大藪春彦「餓狼の弾痕」

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472書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
「荒野からの銃声」を見直していたところ、
氏みずから、自己の作品スタイルに影響を与えたと認める作品のリストが目に入った。
ショーロホフ「静かなドン」
オストロフスキー「鋼鉄はいかに鍛えられたか」
レルモントフ「現代の英雄」
スチーヴンスン「マスター・オブ・バラントレー」
メイラー「裸者と死者」
ヘミングウェイ「大きなニつの心臓の河」等のニック・アダムス物
ハメット「赤い収穫」
チャンドラー「ロング・グッドバイ」
ロス・マクドナルド「動的」(*「動く標的」か?」)
マッキヴァーン「セブン・ファイル」(*「ファイル7」)

ある時代における必読書であったショーロホフ作品、
ベストセラーにもなったメイラー作品、
ハメットの代表作(大藪氏の場合、「マルタの鷹」の方でないのがポイントか)
チャンドラーの最高傑作(定評)、この辺はわかるが、後はマイナーな作家又は作品
が並んでいるという感がある。
ロシア文学関係では、ドストエフスキー、トルストイ等の定番の名が無く、
ヘミングウェイ作品が「老人の海」ではない。
ロスマクは、大藪氏の場合はポール・ニューマンで映画化もされたこの作品が、
お気に入りなのはわかる気がする。家庭小説として深化する前の初期作。
マッギヴァーンは、「殺人のためのバッジ」あたりかと思ったのだが。

作品の知名度はマイナーだが、(作者自身は「宝島」で有名)、
本書で大藪氏が、19世紀最高の英文学と推している「マスター…」という作品。
「野獣死すべし」や「復讐の弾道」等の初期作の暗い情念好みのファンには、
一読巻を置かせぬ面白さだ。食わず嫌いにならず、機会があれば手に取って欲しい。
角川文庫(「バラントレイ卿」)、岩波文庫(「バラントレイの若殿」)があった。
ただし絶版か。