1 :
前スレの>>3:
2 :
前スレの>>3:2009/03/15(日) 14:38:57 ID:63do6DC1
新規スレ最初の紹介作が、こんな怪作でスマソw
小嵐九八郎「紫桔梗殺人事件」(光文社カッパノベルス)(採点不能)
1988年の弁護士・冬野尽シリーズ(?)の長編。この作者、どっかで名前を聞いたことが
あるのですが、よく知りません。
ホステスの森園由香子がマンションの一室で殺された。愛人の市役所職員・郷が逮捕され
るが、腑に落ちない石倉刑事は娘のさくら子の幼馴染である冬野弁護士に再調査を依頼、
冬野は郷の供述と現場の様子の違いから、郷が現場に立ち寄った前後に、真犯人が出入り
したのではないかと疑う。だが現場の一階下の作詞家が殺され、更には第一の事件で何か
を目撃したらしい一階上の住人もまた殺される・・・。
ユーモア物のミステリなのですが、・・・・うーん、何だろうな、このアナクロぶりというか、
全く笑えないセンスの無さは。そもそも文体が妙チキリンで、広瀬仁紀「カネに恨みは数
々ござる」(
>>177参照)や川上健一「珍プレー殺人事件」(
>>282参照)、梶龍雄の諸作な
どにおけるユーモアの空回りぶりとはまた違う、一種のスゴさを持っていますw
それでもミステリに慣れない作家が「本格」というものを勉強した上で、ギコチなくはある
けれど一生懸命書いた様子が伺える怪作でしょうか。
メイントリックになかなか思い切ったものを持ってきており、サブトリックにも配慮してい
るのですが、伏線の張り方までは手が回らなかったようですw
殆どバレバレではありますが、怪作が好きな方にはお勧めです。
3 :
名無しのオプ:2009/03/15(日) 16:48:23 ID:BqhwyJcO
3スレ目に突入しましたか
3氏、これからも紹介をおねがいします
4 :
名無しのオプ:2009/03/15(日) 19:52:58 ID:IVCPpkTl
大元帥に敬礼!
5 :
名無しのオプ:2009/03/17(火) 11:42:07 ID:RLJXUscQ
これまでは通俗小説の作家というイメージが強かったので、
笹沢佐保のミステリーは食わず嫌いだったんだけど、
前スレの
>>3氏の評価を参照に読んでみたら、
本格モノの面白い小説が多くてびっくりした。
多作な人だったからハズレも多いのかもしれないけど、
星4つ以上なら、間違いないと思う。
赤川次郎 「幽霊候補生」★★★★☆ 「三毛猫ホームズの騎士道」★★★★☆
「幽霊列車」★★★★ 「三毛猫ホームズのびっくり箱」★★★★
「死体置場で夕食を」★★★★ 「華麗なる探偵たち」★★★★
「霧の夜にご用心」★★★★ 「ミステリ博物館」★★★★
「過去から来た女」★★★★ 「沈める鐘の殺人」★★★★
赤羽堯 「カラコルムの悲劇」★★★★
生田直親 「殺意の大滑降」★★★★
井沢元彦 「殺人ドライブ・ロード」★★★★☆ 「暗鬼―秀吉と家康の推理と苦悩」★★★★
「修道士の首」★★★★ 「謀略の首―織田信長推理帳」★★★★
井上ひさし 「十二人の手紙」★★★★☆
逢坂剛 「裏切りの日日」★★★★
岡島二人 「そして扉が閉ざされた」★★★★
海渡英祐 「影の座標」★★★★★ 「突込んだ首」★★★★☆
「閉塞回路」★★★★ 「白夜の密室―ペテルブルグ1901年」★★★★
風見潤 「殺意のわらべ唄」★★★★
梶龍雄 「海を見ないで陸を見よう」★★★★★
「灰色の季節―ギョライ先生探偵ノート」★★★★☆
「リア王密室に死す」★★★★☆
「ぼくの好色天使たち」★★★★ 「鎌倉XYZの悲劇」★★★★
川方夫 「親しい友人たち」★★★★★
日下圭介 「鶯を呼ぶ少年」★★★★☆
「密室(エレベーター)20秒の謎」★★★★☆
「女怪盗が盗まれた」★★★★ 「女たちの捜査本部」★★★★
草川隆 「東京発14時8分の死角」★★★★ 「急行〈アルプス82号〉の殺人」★★★★
小杉健治 「裁かれる判事―越後出雲崎の女」★★★★★
「法廷の疑惑」★★★★★ 「月村弁護士 逆転法廷」★★★★☆
「陰の判決」★★★★☆ 「原島弁護士の愛と悲しみ」★★★★☆
「偽証」★★★★ 「二重裁判」★★★★
小林久三 「火の鈴」★★★★☆
斎藤栄 「死角の時刻表」★★★★ 「方丈記殺人事件」★★★★
「春夏秋冬殺人事件」★★★★
嵯峨島昭 「グルメ殺人事件」★★★★ 「白い華燭」★★★★
桜田忍 「二重死体」★★★★ 「殺人回路」★★★★
笹沢左保 「霧に溶ける」★★★★★ 「招かれざる客」★★★★☆
「求婚の密室」★★★★ 「遥かなりわが叫び」★★★★
「異常者」★★★★ 「眠れ、わが愛よ」★★★★
「さよならの値打ちもない」★★★★
「アリバイ奪取」(「別冊宝石124号」収録)★★★★
佐野洋 「高すぎた代償」★★★★☆ 「脳波の誘い」★★★★
島田一男 「犯罪待避線」★★★★☆ 「箱根地獄谷殺人」★★★★
「去来氏曰く」(別題・夜の指揮者)★★★★
新谷識 「ピラミッド殺人事件」★★★★
蒼社廉三 「戦艦金剛」★★★★
高木彬光 「密告者」★★★★
高柳芳夫 「悪夢の書簡」★★★★ 「奈良-紀州殺人周遊ルート」★★★★
多岐川恭 「異郷の帆」★★★★
多島斗志之 「金塊船消ゆ」★★★★ 「聖夜の越境者」★★★★
陳舜臣 「方壺園」★★★★★ 「獅子は死なず」★★★★☆
「三色の家」★★★★☆ 「枯草の根」★★★★
「長安日記」★★★★
司城志朗 「そして犯人(ホシ)もいなくなった」★★★★☆
辻真先 「紺碧(スカイブルー)は殺しの色」★★★★☆
「迷犬ルパンの名推理」★★★★ 「ローカル線に紅い血が散る」★★★★
津村秀介 「北の旅 殺意の雫石」★★★★☆
「虚空の時差」★★★★ 「瀬戸内を渡る死者」★★★★
長井彬 「北アルプス殺人組曲」★★★★ 「槍ヶ岳殺人行」★★★★
「白馬岳の失踪」★★★★
中津文彦 「特ダネ記者殺人事件」★★★★
中町信 「高校野球殺人事件」(別題・空白の殺意)★★★★
「女性編集者殺人事件」★★★★ 「『心の旅路』連続殺人事件」★★★★
夏樹静子 「蒸発」★★★★ 「第三の女」★★★★
「Wの悲劇」★★★★
「暁はもう来ない」★★★★(「見知らぬわが子」収録短編)
仁木悦子 「猫は知っていた」★★★★☆ 「冷えきった街」★★★★
西村京太郎 「殺しの双曲線」★★★★☆ 「殺意の設計」★★★★☆
「赤い帆船(クルーザー)」★★★★☆ 「消えた乗組員」★★★★
「発信人は死者」★★★★ 「消えたタンカー」★★★★
新羽精之 「日本西教記」(「推理文学」(1971年4月陽春号)収録中編)★★★★☆
伴野朗 「三十三時間」★★★★
「高昌城の怪」(「驃騎将軍の死」収録短篇)★★★★
深谷忠記 「ゼロの誘拐」★★★★☆ 「寝台特急『出雲』+−の交叉」★★★★☆
「津軽海峡+−の交叉」★★★★
松本清張 「点と線」★★★★☆ 「アムステルダム運河殺人事件」★★★★
水上勉 「巣の絵」★★★★
皆川博子 「妖かし蔵殺人事件」★★★★
南里征典 「オリンピック殺人事件」★★★★
三好徹 「疵ある女」(「悪の花園」収録短編)★★★★★
「砂漠と花と銃弾」★★★★ 「天使が消えた」★★★★
「乾いた季節」★★★★
本岡類 「白い森の幽霊殺人」★★★★
森真沙子 「青い灯の館」★★★★
森村誠一 「高層の死角」★★★★☆ 「虚構の空路」★★★★
「致死海流」★★★★ 「腐蝕の構造」★★★★
山村正夫 「大道将棋殺人事件」★★★★ 「獅子」(「宝石」(1957年11月号)収録)★★★★
山村美紗 「花の棺」★★★★
結城昌治 「赤い霧」★★★★☆ 「夜の終わる時」★★★★
「暗い落日」★★★★
9 :
名無しのオプ:2009/03/17(火) 15:31:57 ID:mDVBoAsh
初代スレ3氏高評価一覧(3レスに入らなかった)
アンソロジー「ホシは誰だ?」★★★★ 「鉄道ミステリ傑作選」★★★★
「私だけが知っている−第2集」★★★★
他の方の高評価一覧
岩崎正吾 「風よ緑よ故郷よ」★★★★☆
梶龍雄 「海を見ないで陸を見よう」★★★★★ 「草軽電鉄殺人事件」★★★★☆
「葉山宝石館の惨劇」★★★★ 「清里高原殺人別荘」★★★★
「大臣の殺人」★★★★
日下圭介 「木に登る犬」★★★★★
黒木曜之助 「妄執の推理」★★★★
笹沢左保 「愛人岬」★★★★
佐野洋 「七色の密室」★★★★ 「銅婚式」★★★★
関口甫四郎 「北溟の鷹」★★★★
草野唯雄 「もう一人の乗客」★★★★ 「女相続人」★★★★
陳舜臣 「闇の金魚」★★★★
土屋隆夫 「影の告発」★★★★
南條範夫 「三百年のベール」★★★★
伴野朗 「密室球場」★★★★
檜山良昭 「山之内家の惨劇」★★★★
眉村卓 「消滅の光輪」★★★★☆
結城昌治 「ハードボイルド夜」★★★★☆ 「仲のいい死体」★★★★
麗羅 「桜子は帰ってきたか」★★★★
10 :
名無しのオプ:2009/03/17(火) 16:57:56 ID:LD8C2fiJ
>>5 笹沢は時代小説も面白い
(ミステリーよりもハズレが少ない気がする)
>>6-9 GJ!
11 :
名無しのオプ:2009/03/17(火) 18:19:38 ID:tYC8jVPn
>>10 スレ違いだが「軍師竹中半兵衛」「浅井長政の決断」「野望将軍」
どれもまあまあ面白かった記憶があるな
ただ「小早川秀秋の悲劇」はペケ
木枯し紋次郎シリーズは未読やん
12 :
名無しのオプ:2009/03/17(火) 23:41:59 ID:NvZylUMm
もはや「前スレの
>>3」ではなかったでしたねw
>>6-9 乙です。前スレでも纏めてくれた方でしょうか?俺は読み散らかしているだけなのに、こうして
キチンと揃えていただけるのは本当に嬉しいです。
>>6-9さんが傑作・佳作を纏めてくれたので、俺は手前味噌ながら、
「採点不能」
と判断した作品群を揃えてみます(実は愛着があるのでw)。
素っ頓狂なバカトリックに、読者置いてけぼりの意外な結末、あさっての方向に潜む真犯人、
アンフェアお構いなしの叙述トリック、伏線無視の辻褄あわせにチープ極まる登場人物たち・・・
いずれ劣らぬ強者ぞろい、珍作、迷作、怪作の数々ですw
阿井渉介 「虹列車の悲劇」「列車消失」「赤い列車の悲劇」「銀河列車の悲しみ」「雪花嫁の殺人」
池田雄一 「カルチャーセンター殺人講座」「不帰水道」
岩木章太郎「捜査一課が敗けた」
川上宗薫 「夏が殺した」
斎藤栄 「金糸雀の唄殺人事件」「謎の幽霊探偵」「最後の密室−『わが闘争』殺人事件」
「産婦人科医の密室」「殺意の時刻表」
嵯峨島昭 「美食倶楽部殺人事件」
佐野洋 「光の肌」
島田一男 「黒い花束」「黒い事件簿」
志茂田景樹「月光の大死角」「冷血の罠」
左右田謙 「狂人館の惨劇−大立目家の崩壊」
(承前)
高山洋治 「怒りの情報車(ハイテクカー)」
津村秀介 「京都着19時12分の死者」「××××××急行列車」
豊田行二 「ひかり10号殺人事件」
南里征典 「鍾乳洞美女殺人事件」
西村京太郎「死者はまだ眠れない」
野坂昭如 「三味線殺人事件−お多加師匠推理帖」
平岩弓枝 「華やかな魔獣」
福田洋 「空白の交換殺人」
藤村正太 「魔女殺人」
松本清張 「黄色い風土」
水野泰治 「吉原遊郭2039年の殺人」
森村誠一 「空洞星雲」
・・・以上、どれもこれも強烈すぎて未だに覚えていますよ。斎藤栄と阿井渉介のバカミス二大
巨頭を除くと、登場人物がドンドン消失してゆくが、結末で読者を失望の断崖に突き落とす「黒い
花束」、バカトリックの金字塔「月光の大死角」「京都着19時12分の死者」、C調変態ミステリ「魔女
殺人」あたりが特にスゴいでしょうかw
笹沢左保「ふりむけば霧」(徳間文庫)★★★★
1987年の長編。「フラッシュバック」紹介作の一つですね。
短大に入学直後、恋に落ちた大学講師に騙され、その愛人との密会を襲い、二人を刺殺して逃亡
した千早芙美子。十三年以上に及ぶ逃亡生活の後、時効まであと一年半余りを残したところで
東京に向かうが、被害者の女性の夫だった八ツ橋と出会ってしまう。だが八ツ橋は芙美子を警察
には突き出さず、時効まで匿ってあげると申し出た。元の妻との仲がそもそも険悪だったとはい
え、八ツ橋の真意はどこにあるのか。だが二人はやがて愛し合うようになる。時効の日は迫って
くるが、やがて二人の身辺に謎の男が現れるようになり、そしてついに別の殺人事件が起きてし
まう・・・。
なるほど、この「大ドンデン返し」には驚きましたよ。時効まであと数日・・・、とサスペンスが高まっ
たところでのカタストロフと意外きわまる真相、他の笹沢作品にも似たパターンはないと思うの
で、彼の作品を読み慣れていても、あの真相はなかなか予想できないでしょう。
しかし・・・。どう考えても、序盤に明記されている「地の文章の虚偽」が、あの真相をアンフェアなも
のにしているとしか思えません。その点に関する説明はちゃんと書かれているけれど、納得でき
ないです。
確かに本作は埋もれた傑作ではあるけれど、「地の文の虚偽」を不問に付すならば、同じ欠点を持っ
た「眠れ、わが愛よ」(前スレ参照)の方が一枚上手かな、と個人的には思います。
とはいえ、結末でビックリしたい人にはお勧めです。
山村正夫「殺人レッスン休講中」(光文社文庫)★★★
女子大生でミステリ研究会の副会長・風味子と、サークルOBで警視庁捜査一課の刑事・原の
コンビが活躍する1985年の連作集。
先ずは「眠り姫」。サークルを止めた女子大生が風味子に、夜毎、自分の部屋に何者かが忍び込ん
でいると訴える。実は・・・。まあスタートはこんなものか。ごく素朴なフーダニット物。
続く「不運な愛人」は、愛人バンクに登録した女性、学生結婚した夫も生活費のため公認していた
のだが、彼女が殺される。愛人の中年男が容疑者に挙げられるが・・・。凝ったアリバイ工作でまと
めた良作。
「まぼろしの女」は教会の焼け跡で殺された男、そこは彼の恋人が自殺した場所だった。彼女の
幽霊の祟りなのか・・・。これはトリックが凡庸。
「死者のアリバイ」は、愛人と東京で密会する大学教授の依頼で、サークルの合宿で伊豆にいる、
とニセのアリバイを工作した風味子ら、だが教授が本当に伊豆で殺されてしまう。これはアリバイ
物をヒネッた佳作。
「殺人レッスン」はホテルの水を抜かれたプールで溺死した女性の謎。或るトリックが小味なが
ら決まっている。
「学園祭の殺人」は学園祭の最中、お化け屋敷の人形とすり返られて殺された女性。これはトリッ
クに無理がある。
「殺意のダイヤル」は年度末のサークルの追い出しコンパで軽井沢にいったサークル一行。だが
付近の別荘で殺人事件が発生・・・。このトリックには飽き飽きしましたよ。
1980年代の大学生の描写は、まあこんなものでしょうか。梶龍雄のようなヘンな若者言葉が出て
こない分、こっちの方がマシ。しかし、「女子大生イコール風俗産業」のステレオタイプはどう
にかならんのかw
西村京太郎「盗まれた都市」(徳間文庫)★★★
1977年の左文字進・史子コンビのシリーズ長編。
東北の地方都市で突如起こった「反・東京キャンペーン」。あらゆる「東京」的なものを排除しよう
とする運動に興味を抱いた左文字夫妻は現地に潜入するも、クルマを何者かに壊され、地元新聞
記者の殺害事件の容疑者にされてしまう。だが事件は別の東京から来た青年が逮捕され、彼の無実
を信じる左文字は、容疑者の弁護を引き受ける。警察はもちろん、住民たちの敵意に満ちた視線の
中、左文字の孤独な戦いは続くが、やがて別の事件が起き、パニックは頂点に達する・・・。
厳密には「本格」とは思えないですが、青年の無実を証明する左文字の論理的な推理や、「反・東京
キャンペーン」の真の黒幕をめぐる謎解きなど、なかなかに楽しめます。黒幕の意外な正体の一部
に、当時としてはかなり斬新なアイディアが盛り込まれているのがミソでしょうか。今となっては
ありふれているかも知れませんが。
なお、「死者はまだ眠れない」(前スレ参照)と同じく、メインの奇抜なアイディアを解明したら、後は
野となれ・・・、といった感じの結末は、やはりどうかと思いますね。それと、思い切ったマスコミ批判
は結構ですが、集団ヒステリー状態になったこの町を、ナチスや戦前の日本だけを引き合いに出し
て批判するのもなあ・・・。むしろ、これはスターリニズムと、それを皮肉ったオーウェル「動物農場」
そのものだよなあ。ファシズムでもあるが共産主義の悪夢でもあると思います。当時はそこまで思
いが及ばなかった、とは思えないのですが・・・。
津村秀介「偽装運河殺人事件」(廣済堂文庫)★★☆
1987年のノンシリーズ長編。
オランダ・アムステルダムの運河で発見された日本人商社マン・小田木のバラバラ死体。被害者は
数ヶ月前に妻を自殺を装って殺したのではないかと疑われていた男だった。神奈川県警の若手敏腕
警部の桐田と、被害者の後任としてブリュッセル駐在となった小田木の同僚で彼の死んだ妻の元恋
人だった井上がそれぞれ事件を追及するのだが・・・。
清張「アムステルダム運河殺人事件」、菊村到「運河が死を運ぶ」(いずれも前スレ参照)と同じく、
1960年代にアムステルダムで実際に起きた殺人事件に取材した作品(そういえば、有栖川「幻想
運河」にも影響を与えていますね)。料理の仕方は清張作品が上出来だと思いましたが、本作は
如何。
うーん、ごく初期の作品とも、また後の浦上伸介物とも違う、一種独特な雰囲気の作品でした。
或るトリックをメインに据えて、真相の意外性を狙ってはいるのですが、どうも「本格」らしくな
いというか、ドキュメンタリータッチの文章が、硬質だけれども、謎解きには違和感を与えてし
まっているというか・・・。まあ凡作でしょう。
7連投スマソカッタ
清水一行「私刑(リンチ)−七人心中」(集英社文庫)★
1979年の長編。
愛知県で発見されたバラバラ死体。被害者の私立医大講師の男は乱脈な女性関係で、彼を恨んで
いる女性が多数いた。だが全員のアリバイが確認され、捜査は暗礁に乗り上げる。一方、容疑者
の一人に挙げられた女子医大生・栗山千恵は茨城・日立の実家にいる父親の悠輔を密かに疑って
いた。自分を妊娠させた被害者を恨んで殺したのではないか。果たして悠輔は被害者を殺したこ
とを告白する。そして新たな脅迫者が現れたことから、悠輔は千恵の兄・正美とともに脅迫者を
殺してしまう。だが・・・。
中盤で犯人がアッサリ登場してしまい、一種の倒叙物として展開。あらすじや解説には、「巧妙な
トリック」「意表を衝いたドンデン返し」「読後は意外と爽やかな印象」とあるので期待しつつ読ん
だのですが・・・。
・・・・・・・・・・。アホか。「巧妙なトリック」って、あのしょうもないアリバイ工作のことか。清張
「点と線」以前に発表されていたら、まあ「巧妙」だったかもね。それはともかく、「意表を衝
いたドンデン返し」って、そりゃ何だよ。アレのどこがそうなのか。全く意表を衝いてなどいな
いです。そして「読後は意外と爽やかな印象」に至っては、もはや言葉を失いました。どこをど
う読んだらそう思えるのか。陰惨極まりないラスト。更にこの文庫版には、トンデモないネタバ
レの箇所が・・・。出版社がボンクラなのか、解説者がアホなのか、作者がダメなのか・・・。駄作。
20 :
名無しのオプ:2009/03/22(日) 21:06:15 ID:Bh36p1K6
2連続で容量オーバー落ちか
このスレらしいわw
なんにせよ3氏乙
21 :
名無しのオプ:2009/03/22(日) 22:46:13 ID:QNFrYEkw
大元帥の器量を今の堕落したミス板では支え切れないということ
なのでしょう
22 :
名無しのオプ:2009/03/23(月) 22:38:22 ID:+mOF17B4
23 :
名無しのオプ:2009/03/23(月) 22:53:14 ID:jBPha1MG
24 :
名無しのオプ:2009/03/26(木) 21:28:55 ID:0VxbFjQT
三好徹「汚れた海」(中公文庫)★★★☆
1971年の「天使」シリーズ長編。
行きつけの喫茶店で競馬の勝敗に関する情報を得た「私」は、競馬場で謎の美女に出会う。彼女に
誘われ、マンションでの情事を終えて部屋に戻った「私」を待っていたのは、先ほどまでいた部屋
で起きた殺人事件だった。だが被害者はあの女性とは違っていた。そして「私」の部屋からは身に
覚えの無い大金が・・・。「私」は警察に追われつつ、自分を罠にハメた連中とその裏の真相を追及す
るのだが・・・。
「天使」シリーズ長編としては、「天使が消えた」(初代スレ参照)がロスマクの影響を受けている
のに対し、こちらは、社会派風なハードボイルド、といったところでしょうか。それでも、何気
ない会話に含ませた真相のヒントや、或る二人の登場人物の意外な正体と、ラストの二重のドン
デン返しなど、「風」シリーズのスパイ小説あたりの作風に近いものもあります。真相の一部の説
明が端折り気味なのが残念ですが、それなりに謎解き要素も踏まえたハードボイルドとして、一
読の価値はあると思います。
佐野洋「壁が囁く」(ケイブンシャ文庫)★★★
1966年の長編。
新聞記者の志原は、海外出張中に妻に自殺され、その後付き合っていた女性記者にも自殺されて
しまう。やがて二人の死は他殺で、志原が絡んでいるとの密告が警察に届く。志原は己の潔白を
晴らすべく、事件を追及するが、或るきっかけで出会った謎の女性・越智久美子の行動や、上司
の葉山の動きに不審なものを感じる。やがて彼とは別の角度から事件を追っていた元同僚の男が
殺されてしまう・・・。
うーん、典型的な佐野洋作品といったところでしょうか。最後はキッチリと収まるし、論理的に
まとまってはいるけれど、色々あった割りに、だからどうした、という印象しか残さない作品。
本作では或る「錯誤」がポイントになっていますが、それが判明する瞬間の驚きが少ないため、
真犯人の意外性が余り効いていません。凡作でしょう。
斎藤栄「海の碑」(講談社文庫)★★★
1974年のノンシリーズ長編。
鹿児島県・志布志湾の工業開発を巡って、反対派のリーダーだった鳥類学者の福島が、現地で行方
不明となった後、何故か死体が箱根で発見される。推進派の陰謀か、或いは離婚寸前だった妻・美
奈子の仕業か。福島の愛人だった絵以子は、単身、福島の死の真相を追って志布志を訪ねる。一方、
絵以子の親友の夫である神奈川県警の水田警部補もまた事件を追っていた。だが福島の妻・美奈子
もまた東京湾でバラバラ死体となって発見される・・・。
松本清張ふうの社会派作品ですが、福島の趣味だった「郵便碁」のハガキや、絵ハガキに絡めたアリ
バイ工作、バラバラ死体の状況を巡る謎など、トリッキーな趣向も凝らされています。また、登場人
物の造形、特にヒロインの絵以子を実に丁寧に描いており、作者らしからぬ重厚な構成の良作だと思
います。しかし、やはりトリックが今一つ地味な感じで、派手さに欠けるため、結局は清張の亜流、
といった評価にならざるを得ません。レッドヘリングの処理に関しての終盤の誘拐騒ぎなど、余計な
ものでしょう。良い作品ですけど、「本格」としては佳作とは言い難いです。
4連投スマソカッタ
梓林太郎「ヒッピー探偵」(桃園文庫)★
1985〜86年に連載された、商社マンながら週末にはヒッピーの扮装をして新宿に出没する男・松代
小弥太とフーテンの少女・真冬を主人公とした連作集。
先ずは第1話「サンデーヒッピー」、上高地で遭難した女性の謎。まあ第1話だからこんなものか。
続く「佐渡島の殺人」は松代が新潟へ左遷され、佐渡島で殺人事件に巻き込まれ・・・。ミステリと
いうよりただの犯罪に絡めた風俗小説。
「こがね湯の亡霊」は真冬の行方不明の父母と祖父を松代が探そうとするが・・・。これまたヒント
は予め描写されているけど、どうしようもない出来。
「女神集団」は真冬がCMタレントにスカウトされる。だがそれは松代が銀行強盗の犯人と勘違い
した連中の仕業だった・・・。ちょっとした伏線はあるけど、どうもピントがズレまくっている。
「偽ブランド花ざかり」は偽ブランド品の上前をはねる更に粗悪な偽物が出現して・・・。下らない。
「真夏のアイドル」は真冬の友人の妻が誘拐され身代金を要求される話。
・・・結局最後までダメダメな作品集でした。でも、回を追うにつれ、アーパー丸出しの真冬に好感
が持てるようになったのは何故だろう?
ともかく、このタイトルをみたとたん、バカミス狙いで読んでみたのですが、それにしても、1980
年代だというのに、ヒッピーとはねえ。しかもその格好が、バーバリーコートに正ちゃん帽にサン
グラスだという・・・。どういう時代感覚なんだ・・・というか、作者は何を考えて、こんな連作を
意図したのだろう?
ミステリとしては全く採るところが無いですが、山岳ミステリの作家がこんなものを・・・といった
意外性と、かなりイカレた風俗小説としてはまあ楽しめますw
29 :
名無しのオプ:2009/03/29(日) 22:43:12 ID:w+jpPeHv
山岳ミステリーてのも妙なくくりだよな
一つのジャンルを形成するほど作品数が偏って多くなりそうには
到底思えないんだが、不思議だねえ
30 :
名無しのオプ:2009/03/29(日) 23:53:33 ID:kpyyXIpw
・ 大学の山岳部等のタテのつながりで、登場人物に幅が出る
・ トレッキングから冬山登山まで、内容にも幅がある
・ 舞台(山)が割りと生活環境に近いところにある
・ 墜ちたら簡単に死ぬ
みたいな好条件に恵まれてるからかな日本は。
ヒマラヤやマッキンリーでの山岳ミステリというのもあまり聞かないし。
31 :
名無しのオプ:2009/03/30(月) 00:13:15 ID:Q6v5akWB
つうか海外モノで山岳を舞台にすると謎解きより冒険小説になる気が
32 :
名無しのオプ:2009/03/31(火) 07:36:30 ID:+V647u55
山岳を密室に見立てるなんて発想は昨今の欧米の作家からは絶対出てきそうにない品
てか日本人て何でも密室のネタにするよなw
33 :
名無しのオプ:2009/03/31(火) 13:11:41 ID:ypz7/ql2
日本の本格推理小説には密室とアリバイの2つしかなかった時期が長かったからな
34 :
名無しのオプ:2009/03/31(火) 23:31:09 ID:YZ1buksP
日本人は山に登って海をながめる
欧米人は山をながめて海に出る
ってイメージだが
由良三郎「網走−東京殺人カルテ」(集英社文庫)★★★☆
1990年の長編。
昭和27年の東京。研修医を終え、予防医学研究所に勤め始めた「わたし」は、日本脳炎ワクチン
の実験のため、被験者となる受刑者たちのいる網走刑務所に赴く。助手となった殺人犯で無期
懲役の模範囚・鳥飼は元衛生兵で優秀な助手となり、彼の話を聞くうち、「わたし」はかれは冤
罪ではないかと疑い始め、東京で調査を始める。彼はヤミ金融の社長殺しの罪を問われていた
のだが、真犯人は他にいるのではないか。だが網走と東京を往復するうち、殺された社長の情
婦を皮切りに、当時の事件の関係者たちが次々と殺されてゆく・・・。
久々に由良三郎の良作を読みました。プロローグで大胆な伏線を張り、なかなかユニークなト
リックを配した作品。ただ文中にもあるとおり、「確実性」に欠点があるのが惜しいところ。
また作者自身の昔の経験でもあるのか、昭和27年当時の雰囲気なども、まあ上手く捉えていま
す。何より他の作品に比べて格段に読みやすくなっているのが良い。
・・・しかし。この文庫版は裏表紙の「あらすじ」がヒドいことになっています。或る程度、読者
も早めに予想できることとは言え、トンデモないネタバレが・・・。集英社は、読者はむろん作者
をも愚弄しているのか。
もしも、これから読まれる方がいれば、絶対あらすじは読まないこと。
辻真先「死体は走るよ国際列車」(中央公論C★NOVELS)★★★
1987年のユーカリおばさんシリーズの長編。
不動産ディベロッパーが仕立てた新潟・坂崎高原の「メルヘン合衆国」に向けて、富山県の自治
体が作ったミニ独立国「めるへん共和国」から出発した両国親善列車。車内でのアトラクション
の芝居の最中に殺人事件が勃発。更に爆弾騒ぎなど不審な出来事が続く。会社をクビになった男・
飯野の仕業なのか。芝居の演出を手がけた新哉とその恋人・くるみが事件に巻き込まれてゆく。
ユーカリおばさんの推理や如何に?
辻真先のいつもどおりのパターンではありますが、第二の事件における「動いた恐竜」の真相など、
トリッキーな趣向や些細な伏線の基本も外していません。ただ事件全体の構図が、やや安直な真
相に流れてしまっているのは残念なところ。可もなく不可もなく、といったレベルでしょう。
森村誠一「虹への旅券(パスポート)」(講談社文庫)★★
1975年の長編。
不倫相手の男に失恋した痛手を癒すため、OLを辞めた穂積裕希子はヨーロッパ一周のツアー旅行
に旅立つ。その直前に東京では、ツアー客の誰かと関係のある男が何者かに殺される事件が発生し
ていた。捜査陣は、犯人はツアー客の中にいるのではないかと追及する。一方、ツアー旅行の方も、
何者かに命を狙われている新婚カップルの新郎や、何かの秘密を抱いている女性など、スタート時
から波乱含みだった。更には添乗員の一人もまた、事件に関わっているらしい。裕希子は無事に帰
国することができるのか・・・。
幾つもの事件が複雑に絡んでサスペンスを盛り上げ、しかもヨーロッパ各国が舞台ということもあ
って、読者サービスに徹したお話ですが、やはり「本格」的な観点から言えば、真相は「ご都合主義」
の一言。そんなに偶然が重なるわけないだろ、と突っ込みたいです。唯一、新婚カップルの新郎を
狙う真犯人の正体だけ、伏線や意外性などから、一応評価できる、というレベルでしょうか。
それにしても東京で起きた或る事件の被害者のスゴいことと言ったら・・・。女性週刊誌に連載された
作品ですが、誰も何とも思わなかったのだろうか、というか、こんな人間の行状を小説で読まされ
ることに何の抵抗も無かったのだろうか?
清水義範「CM殺人事件」(光文社文庫)★★★
不破・朱雀の躁鬱コンビによる1986年のシリーズ第2作。
不破の今度のアルバイト先はCM制作代理店。不破のアイディアで、結婚式場のCMに朱雀の所有
するドール・ハウスを使うこととなったのだが、その撮影中に事件が発生。担当のコピーライター
が落下したスタジオのライトで重傷を負う。更に、弓矢でスタッフが射られて、またも重傷を負い、
ついに第三の感電事件では死者が出てしまう・・・。
全く無動機で関連性のないように思われた事件に対し、躁鬱コンビが推理のディスカッションを重
ねて真相に迫ってゆく辺りに「本格」らしさも感じられ、謎解きの方も、大仰なトリックはなく、古典
的な或るアイディア一発頼りですが、伏線はなかなかのもの。ユーモラスなシーンにさり気なくヒ
ントを含ませたりしており、侮れません。第1作「H殺人事件」と同程度の良作、といったところで
しょうか。
高木彬光「人蟻」(光文社文庫)★★
1959年の百谷弁護士シリーズ第1作。
若手弁護士の百谷泉一郎は、差し押さえの立会いに出かけた和歌山・白浜で不審な飛び込み自殺
に遭遇、自殺者は、つい先日、道で会ったばかりの男だった。友人の刑事から非公式に事件の調
査を命じられた百谷は、旅行中に知り合った経済評論家の娘にして若き女相場師・大平明子とと
もに、製糖会社を巡る大掛かりな陰謀へと巻き込まれてゆく・・・。
百谷弁護士のシリーズ第1作は、法廷物というより、会社乗っ取りや仕手戦、製糖業界の裏面か
ら果ては終戦直後の謀略機関の暗躍などを描いた「経済推理」といった雰囲気。謎解きは脇に追い
やられてしまっており、フーダニット物としてもトリッキーな謎解き物としても全く評価できま
せん。一点だけ、百谷と敵方の双方の間で暗躍する正体不明の人物の正体に、ちょっとだけ面白
さを感じました。さほど意外ではないし、そのトリックも大したものではないが、その妙な「立場」
が印象に残りました。まあ、それ以上、コメントするほどの作品ではないか、と・・・。
6連投スマソカッタ
浅利佳一郎「東京ドーム殺人事件」(ケイブンシャノベルス)★
1988年の長編。
東京ドームで行われていたプロ野球の試合中、観客席裏のコンコースで起きた射殺事件。試合が
盛り上がっている最中の出来事で、目撃者が皆無の中、プロ野球チーム「中央タコガース」のコーチ
伊部と、彼の自宅に居候する警視庁の喜多刑事が事件を追う。被害者はロスアンジェルス滞在中
に何らかのトラブルに巻き込まれていたのではないかと、喜多はアメリかへ飛ぶ。一方、伊部は
被害者・京田が将来を嘱望された高校球児だったことから、彼の高校時代の秘密を探ろうとする
のだが・・・。
伊部コーチと喜多刑事のコンビによるユーモア物のシリーズ作だそうですが、まあ、パッとしな
いストーリーではあります。アメリカでの捜査もまるで意味が無いし、伏線となる暗号解読の趣
向も登場が遅すぎるし、レベルが低い。で結局、ミステリのイロハも知らない反則の真相が明ら
かになって幕。同時期に書かれた同じく野球ミステリの川上健一「珍プレー殺人事件」(前スレ参照)
と同レベルのヒドい出来。
「オール読物新人賞」を取った表題作を含む短編集「いつの間にか・写し絵」(初代スレ参照)を読ん
だときにも感じましたが、根本的にミステリには向いていない作家ではないかと思います。
41 :
名無しのオプ:2009/04/11(土) 17:32:48 ID:K356V2IB
乙でありんす
42 :
名無しのオプ:2009/04/11(土) 20:32:05 ID:ghHGGal2
なんかすごい読書量ですよね、感服します。
「虹へのパスポート」
初版で単行本30数年前読みました。高校生だったけど、
いまいちつまらんミステリーだなあとは思った。
森村さんみたいに数百冊もミステリー書いてるとある意味定型筋というか
プロットみたいなものがあって、
それにあてはめて量産するんですかね?
