが素早く身を起こす。月明かりに浮かび上がる大きな影。
「静かに・・・静かに。姫よ。私だ。私はそなたを・・・」
愛しているのだ、助けたいのだ。そんな言葉がキャロルの耳に届いたかどうか。
「そなたを迎えに来たのだ。そなたはここにいるのは辛いと申したな。私が・・・そなたを連れて行く!そなたを幸せにできるのは私だけだ」
私はメンフィスから愛する娘を奪って鼻をあかしてやるのだ、妹王女の恋敵を騙して奪ってやるのだ、と自分に言い聞かせていた王子。
だが薄明かりの中に白々と浮かび上がる小柄な姿を見て、完全に強がりの仮面は落ち、初めての恋にのぼせる若者に成り下がってしまった。
(あ・・・!この声!庭で会ったあの人!どうしてこんな夜更けに?何を言ってるの・・・?)
「いや!誰か・・・誰・・・か!」
王子は無遠慮にキャロルの寝台に近づき、少女を抱きしめた。
今回の王子は既成事実をさっさと作る甲斐性があるのでしょうか?(笑)
>248
そうあってほしいという願いはあるけれど、
そんなのは王子じゃない!と思ってしまう複雑な心境・・・
本当に惚れた女には指一本触れられないリア厨の純真さが王子のセールスポイント。。。
と勝手に思ってみる
「出遭い」作家様
おなか空きましたぁ〜おやつ。。
王子リア厨・・・。
笑ったよー。そっかー、そうだったのかー。
ヤパーリ、王子は同定なうえに厨ですか。
でもいいの。王子だから(爆笑)
ヒッタイトとの戦も終わり・・・様々な誤解も解けキャロルと再び心を通いあわせたメンフィスは、婚儀の日を待つのみ。
だが。メンフィスの心には小さな、しかし鋭い棘が刺さっていた。
ヒッタイトで・・・キャロルはすでに王子に・・・
「さぁ、キャロル。これを」
メンフィスは甘い果汁の入った杯をキャロルに渡した。自分は葡萄酒の入った杯を干しながら、キャロルが美味しそうに果汁を飲むのを見守る。
「あ・・・ら?おかしい・・・わ・・・?」
果汁には眠り薬が入っていた。崩れ落ちるキャロルを抱いて支えるメンフィス。しばらく娘の息づかいを確かめる。
「キャロル・・・キャロル・・・?眠ってしまったか」
メンフィスは扉の外に声をかけた。入れ、と。
小柄な体をさらに小さく折り畳むようにして入ってきたのは王宮付きの産婆だった。王宮で生まれる赤子は全て彼女に取り上げられる。嫡子も庶子も。身籠もった女も彼女に体を見せる。
「さぁ。私の妃となる娘だ。確かめよ。良い子を産めるか・・・そして・・・」
産婆は頭を下げた。王の側にあがる女の身体を改めるのも役目であったから。
寝台に寝かされたキャロルの衣装の裾はメンフィスがめくりあげた。脚は産婆が拡げさせた。
「拝見いたします」
メンフィスも産婆の隣に立ち、キャロルを見つめた。
産婆は淡い茂みを掻き分け、亀裂を押し開いた。色素の薄い未熟な器官が露わになる。産婆の指は更に花弁をくつろげた。甘い匂い。身体の内側に続く泉がすっかりさらけ出された。
その入り口には紛う事なき乙女の封印。メンフィスは体が燃えるように高ぶるのを感じた。
(キャロルは・・・清らかな身であったのだ!)
産婆の拝診も終わり、衣装を整えられたキャロルをメンフィスはしっかり抱きしめていた。自分の醜い猜疑心がひたすら厭わしく、いまはただ詫びるように最愛の少女を抱きしめるだけ・・・。
>>111様のアイデア拝借です
1
「王子・・・」
初めて結ばれて2日目の夜。キャロルは潤んだ瞳で自分を女にした男性を見上げた。身体の芯は未だ鈍く痛んでいるのに、どこか切なく火照っている。
「姫・・・」
王子はキャロルを膝の中に抱いて顔をのぞき込んだ。肌を重ねることを初めて教えられた乙女が控えめに自分を求めている・・・と思うとどうしようもなく体が燃えた。
(散々、私を苦しめた愛しいそなた。今度はそなたが切なく狂おしい火照りを知る番)
王子はことさら優しくキャロルの身体をまさぐった。
「痛むのではないか?昨夜は・・・ずいぶん痛い思いをさせたな。血があんなに出て。少し様子を見てやろう」
王子はキャロルを寝台に座らせ、脚を拡げさせると奥を改めた。すでにそこは火照って充血して切なく潤んで蠢いている。
(これはこれは・・・何と美味そうなことよ。昨日の今日だというのにこんなになって)
王子は散々、弄り回してからキャロルを解放してやった。キャロルははぁはぁと荒い息を吐いて王子を見つめている。
(欲しがっている・・・)
にやりと王子は笑って言った。
「さぁ・・・そなたはまだ慣れておらぬ。私が触れるだけでこんなに恐ろしげに震えて涙して。今宵は安心して休め。そなたが嫌なことは何もせぬ」
「あの・・・」
「ふふっ、触らぬ方が良かったかな・・・?ひょっとして気持ちよかったのかな?だとしたら嬉しいが。好きな女を悦ばせるのは男の愉しみゆえ」
「え?」
「心地よい箇所というのがあるのだ・・・」
王子は腕枕にキャロルを寝かしてやり、敏感な耳朶に自分の吐息がかかるような姿勢で寝入るのだった・・・。
2
次の日もその次の日も王子はキャロルに触れなかった。
(王子に・・・触って欲しい・・・)
王子を待つ一人きりの寝室でキャロルは切ない溜め息をついた。
(はしたないのは分かっている。恥ずかしいことだって知ってるわ。でも・・・あの王子に触れられる感触。王子で私がいっぱいになる感触・・・)
ぞくり、とした感触が背筋を這い登り、脚の間がじんわりと熱くなった。
(王子が触れると・・・)
キャロルの手はいつしか下に降り、寝間着の打ち合わせの間から脚の間を探る。不器用に指を差し入れ、王子が触れた箇所を探す・・・。
(嫌だ・・・何?こんなに濡れて・・・?)
でも。
「ひっ・・・?!」
不意に指先がある箇所に触れ、キャロルは電撃でも喰らったように仰け反った。初めての感触。
「あ・・・ああ・・・?」
キャロルは両腕で自分を抱きしめるようにして寝台に倒れ込んだ。
(何?今のは?あ・・・こんなの王子が触ったときと同じ・・・!)
初めて自分で登り詰めたキャロルを垂れ幕の後ろから凝視する王子の好色な目。がくがくと震えて初めての快感に驚く娘に、男は唐突に声をかけた。
「どうした?姫?そのように震えて。具合でも悪いのか?」
王子はキャロルの手を取って抱き起こした。
「おや・・・?甘い匂い・・・蜜の匂い・・・?姫、そなた一人で・・・?」
キャロルは真っ赤になって逃げようとするが王子はますます腕に力をこめて恥じらい惑乱するキャロルを抱きしめるのだった・・・。
「私を待てぬ娘は仕置きをせねばならぬぞ・・・」
劇終
☆悪魔の囁き☆作家サマ、すっ、すごいです〜眩暈が・・・◎◎◎
その先が気になって仕方ありません。
「劇終」などとおっしゃらずにどうかどうかどうか続きを!!!
あ゛ーそんな王子がたまらなく好きだーーー。
どんなお仕置きするんですかぁ、作家殿?教えてくだされ。(息切れ…
>>247 7
命がけで抵抗するキャロル。だが王子の力は何と強いのか。
急にキャロルの体から力が抜け、ぐったりした。驚く王子の耳に切ない哀しみに満ちたすすり泣きの声が届く。
「い・・・や。何故、こんなことするの。何故、私にひどいことするの。どうして私ばかりひどい目に遭うの?ママ、兄さん、助けて・・・助けて。
お願い、私を放って置いて。行って。嫌い・・・怖い・・・。何かしたら死にます」
王子も我に返り、キャロルの上から身を離した。そして誠心誠意かきくどく。今更、おめおめ逃げ出すような真似もできない。
「泣かないでくれ、姫。私だ・・・庭で出会った・・・いつもそなたと話をしていた私だ。・・・そなたが嫌なら無体はせぬ。
私はそなたを弄び、汚すためにここに来たのではない。初めて逢った時から惹かれて・・・愛しくてだから・・・」
キャロルは無言ですすり泣くばかり。王子はキャロルの細い肩を抱いた手を緩めない。
「そなたは私に言ったな。ここは辛い、と。自由がない、と。私がそなたを連れだしてやる。私を信じてくれ。いい加減な気持ちでそなたの許に来たのではない・・・」
「嘘よ。信じられない・・・。私はあなたが誰かも知らない・・・」
キャロルは彼が王宮にやって来た外国人か留学生くらいにしか考えていなかった。
「・・・私は・・・イズミル。ヒッタイトの王子、ミタムン王女の兄」
7.5
キャロルはそれを聞いて身を強ばらせ、小さな声で、しかし鋭く囁いた。
「王子・・・ですって?あ・・・私を侮辱しに来たの?」
キャロルだってバカではないので、てっきり王子はヒッタイトの国益に反する自分を辱め、必要なら殺すのだろうと考えたのだ。
「違う、違う、姫。私はそなたを初めて見たときから愛しいと思っていた。ファラオの寵姫と聞き、一度は諦めようと思った。でもそなたと話して、そなたがファラオを厭うているを知り、そなたを救いたいと思ったのだ。
身分を明かさなかったのは悪かった。でも明かせば、そなたは怖がって逃げてしまうと思ったのだ」
「嫌・・・嫌・・・恥ずかしいの。見ないで。怖い・・・」
王子の優しい言葉を聞いてか聞かずかすすり泣くキャロル。惹かれていた男性の無体な訪問、粗末ななりを好ましく思っていた男性に見られたという羞恥、王子の身勝手な、でも真摯な告白。全てが彼女を混乱させおののかせる。
8
長い長い時間。王子は静かにキャロルを抱きしめていた。ただそれだけ。粗末な身なりの小さな娘を。殺風景な部屋の中で肌を粟立たせる少女を。
いつしかキャロルも泣きつかれ、黙って、でも身体を強ばらせたまま王子の腕の中にいる。
「姫・・・」
「・・・」
「じき夜が明ける。でも私は・・・ここにこうしていようと思う」
「!」
「私はそなたに指一本触れぬ。私はそなたを心から欲しいと思っているから。
私はそなたが私を憎からず思っていてくれたことがあるのを知っているから。
姫・・・こんな気持ちになったのは初めてだ。私はそなたの心が欲しい。
そなたが家族の許に帰りたがっているのも、メンフィスを嫌って寄せ付けないのも人づてに聞いた。いつも故郷に帰りたいと言っていると。
でも私はそなたを帰したくない。私が・・・そなたが失うもの全てのかわりになりたいのだ」
キャロルはただ混乱している。全くこの男性は強引なのか、それとも優しいのか。夜に人の寝所に忍んできて優しい口説で夜を明かす・・・。
「お願い・・・もう私を困らせないで。本当に私を大事に思ってくれるなら。
こんなことが他の人に知れたら・・・私もあなたもどうなるの・・・?
皆が私を見張っているの。本当に何故、あなたはここに来られたの?」
「私を気遣ってくれるのか?」
見当はずれの喜びに微笑む王子。だが王子はまじめな顔になって言った。
「私は・・・手引きされてここに来た。ふふ・・・そなたを欲しいと思う心に負けてこのような真似をしたのだ」
「て、手引き?」
「そう・・・アイシスが私に申した。そなたを得させてやると。そなたの寝所に通してやる、と」
「アイシス、が・・・」
9
絶句するキャロル。
(アイシスが私を憎く思っているのは知っていたわ。メンフィスから私を引き離そうとこんなことをするなんて。あの人が私を古代に引き込まなければ、私はメンフィスなんかと顔を合わせることもなかったのにっ!
いきさつはどうあれ、メンフィスは私が彼を裏切ったと思って・・・怒って・・・殺すかも知れない。王子だってどうなるか。
アイシスは私を殺そうとして・・・!)
王子は淡々と言った。
「ファラオの執着するそなたが夜に男を引き入れたとなると、そなたも私も無事では済むまい。アイシスはそなたがメンフィスに成敗されてしまうことを期待しているのだろう。
メンフィスからそなたを奪った私も・・・どうなるかな。メンフィスの第二王妃の兄だとはいえ斟酌されまい。アイシスもなかなかやる。きっと部屋の外もアイシスの手の者に見張られていよう。
どのみち我らは明るくなるまで外には出られぬ」
「そんな・・・!ひどいわ。私たち、何もしていないわ。
ア、アイシスもアイシスだわ。私が憎いなら何故、現代に帰してくれないの!
どうして王子、あなたを巻き添えにするの?王子だって・・・そこまで分かっているならここに来ることはないじゃない?」
「言ったであろう。私はそなたを得たいから・・・このような酔狂な真似をしたのだと」
王子はにっこり笑うとキャロルを軽々と抱え上げた。驚くキャロルを抱きかかえ、そのままナイルに面した窓の外に飛び込む王子。
水音が朝靄のナイルを一瞬乱した。
「さぁ、息を吸え。潜って私の部屋の下まで行こう!まさか川伝いに逃げるとは思っていまい」
こうして王子はうまうまと大事な娘を盗んで自分の部屋に帰ったのである。
「出逢い」作家様
かすかに陛下の…いや、乳香のかほりがいたしました。(笑
大好きですこのお話。今日はたくさん読めて幸せです!
私も王子にさらわれたい。。。続きをたのしみにしてます。
ああぁ〜作家様・・・川伝いってじゃあ王子の部屋に着いたキャロルは全身びしょ濡れだ・・・
>262
あは!もしや同志か?!ニヤッとさせられたよ。(握手)
悪魔の囁き作家さまつづきをおながいします。このとおり!(・人・)...そこをなんとか!m(._.)m
王子、まさかあのヒッタイト風カーテン服で飛び込んだの・・・?
金槌キャロルを抱えてよく溺れずに・・・。
悪魔の囁き作家様、続きはヤパーリ マターリ激しく結ばれてしまう男女(鼻血)なのでしょうか?
でも読みたい・・・私もおながいいたしまする〜。
>>189〜
>>190のパオパオです。暫く留守してしまってスマソ。このスレを見失ってしまったうえ
パソコンがぶっ潰れてしまいました。続きなんですが、いいですか?
>>189〜
>>190 「アイシスだ、」
父王はそういうと外にいた小さな男の子と女性2人がアイシスの方へ歩いて来た。
「アイシス、あれがお前の弟のイズミルだ、その横が乳母のムーラ、それと我が王妃だ」
アイシスは少し緊張して「初めまして」と頭を下げた。
「アイシス、よく来ました。なかなか聡明そうな子ですね、これからも良きイズミルの相手になって下さいな」
王妃はそう言うとイズミルをそっと前に出した。先の兵士と同じように髪を束ね茶色い目が印象に残った。
イズミルは恥ずかしそうにアイシスに小さくおじぎをした。アイシスはまだ自分よりも背の小さい王子が可愛く思えた。
幼い2人が慣れるのにそう時間がかからなかった。2人はいつも一緒だった。手をつなぎアイシスが行く所をイズミルが後からついて行く、
周りから見ても本当に仲の良い姉弟だった。
アイシスがヒッタイト王宮に来て数日が経ったある夜妙な夢を見た。
遠くへ行くイズミル、それを追いかけるアイシス、走っても追いつかない、名前を呼んでも振り向いてくれない
やがて黒い影が幾数もイズミルやアイシスの周りをとり囲む。「キャ!!」アイシスは自分の声で目を覚ました。
初めてここに来て怖い夢をみた。アイシスとは反対に隣でイズミルは穏やかな寝息を立てて眠っている。
「夢、、」アイシスは窓から差し込む月光を見つめた。幼い頃からアイシスには不思議な力があった。
今まで予知夢のようなものを見ては大抵は現実となっている。
どうか、先の事はただの夢で有りますように、、、
アイシスは月に祈りそっと自分の手をイズミルの手に重ね再び眠りについた。
悲しい未来、今のアイシス達には想像もつかなかった。
月日は流れアイシスとイズミルは立派な大人へと成長していった。王宮の北西部の台地に大神殿がある。
アイシスはヒッタイトに来てから毎日神殿で祈りをするという勤めがあった。
ヒッタイトの国家女神である「アリンナの太陽女神」−それはヒッタイトの地の神とも呼ばれている−と同時にバビロニヤの偉大な女神イシュタル神も崇拝していた。
アイシスはいつも女神に国の繁栄、穀物の豊作などを祈っていた。
「アイシス様!」ミラが神殿の入り口で呼んだ。
「なんじゃ?ミラ」
アイシスはミラを睨んだ。 最近、ミラがうっとおしくみえる。イズミルの側で仕える侍女分際でイズミルを意識しているように見えるからだった。
アイシスのイズミルに対する感情は、本人も気づかない間に恋愛の感情に変わっていた。
「あ、アイシス様大変です、王子が妙な娘を連れて来たんです!」
「妙な娘?」
アイシスは祭壇から降りて来ると下で控えていたアリはそっと肩衣をアイシスに掛けた。
「何じゃ?妙な娘とは、、?」
アイシスはミラを見た。ミラはアイシスを見ようとせず下を向いたまま話し始めた。
「は、はい、、黄金の髪をもっていて、白い肌、青い目をした娘です」
「青い目、?」アイシスはイズミルがいる王宮へと歩いていった。
は、離して!やめて!」娘の声が謁見の間に響く。
「ほう、、元気のいい娘だ、イズミル、お前この娘をどこで拾って来た?」
ヒッタイト王はその娘を上から下までじろじろと見ながら言った。
「はい、私が情報集めに各地を回っていたところ、この娘が砂漠のあるオアシスで盗賊に襲われそうな所を私が助けました。見るとこの珍しい姿、これに少し興味が有りまして国に連れて来ました。」
「ええ!確かにあなたに助けてもらったのは感謝するわ!でも、私帰らなきゃならない所があるの!それに私には名前が有るの!キャロルよ!分かる?キャロルよ」
その娘はひどく興奮して、今にも泣きそうな顔をしていた。
「キャロル!?」アイシスの中で何か思いが込み上げてくる。
胸騒ぎを覚えながら慌てて中に入るやいなや待っていたかのようにイズミルが言った「アイシス、見よ、珍しい娘であろう?」
イズミルはキャロルの腕を掴み強引にアイシスの前に出した。どこかで会ったことがある、、アイシスは一瞬そう思ったが
どこでかは思い出せない。
「アイ、、シスさん?」キャロルは恐る恐る口を開いた。
「え、、?」アイシスには全く分からなかった。
「何故そなたアイシスの名を?」
イズミルは不思議そうにキャロルを見つめた。
「あなたは確か現代で私の兄さんの助手をしていた、、。そうよねアイシスさん!」
キャロルは自分からアイシスの傍へと歩み寄る。
「私、この時代に来てやっぱり分かったのよメンフィスに対する気持ちが、ああ、私早くメンフィスに会いたい、」
「メンフィス!?」
イズミルがキャロルの言葉を遮った。「こやつは、、?」ヒッタイト王は言葉に詰まった。傍にいた家臣達もその名に驚いき謁見の間はざわついた。
「☆悪魔の囁き☆」作家様
ちょっと出遅れましたが今読ませて頂いて思いっきり感激してます!
他のみなさん同様私も続きが読みたいです。何せ悪魔なもので。(笑
どうかお願いします。(・人・)(・人・)(>人<)
>264さま
カワイイので使わせていただきました。(・人・)
パオパオ様の作品面白いですね〜全く予想もしてなかった設定で。また続きお願いしますね
出逢い 作家様はまだですかー。。。
濡れネズミのキャロルと王子の恋の行く末は?
パオパオ様の作品の設定新しい。これからどうなるのか楽しみです。
アイシスとイズミル王子にはせめてここだけででも幸せになって欲しいです。
>>261 10
「さて、と。すっかり濡れてしまったな。隣が湯殿だ。湯は冷めておろうが少し清めて参れ。さっぱりする。
どうした?そんな顔をして。今更、後戻りはできぬぞ。しばらくは私の言うことを聞くのが得策だ」
王子はさも愉快そうに磊落に笑って言った。キャロルは知らないが、普段の冷静沈着な彼からは想像もできない笑顔。王子はかなり浮かれていた。アイシスの裏をかき、キャロルを得たのだ。
王子はキャロルに、自分の寛衣を貸してやった。腰帯で腰を絞り、丈を調節するとどうやらキャロルにも着られそうだ。やがて布にくるまったキャロルが戻ってくる。
「今度は私が湯を使おう。着替えは一人でできるな」
王子はキャロルが心おきなく着替えられるように、わざと席を外した。
ぬるい湯に浸かり、王子はキャロルの裸身を想像して愉しんだ。
「あんな子供をすぐどうこうするほど私は倒錯してはおらぬ。まずは私に慣らさねば。それから・・・」
王子は上機嫌で、半ば自分に言い聞かせるようにひとりごちた。あれほど欲しかった娘が今は自分の手許にあると思うだけで、新しい玩具を手に入れた子供のように心弾むのだった。
「あ・・・王子・・・」
手でしっかり胸元を押さえたキャロルは困ったように部屋の隅に移動した。
王子の衣装はやはり大きすぎた。丈は腰帯で調節しても、肩幅がありすぎて胸元が大きく空いてしまう。袖も長すぎて手が出ない。
「何とまぁ、そなたは小柄なのだな」
王子はくすっと笑うと手箱の中からブローチを取りだし渡してやった。
「これで胸元を留めよ。袖は・・・こちらの留め金を」
王子は狩りの時などに袖をまくって留めておく金具も貸してやった。どちらも王子の身分に相応しい黄金づくりだ。
キャロルは高価な品を差し出され、驚き戸惑ったようだがとにかく当面の必需品ではある。ありがたく拝借してカーテンの後ろに隠れるようにして衣装を整えた。
11
「まこと、そなたは小柄だな。食べる量が足らぬのではないか?」
王子は朝日がまぶしい部屋の中で身の置き所がなさそうにもじもじしているキャロルをからかうように言った。滑稽に大きすぎる衣装も、キャロルの美しさを損ないはしない。
「そんなことより・・・私、どうすればいいの?誰かが来たら何と言えばいいの?そろそろ侍女が私を起こしに来るし私がいないと知れたら・・・。アイシスはこれからどうするつもりか気になるし」
キャロルは気もそぞろで、伸び上がるようにして王子の背後にある窓の外を窺っている。
「何、私の滞在する一角には滅多なエジプト人は入れぬ。食事もヒッタイトから連れてきた私の召使いが持ってくる。
そなたがいなければ、それは大騒ぎになるだろうが先走って心配していては身が持たぬ」
王子がわざと気楽に話してやっていると、扉をノックする音がした。
「王子、お目覚めでございますか?お食事をお持ちいたしました」
「む・・・。昨夜、酒を強いられてな。食事はもう少し後で食べる。給仕は不要。扉の内側にでも置いておくように」
王子がそういうと寝室の扉が細く開けられ、盆に載った朝食が差し入れられ、すぐまた閉まった。
召使いの声に反射的に寝台に飛び込んで布団をかぶったキャロルは恥ずかしそうに王子を見た。
「さぁ、食事にいたそうか。どうした?こちらに来ぬか。うまそうだぞ」
「あ・・・私、いいです。王子がどうぞ」
緊張しているのかキャロルは真っ青だ。王子は立ち上がっていきなりキャロルを自分の隣に座らせた。
「とにかく食べよ。取り越し苦労は不毛だ。駄々をこねるでない、そのようだからそなたはそんなに小さいのだ」
キャロルは目を伏せたまま、形ばかり食事に手をつけた。王子は苦笑しながらキャロルを見守った。
王子はアイシスやメンフィスを如何に出し抜くかを冷静に考え、同時にキャロルをこれからどうやって靡かせようかと楽しい計画に没頭している。
その時、扉の外が騒がしくなった。
「どうした?」
「は、王子。奥の宮殿で何事かあった様子。召使い達が右往左往しております」
12
「な、なにぃっ!キャロルがおらぬだと!どういうことだ?」
メンフィスの苛立たしげな声が奥宮殿に響きわたった。キャロルの寝台がもぬけの空だったと報告した侍女は真っ青になって涙を浮かべている。
「おのれ、一体・・・。ええい、探せっ!逃げたのかさらわれたのか・・・いずれにせよ・・・」
メンフィスは朝に夕に自分に金髪の少女を愛でるのがこの上なく楽しみだった。たとえ自分に靡かぬ相手でも。
人々はざわめく。警備の厳しいここからさらわれた可能性は低い。あの小柄な姫は自分で窓からナイルにでも飛び込んだのではないか?
(キャロルがいない?何故だ?奥宮殿は姉上が監督する場所。不審な者が入り込める場所ではない。警備も万全だ。
・・・では、では・・・。キャロルは逃げたのか?私を嫌って・・・私の側にいるのが嫌だから・・・私が嫌い・・・だから・・・)
哀しみはすぐ猛烈な怒りとなった。
「キャロルを探せっ!探して私の許に引っ立てよ!おのれ、私を愚弄しおって許さぬ!」
アイシスは黙ってメンフィスを見守った。朝、メンフィスの目を盗んで密通したキャロルとイズミル王子は破滅するはずだった。ところが二人はいない。アイシスの手の者が見張っていた廊下から外には出られない。
(ナイルから逃げたか・・・。ふん、食えぬ若者!)
「姉上?どこに行く?」
「イズミル王子の宿舎に。朝からこの騒ぎ。事情をそれとなくご説明しなくては」
13
「王子・・・。アイシス女王がお会いしたいと・・・」
「アイシスが?そうか、居間にてお待ちいただけ」
王子はキャロルをそっと部屋の奥、垂れ幕の後ろに隠すと居間に出ていった。
「これはアイシス・・・。早くからどうされた?」
「白々しいっ・・・!そなた、キャロルを隠しましたな?」
「ふ・・・。そのように顔を歪めて怒ると美貌が台無しだ」
「くっ・・・!」
「そなたは昨夜、かの姫を私に呉れた。もらった物を手許に持ち帰って何の不都合があろう?そなたは私と姫を陥れたかったようだが・・・甘いな。
嫉妬に狂って普段の頭の良さもどこかに失せたと見える」
王子はニヤニヤしながら言った。
「メンフィス王に姫の密通を告げるか?嘘八百を告げるか?」
アイシスは居丈高な王子の態度に怪訝そうに眉を顰めた。王子はファラオの愛しい娘を盗ったという弱みがあるはずなのに・・・?
「アイシス、昨夜の回廊。私一人であったと思うか?護衛もつけず一人歩きをしていたと思うか?
甘いな。すぐ側に忍びが控えていたのだぞ?かの者が証人となろうよ。そなたが昨夜、つけてくれた見張りも・・・反対に見張られていたのだぞ。そなたの手下は我が手の中にあるも同然。何かあれば締め上げて真実を吐かせる。手下の忠誠心がどの程度か・・・楽しみだな?」
無論、半分はったりだ。だがアイシスはそれに思い至る余裕もない。王子は畳みかけるように言った。
「そなたは姫を私に呉れた。呉れたものについてはもう忘れよ。あの姫が邪魔なのだろう?私が・・・二度とそなたの目に触れぬ場所に連れていってやる。
邪魔はするな。そなたはメンフィスの正妃となるのだろう?つまらぬ茶番がばれればメンフィスはそなたを・・・どうするかな?」
>「出逢い」作家様
メンフィスとイズミル王子の直接対決も希望いたしまする(アリポーズ)
気もそぞろに食事するキャロルを見守る王子萌え〜。
育成の初歩は「余裕で見守る」ですよね。イキナリは王子じゃないです。
>>279 禿同(藁)
育成の基本は餌付けだすな。
1
「ふふっ、何と美味そうなことだ・・・」
王子はそう言って新婚の妃の裸体を愛でた。キャロルは顔を両手で覆い、がくがくと震えている。でもその初々しく物慣れない様子とは裏腹に薄い茂みの奥は・・・。
「さて・・・と」
王子は薄く笑うと側のテーブルの上から果物を盛り合わせた皿を引き寄せた。皿の上にはブドウ、メロン、ザクロ、ベリー類が溢れんばかり。
「そなたは小食ゆえ、私が食べさせてやろう。動くことは許さぬ」
キャロルは頭を擡(もた)げて王子を見やった。王子は大きく4つ切りにされたメロンを取り上げた。好色な笑みを浮かべ王子、切り口も鋭い薄緑色の果実。
王子は緊張し逃れようとするキャロルの亀裂を押し開くと、人差し指と親指で敏感な真珠を揉みしだく。真珠はあっというまに大きく固く膨らんで新たな潤みを滴らせた。
キャロルは恐ろしさに身をすくませながら、王子の次の行動を待ちわびる倒錯した気持ちを味わっていた。
そして。
王子はメロンをキャロルの胎内に押し込み、異物を受け入れた身体から緊張が去るまで指で果実を押さえつけ、飛び出さないようにした。
2
やがてキャロルは甘く切ない吐息をついて身体をリラックスさせた。火照ったあの場所に冷たい果実が妙に心地よかった。
「まだ入るな・・・。そなたは貪欲なのだなぁ」
王子は次にザクロを押し込んだ。丸い果実は柔軟な場所に呑み込まれていった。それから王子は小さなベリー類をいくつか押し込んだ。
キャロルの息が徐々に荒く切迫した、それでいて甘いものに変化していった。
すっかり新妻を一杯にしてから王子はその艶めかしく美しい様子を愛でた。
胸の上で固く勃ったサクランボをカリリと噛めば、その刺激に耐えかねたキャロルの中から湿った音と共にベリーがいくつか飛び出した。
(ああ・・・中が熱い・・・冷たい・・・。あんなのを入れられて恥ずかしいのに・・・でも、でも・・・)
誰も知らない王子の嗜好は、キャロルを少しずつ変化させていっている。
「さて・・・私も少し果物を貰おう」
王子はキャロルを押し広げ、果物にむしゃぶりついた。甘い果実と蜜が混じり合い、王子を愉しませる。王子に愛でられるキャロルの声は得も言われぬ妙音となって王子を喜ばせる。
最後のメロンが啜るように胎内から導き出されたとき、キャロルは達してひときわ甘い蜜を迸らせた。
王子はさらに舌でねっとりとキャロルの秘所全体を舐めあげ、幼い身体を苛んだ。
王子が過度の快感で苦しいほどに痺れた身体に入ってくると、キャロルは悲鳴をあげ、意識を失ってしまった。王子は人形のような白い身体を激しく穿ち、快楽を極めたのだった・・・。
END
>>270 アイシスは何も言わずにキャロルに背をむけた。
「ま、待ってよ!アイシス!」キャロルは半分泣いていた。その様子を黙って見ていたイズミルが静かに口を開いた。
「キャロル、そなたしばらくはここに居てもらおう、ミラ、部屋へ案内せよ」
「はい」ミラはキャロルの手をとった。「ちょっと!私をどうするの!?」
キャロルはミラの手を払うと兵士がキャロルの周りを囲んだ。1人の兵士の切先がキャロルに向けられる。
「分かったわ、、行けば良いんでしょう、」そう言うとキャロルはミラと共に部屋を出た。
その夜アイシスは何か思いついたようにミラを呼んだ。「何でしょうか?」「ミラ、私をキャロルの居る所へ連れていくのじゃ」
アイシスはそう言うと先に部屋を出た。「困ります!王子は誰にも会わすなと」
慌ててミラはアイシスを留めるがアイシスは聞かなかった。その強引な態度に半ば諦め「分かりました、、こちらです」ミラはアイシスの命令に従った。
ある部屋の前ですすり泣く声が聞こえる。ミラはその部屋で立ち止まりアイシスにそっと鍵を渡した。
「ガチャ」キャロルは鍵の開く音に驚いてベットから起き上がった。
「アイシス!」キャロルはそう言ってアイシスの方へ駆け寄る。アイシスはキャロルの手を引いた。
「どこへ行くの?ちょっと!アイシス!」キャロルは少し戸惑った。
「ここから逃げなさい!」アイシスはキャロルを裏庭から逃がそうとしている。
「アイシス様!何を!」ミラが慌ててキャロルの腕を掴む。
「離しや!ミラ!」アイシスはむりやりミラからキャロルを離した。
「有難う!アイシス!」キャロルはそう言って裏庭から走り出ていく。
「ア、、アイシス様よろしいのですか?王子がお怒りになりますよ、、」ミラはキャロルの後姿を目で追っていた。
「キャロルの為じゃない。あの娘を見るイズミルの目がいやなだけ。」
アイシスは小さくなって行くキャロルの姿を見つめながらそう言うと部屋へ戻った。
しばらくすると部屋の外が騒がしくなった。きっとイズミルは今ごろキャロルを探しているのだろう。
アイシスは深いため息をつく。「アイシス!」扉が大きな音を立てて開きイズミルがいきなり部屋へ入ってきた。
「なんじゃ?イズミル、、そんな怖い顔をして」「そなた、キャロルを逃がしたな、、何故だ!」アイシスはイズミルを見つめた。
荒々しい息遣いに額にうっすらと汗がにじみ出ている。イズミルには珍しく冷静さが無かった。アイシスはその姿に何故か腹立たしさを覚えた。
「いいではないか、あんな娘」アイシスは何事も無かった様に椅子に腰掛け杯に酒を注いだ。「そなたも少しはいかが?」アイシスはもうひとつの杯を
イズミルに差し出すがイズミルは首を横に振り「私はそなたがどう邪魔しょうともあの娘を必ず手に入れる!」
イズミルは声を荒げてそう言うと部屋をでた。「イズミル!待ちや!」
アイシスは引きとめようとしたが今のイズミルには全く聞き入れてくれそうもなかった。
「こうなるのが怖かったんじゃ、何故先は逃がしたのだろう、殺しておけば、イズミルはあきらめたのに」
先も一瞬だったが姉妹のように仲の良い自分とキャロルが脳裏を過ぎった。時々見る幻覚のような感覚や風景、
夢では無い現実的でキャロルとその家族と思われる人達と楽しく歴史を語っている自分がいる。
「分からない!」アイシスは激しく頭を振り立ち上がり持っていた杯を地面に叩きつけた。
「Ψ(`▼´)Ψ眠り姫な王家」作家様・・・あのぉ、4つ切りのメロンって恐ろしくデカい
のを想像しちゃいましたけど・・・しかも皮付きですか?んなワケない?
ザクロも丸ごと1コですかぁぁぁ!キャロルはいつの間にそんな体にされちゃったのだろう
と驚きつつ王子ならやりかねないと激しく納得しますた。
>>277 14
「そ、そなた、王子。居丈高ではありませぬか?私は・・・私は女王アイシス。メンフィスの正妃としてミタムン王女の上に立つ身ですよ。私を怒らせて・・・王女のためになるとでも思っていますのか?」
アイシスは言い返した。しかし狼狽えて顔は赤らみ、追いつめられているのがよく分かる。
「ふん。我がヒッタイトを侮るか?ミタムンを人質にでもしたつもりか?正妃?ミタムンに勝る気でいるのか。正妃の冠に縋って?
ふふ、そのような地位に拘らねばならぬほど追いつめられているそなたも・・・なかなか艶めかしいな」
王子はアイシスの嫉妬と焦りを見透かして嗤っていた。
「悪いことは言わぬ。このまま去れ!そなたが邪魔にしていたナイルの姫については私が引き受けよう。そなたはエジプトのファラオ メンフィスの第一王妃として君臨するのが相応しい。ミタムンや・・・他の女達と争ってな。
良いか、妙な気を起こすでないぞ。そなたがどういうつもりで茶番を仕組んだかは知らぬ。だが茶番の主導権はこれから先、永遠に我が手の中ぞ。そなたが手出しすることまかりならぬ!」
王子の一喝は嫉妬に狂う女を震え上がらせるには十分だった。
「分かり・・・ました。好きになさるがよい。
ほほ・・・でも最後に言っておきましょう。あの娘、神の娘などではありませぬ。卑しい娘です。心根の悪い娘です。じき、そなたにも分かりましょうよ」
自分が愛した娘への侮辱は、王子をたいそう怒らせた。王子は誰もが震え上がる氷のような声音で答えた。
「そなたは誰よりも醜く卑しい。何故、王家になぞ生をうけたか。何故、メンフィスはそなたを娶らねばならぬのか」
アイシスは唇を噛んで、振り返りもせずに出ていった。身分低い母から生まれたことをこの上ない引け目に感じているアイシスは王子の言葉を何時までも忘れないのだった。
15
「大丈夫か?」
垂れ幕の後ろで真っ青になって震えているキャロルの肩を抱こうとした王子の手はいきなり振り払われた。
「さ、触らないで!私をモノ扱いしてっ!私、ヒッタイトになんか行かない。家に帰るっ!あなたになんて引き受けてもらわなくてもいいんだから。離してっ!」
キャロルはあたりを憚らず声を放って泣いた。少し、ほんの少し惹かれていた青年が自分をモノ扱いしたという屈辱がキャロルを打ちのめした。
自分をさらうようにして大嫌いなメンフィスの許から連れ出してくれた文字通りの「王子様」。
それが。自分は単にアイシスの手からイズミル王子の手の中に投げ入れられた玩具だったのだ。
(いい人だなんて・・・兄さんに似ているなんてほんの一瞬でも思った自分の馬鹿さ加減がいやっ!大嫌い、大嫌い、人を馬鹿にしてっ!)
「大嫌いなんだからぁっ!」
イズミルは寝台に突っ伏して泣く少女を困ったように見ていたが・・・下手に声をかければもっと泣くだろうということは分かり切っていたので泣きやむまで放って置いた。
ややあってキャロルは泣きやんだ。声は枯れ果て、目は真っ赤だ。
「落ち着いたかな」
王子はキャロルに水の入った杯と、濡れた布を差し出した。顔を背けるキャロルの顔をてきぱきと拭いてやって王子は聞いた。
「鼻もかむか?」
キャロルは真っ赤になった。モノ扱いの次は子供扱い!
王子は頓着せずにキャロルの手に杯を押しつけた。
「さぁ、飲むが良い。喉が痛いほどに乾いたのではないかな?あれほど泣いて。ミタムンもよく癇癪を起こして泣いていたな。女の子というのはよく泣く」
キャロルは黙って杯を干した。冷たい水が美味しかった。続いて王子が差し出したパンも果物もこの上なく美味しかった。泣いた後、しゃくり上げながら食べるものはどうしてこんなに美味しいのだろうと思いながら。
16
「さぁ・・・もう泣くでない。そなたをモノだとは思っておらぬよ。愛しいそなたをアイシスから守るための方便だが・・・今は信じぬであろうな。
ま、いずれにせよそなたはここから出ることは叶わぬぞ」
「何ですって?私のことは放っておいてよ。私、家に帰るんだからっ!」
そのまま、「あなたのしたこと、ママに言いつけてやるんだからっ!」とでも言いそうなキャロルに王子は厳しい調子で言い聞かせた。
「落ち着け。今、闇雲に逃げてどうする?外に出た途端、アイシスの手下に殺されるか・・・そうでないとしてもメンフィスに捕まるであろうな。
どちらも運良くやりすごしたとして、その後、無事に家族の許に帰る心当てがあるのかな?難しいのではないか?
そなたは賢いし、なかなか行動力もありそうな気の強い娘だ。そのそなたがこれまで王宮暮らしに甘んじていた・・・ということは、だ。家族の許には簡単には帰れぬと分かっているからではないのか?」
図星を指されてキャロルの双眸から涙が溢れる。
「そなたはヤケになって闇雲に不幸に向かって走っているようなものだ。
何が自分にとって一番良いのか冷静に考えて見よ。アイシスの理不尽な怨みを怖れ、メンフィスの横暴を厭いながら不幸に生きるのか?自分の不幸を呪いながら老いていくか?この王宮で」
キャロルは黙って頭を振った。
「では私の所に来い。そなたを守ってやろう。幸せにしてやろう。
ふふ、そなたのような子供をすぐどうこうするほど女には不自由しておらぬ。ただ・・・困り切って泣いているそなたを放っておけぬ気がするのだ。
よいな?分かったな?何が一番、自分に必要なのかを考えよ。そなたが不幸になったら悲しむそなたの家族のことも考えてみよ。
我が儘は許さぬぞ・・・」
王子は厳しい表情を和らげると、布で涙を拭って頭を撫でてやった。
キャロルは、王子の言うことをもっともだと思い、王子の優しさに縋りたくなっている自分の心弱さを思い、王子に頭を撫でられながらひたすら泣いた。
>「Ψ(`▼´)Ψ眠り姫な王家」作家様
王子ったらすごい・・・。誰も知らない王子の嗜好、の一文に激しく興奮したオニでございます。
>「パオパオ」作家様
えーとイズミル王子はキャロルが好きで、アイシスはイズミル王子が好きで、キャロルはメンフィスが好きで・・・でよろしいですか?
