1 :
前スレの>>3:
2 :
名無しのオプ:2007/11/18(日) 14:51:17 ID:EOtVNOcl
3 :
名無しのオプ:2007/11/18(日) 14:55:44 ID:ZSwIIzat
>>1 待ってました!
これからも宜しくお願いします
もしかして今までスレ立てを遠慮なさっていたんじゃないでしょうか?
そんな心配は一切ご無用ですよ
今ミス板で最も有益なスレと言っても過言ではないですから
とにかくこれからも応援してます!
4 :
前スレの>>3:2007/11/18(日) 14:57:27 ID:zDzpDUdu
高柳芳夫「ベルリンの『壁』に死す」(双葉ノベルス)★★★
1982年のドイツ各地を舞台にしたスパイ物で固めた短編集。
「Sバーンの死角」は東ベルリンが舞台。反体制学者のインタビューを試みた日本人記者が
巻き込まれた謀略。これは真犯人がバレバレ。「ベルリンの壁」を一種の「密室」に仕立てた
或るトリックは面白いのですが。
「雨の夜の天使」はケルン。無一文の日本人留学生を救ってくれた女性が翌朝、ベッドで殺さ
れてしまい、学生が犯人とされるのだが・・・。これはヒネっているけどトリックが今一つ。
表題作はアウシュビッツから脱出したユダヤ人父娘、手引きした挙句、財産を盗もうとした
ナチス将校が今は東ドイツで要職に就いているらしい、それは誰なのか・・・。これも凡作。
「異邦人たちの夜」は商社の若社長がドイツに出張して殺される話。レッドヘリングやアリバイ
工作もあるけど、やはり凡作。「ベルリンの夏の終り」も同様。
ベストは「アルプスに消えた男」。これはスイスが舞台だが、ホテルの密室状況、人間消失に
韓国の政治状況を絡めた謀略が上手くまとまっている。
三好徹「風塵地帯」(双葉文庫)★★★
1966年の「風の四部作」第3作にして推理作家協会賞受賞作。
新聞社のジャカルタ特派員の香月は旧友のカメラマン鳩谷の殺害事件に遭遇する。裏には軍部の
派閥争いが絡んでいるらしいのだが、更に現地スタッフのカルティカも殺され、香月は警察に
拘留されてしまい、否応なく謀略の渦中に飲み込まれてゆく・・・。
スパイ謀略物でお馴染みの「謀略の裏の裏の仕掛人、真の黒幕は誰か」という謎は、伏線とヒント
が利いて意外性が鮮やかであれば、「本格」における「犯人当て」と同様だと思っていますが、本作
は、当時にしては、かなり裏の裏までヒネり、伏線もあり、レッドヘリングも上手く行った方だと
思います。ただ、どこか納得が行かない部分が残ります。それが何かは上手く言えないのですが・・・。
5 :
前スレの>>3:2007/11/18(日) 15:03:09 ID:zDzpDUdu
どうもありがとう。新規開店祝いに、もう少々連投させていただきますw
斎藤栄「赤富士殺人事件」(中公文庫)★★☆
1963〜1971年までの作品を収めた「青い耳の謎」(前スレの
>>676)に続く初期短編集。
巻頭の表題作は、富士山麓に住む画家が殺され、自作の絵が何故か引き裂かれていた・・・。
大阪圭吉の短編を思い出しましたが、アレとは似ても似つかぬキテレツで豪快なアリバイ
トリックが炸裂しています。その動機は分かるけど、他に方法はあっただろw
「梵鐘の犯罪」は警察官が主人公。入院した友人の見舞いに行き、病院の窓から偶然、寺の
鐘が落ちて子供が閉じ込められるのを目撃、子供は窒息死していたが、他殺の疑いが。容疑
者の継母は事件当時、トンカツを50枚揚げていたアリバイがあったが・・・。トンカツのアリ
バイって一体何だ?下らないけど、一般の主婦が仕掛けるトリックなんてこんなものなのかもw
それにしても結末の謎解きが駆け足で説明不足。
「三人のミス・ミナト」は横浜らしき町の市役所が舞台。ミスコンの代表と準ミスが一日市長で
市長室にいたところ、重要書類が盗まれて・・・。凡作。
「夜の炎」はアマチュアの絵画オークションで画商が殺される話。トリックは面白くないが、叙述
上の或る仕掛けが一寸だけ面白い。
「市長の似顔絵」は「三人のミス・ミナト」と同じ町が舞台。失踪した貧乏画家の殺害。真犯人の
意外性に工夫を凝らしています。
「三つの悪い芽」は旧「宝石」誌で既読(前スレの
>>166)。再読したけどこれがベスト。
「猿とマリファナ」は麻薬捜査官を主人公にした三流アクション物。麻薬の隠し場所がミソだが、
バカバカしいだけの駄作。
6 :
前スレの>>3:2007/11/18(日) 15:09:08 ID:zDzpDUdu
内田康夫「『萩原朔太郎』の亡霊」(角川文庫)★★★
1982年の長編第4作。
東京・多摩郊外で発見された死体は、地面から手足と頭を突き出している奇妙なものだった。
警視庁は、三十年前に起きた萩原朔太郎の詩を研究する教師の殺害事件が絡んでいることを
突き止める。被害者は三十年前の中学生時代、その事件の目撃者であった。一方、三十年前の
事件を捜査した元刑事もまた独自に事件を追っていた・・・。
萩原朔太郎の詩集「月に吠える」を「見立て殺人」に使ったのは慧眼でしょう。更にその「見立て」
が意外な意図を持っていたのも良い。その他、伏線やレッドヘリングなど「本格」の基本は
キチンと踏まえています。まあ真犯人はさほど意外でもないし、三十年前の事件の決着など、
不満な部分も多々ありますが、先ず先ずの水準作だと思います。
森村誠一「凶水系」(青樹社文庫)★☆
1977年の長編。
埼玉・荒川で発見された水死体には他殺の疑惑が。一方、別の町で起きた密室状態のマンション
から転落死した男は、荒川の事件の現場と見られるローカル線の事件当日のキップを持っていた。
やがて荒川の事件の容疑者が浮かぶが、彼には鉄壁のアリバイがあった。更にマンション事件の
発見者の部屋では謎の女が死亡するなど、二つの事件は混迷を深めてゆく・・・。
1977年と言えば、映画「人間の証明」が封切られ、角川文庫でフェアもあり、作者のブームが
ピークに達していた頃だと思いますが、多忙だったのか、かなり好い加減な出来で残念。
マンションの密室トリックは面白いけど、早めに解決されてしまうし、二つの事件の繋がりも、
両方の関係者がヘンな行動を起こし始めたところでイヤな予感がしたとおり、もう「泥縄」も
良いところ。アリバイ工作もダメ。最終的に事件は一つに収束するけど、そのために「後出し」
の言い訳じみた真相がゾロゾロ出てくるのはどういうことか。伏線も何もあったものじゃない。
駄作。
7 :
前スレの>>3:2007/11/18(日) 15:15:13 ID:zDzpDUdu
三好徹「生けるものは銀」(講談社文庫)★★☆
1969年の長編。
新聞社所属の航空機パイロットの神野は或る日、高額のオファーで仕事の引き抜きに会う。仕事の
内容は不明で胡散臭いものを感じて断った神野だが、それ以来、彼の周囲で不審な出来事が相次ぐ。
一方、彼の恋人の父親で結婚に反対している滝口淳平もまた、マオと名乗る謎の中国人から脅しまが
いで仕事を要求される。二人は香港に飛び、謎の仕事を請け負うことになったのだが・・・。
香港に行くまでの前半が長すぎて、肝心の香港での謀略活動が短くなってしまったのが残念。神野と
滝口に与えられた仕事の真相やマオの意外な正体は、伏線や演出を工夫すれば、かなり驚く「本格」風
のネタになり得るのに、結末部分が端折り気味のため効果が上がらず、非常に勿体ない。
前振りばかり長くて終盤の盛り上がりに欠けるという、その後の長編「暗号名は砂漠の鷹」や「外套と
短剣」辺りと同様の悪い癖が出たようです。
・・・では、今後ともどうぞ宜しくお願いします。
8 :
名無しのオプ:2007/11/18(日) 15:27:56 ID:lOjZuozA
おお新たに立ったか
ここ参考にブクオフ巡りするのが楽しみなんで今後も頼みますぜ
9 :
名無しのオプ:2007/11/18(日) 15:57:56 ID:dXF0ou4Q
10 :
前スレの>>3:2007/11/20(火) 20:03:46 ID:bq5kQXgw
森村誠一「致死海流」★★★★
1978年の長編。
太平洋上を漂流していた女性の水死体。やがて八丈島の洞窟でも女性の死体が見つかり、当局は
同一犯の仕業と断定、捜査を進めてゆくうち、或る男が容疑者として浮かび上がる。被害者たち
とは或る脅迫事件で絡んでいたらしい。だが容疑者の男もまた密室状態のマンションで殺されて
しまう・・・。
作者の「あとがき」によると、多忙だったこの時期に2年余りをかけて推敲を重ねた末、書き下ろし
出版した「自信作」とのこと。
なるほど、刑事たちの執念深い捜査が丁寧に描かれ、「ああでもない、こうでもない」と推理を重ね、
犯行手段を絞ってゆくのは読み応えがあります。「犯人はこうしたんじゃないか」という幾つかの
可能性を潰すため、苦しい言い訳が幾つかあるのは、まあ仕方ないでしょう。アリバイ工作は大した
ことはないが、密室トリックは良く考えられているし、そこから動かぬ証拠が出てくるのもスマート。
作品の構成上、真犯人の意外性がないのは不満ですが、「高層の死角」「虚構の空路」に続く佳作でしょう。
11 :
前スレの>>3:2007/11/20(火) 20:10:13 ID:bq5kQXgw
三好徹「天使の復讐−「天使」全作品2」(講談社文庫)★★★
1960年代末から70年代初に発表された「天使」シリーズの短編集。
爆弾騒ぎで派手に幕を開ける巻頭の表題作が「本格」ではないが結構面白い。最も「本格」味の
あるのは、後輩記者が巻き込まれた殺人事件で一種の密室状況を扱った「天使の舞踏会」と、
学園祭で高価な宝石が盗難に遭うが、あるはずの指紋が全く見出せないという「天使の指」。
その他、捨て子騒ぎの意外な真相を描いた「汚れた顔の天使」、突拍子も無い真相で、この作者
がこのネタを扱うのかと笑わせる「蒼い仮面の天使」辺りが佳作でしょうか。
残りの「天使の哀歌」、「堕ちた天使」、「天使の手帖」、「孤独な天使」、「砂漠の街の天使」、
「泥まみれの天使」は、ハードボイルドとしては別の評価もありましょうが、謎解きとしては凡作。
中津文彦「南海 北緯17°の殺人」(祥伝社ノンポシェット)★
1988年の長編。
横浜から那覇、マニラ、香港を巡る豪華客船・へいあん丸。旅行ツアーの船中での講師を頼ま
れたミステリ作家の「わたし」。ツアーのメンバーたちも複雑な人間関係があるらしい。曰くあり
げなもう一人の講師と銀座のバーのママ、彼女を脅迫しているらしきヤクザ、戦争で弟をなく
した元軍人と、その弟の戦死の謎を知るらしい大学教授などなど・・・。那覇で銀座のママが何者
かに襲われて負傷し、ついにマニラ沖の洋上で、講師の男が殺されてしまう・・・。
駄作。ミステリの趣向など無きに等しい。ただ殺人事件が起こり、動機を持つ怪しい人物が何人か
いても、探偵役が推理する訳でもなく、全く知られていなかった事実が分かって真犯人がヤケクソ
の行動に出て幕、というそれだけの作品。
12 :
前スレの>>3:2007/11/20(火) 20:18:09 ID:bq5kQXgw
阿井渉介「まだらの蛇の殺人」(講談社文庫)★★☆
1994年の「警視庁捜査一課事件簿」シリーズの第1弾。
密室状態のマンションの一室で殺害された女性が残した言葉「まだらの蛇」。検死の結果、
沖縄沿海に棲むウミヘビの毒によるものと判明するが、何故、東京の真ん中にウミヘビが
現れたのか。いっぽう、彼女の実家である東北有数の富豪の一族を巡っても、ウミヘビに
咬まれて死亡する事件が続発する。複雑な家族関係の中、警視庁捜査一課の若手敏腕刑事
の堀と、不良中年刑事の菱谷のコンビが事件を追うが・・・。
うーん、一連の「列車」シリーズに比べて、格段に地味になってしまったようです。動機に
係る部分の真相は秀逸だけど、それ以外は特に言うことはなし。不良中年の菱内刑事が隠し
持っている「鬱屈」めいたものは、次作以降へと繋がってゆく一種の「謎」なのでしょうが、
本作だけでは感情移入しにくいワガママな言動としか思えません。
それにしても、ウミヘビの毒を使う必然性はどこにあるのだろう?確かに真犯人にとっては
或る理由から入手し易い毒であることは分かるんですけどねえ・・・。
13 :
名無しのオプ:2007/11/22(木) 17:07:32 ID:3kTEQ+HQ
>>12 読んだことないけど発売されたとき書店で見て
このタイトルってどうよ、と思った。
ウミヘビなのかw
14 :
名無しのオプ:2007/11/24(土) 01:47:48 ID:Q7M4808n
3師のレヴューで小杉健治とか読むようになったので感謝。
15 :
前スレの>>3:2007/11/25(日) 15:08:24 ID:B6J1RId9
赤川次郎「霧の夜にご用心」(角川文庫)★★★★
1982年のノンシリーズ長編。
「私」こと平田正也は、しがないサラリーマンだが、現代の「切り裂きジャック」として、霧の
夜を狙って女性を次々と殺そうと企んでいた。だが会社で同僚の女子社員・小浜を罵倒した
桜田という役員を先ず血祭りに上げてやろうと計画する。だが標的は何者かによって一足先に
惨殺される。更に平田が恨みを持つ者たちが次々に殺されてゆく。先回りして殺人を犯して
いるのは誰なのか、平田は第一の被害者・桜田の姪・妙子とともに事件を追う・・・。
連続殺人魔が、自分の犯行を先取りする犯人を「探偵」になって追跡、という、例のあの作品
の先駆。
サラリと書き流しているような軽めの作品で、展開や動機に強引な箇所もありますが、伏線は
周到で、真犯人の意外性もなかなかのもの。
やはり、この作家の才能は物凄いです。しかし、多忙で書き飛ばしてしまうから、プロットの
一部が強引になるという、ベストセラー作家の欠点も如実に出ており、本当にもったいないです。
西村京太郎「マンション殺人」(徳間文庫)★★
1971年の初期長編の一つ。
マンションのモデルルーム見学中に殺されたサギ師の男。一緒に見学していた男女との繋がりが
見出せず、また凶器も見つからないまま、今度は住宅公団の係長が殺される。更に、第一の事件
の関係者を皮切りに、連続殺人が勃発するのだが・・・。
これは飽くまで西村流の「社会派」作品であり、謎解きの興味としてはかなり薄味です。犯人当て
の趣向は、はっきり言って伏線が出れば一発で分かるレベル。消えた凶器の真相も肩透かし。
犯人の心情は淡々とながらも上手く描いてはいますけど、「本格」としては失格でしょうね。
16 :
前スレの>>3:2007/11/25(日) 15:13:24 ID:B6J1RId9
津村秀介「京都着19時12分の死者」(講談社文庫)(採点不能)
1986年のノンシリーズ長編。
新幹線の車内で毒殺された中年女性。だが京都府警が捜査に乗り出した直後に、今度は京都
駅前のホテルで元ヤクザの男が毒殺された。現場からは、新幹線の事件と同じ何者かの指紋が。
同一犯による犯行なのか。堀内刑事は事件の背景を追って東京へ飛ぶが、被害者の自宅付近で、
またも殺人事件が起きる・・・。
アリバイトリックはまるでダメ。こんなもの、時刻表を一生懸命調べれば誰でも分かるもの。
しかし、この作品を「採点不能」せしめたのは、もう一つのアリバイのネタの写真のトリック。
真相を知った時、俺は腹が捩れるほど笑いました。ここまで頑張った犯人に拍手を送りたい
ですw
写真トリックに新たな地平を切り開いた金字塔(ウソ)。笑いたい人だけ読んでください。
山村正夫「十和田殺人湖畔」(光文社文庫)★★
1987年の長編。
旅行会社の名古屋支社長・田代が東京に帰る途中で突如失踪。直後に発覚したホステス殺しの
殺害現場が、彼の名古屋の単身赴任の社宅と断定され、警察は行方を追う。父親の無実を信じる
娘の有子は、大学のOGでツアーコンダクターの柏木美也子と彼女の相棒の荒船に救いを求め、
父親を探すが、田代は十和田湖で他殺死体となって発見される・・・。
この頃の長編には珍しく、伝奇的な内容を排したスタンダードなトラミスで、作者の年齢を考える
と、若者の心情も上手く捉えていますが、いかんせん謎解きが簡単すぎて・・・。
ごく初歩的なトリックが幾つか出てきますが、基本中の基本の真相ばかり。一般の地方新聞各紙に
連載されたからでしょうか、あくまで初心者向けの作品。なお柏木・荒船コンビは、翌年の「悪霊
七大名所の殺人」(前スレ参照)でも活躍していますね。
17 :
前スレの>>3:2007/11/25(日) 15:18:49 ID:B6J1RId9
岩木章太郎「『曽根崎心中』連続殺人」(立風ノベルス)★★★
1991年の長編で、前作「捜査一課が敗けた」(前スレ参照)に続き、警視庁の三上・四角コンビ
と女優の素人探偵・青木真理が活躍するシリーズ第2弾。
出版社編集員の「わたし」は、友人の青木真理と担当の作家・平野の対談をセットするが、肝心の
平野が不倫相手の人妻とともに殺されてしまう。現場には平野が次回作の題材にしていた「曽根崎
心中」の文字が残されていた・・・。
ええと、梶龍雄でおなじみ、「オヤジ勘違いの若者言葉」に辟易してしまいました。前作「捜査一課
が敗けた」はそんなことはなかったのに・・・。
現場に残された「曽根崎心中」の文字の謎は、出来は悪くないけど、まあそんなものか、というもの。
その他、電話トリックなどもあるけど、むしろ、犯人の特定に係る些細な伏線の方が上手くいって
いると思いました。まずまずの作品。
18 :
前スレの>>3:2007/11/25(日) 15:20:48 ID:B6J1RId9
4連投スマソカッタ
新宮正春「後楽園球場殺人事件」(講談社ノベルス)★★★☆
「〜球場殺人事件」で統一した1982年の短編集で、講談社ノベルス最初期のラインナップの
一冊。
表題作は後楽園球場の一室の窓から転落した男の話。容疑者は、事件発生時、カメラマンが
撮影した王選手の連続写真の後ろのスタンドに姿が写っていたことからアリバイが成立した
のだが・・・。アリバイ工作はともかく、王選手の打撃の特徴からアリバイが崩れるという
発想が面白い。
「西武球場殺人事件」は田淵選手が登場し、石毛がルーキー、懐かしい・・・wバッティング
マシンを使ったプロバビリティの殺人に西武球場の或る特徴を絡めたものだが、トリック
よりもやはり発想で読ませます。
「神宮球場殺人事件」は神宮の大学野球選手権で起きた殺人。江川、原、堀内コーチが大活躍w
背番号に関するトリックだが、殺人には関係ないけどスピードガンを騙すトリックは本当かなあ?
「横浜球場殺人事件」は長嶋が登場。横浜の華僑を巡る殺人。こちらはトリックが野球と直接は
絡まないけど、泡坂風の手品趣向が活きている。
以上4編、トリックそのものの出来より、発想のユニークさで楽しめます。
「殺人球場−殺しのトリック・プレイ」(前スレ参照)と同様、スポーツ物の軽い本格として楽し
めます。
19 :
名無しのオプ:2007/11/25(日) 19:43:26 ID:DM4AFkqe
3師にはミス板史上2人目となる大元帥の称号を授与したいと思う
20 :
名無しのオプ:2007/11/25(日) 21:48:00 ID:AsXsrfa2
大元帥一人目って誰?まさか書斎じゃあるまいな…
次はいつ採点不能の作品が出てくるのかと楽しみにしているのは俺だけだよな、きっと
21 :
名無しのオプ:2007/11/25(日) 22:04:20 ID:DM4AFkqe
オレオレ
22 :
名無しのオプ:2007/11/26(月) 01:52:49 ID:TUZZuQiq
23 :
前スレの>>3:2007/12/02(日) 10:08:02 ID:yg7ECr+q
伴野朗「驃騎将軍の死」(集英社文庫)
1986年の中国の歴史物で固めた短編集。
残念ながら本格ミステリと言えるのは「高昌城の怪」(★★★★)だけだが、これが秀作。
中国西域の小国が舞台。王宮に滞在中の旅の僧侶が、玉細工師の地下室で起きた密室殺人
に挑む。ラスト、窮地を救われた若者が僧侶に名を尋ねると・・・。むろん、横溝の某名作
短編と同趣向。セリフまで似ているのが微笑ましい。この名探偵の正体は推測できたし、
トリックの質も高くないが、こういう話は大好きなので、作者にはこの僧侶を主人公にした
連作集を書いて欲しかったです。
その他、割と出来が良いのは表題作で、若くして謎の死を遂げた驃騎将軍・霍去病の寵妃が、
その死の真相を語る話で、語り手の行動を上回る裏の真相が上手い。あと「残春記」が、王妃
に上り詰めた女とその兄の話で、「最後に笑うのは誰か」という感じのドンデン返しが冴えて
います。
その他は本格でもないし、ミステリとしても中途半端な出来。「わが愛しの西施」は、伝説的な
傾城の美女・西施を巡る話。「壁のなかへ消えた男」は幻術を操る男を主人公とした奇談ふうの
作品。「伏龍起つ」は有名な諸葛孔明の「三顧の礼」を題材にした話。「離魂記」は全くのホラー
だが、後味は良いです。
なお解説は陳舜臣だが、「高昌城の怪」の僧侶の正体を明かしているので先に読まないこと。
24 :
前スレの>>3:2007/12/02(日) 10:11:55 ID:yg7ECr+q
高木彬光「密告者」(角川文庫)★★★★
1965年の検事・霧島三郎シリーズ第2弾の長編。
証券会社をクビになった瀬川は、昔の女友達・山口の紹介で就職が叶う。だがその会社は
ダミーで、裏では産業スパイを行っていた。瀬川は旧友・荻野の経営する化学会社をスパイ
しようとするが、重要書類の写真を撮っている現場を荻野に見つかり、絶交を申し渡されて
叩き出される。その直後、荻野は何者かに殺される。瀬川は身に覚えが無かったが、山口と
口裏を合わせて偽のアリバイを申し立て、警察の追及を逃れるが、山口もやがて殺されて
しまう・・・。
梶山「黒の試走車」で産業スパイ物が脚光を浴びたのが1962年、その流れに沿った作品かな、
と思って読み進めたのですが、さすがは高木、「本格」の味付けは忘れていません、という
より、これは「産業スパイ物」のスタイルを借りて・・・という作品でしょう。トリックなどに
華やかさはないし、全体に地味ですが、まんまと一杯食わされました。佳作。
津村秀介「紅葉坂殺人事件」(講談社文庫)★★★
1985年の浦上伸介シリーズ第2弾の長編。
悪辣な手法で会社を大きくしてきたワンマン社長の大塚は、出張中の名古屋でニセ電話におびき
出され、大金を強奪される。一緒にいた秘書の長井が疑われるが、数日後、今度は大塚社長が
刺殺されてしまい、アリバイのない長井が逮捕される。ルポライターの浦上は、長井以外に真犯人
がいるのではないかと独自に調査を始める。だがもう一人の疑わしい男には鉄壁のアリバイが
あった・・・。
アリバイトリックは、こないだの「京都着・・・」よりはマシ。ちょっとした盲点を突くもので、でも
前例はあるから、大したものではない。もう一つの或るトリックも、当たり前過ぎて見逃して
いたけど、まあこんなものかな、というレベル。すっかりナメきって読んでいたので、それなり
に引っ掛かったけど、やはり凡作としか言えないでしょうね。
25 :
前スレの>>3:2007/12/02(日) 10:15:33 ID:yg7ECr+q
3連投スマソカッタ
斎藤栄「禁じられた恋の殺人」(徳間文庫)★★
1973年の長編。
公害評論家・日高孝太郎の娘・由美子が何者かに誘拐された。何故か子供の声で身代金要求の
電話が入り、指定された福岡まではるばる行ってみると、そこにあるのは見知らぬ女の死体
だった。東京に戻ると、またも子供の声で今度は神戸に身代金を運べという。神戸では、また
しても見知らぬ男の他殺体が。誘拐犯の目的は一体何なのか・・・。
誘拐事件と殺人が、一体どう収束するのか、非常に期待して読んだのですが、やはり斎藤栄に
期待したのが間違いだった・・・orz
誘拐された被害者の心理は兎に角、犯人の動機はどうも納得ゆかない。こと細かに説明されて
いるし、この方法がダメとは言わないが、他にも効果的なやり方はあったはず。
それにしても、伏線不足はいただけない。「えっ、誰だったっけ?」だものなあ。読み返して
みたところ、少しだけ触れてはいるけど、これじゃあ・・・。もっとも、プロローグで或る方向に
誘導されたのが原因で眼に留まらなかったのか。だとしたら、あのプロローグだけは上手い、と
言えるでしょうか。
赤川次郎 「幽霊候補生」★★★★☆ 「幽霊列車」★★★★
「ミステリ博物館」★★★★ 「華麗なる探偵たち」★★★★
「死体置場で夕食を」★★★★ 「三毛猫ホームズのびっくり箱」★★★★
井沢元彦 「殺人ドライブ・ロード」★★★★☆ 「暗鬼」★★★★
「修道士の首」★★★★ 「謀略の首」★★★★
井上ひさし 「十二人の手紙」★★★★☆
岡島二人 「そして扉が閉ざされた」★★★★
海渡英祐 「影の座標」★★★★★ 「突っ込んだ首」★★★★☆
「白夜の密室」★★★★ 「閉塞回路」★★★★
梶龍雄 「海を見ないで陸を見よう」★★★★★
「灰色の季節−ギョライ先生探偵ノート」★★★★☆
「リア王密室に死す」★★★★☆
「ぼくの好色天使たち」★★★★ 「鎌倉XYZの悲劇」★★★★
日下圭介 「鶯を呼ぶ少年」★★★★☆ 「密室(エレベーター)20秒の謎」★★★★☆
「女怪盗が盗まれた」★★★★ 「女たちの捜査本部」★★★★
草川隆 「東京発14時8分の死角」★★★★ 「急行〈アルプス82号〉の殺人」★★★★
小杉健治 「裁かれる判事」★★★★★ 「月村弁護士 逆転法廷」★★★★☆
「陰の判決」★★★★☆ 「原島弁護士の愛と悲しみ」★★★★☆
「偽証」★★★★ 「二重裁判」★★★★
小林久三 「火の鈴」★★★★☆
斎藤栄 「死角の時刻表」★★★★ 「方丈記殺人事件」★★★★
嵯峨島昭 「グルメ殺人事件」★★★★
笹沢左保 「霧に溶ける」★★★★★ 「招かれざる客」★★★★☆
「求婚の密室」★★★★ 「遥かなりわが叫び」★★★★
「アリバイ奪取」(「別冊宝石124号」収録)★★★★
佐野洋 「高すぎた代償」★★★★☆
島田一男 「箱根地獄谷殺人」★★★★ 「去来氏曰く」(別題・夜の指揮者)★★★★
蒼社廉三 「戦艦金剛」★★★★
高柳芳夫 「悪夢の書簡」★★★★ 「奈良-紀州殺人周遊ルート」★★★★
多岐川恭 「異郷の帆」★★★★
多島斗志之 「金塊船消ゆ」★★★★
陳舜臣 「方壺園」★★★★★ 「獅子は死なず」★★★★☆
「三色の家」★★★★☆ 「枯草の根」★★★★
「長安日記」★★★★
司城志朗 「そして犯人(ホシ)もいなくなった」★★★★☆
津村秀介 「虚空の時差」★★★★
長井彬 「北アルプス殺人組曲」★★★★ 「槍ヶ岳殺人行」★★★★
「白馬岳の失踪」★★★★
中町信 「高校野球殺人事件」(別題・空白の殺意)★★★★
「女性編集者殺人事件」★★★★ 「『心の旅路』連続殺人事件」★★★★
夏樹静子 「蒸発」★★★★
仁木悦子 「猫は知っていた」★★★★☆ 「冷えきった街」★★★★
西村京太郎 「殺しの双曲線」★★★★☆ 「殺意の設計」★★★★☆
新羽精之 「日本西教記」(「推理文学」(1971年4月陽春号)収録中編)★★★★☆
伴野朗 「三十三時間」★★★★
深谷忠記 「ゼロの誘拐」★★★★☆ 「寝台特急『出雲』+−の交叉」★★★★☆
「津軽海峡+−の交叉」★★★★
松本清張 「点と線」★★★★☆
皆川博子 「妖かし蔵殺人事件」★★★★
三好徹 「疵ある女」(「悪の花園」収録短編)★★★★★
「砂漠と花と銃弾」★★★★ 「天使が消えた」★★★★
本岡類 「白い森の幽霊殺人」★★★★
森真沙子 「青い灯の館」★★★★
森村誠一 「高層の死角」★★★★☆ 「虚構の空路」★★★★
山村正夫 「大道将棋殺人事件」★★★★ 「獅子」(「宝石」(1957年11月号)収録)★★★★
山村美紗 「花の棺」★★★★
アンソロジー 「ホシは誰だ?」★★★★
岩崎正吾 「風よ緑よ故郷よ」★★★★☆
梶龍雄 「海を見ないで陸を見よう」★★★★★ 「草軽電鉄殺人事件」★★★★☆
「葉山宝石館の惨劇」★★★★ 「清里高原殺人別荘」★★★★
「大臣の殺人」★★★★
日下圭介 「木に登る犬」★★★★★
草野唯雄 「もう一人の乗客」★★★★ 「女相続人」★★★★
黒木曜之助 「妄執の推理」★★★★
佐野洋 「七色の密室」★★★★ 「銅婚式」★★★★
陳舜臣 「闇の金魚」★★★★
土屋隆夫 「影の告発」★★★★
伴野朗 「密室球場」★★★★
麗 羅 「桜子は帰ってきたか」★★★★
29 :
名無しのオプ:2007/12/04(火) 02:41:09 ID:/v7z8l+r
まとめ乙。
30 :
名無しのオプ:2007/12/04(火) 20:23:05 ID:FdBr5G2i
すげー乙。
プリントアウトしてブックオフへ。
31 :
名無しのオプ:2007/12/05(水) 12:51:00 ID:biuQdr2X
↑リストを元にちょこちょこ読んだ中では
「鶯を呼ぶ少年」「木に登る犬」「殺人ドライブ・ロード」
「突込んだ首」「槍ヶ岳殺人行」「方丈記殺人事件」「霧に溶ける」
「奈良―紀州殺人周遊ルート」「白い森の幽霊殺人」「妄執の推理」
「清里高原殺人別荘」が特に面白かった。
まだまだ半分も読めてないけどね。
32 :
名無しのオプ:2007/12/05(水) 20:02:20 ID:WvaQk8kk
日下圭介の講談社の初期短編集が見つからないんだよねえ
光文社文庫はよく見かけるんだが
33 :
前スレの>>3:2007/12/09(日) 10:58:44 ID:zcrwoR7g
>>26-28 乙です。スゴい、しかも作者名五十音順で、それぞれが高評価の順・・・。
親切な方ばかりで嬉しいです。
逢坂剛「裏切りの日日」(集英社文庫)★★★★
1981年の処女長編。
警視庁の公安刑事の桂田と浅見。桂田は離婚後、性格が一変し、今は右翼の大物と結託して
不正を働いているらしき悪徳刑事だが、後輩の浅見は彼の手腕を評価し、心を痛めている。
そんな或る日、商社の役員室に暴漢が押し入り、社長や秘書、来客を人質に立てこもる事件が
発生。現場近くに居合わせた桂田と浅見が犯人の説得に当たるが、現場近くのマンションで
は、例の右翼の大物が射殺されていた・・・。
これはハードな警察小説としても読めますが、或る大胆なトリックが際立つ「本格」の秀作でも
あると思います。但し、多分、たいていの読者には伏線がミエミエなので、或る部分までは解明
できると思いますが、メインのネタはかなり意外なもの。そして結末もかなりヒネっており、
最近でも人気の高い警察小説の或るパターンを作り上げた秀作だと思います。
そして、或る面で本作に大きな影響を与えたと思うのが、次に紹介する作品です・・・。
34 :
前スレの>>3:2007/12/09(日) 11:02:53 ID:zcrwoR7g
で、何を今更でしょうが、この名作の感想です。
結城昌治「夜の終わる時」(角川文庫)★★★★
1963年の推理作家協会賞受賞作。
ヤクザの関口による恐喝事件を追っていた徳持刑事が行方不明になった。関口は徳持の
幼馴染であり、癒着も噂されていたが、徳持は旅館で他殺体となって発見される。若手
の安田刑事、倉田部長刑事らは関口の犯行と断定、やがて関口が見つかり、逮捕されるが、
こともあろうに警察署内で関口は差し入れのコーラを飲んで毒殺されてしまう。更に差し
入れを持ってきたチンピラもまた・・・。真犯人は誰なのか・・・。
これは評判どおりの傑作。中島河太郎は「前半の犯人探しと後半の倒叙形式」の対比で評価
していましたが、後半は分量が少ないところからみても、これは結末でよくある「真犯人の
自白・真相告白の手紙」の変形でしょう。むしろ前半というか、全体の4分の3以上を占め
る捜査過程の部分の「本格」仕立てを評価したいと思います。
張り巡らされた伏線と、刑事が或る人物の不審な行動に行き当たり、犯人と確信するまでの
過程は見事なものです。そして終盤、真犯人の独白部分の圧倒的な孤独感、報われない心情、
というか情け容赦の無い結末・・・。
逢坂「裏切りの日日」のどこに影響を与え、またどこが違っているかは、具体的に書くと
ネタバレになるので省きますが、読み比べてみると面白いと思います。
35 :
前スレの>>3:2007/12/09(日) 11:09:01 ID:zcrwoR7g
鳥井加南子「最後の誕生日−満月先生推理袋」(光文社文庫)★★★
1991年の長編。
占いにやってきた男・早瀬の様子に不審なものを感じた占い師の満月先生と助手の野々村
花子。果たして早瀬は殺人事件の容疑者として逮捕される。恋人の父親と信じていた男・
戸部が実は夫であることを知って逆上したものらしい。だが早瀬の無実を信じる満月・花子
コンビは、甥の風間警視から情報を入手、独自に調査に乗り出す。殺害前日のパーティに
参加した胡散臭い連中の中に真犯人がいるのではないか・・・。
この作者の持ち味である伝奇的・土俗的な雰囲気は全く消えて、都会風のユーモア・ミステリ
になっていますが、上手くこなしているのは流石。アリバイトリックなども出てきて、その
肝心の場面など、なかなかキワドい描写なのですが、やはりバレやすくなってしまっているの
が残念。本作以降の作者の作品は寡聞にして知らないのですが、シリーズ化されているのかな。
阿井渉介「風神雷神の殺人」(講談社文庫)★★☆
「まだらの蛇の殺人」に続く、警視庁捜査一課事件簿シリーズ第2弾。
「風神の力を借りて餘部の鉄橋事故を起こして或る男を殺した、また信楽の列車事故でも雷神
の力で男を殺した。次はお前だ」という脅迫状を受け取った主婦が、予告どおり何者かに鎌で
切り殺される。次いで静岡でも同じ脅迫状を貰った男が殺されるや、全国各地に脅迫状が届く。
警視庁の堀と菱谷の刑事コンビが事件を追うが、被害者には何の関係も見出せない。犯人の目的
は一体何なのか・・・。
うーん、底無しの暗さだなあw人間のイヤな部分をほじくり出しては読者に突きつける・・・。
「本格」としては、特に取るところ無し。信楽の事故に関する犯人の行動が面白かったくらいかな。
しかし、「列車シリーズ」の時は、奇妙キテレツなトリックが余りにも派手だったので気になら
なかったが、そういうトリッキーな趣向が抜けてしまうと、「刑事ドラマや二時間ドラマにありがち
なクサい場面」ばかりが目に付くようになってしまったと思います。菱谷刑事の娘・葉子の造形だけ
は上手いと思いますけど。
36 :
前スレの>>3:2007/12/09(日) 11:13:51 ID:zcrwoR7g
半村良「魔境殺神事件」(祥伝社文庫)★★★
1981年のSF本格ミステリ。
ESP能力を持つ「俺」は、精神力学の会合でパリに向かう途中、トラブルに巻き込まれ、
パキスタンのカラチから、インド・パキスタン・アフガニスタン・ソ連・中国に国境を接する
秘境・ジャンミスタンに連行される。そこで「俺」が目にしたのは、この地方の部族の族長
ガズニサムが、何もない空中に首吊り状態で殺されているという、あり得ない状況だった。
聞けば、この地方に住む8つの部族の長は、それぞれ超能力を持ち、各部族から「神」として
崇められているらしい。各国の軍部や情報局が思惑を持って注視するなか、「俺」は「神」を殺し
た者は誰なのか捜査することになったが・・・。
アシモフやギャレット、ホックなどのSFミステリと同様、超能力やらのSF上の設定はあって
も、それで解決するのではなく、あくまで「本格ミステリ」の通常の論理に従って、謎を解明する
作品として評価できます。が、いかんせん、謎解きの真相が少々おそまつ。伏線もあるけど、
メイン・トリックは当時ですら古びていたネタだし、肝心の空中宙吊り事件の真相も面白いもの
ではないです。凡作とは言わないけど、先駆的な意義以外に評価は出来ないです。
37 :
前スレの>>3:2007/12/09(日) 11:20:11 ID:zcrwoR7g
5連投スマソカッタ
佐野洋「光の肌」(徳間文庫)(採点不能)
1964年、「東都ミステリー」より刊行された長編。
東京・晴海の岸壁から海に転落した自動車。何故か運転手も同乗者も発見されないまま、
地道な捜査が続くうち、或る外国人殺害事件に繋がっていることが判明する。
一方で、野上美樹子というデパート店員が商社の専務秘書に転職する話が展開。秘書なの
に正式な社員としては採用されず、宴席に出たりするだけの楽な仕事を任されるのだが、
やがて、外国人の接待を命じられて・・・。
自動車転落事故を追う捜査陣の活躍を「Aの章」とし、美樹子の話を「Bの章」として交互
にストーリーが展開、やがて両者が外国人殺害事件で繋がって、というパターン。
「詰まらん話だなあ」と思っていたら、終盤でトンデモないというか、あり得ない事態に至り
ます。「そんなバカな」と思っての結末は・・・。
・・・これはアンフェアじゃないでしょうか?確かに片方の「章」の或る登場人物たちは「そのこと」
を知り得ない立場にはあるけど、地の文が虚偽だと思うのですが。前スレで紹介した「高すぎた
代償」では上手くその問題を回避しているけど、これは・・・。当時はこれでもフェアだと認められ
ていたのかな?
