学校に、WindowsではなくLinuxでインターネットをやっている奴がいた。
しかも、そいつが言うにはLinuxはネットでOS自体を無料ダウンロードできるらしい。
そいつの名前はK朗。K朗は、俺が知らないLinuxのいろんなことを知っていた。
俺はK朗がすごくカッコよく見えた。うらやましかった。
(俺もLinuxでサーバーを動かしたい・・・)
俺は家に帰ると、K朗から教えてもらったアドレスでさっそくダウンロードして
教わったとおり、フルインストールしてみた。
最初からいろんなサービス?が入っていて自動で動いていた。すごく簡単だった。
次の日、俺は高校の友達に自慢しまくった。
得意げに話していると、みんなはホームページが作りたいと言い出した。
さっそくアカウントをつくって、無料のダイナミックDNSにも登録し、みんなにスペースを貸し出した。
気づくと、いつの間にか、みんなが俺を見る目が“尊敬のまなざし”になっていた。
俺は得意になって、どんどん友達のアカウントを増やしていった。
〜つづく〜
そのうち、ある友達からブログを作りたいからPHPとMySQLを入れてくれと頼まれ、
さっそくインストールすることにした。
まだLinux素人の俺は、かなり苦労しながらもPHPの設定を終え、あとはMySQLの設定だった。
だが、サイトの説明どおりやってみても、なかなかうまく設定できない。
毎日夜遅くまでがんばったがダメだった。
とにかく急いでいた俺は、学校からノートとPHSを使ってtelnetで操作していた。
毎回複雑なパスワードを打つのが面倒になり、ユーザー名もパスワードも「admin」でユーザーをつくった。
ついでにroo権限にした。
何人かの友達が、いつまでもMySQLが使えるようにならないのにジレて、俺を急かし出していた。
このままではまずい。部活もふけまくって、何日も四苦八苦した。
でもようやく、うまくMySQLを設定することができた。俺は最高にうれしかった。
一週間以上かかったが、逆にそれが功を奏したのか、友達は、なおいっそう俺を尊敬してくれた。
それに、今まで話したこともなかった女子達が俺に話しかけてくるようになった。
“私たちもかわいいホームページが作りたいんだけどぉ”と、申し込んできた。
俺は最高の気分だった。。。
〜つづく〜
学校から帰ると、パソコンのハードディスクのアクセスランプがものすごい勢いで
点滅していた。今日は学校のみんなのホームページのバックアップをとる日だ。
あらかじめ、みんなに告知していた俺は、アパッチを停止して作業に取りかかった。
素人の俺は、ひとりひとりのアカウント情報でFTPでログインし、外付けハードディスクにコピーしていった。
10人分くらいのコピーを終えた俺は、風呂に入るために2階の部屋から1階へ降りていった。
風呂からあがり、冷たいコーラでのどを潤していると、学校の女子から携帯に電話がかかってきた。
HTMLの書き方でわからないところがあるらしい。俺は2階の自分の部屋に戻り本を見ながら丁寧
に教えてやった。女子は礼を言って電話を切った。ちょっと好みのタイプの女子だった。
俺はニヤニヤしながらバックアップのつづきを始めた。
俺は最高に楽しかった。。。
〜つづく〜
ある日、ひとりの女子が“最初が長いのよね”と言い出した。なんのことかと思ったら、
ドメイン名だった。無料のダイナミックDNSでやっていたので、たしかに長い。そうだ、この際
ドメインを取得するか。しかし、お金はいくらかかるんだろうか。とにかくネットで調べてみた。
一年で約3000円と書いてある。たいしたことはなさそうだ。でもクレジットカードが必要だ。
ネットでサインするために、親父に頼んだ。ドメインを買うからと言ったが、親父は意味が
わからなかったようだ。でも年3000円だったので俺の小遣いから引くということで承諾してくれた。
肝心のドメイン名だが、いろいろと打ち込んでみて、ようやく頭5文字のドメインを取得できた。
世界に一つしかないドメイン名だ。俺は心の中で“やったぜ!”と叫んだ。
次の日、学校でドメイン名が変わることをみんなに伝えると、反響がものすごかった。
ホームページを書き換えなきゃならない奴はブーブー言うし、逆にあまり修正がいらない奴は
短くて良いドメイン名だと喜んでくれた。
“最初が長い”と言っていた女子が寄ってきて、“○○くん、やるね!”と耳打ちしてきた。
