554 :
書斎魔神 ◆AhysOwpt/w :
「橘外男ワンダーランド ユーモア小説篇」を読んだ。
これは思わぬ当たりであった。
怪奇・幻想・伝奇小説のイメージが強い作者だが、編者である山下武氏が解題で指摘する、
この作者の本領はユーモア小説にあるというのも頷けるような、
現代では希少となった大人の鑑賞に堪え得る面白いユーモア小説が収録されている。
例によって大好評な全話講評逝ってみようか!
・「男色物語」
男色ものは耽美、ダークとなりがちなものが多い中、本作は抱腹絶倒な明るいユーモア小説に
仕上がっているのがいい。
どこまで事実かわからぬものの、作者を想起させる主人公の旧制中学時代の愉快・痛快な
男色性春生活が描かれる。
・「桃色機密室闖入記」
本作が、一応、スパイ小説として把握出来るため、この板でこの作品集を取り上げることが
出来たことは幸いであった。
ただし、ただし謀略の細かい顛末等、全て謎に終わるのではあるが。
ユーモア小説としての出来は中程度といった可も無く、不可も無くといったところか。
555 :
書斎魔神 ◆AhysOwpt/w :2009/04/19(日) 19:03:46 ID:crNdID6F
・「葛根湯」
風邪薬の葛根湯をネタにした軽いコント、あるいは、落語風の作であるが、たいして面白い作では
ない。
・「雷嫌い」
雷から逃げ回る主人公の姿が笑える一篇。やや饒舌過ぎる文体が難か。
・「或る千万長者と文士の物語」
収録作品中最大のボリュームで読み応え満点のユーモア小説の傑作である。
この手の作では遠藤周作「おバカさん」、井上ひさし「モッキンポット師の後始末」等の
著名な作にも劣らない面白さというてよい。
主人公の雇い主である三田谷商店のぼーっとした若旦那、スウさんこと雄さんの実態が見えて
来る終盤にはミステリ的興趣が無いでもない。
主人公の元部下の混血美人(アイリス)と雄さんとの絡みのくだりを期待したが、
こちらの展開が無いのがちと残念(元ネタ(実話)も無いゆえか?)