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書斎魔神 ◆AhysOwpt/w :
ハーマン・ウォーク「ケイン号の叛乱」を読んだ。
活字ポイントが小さい時代の文庫本3分冊・900頁超えの大作、映画でも
著名な作である。
古い訳なのだが、非常に読み易かった。
(芝居を書いていたキャリアがある作者ゆえ、原作も平易な叙述なのかも)
掃海艇ケイン号における多彩な人間群像を暴風時に起こった叛乱(ただし、
タイトルとは異なり叛乱罪としては起訴されない)をクライマックスに
その廃艦までを描き切っており、
前半は戦争冒険小説、後半の一部は軍事法廷を巡るリーガル・サスペンスあり、
全体を通じて挿入される主人公の青年士官と女性歌手の恋愛ドラマあり等、
盛り沢山な内容で読ませる。
ただし、結局、叛乱の首謀者とされた副長のみが完全な貧乏くじを引いた感が残り、後味は決して良くないのが難か。
主人公の恋人の女性歌手にミュージシャンの同棲相手がいるのに、肉体関係が
無いという設定も、いくら時代性とはいえハッピー・エンディング狙いな
無理有り過ぎなものだし、読者迎合というか、主人公の恋愛談(それも古臭い身分違いの恋ねた)は筆を割きすぎな感を拭えない。
クイーグ艦長のサイコな存在感は抜群なだけに、艦上や軍事法廷における
男たちのドラマに徹して欲しかったという感は強い。
主人公の青年士官ウィリー・キースは海洋ものにありがちな猛者からは
程遠いマザコン気味(この点は恋人のメイとの関係性にも覗われる)な青年
という初期設定も面白いし、一徹な面がある猟師あがりの副長マリック、
作家志望のインテリながらエゴイストな面もあるキーファ大尉
さらには第6部(軍法会議)の真の主役ともいえるユダヤ系の弁護士で
飛行機乗りのグリーンウォルド大尉等々、下士官、脇役の民間人に至るまで
印象的なキャラが続々と登場する面白さは絶品。
薄味な謎解きミステリを読むのがアホ臭くなってしまうほどである。