結局幸せになれるのはメンフィスとキャロルでしょうか?どんでん返しな展開希望です。
早く続きが読みたいですー。何か新しい設定で注目一番!なもので・・・
>「出逢い」作家様
甘い甘い展開にうっとりです。ありえない恋物語に萌える夏の主婦は嬉しい限りです。
やはし王子は余裕と包容力と純愛一直線の好青年なのがイメージ。
一度モノにしたらサドもありだけど。。。
「出逢い」作家様、王子はお預けに耐えさせて下さい
>出逢い
余裕でキャロルをあやす王子にモエ〜
王子って「女の子」の扱いに慣れている気がします。
やっぱりミタムンで慣らされたのかな?(w
>出遭い作家様
余裕の王子に萌え〜!!!
柔らかな物言いの中に冷酷さと愛情とが見え隠れするのは素敵です。(うっとり)
続きを待ってますわ。
>王子って「女の子」の扱いに慣れている気がします
なるほど!王子は妹のいる「兄」。メンフィスはアイシスに甘やかされた「弟」。
女性の扱い方の違いはこんなところから来てるんですね。
>>289さま、はいそうです。合ってます。ごめんなさい〜雑な設定で。学校で思いついては
授業中書いてたのでいま読むと訂正するとこ、補足するとこ沢山あるし。他の作者様の邪魔に
ならない程度にこそこそ更新します。(笑)
「ヒッタイト王!ラガシュ王より親書が届きました。」「ふん!」
ヒッタイト王は鼻で軽く笑い、またか、と言う顔でその親書を受け取った。
「イズミル、ここに」
王はイズミルを手招きした。イズミルは今年になってから父王と共に政務に参加していた。
「読んでみよ」父王は書簡をイズミルに手渡した。
「是非、貴方の国で出来る良質の鉄をわが国にお分け下さい」イズミルはそれを読むと首を横に振った。
「私の国の宝をそう簡単に教えられません、断りましょう父上」父王はそれを聞くとイズミルに聞いた。
「では、そなたならどう返事を書く?」イズミルは暫く考えていた。断るには何か理由が必要だった。
「父上、こう返事をすればいかがでしょうか?、、」イズミルは続けた。
「貴方が私に書いてよこした゛良質の鉄゛の事ですが、私どもの倉庫には今良い鉄が有りません。鉄を作るには今は悪い時期です。
しかし私は良い鉄を作るよう命じました。それが出来たなら私は貴方に送るように致します。今は貴方にひとふりの鉄の短刀だけををお送り致します。」
「ん、、。」ヒッタイト王はしばらく考えた。 「よし、その答えでよかろう、」
ヒッタイト王は早速返事を書記官に託した。父王は決してイズミルを誉めなかった。誉めることにより自信過剰になることが怖かったからだった。
自信過剰で国を滅ぼした王を幾人も父王は知っていた。イズミルもそれを知っているのかあまり政務に口出しはしなかった。
一方アイシスはイズミルの帰りを待っていた。あのキャロルを事以来イズミルはアイシスを避けるように王宮には戻って来なかった。
「ミラ!」アイシスは強い口調でミラを呼ぶ。「はい、アイシス様」ミラは深々と頭を下げて部屋にやってきた。
「ミラ、イズミルは最近どうしたんじゃ?全然王宮には来ぬではないか?」
そんなことミラに聞いても仕方が無いのはアイシスにはよく分かっていたが聞かなければ段々とイズミルが遠くへ行きそうで怖かった。
「はい、最近はヒッタイト王の政務を一緒になさってます」
「政務を、、」もうキャロルの事をあきらめて国の為に考えている、、アイシスはその言葉に安心した。
「ではルカもイズミルと一緒に...」「え?ルカ様はエジプトに、、」アイシスの言葉をミラがさえぎる。
「エジプト?」アイシスの声が自然と大きくなる。アイシスの強張った表情に傍ににいたアリはミラに下がれと合図した。
「お、お許し下さい!私はこれ以上分かりません!失礼致しました!」ミラはそう言うと慌てて部屋をでた。
「アイシス様、、実は王子はまだ完全にキャロルをあきらめた訳では有りませぬ。ルカをエジプトに潜入させ、
今や信頼を得てキャロルの専属護衛官になっております。」
「何と!ルカが!?」アイシスは驚いた。そこまでしてキャロルを、、アイシスはその場に崩れ落ちた。
「アイシス様!!」アリはアイシスの体に触れたがその体は怒りで震えている。
「アリ、私は初めてこんなに人を殺したい程憎いと思った事はない、、心が張り裂けそうじゃ、」
床に涙のしずくが落ちた。弱い一面などこの国に来て一度も見せなかったアイシス様が、、アリはアイシスのイズミルに対する感情を確信した。
「アイシス様、少しお休み下さい。」アリはベットへアイシスを連れて行く。「もう下がってよい。後は一人にさせて」
涙声のアイシスに「王子はこのアイシス様の気持ちをご存知なのだろうか、、」
アリはそう思いながらアイシス様の部屋を出ると何やら宮殿が騒がしかった。「誰か!医師を!」
侍女が血相を変えて走って行く。「何か?」走る侍女を捕まえアリが問う。
「お、王子がアッシリアの刺客に腕を、、」「え!」アリは慌ててアイシスの部屋へと戻った。
「アイシス様!大変です!王子が」「何?」アイシスは立ち上がり慌てて部屋を飛び出した。
侍女に連れられアイシスは大勢兵士や従者達がいる隙間を掻い潜り「イズミル!イズミル!」アイシスは夢中に叫んだ。中から王の声が聞こえる。
「これしきの傷で何を皆騒ぐ、、大丈夫だ!刺客はイズミルがしとめたぞ。
さあ、イズミル、自分で歩いて医師の所へ行けい!」ヒッタイト王は冷酷にイズミルを突き放した。イズミルの傍で王妃がうろたえている。
「イズミル!」アイシスは駆け寄った。「手を貸すな!アイシス」ヒッタイト王は怒鳴る。
イズミルはアイシスの手を軽く払うと苦痛に顔をゆがめながらゆっくりと立ち上がった。すでに王子は我慢を教え込まれていた。
「イズミル、、」斬られた腕から血が流れていた。せめて止血でも...アイシスは自分の肩衣をイズミルの腕に巻き抑えた。
イズミルの後を寄り添うようについて行くアイシスの姿に妙に胸さわぎを覚える王妃がムーラと共にその姿を見送っていた。
「うわ〜素敵!」キャロルは輿から外を見る。無事エジプトに戻りこうして平和な日々を今過ごしていた。
目の前に古代の人々の生活が飛び込んで来る。
「こら!キャロル!大人しくいたせ」メンフィスが馬に乗って輿の側に来る。
「だって、、興奮するわよ〜古代の生活を、歴史をまのあたりにしてるんですもの。ジミーや教授に見せたかったな、、」
キャロルはふっと教授の驚きぶりや口癖を思い出した。
「婚儀の前にそなたに民の生活を見せようと思って来たらニヤついておるし、、ほれ着いたぞ。」
メンフィスはそう言うと先に馬を進めた。
「婚儀..私、もうすぐ結婚するのね、何かとても不思議な気分、、」
キャロルは先頭にいるメンフィスを見つめた。ルカはその様子を傍らで見ていたがもはや2人の心が確実に通じ合いこれ以上の偵察は
不要だと思い始めていた。もはや略奪は不可能、、ルカは密書にそう締めくくろうと思った。
「ナイルの娘、ようこそ」キャロル達を監督官が村へ招く。南北に広がった地域で囲壁が有り、ただ1つの入り口が北壁に取付けられ、
その中に通路に面して70軒の家が有る。各戸の間取りはたいてい1列をなし、腰掛けのある部屋、寝室、壁に接して屋上に通ずる階段の
有る台所などの四部屋があり、地下の穴倉もあった。
「今で言えば2DKか3DKみたいね、。」 キャロルは先から独り言や辺りをキョロキョロしていた。
「キャロル、何をまたニヤけている、今日のそなたは変ぞ、、。」
メンフィスはそう言いながらキャロルの腰に手を回した。温かい体の温もり、キャロルはそっと手をメンフィスの手の上においた。
「王もだいぶおやさしくなって」二人の光景に目を細めながらウナスがそっとルカに言った。「ああ、」
ルカはそれ以上は話さなかった。「おいおい、それだけかよ、何か他に言うことは無いのか?」
ウナスはため息をついた。
この新しく護衛官になったルカはウナスにとって退屈な男だった。
「今は任務中だろ?話しは後にしてくれ」ルカはウナスにそう言うとさっさと先に行った。
「何だ??人が話そうとしても休み時間はいつも居ないくせに。」ウナスはルカの後姿を見ながら言った。
「そうだよな、、休みの時はいつも居ないよな、、何やってんだ?あいつ」
そう言えばウナスはルカという人間の素性は全く知らなかった。
「近々メンフィス王とキャロルが婚儀、略奪不可能」イズミルの元にルカからの密書が届いたのはそれから数日後だった。
イズミルは手紙を破りすてた。もはやキャロルは自分の物にはならない。諦めるか?
それとも奪うか、、イズミルは軽い頭痛にベットに横たわると目をつぶった。
>パオパオさん
メール欄に入れるのは、*半角文字*の「sage」ですよ。
あなたのでは、下がらず上がってしまっています。
>パオパオ様
イズミル王子に諦めさせないで欲しいデス。
メンフィス×アイシス、イズミル×キャロルの組み合わせならいらん戦も起きません。
ってそうすると新しい設定が全く生きてこないしー。
続き熱烈キボンヌです!!!!
>>288 17
「さて・・・私は外に出ねばならぬ。そなたはここで大人しくしておれ。このルカをつけておく。くれぐれも勝手は慎めよ」
王子はそう言うとメンフィスとの会談のために出ていった。キャロルに付き従い・・・監視するのは王子の信厚いルカであった。キャロルは呆然と王子を見送った。
「さ・・・姫君。中へ。王子がお戻りになるまでお静かにおくつろぎ下さい」
メンフィスは固い表情でイズミル王子と向かい合った。キャロルは未だに見つからなかった。兵士は街にも派遣され、娘の行方を追っている。
「メンフィス王、どうされたかな?顔色がすぐれぬ・・・」
さりげなくイズミル王子は言った。原因は分かりきっている。自分の部屋に隠れている金髪の娘のことだろう。
(ふん、たかが娘一人にここまで取り乱すとはな。メンフィスは若いゆえ執心も激しいのだろうが一国の王がこれでは)
「いや・・・何でもない」
メンフィスは強いて何気ない様子を装い、王子と政治向きの会談をこなすのだった。しかし心はここにはない。
一方、アイシスも気が気ではなかった。イズミル王子は本当にキャロルを連れていくだけで満足なのだろうか?キャロルの破滅を願い、あの王子の夜這いを手引きしてやったが、命運強いキャロルは王子の懐で守られている。
(全く・・・王子はキャロルを弄んで・・・新たに執心でも生まれたのであろうか?
私を愚弄した王子、恥をかかせた憎い男。キャロルを気に入ったのならそれでも良い。二人して・・・滅ぶがよい!)
18
会談も終わって。
メンフィスとイズミル王子、それにアイシス、ミタムン王女を交えて午餐会が開かれた。二人の女性はあれこれと囀るが、つきあってやるのはイズミル王子ばかり。メンフィスは不機嫌を隠そうともしない。
(キャロル・・・どこに行った?手引きした者があったのか?おのれ、おのれ・・・私をかくも苛立たせるとは!)
その時。
奥宮殿のほうが騒がしくなった。
「まぁ・・・なんでありましょう?客人がおわすのに。我がエジプトの召使いの至らぬこと・・・。何事です?」
アイシスがそう言って立ち上がると侍女が駆け寄ってきた。
「ナ、ナイルの娘が逃がしたのはこの娘でございます!」
(なに?)
王子が怪訝に思い、アイシスを見やると彼女も又、訳が分からないという顔をしていた。
引き出されてきたのは10才になるかならぬかの下仕えの少女。普段からキャロルに親切にしてやっていた少女だった。
「何ぃ、貴様かっ!貴様がキャロルを逃がしたか!」
メンフィスは人目も憚らず激しく少女を打ち据えた。反りの合わない先輩侍女から、キャロルを逃がしたと理不尽な言いがかりをつけられ、訳の分からぬままメンフィスの前に連れ出された少女こそ気の毒というもの。
メンフィスを押しとどめようとする者、少女を詰問する者、右往左往する野次馬、宮殿は大騒ぎになった。
「何だか外が騒がしいわ・・・。何かあったのかしら?」
キャロルのいる部屋にまで外の騒ぎが聞こえてきた。立ち上がって窓の外を覗こうとするキャロルをルカは押しとどめた。
「端近にお出になってはなりません。私が様子を見てきましょう」
ルカが扉を細く開けると、お喋り好きな侍女達の囀り声が聞こえてきた。
「ナイルの娘を逃がした娘が捕まったんですって!メンフィス様がひどくお怒りになって・・・」
19
「何ですって?その娘は何の関係もないのよ?!」
キャロルはルカの脇を素早く走り抜けると、まっすぐに騒ぎの起こっている場所に走っていった。
「姫君っ、お待ち下さい!」
「メンフィスっ、やめて!わ、私はここです・・・」
唐突に現れたキャロルに居合わせた人々は皆、度肝を抜かれた。
顔が腫れ上がるほどに激しく下仕えの娘を責め立てていたメンフィスさえも、その乱暴な手を離したほどに。
アイシス、ミタムン王女は身体に合わない大きすぎる衣装を着けた少女に声を失った。毅然とメンフィスを見つめるキャロルの頬はほのかに紅潮し、美しかった。
そして。
誰よりも驚いたのはイズミル王子だった。掌中の玉よと大切に思っている宝物のような娘―一目惚れの相手だ―が何を血迷ったかメンフィスの前に姿を現した!自分が何に替えても守ってやろうと・・・自分を愛させてみせようと思っているその相手が!
(自殺行為だ・・・!ルカは何をしていたっ?)
メンフィスがキャロルの細い手首を捻りあげた。
「おのれ・・・そなた、今までどこにいた?そなた・・・私から逃げたな。この娘と共謀してっ!」
凄まじいメンフィスの形相に震え上がりながらキャロルは言った。
「私が・・・私が一人で逃げたの。誰も関係ないの。その娘を離してやって。お願い」
メンフィスは細い肩を鷲掴みにして乱暴に揺すりあげた。
「一人で逃げたか・・・。その衣装は何だ?どこで着替えた?まさか、そなた・・・」
キャロルは痛みと恐怖に目を一杯に見開き、引きつったように震えるばかりだ。
「どこで着替えた?どこで手に入れた?そなたは私のものなのに、まさか・・・」
「違うの、違うの。誰も関係ないの。これは・・・これは・・・」
サイズが合わないとはいえ、衣装はしなやかな上質の生地で作られ、金の装身具も身につけている。メンフィスでなくとも男性の匂いをかぎ取るだろう。
(これは面白いことになった)
アイシスはほくそ笑んで騒ぎを見守った。
20
「メンフィス王、我が姫にそれ以上の無体は見苦しい」
メンフィスとキャロルを引き離したのはイズミル王子だった。驚くメンフィスの腕を巧みに捻りあげ、動きを封じると王子は穏やかにキャロルに言った。
「姫、怪我はないか?何故に私の言いつけを守らなかった?」
キャロルは驚いて王子を見上げた。王子は優しく微笑みを含んだ瞳で自分を見おろしている。
(あ?王子?何故?私を庇うの?そんなことしないで。今回のことは私が全部、被らなくてはいけないの)
「キャロル、そなた、イズミル王子と・・・」
嫉妬に狂い、鬼のような形相になったメンフィス。よく見れば、キャロルの衣装はイズミル王子のそれとよく似たヒッタイト風のものではないか。
夜のうちに姿を消した少女が、今、大きさの合わない見慣れぬ衣装を引きかけて現れた。つまり・・・。
「いいえっ、メンフィス。イズミル王子は関係ないの。こんな人、私、知りません。今回のことは全部、私がしたことなの。本当よ、本当なの・・・」
がちがちと歯を震わせながら必死に周りの人間を庇おうとするキャロルの姿は王子の胸に新たな感動を呼び覚まし、メンフィスの激しすぎる怒りに怖れ呆れながら見守る人々をも引き込んだ。
「姫、もうよい。何を隠すことがあろう。そなたは私の妃なのだから」
王子は穏やかな、でも有無を言わさぬ声音で言った。メンフィスを突き放すように解放し、キャロルの細い肩を抱き寄せる。
こやつらは姦夫姦婦じゃ、捕らえよ!アイシスが勝ち誇ってこう叫ぼうとした瞬間。
王子が先手を打った。
「姫は我が妃だ。そなたの姉にして正妃たるアイシスが昨夜、私に姫を与えた。我がヒッタイトのミタムンがメンフィスの許に嫁ぎ、ナイルの女神の娘たるこの姫が我が許に嫁ぎ来るならば、両国の絆は二重となり、よりめでたいであろうと、な」
キャロルはひゅっと息を吸い込むような悲鳴をあげた。メンフィスがいきなりイズミル王子を殴り倒す。
メンフィスと王子の直接対決を書いてくださってありがとぉぉぉぉ(滝涙)
うーん、行方不明だった女性が男物の服着て現れたら、そりゃメンフィス立場ないよな。。。。
黙っていたら王子が全部うまく仕切ってくれただろうにキャロルってばバカ・・・と呟いてしまいました。
1
キャロルとの婚儀を終えた直後、傷を負いアマゾネスの虜となった王子がヒッタイトに帰還を果たしたのはじき冬が来ようかという頃だった。
「王子っ・・・王子・・・!しっかりして。ああ、ひどい傷。どうして・・・こんな・・・。やっと会えたのに・・・」
嘆き悲しむキャロルを将軍が気丈に叱りとばした。
「お落ち着きくだされ、姫君。今は王子の看護をいたさねばなりませぬ。王子は大丈夫でございます。我がヒッタイトのお世継ぎ、姫君の夫君。
姫君、しっかりとご看病を。あなた様のお仕事は王子にご健康を取り戻して差し上げることです」
「ああ・・・そうだわ。ごめんなさい。取り乱したりして」
王子は意識もはっきりせぬままにハットウシャに戻った。道中のキャロルの看護が功を奏したのか、傷は快復に向かっていたが熱が高く、譫言でキャロルを呼ぶばかりだった。
キャロルは侍医やムーラ、他の侍女達に助けられて王子を必死に看病した。
冬の冷え切った空気の中、キャロルは冷水に浸した布で王子の熱い額を拭く。
(王子、王子・・・。どうかどうか目を開けて。あなたに何かあれば私は・・・!)
キャロルは回想する。エジプトからさらわれるように王子の許に来た日。
最初は心許せず、王子を手ひどく拒絶した。でも王子は包み込むようにキャロルを見守っていてくれた。
ヒッタイト各地を王子に伴われ旅した日。いつか通じ合った心。
そして・・・トロイの都への婚儀のための巡幸。あの夜・・・ヒッタイトに怨みを抱くアマゾネスが奇襲を敢行した。キャロルと王子は離ればなれに。
(生きていて欲しいと・・・無事でいて欲しいと気が狂いそうだった日々。やっと私はあなたに会えたの。どうか・・・元気になって)
キャロルは苦い涙を流した。
2
看病の日々は幾日になっただろう。雪が降り、ハットウシャの都も白く染まった。
キャロルは連日の疲労と心労ですっかり窶れ、周囲の人々を心配させた。
(でも・・・弱音は吐けない。王子が元気になって私に・・・もう一度微笑んでくれるその日まで。いえ、王子を次の君主と仰ぐ全ての人々のために、私は命に替えても王子を治してみせるわ・・・!)
キャロルは口移しで薬を飲ませ、体を拭った。日々だけが過ぎていく。キャロルの手はあかぎれの血に濡れ、痛んだ。
そしてやがてキャロルの祈りが天に通じる日が来た。
いつものように口移しで王子に薬を飲ませたキャロルは、口を離そうとして、いきなり強い力に押さえ込まれた。
「!」
「ひ・・・め・・・。本当にそなた・・・か?」
王子のはしばみ色の瞳が、弱々しい、でも確実に生命の輝きを宿した王子の瞳がキャロルを見つめていた。
「ああ・・・そなたなのか?答えて・・・くれ。私は夢を、また夢を見ているのか?」
「王子・・・っ!」
キャロルはそれだけしか言えなかった。愛しい人の胸に縋ってひたすら泣いた。とりとめなく王子に愛の言葉を、今までどんなに辛く心配だったかをかき口説きながら。
王子はこの上ない幸せを味わいながら窶れ果てた小さな身体を抱き寄せてやるのだった。
3
「もう・・・傷はふさがったわ。良かった、化膿したりしたらどうしようかと思ったの。お医者様も、そろそろ普通の生活に戻ってもいいとおっしゃたわ。
さぁ、お薬を飲んで。」
キャロルは器用にイズミル王子の体を起こしてやりながら言った。王子に杯を持たせると手早く寝台に散らかった書類を片づける。王子はキャロルや侍医に嫌がられながら、自室で政務を見るようにしていたので。
「姫、何やら楽しそうだな」
「あら、だって王子が元気になってきてくれているんですもの。嬉しいわ」
「可愛いことをいってくれるな・・・」
王子はほうっと溜め息をついて嬉しそうに微笑んだ。
(普通の生活に戻ってよい・・・か。ふむ、普通・・・ね)
婚儀を挙行したのが夏の終わり。今は真冬。王子の禁欲生活はずいぶん長かった。
その夜。王子に付き添っていたキャロルはいつの間にか寝台の脇の狭い長椅子で眠り込んでいた。
王子や他の人々に気を使わせまいと自室に引き取って休むようにはしていたが、ついつい王子の側でうたた寝をすることが多かった。
夜中にふと目覚めた王子は常夜灯に照らされて眠る妻の姿に体を熱くした。
そっと寝台に抱き上げ、衣装をくつろげ取り去ってしまう。そして自らも生まれたままの姿に・・・。
「う・・・ん・・・?なぁに?」
眠りの中の優しい声音。
「そなたが・・・欲しい・・・今すぐに!」
「え・・・?」
キャロルは王子が何を言っているのか分からなかった。だが直後の情熱的な男の動作が、キャロルに王子の言葉の意味を悟らせた。
「だめよ、嫌よ、王子・・・!恥ずかしいわ、傷に障るからっ・・・!
あ・・・ああ・・・・っ・・・・ひ・・・!」
「もう我慢できぬ。そなたを側近くに見ながら触れられぬのはもう嫌だ」
4
次の日の朝。
キャロルは王子の腕の中で目覚めた。真っ赤になって王子を正視できないキャロル。
「姫・・・どうした?私を見てくれ。私のことなど嫌いになったか?あのようなことをしたから」
心配そうに王子は問うた。もっと大切にその時を迎えたかったのは王子の方もやまやまだったが、昨夜はもう我慢できない衝動に従ってしまったのだ。
「いいえ・・・。でも驚いたの、とても。それに恥ずかしかった。・・・あんな格好を・・・」
涙ぐんで訴えるキャロルのあえかな様子に王子は燃えた。
「我らは夫婦だ。何を恥じらうことがあろうか。私はそなたの全てが知りたいのだ。教えてくれ、そなたを。そなたの暖かい身体を、甘い匂いを、可愛らしい声を、私に与えてくれ」
王子は素早くキャロルを組み敷いた。夜明けの光で徐々に明るくなっていく寝室でキャロルは王子の視線で深く改められ、その身体には荒々しすぎる王子を受け止めるのだった。
「姫君は少しお疲れのようでございます。長きのご看病のお疲れが出たのでしょう。暖かくして汗をおかきになってしばし御安静に」
王子と初めて結ばれた日。微熱を出して寝込んでしまったキャロルを侍医はそう診断した。
キャロルを自分の膝の中に抱きかかえた王子は鹿爪らしく侍医に頷いて見せた。
やがて侍医は下がり、再び寝室で王子とキャロルは二人きりになった。
キャロルの寝間着を取り去ろうとするのに抗うキャロルに王子は言った。
「さぁ、怪我人の私を困らせるな。侍医はもうしたであろう?安静にして汗をかけと。そなたは私に全てを任せておればいいのだ。身体を暖め、汗をたっぷりとかかせてやろう・・・」
>>300 ご指摘有難うございます〜。これでさがったかな??
>>301 いや〜とりあえず諦めモードなんです..でもそれなりの事は書く予定です。
これからも宜しくお願い致します。
"看病"作家さま
微熱を出したときはそうやって治すのですね!薬飲んで寝るよりずっとイイ!
もしよろしければ3.5のお話もおながいします。
「アイシスさん!キャロルは見つかりましたか!?」男がアイシスに詰め寄る。「ま、まだ分からないわ、」
アイシスは首を振った。「ライアン、彼女に聞いても無理じゃよ、彼女も数日間こうして探してくれてるのに現れないんだ、やはり警察に公開捜索してもらおう」
二人の話を黙って聞いていたアイシスは何気なく机の上の本に目をやった。「オリエント史」
アイシスはその本を手に取った。色々な国の歴史が詳しく書いてある。「ヒッタイト..」アイシスは何気なくそのページを
開いた。ヒッタイトの歴史がそこには書かれている、文化、興隆、そして..その先を読もうとした瞬間アイシスの体に悪寒が走った
かと思えば段々気が遠くなり自分の名前を呼ぶ声だけが耳に残った。
「あ!アイシス様気がつかれました?」
「ここは?」アイシスは周りを見る。
「アイシス様、驚きました。神殿で祈祷中に倒れるなど、」アリは心配そうにアイシスの顔を覗き込む。
「何か急に意識が無くなって、その間変な夢を見たんじゃ。」「変な夢ですか?」
アリは首をかしげた。アイシスは先までどんな夢を見ていたか自分が何処にいて何をしていたかアリに説明しようとした、が言葉が出て来ない。
頭では先の風景がしっかりと焼き付いているのに、声にして表現しょうとすると真っ白になる。アイシスはため息をついた。
「とにかく不思議な夢だった。」
「不思議な夢ですか、、アイシス様は生まれながら霊力がお強いのでそう言う夢をみるんですね、それと最近、色々有りすぎてお体がだいぶお疲れのようですね、
今日はもう宮殿でおくつろぎ下さい。」
アリはそう言うと立ち上がり、皆に下がる様命令した。皆が退室して行く、そして部屋にアイシスだけが残った。
「アイシス、少しいいですか?」侍女と入れ替えに王妃が入って来た。
「王妃」アイシスはベットから慌てて飛び起き深く礼をした。一体王妃が私に何の用だろうかアイシスは少し不安になった。
「アイシス、最近元気がないですね、どうしたのですか?母上に会いたくなったらいつでも国へ戻ってもいいのですよ、」
「いいえ、大丈夫です。」アイシスは王妃を席へと促し共に腰掛けた。暫くの沈黙が続き王妃が軽く咳払いをして話しを持ち出した。
「イズミルの事で相談が..」王妃はチラっとアイシスを見た。「王子が何か?」アイシスは努めて平然とした態度で話を聞き出した。
「ええ、私の思い違いなら許して欲しいのですが、アイシス、そなた王子の事を愛してはおらぬか?」いきなりだった。
「え、私が王子を?」「最近そなたを見ていると、その、恋しているような雰囲気が伝わって来るんじゃ」
王妃は困った顔をしている。
「
まさか、私は王子は弟として見ております。弟として放ってはおけないだけです」
アイシスは無理に笑ってみせた。「ならいいのです。少し心配だったものですから
直接そなたに聞くほうが早いと思い来たのです、でも安心しました。これからも姉としてイズミルを守って
良き相談相手になって下さいね、それならば話は早い、私はイズミルにミラがふさわしいような気がして
そなたはどう思う?」そんな話を何も今ここでせずとも..アイシスはそう思いながら考えるふりをした。
よりによってミラを、、アイシスの心臓の鼓動が早くなって来た。ここで落ち着いてなければ王妃はきっと私を国に返すだろう、
そうなれば私は二度とイズミルに、この宮殿に入ることは出来ない、。アイシスは深呼吸をした。
「王妃、まだミラは若いと思います。もう少し王子とつりあう年頃まで待つというのは?私もあの2人なら安心です。」
アイシスは努めて冷静さを保とうとしていた。王妃のイズミルと同じ冷静な眼差しがそこにあった。
試されている、、アイシスは直感的にそう思った。安心したとはいえまだいまいち信じてはくれてなさそうだった。
「そう..そなたの言う通りにしましょう」
王妃はそう言うと立ち上がった。アイシスも慌てて立ちあがる。
「ごめんなさい、休んでいるところを。この話しはいずれ私からイズミルとミラに話します。とにかくあなたも賛成してくれて嬉しいわ。」
そういうと王妃はアイシスの部屋を後にした。
・・・聞いていいですか?>パオパオさん
この話は、あなたが書かれたのですか?
それとも許可を取っての転載ですか?
これと酷似した話を別の場所で読んだ覚えがあるんですが・・・
朝っぱらから勝手に
>>310と
>>311の間の話を書かせていただきました。
作者様の魅力的な世界をぶちこわすかもと危惧しつつ。。。お許し下さいっ!
3.5
王子は真綿のように柔らかに、しかし断固とした力でもってキャロルを押さえつけ、征服者の傲慢さと恋人の優しさの混ざった口調でキャロルに愛を囁く。
怖がらないで。恐ろしくはないゆえ。そなたが欲しいのだ。そなたを私に与えてくれ。そなただってずっと私を待っていてくれたのではないか・・・?
固くならないで・・・恐ろしくはないから・・・脚を開いて・・・ただ私に従え。
王子はキャロルの乳嘴をねぶりながら、馴れ馴れしく脚の間を探った。指先に触れる小さな凝(しこ)りを押しつぶすように弄ればキャロルは悲鳴をあげて震えた。溢れる蜜が王子の指を濡らし、さらに奥へと、内へと誘う。
ああ・・・っ!王子、やめて。私、何だか・・・
駄目だ。こればかりはそなたの望み通りにはできぬ。
王子の指が胎内に忍び込む。一本、二本、三本・・・。苦痛に耐えかねたキャロルの悲鳴に今度は王子の舌が痛みを和らげようとでもいうように、器官をなぶった。
キャロルはもう王子をはねのけようとすることもできず・・・ただ初めての快感に溺れるばかりだった。
やがて。王子がキャロルに押し入ってきた。
痛みと灼焼感を伴う強い違和感は、やがて切ない快感になった。キャロルは涙に濡れて王子の肌にひしと縋るのだった。
その後、王子は幾度もキャロルに挑んだ。キャロルは譫言のように王子の体を気遣う言葉を口にしながら、果てしなく堕ちてゆくのだった。
>>305 20
「メンフィス王、我が姫にそれ以上の無体は見苦しい」
メンフィスとキャロルを引き離したのはイズミル王子だった。驚くメンフィスの腕を巧みに捻りあげ、動きを封じると王子は穏やかにキャロルに言った。
「姫、怪我はないか?何故に私の言いつけを守らなかった?」
キャロルは驚いて王子を見上げた。王子は優しく微笑みを含んだ瞳で自分を見おろしている。
(あ?王子?何故?私を庇うの?そんなことしないで。今回のことは私が全部、被らなくてはいけないの)
「キャロル、そなた、イズミル王子と・・・」
嫉妬に狂い、鬼のような形相になったメンフィス。よく見れば、キャロルの衣装はイズミル王子のそれとよく似たヒッタイト風のものではないか。
夜のうちに姿を消した少女が、今、大きさの合わない見慣れぬ衣装を引きかけて現れた。つまり・・・。
「いいえっ、メンフィス。イズミル王子は関係ないの。こんな人、私、知りません。今回のことは全部、私がしたことなの。本当よ、本当なの・・・」
がちがちと歯を震わせながら必死に周りの人間を庇おうとするキャロルの姿は王子の胸に新たな感動を呼び覚まし、メンフィスの激しすぎる怒りに怖れ呆れながら見守る人々をも引き込んだ。
「姫、もうよい。何を隠すことがあろう。そなたは私の妃なのだから」
王子は穏やかな、でも有無を言わさぬ声音で言った。メンフィスを突き放すように解放し、キャロルの細い肩を抱き寄せる。
こやつらは姦夫姦婦じゃ、捕らえよ!アイシスが勝ち誇ってこう叫ぼうとした瞬間。
王子が先手を打った。
「姫は我が妃だ。そなたの姉にして正妃たるアイシスが昨夜、私に姫を与えた。我がヒッタイトのミタムンがメンフィスの許に嫁ぎ、ナイルの女神の娘たるこの姫が我が許に嫁ぎ来るならば、両国の絆は二重となり、よりめでたいであろうと、な」
キャロルはひゅっと息を吸い込むような悲鳴をあげた。メンフィスがいきなりイズミル王子を殴り倒す。
21
「おのれ、イズミル!何を申すかっ!キャロルは我が妃となる娘だ。誰が貴様などに渡すかっ!姉上がそのようなことをするはずがない、私が許さぬ!」
「やめてっ、やめてっ!メンフィス、全ては私一人が企んだことです。この人は関係ないの。お願い、やめてっ!」
キャロルがメンフィスの腕に縋った。メンフィスは怒りにまかせてキャロルを力一杯突き飛ばした。キャロルは人形のように石床に叩きつけられ、動かなくなった。
だが次の瞬間にはメンフィスがイズミル王子の鉄拳に倒れ、床に叩きつけられた。
周囲の人々は突然の乱闘に驚き、為すすべもない。
(ナイルの娘はイズミル王子と通じたのか?何と大胆な・・・)
(だが王子はアイシス様が娘を与えたと言われたぞ。アイシス様が邪魔な娘を・・・?)
(ああ・・・全くあの黄金の髪の娘は厄介ぞ。ファラオはあの娘のこととなると正気ではなくなられる)
キャロルがメンフィスの思い人であり、しかし彼女の方はメンフィスを怖れ厭うていること、そしてメンフィスは異母姉アイシスの熱愛を受ける身であることをよく知る人々は困り果てて目の前の修羅場を見守った。
イズミル王子はメンフィスに馬乗りになり、動けぬように肩関節を固め、喉元に手刀を突きつけた。ただならぬ殺気。
「私を侮辱することはヒッタイトを侮辱することとなる。我が妃を侮辱することは妃が未来に産み出す我がヒッタイトの未来を辱めることになる!」
アイシスが叫んだ。
「やめてください、イズミル王子!メンフィスは何も知らぬのです!」
最愛の男性の危機に、冷酷な策士であるアイシスの仮面が剥がれ落ち、愚かにも恋に狂う女の貌が露わになった。
「・・・メンフィス、キャロルは・・・イズミル王子の妃なのです。
神のお告げを受けた私が・・・独断でことを進めたのです」
「出逢い」作家様いやん、お話の20がダブってますわっ!
それに今日は週末です…もぉすこぉ〜し続きを読ませていただけませぬか?
>317
ずっと見ないフリしてたのですが、やはりあなたもそう思われますか?
317,322様>某HPで許可とりました。ご本人が未完成なので私がちょっとアレンジして書いてます。
先にここで一言断っておけば良かったです。不愉快な思いをされたなら申し訳ございませんでした。
>321さま、すみません。ご指摘の通りです。教えて下さってありがとうございました。
>>320 22
「姉上・・・いや、アイシス。先ほど申したことはまことか」
ファラオの寝室。傷の手当も済ませ、寝台に横たわる若い王は異母姉を厳しく冷たい視線で縛り付けた。
先ほどの騒動―キャロルをめぐるメンフィスとイズミルの争い―は一応の集結を見、居合わせた人々には厳重な箝口令がひかれた。
キャロルはイズミル王子の腕に抱えられてヒッタイト王子のための宮殿へと運ばれた。
これだけを見ても、もう・・・勝負は明らかであった。女神の娘は異国の王子を選んだ・・・!メンフィスには耐え難い屈辱であった。大勢の前でうち倒され、あまつさえ最愛の娘まで奪われたのだ。
「・・・許して下さい。メンフィス」
アイシスは哀しい声音で最愛の―でも決して自分を見てはくれないつれない男性―メンフィスに言った。幾度も繰り返した言葉。
許して下さい、あなたの誇りをうち砕いたことを。
許して下さい、あなたのおそらくは初めての恋をうち砕いたことを。
許して下さい、許して下さい、許して下さい、あなたを愛する私を。
私はあなたを誰にも渡したくない。そのためなら何でもします。
私は愚かで、そなたしか見えぬ。そなたしか愛せぬ。そなたが一番嫌う類の女です。でも運命と国法が決めたあなたの妃です。異母姉です。
でもその言葉は決して美しいばらの唇の外に漏れ出すことはなかった。
アイシスは自分を拒絶する手を唇に押し当て、ようやく言った。
「許して下さい。でも、そなたとエジプトを救うためにはやむをえない事だったのです。
神が私に告げました。金髪の乙女をヒッタイトの王子に、と。ナイルの女神の娘はラーの子たるあなたに禍をもたらすだろうと。どこか遠くにやってしまえばいいと。
私は恐ろしかった・・・神の声が。だから昨夜、王子にキャロルを与えました」
メンフィスはアイシスを睨みすえた。愛情のかけらもない果てしなく冷たい瞳。
「誰が本気になどするものか。お前は私がキャロルを愛するのが気に入らず、嫉妬に狂ってキャロルをヒッタイトの獣に投げ与えたのだ」
23
「気付いたか?まだ起き上がってはならぬ。強く頭を打ったのだ。しばらく安静にいたせよ」
脳震盪を起こしたキャロルが意識を取り戻したのは夕刻のことだった。ぼんやりと王子の心配そうな顔を眺めていたキャロルはじき、先ほどの騒ぎを思い出した。
「王子っ!何故、私はここにいるの?さっきの騒ぎは?私、メンフィスに説明して・・・」
「説明してどうするのだ?」
王子は起き上がろうと藻掻く身体を優しく寝台に押さえつけながら聞いた。
「言ったであろう?そなたは私の妃だと。メンフィスもそのことは分かっている。後は・・・アイシスがあの若者に説明してくれるだろう。そなたは何の心配もせずにいれば良い。
・・・そうだ、何か飲むか?頭の瘤の湿布を替えてやろうか?」
王子に優しくあやされながら、キャロルはなおも頑固にここから出ていくと言い張った。
「だって私のせいで皆に迷惑をかけたのよ。あの召使いの女の子はどうしたかしら?居合わせた人たちは何て言っているかしら?
ねぇ、王子。私、ここにいるわけにはいかないわ。あなたに・・・私に優しくしてくれたあなたに迷惑をかけてしまう。それにミタムン王女!私のせいであの王女様の立場が悪くなったらどうするの?
アイシスにも・・・メンフィスにも謝るわ。そして・・・家族の許に帰るか、ここを出ていくかどちらか・・・とにかく皆に迷惑をかけないように・・・」
「まぁ、何と変わった方かしらね。私のお兄さまが妃にしてくださるというのに嫌なの?メンフィス様が本当に嫌いなら、ヒッタイトへ行けばいいのに。
エジプトに残りたいならお好きに。あなたが束になったって私には勝てませんことよ」
辛辣な声の主はミタムン王女だった。
24
「おお、ミタムン。勝手に入ってくるとはよくないな」
「だってお兄さまがご執心の姫の顔が見たくて。皆が噂していますわ。これまで女っ気のなかったお兄さまが恋に狂われたと。大丈夫ですの?