ネタバレにはならないと思うけど、片方の「章」は、「そのこと」を知り得ない・・・・・・・・・・・・・
ならOKだったと思います。
折原一とか貫井徳郎のアレとかの先駆的な意義はあるけど、虚偽じゃしょうがない。
38 :
名無しのオプ:2007/12/10(月) 00:39:54 ID:sJCWC4i8
佐野のソレは、「推理日記」でも自己言及してたような。
記憶あやふやだが。
39 :
名無しのオプ:2007/12/10(月) 12:56:48 ID:lyqkjU0I
大元帥閣下いつもご苦労様です
これからも応援しています
(25歳・ニート)
40 :
前スレの>>3:2007/12/15(土) 15:23:00 ID:SP647wYx
津村秀介「瀬戸内を渡る死者」(廣済堂文庫)★★★★
1985年のノンシリーズ長編。
雑誌社の女性編集者の北川は、取材旅行で訪れた四国の屋島で女性の死体を発見。被害者は
離婚の準備のため、故郷を訪れていたところだった。行き掛かり上、事件を追うことになった
北川は、被害者の女性の悲惨な過去を知る。やがて捜査が進むうち、離婚相手の夫が容疑者と
して浮かんでくるのだが、彼には鉄壁のアリバイがあった・・・。
別の作家の作品で似た趣向のものを先に読んでいたため、真相には気付きましたが、本作を
先に読んでいれば、きっと騙されて驚いたでしょう。また一点だけ、少々虫の良い偶然がある
のですが、その点を除けば、なかなかの出来だと思います。
アリバイを崩しても、更にアリバイが出てきて、最終的に捜査陣の完敗かと思われた終盤、
或るトリックが判明し、アリバイの意味がガラッと変わる瞬間が見事。アリバイのネタその
ものは陳腐ですが、そこに別のトリックを絡めてミスリードを誘う手際など、この作家も侮り
がたいなあ、と思わせました。
前スレで紹介済みの「虚空の時差」と並ぶ佳作でしょう。
41 :
前スレの>>3:2007/12/15(土) 15:26:24 ID:SP647wYx
高木彬光「ゼロの蜜月」(光文社文庫)★★☆
1965年の検事・霧島三郎シリーズ第3弾。
あの事件(シリーズ第1作「検事霧島三郎」のこと)から1年が経ち、尾形悦子は大学助教授
の塚本と出会い、恋に落ちる。塚本には暗い過去があり、また不審な人物が付きまとっている
ようだったが、悦子は周囲の反対を押し切り結婚する。だが結婚式の晩、新郎の塚本が行方不明
となり、他殺体となって発見される・・・。
「何故、結婚式の晩を狙って事件を起こしたのか」がポイントとなるのですが、説得力がありま
せん。もっとトリッキーな真相が用意されていると思っていたのでガッカリ。それ以外にはコレ
といった趣向もないので、「本格」としては凡作としか言えないです。
なお序盤の塚本と悦子の恋愛場面を、ラストシーンを読んでから読み返すと何とも切なくなるの
ですが、まあそんなことは「本格」としては関係ないしなあ・・・。
小林久三「蒼ざめた斜塔」(角川文庫)★★☆
1972年の雑誌新人賞受賞作「腐蝕色彩」や同年の表題作他、映画界を舞台にした、ごく初期の作品
を収めた短編集。
まず表題作は、主演女優の謎の死と、交代で抜擢された新人女優を巡る話。トリッキーな趣向に
乏しい凡作。「腐蝕色彩」は永井荷風「断腸亭日乗」を題材にした映画を制作中の監督が殺される話。
荷風の話とプロットの繋がりが薄く、トリックも映画のロケハンに関するアリバイ工作だが、今
一つの出来。
「零号試写室」は助監督の野心と挫折を描いているが、このアリバイトリックも出来が悪い。
「獣たちの葬列」も同様の凡作。
全般に作者の映画界への怨念が爆発しており、怨念を通り越して「殺意」すら感じます。従って
暗い話ばかりで後味も悪いが、何より、似たり寄ったりの話ばかりなのが残念。
42 :
前スレの>>3:2007/12/15(土) 15:33:18 ID:SP647wYx
三好徹「密会の夜」(集英社文庫)★★
1970年代の作品を収めた短編集。
表題作は、恋人のマンションを訪ねたところ相手が殺されており、容疑者と疑われる男の
話。トリッキーだが、やはりアンフェアだよ(主人公の一人称ならOKだと思うけど)。
「レオノフ事件」は懐かしの大阪万博が舞台。某大国から来日中のバイオリニストが万博
会場の「動く歩道」の事故に巻き込まれて手を怪我してしまい、悲観して琵琶湖に入水自殺、
しかし真相は・・・。急転直下の結末に驚くが、ただそれだけ。
「浮気の報酬」は作者の柄にないユーモア風の作品。売れない女優を囲う商店主が、さん
ざん貢がされた挙句、泥棒呼ばわりされてしまう。ラストのオチが上手いが、これもそれ
だけの作品。
「都会の牙」は警察官が学生時代の同級生だったホステスと知り合うが・・・。これも凡作。
「追われる男」は金庫からカネを横領したものの、爆弾騒ぎに巻き込まれ、そして・・・、と
いう皮肉な作品だが、この作者には似合わない。
「影のない女」、解説者(郷原だw)が言うほど、魅力的な謎や論理的な結末がある訳ではない。
ただ単に先輩社員にハメられた男の話というだけ。凡作。
「賭博者」は賭博から足を洗った男が暴力団捜査のため刑事に頼まれて、再び手を出す話。後味の
悪い結末。
「蝮の関係」は一応の水準作。ホステスから国会議員夫人になった女と、その過去をネタに脅迫する
謎の男、そして・・・。二重、三重の絡み合いが上手く描けているが、あのトリックは少々無理がある
と思う。被害者が気付かないのはおかしいよ。
「真昼の失踪」は汚職絡みで総務部長が失踪したのだが実は・・・。オチはけっこう意外で楽しめた。
・・・全体に不調ですね。「本格」と言えるのは表題作と「蝮の関係」ぐらいか。そもそも作者の持ち味
ではない作品が多いような気がします。
43 :
前スレの>>3:2007/12/15(土) 15:38:15 ID:SP647wYx
4連投スマソカッタ
夏樹静子「人を呑むホテル」(光文社文庫)★★★
1983年の長編。
「9月末のシーズン最終日に宿泊した客は行方不明になる」という噂のある富士・精進湖畔の
ホテル。行彦と恋人のテオリは、結婚の仲人を頼んでいた大学教授夫妻がこのホテルに
泊まったまま行方不明になったことを知り、夫妻の行方を追う。9月初めにホテルに招待
されて知り合った教授の親戚や取引先の重役らにも不審な動きが。やがて夫の教授が縊死体
となって発見される。だが病弱の妻の行方は掴めないままだった・・・。
女性週刊誌に連載されたもので、「恐怖サスペンス」などと紹介されているけど、ちっとも
ホラー風味が感じられないです。これは出来はともかくフーダニット物でしょう。丁寧で
はあるけど少々クドいストーリーで、或る登場人物の突拍子も無い行動が謎解きのポイント
ですが、その動機に少々無理があります。とはいえ、その人物のヘンな行動のおかげで真犯人
が上手く隠れているとも言えます。しかし他には目ぼしいトリックもなく、まあ可もなく不可
もなく、といった感じでしょうか。
44 :
名無しのオプ:2007/12/17(月) 18:13:59 ID:W8mkYr+V
津村秀介に★四つついた作品があったのが収穫っすね
45 :
前スレの>>3:2007/12/23(日) 15:03:18 ID:8ryYy4Fu
アンソロジー「推理ゲーム−あなたもAクラス探偵だ!」(山村正夫編、双葉ブックス)
22人の作家による、ごく短い推理ゲーム風の短編22作を収めた1975年のアンソロジー。解決部分は
本文から分けて、巻末にまとめてあります。
なお乱歩編「推理教室」の文庫化に当って割愛された一部の作品が収録されているようです。
菊村到「くたばれ高利貸し」×。この作家は論理的な犯人当てが分かっていない。
笹沢左保「殺し屋は三枚目」△。叙述上の工夫は買えるが、犯人特定の決め手にムリがある。
土屋隆夫「見えない手」△。この作家にしては伏線の張り方がヘタで、全てバレバレ。
仁木悦子「月夜の時計」○。小学生向けクイズのレベルだが、コンパクトに纏まっている。これは
「推理教室」で既読。
藤村正太「性的犯罪」×。アホか。
森村誠一「闇の欠陥」○。解決部におよそ無意味な計算式が出ていますが、伏線はフェアだと思う。
鮎川哲也「魚眠荘殺人事件」×。謎解き以前の問題。本当に鮎川の作品なのか?
石沢英太郎「ドンファンの結婚」△。狙いは分かるけど面白くない。
樹下太郎「貨車引込線」○。暗号解読物だが先ず先ずの出来。
(つづく)
46 :
前スレの>>3:2007/12/23(日) 15:04:51 ID:8ryYy4Fu
(承前)
西東登「猫と靴下」△。シンプルなネタなのですがシンプル過ぎて面白くない。
草野唯雄「高速道路の殺人」×。およそ下らない。小学生の算数か。
多岐川恭「干潟の小屋」◎。これがベスト。足跡トリックでヒントも十分。
夏樹静子「命の恩人」△。だから何?という感じ。
西村京太郎「扉の向うの死体」○。シンプルだが上手い。
大谷羊太郎「隣室の怪」○。犯人の意外性だけは十分。
井口泰子「血牡丹OL」×。最低最悪。
斎藤栄「SM女優の死」×。上記の井口作品がなければこれが最低最悪だった。
高橋泰邦「情欲の帆走」×。上記2作品と良い勝負。
山村正夫「悪夢のアルバム」○。アリバイなど工夫を凝らしており上手いが、話が下世話で残念。
海渡英祐「初夢の騎士」◎。おとぎ話風だが脱獄トリックとフーダニットを組み合わせた佳作。
佐野洋「土曜日に死んだ女」△。これも、だから何?としか思えない。
都筑道夫「夢の完全犯罪」○。SFミステリの佳作。これは別アンソロジーで既読でした。
47 :
前スレの>>3:2007/12/23(日) 15:12:17 ID:8ryYy4Fu
辻真先「殺人者が日本海を行く」(徳間文庫)★★★
1984年の慎・真由子物の長編と、その前奏となる短編「お座敷列車殺人号」を併録。
表題の長編は、北陸の取材旅行に出かけた慎と真由子が、謎めいた行動を取る男女を発見、
彼らの忘れ物のポシェットから二百万円もの大金が出てきたことから、二人は富山随一の
地主・市村家の孫の誘拐事件に巻き込まれてゆく。だが誘拐は狂言ではないのか。しかし、
誘拐事件は殺人事件へと発展してゆく・・・。
小技のトリックを幾つか組み合わせて、上手く纏めているとは思いますが、メインの謎に
魅力がなく、どこか散漫な印象を与えます。駅名に絡んだ暗号も、昔ならともかく、現代の
知らない人には理解すら不可能でしょう。やはり凡作かな。
併録「お座敷列車殺人号」は、慎と真由子が新婚旅行先の伊豆で巻き込まれた、走る列車の
密室殺人。一発ネタだが結構面白く、ヒネッたオチと、その伏線となる急停車の件など上手
いところ。
高木彬光「都会の狼」(角川文庫)★★
検事・霧島三郎シリーズ第4作、1966年の長編。
霧島検事は仙台地検に赴任中、死刑執行に立ち会った。だが死刑囚の小山栄太郎は、執行
間際に「自分は犯人じゃない、ジャックを探してくれ!」と絶叫し、霧島に深い印象を残し
ていた。一方、同じ刑務所に服役していたヤクザの荒井健司は、命の恩人である小山の
ために、出所後、小山の言い残した「ジャック」なる人物を探し出し、仇を討とうと決心
する。だが、ジャックの正体と小山の冤罪の鍵を握る男たちが次々と殺されてゆく・・・。
ムショ帰りで時代の変化に付いて行けないヤクザの荒井の行動が、妙なユーモアを醸し出
していますが、真相は肩透かし。誰だって「コイツが犯人だろ」と思うとおりの真犯人で
ガッカリ。コレといったトリックもないし、「ジャック」の正体に関しても不満の残る部分
がありました。或る人物の刺青の秘密については、まあまあ面白かったのですが・・・。
48 :
前スレの>>3:2007/12/23(日) 15:15:52 ID:8ryYy4Fu
森村誠一「空洞星雲」(角川文庫)(採点不能)
1969〜1970年頃に書かれた三部作「太陽黒点」「空洞星雲」「凄愴圏」の第2作で、1作目が社会派、
本作が本格、3作目がサスペンス、とのこと。一貫したストーリーがありながらも、各々、独立
しても読めるらしいですが、さて。
高校卒業から三年、勤務先の転勤で上京した三尾は、高校時代の恋人・藤代が失踪したことを知る。
藤代は銀座のクラブに転職した矢先に行方を絶ったらしい。だが秘密を知るクラブのママ松田が
密室状態の自室で殺される。容疑者と目された自称作家の山本には事件当時、福岡にいたという
鉄壁のアリバイがあるのだが・・・。
第一作に登場したメンバーも脇役で登場して、そちらのストーリーも展開してゆきますが、メイン
の話は確かに独立したもの。ですが、密室トリックもアリバイ工作も余りにお粗末。特にアリバイ
トリックは、仕掛けの詳細はともかく、その肝心の描写の部分を見逃す読者なんかいないでしょう。
余りにストレート過ぎて、初心者でも騙されないだろw
全体の雰囲気もどこか妙で、珍走団の侠気溢れるアタマやらポン引きやらのヘンな人物が勢ぞろい、
なかでも或る人物がクラブでミステリ作家を批評する部分(しかも作家名が、阿賀佐久利とか、湖南
土容とかの海外作家のヘンな当て字ばっか)は、言っていることがメチャクチャで、赤面しないでは
読めない名場面ですw
全体的にどこかが狂っているようです。
49 :
前スレの>>3:2007/12/23(日) 15:20:32 ID:8ryYy4Fu
(書き忘れたけど、上記「空洞星雲」は、風俗的な描写などから、1980年代に加筆訂正
されているようです)
高木彬光「偽装工作」(角川文庫)★★☆
1965〜66年に発表されたグズ茂物の中・短編集。
中編「寒帯魚」は、相場師の会社社長が殺されるが、現場には何故かクーラーとヒーターの
両方が付けっ放しになっていた、という話。アリバイ物の一種ですが、ただ単に謎を錯綜さ
せただけで、切れ味に乏しい凡作。
「偽装」は、女性が失恋の末に自殺したと思われたが、実は他殺を偽装したものではないか、
という謎。更に第二の事件も起き、被害者を失恋させた男が疑われるのだが・・・。第二の事件
のトリッキーな趣向は面白いが、犯人は容易に推測が付いてしまう。ラスト、真犯人の主張に、
小杉健治ふうのテーマが見えるところが面白い。
「完全の限界」は、倒叙物でスタート、昔の恋人と共謀してその夫を殺すことに成功した男が、
近松検事と名乗る男に犯行手段を見破られ、強要されて自殺、恋人も殺されてしまうのだが・・・。
これもスタイルは面白く、近松検事登場?という部分でアッと思わせるが、それだけの作品。
「弾道の迷路」は警察の寮で起きた警官殺し。射殺の状況から、同じ研修所にいた警官たちが
疑われるが・・・。犯人の意外性を狙っており、これはまずまずの出来。
全体にこれといった佳作がないのが残念。
50 :
前スレの>>3:2007/12/23(日) 15:25:18 ID:8ryYy4Fu
6連投スマソカッタ
逢坂剛「空白の研究」(集英社文庫)★★★
1981年、作者の処女短編集。
「真実の証明」は前半の法廷ミステリ風の展開が後半で鮮やかに一転、これでもかという
ドンデン返しの続く秀作。読者が予想しうる結末を、更にもう一回ヒネっているのがスゴい。
「美醜の探求」も本格風の佳作。醜男ばかりを狙う連続殺人魔の美女を刑事コンビが追うの
だが・・・。これも読者の予想を引っくり返し、意外な犯人に驚きます。
「嫌悪の条件」は、広告代理店のプレゼンを巡るユーモア風の作品、「おかめ専」の社長が
オカしい。
「不安の分析」はクルマ恐怖症の男が主人公、クルマに関連するものはすべてダメ、「寅さん
映画」も車エビもだめ、というのが笑わせる。しかし電車(車輪が見えないのでOKだと)の
中で出会った自分と瓜二つの男に襲われ、逆に相手を殺して、被害者の行こうとしていた精神
科医を訪ねると・・・。これは意外性を狙いすぎてムリがあります。
巻末の表題作は力作ですが、本格というより、サイコ物といった方が良いか。上手いのですが、
何でもアリの精神医学の世界ですからねえ・・・。
少なくとも前半の2作は「本格」風の作品として評価できると思います。
51 :
名無しのオプ:2007/12/23(日) 17:33:24 ID:QErxXJ0i
>>49 このシリーズって序盤が倒叙物で後半が本格物になる作品がいくつかあるけど
「完全の限界」は、その中では一番面白い作品だった。
52 :
前スレの>>3:2008/01/03(木) 16:08:26 ID:rdeezPNC
辻真先「迷犬ルパンの名推理」(光文社文庫)★★★★
1983年のルパンシリーズ第1弾の長編。
正義感あふれるがオッチョコチョイの刑事・朝日正義と、下宿先の娘で売れないアイドルの
ランは、ひょんなことから野良犬を飼うことになり、ルパンと名づける。或る日、ランの
所属する芸能プロの会長・社長一族に招かれて伊豆の別荘に向かった朝日とランたちだった
が、会長の老女傑が断崖から海に転落し行方不明になってしまう。朝日刑事は取りあえず
別荘に向かうが、その別荘は火事、しかも焼け跡から発見されたのは、海に流されたはずの
会長の黒焦げの死体だった。更に、会長一族を巡って、密室殺人、毒殺と連続殺人が勃発
する・・・。
むろん「三毛猫ホームズ」の亜流でしかないのですが、だからと言って読まないのは損。
亜流であることに目をつぶれば、本作は端正な作りの本格ミステリの佳作です。
転落事件と黒焦げ事件の真相と、その伏線は見事な出来。第二の事件の密室トリックも、
トリック自体はともかく、その動機などは上手いものだし、毒殺も小技ながら渋い仕上がり
です。冒頭に出てくるスタジオの幽霊騒ぎも終盤で効いています。
本家・赤川の第1弾「三毛猫ホームズの推理」に匹敵する佳作でしょう。
53 :
前スレの>>3:2008/01/03(木) 16:11:30 ID:rdeezPNC
島田一男「捜査日誌」(徳間文庫)★★★☆
1948〜1968年頃までに断続的に発表された、警視庁・庄司部長刑事を主人公とする人情派の
刑事物の短編集ですが、「本格」として見逃せない作品が幾つか交じっています。
中編「金色の花粉」は昭和20年代と思しき浅草のストリップ小屋が舞台。スターの踊り子と
他の踊り子をめぐる確執の中で起きた連続殺人。古き良き時代の、蓮っ葉だけど人情味溢れる
ストリッパーなど、もう島田一男のベタベタな世界ですが、真犯人の意外性は十分。序盤の
庄司刑事と犯人の何気ない会話に含まれる伏線が実に渋い。
「青い死化粧」は、病院ならではの死体移動の大胆なトリックが印象的。
「密室の女王」は密室の研究室で起きた大学教授殺し。庄司刑事は脇役で、検事が探偵役です
が、この検事がファイロ・ヴァンスばりで、凶器のブロンズ像のモデルであるエカテリナ女王
の薀蓄に始まり、教授の遺したダイイング・メッセージ「818」からリンカーン暗殺に及ぶなど、
島田調の、どこか安っぽいペダントリーが炸裂。その割に、密室トリックもダイイング・メッ
セージも大したことないのが却ってオカしい。
「螢光灯」は巡査が襲撃され拳銃を奪われるが、犯人は途中で拳銃を捨ててしまい、拾った巡査
が空に向かって威嚇射撃したところ、なぜか犯人は射殺されてしまう。同じ頃、近所では強盗
事件が起きていたのだが・・・。威嚇射撃と指紋に関する真相がなかなかトリッキーな佳作。
他に、「泥靴の死神」も犯人は意外だけどやや下世話な話、「宿敵」「自殺要員」は駄作、「自殺
の部屋」も密室トリックを扱っているが面白くない。「尾灯」は刑事が麻薬組織に潜入するが
凡作。「南国の夢」では庄司刑事は退職して私立探偵を開業、タイの田舎で記憶喪失になり帰国
した男の話。これまた島田一男調の味な結末。
54 :
前スレの>>3:2008/01/03(木) 16:13:44 ID:rdeezPNC
赤川次郎「三毛猫ホームズのクリスマス」(角川文庫)★★☆
1984年のシリーズ第?弾の短編集。
「三毛猫ホームズの飛び石連休」は野外演劇で起きた殺人。凡作。
「〜の子守歌」は、家庭を顧みない男が自宅に帰ると、生まれたばかりの赤ん坊がいない、
妻に尋ねると、家には赤ん坊など最初からいないと言う・・・。序盤は快調だが、真相は肩
透かし。
「〜の離婚相談」がベスト。片山刑事がデパートの買い物で知り合った女性。年の離れた夫
と不仲で夫の実家の義母に相談に行っている最中に夫が殺される・・・。登場人物の或る関係が
引っくり返る真相には唖然。冒頭のデパートの小事件も巧みな伏線となっている。
「〜の通勤地獄」は父親が急死して社長の地位を継いだ女子高生。その地位を狙う者たちに命を
狙われているらしいのだが・・・。まずまずの出来。
巻末の表題作は、女子高の寮の警備員を勤める友人が結婚するので、その留守を頼まれた片山
刑事が寮を訪ねたところ・・・。大した出来ではないが、赤川次郎のシニカルというか、突き
放した視線が印象に残る。
55 :
前スレの>>3:2008/01/03(木) 16:17:08 ID:rdeezPNC
伴野朗「陽はメコンに沈む」(講談社文庫)★★★
1977年の、乱歩賞受賞作「五十万年の死角」に続く第2長編。
1970年のラオス・ビエンチャン。新聞社特派員の結城は、1961年にラオスで行方不明となった
元日本陸軍参謀で参議院議員の辻政信の通訳に当たった人物との会見記事をスクープする。
だが米CIAが暗躍を開始、辻からの手紙を持ってラオス入りした元部下の男が殺され、通訳
だった人物も殺される。結城は商社の現地駐在員・三越や上田らの助けを得て事件の調査に乗り
出す。どうやら辻の持っていたシガレットケースに全ての秘密が隠されているらしい。CIAが
ひた隠しにする秘密とは何なのか、そして辻は今も生きているのか・・・。
本作はもちろん冒険小説ですが、後の「三十三時間」や「Kファイル38」ほどではないにせよ、
「本格」風の謎解きの要素も盛り込まれています。真相のズラし方などに、三好徹「風シリーズ」
の某作の影響もあり、ダイイング・メッセージなどの趣向もあります。
なお、或る重要人物の正体についてはヒントがあからさま過ぎて、容易に真相に達してしまう
のが残念。
・・・では今年もどうぞ宜しく。
56 :
前スレの>>3:2008/01/06(日) 14:54:42 ID:vPJPlCFu
またも連投スマソ
中津文彦「縄文土偶殺人事件」(双葉文庫)★★★☆
1986年の長編。
大学卒業後、郷里の東北地方の田舎町に戻ってきた「俺」こと山本は、元同級生らと趣味の
ミニコミ紙を創刊する。夏休みの盆踊りの夜、ストーンサークルの遺跡の近くで女子高生が
殺された。現場には縄文時代の遮光式土偶の破片が。「俺」は新聞社支局の先輩や仲間らと
事件を追うが、被害者の秘密を知っていた友人の女子高生もまた、寺の境内で殺されてしま
う。だが現場に残された犯人の足跡は、行きの分だけで帰りの足跡がないという不可解な
状況だった・・・。
のどかな地方都市に生きる若者たちの描写は上手いのですが、ちょっと時代を間違えた「青い
山脈」みたいな世界。それはともかく、第一、第二の殺人とも、それなりに趣向を凝らして
おり、足跡トリックは先ず先ずの出来ばえ。惜しむらくは全てが地味に、こじんまりと纏まっ
てしまい、これと言った華々しさに欠ける点。でも小味ながらも構成はシッカリしており、
まあまあの収穫でした。
梓林太郎「黒部峡谷殺人事件」(光文社文庫)★★
1987年、割と初期のノンシリーズ長編。
銀行員の相原は不倫相手の知加子に自殺されてしまい、それをネタに松戸と名乗る謎の男から
脅迫を受ける。相手の要求は、北アルプスの五竜岳に登れ、という不可解なものだった。相原
が要求どおり登ると、今度は黒部峡谷の別の山に登れという。再び登った相原は山麓で女性の
死体を発見。更に男の要求は続き、山に登るたびに女性の死体を発見するハメに。脅迫者の目的
は何なのか、そしてその正体は、また女性連続殺人犯は果たして脅迫者なのか・・・。
序盤から中盤の不可解な展開と謎だらけの事件に惹かれたのですが、真相はアッケないもの。
レッドヘリングなどもあるのですが、終盤で上手く収まりません。しかも殺人犯の動機に至って
は、「そりゃないだろ」と脱力の真相。序盤で期待を抱かせただけにガッカリでした。
57 :
前スレの>>3:2008/01/06(日) 14:57:08 ID:vPJPlCFu
「文芸推理小説選集2−梅崎春生、椎名麟三、武田泰淳集」(文芸評論社)★★
1957年刊。戦後文学上著名な純文学作家らの珍しいミステリを収録。恐らく1950年代前半
までの作品ばかりで、スレの趣旨とは異なりますがご勘弁を。
先ずは梅崎春生。「十一郎会事件」が面白い。十一郎という名の画家の個展に同名の十一郎
と名乗る男が現れ、やはり十一郎という名の富豪が主宰する「十一郎会」を紹介される。
画家が行ってみると・・・。「シャーロック・ホームズのアレかよ」と思ったら、微妙にズラ
したなかなかのオチ。思いつきと言ってしまえばそれまでですが。
「カタツムリ」は冴えない初老のサラリーマンの秘密。特に大したことなし。「尾行者」は興信
所員が夫の素行を妻に報告する話とオチ。これもダメ。
次いで椎名麟三。「罪なき罪」がベスト。弟を育てるため自分を犠牲にして働いてきた姉。弟は
就職するが、自分は病気がちになって弟に疎まれ、死んでしまおうかと鬱になる。或る日、弟が
ジュースを買ってくる。毒殺を企んでいるのか・・・。作者の意図はクリスチャンの姉の心理を描く
ことにあったと思いますが、図らずも小技ながら毒殺トリックと意外な犯人の「本格」風作品に。
毒薬に関する化学的な説明は疑問ですが、姉が飼い犬に話しかける辺りの伏線の巧みさは見事。
その他、「待合室」は店員が店の主人に渋川まで行って二百万円を受け取って来てくれと頼まれる
が、生命保険を狙って殺されるのでは、と疑う話、「被害者」はフラれてヤケになった学生が、昔の
知り合いの女性にもフラれて絶望的になり、その女性を殺そうとする話、いずれも面白くない。
最後は武田泰淳だが、「本格」風作品はなし。「飛瀑の女」は温泉地を舞台にした殺人事件の顛末、
「才子佳人」は中国の古典に取材した話で、次の「由井正雪の最期」とともに芥川龍之介風の短編
だが、ミステリアスではあっても、今日の基準では「ミステリ」とは言いにくい。「銀色の客人」
はデザイナーに航空機のチケットを渡そうとした女性がすれ違いのまま羽田からの大阪便に乗り
込むハメになったが実は・・・、という話、「ゴーストップ」はタクシーに乗っては無茶な暴走運転
を強制する爺さんの話。これは「奇妙な味」としては面白いけど、ただそれだけ。
58 :
名無しのオプ:2008/01/07(月) 11:43:32 ID:SF++QhbK
ところで、「本格ミステリ・フラッシュバック」の単行本はどうなったんだろうな
ま た 創 元 か
59 :
名無しのオプ:2008/01/07(月) 13:02:02 ID:m0PX/LBf
そういえば、また予告から消えたな
さすが創元wwwwwww
60 :
名無しのオプ:2008/01/07(月) 13:10:10 ID:vsg0FFFi
そういえば最終回の時に単行本化するとかあったな。
まだしてないのか。
61 :
名無しのオプ:2008/01/07(月) 23:28:37 ID:tyY66lFf
秋には出るんじゃない?とほほ。
62 :
名無しのオプ:2008/01/08(火) 10:24:06 ID:nTXHad0x
創元も経営が慢性的に苦しいから中々予告通りに行かないんじゃないか
おまいらの中にヒルズ族はいませんか?