その吐息が耳にかかって、俺は真っ赤になるのをごまかすのに必死だった。
俺は最高に楽しかった。。。
〜つづく〜
となりのクラスのJ子という女子がホームページを申し込みたいと言ってきているらしい。
さっそく放課後やって来た。スカートがやけに短く、茶髪でかわいいけど、ハデな子だった。
俺はこの手の女子は苦手だったが話を聞いてみることにした。すると、携帯サイトを
作りたいらしい。それで、俺にホームぺージを丸々作ってほしいと言うのだ。
俺は内心いやだったが、ちょっとタイプの子だったし、どうしようかと思案していると、
“それじゃあ、これから俺のうちに行って習うから教えて”とJ子が言い出した。
俺は下心見え見えだったが、即OKした。
家に着くと、タイミングよく、かあさんも姉貴もいなかった。そのまま2階にあがっていった。
まず、サーバーにしているパソコンを見せた。“以外に普通なのね”とJ子は言った。
それから、10分くらいHTMLの書き方を説明した。
その後は俺のノートパソコンで本を見ながらJ子本人に作らせてみた。
彼女は見かけとは違い、真面目にホームページ作成に取り組んでいた。
〜つづく〜
俺は彼女の短いスカートの足が気になった。よく見ると色白でかわいいじゃないか。
俺ってもしかして、しあわせもの?などと上を向いて思ったりもしたが、
定期バックアップの作業があったのでサーバーパソコンに向かい、アパッチを止めた。
アパッチは停止したが、ハードディスクのランプが依然激しく点滅している。
おかしい。何かがまだ動いている。
起動プロセスを見てみたが停止時間で止まっている。
それよりも、ん?なんだ?Postfixが起動している?
俺はログのディレクトリで他に何かわからないか、詳細を見てみた。
すると、ひとつ1MBくらいあるメールログが連番でいくつも作成されていた。
俺は、どういうことなのか、さっぱりわからなかった。。。
〜つづく〜
メールデーモンは起動させていないはずだ。
メールサービスは危険だとK朗から聞いていたので、俺はメールは起動させていなかった。
“なぜ、メールが動いているんだ・・・” 俺は焦った。
恐る恐るメールログをエディタで開いてみると、いろんなアドレスにメールを送信している。
素人の俺でもログの意味は分かった。ステータス センド、ステータス、センド・・・
メールの量がハンパじゃない。ぱっと見ただけでも数百、いや、千以上はあるようだ。
そうだ!こんなことをしている場合じゃない。メール送信を止めないと!
俺はすぐにLANケーブルを抜いた。それとほぼ同時にハードディスクのランプも点滅が落ち着いた。
俺は怖くなってきた。すこし震えていた。
体中から冷や汗が出るのがわかった。
俺のパソコンは悪いハッカーに乗っ取られたのか?
でも、なぜ・・・。
〜つづく〜
J子とふたりっきりで部屋にいたにもかかわらず、すっかりJ子の存在を忘れていた。が、
J子が“ちょっとわかんないのがあるんだけどぉ”と、キャスター付きの椅子で
スルスルと寄ってきて、俺の袖を引っ張ってきた。しかし、俺はそれどころではなかった。
とにかく、落ち着いていられず、J子には悪かったが帰ってもらった。
J子が不思議そうな顔をしていたので、サーバーの重大な欠陥を発見したと言っておいた。
J子は明日も来るからといっていた。いや、今はそんなことは後だ。
俺はどう対処したらいいんだ。とにかく、誰がやったのか調べないと・・・。
俺はさっきのディレクトリでほかのログを調べていった。
そして、secure というログにたどりついた。これだ。追って見ていくと、俺が使ってないはずの
時間帯に誰かがログインしている。それもほんの今さっきまでログイン中だったようだ。
ユーザー名“admin”
しまった! MySQLで四苦八苦しているときに作っていたアカウントだ。
消すのを忘れてしまっていた。パスワードも admin だったから容易にバレてしまったんだ。
しかも 、root権限。
俺は最悪の場面が目に浮かんだ。。。
〜つづく〜
次の日、学校で俺はどうしたらいいか考えていた。休み時間になるとみんながやって来て、
サーバーが止まってるんじゃないかと言い出した。するとK朗がやって来て俺に言った。
“お前のドメイン、スパム報告あがってるぞ、それもハンパな数じゃないな”
“スパムってなんだよ?” “私のホームページ消えてるよ?”
