窓から伺える景色は、すぐ側にあるようで遠い。
たった一枚のガラス越しの世界。
だが、それはけして少女には届かない。
ピンポーン
また、ドアのチャイムが鳴る。
ここに来る人間なんて、決まっている。
どうせ、鍵を持っているのだからそのまま入ってくれば良さそうなモノだが、
あの男はわざとそれをせずにほっそーに出迎えさせるのだ。
ほっそー「はい…」
ゆっくりとドアを開ける。
編集者「よぉ、今日もカワイイじゃねぇかほっそー君」
嫌に上機嫌な編集者がそこに居た。
ほっそー「何のようですか、まだ原稿の締め切りには…」
編集者「今日は、お前に会わせたい人が居るんだよ」
ほっそーの言葉を遮り編集者は言う。
ほっそー「えっ?」
会わせたい、その言葉に動揺するほっそー。
しかも、彼女はここにいる間中常に何も身につけていない。
この部屋には、身に纏えるようなモノは一切置かれていないのだ。
たとえ、それがあったとしてもこの男はそれを許してはくれない。
編集者「うちの社の人気作家土門ひろゆき様だ」
編集者が紹介すると、ドアの影から一人の男が姿を現す。
土門「ほぉ、かわいい娘ですな」
男がいやらしく笑う。
ほっそー「土門先生…。」
ほっそーは目の前に現れた男が、ずっと昔に読んで感動した作品の作者だと知る。
土門「あ、オレのこと知っててくれてる?」
ほっそー「はい、昔読ませてもらってました」
昔。そう昔である。
ほっそーが好きだった土門の作品は、すでに連載を終了しその後の作品は知る事がなかったのである。
編集者「じゃ、わたしゃお邪魔でしょうしとっとと帰りますわ」
編集者は、あっさりと土門とほっそーを二人だけにしていってしまう。
土門「君のようなかわいい娘がねぇ」
土門は、ほっそーの体を目で舐め回しながら言った。
ほっそー「………。」
土門「君の写真、彼からたくさんもらったよ…見かけによらず、えっちな娘なんだね」
土門はそう言ってニヤリと笑う。
ほっそー「それは……」
土門「いいって、わかってるよ…とりあえず、はじめようか」
ほっそー「え?」
土門は服を脱ぎはじめる。
その体を見て、ほっそーは声にならない驚きを見せた。
土門「どうかしたの…さあ、これを握って」
土門は、ほっそーに黒いヒモのようなモノを手渡す。
ほっそー「こ、これは…………」
土門「さあ、早く…それでオレの体を撲つんだ。 手加減なんていらない、思いっきりやってくれ…」
ほっそー「でも……」
ほっそーはとまどう。
自分の手に握らされたモノが、どういうモノかもその言葉で理解した。
だが、人の体を鞭で叩くなんてした事など無い。
土門「さあ、早く…遠慮する事なんて無い、オレは叩かれるのが好きなんだ」
ほっそー「………ご、ごめんなさい」
ほっそーは弱々しく鞭を土門に当てた。
土門「だめだ、そんな事じゃ私は満足できない。 もっと強く、跡がつくぐらいにだ。 血が噴き出したらなお良い。」
ほっそー「そんな事……出来ません」
土門「貸して見ろ、こうやるんだ!」
風を切り、うなりをあげた鞭が強烈にほっそーの体に打ちつけられる。
ほっそー「ぎゃあぁぁぁぁ」
鞭のヒッとした部分から一瞬で血が噴き出し、ほっそーはその場をのたうち回る。
土門「さあ、今の要領でオレを叩け、オレを喜ばせるのだ」
ほっそーは傷口を押さえながら、鞭を拾う。
そして、言われるまま今度は強く鞭を振り下ろした。
土門「そうだ、もっと強く叩け。 オレを満足させろ。 そして、そのかわいらしい声でオレに侮蔑の言葉を浴びせかけろ」
数時間の間、ほっそーは鞭を振り下ろし続けた。
やがて、満足したのか土門は帰っていった。
小さな頃から、憧れていた作家の想像もし得なかった一面に何故か心の中に空しさを感じた。