43 :
名無しのオプ:2009/04/20(月) 22:18:39 ID:IYEFpDQ1
>>42 自分の場合、西村京太郎に強くそれを感じます。
44 :
名無しのオプ:2009/04/21(火) 14:33:46 ID:DSTatRB6
>>43 西村京太郎の、場合は、プロットよりも、文体を、定型に、あてはめています。
45 :
名無しのオプ:2009/05/01(金) 22:17:39 ID:3AHwhy9d
大元帥閣下はどうなされたのか
46 :
名無しのオプ:2009/05/02(土) 13:03:14 ID:MycOoVEh
家族サービスです
47 :
名無しのオプ:2009/05/03(日) 00:03:57 ID:CWyZ/Z1a
城昌幸「若さま侍捕物手帖」(桃源社 1958年)★★★☆
戦前に週刊朝日に連載された捕物帳、今年になって講談社時代文庫で続々と復刊
されています。その中から密室・不可能犯罪ものを3作。
『猫の弁当』質屋の主人を殺した何者かが隣の土蔵に逃げ込むのを内儀や店の小僧
に目撃される。閉じこもり三日後、なんとか扉を開けると犯人はおらず猫と差し入
れの弁当のみが・・『濡れごと幽霊』死体の瞬間移動?出逢い茶屋で幇間が屏風ごし
に男女の逢瀬を聞いていたが、その時間に同じ男が遠く離れた河岸で死体で発見される。
『ビルゼン昇天』伴天連の妖術?長崎の通詞切支丹と共に歩いていた娘が尾行者の目の
前で突如消えてしまう、神に召され昇天したのか・・・
発端の謎の提示は初期のなめくじ長屋シリーズを想起させます。さて解決のほうは?
48 :
名無しのオプ:2009/05/04(月) 03:49:27 ID:+17DicLF
さて解決のほうは?
てことは、あんまり期待しないほうがいいよ、てことか。
星三つだし。
49 :
名無しのオプ:2009/05/10(日) 20:59:59 ID:MESSzs1O
こちらで以前紹介された二重裁判が放映されるらしい。
p://ameblo.jp/takahashikaori/
50 :
名無しのオプ:2009/05/13(水) 22:47:20 ID:RA6xFpfk
大元帥閣下のスレ葬を見当せねばならない段階になりつつあるのではないか
51 :
名無しのオプ:2009/05/14(木) 23:51:39 ID:lhWTYKaa
>>17 > 集団ヒステリー状態になったこの町を、ナチスや戦前の日本だけを引き合いに出し
> て批判するのもなあ・・・。むしろ、これはスターリニズムと、それを皮肉ったオーウェル「動物農場」
> そのものだよなあ。
オーウェルは、当時の英国読者が「1984」のモデル論争で自国をモデルに想定してないことを
チクリとつついていた・・・と記憶しています
日本でオーウェル的なディストピアを書けば戦前日本が出てくるのも自然ではないでしょうか
52 :
名無しのオプ:2009/05/21(木) 18:18:21 ID:vOBgYuuQ
大元帥閣下は僕らに多大なものを遺して下さいました
その志を無駄にしないよう日々切磋琢磨に努めたいと思います
53 :
名無しのオプ:2009/05/21(木) 20:50:49 ID:hzC5uRHV
>>52 こらこらw
さーて、3師のレビューを編集して冊子を作るか
54 :
名無しのオプ:2009/05/27(水) 11:14:51 ID:NDoduPOT
55 :
名無しのオプ:2009/05/27(水) 11:21:14 ID:KCCZxrmK
>>54 土屋隆夫は台湾で人気があるよ
台湾のファンがインタビューに訪れたことがあったはず
56 :
名無しのオプ:2009/05/28(木) 01:05:49 ID:FJCDaD3V
アダモちゃんのおかげ?
57 :
名無しのオプ:2009/06/18(木) 03:01:21 ID:aEqZfxjk
ミステリーズ!に「本格ミステリフラッシュバック完結編」が掲載されてる
58 :
名無しのオプ:2009/06/18(木) 20:26:28 ID:9qfQU05g
大元帥閣下は中町信だったのか……
59 :
名無しのオプ:2009/08/05(水) 17:46:11 ID:nby7QguO
保守
60 :
名無しのオプ:2009/08/13(木) 04:12:53 ID:s6TdeEKa
都筑道夫のスレがないなんて
61 :
名無しのオプ:2009/08/13(木) 17:05:01 ID:beboaCJp
以前はあったはずだけど落ちちゃったのかな
スレ建ててもあんまり需要なさそうだし(積極的に保守する気があれば別だが)、
話したいんだったらどこか適当なスレを見つけてやればいいんじゃないかな
別にここでもいいと思うし
62 :
名無しのオプ:2009/08/13(木) 17:32:08 ID:CGky/TGF
ここが2時間ドラマ専用作家のスレですか?
63 :
名無しのオプ:2009/08/13(木) 21:40:28 ID:n89fBqf/
淡路で検索しろ>都筑
64 :
名無しのオプ:2009/08/14(金) 01:35:36 ID:H2/y8DFL
久しぶりです。いきなりマンガの紹介でスマソ
つげ義春「四つの犯罪/七つの墓場」(ちくま文庫)★★★
作者は知る人ぞ知るカルト的な人気を誇るマンガ家。彼が1956〜1960年に発表した貸本マンガの
うち、ミステリ的な作品を収めたもの。
先ず「四つの犯罪」。温泉場を舞台に、湯治客四人がオムニバス風に語る話。第1話「悪人志願」が
ちょっと面白い。売れない作家が借金取りを殺そうと、訪ねてきた借金取りを縛り上げて、「二時
間後に時限爆弾が爆発する」と告げる。二時間後、爆発寸前に縄を解き、借金取りは逃げる、一方
犯人はアリバイを作っておいたのだが・・・。乱歩のエッセイに出てくる古典的なトリックそのまま。
あと「運地君の不思議な犯罪」は、変装して一人二役を演じながらもう一方の自分を抹殺し、嫌い
な男にその罪をなすりつけようとする男の話。乱歩の影響がモロですね。ご丁寧にも、書棚には
「探偵小説三十年」や「幻影城」まで描かれています。しかも「カラマーゾフの兄弟」の、乱歩が
大好きだというあの一節まで添えてw
「罪と罰」は、切手を使ったトリックだが独創性なし、ベストは「うぐいすの鳴く夜」かな。正面
から密室トリックを扱っており、一応のオリジナリティはあります。
・・・全体的に、1950年代後半にリアルタイムで旧「宝石」誌を愛読していた作者の好みがモロに
出た作品群といってよいでしょうか。オリジナル、という点で疑問は残りますが・・・。
島田一男「殺意の絆」(光文社文庫)★★★
1970年の南郷弁護士ものの長編。
東京の人形師・鼓一族を狙う連続殺人。九代目女社長の緋奈子とその従兄弟である菱太郎、衛士
らの中に犯人はいるのか、事件の度に送られてくる人形の意味するものとは、南郷の推理や如何
に・・・。
南郷弁護士ものは「上を見るな」「その灯を消すな」「去来氏曰く」以外は本格味なし、と思ってい
ましたが、本作は意外なほどフーダニットに徹底しており、意外性を含め満足できる内容になっ
ていました。一族の若手らのフーテン振りにはヘキエキしましたがw
西村京太郎「四国連絡特急殺人事件」(光文社文庫)★★★☆
十津川警部ものの長編。
四国の八十八箇所巡りの途中で殺された銀行頭取。秘書の女性は、犬猿の仲にあった甥の部長が
犯人だと告発するが彼にはアリバイがあった。事件は銀行の政治家への不正融資事件へと発展し、
政治家秘書らが相次いで殺されてゆく。だが十津川警部がたどり着いた真相とは意外にも・・・。
これはレッドヘリングの使い方に工夫を凝らしており、もうちょっとで傑作となり損ねた惜しい
出来栄え。少々、或る点を強調しすぎた嫌いがあり、カンの良い読者には気づかれてしまいます。
とは言え、一読の価値はあるでしょう。
笹沢左保「時計の針がナイフに変わるとき」(講談社文庫)★★★
1987年の長編。
TVプロデューサーの夏八木の娘が誘拐された。犯人は彼に恨みを持つ井筒だと名乗り、「身代金は
いらない、二日以内に自殺しろ」と法外な要求を突きつけてくる。夏八木は愛人とともに、些細な
ヒントから犯人と娘の行方を捜すのだが・・・。
誘拐ものも得意な作者ですが、少々意表を突きすぎて不成功に終わったかな、という感じです。とは
いえ、何気ない会話から推理を重ねてゆく過程と、タイムリミット物の緊迫感は持続しており、真犯
人に関する伏線などもちょっと面白く、ラストまで読ませる作品ではあります。
笹沢左保「過去を連れた女」(角川文庫)★★
1960〜1963年の初期短編集。
表題作は今一つの出来だが、「勲章」が面白い。飛行機が飛んでいるのをじっと眺めている男。実は・・・。
作者には珍しい叙述上の仕掛けが冴えています。冒頭の大胆な伏線や最後のドンデン返しも決まって
いる。
「行った、来た」は言葉の錯誤に関するトリックだが、これは考えすぎでは?
「曇天」は死刑になった兄のムショ仲間に脅迫される男の話。これまた作者らしからぬ結末を迎える
異色の作品。そう来るかぁ、と思いました。
佐野洋「禁じられた手綱」(徳間文庫)★★★☆
1973年の長編。
騎手の野末良介が巻き込まれたスキャンダル。二百万円という中途半端な身代金を要求される。
先輩騎手の謎の死。果たして事件の真相は・・・。
何気ない、或る人物の死亡の件がシブく決まっています。主人公の兄と或る人物のやり取りが
ポイントになっていますが、まあフェアといって良いでしょう。さほど意外な真相ではないで
すが、先ず先ずの良作といえます。
西村京太郎「原子力船むつ消失事件」(角川文庫)★★☆
1981年の長編。
放射能漏れの事故後、再び試運転を開始した原子力船「むつ」が日本海で謎の消失を遂げる。
運営する公団の理事長秘書は何故か左遷されてしまう。公団は何を隠しているのか、秘書は
単独で調査を開始する。やがて「むつ」は佐渡島で沈没したらしいことを知るのだが・・・。
久々の海洋物の作品で、一連の旧作群には一歩譲りますが、大仕掛けな意表を突いた真相には
結構驚きます。そこに至るまでの伏線の出し方に1970年代の作品と違った「衰え」を感じるの
は残念ですが・・・。
近藤富枝「宵待草殺人事件」(講談社)★★☆
1980年代に発表された作品集。有名作家らを主人公にした作品で統一されています。
先ずは表題作、主人公は谷崎潤一郎。ちょっとしたアリバイ工作が出てきますが、オリジナリティ
はないです。
「にごりえ殺人事件」は樋口一葉。これも何気ない会話がミソですが地味すぎる。「あこがれ殺人
事件」は石川啄木、結構面白かった。「枕草子殺人事件」は清少納言。古典でなくては成立不可能
だな。「葵の上殺人事件」は源良清。取り立てて言うことなし。
やはりミステリ・プロパーの作家と比べては酷かな、と思える出来でした。
新田次郎「陽炎」(文春文庫)
1959〜1971年の作品を収めた短編集ですが、「着流し同心」「流された人形」に注目。風変わりな
八丁堀同心と怪盗を主人公にした、作者には珍しい捕物帳ふうの2作品、トリッキーなネタは弱い
ですが、怪盗の正体なども含め、シリーズ化しなかったのが惜しまれる作品でした。
残りはミステリじゃないので割愛。なお「風説の北鎌尾根・雷鳴」(新潮文庫)収録の「古城」「風が
死んだ山」の2作品もミステリとして要注目でした。
6連投スマソカッタ
関口甫四郎「宮沢賢治修羅渚殺人事件」★☆
「鉄道回文殺人事件」に続き、相も変わらず暗号ネタに執念を見せる作品ですが、文章は上手く
なりましたが、まったくの駄作。暗号解読のキーは独り善がりだし、真犯人の設定も「何じゃそ
りゃ」といったレベルでした。
田中芳樹「戦場の夜想曲」(徳間文庫)
1970年代後半に発表された初期短編集。大半はSFですが、一作のみ「白い顔」に注目。米国初
の黒人大統領が暗殺される。しかし意外にも・・・。作者も、まさか本当に黒人大統領が実現する
とは三十年前には予想もしなかったのでしょうね。その限界が、むしろトリッキーなオチに繋がっ
た異色作です。
・・・その他、笹沢左保「闇の結婚」(1983年)、西村京太郎「幻奇島」(1975年)、石津嵐「暗黒還流」
(1983年)、南里征典「化粧坂殺人事件」(1985年)、加納一朗「異人の首−開化殺人帖」(1989年)、
幾瀬勝彬「神風特攻第一号」(1981年)などを読みましたが、「幻奇島」を除いては大した出来ではなかっ
たので省略します。あと若桜木虔「洞爺湖よ君の伝説を語れ」(1981年)も、或る意味でスゴかったですw
・・・それにしても、故・中町信氏に間違われるとは・・・w1970年代後半の小学生時代に、TBS「横溝正史シ
リーズ」にハマッていた、と以前に書いたから、年齢は分かると思うけど・・・。
71 :
名無しのオプ:2009/08/20(木) 08:14:47 ID:hljoa9XU
お久しぶりに乙です。
72 :
名無しのオプ:2009/08/20(木) 08:45:40 ID:7LtocUED
お元気で何よりw
73 :
名無しのオプ:2009/08/20(木) 08:58:57 ID:wkwaiMxi
大元帥の復活に精一杯の乙を!
74 :
名無しのオプ:2009/08/20(木) 14:08:49 ID:RbIgmc+l
ちょうど書き込みが減った時期とタブったもので・・・
75 :
名無しのオプ:2009/08/21(金) 00:14:51 ID:LMYnNjEQ
大元帥復活してたーーー
お帰りなさいませ、閣下!
またガンガンレビューして
我ら迷える子羊を導いて下され
76 :
名無しのオプ:2009/08/21(金) 00:42:10 ID:/bQABOOg
おお、3氏久々に降臨!お待ち申し上げておりましたです。
正体は中町信だったと半ば信じちゃってましたよw
77 :
名無しのオプ:2009/08/21(金) 00:46:36 ID:k3h4rGm9
祝・3氏復活!
78 :
名無しのオプ:2009/08/22(土) 22:40:26 ID:1cF07+ya
祝、復活!!
中町先生ではないにしても、覆面の中は意外な人だったりして
79 :
名無しのオプ:2009/08/23(日) 00:57:13 ID:MKcjK+qq
まだ存命だがリタイヤ状態で暇そうな作家は結構居そうだな
海渡英祐とか草野唯雄とか高柳芳夫とか
80 :
名無しのオプ:2009/08/23(日) 01:25:23 ID:Cb7rM7zm
草野唯雄って存命だったのか
81 :
名無しのオプ:2009/08/23(日) 11:52:50 ID:huDBgbe2
陳舜臣は作家としては現役だけどミステリーに関しては半ば引退って感じだね。
最近『幻の百花双瞳』って短編集を読んだけど、本格ミステリーとして評価しづらいけども、ストーリーの構成力は抜群だなぁ。
特に「ダーク・チェンジ」は、収録作品の中で一番短いけど二転三転する展開と皮肉な結末まで隙がないです。
まあ★★★☆くらいですかね。
82 :
名無しのオプ:2009/08/23(日) 14:45:29 ID:VCFI4LKG
海渡英祐は行方不明って噂を耳にしたことがある。
高柳芳夫は講談社と大喧嘩をしてから他社とも上手くいってない
らしいし、いくつか発表した作品はかなり質が落ちてしまった。
83 :
名無しのオプ:2009/08/23(日) 16:07:10 ID:fjLBayfA
何で大喧嘩したん?
84 :
名無しのオプ:2009/08/23(日) 18:28:18 ID:gaX3RNf+
昨日藤本義一がテレビにチラッと出てたんだけど、
もう耄碌してるな。
男は70代後半になるともう脳燃焼してしまうんじゃないの。
85 :
名無しのオプ:2009/08/23(日) 19:03:34 ID:OMDA9p0P
高柳芳夫は乱歩賞全集にも入ってなかったな
86 :
名無しのオプ:2009/08/23(日) 19:04:48 ID:FDgs4Jbs
海渡英祐は行方不明なのか……。
勝手にもう亡くなったと思っていた。
87 :
名無しのオプ:2009/08/23(日) 23:37:59 ID:NJ4frcNt
まあ行方不明でも亡くなってることもあるだろう
88 :
名無しのオプ:2009/08/24(月) 01:20:56 ID:WSF3AfzL
89 :
名無しのオプ:2009/08/25(火) 22:06:43 ID:ku8zQMk4
最近このへんの時代の本格をよく読んでるんだけど
とにかくどの作家も文章が上手いですね
惚れ惚れする文章をみんな書いてる
こういうことを言うと角が立つけど
最近の本格作家とそこが歴然と違う……
90 :
名無しのオプ:2009/08/25(火) 22:09:49 ID:mrXX8TcZ
そう言われるとテレちゃうのダ!
91 :
名無しのオプ:2009/08/25(火) 23:59:28 ID:AjcTYRR3
梶龍雄さん、おちついて下さい
92 :
名無しのオプ:2009/08/26(水) 00:57:24 ID:byDRIRCM
93 :
名無しのオプ:2009/08/26(水) 23:55:18 ID:xjxsq+H1
行方不明といえば藤本泉はどうなったんだろうねえ
1923年生まれというから存命でも80代半ばだけど
94 :
名無しのオプ:2009/08/27(木) 00:22:40 ID:KjFJAOJC
>>93 前スレでヨーロッパで自殺した、ってあったよ。
詳しくは知らんが……
95 :
名無しのオプ:2009/08/27(木) 00:24:27 ID:KjFJAOJC
てかこの話題定期的に出てるな
どこかに存命作家のテンプレでも作った方がいいのかね
96 :
名無しのオプ:2009/08/27(木) 00:31:29 ID:Utd2W9ta
97 :
名無しのオプ:2009/08/27(木) 01:08:02 ID:/A52M4Se
藤本泉の針の島はありゃ〜怖かった
あんな殺され方やられたらショックで死んでしまいそう
98 :
名無しのオプ:2009/08/27(木) 01:33:11 ID:ipEjGhvH
先日呪いの聖域、初藤本だけど非常に面白かったです
こういうシンプルで淡々と怖い作品って最近ない気がする
99 :
名無しのオプ:2009/08/27(木) 08:36:07 ID:bCH4my4t
>>82 元外交官の高柳芳夫氏、彼のエッセイ読むと判るが、曲がったことが
大嫌いな真面目な性格。
恐らく非は講談社側にあると思われ、無理難題を言われたのだろう。
多くの作家は出版社に楯突かないのだが、筋を通した気骨のある作家。
100 :
名無しのオプ:2009/08/27(木) 08:55:16 ID:evWmvxKr
高柳さんはベルリン駐在のころ、国会議員の接待で
ポン引きまがいのことを強要されて、ほとほといやんなった、って
エッセイに書いてるね。
まあ彼は公務員共済年金もあるし、べつに生活には困らんだろうが、
作家一本でやってるひとで、本も出ない年金もないひとはいったい
どうやって生活してるんだろう?
101 :
名無しのオプ:2009/08/27(木) 09:51:05 ID:/A52M4Se
森雅裕は熱心なファンのお布施で生き延びているらしいが
102 :
名無しのオプ:2009/08/27(木) 12:07:01 ID:GrNSr20r
おっと、殊能センセーの心配はそこまでだ
川野京輔「コールサイン殺人事件」(廣済堂ブルーブックス)★★★★
作者はNHKのラジオ部門に勤めていた人で、1956〜1958年に「宝石」「探偵実話」「オール読切」各誌に
掲載された作品を収めた短編集。なぜか1994年になってノベルス版で出版されています。
先ず「消えた街」、有名女優のそっくりさんコンテストに優勝した女性が行方不明に・・・。まだアマチュ
アの習作レベル。アリバイ工作もミエミエだし、構成も拙く重大なヒントが後出しでダメ。
「団兵船の聖女達」がベストかな。終戦直後の広島・呉で元パンパンの女性らが沖合に停泊する外国
船で行われるクリスマスイブのパーティの手伝いに行くが、陸に残してきた仲間が殺される。船にい
た連中にはアリバイがあるのだが・・・。アリバイ工作も面白いが、題材のユニークさで読ませます。
「狙われた女」。8月6日の広島が舞台。ミステリ的には大したものではないが、原爆投下から十数年
しか経っていない当時の原爆の日の描写が興味ぶかいです。
表題作はラジオ局のアナウンサールームで起きた密室殺人。良くあるトリックだが当時は目新しかっ
たのでしょうね。
「彼女は時報に殺される」は時報のアナウンス直後に感電死した女性アナウンサーの謎。機械的過ぎて
面白くない。「女性アナウンサー着任せず」も同様。
「夜行列車殺人事件」は他のラジオ・テレビ局を舞台にした作品と異なった鉄道物。中国山地を走る
木次線で起きた通り魔殺人。スイッチバックを活かして犯人の意外性を狙った良作。
「青い亡霊」、ラジオドラマ用の小道具箱から出てきた生首。伏線不足。
・・・全体的に、作者の勤務先でもあるラジオ・テレビ局の題材は当時としては斬新だったのでしょう
が今読むと古さが目立つし、枚数の関係もあって十分な伏線を張れていないのは残念。とはいえ、
アマチュアが楽しんで書いた「本格」揃いで好感が持てました。
ということで甘い評価ですが★4つ。
104 :
名無しのオプ:2009/08/29(土) 13:32:53 ID:Ta2W1zte
高木彬光「偽装工作」(1978年 角川文庫)★★★
グズ茂こと近松茂道検事シリーズの第3短編集、神戸地検編。
「寒帯魚」会社会長が殺されたマンションの部屋は冷房工作のあとストーブがたかれていた。
関係者が多すぎゴチャゴチャした印象の力作中編。「完全の限界」倒叙ものと思わせて最後に
ひとひねり。「弾道の迷路」準密室状況のなかの射殺死体、ほか1編。
このシリーズはハッタリの演出がなく地味な作品が多いです。
近松検事シリーズは長編4作、短編集4作で私の評価は、
長編 黒白の虹★★★
黒白の囮★★★★☆
霧の罠 ★★★☆
追われる検事★★★
短編集 捜査検事★★★★
波止場の捜査検事★★★☆
最後の自白★★☆
105 :
名無しのオプ:2009/09/14(月) 00:39:25 ID:55/bftPb
>>104 冷房とストーブをつかうトリックってこの年代の他の作品でも
いくつか読んだことあるな。
クーラーが普及してきたころだからだろうか。
106 :
名無しのオプ:2009/09/14(月) 08:21:54 ID:95ndgawj
間羊太郎の「ミステリー百科事典」
って面白いよね。
この人SFとかSM 小説書いてた人でしょ。
もう10年以上前に死んだらしいが。
107 :
名無しのオプ:2009/09/16(水) 14:23:08 ID:8weQi3lx
いま、草野唯雄の「支笏湖殺人事件」を読んでるんだけど、なかなか面白い。
で、初代スレ3氏がどのような草野作品を評価しているか調べてみたら、
評価が高いのは、初代スレの「3」で挙げた、「影の斜坑」「瀬戸内海殺人事件」だけみたい。
初代スレ3氏は草野唯雄があんまり好きではないのかな?
他の方が「もう一人の乗客」、「女相続人」、「北の廃坑」、「寝台特急『はやぶさ』が止まった」、
「爆殺予告」などを挙げているので、次は上記2冊と、このあたりから読んでみようと思いますが、
他にお勧めの作品はありますか?
108 :
名無しのオプ:2009/09/16(水) 16:28:06 ID:AhXt766U
草野ってすんごい、エログロ系のヘンな小説書いてなかったかな。
109 :
名無しのオプ:2009/09/16(水) 17:30:53 ID:OkCJsk+2
「甦った脳髄」はお勧めだ
110 :
名無しのオプ:2009/09/16(水) 19:30:21 ID:lPx4YZZ9
111 :
名無しのオプ:2009/09/16(水) 20:16:21 ID:LANCmAgh
『最優秀犯罪賞』は?
112 :
名無しのオプ:2009/09/17(木) 08:23:15 ID:IkDrkQx2
「山口線貴婦人号」もエロだった気がする
113 :
名無しのオプ:2009/10/04(日) 03:08:35 ID:AftFvAfv
>>111 それは鷹見緋沙子じゃね? 同題作品があったら申し訳ないが。
114 :
名無しのオプ:2009/10/04(日) 07:32:20 ID:8yslx6T7
天藤真、大谷羊太郎、草野の合同の別名義なんだよ
115 :
名無しのオプ:2009/10/04(日) 09:52:38 ID:1+GDYRNl
「最優秀犯罪賞」って作者判明してたっけ?
116 :
名無しのオプ:2009/10/04(日) 10:40:14 ID:8yslx6T7
フラッシュバックに「草野が執筆を担当」って書いてあるぞ
で、『わが師はサタン』と短編『覆面レクイエム』が天藤で
あとは全部大谷らしい
一応みたらウィキペディアにもそう書いてあるな
117 :
名無しのオプ:2009/10/04(日) 14:29:12 ID:1+GDYRNl
そうなのか
ご教示d
118 :
名無しのオプ:2009/10/05(月) 03:49:53 ID:MV4FaYoz
炭鉱がネタで出てきたら草野と考えてまず間違いない
119 :
名無しのオプ:2009/10/06(火) 23:56:20 ID:OFH+YG3o
スレが伸びてるから大元帥閣下がいらっしゃったのかと思えば
120 :
名無しのオプ:2009/10/16(金) 14:01:06 ID:tnubTFBB
「フラッシュ・バック」が出てから、このスレの存在意義も薄れてきたかな、
ここらで、わたしの今年読んだ対象期の作品をあげておきます。
陳舜臣「失われた背景」(中公文庫 1973年)★★★☆
香港の東方文明研究所から日本支部に派遣された中国人2名と日本人女性研究員
が殺人事件に巻き込まれ・・文庫で600ページを超える大作。発端の日中戦争時の
北閥将軍の暗殺や書画贋作のエピソードで期待をもたせたが殺人動機と結末があり
きたり。やはり新聞連載で本格ミステリは無理があったようです。
佐野洋「海を渡る牙」(文春文庫 1978年)★★★☆
動物写真家を主人公にした連作ミステリ。前半の3作は撮影先の壱岐や北海道山中
を舞台としトリック的にも良作、特に表題作は星5つ。後半作はいきぎれの感あり。
あと、森雅裕「椿姫をみませんか」海渡「忍びよる影」「罠の中の八人」藤本泉
「呪いの聖女」皆川博子「トマトゲーム」がよかった。
121 :
名無しのオプ:2009/10/23(金) 02:13:58 ID:j/rSXH3Z
「北の旅 殺意の雫石」のドラマ版がBSで再放送するから
チェックしてみるよ
122 :
名無しのオプ:2009/11/21(土) 11:31:11 ID:nCSLWbJn
今度こそ死んだかな
久しぶりです。
和久峻三「円空の鉈」(ケイブンシャ文庫)★★★☆
作者が「仮面法廷」で乱歩賞を取る前、主に1960年代に発表された初期短編集。
「紅い月」は1960年の旧「宝石」誌に掲載されたデビュー作。大学病院で起きた教授殺し。
被害者はエレベーターの穴に落ちて死んだのだが・・・。錯覚トリックだが、そんなに上手く
行くかなあ。
「金の卵」は不気味な味わいのホラー風の短編。隣家に越してきた老夫婦。元大学教授だっ
たが奇妙な研究に取りつかれて大学を追われたのだという。やがて近所でシナリオライター
が殺される事件が起きるのだが・・・。ラストのドンデン返しが鮮やかな作品。
表題作は、1963年のエラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン短編コンテスト入選作。近江
の古寺に伝わる円空仏を巡る話。仏像の内部から血まみれの鉈を発見した新聞記者が真相を追
うのだが・・・。真犯人がかなり意外な人物だったり、アリバイ工作に工夫したり頑張っているの
ですが、全体に伏線が不足気味。
「港に雨の降る如く」は1967年発表の中編の力作。瀬戸内海で衝突事故を起こしたタンカー。
船主の親友である弁護士が調査に乗り出す。ぶつかった相手による陰謀か、或いは保険金目当
ての犯行で内部に犯人がいるのか。だがタンカーの積荷にも疑惑が持ち上がり・・・。二転三転
する終盤、ちょっとした小道具によるトリックとその伏線、海運業界の実情や海難審判の法律
知識なども総動員した良作なのですが、小説の構成がギコチなく、アマチュア丸出しの部分が
あり残念な出来。
「飢えた魂」は妊娠しているのに本人には全く自覚がない娘を巡る話、「ブルー・ナムバー」は外交
官用のクルマのナンバープレートを巡る話。
全体的にアマチュア時代だったのか小説の構成や文章の出来が悪い部分もありますが、かなり
「本格」を意識した作品集だと思います。
由良三郎「ある化学者の殺人」(廣済堂文庫)★★☆
1985年、作者初の短編集。
先ずは表題作。財産目当てで年上の女と結婚した化学者。パーティの席上、意表を突いた毒殺
トリックで妻を死に至らしめるのだが・・・。鮎川哲也の短編に似た味わいの倒叙物の佳作。毒殺
手段もユニークだが、犯人の手抜かりの方もなかなか盲点を衝いた見事なもの。
「知ってしまえば」は娘の交通事故死をきっかけに起きた悲劇。血液型のネタですが、これは
先の展開が全て読めてしまった。
「たわむれの真偽」は破格の条件で屋敷に下宿することになった大学生。年の離れた夫婦にから
かわれていたことを知り、ガス中毒を起こしていた夫を見殺しにするが・・・。これも倒叙物で、
どこに手抜かりがあったかを当てるもの、やはり盲点を突いてくる良作。
「盗作の結末」は作家志望だが芽の出ない男。ひょんなことから別の作家志望の男と知り合うの
だが・・・。これはオチまでバレバレ。
「通じない話」は退職した大学教授、ボソボソとした話し方が仇となって事件に巻き込まれる・・・。
まあこんなものか。
「贋のダイヤモンド」「色ざんげ」「初老刑事の哀歓」、いずれもオチに工夫を凝らしてはいるもの
の、やはり古めかしさは免れていないです。
前半の倒叙物2編ほどを除いてはコレといったものはないです。
渡辺淳一「桐に赤い花が咲く」(集英社文庫)★★☆
ミステリ界に対しては何かと辛口の作家ですが、ご本人は一体どんなミステリを書いたのか、読ん
でみました。1971年に雑誌発表のまま未刊行だったらしい長編。
病院長の愛人・小室聖子が惨殺された。死体は局部を執拗に刺されるという凄惨なものだった。警
視庁の桑島刑事は事件を追うが、病院長にはアリバイが証明され、もう一人の容疑者である彼女の
許婚だという男が失踪し、行方が分からないまま迷宮入りに。一年数ヶ月後、今度は男が局部をメッ
タ刺しされるという事件が勃発、現場から逃げ去った女を桑島は追う。二つの事件の手口が似てい
るのは何故なのか・・・。
第一の事件で容疑者の行方が全く掴めなかった理由、そして第二の事件との関連など、謎解きの部
分は意外と盛り込まれており、特に桑島刑事の捜査の描写なども危なげなく丹念に描かれており、
二流・三流の社会派ミステリに比べれば格段に優れていると思いました。しかし、真犯人の設定は、
まあ何だろうなあ・・・。1970年代前半には余り知られていないことで、当時の読者はその真相に驚
いたのかも知れないが、今じゃ丸分かりでしょうね。まあ作者の狙いはその意外性よりも、真犯人
の不可解な心理を描くことにあったのだとは思いますが。
そういえば、ちょっと似たアイディアの作品を嵯峨島昭が書いていますね。嵯峨島の方がよりトリ
ッキーなネタに仕上がっています。
お勧めはしませんが、ヒマがあったら読む価値はあると思います。
126 :
名無しのオプ:2010/01/03(日) 14:16:45 ID:WOqrimmt
乙。
笹沢左保「新大岡政談」(新潮文庫)★★★★
ご存知南町奉行・大岡越前守と、居候の町人侍・水木新八郎が主人公、大岡越前は重度の頭痛
持ちで突然の発作に悩まされており、それを隠してお白州を仕切らねばならない、という設定
の1979年の連作集。
「嗤った御落胤」は幕府老中のご落胤を騙る男が二人も登場、その狙いは何なのか。初登場だか
らこんなものでしょうか。トリッキーというより心理的な駆け引きに絡む話。
「消えた生き証人」はアイリッシュ「幻の女」ネタ。旗本の次男坊と女中殺しの嫌疑を掛けられ
た商人のアリバイを証明してくれるはずの町娘は何処に・・・。
「病める人質」は、衆人環視下にある南町奉行所から大岡越前が謎の消失。その動機と真相が意
表を突いています。
「怪談行人坂」、井戸に飛び込み自殺した女性の仇が相次いで死亡。或る古典的なトリックです。
「巾着切の爪」も連続殺人。これも古典的なトリックを扱ったもの。
「鬼と仏の吟味」は、殺人現場を目撃した瀕死の老女。下手人が誰なのかをハッキリ言わないのだ
が、その謎めいた手掛かりからの推理が面白い。
「石地蔵御用」は、閂の掛けられた土蔵で刺殺された番頭。密室トリックを扱っています。
「お裁き剣法」は大岡越前と浪人の心理的な駆け引き、「お白州の貴公子」も同様だが、旗本の次・
三男坊らが結成した騎馬の珍走団、というのが笑わせるw
ラスト「二人の天一坊」は、有名な天一坊事件をモデルに、実はもう一人、本当に将軍のご落胤が
いた、という話。最後に明らかになるアッと驚く真相と、それによって水木と大岡越前が迎えるラス
トまで上手く纏まった佳作。
以上全10話。ミステリとしてもなかなかの出来栄えです。
笹沢左保「お前の名は地獄」(光文社文庫)★★☆
1985年の「地獄」シリーズ第2作。