“FTPでつながらないんだけど” “回線じゃない?”
みんなが一斉に思い思いのことを言い出した。
俺はその場に居たたまれず、走って教室を出た。
屋上には誰一人いなかった。俺はこれからどうしたらいいのかわからなかった。
そのまま学校をふけて、家に帰った。家族には具合が悪いからと言って部屋に入った。
スパム報告のサイトを見てみると、一番目のところに俺のドメイン名があがっていた。
最悪だ。。。住所も名前も電話番号も登録している。
俺が所有するドメイン名ってことを、みんなわかっているんだ。
俺はどうなってしまうんだろう。。。
〜つづく〜
ヤフーのニュース記事を見てみると、コンピュータ関連記事のところに、
“最近、安易に管理者権限を奪われてスパムの温床になっているサーバー管理者が多い。”
という記事が出ていた。俺のことだ。。。
そのとき、K朗から携帯がかかってきた。
“おまえ、ルーターどう設定してるんだ”と言う。“ルーターって何だ?”と聞くと、K朗は急にあわて出して、
これから俺のうちに来ると言い出した。しばらくすると、K朗がやって来た。
“とにかく、これから説明するから。それと、しばらくサーバーは動かすな”と言って、いろいろと教えてくれた。
どうやら、俺はまったくと言っていいほど知識もなくサーバーを動かしていたようだ。
それがどれだけ危険なことか、K朗は俺に丁寧に教えてくれた。
K朗が帰ったあと、K朗のおかげで俺はだいぶ冷静になることができた。
夜、親父が帰ってきたので、恐る恐る親父に一部始終を話した。
親父は“そんなことがあったのか・・・”と言ったが怒らなかった。
なんか、すごく申し訳なかった。涙が出てきた。
その後、サイバー警察のサイトで、今回の事の一部始終を書いて送信した。
すると、すぐに携帯に電話がかかってきた!ドキドキしながら画面を見ると、J子からだった。
J子には悪かったが、今は話す気分じゃなかったので出なかった。
はぁ、この先どうなってしまうんだろう。。。
〜つづく〜
学校のみんなに、サーバーはしばらくやめることを言った。
ちょっと勇気がいったけど、K朗がいっしょに言ってくれた。
みんなのホームページのバックアップはとっていたので、CDに焼いて渡そうとしたけど、
みんな“もういいよ”と言って受け取らなかった。最高に最高に気まずかった。
担任の先生にも一部始終を話したが、どうやら話の意味がわからなかったようだ。
俺の説明のしかたが悪かったのかもしれない。
部活が終わって帰ろうとしたら、校門でJ子が待っていた。
俺があの日のことを謝ると、“別に気にしてないから”と答えた。
続けてJ子は、“ところで、今日これからうちに行っていい?”と言った。
俺は“ああ、いいけど・・・”と言葉を濁したが “そっ!じゃあ行こうか”と言った。
俺はこの先どうなってしまうのかわからないけど、もし警察沙汰になったら
親に申し訳なくて謝りきれない。姉貴は全然知らないようだけど、迷惑かけることになるかも。
でも今の気持ちは、逃げないで正面から謝りたいと思ってる。
K朗とJ子、俺にはいい友達がいて本当によかった。これからもよろしく。
〜おわり〜
(この話はフィクションです)