1957〜1987年あたりの本格ミステリ作家達3

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281初代スレの>>3:2010/05/06(木) 09:28:28 ID:rGHiEhYk
笹沢左保「薄氷の沼」(光文社文庫)★★★☆
1988年に雑誌連載された長編。
大花麻奈加はプロ野球選手の三井田と不倫の関係にあり、離婚に応じない夫の公二郎から度重なる
暴力を受けていた。ある時出会った八巻という見知らぬ男から、自分の妻を殺してくれれば、公二
郎を殺してあげると持ちかけられる。麻奈加は交換殺人の提案を受け入れ、約束どおり公二郎が出
張先で殺される。今度は麻奈加が八巻の妻を殺す番なのだが・・・。
あの件の真相について非常に虫の良い偶然に頼っているし、また肝心の部分の伏線が不足していま
すが、ラストのドンデン返しと悲劇的な結末は見事に決まっています。特に「交換殺人」において常
に問題点となるアレの件を、謎解きの中心に仕立てたアイディアは評価できると思います。先ず先
ずの良作でしょう。
282初代スレの>>3:2010/05/06(木) 10:29:43 ID:rGHiEhYk
赤川次郎「三毛猫ホームズの歌劇場」(角川文庫)★★★☆
1986年のシリーズ第13作、長編としては第9作目。
ドイツからウィーンに入った片山、晴美、石津、ホームズ一行は、以前の事件で知り合ったマリと
再会、彼女から、東京のピアノコンクールで優勝しウィーンで演奏会をすることになった謎の新進
ピアニスト・柳美知子がウィーン国際空港で行方不明になった事件を解決してほしいと懇願される。
さらにコンクールで二位に甘んじた弥生や、美知子に振られて追ってきた林という青年らもウィー
ン入りし、波乱含みのなか、ついにオペラハウスで殺人事件が勃発する。被害者は林だったのだが、
現場は密室状況にあった。ホームズの推理や如何に?
「騎士道」「幽霊クラブ」(いずれも前スレ参照)に続くヨーロッパ物の第3弾。「騎士道」はシリーズ
屈指の傑作で、「幽霊クラブ」が今ひとつだったところ、本作は先ず先ず持ち直した良作です。オペ
ラハウスの密室トリックはさほどの出来ではないのですが、アンフェアながらも、もう一つの或る
大トリックが破壊力十分で、ラストで見事に決まっています。残念ながら序盤の或る描写でモロに
アンフェアなのですが、これさえ無ければ★4つ級の傑作になっていたでしょう。
赤川次郎はやはり侮りがたいですね。
283初代スレの>>3:2010/05/06(木) 10:33:07 ID:rGHiEhYk
中津文彦「千利休殺人事件」★★★
1986年の長編。
国会議員の水谷が赤坂のホテルで刺殺され、後援会長から貰った茶器「楢柴」が盗まれる。「楢柴」と
は、豊臣秀吉から徳川家康に伝わり、その後、江戸城の火災で行方不明となっていた幻の名器だっ
た。能登出身で骨董品に詳しい若手刑事の加賀見は、被害者の地元・金沢に飛び、事件の背景を探
る。水谷陣営には後継者を巡って、後援会長の園田、秘書の川端、水谷の息子らによる三つ巴の内
紛が起きていた。果たして、園田もまた金沢のホテルで殺される。容疑者と目される連中にはアリ
バイがあったのだが・・・。
佳作とは言えませんが、なかなかの良作でした。第一、第二の殺人におけるアリバイ工作はどちら
も大したものではないですが、プロローグ、凶器に関する伏線などは見事。恋人を殺され迷宮入り
した事件を突き止めるために刑事になったという、主役の加賀見刑事のキャラも秀逸。その事件は
本作では解決されなかったので、これはシリーズ化されて続いたのでしょうかね。先ず先ずの作品
でした。
284初代スレの>>3:2010/05/06(木) 11:23:25 ID:rGHiEhYk
アンソロジー「殺意の断層−『オール讀物』推理小説傑作選T」(文春文庫)★★★
「オール読物」誌の推理小説新人賞受賞作を集めたアンソロジー第1集。1962年の第1回受賞作から
1981年の作品までを収録。
西村京太郎「歪んだ朝」○、山谷のドヤ街を舞台にした少女殺しの話。彼女が口紅をつけていたのは
何故なのか・・・。大した謎ではないが、社会の矛盾に対する怒りがジンワリと押し寄せる佳作です。
井原まなみ・石井竜生「アルハンブラの思い出」◎。近所で起きた殺人事件の容疑者のアリバイ工作
を、隣家の病気の少年が打破する。ラスト、この少年の病気とは実は・・・。アリバイ工作自体は大した
ものではないですが、少年が実は・・・・だった、というところがポイントでしょうか。後年の天藤真に
よる某傑作の先駆となった作品ですね。
加藤薫「アルプスに死す」△。アルプスの未踏峰を狙う日本人、フランス人、ドイツ人の登山家たち。
反目しあいながら一番乗りを目指すのだが・・・。山岳ミステリとしては迫力あるのですが、真犯人の動機
が弱すぎる。
高原弘吉「あるスカウトの死」○。高校生選手の獲得を工作していた球団のスカウトが由布院温泉で
殺される・・・。題材はユニークですが、骨格は非常に古めかしいですね。被害者が狙っていたのは実は、
という意外性はありますが、ただそれだけ。
久丸修「荒れた粒子」△。テレビ局を舞台にした点、真相の意外性が評価されたのでしょうが、面白
くない。
新谷識「死は誰のもの」○、作者の短編集で既読、紹介済みのため割愛。良作です。
清沢晃「刈谷得三郎の私事」◎、功なり名を遂げた社長が私設の美術館で殺される。殺害方法がちょ
っとユニークで、シブい滋味に満ちた作品。
逢坂剛「屠殺者よグラナダに死ね」○、お得意のスペイン物の冒険小説。別の短編集で既読なので割愛。
桜田忍「艶やかな死神」△、夫を強盗事件で亡くし、再婚後、またも事件に巻き込まれた女性。どち
らも現場でトバッチリを受けていたが、実は財産狙いの狂言ではないのか・・・。まあまあ。
ベストは「アルハンブラの想い出」と「刈谷得三郎の私事」ですね。
285初代スレの>>3:2010/05/06(木) 11:25:10 ID:rGHiEhYk
中津文彦「千利休殺人事件」★★★
1986年の長編。
国会議員の水谷が赤坂のホテルで刺殺され、後援会長から貰った茶器「楢柴」が盗まれる。「楢柴」と
は、豊臣秀吉から徳川家康に伝わり、その後、江戸城の火災で行方不明となっていた幻の名器だった。
能登出身で骨董品に詳しい若手刑事の加賀見は被害者の地元・金沢に飛び、事件の背景を探る。水谷
陣営には後継者を巡って、後援会長の園田、秘書の川端、水谷の息子らによる三つ巴の内紛が起きて
いた。果たして、園田もまた金沢のホテルで殺される。容疑者と目される連中にはアリバイがあった
のだが・・・。
佳作とは言えませんが、なかなかの良作でした。第一、第二の殺人におけるアリバイ工作はどちらも
大したものではないですが、プロローグ、凶器に関する伏線などは見事。恋人を殺され迷宮入りした
事件を突き止めるために刑事になったという、主役の加賀見刑事のキャラも秀逸。その事件は本作で
は解決されなかったので、これはシリーズ化されて続いたのでしょうかね。先ず先ずの作品でした。
286初代スレの>>3:2010/05/06(木) 11:30:12 ID:rGHiEhYk
>>285
間違って>>283を繰り返してしまった・・・orz
正しくはコッチでした。

