『読みました』報告スレッド

このエントリーをはてなブックマークに追加
35名無しのオプ
[762]書斎魔神◆AhysOwpt/w 1/11(月)21:59 Am/sDOYq(2) AAS
栗原裕一郎「<盗作>の文学史 市場・メディア・著作権」を読んだ。
文中で筆者も類書が見当たらないと述べているとおり、
現在のところ文学における盗作に関する唯一の体系書であり、
基本テクスト足り得る力作である。
本書を読むと、基本的な法的知識や文学に関する見識も無くして、
荒らし目的のためにいたずらに「剽窃」云々を騒ぎ立てる連中に、
「甘ったれるな!!」という感をあらためて強く抱いた次第である。
欲を言えば、もう少し事例を整理するなりしてボリュームをコンパクト
たらしめても良かったかも。
ミステリ関係の盗作ネタも相当数紹介されているが、
文壇、ジャーナリズムにおけるその注目度は昔から低かったようだ。
ミスオタが地団太踏んで悔しがっても、「所詮、たかがミステリなのである」。
この点は、本書で紹介されている倉橋由美子「暗い旅」における
ミシェル・ビュートル「心変わり」の2人称スタイルパクリ疑惑事件に端的に
顕れていると言い得る。
倉橋嬢の半年程前にあのミッチーこと都筑道夫がビュートル作品に倣うと
公言(文筆上の犯行宣言?(w )の上、「やぶにらみの時計」を著している
にもかかわらず、糾弾もその後の論争における参照も無かった(66頁参照)
のである。ネット用語で言う完全スルーやね(w
本書第三章では大藪春彦、三好徹両氏絡みの盗作事件の詳細が引用や報道記事にもとづき検証されている。
本書の引用で見る限り、大藪氏の盗作問題(2件)はフランク・ケーンには
成程感があるが、ロスマクの方は自家薬籠中のものしていると言うても良いのではないか?
36名無しのオプ:2010/01/11(月) 22:29:03 ID:Difnnf3y
[763]書斎魔神◆AhysOwpt/w 1/11(月)22:00 Am/sDOYq(2) AAS
三好氏の方は黒澤映画「天国と地獄」に絡むものである。
他に本書中にミステリ作家関連では、
あの悪名高き2ちゃん、しかもわがミステリ板が発信源となった飛鳥部勝則
「誰のための綾織」の件が、第七章で頁数を割いて紹介されているが、
この件は一般どころか、ミステリ板住人でも知らなかった者も多いのでは?
更には、第8章その他の事件では、清張先生が「深層海流」で著作権侵害
で告訴された件(いずれ清張スレで紹介したい)、
有馬頼義氏が「カストリ雑誌前期」の盗作の件で示談金を取られた件等が
紹介されている。
著作権問題としてリーガル・サスペンスを読むかのような逆転の
面白さがあるのは、第六章で取り上げられているNHK大河ドラマ「春の波涛」
の件、複数の原本が存在する等で展開そのものがミステリアスな「黒い雨」の件等、いずれもミステリ関連でないのが面白い。
盗作史(?)という文学史の断面をひとつ見ても、ミステリというジャンルの存在感の無さが実感できるものあり。
本書では漫画絡みの件(第六章の「川べりの道」)も取り上げられているが、
この活字文化衰退の昨今、ミステリはこのままでは漫画よりも影が薄いもの
となってまうぞ(w