商社マンの小山田は、不倫相手の糸路に結婚を迫られ、強気の妻・多恵からは離婚を拒否されて
板ばさみになっていた。ところが多恵が突如失踪し、自宅には糸路の姿が。多恵から電話があっ
て自宅に来い、と言われたのだという。行方不明の多恵はやがて群馬県の山中で遺体で発見され
る。犯人は糸路か、或いは多恵の昔の恋人・柳橋か、それとも、多恵と仲の悪かった小山田の母
とその弟子か。小山田の疑惑は糸路に向かうのだが・・・。
真犯人の意外性を狙った作品なのですが、冒頭に起こる小事件が、やや露骨であるため、或る真
相を推測されやすくなってしまったのが残念。真犯人の描き方も、カンの良い読者には気付かれ
てしまうでしょう。意気込みは買いますが、出来は決して良くないです。
若山三郎「遅すぎた殺人事件」(集英社コバルト文庫)(採点不能)
1984年の長編。
大学浪人生の梶田は友人の高藤に誘われ、軽井沢の別荘を訪れるが、高藤の留守の間に、高藤に
間違われて誘拐されてしまう。人違いに気付いた犯人に釈放されたのも束の間、今度は高藤の家
の元お手伝いの女性が殺されてしまう。高藤は被害者と関係があり、脅迫を受けており、また彼
女の伯父は高藤の父親の経営する会社を横領でクビになっていた。果たして事件の真相は・・・。
ストーリーは中盤過ぎまでノホホンと展開して、どうにも退屈なのですが、終盤になっていきな
り連続殺人事件に発展、重要人物がアッサリ殺されてしまいます。なんだこの展開は。タイトル
どおり遅すぎるよw
そして全ての真相が明らかになるが、意外性を狙ったのは分かりますが、どうもトリッキーな面
白みに欠けます。一応、「本格」の体裁を取ってはいますが、どこかタガの外れた怪作でした。
山村正夫「読者への挑戦−12の推理パズル」(朝日ソノラマ文庫)★★★
1976年の、小学生向け推理クイズ形式の連作集。小学校6年生の史郎君と、殉職した彼の父親の
部下だった永井刑事のコンビが事件を解決するものです。
第1話「死の分譲住宅」は、分譲住宅の空き家で起きた殺人事件。密室&アリバイ崩し物。
第2話「怪獣沼の殺人」、犯行時間の欺瞞に関するもの。
第3話「産業スパイはだれだ」足跡トリックとみせて実は・・・。真犯人の意外性。
第4話「ぼくは殺される」は意外な凶器。
第5話「脅迫魔」は早業殺人の一種でしょうか。
第6話「消えた短剣」も意外な凶器と密室を組み合わせたもの。
第7話「幽霊犯人」は少々凝ったエレベーターを使ったトリックが出てきます。
第8話「影のアリバイ」は古典的なネタ。
第9話「めっかちの車」は溺死に関するトリック。
第10話「白樺荘の怪事件」事件現場に関する偽装。
第11話「死を呼ぶ祭り」は死亡時間に関するトリック。
第12話「逃げ出したカナリア」はステレオと電話に関するトリック。
・・・以上12話。第3話を除いて11問正解。だってカンタンすぎるんだもの。
「季節はずれで暖炉に火がついていたが、凶器はどこに消えたのか」「電話機のフックの横に
濡れた跡が・・・」ってレベルの謎解きだものなあ・・・。そして「めっかち」「キチガイ」と
いったステキな差別用語の連発・・・。まあ楽しめましたが。
斎藤栄「津軽海峡の愛と殺人」(徳間文庫)★★★☆
1973年のノンシリーズの長編。
青函連絡船の寝台で、出張中の煙草専売公団の本部長が殺された。皮肉にもニコチン毒による毒殺
であったが、同室だった挙動不審の男が船内から姿を消してしまう。その男が犯人なのか、またど
うやって洋上の密室である連絡船から消失したのか。函館鉄道公安室の公安官・青柳は、捜査中に
知り合った被害者の美貌の妻に次第に魅かれてゆくのだが、彼女もまた何か秘密を抱えているらしく、
また被害者と同行していた部下にも疑惑が・・・。
ちょっと珍しい雰囲気の作品で、容疑者の女性に魅かれる主人公が丁寧に描かれています。また冒
頭から「仕掛け」があるのは嬉しいのですが、フェアな描写とはいえ、ややクド過ぎたようで、現代
の読者には感づかれ易くなっているのが残念なところ。あとラストの二重のドンデン返しは不要で
はないかと思いますね。
他にもアリバイ工作やらお得意の棋譜に絡めた暗号解読などもあり、知名度は高くないし、コレと
いった目玉もなく、可もなく不可もない作品でしょうが、それなりに読ませる作品です。
笹沢左保「愛人はやさしく殺せ」(徳間文庫)★★★☆
1980年の「三種の神器殺人事件」を改題した長編。
莫大な山林を保有する富豪の小木曽善造は三人も愛人兼秘書を抱えていたが、彼女らが相次いで
殺されてしまう。一人は九州・西都で、もう一人は岐阜県関市で、そして三人目は福島の喜多方
で。そしていずれの場合も現地に同行していた小木曾にはアリバイが無く、限りなくクロに近い
印象だった。彼の一人息子・高広から相談を受けた刑事の春日は、病気療養中であるにも関わら
ず事件の渦中に飛び込んでゆくのだが・・・。
序盤から中盤まで、単なるサスペンスとしか思えない展開が続き、おまけに、日本神話の「三種の
神器」の見立て趣向も面白くなく、こりゃ駄作かな・・・と思っていたのですが、終盤、或る意外
な人物が容疑者として浮上するや、突如アリバイ崩し物へと変貌します。そのトリックは決して
秀逸とは言えないのですが、作者も色々な手を思いつくよなあ、と感心しました。あと小技です
が、或る人物の手紙に関する錯誤もシブく効いています。この種の「手紙の文面が実は別のことを
指している」というトリックもまた作者の得意な分野ですね。
もっとも、見立て趣向の方は結局大したものではなかったので減点ですが、それなりに楽しめる
水準の作品でした。
森村誠一「恐怖の骨格」(青樹社文庫)(採点不能)
1973年の長編。
日本最大の財閥・紀尾井グループのワンマン会長の二人の娘を乗せた自家用飛行機が北アルプス・
立山付近の谷に墜落。二人の娘の婚約者である佐多と島岡は、生い先短い会長の遺産と、グループ
内での出世競争のため、別々に救助隊を結成、それぞれの婚約者の救助に乗り出す。佐多に雇われ
たベテラン登山家・高階の案内で佐多のパーティは事件現場に到着、奇跡的に生存していた佐多の
婚約者の娘と同行者の男を発見する。一方、そこに島岡らのパーティも到着するが、彼の婚約者と
パイロットは死亡していた。そして悪天候の中、谷から脱出できない一行8名を狙って、連続殺人
が勃発する。遭難寸前の過酷な状況の中、高階は真犯人は誰なのか追及するのだが・・・。
終盤に入るまでは非常に面白かったです。吹雪に閉ざされた冬山で起きる連続殺人、読んでいるだ
けで、こっちも凍傷になりそうな凄惨な描写も実に迫力があり、一人、また一人と殺されてゆく典
型的なクローズド・サークル物の展開で、主人公・高階が真犯人を絞ってゆく推理も読み応えがあ
ります。
・・・しかし、「本格」仕立てもここまで。
無事に死の谷を脱出できた生き残りのメンバーを待ち構えていたのがアレだったとは・・・。プロロー
グでソレを匂わせていたとは言え、余りにもムチャというかトンデモな展開です。しかし、1970年
代前半の当時、既にアレの問題を取り上げていたことには少々驚きました。アレの問題は、ここ二十
年弱ぐらいの話かと思っていたので。
そしてお決まりの、後味のわる〜いエピローグへ。何だよコレはw
笹沢左保「愛人関係」(光文社文庫)★★☆
1976年の女性週刊誌に連載された長編。
老舗和菓子屋の長女で総合商社に勤める剣城夕子は、会社の妻子ある上司・伊集院と不倫の関係に
あった。だが伊集院の妻が「夕子に刺された」と言い残して殺害される。アリバイのない夕子は東北・
十和田湖への逃避行に旅立つ。だが彼女を追ってきた婚約者・磯部もまた、東京に帰った直後に殺
されてしまう。一体真犯人は誰なのか・・・。
一般の女性週刊誌に連載されたこともあってか、謎解きとしては薄味なのですが、それでも真犯人
の意外性はかなりのものがあります。しかし、意外性を狙った余り、決定的な箇所での真犯人の行
動に違和感を感じざるを得ません。あの場合にそんな行動をとるかなあ、といったところ。あと冒
頭の小事件が伏線として後半を盛り上げ損なった感じも。凡作でしょうね。
本岡類「白い手の錬金術」(新潮社)★★★☆
1989年の高月警部補ものの長編。
出所間もないサギ師が殺害される。被害者の男は生前、「絶対にバレない究極のサギをやっている」
と言い残していた。究極のサギとは一体何か、そして事件の発見者が聞いたダイイングメッセージ
「あぶない、あぶない」は何を意味するのか。手掛かりが掴めないまま迷宮入りが囁かれる中、警視
庁捜査一課で課長直属の独立捜査官である高月警部補と新人刑事・荻島のコンビが事件の真相を追う
が・・・。
読みやすくて、非常に楽しませてもらいましたが、「絶対にバレない究極のサギ」の真相は、アイディ
アは秀逸なものの、小説中でのヒントの出し方が甘かったのではないかなあ。プロローグの伏線に
は工夫の余地があるでしょう。ダイイングメッセージも肩透かし。結末の付け方も、もうひとヒネ
り欲しいかな。イヤミなく纏まった良作だとは思いますが。
小林久三「真夏の妖雪」(講談社文庫)★★★☆
1979年の歴史・時代物で固めた短編集。
「焼跡の兄妹」は関東大震災に取材した作品、「海軍某重大事件」はシーメンス事件を題材にした
作品だが、ミステリ的にはどちらも謎解きの部分が弱い。
「血の絆」は明治時代の赤痢の流行と明治天皇の陸軍大演習を絡めた秀作。赤痢の発生が疑われる
村で駐在所の巡査が密室内で殺された真相とは。この時代ならではの動機と密室トリックが不可
分に結びついた佳作。
「雪の花火」は明治時代の京都が舞台。老人が殺され、その妾が逮捕される。彼女が犯人ではない
と信じる京大生、付近で見かけた謎の男とは・・・。この時代ならではの或る風俗に絡めた、これも
トリッキーな作品。
「『解体新書』異聞」は杉田玄白に先駆けて解剖を行ったという古河藩の医師に取材した作品。蘭学
の流行で売れなくなった漢方医を主人公に、これもトリッキーな趣向が楽しめます。
そして表題作はかなりの力作。同じく古河藩を舞台に、小伝馬町から脱獄した高野長英が藩内に潜
伏中との情報を得て、嫌われ者の岡っ引きが探索を進めるが、子分の下っ引きが何者かに殺されて
しまう。その死体は真夏にも関わらず雪の塊を掴んでいた・・・。主人公の嫌われ者の岡っ引きのキャ
ラが実に秀逸。高野長英を巡る黒幕や江戸からの刺客の正体、そして雪の謎など、たっぷり楽しめ
ます。
この作者の短編集では「火の鈴」と並ぶ傑作でしょう。
笹沢左保「地獄を嗤う日光路」(文春文庫)★★★★
1972年に刊行された、心臓病みの渡世人・小仏の新二郎が、命の恩人であるお染という女性を探して
旅をする、という趣向の連作集。主人公は木枯し紋次郎と一心同体といえるキャラですね。
第1話「陽に背を向けた房州路」、新二郎はお染が働いていたという木更津へ向かうが空振りに終る。
そこで知り合った名主の親子に頼まれ、村を荒らす男たちを退治に行くが・・・。これは屈指の傑作。
冒頭の飯屋のやり取りから、或る脇役の扱いなどの伏線の見事さと結末の意外性。間然とするとこ
ろのない構成で読ませます。ダメ押しのような結末の付け方も申し分なし。
第2話「月夜に吼えた遠州路」、新二郎はお染の噂を追って遠州へ。そこには昔世話になった親分一家
がいるのだが、親分は殺され、後を継いだ二代目は行方をくらましたという。そして新二郎は初代
親分を殺した疑いを子分らにかけられ、命を狙われるのだが・・・。ダイイングメッセージ物の良作。
第3話「飛んで火に入る相州路」は、相模・大山山麓の茶店に立てこもった盗賊一味。人質になった
茶店の女房がお染だという噂を聞いた新二郎は、単身、砦のような岩山の山頂にある茶店に乗り込
む・・・。これも一人二役や素朴なアリバイ工作、密室的な趣向が楽しい作品。
最終話の表題作で、新二郎はとうとうお染に出会うのだが・・・。悲劇的な結末は予想できましたが、
ここでもミステリ的な趣向が活きています。
本作も佳作といって良いでしょう。本書収録作の一部は「木枯し紋次郎」のテレビ版で、紋次郎物と
して放映されたようです。
笹沢左保「雪に花散る奥州路」(文春文庫)★★★★
1971年の、木枯し紋次郎シリーズと並行して描かれた、一話完結の渡世人物の短編集。
表題作は、下部温泉で刀傷の養生をしている渡世人に助っ人を依頼してきた男、摘の眼を欺くため
に二人が入れ替わって奥州街道を行くのだが・・・。真犯人の意外性など、ミステリの趣向を活かし
ています。
「狂女が唄う信州路」は、前半の小伝馬町の牢内の凄惨な描写が、後半、或る人物の意外な正体に
繋がっています。
「木っ端が燃えた上州路」は信州から出てきた三下が、親分と対立する隣町の親分毒殺の陰謀を嗅
ぎ付ける。対立する二人の手打ちの式に単身乗り込むが実は・・・。これも或るミスディレクションが
結末の意外性を盛り上げています。
「峠に哭いた甲州路」がベスト。甲府から富士に抜ける山里で知り合った娘。村を追い出された男
が仕返しに来るので助けてほしいという娘をいったんは振り切って旅立った渡世人だったが・・・。
真犯人の意外性もさることながら、何ともやるせない結末が胸を打ちます。
以上4編、謎解きや伏線に弱い部分もあるが、いずれも構成の基本は本格ミステリそのもの。
福田洋「推理小説殺人事件」(廣済堂ブルーブックス)★★☆
1985年の長編。
大阪のデザイン会社に勤める矢川清子は、山口県の田舎に隠棲していた父親が突如東京に行き、
マンションの非常階段から転落死した知らせを受ける。父親は何の目的で東京に行ったのか。
単なる事故死とは思えない宗像刑事は、教師をしていた被害者のかつての教え子たちを訪ねる。
一方、清子は父親が若い頃に書いたミステリが掲載された同人誌を発見する。このミステリは
事件とどう関わっているのか・・・。
被害者の書斎から古いミステリや旧「宝石」誌が出てくるなど、ミステリ好きの琴線に触れる場面
があったり、被害者が書いたミステリが作中作として出てくるのも面白いのですが、肝心の本
編の方がまるでダメ。何だそのお粗末なアリバイ工作は。それから、犯人の設定もなっていない。
一方、作中作「紅の血」は、終戦直前に学徒動員された工場で中学生が射殺される話。こっちは密室
の趣向やら消えた凶器の謎など、大したトリックではないけど本格風のアイディアもあり、結構
面白かったですね。
138 :
名無しのオプ:2010/01/04(月) 21:08:04 ID:fROLxKI3
コピペ爆撃かと思ったら3氏キター
139 :
名無しのオプ:2010/01/04(月) 22:05:38 ID:wVVMWF1Q
こんな良スレがあったとは!支援支援!
140 :
名無しのオプ:2010/01/04(月) 22:53:46 ID:8lTAGCg3
やっと規制解除された
3師の書き込みはお年玉だなw
141 :
名無しのオプ:2010/01/05(火) 07:09:44 ID:JG4cqpDU
しかしこういった読むのに苦痛を感じる推理小説をこれほどたくさん
読むとは、一種の修行僧ですね。
私にはできません。金も時間もない。
142 :
名無しのオプ:2010/01/05(火) 22:42:18 ID:/Qjczjmd
恐怖の骨格、怖いものなんとやらで読みたいww
結城昌治「炎の終り」(角川文庫)★★★☆
「暗い落日」(前スレ参照)、「公園には誰もいない」(フラッシュバック参照)に続く1969年の真木シリー
ズ第3作。
「私」こと真木は、バーで見かけた青柳峰子という元女優から、家出した娘の捜索を依頼される。娘の
由利は直ぐに見つかるのだが、家には帰らないと言って行方をくらましてしまう。やがて、芸能記者
だった男が殺される事件が発生、被害者は、真木が以前に峰子に呼ばれたマンションで見かけた男だ
った。そして由利の恋人もまた殺されてしまう・・・。
大掛かりなトリックがある訳ではないですが、中盤の或る場面における「私」の視点を用いた「錯誤」
に基づくアリバイ工作が後半で効いています。謎解き自体は単純なものですが、肝心のところに来る
と敵役の刑事にジャマされたり、と容易に底を割らせない工夫も楽しい。「私」の視点に立っている以
上、展開は飽くまでフェアになっています。ただもうちょっと謎解きに複雑さが欲しいところですが・・・。
島田一男「海抜455」(徳間文庫)★★★
鉄道公安官・海堂次郎シリーズ、1967年の中・短編集。
先ずは表題の中編。豪雨の東海道線で起きた事故のため熱海に応援に来た海堂らは、沼津駅に勤務し
ていた元部下の殺害事件に遭遇。被害者は母親が地元の新興宗教にのめり込み、土地を売り払うなど
していたことに悩んでいたという。犯人は母親か、或いは教団幹部らか。だが容疑者らにはアリバイ
があった・・・。
教団側の或る動きに対する「錯誤」と、地味なトリックが単純ながらも効いています。まあそれだけ
の作品ですけど。
短編「停止信号」は、秋葉原駅で線路に突き落とされて死んだ男。被害者は国鉄の新線設置に関する
書類を持っていたが、それはまったくのデタラメだった。土地買収に絡む詐欺事件なのか・・・。
これも単純なアリバイ工作物ですが、冒頭に大胆なヒントがあるのが面白い。
春日彦二「殺意の黙示録」(廣済堂ブルーブックス)(採点拒否)
1985年の長編。
元刑事で保険会社の調査官を務める戸倉は、学生時代の旧友・三田村と再会する。彼は有名な
古美術商の中原が愛人のモデル朝丘万亀子を保険金目当てで焼死させたと噂されるスキャンダル
を追っていた。だが容疑者には鉄壁のアリバイがあった。二人が追及を進めるうち、事態は意外
な方向へ・・・。
序盤で事件の目撃者が殺されて、その犯行が本筋とは関係ない理由で、犯人も直ぐ捕まってしま
うなど、かなり混乱気味のスタート。その後も続々と関係者が登場しては殺されてゆく・・・。
しかもその犯人が事件ごとにみんな違うし、直ぐに逮捕される、って、こりゃ一体何だ??
残り1/4ぐらいになって、ようやく本筋に絡む密室殺人事件が登場、しかも被害者は・・・。
そしてその犯人に至っては・・・。もう笑うしかないです。アンタ一体誰だよ?
なお密室トリックも噴飯もの。ちょっと面白い小道具ではありますが、そんな手間かけて、
どうやって事後に回収できたのだろうか?そうそう、捜査本部に「密室研究会」が設置されて、
刑事たちがトリックの解明に頭を悩ます場面も出てきた。ここは笑う場面ですねマジメに書い
たんじゃないですねそうですかw
もはや「採点不能」では済まない出来、「採点拒否」しますw
・・・作者は昭和34年だかに「赤と黒殺人事件」という作品で乱歩賞候補になったらしく、その後、
TVドラマ「部長刑事」のシナリオも担当していたらしいです。「部長刑事」、小学生時代に数年
間、大阪に住んでいた頃に記憶しているけど、大阪ガス提供の、重くて暗〜い雰囲気のドラマだっ
たなあ。パルナスのCMと並ぶトラウマだよw
とにかく、あらすじ紹介にあった「本格推理」「密室殺人」に騙された俺がバカでした・・・。orz
笹沢左保「夕映えに死す」(徳間文庫)★★★
1975年の、様々な渡世人の死に至るまでの物語を、「夕映え」の単語を入れたタイトルで統一した
連作集。
それぞれにミステリ風の意外性は盛り込まれているのですが、本格ミステリとして評価できそうな
のは、最終話の「夕映えに狼が死んだ」。新島に島流しになった無頼漢・離れ山の新八が島抜けして
戻ってきた。かつて彼に親分を殺された甲州の弱小一家は戦々恐々とするが、たまたま客分として
一家に草鞋を脱いでいた冴えない男が、何と新八を返り討ちにしてしまう。更にその冴えない男は、
新八が行こうとしていた中山道・信濃追分へ代わりに向かう。彼の意図は一体何なのか・・・。結末の
やり取りでアッと驚きました。そんなバカな、と思って肝心の箇所を見ると・・・、なるほど、出来る
だけフェアにしようとしていますね。でも厳密にはアンフェアじゃないかなあ。まあ、意外性に満
ちた佳品ではあります。
笹沢左保「夢剣」(光文社文庫)★★★
1971〜1988年に発表された時代小説を収めた短編集。
ミステリ的な観点から言うと、先ず「夏の焚火」。上州の宿場町で渡世人の用心棒に成り下がった
剣の名手・神谷。だが彼のもとに謎の手紙が届く。神谷は、自分よりも上手の剣の使い手がもうす
ぐやって来て、自分は切り殺されてしまう、と告げ、そのとおりになってしまう・・・。これはフィク
ションの剣術小説ならではのスゴいトリックが冴えています。現実には不可能だろうと思うけど、
チェスタートンもビックリのバカミスといった味わい。
あと「雪の観音寺峠」。三年前に親分を殺し、その子分に「三年経ったら観音寺峠に来い、腕を上げて
いたら大人しく斬られてやる」と言い残した渡世人。そして三年、峠にやって来た渡世人はあの時
の子分と決闘するが・・・。これは笹沢の渡世人小説では良くあるパターンの或るトリックを使ってい
ますが、描写がフェアなので楽しめました。
三好徹「コンピュータの身代金」(光文社文庫)★★★★
1981年の「身代金」シリーズ第一弾。
謎の天才犯罪者・泉が計画した、東西銀行のオンライン・コンピュータを「人質」にしての現金10
億円強奪計画。東西銀行のワンマン会長が病に倒れて派閥争いが激化する中、セキュリティの盲点
を突いた泉の計画は果たして成功するのか・・・。
なるほど、作者の1980年代における代表作というだけのことはあります。今ではもっとセキュリティ
は厳重でしょうが、当時にしては大胆な手口と、トリッキーな趣向の数々。特に、「重さ150キロ
になる10億円の現金をどうやって持ち去るのか」の意表を突いたアイディアは見事。これは全く予
想できませんでした。
難点を言えば、結末の付け方があっけなさ過ぎる点。もう一寸、追い込んでほしかったです。いずれ
にせよ、厳密には「本格」とは言い難いけど佳作でしょう。
笹沢左保「翳った砂丘」(角川文庫)★★☆
1962年のごく初期の長編。
デパートに勤める初音江津子は上司の外商部長・須藤と不倫の関係にあったが、須藤は出張中に失踪
の上、鳥取砂丘で他殺死体となって発見される。彼はデパートの或るスキャンダルに絡んでいたらし
く、その秘密を知っているのではないかと疑った重役陣と衝突した江津子は会社を辞め、一人、須藤
の死の謎を追及して、彼の失踪までの足取りを追う。やがて須藤の伯父が毒殺され、事態は意外な展
開に・・・。
ごく初期の作品ですが、当時の傑作群が、様々なトリックを多用していたのに対し、本作はシンプル
にトリックは一つだけ。真犯人の或る工作に関してのもので、作者は自信があったようですが、面白
さという点では今ひとつの出来。しかもかなり危なっかしい「賭け」ではないかと・・・。やはり傑作
ひしめく初期傑作群の中では見劣りのする作品ではないかと思います。
池田雄一「瀬戸大橋3.64秒の殺意」(徳間ノベルス)★★★☆
1992年の長編。
一代で「カリフラワーグループ」という一大コンツェルンを築いた苅部良和は、忘れ形見で米国に
暮らす一人娘を無理やり結婚させようと、傘下の零細旅行代理店に勤める阿久津に、娘の有美子
を帰国させるよう指示する。だが何者かが彼女の命を狙っているらしい。苅部は付き合いのある
弱小劇団「害塵舞台」で脚本家を務める杉山翠に、娘の身代わりとなって結婚式に出るよう命令し
た。果たして披露宴の当日、彼女を狙って連続殺人が勃発する。会社乗っ取りを企む苅部の側近
らの仕業か、或いは新郎の元恋人か、新婦の元恋人か、果たして真犯人は・・・。
根幹をなすプロットとメイントリックはなかなか秀逸です。「何が起きているのか」のミスディレク
ションは相当なものだし、終盤になって立ち上がるアリバイ崩しも先ず先ず面白く、「塩まみれ
の死体」やダイビングに関する伏線、特に冒頭の小事件の扱いも上手いものだと思います。
でも傑作とはいえないのは、全体に漂う2時間ドラマ臭さ、というか、どうしようもない通俗性が
原因。薄っぺらいキャラの登場人物たち、イタい風俗描写などがストーリー全体を台無しにしてし
まっています。
プロットとトリックはそのままにして、泡坂か島田荘司あたりに書いてもらいたかった、といった
ら作者には失礼なのですが・・・。
西村京太郎「特急雷鳥殺人事件」(光文社文庫)★★★
1983年の鉄道物で固めた中・短編集。
先ずは表題作。金沢行きの特急列車のトイレで起きた射殺事件。現場付近で投げ捨てられた拳銃も
発見され、同乗していた女性が逮捕されるが、やがて、全く同じ時刻に同じ拳銃を使った殺人事件
が、遠く金沢で起きていた事実が判明する・・・。同じ拳銃が同時に使われるという飛び切りの不可
能犯罪。鑑識や法医学上、突っ込みたい部分は多々ありますが、これは巣晴らしい出来栄え。アン
ソロジーにも採られた佳作。
なお、その他の作品は見劣りする出来です。「幻の特急を見た」は、アリバイの申し立てで、富士川
の鉄橋で特急列車を見たと主張する青年。だがその時刻、現場には1台も特急列車など走ってはい
なかった・・・。単なる鉄道豆知識のレベル。
「急行『だいせん』殺人事件」は新婚旅行中に寝台で殺された新郎。一時は容疑者にされた新婦が真
相を追及するのだが・・・。これも同様の出来。
「殺人は食堂車で」は昔懐かしい食堂車が舞台の毒殺物。ちょっとした発想の転換によるトリックが
先ず先ずの作品。
「夜行列車『日本海』の謎」は、十津川警部夫人が主役。元夫に頼まれ、京都で待ち合わせをしてい
たところを拉致され、気がついたら元夫は殺され、自分も重傷を負っていた。警察は無理心中未遂
事件だと疑うが・・・。これも一般人にはなかなか解けない鉄道知識で、今ひとつの出来。
とは言え、巻頭の表題作だけでも読む価値はあると思います。
藤原宰太郎「無人島の首なし死体」(光文社文庫)★☆
1988年の久我京介シリーズ第2弾。
夏休みに瀬戸内海・尾道の向かいにある向島にバカンスに出かけた久我と助手の明夫、洋子の一行。
洋子のクラスメート美代子の伯父で、久我のクイズ本のイラストを描いていた画家の小杉が沖合い
の無人島で首無し死体となって発見される。犯人は遺産がらみの親戚か、村上水軍を巡る遺跡発掘
で対立していた郷土史家か。だが容疑者の一人であった男もまた、自宅の密室で殺される・・・。
ストーリーや登場人物などは、まあキッチリ描かれており、月並みではあるけれど、特に破綻はして
いません。でも、首なし死体の真相も、密室トリックも、アリバイ工作も、もうどうしようもない
レベル。しかもオリジナリティがゼロ。特に、本文で紹介された既存の海外名作ミステリと全く同じ、
とはどういうことか。終盤のサスペンス風の展開も、何だかなあ・・・。まあ怪作といって良いでしょう
ね。そういえば数日前、作者の専用スレでも話題になっていましたね。
西木正明「霧が止むまで待て」(徳間文庫)★★☆
1983年の長編。
北海道・知床半島で相次ぐ怪事件。国立公園から天然記念物の高山植物が大量に盗掘される一方、
断崖からは人が転落し、漁師の番屋では惨殺死体が発見される。営林署の田島と地元署の志木警部
補がそれぞれ事件を追うが、やがて二人は意外な接点で事件の真相へと迫ってゆくことに・・・。
これはハードボイルドというより、ごく普通のミステリでしょうね。本格としての謎解きを云々す
るほどのレベルには達していませんが、出来の悪い社会派ミステリよりは上手に、色々な謎が散り
ばめられています。伏線が不足だったり、或る人物の役割がミエミエだったり、と欠点は多々あり
ますが、何となく、北海道を舞台にしたこともあってか高城高作品をやや甘くした感じで、ちょっ
と独特な雰囲気の作品。まあ悪く言えばハードボイルドとしても謎解きとしても中途半端になって
しまった作品ですが。
夏樹静子「重婚」(徳間文庫)★★★☆
1979年の短編集。
「五千万円すった男」は、地方競馬で1レースに五千万円を賭けて全額スッた男。一体何の狙いなの
か・・・。或る件でのカネのやり取りに関するアイディアが光る良作。
「質屋の鍵」は質屋の金庫に閉じ込められて死んだ男。警察は金庫の容積から死亡推定時刻を割り出
すのだが・・・。死亡推定時刻を逆手にとったトリックがユニークです。
「事故のいきさつ」は交通事故で近所の医院に駆け込んだ男。医師は体調不良を理由に手当を断る。
事故の被害者は死んでしまうのだが・・・。彼の妻の視点から描いたことで謎解きが面白くなった作品。
「水子地蔵の樹影」は比叡山の麓でひょんなことから知り合った女性が三井寺で殺される。だが被
害者の女性には、容疑者となった男の娘との意外な関係があった・・・。まあまあ。
「救けた命」は、最低のヒモ男が殺される。娘を食い物にされた父親が容疑者として浮かぶが、彼に
は一年前、湖で被害者を救助した過去があった・・・。本格じゃないけど、人間の不可解な心理は上手く
描かれていると思う。
「小壜に詰めた死」、ワンマン会長が飛行機内で毒殺される。常備薬に毒薬を混ぜたのは誰か?これ
も裏をかく真相が先ず先ずの出来栄え。
巻末の表題作は、三保の松原で殺された男。別れた先妻と後妻が容疑者として浮かぶが彼女らには
それぞれアリバイがあった・・・。或る事実が判明すれば謎解きは簡単だが、笹沢左保の作品にでも出
てきそうなアリバイ工作が面白い。
以上7編、どれも水準以上の作品が並んでおり、抜きん出た傑作は無いが、レベルは総じて高い短
編集です。
9連投スマソカッタ
笹沢左保「木枯し紋次郎1−赦免花は散った」(光文社文庫)★★★★
実は2009年に読んだミステリの中で一番ハマッたのが、この「木枯し紋次郎」シリーズでした。数ヶ月
かけて、光文社文庫版の正編15冊&新潮文庫版「帰って来た紋次郎」シリーズ6冊全てを読んでしま
ったw
先ずは第1話。紋次郎は兄弟分の身代わりになって三宅島へ遠島。新入りの囚人から或る話を聞い
て島抜けの一味に加わる。兄弟分のもとに行ってみると・・・。読者の予想を上回る意外な結末が待っ
ていますが、これはややアンフェアかなあ。
「流れ舟は帰らず」は家出した息子を探す豪商の父娘。上州・横川の坂本宿で念願の再会を果たすのだ
が・・・。紋次郎のちょっとした指摘により全てが引っくり返り、冒頭の小事件が実は意外な真相を暗示
する重大な伏線になっていることが分かる良作。
「湯煙に月は砕けた」は伊豆の山奥の湯治場に一揆の残党が押しかけてくる。だが実は・・・。本作でも
ちょっとした矛盾を付いた紋次郎の指摘が面白いですが、出来は凡庸。
「童唄を雨に流せ」、これは傑作。甲州で紋次郎を狙う地元の三下たち。一体誰の指図で動いている
のか。黒幕の正体とその動機が意表を突いていて新鮮。
「水神祭に死を呼んだ」は木曽路を舞台に、消えた娘の行方を追う紋次郎。隠し方のトリックだが今
一つ。
なるほど、謎解きの過程などは云々するほどのものではないが、「本格ミステリ」の骨法はちゃん
と踏まえた作品揃いですね。
152 :
名無しのオプ:2010/01/11(月) 16:14:04 ID:M2e+ORZc
すごい読書量ですね
夏樹静子の「五千万円すった男」って、岡嶋二人が「あした天気にしておくれ」で乱歩賞
の候補に挙がるも身代金奪取トリックが前例ありということで落選になった、その前例の
作品ですよねたしか。
153 :
名無しのオプ:2010/01/11(月) 17:59:22 ID:bvh4Ei3j
3氏飛ばしすぎでしょw
154 :
名無しのオプ:2010/01/11(月) 23:39:43 ID:KYynkm4b
なんたる偶然か…俺も今日ちょうど「赦免花は散った」読み終わったとこだ
ドラマはむかし再放送で何本か見て面白さは知ってたつもりなんだが
木枯し紋次郎の原作小説がここまで執拗にどんでん返しにこだわっていたとは想像もつかなんだ
ミステリ的な伏線はささやかなもんだがスピーディな展開の中で唐突に真相が明かされるのでいずれもインパクトがでかい
155 :
名無しのオプ:2010/01/12(火) 09:11:05 ID:ntFkRut6
「木枯し紋次郎」のミステリ度の高さは異常。どんでん返しの宝庫だよ。
あと剣豪小説みたいに売られている大河連作「宮本武蔵」も宮本武蔵が
探偵役として各地で事件の謎を解く話が多い。
156 :
名無しのオプ:2010/01/12(火) 09:36:05 ID:+Tm7BryW
モン次郎は傑作だよね、読むに値する。
日光例幣師街道なんてこれで覚えた。
157 :
名無しのオプ:2010/01/13(水) 09:21:54 ID:nw/d/FFT
>>149 >そういえば数日前、作者の専用スレでも話題になっていましたね。
3氏は藤原宰太郎のスレまで読んでるんだ。
スゴイねw
158 :
名無しのオプ:2010/01/13(水) 15:43:49 ID:uKW0DJrp
大型店のブクオフ105円コーナー=3氏の天国
159 :
名無しのオプ:2010/01/13(水) 17:14:12 ID:RIf0iKKj
いや、3氏の天国は地方の寂れた古本屋だろ
今のブコフ105円コーナーなんて何にもないぞ
160 :
名無しのオプ:2010/01/13(水) 18:20:49 ID:MZlB+e5+
っていうか見たことも聞いたこともない作家がこれほどたくさんいたなんて
驚いた。
たとえこの先見ても金輪際読まないから、一部ストリーとか
トリックのネタ晴らししてみてはどうでしょうか。
つまらん作品だとは思いますが。
161 :
名無しのオプ:2010/01/13(水) 18:25:21 ID:WVHhmbgk
162 :
名無しのオプ:2010/01/14(木) 03:56:41 ID:sAcvVh5d
さくら幼稚園です
163 :
名無しのオプ:2010/01/14(木) 06:04:44 ID:EewVeWgy
名門じゃないですかっ!