ドバっと100億ぐらい投資してやれ
但し経営に参加しようとはするなよw
63 :
名無しのオプ:2008/01/09(水) 09:27:13 ID:v3VzgYBR
百億もいらん
一億あれば劇的に改善されると思う
64 :
名無しのオプ:2008/01/09(水) 22:25:33 ID:0osiflYv
創元に投資する人なんておらんだろw
65 :
名無しのオプ:2008/01/12(土) 00:16:55 ID:ubUc5lHG
百億あったら春陽堂も何とかして欲しい
取りあえず目録を整理してくれ
66 :
前スレの>>3:2008/01/13(日) 15:12:32 ID:99gevLEA
平岩弓枝「華やかな魔獣」(集英社文庫)(採点不能)
1966〜67年に「プレイボーイ」誌上に連載された長編。
国会議員の百瀬の一族を狙う「魔獣」と名乗る謎の男。原因は遠く戦争末期の特攻隊時代に
あるらしいのだが、「魔獣」の仇名を持っていた根上という男は特攻で戦死したはずだった。
手始めに百瀬の妻の実家の工場の守衛が殺され、次いで一人娘の蛍子が誘拐される。更に
父親の英彦が交通事故で再起不能の重傷を負う。根上の末妹・早苗と恋人の勇次が事件を
追うのだが・・・。
・・・・乱歩の通俗長編を思わせるメチャクチャなご都合主義のお話でした。東京から京都、
鹿児島、長崎へと舞台が転々としても、主要人物は何故か勢揃いしてくれるし、意図不明の
小事件は未解決のままだし、或る登場人物が知らないはずのことを知っているのは、「後ほど
警察から話を聞いていた」の一言で済ませるし、そして「魔獣」は富豪一族に挑戦状やら犯罪
予告状を送りつけるし・・・。
何と言ってもスゴいのは、ラスト、主人公たちの結婚披露宴での大時代な「犯人はお前だっ!」
の場面。お約束どおりヒロインはヤケクソになった真犯人の人質になっちゃいますw
しかし、社会派全盛だった1960年代に、こんな荒唐無稽で支離滅裂な探偵小説を書いたことに、
別の意味で尊敬します。
67 :
前スレの>>3:2008/01/13(日) 15:17:22 ID:99gevLEA
アンソロジー「前代未聞の推理小説集」(双葉文庫)★★☆
「天才バカボン、芥川賞作家、元文化庁長官・・・」の謳い文句にあるとおり、赤塚不二夫の
珍しいミステリから、三浦朱門、宮原昭夫、白石一郎、虫明亜呂無などなど、ちょっと
珍しい面々による作品集。1979年1〜12月に「小説推理」誌上で連載されたもの。
野呂邦暢「ある殺人」○。意外と楽しめた。不眠と悪夢を訴える男、だがその内容がやがて、
診察している医師の過去の犯罪に繋がってくる・・・。なかなかのオチ。
宮原昭夫「若葉照る」◎。これがベストかな。厚かましいオバサン三人組が、近所で起きた
密室状況の殺人事件を推理する。ヌケヌケと言うか、非常にユニークでブラックユーモア風
のトリックが新鮮。
白石一郎「地蔵谷」○。捕物帳だが、或るトリックを絡めた死体移動&アリバイ工作を扱っ
ており、この中では収穫の一編。
吉田知子「角の家」○。「本格」ではないが、他愛ない日常の小事件が徐々に崩れてゆき、
微妙に歪んだ雰囲気の中、予想もしなかったラストへ。何か、非常に不安な、というか
不気味な気分になりました。「奇妙な味」ではあるけど、ちょっと他の作例が思い浮かばな
いほどユニーク。初めて読んだけど、どういう作家なのでしょうか。
虫明亜呂無「奇想曲」△。一種のアリバイ物だが、ミステリとしては弱い。
羽仁五郎「その後会えなかった男」×。どこがミステリなのか。アホじゃないか、この爺さん
(どういうヒトかは少しは知っていますけど)。
古川薫「古墳殺人事件」△。教授の不気味なキャラクターは上手く描けているけど、ミステリ
としての趣向に乏しい。
赤塚不二夫「ある吸血鬼の犯罪」△。期待したのですが、ブラックユーモアとしての切れ味
鋭い部分もあるけど、面白くもオカシくもない部分もあり微妙。
川村晃「継母の秘密」×。全く面白くない。三浦朱門「逃げた女房」△。家出した妻が残して
いった手掛かりから、妻の潜伏先を推理するものだが面白くない。夏堀正元「殺人協定」△。
ヒロインの心理の動きは上手いけど、ミステリとしては取るところ無し。
68 :
前スレの>>3:2008/01/13(日) 15:32:49 ID:99gevLEA
3連投スマソカッタ
津村秀介「新横浜発12時9分の死者」(講談社文庫)★★★☆
1987年の浦上紳介物の長編。
大富豪の娘で米国在住の女性が日本に帰国中に失踪。実家の遺産を巡る兄弟間の争いに
巻き込まれたのか。伊豆半島で行方を絶ったらしき女性を追って浦上が調査に乗り出す。
やがて女性には米国に莫大な資産があることが判明、夫にも疑惑が持ち上がる。死体が
見つからないまま浦上の調査は続く。しかし殺人であったとしても、夫には鉄壁のアリ
バイがあった・・・。
アリバイ工作そのものは大したことはないのですが、序盤に堂々とヒントが提示されて
いることに感心しました。これをどう思うかが作品の評価の全てでしょう。俺は面白いと
思いましたが、ただ、コレ抜きでも真相を見抜かれてしまう懸念があり、そこら辺に工夫
の余地があるように思いました。
辻真先「三陸鉄道 死神が宿る」(徳間文庫)★★★
1984年の慎。真由子シリーズの長編。
廃線となった会津・日中線の廃駅で発見された死体は、男性だったはずなのに、警察が
来てみると、何故か女性の死体になっていた。慎と真由子は、知り合いになった鉄道マ
ニアの少年と、彼の幼馴染の新人アイドル畑野田道子が事件に絡んでいることを突き止
める。だが少年は上京中にホテルの密室で殺されてしまう・・・。
第一の事件の謎や、写真に込められていた真相などは今一つでしたが、密室殺人はトリッ
クそのものはともかく、或る人物の行動の理由が上手いと思った。確かに伏線はちゃんと
明示されており、なかなかの出来栄え。全体としては佳作とまでは行きませんでしたが・・・。
69 :
名無しのオプ:2008/01/13(日) 16:04:15 ID:t2tuyY2b
宮原昭夫の「若葉照る」は名作ですな
光文社文庫のアンソロジーで読んでびっくりした
たしか、市原悦子主演でドラマ化もされてたはず
70 :
名無しのオプ:2008/01/13(日) 16:12:34 ID:8j+s5IYo
「華やかな魔獣」読みたいわw
71 :
名無しのオプ:2008/01/13(日) 20:15:48 ID:tQSIFjf1
全然ジャンル違うけど海外非本格の分野でこういう人が出てこないかな
新刊紹介スレの1は本当に紹介するだけだし新刊だけだし
72 :
名無しのオプ:2008/01/13(日) 20:51:28 ID:eMfN49S1
創元・早川・原書房あたりでこのスレを書籍化しようという編集者はおらんのか
73 :
前スレの>>3:2008/01/20(日) 14:09:59 ID:MnmWdvJG
浅川純「水戸・日立ビジネス特急誘拐事件」(講談社文庫)★★★
1990年の長編。
機械メーカーの部長が得意先のある日立市への出張の途中、常磐線の特急電車から
忽然と姿を消した。別の車両に乗っていた部下が探し回るが、乗り過ごしたのでも
なく、途中駅で降りた形跡も全く無く、車掌たちも不審な出来事は無かったと明言
した。一体、走行中の車両からどうやって姿を消したのか。スキャンダルを恐れる
会社は、警察に届ける前に総務部のグータラ社員・海老寺に「捜査」を命じた・・・。
列車からの消失トリックは、はっきり言って肩透かしですが、それに絡んだ伏線は
意外なほど丁寧に張られており(一部の伏線はミエミエですけど)、その点に
ついては感心しました。
あと真犯人の設定も上手く、その動機についても中盤までにさり気なく触れられて
いるので、まあ合格でしょう。
斎藤栄「四国周遊殺人事件」(徳間文庫)★★★
1972年のノンシリーズ長編。
横浜港で、バナナを燻蒸している船内から発見された他殺体。殺害に使われた電気
コードの指紋から、被害者の同僚で前科のある荷役会社の社員・由利が疑われるが、
彼は四国を新婚旅行中だったというアリバイがあった。アリバイを証明してくれる
第三者を求めて、再び四国を訪れる由利だったが、横浜では、もう一人の容疑者で
ある、失踪した男の死体が発見されていた・・・。
なかなか奇抜なトリックに真犯人の意外性、更には意味深長なプロローグの真相な
ど、色々な趣向を盛り込んだ意欲作ですが、いかんせん小説の構成がマズい。登場
人物の説明もおろそかな部分もあり、一体、主役とその人物はどう絡んでいるのか
分かりにくいところもありました。
でもまあ、割と初期の作品ということもあって、試行錯誤の段階だったのでしょう
が、様々なアイディアを試そうとした意欲だけは買えます。
74 :
前スレの>>3:2008/01/20(日) 14:18:23 ID:MnmWdvJG
陳舜臣「他人の鍵」(文春文庫)★★★
1969年の長編。こんな作品があるとは知りませんでした。久々に読む陳作品。
昭和21年の神戸。ロシア人との混血の娘・織雅は愛人の小谷を殺そうと邸宅に忍び込む
が、一足先に小谷は何者かに殺されていた。一方、彼女が戦前から住んでいる、外国人
の集まるアパート、通称「外人長屋」では、管理人の息子の隆夫が復員してきたのを祝っ
て、住人の中国人、トルコ人、ポルトガル人らの幼馴染らが歓迎会を計画していた。だが
彼らの友情と青春にも終わりが近づきつつあった・・・。
はっきり言って、本格ミステリとしての趣向は、意外な犯人とその動機の設定を除いて
は殆どありません。お粗末なアリバイ工作とその破綻についても、言及するレベルでなく、
謎解きの味も希薄。
しかし本作の価値はそんなところにはなく、陳舜臣以外には絶対に書けない、神戸を舞台
にした滋味に溢れた話を楽しむべきでしょう。魅力溢れる「外人長屋」の面々が敗戦直後
の日本で何を考え、更に日本以上に激動の中にある各々の祖国との絡みで、今後どうなっ
てゆくのか、彼らの決別が決定的となるラストなど、ジックリと味わうことが出来ました。
75 :
前スレの>>3:2008/01/20(日) 14:21:58 ID:MnmWdvJG
3連投スマソカッタ
菊村到「松江城天守閣殺人」(徳間文庫)★
1962年の長編「これで勝負する」の改題版。
山陰地方を旅行中に行方を絶った電機店主が、松江城の天守閣で死体となって発見された。
同じ日、松江のバーに勤めるバーテンの由木も天守閣を訪ねていたが、何者かに麻酔薬を
嗅がされ、現場に倒れていたことから容疑者の一人にされる。被害者の娘は新聞記者ととも
に事件を追っていたが、東京に出てきた由木と出会う・・・。
ちゃんとした謎解きがあるのかな、とイヤな予感がしたのですが、その通りでしたorz
そもそも、重要人物に出会うのが偶然ならば、事件の真相に到達するのも偶然、後から
ドンドン、読者の知らない事実を出してきて、「真相はこうでした」というのは卑怯で
しょう。
おまけに殺人事件が起きているのに、警察の捜査もロクに描写されないし、一番問題なのは、
バーテンの由木が麻酔薬で眠らされた理由が・・・・・・・・・・・・・・こと。最後まで読んで、「アレ?」
と思って読み返して、目が点になりましたよ。「多分、アレだろうな」と推察は出来るけど、
これはヒドい。更に、真犯人のアリバイ工作のお粗末なこと。戦前の通俗探偵小説でも扱わ
ないトリック。極めつけの駄作。
76 :
名無しのオプ:2008/01/21(月) 03:15:13 ID:Bu9Dvgbm
菊村なんて今はほとんど読まれてない感じ。
当時結構な隆盛を誇ったのは何だったんだろうか。
どこぞに傑作が埋もれているのだろうか。
77 :
名無しのオプ:2008/01/23(水) 13:00:45 ID:MiTVFpNs
ここまでボロクソに言われると逆に読みたくなってくるなw>菊村
まぁ読まないけど
78 :
名無しのオプ:2008/01/23(水) 16:09:46 ID:TvX/LLmx
いわゆるキオスク本・出張の友みたいな作家だったのかねえ。
乱歩に勧められて推理小説に手をつけたらしいけど、罪作りな。
79 :
名無しのオプ:2008/01/23(水) 23:10:09 ID:AWJLIkkq
乱歩にそそのかされてミステリーを書いた人の中で
成功したのって戸板康二の他にいる?
80 :
名無しのオプ:2008/01/24(木) 18:53:49 ID:rjgS4wcU
A男 「最近、1978年から87年の『このミス』を入手したんだ」
B子 「えっ?そんなに昔から刊行されてたの、知らなかった」
A男 「当時はベスト3と次点のみの発表だけどね、国内編はこんなラインナップで・・・」
1987年 第1位 「猛き箱舟」 船戸与一
第2位 「絆」 小杉健治
第3位 「妖盗S79号」 泡坂妻夫
次点 「十角館の殺人」 綾辻行人
1986年 第1位 「百舌の叫ぶ夜」 逢坂剛
第2位 「虎口からの脱出」 景山民夫
第3位 「原島弁護士の愛と悲しみ」 小杉健治
次点 「北斎殺人事件」 高橋克彦
1985年 第1位 「背いて故郷」 志水辰夫
第2位 「総門谷」 高橋克彦
第3位 「夏、19歳の肖像」 島田荘司
次点 「夏からの長い旅」 大沢在昌
B子 「なんか、本格ミステリ少ない」
A男 「80年代は『冒険小説の時代』といわれて、ハードボイルド・冒険サスペンスものが
全盛だったからね」
B子 「そうかなあ、西村京太郎や山村美紗がベストセラーだったじゃない」
A男 「かれらは『このミス』とリーグが違うよ」
81 :
名無しのオプ:2008/01/24(木) 21:35:53 ID:rjgS4wcU
B子 「80年代前半の『このミス』はどうなの?」
A男 「やはり冒険サスペンス系がトップを独占だけど、本格もちらほらと・・」
1984年 第1位 「山猫の夏」 船戸与一
第2位 「どんなに上手に隠れても」 岡嶋二人
第3位 「奥鬼怒密室村の惨劇」 梶龍雄
次点 「笑ってジグソー、殺してパズル」 平石貴樹
1983年 第1位 「裂けて海峡」 志水辰夫
第2位 「夜よ鼠たちのために」 連城三紀彦
第3位 「檻」 北方謙三
次点 「あした天気にしておくれ」 岡嶋二人
1982年 第1位 「逃れの街」 北方謙三
第2位 「開幕ベルは華やかに」 有吉佐和子
第3位 「斜め屋敷の犯罪」 島田荘司
次点 「散歩する死者」 中町信
1981年 第1位 「飢えて狼」 志水辰夫
第2位 「コンピュータの身代金」 三好徹
第3位 「遠くに目ありて」 天藤真
次点 「占星術殺人事件」 島田荘司
82 :
名無しのオプ:2008/01/24(木) 21:55:05 ID:rjgS4wcU
B子 「船戸与一と志水辰夫が交互にトップ獲ってる感じね」
A男 「拡大版の『このミス』になっても船戸が88年『伝説なき地』、92年
『砂のクロニクル』で1位に、シミタツも91年に『行きずりの街』で
トップになってる」
B子 「本格はやはり岡嶋と島荘か」
A男 「梶龍雄のこの作品は去年出た有栖川の『女王国の城』を想起する」
B子 「えっ、どーゆうこと?」
A男 「読めば判るよ」
83 :
名無しのオプ:2008/01/25(金) 13:21:25 ID:zSsIhZE4
『女王国』を想起させるのは、『清里山荘』だよ。
つーか、何を企図してやってんの??
84 :
名無しのオプ:2008/01/25(金) 13:50:20 ID:XplfH4hC
「清里高原殺人別荘」な
つうか「女王国の城」未読だからネタバレを食らった気分だ
85 :
名無しのオプ:2008/01/25(金) 13:54:00 ID:RYJbGD+1
86 :
名無しのオプ:2008/01/25(金) 18:54:26 ID:LiDo2Dco
A男 「80年以前の『このミス』だと冒険小説系は出てこない。本格中心だ」
1980年 第1位 「戻り川心中」 連城三紀彦
第2位 「グリーン車の子供」 戸板康二
第3位 「紳士同盟」 小林信彦
次点 「猿丸幻視行」 井沢元彦
B子 「1位は花葬シリーズね」
A男 「いや、この短編集は花葬シリーズの一部とその他の初期作品集。幻影城の掲載を毎月瞠目して
読んでた俺には、そこが不満。今ではハルキ文庫で花葬シリーズの完全版が出てるみたいだけど」
B子 「2位も短編集ね、中村雅楽シリーズは去年創元から文庫で全集がでた」
A男 「協会賞を獲った作品集だけど初期作品と比べて本格度は薄い。それが日常の謎ものの先駆といわ
れてる。まあ歌舞伎界で毎回殺人事件が起きたら不自然だけど」
87 :
名無しのオプ:2008/01/25(金) 20:35:34 ID:LiDo2Dco
B子 「さっきから文句ばかり言ってるわね、いつかのイチャモン太郎みたいに叩かれるわよ。
さっそくチラシの裏とか言われてるし。それと『人さらいの岡嶋』の後につづけて梶とか
有栖川の作品に言及するのも厳禁よ」
A男 「それじゃ3位の『紳士同盟』、これはコンゲーム小説の大傑作」
B子 「もう極端ね、大傑作は大袈裟でしょう」
A男 「もともとこの作家はオヨヨ大統領シリーズの『密使』と『晩餐』で本格マニアから絶大な
支持があったからね、『地獄の読書録』も必読のミステリ本ガイドだよ」
88 :
名無しのオプ:2008/01/26(土) 00:33:15 ID:uVLb42yf
>81
1982年に、「焦茶色のパステル」が次点までに入らないのかよ!
89 :
名無しのオプ:2008/01/26(土) 18:52:27 ID:v7Yjps+V
B子 「じゃあ次は79年の『このミス』ベスト3ね。ここまで乱歩賞作品ってほとんどランクインして
ないわね」
A男 「もともと『このミス』は文春のベストテンに対するアンチテーゼで刊行されたからね。
当時の文春は、ほぼその年の乱歩賞が1位になっていたからね。このミス投票者の先生方も
こんなミステリもあるよという啓蒙精神で作品を選んでたと思うよ」
1979年 第1位 「ナポレオン狂」 阿刀田高
第2位 「バイバイ、エンジェル」 笠井潔
第3位 「龍神池の小さな死体」 梶龍雄
次点 「魔海風雲録」 都筑道夫
B子 「この年はちょっと小粒な感じがする。1位はホラー短編集?」
A男 「ホラーというよりブラック、奇妙な味かなあ。最近の『このミス』でも『独白するユニバーサルなんとか』
が1位をとっただろう。歴史は繰り返す、啓蒙精神だよ」
90 :
名無しのオプ:2008/01/26(土) 20:40:08 ID:v7Yjps+V
B子 「2位と3位はバリバリの本格ね」
A男 「2位は矢吹駆シリーズの第1作、『龍神池』は梶の初期作品のなかで一番本格度が高いと思う。
それまでの作品は青春ミステリの色合いが強いけど、これは本格一直線」
B子 「『魔海風雲録』ってもっと昔の作品じゃなかった?都筑の最初期作だと思ったけど」
A男 「この年に中公文庫から出てる。改稿とかあって対象になったのかなあ、よくわからない」
B子 「いいかげんねえ。さて、次はいよいよ78年、『このミス』創刊号のベスト3だけど、
これはすごいわね、オールタイムベスト級の作品がズラリとゆう感じ・・・」
91 :
名無しのオプ:2008/01/27(日) 03:05:43 ID:DycLY30i
こいつは極楽のダニと名付けよう
92 :
名無しのオプ:2008/01/27(日) 08:27:35 ID:mWv6ezKK
面白いんで続けてくれ
93 :
名無しのオプ:2008/01/27(日) 11:02:17 ID:q6V6qAnC
B子 「ねえねえ、別冊宝島『このミステリがすごい!20年史』って本が来月7日発売
だって出てるわよ」
A男 「ああ、30年史の間違いだけどね、そんなことより『このミス』78年版のベスト3
はこういう感じだけど・・・」
1978年 第1位 「大誘拐」 天藤真
第2位 「亜愛一郎の狼狽」 泡坂妻夫
第3位 「幽霊列車」 赤川次郎
同第3位 「海を見ないで陸を見よう」 梶龍雄
次点 「富豪刑事」 筒井康隆
B子 「この『このミス』78年版創刊号がすごい!」
A男 「この年は豊作だね、他に『湖底のまつり』、三毛猫ホームズもの第1作、西村の
トラベルミステリ第1作『寝台特急』、竹本健治の処女作も出てる」
B子 「なにか原因でもあるのかなあ」
A男 「この2年ほど前に探偵小説専門誌『幻影城』が発刊され、新人発掘や本格派ベテラン
の復活とかがあって、本格ミステリがちょっと盛り上がってきてたからね」
94 :
名無しのオプ:2008/01/27(日) 11:10:31 ID:TcNDsZK8
なにをいまさら……って内容だな
チラシの裏に好きなだけ書いてろ
95 :
名無しのオプ:2008/01/27(日) 11:11:06 ID:JsnC3SiM
ぼくらの時代は入らないかー。乱歩賞だからか。
96 :
名無しのオプ:2008/01/27(日) 11:31:39 ID:q6V6qAnC
B子 「80年代末から90年代の新本格ムーヴメントみたいな感じ?」
A男 「それほどでもないよ。幻影城は新本格というより、探偵小説復古主義というべき
かなあ。幻影城関係作家は、連城三紀彦、泡坂妻夫、竹本健治、栗本薫ほか天藤真
も『遠くに目ありて』を連載してたり『炎の背景』を出したりしてる」
B子 「栗本は幻影城で伊集院大介シリーズの第1作を連載中に『ぼくらの時代』で乱歩賞を
とったのよね。あまりに作風が違うんでビックリした記憶があるわ」
A男 「えっ?きみ、いったい年いくつなんだよ」
97 :
前スレの>>3:2008/01/27(日) 13:54:22 ID:9DHtcgef
水上勉「巣の絵」(角川文庫)★★★★
「霧と影」に続く1960年のミステリ長編第2作。
東京・大塚の下町でひっそりと暮らす、幻燈画家の新田。孤独な彼に心を通わせる、貸し
小鳥屋で働く足の悪い娘。或る日彼女が防空壕跡のアトリエを訪ねると、新田は毒殺され
ていた。誰からも好かれていた新田を誰が何のために殺したのか。友人で童話雑誌編集員
の波元は、警視庁の衣斐警部補とともに事件の謎を追ううち、一人の容疑者が浮かぶが、
その男もまた殺されてしまう・・・。
こないだの菊村到の駄作で凹んでいたところ、これは意外な収穫でした。事件の真相が唐突
ではないか、と最初は思ったのですが、よく考えてみると、現場にあった幻燈画、毒物の
種類、或る人物の職業、或る件における東京の地理関係などなど、全ては真相の一点を指し
ており、これだけ伏線を十分に張り巡らしていたのに、全く見抜けませんでした、お見事。
ただ真犯人の設定には不満があり、設定と犯人特定までの手順をもう一工夫して、更にトリッ
キーなヒネりを加えれば、十分、本格ミステリの傑作となり得たと思います。
水上勉もなかなかやるじゃないか。
また、純粋に小説としても楽しめました。「幻燈画」「貸し小鳥屋」などの珍しくもどこか侘し
い商売、うらぶれた哀愁に満ちた雰囲気、余りにも哀しい結末など、昭和30年代の東京の、
清く貧しく美しい世界を満喫できます。なお解説はネタバレしているので先に読まないこと。
98 :
前スレの>>3:2008/01/27(日) 13:57:58 ID:9DHtcgef
森村誠一「黒魔術の女」(光文社文庫)★★★
1974年の長編。怪奇物、とのことですが・・・。
三人組にレイプされた二人の女性。その直後、一人は惨殺され、もう一人の女は行方不明
に。殺した覚えのないレイプ犯たちは、もう一人の女が名乗り出るのではないかと戦々恐々
としていた。
一方、中道鴇子はエリート社員と結婚し、幸福に暮らしていたが、彼女には幼時の奇怪な
記憶があった。黒魔術を信奉する集団に洗礼を受けたのではないか。そして夫のアメリカ
出張中に、夫の友人が彼女の別荘で殺される。現場は密室状態にあり、レイプ事件の被害者
の婚約者が容疑者として浮かぶのだが・・・。
これは怪奇物にしなかった方が良かったと思います。カルト教団の話がメインのプロット
から完全に浮き上がってしまい、単なる飾りに過ぎなくなっています。
一方、別荘の密室トリックは上手く出来ていると思います。簡単に組み立てられる「ユニット
ハウス」の別荘で、「じゃあ、例のアレかよ」と読者を誘導しておいて、まんまと背負い投げを
食らわせます。中盤に唐突に描写される浅間山の噴火の話も、結末で効いています。
動機の異様な点も挙げたいのですが、ネタがネタだけに、少々、痛々しいのがねえ・・・。
99 :
前スレの>>3:2008/01/27(日) 14:03:24 ID:9DHtcgef
赤川次郎「幽霊記念日」(文春文庫)★★
1989〜1992年に発表された短編を収めた「幽霊」シリーズ第7弾。
「幸い住むとポチが鳴く」は夢遊病の癖がある少女が祖父を殺したらしいのだが・・・。凡作。
「白鳥の歌を聞くとき」は老人ホームを慰労する、優しいが売れない演歌歌手の話。これも凡作。
表題作は、一人息子に自殺された女性の大学教授。自殺の原因は息子をフッた女子学生にあるら
しいのだが、その相手が分からない。息子の命日に、果たして事件が・・・。まあまあの出来。
「裏の畑でミケが鳴く」が、まあこの中ではベストか。東京の真ん中で土地を手放さずに畑を耕し
ている男。不動産会社の男が土地を狙っているのだが、その土地から女性の死体が発見され、被害
者はその男の同僚で恋人だと判明するのだが・・・。二転三転した末の意外な犯人と、さり気ない
伏線が先ず先ずの出来。
全体的に、シリーズ初期のパワーは完全に失われており、特に読むほどのものではないです。
辻真先「迷犬ルパンの大活劇」(光文社文庫)★★☆
1983年のルパン・シリーズ第2弾。
捜査でケガをして青森県の温泉で療養中だった朝日刑事、見舞いに来たランのクルマを奪って
東京に舞い戻ったは良いが、クルマのトランクから首なし死体が現れる。被害者は青森のロー
カル私鉄の経営者で、その娘は家出して少女マンガ家になっていたが行方不明に。更に、彼女と
不倫関係にある編集者の妻で同じく少女マンガ家が、遊園地のホラーハウスで惨殺される。だが
死体の状況は、行方不明のマンガ家が描いたマンガとソックリの状況だった・・・。
うーん、確かに真犯人に関する伏線は張られていたし、行方不明のマンガ家の行方に関する伏線
もあったようだし、ランのクルマから死体が現れた理由や、首なし死体だった理由のバカバカしさ
など、決して悪くないのですが、どこか納得ゆかない感じが残っています。それがどこなのか上手
く言えないのですが・・・。
4連投スマソカッタ
佐野洋「死んだ時間」(講談社文庫)★★
1963年の長編。
大学病院の医局員である「私」こと加賀は、愛人の時任杏子がCMタレント殺しの容疑者と
して自首したことを知る。加賀は事件前後の彼女の不審な様子から、彼女が事件当時、熱海
に別の男と旅行していたらしきことを突き止める。明白なアリバイがあるにも関わらず、杏子
は何故、それを黙っているのか。だが加賀が裏づけを取ろうとすると、関係者らはアリバイを
否定するようになる。一体誰が何の目的で先回りして暗躍しているのか、そして杏子の不可解
な態度は・・・。
・・・うーん、昭和30年代には、こんな理由で杏子のような態度をとる人間が本当にいたのでしょ
うか。少なくとも現代では、こんな人間は皆無でしょうね。佐野洋に限らず、昭和30年代以前
のミステリでは笹沢左保の作品などでも、たまにコレに似た動機を見かけますが、今では全く
理解不能で、「動機の意外性を狙う余りにヒネり出したヘンな人物であり、現代を生きる人間が
全く描かれていない」と言えます(現代の視点から過去を批判しても意味ないのですけど)。
そういう意味で、本格ミステリに対する「人間が描かれていない」という批判も、普遍的ではない
のでは、と思いました(本文庫版の解説が大井廣介で、何やらエラそうなこと言って絶賛してた
ので、少々ムキになったかな・・・)。
あと結末の付け方も、当時はシャレていたのでしょうが、今では「自業自得だ、このバカ」レベル
の感想しか出てきませんでした。
101 :
名無しのオプ:2008/01/27(日) 16:23:31 ID:DycLY30i
水上勉は意外!
やっぱ3大元帥は格が違うね
102 :
名無しのオプ:2008/01/27(日) 18:47:59 ID:4RsqcBrD
名スレみたいですね。今後参考にさせていただきます。
文章も明快で知識をひけらかす所もないのが素敵です。
コテは無いのですか? 三大元帥の意味がわからないのでw
103 :
名無しのオプ:2008/01/27(日) 22:40:48 ID:KHiWUyZ4
ほかに2人大元帥がいるという意味じゃなくて、
>>101の前スレ
>>3氏への尊称だがな
104 :
名無しのオプ:2008/01/27(日) 22:57:55 ID:ImT/8uH9
死んだ時間好きなんだけどなー
105 :
名無しのオプ:2008/01/28(月) 01:47:28 ID:8tdacgMV
俺は紹介文で読みたくなったよ
赤羽堯「カラコルムの悲劇」(光文社文庫)★★★★
1981年の、作者の初期長編。
十三世紀のモンゴル帝国。四代皇帝モンケ・ハンが治めるモンゴル平原のカラコルムに、枢密
院長ブルガイの密命を帯びて、敵対するイスラム国に潜入していたスパイ「候人」のミクローシュ
が帰ってきた。だが彼はイスラム側のスパイにもなっており、更に、幼時にヨーロッパの故郷
でモンゴル軍に母親を惨殺され、拉致されてきた過去があり、秘かにコンケ・ハンの命を狙って
いた。カラコルムで金銀細工職人として働く傍らチャンスを窺っていたが、宮殿に飾る噴水の
製作を巡って、高官サンボが密室状態の部屋で殺された。秘かに入国したもう一人のスパイ・
クホの仕業か。更に殺人事件が起こるが、クホは、もっと大物のスパイが潜入しているのだと
いう。果たして殺人犯と大物スパイの正体は・・・。
これは傑作。もちろんスパイ物の歴史ミステリですが、大物スパイと殺人犯の「犯人当て」と密室
トリックの謎解き物として、それなりに楽しめます。正直に言えば、密室トリックも大物スパ
イの正体も、やや期待はずれの真相ではありますが、エキゾチックな雰囲気とストーリーの面白
さがカバーしていると思います。
事件解決後もミクローシュの生涯が描かれているのですが、ラストの、何とも言えない「無常感」は
ミステリとしては横溝「獄門島」や水上「飢餓海峡」のラストなどにも匹敵する出来栄え。厳密に
「本格」の観点からのみ評価すれば高いものではないですが、感動したので高評価としました。
戸板康二「団蔵入水」(講談社)★★★☆
主に昭和40年代に発表された、中村雅楽物以外の作品を収めた短編集で、1980年刊。
「本格」の観点からは、珍しい捕物帳風の時代小説が面白い。
「上総楼の兎」は、品川宿の廓の飾り物を彫った職人一家を巡る事件。W・アイリッシュの
某短編に似た趣向、「まくわうり」「真綿と針」も、江戸の市井の事件を描きながら、シャー
ロック・ホームズ譚を読む味わいで、一応、本格ミステリのツボは押さえています。
また「筆屋の養女」は、綺堂の半七物「筆屋の娘」を下敷きに、アレとは違うトリックで意外
性を出しています。
その他は、小説としては面白いが、「本格」風味は消えています。
表題作および「殺された仁左衛門」「名優退場」の3作は実話に取材した作品。表題作は、歌舞
伎役者を引退早々、四国の旅先で入水自殺した市川団蔵の、自殺に至るまでの経緯を丹念に
追った佳作。「殺された仁左衛門」は、終戦直後、同居人に殺された歌舞伎役者の話。「名優退場」
は吉右衛門と菊五郎の二老優の友情と確執を描いています。
その他「踊り屋台」「男親の親指」ではミステリ臭すら消えて、山本周五郎や藤沢周平の江戸・市井
物に近い味。
「あとがき」で、「半七があるので、捕物帖の形式はとらない」と作者は書いているけど、十分伍して
ゆける腕前で、この謙遜は立派。
結城昌治「罠の中」(集英社文庫)★★★
1961年の長編。ごく初期のユーモア本格物から離れた最初の作品だと思います。
刑務所の出所者が働く印刷所を経営する更正施設・新生会。だが出所者更正の美名のもと、
所長の矢次は従業員の音平、桃介、千代松、亀太郎らを安くこき使い、ピンハネを続けて
いた。或る日、矢次は、かつての戦争時代の部下・森川の借金の申し出を断ったところ、
森川は首吊り自殺を遂げる。間もなく、今度はヤマガミなる正体不明の男から、戦争時代
の矢次の旧悪を暴露するとの脅迫が始まる。実はヤマガミは、施設の従業員の中にいるの
ではないか?また森川も本当に自殺したのか?矢次は警察に内偵を依頼するが、間もなく
彼の息子・啓一が他殺体で発見される・・・。
前述したとおり、深刻なストーリーに徹しており、これと言ったトッリキーな趣向には乏し
いのですが、ラストにはけっこう予想外の真犯人を用意しています(但し、或る伏線に気付
けば一発でバレてしまうかも)。しかし未だ作者は全力を出し切っておらず、中途半端な
印象でした。
津村秀介「寝台特急18時56分の死角」(講談社文庫)★★★
1986年の浦上紳介物の長編。
長崎県・大村で発見された黒焦げ死体。長崎県警の捜査により容疑者が絞られるが、その男
には何と、犯行時刻に浦上紳介と一緒に、東京行きの寝台特急「さくら」に乗っていたという
アリバイが。鉄壁のアリバイを浦上は崩すことが出来るのか・・・。
トリック自体は良かったです。良くある鉄道絡みのアリバイ工作に、或る別のトリックを組み
合わせた点は秀逸。でも伏線の張り方をまるっきり間違えています。これじゃあ読者に「解ける
でしょ」と言わんばかり。惜しいのですが凡作。
中薗英助「無国籍者」(講談社文庫)★★★
1962年の長編。この作家の「本格」風の作品を見つけるのは、ちょっと困難のようで、ここ
では敢えて本作を紹介してみますが・・・。
密入国者収容所に勤める黒島は、「大村」と名乗る、日本人だと主張しながら中国語しか話せ
ない謎の男の面倒を見ていた。彼はいったい誰なのか、その正体を解明すべく、新聞記事に
紹介したところ、三人の男女が訪ねてきた。一人は行方不明になった自分の兄だと主張する
女性、もう一人は、戦争中に諜報活動でラオス・中国国境付近に配置した部下の情報将校だと
主張する元・日本軍将校。そして三人目は、正体は知らないが、自分の中華料理店に引き取り
たいという女性。誰の主張が事実なのか。肝心の「大村」なる男は何も思い出せない。しかし
彼の所持品の一つから、事態は思わぬ方向へと進んでゆく・・・。
著名作「密書」と「密航定期便」の間に挟まれ、知名度は今一つかも知れませんが、「大村」の
正体を巡る、いわゆる「謎解き」興味という点では、本作が一番ではないかと思います。大した
仕掛けではないですが、「物の隠し方」トリックも出て来ますし・・・。
また「密書」や「密航定期便」では、ラストでスパイ物の典型といえる非情な結末が待っていま
すが、本作はスパイ物としては少々異色な終わり方を迎えます。
但し、「日本人とは何か」というテーマが十分に消化できずに終わったようで、その点からも全体
の出来としては前後の2名作に一歩譲ると思いました。
5連投スマソカッタ
陳舜臣「異郷の檻のなか」(中公文庫)★★★
表題作は、サンフランシスコのチャイナタウンの美術館で発見された翡翠の出所を巡る
話。裏面の真相に、華僑の世代間ギャップと、1960年代のヒッピー・ムーブメントを絡
めた点が異色です。「永臨侍郎橋」は、戦争中、中国の旅芸人一座で起こった不可能犯罪
を描いており、中国雑技を活かしたトリックが、J・D・カーの或る短編にも似ていて
興味深いです。
その他「囚人の斧」では来日した孫文の暗殺未遂事件を扱い、「芙蓉の露」では中国の軍人
と結婚した女性の、夫を謀略で失脚させた男への巧妙な復讐が描かれています。
「本格ミステリ」は厳密には「永臨侍郎橋」ぐらいですが、読み応えのある作品が揃っています。
大谷羊太郎「虹色の陥穽」(講談社文庫)★★☆
1971年の長編。
大晦日、大人気の歌謡番組に危うく遅刻しそうになった新人歌手。所属する芸能プロダクション
社長が事情を聞くと、殺人事件の片棒を担いで何者からか脅迫されていると言う。社長は警察の
追及を恐れながらも、謎の脅迫者の正体に迫るが・・・。
作者お得意の芸能界を舞台とし、サスペンスを前面に押し出して展開しつつ、終盤で不可能犯罪
のトリックが大きく出てきます。トリック自体はバカバカしいとも言えますが、これは案外、現実
性がありそう。ラスト、皮肉な結末の付け方に、作者の芸能界に対する愛憎が見える思いでした。
111 :
名無しのオプ:2008/02/11(月) 10:19:42 ID:TYDpNCXC
小泉喜美子「女は帯も謎もとく」(トクマノベルス 1982年)
ミステリマニアを誇る新橋芸者まり勇が探偵役の連作ミステリ。次の5編が収録されている。
@さらば、愛しきゲイシャよ
A小さな白い三角の謎
B握りしめたオレンジの謎
C藤棚のある料理店の謎
D流刑人の島の謎
A以下はクイーンやホックのサム・ホーソーンものを思わせるタイトルですが、本格といえるのはAとBぐらいで、
Aは死体のポケットからでてきた小さな三角の紙切れからアリバイ崩しを行う、Bはダイイング・メッセージもの。
ともにまあまあな出来だが、むしろ奇妙な味系統のCが秀逸。ごひいきの旦那とフランス風田舎料理店に入った芸者まり勇
だが、なぜかなじみの女主人が挨拶に現れない、おどおどする給仕、ひややかな笑みを浮かべるシェフ、おまけに料理の
スープの中からイアリングが出てきた。いったいこの料理店でなにが起こっているのか?
