『読みました』報告・国内編Part.5

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47読後感 ◆VkkhTVc0Ug
「はじまりの島」柳広司(朝日新聞社)

19世紀のイギリス。進化論を唱えるダーウィンを異端視する教会は
彼の思想の原点が若い頃の航海にあると睨み、当時の同行者であった
老画家アールに事情聴取を行う。彼がポツリポツリと話し始めたのは
一行がガラパゴスで遭遇した奇妙な事件であった……。

面白かった。こんな作家がいたのかぁ。ナンバー1スレ様々だなこりゃ。

監視下の人間がいつの間にか扼殺されてたり、離れた場所で同時に
人が襲われたりとの不可能犯罪をダーウィンが解くのだけれど、
その推理法というのが所謂「困難を分割せよ」というものではなく、
事件を一繋ぎに捉え、それが彼の至上命題たる“世界の成り立ち”や
“生命の在り方”と常に直結しているというもので、そのせいで
“収縮の物語”であるはずの本格ミステリがまるで収縮している様には
感じられないまま進んでいくという珍しい印象を受ける。

そしてダーウィンのエキセントリックな思考展開が
エキセントリックな真相を導く――と言うより無理矢理引き寄せたと
思える程――のだが、正直齟齬もちらほら見受けられる。犯人の描写の
解釈が微妙に変化している様に感じられたり、証人の人間性を
無視していたり。ただその歪さも計算の内かも知れないのだが……。

最後に一つ不満として船長という絶対権力者の存在をもっと活かした
作りにして欲しかったかなと思った。
ともかく忘れ難い一冊であつた。