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書斎魔神 ◆AhysOwpt/w :
志賀直哉「大津順吉・和解・ある男、その姉の死」
表題の3作を収録した中編集。
小説の神様の長編代表作が「暗夜行路」、
短編が「小僧の神様」「城の崎まで」、
だとすれば、中編では文句無しに表題作のひとつ「和解」かと思う。
長年に渡り不和な関係にあった作者と父の和解の顛末を、
淡々と綴ってしみじみとした余韻を残す名編である。
「父との不和の原因が具体的に書かれていない」という評があったとのことだが、
作者は「和解の喜びを動因として書いたもので、
そういう時に不和の原因を読者のためにくわしく書くという気持ちになれなかった。
私自身では不和の原因を書かずに和解の喜びを現わせた点をむしろ満足している」と記している。
そう言えば、
「暗夜行路」でも「時任謙作は死んだのですか?」との問いが多かった
そうだが、夫婦の和解ということを書ければどちらでも良いと思うという趣旨
を述べていたような。
「書かざる部分」があるにもかかわらず、テーマは首尾一貫し、
人間の営みを活写し、感興を催す。
正に「純文学」の凄味「ここにあり」である。