「特別料理」や「ニ壜のソース」ふうのオチと思わせて・・・という作品。なお@は先代まり勇が語る昭和26年朝鮮戦争の
傷病米軍兵士たちとの交情のはなし、Dはリドル・ストーリーに挑戦した作品。
やはりこの作者、本格系は向いていないようです。
112 :
名無しのオプ:2008/02/11(月) 11:04:08 ID:WoQKxyYL
菊村到、島田一男、佐野洋って生涯駄作の連発で
あれでよく出版社から依頼があったもんですよね。
不思議。
113 :
名無しのオプ:2008/02/11(月) 11:15:37 ID:nWiZLP9n
何をもって「生涯駄作の連発」と決め付けてるの?
島田一男は知らんが佐野洋には一定のレベルを
クリアしている作品が多いし、それ以上の作品も幾つかある
菊村到は本格っぽい作品に駄作が多いかもしれないが
ハードボイルドタッチの作品には良いものもある
114 :
名無しのオプ:2008/02/11(月) 11:15:58 ID:s5odDruS
おいおい、島田一男と佐野洋には傑作もあるだろうが
つか、佐野洋を殺すなw
115 :
名無しのオプ:2008/02/11(月) 11:48:26 ID:PxwxzhHz
ただあんな偉そうに言える程なのか?とは思う洋
高木彬光「霧の罠」(光文社文庫)★★★
1968年のグズ茂物の長編。
神戸の領事館に勤める中国人・陳がマンションの一室で殺された。現場には何故か刺傷を
負った男が昏倒していたが、男は記憶喪失で、数年前に東北・盛岡近郊で倒れていたとこ
ろを助かり、所持品から堀田と名乗っていたが過去は何も思い出せなかった。県警は彼を
容疑者として追及するのだが、やがて彼に有利な状況が明らかになってゆく。一方、神戸の
ホテルでも或る男の不可解な失踪事件が起きていた。二つの事件の真相は・・・。
これと言った大きなトリックはありませんが、真犯人の行動と動機の意外性が効いています。
何気ない伏線もあり、細かい矛盾点を突いてゆけば、読者にも真相が分かるようにフェアに
描かれています。
でも、記憶喪失の真相と男の正体については、やや風呂敷を広げすぎでヘンな方向に行って
しまったのが残念。
中津文彦「伊達騒動殺人事件」(講談社文庫)★★★
1984年の長編。
教員の須藤健介が三陸海岸で水死体となって発見された。彼は生前、伊達騒動の謎を調査
していたのだが、史実を覆す資料が手に入る矢先の出来事だった。弟の俊二は、新婚間も
ない兄嫁を助けて、事件の謎を追うのだが・・・。
伊達騒動と言えば、山本周五郎「樅の木は残った」における原田甲斐の再評価でしょうが、
本作ではアレとは違った観点から、伊達騒動の意外な真相と雄大な計画の挫折を描いてい
ます。それはともかく、ミステリとしては、ちょっと意外な真相が、まあまあ上手くいっ
たと思います。伊達騒動に絡む話が続くので、どうしたってアレにばかり目が行くものなあ。
もっとも、誰でも引っ掛かるかどうかは疑問なので、佳作とは言い難い出来ですが。
水上勉「死の流域」(角川文庫)★★☆
1962年の長編。
筑豊の寂れた炭鉱町・志能川。水没で六十名近くが生き埋めになる大事故が発生した夜、
殺人事件が勃発。顔を潰された身元不明の死体は、何故か数十羽のカナリアの入った鳥籠
を抱えていた。事故で廃山が噂され暴動寸前の町で、福岡県警の刑事らは殺人事件を追究
するが・・・。
炭鉱事故と殺人の組み合わせ、被害者の顔が潰されていた理由などは面白いのですが、残念
ながら伏線が不足ぎみ。事故で町が騒然として捜査が困難だった理由は分かるけど、捜査も
ややお粗末。カナリアのネタも、「炭鉱でカナリアだから、アレ絡みかな?」と思ったけど、
それではなくて、一応ミステリ的な趣向はあるけど、面白くなかった。
昭和30年代の斜陽の炭鉱町の描写などは良かったのですが、ミステリとしては謎の構成などに
弱さが目立つ凡作でしょうね。
石沢英太郎「九州殺人行」(光文社文庫)★☆
1982年の長編。
売れない推理作家の古葉は、博多で殺された先輩作家・佐伯の遺志を継いで、ルポ「民謡
探訪」の記事を書き始める。その傍ら、密室状態のホテル室内で殺された佐伯の死の真相を
追及する。佐伯は何者かに脅迫されていたらしく、同行の編集者にも不審な動きがあること
を知るのだが・・・。
密室トリックは、余りにもバカバカし過ぎて、却って意表を突かれました。真相を知った
とたんに犯人が特定されるという代物。「民謡探訪」と殺人事件の動きもリンクしていない。
意地悪く言えば、作者は民謡に関する知識をひけらかすために、ミステリの形式を借りただけ
でしょう。駄作。
118 :
名無しのオプ:2008/02/11(月) 17:50:23 ID:D7461IuB
石沢英太郎さんはホモで有名でしたね。
最後は世を儚んで自殺しちゃいましたけど。
119 :
名無しのオプ:2008/02/11(月) 18:50:55 ID:8DfNI0v1
初耳だー
まじ?
120 :
名無しのオプ:2008/02/11(月) 20:23:12 ID:yQkcILtp
少数派とか出してたよね 石沢
121 :
名無しのオプ:2008/02/12(火) 09:48:38 ID:7WZl5QBc
藤本泉もヨーロッパで自殺しちゃったしね。
生島治郎の奥さんだった小泉喜美子もアル中で階段から
足滑らして脳陥没で死んだ。まあこれも自殺みたいなもの。
122 :
名無しのオプ:2008/02/12(火) 20:35:34 ID:Dl0XSEOe
松本清張の短編を読み尽くした人には石沢英太郎をお奨めいたします。
石沢の短編集には凡作もあるが、読み逃せない秀作が含まれていますよ。
たとえば、「五島・福江行」「羊歯行・乱蝶ほか」「視線」「噂を集め過ぎた男」「空間密室」
などの短編集、いずれも表題作がよく書けていると思う。ただし「空間密室」はバカミス
ぽい密室トリックで×ですが、収録作中の「苓北・富岡行」は傑作かと。
123 :
名無しのオプ:2008/02/13(水) 00:19:13 ID:kAzyDO+u
藤本泉って行方不明じゃなかったっけ。
自殺したのか・・・
124 :
名無しのオプ:2008/02/13(水) 03:02:06 ID:+J438LqB
いまだに行方不明なんて大昔の嘘情報が幅をきかせているのかw
普通にドイツで暮らして、1999年に75ぐらいで死去したんだっけ。
自殺という話は初耳。
年も年だったし、普通に死んだんじゃないの?
125 :
名無しのオプ:2008/02/13(水) 12:51:00 ID:1vHhFQVV
へー、そーなんだ。wikiでも消息不明だって、書いてあったからびっくりだよ。
126 :
名無しのオプ:2008/02/13(水) 20:58:40 ID:C5sKmR2o
>>124 大嘘ったって、新潮選書のミステリ事典にも消息不明になったと
書いてあるから、そりゃ信じますって。その普通に死んだ話の方が
信じられないですよ…。
127 :
名無しのオプ:2008/02/13(水) 23:36:43 ID:+J438LqB
128 :
名無しのオプ:2008/02/13(水) 23:45:21 ID:vjxhBXiy
私もはじめて知った。亡くなってたんだ。
むしろ生死不明説が最初に広まったのは何がきっかけだったんだろう?
129 :
名無しのオプ:2008/02/13(水) 23:45:50 ID:kAzyDO+u
数年前に出た、ランポショウ受賞作の合本、
藤本泉の解説に「行方不明」ってなかったっけ?
それとも篠田節子の『聖域』の解説だったか・・・
130 :
名無しのオプ:2008/02/14(木) 07:35:50 ID:1j+AMaCJ
どうも死体があがらない場所で自殺したというのが真相らしい。
死に顔を見せたくないということかもね。
あと青柳友子も睡眠薬の飲みすぎでこれもほぼ自殺。
131 :
名無しのオプ:2008/02/14(木) 17:34:10 ID:VvTkaO38
>>130 ソースをkwsk。
>>130が真相なら、何か、いかにもミステリーらしい話だと思う。
「自殺」も、「普通にドイツで暮らして」も、「行方不明」も、
みんな実は間違いじゃないけれど、事実の一部だけだから、
まるで印象が違った話として伝わってしまうなんて。
「藪の中」じゃないけど、そんな作品があったような気もするなぁ。
それ以前に、死体があがらない自殺と言えば実は…
なんて妄想も浮かぶぐらいだよ。
132 :
名無しのオプ:2008/02/14(木) 17:51:11 ID:xBqvWrQG
なんか、自殺したミステリー作家を紹介するスレになってきてるような……w
133 :
名無しのオプ:2008/02/14(木) 20:00:17 ID:rZLjMIHp
まあウイリアムアイリッシュやエドガーアランポーも自殺みたいな
もんだしね。
134 :
名無しのオプ:2008/02/14(木) 20:09:14 ID:uAEnHBHa
作家に限らず、芸術家は自殺する人が多いなぁ。
135 :
名無しのオプ:2008/02/17(日) 02:28:23 ID:18MjpT0d
和久さんの最高傑作は?
136 :
名無しのオプ:2008/02/17(日) 08:08:10 ID:SrxFIHhO
コナンドイルってアヘン中毒だったみたいだけど、
日本の作家でヤクチュウって誰かいた?
137 :
名無しのオプ:2008/02/17(日) 09:44:36 ID:Bhf9pYjc
島田一男「犯罪待避線」(徳間文庫)★★★★☆
東京の下町の貧乏医師・津野を探偵役にした1959年の連作集。
第1話「瓶詰めの拷問」はイントロダクション風に、津野が病院を辞めて独立するまで
の話で凡作。しかし、これ以降は傑作・佳作ぞろいで驚きました。
第2話「首と縮める男」は、それぞれ夫と妻を捨てた男女の住む部屋に、前の夫が訪ね
ると、首を切断された女性の死体が転がっていた話。首切り死体を使ったトリッキーな
アリバイ工作が光る佳作。
第3話「或る暴走記録」は、クリーニング店と隣家のイザコザが発端。隣家の女主人が
殺されるのだが、関係者にはアリバイが。これも、チェスタートン風のブラックな「死体
の隠し方」によるアリバイがスゴい。
娼婦上がりの女性が麻薬中毒の禁断症状で死ぬのが、第4話「蜉蝣機関車」。冒頭に出て
くる東京の地理関係の描写が、なかなか意表を突いた真相に結びつく。トリックは違うけ
ど、宮原龍雄の某短編を思い出した。
第5話「顔のある機関車」、知恵遅れの女性を引き取って育てている元刑事と、二人の仲
を邪推するキリスト教会の牧師。果たして女性が線路に飛び込んで自殺するのだが。牧師
の特徴に関する錯誤と、女性の心理に絡めた伏線がシブく決まっている。
第6話「座席番号13」、これは凡作。
第7話「機関車は偽らず」は女子医大生殺し、容疑者は近所の三人の学生のうち誰か。シン
プルなフーダニット物としてまとまっている。
第8話「ノイローゼ殺人事件」は、性同一性障害の男が、身辺で起きる不可解な現象を津野
に訴える。単なるノイローゼだと思われたが実は・・・。なかなか巧妙な仕掛けを凝らした、
これもトリッキーな作品。
古めかしいし、幾つか凡作もあり、またトリックもどこかで見たようなものばかりですが、
これはお勧め、ちょっと甘い評価ですが星4つ半。
佐野洋「金色の喪章」(角川文庫)★★☆
1964年の長編。
恩師の海外出張の見送りで羽田空港に行った法医学専攻の医師・紀原は、駐車場で竜明芳と
名乗る美女に出会う。札幌に行った夫のクルマが紀原のクルマに接触してライトを壊してし
まったので、自分のクルマを使ってくれ、と言う。紀原は結局、その女と一夜を過ごすのだが、
数日後、その女はクルマのトランクから他殺体となって発見される。キーを一時預かっていた
紀原は警察から容疑を受けるが、実は紀原には秘密があった。夢遊病の持病があり、それが
原因で妻と別居中だったのだ・・・。
うーん、あのメイントリックはどうなんでしょうか。「そういうものなのだ」と書かれているの
で信じられるのでしょうが、どうもねえ・・・。或る登場人物たちの、如何にもな、ワザとらし
い言動から、真相は推測できてしまいますが、その前に立ちはだかるアリバイの件がアレでは・・・。
あと解説の荒正人の文章にもイラッと来た。講釈垂れている「本格ミステリ」観が、昭和20年代
の乱歩レベルかそれ以下というのは如何なものか。
大谷羊太郎「複合誘拐」(光文社文庫)★★
1980年の長編。
ワンマン会社の社長・及川の娘が、テレビ局から誘拐された。及川社長にクビにされた運転
手の息子・喜多川が仲間と計画した犯行だったのだが、事態は思いがけない方向へ。身代金
を強奪したメンバーは交通事故で死に、人質を運搬していたトラックからは人質が姿を消して
いた。喜多川の計画に便乗した真犯人は誰なのか。捜査を進める警察とは別に、喜多川と、テ
レビ局に居合わせたレポーターの田代が事件を追及してゆくのだが・・・。
喜多川の立てた誘拐の計画と、それが利用されてしまった構図が、ネタバレにならない範囲で
の説明すらないのでゴチャゴチャして分かりづらい。また、誘拐に関する色々なアイディアを
投入している割には、コレといった目を引くものが少ないのも残念。
結局、ゴチャゴチャな錯綜した動きを、後から説明するだけで、「本格」の謎解きを勘違いして
いるとしか思えません。凡作。
山村美紗「三十三間堂の矢殺人事件」(講談社文庫)★★☆
1980〜83年に発表された作品を収めた短編集。
表題作。またこのトリックかよ。「他の作家が使ったトリックは使いたくない」そうだが、自分の
作品内での使い回しは恥ずかしくないのか。
「偽装の棺」は心臓移植手術を題材にした作品。本格ではないし、心臓外科に関する描写などかなり
疑問が多くて作者の勉強不足が露わだが、オチだけは上手いと思う。
「危険すぎた浮気」はアリバイ工作を請け負う会社のお話。アリバイ偽造を依頼した作家が妻殺し
の容疑を受け、アリバイを引き受けた女性スタッフが追い詰められてゆく・・・。まあまあの出来。
「長い髪の女」は後味が悪いが、結末のヒネりは良く出来ていると思う。
「ハートの指輪」はごく短いもので、ご都合主義だがオチは上手い。
「聡明な殺意」がこの中では一番の出来か。京都に単身赴任する夫の不倫相手を殺す妻のアリバイ
工作を、倒叙形式で描いた作品。鮎川哲也の同趣向の作品にも似て、どこに手抜かりがあったのか、
がポイント。ネタが京都ならではのもので、これは佳作。
「凶悪なスペア」は双生児とその母親の「お受験」のお話。荒唐無稽極まる内容だが、どんどん
エスカレートしてゆく母親のトンデモな狂気は良く描けていると思う。
それなりに趣向を凝らしている作品もありますが、特にお勧めするほどではなかったです。
日下圭介「危険な関係」(祥伝社ノン・ポシェット)★★☆
1984年の「恋人たちの殺意」の改題版。全作、漢字3文字のタイトルで統一されています。
「食虫花」△。落し物をした女性からお礼を貰おうとするが・・・。ヒネってあるけどダメ。
「指供養」△も同様。
「血化粧」◎。男が恋人の部屋を訪ねると、恋人はおらず何故か昔の恋人が・・・。計算し
尽くした展開とセリフ、その伏線の上手さ、急転直下の結末・・・、お見事。連城の秀作短編
レベルに達している。
「夢埋葬」△。オチだけの話。「竜胆忌」△。昔の恋人が夫を毒殺した・・・?このオチはない
よなあ。「鴎酒場」○。深夜の酒場を訪ねてくる男女。近くで事件が起きたらしいのだが。何と
もいえない独特のムードに満ちています。
「偽風景」○。不倫相手に会うために東北に行くと称して京都に行った女性。やがて刑事が
アリバイを尋ねてくるのだが。オチの切れ味は先ず先ず。
「恋人魚」△。幻想風味は十分だが。「殺意帳」○。事故で足を動かせなくなった男。妻の行動
に疑問を持ち始める。事故の関係者に復讐しているのではないか・・・?オチは上手い。
「影彷徨」も「鸚鵡祭」も△。
「時間差」○。パーティの席上、昔の友人の死亡にまつわる真相が明らかに・・・。アリバイ
物として先ず先ずの出来。
終盤の「惜雪歌」「夢幻蝶」「海猫碑」は△。幻想味はあるがミステリとしては評価できない。
全体に、この作者独特のムードによる幻想味に溢れた、非常に不思議な感覚の話で統一され
ているのですが、ミステリとしての仕掛けが薄い作品が多く、「本格」として評価できる作品
がごく少ないのが残念。
5連投スマソカッタ
「宝石」誌(1962年5月号)★★
本号の目玉は、本号より連載開始の土屋隆夫の名作「影の告発」と、連載第3回目だかの
笹沢「暗い傾斜」。
単発の短編では、この年の「宝石賞」を受賞した、田中万三記と新羽精之の受賞後第1作が
掲載されていますが、田中「扉の後に蹲るもの」は、不眠と悪夢を訴える夫の相談に医師を
訪ねる妻の話。うーん、海外の「奇妙な味」の亜流でしかありません。新羽「美容学の問題」
も出来の悪い「奇妙な味」。これらの作品を読むと、当時台頭してきた星新一が、いかに斬新
で洗練されていたかが良く分かる。
あと松本孝「殺されるまで」が、ヒモのせいで身を持ち崩す女性の話で、それなりに迫力ある
のですが、結局は犯罪実録でミステリ的な趣向はゼロ。渡辺啓助「絶望を恋する話」はポンペ
イの遺跡に取材した作品だが、やはり古めかしさは否めないです。
猪股聖吾「エアポケット・タイマー」もユーモア物だが、コントの域を出ない。
一番出来が良いのは、山村正夫「天使」。進駐軍が残していった黒人の混血児たちを引き取り、
孤児院で面倒をみる聖名子が何者かに殺される。聖名子は天使のような清らかな女性だったのに
誰が殺したのか。刑事が捜査したところ、現実の醜さと意外な犯人が浮かび上がる。これといっ
たトリックはないですが、辛うじて「本格」として読める作品。
しかし全体に出来が悪いなあ。
先週に続いて連投スマソ
嵯峨島昭「美食倶楽部殺人事件」(光文社文庫)(採点不能)
1984年の酒島警視物の長編。前スレの
>>518さんが挙げていました。お先に感想を失礼。
「美食倶楽部」の会長が殺された。彼に恨みを持つ関係者は全国に多数おり、酒島警視と鮎子、
平束刑事のトリオは、被害者が食べ歩きした日本全国の食の名店を訪ね歩き、彼を殺した
犯人を捜すのだが・・・。
いやあ、短編ネタを寄せ集めただけ、というか、ここまで長編としての体をなしていない
お話しだと、いっそ清々しいですw
被害者の足取りを追うと称して、京都、松阪、志摩、東京、北海道、果てはアフリカ・・・
と全国のグルメを紹介しているだけのお話。更に行く先々で本筋とは関係ない小事件も起
こり、酒島警視がグルメやヨット、狩猟などに関する薀蓄や知識で解決するというオマケ
付き。それを終盤まで延々と繰り返し、「しょうがねえなあw」と思ったら、ラストで驚天
動地のドンデン返しが!!これには笑った。確かに伏線はあったし、動機の凄まじさも面
白いのだけど、何というか、ねえ・・・。
或る意味で、かの「黒死館」以上に、本筋に関係ない装飾過多で、探偵の薀蓄が満載の「奇書」
ですね。ちょっと鼻につくスノビズムもあったけど、ラストのドンデン返しに免じて許し
ますw
沼五月「こだま446号の死者」(エイコー・ノベルズ)★★★
1987年の長編。作者は沼礼一と五月祥子という作家の合作とのことです。
東京に向かう「こだま446号」が静岡駅に着く頃、トイレで見つかった男の刺殺死体。
だが車掌が駆けつけた時には死体は消えてしまっていた。ところが列車が新横浜まで来た
時、別の車両の密室状態のトイレから死体が再び現れた。死体の発見者である高校教師
の足立は、最初に容疑者にされた行き掛かりもあって、同僚教師の菜々子とともに事件の
謎を追う。事件当時、列車には被害者の岸本に恨みを持つ男女が複数乗っていたらしい。
だが一緒に発見した友人の武田や、菜々子にも、岸本に対する恨みがあったのだった・・・。
序盤はまるでグダグダで、何より文章が素人レベルのヒドいもので、こりゃどうなるかと
心配しましたが、中盤以降は持ち直して、一応、締まった形になっています。
トリックは良くあるパターンの組み合わせで新味はないですが、それなりに伏線に工夫を
凝らしているので、まあ良しとしましょう。ベタベタな中でも、主人公の足立のキャラク
ターだけは丁寧に描かれています。
全く知らない作家で、同じ出版社から出ている、津村秀介、内田康夫、深谷忠記らととも
に売り出したらしいですが、他の作家と違って、その後、消えてしまったのでしょうか。
井口民樹「さいはて特急おおぞら殺人事件」(青樹社ビッグ・ブックス)★★★
1986年の長編。
フリーのルポライター友部は、函館・釧路間を走る特急「おおぞら7号」の車内で、高校
時代の同級生の美女・小月真由子に出会う。真由子には男の連れがいたらしいのだが、友部
が札幌で下車した後、真由子は終点・釧路で、車内の密室状態のトイレから毒殺死体となっ
て発見される。自殺かと思われたが、東京でホステスをしていた頃に知り合った男の容疑者
が二人も浮かび上がる。二人とも事件直前まで北海道にいたことが判明するが、「おおぞら
7号」に乗ることができないという鉄壁のアリバイがあった。友部は被害者の妹・希美ととも
に事件を追及するのだが・・・。
先の「こだま446号の死者」と同じく、またも列車トイレの密室殺人ですが、トリック自体は
「こだま・・・」の方が優れているでしょうか。アリバイ工作も大したものではないですが、これ
はミスディレクションがなかなか上手くいっており、真犯人の意外性だけは優れていると思い
ます。序盤に出てくる些細な伏線も効いています。佳作とは言えないですが、まあまあの出来で
しょう。
井口泰子「平家郷殺人事件」(ケイブンシャ文庫)★
1985年の長編。
水掛晟子は愛人の銀行役員・田嶋を追って上京、彼の友人・天満の経営する広告代理店に勤め
ていた。だが田嶋が彼女のマンションで首吊り自殺を遂げ、部屋には何故か彼の妻の死体もあっ
た。遺書に書かれていたとおり、晟子は天満の助けを求めるが、それがきっかけで、「天満委員
会」と名乗る、平家の落人伝説に関わる団体の暗躍に巻き込まれてゆく・・・。
何というか、1980年代にもなって、こんな時代遅れの小説を書いている、その時代感覚のズレ具合
には参りました。まあ社会派として筋は一本通しているならば、と思えば、そうでもなく、平家が
らみの伝奇ミステリという訳でもなく、事件の謎解きの趣向も展開しないし、ヒロインの心理は不
可解だし、こりゃ結末はどうなることやら・・・と心配していたら、そのとおりだった・・・orz
一応、意外な真犯人は用意されているが、全体を通して何が言いたいのかサッパリ分からない。
社会派でもなく、伝奇物でもなく、ましてや謎解きですらなかった。駄作。
146 :
名無しのオプ:2008/02/26(火) 21:50:33 ID:GR4aqBHs
沼五月、貫井徳郎が出てくるまでは日本を代表する「ぬ」で始まるミステリー作家だったな
147 :
名無しのオプ:2008/02/28(木) 11:24:07 ID:6mCVW6uq
次が沼田まほかるか
148 :
名無しのオプ:2008/02/28(木) 16:45:12 ID:ozqv5tSo
本ミスの鼎談で綾辻が「70年代までにも本格はあったんだろうけど
印象に残る物は無かった」とか言い訳がましく言ってるのにワロタ
無い無いと大袈裟に嘆いていたのが結局てめえらの無知と偏見のせい
だってことがハッキリしたからな
有栖川だってミス研の先輩から薦められる前は笹沢を二時間ドラマと
蔑んでいたそうだし
149 :
名無しのオプ:2008/03/01(土) 00:09:45 ID:SEmDUTFM
その手のチラシ裏は他でヨロ
150 :
名無しのオプ:2008/03/01(土) 12:27:42 ID:azSWmVIt
>>148 本ミスワールドではさらに開き直って「そんな指摘は恣意的」
だとまで言ってた
どっちがやねん
70年代以前の本格の存在を恣意的に無視してた癖に
151 :
名無しのオプ:2008/03/03(月) 16:50:43 ID:cumd1HEm
毎週1回の週間レヴューが途切れた。
152 :
名無しのオプ:2008/03/07(金) 19:22:16 ID:FZVwURWg
この作家で一番マシなのはこれ
みたいな評価も聞きたいな
70年代80年代に多作家はたくさんいたやんか
153 :
名無しのオプ:2008/03/07(金) 22:39:08 ID:bITjbXqQ
154 :
名無しのオプ:2008/03/07(金) 23:15:33 ID:SutpC2lb
まだ出てない作品でこんなのはどう?本格とはいえないのもあるけど・・・
余志宏「蒔く如く獲りとらん」
大岡昇平「歌と死と空」
水野泰治「武蔵野殺人ルート4の密室」
白峰良介「飛ぶ男、落ちる女」
草野唯雄「鳴き竜事件」
荒巻義雄「天女の密室」
藤雪夫・藤桂子「獅子座」
横田順弥「時の幻影館」
東郷隆「定吉七は丁稚の番号」
岡田鯱彦「薫大将と匂の宮」
戸川昌子「蜃気楼の帯」
155 :
名無しのオプ:2008/03/08(土) 00:07:55 ID:DBvs/VZj
156 :
名無しのオプ:2008/03/08(土) 00:26:47 ID:qAXAX1FZ
>154
白峰は壁本だった…
157 :
名無しのオプ:2008/03/08(土) 01:11:33 ID:ihzn47M0
>>156 えーまじ?
おれは気に入ってたけどな。小ネタも多いし。
158 :
154:2008/03/08(土) 12:05:20 ID:QhiKjpZS
「獅子座」が本格もの(アリバイ崩し2本)としてお薦め。
鮎川の「黒いトランク」と競ったと解説にある。「渦潮」という作品もあるんだけど
こちらは「ペトロフ事件」と賞を分けたみたい。
「定吉七」は本格じゃなくゴメン、パロデイですた。
159 :
名無しのオプ:2008/03/08(土) 18:58:04 ID:qAXAX1FZ
水野のもどこが面白いんだかちっともわからなかったな
先週は海外出張中でした。
中津文彦「お由良殺人事件」(ケイブンシャ文庫)★★★☆
1985年の歴史もので固めた中・短編集。
表題作は、三陸の漁港町で新聞社の通信員を勤める男が主人公。地元の旧家に伝わる
西郷隆盛の写真の真贋にまつわる話が展開する中、その旧家の跡取りをめぐる殺人事件
が勃発して・・・。アリバイ工作などに工夫を凝らした、本格物としても歴史物としても
面白い佳作。
「盧溝橋の闇」も、前九年の役と盧溝橋事件の意外な共通点を扱っているが、本格味が
ないのが残念。
「隠岐ノ島死情」は、応天門の変にまつわる、史実を覆す資料の発見に絡んだ殺人。資料の
発見者である若き歴史学者が殺され、その婚約者が事件を追求するのだが・・・。これも歴史
ミステリと本格物が上手くかみ合った佳作。
総じて、レベルは高く、一連の長編より出来は良いと思いました。
森村誠一「憎悪渓谷」(徳間文庫)★★
1972年の短編集。
表題作は、山奥の旅館で働く学生アルバイトたちの間で起きた殺人事件。学生の石井が
論理的に推理して真犯人を指摘するもので、レベルは高くないがストレートな本格物と
して評価できます。
「蟻の競争」は会社の派閥争いをめぐる話でドンデン返しもあるけど本格じゃないので。
「稚い殺意」もサラリーマンの社宅に巣食うイヤな人間関係を扱ったホラー風の作品。
前作もそうだけど、こういうサラリーマンの出世競争って、今じゃ理解しづらい部分が
あるよなあ。
「厄除け社員」はトンデモSF風の異色作。子供の頃から強運に恵まれ、何度も死地を脱し
てきた男が就職して、社長の「お守り」に抜擢される・・・。バカバカしいことこの上ない。
「七日間の休暇」は悲惨な少年時代を過ごし、ベトナム相手の密貿易に従事する男が出会った
記憶喪失の女性との話。力作だけど、本格じゃないので・・・。
「闇の欠陥」は、以前に紹介した山村正夫編のアンソロジー「推理ゲーム」で既読。倒叙物で、
どこに犯人の手ぬかりがあったかを当てる作品。
斎藤栄「産婦人科医の密室」(天山文庫)(採点不能)
1973年の、産婦人科医・甲賀を主人公としたシリーズ第1作。
引退して息子に医院を継がせた甲賀は、山陰地方への旅行中、寝台列車の中で和代に
出会う。不吉な予感がするという彼女に頼まれ、島根県・温泉津の家まで同行した甲
賀は、隣家の国会議員・尾形の別荘の離れで起きた密室殺人に遭遇。和代の妹・双葉
の様子に不審なものを感じる甲賀だったが、やがて尾形の一家を狙う連続殺人が勃発
する・・・。
何と言うか、・・・まあ、疲れましたw
一応、骨格はオーソドックスな本格ミステリになってはいるんですけど、構成というか
ストーリーがハチャメチャでスカスカ、突っ込みどころ満載のバカミス、否、バカミス
にすらなっていないか・・・。密室トリックは脱力ものだし、真犯人は、あの展開なら
ソイツしかいないじゃないかって代物。
あとタイトルから十分、悪い予感がしたんですが、エログロ風味も満点、しかも文章が
即物的なので、エロチックな情緒があればまだマシなのに、ひたすらお下劣路線を突っ
走っています。ネタバレにならない部分で一つ紹介すると、ある女性が突如ストリーキ
ングをおっ始めるんですが、その理由が、自分に注意を惹いて、ある人物を隠すためだっ
たんだと。アホか。あと、甲賀の特技が、触診による女性の性格判断・・・。もうイヤに
なってきます。
まあ読む価値はないでしょうね。シリーズ第1作だから、少しはマシかと思ったんですがw
162 :
名無しのオプ:2008/03/09(日) 23:04:05 ID:n6SR/msz
海外に行ってまで日本のマイナー作を読む3氏に感動
163 :
名無しのオプ:2008/03/10(月) 01:41:24 ID:hf0hna5e
地雷を踏みまくってるのに、斎藤栄を読み続ける3師に脱帽
164 :
名無しのオプ:2008/03/10(月) 05:45:37 ID:tVVa0OUj
日美子の兄ちゃんシリーズもトンデモだと思ってたけど更に
上があったんだなぁ
165 :
名無しのオプ:2008/03/14(金) 22:30:30 ID:eUTkRJ+2
3氏が★★★★☆の評価をした小杉健治の『原島弁護士の愛と悲しみ』が
光文社文庫から来月復刊されるよ
166 :
154:2008/03/15(土) 00:56:35 ID:VPyImnCY
3氏の評価はあまりあてにならないけど、小杉の「原島弁護士」や「絆」は傑作
167 :
名無しのオプ:2008/03/15(土) 04:16:23 ID:BPOyJRUP
お前がそれを言うか
168 :
名無しのオプ:2008/03/15(土) 08:18:58 ID:aX7TWIgH
169 :
名無しのオプ:2008/03/15(土) 11:38:27 ID:wbGy8FCW
この際、166には俺は当てになると言い切って欲しい
西村京太郎「消えた乗組員」(講談社文庫)★★★★
1976年の十津川警部物の長編。
小笠原諸島沖合で消息を絶ったヨット・アベンジャーU世号が、別のヨット・シャークT世
号によって発見された。だが船内は全く異変らしきものがなく、食事が用意されたまま、乗
っていた九人の乗組員は煙のように消えてしまっていた。十九世紀に起きた「マリー・セレス
ト号事件」の再来か。シャークT世号の発見者らは、海難審判に召喚されることになったが、
一人、また一人と殺されてゆく。現場には血に染められた召喚状が・・・。
実に楽しく読ませていただきました。海難審判で、ヨットで何が起きたのかを巡り、次々と可
能性を消してゆく過程は迫力があるし、或る些細な小道具による疑問点から、真相に迫ってゆ
く十津川警部の捜査もシッカリと描かれています。何より文章が、最近のやっつけ仕事のよう
なヘンな文章でないのがイイです。
なお同じく海洋を舞台にした「発信人は死者」★★★★も傑作でしたが、こちらは全くの冒険
小説で、「本格」味は殆どないので感想は割愛します。
赤川次郎「三毛猫ホームズの狂死曲」(角川文庫)★★★☆
1981年のシリーズ第4作の長編。
ヴァイオリンのコンクール決勝を控えて、郊外の洋館で一週間の門外不出の合宿生活をする
男女7名。合宿前から脅迫やら不審死などが起きて波乱含みのなか、主催者の世界的指揮者・
朝倉の要請で洋館にやってきた片山刑事とホームズだったが、果たして洋館でも自殺未遂や
ら殺人事件が起きる。事件の真相は・・・。
一見、てんでバラバラに起きているように思えた事件が、最後の謎解きで収束する手際は流石
です。でもやはり強引さも目立つかな。それでも意外なまでに「本格」のセオリーに忠実で、
さほど意外性のある真相でもないですが、些細な伏線などを活かしており、或る事件における
或る小道具の使い方などは非常に感心しました。傑作とは言えないけど、十分面白い作品だと
思います。
島田一男「刑事弁護士」(天山文庫)★★★
1957〜58年に「週刊東京」誌に連載された、南郷弁護士物の短編のうち、前スレで紹介した
「黒い事件簿」(春陽文庫)収録作以外の作品を収録。なおこの連載は、高木彬光の大前田物、
横溝正史の金田一物(確か「〜の中の女」シリーズの短編群を連載)と週代わりの競作だった
そうです。
「無邪気な妖婦」は堕胎をネタに強請りを繰り返す医者が殺され・・・。凡作。
「大兇」はクラブの歌手が殺される話。ミスディレクションもあるけど、やはり凡作。
「悲運の夜」は強盗の罪で服役していた男が悔い改めて出所、ケガを負わせた被害者の女性は
婚約者だった男と別れ、更にその恋人なども含めて波乱含みの展開になったところ・・・。ちょ
っとした描写によるヒントが真犯人の決め手になるところが面白い。
「喪服の花嫁」はフランス帰りの女傑が結婚、自分の甥からも、また相手の連れ子からも反対
されていたのだが、果たして相手が殺される。真相にヒネりを加えているが、機械的トリック
で面白くない。
「灰色の死神」がベスト。南郷の事務所の向かいのホテルで起きた密室殺人。被害者と同室に
いた女性は部屋の外から閉じ込められており、そのドアの外では別の男女が気を失っていた・・・。
密室状況のユニークさと、バカミスに近いけど、余りにも大胆な伏線による毒殺トリックがけっ
こう面白かった。
「気の長い死神」。本作だけは何故か1983年の近作。高利貸しと結婚した女性が、京都から夫
を伴って上京、南郷弁護士に遺言書の作成を依頼する。高利貸しは何者かに命を狙われている
らしいのだが・・・。まあまあ。フェアではないが思い切ったトリックが使われています。
全体に「ごく軽い本格風」として、「黒い事件簿」同様、楽しめます。
佐野洋「旅をする影」(集英社文庫)★★☆
1968年の長編。
瀬上房子は、最近、夫の秀介が別人にすり替わっているのではないかと疑問を持つようになった。
義弟の俊介や義姉の律子に聞いても、自分たちは三人兄弟だけで、秀介に双子の兄弟などいない
と言う。だが或る日、秀介が子供の秀樹を連れて行方不明になってしまい、房子の元恋人で、実
は秀樹の本当の父親にあたる根本のもとへ身代金を要求する電話がかかってきた。誘拐したのは
秀介と瓜二つの謎の人物か、或いは秀樹の秘密を知った秀介本人なのか。だが騒ぎの最中に秀介
がヒョッコリ帰ってきた・・・。
序盤から中盤までの謎めいた展開、登場人物がみな後ろ暗い秘密を抱えているように思える状況
などで一気に読めたのですが、或る事実が判明してしまえば実にアッケないもので、カラクリは
全てお見通し。まあ肝心の部分の描写はフェアだと思うけど、少々、虫が良すぎる状況だよなあ、
と思いました。
宗田理「世は人情(なさけ)殺人(ころし)の故郷」(角川文庫)★★☆
1984年の長編。
愛知県・三河は吉良町。吉良の仁吉の子孫で薬屋を営む太田は、大学時代に失恋し、彼の幼馴染
と結婚した女性・うららから二十年ぶりに会った。彼女の夫・西岡が失踪、故郷の吉良に戻って
いるのではないかと言うのだ。果たして西岡は吉良町の沖合に浮かぶ小島で死体となって発見さ
れるのだが、警察が来てみると死体は消えてしまっていた。西岡は勤務先の創業者一族と衝突し
ていたらしく、また海外出張中の麻薬密輸の嫌疑もかけられているらしい。彼を狙う暴力団や会
社幹部らが暗躍する中、太田と高校時代の同級生らは西岡への友情のため、事件解決に立ち上が
るのだが・・・。
後年ヒットした「ぼくら」シリーズにも通じる、「友情あふれる集団の活躍」という、典型的な「宗田
節」ですね。レッドヘリングなども上手く配して、意外な真相と真犯人を用意しているのですが、
どうも「本格ミステリ」の謎解きとは違う手法で解決してしまうし、トリッキーなヒネりや伏線に
も乏しいのが残念。
更に終盤の「決闘」シーンは、事件の真相とまるで関係なくドタバタに堕しており、全く意図不明。
173 :
名無しのオプ:2008/03/16(日) 16:57:54 ID:d3O044Wi
まあ、154=166氏が当てになるかは別として「原島弁護士〜」は当時としては良作だったと思う。
ただし、表題作も当時ほどはメイントリックに目新しさが感じられないかもしれない。
でも短編集としての平均レベルはかなり高いと思う。
「絆」はあんまりよく覚えてないが、小杉氏が良作を連発していた頃の代表作でもあるので
まあそれほど期待を裏切ることはないと思うよ。
174 :
名無しのオプ:2008/03/16(日) 18:48:53 ID:Ya1pRjcO
あのーそういった昔のミステリーってどこにいったらあるんですか?
