『読みました』報告・国内編Part.5

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268書斎魔神 ◆AhysOwpt/w
エセル・リナ・ホワイト「バルカン超特急」を読んだ。
この作者の邦訳は2作のみ、もうひとつの「らせん階段」の論考も記したことがあるが、
時代背景の古さは感じるものの、サスペンス・ミステリとして水準に達しており、
お約束に走らないキャラの人間臭い魅力を描くことに長けている
(この点では類型しか書かないアガサより上)のは、文学愛好家である私などにも
十分に惹き付けるものがあると言える。
「らせん階段」のヒロインは小柄で可愛らしい(器量は十人並み)が、ややこの点を意識した行動
が目立つ人物、本作のヒロインは裕福なイギリス美人だが、気まま、わがままな面があり、
冒頭ではリゾートホテル近辺の山で遭難(?)しかける間抜けなところもあるという実にビビッドで
面白いキャラなのである。
そんな彼女が保養地からの帰国のため乗車した列車で巻き込まれる怪事件とは・・・
他の登場キャラもマイペースな独身老姉妹、子煩悩で親切だがうざい感がある牧師夫妻
等々、脇に至るまでキャラが活写されているのがグッド、
ちょい役では、ヒロインを列車に乗車させるため体を張るポーター(惚れてるわけではなく金のためであり、ダイブして自分は下車)なども印象に残るところだ。
そして、本作の真の主役とも言えるミス・フロイ、ヒロインのアイリス以上の存在感で最後まで場を
さらう。
コンパクトに纏めた章を巧く繋ぎ、邦訳300頁程度にまとまっており、
トラベル・ミステリ好き、クローズド・サークル好き(謎解きミステリとしては弱いが)には
お薦めの作である。
269書斎魔神 ◆AhysOwpt/w :2008/09/07(日) 11:58:23 ID:sSWAr3IP
ポール・アルテ「七番目の仮説」を読んだ。
アルテ最新作。正直言うて、謎解きミステリとしては本邦初登場作「第四の扉」が最高にして最良、
後は無理が目立つ展開の作が多いという感がある。
本作もその例外ではなく、犯行トリックは無理有り過ぎ、クレイトン張りの単純なマジックねた
(ごみバケツのトリック)も、タネを明かされると萎えるものがあるし、
レギュラー名探偵ツイスト博士の心情を書いた21章「死者は語る」における
「まだ答えの出ない多くの疑問が残っているが、犯人を駆りたてた真の動機が、脳裏にくっきりと
浮かびあがっていた。博士は初めからこの事件に、何か忌まわしい病的なものを
感じ取り、最悪の事態も覚悟していた・・・しかし、今わかったのだ。事実はそれに輪をかけて
恐ろしいものだったと」、このくだりを読んで、犯行の細部は別として、
俺には真相(自動的に犯人も)が見えてしまった。
(この真相は「月明かりの闇」等で時代性ゆえジョンが書けなかったネタでもある)
ただし、深夜のロンドンにおける人間消失ネタというコテコテの不可能犯罪の発生、
傑作ミステリ映画「探偵 スルース」を想起させるような駆引き等々、
物語として読者を惹き付ける語りの巧さ、フランス人作家らしいムーディな作風の魅力は
いまだ捨て難いものはあることはある。