164 :
名無しのオプ:2010/01/14(木) 15:08:58 ID:UVbtHRWz
先生、ネタの意味がよく分かりません><
>>158-159 前にも書いたとおり、紹介している本の大多数はブクオフ105円ですね。東京のJR中央線、西武
新宿線&池袋線の各沿線で購入したものが殆ど。但し、旅行中に地方の古書店を冷やかして購入し
たことも多々あります。今までに収穫あったのは、
紋別、釧路、名寄、弘前、八戸、むつ、本荘、盛岡、仙台、鶴岡、米沢、佐野、甲府、上田、松本、
三島、米子、松江、松山、宇和島、久留米、唐津、佐世保、平戸
といった辺りの町の古書店でしょうか。見知らぬ町のフラッと入った古書店で、探していた(或い
は神保町辺りでは高値を付けている)本を見つけるのは最高の至福の時ですね。
例えば、昨年末、「木枯し紋次郎」に惚れ込んでw、北國街道や中仙道の宿場町を歩いてみたくなり、
信州を旅行したのですが、そのとき上田市の古書店で見つけたのが下記の作品です。
桜田忍「狼の牙」(KKベストセラーノベルズ)★★★☆
1976年の長編。
警察を定年退職し大阪で暮らす田宮は、飲み友達である初老の銀行員・佐川が銀行のカネを使い込
んだ末にガス中毒死した事件に遭遇。温厚で教養もある佐川が破廉恥な横領事件などを起こして自
殺するだろうか、疑惑を感じた田宮は独り調査に乗り出す。どうやら、消息不明になっている彼の
息子が事件の鍵を握っているらしい。更に佐川の上司も失踪し、東京で起きた公安刑事の殺人事件
も絡んでくることに・・・。
序盤から中盤まで、全く退屈の一言。元刑事や警察の地味でパッとしない捜査が延々と描写される
だけ。しかし、終盤、或る人物が真犯人と確定したところで、最初の殺人と第三の殺人におけるア
リバイ崩しに移るや、俄然面白くなってきます。特にガス中毒に絡む伏線など実にシブい出来栄え。
電話に関するトリックは在り来たりだが、山村美紗よりはマシ。
1976年前後、この作者は「二重死体」「殺人回路」そして本作と立て続けに本格ミステリの良作を発表
していますが、当時、反響は無かったのでしょうか。既に「幻影城」誌は発行されていたけど、そっ
ちでも黙殺されたのかなあ。反響あれば、この作者ももっとやる気を出したのではないかと思うと
残念です。
なお昨年8月以来の感想が溜まっているもので、暫くは連投続きになりそうですが、どうかご容赦ください。
>>148 × 西村京太郎「特急雷鳥殺人事件」
○ 西村京太郎「雷鳥九号殺人事件」
笹沢左保「3000キロの罠」(徳間文庫)★★☆
1970年の長編。
鹿児島市内でホテルを経営する加瀬啓介は、地元デパートを経営する義父に頼まれ、フィアットの新車を、
はるか北海道の稚内まで届ける仕事を引き受ける。そのクルマをドライブしながらの気ままな旅に出た加瀬
だったが、スタート直後から不穏な動きが。彼に近寄ってくる美女たちは彼をスパイしているのではないか。
クルマには特に何の秘密も隠されていないようなのだが、果たしてスパイの黒幕は、そしてその目的は何な
のか。スパイらしき女性たちも次々と何者かによって殺されてゆく中、加瀬は一路、山陰から北陸、東北地
方を経て、遂に北海道に上陸するのだが・・・。
同じ作者の「東へ走れ男と女」(初代スレ参照)が、「強盗メンバーの仲間割れのため警察の介入を許さない」心理
的なクローズド・サークルを構成したメンバーが、九州から東京まで縦断しながら連続殺人を繰り広げると
いう、画期的というか奇想天外な作品でしたが、本作もそれと似た趣向かな、と思って読んでみましたが・・・。
・・・近づいてくる美女たちは直ぐハダカになって加瀬と仲良くなっちゃうし、何と言うか、まあ、版元の
要請でしょうかね(初出は桃園書房)。スパイの黒幕らしき男の正体も早めに判明するし、まさかこのまま
終了ではないよな、と危惧したところ・・・。うーん、一応、ドンデン返しはあった。黒幕を操る裏の黒幕
の正体には正直ビックリしたし、そのためのトリックも施されていた。でも何か、ベッドシーンが多いため
か、どうも緊張感に欠ける作品でしたね。動機も詰まらないものだし・・・。凡作でしょう。
新谷識「ヴェルレーヌ詩集殺人事件」(中公文庫)★★★
1990年、作者の初めての長編、阿羅教授シリーズの第1作。
大学教授の阿羅は、戦争中、駐屯していた済州島で入手したヴェルレーヌの詩集についてのエッセ
イを発表したことから、戦友の河部と四十数年ぶりの再会を果たす。だがその直後に河部はピスト
ル自殺を遂げる。更に避暑に訪れた長野・戸隠では、やはり戦友の五井が謎の転落死。二つの事件
には関係があるのではないか、河部も実は自殺ではないのでは・・・。事件に巻き込まれた阿羅教授と
姪の由美子の推理や如何に。
暗号解読興味なり、アリバイ工作なり、写真に関するトリックなり、色々と「本格」の謎解きにつ
いて工夫したことは認めますが、ストーリーが整理されておらず、真犯人の設定やら伏線の張り方
など、まだまだ改善の余地があるなあ、と思いました。アマチュア作家の処女長編だから止むを得
ないのでしょうかね・・・。
中津文彦「遠眼鏡の中の女」(中公文庫)★★★
1986年の短編集。恐らく作者の短編集のベストでしょう。
なかでも、アンソロジーにも採られた「すてきな三にんぐみ」がベスト。父親が子供に買い与えた
古本の童話の署名を見た母親、それは幼馴染で死んでしまった友達のものだった。何故この本があ
るのか・・・。或る偶然がご都合主義ですが、ホラーとしても、論理的なオチのあるミステリとして
も合格点でしょう。
その他は、やはりホラーでありながら論理的な解明を添えている「座敷童の住む家」、或る程度の
オチは予測できるがスキのない構成で読ませる表題作辺りが佳作でしょうか。まあいずれも「本格」と
して読むのは少々困難ですが。
笹沢左保「北風の伊三郎」(光文社文庫)★★★☆
1982年の長編。主人公は眼が悪い訳でもないのに、わざわざ左目に眼帯を付けて長脇差をフェン
シグのように操る必殺技を持つという、何だか良く分からない得意技の持ち主。
伊三郎は旅から旅の渡世人だが、或る時、近江の街道沿いで胃痛に苦しんでいたところを武士の
兄妹に助けられる。兄妹は幕府御用の人足調達の用向きで、近江から中仙道を一路、武蔵まで向
かうので、用心棒を探しているのだと言う。伊三郎は謝礼も求めずに二人を護衛する旅に同行す
ることに。だがその行く手には、人足の割り当てから外された各地の親分たちが彼らの命を狙っ
ていた。更に一行にまとわりつく「三匹猿」の異名を持つ謎の三人兄弟たち。伊三郎ら一行は無事
に武州まで辿り着けるのか・・・。
主人公の伊三郎は、木枯し紋次郎に比べると、やや義理人情に厚いキャラ設定、結末にはドンデ
ン返しがある、と解説にあるので期待していたのですが、さて。
なるほど、これはなかなかに意表を突いた真相でした。二重のドンデン返しのうち、一つは何とな
く予想が付いていましたが、もう一つ、或る人物の正体については迂闊にも気付きませんでした。
ちゃんと伏線はあったのに・・・。まあ、木枯し紋次郎の或るエピソードでも使われたネタですが、先ず
先ず楽しめました。但し、江戸時代の侠客、清水次郎長、国定忠治、大前田栄五郎らについての基礎
的な知識がないと、結末の意外性は楽しめない、というか理解できないかも知れません。
斎藤栄「結婚恐怖殺人事件」(徳間文庫)☆
1984年のノンシリーズ長編。
朝倉昇と美香の新婚披露宴が福島県の温泉で開かれたが、実に奇想天外なものだった。プール中央
に浮かぶベッドで新婚初夜を迎え、列席者たちは、カーテンに仕切られたベッドが振動するたびに
起こる水面の波動を観測することに・・・。
一方、東京では米ドルを貸し付ける悪辣な米国人サラ金業者が惨殺される事件が発生していた。彼
に恨みを持つ者たちを捜査するうち、自殺に追い込まれた夫婦の娘が朝倉美香であることが判明。
だが彼女には新婚初夜の「熱演」を観察していた連中による、鉄壁のアリバイがあった・・・。
へ、変態だ・・・・!斎藤栄、発狂せりw
上記のあらすじ紹介を書くことすら赤面してしまいますよ。むろんアリバイ崩しですが、まあトリッ
クも何もあったものじゃないですね。さらに輪をかけてスゴいのが、例のお抱え解説者・某の解説。
曰く、
「ストリック的一大欺瞞」
「21世紀のミステリーのあり方を先取り」
「クリスティの・・・・・のイメージを浮かべる向きも多いだろう」
・・・・・・。絶句。作者と解説者の二人だけ、どうも我々が知っている日本のミステリ界とは違う、どこ
かのお花畑の世界に遊んでいるようです。21世紀のミステリが、こんな方向に向かわなくて本当に
良かったです。
佐野洋「砂の階段」(講談社文庫)★★★
1971年の長編。
東西新聞の記者・江川は、上司の部長が撮った写真を見て呆然とした。二年前に飲酒運転の末、
踏切事故で死んだはずの同僚・高瀬と瓜二つの人物がそこに。彼は死んではいなかったのか、
最近江川と交際を始めた未亡人の不二子は否定しながらも何かの秘密を隠しているらしい。更に
写真を撮った上司の態度にも不審なものが。江川は謎を追及するうち、高瀬が官庁の汚職やプロ
野球の八百長疑惑に関わっていたことを知る・・・。
うーん、これまた典型的な佐野洋作品ですね。不可解な謎は一番常識的な解決を見て驚くことも
なく収束、全体の辻褄は合っているし、全てが合理的に解決されるけど、後に何も残らない出来
栄え。本作では更に、飲酒運転に関しての、序盤の説明と終盤の解決に矛盾があるように思いま
すね。凡作。
清水義範「DC殺人事件」(光文社文庫)★☆
「H殺人事件」(前スレ参照)、「CM殺人事件」(
>>38参照)に続く、不破と朱雀の躁鬱コンビが主人公
のシリーズ第3作、1987年の長編。
朱雀が重度の鬱状態に陥って店を閉めてしまったため、不破の妹・菜摘は、DCブランドのブテッ
ィクでアルバイトをすることに。ファッションショー間近になって、メチャクチャな仕様の服が送
られてくるという事件の後、遂に殺人事件が勃発。コンテスト受賞者の披露会に出演予定だったモ
デルが殺され、更にはその受賞者の師匠に当たるベテランのデザイナーもまた殺されてしまう・・・。
残念ながら、シリーズの前2作が古典作品のトリックを下敷きにした本格の基本は外さない作品だっ
たのに対し、本作はかなり謎解き興味が薄味になってしまいました。終盤、真犯人の心理を分析す
る朱雀の推理も全く精彩なし。特に評価すべきところはありません。
典厩五郎「修羅の旅びと」(文芸春秋社)★★☆
1990年の長編。
昭和8年、東京・中野の豊多摩監獄で模範囚の男が殺された。事件は単なる人違いと判明したの
だが、やがて看守の一人が静岡・興津で毒殺されるという事件が発生、上司の看守長・降旗雄介
が事件の真相を追ううち、満州進出に絡む陸軍の陰謀が明らかになってゆく・・・。
「シオンの娘に告げよ」(★★★☆、初代スレ参照)と同じく、大東亜戦争前後の状況を踏まえた歴
史ミステリ。本作は、陸軍の陰謀とみせて実は・・・、の真相の意外性を狙ったのでしょうが、その
真相を支えるだけの伏線が不足したまま強引に結末を付けたために、構成の一部が破綻してしまっ
たようなのが残念。また「シオンの・・・」に比べて堅苦しい雰囲気なのも残念。
あと東海道線の興津駅が或るアリバイ工作に絡んできますが、高木彬光の某名作とは全く違うトリ
ック(わざわざ比較するほどのレベルでもないですが)で安心w
なお豊多摩監獄に投獄されていた共産党シンパの河上肇教授が、ちょっとした探偵ぶりで脇役とし
て良い味を出しています。いっそのこと彼を主役の探偵にしたら、ユニークな「獄中安楽椅子探偵」
ということで面白かったかも・・・。
8連投スマソカッタ
西村京太郎「七人の証人」(講談社文庫)★★★★
たまには「フラッシュバック」紹介作の感想も。1977年の十津川警部シリーズ長編。
十津川警部は何者かに襲われ、意識を失っている間に謎の孤島に連れ去られる。そこには或る街角
のセットが再現されており、十津川の他にも七人の男女が拉致されており、やがて銃を持った老人
が現れる。無実の罪で殺人犯として逮捕され、有罪となった後に獄死した彼の息子の冤罪を晴らす
べく、裁判で証人となった連中を集め、彼らの矛盾点を暴こうというのだった。そして十津川には
第三者として、事件の真相を求められる。証人たちの証言は次々と引っくり返されてゆくのだが、
ここでもまた殺人事件が起きてしまう・・・。
これは評判どおりの佳作。幾つもの証言が次々と反転してゆき、冤罪が晴らされてゆく様は見事な
もの。徹底的に理詰めの展開でワクワクしました。奇抜な設定、アイディアとも1970年代のレベル
を軽く超えており、「新本格」に近い感じです。
惜しむらくは、その孤島で同時並行で起きている連続殺人の或る「決め手」が、結末近くまで伏せら
れている点でしょうか。まあいずれにせよ、当時のミステリ一般の水準を超えた佳作ですね。
173 :
名無しのオプ:2010/01/17(日) 15:21:48 ID:Rt5I0ODS
>>165 で旅先で事件に巻き込まれたり美女と混浴したり崖で犯人を追い詰めたりとw
174 :
名無しのオプ:2010/01/17(日) 19:38:38 ID:qLQOTR8Z
すごい読書量だ。わたしんあかもう老眼で字が読めない。
日本版キンドルの大活字画面でよんでみたい。
175 :
名無しのオプ:2010/01/18(月) 16:14:31 ID:2EeBqDA+
こういう今や読み捨てられてるような作家の本も
当時はそれなりに斬新だったんだろうから
>>3氏のレビューだけ見たら読みたいと思うのは結構多い、が
実際読むのはかなりの苦痛だろうなw
今のいろんなメフィスト賞とか有象無象の新本格も
何十年もしたらこういうもんになるんだろうなぁ・・・
176 :
名無しのオプ:2010/01/19(火) 20:31:13 ID:WHc9HGGY
新本格ももう振り返られることもなく取り残された屍のような本がかなり堆積してると思うわ
…ああでもコンスタントに作品を発表してる作家って結局ひと握りだからそんなでもないか?
177 :
名無しのオプ:2010/01/20(水) 09:50:20 ID:kxJJTyyH
俺なんかも本好きで、妻の分も合わせると1万冊はあると思うが、
実際いい本なんてのは、そのうち100とか200冊くらいなんだよな。
よく見積もって3%あればいいでさ。
この法則は映画とか美術とかアート全般に言えることだと思うよ。
178 :
名無しのオプ:2010/01/20(水) 16:26:33 ID:z5oYafWH
講談社ノベルスとかカッパでなんか出て文庫化もされずに消えてった
自称?新本格系作家?とかそれに紛れて同時期に出た昔の作家とか、、、
「どや顔」で新トリック出したんだろうなぁw
何とか賞の最終に残って○○ノベルスデビュー、、、とか
ひっどいのもあるよなw
予告された殺人のなんとかとか蝶たちのなんとかとか
179 :
名無しのオプ:2010/01/21(木) 00:13:14 ID:BYfQGzis
180 :
名無しのオプ:2010/01/21(木) 10:12:15 ID:OBuzb89d
>>165 俳優の殿山泰司さんが1977年から「話の特集」に「浪曲調老残役太郎節」というエッセーを連載してまして、
のちに「殿山泰司のミステリ&ジャズ日記」という本になってますが、
この連載の中で桜田忍の何作かの作品についての評価がかかれてます。
85点から90点程度の採点ですから悪くないですけどねえ。
(殿山さんの採点は80点が平均点、85点良い、90点かなり良い、95点傑作という感じです。)
ちなみに、「殿山泰司のミステリ&ジャズ日記」は、
2003年にちくま文庫から出た「三文役者の待ち時間」に収録されてますが、すでに絶版のようです。
181 :
名無しのオプ:2010/01/21(木) 13:07:28 ID:cPha97e8
>>180 情報サンクスです。古書店で見かけたら読んでみます。
井口民樹「青函殺人海峡539」(青樹社ビッグブックス)★★★
1990年の長編。
アパレルメーカーの専属デザイナーだった及川季里子は、恋人だった社長の夏村を友人の花巻に
奪われるも、未練がましく二人が出かけた北海道・函館へ。同行した田部部長との新しい恋に落
ちるが、島尾と名乗る謎の男に騙され、青函トンネルの竜飛海底駅で何者かの襲撃を受け、気付
いたときには夏村の死体が・・・。更に花巻も函館郊外で何者かに射殺され、季里子は容疑者として
青森県警・北海道警の両方から追われることに。真犯人は誰なのか、季里子は真相を追及するの
だが・・・。
降車・乗車が厳しくチェックされており、作業用の斜坑からの出入りも困難、という青函トンネ
ルの竜飛海底駅と吉岡海底駅を一種の密室状況にした趣向でしたが、読み進めるに従って、凡庸
なトリックであることが判明してガッカリ。しかも或る重要人物の言動がミエミエのため、真犯
人もバレバレだろう、と思っていたら、これは或る人物を真犯人と錯覚させるテクニックで一本
取られた。思わせぶりなプロローグも小味ながら上手いし、序盤に出てくる或る小道具に関する
やり取りも、伏線としてまあまあ機能していました。
でも佳作とは言い難いのは、結局、真相が読者の錯覚したところから一寸ズレているだけで、大
幅に異なるものではないから驚きが少ないこと、また犯人の意外性について重大な事実を後出し
にしている点、そして何より青函トンネルのトリックが凡庸に過ぎることが原因でしょう。凡作
と切り捨てるのは辛いのですが・・・。
なお、前スレの
>>145で紹介した「さいはて特急おおぞら殺人事件」にも登場した北海道警の和島刑
事が再登場しています。
赤川次郎「こちら、団地探偵局」(角川文庫)★★☆
1983年の、団地主婦でありながら内職で私立探偵をしている西沢並子と、ワトソン役で友人の木村
政子のコンビが活躍する連作集。
第1話「見知らぬ主婦の事件」は、変わり者の老人が年の離れた若い女性と結婚、だがその女性が時々
入れ替わっているのではないか、と疑った政子だが、老人が殺されてしまう・・・。古典的な犯人特定
の手段が出てきますが、それだけの作品。
第2話「救急車愛好家の事件」は何度もニセの電話で救急車を呼ばれ続ける一家。果たして犯人は・・・。
これは二転三転するけど伏線が不足。
第3話「素人天文学者の事件」は突然天体望遠鏡を買ってきて深夜に観測を続ける男。他人の家を覗
き見しているのではと噂が立ち、その妻は・・・。これは意表を衝いた真相で良かったのですが、それ
を匂わせる伏線がやはり足りない。夫が・・・する描写を入れるとか、あの人物をチラリと登場させて
おくなどすれば「本格」の佳作になったのに・・・。
第4話「寂しいクリスマスの事件」は主婦売春を斡旋するエリートサラリーマン。実は・・・。
第5話「優しいセールスマンの事件」はイケメンのセールスマンと不倫に落ちた主婦。だがそれは
夫の差し金によるものだったのではないか・・・。オチは上手いけど伏線がねえ・・・。
第6話「身近なスターの事件」は団地でドラマのロケが行われている最中に起きた殺人事件。
全体にごく軽い「本格」風の作品集といったところでしょうか。結末の意外性は十分なのですが、
やはり伏線という点で弱すぎますね。
笹沢左保「旅鴉」(光文社文庫)★★★☆
すっかり病みつきになってしまったw、笹沢左保・股旅小説集。シリーズ物以外の作品を収めて
います。
先ずは「血しぶきに煙る信州路」、これは文春文庫の「雪に花散る奥州路」に収録されていません
が、同傾向の作品。上州の親分の娘をかどわかした渡世人を追って信州に入った二人の渡世人。
娘を無事発見するのだが意外なことに・・・。これは作者の股旅物ではお得意の、或るトリックが
冴えた一編です。
「頬かぶり街道」、顔に頬被りをした名うての渡世人・葦切りの清五郎が、自分の命を狙う渡世人
と奇妙な道中を続けるハメに・・・。これもかなり驚きの真相が最後に待ち構えています。
「洗い髪仁義」は三年間の修業の旅から親分の下に帰って来た渡世人を待ち受けるワナ。これもド
ンデン返しの効いた作品。
「悲しい旅鴉の唄」は、知り合いの著名な渡世人に間違われて、その男のフリをしていた男の運命。
「千本松の利三郎」、自分の名を騙るニセ者の渡世人に出会った男がイキな最期を迎えるまでの話。
「房の川戸の御関所」は親分をダマしたサギ師を追って旅する渡世人が、駆け落ちのため恋人の待つ
宿場に行こうとする娘と出会うのだが・・・。結末の予想はついたけど楽しめました。
本格ミステリとしての評価はともかく、これでもかとドンデン返しに拘った作品ぞろいです。
深谷忠記「札幌・鈴蘭伝説の殺人」(徳間文庫)★★☆
1990年、壮・美緒シリーズの番外編?久しぶりの深谷忠記。
井の頭公園で発見された男の死体、そして北海道・円山公園で起きた殺人事件。現場には何故か
スズランの花が手向けられていた。被害者はかつて同じ職場で働いていた不良社員で、いずれの
事件にも同一人物と思われる女の影が。やがて警視庁の勝刑事の粘り強い捜査によって、五年前
に北海道のツアー旅行で起きた或る事件が背景にあるらしいことが判明する。勝は壮の助言も得
て、真犯人の行方を追うのだが・・・。
うーん、トリッキーなヒネりが足りないですねえ。本作は全く推測も付かない真犯人の「動機」を
探す点にポイントがあるのですが、それも余り上出来ではないです。
まあ久しぶりに、チョイ役とはいえ、壮と美緒に出会えたので満足しましたがw
森村誠一「死媒蝶」(講談社文庫)★★☆
1978年の長編。
東京に出稼ぎに出てまま行方不明となった夫を探しに来た妻が、偽装心中の被害者となって発見
される。妹は姉の勤務先であったクラブのホステスとなって事件の真相を追う。
一方、偽装心中事件が発生したマンションでは同じ時刻に、息子が横暴な父親を窓から突き落と
したところ、路上にあるはずの死体が消失してしまったという不可解な事件が発生していた。
一見関係のない二つの事件は一体どう絡んでくるのか・・・。
「本格推理に社会性を融合」などと紹介されていたので読んでみました(まあ1960〜70年代に出た
ミステリの「本格推理」なる惹句は余り信用していないのはいつものことですが)。
案の定、死体消失事件は中盤までに簡単に解決、しかも全く下らない真相。ストーリーはやがて
私立大学の不正入学疑惑から、更に、作者の某長編でも扱われた或る国際的な問題も関わってき
たりして風呂敷を広げすぎ。「こりゃダメかな」と思ったのですが、それでも真犯人が誰かは分か
らないので、その興味で我慢して読みました。
が、それも肩透かしの出来栄え。真犯人特定のための或るトリッキーなヒネりがあるのですが、
終盤になっていきなり提示され、事前の伏線が不足しているから満足できないし、そもそもネタ
が下品だよ。駄作。
・・・と思ったら、最後の最後にドンデン返しが。思わず序盤の肝心の箇所の文章を読み返してみた
ら、ちゃんとフェアな書き方になっていた。これには感心しました。
ということで★1つレベルのところ、オマケで★2つ半に評価を上げました。
>>169 × 「結婚恐怖殺人事件」
○ 「結婚恐怖殺人旅行」
三好徹「モナ・リザの身代金」(光文社カッパノベルス)★★★
1983年の「身代金」シリーズ第2弾。
天才犯罪者・泉と恋人の圭子が3年ぶりに日本に帰って来た。彼らが今度狙うのは、ダ・ヴィンチの名画
「モナ・リザ」。利権がらみで日本公開にこぎつけた政府は万全の防犯体制で臨んでいるが、果たしてどう
やって「モナ・リザ」奪取を行うのか。そこに別の事件がらみで調査を行っていた反骨の新聞記者・早川が
絡んでくるのだが・・・。
奪取方法のアイディアは、まあ盲点を衝いていますけど、そこがポイントではないですね。むしろ、「モナ・
リザ」は実は・・・という結末の驚きの方がメイントリックではないかと。
ただ、あの結末の付け方は少々甘いのではないかな、と思いますね。まあ、泉チームを・・・・にしてしまわ
ないことで、清々しさが残るのも分かりますけどね。
津村秀介「猪苗代湖殺人事件」(光文社文庫)★
1987年の浦上伸介物の長編、「宍道湖殺人事件」(初代スレ参照)に続く「〜湖殺人事件」シリーズの第2弾。
猪苗代湖畔でほぼ同時に殺害された男女二人の他殺死体。発見されたメモをもとに浦上らが追及して
ゆくうちに、猪苗代湖畔の別荘地造成に絡む詐欺事件が浮かび上がる。だが容疑者には鉄壁のアリバ
イが・・・。
ダメ。駄作。容疑者のアリバイが出た瞬間に、なぜアレの存在が思い浮かばないのか?延々と新幹線
の乗り継ぎやら目撃証言やらを検討している浦上らがアホに思えるだけの作品。
笹沢左保「木枯し紋次郎2−女人講の闇を裂く」(光文社文庫)★★★
シリーズ第2巻へ突入。
表題作は村を追われた若者が帰ってきて庚申待ちの女性らを襲う。だが実は・・・。これは意外な動機
と「黒幕探し」の作品、そこにもう一人の意外な人物の思惑が絡んでくる良作で、サラッとした
伏線が心憎い。
「一里塚に風を絶つ」は娘を無頼漢らから救うが、長脇差を失った紋次郎、木曾の山中に隠遁する刀
鍛冶の名工に出会うが・・・。これは多彩な登場人物の役割がミエミエでしたね。
「川留めの水は濁った」は、紋次郎が唯一心を寄せていた亡き実姉の死に関する真相が明らかになる
作品だが、ミステリ的にはどうということもないです。
「大江戸の夜を走れ」は珍しく江戸が舞台。処刑寸前の男が言い残したこととは・・・。これはダイイン
グメッセージ物でドンデン返しの末の意外な結末が待っているけど、救いのない話だなあ。
「土煙に絵馬が舞う」が一番の出来栄え。山中に迷い込んだ紋次郎がたどり着いた廃村。だが何人か
の村人たちが居座り続ける。そこに盗賊の一行が襲い掛かる。この村の秘密とは・・・。いわゆる隠し場
所のトリックですが、何ともやり切れないラストと農民の執念の凄まじいこと。同じ隠し場所のトリ
ックということでもないが、何故か横溝正史の初期短編「執念」を思い出してしまった。
第2巻には「本格ミステリ」としての佳作は無かったですが、第3巻以降にも佳作はあるので、乞う
ご期待。
辻真先「線と面−迷犬ルパン・スペシャル」(光文社文庫)★★★
1988年、松本清張「点と線」のパロディというかパスティーシュ物の長編。
某官庁の課長がホステスとともにバスの事故に巻き込まれて死亡。だが二人の死亡時刻はバスの
事故よりも前で、実は無理心中していた現場に後からバスが突っ込んだものと判明。しかし無理
心中事件に疑問を感じた地元署の刑事・犬飼は事件の裏に潜む黒幕の男を疑う。だが容疑者には
鉄壁のアリバイがあった・・・。
アリバイ工作は二つほどありますが、いずれも大したものではないです。むしろ、偶然と思えた
バス事故の真相がブッ飛んでいます。そんなことするかよ、とも思いますが、このヒネり方には
感心、というか唖然。
星新一「気まぐれ指数」(新潮文庫)★★
1963年、作者初の長編。
東京タワーの近くに住む、ビックリ箱作りのアイディアをメーカーに提供して暮らす黒田一郎。
化粧品のセールスレディと組んで、近所に住む未亡人が所有する仏像の窃盗に成功する。被害者
の松平佐枝子は隣家の神主・牧野邦高に相談し、牧野は探偵となって、黒田と虚々実々の駆け引
きを展開する。二人の騙しあいの決着や如何に・・・。
トリッキーなコン・ゲームを期待したのですが、裏切られてしまった。奇抜な窃盗手段など、幾つ
か光る趣向はあるのですが、ストーリー展開が余りにご都合主義的で、そもそもの構成がミステ
リとは違う、何と言うか一種の風刺を利かせた風俗小説になっており、ミステリとして評価でき
る部分は殆どありませんでした。むしろ、小林信彦や広瀬正あたりとも共通する「古きよき東京っ
子」的な雰囲気に満ちた、図らずも作者自身の横顔が垣間見られる珍しい作品といえるでしょう。
あと、いかにも1960年代風の表紙が何ともオシャレでした。
それにしても、この作者の創作で、具体的な固有名詞や実在の地名などが出てくるのを読むのは、
何か不思議な感じですね。
なお、この作者のミステリ風の長編であれば、SFだけれど、結末の意外性や謎解き的な趣向から、
「声の網」の方を推しますね。
8連投スマソカッタ
笹沢左保「逃亡岬」(光文社文庫)★★★
1980年の「岬」シリーズ第4作。
自分本位で傲慢な不倫の恋人・高見沢ミサにほとほと手を焼いていた九門愛一郎は、別れを決心し、
彼女のマンションを飛び出すが、その直後にミサは何者かに殺されてしまう。逃亡を決意した九門
は、隣家の娘で同じく家出した千秋と意気投合、自分の無実を証明しようとする。唯一の方法は、
マンションを飛び出した直後に出会った謎の女性を探し出し、その時にはミサが生きていたことを
証明してもらうことだった。手掛かりはたまたま拾った一枚の写真・・・。九門と千秋は必死になって
「幻の女」を捜そうとするのだが・・・。
これは無論、あの名作「幻の女」と同趣向、失われたアリバイを探そうとするパターン。写真と、そ
の裏に記された謎の数字と記号に、一種の暗号解読興味があり、その推理は、安直な部分もありま
すが、なかなか楽しめます。そして真相は・・・と言うと、まあ真犯人はアイツしかいないよなあ、と
いうレベル。もう一人、レッドヘリングに使えそうな人物もいたのですが、そちらの追及には向か
わないので、犯人当てとしては楽しめません。真犯人の鉄壁のアリバイも、まずまずとはいえ良く
あるパターン。そこそこ楽しめたので水準作かな、といったところでした。
190 :
名無しのオプ:2010/01/24(日) 15:55:58 ID:K5jFRNrV
紋次郎ので、印象に残ってるのは、60日に一回ある庚申の夜、お堂に一晩中篭って
念仏をとなえる行事があって、その夜にセクスして生まれた子供は
親殺しになるという言い伝えの話がとってもいい。
あと昔の渡世人は早くて8歳くらい、から12歳くらいで、親に死なれたとか
家出したとかで、諸国を旅するが、大体20代でほとんど死んでた、という
話をきいたことがある。
191 :
名無しのオプ:2010/01/24(日) 16:37:20 ID:Q2FsNI4v
三好徹の身代金シリーズ、本格じゃないけどなかなかよかったです。第3弾「オリンピックの
身代金」で終わっちゃいましたけど・・・そのあと「パピオンの身代金」てのが出て
すわ、シリーズ復活か?と読んでみたら全くの駄作でシリーズものでもなかった。
山田正紀の「贋作ゲーム」の系統のコンゲーム系犯罪小説として貴重なシリーズと
思います。
192 :
名無しのオプ:2010/01/26(火) 00:02:47 ID:9VLs1SPK
大井廣介『紙上殺人現場』が、60〜67年の国内作品の月評を集めた本で
このスレで御馴染の面々が出てきて結構楽しい。
笹沢とか佐野洋とかは毎月のように取り上げられてて、その多作ぶりを実感します。
193 :
名無しのオプ:2010/01/26(火) 17:58:24 ID:FOp7mXUE
3氏、今回はなかなか★四つがないですね…。
194 :
名無しのオプ:2010/01/27(水) 22:25:04 ID:yo1HAzj0
>>192 かなり辛口だけどなw
笹沢も「こんなに出来不出来が激しい人は珍しい」
みたいなこと言われてた記憶が
195 :
192:2010/01/27(水) 23:58:06 ID:D7/6Vl74
今日読み終わったけど、ホント辛口で今読むには面白いw
当時はまだまだ若いとはいえ清張なんかもバッサリ切るしね
毎回毎回絶賛されているのは鮎川哲也くらいかなあ
私の好きな仁木悦子なんかはかなり辛くて悲しいw
最初の頃は10冊以上も新刊読んで、粗製乱造を叩いてる時期もあるんだけど
最後の方は月に2冊なんてことになっていって、清張からの推理小説ブームの推移の記録としても面白かった
196 :
名無しのオプ:2010/01/28(木) 19:48:50 ID:aP4UGnkU
海渡さんと佐賀潜さんの本さがしてるんだけど、でないねえ。
あと嵯峨島翔という名義で書いた推理物。このひとは鵜野公一郎ですってね。
197 :
名無しのオプ:2010/01/28(木) 22:30:19 ID:T+nKSOb2
>196
海渡は本どころか中の人が行方不明じゃなかったか?
198 :
名無しのオプ:2010/01/29(金) 06:10:27 ID:JHoqMpq6
>>196 嵯峨島昭と宇能鴻一郎の間違いはわざとですか
199 :
名無しのオプ:2010/01/29(金) 09:04:49 ID:y9ZVkPyT
昭和40年代のカッパノヴェルスの最後のほうに、出版カタログみたいなのが、
数百点もあるじゃないですか。
いまそれ見ても、ほとんどっていうか、誰も省みない駄作粗製濫造ですよね。
松本清張くらいじゃないですか、いまでもいけてるのは。
しかし水上勉ってのもかなり推理小説書いてるんですよね。
以前繊維業界にいたらしく、繊維関係にまつわる舞台にした推理物多いです。
200 :
名無しのオプ:2010/01/30(土) 12:21:54 ID:D8GlmkCo
>>200 そのとおりでした。一度ならず二度も間違えるなんて・・・orz
生田直親「鮮血のシュプール」(徳間文庫)★★
1976年、お得意のスキー物の長編。
一地方のスキーメーカーを国内トップクラスまで押し上げた社長の大河原剛司が、志賀高原のゲレンデ
で行方不明となる。谷底に転落し雪に埋まってしまったのか。だがそれは後妻の萌子が何者かに示唆を
受け、ゲレンデのコースを偽装したことによるものだった。そして萌子もまた、正体不明の男に指示さ
れた養子の恒介によって、谷川岳・天神平で殺されてしまう。そして恒介もまた・・・。
連鎖殺人を起こさせている謎の男の正体がミソなのですが、あの登場の仕方はないだろ。スキー場の特
性を活かした奇抜な殺人方法の数々は面白いけど、最初から手の内を明かしておりハウダニットになっ
ていないから楽しめません。
それにしても、スキーにやって来てスキー物のミステリを読んで感想を書くのも一興かと思ったけど、
まあバカバカしいなあw
佐野洋「宝石とその殺意」(集英社文庫)★★☆
1968年の長編。
喫茶店のウェイトレスだった下条町子は、弟の安之が盗まれたカネの返済に悩んでいる折に客の
宝石商・大隈に勧誘されて、彼の手伝いをすることに。いつしか恋人の滝田とも別れ、大隈に魅
かれてゆく町子。だが大隈にはどこか胡散臭いところがあった。一方、安之は子供の欲しい女性
を妊娠させるというアルバイトを始めていた。やがて大隈が何者かに殺される事件が発生して事
態は思わぬ展開に・・・。
女性週刊誌に連載されたこともあってか謎解きはごく単純なもの。主人公の「視点」を活かして、
彼女の「知っていることと知りえないこと」から謎を構築しているのですが、結城昌治の方が遥
かに上手。まあ作者も掲載誌を考慮したのでしょうが、このレベルでは満足できないですね。
凡作。
森村誠一「星のふる里」(中公文庫)★★
1973年に女性誌に連載された長編。
商社マンの高原浩一が突然謎の失踪を遂げる。残された妻の耀子は、夫に別れた愛人がいたこと
を知るが、その愛人・眉村理枝は失踪とは無関係だった。二人は奇妙な連帯感でつながれ、浩一
の行方を捜すうち、マンション投資サギ事件の主犯が国外に逃亡した事件に浩一が巻き込まれて
いたことを知るのだが・・・。
うーん、色々と言い訳じみた説明はありますが、ヒロインの女性二人の心理がどうにも不可解で・・・。
事件の方は、中盤から、アテネ、イスタンブールに舞台を移して派手な展開を見せてゆき、そこ
で起きた殺人事件の真犯人探しの謎解き興味へと移ってゆくのですが、「犯人当て」としての出来
は良くないですね。伏線は不足気味だし、或る箇所の描写がどうしても目立ってしっているもの
で・・・。ということで凡作でしょう。
小杉健治「検察者」(集英社文庫)★★★
1992年の長編。
企業研修で教官のシゴキで死亡した男。加害者の教官らは不起訴処分となったのだが、その処分が
妥当なのか、検察審査会に回されてきた。普通の社会人や学生などから成る審査会のメンバーは、
不起訴処分は不当であるとの意見に固まりつつあった。
一方、自殺を偽装した殺人事件が発生、シゴキ事件とは一見無関係と思える事件だったが、やがて
二つの事件が思わぬ関係を持っていたことが明らかになってゆく・・・。
シゴキ事件の真相の意外性は買いますが、もう一つの事件とのつながりの部分で、伏線が不足がち
なのが残念。レッドヘリングも今ひとつ無理があり、上手く整理ができず、冗長になったような
印象があります。登場人物のキャラ設定も頑張ったとは思うけど、どうも乗り切れていない。凡作
の一言で片付けるのは惜しいのですが・・・。
伴野朗「マッカーサーの陰謀」(講談社文庫)★★★
1985年の長編。
1950年、朝鮮戦争が勃発、韓国・米軍は北朝鮮の侵攻によって釜山まで追い詰められてしまった。
起死回生の反撃のため、東京GHQのマッカーサー元帥が秘密裏に進める陰謀。しかしGHQの
思惑に対してワシントンのCIAは冷淡で、反撃に必要な情報源となる、CIAが放った北朝鮮
内部の大物スパイの正体を明かそうとはしない。更に、GHQ内部ではソ連側スパイが暗躍する
など不穏な動きが。一方、妻の病気療養をエサに、GHQの命令で北朝鮮占領地区に潜入するこ
ととなった元日本軍の参謀・古城。彼の運命や如何に・・・。
歴史上名高い「仁川上陸作戦」の裏面を描いた冒険小説。謎の大物スパイの正体について、最後の
最後まで、一体誰なのか、と二転三転させるなどフーダニット的な趣向もありますが、やはり伏
線などに不満が。主人公格の古城についても、最後にもうちょっと触れてほしかったです。
5連投スマソカッタ
佐野洋「ひとり芝居」(春陽文庫)★★★★☆
1960年のごく初期の長編。初代スレの
>>630さんが既に紹介されていましたね。
化粧品会社に勤める徳村は、恋人の妊娠中絶費用に困っていた折り、東北地方出張の帰りの夜行
列車で出会った不倫旅行中の官庁課長とOLを盗み撮りし、課長の素性を突き止めて恐喝を始め
る。徳村は更に課長の妻や不倫相手にも揺さぶりをかけるなど、恐喝はとどまるところを知らな
い。また徳村の恋人がその課長の部下だったこともあって、事態が紛糾してゆく中、遂に徳村が
何者かに殺される・・・。
徳村が殺される寸前のところで第一部を終え、その後の捜査を主体に第二部が始まる、という二部
構成。徳村の恐喝が何とも牧歌的でノンビリしていたり、関係者同士が疑心暗鬼に陥って互いを
疑い出す辺りに、詰めの甘さがあるなあ、と思っていたら、ラスト数ページでの、意外な真犯人
の指摘に仰天しました。「そうか、あの連中の少々頭の悪い行動を延々と描いたのはそのためだっ
たのか」と感心しました。
200ページちょっとの短めの長編ですが、コンパクトながらも、構成全体が真犯人を隠すため
の仕掛けとして機能している佳作。真犯人に関する伏線がアレとアレぐらいなのは惜しいですが、
この長さでは仕方が無いでしょうね。
単調な脅迫物で、大仰な趣向など何もなくとも本格ミステリは描ける、という好例でしょう。
「高すぎた代償」「脳波の誘い」以上の出来。お勧めです。
206 :
名無しのオプ:2010/02/01(月) 18:51:15 ID:Sjd7W8/P
伴野朗、なつかしいですよね、早死にしちゃったけどね。
そうかとおもえば、南條範夫みたいに、90歳すぎても生きてたし。
作家と寿命の問題はどうなのかな。
207 :
名無しのオプ:2010/02/01(月) 20:38:41 ID:4xLlhQHu
伴野は暗い
208 :
名無しのオプ:2010/02/19(金) 22:25:05 ID:mBsQbEvK
溜ってたんじゃなかったの?
