『読みました』報告・海外編Part.4

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902書斎魔神 ◆AhysOwpt/w
ジョルジュ・シムノン「メグレと火曜の朝の訪問者」
前記した「深夜の・・・」と比較すると、57年と25年以上を経て
書かれたメグレ・シリーズ中期作品。
これだけ時間差を置いた作品を連続して読むと、作風の変化が明瞭に
感じられて面白いものがある。
本作は全編パリが舞台、初期のようなミステリとして凝った趣向は無く
人間ドラマに重点を置いて書かれていること、メグレと夫人の交情に
筆を割いていること等々、この時期の特徴を明確に顕したものである。
まあ、起こってしまった事件でなく起こるかもしれない事件を捜査する
という点は異色な設定とはいえるが、冷えきった夫婦仲の中年夫婦
(夫はデパートの玩具売り場主任、妻はランジェリーの雇われ経営者)と
未亡人である妻の妹が同居する家庭が舞台となると、
展開は見え見え、読ませどころは現代にも通じるようなリアルな人間ドラマ
ってことになる。実際に事件が発生するのは終盤に入ってからだし、
それまでの展開にも派手さがないため、ミステリを期待すると退屈しかねない
であろう。