読んでみたいが何処に。
175 :
名無しのオプ:2008/03/16(日) 19:53:33 ID:eJ4A1Q8u
図書館とか古本屋とかネットとか
今すぐは見つからなくてもいつ巡り会うか判らないし情報として
知っておいて損はない
176 :
名無しのオプ:2008/03/18(火) 13:11:07 ID:A7T4iuNn
まー、たいがいブックオフ廻ってりゃ1年以内には
ほとんど見つかります。
広瀬仁紀「カネに恨みは数々ござる」(角川文庫)★★★
1986年、文庫書き下ろし?の長編。この作者からは「狂騰重役」「円高社長」「日銀消滅」なんて
タイトルの経済小説(タイトルはデタラメですw)が思い浮かぶのですが、本作は珍しいユー
モア・ミステリとのこと。
大企業グループを率いるワンマン会長・鎮目の秘書になった「サリーちゃん」こと吾妻佐理。
そのサリーの学生時代の先輩・芙美子は、日本舞踊の名取としてライバル関係にある千代子と、
若い家元を巡って険悪な関係にあった。果たして発表会の舞台で、芙美子は毒殺されてしまう。
一体、どうやって毒物を飲ませたのか。更に死んだはずの芙美子がサリーに電話をかけてきた。
サリーと会長は事件を追及するが、容疑者と見られていた千代子もまた、密室状態の自室で謎の
溺死を遂げる・・・。
作者のアナクロぶりが炸裂、1960年代の源氏鶏太か樹下太郎のサラリーマン明朗小説かと思い
ました。このズレまくったユーモア感覚は、梶龍雄に匹敵します。
毒殺トリックは、日本舞踊に絡んだ小道具がちょっと珍しいかな、という程度の出来だし、密室
トリックも論評するレベルのものではないし、アリバイ工作も使い古しの手で、真犯人もバレバレ。
それでも、この作家が出来は悪くとも、トリックと伏線を張った「犯人当て」の本格ミステリを
書いたことは評価したいと思います。
(追記)本日、ブクオフにて「社長抹殺」なる、サリーちゃんと会長の活躍する続編を発見!感想
はいずれまた。大丈夫かなあw
斎藤栄「爆破都市」(集英社文庫)★★★☆
1971年の長編。
横浜市役所に届いた、市内の工場を爆破するという犯罪予告状。一方、市内のイベントでは
熊の縫いぐるみに押し込められた他殺死体が発見される。更に予告どおり、火薬工場の爆発
事故が発生。現場近くからは男の死体が。事故死と見せかけるための故意の爆発だったのか。
一連の事件に関わってきた市長・三船の推理は・・・。
本スレの
>>5で紹介した短編「三人のミス・ミナト」にも登場する三船市長が探偵役。作者の
勤務先だっただけに、市役所の描写は危なげなく描かれており、なかなか重厚な構成。
本作の目玉は、何と言っても「犯人の意外性」でしょう。完全に騙された。レッドヘリングや
伏線にも配慮し、結末で納得できるようになっています。特に、その人物の或る行動の部分の
描写は、ミスディレクションを効かせた実に秀逸なもの。
・・・しかし、作者の奮闘もここまでw
先ず、縫いぐるみ殺人。まるで意図不明。爆発事故の顛末も、レッドヘリングや伏線のために
必要なのは分かるけど、でもねえ・・・。
まあ、真犯人の指摘で驚かされ、その点は感心しましたので、先ず先ずの評価にしておきます。
たまにこういう作品があるから、斎藤栄は止められんw
池田雄一「京都貴船連続殺人」(徳間文庫)★
1994年のノンシリーズ?長編。
東京・赤坂の有名料亭「加倉井」の主人一族を襲った謎の不審死。妻は山中でクルマごと転落
して枯れ木に串刺しになり、次男は東京の運河で溺死。いずれも現場近辺には貴船神社があった。
危うく難を逃れた長女は、「すみれリサーチ」の所長で女探偵の石坂すみれに調査を依頼、すみれ
は京都・貴船の料理旅館に仲居となって潜入、一族に恨みを持つらしき男を追及するのだが・・・。
前スレで紹介した一連の伊夫伎警部物も二時間ドラマ風で、それでも大胆なトリックや伏線にも
注意を払うなどして未だマシだったのですが、この女探偵、テレビドラマから抜け出してきたと
いうか、青柳友子のエロ三流ミステリから引っ張ってきたというか、もうベタベタ。でもトリック
などが良ければ・・・、と思って読み進めましたが、まるでダメ。メインのトリックは、読者に殆ど
手掛かりも与えられておらず、作者の意図は分かるけど、詰めも意図も甘すぎる。最初から最後
まで(文字どおり最後の一行まで)、通俗を通り越して「俗悪」に近いお話し。駄作。
赤羽堯「ひび割れた仮面」(祥伝社ノン・ポシェット)★☆
1988年の、珍しいトラミス風の長編。
越前の武生にやって来た鎌倉の若き骨董商・剣崎は、豊臣秀吉の遺品「大坂箱」の逸品を購入し
ようと地元の旧家を訪ねるが、その所有者は殺され「大坂箱」は行方不明に。地元の骨董商たち
を巡る不穏な動き。剣崎は自ら事件の渦中に乗り出すが・・・。
前に紹介した「カラコルムの悲劇」(
>>106)が佳作だったので期待して読みましたが、これはダメ。
剣崎の「推理」は、ただカマをかけているだけのヒドいもの。トリッキーな趣向もなく、登場人
物も底が浅いし、骨董の題材も、北森鴻などに比べれば薄っぺらも良いところ。駄作。
伴野朗「野獣の罠」(角川文庫)★★☆
昭和40年前後の秋田市と思しき東北の県庁所在地を舞台に、地方紙の新聞記者である「俺」を
主人公とした1981年の連作集。
「狢が殺した」は、農村で起きた老翁殺し。全く無抵抗のまま絞殺されたのは何故か。被害者は
生前、猟で捕らえた狢の祟りを恐れていたのだが・・・。事件の真相は笑えるが凡作。
「遅い夏」は石油コンビナート誘致に絡む県知事派と反対派の暗闘の中で起きた反対運動リーダー
殺し。些細な伏線が効いているが、どこか物足りない。
「嗅覚の死角」は強盗殺人を発見した隣家の夫婦の態度がおかしいのだが・・・。伏線があからさま
過ぎるよ。
「吹雪の夜」は「俺」にタレコミに来た男が直後に急死、その男の持っていたネタは放火殺人事件
の指名手配犯の居所らしいのだが。「戸籍」に関するトリッキーな真相が面白いのですが、現行の
法律ではこれはムリなのでは?
表題作がベストかな。村長選挙に絡む当選者陣営の買収工作、落選した側が追及に消極的なのは
何故か。ちょっと意表を突く真相。
「甘い脅迫状」は若い未亡人に届いた脅迫状。近所の変質者の仕業かと思われるが、その男が殺さ
れる。凡作。
全体に、横山秀夫の地方都市を舞台にした短編群の先駆といって良い内容ですが、いかんせん、
「俺」のキャラがハードボイルドのパロディめいた、気負い過ぎのマンガみたいな性格だし、伏線
などの構成が、やはり横山秀夫ほど洗練されていないのが残念。
三好徹「刑事(デカ)の掟」(徳間文庫)★★
作者自選短編集、今回は刑事を主人公にした作品集。
「けものたちの夜」は狂言誘拐の犯人の上前をハネて、身代金を奪った刑事の転落。オチも
決まっていて、一番の力作でしょうか。「死への旅券」は航空機事故が人為的な爆弾事件で
は、と疑った刑事の話。凡作。「確証」は警察による事件のデッチ上げを告発した作品、
「奇妙な遺言」はちょっとユーモア風で、「佐藤栄作とリズ・テーラーが・・・」などという、
突拍子も無いダイイング・メッセージの真相が笑わせる。そんな聞き間違いをするかよw
「色と欲と」は興信所の探偵による殺人事件、結末にもう一度ヒネりを入れたところがミソ
か。「目撃者が消えた」は駄作。謎の男女の真相がアレではねえ・・・。
全6編だが、「本格」風味のある作品が少なくて寂しい・・・。
津村秀介「天竜峡殺人事件」(青樹社文庫)★☆
1988年の浦上伸介物の長編。
平塚の七夕祭りで見つかった泥酔の末の行き倒れの死体は、実は他殺だった。神奈川県警と
ともに事件を追及する浦上は、被害者が或る詐欺事件に関わっていたことを探り出し、詐欺
の被害者だった女性の元婚約者の犯行だと突き止める。だが容疑者には、事件当日、はるか
離れた天竜峡の実家にいたというアリバイがあった・・・。
巻頭の地図を眺めれば、よほど地理に弱い人でなければ、二重、三重のアリバイがあろうと、
その先は殆どお見通し。だから終盤、冒頭に出てくる何気ない小事件がアリバイ打破の寸前で
立ちはだかる、という折角のアイディアも白けるばかり。読者にはその先の真相が丸見えです
から。駄作。
182 :
名無しのオプ:2008/04/02(水) 21:02:21 ID:fcwIqlry
謎の失踪作家、藤本泉の話題に触発されて「えぞ共和国」シリーズ全5作を通読、
これはハマリました。伝奇民俗ミステリの傑作ではないか。三津田信三ファンなら
是非読んでみてください。
第1作 呪いの聖域、第2作 時をきざむ潮、第3作 呪者のねぶた
第4作 針の島、第5作 呪いの聖女
183 :
名無しのオプ:2008/04/03(木) 23:47:01 ID:7ng+cUyc
おお、今日発見。
良スレ。
森村誠一「腐蝕の構造」(角川文庫)★★★★
1972年の長編で推理作家協会賞受賞作。
高校時代の同級生・雨村と土器屋。雨村は原子物理学の道を進み、土器屋は父親の後を継い
で鉄鋼商社の重役に。だが雨村の核濃縮に関わる画期的な研究を巡って、土器屋や他の商社、
国防庁、政治家らが暗躍する騒ぎに。だがその最中、雨村の乗った飛行機が自衛隊機と衝突、
乗員乗客全員死亡の大惨事が勃発。妻の久美子は、雨村の遺体だけが発見されないことから、
雨村が飛行機に乗らずにどこかで生きているのではないかと必死の追跡行を始める。しかし
土器屋がホテルで射殺され、事件は予想外の展開を迎える・・・。
雨村、土器屋、彼らの妻である久美子に冬子、悪徳政治家・名取、そして久美子を助ける謎の
男・大町・・・。役者の出揃った実に贅沢な大作。ストーリーも波乱万丈で読者を飽きさせま
せん。
通常の評価は「作者が本格から社会派に傾斜した最初の作品」らしいですが、これはどうかなあ。
確かに、原子力を巡る商社、政治家、官僚らの権謀術数の数々がネチネチと描かれているので
すが、最後まで読んで、実は・・・・・・だったのでは、と思った。そっちに気を取られていたので、
・・・・・を見抜くことは出来なかったので。
更に土器屋殺害のホテル廊下での密室状況のトリックも上出来。トリック単体では「高層の死角」
や「密閉山脈」よりも上だと思う。但し、或る重要人物の描き方が足りず、終盤に唐突な印象
を与える点や、雨村の行方不明の真相の一部にご都合主義な面がある点は残念。
なお余談で申し訳ないですが、俺は小学生の時に、TBS「横溝正史シリーズ」の後番組「森村誠一
シリーズ」で、この「腐蝕の構造」を見ました。夫(篠田三郎?)を探して旅する久美子は島田陽子、
土器屋は岡田裕介(東映の社長の息子で、スゴい大根役者だった。土器屋の設定にピッタリw)だ
ったかな。でも何といっても、大町を演じる松田優作が良かった。終盤のクライマックス、北アル
プスのホテルで迎える島田陽子との余りにもストイックなラブシーンは、子供心に感動しましたよ。
大町の正体は覚えていましたが、真犯人を全く覚えていなかったのは何故だろう。おかげで今回、
原作は楽しく読めましたが。
赤川次郎「三毛猫ホームズの恐怖館」(角川文庫)★★★
1982年のシリーズ第6弾?の長編。
女子禁制の上志高校・怪奇クラブに無理やり入会した美少女・竹林あかり。彼女を巡って
三年生の男子学生たちが恋の鞘当てを繰り広げるのだが、あかりの目的は一体何なのか。
一方、ガス爆発事故で発覚した少女殺しの捜査で上志高校にやって来た片山刑事らは、あ
かりが事件に絡んでいることを知る。事件は高校を舞台に、妊娠中絶による死亡、殺人未遂
などへと発展してゆく・・・。
「高校生たちは実は・・・・・・だった」というのは、地の文章から考えて、ややアンフェアで
はないかなあ。それを除けば、ユーモア・ミステリにしては、かなり手の込んだ趣向を色々
取り入れており、ドタバタに見えて、キッチリとラストで収束させるのは上手いと思います。
あと真犯人は意外といえば意外かも知れませんが、気づく人もいるかもね。
三好徹「えんぴつ稼業」(徳間文庫)★★☆
作者自選短編集。今回は「新聞記者」編。
「決断の流れ」は政治部記者の与党総裁選に関する話。ミステリ的趣向が弱く駄作。
「地の塩」の主人公は、研究所回りだから科学部の記者かな。所長夫人が密室状態で殺さ
れるが、その死をコンピュータで予言した所員がいた・・・。密室趣向よりも、奇矯な「凶器」
がユニークだが、研究所ということで伏線はあるとはいえ、普通の人に「推理」はムリだよw
「煙の殺人」は工場の公害を巡る殺人。真相の隠し方が上手い。「存在の痕跡」は入院中の
妹が見かけた不審な男を兄の記者が追うと・・・。まあまあ。
「死者の便り」は別の自選短編集「砂漠と花と銃弾」で既読。やはりこの作品が一番出来が
良いかな。「死者が死後に出した手紙」のトリッキーな真相と意外性ある結末が上手い。
「悪い血」は、入院中の記者が見かけた交通事故の子供の話。これは凡作。
トリッキーな作品もあるけど、やはり全般に「本格」としては、もう一つ何かが足りない。
本岡類「猫派犬派殺人事件」(双葉文庫)★★★☆
1985年の長編。
野良猫にエサを与えて近所のヒンシュクを買っている「猫ばあさん」殺害事件に続いて起き
た愛犬家殺害事件。犬をエサで釣って空き地に呼び込み、仕掛けた罠で飼い主を殺そうという
無差別犯罪と思われた。だが警視庁きっての犬好き・釜本警部補と無類の猫好き・芦田刑事
のコンビが事件を追ううち、殺された飼い主の犬が行方不明であることなどから、事件は意外
な方向へ。更に容疑者が密室状態の自室でガス中毒死を遂げる・・・。
密室トリックは大したものではないですが、伏線はなかなか巧妙。特に「被害者の飼い犬が行方
不明」のヒントと真相には小技ながら感心しました。真犯人はさほど意外ではないし、もう一ヒ
ネり欲しいところですが、まあコンパクトにキッチリと収まった佳作。
風見玲子「水晶占い殺人事件」(講談社ノベルス)★★☆
1984年の長編。作者は、女優にして作詞作曲もこなす「マルチタレント」で、小説にも挑戦、との
こと。なかなかの美女ですが、こんな女性いたっけ?
名うてのプレイボーイが自室で殺され、密室状況の現場には婚約者の和美が眠りこけていた。更に
発見者は、この男に捨てられた元恋人の敬子だった。和美が犯人でないなら、真犯人はどうやって
部屋を出て行ったのか。また敬子にはアリバイがあったのだが、胸に或る秘密を秘めたまま、逃避
行の旅に出る・・・。
警察側の捜査で活躍する叩き上げの刑事・古沢刑事部長(原文ママ)。部長刑事じゃないw警視庁
の刑事部長が捜査の一線で靴をすり減らして、捜査一課長に敬語を使っていますw
まあそんなアラ捜しはともかく、犯人は途中で丸分かり、ショボい電話トリックに、密室トリック
も脱力もの、こりゃ駄作だな、と思ったら、最後に2重のドンデン返しが待っていた。その努力は
買いますが、それでも面白みに欠ける引っ繰り返し方なので、どうもねえ・・・。むしろ準主役で
ある若手刑事・柴田の「或る秘密」の方が驚いた。アンフェアかな、と思ったら、冒頭の或る描写
では上手く回避していた。そこだけ感心。
草川隆「無縁坂殺人事件」(廣済堂文庫)★★☆
1987年の長編第2作ですが、ミステリのデビュー作「個室寝台殺人事件」より先に執筆され
た作品とのこと。
東京・上野の無縁坂にあるマンションで発生した女性の飛び降り自殺。だが「夫が保険金
目当てで殺したのだ、更に夫の前妻も海で殺されている」とのタレコミが雑誌社に入り、編
集部員の白井浩介は、知り合いの女子大生・羊子と共に、夫の青山の身辺を調査する。
やがて恋人らしき女性の存在を突き止めるのだが、その女性は殺されてしまう。更に青山も
また、無縁坂の旧岩崎邸で縊死しているのが発見される・・・。
あちこちに詰めの甘さが目立つし、登場人物が少ないので、犯人は早めに推測が付いてしま
い「もうひとヒネりあるんだろう?」と思っているうちに終わってしまった・・・orz
旧岩崎邸の密室状況も「何でそんな手間をかけるんだ」という代物。動機も含め、その点につ
いては、真犯人の最後の告白で理由が説明されているが、でも納得できない。
唯一、賞賛すべきは、本格ミステリへのオマージュに溢れている点でしょうか。探偵役の女子
大生の部屋にクリスティ、鮎川哲也、仁木悦子の本があったとか、カーやクロフツに文中で
言及するなど、「十角館の殺人」より半年以上も前に(本作の刊行は1987年2月)、正面切って
本格ミステリ愛好の立場を表明した点はエラいと思う。実作がそれを証明できていないのが
残念ですがw
三好徹「円形の賭け」(グリーンアロー・ブックス)★★☆
1967年の長編。長く探していましたが、文庫版でなく、こんな聞いたこともない新書版を
発見。
ダービーで一番人気の競走馬イカリホマレがレース中に頓死、振り落とされた騎手も死亡
した。薬物が投与されたのだと訴えていた騎手の弟もまた殺されてしまう。警視庁の敏腕
刑事・泉沢が捜査を進める一方、東京地検の若見検事と相棒の事務官・鍋島も独自に事件
を追及してゆく・・・。
ストーリー展開のテンポが悪く、やや退屈。また、薬物を投与できるチャンスを持った者
がいなかった謎や、出入り不可能な競馬場内での殺人、という不可能興味があるのですが、
前者はそれなりに意外性のある真相で伏線もあって良かったのですが、後者は全く腰砕け
の真相。終盤まで引っ張った挙句、伏線抜きでいきなり回答そのものを出してくるのでは
話にならない。真犯人の意外性も、ちょっとした発想の転換はあるけど、大した出来では
ないです。
それに若見検事が、当時、高木彬光が書いていた霧島三郎に似たキャラクターなのも、ちょ
っとどうかと思う。作者の個性や持ち味が出ておらず、三好徹は最近一番愛読している作家
だけに残念でした。
189 :
名無しのオプ:2008/04/06(日) 21:08:57 ID:Z9i35s3z
「黄金の犬」といい、島田陽子は人妻役がハマるね
190 :
名無しのオプ:2008/04/06(日) 21:26:08 ID:rT41iiDh
「腐蝕の構造」のドラマは本当に素晴らしかった
「森村誠一シリーズ」はいい作品ばかりだったなぁ
「猫派犬派殺人事件」は先月「犬は見た!」というタイトルで土ワイで放送されてましたな
191 :
名無しのオプ:2008/04/07(月) 06:12:49 ID:Y0RfKMIQ
一時期森村誠一は作家長者に出てたのに、あるときを境にでなくなった。
角川書店の嘱託だか社員扱いにしてもらって、
印税収入を圧縮する方法で税金安くしてたんだそうな。
なんかこの人、人柄悪そうっていうか、そんなトリックつかうなよな。
作家なのに。
192 :
名無しのオプ:2008/04/07(月) 13:24:10 ID:bRFXLyJq
別にそれぐらい、いいじゃん
自分が稼いだ金をなるべく税金で持っていかれたくないのは誰だって同じだろ
193 :
名無しのオプ:2008/04/07(月) 13:31:53 ID:WrWcn1zR
スレ違い
節税くらい許してやれ
194 :
名無しのオプ:2008/04/08(火) 20:21:26 ID:k5jNzpkJ
小杉「絆」「原島弁護士の愛と悲しみ」出ましたね。「絆」はともかく、「原島弁護士の・・・」
を読まれた方、ぜひご感想を。
桜田忍「二重死体」(春陽文庫)★★★★
春陽文庫だから初出不明ですが、検索したところ1976年の長編らしいです。作者は別に福田
洋の筆名も持っていますね。
新宿のバー支配人が店で彼を襲ってきた男と揉み合いになり相手を刺殺して自首、正当防衛
を主張して、事件を目撃していた客の捜索を弁護士に依頼する。一方、目白のマンションで
は身元不明の男が訪ねてきた男に突き落とされて死亡、だがガードマンらがマンションを取
り囲んでいたにも関わらず、犯人は煙のように消えてしまった。被害者の身元と、その風変
わりな生活はじきに明らかになり、スナックの正当防衛事件との繋がりも判明する。だがマン
ションの密室の謎と犯人は見当も付かない。そして第三の事件が勃発するのだが・・・。
なかなか複雑なプロットによる力作で、容疑者が片っ端から否定されたり殺されたりした末、
最後の最後に序盤の何気ない描写に戻ってマンションの密室トリックが判明し、真犯人が明ら
かになる過程は実に秀逸だと思いました。密室トリック自体はバカミスだし、真犯人と或る人
物との関わりが安直ですけど、そこは目をつぶりたいです。
また第三の事件のアリバイ工作はバカバカしくて評価できませんが、それでも細部にまで拘っ
ており(その拘りが何となくヘンな気がするけど)、まあ良しとしましょう。
しかし全く残念なことに、作者の力量不足か、全般的にストーリーの流れが悪いです。あんな
偶然が起きるのも都合良すぎる。でも作者の謎解きにかける努力と苦労は非常に良く伝わって
きたので、高評価としておきます。
檜山良昭「山之内家の惨劇」(徳間ノベルス)★★★☆
1982年の長編。最近は架空戦記物ばかり書いているようですが、これはごく初期の珍しい
本格物。
鎌倉の山之内家は死去した先代社長が一代で作り上げた会社を経営していたが、女傑の未亡
人やその弟に反発する重役陣との間で内紛を抱えていた。未亡人の次男が鶴岡八幡宮の大銀杏
の下で首なし死体で発見され、修善寺で病死した長男の死にも疑惑が。その長男の死を恨んで
いた息子が次男の叔父を殺したのか。一族の構成は、源頼朝、頼家、実朝、公暁、北条政子、
北条義時らに一致するのだが、事件までが頼家、実朝の最期と一致するのは何故なのか。ベテ
ラン刑事の権藤と、彼の娘との結婚を望んで権藤と険悪な状態にある若手刑事・梅津のコンビ
は、互いに反発しながらも事件を追及してゆく・・・。
源氏と北条氏の史実にシンクロしたミステリといえば、本作に先立って、斎藤栄「鎌倉将軍連続
殺人事件」(1980年、前スレ参照)がありますが、本作の方が、源氏三代の史実との「見立て」趣向
の意味するところは上手いと思います。「そうか、そのために見立てたのか」と納得できました。
但し、その謎解きが判明した瞬間に真犯人は特定されてしまうし、斉藤栄のような「豪快さ」にも
欠け、どこか小ぢんまりと纏まってしまった印象があります。ともあれ、この作家は「本格ミステ
リ」というものを良く理解しているとは思います。
藤原宰太郎「密室の死重奏」(光文社文庫)★★
1986年の文庫書き下ろし、このオッサンには小中学生時代、お世話になったというかヒドい
目に遭わされたというか、まあとにかく、創作長編の第1作らしいです。
トリック収集家・久我京介のもとで助手のアルバイトをしていた大学生・西川の姉が、マンショ
ンの自室で撲殺され、更に現場には感電死した大学助教授が。完全な密室であったことから無理
心中かと思われたが、捜査の結果、ドアチェーンの細工が判明し、一転、他殺の疑いが濃厚に。
西川は自分のアリバイを証明してくれた女子大生・洋子とともに事件を追うのだが・・・。
早めに明かされるドアチェーンのトリックは・・・。アホか、コレは小林信彦の某長編でギャグ扱い
で出てきた物じゃないか。山村美紗も使っていたかな。まあ小林がギャグだと思ったものを、本気
でトリックに採用するところに、この作者のセンスが垣間見られます。更に助教授が残したダイ
イング・メッセージも何というか・・・。でも思っていたほどキテレツでもなく、文章や構成も決
してヒドくはないです。このスレで紹介した駄作群には、本作よりも遥か彼方にブッ飛んでいる作
品など幾らもありましたからw
そういえば、このヒトが書いた、学研ジュニアチャンピオンコース「あなたは名探偵」は小学生時代
の座右の書だったなあ。羊小屋の近くで射殺された男とか、窓の弾痕の謎とか、蒸し暑い夏の日に
消えた鈍器の謎とかねwトリックを紹介するとき、具体的な作品名が無かったのは助かりました。
島田一男「特捜検屍官」(青樹社文庫)★★★☆
1958〜60年にかけて「宝石」誌に連載された、警視庁鑑識課の近江警部を主人公にした連作集。
「屍臭を追う男」はバラバラ殺人で不明のままだった手足が一年ぶりに発見される。未亡人の女
性に不審な点が。更に昔なじみのホステスが殺されて・・・。「何故、頭や胴体よりも、手足の方
を厳重に隠そうとしたのか」の真相が秀逸。
「虹の中の女」はマンションの浴室で撲殺された女性。これは「意外な凶器」トリックの傑作。
凶器は大胆にも冒頭からズーッと出ていたのに気づかなかった。
「素足の悪魔」は病室を舞台にした素朴な密室トリック、「黒い爪痕」は愛人二人が本妻の家に乗
り込み、片方を殺してしまう。女医である本妻が死体をバラバラにして・・・。本妻のコワレっぷり
がスゴい。
「雨夜の悪霊」は江戸川の中洲に立つ工場で起きた女社長殺し。鍵のかかったタンスに死体が閉じ
込められていたのだが・・・。これも「川の中州」を使った機械的なトリックが印象的だが、むしろ、
些細な矛盾点からいくつかの可能性を潰して真相に迫る、近江警部のクイーンばりの推理が見ど
ころ。
「大凶の夜」は暴力団組長が浴室で射殺される。だが解剖して調べたところ、死因は溺死だった・・・。
ちょっとしたヒントが上手い。
「決定符」はアリバイ物。汚職がらみで当局に睨まれている会社の社員が白タク行為の末、何者
かに殺される。関係者には全員アリバイがあるのだが・・・。「アリバイの×××」というアイディ
アが面白い。
文体や人物のキャラクターは、例によって例のごとくの「島田調」ですが、どれもトリッキーで
楽しめる。でも良く考えると、近江警部の専門である「鑑識」には全く絡んでこないトリックの
作品もあるよなあw
なお本シリーズにはもう一編「泥靴の死神」という短編があるが、単行本収録に当たって庄司部長
刑事物に改稿され、「捜査日誌」(
>>53)に同題の作品として収録されてます。
5連投スマソカッタ
三好徹「特捜検事」★★、「続 特捜検事」(中公文庫)★★★
東京地検特捜部の立花検事を主人公にした連作集の第1集および第2集、1978年と1980年刊。
第1集は、「重い悪の荷」と「黒い飛沫」が先ず先ずの出来で、後者のアリバイ工作など面白い
が、その他の「灰色の旅」「毒ある花」「偽りの夢」「復讐の虹」「檻のなかの女」はどれも今一つ。
一方、第2集では、多少、「本格」風味が出てきています。
先ず「悪い果実」は珍しい密室もの。銀行支店長の愛人絡みの脅迫話に始まり、それに彼の息子
の覚醒剤の話が絡んできた末に殺人が。この作者だから、策を弄した密室トリックではないが、
「何故密室になったのか」に絡む意外な真犯人と動機が上手い。佳作。
「単色の虹」はアリバイ物。中年男が殺され、その男に過去の関係をネタに恐喝されていた女性
が容疑者となるが、彼女は事件当時、こともあろうに東京地検にその恐喝の件で相談に来ていた、
という話。トリック自体は古臭い手ですが、その舞台に東京地検特捜部を使うという発想はスゴい。
その他、「悪の配当」は矛盾した間所があると思うし、「ガラスの階段」は犯人は意外だが伏線不
足。「黄金の匂い」「汚れた手」はヒネりが足らず面白くない。
全体に、序盤で名誉毀損とか背任・横領の告発などの事件が起きて東京地検が絡み、それが殺人に
発展、立花検事が最初の事件と殺人の関連を推理して真相を解決、というパターン。殺人の被害者
が序盤の事件から読者が予想するのとは違う場合が多く、そこに意外性を狙っているのですが、
「悪い果実」や「単色の虹」などの佳作を除いては、やはり伏線不足の作品が多いのが残念です。
なお三好徹の実弟は、ロッキード事件の時、東京地検特捜部の検事で名を馳せた河上和雄氏だった
なあ。材料は弟から出ているのかな。
200 :
名無しのオプ:2008/04/13(日) 15:36:18 ID:uuT9CcDR
桜田忍=福田洋だったのか!