209 :
名無しのオプ:2010/02/20(土) 20:44:40 ID:H7SyaW6d
「本格ミステリ・フラッシュバック」完全制覇めざして、残り30冊余り。
小泉喜美子『またたかない星』、飛鳥高『死にぞこない』が気になるんだが見つからない。
210 :
名無しのオプ:2010/02/22(月) 05:58:32 ID:zTupRw5Z
おお、すごいな
頑張って制覇してくれ
211 :
名無しのオプ:2010/02/22(月) 17:17:47 ID:3nBxk0ey
木谷恭介「京都鷹峯殺人事件」(ケイブンシャ文庫)★★★★
1986年、作者を代表するシリーズ、宮之原警部の初登場作品。
華道・烏丸流の家元一族を襲った悲劇。横領疑惑の渦中にあった家元の弟が暴漢に襲われ、衆人環視
の中、斬殺されるが、なぜか死体が消えてしまい、翌日、離れた場所で発見されるという不可解な事
件を皮切りに、一族が次々と殺され、ついには家元もまた・・・。烏丸流の出版社に勤める編集者・桃木
真代は警察庁から派遣された宮之原警部とともに事件を追及するのだが・・・。
京都、華道の家元・・・ときたので、どうせ山村美紗の亜流で2時間ドラマ向け旅情ミステリだろうと
高をくくってナメきっていたので、まんまと騙されました。華道界のドロドロした内幕を、ヒロイン
の目を通して描いたことで、結末の真犯人の意外性が見事にキマった良作。第一の事件の死体消失
トリックは大したものではないし、伏線なども、もう少しどうにかならないかな、と思う部分もあり
ますが、構成もシッカリしているし、通俗性もさほど気にならないレベル。意外な掘り出しものでし
た。甘い評価ですが★4つ。
笹沢左保「魔の不在証明(アリバイ)」(角川文庫)(採点不能)
1978年の長編。
喫茶店チェーンを経営する石黒圭四郎・万里子の夫婦仲は、夫の浮気により最悪の状態にあった。
妻の万里子は絶対に離婚を承知しないまま、ひょんなことから自分に瓜二つの女性・大沢綾子に
出会ったことから、夫の殺害を決意、綾子に絶対のアリバイを作らせて殺害に及ぼうとするが、
夫は一足先に何者かに殺されてしまった。そして夫が不動産を処分してつくった2億円余りの金
も消えていた。万里子は自分より先に夫が殺された真相を求めて、夫の部下とともに事件を追う
が、アリバイを頼んだ後に失踪した綾子もまた殺されたことから事件は意外な方向に・・・。
ヒロインの間抜けな対応振りに少々イライラしましたが、真相には呆れ返ってしまいました。そん
なことが一度ならず二度までも起こる訳がないだろってwご都合主義もここまで来ればリッパ。
このスゴすぎるメイントリックは、読者を騙すためというより、作者の永遠のテーマともいえる
「愛の不毛」を際立たせるため、という狙いは分からないでもないんですけどね・・・。怪作の一言。
214 :
名無しのオプ:2010/03/02(火) 20:54:27 ID:4Av2EqJz
いまさらながら「本格ミステリフラッシュバック」を買ったので
コレと
>>3氏とを参考に100円コーナー巡り始めるかな
典厩五郎「炎帝の遺産」(双葉文庫)★★★
1990年の長編。
昭和16年、太平洋戦争直前の満州。上海から流れてきた新聞記者の香崎は、新聞社のオーナー社長
から行方不明になった男の捜索を命じられる。その行方を追ううちに、満鉄が誇る特急「あじあ」号
で起きた殺人事件に行き当たるも、彼の追及は関東軍に妨害され、更にナチス・ドイツの将校らに
よる謀略計画も絡んできて事態は紛糾してゆく。果たして満州を舞台に繰り広げられる陰謀の結末
や如何に・・・。
結末で、或る事件における意外な真犯人が明かされたり、取るに足らないと思われていた人物が実
は重要な役割を担っていたなど、謎解き興味もあり、しかも伏線も張られていたので感心したので
すが、どういう訳か、満足感が得られませんでした。そうした謎解きとストーリーの肝心要の部分
が微妙にズレているというか・・・。まあそこそこに楽しめましたが。
森村誠一「螺旋状の垂訓」(講談社文庫)☆
1985年の長編。作者の「あとがき」を読む限りでは「本格推理」とのことなので期待したのですが、さて。
ナンパされたホテルで殺された女性、自宅で殺されたホステス。そして地下鉄で線路に突き落とさ
れて死んだ男・・・。一見無関係な殺人事件には、実は関係があるのではないか?刑事たちの執念の捜
査はやがて一人の人物に行き当たるのだが・・・。
超駄作。どこが「本格推理の醍醐味」なんだよ。おまけに「書き下ろし作品」とのことで、「書き下ろし
では基本的に本格推理を書くことが多い」そうだが、それでこのレベルかよ。
とにかく完成度の低い作品。伏線も何もあったものじゃない。ヒネりはゼロで、中心をなす或る
トリックも完全に空回り。評価すべき点が贔屓目に見ても見つからない、というヒドい作品。
白石一郎「長崎ぎやまん波止場」(文春文庫)★★☆
作者はもっぱら時代小説の書き手として知られていますが、アンソロジー「前代未聞の推理小説集」
(前スレ67参照)収録の短編「地獄谷」の出来が良かったので期待して読んでみました。本作は
1985年の作者初の捕物帳とのこと、江戸時代、長崎の町人自治組織の幹部・乙名を拝命する若杉
清吉を主人公とした全3話からなる連作集。
第1話「遥かな国の父」は出島で起きたオランダ人殺し。オランダ人との間に生まれた混血の男が
下手人として挙げられるが・・・。日本人が容易に近づけない出島は一種の「密室」の状況にあります
が、その設定を活かした謎解きにはならず、トリッキーな趣向に乏しく、最後の真犯人を特定する
手段がやや面白いものの凡作。
第2話「水神の秘密」は、商家の庭で起きた岡っ引き殺し。やがて浮かび上がる「水神講」という謎
めいた信仰集団。実は・・・。意外な凶器とその隠し場所に関するトリックが扱われています。J・D・
カーの某作品と同じですが、「水神講」の正体に上手く絡めた、なかなかに趣向を凝らした佳作。
第3話「おんな無宿」は、女性の水死体が浮かぶが、彼女は二十年以上も前に舅殺しで死罪になった
はずだった。本当にその女性が今まで生き延びていたのか、ではあの時、死罪になったのは誰だった
のか・・・。不可解な発端は良かったのですが、これもトリッキーな謎解きには向かわないのでガッカリ。
本格ミステリとして評価できるのは第2話のみですね。なお解説には、ミステリである捕物帳を書き
渋る作者に対して、解説者が「半七」を引き合いに出して「捕物帳はミステリに非ず」論をブチ上げた、
などと書いていますが、勘違いも甚だしいよなあ。
松本清張「殺人行おくのほそ道(上下)」(講談社文庫)★★☆
1964〜65年に女性誌に連載された「風炎」を改題した長編。
倉田麻佐子は洋裁の会社を経営する叔母を巡る事件に巻き込まれる。叔母に経営を任せっきりの
温厚で学者肌の叔父、店の若き支配人、店に出入りする売り出し中の女優に、そのパトロンらし
きタクシー会社社長・・・。叔母の周囲に集まる人たちを巡って不穏な空気の漂う中、先ずは叔父の
実家の山林を売却に関わった不動産屋が交通事故を装って殺され、次いで叔母が金を借りた高利
貸しが、更には女優もまた・・・。麻佐子は大学時代の友人で新聞記者の男とともに事件を追及する
のだが・・・。
名作「ゼロの焦点」と同様、ヒロインが事件を追及してゆくパターンですが、登場人物が限られて
いるので、連続殺人の末には犯人はバレバレになってしまいます。むろんひとヒネり加えてはい
ますが、それも読者の想定内。従ってフーダニットとしては楽しめません。
ただし、終盤まで見当もつかない犯人の動機に絡む人物の出し方や、プロローグにおける或る重
要人物の大胆な登場などには感心しました。
浅川純「浮かぶ密室」(講談社文庫)(採点不能)
1988年の長編「空中密室40メートルの謎」の改題版。
ゴルフ場のクラブハウス屋上に突き出た帆船型のオブジェ。その甲板上で発見された白骨死体。
警察の捜査と並行して、テレビのワイドショーの元警察官で構成されるリポーターの面々が独自
に捜査を行う。地上40メートルの甲板上にどうやって死体を遺棄したのか、また、死体の身元
は一体誰なのか。やがて或る女性が容疑者として浮かぶのだが・・・。
いかにも1980年代の軽いノリでストーリーが展開。当時のテレビCMなどをわざわざ文中で紹介
するなど、どこか意図不明の通俗的な展開でもあるのですが、一応、些細な伏線などもあるし、
密室状態での死体遺棄の方法や意表を衝いた動機など、「本格」としての最低ラインは維持してい
ます。
しかし、ラストで真犯人が指摘された後の展開には唖然。詳細は書けないのですが、要するに
「探偵が犯人を論理的に追い詰めるのではなく、犯人が探偵を論理的に・・・・・する」小説といっ
たら良いでしょうか。一種の「風刺」というか「告発」「糾弾」であり、それまでの通俗極まる
展開も、それを際だ出せるため、ワザとやったことだったのかと少々驚きました。しかし、作
者が追求したテーマ、意図するところは分かりますが、「本格ミステリ」の形式を借りてこの種の
「告発」を行うのは、どうも水と油というか、収まりが悪いなあ、というのが率直な感想。
後の作品「水戸・日立ビジネス特急誘拐事件」(前スレ参照)の方が、真っ当な本格ミステリとし
てスッキリまとまっています。
多岐川恭「岡っ引無宿」(光文社文庫)★★☆
特定の岡っ引きの親分には仕えず、色々な事件に顔を突っ込んでは、あちこちの親分たちを助ける
という流れ者の下っ引き・半太の活躍を描いた連作集。
第1話「女の上に猿がいた」は、殺された女の死体の上に猿回しの猿がいたのは何故か。半太の推理
の過程が読みどころの良作。
第2話「朱唇の怨み」はダイイングメッセージ物。被害者が血で描いた「あ一」の意味するものとは。
これは凡作。続く第3話「なまくら刀が譲られた」は人間関係が煩雑で手掛かりの出し方も弱く、
第4話「旅の半太」も結末の付け方が少々強引過ぎる。
第5話「降り止んだ雪」がベスト。半太が馴染みになった女郎が雪の日に殺されてしまう。残され
た足跡から、現場に出入りできたのは半太だけと断定され捕まってしまうが・・・。これは足跡トリッ
クと真犯人の意外性に富んだ良作だが、後味の悪いことといったら・・・。
第6話「今戸橋のほとり」は舟の上で発見された死体の謎。これは素朴なアリバイ工作。
本格ミステリの基本には従っているのですが、やはり笹沢左保あたりと比較すると、切れ味が鈍い
なあ・・・。
多岐川恭「目明しやくざ」(光文社文庫)★★★
1975年発表、岡っ引きの伯父を持つ遊び人・伊佐吉を主人公とした捕物帳の連作集。
第1話の表題作は大した出来ではないですが、第2話「力士の妾宅」が本格ミステリというか
バカミスというか、ちょっとスゴい作品。関取の妾と知り合い、その家に泊まった伊佐吉、目
が覚めると隣で妾は殺されていた。未明にウトウトしていたとき、小柄な男が侵入してきたこ
とを覚えているのだが、容疑者は皆、大柄な男ばかりだった・・・。江戸時代ならではの豪快な
バカトリックが炸裂。でも演出次第では現代のミステリにも使えるかも。
あと第6話「狂った長屋」もスゴい。町で知り合った男に、風変わりな長屋に連れていかれた
伊佐吉。そこは独立した一つの町で、中ではタダで飲み食い自由の桃源郷だった。だが住人の
浪人から、他の住人たちの意外な正体を聞くことに・・・。これも奇抜な設定で読ませます。
最終話「居候の失敗」は豪商夫婦が毒キノコに当たって死亡、残された息子や娘を巡って連
続殺人が勃発、真犯人は誰なのか・・・。オーソドックスなフーダニット物。
残りの「裸屋敷」「蟻地獄」「心中者は花の香り」はミステリ的には大した話ではないので省略。
でも、この作者の捕物帳を代表する「ゆっくり雨太郎」シリーズよりも、ミステリ的には面白
かったです。
笹沢左保「木枯し紋次郎3−六地蔵の影を斬る」(光文社文庫)★★★
表題作は凡作だが、続く「噂の木枯し紋次郎」が傑作。紋次郎を果し合いで討ち取った若者。
晴れて娘と祝言を挙げることとなるのだが・・・。紋次郎が殺される訳はないのですが、まさか
こんな真相だったとは・・・。二転三転する結末まで飽きさせません。
「木枯しの音に消えた」は紋次郎の楊枝と左頬の傷にまつわるお話、「雪燈籠に血が燃えた」
は佳作だが全く救いのない話。
笹沢左保「木枯し紋次郎4−無縁仏に明日をみた」(光文社文庫)★★★☆
表題作は、峠で出会った気弱な渡世人とその妻子。紋次郎は例によって関わりを避けようとする
が、その渡世人は紋次郎と間違われて殺されてしまう。紋次郎は逆恨みでその子に襲われ傷を負
ってしまう・・・。これは真の黒幕とその動機に工夫を凝らしている良作。
「暁の追分に立つ」、木曽路で紋次郎は、病気の老渡世人から、昔盗んだ仏像を掘り出してくれる
よう頼まれるが・・・。或る人物の錯誤に関するトリック。これは見破れました。
「女郎蜘蛛が泥に這う」は甲州、煙の千代松と名乗る男が乱暴の限りを尽くしている。一度は紋次
郎に殺されそうになるが、老母の懇願で一命を取り留める。だが・・・。なるほど、中盤で紋次郎ら
しくないセリフが出てきて意外に思ったが、そういうオチでしたか。
「水車は夕映えに軋んだ」武州の農村地帯で勃発した連続殺人事件。渡世人も眼を背けるほどの
惨殺が続くのだが犯人は意外にも・・・。これはやや伏線不足か。
「獣道に涙を棄てた」は息子の嫁との情事を紋次郎に見られた豪商が、地元の渡世人らを使って、
紋次郎を口止めしようとするが・・・。これは謎解きよりも、或る人物の心情を追求した作品。
8連投スマソカッタ
清水義範「M殺人事件」(光文社文庫)★★★
1987年のシリーズ第4作。
不破の今度の仕事は、人気ミステリ作家・丹波格太郎の密着取材。講演で郷里の群馬県・前橋に
行った丹波に同行、近郊の温泉で開かれた高校時代のミステリ同人誌仲間との懇親会にも参加す
るが、その晩、丹波は露天風呂で殺されているのが発見される。やがて彼とお忍び旅行をしよう
としていた愛人のホステスも殺され、更には同人誌仲間の女性もまた・・・。犯人は同人誌仲間の中
にいるのか、或いは出版社や愛人がらみか。珍しく鬱状態から脱していた朱雀とともに不破は事
件の真相を追うのだが・・・。
今回の「M」は、「マーダー」であり「ミステリ」、ということで、1980年代後半の日本のミステリ
界が置かれていた状況をパロディの対象としています。「新本格」は登場したばかり、ということ
で言及されておらず、もっぱらトラベルミステリやら社会派を茶化しているのですが、「本格」こ
そがミステリの本道、という認識はあるようで一安心w
肝心の本編の方は、まあ可もなく不可もなく、といったところでしょうか。第1作「H」、第2作
「CM」に倣ったかのように、或る有名な海外古典作品に似たメイントリックで、朱雀のセリフ
を借りて「非常に複雑なトリック」と作者が自画自賛するほど複雑とは思えないのですが、心理
的なミスディレクションが、まずまず効果を挙げています。まあ、前作「DC」が駄作だったの
で、今回は満足できました。
223 :
名無しのオプ:2010/03/06(土) 13:27:29 ID:JYhccMfH
毎度のことながら採点不能作品が非常に気にかかるw
224 :
名無しのオプ:2010/03/06(土) 19:29:04 ID:cy56k0L6
>>218 「空中密室40メートルの謎」で読んだけど、講談社ノベルズは新本格前から
珍奇なことしてたんだなあという印象。
説明しづらいんだけど、東野圭吾が新本格以降、講談社ノベルズで発表したのが、
やっぱり本格ミステリを外側から見るような作品ばかりだったのを連想させる。
むしろメインの犯罪のほうの物理トリックの「道具」について知ってると
ちょっと無理がありすぎなんじゃないかと思って、こっちのほうで切った。
225 :
名無しのオプ:2010/03/06(土) 20:09:04 ID:KpeJatwG
>>216 捕物帖は少なくとも半分はミステリーですよね。
昨今それを等閑にした時代作家達が安易に書くものだから
詰まらないジャンルになったと嘆いていたのですが、
そうか、編集者のせいだったのか!
226 :
草間 滴:2010/03/08(月) 00:40:47 ID:ibt9975M
>>215 たしかに『螺旋状の垂訓』はあんまり面白くなかったです。
講談社文庫版の解説を先に読んだら、思いっきりネタバレされたのでよけいに印象が悪い(笑)。
富島健夫「七つの部屋」(徳間文庫)★★☆
1959年の長編。
場末の安アパート「ドリーム荘」に暮らす七組の男女。赤ん坊と夫婦、チンピラとその弟分の放火
魔、売春婦、エロ雑誌専門の売れない作家、大学生と母親、そして大学進学を諦めた工員と、彼が
思いを寄せる大学の夜間部を目指す事務員の娘。社会の底辺で暮らす彼らは、それぞれに生活の屈
託や悩みを抱えており、或る者は会社の製品の横流しに手を染めたり、街でくわえ込んできた少年
を誘惑したり、また或る者は、外国人ビジネスマンの接待で危難に遭う・・・。徐々に、そして静か
に破滅のときに向かってゆくドリーム荘の面々。そして遂に破局が・・・。
まあ、本格ミステリというほどの作品ではないのですが、七組の男女のうち、最終的に破滅するの
は誰なのか、という興味で読みました。最終的な凶行に至るまで過程を丁寧に描いており、しかも、
誰が最後に凶行に走るのかが分からない、ということで、クリスティ「ゼロ時間へ」に近い試みか
な(って、全然違うかな。でも作者は同書を読んでいるかも)。
ラストに向かっての伏線は色々ありましたが、まあミステリのソレとはちょっとニュアンスが異な
るものですし、そこにヒネりと意外性を持ち込んでいれば、「ゼロ時間へ」と比較して評価もでき
ますが、どうも中途半端なまま終了。しかしラストの一行にはギョッとしました。こんな終り方を
するとは・・・。リドルストーリーという訳でもないですが、何となく、次の悲劇を暗示しているよ
うな不気味な結末、ということで結構楽しめました。
そういえば、女工員がトリスバーで怪気炎、盥で洗濯、給料は前借り、停電はしょっちゅう、とい
った昭和30年代の懐かしい風俗も一杯ですね。しかし当時の会社ってセクハラがまかり通っている
なあ。
辻真先「迷犬ルパンと地獄谷」(光文社文庫)★★★
1987年のシリーズ第8作。
ランの弟・川澄健が通う学校の後輩でイジメに遭っていた美少女で大富豪の娘・大庭民子が誘拐
された。犯人からは三千万円のサファイアを縫いぐるみに押し込んで、墓地の指定の場所に入れ
るよう要求されるが、刑事らの衆人環視の中、まんまと宝石は盗まれてしまう。更に離婚してい
た民子の母親やその愛人が殺される事件も発生。一方、誘拐されていた民子は、彼女をイジメて
いた同級生の青江の経営するマンションの一室で無事発見される。青江は責任を感じて、一転、
民子を守るべく、彼女の別荘がある信州・地獄谷に向かうのだが・・・。
ポイントはやはり宝石強奪のトリックでしょうね。トリッキーではありますが、判明するや真犯
人もたちどころに特定されてしまうし、あの犯人の設定がやはりミエミエで弱いところ。
とはいえ、まずまず水準はクリアしており楽しめます。・・・それにしても、地獄谷をこの作品の
舞台にする必然性が全くないよなあw
笹沢左保「魔家族」(徳間文庫)★★★☆
1977年の長編。
暴力団の用心棒を務める羽根沢は、唯一の肉親である祖母の臨終に向かう途中、老女を轢き逃げして
しまう。だが翌日の報道を見て羽根沢は仰天する。老女はクルマでハネられた後、絞殺されていたと
いうのだ。轢き逃げに便乗して被害者を殺した犯人は誰なのか、羽根沢は追及するのだが、事件現場
の屋敷に身を寄せていた老女の身元も分からない。更に、彼女が居候していた屋敷の主人もまた殺さ
れてしまう。羽根沢は、主人夫婦のドラ息子が犯人ではないかと疑うのだが、彼にはアリバイがあっ
た・・・。
これはアリバイ崩しと見せかけて、実は動機の意外性を追及した異色作ですね。序盤から何度も動機
に関する伏線が登場するのですが、なかなか真相を見破るのは容易ではありません。冒頭の或るミス
ディレクションも上手くいっています。
それにしても作者の、手を替え品を替えての「結末の意外性」の追求ぶりには脱帽ですね。余りムリヤリ
なことをすると、こないだの「魔の不在証明」みたいな怪作になってしまいますがw
西村京太郎「蜜月列車(ハネムーン・トレイン)殺人事件」(光文社文庫)★★★☆
1982年の鉄道物のアリバイ崩しで固めた中・短編集。
「再婚旅行殺人事件」の舞台は、山陰線を走る急行「さんべ3号」。この列車は途中駅で列車が二つに
分かれて別路線を走るものの、再び合流して終点に向かうという変わった列車。犯人はこの特徴を
活かして鉄壁のアリバイを作り上げるのだが・・・。このトリックのミソは、上記のさんべ3号の特徴
よりも、むしろ、「急行」であることのアレと、或る小道具の使い方の方にあると思います。良作。
「あずさ3号殺人事件」は、クイズの賞品の旅行券を見ず知らずの女性の旅行券と交換し、信州旅行
に向かったカップルを襲った「あずさ3号」車内での殺人事件。当然、旅行券を取り替えた相手の女
性が疑われるが、彼女もまた密室で殺されてしまう・・・。密室トリックはともかく、最後の最後に
立ちふさがるアリバイが、ちょっとした発想の転換で、アリバイ崩しの証拠そのものに反転する
ラストの切れ味が見事。佳作です。
「ゆうづる5号殺人事件」は、寝台列車の或る特徴に絡んだアリバイ物だが、これは「鉄道豆知識」
で一般の読者には知りえないことだよな。しかも、現代ではアレが姿を消してしまっているし。
凡作。
「新婚旅行殺人事件」は、新婚旅行に旅立った警視庁の小川刑事だったが、彼が席を外しているう
ちに時限爆弾が爆発、新婚間もない妻を喪ってしまう。小川刑事は執念で真犯人を追うが、二人の
容疑者には鉄壁のアリバイがあった・・・。これも列車の「運用」に関わるもので、知っている人に
は当たり前のことかも知れないけど、ミステリの謎解きとしてはどうかなあ・・・。
ともかく、前半の2作の出来は良いので、同傾向の中・短編集「雷鳥九号殺人事件」(
>>148参照)
ともども、先ず先ずのお勧めです。
中町信「自動車教習所殺人事件」(徳間文庫)★★★
1980年のノンシリーズ長編。
自動車教習所の配車係が殺され、更に密室状態にあった教習所の建物内でも指導員が殺される。
不良指導員を巡るトラブルか、或いは不倫に絡んだ脅迫の果ての殺人なのか。地元署の刑事ら
が捜査を進めるのだが・・・。
うーん、この作者が得意とするアレがらみではない、真っ当にストレートな「本格」なのですが、
どうも面白みに欠けます。密室トリックは単純ながらもまあ合格ですが、最後に立ちはだかる
アリバイの件は、ちょっとどうかなあ。一応、或る人物に対する微妙な伏線などはシブくて好
きなのですが、トリックそのものが面白くないです。真犯人の意外性も、今ひとつ。終盤になっ
て或る事実を出してきてもなあ。凡作でしょう。
斎藤栄「日本のハムレットの秘密」(講談社文庫)★☆
1973年の長編。
作家の「わたし」は、明治時代に華厳の滝から飛び込み自殺した一高生・藤村操が実はその後も
生きていた、と主張する女性に出会う。友人の安東警部や奇術師らと、当時の状況を調べるうち、
女性の主張が正しいのではないか、と疑い始める。更に、有名な遺書「巌頭の感」が暗号ではない
かと疑うのだが・・・。
まあ開き直って読めば面白いのでしょうが、劣化版の「成吉思汗の秘密」といった趣き。実際に
現代に起きている事件の方も、どこか「成吉思汗の秘密」に似通っていて、しかも更にショボい
内容なので、評価すべき点は殆どないです。
232 :
名無しのオプ:2010/03/14(日) 09:56:51 ID:381DroDN
斎藤栄かあ、懐かしいねえ。
なんか芭蕉は忍者だった、とかイエスキリストは津軽の戸来村に墓がある、とか
そんなへんてこなミステリーがあったような気がするけど。
233 :
名無しのオプ:2010/03/14(日) 10:24:45 ID:Tb0V6yRh
>>231 教習所
江戸川賞の最終候補作品で、いつかは読みたいのだが、
あまり評価されてないよう。まあ、当時の選考委員の中でも
面白さに欠ける旨の発言してた人がいたが。
まあ、個人的な拙い感想ですので・・・。
スレの主旨である年代からは、やや遡ってしまいますが、オマケということで・・・。
「別冊宝石21号」(1952年7月)
「長編読切探偵小説傑作集」と題して、中・短編4作、長編1作を収録。
先ずは、夢座海二の中編「空翔ける殺人」★★☆
サンフランシスコ講和会議の取材で現地を訪れた新聞記者の加瀬は、国会議員の尾高八津子女史と
彼女の娘でニューヨーク在住のピアニスト・雪子に出会う。だがハワイのホノルルで関係者が殺さ
れ、さらに東京の留守宅では父親が毒殺される事件も発生、夫も行方不明となる。加瀬は八津子と
雪子の不可解な行動に疑問を持ち、事件を追及するのだが・・・。
サンフランシスコ、ロスアンジェルス、ホノルル、東京を股にかけた航空機使用の雄大なアリバイ
物なのですが、あまりに盛り込みすぎで、せっかくのアイディアが中編では支えきれていない。
使われているトリックは現代では不可能で、当時はおおらかだったんですねえ。もっと枚数を増や
して、落ち着いて書いてほしかったです。
坪田宏「灰になった男」★★★
サンドイッチマンの初老の男・景浦が知り合いに戸籍を貸すべく役所に出向くと、何と自分の戸籍
は死亡扱いで抹消されていた。消息不明の弟の仕業か、或いは昔同居していた友人・平賀の弟が一
枚噛んでいるのではないか、景浦が追求するうち、事件は満州国の莫大なダイヤモンドの行方に絡
んでいることを知る・・・。
「本格」というほどではないが、非常に面白かったです。主人公・景浦の飄々としたキャラが秀逸。
島久平「自殺の歌」★★★☆
大学教授・星野の昔の教え子、佐竹、馬場、水野、田中の面々は、教授の一人娘・百合子を巡って
暗闘していたが、馬場が情婦を殺して密室で自殺する。更に馬場を殺したのは自分だといって、水
野もまた自殺。田中の依頼で調査に乗り出した伝法探偵の推理や如何に・・・。
第一の殺人の密室トリックはいただけませんが、第二の殺人におけるアリバイ工作は上手い。ライ
バルの和田探偵も登場して別の推理を披露する趣向も楽しい。良作です。
(承前)
千代有三「エロスの悲歌」★★
複雑な家庭環境にある矢多家。長男の雅治は家庭教師と同性愛の関係にありつつ、妹とも近親相姦
の関係にあった。更に母親にもまた過去の秘密が。そんな中、雅治が殺されてしまう。名探偵・園
の推理は・・・。
真犯人の意外性が扱われていますが、伏線も含め今ひとつの出来。題材も、作者が学者ということ
で低俗には堕ちていないけど、ちょっとなあ・・・。
岡村雄輔「青鷺はなぜ羽ばたくか」★★★★
熊座警部補ものの長編。
東京・佃島の旧家・「佃富」こと塩崎家で起きた殺人事件。先妻の妹・蓉子が殺されて押入れの中
から発見される。足が不自由で婚期を逃した長女・芙美は写真の仕事に没頭し、離れに暮らす後
妻の甥・龍二は定職につかずブラブラしている。また芙美が通う写真館の主人・吉住にもまた秘
密があるらしい。事件の直後には、行方不明の先妻・多美らしき女性が現場の二階窓から目撃さ
れていた。果たして真犯人は・・・。
今も古い東京の面影を残す佃島を舞台に、古風な世界が展開します。佃大橋が架けられる前の、
「佃の渡し」で知られる渡し舟が交通の足だった点がアリバイ工作のポイント。真犯人の行動に
一部偶然頼りの部分があったり、トリックそのものが小味なのは惜しいですが、この作品の秀
逸な点は、ラスト、熊座警部補の推理で、「註:第×章・・・・・・の部分」といった形で、C・D・キ
ング「オベリスト」シリーズにも出てくる「手がかり索引」が出てくるところ。当時としては画期
的ではないかと思います。ヒロインのキャラが、やや一定していないけど、個性的に描かれて
いるのも良い。
なお名探偵・秋水魚太郎はほんのチョイ役で、しかも講和記念で酔っ払っており(!)、何の役
にも立ってないのが悲しいですw
236 :
名無しのオプ:2010/03/14(日) 22:00:02 ID:UvXESTD7
毎度ご苦労さまです!いつも感服いたしますがすごい読書量ですね。
「別冊宝石21号」は顔ぶれがなかなかそそりますな。
不運にして古本屋で巡り合ったことがない。
「青鷺」は幻影城の再録で読んだが
古風な情趣が印象に残って謎解きは薄味だったような・・・
実家にまだ保存してあるから
(ちょい古いミステリに一番浸っていた時代がちょうど幻影城の時代だったんで)
帰省した時に再読しようかな。
237 :
名無しのオプ:2010/03/14(日) 22:29:46 ID:VetUMvWj
岡村雄輔は論創あたりでまとめてくれんかな
238 :
名無しのオプ:2010/03/19(金) 02:01:16 ID:OlQmiktN
論創は河出の第二期で出せなかった宮原龍雄をまとめて欲しいよ
辻真先「犬墓島−迷犬ルパン・スペシャル」(光文社文庫)★★★☆
1984年のシリーズ特別編。作者の他シリーズのキャラクターも登場する賑やかな作品。
雑誌の企画のため、瀬戸内海に浮かぶ孤島・犬墓島にやって来た朝日刑事とラン、ルパンの一行。
更にスナック「蟻巣」と文英社の面々や、スーパー・ポテトのコンビらも勢ぞろいするが、台風の
影響で瓜生慎・真由子コンビが到着しないうちに事件が発生してしまう。文英社の若手編集者・
井崎が崖から転落、だが死体は何故か消失し、島の洞窟では別の男の死体が。だが洞窟は容疑者
が出入りできる状況ではなかった・・・。
タイトルから分かるとおり、横溝正史の名作群、特に「獄門島」のパロディです。屏風に貼られた
歌謡曲の歌詞の「見立て」趣向はハッキリ言って空振りですが、「間違いじゃが仕方がない」の真
相には笑ってしまった。その他、コントラバス、三本指の指紋、ひとりでに動いた釣鐘などなど・・・。
いずれもトリッキーな趣向を凝らしており、伏線も先ず先ず。特に横溝の某短編で使われた或る
トリックがシブく決まっています。最後に明かされる真相にはやや肩透かしの部分がありますが、
パロディにしては十分の出来栄え。
日下圭介「手錠はバラの花に」(双葉文庫)★★☆
「女性刑事・倉原真樹の名推理」との副題で、警視庁捜査一課の倉原刑事を主人公とした1992年の
連作集。
第1話「自首した女」は、奥多摩で殺された彫刻家。過去に彼にレイプされた看護婦が自首するの
だが・・・。序盤に出てくる或る伏線は上手い。
第2話「宙吊りの青春」は、珍走団三人組が、不起訴になった殺人事件を詫びて三人揃って首吊り
自殺。倉庫の高い梁に縄をかけており、他人が殺して吊り下げるのは不可能に思えたが・・・。これ
はミエミエだよ。しかも幾ら珍走団とはいえ、あの結末はないだろ。
第3話「遠すぎる死体」はアリバイ物。容疑者は死体発見現場と自宅を往復できないという事実
からアリバイが証明されたが・・・。まあまあ。
第4話「指紋」は、難病にかかった上に殺人事件の容疑者にされてしまった女性。事件現場に遺
された指紋が決定的な証拠なのだが・・・。凡作。
第5話「間抜けすぎた電話」は、銀行強盗4人組の一番下っ端が改心し、仲間に悟られないよう、
自分たちの居場所を伝えようとするが・・・。一種の暗号解読物ですが、これはカンタン過ぎるよ。
第6話「南から来た女」は東南アジアからの出稼ぎの女性を巡る殺人事件。これも凡作。
うーん、倉原刑事のキャラが爽やかで肩肘張らず、飄々としているのは良いのですが、謎解きの
レベルまで淡々としている、というより手抜きに近いか・・・。初期の傑作短編集「鶯を呼ぶ少年」
「花の復讐」と比べると雲泥の差ですねえ。
佐野洋「完全犯罪研究」(講談社文庫)★★
1977年の「完全犯罪」をテーマにした連作集。全6話収録。
「死体遺棄」は、マネキン人形の運搬を隠れ蓑に、実は本当の死体を運搬したのではないか。記者
の「わたし」は知り合いのタレント教授を疑うのだが・・・。オチが唐突。そんなこと、今まで匂わ
せてすらいなかったじゃないか。
「偽装自殺」は、死んだはずの代議士秘書を見かけたと主張する女性。彼女を下宿させている叔母
は・・・。これまたオチの切れ味は鋭いけれど・・・。
「証拠隠滅」。殺された富豪の遺言で、七千万円もの遺産を相続することになった元愛人の女流作
家の陥った罠を扱ったもの、オチはまあまあ。
作者の佐野洋本人と過去の作品が登場するのが「殺人契約」。キャリア官僚の起こした交通事故の
尻拭いしたノンキャリの男を扱った作者の過去の作品「反対給付」を読んだ女性が、この作品には
モデルがいるのでは、と佐野洋を追及する。実は・・・。或る人物の思惑が上手いが、やはりオチ
の切れ味に拘りすぎ。
「完全相続」は、或る町で起きた自殺や事故死は、全て近所に住む或る成金の仕業だとする密告電
話が相次ぐ。実は・・・。これも、あの件を最後まで伏せているのではなあ・・・。
「心理殺人」は、執拗な無言電話にノイローゼになった女性。叔父の刑事が心配していたところ、
遂に悲劇が・・・。
全体に、「事件は解決するけど、実は別の人物がその裏をかいて完全犯罪に成功していたのではな
いか」といった構成。そのオチの切れ味の鋭さは買いますが、ラストのオチを際立たせるために、
重大な事実を最後まで伏せ、伏線も張らないのでは話にならないでしょう。つまり、本格ミステ
リの「意外な結末」というより、ショートショートのソレに近い味ですね。
笹沢左保「木枯し紋次郎5−夜泣石は霧に濡れた」(光文社文庫)★★☆
「馬子唄に命を託した」は三国峠越えで出会った美少年の馬子。実は女性だったのだが・・・。犯人の
意外性が扱われていますが、余り上手くいっていないような。
「海鳴りに運命を聞いた」は九十九里浜が舞台。網元の縄張り争いに地元の顔役が混じって・・・。
大した出来ではないです。
表題作は、清水峠を越えて水上に入った紋次郎を慕う子供、彼が手篭めにした娘の忘れ形見だと
村人らは言うのだが・・・。紋次郎の天敵であるアレの由来が初めて明かされるエピソード。しかも
ソレすらも真犯人の意外な正体に関する伏線にしてしまうのは流石。
「駈入寺に道は果てた」もお馴染みのトリック。「明鴉に死地を射た」は成田・佐倉辺りが舞台、
暴れ回る浪人に絡まれた紋次郎。地元の渡世人らを斬りまくっている浪人なのだが、実は・・・。
この伏線には苦笑。そんな風に錯覚してくれるかなあw
全体に出来はやや今ひとつの印象です。
笹沢左保「木枯し紋次郎6−上州新田郡三日月村」(光文社文庫)★★★☆
シリーズ第6作。「錦絵は十五夜に泣いた」「怨念坂を蛍が越えた」「上州新田郡三日月村」「冥土の
花嫁を討て」「笛が流れた雁坂峠」の5編。
うちミステリとして優れていたのは第5話「笛が流れた雁坂峠」、紋次郎と宿場を脱走した七人
の女郎たちが、信州佐久から街道の関所を通らずに山越えで甲州へ抜けようとする話。一行は
一人、また一人と命を落として脱落してゆく。とうとう紋次郎と二人の女郎だけになってしまう
が実は・・・。久々に、本格ミステリ風の意外な真相がキマッています。
表題作は、上州で落雷に遭い気絶した紋次郎、気がつくとそこは生まれ故郷の三日月村だった・・・、
というお話。村の人々の懐かしそうな様子と紋次郎の心情とのギャップが何とも言えない気ま
ずい味を醸し出しています。真相の意外性は今ひとつ。
「冥土の花嫁を討て」は川岸の小屋で雨に降り込められた旅人たち。敵討ちの旅をする武士に
商人、玄人女に尼さんに娘、そして紋次郎・・・。豪雨により川は増水し、一人、また一人と濁
流に飲み込まれてゆく。最後に生き残ったとき・・・、珍しいパニック物の良作。
第5作が今ひとつだったのに、持ち直してくるのは流石。
斎藤澪「この子の七つのお祝いに」(角川文庫)★★★
第1回横溝正史賞を受賞した1981年の長編。映画化もされるなど、当時はかなり話題になったと
記憶しているけど、今じゃこの本もあまり見かけなくなりました。
戦争の混乱期、家を捨てた父親を恨んで死んでいった母親に育てられた麻矢。それから数十年後、
メッタ刺しにされた主婦殺しに始まる連続殺人事件。元新聞記者のルポライター母田と後輩の須
藤のコンビは、事件の背景に政治家秘書をパトロンに持つ謎の女占い師が係わっていることを知
るのだが、母田もまた殺されてしまう。先輩の弔い合戦のため執念で事件を追及する須藤が知っ
た真相とは・・・。
伏線が弱い、というか余り効果が上がっていない部分もあり残念ですが、ラストのドンデン返し
と盛り上げ方は上手いですね。ドンデン返しの方は、まあ予測できるレベルですが、二重にヒネ
っており、第一章を、あの人物の一人称にしたのもフェアでしょう。先ず先ずの作品。
高木彬光「法廷の魔女」(角川文庫)★★
1963年の百谷弁護士シリーズの長編。
中小企業の社長・川瀬雄三が百谷弁護士に法外な依頼をしてきた。自分は命を狙われており、遠か
らず死ぬようなことがあったら、必ず解剖して真相を究明してほしい、というものだった。果たし
て川瀬家に招かれた百谷の目の前で川瀬は殺されてしまう。謎めいた微笑を浮かべる後妻の綾子、
先妻の遺子、姪などの複雑な家庭環境の中、綾子が逮捕されてしまう。弁護を依頼された百谷弁護
士は法廷で真相を追求するのだが・・・。
うーん、単なる法廷物のミステリであって、謎解きとしては伏線が不足気味。犯人の決め手となる
あのネタを、最後まで隠しているのではどうしようもないです。しかも前半に何度も繰り返した
「綾子の謎めいた微笑の謎」についても説明が不十分。凡作でしょう。
7連投スマソカッタ
逢坂剛「クリヴィツキー症候群」(新潮文庫)★★★☆
1987年の私立探偵にして何でも屋の岡坂を主人公とした連作集。
「謀略のマジック」は謎の美女から、第二次大戦中に中立国のスペインが、日本のために米国など
でスパイ活動をしていた件について調査依頼を受けたところ・・・。
「遠い国から来た男」は岡坂と思しき「わたし」が海外旅行中に追剥に襲われている男を助ける、
その男は実は・・・。ラスト、実は此処は・・・、なるほどね。
「オルロフの遺産」は、スペインから米国に亡命したソ連のスパイ・オルロフの資料を巡る話。
公安絡みの話で、後年の佳作群の先駆けとなる良作。
「幻影ブルネーテに消ゆ」は、スペインの片田舎を訪れた岡坂。あのジャック白井の足跡を訪ね
ていたのだが、そこで知り合ったアメリカ人から、ジャック白井の最期と、そのとき出会った
「サム」という男の話を聞く。サムの意外な正体が読みどころですね。事前に伏線らしきものは
なかったようですがw
表題作はスペイン物に精神医学ネタも絡めた秀作。ソ連大使館員を殺した大学教授。逮捕される
や、自分はクリヴィツキー将軍の生まれ変わりだと主張する。精神鑑定の結果は・・・。これは
意外な真相が冴えている秀作ですね。或るトリックの破壊力がスゴい。
246 :
名無しのオプ:2010/03/23(火) 08:11:15 ID:iY4B5K9I
あの三好徹がまだ生きてるのにはびっくりした。もうとっくに死んでるもんだと思ってた。
今月号の問題小説に、歴史物書いてた、読んでないけど。
247 :
名無しのオプ:2010/03/23(火) 09:10:21 ID:a5FVeRxh
>>246 梶山と同じで昭和40年代の作家って感じだよね。
248 :
名無しのオプ:2010/03/23(火) 17:20:17 ID:5PXRQSyd
清水一行が老衰のため死去しました。享年79歳。
249 :
名無しのオプ:2010/03/24(水) 09:17:10 ID:lhp+JUfj
このスレで、木枯らし紋次郎というのはどうですかね?