・・・ああ、私の方は大丈夫ですわ。メンフィス様のお見舞いにも参りました。アイシス様は死人のようなお顔の色」
ミタムン王女はキャロルをじろじろと品定めした。二人の優れた若者を虜にした娘にいわれのない先入観を持っていたのだが、兄王子が大切にする娘はほんの子供。赤ん坊のようにあやされながら、おめでたい訳の分からないことを言って人の心配ばかりしている。
(私の敵にはならぬ娘。お兄さまがご執心だというけれど・・・。いずれにせよ、エジプト王宮からいなくなってくれるなら私もお兄さまに協力するわ。メンフィス様だって説得して見せますとも!)
ミタムン王女は椅子に座るとキャロルと兄を交互に見ながら、今の王宮内の様子を教えてやった。
メンフィス王とアイシスの決裂の傷の深さは並大抵ではないこと。
メンフィスはキャロルに執心するあまり、今は金髪の娘に憎しみすら抱いていること。
「・・・でもね、お兄さま。臣下の者達はアイシス様のお言葉を信じる方に傾いていますのよ」
「まことか?」
「ええ。この姫がいれば宮殿が荒れるのは必至ですもの。正直、典礼や外交を無視して女神の娘を求めるファラオに皆、困り果てていたのですわ。そちらの姫はファラオを好きではなかったということですし・・・ね。
イムホテップが、ファラオへの上申書の草案を作っているようです。神のお告げに従って、そしてエジプトとヒッタイトのためにナイルの娘を赤い河の国ヒッタイトへ嫁がせるべし・・・ってね」
ミタムン王女は狡猾な、でも魅力的な微笑を浮かべた。
「私はお兄さまの味方ですわ」
「出逢い」作家様
厚かましいお願いに応えてくださってどうもありがとうございます。
今日もたくさん読めて幸にございます〜それでもまだ続きが気になりますが…
これからも楽しみにしてます。
>「出逢い」作家様
素早いレスポンスに感謝ですわ〜。結局メンフィスは失恋なのね。
王子に頭の瘤の手当して貰うキャロルに萌え〜。
>パオパオ様
続き楽しみにしています。でもここは2ちゃんですから(嫌な言い方でごめんなさい)ヨソのサイトのネタですって公表するのもどうかと・・・。
出所を聞かれて答えただけなので構わないと思われ
前回「下級悪魔も寝込んで魘されるような悪辣な陰謀」と大げさにかいてしまったもので続きを書きにくくして自分の首絞めたのは私です。
>>236 イアンが行ったのはまず、一見実行可能なクーデター計画を立て、ネバメンに提示してヒッタイト皇位継承候補者の一人にそれを送らせる事だった。
まず滅びの予言にかかわらず一番の有力候補であるイズミルを抹殺するため他の候補者と手を組み交渉に乗ったと見せかけイズミルを引き取りその後盗賊なり戦闘なりで戦死したように見せて抹殺。後は共謀者もひそかに抹殺すればよいというものであった。
他の候補者に接触しているのではない理由付けは交渉の役に立たない重要人物を放擲するのが優先され、あとはこちらもごたごたがあることを示唆した。
ミヌーエ達はイアンが王に対する憎悪からネバメンについてしまったのかと落胆していたが彼は既に次のことを考えていたのである。
ネバメンたちがヒッタイトとの交渉を片付けたら次は王の追い落としを図るだろうそれについていって出世を図るのもいいがミヌーエたちが自分を引きとめた理由は早晩向こうにもばれるだろう。
そうなるとあの猜疑心に満ちた男に再び抹殺される危険が出る。それがなくとも国民の反発を神殿と共に買っているあの男の政権が長く持つとは思えない。
どの道ごたごたは続くだろうからヒッタイトにも内部騒乱は続けて欲しいところだ。
イズミル王子の政敵からの脱出をどうするか。向こうの勢力下でなければ操り人形にしたいヒッタイト王族にも必要以上に早期に離反される。
キャロルにずっと付き添っていたはずのルカがウナスに面会に来たのはその頃だった。
>生への帰還
お久しぶりです。
待ってました。
…イアンてば、やっぱりメンフィスの子供なんだなと思いました。
ちゃんとエジプトのことを考えていると言うか。
1ROM人サマのHPってその後どうなったのでしょう・・・?
uuuu
皆様帰省中なんでしょうね……
さみしい・・・
早く戻ってきて・・・
明日あたりからUPされますように
今日あたりであってほすぃ。
>>326 25
ミタムン王女は頭のいい女性だった。
異母姉アイシスのメンフィスへの片恋と焦燥、そんなアイシスの盲愛を疎んじているメンフィス・・・といった関係を素早く見抜き、我こそは実質的な王妃、未来の国母ともなろうと冷静に駒を揃え、並べていた。
メンフィスが夢中になっているキャロルの存在は計算外であったが、肝心のキャロルがメンフィスを嫌っているのなら、むしろ自分の味方の駒になると踏んでいた。
「ナイルの姫、あなたがお兄さまとヒッタイトに行ってくださるなら私としても嬉しいことですわ」
王女は如才なく、年下の娘に微笑みかけた。
一方、メンフィスは。
キャロル喪失の怒りの発作から覚めると、早速キャロルを取り戻す算段を始めた。自分を翻弄し、拒絶し、しかも他の男の許に走るような娘を痛めつけ、罰せずにはおれないメンフィスだった。
(おのれ、キャロル!私を拒否などさせぬ。ナイルの女神の娘たるそなたは我が腕の中で生きるのだ!
痛めつけ、罰し、謝罪させ・・・しかる後に愛してやる、この上なく!)
その時、イムホテップの来訪が告げられた。
老宰相は未だ怒りの影去らぬ若者の顔を見て静かに臣下の総意であると言って話を始めた。
すなわち、アイシス女王とミタムン王女を典礼と外交契約に則って速やかに娶り、国内の安定を図るべきこと。
ナイルの娘キャロルはヒッタイト・エジプト両国の変わらぬ友好の印として最高の格式をもってイズミル王子の許に嫁ぐべしと。
「メンフィス様、恐れながらキャロル様を正妃として娶られる件、臣下は承伏いたしかねまする。あのお方は得難い方。
しかしナイルの女神の娘が、アメン・ラーの御娘たるアイシス様を差し置く地位に昇ることは神々がお許しにはなりますまい。
あの方はエジプトのさらなる繁栄をもたらすヒッタイトとの婚姻のために、女神がお差し遣わせになったのです。
それが・・・神々のご意志でございます」
26
「そなたの言いたいことはそれだけか。よい、下がれ」
「メ、メンフィス様っ!どうか・・・どうか一国の主として賢明なるご判断を」
メンフィスはイムホテップを追い返した部屋の中でしばらく黙って考え込んでいた。しかしやがて手を叩き、召使いを呼びだした。
彼らは口の利けないファラオの影の親衛隊であった。命令にはただ実行するだけのためのもの。問い返したり、秘密を漏らしたりすることは決してない黒い肌の召使いたち・・・。
メンフィスの命令を受けた黒い召使い達が、イズミル王子の部屋に侵入したのは、翌日の午前中のことだった。イズミル王子は協議と会談のために席を外し
、召使い達も朝の片づけで多忙であったその時。
彼らは荒々しく客人の居間に入り込み、キャロルを拉致した。勿論、召使い達は彼女を守ろうとした。キャロルも逃れようとした。
しかし爬虫類じみた無感覚さで、刃向かう者達をなぎ払い、痛めつける彼らを見て、キャロルは観念した。
もうこれ以上、抗うことは許されない・・・と。
(全ては私の責任・・・。メンフィスの怒りは全て私が受け止めよう)
「もう・・・もう、やめて!め、命令です。これ以上の狼藉は許しません。
わ、私はあなた方とメンフィスの許に参ります。それなら・・・良いでしょう?」
そしてキャロルは奴隷か捕虜のように、彼らに連れられて行った。
キャロルが通されたのは豪華な一室だった。ファラオにこそ相応しい内装。
明るい光の中、キャロルは呆然とあたりを見た。
(私・・・これからどうなるの?メンフィスは怒りにまかせて私をなぶり殺しにするのかしら・・・?それとも・・・むごたらしく慰み者にする・・・?)
毅然としていようと思うのに涙が溢れてきた。涙は後から後から溢れてくる。
「王子・・・。ごめんなさい・・・」
思わず口をついて出てきた言葉にキャロルは驚きを感じた。自分は何故、彼を呼ぶのだろう?
作家様、お帰りを待っていました〜!
次回はオニのメンフィス編でしょうか?ドキドキ・・・。
>アメン・ラーの娘アイシス
そーだよね。脇腹でもアイシスもファラオの子だし。いっつも疑問だったことです。
でもメンフィスはそれくらいじゃ納得しないだろうなー。
したら話としてつまんないし。
きた〜〜〜〜〜ッッ涙。。。
さげ・・・わすれた〜〜〜〜〜ッ涙。。。。
>390
オニの王子編も捨てがたいけど話のながれからいくと・・・うわぁ、それもドキドキ。。
>>331様 イアンが考えているのは自分とキャロルのことだけです。
>>330 訪ねて来た男を見てウナスは少なからず驚いた。
かなりの技量の持ち主でありながら出世に興味を持たずテーベでずっとキャロルについていた男なのだ。
「迷惑だったか?」
「いや、そんなことは無いが・・・、ずっとあの館から離れたことの無いお前が来たから少し驚いた。」
「驚いたのはこっちだ。どんな危機的な状況になっても決して王から離れようとしないお前がヒッタイトの王子が捕まったからといってミヌーエ将軍と一緒になって首都から離れるなんて。」
そしてルカはさりげなく人気のない場所にウナスを連れ出した。
「処刑でも見物に着たのか?」
「まさか!お前とミヌーエ将軍が二人して離れるのにはネバメンの牽制以外にも何かあるんじゃないかと思ってな。
それなら一人でも充分だから。
だとすると突飛だがあのお方が生きておられたのかも知れんと思ったのさ。キャロル様に会わせたいんだ。」
「相変わらず鋭いな。だが今は無理だ。
当たりを付けてはいるんだが俺達を見ても表情一つ変えなかった。
「正体」ばらされるのを嫌がりそうな上にどういうおつもりかネバメン「殿下」とも接触している。
下手に外に漏れれば俺達もその少年も危険なんだ。」
接触されて騒がれれば窮地に陥ることになりかねないと考えてウナスは本来なら喋らない事を言った。
ルカとしてはウナスに会う理由はこじつけだったが半ばあてずっぽうで言ったことは当たったらしい。
王子の処遇の提案者は誰なのか?今後の方針を探って救出せねばなるまい。
「ところでなんでネバメンと接触などされたのだ?あの男に暗殺されかけたのに?」
「王子の処遇に関してネバメンから働きかけさせたかったようだ。
ああ、そうだよ王子を捕えた作戦も今回の処遇に関しても実際の立案者は今イアンと名乗っている少年なんだ。
俺達ではヒッタイトへの影響力が少ないと思われたのかも知れないがそれにしても、な。」
ルカは内心の驚愕を押し殺して聞いた。
「様子を見させてくれないか?俺ならお前達とは何か違った態度をとるかも知れない。」
そしてルカはイアンの行きつけにしている酒場で彼と再会し、ことをあせった結果いいように利用された。
>>338 27
「王子・・・」
キャロルは呟いた。気がつきもしないうちにひどくかの男性(ひと)に惹かれていたのだ、ということに初めて気付くキャロル。
あの人は優しかった。あの人は私を大事にしてくれた。あの人は私を護ってくれた。
それなのに。
私はメンフィスの好きにされてしまう。私はあの人に迷惑をかけるわけにはいかない。あの人を呼べば、あの人に迷惑をかけてしまう。それは駄目。
「辛い・・・どうして・・・私は・・・」
(どうして私はあの人にお礼も・・・言わなかったのだろう?あの人が好きだと言ってくれたとき、嬉しかったのだとせめて伝えたかった。)
キャロルは涙に曇る瞳で豪華な室内を見渡した。部屋には大きな長椅子が置かれている。その側の小卓の上の乱れ箱には絹の紐や、小振りな鞭が置かれている。
(辱めを受けて・・・なぶられて・・・死ぬんだ)
キャロルは吐息をついた。
へたへたと座り込んだその眼前に、まるで走馬燈のように幸せだった頃の映像が映し出される。
家族に囲まれた日々。友人達。いつもいつも自分の幸せを願っていてくれた優しい人たち。20世紀。
そして。
王子の顔。水の中で抱きしめてくれた逞しい腕。知的な笑顔。
(私は・・・誰の辱めも受けない・・・!)
キャロルは絹の紐を取り出すと自分の細い首に巻き付けた。前で交差させた紐をきりきりと締め上げる。
息が苦しくなり、頭の血管が痛いほどに脈動するのが分かる。全身がかっと熱くなり、目の前が醜く歪み暗く沈んでいく。
それでもキャロルは力を緩めなかった。
古代に引きずり込まれて以来、ずっと自分の意志の届かぬ理不尽で強い力に翻弄されてきたキャロル。
それに対する復讐であるかのように・・・キャロルは自らの命を絶とうとしていた・・・。
28
床に倒れ臥すキャロルを見て、メンフィスは何が起こったのか分からなかった。憎い娘は恐怖のために気絶しているのかとも思った。
「・・・キャロル・・・?どうした・・・?」
メンフィスはぞんざいともいえるような仕草でキャロルを抱き起こした。
その瞬間、メンフィスの瞳に映ったのは土気色をして弛緩しきった愛しい娘の変わり果てた顔。
「キャ・・・ロル・・・?」
(誰だ?これは?何だ?これは?キャロルはどこに行ったのだ?こんな木偶人形を置いたのは誰だ?
これは・・・?これは・・・?これは・・・?)
空転し、同時に凄まじい勢いで目の前の状況を分析する思考。
腕の中に抱いている娘。絹の紐を首に巻き付け、目を瞑っている娘。冷たい身体。口から一筋垂れる血の混じった唾液・・・。誰も入れなかった部屋で・・・首に紐を巻き付けて倒れていた娘。
憎い・・・愛しい・・・憎い・・・誰よりも愛しい・・・娘・・・。
「あ・・・ああ・・・キャロル・・・?」
メンフィスは乾ききった唇からようやく言葉を発した。
(誰も入れなかった部屋で・・・一人、私を待っていた娘。
罰して・・・愛して・・・私の思いの丈を伝えようと思っていた・・・そなた。そなたは・・・そなたは・・・自ら・・・死・・・を・・・?)
メンフィスはがくがくと震えながら動かぬ娘を見つめた。
「キャロルーーーーー!」
(私がそなたを殺したのかっ・・・!)
(私が嫌いなのか?イズミルに義理立てして死を選ぶほどに・・・?)
(愛していたのに・・・愛しているのに・・・何故・・・?)
滂沱と涙を流し、キャロルを抱きしめる若者の姿を見いだした人々の驚きはいかばかりであったか。
エジプトの奥宮殿ではイムホテップの指揮下、厳しい箝口令がひかれた。
>「出逢い」作家さま
ひえぇぇ〜、オソロシイ展開です・・・。あぐあぐ。
キャロルちんはもうアカンのですか?OH!NOォォォォ!!
>生への帰還
いつもながらひきが気になります。
いまだに王子第一らしいルカの行動が微笑ましいというか。
>出逢い
メンフィスがかわいそうですよ…
本当にキャロルのことがすきなのね。
>出逢い作家様
キャロルが自害!!!
そんな〜。キャロル×王子のラブラブが読めると思っていたのにー。
キャロルは自殺未遂ですよねっ!(お願い)
「出逢い」作家様
きのうの想像してたえっちな展開が吹っ飛んでガクガクブルブル・・・いやだ〜
キャロルは助かりますよねぇ?(涙涙涙
キャロルに自殺されてしまう→ショック&茫然自失→精神崩壊寸前→でもぢつはキャロルは生きてる→必死にキャロルに謝る
こーいう展開でイズミル×キャロルのオハナシ書いてください。
悲劇は王子の方が似合う気がしまする。
今日の「出逢い」いきなりな展開。
多分、自殺未遂だと思うけどメンフィスはどーなっちゃうんだろう?
>351
禿同!悲恋ネタは王子向きだ。誰か書いてください(ぺこり)
>>346 29
メンフィスは侍医の手で鎮静剤を飲まされ、昏々と眠っていた。そんな彼を見守るのはミタムン王女ただ一人。
アイシスは・・・。ヒッタイトの王子が滞在する宮殿に拉致されるように連れて行かれた。
かろうじて生きているのが分かる程度に浅く弱い呼吸をするキャロルと共に。
「姫・・・。何故に・・・」
王子は首筋の深紅の跡も痛々しいキャロルの蒼白な顔を見つめながら、幾度目とも知れぬ問いを繰り返した。
「こたびの不祥事、お詫びの言葉もございませぬ・・・」
沈痛な面もちで頭を下げるイムホテップ。その傍らで固い表情のままのアイシス。
「我がエジプトの総力をあげまして、ナイルの姫の・・・王子のお妃のお手当をいたします。
お怒りはごもっともでございます。しかし、どうか・・・どうか・・・」
自国の王が他国の王子妃を拐かし、我がものにしようとした。しかし王子妃は辱めを受けることをよしとせず自害を図った・・・。
エジプトのメンツは丸つぶれ。戦が起こっても当然のことだった。
今回の悲劇のそもそもの張本人アイシスも重い口を開いた。
「エジプトは・・・正式にヒッタイトに・・・謝罪いたしまする」
「当然だ」
イズミル王子は初めて目を上げてアイシスを正視した。驚くほど冷たく厳しい視線にアイシスはいたたまれず、目を伏せた。最も卑しい罪人のように。
そしてあるかなきかの声で呟いた。
「メンフィスを・・・許して下さい。こたびのこと、我が弟には何の関係もありませぬ。
キャロルを・・・そなたの妃を拉したるも全てはメンフィスの若気の至り。我がいたらなさ。全ての咎は私に・・・」
「この償い、どのようにするつもりか」
「それは・・・」
珍しく口ごもったアイシス。彼女はもはや女王ではなかった。ただ愛しい男を巻き込んだ忌まわしい運命の采配におののく愚かな女性・・・。
30
後を引き取ったのはイムホテップ宰相だった。彼は誠意と政治的配慮を滲ませた巧みな口振りで、王子を刺激せぬよう話をした。
すなわち。
ナイルの女神の娘キャロルは必ずや健やかに回復し、最高の格式を以てヒッタイトへ嫁ぐこと。
その際にはシナイ山の豊かな銅山を持参金としてヒッタイトへもたらすこと。無論、これは持参金のほんの一部だ。
エジプトはヒッタイトに謝罪し―ただし非公式にだ。誰が自国の王の恋狂いを表沙汰になどしたいものか―ヒッタイト有利ないくつかの条約を締結する。
「ふん、それがエジプトの誠意≠ゥ。気前の良いことだな」
イズミル王子は底知れぬ恐ろしさを秘めた冷たい口調でイムホテップの言葉を遮った。
「メンフィスは私の妃に死を強いた。故意ではないにせよな。
・・・どうだ、宰相。メンフィスにも同じ目に遭ってもらおうではないか。自分で自分を縊るのだ。苦しかろうな・・・?」
目には目を、歯には歯を。王子の目はそう語っていた。
「だめ!やめて!お願いですっ!」
アイシスが膝を折り、王子に縋った。
「メンフィスには罪はない。全ては私の咎。私が悪いのです。どうかあの子は傷つけないで!」
最愛の弟・夫であるメンフィスを幼い日の感覚そのままに「あの子」と呼ぶアイシスの哀しさ・・・。
「あなたにお詫びします。幾重にも。わ、私は第一王妃の格式と呼称を・・・ミタムン王女に譲りましょう。本当です。どうです?有利でしょう?
こ、これで自動的に王女生所の子は・・・完全な王位継承権を持ちます」
「アイシス様っ、何と言うことを!」
「ふん・・・。それほどまでにメンフィスが愛しいか。だが嫉妬深い蛇のような女の言うことを誰が信じる?」
王子はなおも言い募った。
31
だが。
王子はキャロルへの愛に溺れきるには、あまりに理性的であった。
このままアイシスの、メンフィスの―エジプト帝国の―メンツを潰してはヒッタイトは結局、割高な代償を支払わされるだろう。
心を殺し、為政者の冷徹な仮面を被り・・・王子はエジプト側が提示した条件を呑んだ。無論、できる限り有利な条件を搾り取ってからのことだ。
エジプト「王女」キャロルはヒッタイトに莫大な婚資と共にヒッタイトに嫁ぐ。
エジプトが独占していた交易路はヒッタイトに譲られる。また交易に関する関税についての主導権はヒッタイトが握る。
ミタムン王女はメンフィスの第一王妃、すなわち正妃・皇后となる。生まれた子供は王位継承の最優先権を持つ。
女王アイシスはメンフィス王の「妃」の呼称も格式も得られない。彼女は典礼に従って異母弟と「結婚」するがそれは「白い結婚」―実質を伴わない形ばかりの結婚―である。彼女は生涯「王姉」である。
今回の不祥事の決着は一応、ついた。
しかし肝心のキャロルは未だ生死の境を彷徨っている。自ら死を選んでからもう5日が過ぎようとしていた・・・。
「・・・お兄さま、お妃の具合はいかがですの?」
ある夜、ミタムン王女は兄王子の滞在する宮殿を訪れた。兄の想い人は蒼白な顔をして寝台に横たわり、それを見守る王子も心痛で窶れて見える。
いつも凛々しく、感情を表に出さず冷静沈着な兄しか知らぬ王女にとって驚くべき変わり様だった。
「まだ気付かぬ。水だけはやっと・・・飲ませてはいるが衰弱が激しい。もう5日にもなる。もし・・・万一・・・」
「お兄さま!そのようなお気弱なことを!お疲れなのですわ、少しお休みなさいませ。このままではお兄さまが参ってしまう。お兄さまがお倒れになったからといって姫が目覚めるわけではないでしょう?」
新作がアップされている(感涙)。
作家様、お帰りなさい〜。
何だかメンフィスを庇って「白い結婚」に甘んじるアイシスが不憫だ。。。。
キャロル、生きてて良かった。
>>355 32
ミタムンはことさらに厳しく言うと、そのまま居座って外のことを兄に話してやった。
メンフィスは政務に復帰しているがキャロルの自殺未遂がよほど堪えたのか、奥宮殿に戻れば茫然自失であること。だがキャロルのことは一言も口にはしない。
アイシスはそんなメンフィスを必死に支えている。特に政務の面では。だがメンフィスはアイシスを疎んじて決して二人きりにはなろうとはしない。
「でもメンフィス様は私とはかろうじて会話をなさいます。ふふ、努めてさりげない風を装いながらね・・・。
私はあの方をお慰めして・・・早く元のメンフィス様にお戻り戴きたいの。きっとあの方を私に夢中にさせてみせるわ。そしてきっと和子をあげてみせる!」
気丈な妹の言葉に、王子は僅かに微笑んだ。
「頼もしいな・・・。さぁ、そろそろ下がれ。夜も更けた。異国での婚儀の準備で多忙であろう。そなたに何かあれば心配だ」
「・・・嘘ばっかり。姫のことで手一杯なのに。お優しいのね。
・・・でもお気遣い、嬉しいわ」
「姫・・・」
常夜灯が愛しい娘の寝姿を照らし出す。生と死の間を彷徨うその容(かんばせ)は健康なときとはまた異なる儚さと凄絶さを併せ持つこの世ならぬ美しさを湛えていた。
「姫。どうか私を置いて逝かないでくれ・・・。そなたを愛していると・・・真実愛しているとまだ・・・告げていないではないか」
すぐ手の届く場所にいるのに。
もう誰憚ることなく妃として愛することができるのに。
金髪の娘は死の翼に半ば覆われて横たわっている。蒼白な顔。首筋の赤い輪の禍々しい色鮮やかさ。冷たい身体。
「神よ・・・」
王子は恋をして・・・その代償に何物にも動じない超人的な心の強さを失った。本人は気付いても居ないだろう。しかし今の王子はあまりにも脆かった。
王子はそっと冷たい恋人の頬を撫でた。
今、ヒッタイトはエジプトに対して非常に有利な立場にある。しかしその代償はあまりにも高価であった。もし、全てはキャロルの死と引き替えに得られるのもであったなら・・・?
「そなたがいてくれなくては全ては無意味だ」
33
キャロルは泣きながら暗い道を歩いていた。
(ここはどこ?ママ?兄さん?皆、どこにいるの?どうして私は一人なの?)
不意に足元が溶けるように揺れて、彼女は冥く深い冷たい淵に沈み込んでいった。
(いやっ!誰か助けて!怖い、怖い、沈むわ、息ができないっ!)
その時。
(こちらだ・・・。こちらへ参れ)
暖かく大きな手が差し伸べられる。懐かしいその手の力強さ。沈み込むキャロルを軽々と光り目映い地上に引き上げてくれる。
(さぁ、大丈夫だ。もう勝手に離れてはならぬぞ。一緒にいれば大丈夫だ。私が守ってやろう、ずっとずっと)
逆光の中ででも、声の主が微笑んでいるのが分かる。キャロルは目映さに思わず閉じてしまった目を必死に見開いて、その人の姿を捕らえようとする。その人の名を呼ぼうとする。
キャロルを助けてくれたその人は・・・。
「う・・・」
意識を取り戻したキャロルの唇から漏れたのは溜め息混じりのうめき声だった。喉がひどく痛み、声が出ないのだ。目も霞み、焦点が瞬時には合わない。
だが。
「姫っ!」
夢の中でキャロルを助けてくれた人が・・・イズミル王子が・・・喜びに顔を輝かせ,彼女を抱きしめた。
「気付いたのかっ!気付いてくれたのか・・・。ああ・・・神よ・・・感謝します。そなたを失わなくて・・・良かった・・・」
キャロルの頬に熱い涙が伝わった。王子が・・・泣いているのだ。
「お・・・じ」
囁くようにキャロルは言った。自分は生きているのだ、しかも王子の腕の中にいる。目眩く喜び。信じられないような。
ああ、今こそ伝えなくてはならない。大事なことを。早く・・・。
キャロルは力無く頭を動かし、愛しい人の顔を見ようとした。王子もすぐに彼女の意図を悟り、頭を支え見つめ合う。
「す・・・き・・・」
死の淵から生還したばかりの弱った体にはその一語を口にするだけでも大変な労力だった。キャロルは疲れ果てて目を伏せた。
だがその声は確実に王子の耳に届き、この青年の心に生涯忘れられない大きな喜びをもたらしたのだった。
34
「姫、船室に入れ。風が冷たくなってきたぞ」
イズミル王子は黄昏の風に髪をなぶらせながら、じっと遠ざかっていくエジプトの岸辺を見つめているキャロルに声をかけた。
「母の許を離れるのは寂しいか・・・?」
背後からそっと細いキャロルの身体を抱きしめながら王子は問うた。
テーベの王宮を辞してからナイルを下り、イズミル王子とその妃キャロルを乗せた御用船はやっと地中海に出た。後はひたすら風を追い、ヒッタイトを目指すのみだ。
(色々なことがあった・・・。こたびの事件は後々、我が治世に・・・そして我と並び立つメンフィスの治世に大きな影を落とすやもしれぬ。
しかし姫は我が腕の中にあり、私は誰憚ることなく姫を愛することができる!)
大いなる満足感を噛みしめながら恋しい娘の顔をのぞき込んだ王子は、白い頬に流れる涙に驚き、同時に腹立ちを感じた。乱暴に細い肩を掴み揺さぶる王子。
「どうした?何故、泣く?」
(私がいるのに泣くのは何故だ?まさか・・・まさか・・・メンフィスが恋しくて・・・)
初恋の相手がすなわち永遠の伴侶となった幸福な青年は、ストレートに嫉妬の情や、恋の不安を口にするにはあまりに大人であった。
相手の幼さを思いやって、黙って見守ってやるのが大人である自分の務めであると強く自分に言い聞かせている王子は、内心の焦燥や不安を怒りの形でしか表せない。
王子の言葉の強い調子に驚いたキャロル。
「ごめんなさい・・・。怒らないで?もう・・・家族に会うこともないと思うと・・・。
せめて発つ前に会いたかった。あなたとの結婚を・・・祝福して欲しかった・・・。それなのに・・・王子は・・・怒る・・・」
話すうちに感情が高ぶってきたのだろう。涙が滂沱と流れ、身体を震わせてキャロルは泣きじゃくった。
「すまぬ・・・。怒ってなどいない。ただ、そなたが泣くから・・・嫁ぐのがそんなに嫌なのかと・・・」
狼狽えた王子は、面白そうな周囲の人々の視線の中、キャロルを船室に抱いていった。
35
「落ち着いたか・・・?」
黄昏の残照も消えた船室は灯火に照らし出されている。
王子の胸に子供のようにもたれ掛かりながら、キャロルはこくんと頷いた。
「済まなかったな。そうだ、そなたはずっと家族を恋しがっていた。それを私が忘れていたな。許せよ」
泣きじゃくるキャロルの言葉の端々から、ようやく嫉妬の蔓草より解放された王子はいつもの余裕ある優しさを取り戻していた。
王子はキャロルの顔を綺麗に拭いてやり、冷たい水の杯を唇にあてがってやった。そして食の細いキャロルの口に小さくちぎったパンを押し込んでやる。
「ありがとう・・・。でももういいの。そんなに優しくしないで。かえって恥ずかしくて・・・」
キャロルは頬を赤らめて王子を押しやる仕草をした。その幼く愛らしくも、無意識の媚態に彩られた様子が、王子の心を熱くした。
唐突に。
王子はキャロルの額に接吻した。
「これはそなたの母女神より託されし祝福。母女神に代わり私が与える」
次に王子はキャロルの涙で薄紅に染まった瞼に接吻した。
「これはそなたの兄より託されし祝福。そなたの兄に代わり私が与える」
王子はキャロルの頬に、鼻筋に次々に優しい接吻を与えていった。
キャロルが失った家族に友になりかわり。これからは自分がキャロルの家族とも友ともなろうとの決意を託して。
そして最後に。
王子はじっとキャロルを見つめ、万感の思いを込めて薔薇の唇に接吻した。
「これはそなたの夫たる私が贈る心の証。未来永劫、そなたは私の最愛なる妃。そなたが私の許に来るために失った全ての物を贖い・・・それ以上の物を与え幸せにする我が心の証・・・」
(王子・・・!)
キャロルは深い感動に満たされ、また新たな涙を零した。
(ママ・・・兄さん。私、幸せになるわ。私は・・・この人に相応しい存在になってきっとこの人の愛に応えて見せます。
ママ、兄さん。私は大丈夫よ・・・)
「愛しています。世界で一番あなたが好きです」
キャロルはぎこちなく王子に接吻を返すのだった。
あ、キャロル×王子いきなり幸せになってる(嬉し泣き)。
ヤパーリ昼メロ路線いいっす。
王子がキャロルに物を食べさせるシーンって妙にエロチックだと思ふ
>>362 36
暖かな灯火が婚儀を終えたばかりの男女の寝台を照らし出していた。
寝台の上には典礼に従って上質の毛布一枚で全身をくるまれたキャロルが座して、夫君イズミルの喜びの視線に身を震わせていた。
王子のしなやかな指が毛布の上に結ばれた紐を弄ぶようにした。
「姫、そなたは今宵、我が妻に・・・娘から女になる。この紐を解き・・・そなたを愛することを許してくれるか?」
キャロルは灯火の元でもそれと分かるほどに赤くなりながら、そっと頷いた。
暖かな繭のような毛布に包まれているのに、何だか王子の視線だけで丸裸に剥かれているような、そんな感じがして思わず彼女は身を震わせた。
「怖がらなくてよい。恥ずかしいか?」
王子はそう言うとさらりと自分の寛衣を脱ぎ捨てた。彫刻のような逞しく整った体が露わになる。
キャロルは驚いて目の前の体を見つめた。生身の男性の裸身を見るのは初めてだった。しかもその体は熱い欲望に満ち、自分に重なる体。
王子は、好奇心と羞恥に満ちて自分から視線を外せないでいるキャロルの幼さに苦笑すると、彼女の毛布を取り去ってしまった。
「あ・・・」
隠そうとする腕をやんわりと留めると王子は待ちわびた白い身体に覆い被さった。
「いや・・・」
「大丈夫だ。何も恐ろしくはないから。そなたとて私を待っていてくれたはずだ。・・・私がそなたを待ち望んだように」
王子はかすれたような声でキャロルを求めた。
37
王子は男の本性を剥きだしにして、今まで堪えて大切に見守ってきた娘を愛おしんだ。
羞じらい声も出せずにがくがくと震えて王子の愛撫を受け止めるキャロルの身体を解そうと根気よく様々に試み・・・キャロルが初めての悦びにかすれた悲鳴をあげ、痙攣しながら蜜を吹き零し、寝台のシーツにシミを作る様を愛でた。
「そなたを心ゆくまで愛したい・・・。さぁ・・・身体を楽にいたせよ。そのように頑なになられては・・・困ってしまう。」
「大丈夫だ、そなたの身体は私を受け入れられるようになっているから。分かるか?そなた自身が私を迎え入れる準備をしている様子が。ここだ。」
「あ・・・ああ。姫・・・私だけの・・・愛しい花嫁」
キャロルは王子の逞しい体に必死に縋り、自分を押し流そうとする激しい波に逆らおうと儚い抗いを試みるのだった。
翌朝。
王子は傍らに眠るキャロルを見て幸せな微笑みを漏らした。
初めて出会った時から惹かれていた娘。初めての夜を終え、娘への愛おしさはいや増すばかりだった。これまでは一度、征服してしまった女には急に興味を失ってしまうのが常であったのに。
「う・・・ん」
寝返りを打ったキャロルを素早く王子は腕の中に抱き取った。
「え・・・?」
目覚めたキャロルはぼんやりと新婚の夫を眺め、やがて真っ赤になって逃れようとした。その初々しい羞じらいに満ちた取り乱し方が王子には好ましくてたまらない。
「姫、もはやそなたは私の許から逃れることは叶わぬぞ。そなたは永遠に私のものなのだから」
勝者の余裕の笑みを浮かべながら王子は囁く。
でも彼は知らない。初めて出逢ったその時から、より深く、激しく恋をしていたのは自分のほうなのだと。
恋はより深く惹かれ、相手を愛するようになったほうの負けなのだと。
小柄で儚げな様子をした恋の勝者は優しく微笑んで、青年の頬に接吻するのだった。それは永遠の囚われ人の刻印・・・。
終
長い間、お読み下さってありがとうございました。
昼メロ路線を狙ってみましたが、あまり上手く書けませんでした(恥)。
おつきあい下さった方々にお礼申し上げます。
>367
「出逢い」作家さま、お疲れ様でした&ありがとうございました。
新作を日々楽しみに過してきました。
ハッピーエンドは嬉しいけれど、終わってしまうのは淋しいですね。
「出逢い」作家様、ありがとうございました!
終わってしまうのはさみしいけど王子が幸せになれて良かった〜
またぜひ新作をお願いします。すごく楽しみに待ってます。
PCがまたごねだしたのでお里帰りです。昨年11月に買ったばかりなのに。
>>344 ルカが偶然を装って合席したときイアンは驚いた顔をしてルカおじさんとうめいた。
ラージへテプの名を出す前にイアンは矢継ぎ早に今での消息を聞いた。
怪訝な顔をするフナヌプに昔テーベにいた頃に世話になった人だと答える。
昔馴染みと話し込みたいのだと察したフナヌプはさりげなく先に帰った。
イアンは自分をテーベの元浮浪児でルカに付いてお忍びで出ていたラージへテプ王子に小さな仕事を貰って生きていたことにしてしまったのである。
実際、王子は街に買い物に行くルカに付いていき下層の人々との話し方や仕事の与え方貰い方を学んだ。
でなければ失踪後一人では生きぬけなかったであろう。
ラージヘテプと再会したらルカは騒ぎ立て、エジプト側を撹乱する気だったが先手を打たれたことでこの男には珍しく呑まれてしまったのだ。人気のない席に移ったイアンはルカや昔の仲間達のその後の消息を聞きたがった。
淡々と話しながらルカはヒッタイト王子の現在の状況を演出したのはどういうつもりか聞きだそうとしたが先に何でここに居るのか問われた。
「やはり退屈したのか?あそこじゃ十年一日で介護ばかりだから。病状は相変わらずなのか?」
「あの方をそんな風にする一因になった王子に復讐する為ここに居るのですか?ヒッタイトが荒れるのは必至ですよ。
それにあなたの母君だって・・・」
母ではなくイズミル王子のことを先に切り出た。
それだけだったがイアンには幼い日からのルカの様な男が何故正気を失った元寵妃に付いていたかという疑問の答がでた気がした。
兵士に嫌気がさしたと昔は言っていたが実は彼女が正気を取り戻すか滅びの回避方法を聞き出せるかを、待っていたのだ。
ヒッタイト王子の命令で。
ならば構うものか。あるナイフと生存技術の師だったとはいえ敵だ。
王子への策略の駒はそろった
「出逢い」作家様、終わっちゃったんですね〜。
惚れた弱みでへろへろの王子が好きだったんで残念です。
「生への帰還」作家様
また長いお預けっすか?!辛いです!早く続きが読みたいです。
早く新作が読みたいよぉ。。。
作家様〜
「怖いか?姫よ。可哀想にこんなに震えて・・・。困ったな、そんなに怯えられては、どうしてよいか分からぬ・・・」
優しい口調とは裏腹にキャロルの紗を無遠慮に取り去っていく王子の手。
白い身体をすっかり露わにしてしまった王子は、キャロルにのしかかり囁いた。
「もう拒むことは許さぬぞ。そなたの全てが欲しくてこの身が燃えた日々の長さ・・・。そなたに教えよう、我が想いを!
さぁ・・・怖がることはない。恐れることはない。そなたはまだ子供ゆえ未知のことを厭うは当然かもしれぬ。
だが・・・私がしようとしていることは恐ろしいことではない。そなたに歓びを教えてやろう。そなたを女にできる日をどれほど待ったか・・・」
王子はキャロルの手首を寝台に押さえつけるようにして抗いを封じ、待ちわび、恋い焦がれた白い身体に口づけを贈った。
手慣れた王子の仕草は巧みに少女を女の入り口へと、歓びの高みへと導こうとする。
「怖い・・・怖いわ・・・」
キャロルは王子の性急さに驚いたのか、身体を押し流そうとする悦びの波に必死に抗うように囁いた。
王子は未熟な身体に新鮮な驚きを感じながらも、行為をやめようとはしなかった。
「大丈夫だ・・・。痛みも苦しみもないように・・・優しくしてやろうほどに」
王子はキャロルの器官にそっと自身を押し当てた。キャロルはびくっと身を震わせた。
「ふうっ・・・」
王子はキャロルの秘花の上に振り零された白い情熱の証を眺めて吐息をついた。花は真珠色の蜜の熱さに戦くように震えている。
「ごめんなさい・・・王子。私、私・・・」
キャロルは涙ぐんで王子に縋った。恐ろしさと緊張が先に立って彼女は王子を受け入れらなかったのだ。
「泣くな、姫。何を謝る?ふふっ、情けない顔をしてくれるな。性急にすぎた私がそなたに謝らねばならぬのに」
王子は不思議と残念さも白けた気分も感じない自分に密かに驚いていた。キャロルの身体の頑なさ、未熟さが、ひどく愛おしく思われて・・・。
「今宵は・・・ここまでに。ああ、そなたを愛している。・・・そなたを女にしてやれる日が楽しみだ・・・」
シパーイしても余裕の「ふっ」が王子の持ち味。
メンフィス様なら成功するまでぐぁんばるわね・・・。
>>374作家様の続きを勝手に書かせていただきました。だって王子の失敗談なんて可哀想すぎ〜
3日目の夜。
王子はキャロルを優しく慈しみ、口づけで覆った。
「だいぶ解れてきたかな・・・?」
王子はそっと秘密の泉に指を差し込みながら囁いた。羞じらい、でも高ぶって腰を捻るキャロルの動きを軽く制しながら王子は暖かく潤んだ狭い場所にしなやかな指を吸わせていった。
「王子・・・」
甘い吐息。王子の指を生き物のように蠢く襞が包み込み、締め付ける。
「苦しいか・・・?痛むか・・・?」
王子は泉の上で固く勃ちあがって息づく真珠を舌で味わいながら問うた。
舌の動きに合わせるように、指はゆっくりと抜き差しの動きを繰り返す。
「ああっ・・・!王子・・・もう・・・何だか・・・っ!」
抑えきれない切羽詰まったような声をあげ、キャロルは腰を揺らした。
王子は空いた手で乳嘴を弄り回した。全身を甘く苛まれ、キャロルは初めて悦びの痙攣を体験した。王子の指をきつく健気に締め付けるキャロル。
「もう・・・私も我慢できぬ」
王子は濡れた指先を舐め、その甘さに満足の笑みを浮かべると、初めて花開き今は弛緩しているキャロルの身体を貫いた。
「ああ・・・っ!」
キャロルの身体の窮屈さが王子をこの上なく喜ばせた。王子は激しく動き、今までの鬱屈を洗い流すように己の快楽に溺れていくのだった。
「・・・そなたを女にするのをどんなに待ったか・・・」
今日漫画喫茶で天*読んできたから、あっちのヵプルが脳内変換されて
ちょっと個人的に困ってしまってる・・・・・ゥゥゥ・・
>374作家様
だからそれは小ネタじゃないですってば〜!特大ネタです。(はぁと)
久々にドキドキしました・・・ありがとうございます。
>376作家様
王子を救ってくださって感謝!!