勉強になったと同時に、探求本がまた1冊増えてしまった……w
『山之内家の惨劇』は★★★★でもいいような気がするけど、
こういうのは人それぞれか
黒木曜之助『妄執の推理』をやっとゲットできたのでこれから読みます
201 :
名無しのオプ:2008/04/15(火) 02:30:56 ID:ax2xfmIZ
檜山良昭「山之内家の惨劇」か・・・
むかしブッコフで見かけたが、いまいちタイトルが凡庸で買わなかった。
「蛇神家の惨劇」とかなら買ったのにw
202 :
名無しのオプ:2008/04/15(火) 20:12:41 ID:UCeVhA3Q
結城昌治の「ひげのある男たち」が6月に創元から復刊らしい
眉唾だと思う俺は汚れちまったぜw
203 :
名無しのオプ:2008/04/15(火) 21:33:18 ID:QubTnzd8
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
>>202 情報ありがd
204 :
名無しのオプ:2008/04/15(火) 22:13:14 ID:3bK5JMum
創元の場合は本当に出るまでキターしなくていいよ
このスレの発端ともいえる「本格ミステリ・フラッシュバック」をどうにかしろっつーのw
205 :
名無しのオプ:2008/04/15(火) 22:49:06 ID:oc8y16W7
206 :
名無しのオプ:2008/04/15(火) 22:54:01 ID:UCeVhA3Q
>>203 創元のメルマガの情報を報告しただけだからw
>>204 近刊アナウンス2回(連載終了時の予告も入れると3回)だもんな
ホントどうにかしてくれwww
(スレチだが、門前の「死の命題」とフロスト4作目も)
207 :
名無しのオプ:2008/04/15(火) 23:08:43 ID:B3MqCs7/
「読みました」報告・国内編28
結城昌治「ハードボイルド夜」(1978年 青樹社)★★★★☆
タイトルからしてスレ違いだなと思いつつ、「暗い落日」のレヴューもあったので
許されるかなと揚げてみる。で、私立探偵・真木ものの連作短編集です。(ほかに
非シリーズもの2編収録)
結城昌治のスゴイところはハードボイルドやりながら、きっちり本格ミステリのツボ
を押さえてるところ・・・結末が鮮やかでおもわず唸ります。
蛇足ながら、どの作品も真木が関係者の部屋に入り込むと後ろから殴られ気絶するパターン
の繰り返しはギャグなんでしょうか?
208 :
名無しのオプ:2008/04/16(水) 06:38:56 ID:Dt+Uw0ez
結城昌治復刊ブーム?
こんなにうれしいことはない
209 :
名無しのオプ:2008/04/18(金) 14:24:21 ID:CZ50kAG3
お前、ガンダム世代だなw
210 :
名無しのオプ:2008/04/18(金) 19:20:34 ID:WQPGp4LN
>>207 ハードボイルドの主人公は必ず後ろから昏倒させられるってギャグを
何か別の作品でも見た気がするんだが思い出せないいいいい・・・・
ひげも眠りもあるパターンを踏襲してるし、お約束が好きなんかな。
211 :
名無しのオプ:2008/04/18(金) 20:18:51 ID:4Hhw+Hsp
>210
いしかわじゅんだよ
212 :
名無しのオプ:2008/04/19(土) 00:04:14 ID:1DHM2PY1
創元の結城昌治復刊が最初期の軽ハードボイルドものなのは好感。
どちらかというと真木もの3部作や悪徳警官もののシリアス系統より
「仲のいい死体」や「長い長い眠り」とか「白昼堂々」なんかが作者の持ち味
のような気がする。
213 :
名無しのオプ:2008/04/19(土) 00:54:46 ID:okE9AE2y
久里&佐久シリーズ、紺野弁護士シリーズの復刊はまだか!
214 :
名無しのオプ:2008/04/19(土) 14:35:54 ID:jJk/Mj1o
多岐川恭の「綾小路卿暗殺」捜してるんですが、見当たりません。
読んだことありますかねえ。
215 :
名無しのオプ:2008/04/19(土) 15:44:43 ID:1DHM2PY1
「綾小路卿暗殺」は前スレで紹介がある。
歴史ミステリというより学術書のような感じ、
エンタメ度が低いので読んでガッカリする人もいるかも。
夏樹静子「第三の女」(光文社文庫)★★★★
1978年の、フランスのミステリ賞を受賞した長編。
大学助教授の大湖はフランス出張中、停電したレストランで史子と名乗る謎の美女に出会う。
お互いに顔が見えぬまま、それぞれが殺してやりたいと恨みを持つ人物がいることを告白し
合ったのだが、帰国後、大湖の恨みの相手である上役の教授が毒殺される事件が発生。大湖
は史子が「交換殺人」を実行したのだと考え、今度は史子のために、彼女が恨んでいる永原翠
という女を探し出し、首尾よく殺害。警察の捜査が忍び寄る中、大湖は永原の不倫相手の男
の妻こそが「史子」だろうと、彼女に面会を申し込むのだが・・・。
なかなかの佳作。ありふれた「交換殺人」と見せて実は・・・、という切れ味の良さは、「新本格」
以降の現代ではパッとしないが、この当時にしては驚嘆すべき出来だったと思う。
特に冒頭の一節など、真相を知った後で読み返せば、実に計算が行き届いているものだと感心。
もちろん、現代の作家なら、もっと髪一重で綱渡りの、絶妙な描写をするでしょうけど。
それにしても本作は、泡坂妻夫の同年発表の某名作を思い出させた。泡坂の方が伏線の技巧な
ど出来は上だけど、「第三の女」の方が数ヶ月先に発表されているし、トリックもプロットも
違うのですが、何となく、同じコインの裏と表を見るような気がしました。
小林久三「裂けた箱舟」(角川文庫)★★★
「殺人試写室」「黒衣の映画祭」(前スレ参照)に続く、1975年発表の「映画物三部作」の
第3作。
コペンハーゲンの空港でのロケ中、主演女優の牧杏子が失踪した。彼女の吹き替えでダミー
の人形を使った飛行機からの転落シーンを撮影していた助監督の諸井は、人形が本物の人間
のように見えたことから、人形と杏子がすり替えられたのでは、と疑いを持つ。しかし帰国
した諸井は恋人から、新幹線車内で杏子を見た、と聞かされ、やがて撮影所の倉庫で杏子の
死体が発見される・・・。
映画物三部作は、作者の映画界に対する「怨念」が爆発した、どれもこれも暗い作品ばかりで
すが、先行の作品において、作者の思い入れがミステリのプロットを破綻させんばかりだった
のに対し、本作では両者が辛うじてバランスを保っています。空港のすり替えの件は早めに解
決してしまうけど、その後の映像に絡んだ2つのアリバイ工作は、この作者らしい優れたアイ
ディア。しかし伏線が足りないので、やはり不満は残ってしまいます。真犯人の意外性は上手
く行ったとは思うのですが。
辻真先「迷犬ルパンの檜舞台」(光文社文庫)★★★
1984年のシリーズ第3作。
軽井沢で開かれる「SFまつり」に参加した朝日刑事とラン、ルパンら一行。大会の実行委員
である曲木、二宮、永倉、相原らと、軽井沢での開催に反対する荻須の確執。果たして開催直
前に永倉が弓で足を射られる大怪我を負い、次いで、二宮の兄の婚約者が密室状態のコテージ
で刺殺され、更に荻須も殺されてしまう・・・。
SF作家やマンガ家らが実名で多数登場する、なかなか楽しい作品で、コテージのトリックや、
荻須殺しの真相など、トリッキーなネタも、先ずは上手く行ったと思います。
しかし、事件の真相はかなりブラックで、真犯人の狂気ぶりに暗澹としました。
三好徹「遥かなる男」(集英社文庫)★★★☆
1970年のスパイ物の長編。
中国で開催する見本市のため香港からやって来た男・林正謹。だが来日以来、彼を雇った
東西商事では災難が相次ぐ。部長の交通事故死に係長の溺死。更に事件のたびに姿を現す
謎の男女・・・。若き商社マンの南郷は、林の言動に不審なものを感じ、彼の正体を探るうち、
五年前に起きた原子力研究所職員の失踪事件と関わりがあることに気づくが、彼にも魔の
手が忍び寄る・・・。
麻雀がネタの一つとして扱われているのですが、麻雀を知らない俺には何のことやら・・・・・orz
それはともかく、事件の真相はけっこう意外でした。核心に関わる伏線の張り方なども上
手いし、主人公を助ける謎の日系人・クスノキの正体とそのヒントの出し方や、終盤でケガ
をした南郷が今まで起きた謎の数々を推理する場面など、「本格」風の味付けも忘れていません。
ただ惜しむらくは、結末の謎解きがやや説明不足ではないかという点。幾つかの謎について
ハッキリさせないまま終わるのは、読者に想像を委ねて余韻を残すためなのでしょうが、それ
にしても説明が駆け足で不親切な気がします。
ともあれ、「風葬戦線」「風塵地帯」には及ばないものの、謎解き興味も踏まえたスパイ物の良作
だと思います。
草川隆「函館発北斗星2号の死角」(立風ノベルス)★★
1990年の長編。
函館のホテル経営者・志村の息子が誘拐された。身代金を要求された志村は警察には届けず、
私立探偵の牧野を護衛役に、犯人の指定した「北斗星2号」に乗り込み、東京へ向かう。だが
牧野が何者かに殴られ、気絶しているうちに、身代金は奪われ、バッグの中には志村の生首
が残されていた・・・。
「鉄道ネタ+バラバラ死体」というこの作者の得意なパターン、本作のトリックは、法医学上の
疑問点や虫の良い偶然などもありますが、なかなか面白いものだと思います。思わせぶりな
プロローグも上手い。
しかし。
アンフェアにも程がある。虚偽の記述は全くいただけない。叙述形式を・・・・・・にすれば回避でき
るし、そのことに気付かない作者でもないだろうに、これでは評価できません。折角のトリッ
クが台無しだが、トリックの面白さに免じて★2つ。
笹沢左保「邪魔者」(光文社文庫)★★
1960〜1977年の作品を収録した短編集。
「午前零時の幻夢」はホラー風。作家らのグループで予知夢を見た女性、メンバーの一人が
死ぬという。伊豆の別荘に出かけると果たしてその男が崖から転落死。作者はホラー嫌いな
ので、当然、合理的な謎解きとなる。でも「本格」としてはもうひとヒネり欲しい。
「裏切りの雨」は横恋慕する女の行動を勘違いした浪人生のお話。ショートショート風のオチ。
「断崖にて」は義理の関係ばかりの家族で起きた転落死の謎。笹沢節が炸裂、人間のイヤな
部分をこれでもかと叩きつけた末、それを上回るオチで、全く救われない話。
「病める夜」はダイイング・メッセージ物、被害者はアスピリンの瓶を握り締めていた。下ら
ない真相だが、ラストの主人公の感慨が、もうこの作者ならではでマイッた。
「愛憎記」は珍しい鉄道ネタのアリバイ物だがこの作者には似合わないし、そりゃないだろ、
という真相。
「影を消すな」は保険金を目当てに一芝居打った男女だったが・・・。凡作。
表題作が一番の出来かな。ヒモと別れたい女が打った芝居が笑わせるが、乱歩の随筆で読ん
だ或るトリックの実例を初めて読みました。こういう風に使うか、と感心した。
「後ろ姿の殺意」は何とも虚無的な、笹沢左保以外には書けない救いのない話。
全体的に、この作者ならではの「人間不信」「虚無」に満ち満ちた、底抜けに暗い作品集です。
お勧めはしませんが、数編だけ、オヤッと思わせる作品もあります。
5連投スマソカッタ
三好徹「迷子の天使−『天使』全作品3」(講談社文庫)★★★
1968年のシリーズ第1作の表題作から、1970年頃までの作品を収めた、横浜の新聞社支局
に勤める名無しの記者を主人公にした「天使」シリーズの短編集。
記念すべき第1作の表題作は、クラブでラリった女子大生を自宅へ送った「私」が遭遇した
バラバラ殺人。第1作にしては地味すぎる・・・。
「不道徳な天使」は記者仲間のアイドルだった女性がホテルで服毒死。高所恐怖症の彼女
がホテル最上階の部屋にいたのは何故か。素朴な密室トリックと、或るトリックが出てくる
佳作。
「灰色の天使」は一躍スターになった少女が行方不明の末、殺される。これも意外な犯人と
動機が効いている。
「天使の醜聞」は湯河原で起きたドラマのロケ中の役者の死。冒頭の無関係と思われたエピ
ソードとの繋がりは上手いけど、もう一ヒネり欲しかった。
「天使の罠」はごく短い作品。ヤクザのヒモに脅されていた大学生が誘拐されるが・・・。凡作。
「天使の呪い」はゴルフ場に埋められていた死体。或る男が行方不明の妹だと思って掘り出し
たものだったが、死体はまったく別の人間だった・・・。錯綜した謎がちょっとばかり面白
いが、それだけ。
「本格」風の作品もありますが、やはり楽しみ方は別のところにあるでしょうね。今時の
新聞記者に、これだけの「誇り」や「反骨」が期待できない以上、ここで示される「正義感」に
は「安直」として鼻白むこともありますが、そこは割り切って、飽くまでフィクションとして、
誇り高く権威に屈しない新聞記者気質を楽しむべき。
221 :
名無しのオプ:2008/04/20(日) 20:26:22 ID:RAlFKlH/
結城昌治の復刊は嬉しいが光文社文庫はサイクルが早いから早めに買わないと。
222 :
名無しのオプ:2008/04/27(日) 18:22:14 ID:SsY8D5Ml
俺の集めた実感としては、結城昌治って初期の推理ものや
角川文庫で山ほど出てたハードボイルド系より、直木賞取った軍旗はためく下にとか
虫たちの墓とか、あの辺のちょい文学寄り?の作品の方が見かけないような希ガス
223 :
名無しのオプ:2008/04/27(日) 18:29:34 ID:o6/wtKRn
「軍旗〜」は現役だよ
文学寄りの作品はあまり見かけないのは確かだけど
アンソロジー「鉄道ミステリ傑作選」(鮎川哲也編・双葉ノベルス)★★★★
鉄道物ミステリを集めた1987年のアンソロジー。古くは戦前の作品から、1981年頃までの
作品を収録していますが、殆どがアマチュア作家や無名の作家であり、貴重な一冊。
長谷川卓也「東京市電牛込見附停留場」はエッセイ風に書かれた、明治時代に路面電車が路上
から消失した謎の顛末。バカバカしいけど楽しい、1979年頃の作品。
牛島龍介「汽笛」、枝入君江「二つの時計と一つのとけい」はSS。如何にもシロウトという
感じ。佐々木清隆「希望のともしび」も同様。
峰村潔「あのひばりを狙え!」は正統派の鉄道アリバイ物の本格。必然とは言えない状況に
頼っていますが、アアチュアにしては出来すぎの佳作。
木蘇穀「鉄路の殺人」は戦前の作品。あまりにも古めかしい因縁譚。
雨貝夕「遠ざかるモロッコ」は電車内での強盗事件がトンデモな結末に至るが伏線は十分。
でも一番スゴいのはこの題名。冒険小説風かと思わせて実は・・・。開いた口が塞がらないw
平野健爾「夜行列車」は戦前の作品だが、「本格」を意識した佳作。富豪が列車内で知り合
った青年に荷物をスラれてしまう。だが青年は車内から煙のように消えていた。或る脱出トリ
ックと思わせて実は・・・というヒネりのある良作。
泡坂妻夫「階段」はSS。乱歩の或る短編を思い出した。
青柳竜一郎「満員電車」はラッシュの通勤電車で発生した殺人事件。奇矯な殺害手段がミソ
ですが、シロウト臭くて凡作。
酒井薫「さらば愛しの者よ」は昭和30年頃の作品らしいですが、これがベストかな。線路沿い
の川岸で発見された他殺死体。発見者の刑事とその恋人が真相を追うと、容疑者の周到なアリ
バイ工作が浮かび上がる・・・。横溝の傑作短編「探偵小説」に挑戦した秀作。
上田廣「駅猫」は1960年代の作品かな。ローカル線で起きた殺人事件。被害者が隣の駅から
電話をかけていたことから容疑者にアリバイが成立するのだが・・・。国鉄の駅が、倉庫のネズ
ミ避けのためネコを飼っているとか、鉄道電話などといったレトロなネタ満載ですが、ネコが
要らなくなったら貨物列車に積んで、どこかの駅で拾われるという挿話が、トリックの打破に
繋がる、というとてもユニークな佳作。
松本清張「アムステルダム運河殺人事件」(角川文庫)★★★★
1969年の中編2編を収録。
表題作は実際に起きた事件をもとに作者が再構成した、作者の推理を加えた作品。オランダ・
アムステルダムの運河で見つかったトランク詰めのバラバラ殺人。死体は首と両足、更に手首
が切り落とされていたのだが、隣国ベルギ・ブリュッセルで行方不明の商社マンが被害者なの
か・・・。前半はドキュメンタリー調に事件を紹介し、後半、経済紙記者の「わたし」と、医者で
悠々自適の久間鵜吉の二人組げ現地に飛んで、迷宮入りの事件を再調査するというもの。二人の
推理合戦と、「手首が切り落とされたのは何故か」の意表をつく真相が見事。ポオの「マリー・ロ
ジェの謎」に倣った秀作。
「セント・アンドリュースの事件」はスコットランドが舞台。英国の鉄道地図や時刻表などが出て
きて、クロフツに挑戦したものかな。日本人社長が友人や愛人らと外遊の途中、ゴルフの聖地
セント・アンドリュースに立ち寄ることに。だが社長は、正体不明のアジア人に尾行されている
と訴える。友人らはまったく気づかないのだが、果たして社長は殺されてしまう。現場近辺では
謎のアジア人が目撃されていた・・・。「・・・・・・のアリバイ工作が・・・・・・になる」という、鮎川哲也
にも前例のあるトリックと、乱歩ばりのもう一つのトリックが融合した、これもなかなかの作品。
スコットランドの風物の描写も良いけど、登場人物が脂ぎった日本人のオヤジたちでは雰囲気ブチ
壊しw
斎藤栄「課長補佐殺人事件」(廣済堂文庫)★★
1972年の長編。
神奈川県庁の役人・津田が箱根のモーテルで縊死。現場からは謎の女が失踪していた。かねて
から津田が厚生省と製薬会社の橋渡しをしていると内偵していた神奈川県警・捜査二課の泉刑事
らは、汚職がらみで殺されたと断定、女の行方を追った。だがその女は三重県・熊野の保養所で
密室状態の中、ガス中毒死を遂げる。覚悟の自殺なのか。だが真犯人は厚生省の役人・辻村だと
する泉は、彼の鉄壁のアリバイを打破しようとするのだが・・・。
ガス自殺の密室トリックはバカミス、アリバイ工作の真相も、途中でバレバレ。そもそも、あんな
ことのために辻村が・・・・・・して・・・・・・するなんて、バカバカしいにもほどがあるw
三好徹「地下の戦士」(光文社文庫)★★☆
1980年刊、「長編スパイ小説」とありますが、日本を舞台に、イスラエルのモサドとパレス
チナ・ゲリラの支援組織の暗闘を描いたスパイ物の連作集で、モサドの日本人スパイ13号
から19号までの活躍を一話完結ながらも、互いに関連させて最終話でまとめる、という形式
の作品です。
第1話「影の使者」は自薦傑作集「砂漠と花と銃弾」(前スレ参照)で既読。やはりこれが
ベストかな。モサドとゲリラの戦い、とみせての意外性ある真相と伏線の張り方は見事。
第1話にしてコレでくるとはスゴいな。
第2話「闇からの密使」はローマで変死した妹のフィアンセを追及する男の話。会社の同僚や
妹の友人の協力を得てようやく真相に・・・、と思ったところでのドンデン返しですが、これは
伏線不足。
第3話「脱出回路」はフリーライターのスパイ15号がゲリラ支援組織に潜入、しかしもう一人、
モサドのスパイがいるらしい・・・。モサドの深慮遠謀ぶりがスゴい。
第4話「死の代理人」はアラブからの密使が日本に到着、各支援組織のリーダーを召集しようと
するが・・・。この辺りから、ドンデン返しがムリヤリになってきていますw
第5話「人質作戦」のスパイ17号は新聞記者。同棲相手の女はアラブ側で、イスラエル寄りの
評論家の子供を誘拐するのだが・・・。やはりドンデン返しにムリがある。
第6話「死亡登録」のスパイ18号は官庁の役人。同僚数人の人事考課を盗むよう指令を受けるの
だが、その中に不仲な上司がいて・・・。凡作。
最終話「暗黒の祭り」では、これまでに登場した人物の何名かが再登場、モサドが日本組織の
建て直しのため、最強の19号を召集する。だが・・・。連作の最終回として上手くまとまっては
いるけど、伏線も無しに二重、三重のドンデン返しをされてもなあ・・・。
見事なまでにドンデン返しにこだわった作品集ですが、伏線もヒントも不足では、「ああそうです
か」で終わってしまうよ。
嵯峨島昭「札幌夫人」(光文社文庫)★★☆
1981年の長編。「湘南夫人」(前スレ参照)、「軽井沢夫人」と続く三部作の第3作。
1972年の札幌オリンピック。ジャンプの選手・杉は、同じく選手である星野の陰謀により
ケガをして不本意な成績で終わる。杉の高校時代のクラスメートで、今は病院長夫人である
淑子は、無理解な夫に嫌気がさし、久しぶりに逢った杉に心を寄せてゆく。だが杉の勤務
する石油会社のタンクが爆発、更に、登別のコテージでは、一連の騒動の黒幕とみられる
星野が絞殺される。淑子の夫や、杉の友人で爆発事故のとき杉に救出された大河原は、係わ
り合いになるのを避けて死体を湖に沈めてしまう。だが酒島警視の捜査は、杉と淑子を追い
詰めてしまう・・・。
「湘南夫人」に続いて、絵に描いたような、ベタベタのメロドラマです。ヒーローとヒロイン
は飽くまでカッコ良くて清廉で、ヒロインの妹は蓮っ葉で、悪役は腸が煮えくり返るほどイヤ
らしく、無理解な夫はダサくて小心者、侠気あふれるけどモテない山男の友人に、ヒロインの
父親は優しく理解はあっても力もカネもなく・・・、といった具合。実は事件の真相には色々と
凝ったトリックや趣向が用意されており、伏線もそれなりに張ってはいるのですが、やはりメ
ロドラマが主になって、事件の推理や追及の描写が後ろに回ってしまった感は否めません。まあ
ここまで月並みだと、却って清々しいですけど。
5連投スマソカッタ
笹沢左保「明日まで待てない」(徳間文庫)★★
1965年の長編。
二本柳は「同窓会屋」という変わった商売をしていたが、新婚間もない妻と別居して都内の
マンションに住んでいた。目黒のレストランで出会った女性・由香子と一夜を共にしたとき
から、不穏な出来事に巻き込まれてゆく。「二本柳を殺してやる」という脅迫状が病院に届い
たと、松平と名乗る医師が訪ねてきたり、その病院に由香子が通院していた過去があると知ら
されたり、留守中にマンションに何者かが忍び込んだり・・・。やがて二本柳は、由香子が目黒
のレストランの常連客たちの勤務する私立学園の理事長の養女であることを突き止めるが、
留守中に自宅に訪ねてきた友人を殺されてしまう。被害者は「ミナ」というダイイイング・メッ
セージを遺していたのだが・・・。
ダイイング・メッセージの真相はともかく、或るミスディレクションを効かせたところは上手い
のですが、「笹沢節」が大爆発、女性不信と虚無と欲と打算と冷笑に満ちた、ドロドロの作品。
本当に作者は人間をこれっぽっちも信用していないんですねえ・・・。疲れた。
ほぼ同時期の長編「四月の危険な石」(前スレ参照)も夫婦間の不信と虚無を描いていますが、
アッチの方が破天荒な展開とバカミスだっただけに救いがあるのですが、コッチは全く救いが
ない・・・。
229 :
名無しのオプ:2008/04/29(火) 09:07:40 ID:39hQFdFa
高柳芳夫と海渡英介でいいのおしえてください。
230 :
名無しのオプ:2008/04/29(火) 09:57:29 ID:oFM5qggz
過去ログぐらい読みな
231 :
名無しのオプ:2008/04/29(火) 21:55:36 ID:yrshW8zc
>>219 >>228 笹沢作品の人間不信や孤独感は70年代前半の時代小説が極めつけかな。
『木枯し紋次郎』を皮切りに『御子神の丈吉』『地獄の辰』『半身のお紺』等の連作短編は特に。
これらの作品、ミステリー味たっぷりの意外性重視のプロットが魅力的だったな。
ただ自分は続けざまに読んだので気分的に凄く疲れたのを覚えてます。
232 :
名無しのオプ:2008/05/02(金) 00:51:15 ID:tbPolrPt
高柳はともかく海渡は古本屋にあったもの適当に買ってもあまり外れが無い印象があるな
233 :
名無しのオプ:2008/05/02(金) 19:17:03 ID:AtNMuyN2
海渡のは今読んでもそんなに古めかしくは感じない。
234 :
名無しのオプ:2008/05/03(土) 20:47:05 ID:OoH6tlmx
「読みました」報告・国内編29
藤本泉「呪いの聖域」(1976年・祥伝社 87年・旺文社文庫)
東北地方の閉ざされた村に棲む謎の人々が絡む伝奇土俗ミステリ、「エゾ共和国」シリーズ
の第1作で直木賞候補作。養父と自分の出生の秘密を解き明かすべく下北半島の閉ざされた
村を訪れた主人公を待っていたものは?・・・導入部からぐいぐい読者を引き込む筆力に
圧倒されます。ホラー風味横溢ですが、結末は論理的に収束されており本格フアンも満足
させる作品かと思います。
なお、翌年発表の「ガラスの迷路」で推理作家協会賞候補、次の「時をきざむ潮」で乱歩賞受賞
していますが、直木賞候補>協会賞候補>乱歩賞という順番は通常と逆ですね。
>>229 >>26-27さんの労作を参照されたし。
なおそこに載っていない作品は、いずれも★★★☆以下だが、以下のとおりです。
海渡英祐は、長編「伯林−一八八八年」「燃えつきる日々」、短編集なら「死の国のアリス」
「仮面の告発」辺りが良いです。「ふざけた死体ども」「おかしな死体ども」の吉田警部補物
は、今となってはユーモアの部分が下品でイタ過ぎるけど、不可解な謎の合理的な解決、
いう意味では十分「本格」の良作だと思う。俺にはこのユーモアが全く合わなかったので
評価は低かったですが。あと1980年代後半からの「出囃子が死を招く」「新門辰五郎事件帖」
などの時代物も、それなりの作品。
高柳芳夫は、長編「『禿鷹城』の惨劇」と続編「『ラインの薔薇城』殺人事件」、「ライン
河の白い霧笛」「摩天楼の弩」などが密室トリックの力作。ただしあまりに機械的なトリッ
クもあり、傑作とは言えないと思います。あと、ゴシック風の異色作「闇からの呼び声」が
良い。短編集なら「ベルリンの女」「ベルリンの『壁』に死す」辺りかな。
・・・そう言えば、海渡英祐と高柳芳夫って、どちらも古き良き独逸文学青年風というか、
旧制高校風のロマンチックな、曰く言いがたい雰囲気がある。日本のミステリ作家では珍し
いタイプだと思います。
高木彬光「幻の悪魔」(角川文庫)★★☆
1974年の検事・霧島三郎シリーズの第7作。
弁護士事務所を訪ねてきた男が毒殺される。被害者の平田は、1兆円にも及ぶ大規模なサギ
事件に関わっていたことが判明し、捜査当局はそのグループの主犯格である刺青の女を追う。
だが関係者が一人、また一人と殺されてゆく・・・。
第三の殺人のところで犯人は見破れました。ここまで来ればバレるわな。でも、真犯人の動機
を考えれば、これは不可避だったし・・・。「刺青の女」という派手なネタによる展開は上手かっ
たのですけど、やはりこのネタ一発勝負ではなあ・・・。
西村京太郎「赤い帆船(クルーザー)」(光文社文庫)★★★★☆
1973年の十津川警部(本作では警部補)の初登場作品。
ヨットによる無寄港世界一周に成功した内田。一躍マスコミの寵児となった彼だったが、
スポーツカーを運転中に劇的な激突死を遂げる。だが毒薬を飲まされていたことが判明、
元ヨットマンである警視庁の十津川警部補が捜査に乗り出す。彼を恨んでいたヨット仲間
は数多く、なかでも学生時代からの知り合いである村上は、事件当時は東京・タヒチ間の
ヨットレースに出場中で太平洋上にあり、鉄壁のアリバイがあったのだが・・・。
これは傑作。真犯人のアリバイ工作は非常にレベルの高いもので、十津川が幾つかの方法
を思いついても容易に崩れません。或る方法だけは見破れましたが、アレだけは気付かな
かった、というか作中の十津川と同じく、犯人のワナにハマッてしまった。あのネタは、
戦前の某名作にあるものですが、まさかココで使われているとは・・・。あと、或る脇役
の使い方も小技だけど上手いし、被害者が犯人に・・・・・・を・・・・・・というのも面白い。
今まで読んだ中では「殺しの双曲線」と並ぶ作者の最高傑作の一つです。なお、松本清張の
短編「火と汐」のネタバレが出てくるので要注意。
237 :
名無しのオプ:2008/05/04(日) 14:56:20 ID:+lKlBGKz
アリバイもので戦前の名作といわれたらアレしか思いつかないんだが
「前スレの
>>3」氏はそろそろちゃんとしたコテとトリップをつけたもうがいいかも
それに同人誌でいいから「国内本格ミステリ作家辞典 1957-1987編」みたいなのを出して欲しい
はい、検討したいと思います。
高柳芳夫「モスクワの星を撃て」(双葉文庫)★★★
1982年の長編。
東西ドイツ国境、ブロッケン山麓に墜落した謎のUFO。東ドイツ軍により極秘裏に隠滅
されたのだが、その正体は、ソ連が西側の技術を盗んで極秘に開発した軍事衛星だった。
軍事機密を映した写真を現像したことから、ボンの写真屋が次々と殺され、在ボン日本
大使館駐在の武官・天羽は事件の謎を追って、CIA諜報員のケインとともにモスクワへ。
だがケインらによるKGB議長誘拐事件が勃発、事件は思いもかけない方向へ・・・。
西ドイツを舞台にした第一部と、モスクワに舞台が移っての第二部の二部構成。しかし、
よりによってモスクワでKGBの議長を誘拐なんて出来るものか、とも思いましたが、
まあそこはそれ。
誘拐事件の本当の目的が明かされる終盤のドンデン返しもさめないうちに、更にそれを
引っ繰り返すドンデン返しのエピローグに唖然。今までの・・・・・・は・・・・・・だったのかよ!
