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書斎魔神 ◆AhysOwpt/w :
ジョルジュ・シムノン「ゲー・ムーランの踊り子・三文酒場」を読んだ。
前者はメグレ・シリーズ初期代表作のひとつ。
メグレのホームグラウンドであるパリでなく、作者の母国ベルギーを舞台
にした作品である。簡潔ながら町の空気が匂って来るかのようなビビッド
な描写は母国だけあってパリのそれに劣らず、作品の雰囲気を盛り上げている。
このシリーズにコテコテの謎解きを期待する向きはいないであろうが、
確かな筆致で読ませる警察小説仕立てのサスペンス・ミステリといった
ところか、凝った謎解きよりも雰囲気とストーリー展開の妙味を好む
フランスで大受けしたのはわかる気がする。
残念なのは、純文学も書ける作者だけあって、本作も上流と中流階級に属する2人若者の青春の彷徨、その結果としての犯罪、
これに絡む年上の酒場の女(ダンサー)
このメーンキャラ3人に焦点を当て、ミステリにしなければ現代にも通じる
文学足り得たのではないかということだ。
パリが舞台ではないせいもあるが、この作品では俺にはメグレが余計者にしか見えない。
後者は名作「男の首」を想起させる処刑目前の凶悪犯(死刑囚)への何気ない
メグレのシンパシーからスタート、ジョルジョによるおなじみパリ情緒描写も
巧みながら、前記した名作級を期待すると外される一編。
逆に事件にのめり込むことなく、
ラストでは夫人とヴァカンスを楽しむであろうジュールに人間的練れを見る
視点もあろうかと思う。