>>377 私はその逆(?)で天○の陛下×皇妃をイズミル王子×キャロルに脳内変換して楽しんでます。(悲
ちょっと前のハナシですが・・・
「悪魔の囁き」作家さま、皆の(・人・)にどうか応えてくださいー。
王子の人気の秘密ってやっぱり運悪くて本懐遂げられないのと、寸止めなところ?
優しさと強引さを巧みに使い分けてキャロルに迫る王子に萌えなワタシです。
作者様、降臨キボンヌ!
0
薄暗く奥まった部屋で二人の男が契約の印象を粘土板に押そうとしていた。
それを固い表情で見守る1人の女。
神聖な契約板にはエジプトとヒッタイトの二つの国が婚姻を通じて友好と和平の条約を交わす旨が記されている。
エジプト王メンフィスはヒッタイトにナイルの女神の娘にして、エジプトの王女であるキャロルをヒッタイト王子に与える。
ヒッタイトは不慮の死を遂げたミタムン王女の賠償の一部として、ナイルの女神の娘を得る。
エジプトは非公式ながらも王女の死についての責任を認め、謝罪し、莫大な賠償金と人質キャロルを差し出す。
「これで戦は回避された」
イズミル王子は傍らに立ち尽くす金髪の娘に手を差し伸べた。
「参れ。そなたの望んだ通り、戦で無駄に人命が失われることはなくなった。
参れ、そなたはこたびの平和の要、我が国の重要な人質」
キャロルは一瞬、取り乱した視線を彷徨わせ、その端に固い表情のメンフィスを捕らえた。
メンフィスは言葉もなく、一方的に深く想いを寄せる娘に語りかける。
―行くな、こちらへ来い。お前を守ってやる。愛するお前をどこにもやりたくないのだ。
―どちらに行っても私の未来はない。私は20世紀に還りたいだけなのに。
絡み合う二つの視線。愛する女を求める男。雛鳥のように怯えきった女。
その視線の交わりに勝者たる男は何を見たのか。
「離れよ、ナイルの姫。そなたは今日より我がヒッタイトで生きるのだ」
そしてキャロルは力無く王子に牽かれていった・・・。
1
「ナイルの姫。何をしている?船室に入らぬか」
ヒッタイト王子イズミルはいつまでも消えたエジプトの岸辺を見つめる少女に苛立って声をかけた。
「もうエジプトは見えぬ。子供じみた意地を張るでない。冷えて身体を壊しては何とする」
「私は大丈夫です。放って置いてくださって結構ですから。・・・意地を張っているわけじゃありません。捕虜ですもの、あんな豪華な船室はいりません」
「ふ。そなたは捕虜ではないぞ」
王子の顔に面白そうな微笑が浮かんだ。可愛らしい顔立ちながら、一人前に顔を顰め、固い声で王子に応対する少女の子供っぽさが興味深かった。
「そなたは“人質”だ。人質と捕虜は違う。人質は捕虜に比べて格段の価値がある。そなたはこの上もない宝なのだ。何しろ、戦を回避し、我がヒッタイトに莫大なる富をもたらし・・・しかも不思議な力を持つ神の娘ですらある。
宝を気遣うこちらの心持ちも察して欲しいものだ。
・・・おっと・・・!」
王子は自分を大胆にも撲とうとした白い手をやすやすと捕まえると、女性好みに整えた船室に連れていった。
「さぁ、ここで頭を冷やすのだな。そなたが醜く抗えばエジプトの恥となるぞ」
「・・・私をあざ笑えばいいわ。私を蔑むがいいわ。私は・・・人質ならばそれらしく振る舞ってみせてあげるから。
でも・・・でも、どんなにあなたが私を見下しても・・・あなたは絶対に私を屈服させたりできないんだから!」
うっすらと涙に濡れた碧水晶の瞳は白熱する白い炎を宿し、王子の琥珀の瞳を射抜いた。
「頼もしいことだ」
傲然と王子は言い、振り向きもせず船室を出ていった。
2
(どうしてああいうことになったかな?)
王子は片頬に皮肉な微笑を刻みながらキャロルとのやりとりを思い出していた。
(全く綺麗な顔をしていながら気の強いかわいげのない性格だな。戦を止めてくれと泣いて縋ったのと同じ娘とは思えぬ)
「王子?どうされましたかな。姫君は・・・?」
「おお、将軍か。じゃじゃ馬・・・いや、姫は船室に下がらせた。高貴の女人が兵士の行き交う甲板に立ちっぱなしというのも外聞が悪い」
「ほう・・・?まぁ、年若い方です。色々に感慨も感傷もおありでしょう」
たたき上げの軍人にしては雅量もある将軍は、憔悴しきったキャロルの表情に同情しているらしかった。
将軍の何気ない一言が、しかし今のイズミルの神経に障った。
感慨と感傷。
この一言で不意にあの場面が蘇る。見つめ合うメンフィス王とキャロル。
あれは・・・愛し合った男女が別れを嘆いていたのではなかったのか?
不意に嫉妬の炎が王子の内に燃え上がった。初めて見たときから心憎からず興味ひかれていた娘。女であれば誰しも自分の好意を得ようと媚態を示すのに、あの娘は違う。小さいながらも鋭い爪を剥いて逆らった。
何故、怒り狂って逆らう?何故、自分の好意を得ようと汲々としない?
(それは・・・メンフィスの面影が忘れがたい・・・から・・・?)
「王子?いかがされました?」
「いや、何でもない。まぁ、あの甘やかされたじゃじゃ馬を躾けるのは良い暇つぶしになろうよ」
王子は感情を全く隠して自分の船室に戻っていった。
(あの王子が、姫君にはずいぶん興味がおありのようじゃ。さて珍しいこともあるものよ)
3
「王子。出ていって下さい。こんな夜更けに非常識です!」
恐ろしさに震える声で、でも涙を必死に堪えてキャロルは王子に言った。
「何をしにいらしたのです?」
その虚勢の張り方が何とも可愛らしく思えて王子は思わず微笑した。
その微笑がキャロルの怒りに油を注いだ。
「何が可笑しいの?」
「何をしに来たと思う?」
王子はわざと気の強い娘をからかってみたくなった。
「なっ・・・!」
「さて今は夜で、私は男でそなたは女だ。男女が夜にすること・・・と言えば、だ」
じりじりと後ろずさるキャロルを壁際に追いつめておいて、王子は素早くその薔薇の唇に接吻した。
ばっちーん!
凄まじい音がして、王子は焼けつくような頬を片手で押さえ呆然と目の前の娘の怒り狂って赤くなった顔を見おろした。
「ぶ、侮辱は許さないっ!私を何だと思っているのっ!私は人質かもしれないけど娼婦じゃないっ!
今度こんな真似をしたら・・・!」
「姫君?どうかなされたか?」
何も知らない警備の兵が外から声をかけた。
「な・・・な、何でもない・・・のです」
気丈にもキャロルは返事をして、なおも激しく王子を睨みすえた。
「慮外な真似をしたら兵士に突き出すから!」
囁くような涙声で王子に見当違いの威嚇の言葉をぶつける。
王子は撲たれた怒りも忘れ、この気の荒い子猫に急速に惹かれていった。
全くこんな面白い娘は初めてだ!
「悪かったな」
王子は素直に謝った。
「人質の姫君相手に冗談がすぎたようだ」
わーい!新作だっ!!
タイトル綺麗ですよね〜。
これからのキャロル、王子、メンフィスが楽しみです。
作家様、新作の続き楽しみにしてます。
1ROM人様のHPについて掲示板に
詳細が書かれてありました。どなたか・・・
>387
突然のご不幸、本当においたわしいですね。
どうかHPが閉鎖になってしまいませんように。
>パオパオ様
お元気でしょうか?続き待ってます。
>>385 4
キャロルは眠れないまま、目の前の闇を見つめていた。
さっき、王子の頬を思い切り撲った右手がまだ痛む。
(いくら何でもあれはやりすぎだった・・・?)
キャロルは神経質に自分の唇を拭った。あんな強引で唐突なキスは初めてだった。屈辱感と怒りがまたこみ上げてくる。
(いいえ!王子はそれだけのことをしたのよ。あの恥知らずの馬鹿!
でも・・・。ここは私から折れるのがいいのじゃないかしら?
悔しいけれど私は人質。あんな真似をして王子を怒らせて・・・エジプトとのごたごたが起こってはいけない。王子は・・・怒るほどに表面は穏やかに見えるライアン兄さんみたいなタイプだわ。本気で怒って何をするか・・・?)
キャロルはまたこみ上げてきた涙を乱暴に拭うと、寝台に起き直った。
立ち上がり、そっと垂れ幕の向こう、王子の部屋の気配を窺う。
「何用か」
王子の声がした。キャロルは頭を昂然と上げて声に応えた。
「私・・・です。まだ起きているのなら・・・少しお話がしたいのです」
5
「どうした?」
王子はしどけなく寝台に横たわり、書類を見ていたらしい。あちこちに粘土板や巻いた皮が置いてある。
「忙しいのならまた明日・・・」
「よい。そろそろ終わりにしようかとおもっていた。で・・・何の用だ?」
キャロルは王子がそれ以上、何も言わずに黙っているのにいささか気勢を削がれた。夜更けの訪問にまた何か下らない冗談を言いかけられると身構えていたのだ。
「あの・・・あの・・・。
さっきはごめんなさい。あれは・・・その・・・少しやりすぎだったかも知れません」
笑いの僅かな影が琥珀の瞳に萌したのに気づき、キャロルは素早く言葉を足した。
「あんな無礼は初めてだったので力加減を忘れました。もう少し力を抜けば良かった。
あなたが元はと言えば悪いと思うけれど、撲ったのは良くありませんでした。
ひ、人質の身で無礼なってお怒りかも知れないと心配で・・・。これからはちゃんと自制します。だから、あなたもどうか・・・」
(つまりは撲ったのは悪いとは思わないが、力加減をせず撲ったのは悪かった・・・ということか。まぁ、この娘、自分がどれほどの怪力と思っているのか!)
王子は内心、大笑いだった。夜更けに、詫び方々夜這いにでも来たのかと思えば!
王子は緊張しきった小柄な娘にそっと手を差し伸べた。
6
びくっと身を震わせるキャロル。
「ふん・・・。まぁ詫びに来る謙虚さは良いことだ。心配いたすな。これしきでエジプトに戦を仕掛けられるわけがない。安心しろ」
キャロルはほっとしたように表情を和らげた。
「ありがとう。夜中にごめんなさい。私はこれで」
「まぁ、待て。せっかく来たのだ。夜長を共に愉しもうではないか」
途端にキャロルの目に怒りの炎が宿る。
だが、すんでのところでキャロルは自制した。王子の寝台の上に今回の「人質問題」の契約の粘土板があるのが目に入ったからだ。
キャロルは素早く、その粘土板を取り上げ、ざっと目を通した。
「姫、返さぬか。それは玩具ではない」
王子はさすがに少し狼狽えて言った。癇癪に任せて少女が粘土板を叩き割るのかと思ったのだ。
ところが。
キャロルは静かな声でこう言ったのだ。
「ええ。これは玩具じゃありません。・・・私があなたの玩具じゃないように,この大切な粘土板も玩具じゃありません」
「何ぃ」
生意気な娘は粘土板を差し出して、歌うように言った。
「これを見て。私は“ヒッタイト・エジプト両国の和平と友好の証”であり“約定が違えられぬ証としてヒッタイトに渡り、敬意を以て遇せられるべし”とあるわ。
分かる?敬意を以て、よ。娼婦のように扱ってもいいとは書いていないわ」
「・・・」
「いやらしい冗談でからかうのが敬意ある扱いとは思えないもの。名誉あるヒッタイトの王子様、約定はお守り下さいませ。どうか。」
王子はすっかり面白くなってしまった。
(この娘、どうしてなかなか頭の良い子供らしい。怒りをあっという間に自制して、素早く粘土板の長文の中から今の状況に最適な文言を見つけだし、反論するか。・・・面白い!)
王子は頭の回転の速さや、才気煥発といったことを評価した。だからこの娘の生意気な態度にもまず興味と・・・自分では気づかぬ好意を覚えた。
「ふふん。なるほど。舌も解れてきたな。だが姫、約定は絶対的な拘束力を持つものではない。」
「う・・・。条約は破るためにあるってこと?マキャベリストね」
7
素知らぬふうに王子は言葉を続ける。
「それに・・・しかるべき敬意を要求するならその敬意に相応しい女人となってほしいものだ。そなた、この夜更けに人に喧嘩をしにきたのか?」
キャロルは今度は赤くなった。
「あ・・・あなたが私を挑発するようなことばかりするから。私だってちゃんと振る舞えるわ。でもあなたが私の扱いを変えて下さらないなら、私も変われないわ」
王子はとうとう破顔一笑した。全くエジプト王は興味深い娘を手放したのだな!この娘がいなければ、さぞ退屈だろうに。
「ではどうしたらよいのだ、雲雀のように囀る娘よ。ここに書いて見よ」
王子は皮の切れ端と葦のペンを差し出した。こうすれば娘も引き下がると思ったのだ。
ところが案に反してキャロルはペンで流麗なヒエログリフを綴った。
(この娘、字も書けるのか!)
「・・・どうぞ。書けたわ」
王子はキャロルの手から皮を受け取り、簡潔に箇条書きにされた内容にまた驚いた。
曰く。
・人質はエジプトとヒッタイトの友好の要として相応の敬意を受けることを期待する。
・上記を要求すると同時に、人質はエジプトがヒッタイトに表する敬意を以て、ヒッタイト人に接することを約束する。両国の友好のために努力を惜しまぬ事を約束する。
・人質はヒッタイトについて様々な知識を得る機会を与えられることを期待する。
・人質は、捕虜ではない。故に理不尽・無体な振る舞いには断固抗議する。
8
「ふむ・・・。最後のこれは・・・つまり指一本触れるなということか」
王子は少し残念に思った。自分に与えられた「人質」で「エジプト王女」の格式を持つこの娘は当然、自分の物だと思っていたし、そうすることにまさか誰も否とはいうまいと思っていたのだから。
それが当の「人質」キャロルから否、の言葉が叩きつけられた。
「そ・・・そうです。人質は捕虜じゃないし、慰み者でもないのだから」
(では、どうすればいいのだ。高貴な娘が人質になる、つまりは私のものとなるということではないか?)
王子は内心、毒づいた。この娘を抱いてみたかったのだ。王子にとって、というかこういう状況にある当時の男性にとってのじゃじゃ馬馴らしとは、つまりそういうことなのだから。
「私は王子の側にいます。条約の保証者としてね。でもそれだけよ。そしてそこに書いたことを守るわ。
・・・だって、あなたは戦を止めてくださった恩人ですものね」
「ここに書いてあることは随分、そなたに有利だ。不公平ではないかな?」
「そうかしら?」
キャロルは心底、驚いたように言い、王子を仰天させたのだった。
「よいか、姫」
王子は寝台の上に起き直った。
「そなたは捕虜ではない。厳密に言えば人質でもない。そなたは両国の平和の証だ。平和の条約に対する最も大きな保証とは何か知っているか?」
「それは・・・」
いいかけてキャロルの顔が一瞬で蒼白となった。政略結婚・・・の文字が脳裏を駆けめぐる。
「王子、それはつまり・・・」
「婚姻による同盟の固めだ。そなたは私の妃となるのだ」
「嘘・・・っ!」
キャロルはへたへたと崩れ落ちた。抱き留める王子の腕の中でキャロルは一切の思考と意識を放棄し、心地よい混乱の闇へと堕ちていった・・・。
琥珀と水晶のキャロルってすっげー気が強い?
口達者なキャロルってあまりいなかったよね。
誰もいないのであれば1ROMさんのサイト引き受けましょうか・・・?
い、いや他に誰かいるのなら私はこのへんで・・・。
>396
ぜひおながいします。
>396様 是非お願いします。
396さまお願いします。私にはロムる力しかないので
396様、どうかよろしくお願い致します。
1ROM人様、いかがでしょうか。
396様、私からもお願いいたします。
あのサイトがつぶれてしまうの忍びないです・・・。
>>394 9
(最悪・・・!)
朝日の射し込む船室でキャロルは、王子の面白そうに笑う顔を見つめていた。
昨夜遅く、王子に政略結婚をほのめかされ、連日の疲れと緊張からかあっさり気絶、気がつけば王子の寝台に寝かされていた。
そして王子は当然のように隣に寝ていたらしい。「らしい」というのはキャロルが起きたときにはもう相手が起きていたからだ。
「目覚めたか。そのように怖い顔をするな。一夜の宿を借りたのに随分と礼儀知らずだな。全く急に倒れるから驚いたぞ」
「あ・・・あのっ・・・!」
「心配するな。子供相手に何かをするような倒錯した趣味はない。そのように勘ぐるのは無礼だぞ、姫」
王子はそういうとキャロルを軽々と寝台から抱き下ろし、その背を優しく押した。
「さぁ、向こうで着替えて参れ。それが済んだら朝食だ。あれだけ怒ったり気絶したりすればさぞ空腹であろう」
「ふーん・・・。もっと食べぬか」
二人きりの船室で王子はキャロルの皿に新しくパンや肉を盛りつけてやりながら言った。
「拗ねているのか?気恥ずかしいのか?全く!そなたとて高貴の生まれ育ち。私の妃になることは先刻、承知であったと思ったが」
キャロルは水で喉を潤すと一気に言った。
「あなたはそれでいいの?せ、政略結婚なんてあっさり言って。ろくに知りもしない好きでもない相手と一生、顔をつきあわせるのよ?私はそんなの嫌だわ!」
口調はいつの間にか普段通りのそれに戻り、キャロルは少し涙ぐんでいる。
王子は殊更、のんびりとした口調でからかうように言い返した。
「そなた位の年なら恋物語をまだ信じているのかな?政略結婚だぞ?個人的な感情などもとより入らぬ。それに好きでなければ、広い王宮内だ。顔を合わせず過ごすなど容易いな。
それに・・・。そなたは怒ったり泣いたりで忙しいようだが、私はそなたの人となりを観察する時間がずいぶんあったぞ。癇癪持ちの小さな娘よ」
「馬鹿にしてっ!」
キャロルは形ばかり黙礼するとさっさと出ていってしまった。
10
キャロルはぼんやりと夕暮れの海を見つめていた。
王子と言い争ってから幾日過ぎたのか。いくら話をしても軽くあしらわれるばかりなので、ここしばらくは彼女も大人しいものだった。
もう今日明日にはヒッタイトについてしまう。
弱まった日差しの元で海の色は深みを増し、泡立ちわき上がる白い波と美しい対比を見せていた。
(結婚・・・。そんなことになったら私は永遠に20世紀に還れないわ。一生をこの古代で・・・しかもひとりぼっちで過ごすなんて・・・!
そんなの嫌よ!私はこれからどうなるの?怖い・・・怖い・・・。戦を止められるならと王子に従ってしまったけれど、でも・・・あ、あんな傲慢で冷酷な人とけ、結婚なんて絶対に嫌っ!)
千差万別に変化する水面。繰り返される波の動き。引き込まれそうな美しさ。今だってまるでキャロルを誘うように波が盛り上がり、青い水が舞っているではないか?
キャロルは海の深い色合いに誘われるように船縁から手を伸ばした。
(逃げるわ!上陸したら逃げ出すわ。そして何としてもエジプトへ行って・・・アイシスに会って還る手だてを・・・)
11
その時。
「姫っ!何をしているっ!」
いきなり強い力がキャロルの肩を掴み、引きずるように後ろに引っ張った。
「きゃあっ・・・?!」
驚くキャロルの目の前にあの琥珀色の瞳があった。いつもの傲慢で自信溢れた色はなく、純粋な狼狽と・・・懼れに似た光が宿っている。
だがそれも一瞬。王子の琥珀の瞳は深紅の怒りの炎を湛え、乱暴に彼女を船室に引きずっていった。
(お・・・王子・・・?何?急に・・・?)
キャロルはモノのように寝台に投げ出された。王子がその細い肩を押さえつけ、のしかかるように顔を近づける。
「そなた、一体何のつもりだっ!あのような真似をして!私が止めなければ、どうなっていたか!」
何を怒っているのだろう?何を狼狽えているのだろう?何を驚いているのだろう?
(海を見ていただけなのに?・・・まさか・・・私が飛び込むとでも思った・・・?)
そう思ったキャロルの口元にはあるか無きかの・・・でも初めて王子に見せる微笑が刻まれていた。
「私は・・・海を見ていただけよ」
「・・・喰えぬ奴!」
王子は初めての微笑に不覚にも喜びを感じ、怒りも忘れ果て、早々に出ていった。その頬の赤さをキャロルが見ることはなかったけれど・・・。
キャロルは黙って衣装の乱れを整えた。
12
「王子・・・。あの、私はもう休みますからお引き取り下さいな」
いつにも増して王子の視線のきつさを感じた夕食も終わり、自分のための船室に引き取ったキャロルは、そこに当然のように居座る王子に苛立った声をあげた。
「だめだ」
王子は冷然と言った。
「そなたは一時たりとも目が離せぬ事が夕刻の出来事でよっく分かった。
そなたはもはや一人きりになることは叶わぬ。夜の監視は私がする。
・・・偉そうに逆らえる立場か、そなた。自分の為すべき事を弁えた賢き姫かと思ったが、入水をしようとしたではないか」
「あ、あれは・・・別にそんなつもりじゃ・・・。私はただ海を見ていただけよ」
キャロルは呆れたように言った。「夜の監視」とは!冗談ではない!
ところが王子は本気で、その上、ひどく怒っているようだった。
「そなたはエジプトの姫。我が国と、そなたが愛してやまぬ母女神の国の要としての役目を背負ってる。好むと好まざるにかかわらず、それはそなたに課せられた義務であり、責任だ。
命を自ら絶つことで逃れられるようなものではないことは、そなたが一番よく知っておろう?」
「・・・じ、自分の役目くらい分かっています。私は・・・人質ですもの」
「拗ねたような物言いをするでない。そなたは子供だ。何も分かっておらぬ」
王子は激しく言い募った。自分でもこれほど激昂するとは、と怪訝に思うほど今の王子は苛立ち、思うに任せぬ金髪の娘に腹を立てていた。
黄昏の光の中、白い身体を今にも濃紺の海の中に投じようとしている娘の姿を見たとき・・・彼は心の底から恐怖を感じた。
―この娘を失うわけにはいかない―
そして訳の分からない感情。
―死ぬほど私の側にいるのが嫌か―
気がつけば目の前の娘は涙ぐみ、それでも気丈に王子に言葉を返していた。
「私は自分の為すべきことくらい痛いほど分かっています。戦を止めて下さいとお願いしたときから!
私の命はすなわち、エジプトの人々の命と同じです。私が無責任なことをすれば、それは多くの人々の死に繋がります。軽率なことなどしませんし、できるはずもありません。
分かっています。それなのに、あなたは私をこれ以上、監視すると・・・」
「一度失った信頼を取り戻すのは難しい。一瞬たりとも一人にはせぬ。油断ならぬ姫よ」
396様。そうしていただけるなら嬉しいです。
信者のマインドコントロールもとうにとけ、生ぬるい惰性読者となってからも番外編は楽しみにしています。
>作家様 じゃんじゃん新作きぼーんでございます。
天河ファンがお邪魔しまする。あちらのお気に入りキャラを王子×キャロルに脳内変換してみました。
私はカイルと王子がスキなファン・・・。
1
夜明け前の薄い闇の中で。
王子は目覚め、確かめるように腕の中に抱きすくめた暖かく柔らかな存在をそっと抱きしめた。
昨夜、初めて抱いた愛しい娘。
(少し性急すぎたかな?)
キャロルは豪華な装身具を外す間も与えられなかった。自身を没入させる柔らかな身体をろくに慈しんで解してやる間も惜しんで、王子は愛しい娘を女にした。
柔らかく頼りない身体のただ一点はこの上なく狭隘で頑なで、男を煽った。
(泣かせてしまった・・・)
キャロルの頬には涙の跡が残り、シーツには血痕が鮮やかだった。
「姫・・・?」
我慢しきれず王子は接吻で新妻を起こした。目覚めたキャロルは王子を見て真っ赤になり、力強い腕の中から逃れようとした。
「や、やだっ!王子ったら。恥ずかしいから離してよ」
クスクス笑いながら、わざと怒ったような口調で王子は問うた。
「ならぬ。そなたは私の妻になったのではないか?昨夜のこと・・・よもや忘れたとは言わせぬぞ」
王子は軽々とキャロルを抱き上げた。
「ふふ。湯に入れてやろう。夫と入浴するののどこが恥ずかしい?」
王子は愛しい女を得た男の余裕と馴れ馴れしさで、キャロルに笑いかけた。
2
ぴちゃん・・・。
ひそやかな水音。
「いやだ、王子・・・。そんなところ見ないで。やめ・・・て」
水音にいつしか蜜のような粘りのある液体を舐め取り、弄ぶ音が混じりだした。
「ふふっ・・・。そなたの身体は嫌がってはいないようだ。昨夜、もっと丁寧に可愛がってやれればよかったのにな。そうすれば、あれほどそなたを痛がらせ泣かせることもなかった」
「ばかっ!やめて・・・もう・・・ああ・・・っ!」
びくびくと身体を震わせて達してしまった幼い身体を楽々と抱き上げると、王子はまた寝室に戻っていった。
王子は寝台に横たえたキャロルの身体を、気の利いた召使いが置いていったワインを飲みながら、愉しんだ。
未熟な身体、ろくに男を愉しませる術をしらない初な娘。
(私が教えてやろう・・・)
王子は脚を無遠慮に押し開くと、深く眠っている薔薇の花を舌で味わった。
薔薇がびくっと震え、僅かに綻ぶ。王子はさらに莢の中から珊瑚色の真珠を剥きだして舐めてみた。あっという間に勃ちあがったそこの固さが男を誘う。
「あ・・・?きゃっ、王子・・・。ああ・・・っ!」
もはやキャロルは抗えなかった。王子の巧みさの前に、心は激しく羞じらい抗いながらも、身体はあっさり陥落し、濡れそぼった。
「花のようだな、本当に・・・」
王子は言葉でさらにキャロルを煽ると、深々と自分の欲望を埋没させていった。
「まだ痛むか・・・?」
「う・・・ん。でも・・・大丈夫・・・」
また眠りに入りそうなキャロルの耳朶を噛みながら王子は囁いた。
「そのうちにもっとよくなる。そうなるまで私がちゃんと教えてやるから」
「お、王子?!待ってちょうだい。もう・・・」
「今まで散々、私を待たせた罰だ・・・」
王子はキャロルにのしかかっていった・・・。
オワリ
カイルと王子の性癖って似てると思う。
「琥珀と水晶」作家様
今日は続きが読めなくて寂しかったでつ・・・(´・ω・`)ショボーン
明日は読ませてくださいね〜
水晶と琥珀まだぁ?
琥珀と水晶の続きが気になって仕方ありません。あぁ作家さまー!
(´;ω;`)グシュン 琥珀と水晶、今日もお休みなの?(´;ω;`)グシュン
>>405 13
王子は本気だった。
結局、キャロルの寝室で一夜を明かし、朝食も共にし、監視の兵士と入れ替わるように部屋を出ていった。
周囲の人々はキャロルが王子のモノになったと思いこんでいるらしい。キャロルは声を殺して悔し泣きをした。
「結局、今日は一日中、泣いていたのか」
夕刻、船室に戻ってきた王子は呆れたように言い、そっと金色の髪を撫でた。驚くほどに優しく暖かな手にキャロルは引き込まれそうになった。
(素直にしていてくれれば何とも愛らしい姫なのだがな。気むずかしくてすぐ爪を立てるから困ってしまう。
・・・明日にはヒッタイトだ。泣かせることなく上陸させたい。本当に・・・意地っ張りで何が幸せなのか考えてみようとしないのが困るのだ)
「さぁ、もう今日は休め。明日はいよいよヒッタイトに上陸する。船旅はさぞ疲れたであろう」
「明日・・・?!もうなの?
・・・じゃあ、王子。今日は余計に一人になりたいのです。私・・・」
「だめだ。そなたは目が離せぬゆえにな」
問答無用といったかんじで言い捨てると、王子は先に横になった。キャロルは怒りのあまり身震いするとあてつけのように固い床に横たわった。王子は困り切って吐息をついた。
ヒッタイトに到着したのは真昼の光目映い時刻だった。
美しく盛装したキャロルは王子に手を引かれ、国王夫妻に拝謁した。
落ち着き払って威厳と気品を漂わせて挨拶するキャロル。そこには王子を手こずらせた子猫はおらず、申し分のない異国の姫がいるのだった。
続いて国王夫妻と王子、キャロルは神殿に入り祝福を受けた。
意味の分からない古い言葉で延々と続けられる祈祷を、王子の傍らでキャロルは歌詞のない音楽のように聞き流していた。やがて神官が香炉を振り、王子とキャロルに祝福を与える仕草をした。キャロルは王子に目顔で促されるまま、頭を下げた。
神殿から出た一行を迎えたのは熱狂的な歓呼の声だった。
「な、何なの?」
気圧され、怯えを滲ませた声で囁くキャロルに王子は何でもないことのように教えてやった。
「私がそなたを娶ったから、皆が喜んでいるのだろうな」
「・・・!・・・・」
王子の手はあまりに力強く、キャロルは人形のように虚ろな表情でされるまま歩いていった。衝撃はキャロルから意志を全く奪ってしまったのだった。
14
夜。
キャロルは緊張しきった顔で寝台に座り込んでいた。
間の抜けたことに、彼女は自覚のないままに王子と婚礼をあげてしまったらしい。
祝賀の宴が催され、王子がぬけぬけと人前で彼女を新妻扱いしたこと、周囲の人々が
口々に異国から来た彼女に祝福の言葉をかけること、召使い達が逆上寸前の彼女を壊
れ物のように扱い、新床(!)に連れていったこと・・・全てがキャロルを打ちのめし、
この上ない怒りを感じさせた。
(誰が・・・王子の思いのままになるものですか!人を馬鹿にしたらどうなるか思い知ら
せてやるんだから!)
キャロルはそっと枕の下を探った。そこにあるのはエジプトからこっそり持ち込んだ守り刀。
小振りで地味なものだが実用性はある。
と、その時。
「待たせたか・・・?妃よ?」
王子は寝台に近づき、そっとキャロルの頬を撫でた。暖かな慈しみが直に伝わってくる気がして、
思わず気勢を削がれそうになるキャロル。
「今日は驚くことばかりであったろうな。もっとじっくり言い聞かせてやる時間があれば
よかったのに、そなたは意地を張ってそっぽを向いているし、私もつい意地になってな。
・・・悪いことをした」
王子の口調は優しく労りに満ちたものだった。驚き、戸惑い王子を見上げるしかないキャロルの
唇はいきなり王子に奪われた。
「さぁ・・・。これまでのことは水に流そう。我らは夫婦になったのだから」
「やめてっ!」
キャロルはのしかかってきた王子を思いきり突き飛ばそうとした。
「私、婚儀は挙げたけれどそれ以上のことはするつもりがありません!もう出ていって!
約束したじゃない?私のこと敬意を以て扱うって!捕虜じゃないんだから理不尽な扱いはしないって!
・・・私の嫌がることはしないって!私に触らないで!」
だが王子はびくともせずにキャロルに挑んでくる。
「もう意地を張るな。私はそなたを愛しいと思っている。そなたに幸せとは何かを教えてやるぞ・・・」
「いやあっ・・・!」
キャロルは隠し持っていた短剣でいきなり王子に切りつけた。咄嗟に身をかわす王子の腕を切り裂く
銀色の小さな刃。
15
「こやつ、何を・・・!」
王子は易々と短剣をもぎ取り、キャロルを寝台に押さえつけた。憎からず思っている娘―有り体に言えば彼は新鮮な魅力を持った小柄な金髪の少女に惚れている―がこんなかわいげのない真似を!
(私が嫌いか?そんなにも?・・・メンフィスが忘れられぬか)
王子の脳裏に粘土板に印象を押した時の風景が蘇る。見つめ合っていたファラオとキャロル。やはりあれは・・・。
「逆らうことは許さぬ!そなたは私の妃だ!ヒッタイトとエジプトを結ぶ要となるのだ!」
王子の力は圧倒的に強かった。
「いやっ、王子!いやあぁぁぁっ・・・!」
薄暗がりの中で・・・二つの影が揺れる。
激しい嵐が、しなやかな薔薇の若木に襲いかかる。薔薇は撓り、嵐に折り取られまいとするが・・・やがてその猛威の許に屈服する。
柔らかな身体の中に固く荒々しい炎が深々と刺さる・・・。
・・・・・・・・・・・・・・
どれほどの時がたったのか。
「そなたは・・・乙女であったのか・・・」
(何と姫は清らかであったのか!てっきりメンフィスのものになっていると思ったのに!)
キャロルは王子に背を向け、声を殺してむせび泣いている。
「許せよ・・・」
「いやっ!い・・・や・・・」
王子はそれでも弱々しく抗う白い身体を抱きしめた。愛しく思っていたキャロルが真実、乙女であったことの嬉しさと、自分の行為に対する嫌悪感がない交ぜになった複雑な心境。
「愛している・・・」
身勝手な王子の言葉は果たしてキャロルの耳に届いたのか・・・。
15
長い長い沈黙。
やがて王子は寝入ったらしかった。
キャロルはゆっくりゆっくり王子の腕の中から、熱く痛む身体を引き抜いた。
屈辱感。痛み。哀しみ。絶望。怒り。叫んで泣き喚きたい衝動。
寝台の下を探れば、あの短剣が手に触れた。
キャロルは裸身に夜衣を纏い直すとじっと銀色の刃を見つめた。刃は誘うように鈍い光を放った。
(私に残された道は・・・)
キャロルは水の入った鉢を置いた小卓に歩み寄った。跪いて手を浸ければ水は驚くほどに冷たい。
キャロルは迷うことなく左手首に刃を当て、一気に引いた。熱い痛みと共に夜目にも鮮やかな血潮が迸る。
そのまま水に傷を浸せば、血は渦巻いて水に溶け込んでいった。
(命が流れていく・・・)
キャロルは黙って長い睫毛を伏せた。
(これで・・・楽になる。何もかも終わる・・・)
やったぁ、続きだ〜。
何だかんだ言ってもここ楽しみなワタシ・・・。
なんと!今後の展開が気になります・・・
作家様ありがとうございます!
(´・ω・`)ショボーン ⇒ (´;ω;`)グシュン ⇒ (・∀・)ワーイ!
続きを〜!!!
以前ダイジェストスレについて書き込みをした396です。
1ROM人様のサイトの引継ですが、
まずは管理人の1ROM人様のお伺いを立ててからはじめようと思います。
基本的な構成、デザインは元来のものを崩さずにやっていこうと思っておりますので
何か意見等ありましたらよろしくお願いします。
お目汚し失礼致しました。
きゃぁ作家さまー、キャロルはどうなってしまうの??
続きをおながいします!
今日はオアズケか…帰ろう…トボトボ
>>417 16
ひどく体が重かった。呼吸がしにくくて訳の分からない焦燥と不安が心を苛む。
(悪い夢を見ているのだ・・・早く目を開けよう)
頭の中で鳴り響く警告の音。早く早く・・・。でも体は縛められたように動かない。
五官を必死に研ぎ澄ます。何かがおかしい。決定的な・・・致命的な・・・過ち。早く早く目覚めて・・・手を打たなければ。
ちりちりと肌を刺す不吉な予感。重苦しい空気はねっとりと血の匂いを帯びて・・・。
(血の匂い・・・?!)
高いところから一気に放り出されるような感覚と共に王子は目を開けた。
反射的に傍らに手をやる。そこはもぬけの空だ。
「姫っ・・・?!」
最悪の予感と、まだこれは夢の続きを見ているだけかも知れないという不思議な感覚を引きずって王子は薄暗い寝室に視線を巡らせた。
「あ・・・?!」
その視線の先にあったのは。寝台から飛び出した王子が見いだしたのは。
小卓に凭れて目を瞑る金髪の少女。片方の手を気持ちよさそうに水に浸けて。
透明であるはずの水は黒に近いほどの紅に染まっている。
その色合いとは対照的な白い腕・・・蒼白な顔・・・力無く顔を俯けている少女・・・。落ちているのは銀色の小刀。
「ひ・・・め・・・?」
恐る恐る手を引き上げてみれば未だ止まらぬ血潮が卓上に新たな模様を描き出す。冷たい冷たい手首から溢れる未だ暖かな血潮・・・。
(嘘だ・・・嘘だ・・・。これは何だ?これは誰だ?私の姫はどこに行った・・・?私の大事な姫は・・・?これは・・・?これは・・・?」
「姫・・・」
叫びだしたしのに口から漏れるのは囁くような声だった。
「さぁ・・・。巫山戯ていないで私を見よ。怒っているのか?無理矢理に・・・したから・・・?」
(私はそなたが愛しいのだ。そなたを愛しく思っているからあんなことをしたのだ。誰が政略だけで娶った女を抱くものか。
意地っ張りで怒るか泣くかばかりだったそなた。でもそなたは賢く聡い。知っていてくれると思って・・・)
血は流れるばかり。夢は終わらない。キャロルの血のほのかな暖かさが王子の体にも触れる。
(これは夢ではない・・・!)
王子の絶叫が寝室に響いた・・・。
17
婚儀を終えたばかりの花嫁は連日の疲れ故か、床に伏せってしまった。
侍医は軽い疲労だと拝診したが、王子は新婚の妃をこの上なく気遣って優しく看病している・・・。
ヒッタイトの王宮はこんな噂で持ちきりだった。噂好きな人々は、病弱なお妃では跡継ぎが心配であるとか、王子が花嫁を慈しみすぎたので子供のようなお妃が参ってしまったのだとか様々に面白がった。
王子は厳重な箝口令をひいて、キャロルが自害を図ったことをひた隠しにした。信用のおける侍女達がキャロルの側に詰め、侍医は一日中若い王子妃の側についていた。
王子は常と変わらぬよう政務に励んだが、一日の仕事が終わるとキャロルの病室に飛んできた。
だが王子を迎えるのはいつも人々の残念そうな顔だけだった。
「お妃様は今日もお気づきにはなられませんでした」
二人きりの夜更けの寝室。
王子はキャロルの白い頬を撫でながら、その浅く力無い呼気を窺った。
愛しいと思っていたのに。意地っ張りの子猫のような娘。からかうのが面白くて。つい意地の悪いことばかり言って。早くエジプトを忘れさせたいから、わざと辛辣なことを言った。ヒッタイトを・・・自分のいるヒッタイトを好きになってほしかったから。
ヒッタイトを?いいや、違う。好きになって欲しかったのは自分のこと。
初めて・・・誰かに愛して欲しいと思ったのに。
どう伝えていいか分からなかった。これまでは女の方から煩いほどに好意を寄せ、媚びてくれた。好きな女をどうしていいか分からなかった。
(気づいてくれ。目を開けてくれ。そなたの心を踏みにじった私を責めてくれ。罵ってくれ。嫌いでもいいから。せめて・・・私をもう一度見てくれ。そして・・・許しを請わせてくれ。愛しているのだと言わせてくれ。
許してくれなくてもいいから。愛してくれなくてもいいから)
王子は優しい手つきで包帯を巻かれた手首を持ち上げ、恭しく口づけた。
(神よ、どうか姫を生かせたまえ。これは私の傲慢に対する罰なのか?私が姫の身体を・・・心を・・・尊厳を踏みにじった罰なのか?