水野泰治「暗殺幻葬曲」(講談社ノベルス)★★☆
1985年の長編。
病院を経営する父母を交通事故で喪った桜田真実は、自分が父母の実の子ではなかったことを知る。
自分の両親は一体どこにいるのか、また自分は一体誰なのか、わずかな手掛かりを伝手に、真実は
恋人の康彦を振り切って旅に出る。だが二人の行く手を邪魔する謎の老人とその一味が現れる。真実
の身を案じる康彦は、ノゾキ魔の健の助けを得て、老人一味の正体を暴こうとするのだが・・・。
1980年代当時でも、このまったく笑えないユーモア感覚には脱帽ですねw特にヒドいのが康彦の言動。
読んでいるこっちが恥ずかしくなる小説は小嵐九八郎「紫桔梗殺人事件」(>>2参照)以来でしょうか。
なお謎解きのメインは、新聞広告の「暗号解読」なのですが、さすがにコレには力が入っています。解読
に活躍するのはノゾキ魔の健ですが、彼のキャラだけは上手いので、何とか読み通すことができました。
ラストの真相も大したことはないですが、少なくとも「暗号解読」としては関口甫四郎の作品よりはマシ
でした。
287初代スレの>>3:2010/05/06(木) 12:50:36 ID:rGHiEhYk
9連投スマソカッタ

(オマケ・番外編)
永井豪「吸血鬼狩り」(朝日ソノラマ)(マイナス★★★★★)
永井豪の自選SF怪奇マンガ集に収録された作品。絵のタッチが永井豪とは思えないぐらいオーソ
ドックスな劇画調で、初出が不明ですが、1960年代のごく初期の作品かも知れません。
冬山登山で猛吹雪に遭い、山荘に避難したパーティ一行。だが夜中に戦慄の事件が発生。仲間の一人
が全身から血を抜かれて死亡しているのが発見される。吹雪で救援の手が届かない中、仲間たちが
一人、また一人と血液を吸われて殺されてゆく。メンバーの中に吸血鬼が紛れ込んでいるのではな
いか、主人公とヒロインの少女は、誰が吸血鬼なのか突き止めようとするのだが・・・。
本作を紹介したのは、「本格」どころか反「本格」の筆頭というか、お遊びですのでご容赦を。クローズ
ド・サークルの典型である「吹雪の山荘」に永井豪が真っ向から挑んで、およそ「本格」とは対極
の真相に達した問題作だと思います。
終盤、主人公とヒロインの少女の二人だけが生き残ります。ここで「二人きりしかいないのだから、
正体を現しても不都合じゃないのに何故?」という訴えが胸に突き刺さります。そしてラスト・・・。
むろん、最後の一人が吸血鬼だったのではなく、メンバーの他に吸血鬼の化け物がいたのでもあり
ません。ラスト1ページは、何というか、夢に出てきそうなほど怖かったです。
永井豪が、本格ミステリにおける「吹雪の山荘」テーマをどこまで意識して描いたのかは分かりま
せんが、ひょっとしたら、こう言いたかったのかも知れません。

「吹雪の山荘では、本格ミステリごときには思いも及ばないほど恐ろしいことが起こる」と・・・。
288278:2010/05/06(木) 16:28:55 ID:MFciTJre
人喰いに関しては、最初のスレで、

123
最近、笹沢左保『人喰い』読んだけど、正直「え、これで協会賞?」と
思った。ミステリって大進化したんだなあ、って思いました。

という書き込みに対し、3氏が、

124
「人喰い」は俺も余り感心しません。

と答えてます。
その後も星はないと思います。
289名無しのオプ:2010/05/07(金) 16:50:28 ID:8q53J6p9
西村寿行「君よ憤怒の河を渡れ」を読んだんだけど、
冒険小説だとばかり思ってたら、本格ミステリとしてもかなり良くできてるんでちょっとびっくりした。

「この人がうちに入った強盗です!」
新宿の交番で未知の女性からそう言われて指さされた時、
東京地検のエリート検事・杜丘冬人の人生が崩れた。
一転、他人の目を逃れ、闇を奔り、
ある時は北海道で熊と闘い、
新宿の繁華街をサラブレッドで走り抜ける逃亡生活が始まった…

まるっきり身に覚えがないのに、エリート検事が突然犯罪容疑者にされてしまう、という冒頭から、
次々に不可解な状況が襲いかかってくる。
自宅のじゅうたんの下から、隠した覚えのない札束が発見されたり、自分を強盗扱いした女性を探している最中に、その女性が他殺死体で見つかったり。
謎が次から次へと増殖していくあたりは、初期から中期の岡嶋二人にちょっと似てるかも。
もちろん冒険小説としても面白い。
冒頭の謎、中段のサスペンス、ともに文句なし。
最後の謎解きはあんまり大したことないんだけど、それでも決して拍子抜けってことはない。
まあまあ満足できるレベル。
主人公がやたら女にもてたり、ピンチに陥ったら都合のいいタイミングで助けが現れたりするんだけど、
引き締まった描写のせいか、あまりご都合主義って感じはしない。
後の寿行作品で顕著になるセックス描写も、この時期はまだなし。
本格大好き、冒険小説嫌い、って人も、読んでみて損はしないんじゃないかな。
思わぬ拾いものって感じ。
290名無しのオプ:2010/05/07(金) 17:57:02 ID:qTJc71nN
>>289
『憤怒』が面白いのは同感だけど、本格の要素は微塵もない
そこまで言えば「桃太郎」も「銀河鉄道の夜」も本格にならないか?
291名無しのオプ:2010/05/07(金) 18:28:14 ID:rt8OIwXW
>>289
おお、「君よ憤怒の河を渉れ」。
作者が、初期の社会派ふうの推理物から、ヴァイオレンス路線へ移行する、過
渡期の作(1975年作)だけに、ごった煮の面白さがありますね。
主人公は、山中でヒグマと戦うわ、飛行訓練なしに夜空へセスナで飛び立つわ、
精神病院へ潜り込んだかと思うとサメに食われそうになるわ・・・
でもって最後には、ユニークな密室の謎を解く(笑)
肝心のトリックは、はっきりいってバカですが、手掛りとして何回か言及され
る、タバコの煙に手を伸ばす猿の奇妙なエピソード(この猿も、被害者と一緒
に謎の死をとげた)が印象的。剛腕だけでない、作家・寿行の資質が光ります。
冒険ものと本格のハイブリッドとして、一読の価値はあると思います。
292初代スレの>>3:2010/05/16(日) 08:44:28 ID:jTj7ze7X
山村正夫「逆立ちした死体」(光文社文庫)★★★☆
1986年、「逃げ出した死体」(>>257参照)に続く、小泉譲二、夕起子、瀬古井刑事トリオによる
シリーズ第2作。
夕起子の父親が経営する病院内に探偵事務所を開いた小泉。第一号の依頼人は、行方不明になっ
た恋人・田島を探してほしいと依頼してきた女子大生の千鶴子だった。田島は有閑夫人らを客と
する愛人バンクのホストをしていたのだが、小泉が調査を始めるや、ミイラのような異常に痩せ
細った死体となって発見される。ホストで相手をしている時に一体何があったのか。やがて事件
の重大な鍵を握る洋裁学校の院長もまた、密室のマンションで殺されているのが発見される。向
かいのビルの目撃者は、被害者が事件のあった晩に逆立ちしていた、と証言したのだが・・・。
事件全体の真相は、まあオゲレツな内容ですが、第二の事件における密室トリックの豪快さには
唖然呆然としてしまいました。バカトリックはこうこなくちゃね。密室にした必然性も一応説明
されているし、真犯人の意外性も先ず先ず上手くいったし、伏線もそれなりに張られており、第
1作「逃げ出した死体」よりは出来が良いと思います。
293初代スレの>>3:2010/05/16(日) 08:46:52 ID:jTj7ze7X
横溝正史「悪魔の寵児」(角川文庫)★★☆
1959年、金田一耕助の東京物の長編。横溝作品もあらかた読んだけど、金田一の東京物は未読作が
結構あります。
戦後のドサクサに成金にのし上がった風間欣吾。その三人の愛人のうちの一人が経営するバーに勤
める早苗の兄・宏が、欣吾の後妻と無理心中未遂事件を起こしたのを皮切りに連続殺人が勃発する。
事件ごとに姿を現す謎の怪人「雨男」、三人の愛人、欣吾の前妻・種子とその愛人である活人形師・
黒田亀吉らの胡散臭い面々、犯人は一体誰なのか、そして「雨男」の正体は。早苗を慕う新聞記者
の水上三太が事件を追及するのだが・・・。
1959年、名作「悪魔の手毬唄」と並行して書かれたエログロ風味満点の通俗作品。解説にあるよう
に、当時、非難轟々だったのも仕方のない内容ですが、一応、最低限の「本格」の骨格は保ってい
ます。怪人「雨男」のネーミングとその正体(まあ、今どきコレに引っ掛かる読者はいないでしょ
うが)、オゲレツなネタに絡んでの真犯人の隠し方など、ミスディレクションに工夫した点は一応
評価できると思います。
あと、これは作者がどこまで狙ってやったのか分かりませんが、あの人物を真犯人にした点もスゴ
い。詳細は書けませんが、横溝作品と金田一耕助の熱烈なファンで、あの某名作を知っていれば、
あの××の人物が犯人だというのは非常に意外に思いました。
なお余談ながら、犯人の使ったオゲレツなトリックは、山上たつひこの名作マンガ「喜劇新思想体
系」の某エピソードで使われていましたね。元ネタは「悪魔の寵児」だったのかw
そういえば「喜劇新思想体系」には、「そして誰もいなくなった」の秀逸なパロディで、「××が犯人」
というエピソードもあったなあ。
294初代スレの>>3:2010/05/16(日) 08:52:51 ID:jTj7ze7X
(承前)
今思い出したけど、「悪魔の寵児」冒頭の無理心中の通知状って、「横溝正史読本」に出てくる中村
進治郎の無理心中通知状がモデルですよねw

