『読みました』報告・国内編Part.5

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836書斎魔神 ◆AhysOwpt/w
浜尾四郎「殺人鬼」を久々に再読。
資産家秋川一家を巡る連続殺人に名探偵藤原が挑む。
「戦前の日本探偵小説中、随一といってよい本格物の一大収穫」と創元は言うが、
まず「蒼井雄(注 優ではない(w )は?」という感あり。
この点は置くとしても、
大乱歩の認識も本格ミステリの傑作というものなのだが、
探偵しか知らない事実、後出しの事実等が多く、到底、フェアな謎解きミステリとは言い難く、
犯人パターン(「黄色い部屋の謎」のバリエーションと思われ)も見方によっては意外性のみを
意図した反則技と言い得る。
この作者は、上流階級(男爵家)の生まれ、お堅い法曹出身というキャリアにもかかわらず、
短編では異常心理やエログロな要素も多い(殊更に煽情的ではない)が、
本作はこの志向も散りばめ、過去の因縁話も絡めて描く、謎解き仕立てのサスペンス・ミステリ
(館もの)というのが実態かと思う。(この点は春陽での初読時にも同感であった)
相当に古い作でまずまずのボリュームを有しながら、会話文を主体にしたこなれた文章で
一気に読ませるのは、さすがとは言える。
不満を言えば、もう少し情景描写を入れ、作品の雰囲気を盛り上げる配慮があっても良かったようには思う。