ならば・・・痛みも苦しみもこの姫の上にではなく我が上に。どうか姫を助けたまえ)
18
・・・誰かが泣いている。苦しそうに。哀しそうに。
・・・可哀想に。どうしたの?どこか痛いの?ねぇ、ねぇ・・・。
キャロルは遠くから聞こえる胸に突き刺さるような嘆きの声に語りかけた。
キャロルはぼんやりと目を開けた。焦点のはっきりしないぼやけた視界の中で誰かが嬉しそうに叫んだ。
「おお・・・!姫君が目を開けられた!誰か!王子にお知らせを!」
まぶしすぎる世界。嬉しそうに言葉を交わし、甲斐甲斐しくキャロルの世話を焼く人々。身体がひどく重い。
「わ・・・たし・・・は・・・」
「姫君、長いご不例だったのです。御静まりあそばして。じき王子も参られます。・・・ああ、本当にお気がつかれて良かった・・・」
王子の信頼厚いムーラが涙ぐんでキャロルの手を押し頂いた。
目に突き刺さるような白い包帯が巻かれた手首。
(私・・・死のうとして・・・生きている?どうして・・・?)
キャロルは、はっとして思わず起き上がろうとした。
(私・・・死のうとして失敗したんだわ!どうしよう、王子が・・・どんなに怒るかしら・・・?あの人は・・・私を許さないわ・・・!)
急に起き上がったところにもってきて気持ちが高ぶり、キャロルはひどい目眩に襲われた。吐き気を覚えるほどの不快。
だが、ぐんにゃりと倒れかけた身体は大きな手に支えられた。
「姫!しっかりいたせ。やっと気づいたばかりなのだ。無理をしてはならぬ」
目を上げれば、そこには暖かく輝く琥珀の瞳があった。イズミル王子。
声も出せず、ひきつる彼女の身体を王子は優しく寝台に横たえた。
「まぁ、姫君。王子がおいでになったので起き上がろうとなさったのですねぇ。意識がない間もずっと王子を恋しく思し召したのでしょう」
感に堪えないようにムーラが言い、居合わせた人々が口々に優しくキャロルを窘めた。
キャロルは薬湯を飲まされ、やがて王子と二人きりにされてしまった。
18.5
「姫・・・。そなたが気づいて・・・これほどの喜びはない。そなたが私の為したことを厭うて自害を図ってより・・・そなたのことが心配で心休まることがなかった」
王子は目を伏せるキャロルに優しく語りかけた。それは心からの誠意と優しさ、そして罪の意識に裏打ちされた言葉で、キャロルがいくら拒もうとしても彼女の心の深い場所まで染み通ってくるのだった。
「姫・・・。ずっとずっとそなたに詫びたいと思っていた。そなたを辱め、死を選ばせるほどに傷つけたことを。そなたを愛しているからと強引に事を成した私の傲慢さを・・・詫びたいと思っていた。
・・・許せよ・・・」
キャロルは思わず目を上げて、王子を見た。打ちのめされたその声。意識のない冥い世界で彼女に聞こえていた嘆きの声・・・?
だがキャロルの口からはただ冷たい声が出ただけだった。
「・・・人質の分を忘れて勝手なことをしたのは私の咎です。このことで両国の平和が損なわれなければいいのですけれど・・・」
キャロル助かってホッ。しかし王子切ない〜〜
作家様、次は月曜日ですか?待ちきれないよぅ。
やっぱり土日は淋しいですね
19
冷たく固いキャロルの声。未だ弱々しい光しか宿さぬ蒼い瞳は、感情を押し殺した氷のような冷ややかさ。
キャロルの肩を抱こうとあげた手を、王子はぎゅっと握りしめ、自分の膝の上に置いた。
―分かっていたはずだ。分かっていたはずだ。こうなるのは。
神に祈ったではないか。姫が許してくれなくてもいい、罵るだけでも良い。
ただ・・・生きてくれ、と。ただ・・・目を開けてくれ、と。
愛してくれなくてもいいから。
そう、自分の愛に応えてくれなくてもいいから、と・・・。
「そなたに咎などあるはずもないものを」
王子の声は疲れ果て、嘆きと後悔に倦み疲れた様子がありありと漂っていた。
思わずキャロルがその琥珀の瞳を覗き込んだほどに。
「心配いたすな。そなたは私の無体に身をもって抗議したのだ。約定を破り、そなたを踏みにじった私にこそ咎はある。
今はただ・・・身体を治すことに専念いたせ。そなたは・・・生きていてくれねばならぬ」
王子は万感の思いを込めて言った。そしてなおも言葉を続けようとする。
そなたの嫌がることはなにもしない。ただ私のために、私の側で生きてくれ、と。
でも。
「人質だから・・・エジプトとヒッタイトの関係がもっと安定するまでは・・・生きていないといけませんものね。
もう大丈夫です。あなたが怒っていないので安心しました。私は義務を捨てたりしません」
返ってきたのは冷たい冷たい声音。キャロルの心に王子の想いは届かない。
をを!王子ハートブレイク編!
結局ハッピーエンドなんだろうけど続き気になる〜。
作家様たちへ
王子×キャロルが主流なスレですが、どなたか「あの人は今!意外なキャラ、動物サン」でお話書いてくれませんか?
6巻あたりに出てきたネコ、青の王子、ミラ・・・・など。
嗚呼・・・こんな切ない状況が王子にはお似合い。
似合ってるかもしれないけど可哀想すぎる〜最後は王子をどうか幸せに、
そしてまた余裕を取り戻させてあげてください!>作家様
>>431 20
健康を回復したキャロルは人々の前にも姿を見せるようになった。なにしろ彼女はイズミル王子の妃なのだから。
その細い左手首には幅広の金色の腕輪が輝いている。豪華な細工を施したそれは新婚の妃に対する王子の愛情の深さを表しているようで、皆が羨ましく見守っている。
王子はいつも側からキャロルを離さなかった。大切に大切に傅き守り、優しく見守り、そして最低限しか人々と交わらせなかった。
王子の寵厚いキャロルはいつも控えめに目を伏せて、王子に従っていた。
「理想のご夫婦よ」「まぶしいほどのご寵愛」「エジプトと我が国のこの上ない同盟の固め」
何も知らぬ人々は概ね好意的に噂した。でも彼らがキャロルの伏せられた目の奥を覗くことが叶ったなら・・・。
青く美しい瞳はいきいきとした光が宿ることはなく、諦めと哀しみと・・・深い静かな怒り―自分を翻弄する理不尽な運命に対する怒り、自分をこんな目に会わせながらなお大切に側を離さぬ王子への怒り―が沈殿する底知れぬ淀んだ淵があるだけなのだから。
王子だけが瞳の奥に隠されたキャロルの本当の心を知っている。
―決して私を愛しては呉れぬ姫を愛し求める我が心の苦しさよ・・・。イシュタルよ、これが私の傲慢への罰なのか。姫の癒えることなく血を流し続ける心の傷を見つめながら生きるのが私への罰なのか・・・―
王子は腫れ物に触るように、壊れ物に触るようにキャロルを気遣い大切にした。それをキャロルはどう思っているのだろう?
人々の手前、二人は一緒に寝室に入ったが決してキャロルに指を触れることなく・・・自分は部屋の隅に置かせた長椅子で一人眠るのだった。
キャロルと王子は二人きりの時、決して言葉を交わすことはなかった。
そして時だけが流れていく・・・・。
21
夜明け前の冷たい風が王子の頬を撫でた。寝室は鎧戸で閉ざされ、夜通し火が焚かれ、冬の冷たさなど寄せ付けないはずなのに。
「姫っ!」
王子は反射的に飛び起きて、仕切の幕を払いのけ、キャロルの姿を探した。
キャロルは窓の外をぼんやりと眺めていた。鎧戸を少し開け、その隙間から外を覗いていた彼女は王子の剣幕に少し驚いたようだ。
「何をしているのだっ!」
王子は久しぶりにキャロルに荒々しい声をあげた。まさかまた死神が彼女を誘惑しに来たのだろうか?
キャロルは驚いたような声で答えた。
「何も・・・。ただ・・・夢を見て・・・呼ばれたような気がしたから、つい・・・」
「呼ばれた?」
「家族の夢を見ました。私を捜していたの。だからひょっとしてと思って。・・・でも・・・でも・・・ただの夢で窓を開けても誰もいなかったわ・・・」
心を押し殺して久しかったキャロルの瞳に初めて、激しい感情の光が宿った。
「誰もいなかったの!迎えに来てくれたかもと期待したのに!ただの夢だったの、誰もいなかったのよ!私は一人だわ、相変わらず、やっぱり一人だわ。
一人!ひとりぼっち!誰もいないの!誰もよ!
ああ、夢なんか見なきゃ良かったわ。そうすれば、目が覚めてがっかりすることもなかったんですもの!私だけ一人!この世で一人っきり!」
キャロルは息を吸い、身体を震わせると・・・大声を放って泣き出した。
王子は驚いて激しい感情の奔流に身を任せるキャロルを見つめた。こんなキャロルは初めてだった。今まで押さえに押さえてきたものが全て・・・解き放たれたのだろう。
王子は黙ってキャロルを抱き寄せた。抱きすくめられたキャロルは王子の胸を激しく叩きながら泣いた。譫言のように孤独の悲しみと絶望を口にしながら。王子の身勝手を責める言葉を口走りながら。帰りたい、還りたい、優しくしないでよ・・・と。
王子はただ優しく、でもしっかりと小柄な身体を抱きしめ、背中を撫でてやるだけだった。全てを受け止め、浄化してやろうとでもいうように。
22
激情の嵐はやがて去り、キャロルは王子の胸の中で時折、しゃくりあげるだけになった。
それでも王子はキャロルを慈しむように暖かく抱きしめ、軽く背中をたたいてやっていた。小さな子をあやすように。
(姫が・・・初めて心の内を吐き出してくれた。私を罵り、故郷へ帰りたいと・・・叶わぬ願いを繰り返し、泣いてくれた。・・・私の胸の中で)
王子の心は不思議な感動に満たされていた。彼の胸にひしひしと、今まで死んだようになっていたキャロルの心が蘇った兆しが伝わって来て、しんしんと喜びがこみ上げてきた。
愛しい娘が生涯、心閉ざし、己の不幸を凝視し、死を待ち望む人生を送るようなことがあってはならぬと、王子は本気で怯えていた。
(私のせいで姫の・・・人生を生きる甲斐なき空虚なものにしてしまう・・・!恐ろしい罪を・・・おお、どうかイシュタルよ、私に犯させたもうな!
我が身への罰はどのようなものも甘んじて受けよう。だが姫は・・・姫は・・・幸せにしてやりたい。笑顔を・・・取り戻させたい)
ずっとキャロルを手元に留めておきたい、でもそれはキャロルを蹂躙し不幸に突き落とした自分には許されるはずもない、しかし譲れぬ願い・・・。
王子の心もまた、日毎夜毎に血を流し苦しんでいたのだ・・・。
不意に腕の中の暖かさが離れて、王子は我に返った。
「取り乱してしまったわ。・・・もう大丈夫・・・。おやすみなさい」
キャロルはすすり上げ、乱暴に顔を擦ると、ちらと王子を窺った。
そこにあったのは泣き叫んだ後の子供がよく見せる、気まずさと恥ずかしさが混ざった反抗と甘えの表情。青水晶の瞳には涙とは別の光が宿っている。
王子は懐かしいその光を凝視した。
「・・・笑わないでっ!何がそんなに面白いの!」
泣きすぎて赤らんだ鼻、涙の筋の残る頬。愛らしい、愛しい、大事な娘・・・。
王子は唐突にキャロルの顔を両手で包み込むと、薔薇の唇に優しく接吻した。
・・・キャロルは驚いて王子を突き飛ばすと、自分の寝床に走っていった。
王子、切ない〜。
キャロル、この美味しい状況のどこが不満なんだ?
キャロル可愛い〜
王子可哀相(w
王子にちょっとでも不幸があると喜んでしまう王子ファン・・・
>>437 23
冬の日差しは弱々しい。でも確実にほのかな暖かさを以て万物を照らし出す。
あの夜以来、キャロルの心は少しずつ開いていった。とはいえ、それは外界の自然の美しさや、王子を除く周囲の人々の心遣い等に対してであったけれど。
彼女の心は再び、周囲を感じるだけの生気を取り戻しつつあったのだ。
ずっと書物を読んできたキャロルは、軽く伸びをすると窓際に歩み寄った。
窓の外に広がる薄青い空。大気は冷たく澄み、書見に倦んだ頭をすっきりさせてくれた。遠くに飛ぶ鳥。ちぎれ雲。
(月日の経つのは早いこと・・・。じき冬も終わるのね)
彼女が読んでいた書物は王子が贈ったり貸してくれたりしたものだった。それは存外面白くて、キャロルは王子の心遣いにごくあっさりと礼を言った。
「姫君、お茶はいかがでございますか?」
侍女が勧めに来てくれた。盆の上には美しい舶来の茶器、干し果物と木の実を使った甘い小菓子、この季節にどこから取り寄せたのか新鮮な果物。
「そちらは少し冷えますでしょう。肩掛けをお召し遊ばして」
別の侍女は、キャロルの贅沢な葡萄色の衣装によく映える白い肩掛けを持ってきてくれた。軽く暖かい極上の品。
「ありがとう」
憂わしげな微笑を浮かべて、手を差し出すキャロル。その指には瞳の色と同じ碧い宝石を填め込んだ指輪が輝く。
(贅沢に囲まれて慣らされて・・・私はここで年をとるのかしら?こんなままでは良くないわ。私が望んだのは・・・)
キャロルは贅沢に心地よく整えられた自分の居間を、美しく装った自分を困惑の眼差しで見た。
全ては王子の心遣い。よく訓練された召使いは王子の手足となってキャロルのちょっとした挙措、視線から彼女の好みや望みを読みとり、叶えていってくれる。全ては王子の償いと・・・愛情。
賢い王子は知っている。自分の心遣い全てがキャロルにとっては重荷、枷にしかならぬことを。でも・・・賢いと同時に愚かな若者は愛情の表し方を他に知らないのだ。
24
王子が妃キャロルのいる西宮殿に帰ってくるのはいつも夜更け過ぎであった。
キャロルは起きて待っていることもあったし、先に休むこともあった。
様々な政務が国王の共同統治者たる若者の肩にかかっていた。イズミル王子は殊更、多忙であろうとしているのかもしれない。
見飽きぬ愛しい妻は自分を厭うているのだから。顔をあまり合わせないのがキャロルの心には良いのだと自分に繰り返し言い聞かせていたのだから。
キャロルは黙って暖炉の火を見つめていた。
(今日も王子は遅い・・・。体は・・・大丈夫なのかしら?)
キャロルの心は少しずつ変化している。王子は憎かった。大嫌いだった。生涯、許してはならない汚らわしい呪わしい存在だった。
でも。だんだん、相手を憎み続けることにキャロルの心は倦んでいった。
自分でも何故かは分からなかった。物に釣られてほだされて、というわけではなかった。ただ・・・王子の心を無視するのが重荷になってきていた。
「お帰りなさい・・・」
冷たい夜更け、もどってきた王子を出迎えたのは侍女達に囲まれたキャロルだった。
「おお・・・!待っていてくれたのか。疲れているのではないか?無理に起きて待っていてくれることはないのに」
隠しきれない喜びに顔を綻ばせる王子に、キャロルの頬も我知らず薔薇色に染まった。
夜食を摂り、湯浴みを済ませた王子夫妻の許から侍女達は早々に去っていった。暖かい居間には二人きり。
「これを・・・。気に入ると良いが。トロイよりの献上品だ」
王子が差し出したのは美しい真珠の首飾り。
「綺麗・・・。でも・・・いただけないわ。だってこの間も色々、高価な贈り物を。私ばかり・・・贅沢すぎて申し訳ないの。困ってしまうわ」
本気で困惑しているキャロルの様子が王子を喜ばせ、またがっかりさせた。
「喜んでくれると思ったのだが」
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心底がっかりしたような王子の声音がキャロルを驚かせ、自分の振る舞いを恥じ入らせた。
「ごめんなさい。あの・・・嫌ではないの。でも困ってしまう。だって贅沢すぎて・・・。色々な贈り物をしてもらっているでしょう?この部屋も・・・衣装も、装身具も、食べるものだって。
寒い思いしている人もいるし、毎日一生懸命働いている人もいる。それなのに私だけ何もしないでただ分不相応な贅沢な暮らし・・・。いけないと思うの」
王子は困ったように真珠の首飾りを見つめた。やはり自分のやり方はキャロルには重荷にしかならない。でも、ではどうすればいいのだ?どうすれば気が晴れる?
「しかし・・・分不相応とは?そなたはヒッタイトの王子妃だ。どのような贅沢も分不相応などということはない。我が母上も同じように暮らしておられる」
「王妃様は国王様の補佐や後宮の統括をしておいでよ。義務も責任も果たしておられる。
私はまだ・・・16でそんな若い娘がこんな贅沢なんて不遜な気がする。・・・ただここにいるだけ。何もしていない。・・・もちろん私は人質・・・ではあるけれど」
王子は心底困ったように意見を述べるキャロルの心根に不思議な感動を覚えた。そして考えるより先に口にした。
「では,この首飾りは贈るまい。でもこれは高価な品だ。うち捨てるにはあまりに惜しい。・・・どうだ?この首飾りの代価で貧しき者らに粥でも施してやるか?」
「本当?」
キャロルの顔がぱっと輝いた。
「嬉しいわ、そうしてくれる?お願いよ。それから私の倉庫のなかにある毛織り布ね、あれも配っていいと言って。私だけじゃ、使い切れないほど布があるのを知ってるわ」
どうして王子に否と言えよう?初めてのねだり事なのに。
くぅぅ〜〜〜〜〜〜っ。
切ない王子、グッとくるっス。
琥珀と水晶作家様、これからの展開楽しみです!
王子がんがれ〜!
なんか「琥珀と水晶」は久しぶりに私のツボです。
王子、最後に余裕の「ふ」をかますのはあなたしかいないと信じているわ〜(爆)
>>442 26
慈悲深い王子妃。優しい姫君。貧しく身分低い者達にも暖かく心配ってくださる。少しも高ぶったところのない恥ずかしがりのお姫様。
市井の人々はこんなふうにキャロルを噂した。
冬の終わり頃、一番寒さが厳しい頃、貧しい人々に粥を振る舞い、暖かな布を配り、王妃の作った施薬院に気前の良い寄附をしたキャロルは一足早く訪れた春の精のようなものだった。
「王子・・・。あの・・・私の我が儘を聞いてくれて・・・あ、ありがとう。嬉しかったの、本当に」
キャロルは施薬院の手伝いであかぎれのできた荒れた指先をさりげなく隠しながら言った。
人々の暖かい声がキャロルには嬉しく、また自分だけが贅沢をしているという引け目からも少しは救われた。
「ふふ」
王子はつとめて嬉しさと喜びを押し隠しながら微笑した。この娘は少し怒っているくらいの方が元気があって良い、と思うようになっていた。
「そなたが礼を言ってくれるのは初めてだ。私としても・・・嬉しいな」
王子の頬は少年のように紅潮していた。そんな王子の顔を見るキャロルの心も不思議に波立って・・・。
でも照れ隠しのように口から出たのは小憎たらしい言葉。
「私がひどい礼儀知らずみたいな言い方。私、これでも約定を守ろうと努力しているわ」
実際、彼女の王子妃ぶりは見事だ。幼げな外見に似ず、如才なく振る舞う。
「ふふっ。努力は認めよう。だがそなたはやっぱり癇癪持ちの子猫だ。私だけだな、淑やかな王子妃の正体を知っているのは」
27
王子も軽口で応じた。
そう、ヒッタイトに来る途中の船上で幾度もキャロルをあしらい、怒らせたあの口調で。
キャロルの癪に触る、でも懐かしく愛おしい憎まれ口が一瞬、王子に自分の罪を忘れさせた。
「失礼ね!」
キャロルはむっとして言い返した。全くこの男は・・・!
その時、ムーラが夕食の支度が整ったと告げに来た。王子はごく自然にキャロルの腰に手を回すと、居間に誘った。キャロルも又、その手に抗おうとしなかった。
「姫君、お薬を・・・」
寝室の中からの声に驚いて、湯浴みを終えたばかりの王子は扉を開けた。
「薬?ムーラ、何の薬か?姫はどこか悪いのか?」
「いえ・・・王子。あのあかぎれのお薬でございます。姫君は最近、施薬院でのお手伝いをよく遊ばします。冷水を扱われることも多いのでお手が荒れて」
ムーラは怪訝そうに言った。睦まじい夫妻であるはずなのに、王子は妻のあかぎれのことを知らない・・・?
「ムーラ、ありがとう。薬は自分でつけるからもういいわ。・・・王子、大丈夫よ。ただのあかぎれですもの」
「ムーラ、下がれ。姫、手を見せよ」
王子が愛した手は痛々しく荒れて、乾いた血がひび割れにこびりついている。
醜い手を恥じて乱暴に引っ込めようとするキャロル。だが王子は許さなかった。黙って薬の入った貝殻を取り上げて、香料で良い香りをつけた油薬を擦り込んでやる。
「やだっ・・・!自分でできるから離して」
「いつからだ?」
「え?」
「いつからこのように・・・」
「お、怒ってるの?でも王子には関係ないわ」
「妻が手を荒らして施薬院での仕事に没頭している。私はそれを知らなかった。だから労ってもやれなかった。関係ないことはないっ!そなたは私の・・・大事な妻だ」
王子はむっつりと言った。
おお、新しいお話が・・・! 作家様ありがとう!
愛する人の心の隔てに心中密かに悶える王子、 くぅ〜 いい〜!
これから、隔ての垂れ幕を一枚ずつ除けていくことができるか楽しみです。
作家様にすんばらしいインスピレーションの雨が降りますように〜〜〜雨乞い雨乞い
うーん、自分が酷い目に会わせた相手を気遣ってひたすら幸せを祈っちゃう王子。
キャロルを解放してやるのが一番いいんだけど、それができない!
でもって罪の意識と自己嫌悪に悶々。
どーしたらいいんだぁっ(爆)!という王子に萌えています。
現実にいたらきしょいだけの最低変質者男だと思うけど・・・。
作家サマの作品の王子なら許せる王族乙女の身勝手(藁)
続きが気になりまする〜。
パソから修理のためとはいえ離れると出来てた話しも打てませんでした。
「琥珀と水晶」作家様
王子が不幸なまま終わる。どん底でもいいと思ってましたが・・・・
>>370 イアンはそ知らぬ顔でルカに口止めして宿舎に帰ると王子の移送経路を再検討し始めた。
国境近くにヒッタイト軍が常備している神殿があったはずだ。そこに近いルートを使う。
王子の救出なり暗殺なりの騒ぎが起きるだろう。
なくても王子の捕虜になった失点は大きい。継承争いは激化する。ルカを使って王子の逃亡を促すのもいい。
こんなことでさまざまな可能性を考えている自分はさぞ嫌な顔だろうな。
だがルカが離れた以上母を連れ出すのを急がなければ。執事のセチは人はいいがあまり才覚のない男だった。
いまだ王が母に執着しているとも思えないがカーフラ王妃の執拗で執念深い迫害は単純だが被害甚大となる手段で行われるだろう。
神殿の近くを通るならその私兵集団が王子を暗殺したことに出来ないか?いや、ヒッタイト兵同士で争うのでなければ交渉や小競り合いが長引く。
ルカに王子支持の兵士を引き込ませるのが得策だ。
翌日からの作戦会議でイアンはネバメンが自分の立案した作戦を自分が考えたかのように得々と話すのを聞きながらさりげなく暗殺の可能性をルカに伝える手段を考えていた。
だからウナスを訊ねてきたの見たときは小躍りしたい気分だった。引渡し地点までの護衛を命じられているのを話しの流れを作って向こうが聞き出したように見せかける。
数日後移送された王子は神殿からの兵士に救出されたがその兵士たちが神殿を完全に制圧するため虐殺した神官の中にかっての下エジプト女王アイシスがいた。
おお〜「生への帰還」続きが・・・! シアワセだ〜
ところで「生への帰還」作者様、情景描写やモノローグ的語り口は作者様の個性的な
「文章の味」だと思っています。ただ、一続きの長い文に全く句読点が無いというのは、
読んでいて少々辛いです。句読点を打つか、句読点を打たない場合は意味や情景の上で
まとめられる文を段落に区切ってその間を一行あければ、もう少し読みやすくなり、
またよりメリハリのある文章になると思うのです。どうぞご一考ください。
>>447 28
キャロルは真っ赤になってあかぎれの手を王子の大きな手の中に預けている。
(妻・・・。王子が私のことを妻・・・だって。人質でも、妃でもなく・・・妻・・・。きゃあ・・・)
年相応の娘らしいときめきを覚えるキャロル。
(だめよ。馬鹿ね。何を考えているの。この人は酷い人、恐ろしい人。私に何をしたか・・・まさか忘れたわけではないでしょう・・・?
私を騙して傷つけて・・・滅茶苦茶にしたのよ。心許してはだめ)
強いて自分に言い聞かせねばならないほどに・・・キャロルの心は変化していた。
(心許しては・・・いけないの。惨めな思いをするのはもうたくさん。
・・・ああ、でも、でも・・・この優しさは・・・)
「さぁ、これでよい。ああ、そうだ少し待っておれ」
王子は部屋を出ていき、間もなくビロードのように柔らかいなめし革でできた手袋を持って戻ってきた。それは武具を扱うときに籠手の下にする保護用の手袋だった。
「これを・・・」
王子は大きすぎる手袋をキャロルにはめてやった。
「これをして眠れば少しは治りも早かろう。まだあまり使っておらぬし。・・・少し大きいがな」
しなやかで暖かい手袋。まるで大きな袋のよう。不格好な大きな手袋。
でも、この上なく優しく荒れた手を包み込む。
まるでささくれて疲れ果てたキャロルの心を包む王子の心のように・・・。
キャロルはくすりと笑った。
「かなり大きいわね」
王子はどう答えていいやら分からない。この人にしてはとても珍しい。
「でもとても・・・暖かいわ。それに柔らかいし、ちくちくすることもない。
・・・・・・ありがとう、王子」
キャロルは少し涙ぐんでいた。今まで必死に自分の心に防壁を築き、王子の存在を拒否し、王子の心遣いを無視してきた。
でも今、キャロルと同じくらい、いいや、それ以上に傷つき苦しむ王子の孤独な心と、労りと贖罪に満ちた心が・・・初めて深く心に染み込んできた。
敢えてうち捨ててきた王子の深い愛情が・・・。
・・・初めてキャロルの心の防壁が崩れ、感じまい、気付くまいとしてきた事柄が一気に流れ込んできたのだった。
29
「姫っ?どうした?何故・・・泣く?」
王子は狼狽えて、静かに涙を流すキャロルに問うた。
(それほど触れられるのが嫌だったのか?私の持ち物を身につけさせたのは無神経だったか?)
キャロルは自分の頬に触れた。涙が・・・気付かぬうちに涙が流れている。
「私・・・泣いてる?おかしいわね。嬉しい・・・のに・・・」
「姫・・・?」
(嬉しい・・・と姫は言ったのか?拒絶の言葉ではなくて?)
王子の胸は高鳴った。初めて・・・初めて愛しい娘は暖かい言葉を返してくれた!
王子はキャロルに手ひどく拒否されるかもと恐れるいつもの心を忘れて、指先でそっと涙を拭ってやった。
・・・キャロルはされるままだ。拭っても拭っても流れる涙。暖かな涙。
「もう・・・泣くな。まるで私がそなたを虐めたようだ。使い古しの手袋を貸してやっただけではないか。首飾りは欲しがらなかったのに、こんな手袋くらいで・・・」
王子は照れ隠しでわざと淡々と、少し呆れたように言って見せた。
だが涙を堪えていたのはむしろ王子の方だった。
(姫が初めて・・・私の好意を受け取ってくれた。涙まで流して、嬉しいと言って・・・)
「さぁ・・・もう休め。疲れたであろう?早くあかぎれが治るといいな」
キャロルはこっくりと頷いて拒絶も敵意も哀しみも含まない、穏やかな深い声で言った。
「おやすみなさい。・・・手袋、ありがとう」
30
(何て忘れっぽいのだろう、私は。私の心は・・・)
寝台に横たわり、顔の上に手袋をはめた手を掲げたキャロルは小さく吐息をついた。
(王子の心遣い・・・。あれほどあの人に辛くあたって傷つけたのに、あの人はこんなにも優しくしてくれる。あの人を傷つけることで自分の痛みを紛らわせようとした、私みたいな片意地な頑なな人間に・・・)
醜いあかぎれに優しく念入りに薬を塗り込んでくれた大きな手。そっと手袋をはめてくれた暖かな手。
―そなたは私の大事な妻だ。
(本当にそう思ってくれるの?政略で娶った相手ではなく、無神経に弄び辱めた取るに足らない女ではなく、本当に妻として思ってくれるの?)
自分を見守る王子の視線、さりげない、でも細やかな心遣い。
(あの人は恐ろしかった。やめてって言ったのに・・・嫌だって言ったのに・・・無理矢理に・・・私を・・・)
思い出すたびに胸がきりきりと締め付けられるように痛み、冷や汗が吹きだし、身体が震える忌まわしい思い出。
キャロルはそれを思い出すたびに頭が真っ白になり倒れそうになった。
でも今は違う。今は・・・その後の王子の罪に戦き、キャロルへの贖罪に心砕く姿が次々に思い出された。不器用な、でもそれだからこそ一層、哀しみと反省に彩られた誠実さが際だつ行い・・・。
―私のために、私の側で生きてくれ。愛してくれなくてもいい。許してくれなくてもいい。そんなことはもとより求める資格はない。分かっている。でも愛しているのだ、そなたを幸せにしてやりたいのだ―
矛盾と苦渋に満ちた叫び。それは自死を選んだ折りの冥い意識の世界で繰り返し聞いた王子の声。
(夢ではなかったのだわ。あの声は。意識の無いとき・・・薄暗がりの世界で聞いた泣き声は・・・王子の声。
王子は・・・酷い人。残酷な人。でも・・・でも・・・汚らわしい罪を償って余りある愛があったのが・・・今の私には・・・分かる)
キャロルは手袋にそっと唇をつけた。そして静かな優しい吐息をつくと垂れ幕の向こう、王子の眠る方を向いて囁いた。
「おやすみなさい」
>「生への帰還」作家様
続き楽しみにしていたので嬉しいです。毎回、次はどうなるんだ?と楽しみにしています。
次回が今から楽しみです。
「琥珀と水晶」作家様
王子の幸せはもう目の前・・・だと思いますが何故か私の心は切ないです。
本編であまりに長い間王子の報われない日々を見続けたせいでしょうか?
もうこれ以上ナイ!王子、余裕・楽勝!というところまでいかないと安心できなくなってます。
思い切り心配しながら続きをお待ちしてます。
>>450 王子の奪還はある程度予測されていたため一時の処分を覚悟でイアンは兵を早々撤退させた。
交渉相手には輸送中に攻撃があったことの抗議をすることをミヌーエに要請しておいたのであるが。
アイシスの死とその幽閉理由を知ったイアンのその後の動きは悪辣で迅速だった。
ヒッタイトとのいざこざの原因を作った女。母を不幸にした最初の原因を作った女。
悲しみをたたえた表情のミヌーエに気付かれぬよう冷笑を浴びせ、
エジプト神官の虐殺を理由にヒッタイトとの交渉を打ち切り、なぜヒッタイト兵が一応エジプト領内に侵入できたのかの調査を始めるよう進言した。
これに関してイアンはあらかじめネバメン側にイズミル王子と手を組めば、その勢力を利用して王位を簒奪できる可能性があることを従者達から巧妙に伝わるよう工作していた。
王側がヒッタイト王子に恩を売っておいて兵力を引き入れさせ小競り合いを起こさせその力でネバメンを抹殺する。
そして相手が王位についたらそのことを言い立てて揺さぶりをかけると。
これに先手を打っておけば自分が腹の痛まない兵力を手に入れることが出来る。
王弟でいることに飽きてきていたネバメンは誘導に気付かずこの策に飛びついていた。
占拠されている神殿を攻めるフリをしながらイズミル王子に約定を交渉する。
その証拠をミヌーエが送りこんでいた間者に手に入れさせるとネバメンを無視して神殿を攻め落とし兵士を全て殺し、イズミル王子を捕虜にした。
>>457 絶望的な状況でそれでもひそかに救出を図ったルカはイアンによって顔を潰すように棍棒を使って殺された。
この件に関して密かにミヌーエが叱責しようとしたが尋問などしてウナスに累が及んではどうすると切り替えした。
ルカの側にはラージヘテプ王子が居たこともあるしウナスは何年も付き合いがあったのだ。
実は通じていたのはこちらだと言い立てられる可能性がある。そう切り替えしてイアンは次の策を「進言」した。
「王子」ではなくともミヌーエたちを動かしているのはもう完全にイアンだった。ヒッタイトとの交渉は彼無しでは膠着する。
イズミル王子は今度こそ処刑された。
その最後において彼はナイルの河神の娘と呼ばれた女性を「詐欺師」・「淫婦」と罵ったがそれに対して
処刑を宣告した少年は冷笑と嘲笑の下に怒りを隠しながらこう答えた。
「世間知らずの小娘を騙しておいて告発されたら、相手が悪い!か、
こんな幼稚な人間が帝位に付いていたらヒッタイトの崩壊はすぐだったな。
此処でお前を処刑するのはかえってヒッタイトの助けになりそうだ。残念だ。」
王子の首はあっけなく刎ね飛ばされ、晒された。
うぉっと〜 怒涛の展開・・・
>生への帰還
お帰りなさいませ。
そしていきなりな急展開!
王子とルカの訃報をこのスレで聞くことになろうとは!!
目が離せません。
ところで。
イアンくんはなぜアイシス様のなさったことをご存知なのですか?
やっぱりナフテラが愚痴ってたのを聞いたりとかしてたんでしょうかね。
>生への帰還 作家様
すごい展開ですね!王子死亡とは新しすぎ、はげしすぎの展開です!
でもこのイアンの苛烈さがリアリティを醸しています。
さて、この後イアンは母を救えるのか?父を赦せるのか?親子に和解の時は来るのか?
目が離せません!
>琥珀と水晶 作家様
王道を行く展開、ひたすら王子とキャロルのハッピーエンドという予定調和をお待ちしています(はぁと)。
安心して読めますねー。続ききぼんぬ。
>>454 31
最近、王子はますます多忙であった。
火種を含みつつ一度は終結したエジプトとの折衝がまた厄介な色合いを帯びてきていた。
エジプトのファラオ メンフィスは姉女王アイシスを娶り、その後リビアの王女も娶った。この二人の妃の折り合いが非常に悪かった。
そこに持ってきて、ファラオの異母弟を名乗る怪しげな男が出現し、伝統と格式を誇るエジプトの宮廷は四分五裂し、その混乱は宮廷の外、国内にあまねく波及しているという。
ファラオは国内の不満を逸らし、民心の結集をはかるべく外部に目を付けた。
すなわち戦争による混乱の浄化・・・。標的はどこでもよいのだ。そう、ヒクソス、シリア、そして・・・ヒッタイト。
―我らがナイルの女神の娘を、エジプトに取り戻せ―
そんな不穏なことが公然と囁かれているらしい。
(もとより今のエジプトに外国を相手に大規模な戦をする力はない。牽制と油断なき監視だけで充分だ)
イズミル王子は協議の間を引き取って自室に戻りながら考えていた。
(メンフィスは若く血気に逸るだけの愚か者でもない。じきに国内の混乱も収まろう。・・・犠牲の血はどれほど流れるやら分からぬがな。
それよりも問題なのは・・・エジプトが・・・メンフィスが未だ姫を求めているということだ)
イズミルの心は乱れた。
冷徹な為政者としての思考が、恋の虜となった若者の感情を混ざり合う。
メンフィスは姫に執着している。
姫は契約の印章を押すときにメンフィスと見つめ合った。
姫はエジプトから離れるとき、いかにも名残惜しげだった。
そして自分は・・・嫌がる姫を無理矢理に・・・抱いた・・・!
姫の心は・・・?
32
日々は過ぎ、対エジプトの政治的・軍事的な処理は着実に進められ、ヒッタイトは国王とその共同統治者たる世継ぎの王子のもと盤石の守りを誇った。
エジプトはヒクソス相手にいつ果てるか分からない戦を始めたという。多くの人間が戦争に駆り出され、大義と正義、哀しみと怒りに酔いしれ、不満を忘れているという。
メンフィス王の異母弟は早々に戦死したという・・・そう表向きは。
戦争の中で新たな秩序が生まれつつある。
(メンフィスは・・・姫を忘れてはおらぬか)
イズミル王子はきりきりと疼き痛む胃のあたりに手を置きながら西宮殿への回廊を歩いていった。初秋の夜の冷気が王子を包み込む。
(姫は・・・どうなのだろう?姫は・・・私に対してずいぶんと穏やかになってきた。ひょっとしたら少しは私への憎しみが薄らいだのではないかと思ってしまうこともある。でも本当の心は・・・?)
期待、希望、キャロルへの愛情。それらに対する逡巡。
キャロルと王子の間に流れる空気が穏やかなものになったのは確かだ。言葉を交わすことも普通のことになっていた。
王子はキャロルの物腰から淡い、でも押さえがたい期待を抱くことが多くなった。しかしことキャロルに関しては誰よりも情熱的でありながら、生真面目な若者は自分の大それた望みを押さえつけた。
(私は姫に対して大きな罪を犯した。私は姫を自死に追い込んだことを忘れてはならぬ)
「王子、おかえりなさい」
西宮殿は明るく灯が灯され、キャロルが出迎えてくれた。穏やかな優しい顔立ち。だがその顔はすぐに曇った。
「どうしたの?ひどい顔色だわ!早く中に。それからお医者様・・・」
「騒ぐな、大事ない。少し疲れただけだ」
「胃?胃が痛むの?」
キャロルは王子を引っ張るようにして寝室に連れていき、寝台に寝かせた。
その心遣いが王子にはこの上なく嬉しい。だが確かにこの胃の痛みは普通ではない。王子の全身は冷や汗に濡れ、顔色は土気色。
キャロルが医師を呼ぶよう命じる声を心地よく嬉しく聞きながらも、王子の唇からは痛みを堪えるうめき声が漏れだしてしまうのだった。
33
医師が召し出され、王子を診察し、薬を置いて退出していった。
「王子はひどくお疲れで消耗されておいででございます。おそらくはご心労とご疲労が胃の焼けつくような痛みを産み出しているのでございましょう。
しばらくはご安静に。それからご政務のほうもしばし量を減らされ、療養に努められますよう」
(過労・・・ってことよね)
キャロルは、寝台に横たわり痛み止めの薬のせいで眠り続ける王子の顔を見つめていた。
(ずっとずっと王子は忙しそうだった。いつも夜更け過ぎにここに戻ってきて・・・疲れているだろうに私のことばかり気遣ってくれて、私が横になるのを確かめてから自分は長椅子で休んでいたっけ。
大丈夫?って声をかけて・・・無理しないでって言いたかったのに。何だか言えなかった。私が気遣ったりしたら煩がられると思って・・・)
ひどい自己嫌悪が彼女を苛んだ。
(心配だったのは本当。疲れているのは分かっていた。でも気遣う言葉が言えなかったのは・・・王子があんなことを私にしたのを・・・許せないと、いいえ、許してはいけないと自分を縛っていたから)
キャロルの頬を涙が伝った。
(心労と疲労。倒れるほど王子は消耗していたのに私はそれを気付かぬようにしていた。
そして私はどうして・・・ここまでひどい状態になったのか、その原因も知らないの・・・!)