中町信「社内殺人−課長代理・深水文明の推理」(徳間文庫)★★★☆
1991年の長編。
医療器具販売会社で給料日に発生した給料ドロボウと屋上からの転落事件。転落事件の被害者は
幸いにも一命を取り留めたのだが、事件前後の記憶を喪失してしまう。給料ドロボウを追って屋
上まで行き、ドロボウに突き落とされたのではないか、またドロボウは内部の社員と断定される
が、それは一体誰なのか。関係者が疑心暗鬼になる中、仙台郊外・作並温泉への社員旅行でまた
も事件発生、東京の事件の秘密を知っていたらしき女性社員が殺される。さらに東京に戻ったと
ころで第三の殺人が起こる。被害者のダイイングメッセージは何を意味するのか。人事課の課長
代理・深水の推理や如何に?
最初の事件における構図の引っくり返し方と、細かい部分まで伏線が張り巡らされているのは見事。
ダイイングメッセージはやや出来が悪いが、深水の理詰めの推理で犯人を断定したところで、更に
引っくり返して真相が明らかになる手際もスゴいです。
確かに解説者の山沢晴雄のいうとおり「高級で品格ある」ロジックとトリックではありますが、しか
し、折角の高度な謎解きなのに、ストーリーはおよそ「高級」でもなく「品格がある」とも言い難く、
下世話なお話なのは残念。
「グリーン車で酒盛り」「ボインのおっぱい」「女湯のぞき見」「宴会でOL泥酔」などなど。しかも、これ
らの殆ど全てが謎解きとは何の関係もないのではねえ。何でこんな下品なネタでストーリーを進める
のかなあ・・・。
295初代スレの>>3:2010/05/16(日) 09:34:40 ID:jTj7ze7X
池田雄一「21時間02分の密室」(徳間ノベルス)★★★★☆
1990年、劇団「害塵舞台」の劇作家・杉山翠と旅行代理店の添乗員・阿久津のコンビが活躍するシリーズ
の第?作。
大阪から札幌へ向かう寝台特急「トワイライトエクスプレス」。ミステリ執筆の取材のため、阿久津が主
催するツアーに参加した翠だったが、早くも事件勃発。ツアー参加者の医師が個室寝台で密室状況の中、
殺されてしまう。福井県警の刑事らが捜査を進めるうちに、またも大事件発生。謎のグループが裁判所の
判事らを人質にとり、刑事らの拳銃を奪い、食堂車とサロンを占拠。更に新婚旅行客の男性を捕まえて、
彼こそが神戸で発生した強盗殺人事件の真犯人であり、既に有罪が確定している男は無罪であるとして、
人質の判事に裁判長を強制、車内で前代未聞の「裁判」が開始される。阿久津と翠が男の弁護人に任命さ
れる。謎のグループの正体は、また個室寝台で起きた密室殺人の真相は・・・。
この作者の「どうしようもない通俗性とイタいキャラの登場人物たち」に目をつぶれば、本作は傑作であ
ると思います。冒頭の「グランドホテル方式」による多彩な登場人物たちの紹介、お受験の子供とその母
親、別の事件の犯人を護送中の刑事ら、果ては車掌やサロンカーで泥酔するオッサンなどなど、手際
よく紹介しており、それにしても風呂敷を広げすぎで、ちゃんと収束するのかなあ、と不安だったので
すが、ラストの驚天動地の真相には一読仰天。数々の小事件や脇役の紹介などが、ちゃんと伏線として
意味のあるものだったと知って感心しきり。
もちろん前例のないアイディアではないですが(最近では道尾秀介の某作品など)、気になったのは、
本作と同年発表の某作家の某作品。本作の方が某作品よりも半年以上も先に発表されていますね。アッ
チの方が遥かに人口に膾炙しているが、本作の名誉のためにこの点はハッキリさせておきたいです。
イヤになるほど通俗的だし、伏線の張り方やストーリー展開なども洗練されていないのが玉に瑕です
が、本作はお勧め、作者の最高傑作です。
296初代スレの>>3:2010/05/16(日) 10:23:40 ID:jTj7ze7X
5連投スマソカッタ

