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書斎魔神 ◆AhysOwpt/w :
F・W・クロフツ「二つの密室」を読んだ。
T〜Xの五部構成。タイトルどおりこの作者には珍しい密室殺人ネタ、
しかも第T部は「これってアガサ?」と思わせるような若い女性を主人公に
した田園小説風の展開である。
おなじみフレンチ警部が登場する第U部からはおなじみ地道な警察捜査小説
という展開へと相成る。
女性キャラ登場多数ながら、アガサと異なるのはいわゆる「美しい女性」は
第一のガイシャと容疑者にひとりいるだけであり、ヒロインを始めとして
美人でもチャーミングでもない、いわゆる普通の女性であること。
本筋とは関係ないものの、この辺にも鉄道技師という地味なキャリアを持ったクロちゃんなりのリアリズムを感じさせるものあり。
さて、メーンテーマである密室ネタは、一つ目(物理的もの)のガス管ネタは技師らしい妙にわけわからめな凝った(凝り過ぎた?)ものだし、
二つ目(心理的もの)の「扉の影に・・・」ネタはある意味で脱力もの、
ジョンあたりがやるなら笑って許せても、地に足が着いた真面目な作風というイメージのF・Wがやると「なんじゃ、そりゃあ」と妙に腹立たしい感が
あるのは不思議ではある。
本事件解決後に上司からの賞賛を受けたものの、念願の主任警部昇進は
無かったようなフレンチ、この失望(?)にもかかわらず、
ラストでヒロインの境遇を祝福するシーンは、地味にハートウォーミングな
感があって良し。アガサ作品にありがちな「わざとらしさ」が無いんである。