アガサ・クリスティ 15

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353書斎魔神 ◆AhysOwpt/w
アガサ・クリスティー「複数の時計」を読んだ。
早期にMM文庫入りした作だが、
後期アガサの衰えが諸出しになってしまった感がある作でもある。
だが、
安楽椅子探偵と化したエルキュールの作中における探偵小説論は興味深い。
英国大好きなジョンを英国人であり同じ本格ミステリ作家であるアガサが
高評価、ちゅーか好感度大なのはわかるが、評価が割れることがある
仏作家ガストンの黄色い部屋をポワロの言を通じて、
アンフェアとまでは言えないと高く評価しているのは少し意外かな。
この他の点は粗が非常に目立つ作である。
盲目の婦人が住む家で紳士が殺害される。現場には無いはずの複数の時計が
残されていた・・
わりと魅力的な謎の設定で掴みは悪くはないのだが、
・作中でミステリにおける偶然性を批判したくだりがあるにもかかわらず、
偶然の出遭い、唐突な目撃者の登場等々、御都合主義な展開が目立ち過ぎる。
・エスピオナージュも書くアガサだが、ワトスン役(作中でポワロがへスティングズは自分にとってワトスンだと語り、懐かしむシーンあり)
に情報部員(本職は海洋学者)を配し、スパイネタを入れたのは、
やや盛り込み過ぎという感あり。明らかに消化不良である。
・主舞台となるウィルブラーム・クレセントの家の配置がわかり難い。
翻訳版オリジナルでもOKなので、見取り図を付けて欲しかったところだ。
・一般にはハートウォーミングなイメージがあるアガサ作品だが、
時代性ゆえキティやアカに対する偏見と思われる台詞が見受けられる。
ただし、これは庶民性の顕れであり、アガサ作品が高齢者も含めて幅広く
読まれている因とも言えるが。
・メーンである謎の複数の時計の存在に関する謎解きがやや弱い感あり。