西村京太郎「神話列車殺人事件」(光文社文庫)★★★
1983年のノンシリーズ長編。
探偵社に勤める日高健介は、同僚の亜木子と結婚し、宮崎県・高千穂に新婚旅行に向かうが、高千穂
線の車内から亜木子が謎の失踪を遂げる。失意のまま東京に戻った日高は、亜木子が結婚の直前に調
査依頼を受けていた事件を知って驚く。君原由美子という依頼人が、新婚旅行先の出雲で寝台車から
失踪した夫の君原淳を探して欲しいという内容だった。同じ新婚旅行中の車内からの失踪、場所もそ
れぞれ日本神話の舞台という共通点に不審なものを感じた日高は調査を引き継ぎ、由美子とともに出
雲に向かうが、車内で殺人事件に遭遇する。二つの事件の関連は何か、そして失踪した二人の男女の
行方は・・・。
殺人事件の真相と動機が非常に弱いものであるのが大きな欠点で、最終的な解決も例によって中途半
端なのが残念。大したトリックが使われている訳でもないですが、終盤、事件全体の構図が引っくり
返り、意外な犯人が浮かび上がる点は評価できると思います。当初、別に何でもないと思われていた
アレが、実は非常におかしなものであった点は、指摘されるまで気付きませんでした。この点だけは
見事です。まあ凡作というのは酷ですが、佳作とは言えないでしょうね。
297名無しのオプ:2010/06/04(金) 09:10:24 ID:et4vPSgG
>>293
このスレに、横溝正史が出てくるとは! でも「悪魔の寵児」なら納得(笑)
ただ、未読のむきは、いきなりコレを読むより、同路線の「幽霊男」(意外
に出来が良い)や「吸血蛾」あたりをさきに体験しておいたほうが、ヴァリ
エーションを繰り出す作者の手並みを、より楽しめますよ。
298名無しのオプ:2010/06/08(火) 08:05:31 ID:AibrGs9b
翻訳ミステリー大賞シンジケートのサイトにて。
6月8日分に、なんと「悪魔の寵児」が取り上げられていました。
海外長編に伍して、泡坂妻夫「湖底のまつり」とともに、堂々の「変態本格ミステリ・ベスト5」入りwww
ちなみに選者は、殊能将之さん(ご健在でなによりですw)。
299名無しのオプ:2010/06/08(火) 21:52:29 ID:MLrpT6DY
>変態本格ミステリ・ベスト5
「湖底のまつり」しか読んだことがないなぁ
幻影上の連載中に読んだが
月刊誌連載の形式を生かした変態っぷりでしたな
300名無しのオプ:2010/06/09(水) 19:48:19 ID:hv/KXeGO
閉塞回路、読んでみたけど、メチャ面白かった。
もっとも推理小説の読み方としては外道なのかもしれないが、
トリックやブロットやロジックではなく人間ドラマが面白かった。
胸に残る作品が多い。

ベストは「偽りの再会」かなあ。
非常に読ませるものがある。
次点を挙げると「帰らざる彼」か不気味な雰囲気がいい。
乱歩の言う「奇妙な味もの」に含めたいくらい。
301名無しのオプ:2010/06/10(木) 10:25:05 ID:H7FKtXMZ
>閉塞回路
収録作それぞれに、自作解説のついた、アリバイ・テーマの楽しい作品集ですね。
狙いの面白さと仕上がりの良さで、気に入っているのが「「わたくし」は犯人……」。
なので、これが『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』(角川文庫)に再録されたときは、嬉しかったなあ。

海渡英佑の短編集は、過小評価されていますが(このスレは別にしてw)、趣向の面で、佐野洋や都筑道夫にも匹敵
する匠の技を堪能できます。
302名無しのオプ:2010/06/21(月) 21:51:06 ID:iKO46xfh
『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』といえば、つのだじろうの「金色犬」が入っていたね。
個人的には、つのだじろうのミステリ・マンガなら、

「赤い海」(『亡霊学級』所収)

を採るのに、と思った記憶がある。
>287で、3氏が、永井豪の「吸血鬼狩り」を紹介されていたけど、こちらもまた、洋上の船を舞台に、
吸血鬼の仕業とおぼしい不気味な殺人が連続する、クローズド・サークルもの。
ちゃんと合理的な解明が待っているものの、作者が作者だけに、それだけでは終わらず・・・
あらためて、秋田書店の文庫版で読み返してみても、面白かった。
303名無しのオプ:2010/06/21(月) 22:17:09 ID:L6hbkMIR
>>302
お、すごく面白そう
捜してみるわ、ありがとう
「金色犬」は、単行本未収録の作品だからアンソロジーに入れた価値は大きかったと思う
304名無しのオプ:2010/06/22(火) 20:19:09 ID:VSpREjUl
【社会】痴漢の無実証明できぬまま暴行され自殺…「息子は無実です」、母がブログで目撃者を捜す。ネット署名数、5000突破★12
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/liveplus/1276879782/
305名無しのオプ:2010/06/27(日) 21:11:59 ID:s6s1U0/o
3氏は、ご健在だろうか?
また、作品評を発表していただきたいものだが・・・
306名無しのオプ:2010/06/30(水) 16:58:52 ID:z+9aYtNr
W杯観戦で忙しかったりしてw
307名無しのオプ:2010/08/03(火) 14:15:03 ID:HmAhsXcA
高柳芳夫の「奈良-紀州殺人周遊ルート」を読了。

推理小説家・朝見大介が書いた「奈良-紀州殺人周遊ルート」が映画化されることになり、
ロケ地に行くと、小道具の短刀が本物にすり替えられ、主演女優が大怪我をするという事故に遭遇する。
その後も小説通りに次々と事件が起こり、犯人の挑戦にこたえて、朝見が事件を追及する。

というような作品で、トラベルミステリーかと思ったら、芸能界をテーマにしたミステリーだった。

3氏の評価は★★★★なんだけど、これはちょっと困った小説だな。
芸能界の知識が浅すぎて、リアリティーが全然ない。
三流週刊誌を読んだだけなんじゃないか?
ミステリーとしてどうこうという前に、小説としてだめだな。