押さえきれない嗚咽が漏れ出す。
「・・・許して・・・下さい。私を・・・許して下さい」
白い手をそっと額にあてる。冷たい汗で湿る額。
不意に眠っていた王子の眉が顰められ、琥珀色の瞳がキャロルを見た。
「泣くな・・・。そなたに泣かれると私は・・・辛い」
34
「夜明け前か・・・今は。どうした?姫。何故、起きているのだ?休んでいないのか?・・・ああ、私が寝台を独占しているから・・・か?」
起き上がろうとする王子を優しく押しとどめながらキャロルは言った。
「どうぞそのままで。あなたは昨日、倒れたの。病人なのよ。お医者様が胃がひどく荒れているから当分、療養に専念するようにって」
「・・・ずっとついていてくれたのか?」
王子は驚いたようにキャロルを見つめた。心配そうに自分を見ている娘。その碧水晶の瞳は涙に濡れて。
「・・・ごめんなさい」
キャロルは王子の手を取りながら言った。
「あなたがひどく疲れているのに、私はそれに気付かぬふりをしていました。
あなたが自分のことは二の次にして私のことを気遣ってくれるのを当然のことだと思っていました。許して下さい」
王子は驚いてキャロルの言葉を聞いていた。
(何を言っているのだ、姫は。詫びている?この私に?倒れたのは私の勝手なのに、詫びている?泣いている?
ああ・・・まさか・・・ひょっとして私を心配してくれている・・・?)
「あなたが忙しくて・・・何か心に掛かることがあるらしいのは分かっていたの。でも私は・・・あなたが私にしたことを許さないように意地を張って、罰しようと思って、心配して労ることをしなかったの。
何がここまであなたを消耗させたのか知ろうともしなかったの。
・・・許して・・・下さい。そして・・・そして・・・早く・・・早く」
「姫・・・?そなたは・・・私にそう言ってくれるのか?ああ、聞かせてくれ、そなたの言葉を。優しい言葉を!」
「・・・早く良くなって下さい。お願い・・・お願い・・・」
王子は痛み止めで気怠い体を物ともせず、キャロルを抱きしめた。あの冬の終わりの日々、手袋をはめてやった娘が今、自分の腕の中に身を任せ、泣いている。
キャロルは抗いもせず、王子に抱きついて泣いた。
35
王子はしっかりとキャロルを抱きしめていた。薬のせいか思うように力が出ないのがもどかしかった。
キャロルは王子の胸に縋っている。小刻みに震える背中。王子の胸元が暖かく湿っていく。キャロルの涙。
キャロルは泣いていた。いつかのように、それは悲しみと絶望、怒りを吐き出し浄化するための涙ではなかった。
自分の心を縛めていた鎖を断ち切り、王子を・・・いつの間にか強く心引かれていた相手に素直に詫び、許しを請うことができたことに対する安堵と、自分の贖罪のための涙だった。
そして・・・そんな自分を抱きしめ、受け入れてくれる存在がこの世に存在することに対する尽きせぬ感謝。
王子は祈っていた。
これが秋風の見せた夢ではないようにと。キャロルが自分を気遣い、自分を傷つけたことを詫びる言葉を口にしたことが夢ではないようにと。
この暖かな身体が、染みわたる優しい心が、すり抜けて夢のように消え失せないようにと。
王子はそっとキャロルの顔を上向かせた。戦き、裁きの言葉を待っている娘の顔。
「・・・私にも今一度、許しを請わせてくれ、姫。
そなたの身体を、尊厳を踏みにじった傲慢な私の行いを。そして・・・少しでよいから信じてくれ。私は・・・そなたを愛している。そなたに幸せになって欲しい。知っていて欲しいのだ」
キャロルはじっと王子の瞳を見つめた。誠実な光が宿るその瞳。
気付くまでにあまりに多くの時間がかかった。傷つき、多くのものを失った。
自分の心をがんじがらめにして迷宮の奥に迷い込み、痛みと絶望に浸った。
でも。もう終わりだ。新しい一歩は歩み出されねばならない。
キャロルはこっくりと頷いた。
「はい・・・。私はあなたの心を受け入れます。・・・あなたを許します。そして私のことも許して下さい」
今日はお休みだと思っていたのに新作があってうれすぃ。
琥珀と水晶作家様
感動して涙してしまいました。
王子の嬉しい気持ちが伝わってきて私までもが
幸せな気持ちになりました。
どうぞこのまま王子を幸せにしてください。
二人の作家様の全然違うタイプの王子。
こーいうのは面白いと思う〜。
両方とも下らない妄想同人小説かと思ってたけど結構、感動させるところとかどきどきさせるところとか、話の緩急とか考えて書いてるんだと感動。
>作家様、見下していたみたいだったけどごめんなさい。
原作よりスピーディなので楽しみっす。
>>466 36
―あなたの心を受け入れます。あなたを許します―
待ち望んだ許しの言葉。罪に汚れ、耐えがたい良心の痛みに苛まれ、自分が滅茶苦茶に辱めた乙女が不幸に堕ちていく姿を常に目の当たりにしていなければならなかった日々。愛していたのに。
キャロルの心を望んで望んで、でも決して望みは叶えられることはないと思っていた永い日々。
許されるのか?許されたのか?再び・・・今度こそ心から愛を請う資格が得られたのか?
「本当に・・・?本当に姫、そう言ってくれるのか?心から言ってくれるのか?私を許してくれるのか?」
「はい・・・」
「では・・・ああ・・・そなたを愛していると言うことを、そなたの愛をもう一度最初から請うことを・・・許してくれるか?」
あまりに不器用な、あまりに真摯な、誠実な求愛。王子の不安が、幼子のような不安がキャロルの胸に伝わる。
(ああ・・・私は愛されている。私はこんなにも・・・愛されている・・・)
キャロルは戦いた。
(こんな私が・・・。ああ、恐ろしいわ。でも・・・幸せで・・・。こんなふうに思うのは不遜だと分かっているけれど、傲慢だって分かっているけれど・・・嬉しい・・・!)
キャロルはまっすぐ王子の瞳を見つめた。
「あなたが本当に・・・私なんかのことをそこまで思ってくださるなら・・・嬉しいことだと・・・思います。
人質なんかじゃなく、外見の珍しい外国人としてじゃなく、ただの私を・・・」
王子は恭しくキャロルの手に口づけた。
「そなたを・・・他の誰でもないそなた自身の心を、私は何よりも望む」
37
王子の療養は思いの外、長引くことになった。
キャロルは王子の看病に専念した。薬を飲ませ、細々とした雑用をこなし、王子が眠るときは寝入るまで、白い手を王子の痛む胃のあたりにそっと手を置く。その優しい暖かさに王子はこの上なく癒されるのだった。
キャロルは大っぴらに愛を語る性格ではないようだし、王子も何とはなしに遠慮して色めいたことは仕掛けなかったが、二人は静かな時間の中で睦まじかった。
ムーラはひっそりと遠慮がちに寄り添うような二人の姿に涙を拭うのだった。
彼女だけは・・・王子とキャロルが実質を伴わない「白い夫婦」だということを見抜いていたのだ。
療養の徒然に王子はキャロルに政治向きの話をしてやるようになっていた。病床でも政務は少しずつこなさなければならないのだ。
エジプトのことを話してやったとき、キャロルの顔が憂わしげに歪んだのを王子は見逃さなかった。キャロルが心を開いてくれた日以来、思い出しもしなかった疑惑がにわかに蘇った。
「・・・心配か?恋しいか?逢いたいか?」
「え?」
「・・・メンフィスに・・・逢いたいか?私などより・・・」
王子の琥珀の瞳は冷たい冥い炎を宿し、キャロルはその恐ろしい光に怯えた。
「何を言っているの?メンフィスって・・・?」
キャロルにとってメンフィスは恐ろしい暴君。思い出したくもない恐ろしい相手。
「そなたはメンフィスを・・・!」
そこまで言って王子は口を噤んだ。自分らしくもない嫉妬に我ながら驚いたのだ。目の前で怯え緊張するキャロルの姿も王子の自己嫌悪を誘った。
「すまぬ・・・。今のことは忘れてくれ。つい・・・」
38
「いやよ!どうして誤魔化すの?私が何故、メンフィスのことを恋しがらなきゃいけないの?私、何かあなたを怒らせるようなことした?」
キャロルも負けていなかった。王子が久しぶりに聞くキャロルの怒った声。
「どうしていきなりメンフィスが出てくるの?」
言い募るキャロル。
何となくは分かっていたのだ。王子はどうやら焼き餅を焼いているらしいと。戦で荒廃するであろうエジプトの国土と人々を思って心痛んだキャロル。でも王子はメンフィスを心配していると思っているらしいのだ。
「もう申すな。私が口を滑らせたのだ」
王子は言った。自分の嫉妬を相手が見透かしているらしいのが面はゆく不快だった。
自分はこの癇癪を起こして囀っている小鳥よりも遙かに年上なのだ。少女が初恋の相手を恋しがるくらい見逃してやるのが大人の男だ。
そして・・・馬鹿な感傷に浸るのを止めさせ、冷静に幸せの指針を与えてやり,初恋の男を忘れるくらい愛して幸せにしてやるのが・・・大人のやり方ではないか?
「そなたくらいの年頃なら、まだ恋物語を楽しみたいだろう。初恋の相手を恋しがるのは仕方ないな」
「馬鹿っ!」
いきり立ったキャロルは王子の差し伸べた手を乱暴に払った。
「私がメンフィスを恋しがるですって?あんな乱暴なだけの人を?どうしてメンフィスなんか相手に恋物語よ?勝手に話を作らないで。不愉快だわ!」
キャロルは涙を乱暴に拭った。
私はこの人を好きなのに。好きになったのに。肝心のこの人は私が・・・私がこんなに好きなのを気付いていてもくれない!
「王子は賢いわ。大人だわよ、確かに。でも馬鹿よ!」
キャロルはそう言うと呆然としている王子を置いて垂れ幕の仕切の向こうに行ってしまった。
>王子は賢いわ。大人だわよ、確かに。でも馬鹿よ!
キャロル、それを言ったらおしまいだってば(藁
「琥珀と水晶」作家様
ツボに入りすぎて切ないです〜
もともと王子ファンですが作家様のお話を読んで
さらにさらに王子にのめり込んでしまって辛いほど・・・(涙
王子とキャロルが初めに会っていたらきっとこんな展開になっていたんじゃないかな〜と思う話っす。
>琥珀と水晶
んでもってメンフィスが横恋慕するんだけど、きっと原作の王子みたいに耽美な雰囲気にはならないと思われ。
昨日の夜中にある感動的なシーンを目の当たりにして心が温まりまた。
>ナフテラ様
いまさらですけど・・・
いつも王家関連のスレをあたたかく見守ってくれて有難うございます。
このスレを立てられた時依頼お姿拝見してませんがあなた様(ここではナフテラ様ですね!)
は私たちにとってなくてはならない存在です。今後とも宜しくおねがいします。
何言ってるかわかんなーいと思われた方々、すみません。
私のくだらないつぶやきですのでお忘れくださいませ。
>>476 温まりまた⇒温まりました
そそっかしいぞー。そなた誰ぞなもし?(藁
私も!
ナフテラさま、作家さまいつもありがd(☆chu!
>>472 39
(姫は本気で怒っている)
王子はまたしくしくと痛み出した胃を宥めるように手を腹部に置いた。
ここしばらく優しくしおらしいキャロルしか見ていなかったのに。
(私が嫉妬したからか?メンフィスのことなど素知らぬふうをしていればよかったのか?)
その思考はすぐにうち消される。
(いいや違う。姫は言ったではないか。私が・・・姫はメンフィスを恋しがっていると決めつけたから怒っているのだと。あんなに顔を真っ赤にして怒って。癇癪を起こして私に乱暴な言葉を投げつけた。
・・・ということは・・・姫は・・・少なくとも姫は・・・)
胃は痛むのに、顔には押さえきれない笑みが浮かぶ。
(メンフィスのことなど本当に何とも思っていないということか!そして・・・私のことを・・・好きということか・・・?!)
―王子は賢いわ。大人だわよ、確かに。でも馬鹿よ!―
久しぶりに聞いたキャロルの罵声。
「そうだな、癇癪持ちの子猫よ。私は確かに馬鹿だ。少なくともそなたに関してはな」
王子は痛みを堪えながら、声を殺して涙を流して笑い転げた。
その気配に驚いたのか。ふと王子が目を上げればキャロルが狂人でも見るような顔をして垂れ幕の後ろから顔を出していた。
「こちらへおいで、姫。確かに私は馬鹿だ。大馬鹿者だ。そなたの心が分からなかった。
さぁ、来てくれ、姫。馬鹿は死なねば治らぬ病とか。そなたは生涯、私の看病をせねばならぬぞ」
びくびくと近寄ってきたキャロルを素早く寝台に引きずり込み、王子は手慣れた調子で愛しい初な娘に接吻を贈った。
40
「愛しくてたまらない・・・。大事な私の子猫。私の・・・妻」
王子は女の扱いに慣れた男の仕草と余裕でキャロルに触れた。今まで敢えて自分を押さえ、ままごとのような睦み合いで満足できていたのが不思議なくらいだ。
やはり、無理矢理のようにエジプトから奪ってきたキャロルに遠慮があったのだろうか?それとも年下の子供に男として大まじめに迫るなど倒錯じみていて気恥ずかしかった?
「王子ったら!何?どうしたの?私は・・・怒っているのよ?」
「知っている。私が見当違いの嫉妬をしたから。メンフィスのことなど持ち出したから」
イズミル王子は、深く結ばれた大人の男女がするような接吻を初めて受けて、頬を赤く染めたキャロルを愛おしげに見つめた。キャロルはすっかり王子のペースに呑み込まれている。
「そなたは・・・私のことを・・・愛してくれているのであろう?だからあんなに怒ったのだ。違うか?」
王子の心は、ことここに至ってもまだ恐れている。キャロルは自分を拒絶するのではないかと。キャロルに愛されていると思ったのは全て勘違いではないのかと。愛しすぎる相手。心は臆病に震える。
でも同時に。
初めて恋を知り、誰かを愛しく思うことができた心弾みが彼を大胆にする。つれない乙女であるならば振り向かせてみせようではないか!
青年は今まで子供扱いしていた小柄な娘を腕の中にしっかりと抱きしめた。今度こそ誰憚ることなく、この小さな子供を自分の腕の中で大人にしてやろう。
41
「お・・・じ。苦しいったら。離して。病人がこんなことしたら・・・!」
キャロルは真っ赤になって王子から逃れようとした。癇癪は霧散し、今は恥ずかしさと喜びと戸惑いがない交ぜになった心持ち。
「愛していると言ってくれ、姫。そなたは一度もそう言ってくれたことがない。馬鹿な男に言ってくれ、愛していると。そうしたら・・・離してやるから」
王子はからかうような口調で言った。キャロルの狼狽えぶりを面白がるような皮肉っぽい微笑。
素直に感情を表すことができなくて、素直にキャロルの愛の言葉を請うのは気恥ずかしくて、遊び慣れた男の仮面を被ってしまう。でも何気ない声の調子や仕草の中に・・・キャロルにしてみれば見え見えの真摯さと臆病さが隠しきれない。
「姫・・・」
―お馬鹿さん。お母さんの気を引こうとする小さな子供みたい。
―本当に不器用な人。人の心を請う術を、言葉を知らなくて、自分の想いとは正反対のことをしてしまう天の邪鬼。
―子供みたいな人。賢くて冷静で申し分ない大人の男の人なのに、肝心のことは何も分かっていないのね。
―私が気付かないままだったらどうしたのかしら?本当にこの人は・・・。
キャロルの瞳の中に暖かい微笑の灯りが灯る。
「姫・・・?」
「呆れた人。何も分かっていないのね。言わなきゃ分かってくれないなんて。
ああ、王子・・・」
碧水晶の瞳がまっすぐに琥珀の瞳を覗き込んだ。
「愛しているわ」
作家様、オニマークはいつ出まつか(爆)?
恋に溺れてお馬鹿になる王子に萌え〜。
私もお約束の鼻血展開きぼーんです。
王子は再びオニになるためにずっと下手に出てきたのか・・・?!(爆
王子のことをお馬鹿さんだとぉ?!
相変わらずすぐ調子乗るキャロル、御仕置が必要と見えます>作家様
〜 Ψ(`▼´)Ψの影 〜
王子っていくつくらいなんですか?
メンフィスよりは年上かと思うんですが・・・。
〜 Ψ(`▼´)Ψの提案〜
「琥珀と水晶」のキャロルは癇癪持ちらしいので、そりは激しいお仕置きが必要かと・・・。
癇癪持ちの子猫は平気で噛んだり、爪を立てたりするでしょうし(爆)
>>481 42
その晩、王子とキャロルは抱き合って同じ寝台で眠った。
天窓からのぞく秋の星を数え、月が動いていくのを見守った。
互いのぬくもりが心地よく、相手の息づかいが安らかな気持ちを呼び起こし、時折、指先に触れてはまた離れていく肌の暖かさが懐かしかった。
とりとめのない話。秘密めいた小さな笑い声。お互いの髪を、頬を、背中を優しく撫でる手。
「ああ・・・とても暖かくて心地よい。今までよく離れて眠っていられたものだ。もう・・・独り寝はできぬな。姫、もし嫌でないなら添い寝を・・・許してくれるか?これから・・・」
「ええ・・・」
やがて二人は眠り込んだ。広すぎた寝台は初めて居心地の良い場所になった。
王子はキャロルよりは少し長く起きていて、キャロルの寝顔を飽きず眺めた。
これまで好きな女と一緒に居るときにはいつも感じた、あの刹那的な欲望は不思議なほど感じなかった。
ただ腕の中の小さな身体が愛しくて大切で、その暖かな存在が自分の腕の中で安心しきって眠っているのが嬉しかった。
枕の上に王子の茶色の髪と混ざり合って広がる金髪。薔薇色の唇はほんのりと開き、安らかな吐息が漏れる。眠れば余計に幼く見える顔に今は一点の曇りも憂いもなく、ただ安らかだ。
キャロルのその寝顔は、イシュタル女神の与えた恩寵のようにも感じられ、一種宗教的な感動が王子の胸に広がっていく。
「・・・イシュタルよ、感謝いたします。この娘を与えたもうたことに。この娘の心を私に与えたもうたことを。願わくば・・・この娘に能う限りの幸福を与える力を我に・・・」
王子はキャロルの額に口づけると、そっとその白い腕を自分の腰にまわさせた。大事な存在と抱き合うような姿勢で王子もまた眠りについたのだった。
43
穏やかに日々は流れて。秋は深まり、また冬がやって来た。
冬の朝日が優しく射し込む寝室。冷たく冴えきった冬の月が玲瓏たる光を投げかけていた昨夜とはまるで違って見える寝室。
王子の目には何もかもがまるで真夏の光を受けているかのように輝いて見えた。
(それはきっと私が姫を愛したからだろうな。そして姫も私を・・・)
王子は幸せな笑みを浮かべていた。傍らにはキャロルが子猫のように眠っている。初めて一糸纏わぬ姿で抱き合って眠った夜。飽くことなく求めあい、尽きることなく与えあった夜。
キャロルは羞じらい、そして恐れていた。自分が大事な娘の心に負わせた傷のあまりの深さに、王子は戦きつつ心を込めてキャロルを愛した。
「そなたを愛することを許してくれるか?そなたが嫌がることはしないと約束するから・・・それでも恐ろしいか?いやならば・・・何もせぬ」
「王子・・・。恐ろしいのは本当。でも私は・・・あ、あなたに愛されたい・・・。でもやっぱり・・・恐ろしいのは嫌・・・」
「そなたを慈しむ幸せを私に与えてくれ。大丈夫だ。誰がそなたに恐ろしい思いなどさせるものか。そなたを私に与えてくれ・・・」
王子は優しく花嫁を慈しみ、情熱の滾りを押さえて大切に大切にキャロルを愛し、今度こそ少女時代に別れを告げさせた。
やがて目覚めたキャロルは恥ずかしそうに笑った。かつては厭わしくて仕方のなかった行為。でも今は・・・王子に愛された自分が誇らしくて幸せで。
「今日は床を離れたくないな・・・。もっともっと、そなたを知りたい」
本当なら恥ずかしい格好でいるのに、凛々しい恋人に接吻を求められる嬉しさが羞恥を遙かに凌駕する。
微笑み交わす二人。室内に深く差し込む日光が、お互いを見つめ合う恋人同士の瞳に暖かい光を添えた。
終わり
長くなりましたが、これで最終回となります。
今までお読み下さった皆様にお礼申し上げます。
読み苦しいと思いつつ、スルーしてくださった方、すみませんでした。
王子の切ない純愛と強気なキャロルということで書いてみました。
王子は切ないばかりで初めての時以後はオニにはなりませんでした。
でも新婚生活が深まるにつれ、むっつりさんの本性がでてくるかもしれません(笑)。
今までありがとうございました。
>琥珀と水晶作家様
最終回、ショボーンです(涙)。
ツボにはまった物語でした。お疲れさまでした&新作熱望です。
ヘタな昼メロより面白かったっす。
>飽くことなく求めあい、尽きることなく与えあった・・・
というのはΨ(`▼´)Ψ以上の展開!今までで一番幸せな王子を見せてもらった気分です!
オニのシーンを思い浮かべた自分が作家様にお仕置きされたようですね。(トホホ
〜青水晶のように冷たい光が最後には暖かい琥珀の光に〜なんて素敵過ぎます作家様・・・
とまだまだ深読み妄想中です。
お疲れ様でした&有難うございました&また新作をお待ちしてます。
作家様、お疲れさま&ありがとうございました。
でもっ、でもっ王族婦女子としてわ、王子の余裕の「ふ」と「Ψ(`▼´)Ψ」が拝見したいのでございます!
>「琥珀と水晶」作家様
素晴らしい作品を有難う御座いました!!!
お疲れ様でした。
また新作をお待ちしております。
>「琥珀と水晶」作家様
今、全部読み返してきました・・・。す、素敵すぎます!
余裕のない、愛を乞う王子にヤラレました!
私としては、キャロルがめんひすに奪われるんぢゃないかとハラハラしたのですが。
新婚編きぼーん。
496 :
>名無し草:02/09/19 22:45
「琥珀と水晶」さま、とっても楽しく読ませていただきました。
途中、どきどきしましたよ。
メンフィス様が戦を起こしてせっかく幸せになりかかった
二人が、人質は処刑すべきじゃ!とかなったらどうしよう〜って。
幸せな終わりで本当によかったです。
また、新作をお待ちしています。
sageてくだちい〜>496
「琥珀と水晶」作家様、最終回なんですねぇ。毎日、楽しみにしてました。
私も「新婚編」とかずばり「Ψ(`▼´)Ψ」編などが読みとうございます。
あと、諸作家様にリクエストさせていただきますなら、メンフィスがイズミルと相思相愛のキャロルに横恋慕&略奪など、役割逆転編など読みたいです。
いかがざんしょ?
>498
をを〜っ禿胴っス!
そんでもって、王子がキレたりメンフィスと対決したり。
作家様、おながいします。
>>498 あなたのアイデアに私も一票っす!!!
いっぺん原作の定石展開「キャロルさらわれる→苦労する→救われる→祝賀の宴会&ラブラブ」を王子×キャロルの組み合わせで!
1
エジプト王家の呪いを受け、現代より過去へと流されたキャロルは、
エジプトのファラオ、メンフィスと愛し合う仲となり、後は婚儀を待つ身となった。
だが婚儀の際に、キャロルを嫉妬し亡き者にしようと画策するメンフィスの姉、アイシスの陰謀にはまり
大怪我を負い、再び現代へと帰る。
傷が癒える頃、またしても古代へと流されるキャロル。
そしてメンフィスの元へ行こうとするキャロルを、メンフィスの宿敵ヒッタイトのイズミル王子の画策により
キャロルはイズミル王子の下へと連れ去れてしまった・・・・。
というわけで以下続きます。
わーーーい!!(狂喜
この辺一番好き〜〜〜
河のほとりで捕らわれたらどんな展開だったのだろうと20年も思い続けております。
>>琥珀と水晶作家様
楽しく拝見させて頂きました。
次回作、楽しみにしてます。
>>流転の姫君作家様
新展開!!楽しみにしてます。らぶらぶになって欲しい・・なぁ。。。
>>460様 かっての女王が虐殺されたので噂になり、ミヌーエたちから聞き出したんです。
幽閉理由は、まずミタムン王女殺害ですから。
だから22で「その理由を知った」と書いたのですが説明不足でした。
誰か王様×キャロルやってください。
王子ばかりだとちょっと・・・。
>>458 イズミル王子の処刑後イアンは内通の証拠を提示しネバメンを拘束した。
内通と反乱は処刑に値する。
陥れられたと騒ぐネバメンを処刑のためテーベまで護送する警護を命じられたイアンはヒッタイト王子の処刑から短い休暇を与えていた部下を呼び戻した。
「これから首都にいくことになる。が、おそらく神殿勢力とのごたごたもあるだろう。
希望する別の隊へ所属を申請しておく。明後日までに返答するように。」
フナヌプがあきれたように上官を見やった。
「あなたも変わってますな。わざわざ自分が災いの中に行くことを教えて手足となる人間を減らすとは。」
少年は憮然としてそっけなく答えた。
「お前もさっさと転属の希望を言え。
ほんとに余裕がなくなるから他人にかまっていられなくなるんだ。身軽になりたいんだよ。」
この数週間の事態の実質的な首謀者たる人物は珍しく歳相応の稚なさを見せていた。
「俺は何とかなりますよ。ま、首都の見物でもさせてください。あなたのやりたいことも見届けたいしね。」
「勝手にしろ。どうなっても知らんぞ。」
これはそのとおりになった。
別の物語だがフナヌプはその後この嵐の収束を見届け将軍位までのぼり、
自分の墓に謎の王子ラージヘテプに関する記述を残して後代の歴史家に飯の種を提供することとなる。
>>505 首都に向かう道すがらイアンは見つけた。
疲弊した国家財政の建て直しの資金源となり、自分と母が逃走しても目立たなくなる政治紛争の種となるものを。
神殿の専横と民衆の不満。
この少年はこの時代の人間としてはほとんど信仰心や神に対する畏敬の念がない
母に対する最高神官カプターの舐めるような視線や、魔よけと称してやたら触りたがるのを見ていた所為か。
或いは戦の勝利のたび莫大な寄進を要求し自分達の奢侈に使うのを見た所為か。
なんにしても神官たちは信仰を利用しているとしか考えれなかった。
大体今までネバメンの正体を見抜けなかったではないか。
テーベに着いたイアンたちはネバメンを擁護しようとする神殿との闘争を開始した。
カームテフ老人の存在とその娘の墓地の在り様を明らかにし、彼の身分詐称も暗示した。
今度の事件は身分詐称の事実を知るアイシスの抹殺と王への反乱が目的であったと喧伝し神殿勢力の反論を封じた。
そしてカプターはネバメンと結託して寄進された富を私物化し反乱にも一枚噛んでいたという疑いをかけた。
ラージヘテプ王子の死が暗殺であったことは以前から囁かれていたことだ。
これに関しては王が血統の怪しい王子を抹殺したとの見方もあったが此処にいたって完全に否定された。
すなわち反乱の手始めが王子暗殺であったのだと。
反乱の証拠は明らかな上、身分査証に付いても最初に王弟と認定したのがカプターであったため失脚は必至だった。
そしてこの最高神官の後押しで王妃となりその王女の結婚によって後継者が決まるとされていたカーフラ王妃も。
カプターの財産は没収され、神殿の財産も反乱のための供えとなっていた疑いがあるとして王家に没収された。
神殿側は民衆だけでなく貴族達の支持を失っているため、反撃はほとぼりが冷めてからとなるだろう。
ヒッタイトとの抗争において王子を捕虜にした後の工作への功績で大隊長となり、
ネバメンの反乱を暴き未然に防いだ功績で18の若さで将軍位に就いたイアンは王の謁見を賜ることとなった。
>生への帰還
イアン、出世しますね。
父親譲りって言ったら彼は嫌がるんでしょう。
そしてパパとのご対面ですか。
どうなるのか、とても楽しみです。
2
下エジプトでイズミル王子の腹心の部下のルカにキャロルは救い出された折、
丁度キャロルの捜索をしていたメンフィス王の忠実な家臣ウナスと合流するが
白い肌黄金の髪ナイルのような青く美しい瞳を持つキャロルの姿は
見るものの心を奪い、強奪されようとする浮き目に会った。
ウナスとルカはキャロルを守ろうと奮戦する中、アラビア砂漠で落ち合う約束を交わし
ルカはキャロルを腕に抱き、その頃アラビア砂漠にて隠密行動をしている主君イズミル王子の下へと駆けた。
アラビア砂漠についたルカは予てからの打ち合わせ通り、暴漢に襲われ気絶した振りをしてる間に
キャロルは王子の待つテントへと追いやられてしまった。
王子と再会したキャロルは否応なく、ヒッタイトへと向かう事となる。
王子は反抗的なキャロルをも面白がってからかいながら、やがて首都ハットウシャの王宮へと一向はたどり着いたのである。
女好きなヒッタイト王が「ナイルの姫をわしに寄越せ」と申し出を受けたイズミル王子は
満場の王宮で「ナイルの姫は私の妃にする」と宣言する。
キャロルに興味の湧いたヒッタイト王は承諾しかねるが、歳の頃合もよく
イズミル王子が宣言した限りは一歩も引かぬことをよく知っているヒッタイト王はしぶしぶ引き下がり、
キャロルの身は「次期皇太子妃」として取り扱われる事となった・・・・。
3
暑いエジプトと違い、雪のちらつく様を窓からぼんやりとキャロルは見ていた。
ライオンに襲われた傷は、ライアンやロディが金に糸目をつけず、コネクションを使い
呼び出した名医達によって整形され、今では傷も見当たらず、ほんのりとピンクがかった部分が白い肌に見える程度となり
キャロルに損傷を与えたようには見せなかった。
だが長い療養を必要とする華奢な身体は、しんしんと冷え込むヒッタイトの気候には辛いものである。
また精神的にも自分の周囲には敵ばかりという状況は、精神的にもキャロルを酷く消耗させた。
イズミル王子の乳母であるムーラは、王子の命令なのでキャロルに何一つ不自由にさせるような真似はしなかったが
エジプトのファラオであるメンフィスの寵を受けたミャロルのことを悪意を持つまでにはいかないが
少なくとも好意的には思っていなかった。
キャロルにも意地があるので、ムーラや女官たちの前で泣いたりはしなかったが
一人になる時間、夜毎にエジプトを思い、メンフィスを思って涙しない日はなかった。
逃げたくとも切り立った崖の上に作られた王宮は、橋を境に厳重な警備を敷かれ
たった一人で逃げようとしても無理な事は明白である。
助けを請うこともままならず、今はやっと傷の癒えたばかりの身ではできるはずもない。
それでもなんとか自らを奮い立たせようとするキャロルを王子は何も言わなかったが
悠々と他愛ない話をしながら、キャロルを見守っていた。
キャロルの目に入らぬ所でルカだけが、王子の浮かべた笑みの意味を知っているように見えた。
4
未だ乙女らしいというよりは子供っぽいキャロルに王子は
恋に恋する乙女の憧れるような求愛を、実に優雅にしてみせた。
この寒さのなか、どこからか調達した瑞々しく美しい花々を飾らせ、見事な衣装に装飾品を
惜しげもなくキャロルに贈り、キャロルに触れるか触れないかの際どさで
キャロルの興味の持ちそうな話、それは王子が旅した様々な国の話であったり
ヒッタイトの伝統的な行事などの話であったりしたが、
キャロルを相手に話しをしつつ、さりげない一言でキャロルに愛を囁いた。
その度にキャロルは頬を紅潮させて「やめて!」と怒るのであるが、メンフィスのことを思いつつも
悪い気はしなかった。
今のキャロルを、敵国の王宮の捕らわれの身であるという境遇に耐えさせているのは
一途にメンフィスを愛し、メンフィスが自分を愛しているという想いだけであった。
エジプトを司どる、迸る情熱を隠す事もなく、荒々しく抱きしめたメンフィスだけが
キャロルの希望の光である。
雄々しく炎のようなメンフィスをキャロルは信じている。
5
「・・・寒いわ・・・。」
王宮の屋上から周りを囲む山々を見ながらキャロルは呟いた。
寒いのは身体だけではない、メンフィスと離れ離れになっているキャロルの心も震えている。
いくら温かい毛皮を羽織っていても、キャロルの心は晴れない。
もう幾日経っただろうか?
メンフィスは私が下エジプトに帰ってきたと聞いたのかしら?
ウナスはメンフィスと連絡が取れたのかしら?
絶え間なく心の中で湧き上がる不安にキャロルがぶるっと震えた時、
背後から暖かな毛皮をふわりと掛けられ、まるで小さな子をあやすかのように
キャロルを王子が抱き上げた。
「まだ身体も癒えたばかりだ、無理をしてはならぬ」
あくまでも口調は優しく、責めるわけでもない。
「ほんにそなたはすぐに無茶をする、目が離せぬ」とクスリと笑いながら、王子はキャロルを抱いたまま
暖かな部屋へと連れて行った。
ムーラや女官たちに世話を焼かれ、熱いお茶で冷えた身体を温めたキャロルを
王子は黙って見ていた。
キャロルは家族の愛情の中で、蝶よ花よと溺愛されてきた、繊細な花である。
優しい両親やライアンやロディに甘やかされ、素直に育てられてきた無垢な花。
荒野や野原では咲くことはできない、常に庇護され、丹精されなければその真価は出てこないであろう。
こうして優雅な部屋に、たくさんの女官に傅かれているその様子は
生来持っていた気品と優雅さを匂うが如く漂わせている。
勿論それだけでなく、比類なき英知と深い思いやり、少し負けん気のあるおきゃんなところも
王子は気に入り、王子の心をも虜にして放さなかった。
だが、この姫は未だメンフィス王を信じている、その絆を叩き壊し、私を愛させる。
その為には手段は選ばぬ・・・。
「姫よ、そなたはもう聞いたかな?
エジプトは近々婚姻による同盟をリビアと結ぶそうだ」
静かな王子の言葉が終ると同時に、陶器の割れる音が部屋中に響き割った。
6
キャロルは手に持っていた茶器を落としたまま、呆然と王子を見つめていた。
婚姻による同盟といっても、メンフィスとは限らない。
執拗なまでにも弟を一人の男として愛する、美貌を誇る女王アイシスも諸国にその名を轟かせているからだ。
ただキャロルはアイシスがメンフィスに寄せる狂おしいまでに偏執的な愛情を知っている。
そう簡単にメンフィスを諦めるようなアイシスではない。
では誰が・・・・・?
てきぱきと割れた茶器を片付けるムーラや女官たちを横目に見ながら、
王子は「怪我などはしておらぬな?」とのんびりとキャロルの手を取り改めている。
「放して!それより誰が・・・まさか・・・」
一番信じているはずの名が口先からでてこない、いや出したくはないキャロル。
「・・・姫も今エジプトの国内では政情不安であることは知っていよう。
今やミタムンをエジプト側の陰謀により失った事で、我が国とエジプトとは一瞬即発の均衡を保っている。
周辺諸国もいつ飛び火があるか戦々恐々だ。
そこで真っ先に乗り出してきたのはリビア国王とカーフラ王女でな。
早速メンフィス王に謁見を申し込んだと聞いている。
メンフィス王には今正妃に当たる者が居らぬ、リビア王としては絶好の機会。
あの野心的なカーフラ王女もさぞ爪を磨いでいる事だろうよ。」
「嘘よ!そんなはずない!メンフィスは私を妃としたわ!」
必死に反論するキャロルを尻目に、落ち着き払った物腰のイズミル王子。
「そなたは婚儀の最中から姿を消したのでなかったか?婚儀を終了しては居らぬはず。
そなたが姿を消したことで、神のご加護がなくなったのではないかと、民衆は不安に陥っているそうだ。
リビアと同盟を結ぶ事で国に平安が訪れるならば、国を治めるものならば一考するであろう。」
王子の言葉はキャロルのたった一つの希望を打ち砕くものだった。
キャロルの目の前が暗くなり身体から力が抜けた。
周りが騒いでいるような気がしたが何も分からない。
誰かのがっしりした腕が自分を抱きとめたようだったが、そのままキャロルは意識を手放した。
私を裏切るの?メンフィス・・・・。
かすかなキャロルの呟きは誰の耳にも届かなかった。
「流転の姫君」作家さま
いつのまに!こんなに沢山!あああ〜幸せです。
>>506 宮廷中の注目がイアンに集まっていた。何の門地も後ろ盾もなく18の若さで将軍位に就いた青年いや、少年。
だがそこ此処で密やかに交わされる会話。
「見たか。あの顔。隻眼とはいえ王のお若い頃に何と似ていることか。あのお方が生きていたという噂は本当だったようだな。」
「王の腹心たるミヌーエ将軍達が派遣されたのはイズミル王子やネバメンの件のためではなかったということか。」
「カーフラ王妃の失脚は確定的だ。
あの方と母君におきたことが神の怒りかったのならあの方を正嗣子として認め、母君を正式な妃とすればればよいということになる。」
「3日後に謁見だ。そのときおそらく王女との結婚と世継ぎが決まることとなろう。
まだまだ王は壮健とはいえ優れた世継ぎのいることにこしたことはない。」
フナヌプは巷間に、王宮に広がる噂を聞いて唖然とした。
イアンがラージヘテプ王子?貴種といわれる事を嫌悪していたイアンが?
その噂を知ってか知らずか当人は女のところに行くといっては宿舎から抜け出している。
泥だらけになったのを水浴で落としてきたという格好のイアンに思い切ってフナヌプは噂を耳に入れた。
帰ってきたのは素っ気ない返事。
「そんな噂出てるのか。ま、謁見のときに王が持ち出さなければ俺には関係ないね。」
「落ち着いてていいんですか?王女と結婚して次の王かも知れないんですよ。」
「馬鹿言ってるんじゃないよ。
王が俺のこと王子じゃないペテン師といえば今までの手柄無視で騒ぎ起こしたって事で投獄されるかもしれん。
俺がそんなこと言ってなくてもね。
それに言ったろ?俺は昔首都にいたことあるから評判聞いたことあるけど王女は玉座付きでも断りたいような女だ。
王も他人に押し付けたりせずに慣例にしたがって王妃に向かればいいのさ。
明日にでも辞表書いたほうがよさそうだな。」
フナヌプはますます訳がわからなくなった。
昔はともかく今の王女は母への反発で神官として政治家としての研鑽も積みつつあるらしい。
人間に関しては実物見るまで評価は保留が主義のはずのこの年下の上司は何故断定するのか?
