『読みました』報告・国内編Part.5

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153書斎魔神 ◆AhysOwpt/w
新田次郎「富士に死す」を読んだ。
山岳小説のマエストロ新田氏の手になる「富士山もの」のひとつ。
これもまた地味な存在の作だが、テーマのまとまり具合は前記した「怒る富士」より上である。
富士講の歴史・実態に興味がある向きには必読の歴史小説であり、
小品ながら、富士講途中での遭難シーン、入定(仏教の即身仏に該当か)シーン等、
冒険小説的要素にも事欠かないものがある。
(まあ、そもそも人間の「人生」そのものを「冒険」と理解すればスレ違いなど有り得ないわけ
ではあるが)
富士山信仰興隆の祖とでも称すべき伊兵衛こと食行身禄改め乞食身禄、
師である孤高の修行者月行の跡を継ぎ真の富士講の実践へと挑んでゆく・・・
終盤、簡単に触れられている身禄の跡を継ぎ布教に努めた実娘たちの行状、
特に才色兼備の四女お花ちゃんの顛末など詳しく読みたかったものである。
この点で、身禄の死以降は駆け足でその後の富士講の歴史を語るのみに終わっているのは
残念であり、もっと長大な大河小説であっても良い素材と言い得る。
不満点を挙げておくと、この作者のサービス精神というか「創り過ぎ」の感がある描写が目立つ
こと、特に月行を超人的に設定し過ぎた感が強く、
江戸で伊兵衛を危難から救い偶然にも再会を果たすなどといった三文小説的展開は不要
であろう。