3氏は意外な結末とか、最後のどんでん返しに重きを置いて評価するようだけど、
この作品はミステリーとしてもびっくりするようなトリックがあるわけでもなく、
★★★★というのはかなり点が高すぎるな。
個人的には「★★☆」、100点満点で50点程度の作品だと思う。
308初代スレの>>3:2010/08/08(日) 18:50:38 ID:xV13lZOR
生島治郎「腹中の敵」(徳間文庫)★★★
最近は、生島治郎や大薮春彦あたりで「謎解き」興味のある作品がないか、長編は無理としても
短編で掘り出し物がないかなあ、と漁っています。これといった収穫は未だありませんが、取り
あえず本作を紹介、1960年代後半から70年代の作品を収めた短編集です。
表題作は戦前の上海を舞台にした作品。「私」こと宗方に共産主義のイロハを教えてほしいと接近
してきた中国人の男。やがて彼は大事件を起こすのだが・・・。その意外な正体を宗方が見破る推理
に本格風のロジックがありますが、名作「黄土の奔流」の1エピソードであるかのようなストーリ
ーと主人公の設定が良いですね。
「敗者復活」は冴えないサラリーマンの若者が美女に誘惑されるが・・・。作者らしからぬドンデン
返しとオチの効いた異色短編。
「墓場からの船出」は、小出版社の社長が会社倉庫で火事に巻き込まれて死亡。遺された一人娘は
編集長に疑惑を抱くのだが・・・。ちょっとした火災発生に関するアリバイ工作も出てくるけど、や
はりストーリーのキモは、事件の論理的な解決よりも、一人娘と編集長が迎えるピカレスクなラ
ストシーンの方でしょうね。
「愛が終わるとき」は、ボクサー崩れの男が、同棲していた女医と別れた直後、女医が何者かに殺
されてしまう。地元の暴力団絡みの事件に巻き込まれたのでは、と男は単身、事件の真相を追う・・・。
少々ご都合主義だが、謎解きの基本は踏まえています。
その他は、「裏切りの街角」、「死者たちの祭り」、「夜のきらめき」。
全体に、謎解きの論理性やちょっとしたトリックを用いている作品が幾つかあったのは意外でし
たが、さすがに「本格」として評価できる作品、というレベルではありませんでしたねw
309初代スレの>>3:2010/08/08(日) 18:53:39 ID:xV13lZOR
夏樹静子「遠い約束」(文春文庫)★★☆
1977年の長編。
中堅の生命保険会社・国民生命では、経営方針を巡って社長の石黒と会長の濠が深刻な対立に
陥っていた。近づく株主総会に備えて、両派が多数派工作を進めていたが、一方で、死亡した
義父の保険金が、重大な告知違反のために支払われないことに腹を立てた女性のトラブルも発
生していた。そんな最中に横浜で、不動産会社の社長が殺される事件が勃発。保険金を巡って
の陰謀か、それとも・・・。更には国民生命の会長が社内で殺されるに及んで、事態は意外な方向
へ。保険会社の調査員・城木が辿り着いた真相とは・・・。
生命保険業界のイロハや裏面事情を丁寧に描いた社会派風の作品ですが、序盤はどうにも退屈
でした。保険会社の重役陣の描き方がどうにもステレオタイプで、作者も苦戦ぎみ。でも、会
長殺しの終盤近くになって漸く本領発揮。「逆密室」の趣向はそれほどでもありませんでしたが、
読者を誤誘導させて、真犯人を隠す手際は流石なものです。でもどこか物足りないのは何故だ
ろう。あと、あの人物のラストの描き方が書き足りないですね。凡作でしょう。
310初代スレの>>3:2010/08/08(日) 18:56:16 ID:xV13lZOR
関口甫四郎「『A寝台』殺人事件」(エイコーノベルス)★★★
1988年、トラベルライター天童一馬が活躍するシリーズの第2弾。
天童がは取材旅行中に富士の青木ヶ原樹海で博多のホステス留美子に出会うが、彼女は帰りの
寝台特急あさかぜの個室寝台で殺されてしまう。現場は室内から施錠された密室状態にあった
が、捜査が進むうち、被害者とかかわりのあった街金融の社長もまた、東京・芝浦の倉庫で殺
されている事件が発覚し、留美子が社長を殺し、寝台車内で自殺したのでは、との見方が強ま
る。だが天童は二つの殺人事件に不審なものを感じ、独自に調査を進めるのだったが・・・。
文中に作者の事実誤認や勘違いがあったりして、詰めの甘さが目立つ作品ですが、まあ「本格」の
基本的な要件は備えており、寝台車内の密室トリックや冷蔵倉庫の密室トリックなども、上手
くはないけれど、それなりに工夫した跡が伺えるので、まあ良しとしましょう。
しかし、真犯人と事件の真相の根幹をなす或る「事実」について、整理が悪く説明不足なのが残念。
意外性がある真相なのに、読者にその驚きを伝える方法が未熟ですね。とはいえ、一連の暗号
解読物の「独りよがり」ぶりに比べればマシな出来。とはいえ、評価としては★3つといったとこ
ろが精々でしょうか。
311初代スレの>>3:2010/08/08(日) 19:07:45 ID:xV13lZOR
高橋克彦「パンドラ・ケース−よみがえる殺人」(文春文庫)★★★★☆
1988年の長編。
塔馬双太郎は大学時代の旧友らと久々に再会する。1970年前後に学生時代を過ごした、チョーサク、
リサ、テラさん、おケイらの面々も、ある者は作家に、またある者は病院長に、そして女優にと、
それぞれ立派になっていた。実は約二十年前の学生時代、山形県の山奥の温泉に、メンバーでタイ
ムカプセルを埋め、メンバーの誰かが死亡したら十三年後に掘り出す約束となっていた。メンバー
のうち最も印象の薄かったパンドラこと半田緑が行方不明となって十三年が経ち、メンバーが集合、
だが掘り出したタイムカプセルは、既に一度掘り出された形跡があった。豪雪で交通機関が寸断さ
れた晩、遂に仲間の一人が雪山で殺されているのが発見される。そして第二の殺人が・・・。
タイムカプセルに埋められていた昔の新聞記事を巡っての推理は緻密で非常に面白かったのですが、
「本格」としては、もう一つパンチが足りないです。また、類型を打破しようとして、中盤過ぎでアッ
ケなくクローズド・サークルが解消され、警察が介入してくるのもどうだったでしょうか。
しかし、本作の価値は、何と言っても、最後まで・・・・・・・だったパンドラが実は・・・・・・・だったにも
係わらず、彼女の肖像が読者の胸に何ともいえない後味を残す点。或る手紙で明らかになる彼女の
心情に思いを馳せて、青春時代の残酷さと虚しさを味わうことが一番の読みどころ。メンバーはもろ
「団塊の世代」で、その気負いが鼻につくものの、別に彼らの世代に限らず、本作に現れた青春の虚し
さには共感できるはず。権田萬治が大下宇陀児を評したフレーズ「残酷な青春の鎮魂曲」こそ、この
作品に相応しい評価ですね。なお、中盤過ぎで登場する或る人物の正体にはビックリでしたが、ちょ
っとやり過ぎではないかなあw
解説の笠井潔は、埴谷雄高やら滝田修やらを引用して気取った批評をしていますが、まあそんな風に
考えなくても十分、楽しめる作品です。「本格」としての評価はともかく、ミステリ一般として傑作の
名に値する作品です。
312初代スレの>>3:2010/08/08(日) 19:42:50 ID:xV13lZOR
大谷羊太郎「完全密室殺人事件」(大陸ノベルス)★☆
1990年の長編。
埼玉県・草加のアパートに暮らす浪人生の氏家は、上の階に住む女子大生・平沼美奈子の部屋に
侵入した痴漢を撃退した。美奈子を慕う氏家だったが、事件後、美奈子は実家に戻ってしまい、
空いた部屋には美奈子の友人・原木千恵が入居した。だがまたも事件発生。あの時の痴漢が再び
部屋に侵入、千恵を殺してしまう。現場は完全な密室だったが、何故、痴漢は同じ部屋を二度も
襲ったのか、また、千恵は美奈子に間違われて殺されたのではないのか・・・。事件は結局、迷宮
入りしてしまい、七年の月日が経った。平凡な会社員になった氏家は、或る日、あの密室殺人事
件を調べているという加賀と名乗る男と知り合う。氏家は加賀とともに七年ぶりに美奈子に再会
するのだが、間もなく、美奈子も自宅マンションで殺されてしまう。現場はまたしても密室だっ
た・・・。
うーん、ストーリーと登場人物の設定がミエミエですねえ。特に中盤の或る描写など、伏線とい
うには余りにもお粗末。犯人はこの中にいますよ、と言わんばかりのグダグダっぷり。おまけに
密室トリックも、第二の殺人のトリックは少々ユニークだが、第一の殺人など、まるで詰まらな
い真相でガッカリ。
相も変わらず密室トリックに挑戦し続ける姿勢は買いますが、姿勢だけしか買いませんw
駄作ですね。
313初代スレの>>3:2010/08/08(日) 20:01:05 ID:xV13lZOR
沼五月「松本城殺人事件」(エイコーノベルス)★★
1986年の長編。
松本城の天守閣にブラ下げられた首無し死体事件。交通事故を起こした際に、江戸時代の一揆の
首謀者を祀った石碑を壊した祟りなのか。事故の関係者が次々と事件に巻き込まれてゆく中、関
係者の一人である元恋人・麻代に頼まれて松本を訪れた高校教師・足立敬介の推理や如何に・・・。
主人公の足立敬介は、前スレの>144で紹介した「こだま466号の死者」にも登場しますね。名探偵役
としては、魅力不足が甚だしいのですが、肝心の事件の真相も、まあホラーや伝奇物に走らず、
一応、論理的に解かれるとはいえ、どうもトリッキーなヒネりが足りなくて満足できないですね。
ラストで明らかになる或る「物」の隠し場所には仰天しましたけど、って、コレも相当トンデモなト
リック、あんなモノが隠されていたら、堪ったもんじゃないと思うけどw
まあ「本格」風味も一応ある旅情ミステリ、といった感じでしょうか。
314初代スレの>>3:2010/08/08(日) 20:06:18 ID:xV13lZOR
笹沢左保「破壊の季節」(集英社文庫)★★
1969年の長編。
東国大学医学部の教官がチンピラの集団に殴られて死亡。被害者の指導を受けていた研修医の倉之部
裕一は婚約者である芙美代との結婚準備を進めていたが、折りしも大学は全共闘運動がピークを迎え
てキャンパスが封鎖され、裕一の研究成果は全てダメになってしまう。一方、彼の二人の弟でともに
東国大学の学生である宏次はニヒルで自堕落な生活を続け、末弟の慎三は全共闘に加入し運動の渦中
にいた。或る日、宏次が誰かを爆弾で殺す相談をしていた電話を立ち聞きした芙美代は、宏次に魅か
れつつも、その計画を阻止しようとする。宏次が持っていたマッチに書かれていた「Yの悲劇」とは何を
意味するのか。そして宏次が狙う人物とは一体誰なのか・・・。
発表時期の世相を題材にした、作者の作品群の中でもかなり異色の作品ですが、学生運動など、この
作者の作風には全く合わないことが如実になってしまった怪作です。作者の虚無的な人生観において
は、学生運動も革命も、全く児戯に等しいのか、マジメに取り合おうともせず、その結果、タガの外
れまくった出来になってしまいました。「Yの悲劇」の真相も肩透かしなら、冒頭で起きた事件と後の
展開のチグハグさもヒドいもの。
唯一、評価できそうなのは、あの島田荘司の某傑作でも使われた意外な「もの」のネタ。中盤で宏次が
「それ」とともに登場するシーンが出てくるのですが、まさかアレだとは思いも寄りませんでした。
いずれにせよ、まあ読む価値はありませんね。
315初代スレの>>3:2010/08/08(日) 20:59:28 ID:xV13lZOR
斎藤栄「香港・マカオ休日殺人事件」(徳間文庫)★★☆
1983年のノンシリ−ズ長編。
医師の星河は、北アルプスで水晶寺という男に出会い、二人は猫目という男の遭難死に立ち会う。
東京に戻った水晶寺は金剛緑という女性と知り合うが、彼の兄は猫目の友人だった。やがて、金剛
の友人が次々と殺されてゆく。南という男が東京のホテル浴室で青酸中毒死を遂げ、金剛兄妹や水
晶寺らが参加した香港・マカオの観光ツアーでも、密室状態のホテル客室での殺人事件が勃発。水
晶寺とともに事件を追及する星河は、事件の現場となった二つのホテルの設計に携わった世界的建
築家・紅玉が事件に絡んでいるのではないか、紅玉が密室の部屋に何らかの仕掛けを施したのはな
いかと疑うのだが、肝心の紅玉教授は精神病院に入院中だった・・・。
どこか緊張感のユルんだヘンな雰囲気の作品ですが、まあ作者の作品ならば良くあることw上記の
登場人物の名前が宝石がらみっていうのも、だから何なのか・・・w
事件の舞台である建造物そのものに事件のポイントが秘められている、ということで、本作の前年
に発表された島田荘司「斜め屋敷の犯罪」にインスパイアされたものでしょうか、また、綾辻「館」シ
リーズに影響を与えた、って全然違いますねw
密室トリックの真相は・・・、まあ建造物そのもの、というほどの大トリックではなかったですね。捜
査に不熱心だった香港の警察が気付かなかったのは仕方ないにしても、日本の警察の鑑識はそこまで
ボンクラじゃないだろ。なお、真犯人の意外性には力を注いだようで、中盤の或る一件が出てくるま
で、迂闊にも気付きませんでした。かなり意外ではあるけれど、最後まで隠しきれなかったのが残念。
まあ駄作というのは酷、といったところが精々でしょうか。
316初代スレの>>3:2010/08/08(日) 21:31:05 ID:xV13lZOR
笹沢左保「木枯し紋次郎8−命は一度捨てるもの」(光文社文庫)★★☆
シリーズ第8作。
「念仏は五度まで」甲州街道を行く盲目の渡世人とその息子。或る女性を探しているらしい。
一方、街道筋で起きた連続殺人事件の下手人として紋次郎が疑われるのだが・・・。まあ真相は
丸分かりでした。
表題作は木曽・奈良井宿が舞台。紋次郎は幼馴染の男女と出会う。村で一番の人格者の顔役が
抜け荷の疑いで尾張藩に捕まってしまう。更に彼の無実を証明する男が殺されてしまうのだが・・・。
これも、犯人しか言えないセリフという些細な伏線があるが、ミステリとしては薄味です。
「狐火を六つ数えた」は伊那・飯田宿。知恵遅れの少女が妊娠した上に狐憑きに罹ったと疑われ
る。村人らの本意はどこにあるのか・・・。まあまあ。
「砕けた波に影一つ」は宮・桑名間の船上を舞台にした異色作。紋次郎の乗った船が浪人らによ
ってシージャックに遭う。東海道を荒らしまわった盗賊の残党で、船を一路南に向けるのだが・・・。
これも意外性はあるけど、切れ味はニブいです。
流石にミステリ的な味付けはネタ切れになってしまったようで残念。でもそれ以外の要素で楽し
ませてくれます。