なにが目的なのか?少なくとも世俗的な地位や名誉は手段であっても目的ではなさそうだ。
>>514 実際彼は地位・金銭に多少執着があるようだがそれも道具としてだ。
女でも男でも色事にいたっては無関心。
先だってイズミル王子の首級と遺体を責任者の側室になるという条件付で引き取りに来た(要は父の政敵に追放された。)彼の娘である王女をミヌーエ将軍に引き合わせると遺体を引き渡す手続きを始めた。
大変な美貌の王女に兵士たちは色めき立った。
が、イアンは将軍からその王女を任せられるとさっさと帰国の準備をさせたのである。
寝首を掻くつもりで装飾品に毒を仕込んでいた王女は返ってあわてた。
>>515 どの道自分は冷遇か抹殺される。ならばその原因を作ったエジプトに一泡吹かせようとしたのに。
イアンに面談を申し込み将軍に面談できるよう誘惑しようとしたのだがあっさり無視された。
逆上して彼やエジプトを罵りながら切りつけ阻止された王女は「ナイルの娘」やイアンを罵った。
それまで穏やかに接していた彼の表情は凍てつき侮蔑的な言葉を吐いた。
「父親が罪知らずの恥じ知らずだからって娘もそうとは限らんと思っていましたが。
あなたの父親は妹の復讐のためにまったく無関係な女を騙して弄んで廃人に追い込んだんだ。
殺されたのも自分の意思で身をおいていた戦場でだ。
俺達を恨むのは当然だがそのことは覚えておけ。」
王族であることを楯になおも罵ろうとした王女を彼は引き剥き兵士たちに突き出し、言った。
「お前らにやる。好きに楽しめ。ただし毒牙付だ。」
困惑する兵士と逆上する王女。
品性と頭のよくない荒くれが手を出そうとしたところでフナヌプが通りかかり、
マントをかけてミヌーエ将軍の宿舎に連れ戻した。
イアンの進言で身の回りを調べ、毒物を取り上げた後、王女はアイシスが殺されたフェニキア由来の神アスタルテを祭る神殿に神官見習いとして置かれることになった。
翌日、騒ぎの謝罪をしながら何故彼女を自分なりウナスのものにしなかったかと聞くイアンに将軍は
「ウナスは妻がいるし私よりお前のほうが年回りがいいと思ったんだが。」
とだけ答えた。
だが虚脱状態の王女から会話の内容を聞きだしていたミヌーエはイアンが王子だと確信していた。
彼は母の復讐のためにここに立っていたのだと。
ネバメンを結局失脚させたということは父王には少しは情があるのだろうか。
彼ならネバメンを操って父を苦しめることも出来たはずだ。
答えはテーベであっさりと残酷克つ無責任に出された。
「琥珀と水晶」の後日談のようなお話です。よろしくお願いいたします。
1
上気して、わずかに涙に潤んだ瞳を恥ずかしげに伏せてキャロルは王子の胸に顔を埋めた。
その様子が何とも言えず愛らしく、そして艶めかしく思えて王子は伏せた顔を上向かせて唇を奪った。
「眠たそうだな。疲れてしまったか・・・?」
国王主催の宴に出席した王子夫妻。珍しく王妃が不在であったためか、国王は常よりも激しく踊り子達に
戯れかかった。周囲の人々は酔った故の戯れと見ぬ振りをしたが、その本当の心はどうであったのか。
今宵の宴はしばらく緊張状態が続いたエジプトとの和解のための宴。ヒッタイトはアランヤとの、エジプトは
ヒクソスとの小競り合いにしばし専念するための和解というわけだった。
肌の色濃いエジプト人達は無表情で、白目が目立つ瞳だけを油断無く動かしながら美姫達の差し出す杯を空けていた。
当然、彼らの目にはヒッタイトの王子妃キャロルの姿も映っていたはずだ。彼らの国を潤すナイルの女神の娘。
賢さと美しさ、心映えの良さを併せ持つ得難い姫。
・・・彼らのファラオ メンフィスが恋い焦がれ、熱望し、それでも得ることのできなかった宝。
イズミル王子はキャロルに目深にベールをつけさせ、肌を覆うたっぷりしたヒッタイト風の衣装を着せ、その顔も華奢な体つき
も決して人目に触れぬようにした。礼を失せぬ程度に警備も厳重にさせ、キャロルが自分の側から決して離れぬように目を配り、
厄除けの護符さえ身につけさせた。
できることならばキャロルを宴に出したくなかったのだが、典礼に逆らうわけにはいかなかった。それに王妃が不在であれば、
キャロルがヒッタイト最高位の女性として客人に対応せねばならない。
2
「姫、姫。良いか?今宵は決して私の側を離れてはならぬ。私の手以外から飲み物や食べ物を取ってはならぬ。受け答えも直答の必要はない。
ただ私の側に座っていよ。顔や手を露わにすることもできるだけ避けよ。
窮屈であろうが・・・良いな?」
キャロルは素直に頷いた。メンフィスの強引さは未だ記憶に新しかった。だからエジプト人の前に出なければならないと言うのはあまり嬉しくはなかった。彼らは自分のことをどう見るだろうか?
かつてはメンフィスに愛された自分。人々はハピ女神がラーの息子に娘を与え、彼とその治める国への愛情と信頼の証としたのだと言っていた。でも彼女はメンフィスを愛することなく、異国の王子を選んだ。
(何かあるのではないかしら・・・?)
キャロルもまた、言いしれぬ不安を感じていた。
だが宴は何事もなく果てた。
その夜、安堵した王子はいつにない激しさでキャロルに挑んだ。キャロルは自分だけのものだというように。キャロルが自分のことだけしか考えられぬようにとでもいうように。
3
これまでは自分の欲望や数多い体験で得たことをなるべく出さぬようにして、キャロルを慈しみ愛してきた。長い間、恋い焦がれてやっと女に・・・妻にした娘はまだまだ子供っぽく、驚くほど初だった。
驚かせぬよう、怖がらせぬよう、男女のことに嫌悪を感じぬよう、王子は慎重にキャロルを教え導いたというわけ。
王子にとってそれはこの上なく甘美で興味深く、また苦しいほどに焦れったい授業だった。
でも今夜の王子は違った。王が踊り子に際どく戯れかかるのに刺激されたのか、はたまたエジプト人達の無表情な視線の中に久しぶりに、最初にキャロルを見初めたメンフィスへの理不尽な嫉妬を思い出したせいかもしれない。
「宴で張りつめていたせいかな。そなたは疲れているな・・・」
王子は優しくキャロルに口づけながら繰り返した。王子に大切に愛されて憔悴した様子も艶めかしい。いつもの王子なら行為を終えたキャロルを優しく労って、共に眠りに落ちていっただろう。
でも今夜は・・・・眠りたくなかった。
「可哀想に・・・疲れているのだな。だが疲れたそなたの何と美しく心そそることか」
王子はキャロルの乳嘴をねぶりながら、指先で女の器官を探索した。敏感な歓びの真珠を親指で弄りながら、しなやかな人差し指は暖かく濡れた蜜壷をかき回す。やがて親指は王子の舌に変わった。キャロルは仰け反って自分を滅茶苦茶にする夫に翻弄された。
「そなたは私だけのものだ」
「ええ・・・。私には・・・あなただけしか・・・」
キャロルは引き込まれるように眠ってしまう。王子に愛されたあとはいつもそうだ。初めて欲望を抑えることなく挑みかかってきた夫を全身で受け止めたその白い身体。痛々しいまでに汗に濡れて、男の跡も生々しい身体を王子はしっかりと抱きしめた。
でも、これだけしても・・・何やら王子の胸には言いしれぬ不安が広がるのだった。
「黒い嵐」作家様、続き熱烈感謝です!
しかもいきなりのオニだなんて美味しすぎる。
7
王子のもたらした情報によって深く傷ついたキャロルは床についた。
メンフィス・・・私を愛してると言ったのにあれは嘘・・・・
以前ヒッタイトに捕らわれた時に炎のように私を奪い返してくれたのに
あんなにも私を抱きしめて、愛してると言ってくれたのは幻なの?
いいえ、私はメンフィスを信じてるわ。
この目で確かめるまで、王子の言葉なんて信じない。
ムーラに世話を焼かれながら、病床で途切れることなく思うキャロル。
キャロルが倒れてからも、王子は望みうる最高の恋人のように足しげく見舞い
思いやりのある言葉をかけた。
女官たちから見れば幸せな二人である。
実際メンフィスの事を除けば、王子は実に博識でキャロルとは話もあった。
端整で凛々しい顔立ち、武術によって鍛えられてはいるが、ただ無骨なだけでなく
優美さといった雰囲気を纏い、メンフィスとは違った王者としての風格。
その王子が優しく言葉をかけるのに、キャロルの脳裏にはメンフィスのことばかり浮かぶ。
気鬱となるキャロルを見ながら、王子はタイミングを計っていた。
8
倒れてから幾日経ったろうか?
見舞いに訪れた王子に、ムーラは配慮し、女官たちを外させ、二人きりにした。
ムーラの配慮に内心気分を害したキャロルに、王子はのんびりと口を開いた。
「エジプトはリビアとの婚姻による同盟を結ぶ事を正式に公布したぞ。
今婚儀の準備でテーべは大賑わいだそうだ。」
「嘘よ!私が、私がここにいるのに・・・。」
キャロルは寝台に起こしていた半身が衝撃のあまりに倒れそうになったが
王子がしっかりと自分の胸の中に抱きとめた。
そしてキャロルの耳元で囁く。
「今更エジプトに戻ったところで、カーフラ王女が既に妃となっている。
リジアとの兼ね合いもあるがゆえ、メンフィス王もそなたをもろ手をあげて歓迎するとは思われん。
ここで私の妃となれ、私がそなたを幸福にしてやろう。
私を愛すればよいのだ、のぅ、姫よ」
キャロルは王子の胸にしがみつき、涙にぬれた青く美しい瞳で王子を見つめ言った。
「お願い!私をエジプトに帰して!私の心はメンフィスのものなの!メンフィスの愛しているの!
おねが・・・。」
最後まで言わせず、王子はキャロルの唇を奪い、力任せに寝台に押し倒した。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
キャロルの悲鳴が王子の嫉妬心を更に刺激する。
9
「まだ申すか!私の前でよくもぬけぬけと・・・。」
王子の手はキャロルの着ていた夜衣を裂くかのごとくずり下げ、あらわになった白い胸。
「いや・・いや・・・」
恐怖に震えるキャロルの声を聴きつつ、王子の唇は転々と白い胸に紅い花を咲かせていく。
「私を愛すればよい!私だけをな」
ふと顔を上げると、恐怖に目を見開いて恐れ戦くキャロルの目とあい、王子は一つ息を吐くと
微笑を浮かべ、キャロルの身仕舞を直し、きちんと寝台に入れてやった。
涙の跡を拭いてやりながら王子はいつものとおりの静かに話した。
「恐がらせたな、だが私は謝らぬ。愛しい女を欲しがるのは男の性ゆえ。」
そう言うと何事もなかったかのように悠々と王子は出て行った。
寝台の中ではキャロルがしゃくりあげていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、メンフィス・・・。
もう私にあなたの側に行く資格はないの?メンフィス・・・。」
胸に残った跡をメンフィスはなんと言うだろう?
こんな事になるなんて、ここには居られない。
なんとか逃げられないものだろうか?
キャロルは泣きながらも必死に逃亡策を考えている。
10
夕刻前の場内の慌ただしい時刻。
しゃくりあげているキャロルの元にそっと忍んで来た一つの影があった。
「姫君、ご無事でいらっしゃったのですね、ようございました」
「ルカ!あなたこそよく無事でいたわね!よかった・・・。」
ヒッタイト兵に紛れ、ずっとキャロルに忠実な家臣のルカが生きていたのだ。
キャロルの哀しみの涙は嬉しさの涙に変わった。
ルカがいるのだ、なんとか逃げ出す事ができるかもしれない。
ルカはてきぱきとキャロルの衣装を探しながら言った。
「姫君をお連れする準備に手間取りまして申し訳ありません。
さあ参りましょう、王宮と取引する商人になりすまして逃げるのです。
荷台を用意しております。
窮屈だとは思いますが、どうかご辛抱願います。」
ルカは周りを見渡し、キャロルも適当に衣装を着込むと二人して
王宮内の隙を伺って脱出した。
夕闇の中、王宮を結ぶ橋を渡って行く商人に扮したルカの姿を窓から王子は見ていた。
「じゃじゃ馬め、だが自分の目で確かめなくては納得せぬだろうよ。
手のかかる娘よ、ふふふ」
酒を口に含みながらうっすらと王子は笑みを浮かべた。
「ふん、すぐに私の手の内に戻ってくるともしらずにな・・・。」
「流転の姫君」「黒い嵐」
新作がふたつもで嬉しいです。かんばってくださいませ>作家様
>>519 4
王子夫妻の寝所は濃い闇に閉ざされている。何の音もしない静かな部屋。
だが。侵入者には分かる。そこに漂う気配が。匂いが。
愛を交わし合った男女が共寝する場所に漂う、隠しようもない濃厚な匂い。
おそらく二人は夢も見ない深い深い眠りの中にいる。互いの体温と肌の匂いを身に纏って。
漆黒の闇にとけ込みそうな長身の侵入者は足音もなく、寝台に歩み寄った。常夜灯に照らされる男女の姿。
馴れ馴れしく女を抱く男の腕に、発狂しそうな嫉妬を感じながら侵入者は手の中の香炉の蓋を取った。
漂い出すのは白い煙。ねっとりと甘く香りながら拡散する。何も知らない寝台の二人は甘い匂いを吸い込んだ。不吉な芳香。死に近いほどの深い眠りをもたらす薬の煙だ。
侵入者はやがて、一歩踏み出すと男の腕の中から女を―キャロルを―抱き取った。その唇に浮かぶ隠しきれない笑み。
「キャロル・・・。そなたを我が腕の中に取り戻すぞ。もはや、そなたをどこにもやらぬ。そなたは我が妃として生涯を過ごすのだ。
・・・ああ、この時をどれほど待ったか・・・。イズミルに抱かれるそなたを思うたびに気が狂うかと思った・・・」
常夜灯が揺らいで侵入者の顔を照らす。濃い色の肌、切れ上がった眦(まなじり)は緑の顔料に彩られて。彼こそはエジプトのファラオ メンフィスその人であった。
(ひ・・・め・・・?)
体が重かった。ひどく気怠かった。まるで自由が利かなかった。自分が木偶人形にでもなったかのようだ。
それでも腕の中に抱いていた存在がすり抜けた冷たさは、泥沼のような意識のそこから彼をわずかに覚醒させた。
(姫・・・?どうしたのだ?私の側から離れてはならぬ。身体が冷えてしまう)
重い瞼。やっと薄く見開けば、そこには彼の愛しい妃キャロルを抱き上げる黒い影。
夢か現か分からぬままのイズミルの瞳にその影の持ち主の顔が映し出された。
(! メンフィス?!一体、私の姫に何を・・・)
だが王子の意識は再び失われ、メンフィスはうまうまとキャロルを奪って寝所を出ていった・・・。
5
マントの中に一糸纏わぬ姿のキャロルを大切に抱きしめたメンフィスは、音もなくヒッタイト西宮殿の出口へと急いでいた。
途中の廊下に点々と横たわる死体。ヒッタイトの侍女や兵士達の。無造作にそれらを避けながらメンフィスは部下の待つ場所に
急いだ。
「ファラオ・・・!」
「首尾は上々だ。先に私はホルス将軍らと合流する。後は任せたぞ」
兵士は深々と頭を下げると主君を見送った。明日の朝になれば全ては露見するだろう。それまでに為すべき事はあまりにも多い。
和解の使節団とは別に密かにヒッタイトに入り込んだエジプト軍を無事に脱出させねばならない。商人や旅人に身をやつした精鋭軍
はナイルの姫を奪還したファラオを守るだろう。
使節団は当然のように皆殺しにされるだろう。でもそれが何だというのだ?彼らは罪人だ。反逆者ネバメンに与した官僚達に薬を盛り、
意志のない人形にして、囮のために使節に仕立てたのは国策だ。
「ナイルの姫は再び、母女神の御許に・・・メンフィス様の御許にお戻りになられるのだ」
兵士―ウナス―は薄く微笑を漏らすと、闇の中へと廊下を歩み去った。
夜気がメンフィスの肌を刺した。季節は晩夏。だが高原の夜は何と寒いのだろう。月の光が大地に霜を降らしているのではないかと思える
ほどだ。
寒さと緊張に身を震わせたメンフィスは、そっと腕の中のキャロルを見おろした。贅沢に仕立てられたマントに包まれた小さな身体は一糸
纏わぬ姿だ。愛しい娘が寒くないように、メンフィスは驚くほど優しい仕草で身体を包み直してやった。月の光が白い肌に咲いた紅の花を
―イズミルの愛した跡を―ほのかに照らした。瞬時に冷えた体が沸騰するような嫉妬を覚えながらメンフィスは眠り込むキャロルに囁いた。
「そなたは私だけのものだ。他の男が触れた跡など残らず消して清めてやる・・・!」
きゃあっ、ひょっとしてイズミル様×メンフィス様の対決も見られまつか?
11
目立たない地味な色の布を目深にかぶり、キャロルはルカと共に夜を駆け抜けた。
星の読めないキャロルはルカに全てを託し、我が身をメンフィスの元へ連れて行ってくれるのを信じて疑わない。
じきヒッタイトとの国境に着いた頃、ルカは河が流れているのを見てキャロルに休養を薦めた。
「お急ぎになるお気持ちはわかりますが、姫君はまだお体の調子もお悪いのでしょう?
冷たい水も流れておりますゆえ、しばしご休憩なさいませ。」
ルカの言葉にキャロルもずっと馬の背に揺られていた体の疲れに気付き、
「そうね、ありがとう、ルカ」と詰めたい水に手を浸した。
やっと王子から逃げられたのだ、早くメンフィスのところへ帰らなければ・・・と物思いに沈むキャロル。
と、その時、「何者か、大勢でこちらで向かってくる気配がします!早くこちらへ!」と
ルカはキャロルと共に川沿いにある大きな岩陰に身を潜めた。
やがて大群の気配がして、馬のいななきや人の声がそこかしこに響き渡った。
一体誰だろうか?
だがここでおいそれと自分の身を明かすような真似はできない。
イズミル王子の追手かもしれないから。
キャロルとルカの前に人の群れはこなかったが、代わりに若い女の声がした。
「・・・ほほほ、メンフィス様ったら、ホンにおやさしゅうございますのね。」
軽やかにだが媚を含んだ楽しげな笑い声。
今、なんと言ったの?メンフィス様?
キャロルは相手から見えないようこっそりと前を伺った。
「新婚間もないというに、このような視察に付き合わせてすまなかったな」
聞き覚えのあるメンフィスの声だ!
飛び出そうとするキャロルをルカが背後から引き止め、キャロルの口を手で塞ぐ。
でも・・まさか・・・・キャロルのムネが大きな不安に締め付けられる。
「妻の務めでございますとも、でも、本当は雄々しいメンフィス様を見ていたいってカーフラの我侭ですわ。」
「愛いことを申す。さて、それにはどう報いればよいやら」
「あら、カーフラを可愛がって下ればよろしいのですわ。」
その時はなれた所からファラオを呼ぶ声がして、メンフィスはそちらへ行こうとしてるようだ。
「乳母やに冷たい果物を用意させますから、後ほどこちらへ戻っていらして」というカーフラ王女の声に答えたらしく
辺りには静けさが戻ってきた。
「まって!メンフィス!」
やっとのことでルカの戒めを振り解くとキャロルは河へと飛び出した。
だがそこにいるのは、エジプトの豪華な衣装を身に着けた褐色の肌の女が一人。
実に肉感的でアイシスとは違う艶を纏わせた女が、何事かと大きな目を見開いてキャロルを見ていた。
「そなた・・・会うたことはないが聴いておるわ・・・・
透けるような白い肌と黄金の髪、ナイルを映したような青い瞳の小柄な姫・・。
そなたがナイルの姫か、今更何事よ。
わらわはカーフラ、メンフィス王の正妃じゃ。」
先ほどまでメンフィスに向けていた明るく戯れた声とは思えぬほど、冷たく嘲りを含む声音。
月の光のなかも慎ましやかに輝く黄金の髪、夜目にも目立つ白い肌、可憐な様子のキャロルに
衣装が濡れるのも意に介さず、つかつかとカーフラは近寄り、キャロルの胸元の衣装をぐいっと引っ張った。
「もうそなたなどメンフィス様には必要がない、何処へなりとも去れ!
そなたなど生きておるわけなどないと思うておったに、真に忌々しい!」
そう言いながらキャロルを今にも殺しかねないほどの勢いで揺さぶるカーフラに
「や・・やめて・・・やめて・・・」と弱弱しく抵抗するキャロル。
「とっとと去れ!」との声にキャロルは河の中へ突き飛ばされ、辺りに水音が響いた。
「キャロル!キャロル、生きていたのか!」
びしょ濡れになったキャロルを抱き上げたのは何よりも愛しいメンフィスだった。
13
濡れるのも構わずメンフィスはキャロルを力強く抱きしめた。
あれほどまでに恋焦がれたメンフィスの腕の中である。
「メンフィス!メンフィス!会いたかった!」
泣きながらメンフィスにしがみ付くキャロルを嬉しそうに抱きしめたメンフィスだったが
カーフラの眼前であることに気付き、少しバツが悪そうにキャロルの両肩に手をかけ引き離した。
「一体何処にいたのだ、ウナスからは下エジプトにいたと報告があったが」
「私、私ね・・。」とキャロルが話し掛けたその時、胸元の衣装がずれて白い肌が少しあらわになった部分に
メンフィスが目を止め、それまでの歓喜に満ちた表情から険しいものへと変化した。
「・・キャロル、そなた、誰といた?申せ!」
メンフィスの突然の変化にキャロルは呆然としたが、口篭もりながら答えた。
「・・ヒッタイトよ、イズミル王子に捕らわれていて、それで・・」
「イズミル王子と戯れて居ったのか!なんだ!その愛撫の跡は!この私がどんなにかそなたを心配して居ったかそれを知ってか
王子とそなたは・・・・!」
激しい怒りの表情もあらわに、両肩を突き飛ばしたメンフィスに、
キャロルはやっとメンフィスが何に対して怒っているか思い当たった。
繊細な肌は王子の口付けの跡を白い肌にくっきりと残している。
「私はやっと逃げてきたのよ!王子とは何もなかった!本当なの!信じて!」
キャロルの必死の叫びも、今のメンフィスには届かない。
そこへ静かに割って入ったのはカーフラだった。
14
「神の娘が卑しい遊び女と同じような真似をするなんてはずございませんわ。
所詮、ただの卑しい娘。
そのようなものと関っていたなんてメンフィス様のお名に傷がつきます。
ナイルの姫は死んだ、メンフィス様もわらわもそのような者には逢わなかった。
さあ、参りましょう、メンフィス様」
カーフラは静かに言い切るとメンフィスを促し、皆の所へと誘導する。
「まって!まって、メンフィス!」
後を追おうトとキャロルはするが、水に濡れた衣装が足に絡まり、思うように動けない。
それでもこちらに背を向けるメンフィスにキャロルは呼びかけるが返って来たのは
「私の妃はカーフラただ一人!そなたなど知らぬわ!」という拒絶の言葉であった。
やがて二人の姿は見えなくなり、それと同時に騒がしい物音や声がすると
出発したらしい喧騒が次第に小さくなっていった。
「ひどい・・・ひどいわ・・・メンフィス・・・私・・・あなたの元に帰って・・・。
冷たい河の水の中で、頬を伝って涙が途切れることなく零れ落ちていく。
「姫君、お風邪を召します、早くお召し替えをなさらないと・・・。」とルカが連れ出しても
キャロルの涙は止まらなかった・・・。
必死に慰めるルカだったが、その脳裏にには、計画以上にうまくいったという達成感があった。
流転の姫君作家様
キャロル可哀想ー。メンフィスとカーフラは実は王子の差し回したそっくりさんですか?
黒い嵐展開早いっ!
メンフィスと幸せになってほすぃ私はここではマイノリティのメンフィスファンです
ああっ!でも奥さんを略奪された王子のキレ方が楽しみでもありっっ!!!
「黒い嵐」、「流転の姫君」、「生への帰還」作家様
どうなってんの?!て位感激&幸せです!有り難うございます!!!
15
メンフィスからはっきりと拒絶され、キャロルには帰る場所さえなくなってしまった・・・・。
あれからどれくらい時間が経ったかしら?
あれは夜明け前だったのに、今はもう日も暮れようとしている。何が起ころうとも時間は流れていく・・・・。
たった一つの心の支えだったメンフィス・・・。
なのにカーフラ王女と結婚し、あのように睦まじく過ごしていた。
そして必死にイズミル王子の下から脱出してきたのに、
我が身が王子のものとなる前に逃げ出してきたのに信じてくれなかった・・・・。
キャロルは生ける屍のようだった。
ルカは「どちらへ参りましょう?姫君」と尋ねるが行くところなどあるはずもない。
このエジプトでキャロルのかえる場所はたった一つしかなかったのだから。
馬に跨ってるのさえ辛くなり、目の前も回るよう。
ルカがキャロルの異変に気がついた時には、キャロルは酷い高熱を出していた。
「姫君、しっかりなさってください!どこかでお休みになられないと・・。」
ルカの声は聞こえるがキャロルは体がだるくて指一本動かすのさえ気だるい。
ルカはなんとかキャロルが休めそうな場所を探そうとしていた、その時。
「どうしたんだい?病人か?」
二人連れの商人風な男達がルカに声を掛けてきた。
警戒するルカだったが、背に腹はかえられない。
長身の男が身軽に乗っていた馬から飛び降り、ルカが腕に抱いているキャロルの様子をみた。
「随分弱ってるじゃないか、俺は薬草は詳しいんだ、調合してやるよ。
それにこのままここに居るわけにもいかんし、あんた先は急ぐのかい?」
「いや、とにかくこの方を・・・。」
「じゃ、ひとまず俺と一緒に来な、雨風をしのぐところならなんとかならぁ。
俺はハサン、あっちは相棒のカレブ。おい、いいだろう?カレブ!」
もうひとりの、カレブと呼ばれた男は「全く、儲けにならねえことばっかりしやがって」と不平を言いながらも
ルカとキャロルを連れて、ハサンと一緒に行くこととなった。
16
キャロルは怪我が癒えて間もないこともあり、また河の中での事から
衰弱し高熱を出して寝込んでしまった。
ハサンとカレブが借りている小さな家に思いがけずも留まる事となり、
ルカは王子と落ち合う連絡も取れない事態となり、内心穏やかでなかった。
ハサンもカレブも詳しい事をルカから聞き出すような真似もせず、
ただキャロルの療養に力を貸した。
キャロルの白い肌、黄金の髪も見ていたが、ハサンは何も尋ねようとはせず、
キャロルのことを「お姫さん」と呼び、薬草を煎じたりと何くれなく世話を焼いた。
「随分と消耗しているなぁ、あのお姫さんはあまり丈夫な性質じゃあない、無理は禁物だな。」
薬おを飲む時以外は懇々と眠るキャロルのほうを見ながら、ハサンはルカに言った。
「何故、何も聞かないのだ?もうあのお方の身元を知っているであろうに・・・。」
ルカは何かあればハサンもカレブも切り捨てる覚悟でいたが、気のいいハサンを切るのは気が進まなかった。
「やっぱりな、黄金の髪を見たときに、ナイルの姫ってのはすぐわかったけど
何かしら事情もあるんだろうよ。
商人だから結構いろんな情報は手に入るしよ、だからってお前さんに恩着せがましくしようってことじゃないぜ。
ただ困ってそうだから力を貸しただけだ。
まあ、ここにゃあ居たいだけ居ればいいさ。俺達は商人だから家を空ける事も多いからな。
気にすんなよ。俺ぁ、あのお姫さんをちいっとばかし気に入っただけさ。
苦しい息のうちにも、俺にごめんなさい、ありがとうって言えるなんてさ。」
少し照れたようなハサンを見て、ルカは感謝をしたが、どうやって王子と連絡をとり
いつ落ち合えるかどうか予想も着かないため、一抹の不安を消す事はできなかった。
カレブだけは酒を飲みつつ、何かしら意味ありげな目でキャロルのいる寝台の方へ視線をやった。
え゛?すごいペース!!
流転の姫君作家さま、いいんですか?
そりゃ沢山読めるのはうれしいけど・・・感激・滝涙です。
みんなみんな嬉しいが読むペースが追いつかない〜〜、
これは嬉しい悲鳴です。
ところで、ここのファンのためにチョットお知らせ2年後の方も見るといいかも。
・・・・・・・・・・・・・・・おせっかい。でごめん
>>516 謁見当日イアンは失踪した。そしてかって「ナイルの娘」と呼ばれた女性も。
副官のフナヌプは眠り薬を飲まされ、イアンの宿舎に辞表が置かれていた。
貯えが出来たので母を引き取り引退することにした。
流麗な神聖文字で素っ気なくそれだけ書かれていた。
ミヌーエたちの口止めでイアンの体調不良で謁見は中止ということにして、密かな捜索が始まったのだが、
氾濫期の始まりで河の流れが速くなったのに乗じてわずかの荷物と共に小船を出したらしい。
調べたところフナヌプの宿舎にかなりの金と彼宛の民衆文字で書かれた手紙が残されていた。
『自分が王子だという訳の分からない噂が流れているらしいが、昇進の理由にそれによるものであるらしい。
ネバメンやラージヘテプ王子の過程からして都合が悪くなれば抹殺されるだろう。
命がけで任務に付いててそれじゃ割に合わないので母の故郷に帰る。
この金じゃみあわないかも知れないので悪いが後始末を頼む。
今までのことに感謝する。』
辞表よりもよほど丁寧な言葉でそれらのことが書かれていた。
ミヌーエ達は悟らざるを得なかった。
イアンにとって父もこの国も気に掛ける価値を認めなかったのだ。
密かに王へ奏上すると王は落胆のため息と共に短い言葉を吐き出した。
「あれはそういうことであったか。」
>>540 謁見の3日前イアンは母の館に昔使った池にナイルの水を引き込むための水路を使って入り込んだ。
柵がおかれているのだが横に隠し扉で抜け出せるようにしていた仕掛けはそのままだった。
だが忍び込んだ場所には兵士が立っていた。
「そろそろ来る頃だと迎えを命じられておりました。ご案内します。」
見透かされていたのを不覚と想いながら付いていく。
中庭に王と長椅子に座らされ、どうやら薬で眠らされているらしい母がいた。
「3年も何処をほっつき歩いていたわが息子よ。
だが王子の義務は心得ていたと見える。イズミル王子とネバメンの件は見事であった。」
誰が誰の息子だと内心で毒つきながら彼は賛美の仕草を取り、口上を述べた。
「初めて御意を得ます陛下。私は私のなすべきことをなすためにここに来ました。」
その言葉に王はかろうじて苦笑を浮かべた。
「それで通すか。王族を名乗り簒奪を企む者もあるというに。」
「簒奪をしたいのなら貴種を名乗るべきではないでしょう。実力で力を握ると言うならなおさら。」
「よかろう、そなたは自分の力でそこまで上った。3日後からはもう休む暇もあるまい。母と語らうがよい。」
「キャロル、今度は3人で話したいものだ。」
母の頬に手を置き口付ける王に彼は切りつけたくなるのを必至で耐えた。
誰が彼女をこんなふうにした?ヒッタイトの王子だけではないだろう!
彼女はお前を助けるべきではなかったんだ。
だが今すぐ逃げ出すのは無理だ。
おそらく監視が一番緩むのは謁見当日だ。逃げ切ることを改めて誓った。
>生への帰還
イアン、メンフィスのことがそんなに嫌いなのか。
しかしキャロルをつれての逃避行は楽じゃなさそう。
頭が良いから逃げ切れるのか?
しかし目立つよね。
>>527 6
メンフィスは何の問題もなく城門を突破すると、城壁外で待ちかまえていたエジプト軍と合流した。夜明けには今少し、闇が一番濃くなる時間帯だ。
「ファラオ!お待ち申し上げておりました。・・・おお、ナイルの姫君も!」
腕の中に眠る生まれたままの姿の美姫をミヌーエ将軍の視線から隠すようにメンフィスは答えた。
「打ち合わせ通り、出立する。国境を越えるまでは油断無く、変装を解かぬようにせよ!参るぞ、夜明けまでに距離を稼ぎたい」
メンフィスは将軍から渡された眠り薬をキャロルの薔薇の唇に流し込んだ。眠りは長いほうが好都合だ。
メンフィスは商人の装束に改め、キャロルを自分の乗る駱駝にくくりつけた大瓶の中に隠した。巨大な瓶の中は匂いの良い絹で内張りされ、胎児のように眠る囚われ人が衝撃から守られるような作りになっている。
そして。エジプトのファラオの一行は風のようにアナトリアの大地を渡っていった・・・。
ヒッタイト王宮、早朝。
王子の住まう西宮殿の朝は時ならぬ悲鳴で始まった。目覚め、仕事のために宿舎や部屋から出てきた兵士・侍女は廊下に倒れる血塗れの死体に驚愕した。
「王子と王子妃はご無事かっ!国王様にお知らせせよっ!宮殿の門を閉ざせ!誰も外に出してはならぬ!」
矢継ぎ早の命令が出され、兵とムーラら侍女が最悪の予感に戦きながら王子の部屋に入った。
「王子っ!ご無事でございますか?」
甘い妖しい匂いを帯び淀んだ空気。そこで人々が見いだしたのは。周囲のざわめきにも気付かぬように昏々と眠り続けるイズミル王子。何かを探るかのように力無く投げ出された腕。でもそこに王子妃キャロルの姿はない。
そして寝台の傍らにうち捨てられた香炉。どこのものとも知れないそれから未だほのかに立ち上る甘いねっとりした匂い。すぐ分かる怪しい薬臭い匂い。
すぐさま医師が呼ばれ、王子は間もなく意識を回復した。
(昨夜のことは・・・夢ではなかった!私の姫がいない・・・!メンフィスが・・・メンフィスが姫を拐かしたのだっ!)
殺された兵士と侍女。眠り薬、消えた王子妃。
「我が妃は拐かされたっ!探せ!エジプト人どもを引っ立ててまいれっ!」
王子の怒号が宮殿に響いた。
7
王子妃誘拐のことはとりあえず極秘扱いとされた。朦朧とした意識の中で王子はメンフィスを見たのだが、仮にも
一国の王が宮殿の奥深く人の妃を拐かしに来たりするだろうか?
犯人の手口は残忍で迷いがなかった。下手に騒ぎ立てれば犯人はさらったキャロルを殺してしまうかも知れない。
それに王宮の奥深く、よりにもよって王子夫妻の寝所から妃がさらわれたなど知れれば、この上ない醜聞となる。
王子は自分の心に蓋をして王族としての務めを優先させた。
(許せよ、姫。私はそなたへの想いより王族としても務めを、国の体面を優先させねばならぬっ・・・!)
王子の心は血を流して悶え苦しんだ。
エジプトからの和平使節団は、極秘に国王、王子の前に引き立てられた。彼らの人数は全く変わっていない。少なくとも
王子妃拐かしの実行犯は含まれていないということか。
だが尋問が進むにつれ、彼らへの不審は増すばかりだった。和平使節団が聞かれるであろうこと、求められるであろう事
に関してはそつなく答え、動くがそれ以外のこととなると、とたんに彼らの顔から表情は失せ、人形のような貌になる。
尋問がやがて拷問に切り替わっても同じ事。
不審を持った国王父子は医師を召しだし、使節団の者に薬を飲ませた。心が解放され、隠し事ができなくなる薬だ。
効き目のきついその薬を飲んだ男の口からは驚くべき事柄が語られた。
我は反逆者ネバメンに与した高級官僚。死ぬために和平使節団の使節という地位を与えられた。何故、ファラオはすぐに
死を賜らず名誉ある地位を与えられたのか?死ぬための地位?成功すれば許されるのではないか・・・?
他の男は神官独特の言葉遣いをしてこうも語った。
ナイルの姫君をエジプトへ!そうすれば神の恩寵はエジプトに与えられる。反逆者が汚した地を祓うために金髪の神の
娘が必要だ・・・。
「エジプト人どもの仕業かっ・・・!」
イズミル王子はすぐさま捜索のための軍を組織すると出立を命じた。
539様、ありがとう〜〜!!!
8
風のようにメンフィスの一行は大地を渡る。
メンフィスの腕にはキャロルが眠っている。日毎に眠り薬を与えられ昏々と眠り続けるキャロルが・・・。
ある夜。天幕の中にキャロルを抱いて入ったメンフィスはじっとその花の容(かんばせ)を凝視した。心ならずも手放してから
どれほどの月日がたったのだろうか。日毎夜毎、恋しく思い焦がれていた少女は記憶の中に残る顔立ちよりもはるかに美しくなっていた。
透けるような白い肌を暖かく彩り輝かせる薔薇色の血色。いささか子供じみた神経質なものをのぞかせていた顔には円やかな魅力が加わった。
全体的に甘やかな艶めかしさ、とでもいうようなものが加わっているキャロル。
いや、顔立ちだけではないだろう。身体つきだって・・・。
メンフィスは夜毎、寸暇を惜しんで眠るキャロルの身体を隅々まで清めてやっていた。道中の埃を落としてやろうとでもいうように。でも
本当は、しばらくの間とはいえ、自分の手元を離れていた少女の身体を改めたかったのだ。エジプトで垣間見た華奢な、というよりは幼く
骨張った身体は新しい丸みが加わっていた。その理由が分かるだけにメンフィスの心は複雑だった。
(まこと・・・しばらく見ぬ間に美しくなった。これもイズミルめの丹精ゆえか・・・!)
水に浸した布でキャロルの肌を拭ってやりながらメンフィスは甘い苦悶を味わっていた。身体の線はずいぶん優しくなっている。小振りながら
円やかな胸の双丘。ほのかに浮き出たあばらの艶めかしさ。細い腰の線は未だ少女の色合いを濃く残して。
(イズミルが・・・そなたを愛したのか・・・っ!)
メンフィスは細い脚もそっと割り開く。淡い茂みの奥も指先に巻いた布で入念に清めあげてやる。もはや少女のものではなくなったそこはメンフィス
の視線にも気付かぬように慎ましく安らかに閉じ合わさっている。初めてここをメンフィスが改めたとき・・・流れ出たイズミル王子の残滓はもう少し
で黒髪の若者を発狂させるところだった。
(だが今は・・・そしてこれからはキャロル、そなたは私だけのものだ。そなたを幸せにしてやるのは私だ)
メンフィスは厳粛な面もちでキャロルの身体を衣装で隠すと、じきの出発の時間に備えるのだった。
ああ〜、作家様ありがとうー。
仕事の合間の清涼剤&興奮剤でごじゃいます。
しかし色っぽいですな、めんひすの身体検査(爆)
>539さん ありがとぉ〜(感涙
>「生への帰還」、「流転の姫君」、「黒い嵐」作家様
ありがとうございます〜 いつも楽しみにしています
「生への帰還」クライマックスでしょうか、因果応報なとこがとってもツボだったので、
終わっちゃうとちょと淋しい・・・
ううっ、嬉しい連載陣!
作家様、がんがってください。どこまでもついていきます!
感謝されて・・ウレスィ〜〜〜〜。何人いるかわかないけどここは好き。
>>169 魅惑の宵の続きです。
1
日の光目映いエジプト王宮。メンフィスは協議の間で鹿爪らしい顔をして臣下達と政務に励む。その傍らに控えるのは王妃キャロル。
慎ましく、でも注意深く全身を耳にして政務を見守るキャロルは求められれば的確な意見を出し、問題が膠着の兆しを見せれば何らか
の質問をして新しい切り口を提示する。「姫君、姫君」と奉られている、生身の人間離れした可憐な容姿のキャロルだがなかなかどう
して頭も切れるというわけだった。
そんなキャロルを目の端に捉えながら、メンフィスは何とも落ち着かない気分を味わっていた。少しでも気を抜けば脳裏に浮かぶのは
昨夜のキャロルの媚態。白い身体が自分の上に重なり、華奢な指先が肌を撫で、接吻を繰り返し、薔薇色の唇はメンフィス自身を貪欲
に呑み込んで見せた・・・!
メンフィスに貫かれるたびに未だ苦痛を感じるらしいほどに未熟な身体の主が!男女のことを未だ恥ずかしがっているキャロルが!