笹沢佐保も紋次郎物も好きだけど、「本格ミステリ」のスレだし。
250 :
名無しのオプ:2010/03/24(水) 11:12:32 ID:dZvX7qYe
本格ミステリ作家のスレなのでセフセフ
251 :
名無しのオプ:2010/03/24(水) 11:33:38 ID:OYDTPd5b
>>249 「木枯」でこのスレを検索するとよろし。
>>248 清水一行、ご冥福をお祈りします。「神は裁かない」がベスト、次いで「敵意の環」と「公開株殺人事件」
が良作でしたね。あと怪作「最高機密」や社会派の「合併人事−噂の安全車」などが印象に残っています。
79歳で老衰というのはちょっと意外ですが・・・。
仁木悦子「赤と白の賭け」(講談社文庫)★★★☆
昭和40年代に発表された作品を収めた短編集。
表題作、ストックトン「女か虎か」風のオチかと思わせて・・・、○。
町内で起きた謎の千円札バラ撒き事件がやがて殺人に発展し、主人公の母親が窮地に立つ「石段の
家」○、大富豪の忘れ形見を探す探偵が辿り着いた苦い真実は・・・、「幼い実」◎。これがベスト。
「ひなの首」コレはオチがバレバレで丸分かりでした。△。「悪漢追跡せよ」は母親と再婚予定の
男性の間で揺れ動く子供を捉えた佳作。こういう話は本当に上手いな、○。
主婦の万引き事件が幼児誘拐に発展する「黄色の誘惑」は△。巻末の「霧のむこうに」は、記憶喪
失の男と同棲する冴えない女性。男の記憶が戻って、自分は捨てられてしまうのではないかと怖
れるのだが・・・。暖かいハッピーエンドで○。但し本格ミステリとしては伏線がちょっと・・・。
志茂田景樹「雨の倉敷殺人紀行」(角川文庫)★★★★
1984年の長編、後に「星の四国路殺人紀行」「雪の京都殺人紀行」と続くシリーズ物の第1作のよう
です。
元刑事の高島源太と妻の元検事でタレント弁護士の昌美。娘のローザの友人・一之瀬みちが大富
豪・石渡家の遺産がらみで行方不明になるや怪事件に巻き込まれる。源太の経営する健康食品会
社の従業員3名が全員誘拐され、カバと名乗る男から「返してほしければ行方不明の一之瀬を探
し出せ」との無理な注文を突きつけられる。源太は警察時代のコネを使って一之瀬と部下らの行
方を追うが、倉敷にある石渡家の本家の娘が殺される事件が発生、更に昌美の出演しているワイ
ドショーのディレクターやアナウンサーも相次いで殺される。石渡家に伝わる「クルスの壺」を
巡っての財産争いが原因なのか。果たして事件の真相は・・・。
思っていたほどメチャクチャな筋ではなく、ごく真っ当なユーモア・ミステリですね。でもラス
トは適当に辻褄を合わせてお茶を濁すんじゃないかと思っていたら、ちゃんと収束した。それど
ころか佳作ではないかと思います。誘拐事件の意表を衝く真の動機と、それと一体化した豪快な
アリバイトリック、しかもちゃんと伏線も張られているとは・・・。最後まで残った幾つかの謎
の真相にはガッカリでしたが、これは意外な収穫でした。
厳密に考えれば突っ込みどころは多数あるし、あのトリックもバカトリックだから、「採点不能」と
しても良かったのですが、この作者の秀作など今後とも望み薄だし、バカトリックで「採点不能」な
ら、この作者には密室トリックの大ケッサク「月光の大死角」や「冷血の罠」収録の、自衛隊ヘリを使
った意味不明のアリバイ工作に腹がよじれる「朝の断崖」など大先輩がいるので、あのバカトリック
の豪快さに免じて、本作は★4つとします。
西村京太郎「秘めたる殺人」(双葉ノベルス)★★☆
1967〜1972年の初期短編を収めた作品集。
一番の注目は1967年の短編「雪は死の粧い」。東京に住む6人の男女に、秋田の山奥の山荘から無料
招待のハガキが届く。学生やサラリーマン、タクシー運転手など、全く見知らぬ間柄の6人が雪山
の山荘を訪れたところで連続殺人が勃発。クルマのガソリンは抜かれ、電話線は切られて孤立する
山荘、真犯人は一体誰なのか、また現場に残された謎の記号は何を意味するのか・・・。もうお分かり
でしょうが、あの傑作長編「殺しの双曲線」の原型となった作品です。犯人の動機の一部、ラストの
決着の付け方などに共通する部分がありますね。こちらは短編ということで、折角のクローズド・
サークルの設定を活かしきれておらず、アイディアが原石むき出しのまま、上手く加工されずに
転がっているような印象で残念なのですが、急転直下の結末までのサスペンスは流石です。
その他の作品も、有り余るアイディアがあっても、短編で枚数が足りないから、荒削りのままで
終ってしまったような感じです。「九時三十分の殺人」は歌手のご対面番組のネタで、これは別
短編集で既読。「私を殺さないで」は、ラジオのDJでヒット曲「私を殺さないで」のリクエスト
に絡んで次々と殺人が起きる話。真犯人の意外性がミソですが、やはり書き足らない。
「死へのワンショット」はゴルフ物。若手プロゴルファーを狙って脅迫状が届き、グリーン上で
遂に発砲事件が。だが狙いが外れ、近くにいた先輩ゴルファーが射殺されてしまう・・・。これも
意外なアイディアを持っているけど、書き込みが足りないのが残念。
巻末の表題作は、当時斜陽化していた映画界を舞台にした事件。これもアイディアはあるけど、
やはり短い作品で不完全燃焼といったところ。
こうした下積み時代に培ったアイディアが、やがて1970年代以降に花開いてゆく、といったとこ
ろでしょうか。どれも出来が荒削りでB級ですが、作者の佳作群の源流がここにある、という意
味では面白かったです。
草野唯雄「解明旅行」(光文社文庫)★★★
1975年の長編。
東京の相互銀行を定年退職した巽は、再婚した妻とともに、元の部下であり、今は銀行を辞めて
九州、北陸、佐渡、東北に散ったOLら4人を訪ねる旅に出た。或る者は落ちぶれ、また或る者
は成功していたが、巽夫妻が訪ねた元OLらが次々と殺されてゆく。実は巽は、十数年前に起き
た銀行内の内紛に絡む重役の不審死の鍵を握る彼女らから真相を探ろうとしていたのだったが、
同じ頃、東京の銀行内でも不審な出来事が相次ぐ。とうとう3人の元OLが殺されてしまい、巽
夫妻は4人目の女性が待つ塩釜に向かうのだが・・・。
これは「本格ミステリ」としては全く失格なのですが、サスペンスとして評価すれば、かなりの佳作
であると思います。ポイントである「何故、夫妻が訪ねる前に口封じのためにOLらを殺さず、訪
ねた後でわざわざ殺すのか」の理由が秀逸。でもその犯人の設定と、登場の仕方がアレでは、「本格」
としては全く評価できず残念。終盤のちょっと手前で明らかになる或る人物の正体にも驚くし、終
盤のカーチェイスも楽しい。しかも巽の妻が抱えていた或る「謎」には、ホロッとさせられ、作者
らしからぬ真面目で万感胸に迫るラストへ。
全体に文章も抑制気味で、淡々と人生の悲哀を描いており、いつものオゲレツな描写も皆無、「一体
どうしたんだろう?」と思わせるぐらい、作者が高齢化社会と人生の哀愁について、正面から真
面目に書いた佳品。
「本格」としてはまるでなっていないので、評価は★2つレベル、でもそれ以外の要素では秀作
なので★4つクラス、平均で★3つというところ。作者の作品の中ではお勧めの一編です。
笹沢左保「木枯し紋次郎7−木枯しは三度吹く」(光文社文庫)★★★
シリーズ第7作。
第1話「唄を数えた鳴神峠」は、他人を信じることのない紋次郎が狂女の言葉を信じたばかりに・・・、
という少々異色の終り方をする話で、どうやら第一期連載の最終話だったそうです。
表題作は第二期連載のスタートということで気合が入っていますが、ニセ紋次郎の情けないこと
といったら・・・wなお第一期と違って、第二期の作品は、紋次郎が中盤辺りから登場すること
が多くなった感じ。
「霧雨に二度哭いた」がベスト。双子の姉妹が登場し、てっきりアレのトリックを使うのだろう
と思っていたら、まんまと一杯食わされてしまった。アレの存在について読者から注意を逸らす
テクニックは流石なもの。しかし、第4話「四度渡った泪橋」は結末までミエミエの凡作でした。
高木彬光「女か虎か」(角川文庫)★☆
1970年のノンシリーズ長編。
夫婦喧嘩の果てに警察を呼ぶという風変わりな珍事に始まった連続殺人事件。東洋新聞社の記者・
吉川雄吉は、追い出された夫の愛人であるホステスが殺され、更にその夫も殺されるという事件
を追及するうち、或る新興宗教の教団と麻薬取引の謎に迫ってゆくことに・・・。
何というか、かなり混乱気味のプロットですね。どこに山があるのか全く分からないし、正直、
退屈の一言でした。そもそも謎解きとして態をなしていない。完全に破綻している訳ではないで
すが、何が言いたいのかさっぱり分からないストーリーでした。
高木彬光「黒白の虹」(角川文庫)★★☆
1961年の近松検事物の長編。
短めの第一部で、満鉄株を巡る詐欺まがいの事件が紹介された後、長めの第二部で、カラーテレビ開発
を巡る株式操作と殺人事件が勃発。そして第三部で、一連の事件の真相が解決・・・、という構成なのです
が、どうもスキの甘さが目立つ作品でした。或るトリックなども盛り込んではいるのですが、解決して
みても、だからどうした?としか思えませんでした。
それにしても、戦後の昭和20年代後半に、南満州鉄道株式会社の株式が存在していたのだろうか?
・・・と思ってググッたら、昭和32年に清算されたのでした・・・。
山村正夫「逃げ出した死体」(光文社文庫)★★★
1985年の長編。シリーズ第1作。
売れない俳優・小泉譲二は、事故で記憶喪失になったが、何故か推理能力がシャーロック・ホームズ
並みに発達。退院後、家出した妻を捜すうちに、殺人事件に巻き込まれる。しかも彼が発見したとき
には男の死体だったのが、警察が駆けつけてみると、妻が殺されていたという不可解な状況に。彼を
疑う刑事もいつしか仲間になり、入院先の院長の娘・夕起子とのトリオで、事件の真相解明に乗り出
すのだが・・・。
メイン・トリックも大したことはないし、伏線もちゃんと描かれているけど大したものではない。
まあしょせんはユーモア仕立てのごく軽い「本格」風作品、といったところか。ユーモアのセンスが
やはり古臭いのが難でしょうね。赤川次郎や辻真先あたりに比べると、いかにも泥臭いというか
垢抜けないというか・・・。まあそこそこに楽しめる作品ではありますが。
7連投スマソカッタ
斎藤栄「冬虫夏草の惨劇」(集英社文庫)(採点不能)
1984年のノンシリーズ長編。
勤務先の病院で院長と衝突し、山形・蔵王に山登りに来ていた医師・佐々木哲彦は、体調を崩して
動けなくなっていた桂木由美子と出会う。彼女の婚約者で薬学専攻の研究者・皆川が、「蔵王の山奥
に棲息する冬虫夏草を探しに行く」と言ったまま行方不明になったのを探しに来たのだと言う。桂木
に魅かれる佐々木は桂木を助けて皆川の行方を追ううちに、皆川の師である宮井教授と、彼と深い
繋がりを持つ製薬メーカーが一件に絡んでいることを知る。だが宮井は京都の宿泊先で、密室状態
で殺されてしまう・・・。
出たっ!矛盾撞着お構いなしのトンデモミステリ!真犯人の意外性を狙いすぎ、それでもフェアに
しようと伏線を張ったは良いが、張り方を間違えるというお粗末。あの人物の或る「特異性」を暗示
するのに、あの官能描写はないだろ。ミステリの伏線を張るつもりで書き出したら、途中で官能描
写が楽しくなって脱線してしまったかw
更にスゴいのが密室殺人。トリックとしては全くダメなのだが、何がスゴイって、殺された宮井教
授の顔に、冬虫夏草やらキノコやらがビッシリ張り付いていたという状況。マタンゴかよw
しかも、そんなことをした動機が、説明はあるけど説明になっておらず、殆ど意味が無いというの
は一体・・・。あと、何のために登場したか分からない人物もいるなど、かなりイッてますね。
まあ何というか、駄作のまま終るぐらいなら、ここまでハジけて終了するのも一つの手、でしょうかw
259 :
名無しのオプ:2010/04/01(木) 03:17:01 ID:2z2toPaT
>冬虫夏草やらキノコやらがビッシリ張り付いていた
キンモーーーー!w
清水義範「こちら幻想探偵社」(ソノラマ文庫ネクスト)★★
金持ちのボンボン・真下と、その友人である乾三四郎こと「おれ」の親友コンビに、宇宙人の少女・
知代の3人からなる1984年の「幻想探偵局」シリーズ第1作。4本の短編を収録。
「助けた少女はプリンセス」はイントロダクション。真下と乾が探偵事務所を設立し、宇宙人の知代
がメンバーに加わるに至った経緯を描いており、事件の謎解きは特になし。余りにも荒唐無稽で
笑った。
「幽霊屋敷の時間の渦」より幻想探偵社の活躍がスタート。悠々自適の老女の家に幽霊が出現。
「おれ」は知代の力を借りて「時間の渦」に巻き込まれた男の存在を突き止める。だが真下は・・・。
SFそのものの真相ではミステリの体をなしていないところ、真下が些細な点からミステリの
セオリーに従った真相を披露。もうちょっとトリッキーであれば良かったのですが。
「パラドックスの逆襲」は、見知らぬ学生から「命を狙われているので助けて欲しい」と言われ
た「おれ」。その学生には実は予知能力があったのだが・・・。ただのSF、ミステリではない。
「アリバイ崩しに御用心」は、劇団の俳優が同じ時間に別々の場所で目撃されたという。彼には
叔母殺害の容疑があるのだが、鉄壁のアリバイがあった・・・。一応、SFとしての真相が明かさ
れた後に、真下によるやや常識的な推理がありますが、こっちもトンデモ系。
何というか、SFと本格ミステリの融合にならなかったのは仕方がないとしても、肝心のSFと
しての展開も、全く月並みで面白くないというのでは、どうにも楽しめません。
清水義範「ABO殺人事件」(ソノラマ文庫ネクスト)★★★
シリーズ第2作。1984年の表題作長編に、1987年発表の2短編を収録。こちらは「フラッシュバック」
紹介作ですね。
隆潔女子大学の学生寮で相次ぐ怪事件。女子学生が窓から転落してガラスで首を裂かれて死に、
次いで浴室での自殺騒ぎ。寮に暮らす高瀬美紀は、最初の被害者の血液型はA型で、次の被害者
はB型だったことから、次はO型の学生が狙われると、幻想探偵社に調査を依頼してきた。乾三
四郎こと「おれ」は、単なる偶然だと一笑に付したが、真下は美紀の不思議な雰囲気を怪しみつつ
も調査を命じる。更に黒川小次郎なるオカルト専門の探偵も乗り出してくるが、ついに第三の殺
人が勃発、被害者の血液型はO型だった・・・。
クリスティ「ABC殺人事件」(本文中にネタバレあるので要注意)のアレをツイストさせつつ、
更にそれを黒川の推理で反転させ、しかし実は・・・という展開で、先ず先ず満足できました。
まあJ・D・カーの某作品などに比べるのは酷ですが、少なくとも草野唯雄あたりの「怪奇ミステ
リ」よりは遥かにマシ。
なお、短編「不透明人間の挑戦」、「世にも不思議な他殺死体」はともに出来が悪くお勧めできませ
ん。SFめいた真相の後に、真下によるごく常識的な推理がオマケのように出てきますが面白く
ないし、SFとしてすらも大した出来ではないです。
広山義慶「百首町秘戯殺人事件」(双葉文庫)★
1987年の長編。
テレビ番組で人気のタレント教授が謎の墜落死を遂げた。捜査が進むうち、被害者を強請っていた
らしい芸能リポーターが容疑者として浮かび上がるが、彼もまたガス中毒の心中死体となって発見
される。不審を覚えた黒沢警部は、一連の事件が、千葉県内陸部の小さな町・百首町の旧家・雪解
沢家の過去に絡んでいるのではないかと追求するのだが・・・。
ただの二時間ドラマ風のサスペンス作品でした。アリバイ工作などもあるのですが、トリッキーな
仕掛けが皆無だから楽しめません。刑事が調べ回るうちに色々事実が発見されて、それが出揃った
ところで終了するだけの作品。
西村京太郎「終着駅殺人事件」(光文社文庫)★★★☆
1980年の、作者を一躍ベストセラー作家に押し上げた作品群の一つ。
青森の高校で学校新聞を発行していたクラスメートらが就職や進学で上京の後、七年ぶりに再会
することに。上野駅に集合して、青森行きの寝台特急に乗って旅行するはずだったのだが、事件
が勃発。集合場所に現れなかった男が駅のトイレで殺され、更に水戸駅で途中下車した男もまた
死体で発見される。更に青森に着いたメンバーを巡って更なる連続殺人が・・・。
鉄道のアリバイ工作も、ホテルの密室トリックも、評価すべき出来ではありません。本作の目玉
は真犯人の動機でしょう。終盤に入る前に真犯人の推測は付いてしまいますが、全ての運命を狂
わせてしまった動機の元となった或る「ネタ」が実に秀逸。何でもなかったはずのアレを最後の
1ページに置いて、それが錯誤によって如何に残酷なものになったかを容赦なく突きつける幕切
れが、もう抜群の出来。
最後の1ページ、犯罪の引き金になったアレの「残酷さ」に辿り着くまで読む価値はあります。
小杉健治「影の核心」(講談社文庫)★★
1988年の長編。
優秀なSEの柏木は同僚OLとの不倫中に、自分が開発していた銀行オンラインがトラブルを起こし、
銀行オンライン開発の仕事から外されてしまう。だが出向先の上司らの陰謀ではなかったかと疑い、
独自に調査を開始。一方、冤罪でありながら強盗殺人の罪で服役し出所してきた男・市原は、離婚し
た妻の娘が、縁談を断られて自殺したことにショックを受け、自らの無実を晴らすことを決意するが
病気により急死。彼を逮捕し今は無職の元刑事が、彼の調査を横取りし、真犯人を探し当て、脅迫し
ようと企むのだが・・・。
謎解きとしては非常に不満の残る出来栄えでした。また主人公の柏木のキャラが、非常に上昇志向が
強く、妙に知恵が回って、厚かましい部分もあって、ちょっと感情移入しにくいです。
また最後に出てくる話も、主人公の救いになるとは言え、かなり取って付けた、という感じ。
ストーリーそのものは面白いけど、ミステリとしては良作とも言えないレベルでした。
三好徹「犯罪ストリート」(集英社文庫)★★☆
1986〜90年に発表された比較的新しい作品を収めた短編集。既に時代・歴史小説に重点が移っている
作者がどんなミステリを書いたか興味があったのですが、さて。
「悪徳警官」、強盗の現場に出くわした悪徳刑事が犯人の奪ったカネの上前をハネようとするが・・・。
これは良作。さり気ない伏線を活かし、急転直下の結末に。この真相の意外性はなかなかの出来。
未だ作者も枯れていないな、と一安心w
「赤い半月」はブラジルのいわゆる「勝ち組」に絡んだ話。これは短すぎてミステリとしては薄味。
「空白の肖像」の主人公はテレビのワイドショーの下請会社に勤める「私」。例のご対面企画で呼
ばれた女性がテレビ局から高価な毛皮コートを盗んで失踪する。「私」が探り当てた真相とは・・・。
雰囲気から構成まで、あの「天使」シリーズを髣髴とさせる作品。意外性なども盛っていますが、
まあこんなものかな。
「見えない復讐」は、知り合いから宝石売買の仲介のアルバイトを引き受けた男が篭脱け詐欺に
遭う話。この意外な結末もかなりなもの。ちょっと予測不可能なヒネり方ですね。
「迷彩都市」の舞台はマニラ。現地の日本企業社長が誘拐される。その妻の弟が救出に向かう・・・。
作者お得意の国際的な謀略物。まあまあ。
「重層軌道」も同様の謀略物。中南米の麻薬を取り仕切る独裁者の将軍が米国で拘束される。そ
の独占取材を任されたフリーのルポライターが突き止めた真相とは・・・。面白かったですが、
謎解きとしては中途半端。
井沢元彦「葉隠三百年の陰謀」(徳間文庫)★★★
1991年の長編。
頃は幕末。佐賀藩でまたしても化け猫騒動が勃発。藩主・鍋島閑叟公の面前に登場した化け猫は
近習の侍のノドを食い破って殺し、高い塀を飛び越えて逃走。閑叟は、藩内随一の秀才にして勤
皇思想を唱える大隈八太郎に捜査を命じる。大隈は、鍋島家がかつての主君・竜造寺家から政権
を簒奪した過去の経緯を知り、事件の真相に絡んでいるのではないかと疑う。世情騒然とする中、
大隈が突き止めた真相とは・・・。
探偵役の大隈八太郎は、後の大隈重信。神出鬼没の化け猫の正体や、黒幕の意外性、どうみても
化物にノドを食い破られたとしか思えない殺害方法の謎など、トリッキーなネタはあるのですが、
真相はあっけないもの。終盤の書き方が非情に性急で、もっと大隈の謎解きの過程に力を入れて
いれば良かったのですが、少々駆け足気味で残念。エピローグも端折っていて余韻がないし、枚
数が尽きたのでムリヤリ終らせました、という感じ。
小杉健治「土俵を走る殺意」(新潮文庫)★★☆
1989年の長編。
昭和42年、新聞記者の漆原は、国技館近くで殺人事件に遭遇する。同じ頃、大相撲では準優勝した
大関・大龍が横綱推薦を辞退するという前代未聞の事態が。実は大龍は、事件の被害者である元校
長の中学校の出身だった。校長は集団就職した教え子で行方不明になった女性を探しに来ていたら
しいのだが、果たして大龍は事件にどう絡んでいるのか。
話は数年前の昭和30年代後半に飛ぶ。オリンピックを数年後に控えた東京に、秋田の中学校を卒業
して集団就職で、また相撲部屋への入門で、三人の若者が上京した。横綱を目指す大輔、川口の工
場で働く由子、そして勤務先の工場を飛び出して行方不明となった武男。東京での生活で、一体彼
らの間に何があったのか・・・。
集団就職、オリンピック景気などなど、昭和30年代の高度成長時代の中で、地方からの集団就職組
の若者らが苦闘する様子を丁寧に描いていますが、ミステリとしては、謎解きの構成に丁寧さが欠
けてしまった印象。事件は二つ起こるのですが、片方はそれなりに意外性があるものの、もう一方
は、何の謎解きにもなっていません。
高度成長期にある東京を描いた小説として出色の出来ではありますが、謎解きミステリとしては凡
作でしょう。
8連投スマソカッタ
笹沢左保「血の海」(文春文庫)★★★
1984年の長編。
星野美沙は眼科医・二階堂の愛人だったが、或る日、離婚に応じない二階堂の妻と息子が殺されて
しまう。事件当時のアリバイがハッキリせず、動機や凶器などの状況からも、二階堂が犯人に違い
ないと警察は断定、逮捕される。彼の無実を信じる美沙と、余りにも都合が良すぎる状況に不審な
ものを感じた二人の刑事が真相を追及するのだが・・・。
登場人物が少ないため、真犯人は容易に推測されてしまうのですが、それでも、何気ない会話など
に伏線を忍ばせている点は流石です。また、或る「矛盾」のために、犯人がどうやったかが立証でき
ないところがミソなのですが、この真相は大胆というか何と言うか・・・。そんなことも起こり得るで
しょうが、ちょっとなあ・・・。
相変わらず意外性を追及しているのは評価できますが、あのネタは、序盤に大胆にもハッキリ書い
ているとはいえ、評価が難しいですね。
数週間置いたけどまたも連投でスマソ
谷恒生「横浜港殺人事件」(祥伝社ノンポシェット)★★★★
1981年の長編「船に消えた女」の文庫改題版。
横浜・本牧埠頭に浮かんだ娼婦ヨウコの他殺死体。川崎の寂れた港で船舶鑑定人を務める日高凶平は、
彼女が死の直前、停泊する貨物船に正体不明の女性と一緒に乗り込んでいたことを突き止め、船のボ
ーイ・白神が事件に絡んでいることを知る。更に白神は、横浜に向けて航海中に、神戸に住む自分の
妻・由利子が殺される事件にも絡んでいた。だが白神には、陸上を遠く離れていたという鉄壁のアリ
バイが・・・。やがて北九州では白神の同僚が殺される。日高は地元所轄署の不良刑事・犬飼や、由利子
の姉である芙美子らとともに事件の真相を追及するのだが・・・。
これは収穫でした。伴野朗「三十三時間」と同様、冒険小説に本格の謎解きを加えた傑作。寂れた波止
場、船員相手の娼婦たち、安酒場、所轄署の悪徳刑事・・・、シケた港町を描く作者の筆は冴えに冴えて
おり、登場人物のキャラも魅力十分。肝心の謎解きの方も、アリバイ工作それ自体は、海運業の専
門に係わるネタで、それほどのものではないですが、ちゃんと伏線は張ってあるし、アリバイが崩
れた後のドンデン返しと意外な真犯人も先ず先ずの出来です。
1980年代前半、「冒険小説の時代」に書かれた知られざる佳作。三好徹「天使」シリーズにも通じる、今
の「みなとみらい」のヨコハマではない、かつての「ドブ臭い運河の横浜」の雰囲気に満ちた作品、
お勧めです。
なお作者には「虚空アカシャの殺人」(初代スレ参照)というストレートな本格ミステリもありますが、
同作はラストにヘンな方向に行ってしまうこともあり、余りお勧めできないですね。
斎藤栄「孤愁の女殺人事件」(ケイブンシャ文庫)
1962〜1968年の初期中短編を収めた作品集。
中編「女だけの部屋」★★★★
旧「宝石」誌、1962年の宝石賞候補作、実質的なデビュー作でしょうか。市役所の電算機センター
を舞台に、女性職員ばかりの部署の派閥争いが殺人事件に発展する話。挿入されている二人の男女
の日記の顛末には驚いた。「今から五十年近くも前に斎藤栄が既にコレをやっている」ことは評価で
きると思います。現代の作家に比べれば相当ギコチない出来だし、そもそもストーリー自体が古め
かしいのですが、アレは全体のミスディレクションとして、それなりに効果を挙げていると思いま
す。これはなかなかの収穫でした。
短編「赤い耳の女」★★
絵画クラブで出会ったモデルは昔の恋人ではないのか・・・。二転三転させているけど、ただそれだけ
の作品。
中編「垂直の殺意」★★
動物園を併設するホテル(一体どんなんだ?)で働く男が主人公。横浜駅で遭遇した殺人事件の関係
者の女性に魅かれつつ事件を追及するのだが・・・。うーん、トリックはユニークだし、結末の意外性
も良いのだが、小説としての構成がヘタクソ過ぎて、登場人物の言動も描写不足のためか不自然で、
せっかくのアイディアを支えられていません。
全体として「女だけの部屋」のみ読む価値があるでしょう。
小池真理子「殺意の爪」(光文社カッパノベルス)★★★
1989年の長編。サスペンス・ホラー物が多い作者の中では珍しい「犯人捜し」の本格風作品との
ことで期待したのですが・・・。
洋書店に勤める木部比呂子は、不倫の相手である医師の千田流三が借りているマンションで殺人
事件に遭遇する。被害者の女性の元恋人・及川が逮捕されるが、比呂子は及川がマンションを出
た後に被害者の悲鳴を聞いており、更にその直後に現場を立ち去る別の不審者を目撃していた。
不倫がバレるのを怖れて沈黙していた比呂子だったが、及川の無罪を信じて調査を続ける彼の異
母兄・鏡一郎と出会ったことから、事件の渦中に巻き込まれてゆき、やがて真犯人の魔手は比呂
子へと迫る。実は比呂子の良く知っている男が真犯人ではないのか・・・。
なるほど、真犯人の意外性はなかなかのものです。比呂子の周囲にいるアヤしい男は全部で四名。
そして真犯人は実は・・・。但し、意外なことは意外ですが、もうちょっと伏線とかヒントとかに工
夫が必要ですね。終盤、クリスマスのシーンにおける或る「小道具」のミスディレクションは上手
いのですが、更にもう一押し、トリッキーなネタが続かないので、どこか不完全燃焼といった感じ。
終盤のクライマックスにおける二転三転のさせ方も、ちょっとヤリ過ぎ、というか三流アメリカ映
画かと思うような月並みなサスペンスw
一読の価値はありますが、佳作とは言い難いです。
南條範夫「黒い九月の手」(角川文庫)★★☆
久々に南條作品を読みました。「第六の容疑者」「仮面の人」「参謀本部の密使」、そして高木彬光
「成吉思汗の秘密」風の異色作「生きている義親」などの長編群は読みましたが、短編集はこれが初
めて。初出は不明ですが、収録作の内容からみて、1970年代に発表された、海外を舞台にした現
代物で固めた作品集のようです。
表題作は、最近、有栖川と綾辻のアンソロジーに収録されましたね。ヨーロッパを放浪する学生
が、アテネでカネ欲しさにパレスチナ・ゲリラの手伝いをすることに。アジトでの秘密会議の席
上、射殺事件が勃発。警察に逮捕された学生は部屋の外にいたのだが、メンバーの会話の内容だ
けを頼りに、犯人は誰かを推理することに・・・。うーん、これは単なるクイズ、パズルの類ですね。
中盤までモロ冒険小説の展開だったのに、突如パズルの謎解きになるという怪作として楽しめま
したが、本格ミステリの謎解きとして評価するには、例えば会話の内容にトリッキーなヒネりを
入れるなどしてくれないと・・・。
「もう一度パルミュラで」の主人公は商社マン。トルコ・シリアへの出張で、社長派と専務派の争い
に巻き込まれるが・・・。ラストの主人公の判断は全くそのとおりw
「空を飛んだ男」は第一次大戦の戦闘機乗りの老人と彼の若い妻の話。特にどうということはない。
「戦果の終末」は中南米ツアーの添乗員が主人公。昔の海外旅行ツアーってヒドいもんだよなあ。
何しに海外まで行ったんだよ。「ノーキョー」などという悪名とともに世界で顰蹙を買ったのもご
尤も。
「追跡」は、黙ってヨーロッパ旅行に旅立った恋人の心変わりを心配した女性が、彼を追ってフラ
ンス、イタリアへと旅立つ。結末の意外性はなかなかだが、ヒロインが可哀そう過ぎて、後味悪い
こと限りなし。アイツに死の鉄槌を下して遣りたくなった。
「三都物語」、「リスボンの朝の雨」ともにミステリとしては特にコメントすべき出来ではない。
「殺したのは私」は芥川「藪の中」風に、殺人事件の関係者3人の供述でまとめた話。結末の意外
性はあるけど、伏線不足。
大谷羊太郎「西麻布 紅の殺人」(光文社文庫)★★★
1990年の八木沢警部補シリーズの長編。
残業をしていた設計事務所の社員2人が、向かいのビルで起きた殺人事件を目撃、現場に駆けつけて
みると死体は消えており、事務所に戻ると、何とそこに先ほどの被害者が死体となっていた。一体ど
うやって死体が移動したのか、また何故、目撃者たちのオフィスに死体を置いたのか・・・。
一方、二十年前に解散したロックバンドの元女性ヴォーカリストが重病に罹り、彼女は娘にバンドの
メンバーである元恋人との再会を託して病死。娘はその遺志に従い、元メンバーの甥と出会う。だが
それは二十年前に起きた或る事件を蘇らせてしまう。更に例の死体消失・移動事件とも密接に係わっ
ていることも判明。一体、二十年前に何があったのか・・・。
お得意の芸能界物。序盤の不可能犯罪の真相は、別に大したトリックでもないですが、これは意外と
現実にも起こりそうで、ちょっとした盲点かも。肝心の描写もフェアなので、これはこれで良いとし
ましょう。
しかし、真犯人の設定はちょっと甘すぎるのではないかなあ。終盤で引っ繰り返したいのは分かるけ
ど、この意外性を支えるには伏線不足、というか、それまでの展開が不十分。凡作と言うには惜しい
ですが、決して良作とも言えないでしょう。
山村美紗「京舞妓殺人事件」(角川文庫)★☆
祇園の舞妓・小菊を探偵役とするシリーズ、1986年の長編。
鞍馬の火祭りで芸妓が殺された事件を皮切りに、祇園の舞妓・芸妓を狙っての連続殺人が発生。小菊と
彼女の贔屓筋である画家の沢木コンビは、事件に被害者のパトロンである貿易会社社長らと、彼らが絡
む偽ブランド品密売の事件が絡んでいることを知るのだが・・・。
文章はスカスカ、味気ないト書きを読んでいる気分でした。最初からテレビドラマ化する意図がミエミ
エの駄作。
登場人物も小菊を除いては全く類型的だし、京都の風物もこれまでの作品で繰り返されたものが出てく
るだけ。密室トリックも出てきますが、オリジナリティはゼロ。真犯人の動機だけは、まあ書き飛ばし
たにしては破綻しないように工夫されていました。
山崎洋子「香港迷宮行」(講談社文庫)★★☆
1988年の長編。
香港旅行のツアーに参加した売れない女優の工藤麻砂美。目的は同じツアーに参加している柳田久里子
を殺すためだった。だが彼女にも後ろ暗いことがあるようで、もう一人のツアー参加者の若者も秘密を
抱えているらしい。果たして着いた早々から、毒殺未遂などの事件が相次ぎ、麻砂美もまた何者かに命
を狙われるハメに。どうやらツアー参加者がそれぞれ、何者かの指示により三つ巴で互いの命を狙って
いるらしい。一体このツアーには何が起きているのか・・・。
序盤からグイグイと引き込んでゆく筆力は流石。皮肉な眼差しに満ちたユーモアも上々。最後に明らか
になる意外な動機も良いのですが、余りにも伏線が不足しています。いきなり終盤でそんな事実を突き
つけられても全く納得できない。まあ、あのネタは、チラッとでも仄めかしたら、一発でバレバレにな
るかも知れないけど、それに挑戦するのがプロの作家ってものでしょう?