「木枯し紋次郎9−三途の川は独りで渡れ」(光文社文庫)★★★
シリーズ第9作。
巻末の「鬼が一匹関わった」が面白い。碓氷峠の下り道で、足に怪我をした子供連れの渡世人が
崖から転落、娘を託された紋次郎は言われたとおりに渡世人の弟である豪商の家に・・・。結末の意
外性が効いており、肝心の部分もフェアな描写になっています。
表題作も、序盤のちょっとした描写が結末で効いていますね。他の作品は特にコメントなし。
317初代スレの>>3:2010/08/08(日) 21:49:37 ID:xV13lZOR
笹沢左保「無宿人 御子神の丈吉1」(徳間文庫)★★★☆
1973年のシリーズ第一シリーズ。
「峠路は遠かった」、渡世人から足を洗って恋女房のお絹と所帯を持ち、飾職人としてカタギに
暮らす丈吉。だが遺恨の親分一家に左手の二本の指を潰されたのみならず、お絹と一人息子の
小太郎を斬殺されてしまう。怒り爆発、復讐の鬼となった丈吉は再び無宿渡世の道へ。狙う妻子
の仇は、あの国定忠治・・・。
「牙は引き裂いた」の舞台は碓氷峠。国定忠治らの一行を追う丈吉は、峠道で夫を殺された若妻を
救い、信濃追分にある彼女の親戚である親分一家に身を寄せる。だが・・・。これはミステリの意外性
が効いた良作。
「女は雨に煙った」、これがベスト。信州・上田宿の近郊でケガをした丈吉を助けた薄幸の女の話。
越後の大名のお家騒動も絡んで意外な展開となるが、ラストシーンは屈指の名場面ですね。
「銀色の命に哭いた」は信州屋代。甲州の大親分の孫娘が善光寺参りから帰郷するところ、彼女の警護
を依頼された丈吉。だが彼女や丈吉を狙う影が・・・。これも意外性に満ちた展開。哀切なラストも上手い。
「雪降る里に消えた」は清里から佐久辺りが舞台。山中に潜伏する盗賊一味を倒すべく、丈吉と「天狗
の親分」と名乗る渡世人が協力して一味を撃退するが・・・。「天狗の親分」の正体にビックリw
本シリーズ、先ずは快調のスタートですね。
318初代スレの>>3:2010/08/08(日) 22:04:46 ID:xV13lZOR
笹沢左保「さすらい街道」(光文社文庫)★★☆
1972年、木枯し紋次郎シリーズの人気がピークにあった頃の連作集。武州・深谷宿で顔見知りの
小料理屋一家を皆殺しにされ、その犯人と目される渡世人・群雲の伝兵衛を追って色を旅する
渡世人・夜番の丹次郎が主人公。
第1話「信州路に泣く女」がミステリ的には一番の出来。地元の親分が毒殺される現場を目撃し、
敵方に追われる女を丹次郎が助ける。だが実は・・・。或る錯誤と、「追うものと追われるもの」が
一瞬にして転換する真相が見事です。
第2話「甲州路の黒い影」は笹子峠に現れる天狗の話。因縁譚のまま終らせるのはどうもなあ・・・。
第3話「下総路の夜の花」は、下総を暴れまわる盗賊・闇の緋牡丹の意外な正体。
第4話「野州路に招く声」、第5話「上州路の流れ雲」は大した出来ではない。
第6話「武州路に消えた男」で、遂に丹次郎は宿敵・伝兵衛を捕まえる。その意外な正体には、
薄々勘付いてしまいました。
まあ相変わらず笹沢左保の股旅小説は見逃さずに読んでいるので、読めただけで嬉しいです。
600ページ弱のなかなかのボリュームでした。本格ミステリのツボを抑えた骨格は持っているの
で、そこらの凡百の時代小説とは一線を画しますが、必ずしも、そうそう驚くこともなく、切れ
味の鋭さが続く訳ではないので・・・。
319初代スレの>>3:2010/08/08(日) 22:12:13 ID:xV13lZOR
西村京太郎「第二の標的」(光文社文庫)★★☆
主に1970年代に発表された作品を収めた短編集。
表題作、主人公は十津川刑事ですが、ヒラの刑事なので、初登場時に既に警部補だった、あの
十津川警部とは同名異人ということでしょうか。終電車で起きたサラリーマン殺し。被害者の
会社で起きた横領事件がらみかと思われたが真相は意外にも・・・。古典的なトリックで、まあま
あの出来。
「謎の組写真」は、写真コンテストの新人賞を取った若手カメラマンが巻き込まれた事件。や
がて彼の写真を掲載した写真雑誌の編集長が殺されるのだが、容疑者にはアリバイがあった・・・。
写真によるアリバイ工作ですが、オリジナリティはありますが、特に面白いトリックではない
です。
「アクシデンタル・ジャイブ」は海洋ものの作品。ヨットレースの最中に起きた転落事故。主人公
らのヨットは転落者を救出するために優勝を逃してしまうが、実は・・・。絵に描いたような爽やか
な青年たちの青臭いお話で、結末の付け方も中途半端。あの事件の真相はどうなったんだよ?
「神話の殺人」はテレビ番組のヤラセに絡む殺人事件。取り立てて言及するようなレベルではない。
ベストは巻末の「危険なダイヤル」。秋葉京介物の作品。秋葉を殺し屋と間違えて殺人の依頼をして
きた謎の男。殺す相手の美人OLを調べるうちに、秋葉は石油会社のお家騒動に巻き込まれてゆく・・・。
殺しを依頼してきた男の正体とその動機が非常に意表を突いており、これには驚きました。隠し方
が非常に上手いですね。本作は佳作です。
320初代スレの>>3:2010/08/08(日) 22:30:11 ID:xV13lZOR
日下圭介「赤い蛍は死の匂い」(光文社文庫)★★☆
1985年の長編。
十六年前、学生だった森口は行きつけのスナックのホステス・沙枝に唆され、老人の大金を強奪
しようとして相手を殺してしまう。更に沙枝は、犯人を特定する決定的な手掛かりを握る同僚の
榊待子も殺してしまう。森口と沙枝は或るアリバイ工作により逮捕を免れたのだが、既に時効を
過ぎた頃になって、紗枝は何者かによって脅迫されることに。金は榊の妹・裕子に届けられ、不
審に感じた裕子はボーイフレンドの鶴瀬とともに十六年前の事件の真相を追及する。沙枝を脅迫
している者の正体は誰なのか、また沙枝と森口のアリバイ工作の真相とは・・・。
犯人側と、事件の真相を追うヒロイン裕子側の動きを交互に描いていますが、犯人側のサイドで
もアリバイ工作の内容を隠してあるため、ヒロイン側でアリバイ工作の謎解きの興味がわき、そ
して犯人側では、謎の脅迫者の犯人探しを追及しているという、なかなか凝った構成になってい
ます。
但し、悪役である沙枝が少々チャランポランな性格に描かれているのと、裕子と鶴瀬のノホホン
とした掛け合いが、作品をサラッした爽やかな仕上がりにしたものの、やはりサスペンスに乏し
い感が否めなくなっています。そして真相は、アリバイ工作や、その破綻に至る手掛かりなどに、
この作者らしさは感じられますが、特に秀逸なトリックではないし、どこか気の抜けた印象しか
残さず、残念な出来栄えでした。
321初代スレの>>3:2010/08/08(日) 23:08:42 ID:xV13lZOR
久々で大量の書き込み、14連投スマソカッタ。夏休み旅行中の某所からでした。