メンフィスは体の前面を覆うように羽織ったファラオのマントをちらと見おろした。誰にも見えぬその下では、男の体に特有の変化が
起こっていた。
(早く・・・政務が終わらぬものかな。もう夜まで我慢することなどできそうにもない)
ようやく政務も終わり、午餐の時間となった。侍女達が食卓を整え給仕のために定められた場所に控える。
「メンフィス様、今日はカーフラ様もご同席を希望しておいででございます。じきに参られますでしょう」
苦々しげに言うナフテラにメンフィスは命じた。
「今日の午餐はキャロルと二人で食す。政務向きのことで相談せねばならぬことがあるゆえな。カーフラ王女はお断りせよ。それから
給仕も不要だ。人払いを命じる!」
召使い達は、驚くキャロルを置いて下がっていった。
2
「メンフィス・・・?」
メンフィスは大ぶりの焼き肉にかぶりつきながらキャロルを見つめる。困ったようにパンを口にしていたキャロルは真っ赤だった。
「どうしてそんなに見つめるの?恥ずかしいわ・・・。それに政務の相談って?」
メンフィスはワインを一気に飲み干すと新たに杯を満たし、その中身をいきなり口移しでキャロルに与えた。
「きゃっ・・・!どうした・・・の?何を・・・あ・・・!」
メンフィスはキャロルを押し倒すと滾りたった自身をキャロルの柔らかな太股にに擦り付けた。
「どうしたのかと聞くのか?何をするか分からぬなどと申すのか・・・?」
メンフィスはかすれた声で耳朶に囁きかけ、手で柔らかく白い身体をまさぐった。
「昨夜のこと・・・忘れたとはもはや言わせぬぞ。もっともっと・・・そなたが欲しくてたまらない。お願いだ、どうか昨日のように・・・」
キャロルは真っ赤になって本気でメンフィスを押しのけようとした。カーフラ王女にメンフィスを取られたくなくて、淫らな企みに身を投じた昨夜!でも今になって思えばあれは誰か知らぬ女が、自分の身を借りて為したことのように思えて・・・。
「いやっ・・・!やめて、恥ずかしいの。お願い、昨日のことはごめんなさい、忘れてっ・・・!ああ・・・っ!」
抗いがメンフィスの男を煽った。メンフィスはいきなりキャロルの衣装を引き裂き、押しのけ、爪を立てる手を頭上で長椅子の肘掛けに縛り付けてしまった。
「誰が忘れられるものか。あのように魅力的な妻の姿を!知らぬフリなどしてくれるな。乱れてみよ、淫らになれ。私を悦ばせる女になれ、昨夜のように・・・!」
メンフィスはまろびでた胸の膨らみを口に含み、舌先で頂の果実を味わいなぶった。
3
メンフィスの手はキャロルの脚を無遠慮に割り開き、その奥を探った。いきなり荒々しくメンフィスに挑まれたにもかかわらず、秘密の場所は切ない歓びの涙に潤んでいる。
メンフィスは乳嘴を、薔薇の唇を、華奢な鎖骨の窪みを気の赴くままに味わいながらキャロルの敏感な下肢の薔薇花を弄りまわした。
「ああ・・・メンフィス・・・!私、もう・・・!」
キャロルがたまらず腰をくねらすのをメンフィスは嬉しそうに見やった。だがまだまだ許してはやれない。
「よほど空腹なのだな。このように涎を垂らしたりして・・・」
メンフィスは淫らに囁くと、いきなり体の向きを変えてキャロルの秘花にむしゃぶりついた。甘く蜜を滴らせながら蠢くそこ。メンフィスは食卓の上から蜂蜜の壷を取ると
中身を膨らんだ花芯にたらたらと垂らした。
「ああっ・・・!」
甘い自分の蜜の匂い、蜂蜜の匂い、狂おしい感触、羞恥、欲望、メンフィスの舌、メンフィスの指先・・・!
「甘いな・・・」
メンフィスの舌は残酷な巧妙さでキャロルの身体を味わった。蜂蜜に飽きれば濃厚なクリームやワインが垂らされ、蜜壷には果物が差し入れられる。まるでソース壷に
食べ物を浸けるかのように。
促すように自分の唇に触れてきたメンフィス自身をキャロルは頭を擡げて受け入れた。猛々しく、固く、熱く、塩辛いメンフィス自身。恥ずかしいことをしている自分
たちへの猛烈な羞恥心と共に、メンフィスにこのようなことができるのは自分だけだという妙な自信が、心を熱く燃やす。
キャロルは甘い蜜を吹きこぼし、激しく身体を震わせながら絶頂を味わった。同時にメンフィスも激しく痙攣しながらキャロルの口中に情熱をぶちまけた。
4
「まだ・・・眠ってはならぬぞ」
メンフィスは口移しでキャロルに水を飲ませながら囁いた。汗に濡れたキャロルからは蠱惑的な麝香の香りが立ち上る。
「メンフィス・・・」
「昨夜はそなたが私を翻弄した。まるで女主のように。でも、まこと主であるのは私だ。そなたを愛して、そなたの乱れようを、恍惚の声を愛でることができるのは私だけだ・・・」
メンフィスは細い腰を引き寄せ、満開の薔薇の中に自身を埋没させた。激しく動けばキャロルは切なげに身を捩りながら従う。
「苦しいか?切ないか?もっと・・・脚を開け、腰を上げよ。楽になるぞ」
メンフィスは残酷に教えてやった。指先は勃ちあがり喘ぐ花芯をくりゅくりゅと揉みしだく。
キャロルはじき達してしまった。激しい痙攣と締め付けがメンフィスを苛んだ。男は女の敏感な胸の果実をきつく弄り回して欲望の爆発を我慢するとさらに動いた。
「メンフィス・・・メンフィス・・・ああ・・・っ!」
あまりに激しい快感にキャロルが気を失ったのとメンフィスが妻の中に情熱を注ぎ込んだのはほぼ同時だった。
「あ・・・?」
キャロルが気を失っていたのはほんの短い間のことだったらしい。
メンフィスは恥じらう妻を優しく窘めると、優しく白い身体を撫でた。
「ふふっ、そなたは美しかった。奔放で気高い野生の獣のように美しかった。
恥じらってくれるな。そなたが誰よりも愛しいのだ・・・」
メンフィスは言った。
「ええ・・・メンフィス、大好き・・・」
恋人同士は長椅子の上で抱き合って眠った。涼しい午後の風が恋人同士の火照りを優しく冷ましていく。
食卓を片づけに来たナフテラは食堂の乱れようを見て、そっと溜め息をついた。
「本当にお二人はお若いこと・・・」
老練な女官長は、配下の侍女達に後かたづけの延期を命じるためにそっと出ていった。
>>546 9
「地中海です!」
ミヌーエ将軍の声が響く。連日の強行軍の甲斐あってメンフィスの一行は驚くべき速度で地中海に到着できた。昼下がりの光が隊商に偽装したエジプト軍を照らす。
他の隊商を装った先遣隊である一行がさりげなく、しかし恭しく主君を出迎えた。
「偵察隊の報告は入っておるか?」
「は・・・!ヒッタイト軍の影は現時点ではありませぬ。本国では姫君失踪の件を極秘にしております。しかしイズミル王子は各所に探索の手を伸ばしております。
幸い、国境を越えてよりは大っぴらな戦闘はございませぬが・・・」
ヒッタイト国内を抜けるまでにすでに幾人かの兵士の命が失われていた。
「和平使節団の輩は?」
「ファラオが姫君を奪取された翌々日には・・・皆殺しになったようでございます」
「ふん、翌々日。暢気なものだ!しかし・・・最大の危機は切り抜けたと言うことか?」
「油断はできませぬが、おそらくは。ファラオをお待ちする一隊との合流もすぐでございます。ひとたび海にこぎ出しますれば・・・!」
「うむ・・・!」
メンフィスの視線の先には大型商船が停泊している。フェニキア船に偽装したエジプト軍船である。
「参るぞ!」
メンフィス達は小舟に分乗して大型船に乗り込んだ。
「う・・・ん」
口の中がいがらっぽく気持ち悪かった。頭が重く、吐き気もする。どうしたというのだろう?目を開けて起き上がろうと思うのだけれど、身体が言うことをきかない。
かろうじて瞼を僅かに持ち上げるが、反射的に目を閉じ呻いてしまう。何なのだろう、この眩しさは?全身が打ちのめされるような強い光。
「気付いたか・・・?」
男の声がして、逞しい腕がキャロルを抱き起こす。
「水を飲めるか・・・?」
唇に器が当てられるのが感じられた。だが彼女の唇は重く痺れて水を受け入れられない。
「仕方がないな・・・。飲ませてやろう」
柔らかな唇が当てられて、冷たい水がキャロルの中に入ってきた。
10
(王子・・・?私、どうしちゃったのかしら?)
水を飲み干したキャロルは、ゆっくりと目を開けた。
目の前にはイズミル王子がいてくれるはずだ。いつもの朝のように。優しく笑って頬を撫で、接吻してくれるはずだ。何も着ていないキャロルの身体を優しく掛け布で包み込み、キャロルにだけしか見せない悪戯っ子のような顔で軽口を叩くはずだ。
そう、いつもの幸せな朝。キャロルは恋人の肌にそっと指を這わせ、鼻をすりつけるようにして甘えてみせるのだ。
でも。
目の前にあったのは琥珀色の瞳ではなかった。黒曜石の光を秘めた瞳がキャロルを見つめている。怜悧さと優雅さ、凛々しさを併せ持った王子の顔はなく、美しく整ってはいるが気性の激しさを隠しきれないメンフィスの顔が、キャロルの目の前にある。
(う・・・そ・・・。これは夢・・・?これは誰?メンフィス・・・?!)
「気がついたな。気分はどうだ?私が分かるか?」
間違いようのないメンフィスの声。キャロルの悲鳴が船室に響きわたった・・・!
「何故っ?!何故、あなたがここにいるのっ?ここはどこよ?王子はどこ?王子、王子、王子・・・」
長く投与され続けた眠り薬のせいか、ろくに身動きもできないながらキャロルは必死にメンフィスの馴れ馴れしい腕を押しやり、王子を呼んだ。
メンフィスはキャロルのかわいげのない態度を心中、苦々しく思いながらも征服者の余裕を漂わせる傲然たる口調で言った。
「これより他の男の名をこの唇より出すことは許さぬ。ナイルの女神の娘たるそなたを厭わしき異国人の手より救い、再び祖国に連れ戻したるはこの私、メンフィスぞ。
キャロル、そなたは我が妃となるのだ。心ならずも暫しの間、他の者の手にそなたを預けねばならなかったが、もはや手放しはせぬ。そなたもこれまでのことは忘れよ。そなたは輝かしきエジプトの王妃として生涯を送るのだ」
「嫌よっ!」
気丈にキャロルは言い返した。
「私はヒッタイトに嫁いだ身です。あなただって知っているでしょう?こ、これ以上の無礼・・・きゃあっ!」
17
看病の甲斐あって、キャロルも少しづつ回復に向かった。
病床での退屈を紛らわせてやろうと、ハサンは自分達が商いで巡る土地土地の話や
扱っている商品、美しく装飾された壷、珍しい布、その地域でしか取れない宝石などを
キャロルの目の前に手にとって見せてやったりした。
キャロルは大いに喜び、ハサンの話に目を輝かせて聞き入り、あろうことかハサンの知らなかった知識などを
子供のように無邪気に喜びながら話すのに、ハサンも傍で聞いていたカレブも仰天した。
噂話として、あちこちから流れてくる近隣諸国の話にも、時折鋭い意見などをちらりとこぼすその様子は
ハサンやカレブが「神の娘」として聞いた話にも確信を抱かせた。
キャロルはメンフィスを失ってしまったことについての痛手からはまだ立ち直っていなかった。
だがいつまでもこうしてハサンやカレブの世話になっているわけにも行かない。
これからどうすればよいのだろう?
もう遥かな時の彼方にいる、ママやライアン兄さん、ロディ兄さんにも会えないのだろうか?
そう思い立ったとき、自分をこの古代に誘い込んだアイシスに思い当たった。
アイシスならば、神官をも務めるアイシスならば何かしら知っているはずじゃないのだろうか?
以前呪詛版が何か・・・・と聞いたようなお覚えはある。
アイシスに会おう、とキャロル決めた。
だがエイジプトに入っても、キャロルの身はどう扱われるのか、王宮には自分は近づく事さえ難しいのではないか?
ハサンとカレブがそろそろ商いの旅に出ようと相談しているのを聞き、キャロルもルカと一緒に同行させてもらうように頼みこみ、
4人はエジプトの周辺諸国をめぐる旅へと出発したのである。
「黒い嵐」作家様
傲慢不遜&強気なメンフィス様に萌え〜です。しかしいきなり地中海。王子はどこで追い付くんでしょうか?
エジプト国内まで行っちゃう?
「流転の姫君」作家様
「周辺諸国をめぐる旅」の一言に大受けした生ぬるい王族です。行く先々に感動と衝撃(笑)を巻き起こすキャロルきぼんぬ。
「魅惑の午餐」作家様
一言言わせてくださいませ!「魅惑〜」シリーズ続編希望です!!!
18
ヒッタイトの国境を越え、シリア砂漠の近くにいたキャロル達は
シリア砂漠を越え、地中海沿いの町へ向かう事となった。
キャロルの気遣ってか、あまり急がないようにとの配慮もあったが、
アッシリアの近くはなるべく早く通り過ぎたいと、ハサンもルカも思っていた。
アッシリのアルゴン王は、過日のメンフィスとキャロルの婚儀の際にキャロルを気に入り
酷く執心しており、手に入るものならいくらでも金を出そうとという話が商人間からの情報として伝わってきていたのである。
おりしもアルゴン王はお忍びでこの付近に滞在しているとの話も流れていた。
キャロルの肌に色を塗り、目立たないぬのをで全身被っても、目の色だけは隠せないのだ。
用心に用心を重ね、早くこの地を去るしかないのだろう。
だがルカに抱かれて駱駝に乗っていくにもキャロルの身体には無理があった。
もう夕暮れも近いため、一行は目立たない場所で休む事に決めた。
ルカがキャロルの世話をしていると、カレブは「野暮用だ」と夕暮れの中を一人出かけていった。
カレブが向かった先は、アルゴン王が潜伏している野営地であった。
そこでカレブは「黄金の貴重なるものを手に入れた」とアルゴン王に持ちかけたのである。
アルゴン王は歓び、半金を払うゆえ、そのものが到着し確認すれば残りを支払うと申し出たが
カレブはその値よりも遥かに高い金額を提示してみせた。
「なるほど、あの姫君は白い肌と輝く黄金の髪、青い瞳で確かに美しい。
だが、女の容色等時が経てば色褪せるもの。
あの姫の本当の価値はそんな容貌ではないのだ。
あの英知、あれこそが値千金、どのような財宝の山を目の前にしても全く引けを取りますまい。
あの姫がいれば、その英知でどれほどの利益が図れるか、想像もつかぬ」
カレブの巧みな弁にアルゴンもその値をカレブの言うとおりの金額を承諾したのである。
大量の新作に滝涙です!
作家様方、ありがとう(ちゅっ!)
>黒い嵐 作家様
嫌がるキャロルをさらうメンフィスって目新しい。同じ好きな女を拉致る男でもイズミル様とはまた違った味わいを見せて下さい!
>流転の姫君 作家様
私もキャロルの諸国漫遊が楽しみですが・・・まずはアッシリアみたいですね。早く続きが読みたいですっ!
>魅惑の午餐作家様
昼御飯の後は夕御飯、お夜食、お風呂、そして夜のお楽しみ(爆)
>流転の姫君 作家様
実は王子とカーフラがキルケーの妖かしを使って
メンフィスの精神を操ってたりしません?
手段を選ばぬとか言ってましたから王子。
いっそアルゴン操ってエジプトもヒッタイトも滅ぼしちゃうキャロルを見たい。
ピカレスクが好きなんです。
ここ数日展開が早くて幸せ♪
きゃー!どうなっちゃってるの?!ってうれしい悲鳴をあげてしまいました。
うれしくて目がぐるぐるまわってます。作家さま方ありがと〜大好き!!!
>>556 11
メンフィスの唇がキャロルのそれを塞いだ。
「もう申さぬぞ。そなたは私の妃となる身、エジプトの守り神。他の男のことなど・・・私以外のことを考えることは禁じる。よいな、そなたはエジプトへやっと帰るのだ。喜ぶがいい」
キャロルの目から滂沱と涙が流れた。メンフィスの背後にあるカーテンが風でさっと一瞬靡いて、青い海が垣間見えたのだ。内陸の地、ヒッタイトで長く暮らす内に思い出すこともなくなった海の上に・・・今、自分はいる。
「・・・ここ・・・どこ・・・?」
キャロルは力無く呟き、再び意識を手放した。
再び目覚めた時は夕方だった。側にメンフィスの姿はなく、エジプト人の侍女が控えていた。
「姫君、お目覚めでございますか?ご気分はいかがでございますか?」
過日、エジプトの王宮にいた折りに顔を見たことのある若い侍女だった。名前は思い出せない。
「・・・気分が悪い・・・。吐きそう・・・」
侍女は素早く素焼きの皿をキャロルに差し出した。でも、ひどくえづいて不快なばかりで何が出て来るということもない。
「お水を・・・。無理もございませんわ。長くお薬で眠ったままでいらしたのですもの。それにヒッタイトではさぞご苦労なさったのでしょう。メンフィス様がおいでにならなかったら姫君は・・・」
侍女は本当に涙ぐみながらキャロルの細い肩に柔らかな肩掛けをかけてやった。いかにも気のよさそうな彼女は、キャロルが再びメンフィスの手元に戻ってこられたことをこの上なく喜んでいると決めつけているらしかった。
黙り込んだままのキャロルにお構いなしに侍女は囀った。
「ねぇ、姫君。これからはもう何も心配なさることはございませんわ。全てメンフィス様にお任せなさいませ。ヒッタイトでのことなど全部、悪い夢だったのですわ。嫌な夢などお忘れになって、メンフィス様の御許で幸せになってくださいませ」
キャロルは侍女をきっと睨み付けた。ヒッタイトが、王子の側で幸せであった日々が悪い夢とは!悪い夢であって欲しいのはむしろ今現在だ。エジプト人に囲まれて地中海にいる今!
「気分がすぐれないのです。しばらく一人にして下さい」
キャロルは冷たく言った。
12
「召使いを困らせてはならぬぞ。何が不足だ」
侍女が出ていってしばらくするとメンフィスが船室に入ってきた。
「な・・・!出ていって下さい。一人になりたいのです!」
メンフィスは片眉を上げただけでキャロルの寝台の横の椅子に座り込んだ。黒曜石の瞳がキャロルをまっすぐにのぞき込む。その射るような視線が恐ろしく思われてキャロルは硬直して身動きも叶わない。
「いつも私の側近く離さなかったそなたがいなくなってからどれほど経ったであろう?」
メンフィスは問うた。
「一年半?二年?長かった。私はそなたを片時も忘れたことはなかった。イズミルの許にいるそなたを想うだけで胸を切り裂かれるような心地がした。ナイルの女神の娘たるそなたを早く我が手の中に取り戻したかった。
・・・そなたが私の許に戻ってきてくれれば全ては上手くいく。もう何も恐れることはない・・・」
メンフィスはそっとキャロルの髪を撫でた。
びくっと身を震わせるキャロル。不意に先ほどの侍女の言葉が脳裏に蘇った。
―長くお薬で眠ったままでいらしたのですもの―
今いるのはハットウシャを遠く離れた地中海。どれほど長く自分は眠り人形でいたのだろう?その間、メンフィスは何を・・・?
顔面蒼白となり、息苦しげに冷や汗を吹き出すキャロルを見てメンフィスは驚いた。
「どうした?気分がすぐれぬと言うのはまことか?医師を召しだして・・・」
「触らないでっ!」
キャロルは感情を一気に爆発させた。
「私に何をしたのっ!どうして私をこんな目に遭わせるの?」
メンフィスは少し感情を害した声で言った。
「そなたの夫たる私が妻にすべきことを為したまでよ。よいか、そなたは私のものだ。逆らうことは許さぬ。我が側で生きよ」
「あなたの側ですって?冗談じゃないわ、私はイズミル王子の、ヒッタイトの世継ぎの妃です。早く私をヒッタイトに戻して!」
「・・・そなたはもともと我が妃となる身であったのだ。ヒッタイトのことは忘れよ。もう口にしてはならぬ」
「汚らわしいっ!私はイズミル王子の妻です!わ、私への侮辱は夫への侮辱。
・・・い、いくらあなたが私を辱めるようなことを言ったって私はイズミル王子に身も心も命も捧げています。私が・・・この私があなたのような人に傷つけられたりするものですか!」
13
「黙れ、黙れ、黙れーっ!」
メンフィスはキャロルの頬を激しく撲った。キャロルははずみで寝台から落ち、大きな音をたてた。頭を強く打ったのだろうか?それきりキャロルはぴくりとも動かない。
(キ、キャロル・・・?)
口の中が切れたのか、唇から一筋血を流すキャロルを見てメンフィスは激しい後悔と恐怖の念に襲われた。愛しい娘、恋い焦がれ、待ち望んできた娘に対して自分は何と言うことを・・・!
「キャロル・・・目を開けて・・・くれ・・・」
がくがくと震え出す体。心臓の音が耳元でわれ鐘のような大音響で聞こえる。
「姫君、メンフィス様、いかがなさいました?・・・ああっ!」
音に驚いてやって来た侍女や兵士の狼狽え騒ぐさまがメンフィスを正気に返らせた。
「気を失った。私に逆らったからだ。・・・医師を召しだし、キャロルの、我が妃の容態を見せよ!
・・・キャロルは私に逆らったゆえに罰を受けたのだっ!」
メンフィスは荒々しい足取りで船室から出ていった。
(何故、私に逆らう?そなたはハピが私に賜りし姫。私の妃としてエジプトの地に共に並び立つために。
イズミル王子の手許にあった年月の間に何があったのだ?そなたは私のものなのだっ!ああ・・・これほど愛しいと思い、これほど欲しいと思い、やっと手に入れたと思ったのに・・・憎いかの娘は他の男の名を呼ぶ・・・!)
メンフィスは自室の寝台に顔を伏せて悔しさと嫉妬に悶えた。
エジプトで別れた日、あの和平条約を結んだ一室で視線を合わせたのに。
(そなたがあくまで逆らうならば!私は力尽くでそなたを妃とする。あれも女だ。私が・・・妃とすればじきにイズミルのことなど忘れる。いや、忘れさせてみせる!)
メンフィスいきなりドメスティックバイオレンス!
惚れた相手にそれは拙いでしょう。
王子みたいに上手に責めないと・・・(爆)
ああ〜、数日ごぶさたなだけでこの新作。
幸せだー。ついでに保存用のFDも新しく買って来なきゃ。幸せだー。
19
次の朝、出発しようとハサンがカレブに声をかけると意外な返事が戻ってきた。
ハサンもよく知ってる商人仲間がこの近くにいるのだが、とある薬草が至急必要なので届けて欲しい、と。
ハサンは薬草に詳しいが、カレブはそうではない。
仕方なくハサンは行く事になった。
準備をしていると、にやにしながらカレブがハサンに、ほんの少し、眠り薬をくれという。
「いやぁ、昨夜ねんごろになった女がなぁ、最近気が高ぶってよく寝付けねぇってこぼすんだよ。
つい、いい薬持ってるから持って来てやるって嘯いちまってなぁ・・。」
「いい格好ばっかりするからだぜ、全く。商売もんだってのに」とぶつくさ言いながらも
ハサンはカレブに薬を手渡した。
「で、おめぇはどうするんだい?カレブ」とハサンが尋ねると
「昨夜の女と約束しまってな、もう一泊ほどここにいらんねぇかなぁ」と相変わらずにやにやしている。
カレブの女好きは今に始まったわけでもないのをよく知ってるハサンは、
「ちょっと出かけてくるから、気をつけるんだぜ」と声をキャロルとルカに掛け出かけていった。
イズミル王子に何とか連絡を取りたいルカに、カレブは「自分が側についているから」と安心させ外出させ、
狙いどおりにキャロルと二人きりになった。
キャロルを気遣う振りをして、飲み物にさっきハサンから受け取った眠り薬を入れ飲ませてしまった。
キャロルを目立たない布で包み、駱駝に乗せるとそのまま一気にアルゴン王の野営地へと向かったのである。
キャロルが人の話し声でうっすらと目を開けた時、カレブの声がしていた。
「ではこれで取引は終わりですな。これ以降は私めの責任ではございませんのをお忘れなく」
何?何の取引?
頭の芯がぼうっとしたような、咽喉が渇いているけど、胸がむかむかするような気持ち悪さを感じながら
キャロルは目を何度か瞬いたその時。
「おおっ、目が覚めたか、ナイルの姫よ、これからはこの俺がそなたを存分に可愛がってやろう」
目の前に満足げなアルゴン王の姿があった。
「ア・・アルゴン王・・・・?どうして・・・?」
まだ体の自由がよくきかないキャロルを抱き上げ、アルゴン王は高らかに笑った。
「そなたを我がアッシリアへ連れて行く。
城でそなたを可愛がってやろうよ、そなたさえ居れば我がアッシリアは無敵ぞ。」
そう言い放つとキャロルがもがくのも構わず、アッシリアへ向けて出発した。
私はどうなったの?
カレブが私をアルゴン王に売ったの?
ルカは?ハサンは私が何処にいるかわかるのかしら?
何とかして逃げださないといけないけど、どうすればよいのだろう?
アッシリアの城では、キャロルに豪華な衣装を着せ、すっかり上機嫌となったアルゴン王は
キャロルに手を触れようとしたが、
「私に指一本でも触れれば舌を噛み切ります!」との必死に抵抗にあい、しぶしぶ手を引っ込めた。
諦めたわけではなかったが、ここは我が城、か弱い女の身では何もできないであろうとタカをくくったのである。
「商人がお目通りを・・。」と家臣からの声に気付き、アルゴン王はキャロルを連れて大広間へ出た。
「この姫に最高の衣装と宝石をな、我がアッシリアの誇りとなるように」
落ち着かないキャロルを横にアルゴン王は上機嫌である。
「なんとお美しい姫君、こちらの布はいかがでしょう?」
浮かない顔をしているキャロルに商人はなおも問い掛ける。
「こちらはいかがでしょう?よくお映えになります・・・お姫さん、俺だよ。」
「ハサ・・・・!」
商人として堂々と入り込んできたハサンにキャロルは嬉しさで涙が出そうである。
その時キャロルの頭の中に浮かんだアイデアがあった。
「後で絶対助けてやるからな、だから待ってろよ」
「あのね、ハサン、助けにくるならね・・・」
衣装を選ぶ振りをしながらキャロルはハサンに必要なものを調達してくれるよう頼んだ。
ハサンは承諾し、帰り際にキャロルの手に薬の入った小さな入れ物を手渡した。
「カレブが使ったものより協力で即効性の高い薬だから、逃げる時にでも使えるからな、もっときな。」
実は、漏れはペコ好きなのだ。
魅惑の午餐 作家様〜。
メッ・・メンフィスって塩辛いのですね〜。
そんな感じの様な、ショックな様な・・複雑です(涙)
>>541 イアンが「ナイルの娘」を連れて失踪してから20年。
金髪碧眼に白皙の肌の麗人と端正な顔の隻眼の少年。目立つ外見に係らず彼らの行方は遥として知れない。
国内外を問わず未だ細々とではあるが探索は続けられていたが最近になって漸く打ち切られた。
メンフィス王が諦めたのではない。共同統治者となった17歳の世継ぎの王子が打ち切ったのである。
自分がいるのに何年も前に出奔した王子を探すことはない。と言う王子の主張が通ったのだ。
王子の母はヒッタイト王女。彼を産んで3年後ヒッタイト王女はこの世を去った。
母に似ず、怜悧であったリビア出身の王妃カーフラの娘セベクネフェルウ王女が「滅びの王子」イズミルの娘を迎えることを
「ヒッタイトの滅びの血脈を取り込みしエジプト王家がヒッタイトを征服できる。」という宣伝工作が出来るとし、
勢力を伸張する方法としてミヌーエ将軍を通して進言したのだ。
本来世継ぎの王女であった彼女は母の失脚で幽閉と言うのが大方の見方だったが、
ラージヘテプの「死」により王子・王女が他にいないことから処分を保留され、15の歳イアンの副官であったフナヌプに降嫁した。これは王女のほうが積極的であったという。
彼は王女を持ち上げもしない代わりに母の行状によって貶めもしなかった彼女にとり初めての人間だった。
>>574 メンフィスと共に国政の一翼を担った官僚・軍人はほとんど引退している。
彼自身も体力が衰えたとして息子が共同統治者となってから4年後王宮の一角で引退生活を送るようになった。
彼はいつまでもラージヘテプと自分を比較し国政を任せようとしない父に反発していた息子によって事実上幽閉されたのだ。
場所は奥宮殿の一角。見渡せるのは壁に囲まれた中庭だけ。河を見ながら何か回想するのが常だった彼は本当に衰えていった。
寝たきりになっても世話をするのは王子の息のかかった仕事はこなすが冷淡な召使達。
王子に重視されている王女もフナヌプが話合いを勧めるにもかかわらず解放を進言しようとはしない。
そして一番胸を締め付けるのは若き日に愛した金髪碧眼の少女の思い出。もうその瞳を思い起こさせる河を見ることも出来ない。
あの時騙すように抱いたりしなければ、いや、その前に密通するなどと言う造言を信じなければ・・・後悔は尽きない。
息子に連れられた彼女はあの後「生きる」ことが出来たのだろうか?
かって表情をめぐるましく変え自分を認識していない場所では嬉しそうな輝きを放つこともあった瞳。
狂気の中でただの一度自分を見て笑った。だが彼に向けられた微笑ではなかった。
ラージヘテプの青い左目は自分を責めているように感じられ余り構ってやれなかった。
官僚やカーフラ妃との政争の中でただ冷たくなっていった表情。
セベクネフェルウは両親から愛されることを諦め離れていった。
2人目の息子は・・・。
自分は自分の父と違い子供達に愛されなかった。いや、充分愛していなかった。
危篤状態になり、さすがに見舞いに来た王女が聞いた最後の言葉は
「キャロル・・愛し・・」
であったという。
>>575 気がついたらなじみのない世界にいた。
それがライアン・Jr.・リードの最初の記憶だ。現在の名は母親が彼をしばしば長兄と錯覚して呼ぶのを受け入れたのである。
それ以前にも名は有った筈だがなぜかそれを知りたいとは思わない。
なにより失った記憶にも執着がまるでわかないのだ。
エジプト、ナイル川で葦舟で流されているのを発見・保護された彼らは古い行方不明リストのキャロルの資料からリード家に引き取られた。
極度の鬱状態が放置されていたらしい女性と記憶を全てなくしたどうやら息子であるらしい少年。
当主ライアンはスイスの療養所に2人を移した。
訛のひどいコプト語しか話せない少年は言葉、字を覚えるのに苦労しながら母の世話をしようとしている。
僻地にいたらしく気候だけでなく電気製品など生活器具も使い方が分かっていないことが多々あるのに。
父親に対する嫌悪が読み取れたイアンのカウンセリング結果とDNA鑑定で親子関係がはっきりしたことで、
おそらくは性的虐待のトラウマからのうつ病としてアプローチを試みる医者は、
経過を見て一緒にいさせたほうが辛うじて回復の兆しがあるとして共同生活のできる部屋に移した。
ライアンJr.は自分の父がおそらく誘拐犯であるもかかわらず、
受け入れてくれる母の家族をどこか不思議に思いながらも物心ついてはじめての安心感を得た。
記憶は無いがそんなことはなぜか分かる。
キャロルは僅かずつではあるが回復しつつある。確かに生きていると感じる。
そして同時にただ子供でいることを許されているライアンJr.も。
彼は後に心理学者となりそのときの経験を自伝としてつづった。「生への帰還」と。
やっと終われました。
向こう当分ROM専するぞ!
>生への帰還作者様
おおおー 今までに無いアプローチ! 素晴らしかったです。面白かったです。
また書いてくださいね!
>生への帰還
堂々たる大河ドラマ、楽しませてもらいました。
お疲れさまでした。
>生への帰還
読み応えありました〜!
ただ、父王が何だかんだ母を愛しているのが息子に全然伝わっていないのが
なんだか悲しいです。ラージヘテプはこれからの長い人生のなかで振り返る事はあるのでしょうか。
>生への帰還
お疲れ様でした!
現代に帰ったのならメンフィスが二人を探し出すことは不可能ですね。
そしてお約束の記憶喪失。
これまでのストーリーとは一味違ったもので、毎回意外性に驚きながら読みました。
楽しかったです。
>>567 14
キャロルが再度、気付いたのは翌日の明け方だった。ずっとついていてくれたらしい侍女が嬉しそうにキャロルをのぞき込んだ。
「お気づきになったのですね、姫君。頭を強く打って気を失っておいでだったんですわ。今日一日は安静になさって。何かお飲物はいかがですか?
・・・メンフィス様もずいぶんご心配で夜中に幾度もお見舞いに・・・」
「! メンフィスのことなんて言わないで!あの人が私を撲ったのよ」
切ったせいか未だ鉄臭い味の消えない口が不快だった。
侍女は困り切った様子で必死にとりなした。
「メンフィス様は姫君をそれは愛しくお思いです。王子の手許にあなた様をしばらくの間とはいえ預けなければならなかったのはこの上ないお苦しみだったんですわ。
ね、他の男の方の許においでだったことを恥ずかしくお思いになったりしてのことでしょうが、どうか素直にメンフィス様のお心にお従いあそばして」
キャロルは氷のような沈黙で侍女に答えを与えた。
さすがにメンフィスは気まずさを覚えるのか、しばらくの間はキャロルに近づかなかった。だが侍女にはよく言い含めてキャロルの様子を細かに聞き出すのだった。
一方、キャロルも侍女にそれとなく自分が眠らされていた間のことや周囲の状況を聞き出していた。考えるだに忌まわしく恐ろしいことだが知らぬ間にメンフィスに辱められているという最悪の可能性もあり得たからだ。
だがそれはキャロルの杞憂であったようだ。メンフィスは律儀に「神々の前にて婚儀を挙行してから」キャロルを我がものとするという手順に拘っているようだった。
(まだチャンスはあるわ)
キャロルは自分を奮い立たせるように考えた。
(私はきっと王子の許に帰ってみせるから。王子だって私のことを捜していてくれる。大丈夫よ、メンフィスなんかの思うとおりにはさせないわ。
王子、王子・・・!私を守って。あなたの所に帰れるように!)
15
(姫・・・?)
夜明け前の暗い天幕の中で王子は目覚めた。キャロルの呼ぶ声がしたように思えたのだ。
キャロル失踪以後、方々に放たれたヒッタイト軍とは別に、王子は精鋭の兵を少数率いて妃の行方を追っていた。エジプト軍の偽装は巧みであったが、
それでも隠密行動や情報収拾に長けた王子とその麾下は僅かな手がかりから彼らを確実に追って行っていた。
(夢か・・・)
王子は吐息をついた。キャロルが拐かされてから十日近く。エジプト軍の動きは予想外に早く、このままではキャロルを連れたままエジプト領内に
入ってしまうかも知れない。陸路を行くと思われた彼らが海路を選んだこと、囮のように部隊を分けて移動していたことが王子の探索の妨げとなった。
王子は物憂く身を起こしてじっと左腕を見つめた。あの夜を含めたいくつもの夜、キャロルが金色の頭を乗せ眠っていた腕。子供のような顔をして
眠っていた娘。夜中に目覚めてその顔を見るのがこの上ない幸せだった。
(姫はどうしているだろう?恐ろしい目に遭っているのではないか?悲しんで泣いているのではないか?メンフィスの許で・・・どれほど心細く思って
いることか)
王子は鈍くだるい痛みが宿る眉間を揉むようにした。連日の緊張が逞しい若者の心身を蝕んでいた。
(メンフィスの許にあれば・・・命の危険はあるまいと思うが。心に染まぬ事を強いられて苦しんでいるのでは・・・)
嫌な想像が若者を苦しめ、どす黒い嫉妬の蔓草が心を蝕む。愛しい女を男がどのように扱うかを彼はよく知っている。女を愛し、幸せにしてやれるのは
自分だけだと自負している男がどれほど傲慢で強引であるかも。
かつてイズミル王子はそのようにしてキャロルを得たのだから。
(神よ。どうか姫を、我が最愛の妃を守りたまえ。どうか、どうか・・・!)
>「生への帰還」作家様
連載おつかれさまでした!
骨太のストーリー、新しいアプローチで毎回楽しみにしていました!
また新しいお話を読ませてください。
「黒い嵐」作家さま
イズミル王子かわいそう〜。
メンフィスって離れている間、嫉妬するっていうのあまりないですよね。
21
ハサンと脱出する算段の取れたキャロルは、少しだけ落ち着いたが、いずれにしろ捕らわれの身になっていることには変わりがない。
以前会った時の印象やハサンの話から、アルゴン王の女好きは世に聞こえたことらしい。
自分を見る、まるで視線で嬲られているような気持ち悪さを思い出して、キャロルはゾクリと悪寒を感じた。
それと同時にふと自分がヒッタイトで捕らわれの身で会った時のことのことを思い出した。
イズミル王子は最後の1回だけを除いては、いつもいつも優しかった。
手を握る仕草一つとっても、キャロルが嫌がるようなら無理強いせず、穏やかな物言いで
キャロルの興味の引く話題を出し、耳に心地よい言葉をささやいていた。
何故急に王子のことが思い出されるのかキャロルにも分からなかったが、
王子と過ごした時間がいつになく思い出され、少し涙ぐんだ。
最初にメンフィスと出会わなくて、王子と出会っていたなら、自分の境遇も違っていたかもしれない、とキャロルは思った。
するとにわかに城の中が騒がしくなり、召使がキャロルをとある部屋から出さないように始めたので
キャロルは少し、興味を持った。
すると、ヒッタイトのイズミル王子が同盟を結ぶための使者として到着したと言うではないか。
王子が何故ここに?
「ナイルの姫と過ごそうと思うておったに、この状勢では仕方あるまい。
エジプトは今婚姻による同盟をリビアと結んだゆえ、ヒッタイトも焦っておろうよ。
なぁに、すぐに終らせてそなたの元へ戻ってこよう」
キャロルの様子を見に来たアルゴンは高笑いしながら、そう言い放つといい広間へと向かっていった。
ハサンの助けを待つ自分と、アルゴン王を厭わしく思う自分、そしてイズミル王子を懐かしく思う自分、と
キャロルの心は揺れにゆれている。
22
窓際でぼんやりと夜の更けていくのをキャロルは見ていた。
女官たちも急なイズミル王子の来訪のせいか慌ただしく、おとなしくしているキャロルのことはそのままに
宴の方に手を取られているようだ。
ハーレムの女達の声だろうか、時折嬌声なども混じって賑やかな様子が伝わってくる。
静かな物音がして、誰かが入ってきた気配がしたが、キャロルは振り返ろうともしなかった。
だが、次の瞬間、「無事だったのか、姫」という声とともにがっしりした腕が自分を抱きしめていた。
「王子・・・・」突然のことにキャロルの言葉は出てこなかった。
「また泣いて居ったのではないか?そなたはよく泣くからな」
軽口をききながら王子の手は優しくキャロルの体を撫でさすり、怪我がないのか確かめているようだ。
「ないてなんかいません、どうして、どうしてここに・・・。」
「そなたの行方を探しておったのだ、急に我が王宮から消えたゆえ。
ここへは父上の名代へ来たに過ぎんが、そなたがいるとはな。」
ルカからの連絡を受け、アッシリアの同行を探る振りをしながら、キャロルを救いにきたとは王子は言わなかった。
「私と共にここを出るか?そなた一人くらい隠して連れ去るのはたやすいが、そなたはどうするつもりで居るのだ?
アルゴン王のものとなるのか?」
「いいえ!でも私がいないのが分かったら、今度はアッシリアとヒッタイトとの戦になるのでしょう?
どのような戦であれ、人が殺しあうのはいや・・・。」
キャロルの返答は王子の予想外のものだった。
内心面白がりながら、王子はどうするつもりかを問いただした。
するときっぱりと、「早くここから逃げて!少しでも早く遠くへ!」とキャロルは答えた。
「ふん、ではそのようにいたそう。だが覚えておくようにな。
私はそなたを諦めたわけではない、そなたこそが我が妃と決めておるのでな。」
キャロルの返答を待たずに、王子はキャロルの唇を素早く奪うと、来た時と同じように静かに去っていった。
>生への帰還さま
おくればせながら、ありがとうございました。
はじめはエロ系だと思って数話とばして読んでいましたが、
続いているので「ん?」と思い読み直してみるとなんと
新しい切り口の物語ではないですか。以来ずっと楽しみにしていました。
みんな不幸系の最後は悲しいですがこれも一つのジャンルと思い、
ライアン・Jr.・リードの幸せをお祈りします。 んでまたROM専の私。