プロットは秀逸だが、伏線に失敗した惜しい作品だと思います。
西村京太郎「脱出」(講談社文庫)★★★☆
1971年の初期の佳作長編。
黒人との混血児・岡田サチオはブラジル渡航を明日に控えた晩、盛り場で絡んできた男を刺して
しまった。夜の街を逃げ回るサチオに救いの手が現れる。ゴーゴーガールのアキコと、その取材
をしていた雑誌記者の白川、偶然居合わせた学生の日下部に、歌手志望の青年・鈴村と謎の男・
沖本。彼らはサチオを無事に船に乗せるべく、出港まで彼を匿うとともに、船が出港する際に、
横浜港で一騒ぎを起こそうと画策する。彼らの計画は上手く行くのか・・・。
翌朝までの一晩を緊迫した展開で描いたサスペンス、むろん、作者が敬愛するアイリッシュ「暁の
死線」のパターンを借りていますが、本家に匹敵する出来栄えの佳作です。アキコの知り合いで
ある富豪の御曹司の屋敷に乗り込んでから徐々に明らかになってくるメンバーそれぞれの思惑、
特に過激派メンバーである日下部の、ブラジル渡航を利用しての或る計画や、正体を明かさない
で不審な動きを続ける沖本の目的などなど、目が離せません。
最後のオチも、一番無難なところではあるけど、爽やかな味わい。むろんサスペンスが主眼で、
本格の構成とは言い難いですが、真相における意外な犯人や些細な伏線などにも配慮されており、
先ず先ずの作品です。
8連投スマソカッタ
小杉健治「殺意の川」(集英社文庫)★★★☆
1994年の中・短編集。年代はスレの主旨である年代を超えてますが、紹介したい作品なのでご容赦を。
「季節のない川」は少年犯罪を扱ったもの。被害者と遺族が余りにも可哀そうで、対する加害者とその
支援者と称する連中のドキュンぶりにアタマに来てしまい、ちょっと冷静には読めなかったです。
むろん、最後に痛烈な反撃があるし、「革新政党」やら「人権団体」のイヤらしさをタップリと皮肉っ
て糾弾しているものの、それでも満足できない。もっと鉄槌を下してほしかった。
「すみだ川」はその余波でチャンと読めなかったこともありますが、並行して展開する二つの話が上
手く融合できていないのでは・・・。
「罪の川」は炉辺焼きの店が火事になり従業員が死亡。経営者の男が、保険金目当ての放火容疑で逮
捕、起訴されるのだが・・・。トリッキーな言葉の錯誤と意外な結末が冴える良作ですが、伏線の一部が
後出しで残念。
「偽りの川」は、かつて自分の妻を殺した男の弁護をしたという奇特な弁護士が、今度は強姦殺人
で出所した別の元受刑者の面倒を見るうちに、彼に自分の愛人を殺されてしまう話。実はその弁護
士は・・・、という余りにも意外な真相に驚く佳作です。
中編「真実の川」は医療過誤をテーマにした重厚な力作。交通事故に遭った婚約者が医師の怠慢で
死亡、遺された女性の孤独な闘いを描いています。中盤から意外な展開を迎え、水木弁護士と
ライバルの桐生検事による法廷対決まで、一気に読ませます。最後のドンデン返しは、ややアン
フェアではありますが、長編にも匹敵する良作でしょう。
276 :
名無しのオプ:2010/04/25(日) 23:53:10 ID:6xSGaqlB
>>245 クリヴィツキー症候群とかとっくに読んでるかと思った
ひょっとして意外と若いのか?
277 :
名無しのオプ:2010/05/05(水) 21:18:59 ID:Y6O7lp/3
暇だったんで、3氏の笹沢左保の評価をまとめてみた。
時間があったら、ほかの作家もやります。
★★★★★
「霧に溶ける」
★★★★☆
「招かれざる客」
★★★★
「求婚の密室」、「アリバイ奪取 (「別冊宝石124号」(1963年12月))」、「遥かなりわが叫び」(角川文庫)、「異常者」(徳間文庫)、
「眠れ、わが愛よ」(集英社文庫)、「さよならの値打ちもない」(角川文庫)、「ふりむけば霧」(徳間文庫)、「新大岡政談」(新潮文庫)、
「地獄を嗤う日光路」(文春文庫)、「雪に花散る奥州路」(文春文庫)、「木枯し紋次郎1−赦免花は散った」(光文社文庫)
★★★☆
「盗作の風景」、「空白の起点」、 「暗い傾斜(別題:暗鬼の旅路)」(角川文庫)、「セブン殺人事件」(徳間文庫)、
「白昼の囚人」(集英社文庫)、「愛人はやさしく殺せ(別題:三種の神器殺人事件)」(徳間文庫)、「北風の伊三郎」(光文社文庫)、
「旅鴉」(光文社文庫)、「木枯し紋次郎4−無縁仏に明日をみた」(光文社文庫)、「木枯し紋次郎6−上州新田郡三日月村」(光文社文庫)、
「魔家族」(徳間文庫)
278 :
名無しのオプ:2010/05/05(水) 21:19:51 ID:Y6O7lp/3
★★★
「明日に別れの接吻を」、「遥かなり、わが愛を」、「東へ走れ男と女」(徳間文庫)、「真夜中の詩人」、「どんでん返し」、
「夜の目撃者」(光文社文庫)、「誘う女」(光文社文庫)、「愛人岬」(光文社文庫)、「幻の島」(角川文庫)、
「時計の針がナイフに変わるとき」(講談社文庫)、「夕映えに死す」(徳間文庫)、「夢剣」(光文社文庫)、
「木枯し紋次郎2−女人講の闇を裂く」(光文社文庫)、「木枯し紋次郎3−六地蔵の影を斬る」(光文社文庫)、
「木枯し紋次郎7−木枯しは三度吹く」(光文社文庫)、「逃亡岬」(光文社文庫)、「血の海」(文春文庫)
★★☆
「孤独な彼らの恐ろしさ」、「炎の虚像」(講談社文庫)、「海の晩鐘(別題:絶望岬)」(角川文庫)、「お前の名は地獄」(光文社文庫)、
「愛人関係」(光文社文庫)、「翳った砂丘」(角川文庫)、「3000キロの罠」(徳間文庫)、「木枯し紋次郎5−夜泣石は霧に濡れた」(光文社文庫)
★★
「誰もが信じられない」、「逆転」(徳間文庫)、「夜の声」(徳間文庫)、「邪魔者」(光文社文庫)、「明日まで待てない」(徳間文庫)、
「解剖結果」(徳間文庫)、「過去を連れた女」(角川文庫)
★☆
「日曜日には殺さない」(徳間文庫)
★
「四月の危険な石」、「過去は雨のなかに佇む」(角川文庫)
採点不能
「魔の不在証明(アリバイ)」(角川文庫)
感心しません
「人喰い」
>>277-278 サンクスです。
>感心しません
>「人喰い」
★の評価はしていませんでしたか?まあ確かに、初期傑作長編群の中では感心できない出来です
ね。評価するなら★★★でしょうか。
西村京太郎「高原鉄道殺人事件」(光文社文庫)★★
1984年の鉄道物で固めた短編集。
表題作は小海線が舞台。小諸近くの乙女駅で亀井刑事の姪が射殺される。容疑者の俳優にはアリ
バイがあったのだが・・・。乙女駅の或る特徴を知っていたので、そちらは見破れました。航空機の
トリックは特に言及すべきレベルではないです。
「おおぞら3号殺人事件」またも亀井刑事の別の姪が事件に絡んできます。千歳空港近辺で起きた
殺人事件。事件発生時、容疑者と亀井の姪は函館・釧路間を走る特急に乗っており、容疑者のア
リバイを姪が証明するのだが・・・。厳密に考えると、あんなにハッキリとしていることを、姪が
なぜ気付かないのかという疑問はありますが、まあ、ああいったことに女性は意外と無頓着なの
かも知れないし、アリバイ工作が逆に抜き差しならない証拠になってしまう結末の切れ味は上手
いと思います。
「振り子電車殺人事件」は紀勢線が舞台。或る用語の錯誤に関するものでしたが、この件も知って
いたのでバレバレでした。なお毒殺の方法は、振り子電車ならではのもので納得でき、まあ面白
かったです。
「内房線で出会った女」はノンシリーズの短編。ついフラッと仕事をサボッてしまい房総に遊びに
行ったサラリーマンが、安房鴨川で起きた殺人事件の容疑者にされる。彼は友人の弁護士見習い
に助けを求めるが・・・。これも安房鴨川ということでアレだな、と気付いてしまいました。
「殺意の『函館本線』」は函館郊外の大沼あたりが舞台。これも、まあ何というか、そんなこと地元
警察にとっては常識だろうに、なぜ最初に気付かない、というレベル。
ベストは「おおぞら3号殺人事件」でしょうか。残りは、殆ど鉄道豆知識の類で、ミステリとし
てのトリックというにはお粗末ですね。西村京太郎作品の見るべきものは、どうやら1980年代
前半ぐらいまで、ということでしょうか。
三浦綾子「広き迷路」(新潮文庫)★★★
「氷点」「塩狩峠」などで知られる女流作家の1977年の長編。
建設会社に勤める町沢加奈彦は早川冬美という恋人がありながらも、人妻の瑛子と不倫を続け、
更に勤務先の派閥争いの中、旗色の良い専務に取り入るため、娘の登志枝との結婚を決意する。
邪魔者となった冬美が妊娠していることを知るや、出世の妨げとばかりに、町沢は知り合いの
興信所員・田條に冬美を殺すよう依頼し、冬美は千葉県の断崖で田條に始末されてしまう。
・・・数ヵ月後、登志枝と結婚した町沢だったが、義父の専務と対立する常務の再婚披露宴の席上、
死んだはずの冬美に瓜二つの女性を見かける。田條に調べさせると、彼女は全くの他人である
ことが判明する。だが札幌に転勤した町沢の近所にまた、彼女が現れる。あの女性は本当に冬
美ではないのか・・・。
まあ結末までミエミエではありました。ミステリを読まない一般の読者ならば真相にアッと驚く
かも知れませんが、ミステリファンを騙すにはちょっとなあw
でも流石に一流作家の文章だけあって、町沢の本当にショーモなく情けないダメっぷりや、冬美
の心理の動きの描き方、そして脇役陣、特に瑛子と田條の微妙な役割の描き方などは実に秀逸。
謎解きというほどではないですが、文中でハッキリ他人だと断定されている「冬美にそっくりの女
性」の描き方が本作のポイントですね。うーん、一箇所だけアンフェアな記述がありましたが、
作者はちゃんとフェアであろうと心がけていますね。決定的な箇所は地の文章を避けているし・・・。
むろん「本格」の評価に耐えられる作品ではないですが、これはこれで面白かったです。作者
には他にもミステリ仕立ての作品が若干あるそうなので、読んでみようと思います。
笹沢左保「薄氷の沼」(光文社文庫)★★★☆
1988年に雑誌連載された長編。
大花麻奈加はプロ野球選手の三井田と不倫の関係にあり、離婚に応じない夫の公二郎から度重なる
暴力を受けていた。ある時出会った八巻という見知らぬ男から、自分の妻を殺してくれれば、公二
郎を殺してあげると持ちかけられる。麻奈加は交換殺人の提案を受け入れ、約束どおり公二郎が出
張先で殺される。今度は麻奈加が八巻の妻を殺す番なのだが・・・。
あの件の真相について非常に虫の良い偶然に頼っているし、また肝心の部分の伏線が不足していま
すが、ラストのドンデン返しと悲劇的な結末は見事に決まっています。特に「交換殺人」において常
に問題点となるアレの件を、謎解きの中心に仕立てたアイディアは評価できると思います。先ず先
ずの良作でしょう。
赤川次郎「三毛猫ホームズの歌劇場」(角川文庫)★★★☆
1986年のシリーズ第13作、長編としては第9作目。
ドイツからウィーンに入った片山、晴美、石津、ホームズ一行は、以前の事件で知り合ったマリと
再会、彼女から、東京のピアノコンクールで優勝しウィーンで演奏会をすることになった謎の新進
ピアニスト・柳美知子がウィーン国際空港で行方不明になった事件を解決してほしいと懇願される。
さらにコンクールで二位に甘んじた弥生や、美知子に振られて追ってきた林という青年らもウィー
ン入りし、波乱含みのなか、ついにオペラハウスで殺人事件が勃発する。被害者は林だったのだが、
現場は密室状況にあった。ホームズの推理や如何に?
「騎士道」「幽霊クラブ」(いずれも前スレ参照)に続くヨーロッパ物の第3弾。「騎士道」はシリーズ
屈指の傑作で、「幽霊クラブ」が今ひとつだったところ、本作は先ず先ず持ち直した良作です。オペ
ラハウスの密室トリックはさほどの出来ではないのですが、アンフェアながらも、もう一つの或る
大トリックが破壊力十分で、ラストで見事に決まっています。残念ながら序盤の或る描写でモロに
アンフェアなのですが、これさえ無ければ★4つ級の傑作になっていたでしょう。
赤川次郎はやはり侮りがたいですね。
中津文彦「千利休殺人事件」★★★
1986年の長編。
国会議員の水谷が赤坂のホテルで刺殺され、後援会長から貰った茶器「楢柴」が盗まれる。「楢柴」と
は、豊臣秀吉から徳川家康に伝わり、その後、江戸城の火災で行方不明となっていた幻の名器だっ
た。能登出身で骨董品に詳しい若手刑事の加賀見は、被害者の地元・金沢に飛び、事件の背景を探
る。水谷陣営には後継者を巡って、後援会長の園田、秘書の川端、水谷の息子らによる三つ巴の内
紛が起きていた。果たして、園田もまた金沢のホテルで殺される。容疑者と目される連中にはアリ
バイがあったのだが・・・。
佳作とは言えませんが、なかなかの良作でした。第一、第二の殺人におけるアリバイ工作はどちら
も大したものではないですが、プロローグ、凶器に関する伏線などは見事。恋人を殺され迷宮入り
した事件を突き止めるために刑事になったという、主役の加賀見刑事のキャラも秀逸。その事件は
本作では解決されなかったので、これはシリーズ化されて続いたのでしょうかね。先ず先ずの作品
でした。
アンソロジー「殺意の断層−『オール讀物』推理小説傑作選T」(文春文庫)★★★
「オール読物」誌の推理小説新人賞受賞作を集めたアンソロジー第1集。1962年の第1回受賞作から
1981年の作品までを収録。
西村京太郎「歪んだ朝」○、山谷のドヤ街を舞台にした少女殺しの話。彼女が口紅をつけていたのは
何故なのか・・・。大した謎ではないが、社会の矛盾に対する怒りがジンワリと押し寄せる佳作です。
井原まなみ・石井竜生「アルハンブラの思い出」◎。近所で起きた殺人事件の容疑者のアリバイ工作
を、隣家の病気の少年が打破する。ラスト、この少年の病気とは実は・・・。アリバイ工作自体は大した
ものではないですが、少年が実は・・・・だった、というところがポイントでしょうか。後年の天藤真に
よる某傑作の先駆となった作品ですね。
加藤薫「アルプスに死す」△。アルプスの未踏峰を狙う日本人、フランス人、ドイツ人の登山家たち。
反目しあいながら一番乗りを目指すのだが・・・。山岳ミステリとしては迫力あるのですが、真犯人の動機
が弱すぎる。
高原弘吉「あるスカウトの死」○。高校生選手の獲得を工作していた球団のスカウトが由布院温泉で
殺される・・・。題材はユニークですが、骨格は非常に古めかしいですね。被害者が狙っていたのは実は、
という意外性はありますが、ただそれだけ。
久丸修「荒れた粒子」△。テレビ局を舞台にした点、真相の意外性が評価されたのでしょうが、面白
くない。
新谷識「死は誰のもの」○、作者の短編集で既読、紹介済みのため割愛。良作です。
清沢晃「刈谷得三郎の私事」◎、功なり名を遂げた社長が私設の美術館で殺される。殺害方法がちょ
っとユニークで、シブい滋味に満ちた作品。
逢坂剛「屠殺者よグラナダに死ね」○、お得意のスペイン物の冒険小説。別の短編集で既読なので割愛。
桜田忍「艶やかな死神」△、夫を強盗事件で亡くし、再婚後、またも事件に巻き込まれた女性。どち
らも現場でトバッチリを受けていたが、実は財産狙いの狂言ではないのか・・・。まあまあ。
ベストは「アルハンブラの想い出」と「刈谷得三郎の私事」ですね。
中津文彦「千利休殺人事件」★★★
1986年の長編。
国会議員の水谷が赤坂のホテルで刺殺され、後援会長から貰った茶器「楢柴」が盗まれる。「楢柴」と
は、豊臣秀吉から徳川家康に伝わり、その後、江戸城の火災で行方不明となっていた幻の名器だった。
能登出身で骨董品に詳しい若手刑事の加賀見は被害者の地元・金沢に飛び、事件の背景を探る。水谷
陣営には後継者を巡って、後援会長の園田、秘書の川端、水谷の息子らによる三つ巴の内紛が起きて
いた。果たして、園田もまた金沢のホテルで殺される。容疑者と目される連中にはアリバイがあった
のだが・・・。
佳作とは言えませんが、なかなかの良作でした。第一、第二の殺人におけるアリバイ工作はどちらも
大したものではないですが、プロローグ、凶器に関する伏線などは見事。恋人を殺され迷宮入りした
事件を突き止めるために刑事になったという、主役の加賀見刑事のキャラも秀逸。その事件は本作で
は解決されなかったので、これはシリーズ化されて続いたのでしょうかね。先ず先ずの作品でした。
>>285 間違って
>>283を繰り返してしまった・・・orz
正しくはコッチでした。
水野泰治「暗殺幻葬曲」(講談社ノベルス)★★☆
1985年の長編。
病院を経営する父母を交通事故で喪った桜田真実は、自分が父母の実の子ではなかったことを知る。
自分の両親は一体どこにいるのか、また自分は一体誰なのか、わずかな手掛かりを伝手に、真実は
恋人の康彦を振り切って旅に出る。だが二人の行く手を邪魔する謎の老人とその一味が現れる。真実
の身を案じる康彦は、ノゾキ魔の健の助けを得て、老人一味の正体を暴こうとするのだが・・・。
1980年代当時でも、このまったく笑えないユーモア感覚には脱帽ですねw特にヒドいのが康彦の言動。
読んでいるこっちが恥ずかしくなる小説は小嵐九八郎「紫桔梗殺人事件」(
>>2参照)以来でしょうか。
なお謎解きのメインは、新聞広告の「暗号解読」なのですが、さすがにコレには力が入っています。解読
に活躍するのはノゾキ魔の健ですが、彼のキャラだけは上手いので、何とか読み通すことができました。
ラストの真相も大したことはないですが、少なくとも「暗号解読」としては関口甫四郎の作品よりはマシ
でした。
9連投スマソカッタ
(オマケ・番外編)
永井豪「吸血鬼狩り」(朝日ソノラマ)(マイナス★★★★★)
永井豪の自選SF怪奇マンガ集に収録された作品。絵のタッチが永井豪とは思えないぐらいオーソ
ドックスな劇画調で、初出が不明ですが、1960年代のごく初期の作品かも知れません。
冬山登山で猛吹雪に遭い、山荘に避難したパーティ一行。だが夜中に戦慄の事件が発生。仲間の一人
が全身から血を抜かれて死亡しているのが発見される。吹雪で救援の手が届かない中、仲間たちが
一人、また一人と血液を吸われて殺されてゆく。メンバーの中に吸血鬼が紛れ込んでいるのではな
いか、主人公とヒロインの少女は、誰が吸血鬼なのか突き止めようとするのだが・・・。
本作を紹介したのは、「本格」どころか反「本格」の筆頭というか、お遊びですのでご容赦を。クローズ
ド・サークルの典型である「吹雪の山荘」に永井豪が真っ向から挑んで、およそ「本格」とは対極
の真相に達した問題作だと思います。
終盤、主人公とヒロインの少女の二人だけが生き残ります。ここで「二人きりしかいないのだから、
正体を現しても不都合じゃないのに何故?」という訴えが胸に突き刺さります。そしてラスト・・・。
むろん、最後の一人が吸血鬼だったのではなく、メンバーの他に吸血鬼の化け物がいたのでもあり
ません。ラスト1ページは、何というか、夢に出てきそうなほど怖かったです。
永井豪が、本格ミステリにおける「吹雪の山荘」テーマをどこまで意識して描いたのかは分かりま
せんが、ひょっとしたら、こう言いたかったのかも知れません。
「吹雪の山荘では、本格ミステリごときには思いも及ばないほど恐ろしいことが起こる」と・・・。
288 :
278:2010/05/06(木) 16:28:55 ID:MFciTJre
人喰いに関しては、最初のスレで、
123
最近、笹沢左保『人喰い』読んだけど、正直「え、これで協会賞?」と
思った。ミステリって大進化したんだなあ、って思いました。
という書き込みに対し、3氏が、
124
「人喰い」は俺も余り感心しません。
と答えてます。
その後も星はないと思います。
289 :
名無しのオプ:2010/05/07(金) 16:50:28 ID:8q53J6p9
西村寿行「君よ憤怒の河を渡れ」を読んだんだけど、
冒険小説だとばかり思ってたら、本格ミステリとしてもかなり良くできてるんでちょっとびっくりした。
「この人がうちに入った強盗です!」
新宿の交番で未知の女性からそう言われて指さされた時、
東京地検のエリート検事・杜丘冬人の人生が崩れた。
一転、他人の目を逃れ、闇を奔り、
ある時は北海道で熊と闘い、
新宿の繁華街をサラブレッドで走り抜ける逃亡生活が始まった…
まるっきり身に覚えがないのに、エリート検事が突然犯罪容疑者にされてしまう、という冒頭から、
次々に不可解な状況が襲いかかってくる。
自宅のじゅうたんの下から、隠した覚えのない札束が発見されたり、自分を強盗扱いした女性を探している最中に、その女性が他殺死体で見つかったり。
謎が次から次へと増殖していくあたりは、初期から中期の岡嶋二人にちょっと似てるかも。
もちろん冒険小説としても面白い。
冒頭の謎、中段のサスペンス、ともに文句なし。
最後の謎解きはあんまり大したことないんだけど、それでも決して拍子抜けってことはない。
まあまあ満足できるレベル。
主人公がやたら女にもてたり、ピンチに陥ったら都合のいいタイミングで助けが現れたりするんだけど、
引き締まった描写のせいか、あまりご都合主義って感じはしない。
後の寿行作品で顕著になるセックス描写も、この時期はまだなし。
本格大好き、冒険小説嫌い、って人も、読んでみて損はしないんじゃないかな。
思わぬ拾いものって感じ。
290 :
名無しのオプ:2010/05/07(金) 17:57:02 ID:qTJc71nN
>>289 『憤怒』が面白いのは同感だけど、本格の要素は微塵もない
そこまで言えば「桃太郎」も「銀河鉄道の夜」も本格にならないか?
291 :
名無しのオプ:2010/05/07(金) 18:28:14 ID:rt8OIwXW
>>289 おお、「君よ憤怒の河を渉れ」。
作者が、初期の社会派ふうの推理物から、ヴァイオレンス路線へ移行する、過
渡期の作(1975年作)だけに、ごった煮の面白さがありますね。
主人公は、山中でヒグマと戦うわ、飛行訓練なしに夜空へセスナで飛び立つわ、
精神病院へ潜り込んだかと思うとサメに食われそうになるわ・・・
でもって最後には、ユニークな密室の謎を解く(笑)
肝心のトリックは、はっきりいってバカですが、手掛りとして何回か言及され
る、タバコの煙に手を伸ばす猿の奇妙なエピソード(この猿も、被害者と一緒
に謎の死をとげた)が印象的。剛腕だけでない、作家・寿行の資質が光ります。
冒険ものと本格のハイブリッドとして、一読の価値はあると思います。
山村正夫「逆立ちした死体」(光文社文庫)★★★☆
1986年、「逃げ出した死体」(
>>257参照)に続く、小泉譲二、夕起子、瀬古井刑事トリオによる
シリーズ第2作。
夕起子の父親が経営する病院内に探偵事務所を開いた小泉。第一号の依頼人は、行方不明になっ
た恋人・田島を探してほしいと依頼してきた女子大生の千鶴子だった。田島は有閑夫人らを客と
する愛人バンクのホストをしていたのだが、小泉が調査を始めるや、ミイラのような異常に痩せ
細った死体となって発見される。ホストで相手をしている時に一体何があったのか。やがて事件
の重大な鍵を握る洋裁学校の院長もまた、密室のマンションで殺されているのが発見される。向
かいのビルの目撃者は、被害者が事件のあった晩に逆立ちしていた、と証言したのだが・・・。
事件全体の真相は、まあオゲレツな内容ですが、第二の事件における密室トリックの豪快さには
唖然呆然としてしまいました。バカトリックはこうこなくちゃね。密室にした必然性も一応説明
されているし、真犯人の意外性も先ず先ず上手くいったし、伏線もそれなりに張られており、第
1作「逃げ出した死体」よりは出来が良いと思います。
横溝正史「悪魔の寵児」(角川文庫)★★☆
1959年、金田一耕助の東京物の長編。横溝作品もあらかた読んだけど、金田一の東京物は未読作が
結構あります。
戦後のドサクサに成金にのし上がった風間欣吾。その三人の愛人のうちの一人が経営するバーに勤
める早苗の兄・宏が、欣吾の後妻と無理心中未遂事件を起こしたのを皮切りに連続殺人が勃発する。
事件ごとに姿を現す謎の怪人「雨男」、三人の愛人、欣吾の前妻・種子とその愛人である活人形師・
黒田亀吉らの胡散臭い面々、犯人は一体誰なのか、そして「雨男」の正体は。早苗を慕う新聞記者
の水上三太が事件を追及するのだが・・・。
1959年、名作「悪魔の手毬唄」と並行して書かれたエログロ風味満点の通俗作品。解説にあるよう
に、当時、非難轟々だったのも仕方のない内容ですが、一応、最低限の「本格」の骨格は保ってい
ます。怪人「雨男」のネーミングとその正体(まあ、今どきコレに引っ掛かる読者はいないでしょ
うが)、オゲレツなネタに絡んでの真犯人の隠し方など、ミスディレクションに工夫した点は一応
評価できると思います。
あと、これは作者がどこまで狙ってやったのか分かりませんが、あの人物を真犯人にした点もスゴ
い。詳細は書けませんが、横溝作品と金田一耕助の熱烈なファンで、あの某名作を知っていれば、
あの××の人物が犯人だというのは非常に意外に思いました。
なお余談ながら、犯人の使ったオゲレツなトリックは、山上たつひこの名作マンガ「喜劇新思想体
系」の某エピソードで使われていましたね。元ネタは「悪魔の寵児」だったのかw
そういえば「喜劇新思想体系」には、「そして誰もいなくなった」の秀逸なパロディで、「××が犯人」
というエピソードもあったなあ。
(承前)
今思い出したけど、「悪魔の寵児」冒頭の無理心中の通知状って、「横溝正史読本」に出てくる中村
進治郎の無理心中通知状がモデルですよねw
中町信「社内殺人−課長代理・深水文明の推理」(徳間文庫)★★★☆
1991年の長編。
医療器具販売会社で給料日に発生した給料ドロボウと屋上からの転落事件。転落事件の被害者は
幸いにも一命を取り留めたのだが、事件前後の記憶を喪失してしまう。給料ドロボウを追って屋
上まで行き、ドロボウに突き落とされたのではないか、またドロボウは内部の社員と断定される
が、それは一体誰なのか。関係者が疑心暗鬼になる中、仙台郊外・作並温泉への社員旅行でまた
も事件発生、東京の事件の秘密を知っていたらしき女性社員が殺される。さらに東京に戻ったと
ころで第三の殺人が起こる。被害者のダイイングメッセージは何を意味するのか。人事課の課長
代理・深水の推理や如何に?