結城昌治「噂の女」(集英社文庫)★★★☆
1962〜1970年に発表された「〜の女」で統一されたタイトルの短編集。本格ミステリ風に伏線を
張った作品あり、ホラー風作品あり、ツイストとオチの決まった洒落た作品あり、で楽しめる
一冊です。
表題作○、意外性のあるオチが効いている良作、続く「虹の中の女」◎、これが集中のベスト。伏線
の張り方や意外な犯人など「本格」風味も十分だが、何と言っても、戦争により薄幸な生き方を余
儀なくされた主人公の描き方が、もう抜群の出来。短編ミステリのお手本とも言える佳作です。
その他、ツイストの効いたオチが光る「通夜の女」○、「消えた女」○、「狙った女」○、ラストの一行
が阿刀田高のホラーにも匹敵する出来栄えの「午後の女」○、あと出来はやや落ちるが、「拾った女」△、
「いたずらな女」△、「駄目な女」△、「描かれた女」△、といった感じで、全てが佳作とは言えません
が、かなりレベルの高い短編集です。
322名無しのオプ:2010/08/09(月) 11:26:10 ID:jUV0Xq58
パンドラ・ケースは初期のこのミスにランクインしてたなぁ
323初代スレの>>3:2010/08/09(月) 20:39:21 ID:iGXHlOfv
夏休み2日目。また連投になりますがご寛恕を。