伏線不足でフェアとは言えないし、いわゆる「本格」のドンデン返しとはちょっとニュア
ンスが違うのですが、そこまでやるか、と驚きました。先ず先ずの作品。
島田一男「特報社会部記者」(青樹社文庫)★★★
東京日報・社会部長の北崎と、亀田、真澄、片桐らの社会部記者の活躍を描く、一連の社会部
記者ものの連作集。収録作品は1950〜1951年頃発表で、このスレの対象年からは外れています
がご容赦を。
なんと言っても、中編「恐風」がベスト。東京郊外の私鉄駅で発見されたトランク詰めの死体。
被害者が熱海駅に送り、更に熱海から送り返していたらしいのだが、そこにもう一つ、別の
トランクも現れて・・・。横溝の傑作「蝶々殺人事件」と、鮎川の「黒いトランク」の橋渡しと
なる非常に重要な作品で、トリック、犯人の意外性、伏線いずれも申し分なし。本作のみ読む
だけでも価値がある。
他には、正月、大雪で不通となった山手線で女の射殺死体が発見される「環状線の女」や、
イカれた彫刻家とヘンテコなフランスかぶれの美容師の妻に新興宗教の教祖が絡む「人形
地獄」が、それぞれ単純ながらもアリバイ物で読ませる。また「双面獣」はデパートのショー
ウィンドウに飾られた全裸死体、鍵を握る赤沢怪太というエログロ作家など、乱歩テイ
スト満載の怪作だが、トリックは練られている。「空中花嫁」「白銀仮面」「猫と指輪」は
凡作。
240 :
名無しのオプ:2008/05/04(日) 15:06:23 ID:l91pFGs7
別にいらないんじゃね>コテとトリップ
高木彬光「白魔の歌」(角川文庫)★★★
1958年の神津恭介物の長編。
元警視庁の名刑事で、引退した後、資産家となった鶴巻俊之輔。だが家族には恵まれず、
次男夫婦はともかく、精神病の長男と孫娘たち、末娘は精神のバランスを欠いていた。
俊之輔は、戦前に携わった大事件「白魔事件」の死刑囚の遺族が彼の命を狙っているの
では、と神津に出馬を依頼するのだが、神津は断り、香港に行ってしまう。代わりに神津
の知り合いの新聞記者が鶴巻の身辺警護に当たっていたのだが、長男の娘が奇怪な状況
の中、殺されてしまう。そして第二の殺人も起こるのだが・・・。
本作は「真犯人の動機の意外性」がミソでしょう。序盤でヒントにサラリと触れられている
のでフェアだとは思いますが、果たしてそれを面白いと感じるかどうかが評価の全て。バカ
バカしいと思う人もいるでしょうね。
242 :
名無しのオプ:2008/05/04(日) 15:08:37 ID:+lKlBGKz
>>240 いまのままだと「
>>3」の部分のアンカーが何かとうざいんだわ
ところで
>>238の「検討したい」は「同人誌発行を検討したい」という解釈でよかろうか
麗羅「死者の柩を揺り動かすな」(徳間文庫)★
1977年の長編。
昭和20年、終戦直後の東北線で、若い女性が子供を残して鉄道自殺。地元署の河島刑事は
他殺ではないかと疑っていたが、自殺として処理されてしまう。河島は夫婦の間に子供が
無かったことから、禮という名の遺児を引き取って育てることに。・・・それから30年、河島
禮は警視庁のエリート警察官になっていたが、母親が死んだことから自分の生い立ちの秘密
を知り、本当の母親の死の謎を追求することに。更に、父親が十数年前に事故死したのも、
本当の母親の謎を知ろうとして殺されたのではないかと疑う・・・。
ああいう登場の仕方では、どうしたって真犯人はバレバレになる訳で、トリッキーな仕掛け
も無く、延々と因縁譚を読まされた挙句に、あの終盤の説明はないでしょう。サントリー
ミステリー大賞の読者賞を取った「桜子は帰ってきたか」も、韓国人・クレの造形が極めて
印象的で感動ものだったけれど、それを取ったら何も残らない、ミステリとしてはスキだら
けの作品だったし、この作者は、ミステリのプロットの基本を理解できていないと思う。
なお郷原の解説も噴飯もの。駄作。
244 :
名無しのオプ:2008/05/04(日) 15:11:13 ID:l91pFGs7
そんな理由かよw
まあ、本人が決めることだけど、それだったら>>を取ればいいだけじゃないのか
>>242 いえ、「ちゃんとしたコテとトリップをつけたもうがいいかも」について検討、という意味
でした。「同人誌発行」なんて、そんな力量はなく、済みません。
西村京太郎「汚染海域」(徳間文庫)★☆
1971年のノンシリーズ長編。
弁護士の中原は、西伊豆に住む少女が地元工場の公害を訴えた末に自殺したことに憤激、工場
と親会社を相手取って訴訟を起こす。政府の調査団を信用できず、現地に乗り込んだ中原と、
彼に賛同する地元高校の教師・吉川や友人たち。だが調査団の団長が何者かに殺されてしまう。
吉川は団長の教え子で、その娘を巡って別の教え子と対立関係にあったのだが・・・。
熱血漢だった頃の作者の怒りが爆発。でもこれは「本格ミステリ」としては殆ど見るところは
なし。消えた日記帳の謎に少々仕掛けがあるだけで、犯人当ての趣向も肩透かし。要するに
西村流の「社会派」作品ですが、学生運動や市民運動などに対してシニカルな視線があるので、
現代でも気にならずに読むことができました。
246 :
名無しのオプ:2008/05/04(日) 16:11:08 ID:vU2U30VJ
田舎暮らしの身には西京や赤川等比較的入手しやすい作家の
隠れた作品レビューは本当に助かります。勿論他のレビューも
参考にしてます。
>>237-241 そんなの個人の自由でしょう
貴方に強要する権利はありませんよ
それにまずは感謝をするのが先でしょうに
247 :
名無しのオプ:2008/05/04(日) 16:31:10 ID:hxYjlfLs
どう読めば強要になるんだろうか
本人も検討したいと言ってるのに
これほど読解力のない人が文学系の板にいることに驚きを禁じえません
248 :
名無しのオプ:2008/05/04(日) 17:56:52 ID:3DNSo4QU
佐賀潜の本が大量に出物がありまして、
全部読む余裕がありません。
どれがいいのか教えてください。
249 :
名無しのオプ:2008/05/04(日) 20:34:11 ID:cflsr5B0
どれがいいのか、多すぎてさがせん。
250 :
名無しのオプ:2008/05/04(日) 20:41:03 ID:B7sCX8ie
【審議中】
∧,,∧ ∧,,∧
∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
| U ( ´・) (・` ) と ノ
u-u (l ) ( ノu-u
`u-u'. `u-u'
251 :
名無しのオプ:2008/05/04(日) 21:58:54 ID:2e9yJyfR
>>248 森村誠一公式サイトの『新幹線殺人事件』の自作解説に
「当時、日本の推理小説のメッカとされていたカッパノベルス」って記述があるから
確か『新幹線殺人事件』と同時期に『幻の工場群』『地図にない沼』とか全部で五、六冊出ていたはずだから
もし手元に有るなら、そこから読んでみたら。
252 :
名無しのオプ:2008/05/04(日) 22:23:35 ID:TMBHcpcD
>>236 西村京太郎の代表作として挙げられることが多い「終着駅殺人事件」は最高傑作とはいえないんでしょうか
253 :
名無しのオプ:2008/05/04(日) 22:41:25 ID:B7sCX8ie
>>252 『終着駅殺人事件』は代表作のひとつではあるけど、最高傑作とはいえないね
初期作はこれより出来が良いし
254 :
名無しのオプ:2008/05/05(月) 07:24:34 ID:rct1o6X2
笹沢左保『背景のない夜』(角川文庫)★★★☆☆
1963年の長編。
元人気歌手の長峯の妹・映子が絞殺される。
映子は人気歌手のジミーに熱をあげパトロン気取りの無軌道娘。
事件当夜、ジミーの車が目撃されていたが、ジミーにはアリバイが。
そして映子の通夜の日、ジミーは急性咽喉炎で舞台に穴をあけ歌手生命の危機に立たされる。
久しぶりに笹沢左保の作品を読みましたが、
さすがに上手いですね。
事件の展開もさることながら、長峯が車を追跡中にバイパスのゲートを出たところで消失するという寸劇が事件の解明に結びつくのですが、
この辺りの仕掛けが小粒ですが笹沢左保らしい心理的トリックで無理がないですね。
知名度の高くない作品で未読でしたが
多作でも作品の水準は、決して低くない事を再認識させられました。
255 :
名無しのオプ:2008/05/05(月) 13:04:38 ID:rct1o6X2
>>254 すいません。
評価は★★★☆です。
☆が一個余分でした。
256 :
名無しのオプ:2008/05/05(月) 14:32:02 ID:NGmhkkoT
笹沢は「人喰い」しか読んでないけど、あんまりおもしろくなかったんで
敬遠してたが、もう一度読んでみるかな。
257 :
名無しのオプ:2008/05/05(月) 20:30:58 ID:8HQ78Iy6
「多作家=粗製濫造」というイメージがあったから笹沢を敬遠してたけど、高2の時に
友人の母親から岬シリーズを勧められて読んでみたらクオリティが高くて驚いたな
>>256 地雷を踏んでしまいましたなw
笹沢には良作がたくさんあるんで、いろいろ読んでみてくださいよ
258 :
名無しのオプ:2008/05/05(月) 20:42:18 ID:ba9dcNNo
「人喰い」って地雷呼ばわりされるほど酷かったっけ
259 :
名無しのオプ:2008/05/05(月) 23:14:06 ID:X8gjbvG2
言われるほど傑作って程でもないってだけでは。
人喰いが地雷なら笹沢の著作は3分の2以上地雷だな。
260 :
231=254:2008/05/05(月) 23:54:06 ID:rct1o6X2
『人喰い』が地雷とは、随分と厳しい評価ですね。
笹沢作品のなかでは佳作の部類には入ると思うんだけど。
探偵作家クラブ賞の肩書が災いしているのかな?
自分は笹沢作品は時代小説も含めて、250冊くらい読んでいるけど、
『人喰い』を上回る作品は他に沢山あるのも事実なので、
ぜひ読んでみてくだい。
261 :
名無しのオプ:2008/05/06(火) 00:13:58 ID:94mtpW1y
「紙上殺人現場」では出来不出来の差がこれほど激しい作家も珍しいと
言われていたね>笹沢
262 :
名無しのオプ:2008/05/07(水) 04:00:23 ID:M3NC91/o
前スレの3氏へ
昔、あるミステリサイトのBBSに、乱歩の小説の登場人物をHNにして書き込みしてませんでしたか?
その人に作品のチョイスや文体がなんとなく似ていたので。
違っていたらスミマセン
笹沢左保のベスト15、海渡英祐のベスト10、陳舜臣のベスト20とか
いろいろと感想を書いていて、それを参考にして本を買ってたなぁ。
ちなみにその人の笹沢左保ベスト15
1. 霧に溶ける
2. 招かれざる客
3. 盗作の風景
4. 暗い傾斜
5. もしもお前が振り向いたら
6. 人喰い
7. 真夜中の詩人
8. 空白の起点
9. 求婚の密室
10.明日に別れの接吻を
11.揺れる視界
12.突然の明日
13.泡の女
14.真昼に別れるのはいや
15.遥かなりわが愛を
次.炎の虚像
263 :
名無しのオプ:2008/05/08(木) 17:53:38 ID:b71rqhoJ
光文社文庫の結城昌治コレクション第2回配本は『白昼堂々』
創元から『ひげのある男たち』も出る予定
それから、扶桑社文庫からは小林信彦の『紳士同盟』が復刊
結局、名前は変えませんでした、どうぞ悪しからずご了承ください。
>>262 そのサイトのBBSのことは知っています。今から6、7年ほど前の「み×××」のことです
ね。俺も当時、あそこは良く見ていました。
小杉健治「弁護側の秘密」(双葉ノベルス)★★★
1985年の、「陰の判決」に続く長編第2作目。長く探していました。
スナックのママを殺したとして起訴された奈良林は、公判でいきなり、被害者の妹が共犯だと
主張したり、彼女にアリバイがあると分かると別の友人が殺したのだと主張したりして、担当
だった正義派の清原弁護士の怒りを買い、弁護士が被告を追及する異例の事態に。奈良林は有
罪と確定し、それから七年の月日が経った。新進の弁護士・水木は、今は亡き恩師の清原弁護
士の娘で、水木の同僚・堀井弁護士と結婚した郁子の依頼で、仮出所の噂がある奈良林の事件を
再調査することに。清原が被告を厳しく追及したのは何故なのか。だが、その最中に、七年前
と全く同じ状況の殺人事件が勃発し、容疑者・黒瀬の弁護を堀井が引き受けることになった・・・。
七年前の事件と、それを模した事件に加えて、弁護士側の人間関係までもが、それにシンクロし
た動きを見せているという非常に凝った作品で、最初の事件の真犯人の動機や、清原弁護士が
何故あんな弁護をしたかの秘密には、あの「原島弁護士の愛と哀しみ」や「絆」を書いた作者な
らではのものがあります。郁子の不可解な言動や現在起きている事件での堀井の秘密、仮出所し
た奈良林の思惑など、趣向は盛り沢山。
しかし、やや手を広げすぎて構成が錯綜してしまった嫌いがあり、途中で、どっちの事件のこと
だったか分かりづらくなる箇所があるのは残念。当時にしては非常に野心的な試みだったのだと
は思いますが・・・。
西村京太郎「日本ダービー殺人事件」(徳間文庫)★★★☆
1974年の十津川警部物の長編。
日本ダービー直前、本命馬タマキホープの馬主・玉木と騎手・北原のもとに、出走を取り
消せ、との脅迫状が届き、北原が毒殺されてしまう。対抗馬の馬主で玉木と犬猿の仲にあ
る仙石の仕業か。急遽代役の騎手となった山崎はダービーで惨敗してしまい、予想紙記者の
松本は八百長ではないかと追求を始める。だが山崎は行方不明となり、更に玉木も殺されて
しまう・・・。
これは意外な真犯人の指摘に工夫を凝らしています。たいていの読者は「仙石?いやいや、
アイツだろう、ほら、やっぱり。で、・・・・・・・だからエピローグで終わりだな」と思うはず。
しかし・・・。見事です。「・・・・・・」も計算に入れた上で読者をダマすとはねえ。
しかしそれ故か、細かい説明や結末の付け方が・・・・・・である感は否めません。それにしても
初期の作品は、手を代え品を代え、いろいろと読者サービスに徹してくれるなあ。
高木彬光「追われる刑事」(光文社文庫)★★☆
1969年のグズ茂ものの長編。
神戸の中堅商社の専務が殺された。同じ日に、兵庫県警捜査一課・岩崎刑事の一人娘も殺害
される。二つの事件には接点があるのか。更に事件の鍵を握ると思われる男が殺されるが、
事件当時、現場では、捜査から外された岩崎刑事が目撃されていた・・・。
「ハードボイルド風を狙った」とのことですが、全然違うじゃないか。恐らく岩崎刑事の孤独
で絶望的な単独捜査を描こうとしたけど、彼自身が容疑者になってしまったことから、彼の
視点からストーリーを展開できなくなった、ということでしょうかね。ごく普通のフーダニッ
ト物ですが、やはりトリッキーな味に乏しく、アリバイ工作も古臭い手だし、前述のとおり
チグハグな部分もあるので、ピリッとしません。失敗作だとは思いませんが・・・。
伴野朗「上海スクランブル」(徳間文庫)★★★
1984年の、日本の特務機関員・山城太助を主人公とするシリーズ第?弾。
1939年の上海。満州国政府の日本人駐在官が、自宅の電気カミソリで感電死を遂げた。
単なる事故と思われたのだが、満州国皇帝・溥儀が上海に来る情報を握っていた山城は、
蒋介石政権の特務機関の仕業ではないかと疑い、調査を開始する。更に溥儀との秘密会談
を企むナチス将校エーレンベルグ中佐、彼の計画を阻止しようとする上海のユダヤ人組織
が招聘した謎の刺客“シオンの長老”らの暗躍に、中国側特務機関の内紛騒ぎまで絡んで、
事態は混沌としてくる・・・。
感電死のトリックは、当時の上海租界でなければ成立不可能な、大胆で豪快なネタなので
すが、中盤までに山城によって解決されてしまうのが残念。残る謎は、“シオンの長老”の
意外な正体ですが、こっちは読者に薄々感づかれやすいかも。
まあミステリ的な興味よりも、どう結末が付くのか予断を許さない、魔都・上海の独特の
雰囲気に満ちた冒険小説として楽しむのが正解なのでしょう。
高木彬光「検事霧島三郎」(角川文庫)★★★☆
ようやく本シリーズの第一作を読めました(何故か見つからなかった)。1964年の作品。
東京地検公判部の若手検事・霧島三郎と婚約者・恭子。だが恭子の父親である竜田弁護士が
麻薬がらみで愛人を殺して失踪するという事件が勃発、二人の結婚は絶望的に。霧島は検事
を辞職してでも結婚しようとするが、上司の計らいで刑事部に異動、事件の捜査指揮を執る
ことになった。だが竜田弁護士が発見されるときが、二人の破局のときだった。それとも、
他に真犯人はいるのか・・・。
恭子との馴れ初め、部下の事務官・北原大八との関係、そして第2作「ゼロの蜜月」で主人公
となる女性との関係など、ようやくスッキリしました。やはり順番どおりに読むべきですね。
それにしても登場人物多数で、いろいろ小事件も起きて、事件の核心部分が一体どこにあるの
か、途中でサッパリ分からなくなってしまった。収拾つくのかよ、と思ったが、終盤も押し迫っ
たところでの或る登場人物の行動で、ようやく腑に落ちました。なるほどね。真犯人と動機は、
そういうことでしたか。真相の隠し方、という点では、さすがに上手いものですが、ここまで
長くすることもないでしょう。あと或る人物の言動も、もう少しさり気なくした方が良かった
と思う。とは言え、色々と読みどころのある、なかなかの作品です。
野坂昭如「三味線殺人事件−お多加師匠推理帖」(講談社ノベルス)(採点不能)
1984年の講談社ノベルス初期のラインナップの一冊。引退した三味線の老師匠・お多加が、
弟子で警視庁の刑事・調布が持ち込んでくる事件を、話を聞いただけで解決するという、
安楽椅子探偵物の珍品。この作家の作品は、ホラーの名品「骨餓身峠死人葛」しか読んだ
ことがなく、まさか、こんなミステリを書いているとは全く知りませんでした。
第1話の表題作は、お多加師匠と調布刑事が知り合うきっかけとなった事件で、三味線の
発表会の舞台で毒殺された男の謎。トリックは、この世界ならではのネタ。
「三味線殺人事件パート2」は、喘息持ちの老女の死。師匠は被害者のコレクションだった
三味線の状態を聞いただけで真相に至ります。
「歌沢殺人事件」は茶室で刺殺された老女。容疑者は事件勃発時に寿司屋にいたというアリ
バイがあるのだが・・・。海外の密室物の古典と同趣向。
「家元殺人事件」はホワイダニットだが凡作。「食道楽殺人事件」は殺虫剤を使った毒殺。
犯人の心理分析は鋭いが、それだけ。
「三絃師殺人事件」はネコを何十匹も飼っていた神戸の三味線職人が殺される。三毛猫に関
する或る「意外な事実」がミソ。
「乱拍子殺人事件」「いと爪殺人事件」「秘曲殺人事件」「比例代表制殺人事件」はいずれも凡作。
ベストは「食道楽殺人事件パート2」。大坂の小唄の師匠が弟子とのケンカで打ち所が悪く死ん
でしまう。階下で二人の言い争いを聞いていた、元マネージャーのグルメ評論家たちにはアリ
バイがあるのだが・・・。言い争いの矛盾点とグルメ評論家の文章から、師匠は真犯人を指摘する
のですが、これは見事。
以上11編、全体的に文章やストーリーが非常に独特で、題材は戸板康二風でもあり、セリフ回し
や洒落っ気は都筑「なめくじ長屋」風でもあり、阿刀田「Aサイズ殺人事件」に近い趣向もあるけ
れど、やはり、どれとも違う、非常にユニークな作品集。「本格」としてのレベルは正直、高くは
ないので、評価は★3つかと思いましたが、やはり野坂以外には誰にも書けないキテレツな珍品な
ので、良い意味で「採点不能」としますw
269 :
名無しのオプ:2008/05/15(木) 19:14:39 ID:rr5aKK17
創元の結城昌治、『長い長い眠り』も復刊するようだ
夏樹静子「Wの悲劇」(角川文庫)★★★★
1982年のE・クイーンに捧げられた代表作。どうも薬師丸ひろ子主演の角川映画の印象が強す
ぎて、原作が過小評価されているようにも思えますが、これは佳作です。
富士五湖畔・旭日丘。正月を過ごす和辻家の別荘で、一族の長老にして製薬会社会長の与兵衛
が姪の娘・摩子に刺殺されるという事件が勃発した。誰からも慕われている摩子のため、別荘
に居合わせた両親や大叔母、叔父、従兄に、被害者の主治医・鐘崎、摩子の家庭教師・一条ら
は、摩子を東京に帰した後、事件を強盗の仕業に見せるべく、足跡を付けたり、死亡時刻を遅
らせたりと、偽装工作を行ったのだが・・・。
倒叙物として進行してゆくのですが、実は・・・。これ以上は書けません。二転三転した後の真相
は見事だし、民法の規定に絡めた仕掛けも面白いです。そして「W」の意味するところも先ず先ず。
難を言えば、やはり、あの人物がどうしても目立つからなあ・・・。なお解説はE・クイーンと権田
萬治ですが、特に権田の解説はネタバレの部分があるので先に読まないこと。
荒木一郎「シャワールームの女」(徳間文庫)★★★☆
作者は俳優にして歌手、一時スキャンダルで姿を消していましたが復帰、これは1982年に書か
れたハードボイルドにして密室トリックのミステリ。
元刑事で売れない私立探偵の一条精四郎は、秘書の募集に応募してきた砂護妙子から「妹の恵子
は近々財閥の御曹司と結婚するが、実は従兄と恋仲にある。二人を説得して別れさせてほし
い」と依頼を受ける。彼女へ払う給料との相殺で依頼を引き受けた一条だったが、従兄の行方
を掴めないうちに、恵子は御曹司と結婚。だが新婚間もなく恵子はマンション浴室で手首を
切って自殺してしまう。一条は他殺ではないかと疑うのだが、現場は完全な密室状態にあっ
た・・・。
文体はなかなか軽妙で、軽ハードボイルドとして良く出来ています。密室トリックの方も、
秀逸とは言えないが、ちょっと前例を思い出せないユニークな方法だと思います。伏線も
それなりに張ってあるし、あとは真犯人の設定やプロットに一工夫あれば、佳作になりえた
と思います。思わぬ拾い物でした。
辻真先「伝説『鬼姫村伝説』」(集英社コバルト文庫)★★★
たまにはジュブナイルを。これは1979年の作品。
双子のアイドル「クローバー」の妹・ズッコがテレビ局のスタジオから謎の失踪。現場は
密室状態にあったが、どうやって外に出ることができたのか。失意の姉・ワコだが、主演
映画の撮影のため奥多摩のロケ現場へ。失踪したズッコのため、一人で二役をこなすワコ
だったが、ここでも事件は起きた。土砂崩れで道路が寸断され、電話もつながらなくなった
晩、助演の大女優が毒殺され、芸能誌の記者もまた、謎の紙片を残したまま、密室状態の
廃屋で殺されてしまう・・・。
ズッコ失踪の理由が大きく絡んだ失踪時の密室状況、クローズド・サークルの設定、第三の
事件における密室トリックにダイイング・メッセ−ジ・・・と、ジュブナイルでも決して手を
抜いていないのは流石。しかし手を抜いてなくとも、しょせん、飽くまでジュブナイルです
から、まあそれなりの出来。なお短編ホラー「おお!!幽霊パニック」を併録。
津村秀介「仙山線殺人事件」(青樹社文庫)★☆
1985年の浦上伸介物の長編。
賞金を争って生計を立てる、「真剣師」と呼ばれる賭け将棋師たちの仲間うちで起きた殺人
事件。四人組のうち久我と戸倉の二人は、仙台と天童で行われた将棋大会に参加したのだが、
山形で戸倉が殺され、同じ日に仙台で久我も殺されてしまう。現場からはお互いの指紋が発見
される。お互いに相手の加害者となったのか?浦上は事件の黒幕は、残りの二人、三木と横光
に違いないと追及するのだが、二人には鉄壁のアリバイがあった・・・。
二つの現場で発見された指紋の謎が思うような効果を挙げていないし、残りの二人のアリバイ
も、終盤までには読者に「アレだろ?」と感づかれてしまい、そのとおりだからガッカリ。
しかしこの作者の作品には、「現場に指紋があるけど、ソイツには鉄壁のアリバイがある」と
いうパターンが多いなあ。そりゃ、指紋があれば、あとはアリバイさえ崩れれば解決、という
のは分かりますけど、他の証拠を作者が考えられないだけじゃないの?
4連投スマソカッタ
中津文彦「遠野物語殺人紀行」(角川文庫)☆
1986年の長編。
学芸部の新聞記者・結城は、岩手県遠野での取材中、近くの山中で起きた航空機事故に遭遇、
元々は社会部志望だった結城は現地に一番乗りを果たす。乗客乗員全員死亡の大事故だった
のだが、やがて乗員乗客ではない2遺体が発見され、解剖の結果、青酸中毒死であることが
判明する。彼らは自殺なのか、それとも他殺なのか。結城は事件を追及するのだが・・・。
途中から犯人は判明し、以降、倒叙物の展開を見せるのですが、久々に時間のムダだと思った
超駄作。冒頭の小事件も、下らないアリバイ工作も全てミエミエ。序盤100ページに至らな
いうちに結末までの殆ど全てが見えてしまった。一つだけ分からなかったのは真犯人の動機の
背景。これは1ページ目に大胆なヒントがあり、唯一、この点だけは上手いと思った。
しかし、それ以外には全く採るところなし。そもそも作者は、こんなストーリー展開とプロット
が、謎解きミステリとして通用するとでも思っているのか。中盤に出てくる「遠野物語」の新解釈
の部分だけ力を入れていて、要するにコレを書きたいためにミステリの形式を借りたのでは。
しかし作者に輪をかけてヒドいのは、解説の高橋克彦。このヒトの解説は以前から要注意だった
が、幾ら同郷の友達の作品とは言え、よくもここまで虚偽に満ちたデタラメなヨイショを書ける
ものだなあ。
274 :
名無しのオプ:2008/05/19(月) 16:09:46 ID:Tdrofpb2
Wの悲劇の映画って無断で内容改変されて夏樹静子が激怒したんだっけ?
275 :
名無しのオプ:2008/05/19(月) 17:16:10 ID:YYFtppVO
>>262 笹沢作品は一般の書店は勿論のこと
ブックオフでも余り見かけなくなったね。
以前は105円コーナーに行けば
かなりの作品が簡単に入手できたのに。
276 :
名無しのオプ:2008/05/19(月) 20:06:21 ID:DBjm8jSx
> 映画って無断で内容改変
そんなのあたりまえのことなのに激怒って…
277 :
名無しのオプ:2008/05/19(月) 20:27:46 ID:QYxwwFnF
「読みました」報告・国内編30
藤本泉「針の島」(1978年カッパノベルス)
山形県酒田市沖の孤島・羽里島に休暇で訪れた新米刑事の五十嵐は島の神社の
高く険しい石段から男が墜落死するのを目撃する。盲目の巫女をはじめ島民たちの
奇妙な虚言に振り回されながら、神社の石段からの墜落死は過去に毎年のように発生して
いることを突き止めるが・・・東北地方の閉ざされた村を背景にした本格ミステリ、
「えぞ共和国」シリーズ第4作。意外な殺人トリックをはじめシリーズ中で本格度が一番
高い作品。そのかわり独特の土俗伝奇色は押さえ気味になっています。
278 :
名無しのオプ:2008/05/19(月) 20:36:00 ID:pDWKhl2v
夏樹静子が怒ったのは、映画の盗作問題があって(オリジナル部分がアーウィン・ショーの短編を勝手に下敷きにしていた)
原作者としてとばっちりを食ったからじゃなかったっけ。
笹沢左保「異常者」(徳間文庫)★★★★
1978年の長編。
女性ばかりを狙う「残虐魔」と名づけられた連続暴行殺人魔。弁護士の波多野は妹を殺され、
友人の警視庁警部補の山城とともに事件を追う。最近起きた3件の事件から、波多野は或る
共通点を見出し、犯人を指摘した。だがそれは以前から起きている事件に便乗した別の男の
仕業だった。残りの事件の真犯人は誰なのか。被害者には何の共通点もないように見えたの
だったが・・・。
半分も進まないうちに犯人が指摘され、どうなることかと思ったのですが、便乗犯とはね。
むろん、その後も波多野が何者かに狙撃されたりして、事件の核心に対する謎解きは続き、
どんどん盛り上ってゆきます。で、事件の真相はどうかというと、ミッシング・リンクの趣
向は余り面白いものではないですが、読者の注意を逸らす作者のテクニックには感心しました。
便乗犯も凄惨なレイプ殺人の描写も、全ては真相の意外性に不可欠なもので、やはり笹沢左保
はスゴいなあ。
しかし欠点もないではなく、あの登場人物の扱いは、どうもなあ・・・。それに、何の証拠も
ないのに、挙動が怪しいだけで犯人扱いして追求する波多野もスゴ過ぎ。アンタ、弁護士だろw
取りあえず、やや甘い評価ですが★4つ。
高木彬光「悪魔の嘲笑」(角川文庫)★★★
1955年の神津恭介物の長編。
東洋新聞を訪ねてきた浜野弁護士の名を騙る男が毒殺される。死の寸前、男は「美宝堂事件
の犯人は吉本ではない」と言い残していた。本当の浜野弁護士は美宝堂事件の被告・吉本の
弁護人であり、東洋新聞の真鍋記者は神津恭介の協力を得て、美宝堂事件の真相と男の毒殺
事件を追及する。だが謎の男の正体が判明したのもつかの間、彼や美宝堂事件に絡む関係者
たちが次々と殺されてゆく・・・。
うーん、人間関係にややご都合主義的な面もありますが、それなりに楽しめました。しかし、
登場人物がみな、かなりファナティックな連中ばかりで、作者の例の気負っているというか
独特の熱気というか、ヘンな語彙に満ちた文章はどうもねえ・・・。しかし「ピカドンの竹子」
ってスゴいネーミングw真犯人は何となく推測が付いてしまいましたが、ラストにはちょっ
とした驚きの真相も。
そういえばこの作品、冒頭は以前に紹介した「幻の悪魔」に良く似ているなあ。
紀和鏡「薪能殺人舞台」(祥伝社ノン・ポシェット)★☆
1987年の長編。
大学生の芽久美は、所属するサークル「万葉植物研究会」の旅行で奈良・飛鳥に行ったとき、
能楽師の衣川と知り合い恋に落ちる。東京で薪能が開かれたとき、シテ役で衣川の友人・柿
之元が失踪、やがて東京・奥多摩で死体となって発見される。死体とともに発見されたハン
カチに付着していた謎の赤土の秘密とは・・・。更にサークルの先輩も殺され、芽久美はサー
クルの先輩で彼女を慕う史朗と衣川の間で揺れ動きながら、殺人事件の渦中に巻き込まれて
ゆく・・・。
謎解きというにはアッサリしすぎ。一応フーダニットにはなっていて、レッドヘリングなど
も設定されているけど、どうも効果が上がっていない。死体の××に絡む或る謎の真相もどう
もなあ。犯人の設定も、終盤にもなってそりゃないだろ、と言いたい。ヒロインの恋愛模様
は丁寧ですけど。
仁木悦子「青じろい季節」(角川文庫)★★★
1975年のハードボイルド風長編。
ビジネス文書などの翻訳業を営む砂村朝人のもとに、助手の大学院生から依頼もしない文書
の翻訳が送られてきた。次いで、その母親から大学院生が失踪したとの相談を受ける。どう
やら彼は何者かに命を狙われていたらしく、興信所を雇って、或る男のアリバイ調べを依頼
していたらしい。その絡みから砂村は、別の殺人事件にも巻き込まれてゆく。やがて行方不明
だった大学院生は千葉県の海岸で死体となって発見される。果たして二つの事件に関連はある
のか・・・。
なかなか硬質な文体で、仁木流ハードボイルドが展開されていますが、「本格」風味も失って
おらず、何気ない伏線の見事さや巧妙な暗号文などはこの作者ならではのもの。しかし、これ
と言ったトリッキ−な目玉に乏しく、特に余りにも複雑な人間関係が上手く整理されないまま
で、読者に混乱を起こしかねない部分があるのが残念。あと手掛かりを全て出し切っていない
のもマイナス。この作者の実力を考えれば、凡作としか言いようがないでしょうね。
森真沙子「雪女の棲む館」(日文文庫)★★★
1986年の長編。
世田谷区の高層マンションで発生した住民の少年たちの連続転落死。単なる自殺で、少年たち
には何の共通点もないかに見えたのだが、同じく住民でニュースキャスターの藤枝杳子は、少
年たちには秘密の繋がりがあったのではないかと調査を始める。住民たちにも、謎の作家やら、
売れない女優、陰気な中学校教師など一癖も二癖もある連中がおり、それぞれ秘密を抱えてい
るらしい。一方、会費の盗難事件の内偵のため、マンションの管理組合に雇われた興信所の対馬
もまた、事件の核心に迫りつつあった・・・。
サイコホラーの味付けが濃厚ですが、最後には真犯人が特定され、フーダニット物として一本、
芯を通しており、なかなか興味深く読めました。やや伏線不足なのと、住民のオバサンたちの
DQNぶりにはいささか辟易しましたが・・・。軽い「本格」風味の「ホラー」として、まあまあ
の出来でしょう。
川上健一「珍プレー殺人事件」(集英社文庫)★
1987年のスポーツ物のユーモア・ミステリ長編。
低迷するプロ野球チーム・東京ビーバーズ。三野田と三島のバッテリーは試合中にロッカー
ルームでオーナーが殺されているのを発見。試合そっちのけで犯人探しに乗り出す。オーナー
を恨んでいる者は数多く、監督、コーチから選手たち、更に娘婿の球団社長などが容疑者と
して挙げられるのだったが・・・。
ピッチャー三野田が探偵役で、キャッチャーの三島がワトソン役ですが、何というか、ユー
モア・ミステリどころか、ユーモア物を書くこと自体を、この作家は止めた方が良いと思い
ます。ユーモアではなくて単なる悪ノリで、下品なワンパターンのギャグをしつこいほど繰り
返すだけの、非常に底の浅いもの。ミステリとしても、或るアリバイ工作があったり、犯人
特定の決め手に工夫を凝らしているけど、まあ、ひたすらバカバカしいだけの代物。
最近の作者は、爽やかな青春小説などで売れているようですが、恐らく本人にとっても、触れ
てほしくない過去の汚点ではないでしょうか・・・。
5連投スマソカッタ
逢坂剛「情状鑑定人」(文春文庫)★★★☆
1985年の短編集。
表題作は精神科医・祝田シリーズ。余りにもお粗末な誘拐事件の裏の事情とは・・・。まあ精神
医学上の話を持ち出せば、幾らでもキテレツな真相に出来るよなあ。でも意外性を凝らした
良作。
「非常線」は銀行支店長の娘がカネをくすねて男と逐電。マヌケな公安刑事を人質にして非
常線を突破したのだが・・・。このオチには以前に読んだ「空白の研究」の諸作で慣れてしま
ったw
「不安なナンバー」はタクシー運転手が同僚を使ってアリバイ工作を依頼、その間に殺人を
犯すのだが、タクシーの方も犯罪に巻き込まれてしまって・・・。ダイイングメッセージの真相
が笑える。
「都会の野獣」はバーの主人が雇った謎の女。実は或る強盗事件に絡んで刑事の執拗な追及
を受けているのだが・・・。二転三転する意外性を凝らした佳作。
「死の証人」も同様に、殺人事件の目撃者を刑事が篭絡、だが意外なことに真相は・・・。これ
また徹底的にドンデン返しに拘った佳作。
「逃げる男」は鮎川哲也のアンソロジーにでも採られそうな鉄道物の佳作。ローカル線で
知り合った二人の男。片方が話す事件の話がやがて・・・。ブラックユーモアも効かせて
サスペンスに満ちた、「百舌」シリーズ番外編とでも言えそうな作品。
「暗い川」は悪徳刑事もの。麻薬の売人をしている公安の女刑事。その上前をハネようと
する所轄署のデカ二人組。みごと麻薬の売り上げを暴力団幹部から奪ったかに見えたが・・・。
これは大変面白い作品でしたが、意外性という面では、前述の短編群に比べて劣るかなあ。
全体的にレベルは一定以上の出来で、「本格」とは言いがたい作品もありますが楽しめま
した。
先週に引き続いての連投スマソ
風見潤「殺意のわらべ唄」(天山文庫)★★★★
1987年の長編を文庫化に際して大幅に改稿したもの。
大学講師・神堂のもとに、恋人・奈々の友人である南田朋子が訪ねてきた。製薬会社の重役
を務める父親に童謡「夕焼け小焼け」を書き連ねた謎の手紙が送られてきたという。製薬会社
は社長一族の支配する同族会社だったが、果たして信州の研究所に出張していた専務が首を
切られ、胴体を吊るされる殺人事件が発生、専務のもとには童謡「てるてる坊主」の歌詞を書
いた手紙が送られていた。それを皮切りに会社重役を狙った連続殺人が勃発、横浜では、「赤
い靴」の手紙を送られた重役が赤い靴を履いて眼を青く塗られて殺され、京都では「とおりゃ
