『読みました』報告・国内編Part.5

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471書斎魔神 ◆AhysOwpt/w
都筑道夫「東京幻夢図絵」を読んだ。
一編ずつ見ればそれほど面白い、特筆すべき作は無い。
ミステリと言い得る作は一部、しかも十分に謎解きされないものも多く(主眼ではないとも言える)
ホラータッチの作(「白山下薄暮」)も示唆のみにとどまる。
だが、全体を通じて浮かび上がる古き東京の姿(第1話は除く)には魅せられるものはある。
男女の濃い色事が絡んだ話が多く、映画なら石井輝男のドロドロの世界を想起させるものが
あるが、根っからの東京人作家らしいスマートなタッチがいやらしさ、胸苦しさを感じさせないのは
非常に良し。
作者あとがきでは、近松秋江等の「情話」が念頭にあった旨が書かれているが、
「情話」といえば岡本綺堂の影響も外せないのではないか。
また各話の語り手は異なる設定とはいえ、
艶っぽくした「三浦老人昔話」(これは巷談と称すのが妥当だが)という感もある。
ゆえに、後に追加された完全にミステリに徹した「道化の餌食」への違和感は拭い切れない
ものがあり、文体等に拘らず本作と、思い切って東京が舞台ではない「墓場の丁」を外せば、
タイトルそのままにコンパクトなミッチー流東京情話集に仕上がったかと思う。
作家が各作品に込めた思い(「道化の餌食」に関してはこの一篇の行き場所がなくなるのを
恐れたと記されている)は理解出来得ぬでもないが、作品集としてのまとまりという点も念頭に
置いて欲しかったものである。