「木枯し紋次郎10−虚空に賭けた賽一つ」(光文社文庫)★★★☆
注目は「旅立ちは三日後に」と「桜が隠す嘘二つ」の2作。
前者は、怪我を負った紋次郎が農家で暮らすうち、カタギになろうと決心する。だが・・・。カタギに
なって豆を挽いている紋次郎なんてイヤだあwちょっとした隠し場所のトリックも添えた異色作。
後者は、関八州の大親分たちの前で自らの濡れ衣を晴らすべく、娘殺しの真犯人を推理する紋次郎。
国定忠治、大前田栄五郎、清水次郎長といった大物を向こうに回しての紋次郎の推理は、残念なが
ら、厳密な本格ミステリとしては評価できないですが、事実関係と被害者の心理を元に珍しく冗舌
に推理を展開し、或る小道具を切り札に犯人を特定する場面は圧巻で、シリーズ屈指の傑作。これ
は楽しめました。
324初代スレの>>3:2010/08/09(月) 20:42:21 ID:iGXHlOfv
佐野洋「再婚旅行」(集英社文庫)★★
1963年の長編。
「私」こと市原紀子は河原田という男と離婚して、今はクラブのホステスを勤めていたが、或る日、
別れた夫に瓜二つの男性・大仲に出会う。同一人物としか思えないのだが、大仲は全く「私」を記
憶していない様子だった。「私」は大仲の正体と、河原田が現在どこで何をしているのかを探るべ
く、愛人の新聞記者・川北に調査を依頼する。その結果は、河原田と大仲は、それぞれハッキリ
と実在する人物で、別人というものだった。だが調査が進むにつれ、更に意外な事実が明らかに
なってゆく・・・。
嗚呼、典型的な佐野洋作品・・・。不可解きわまる謎が、一番ショーモない常識的な真相で尻すぼみ
のまま終結するだけの作品。メインの謎以外の細かい謎にも大したものはないです。タイトルの
真の意味が明らかになるラストの洒落たヒネり方にだけ感心しました。凡作。
325初代スレの>>3:2010/08/09(月) 20:46:36 ID:iGXHlOfv
森村誠一「偽造の太陽」(青樹社文庫)★★☆
1975年の長編。
一攫千金を夢みる失職中の北沢は、赤松という謎の男に誘われて、石山という男も加えた三人組で、
信州の山奥に隠棲する大富豪の老人を襲撃、1億近い金を手に入れた。
それから数年、大企業グループの総帥の娘婿となった北沢は石山と再会、老人を襲撃した赤松の本
当の狙いに疑惑を持ち始める。だが石山が殺されてしまい、赤松の魔手が北沢にも伸びてくる。赤
松の正体は誰なのか・・・。
北沢にまつわる色々な人物が錯綜した動きを見せ、単調さを救っているのは良いのですが、謎解き
という点ではどうでしょうか。途中で或る人物の視点に転換するのも結構ですが、やはり北沢の視
点に集中して謎を追った方が良かったのではないかなあ。なお、中盤で登場する或る人物による、
図書館を舞台にした脅迫手段がかなりトリッキーで優れているのですが、途中で解かれてしまうの
が残念。
そして真相は・・・。これには驚いた、悪い意味で。延々と引っ張った挙句にコレかよw
一連の事件の真犯人は解明されるけど、終盤には候補者は絞られていたので別に意外でもないし、
ともかく、アレの件はどうにもこうにも・・・。
確かに結末にはビックリだが、「本格」の意外性とは余り関係のない驚きだよなあ。凡作。
326初代スレの>>3:2010/08/09(月) 21:03:44 ID:iGXHlOfv
笹沢左保「無宿人 御子神の丈吉2」(徳間文庫)★★
シリーズ第2作。
「土塊の音が響いた」真岡の百姓一揆に巻き込まれた丈吉は一揆の黒幕と間違われ、関東取締出役
の手下の凄惨な拷問を受ける。真の黒幕は一体誰なのか・・・。レッドヘリングを効かせ、動機の
意外性もある佳作です。
「夕闇に女郎は死んだ」宿敵・国定忠治らが松戸に滞在しているという噂を聞いた丈吉。一足違い
で間に合わなかったのだが、宿で、殺された女房と同名の飯盛り女に出会い、やがて土地の一家
の抗争に巻き込まれる・・・。まあまあ。
「川風に過去は流れた」は潮来が舞台。盲目の夫を持つ女性の実の父親は、あの如来堂の九兵衛だ
った・・・。
「黄昏に閃光が翔んだ」は甲州路が舞台。「風車の子文治」と名乗る包丁投げの名手と出会うが、彼
は国定忠治らにカネで雇われて丈吉の命を狙っていた・・・。男の友情に泣ける一編。
この第2集はミステリとしては凡作ですが、次の第3集に乞うご期待。
327初代スレの>>3:2010/08/09(月) 21:47:46 ID:iGXHlOfv
笹沢左保「無宿人御子神の丈吉3」(徳間文庫)★★★
シリーズ第3巻。
「人形は野分に散った」、国定忠治を援助するための賭場が開かれていることを知った丈吉は賭場
に乗り込んでゆく。だが彼以外にも忠治の命を狙う男がおり、更に賭場が関八州取締出役に密告
されて囲まれてしまう・・・。
「地獄へ影は走った」信州、諏訪が舞台。茶店の名物オヤジの助言に従って、嫌われ者だが国定忠
治の居所を知る親分を訪ねた丈吉。親分から、伊那の弟分のところへ使いを頼まれ、それを果た
してくれたら、忠治の居所を教えてやる、と言われるのだが・・・。これは久々にミステリ的なドン
デン返しが決まった佳作。丈吉が伊那まで往復する道中で起きる不審な出来事の数々の真相が
かなり意外なものです。
「土砂降りの天を突く」も本格ミステリ風の佳作。豪雨に降り込められ、廃寺に避難した見ず知ら
ずの連中。大商人や行商人、更に曰くありげな玄人女に、脱藩してきた駆け落ちの武士と女・・・。
一行が一人、また一人と殺されてゆく。犯人は誰なのか、そしてその動機とは・・・。序盤にチラッ
と描写される一件が終盤で見事に決まる、これまた意外性に満ちた作品です。
「街道は死を待った」は金無垢の仏像を上州から野州に運ぶ商家の番頭一行。忠治が仏像を狙うの
では、と考えた丈吉は、一行の用心棒となるのだが・・・。まあまあ。ラストの忠治の不審な行動が
次の最終巻への興味をつなぎます。
328初代スレの>>3:2010/08/09(月) 22:16:25 ID:iGXHlOfv
笹沢左保「金曜日の女」(青樹社文庫)★★
1976年の長編。
会社社長の御曹司・波多野卓也は、ワンマンの父親に反発して家を出て、あろうことかその父
親の愛人のマンションに居候し、ニヒルな生活を続けていた。父親の波多野社長は十数年前に、
腹心の部下・鬼頭を使って、乗っ取った会社の社長を殺していたが、卓也は、その遺族の姉弟
と親しかった。だが或る日、彼ら姉弟が近親相姦の関係にあることを知る。やがてその姉弟は
無理心中して死んでしまうのだが、卓也は心中説に疑問を感じ、事件に鬼頭とその娘が絡んで
いることを知って、事件を追及するのだが・・・。
中盤辺りのストーリーの展開で、「もしかして、これはアレとは逆に、・・・と・・・が・・・になって
いるのではないか?」と推測したのですが、果たして真相は・・・。
残念、違っていたwまあ、結末の意外性を狙ったことは分かるし、ややクド過ぎる官能描写も、
ラストの余りにも凄惨な幕切れを強調するための伏線だったことも理解できますが、本格ミス
テリの謎解きとしては中途半端な出来。アレだけで結末まで引っ張るのは苦しいでしょう。
しかしラストの情け容赦の無さには鳥肌が立ちました・・・。
329名無しのオプ:2010/08/10(火) 22:34:35 ID:3AUwyhDl
まずは3氏のご帰還を、寿ぎたい。
作品評も、読み応え充分。
個人的には、笹沢左保の時代ものを、ミステリ的側面からレビューされているのが
興味ぶかく、初期の紋次郎しか目を通していない身としては、読書欲をそそられる。
この路線は、是非、今後ともヨロシク。
330330
私も時々こちらに感想を書かせていただこうと思います。
「3スレの>>330」ということでお願いいたします。

笹沢左保「アリバイの唄」(講談社文庫)
1990年に発表された長編です。スレタイよりも新しい作品です、ご勘弁を。

元刑事のタクシードライバー夜明日出夫(よあけ・ひでお)。
彼がある晩乗せたアベック客の女の方が3週間後に愛知県蒲郡市で殺された。
容疑者は一流会社の社長の娘で、夜明の幼馴染の大町千紗。
しかし彼女には、事件のあった時間には神奈川県逗子市の豪邸にいたという鉄壁のアリバイがあった。

というようなアリバイ物です。

途中で、「大町千紗が犯行を行うには、このトリックしかないけど、それは無いだろうな。」と思っていたのですが、
そのまんまのトリックでびっくりしました。トリックにリアリティーはゼロです。
動機もいまひとつですし、タイトルになったアリバイの唄も脱力物です。
こういうのを「バカミス」というのでしょうか。

評価は★★か★☆といったところかなあ。
前半はそれなりに面白いのですけどねえ。