最初の事件における構図の引っくり返し方と、細かい部分まで伏線が張り巡らされているのは見事。
ダイイングメッセージはやや出来が悪いが、深水の理詰めの推理で犯人を断定したところで、更に
引っくり返して真相が明らかになる手際もスゴいです。
確かに解説者の山沢晴雄のいうとおり「高級で品格ある」ロジックとトリックではありますが、しか
し、折角の高度な謎解きなのに、ストーリーはおよそ「高級」でもなく「品格がある」とも言い難く、
下世話なお話なのは残念。
「グリーン車で酒盛り」「ボインのおっぱい」「女湯のぞき見」「宴会でOL泥酔」などなど。しかも、これ
らの殆ど全てが謎解きとは何の関係もないのではねえ。何でこんな下品なネタでストーリーを進める
のかなあ・・・。
池田雄一「21時間02分の密室」(徳間ノベルス)★★★★☆
1990年、劇団「害塵舞台」の劇作家・杉山翠と旅行代理店の添乗員・阿久津のコンビが活躍するシリーズ
の第?作。
大阪から札幌へ向かう寝台特急「トワイライトエクスプレス」。ミステリ執筆の取材のため、阿久津が主
催するツアーに参加した翠だったが、早くも事件勃発。ツアー参加者の医師が個室寝台で密室状況の中、
殺されてしまう。福井県警の刑事らが捜査を進めるうちに、またも大事件発生。謎のグループが裁判所の
判事らを人質にとり、刑事らの拳銃を奪い、食堂車とサロンを占拠。更に新婚旅行客の男性を捕まえて、
彼こそが神戸で発生した強盗殺人事件の真犯人であり、既に有罪が確定している男は無罪であるとして、
人質の判事に裁判長を強制、車内で前代未聞の「裁判」が開始される。阿久津と翠が男の弁護人に任命さ
れる。謎のグループの正体は、また個室寝台で起きた密室殺人の真相は・・・。
この作者の「どうしようもない通俗性とイタいキャラの登場人物たち」に目をつぶれば、本作は傑作であ
ると思います。冒頭の「グランドホテル方式」による多彩な登場人物たちの紹介、お受験の子供とその母
親、別の事件の犯人を護送中の刑事ら、果ては車掌やサロンカーで泥酔するオッサンなどなど、手際
よく紹介しており、それにしても風呂敷を広げすぎで、ちゃんと収束するのかなあ、と不安だったので
すが、ラストの驚天動地の真相には一読仰天。数々の小事件や脇役の紹介などが、ちゃんと伏線として
意味のあるものだったと知って感心しきり。
もちろん前例のないアイディアではないですが(最近では道尾秀介の某作品など)、気になったのは、
本作と同年発表の某作家の某作品。本作の方が某作品よりも半年以上も先に発表されていますね。アッ
チの方が遥かに人口に膾炙しているが、本作の名誉のためにこの点はハッキリさせておきたいです。
イヤになるほど通俗的だし、伏線の張り方やストーリー展開なども洗練されていないのが玉に瑕です
が、本作はお勧め、作者の最高傑作です。
5連投スマソカッタ
西村京太郎「神話列車殺人事件」(光文社文庫)★★★
1983年のノンシリーズ長編。
探偵社に勤める日高健介は、同僚の亜木子と結婚し、宮崎県・高千穂に新婚旅行に向かうが、高千穂
線の車内から亜木子が謎の失踪を遂げる。失意のまま東京に戻った日高は、亜木子が結婚の直前に調
査依頼を受けていた事件を知って驚く。君原由美子という依頼人が、新婚旅行先の出雲で寝台車から
失踪した夫の君原淳を探して欲しいという内容だった。同じ新婚旅行中の車内からの失踪、場所もそ
れぞれ日本神話の舞台という共通点に不審なものを感じた日高は調査を引き継ぎ、由美子とともに出
雲に向かうが、車内で殺人事件に遭遇する。二つの事件の関連は何か、そして失踪した二人の男女の
行方は・・・。
殺人事件の真相と動機が非常に弱いものであるのが大きな欠点で、最終的な解決も例によって中途半
端なのが残念。大したトリックが使われている訳でもないですが、終盤、事件全体の構図が引っくり
返り、意外な犯人が浮かび上がる点は評価できると思います。当初、別に何でもないと思われていた
アレが、実は非常におかしなものであった点は、指摘されるまで気付きませんでした。この点だけは
見事です。まあ凡作というのは酷ですが、佳作とは言えないでしょうね。
297 :
名無しのオプ:2010/06/04(金) 09:10:24 ID:et4vPSgG
>>293 このスレに、横溝正史が出てくるとは! でも「悪魔の寵児」なら納得(笑)
ただ、未読のむきは、いきなりコレを読むより、同路線の「幽霊男」(意外
に出来が良い)や「吸血蛾」あたりをさきに体験しておいたほうが、ヴァリ
エーションを繰り出す作者の手並みを、より楽しめますよ。
298 :
名無しのオプ:2010/06/08(火) 08:05:31 ID:AibrGs9b
翻訳ミステリー大賞シンジケートのサイトにて。
6月8日分に、なんと「悪魔の寵児」が取り上げられていました。
海外長編に伍して、泡坂妻夫「湖底のまつり」とともに、堂々の「変態本格ミステリ・ベスト5」入りwww
ちなみに選者は、殊能将之さん(ご健在でなによりですw)。
299 :
名無しのオプ:2010/06/08(火) 21:52:29 ID:MLrpT6DY
>変態本格ミステリ・ベスト5
「湖底のまつり」しか読んだことがないなぁ
幻影上の連載中に読んだが
月刊誌連載の形式を生かした変態っぷりでしたな
300 :
名無しのオプ:2010/06/09(水) 19:48:19 ID:hv/KXeGO
閉塞回路、読んでみたけど、メチャ面白かった。
もっとも推理小説の読み方としては外道なのかもしれないが、
トリックやブロットやロジックではなく人間ドラマが面白かった。
胸に残る作品が多い。
ベストは「偽りの再会」かなあ。
非常に読ませるものがある。
次点を挙げると「帰らざる彼」か不気味な雰囲気がいい。
乱歩の言う「奇妙な味もの」に含めたいくらい。
301 :
名無しのオプ:2010/06/10(木) 10:25:05 ID:H7FKtXMZ
>閉塞回路
収録作それぞれに、自作解説のついた、アリバイ・テーマの楽しい作品集ですね。
狙いの面白さと仕上がりの良さで、気に入っているのが「「わたくし」は犯人……」。
なので、これが『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』(角川文庫)に再録されたときは、嬉しかったなあ。
海渡英佑の短編集は、過小評価されていますが(このスレは別にしてw)、趣向の面で、佐野洋や都筑道夫にも匹敵
する匠の技を堪能できます。
302 :
名無しのオプ:2010/06/21(月) 21:51:06 ID:iKO46xfh
『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』といえば、つのだじろうの「金色犬」が入っていたね。
個人的には、つのだじろうのミステリ・マンガなら、
「赤い海」(『亡霊学級』所収)
を採るのに、と思った記憶がある。
>287で、3氏が、永井豪の「吸血鬼狩り」を紹介されていたけど、こちらもまた、洋上の船を舞台に、
吸血鬼の仕業とおぼしい不気味な殺人が連続する、クローズド・サークルもの。
ちゃんと合理的な解明が待っているものの、作者が作者だけに、それだけでは終わらず・・・
あらためて、秋田書店の文庫版で読み返してみても、面白かった。
303 :
名無しのオプ:2010/06/21(月) 22:17:09 ID:L6hbkMIR
>>302 お、すごく面白そう
捜してみるわ、ありがとう
「金色犬」は、単行本未収録の作品だからアンソロジーに入れた価値は大きかったと思う
304 :
名無しのオプ:2010/06/22(火) 20:19:09 ID:VSpREjUl
305 :
名無しのオプ:2010/06/27(日) 21:11:59 ID:s6s1U0/o
3氏は、ご健在だろうか?
また、作品評を発表していただきたいものだが・・・
306 :
名無しのオプ:2010/06/30(水) 16:58:52 ID:z+9aYtNr
W杯観戦で忙しかったりしてw
307 :
名無しのオプ:2010/08/03(火) 14:15:03 ID:HmAhsXcA
高柳芳夫の「奈良-紀州殺人周遊ルート」を読了。
推理小説家・朝見大介が書いた「奈良-紀州殺人周遊ルート」が映画化されることになり、
ロケ地に行くと、小道具の短刀が本物にすり替えられ、主演女優が大怪我をするという事故に遭遇する。
その後も小説通りに次々と事件が起こり、犯人の挑戦にこたえて、朝見が事件を追及する。
というような作品で、トラベルミステリーかと思ったら、芸能界をテーマにしたミステリーだった。
3氏の評価は★★★★なんだけど、これはちょっと困った小説だな。
芸能界の知識が浅すぎて、リアリティーが全然ない。
三流週刊誌を読んだだけなんじゃないか?
ミステリーとしてどうこうという前に、小説としてだめだな。
3氏は意外な結末とか、最後のどんでん返しに重きを置いて評価するようだけど、
この作品はミステリーとしてもびっくりするようなトリックがあるわけでもなく、
★★★★というのはかなり点が高すぎるな。
個人的には「★★☆」、100点満点で50点程度の作品だと思う。
生島治郎「腹中の敵」(徳間文庫)★★★
最近は、生島治郎や大薮春彦あたりで「謎解き」興味のある作品がないか、長編は無理としても
短編で掘り出し物がないかなあ、と漁っています。これといった収穫は未だありませんが、取り
あえず本作を紹介、1960年代後半から70年代の作品を収めた短編集です。
表題作は戦前の上海を舞台にした作品。「私」こと宗方に共産主義のイロハを教えてほしいと接近
してきた中国人の男。やがて彼は大事件を起こすのだが・・・。その意外な正体を宗方が見破る推理
に本格風のロジックがありますが、名作「黄土の奔流」の1エピソードであるかのようなストーリ
ーと主人公の設定が良いですね。
「敗者復活」は冴えないサラリーマンの若者が美女に誘惑されるが・・・。作者らしからぬドンデン
返しとオチの効いた異色短編。
「墓場からの船出」は、小出版社の社長が会社倉庫で火事に巻き込まれて死亡。遺された一人娘は
編集長に疑惑を抱くのだが・・・。ちょっとした火災発生に関するアリバイ工作も出てくるけど、や
はりストーリーのキモは、事件の論理的な解決よりも、一人娘と編集長が迎えるピカレスクなラ
ストシーンの方でしょうね。
「愛が終わるとき」は、ボクサー崩れの男が、同棲していた女医と別れた直後、女医が何者かに殺
されてしまう。地元の暴力団絡みの事件に巻き込まれたのでは、と男は単身、事件の真相を追う・・・。
少々ご都合主義だが、謎解きの基本は踏まえています。
その他は、「裏切りの街角」、「死者たちの祭り」、「夜のきらめき」。
全体に、謎解きの論理性やちょっとしたトリックを用いている作品が幾つかあったのは意外でし
たが、さすがに「本格」として評価できる作品、というレベルではありませんでしたねw
夏樹静子「遠い約束」(文春文庫)★★☆
1977年の長編。
中堅の生命保険会社・国民生命では、経営方針を巡って社長の石黒と会長の濠が深刻な対立に
陥っていた。近づく株主総会に備えて、両派が多数派工作を進めていたが、一方で、死亡した
義父の保険金が、重大な告知違反のために支払われないことに腹を立てた女性のトラブルも発
生していた。そんな最中に横浜で、不動産会社の社長が殺される事件が勃発。保険金を巡って
の陰謀か、それとも・・・。更には国民生命の会長が社内で殺されるに及んで、事態は意外な方向
へ。保険会社の調査員・城木が辿り着いた真相とは・・・。
生命保険業界のイロハや裏面事情を丁寧に描いた社会派風の作品ですが、序盤はどうにも退屈
でした。保険会社の重役陣の描き方がどうにもステレオタイプで、作者も苦戦ぎみ。でも、会
長殺しの終盤近くになって漸く本領発揮。「逆密室」の趣向はそれほどでもありませんでしたが、
読者を誤誘導させて、真犯人を隠す手際は流石なものです。でもどこか物足りないのは何故だ
ろう。あと、あの人物のラストの描き方が書き足りないですね。凡作でしょう。
関口甫四郎「『A寝台』殺人事件」(エイコーノベルス)★★★
1988年、トラベルライター天童一馬が活躍するシリーズの第2弾。
天童がは取材旅行中に富士の青木ヶ原樹海で博多のホステス留美子に出会うが、彼女は帰りの
寝台特急あさかぜの個室寝台で殺されてしまう。現場は室内から施錠された密室状態にあった
が、捜査が進むうち、被害者とかかわりのあった街金融の社長もまた、東京・芝浦の倉庫で殺
されている事件が発覚し、留美子が社長を殺し、寝台車内で自殺したのでは、との見方が強ま
る。だが天童は二つの殺人事件に不審なものを感じ、独自に調査を進めるのだったが・・・。
文中に作者の事実誤認や勘違いがあったりして、詰めの甘さが目立つ作品ですが、まあ「本格」の
基本的な要件は備えており、寝台車内の密室トリックや冷蔵倉庫の密室トリックなども、上手
くはないけれど、それなりに工夫した跡が伺えるので、まあ良しとしましょう。
しかし、真犯人と事件の真相の根幹をなす或る「事実」について、整理が悪く説明不足なのが残念。
意外性がある真相なのに、読者にその驚きを伝える方法が未熟ですね。とはいえ、一連の暗号
解読物の「独りよがり」ぶりに比べればマシな出来。とはいえ、評価としては★3つといったとこ
ろが精々でしょうか。
高橋克彦「パンドラ・ケース−よみがえる殺人」(文春文庫)★★★★☆
1988年の長編。
塔馬双太郎は大学時代の旧友らと久々に再会する。1970年前後に学生時代を過ごした、チョーサク、
リサ、テラさん、おケイらの面々も、ある者は作家に、またある者は病院長に、そして女優にと、
それぞれ立派になっていた。実は約二十年前の学生時代、山形県の山奥の温泉に、メンバーでタイ
ムカプセルを埋め、メンバーの誰かが死亡したら十三年後に掘り出す約束となっていた。メンバー
のうち最も印象の薄かったパンドラこと半田緑が行方不明となって十三年が経ち、メンバーが集合、
だが掘り出したタイムカプセルは、既に一度掘り出された形跡があった。豪雪で交通機関が寸断さ
れた晩、遂に仲間の一人が雪山で殺されているのが発見される。そして第二の殺人が・・・。
タイムカプセルに埋められていた昔の新聞記事を巡っての推理は緻密で非常に面白かったのですが、
「本格」としては、もう一つパンチが足りないです。また、類型を打破しようとして、中盤過ぎでアッ
ケなくクローズド・サークルが解消され、警察が介入してくるのもどうだったでしょうか。
しかし、本作の価値は、何と言っても、最後まで・・・・・・・だったパンドラが実は・・・・・・・だったにも
係わらず、彼女の肖像が読者の胸に何ともいえない後味を残す点。或る手紙で明らかになる彼女の
心情に思いを馳せて、青春時代の残酷さと虚しさを味わうことが一番の読みどころ。メンバーはもろ
「団塊の世代」で、その気負いが鼻につくものの、別に彼らの世代に限らず、本作に現れた青春の虚し
さには共感できるはず。権田萬治が大下宇陀児を評したフレーズ「残酷な青春の鎮魂曲」こそ、この
作品に相応しい評価ですね。なお、中盤過ぎで登場する或る人物の正体にはビックリでしたが、ちょ
っとやり過ぎではないかなあw
解説の笠井潔は、埴谷雄高やら滝田修やらを引用して気取った批評をしていますが、まあそんな風に
考えなくても十分、楽しめる作品です。「本格」としての評価はともかく、ミステリ一般として傑作の
名に値する作品です。
大谷羊太郎「完全密室殺人事件」(大陸ノベルス)★☆
1990年の長編。
埼玉県・草加のアパートに暮らす浪人生の氏家は、上の階に住む女子大生・平沼美奈子の部屋に
侵入した痴漢を撃退した。美奈子を慕う氏家だったが、事件後、美奈子は実家に戻ってしまい、
空いた部屋には美奈子の友人・原木千恵が入居した。だがまたも事件発生。あの時の痴漢が再び
部屋に侵入、千恵を殺してしまう。現場は完全な密室だったが、何故、痴漢は同じ部屋を二度も
襲ったのか、また、千恵は美奈子に間違われて殺されたのではないのか・・・。事件は結局、迷宮
入りしてしまい、七年の月日が経った。平凡な会社員になった氏家は、或る日、あの密室殺人事
件を調べているという加賀と名乗る男と知り合う。氏家は加賀とともに七年ぶりに美奈子に再会
するのだが、間もなく、美奈子も自宅マンションで殺されてしまう。現場はまたしても密室だっ
た・・・。
うーん、ストーリーと登場人物の設定がミエミエですねえ。特に中盤の或る描写など、伏線とい
うには余りにもお粗末。犯人はこの中にいますよ、と言わんばかりのグダグダっぷり。おまけに
密室トリックも、第二の殺人のトリックは少々ユニークだが、第一の殺人など、まるで詰まらな
い真相でガッカリ。
相も変わらず密室トリックに挑戦し続ける姿勢は買いますが、姿勢だけしか買いませんw
駄作ですね。
沼五月「松本城殺人事件」(エイコーノベルス)★★
1986年の長編。
松本城の天守閣にブラ下げられた首無し死体事件。交通事故を起こした際に、江戸時代の一揆の
首謀者を祀った石碑を壊した祟りなのか。事故の関係者が次々と事件に巻き込まれてゆく中、関
係者の一人である元恋人・麻代に頼まれて松本を訪れた高校教師・足立敬介の推理や如何に・・・。
主人公の足立敬介は、前スレの>144で紹介した「こだま466号の死者」にも登場しますね。名探偵役
としては、魅力不足が甚だしいのですが、肝心の事件の真相も、まあホラーや伝奇物に走らず、
一応、論理的に解かれるとはいえ、どうもトリッキーなヒネりが足りなくて満足できないですね。
ラストで明らかになる或る「物」の隠し場所には仰天しましたけど、って、コレも相当トンデモなト
リック、あんなモノが隠されていたら、堪ったもんじゃないと思うけどw
まあ「本格」風味も一応ある旅情ミステリ、といった感じでしょうか。
笹沢左保「破壊の季節」(集英社文庫)★★
1969年の長編。
東国大学医学部の教官がチンピラの集団に殴られて死亡。被害者の指導を受けていた研修医の倉之部
裕一は婚約者である芙美代との結婚準備を進めていたが、折りしも大学は全共闘運動がピークを迎え
てキャンパスが封鎖され、裕一の研究成果は全てダメになってしまう。一方、彼の二人の弟でともに
東国大学の学生である宏次はニヒルで自堕落な生活を続け、末弟の慎三は全共闘に加入し運動の渦中
にいた。或る日、宏次が誰かを爆弾で殺す相談をしていた電話を立ち聞きした芙美代は、宏次に魅か
れつつも、その計画を阻止しようとする。宏次が持っていたマッチに書かれていた「Yの悲劇」とは何を
意味するのか。そして宏次が狙う人物とは一体誰なのか・・・。
発表時期の世相を題材にした、作者の作品群の中でもかなり異色の作品ですが、学生運動など、この
作者の作風には全く合わないことが如実になってしまった怪作です。作者の虚無的な人生観において
は、学生運動も革命も、全く児戯に等しいのか、マジメに取り合おうともせず、その結果、タガの外
れまくった出来になってしまいました。「Yの悲劇」の真相も肩透かしなら、冒頭で起きた事件と後の
展開のチグハグさもヒドいもの。
唯一、評価できそうなのは、あの島田荘司の某傑作でも使われた意外な「もの」のネタ。中盤で宏次が
「それ」とともに登場するシーンが出てくるのですが、まさかアレだとは思いも寄りませんでした。
いずれにせよ、まあ読む価値はありませんね。
斎藤栄「香港・マカオ休日殺人事件」(徳間文庫)★★☆
1983年のノンシリ−ズ長編。
医師の星河は、北アルプスで水晶寺という男に出会い、二人は猫目という男の遭難死に立ち会う。
東京に戻った水晶寺は金剛緑という女性と知り合うが、彼の兄は猫目の友人だった。やがて、金剛
の友人が次々と殺されてゆく。南という男が東京のホテル浴室で青酸中毒死を遂げ、金剛兄妹や水
晶寺らが参加した香港・マカオの観光ツアーでも、密室状態のホテル客室での殺人事件が勃発。水
晶寺とともに事件を追及する星河は、事件の現場となった二つのホテルの設計に携わった世界的建
築家・紅玉が事件に絡んでいるのではないか、紅玉が密室の部屋に何らかの仕掛けを施したのはな
いかと疑うのだが、肝心の紅玉教授は精神病院に入院中だった・・・。
どこか緊張感のユルんだヘンな雰囲気の作品ですが、まあ作者の作品ならば良くあることw上記の
登場人物の名前が宝石がらみっていうのも、だから何なのか・・・w
事件の舞台である建造物そのものに事件のポイントが秘められている、ということで、本作の前年
に発表された島田荘司「斜め屋敷の犯罪」にインスパイアされたものでしょうか、また、綾辻「館」シ
リーズに影響を与えた、って全然違いますねw
密室トリックの真相は・・・、まあ建造物そのもの、というほどの大トリックではなかったですね。捜
査に不熱心だった香港の警察が気付かなかったのは仕方ないにしても、日本の警察の鑑識はそこまで
ボンクラじゃないだろ。なお、真犯人の意外性には力を注いだようで、中盤の或る一件が出てくるま
で、迂闊にも気付きませんでした。かなり意外ではあるけれど、最後まで隠しきれなかったのが残念。
まあ駄作というのは酷、といったところが精々でしょうか。
笹沢左保「木枯し紋次郎8−命は一度捨てるもの」(光文社文庫)★★☆
シリーズ第8作。
「念仏は五度まで」甲州街道を行く盲目の渡世人とその息子。或る女性を探しているらしい。
一方、街道筋で起きた連続殺人事件の下手人として紋次郎が疑われるのだが・・・。まあ真相は
丸分かりでした。
表題作は木曽・奈良井宿が舞台。紋次郎は幼馴染の男女と出会う。村で一番の人格者の顔役が
抜け荷の疑いで尾張藩に捕まってしまう。更に彼の無実を証明する男が殺されてしまうのだが・・・。
これも、犯人しか言えないセリフという些細な伏線があるが、ミステリとしては薄味です。
「狐火を六つ数えた」は伊那・飯田宿。知恵遅れの少女が妊娠した上に狐憑きに罹ったと疑われ
る。村人らの本意はどこにあるのか・・・。まあまあ。
「砕けた波に影一つ」は宮・桑名間の船上を舞台にした異色作。紋次郎の乗った船が浪人らによ
ってシージャックに遭う。東海道を荒らしまわった盗賊の残党で、船を一路南に向けるのだが・・・。
これも意外性はあるけど、切れ味はニブいです。
流石にミステリ的な味付けはネタ切れになってしまったようで残念。でもそれ以外の要素で楽し
ませてくれます。
「木枯し紋次郎9−三途の川は独りで渡れ」(光文社文庫)★★★
シリーズ第9作。
巻末の「鬼が一匹関わった」が面白い。碓氷峠の下り道で、足に怪我をした子供連れの渡世人が
崖から転落、娘を託された紋次郎は言われたとおりに渡世人の弟である豪商の家に・・・。結末の意
外性が効いており、肝心の部分もフェアな描写になっています。
表題作も、序盤のちょっとした描写が結末で効いていますね。他の作品は特にコメントなし。
笹沢左保「無宿人 御子神の丈吉1」(徳間文庫)★★★☆
1973年のシリーズ第一シリーズ。
「峠路は遠かった」、渡世人から足を洗って恋女房のお絹と所帯を持ち、飾職人としてカタギに
暮らす丈吉。だが遺恨の親分一家に左手の二本の指を潰されたのみならず、お絹と一人息子の
小太郎を斬殺されてしまう。怒り爆発、復讐の鬼となった丈吉は再び無宿渡世の道へ。狙う妻子
の仇は、あの国定忠治・・・。
「牙は引き裂いた」の舞台は碓氷峠。国定忠治らの一行を追う丈吉は、峠道で夫を殺された若妻を
救い、信濃追分にある彼女の親戚である親分一家に身を寄せる。だが・・・。これはミステリの意外性
が効いた良作。
「女は雨に煙った」、これがベスト。信州・上田宿の近郊でケガをした丈吉を助けた薄幸の女の話。
越後の大名のお家騒動も絡んで意外な展開となるが、ラストシーンは屈指の名場面ですね。
「銀色の命に哭いた」は信州屋代。甲州の大親分の孫娘が善光寺参りから帰郷するところ、彼女の警護
を依頼された丈吉。だが彼女や丈吉を狙う影が・・・。これも意外性に満ちた展開。哀切なラストも上手い。
「雪降る里に消えた」は清里から佐久辺りが舞台。山中に潜伏する盗賊一味を倒すべく、丈吉と「天狗
の親分」と名乗る渡世人が協力して一味を撃退するが・・・。「天狗の親分」の正体にビックリw
本シリーズ、先ずは快調のスタートですね。
笹沢左保「さすらい街道」(光文社文庫)★★☆
1972年、木枯し紋次郎シリーズの人気がピークにあった頃の連作集。武州・深谷宿で顔見知りの
小料理屋一家を皆殺しにされ、その犯人と目される渡世人・群雲の伝兵衛を追って色を旅する
渡世人・夜番の丹次郎が主人公。
第1話「信州路に泣く女」がミステリ的には一番の出来。地元の親分が毒殺される現場を目撃し、
敵方に追われる女を丹次郎が助ける。だが実は・・・。或る錯誤と、「追うものと追われるもの」が
一瞬にして転換する真相が見事です。
第2話「甲州路の黒い影」は笹子峠に現れる天狗の話。因縁譚のまま終らせるのはどうもなあ・・・。
第3話「下総路の夜の花」は、下総を暴れまわる盗賊・闇の緋牡丹の意外な正体。
第4話「野州路に招く声」、第5話「上州路の流れ雲」は大した出来ではない。
第6話「武州路に消えた男」で、遂に丹次郎は宿敵・伝兵衛を捕まえる。その意外な正体には、
薄々勘付いてしまいました。
まあ相変わらず笹沢左保の股旅小説は見逃さずに読んでいるので、読めただけで嬉しいです。
600ページ弱のなかなかのボリュームでした。本格ミステリのツボを抑えた骨格は持っているの
で、そこらの凡百の時代小説とは一線を画しますが、必ずしも、そうそう驚くこともなく、切れ
味の鋭さが続く訳ではないので・・・。
西村京太郎「第二の標的」(光文社文庫)★★☆
主に1970年代に発表された作品を収めた短編集。
表題作、主人公は十津川刑事ですが、ヒラの刑事なので、初登場時に既に警部補だった、あの
十津川警部とは同名異人ということでしょうか。終電車で起きたサラリーマン殺し。被害者の
会社で起きた横領事件がらみかと思われたが真相は意外にも・・・。古典的なトリックで、まあま
あの出来。
「謎の組写真」は、写真コンテストの新人賞を取った若手カメラマンが巻き込まれた事件。や
がて彼の写真を掲載した写真雑誌の編集長が殺されるのだが、容疑者にはアリバイがあった・・・。
写真によるアリバイ工作ですが、オリジナリティはありますが、特に面白いトリックではない
です。
「アクシデンタル・ジャイブ」は海洋ものの作品。ヨットレースの最中に起きた転落事故。主人公
らのヨットは転落者を救出するために優勝を逃してしまうが、実は・・・。絵に描いたような爽やか
な青年たちの青臭いお話で、結末の付け方も中途半端。あの事件の真相はどうなったんだよ?
「神話の殺人」はテレビ番組のヤラセに絡む殺人事件。取り立てて言及するようなレベルではない。
ベストは巻末の「危険なダイヤル」。秋葉京介物の作品。秋葉を殺し屋と間違えて殺人の依頼をして
きた謎の男。殺す相手の美人OLを調べるうちに、秋葉は石油会社のお家騒動に巻き込まれてゆく・・・。
殺しを依頼してきた男の正体とその動機が非常に意表を突いており、これには驚きました。隠し方
が非常に上手いですね。本作は佳作です。
日下圭介「赤い蛍は死の匂い」(光文社文庫)★★☆
1985年の長編。
十六年前、学生だった森口は行きつけのスナックのホステス・沙枝に唆され、老人の大金を強奪
しようとして相手を殺してしまう。更に沙枝は、犯人を特定する決定的な手掛かりを握る同僚の
榊待子も殺してしまう。森口と沙枝は或るアリバイ工作により逮捕を免れたのだが、既に時効を
過ぎた頃になって、紗枝は何者かによって脅迫されることに。金は榊の妹・裕子に届けられ、不
審に感じた裕子はボーイフレンドの鶴瀬とともに十六年前の事件の真相を追及する。沙枝を脅迫
している者の正体は誰なのか、また沙枝と森口のアリバイ工作の真相とは・・・。
犯人側と、事件の真相を追うヒロイン裕子側の動きを交互に描いていますが、犯人側のサイドで
もアリバイ工作の内容を隠してあるため、ヒロイン側でアリバイ工作の謎解きの興味がわき、そ
して犯人側では、謎の脅迫者の犯人探しを追及しているという、なかなか凝った構成になってい
ます。
但し、悪役である沙枝が少々チャランポランな性格に描かれているのと、裕子と鶴瀬のノホホン
とした掛け合いが、作品をサラッした爽やかな仕上がりにしたものの、やはりサスペンスに乏し
い感が否めなくなっています。そして真相は、アリバイ工作や、その破綻に至る手掛かりなどに、
この作者らしさは感じられますが、特に秀逸なトリックではないし、どこか気の抜けた印象しか
残さず、残念な出来栄えでした。
久々で大量の書き込み、14連投スマソカッタ。夏休み旅行中の某所からでした。
結城昌治「噂の女」(集英社文庫)★★★☆
1962〜1970年に発表された「〜の女」で統一されたタイトルの短編集。本格ミステリ風に伏線を
張った作品あり、ホラー風作品あり、ツイストとオチの決まった洒落た作品あり、で楽しめる
一冊です。
表題作○、意外性のあるオチが効いている良作、続く「虹の中の女」◎、これが集中のベスト。伏線
の張り方や意外な犯人など「本格」風味も十分だが、何と言っても、戦争により薄幸な生き方を余
儀なくされた主人公の描き方が、もう抜群の出来。短編ミステリのお手本とも言える佳作です。
その他、ツイストの効いたオチが光る「通夜の女」○、「消えた女」○、「狙った女」○、ラストの一行
が阿刀田高のホラーにも匹敵する出来栄えの「午後の女」○、あと出来はやや落ちるが、「拾った女」△、
「いたずらな女」△、「駄目な女」△、「描かれた女」△、といった感じで、全てが佳作とは言えません
が、かなりレベルの高い短編集です。
322 :
名無しのオプ:2010/08/09(月) 11:26:10 ID:jUV0Xq58
パンドラ・ケースは初期のこのミスにランクインしてたなぁ
夏休み2日目。また連投になりますがご寛恕を。
「木枯し紋次郎10−虚空に賭けた賽一つ」(光文社文庫)★★★☆
注目は「旅立ちは三日後に」と「桜が隠す嘘二つ」の2作。
前者は、怪我を負った紋次郎が農家で暮らすうち、カタギになろうと決心する。だが・・・。カタギに
なって豆を挽いている紋次郎なんてイヤだあwちょっとした隠し場所のトリックも添えた異色作。
後者は、関八州の大親分たちの前で自らの濡れ衣を晴らすべく、娘殺しの真犯人を推理する紋次郎。
国定忠治、大前田栄五郎、清水次郎長といった大物を向こうに回しての紋次郎の推理は、残念なが
ら、厳密な本格ミステリとしては評価できないですが、事実関係と被害者の心理を元に珍しく冗舌
に推理を展開し、或る小道具を切り札に犯人を特定する場面は圧巻で、シリーズ屈指の傑作。これ
は楽しめました。
佐野洋「再婚旅行」(集英社文庫)★★
1963年の長編。
「私」こと市原紀子は河原田という男と離婚して、今はクラブのホステスを勤めていたが、或る日、
別れた夫に瓜二つの男性・大仲に出会う。同一人物としか思えないのだが、大仲は全く「私」を記
憶していない様子だった。「私」は大仲の正体と、河原田が現在どこで何をしているのかを探るべ
く、愛人の新聞記者・川北に調査を依頼する。その結果は、河原田と大仲は、それぞれハッキリ
と実在する人物で、別人というものだった。だが調査が進むにつれ、更に意外な事実が明らかに
なってゆく・・・。
嗚呼、典型的な佐野洋作品・・・。不可解きわまる謎が、一番ショーモない常識的な真相で尻すぼみ
のまま終結するだけの作品。メインの謎以外の細かい謎にも大したものはないです。タイトルの
真の意味が明らかになるラストの洒落たヒネり方にだけ感心しました。凡作。
森村誠一「偽造の太陽」(青樹社文庫)★★☆
1975年の長編。
一攫千金を夢みる失職中の北沢は、赤松という謎の男に誘われて、石山という男も加えた三人組で、
信州の山奥に隠棲する大富豪の老人を襲撃、1億近い金を手に入れた。
それから数年、大企業グループの総帥の娘婿となった北沢は石山と再会、老人を襲撃した赤松の本
当の狙いに疑惑を持ち始める。だが石山が殺されてしまい、赤松の魔手が北沢にも伸びてくる。赤
松の正体は誰なのか・・・。
北沢にまつわる色々な人物が錯綜した動きを見せ、単調さを救っているのは良いのですが、謎解き
という点ではどうでしょうか。途中で或る人物の視点に転換するのも結構ですが、やはり北沢の視
点に集中して謎を追った方が良かったのではないかなあ。なお、中盤で登場する或る人物による、
図書館を舞台にした脅迫手段がかなりトリッキーで優れているのですが、途中で解かれてしまうの
が残念。
そして真相は・・・。これには驚いた、悪い意味で。延々と引っ張った挙句にコレかよw
一連の事件の真犯人は解明されるけど、終盤には候補者は絞られていたので別に意外でもないし、
ともかく、アレの件はどうにもこうにも・・・。
確かに結末にはビックリだが、「本格」の意外性とは余り関係のない驚きだよなあ。凡作。
笹沢左保「無宿人 御子神の丈吉2」(徳間文庫)★★
シリーズ第2作。
「土塊の音が響いた」真岡の百姓一揆に巻き込まれた丈吉は一揆の黒幕と間違われ、関東取締出役
の手下の凄惨な拷問を受ける。真の黒幕は一体誰なのか・・・。レッドヘリングを効かせ、動機の
意外性もある佳作です。
「夕闇に女郎は死んだ」宿敵・国定忠治らが松戸に滞在しているという噂を聞いた丈吉。一足違い
で間に合わなかったのだが、宿で、殺された女房と同名の飯盛り女に出会い、やがて土地の一家
の抗争に巻き込まれる・・・。まあまあ。
「川風に過去は流れた」は潮来が舞台。盲目の夫を持つ女性の実の父親は、あの如来堂の九兵衛だ
った・・・。
「黄昏に閃光が翔んだ」は甲州路が舞台。「風車の子文治」と名乗る包丁投げの名手と出会うが、彼
は国定忠治らにカネで雇われて丈吉の命を狙っていた・・・。男の友情に泣ける一編。
この第2集はミステリとしては凡作ですが、次の第3集に乞うご期待。
笹沢左保「無宿人御子神の丈吉3」(徳間文庫)★★★
シリーズ第3巻。
「人形は野分に散った」、国定忠治を援助するための賭場が開かれていることを知った丈吉は賭場
に乗り込んでゆく。だが彼以外にも忠治の命を狙う男がおり、更に賭場が関八州取締出役に密告
されて囲まれてしまう・・・。
「地獄へ影は走った」信州、諏訪が舞台。茶店の名物オヤジの助言に従って、嫌われ者だが国定忠
治の居所を知る親分を訪ねた丈吉。親分から、伊那の弟分のところへ使いを頼まれ、それを果た
してくれたら、忠治の居所を教えてやる、と言われるのだが・・・。これは久々にミステリ的なドン
デン返しが決まった佳作。丈吉が伊那まで往復する道中で起きる不審な出来事の数々の真相が
かなり意外なものです。
「土砂降りの天を突く」も本格ミステリ風の佳作。豪雨に降り込められ、廃寺に避難した見ず知ら
ずの連中。大商人や行商人、更に曰くありげな玄人女に、脱藩してきた駆け落ちの武士と女・・・。
一行が一人、また一人と殺されてゆく。犯人は誰なのか、そしてその動機とは・・・。序盤にチラッ
と描写される一件が終盤で見事に決まる、これまた意外性に満ちた作品です。
「街道は死を待った」は金無垢の仏像を上州から野州に運ぶ商家の番頭一行。忠治が仏像を狙うの
では、と考えた丈吉は、一行の用心棒となるのだが・・・。まあまあ。ラストの忠治の不審な行動が
次の最終巻への興味をつなぎます。
笹沢左保「金曜日の女」(青樹社文庫)★★
1976年の長編。
会社社長の御曹司・波多野卓也は、ワンマンの父親に反発して家を出て、あろうことかその父
親の愛人のマンションに居候し、ニヒルな生活を続けていた。父親の波多野社長は十数年前に、
腹心の部下・鬼頭を使って、乗っ取った会社の社長を殺していたが、卓也は、その遺族の姉弟
と親しかった。だが或る日、彼ら姉弟が近親相姦の関係にあることを知る。やがてその姉弟は
無理心中して死んでしまうのだが、卓也は心中説に疑問を感じ、事件に鬼頭とその娘が絡んで
いることを知って、事件を追及するのだが・・・。
中盤辺りのストーリーの展開で、「もしかして、これはアレとは逆に、・・・と・・・が・・・になって
いるのではないか?」と推測したのですが、果たして真相は・・・。
残念、違っていたwまあ、結末の意外性を狙ったことは分かるし、ややクド過ぎる官能描写も、
ラストの余りにも凄惨な幕切れを強調するための伏線だったことも理解できますが、本格ミス
テリの謎解きとしては中途半端な出来。アレだけで結末まで引っ張るのは苦しいでしょう。
しかしラストの情け容赦の無さには鳥肌が立ちました・・・。
329 :
名無しのオプ:2010/08/10(火) 22:34:35 ID:3AUwyhDl
まずは3氏のご帰還を、寿ぎたい。
作品評も、読み応え充分。
個人的には、笹沢左保の時代ものを、ミステリ的側面からレビューされているのが
興味ぶかく、初期の紋次郎しか目を通していない身としては、読書欲をそそられる。
この路線は、是非、今後ともヨロシク。
330 :
330:
私も時々こちらに感想を書かせていただこうと思います。
「3スレの
>>330」ということでお願いいたします。
笹沢左保「アリバイの唄」(講談社文庫)
1990年に発表された長編です。スレタイよりも新しい作品です、ご勘弁を。
元刑事のタクシードライバー夜明日出夫(よあけ・ひでお)。
彼がある晩乗せたアベック客の女の方が3週間後に愛知県蒲郡市で殺された。
容疑者は一流会社の社長の娘で、夜明の幼馴染の大町千紗。
しかし彼女には、事件のあった時間には神奈川県逗子市の豪邸にいたという鉄壁のアリバイがあった。
というようなアリバイ物です。
途中で、「大町千紗が犯行を行うには、このトリックしかないけど、それは無いだろうな。」と思っていたのですが、
そのまんまのトリックでびっくりしました。トリックにリアリティーはゼロです。
動機もいまひとつですし、タイトルになったアリバイの唄も脱力物です。
こういうのを「バカミス」というのでしょうか。
評価は★★か★☆といったところかなあ。
前半はそれなりに面白いのですけどねえ。