んせ」の手紙どおりに秘書が北野天満宮で殺される。神堂と奈々のコンビは一族の出身地、
大分・日田近くの夜明という集落へと向かうが、今度は社長が「かごめかごめ」のとおりに殺
されてしまう・・・。
この作者には「出雲神話殺人事件」(前スレ参照)という佳作がありますが、本作も「童謡によ
る見立て殺人」を扱った秀作です。「見立て」を行った理由の秀逸さに加え、鉄道ネタのアリバ
イトリックもなかなかの出来栄え。真犯人の動機について事前に手掛かりが出されていないの
はマイナスですが、お勧めの佳作です。
斎藤栄「北陸トンネル殺人事件」(ケイブンシャ文庫)★★★☆
1979年の長編。
刑務所から二人の囚人が脱走、追跡を振り切って近くの団地に潜入する。だがその団地では
別に不審な出来事が相次いでいた。スーパーでは漬物の瓶詰めから人間の指が発見され、風
に飛ばされた紙幣の猫ババ疑惑も発生、対応に当たった派出所の巡査・西原が批判の矢面に
立たされていた。更に幼児誘拐事件まで勃発、そこに脱獄囚たちが絡んできて、ますます事
態は混迷していった・・・。
中盤終わりごろになって、「ひょっとして、これは海外古典のあの名作のバリエーションなの
では?」と思ったのですが、少々違っていた。あの人物が西原巡査に・・・・・・・というところは
分かったのですが、それが具体的にどう事件に繋がるのかが分からず、真相を知ってなるほど
と納得。別に大きなトリックがある訳でもないし、或る程度はバレバレなのですが、あのネタ
に絡めたところは上手く、また全体的な構成も珍しく破綻しておらず、まずまずの作品だと思
います。
西村京太郎「消えたタンカー」(講談社文庫)★★★★
1975年の十津川警部物の長編。
超大型タンカー・第一日本丸がインド洋沖合で爆発炎上の末、沈没した。乗員32名のうち
船長ら6名は救命ボートで脱出、漁船に拾われて九死に一生を得るが、残りの乗組員は行方
不明となった。だが帰国した生存者らを狙って連続殺人が勃発する。船長に続いて航海士が
高速道路で自動車もろとも射殺され、ヨットで南米に向かった航海士は時限爆弾で殺され、
更にスキー場で、沖縄で・・・と狙撃されてゆく。行方不明だった乗組員の一人が奇跡的に生還
し、密かに帰国して復讐を開始したのか。だが事件を根本から見直した十津川警部は、飛ん
でもない策略に気付く・・・。
ハラハラ、ドキドキ、実に楽しく読むことが出来ました。タンカーの爆発、狙撃犯による家族
もろともの情け容赦の無い殺戮、しかし実は・・・。まあスケールのデカいこと。確かにこの時代
には、アレは事実そうであったけど、現実には不可能じゃないか、とも思うのですが、まあ、
そこはそれw
ただ、裏の真相がアレなので、真犯人の設定がああなるのは止むを得ないとは言え、ちょっと
なあ・・・。しかし事前に言及はされており、できるだけフェアにしようとしたことは理解できる
ので、まあ良しとしましょうか。厳密には「本格」とういのは苦しいかな、とも思いますが、
本作あたりがボーダーラインかなあ。あと結末の説明はもうちょっと詳しくても良かったので
は。でも佳作。
真木洋三「軍縮謀殺」(角川文庫)★☆
1977年の長編。
新進の国会議員・大越が箱根で自動車ごと爆殺される。生前、大越は世界平和のための「MI
作戦」なる謎の計画を進めていたらしいのだが、それは何だったのか。犯人は計画を阻止しよ
うとする軍産複合体の連中なのか。神奈川県警の刑事・速水らが捜査を進めるうち、被害者の
スケジュールを承知しており自動車に時限爆弾を仕掛けることができた、軍需産業の関係者が
容疑者として浮かび上がるが・・・。
作者は企業小説の書き手ですが、権田萬治の解説がなかなか面白そうだったので、期待して読ん
でみたのですが、うーん、ダメだった。真犯人の設定は少々意外で良かったけれど、爆殺のトリ
ックは、ちょっとだけヒネってはいるものの、しょせんは機械的で面白くないし、結末で明らか
になる「MI作戦」なるものの真相が、何というか、言葉そのものの意味で「ナイーブ」でした。
とことん楽天的で能天気な幻想で、読んでるこっちが照れてしまった。もっとも、1977年に本作
が発表されてから数年後に、似たモノが実現したことを考えれば、あながち嗤うことも出来ない
ですけれど・・・。
288 :
名無しのオプ:2008/06/02(月) 22:01:10 ID:WKAiUZ58
高木彬光『大東京四谷怪談』(角川文庫)★★
1976年の長編。
陽気な未亡人と呼ばれる村田和子を語り手とした墨野朧人シリーズの第三作。
「現代版四谷怪談」の脚本を執筆中の劇作家の元に、お岩の幽霊を名乗る女から執筆中止を勧告する電話がかかったのを発端に、
四谷怪談を下敷きした連続殺人事件が発生する
四谷怪談に刺青を絡めた初期作品を彷彿させる豊富な道具立てだが、いかんせん作者の筆に全盛期の勢いが感じられないし、
犯人の恩讐には慄然とさせられるものの、事件の着地そのものが物足りない。
シリーズ第一作『黄金の鍵』での赤城山埋蔵金に関する鋭い考察が印象的だったのだっただけに、
この作品では、健康上の問題もあってか、作者の創作力の衰えが歴然。
傑作になりえる要素もあっただけに勿体ない作品ですね。
夏樹静子「見知らぬわが子」(講談社文庫)★★★☆
1971年刊行の第一短編集。
何といっても「暁はもう来ない」★★★★の出来が傑出している。美容教室を経営する「私」は
愛する裕介とともに、彼の悪妻を殺そうと共同してアリバイ工作を企むが・・・。事件の展開や
動機に不自然な部分もあるが、終盤の或るセリフの破壊力は結構スゴい。読み返してみれば、
些細な描写やセリフにも作者の気配りが行き届いている秀作。
残念ながら他作品はそれほどでもないです。表題作は、スナックを経営して娘の育児を家政婦
に任せていた母親が或る日、自分の娘が別人なのでは、と疑い始める。だが夫も周囲の人間も
笑って取り合わない。しかし母親は、夫の昔の愛人が娘をすり替えたのではないかと追求を始
める・・・。ラストに意表を突いたヒネりがあるけど、ただそれだけ。
「襲われて」は仕事帰りのホステスが何者かに襲われそうになるが、通りかかった別の男に助け
られ、その男はナイフで刺されて負傷してしまう。その頃、近所では高利貸しが殺されていた
のだが・・・。オチは読めてしまった。
「死ぬより辛い」は不慮の事故で急死した娘を夫から隠そうとする妻の話、ラストのヒネりは上
手いけど、そこに至るまでの展開にムリがあり過ぎる。
「断崖からの声」は新聞記者の「私」がひょんなことから高校時代の旧友の彫刻家と知り合う
が・・・。アリバイ物にヒネりを入れているけど、大して出来ではない。「緋の化石」も同様。
巻末の「死人に口有り」は先ず先ずの出来。男の名前を口走って絶命した女。その男のアリバ
イがアヤフヤなのは何故か。男の恋人が真相を追究するのだが・・・。時計に関する些細な描写
が上手い。
全体にそれなりのレベルではあるけど、「暁はもう来ない」だけ突出して、それに続く作品が
無いのが残念です。
辻真先「迷犬ルパンの蒸発」(光文社文庫)★★
1985年のシリーズ第4作の長編。
病院の廃墟で発見された、顔と指紋を硫酸で潰された凄惨な死体。捜査の途中で朝日刑事と
ルパンはケンカ、置いてきぼりになったルパンは鉄道自殺しようとした女の子を助け、そこ
を通りかかったロック・バンドの連中とともに三重県・合歓の郷に向かう。一方、顔の潰れ
た死体は、朝日刑事かかりつけの歯科医・矢吹の従妹と判明する。だがその女性こそが、ル
パンと一緒に旅をしている女の子だった。では死体の正体は?ルパンと女の子は、ランや朝
日刑事の追跡を逃れるため、バンドのメンバーと別れ、新宮、熊野古道へと向かうが、別の
追っ手が迫っていた・・・。
「何故、顔の無い死体にしたのか」の論理は面白かったのですが、肝心の部分、特に真犯人の
設定が、きわめてご都合主義。結末での真相の説明ぶりも面白くない。ルパンとヒロインの
南紀珍道中を楽しめば良いだけの作品。
高木彬光「脅迫」(角川文庫)★★☆
1966年の百谷夫妻物の長編。
電機メーカーの優秀なセールスマン殿村は、富豪令嬢との結婚を控えた或る日、日系人の実業
家の妻を名乗る女・加山久世に騙され、刺青を施した全裸の彼女との写真を撮られて脅迫され
てしまう。殿村は占い師に紹介された私立探偵・鈴原に調査を依頼するのだが、やがて熱海の
マンションで久世は殺されてしまい、殿村は殺人容疑で逮捕されてしまうのだが、その後も関
係者が次々と殺されてゆく・・・。
殿村が逮捕された後に殺人が続けば、殿村の容疑は晴れるし、久世の思惑と真犯人の動機が複
雑に絡んでいる点は理解できるけど、どうも全体にチグハグな印象を受けます。この作者だけ
にフーダニット物として一定の水準は保っているけど、ダイイングメッセージである漢方薬の
袋の真相もしょうもない出来だし、トリッキーな大技もなく、やはり凡作としか言えないと思
います。
3連投スマソカッタ
和久峻三「復讐の時間割」(角川文庫)★★★
京都府警の音川音次郎警部補を探偵役とするシリーズ中編2作を収録した1985年の作品。
先ずは表題作。京都のホテルで会食中、近くのビルから男が転落死。だが血痕だけ残して死体
は消えてしまう・・・。目撃者たちへの訊問がダラダラと続いてウンザリな上、不可能状況の真
相が一番お粗末な方法でガッカリ。ただ「これじゃアレの必然性が成り立たないだろ」と心配
していた点は、最後のドンデン返しでフォローされていて一安心。
「夕顔の女」は、天橋立で友人たちとのグループ旅行から失踪した女性が、はるか離れた広島・
宮島のゴンドラで死体となって発見される話。だがゴンドラは外から鍵が掛けられており、犯
人が脱出することも、また犯人が死体をゴンドラ内に押し込むこともできない状況となってい
た・・・。これは惜しい作品。話の運びや伏線、特に「被害者が○○○を持っていなかった」と
いうヒントは実に見事なのに、トリックというか真相が脱力もので、厳密に言うと地の文に虚
偽すらある。しかし、折原一の「天外消失事件」より数年も前に、ゴンドラの密室トリックに挑
んだ点は記憶されるべき。トリック自体はもちろん折原作品の方が遥かに上だけど、伏線の渋
さは本作に軍配が上がると思います。
292 :
名無しのオプ:2008/06/14(土) 01:50:02 ID:Gg77iVMD
来月から光文社文庫で、
笹沢左保コレクションが始まるそうだ。
293 :
名無しのオプ:2008/06/14(土) 01:52:40 ID:vlmTSOGX
笹沢左保はヤクザのような容姿から読まず嫌い
294 :
名無しのオプ:2008/06/14(土) 02:04:09 ID:bdfKYXxX
ヤクザと決闘したらしいね
295 :
名無しのオプ:2008/06/14(土) 07:33:25 ID:zpjJWEBP
近所の古本屋に陳瞬臣の本が大量にでてるんですが、
どれがおすすめ?
296 :
名無しのオプ:2008/06/14(土) 08:11:07 ID:Gg77iVMD
>>295 とりあえず初期の作品は押さえた方がいいと思う。
かなり高水準だし。
結構、密室物も多いよね。
297 :
名無しのオプ:2008/06/14(土) 09:31:44 ID:IFQg5Omh
てか安けりゃ全部押さえとけ
基本的に大外れは無い
298 :
名無しのオプ:2008/06/14(土) 11:03:28 ID:4BRojKqx
>>292 第1回配本が『取調室』か
初期の傑作は以前に復刊したから、中・後期を中心に復刊するんだろうか
長編よりも短・中編を中心に出してほしいんだけど、無理な話かもなぁ
巻末に全著作リスト(改題情報あり)&全作品リストを付けてくれると嬉しいのだけど、
これも無理かもなぁ
299 :
名無しのオプ:2008/06/14(土) 11:55:51 ID:4sqDE+LB
陳舜臣のミステリお勧めベスト5は
@方壺園
A闇の金魚
B炎に絵を
C枯草の根
D三色の家
@は短編集だけど、日本の短編パズラー歴代ベスト3に入る傑作、不可能犯罪
トリック満載です。ちなみにベスト3他の2作は「亜愛一郎の狼狽」「血みどろ砂絵」
300 :
名無しのオプ:2008/06/14(土) 12:27:35 ID:bdfKYXxX
「三色の家」「長安日記」「炎に絵を」を読んだことあるけど
何かパッとしなかったなぁ
「方壺園」「弓の部屋」は積んでる
301 :
名無しのオプ:2008/06/14(土) 15:09:46 ID:R9CsDIoe
「用意金瓶梅」がなぜ出ていない?
302 :
名無しのオプ:2008/06/14(土) 16:18:25 ID:Xg/xW1ip
それは陳じゃないやん
303 :
名無しのオプ:2008/06/14(土) 17:35:57 ID:Y7kyAVpK
日本の短編パズラー歴代ベスト3にってことじゃないすか?
304 :
名無しのオプ:2008/06/14(土) 20:01:33 ID:ZUSsidT0
>>299さんのベスト3なんだから、入ってなくても別にいいだろ
305 :
301:2008/06/14(土) 20:52:15 ID:R9CsDIoe
素で間違えた ('A`)
306 :
282:2008/06/14(土) 23:20:37 ID:Gg77iVMD
>>298 おそらく『他殺岬』『悪魔の部屋』あたりは復刊されるじゃないかな。
基本的に以前に光文社文庫に収録された作品がメインじゃないかな。
個人的には『不倫岬』が、お気に入りなんだけど。
307 :
292=306:2008/06/14(土) 23:24:53 ID:Gg77iVMD
間違えた。
282ではなく292です。
308 :
名無しのオプ:2008/06/15(日) 01:00:32 ID:jjYp9x6/
>>293 作風がやくざっぽいわけではないのを一応書いておく。
309 :
名無しのオプ:2008/06/15(日) 01:04:03 ID:/9VIlxo2
見た目も作風もヤクザ→大藪春彦
310 :
名無しのオプ:2008/06/15(日) 02:06:20 ID:TfhWDXWZ
>>306 なるほど、光文社文庫に収録されていた作品の復刊か
岬シリーズはいいとして、『悪魔の部屋』はどうだろ
官能小説(新妻監禁陵辱もの)じゃないかw
辻真先「迷犬ルパンの犬疑」(光文社文庫)★★★☆
1985年のシリーズ第5作の長編。
つくば万博にやって来たルパン、朝日刑事ら一行は、アニメ制作会社を巡る殺人事件に巻き
込まれる。その会社では社員の男女二人が失踪していたのに続いて、会場付近の宿泊先のロ
ッジ村では放火殺人を起こされ、更に会場内のトイレでは、ルパンに吠え付かれた犬嫌いの
老人がショック死してしまう事件も発生。責任を感じた朝日刑事はルパンを捨ててしまうが、
やがてパビリオンでの密室殺人も勃発する・・・。
第4作「蒸発」(
>>290参照)がパッとしなかったのですが、本作でやや持ち直したか。最初の
事件や密室殺人の真相は拍子抜けですが、放火殺人や老人ショック死の真相は、乱歩の或る
作品を思い出して笑ってしまった。意図的にやったパロディなのでしょうが、トリックよりも、
中盤に出てくる無関係と思われた挿話が大胆な伏線として、最後にピリッと利いてくる点が良
かった。まあまあの作品。
伴野朗「白い殺人者」(双葉ノベルス)★★
1992年の、秋田と思しき地方の新聞記者「俺」を主人公とした長編。
新幹線の利権に絡む地元企業と代議士秘書の汚職疑惑を追っている「俺」は、事件に関する
特ダネ記事を入手するが、地元企業側に名誉毀損で訴えられ、情報提供者を明かさないため
窮地に陥ってゆく。そんな或る日、連続射殺事件が勃発する。だが第一の被害者と第二の被
害者には何の繋がりも見出せなかった・・・。
一種のミッシングリンク物ですが、謎解きとして面白くないし、何より真犯人の設定が上手
くいっていない。秋田の地方色は良く描けているけど、例によって「俺」のキャラが大仰と
いうか月並みというか、合わないなあ。氏名不詳の記者ということで、三好徹の「天使」シリ
ーズと比較してしまうが、やはり三好作品の方が遥かに出来が良いと思います。
高木彬光「花の賭」(角川文庫)★★★
1969〜70年あたりに発表された霧島検事物の短編を収めた作品集。
「六年目の決算」は横領犯人の元証券マンが仮出所した直後に殺される、被害者は死んだ
妻の遺骨を気にしていたらしいのだが。うーん、ヒネりが足りなくトリッキーなところも
ない凡作。
「拳銃魔」は拳銃による無差別殺人を繰り返す射殺魔の話。海外古典の余りにも有名なト
リックそのまんまで頂けないが、真犯人は一応ヒネっている。
「氷の炎」は霧島検事の妻・恭子の友人が主人公。彼女の夫が自宅で殺された上に放火さ
れる。謎の密告者は、その妻が犯人だと主張するのだが・・・。非常に屈折した動機による
犯人の意外性には感心した。でも放火のトリックは、せっかくのアイディアなのに、密告
者のアレがストレート過ぎて、小中学生レベルでもバレてしまうと思う。当時の読者は気
付かなかったのだろうか?(いや、小中学生だからこそ知っていて、一般の大人は忘れて
いるのかも)
表題作は作者お得意の刺青ネタ。ヤクザの親分が殺される。数多の愛人たち、組のナンバー
2、更には抗争相手のヤクザ、いったい犯人は誰なのか。これは刺青を使った或るトリッ
クが在り来たりとは言え、話の方は先ず先ず面白く出来ている。
まあ全体的な評価は、可も無く不可も無く、といったところでしょうか。
森村誠一「誘鬼燈」(文春文庫)★☆
1976年の長編。
青森県・野辺地で起きた新婚間もない妻の殺害事件。捜査当局は被害者の秘められた過去
を追って、長野、神奈川を訪ねるうち、一人の容疑者に行き当たる。
一方、岩手県で起きた乳牛運搬トラックの運転手殺し。牛の密売組織に襲われたのか。岩
手県警の地道な捜査が続くが、密売に関わったとされる男も殺されてしまう。だが、青森
県の殺人事件との接点が見えてきたとき意外な真相が・・・。
タコグラフの走行記録からの様々な推理は面白かったのですが、それ以外は、全く面白く
なかった・・・orz
中盤で誰もが予想するとおりで脱力。その先を狙った真相も一つ用意されているけど、伏線
も無しに出されてもなあ。あとラストも人生の皮肉さを訴えたいのか知らんが、効果が上が
っておらず意味なし。駄作。
山村正夫「死人に口なし女に目あり」(双葉ノベルス)★★★
ミステリ作家志望の派遣社員の高村遥子と、警視庁捜査一課の刑事である弟・鉄平のコンビ
による1987年の連作集。
「苦いバレンタイン・デー」は遥子の勤める商社で起きた課長殺し。バレンタインのチョコに
仕込まれた青酸カリで毒殺され、送り主である遥子の同僚が疑われるが・・・。或るトリックが
出てくるが、どうして途中で気付かない?
「ガラスの部屋」では遥子は証券会社に勤務。ガラス張りのタイプ室で起きた密室状態の殺人。
この作品が発表された時代ならではのトリックで、やはり今読むと苦しいかな。
「死者のバトン」はモーテルでおきた首吊り自殺の真相。アリバイ工作も自筆の遺書も、どちら
も使い古されたトリック。
「ブライダルの債務」はエリートの御曹司との結婚を控えた女性が学生時代の知り合いに脅迫さ
れるが脅迫者が殺されてしまう・・・。このトリックも好い加減飽きました。
「落したアリバイ」は、拾った財布の落し主を遥子が訪ねると、落し主の女性が殺されていた話。
隣室の男が聞いた子供の声、という謎がちょっとだけ面白い。
「エキストラ殺人」は遥子が旧友やその婚約者らと伊東に旅行、しかし友人の婚約者が別の女性
と会っているところを目撃してしまい・・・。これがベストかな。トリックは今一つだが、錯綜した
謎と真相の意外性に工夫を凝らしています。
全体に、同じ作者の「悪霊七大名所の殺人」や、海渡英祐のユーモア本格短編群などに連なる系譜
の作品ですが、トリックに新味が見られないのは残念。
4連投スマソカッタ
赤川次郎「三毛猫ホームズの感傷旅行」(角川文庫)★★★☆
1986年の、「運動会」「びっくり箱」「クリスマス」に続くシリーズ4冊目の短編集。
表題作は、公園でヒマを潰していた片山刑事が顔見知りの刑事に或る女性の監視を頼まれ、
女性の行くまま列車に乗り込んで追いかけていると、旅行に出ていた晴美や石津刑事らと
一緒になり・・・。これは犯人の意外性に秀でた佳作。サラッと書き飛ばしたように見えて、
最初から最後まで間然とすることろがないのは流石。
「・・・の奇跡」は、ドライブで道に迷った片山ら一行が、山中で女性を拾い、新興宗教の施
設に送り届けるのが発端。だが片山らが宿泊したホテルでその教祖が殺されてしまう。教祖
の愛人らが主張する、現場に近寄った或る人間の特徴は意外にも・・・。いわゆる「見えない人」
をヒネッたトリックですが、ちょっと真相を錯綜させ過ぎかも。
「・・・の優雅な生活」「・・・の同窓会」は凡作。
「三毛猫ホームズの〜」の冠詞が付かない「保健室の午後」が集中の異色作。女子高生の視点
から、高校の保健室で起きた保健教師殺しを描いたもので、謎解きは他愛ないものだが、「片
なんとかという刑事とその三毛猫」とヒロインの出会いが実に印象的に描かれています。
315 :
名無しのオプ:2008/06/16(月) 05:58:09 ID:ePglFuJi
>>310 復刊されるのは本格だけとは限らないんじゃない。
時代小説だけど『見かえり峠の落日』なんかも傑作だし。
風俗小説でも『六本木心中』なんかも、笹沢作品を語る上では落とせないし。
作風が幅広い人だから、広い視野でセレクトされるといいですね。
316 :
名無しのオプ:2008/06/16(月) 22:30:42 ID:ePglFuJi
◇『仲のいい死体』 結城昌治著
山間の町での巡査と人妻の変死事件に挑む、郷原部長の孤軍奮闘!
創元、八月刊行予定だそうです。
317 :
名無しのオプ:2008/06/17(火) 03:52:58 ID:R4JtND29
創元は郷原部長刑事シリーズ三連発か。
まあ、結城昌治のミステリで本格といえるのは
このシリーズだからね。
笹沢左保「愛人岬」(光文社文庫)★★★
1981年の「岬」シリーズ第5作。
勤務先の上司・水沼と不倫の関係にある香織。舞鶴・丹後半島を二人でひそかに旅行した
が、現地で殺人事件に巻き込まれる。被害者は水沼の友人で、被害者に借金があったこと
から水沼が疑われるが、彼は事件当時、疲れて別荘の地下室で眠っており、その地下室の
鍵は、所用で出かけた香織が外から施錠していたことから鉄壁のアリバイがあった。さら
に現場近くでは、もう一つ別の殺人事件が起きており、水沼の無実を信じる香織は、そっ
ちの事件の犯人が水沼の友人を殺したのではないかと調べ始めるのだったが・・・。
作者はこのトリックを使ってみたくて仕様がなかったのでしょうね。香織に外から施錠さ
せる事態に至る辺りの描写がもう空々しいことこの上ないです。しかしトリック自体は、
アレしかないだろ、とは思うものの、ソレを成立させるための或る件についての伏線は周
到で、ちゃんと冒頭から大胆にも言及しているのは流石です。もう一件の殺人事件との絡
みが弱いのが難点ですが、作者の狙いは別のところにあったので、まあ仕方がないでしょ
うか。先ず先ずの作品。
島田一男「殺人捜査本部」(天山文庫)★★★
1947〜68年頃までの作品を収めた短編集。
「殺人交響楽」はマンションの一室で起きた密室殺人。箪笥の中に閉じ込められた男が疑わ
れるが・・・。トリック自体は大したものではないが、冒頭の描写がシブく決まっている。
「手のない女」は手首を切断されて殺された女の話。手首を切断された理由がやや弱い。
「国道駐在所」は服役囚が捨てた母子を育てている伊豆の巡査、その囚人が出所して伊豆に
やってきたが、何者かに殺されてしまう・・・。ちょっとしたトリックだが、これはバレバレ。
「死霊の唄」はベトナム戦争に従軍した医者や看護婦を巡る話。二人の仲間を見捨てて帰国
した医師のもとに、死んだはずの仲間が訪ねてくる。やがて医師はマンションから飛び降り
自殺するのだが。以前に紹介した笹沢左保の某短編にも使われた大胆なトリックが面白い。
「死者の掟」は凡作、巻末の「渋柿事件」は別の密室物のアンソロジーで既読だったがこれは
佳作。青酸カリによる服毒自殺と思わせて、タイトルに絡む小道具のちょっとした矛盾から
密室トリックを暴くもの。
西村京太郎「北帰行殺人事件」(光文社文庫)★★
1981年の十津川警部物の長編。鮎川哲也のエッセイ集に収められていた本書の解説を読んで、
面白そうだなと思って読んでみました。
警視庁捜査一課の刑事だった橋本が突然の辞職、北海道の稚内に住む母親の旅館を継ぐという。
だが彼が乗った寝台車や青函連絡船で相次いで殺人が起こる。被害者はいずれも全裸にされ、
口紅で「死ね」と殴り書きされていた。十津川は橋本の恋人が自殺しており、その原因に被害者
らが絡んでいたことを知る。橋本が恋人の復讐を開始したのか。十津川は部下であった橋本の
復讐を阻止すべく、真冬の北海道へ飛んだが・・・。
作者がベストセラー作家になって間もない頃の作品だと思うのですが、いよいよ、「×××、と、
十津川は、言った。」といった調子の文章が出始めていますね。
内容的には、犯人の登場の仕方がワザとらしく、アリバイ工作も鉄道豆知識の域を出るもので
はないし、読者をミスリードさせる部分の描写も空振り気味。それでも真冬の北海道の地方色
などの描写は上手いし、またグイグイと読者を引っ張ってゆく力もあるので、「本格」として
でなければ十分楽しむことが出来ます。でも結末の付け方はどうかなあ。芦辺拓「不思議の国の
アリバイ」でも感じたけど、こういう一種の「取引」めいたものは好きではないです。
岡江多紀「猫のいる風景」(双葉文庫)★★
1982〜88年頃の作品を収めた短編集。
「ベビーはご機嫌」は婚約者を蹴落として意中の男と結婚した女性が妊娠、だがライバルだった
女性が自殺していたことを思い出し、或る「不安」に駆られてゆく・・・。良くあるサスペンス。
「夜明けはメランコリー」は、何か大昔の落合恵子を思い出させるラジオのDJが主人公。番組
で紹介したハガキが原因で、主人公の旧友が殺される。犯人は直ぐに判明するのだが、被害者の
婚約者だった女性から「あのハガキは自作自演で、犯人を唆したのではないか」と疑われ・・・。
スッキリとした謎解きの良作ですが、伏線不足は否めないです。
「青いポケットチーフ」は取り立てて言うことなし。
「口やくそく」は叙述形式に工夫を凝らしているが、ただそれだけ。
「噂のふたり」はアリバイ物の良作。さり気ない伏線が上手く決まっている。これがベスト。
「三人めの女」や表題作も、単なるホラー風味のサスペンス。
全体に、いかにも80年代だな、と思わせる作品が多いです。この作者は不倫以外に興味はない
のかw
5連投スマソカッタ
広瀬仁紀「社長抹殺」(徳間文庫)★★
大企業グループの大会長・鎮目甲斐と秘書のサリーちゃんこと吾妻佐理が活躍する「カネに
恨みは数々ござる」(
>>177参照)の続編となる1988年の長編「平将門殺人事件」の改題版。
箱根をドライブ中の鎮目と佐理、佐理の母の日本舞踊の師匠にして会長のお気に入りの老女
「神楽坂の師匠」の三人。箱根ターンパイクで遭遇したクルマの爆発事件に興味を持った鎮目
は、後輩に当たる警察庁長官を口説いて事件の調査に乗り出す。現場からは時限装置が見つか
らず、また事件直前の現場を通りかかった目撃者は、クルマのそばで蛍火を見たという。事件
は被害者の男が取締役を務める不動産会社の内紛が原因らしく、やがてワンマンの三代目社長
が、スキヤキを食べたのにフグ中毒で死ぬという奇怪な事件へと発展してゆく・・・。
原題の謂れは、件の不動産会社が平将門を祀る聖域をブッ壊してマンションを建てたから、その
タタリでは?と思わせる演出があるからです。「まさか、草野唯雄のアレみたいなトンデモな
結末じゃないだろうな」と危惧しましたが、それは杞憂に終わって一安心。でもそれじゃ、所々
に出てきた平将門と藤原純友のエピソードがまるで無意味じゃないのかなあ。
それはともかく、クルマ爆破事件の真相は、まあ伏線がない訳じゃないけど、ちょっと目先を変
えた小道具というだけで面白くないし、フグ中毒死の真相も、あの描写から言っても、アイツの
仕業としか考えられないよなあ。そもそもフグ毒を使う必然性はどこにあるのか?
また犯人特定のところで、「知っているはずのことを知らなかった」がシブく決まっているとは
言え、やはり切れ味の鋭さに欠けます。
一応、全体の構成は「本格」のセオリーに則っていますけど、トリッキーな趣向が殆どないから
楽しめませんね。
323 :
名無しのオプ:2008/06/23(月) 23:21:41 ID:CbOIzm3Q
>>299 方壺園読みました。
どう思おうが自由だと思うがいくらなんでも「日本の短編パズラー歴代ベスト3に入る傑作」
は褒めすぎでしょう。
密室といっても機械的トリックがほとんどだし、それもそんな凄い驚愕のトリックってわけじゃない。
正直出来が悪いとは思わないが、このクラスのパズラーなら、毎年1冊くらいは普通に出てるって感じ
324 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 00:17:27 ID:eyRnKMss
>このクラスのパズラーなら、毎年1冊くらいは普通に出てるって感じ
いや、俺も歴代ベスト3はオーバーだと思うけど、これはないよ。
そのクラスのパズラー短篇集は、5年に1冊も出れば御の字かと。
「方壺園」は一つ一つの出来は突出していなくても駄作がなくて
作品集全体のレベルが高い。こういう短篇集は実はあまりない。
歴代だと、山田風太郎「虚像淫楽」、多岐川恭「落ちる」、土屋隆夫「穴の牙」
連城三紀彦「戻り川心中」、泡坂妻夫「煙の殺意」、高橋克彦「歌麿殺贋事件」
井沢元彦「葬られた遺書」、宮部みゆき「我らが隣人の犯罪」あたりだな。
「方壺園」はここに入っても遜色ない。
平成以降、このクラスのパズラー短篇集が20冊も出ているとは思えないが
俺が読んでいないだけかも知れないので、書名を教えて欲しい。
325 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 00:21:05 ID:YIihUY2r
「虚像淫楽」が収録された短編集の表題は「眼中の悪魔」だろ
326 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 00:24:49 ID:eyRnKMss
俺が言いたかったのは桃源社版「虚像淫楽」のことだった。
今は光文社文庫の「眼中の悪魔」に丸ごと入ってる。
説明不足でスマン。
327 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 00:25:53 ID:a5hqp/pG
旺文社文庫のことじゃね?
328 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 00:26:32 ID:a5hqp/pG
ああ、かぶったorz
329 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 00:33:57 ID:YIihUY2r
いや、最初に「虚像淫楽」が収録された岩谷書店版のこと
「方壺園」は短編集の表題として定着しているが、「虚像淫楽」はそうではないので
短編集として挙げるときは最初に「虚像淫楽」収録された岩谷書店版「眼中の悪魔」
を挙げるべきだと思った次第
330 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 00:42:17 ID:Yh1L8Q7S
331 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 00:51:14 ID:x8jnArcK
別に罵詈雑言でもないし、ちゃんと理由つけて否定意見述べるぶんには別にいいじゃん
332 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 01:05:25 ID:YIihUY2r
少しでも自分の意見に否定的な意見が出ると噛み付かれたと感じるのは
日頃の人とのコミュニケーション不足のせいでしょうか
333 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 01:10:50 ID:eRGxJlBo
はいはい自演認定乙。おれは299じゃないよ
個人の評価なんだから「日本の短編パズラー歴代ベスト3に入る傑作」
と書こうが勝手だと思うしそれに対して
「いくらなんでも褒めすぎ」というのも無意味だと思うんだけどね
「驚愕のトリック」かどうかが評価する際に重要なのかも個人によるし
334 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 01:14:48 ID:YIihUY2r
ID変ってるけど
>>333=
>>330ってことでいいのか?
>個人の評価なんだから(中略)と書こうが勝手だと思う
なら
>それに対して「いくらなんでも褒めすぎ」というのも「勝手」だと思う
~~~~~~
が正しいのでは?
335 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 01:18:57 ID:eRGxJlBo
個人が作品をどう評価するかは自由だと思うが
その自由に評価したものに「ベスト3には入らない」とか言っても無粋なだけ
336 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 01:23:00 ID:xbBkAabD
短時間にID変えてくるような奴が自演じゃないなどと言ったところで信用されるわけもなく
337 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 01:26:48 ID:2sSRo/Vk
「ベスト3には入らない」というのも個人の評価だとは思わないのかね
ここを見て読書の参考にしようとしている人にとっても肯定否定の両意見があったほうがいいだろ
>>335の意見のほうがよほど無粋に思える
338 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 01:41:03 ID:eRGxJlBo
>>336 その理屈はよくわからん
変えてるんじゃなくて変わるんだけどね
>>337 まあ無粋だろうね
339 :
323:2008/06/24(火) 02:12:03 ID:QrDJ0QaB
>>324 おお、過疎スレと思っていたのに、こんなにレスがつくとはw
もうそろそろ寝ようと思っているので、平成以後20冊を挙げるのはさすがにしんどいが、落ち着いて思い出せば
そのくらいはあるように思う。とりあえず明日まで待ってくれ。
ただ、324があげている連城や山風、泡坂だけでも、これより優れた短編集はそれぞれ5冊以上は出してると思う。
まあ、単に自分には合わなかっただけかも知れんが。
340 :
324:2008/06/24(火) 17:28:22 ID:eyRnKMss
後出しと思われると困るので確認しておくけど、俺がいってるのは
「駄作がほぼ含まれておらず、全体的に高水準な短篇集」
のことで、この条件だと有栖川有栖も法月綸太郎も該当する本はない
と思っている。(「ベスト級の傑作を含む本」ならもちろんあるが)
平成以降だと山口雅也の初期数冊とかかなあ。
>324があげている連城や山風、泡坂だけでも、これより優れた短編集は
>それぞれ5冊以上は出してると思う。
連城で「戻り川心中」に匹敵するのは「夜よ鼠たちのために」ぐらいか。
風太郎の短篇集はどれもいいが、桃源社版「虚像淫楽」に匹敵するもの
と言われると思い当たらない。強いて言えば連作だが「妖異金瓶梅」か。
泡坂で「煙の殺意」クラスの完成度というと亜愛一郎シリーズかな。
全員すべての本を読んでいるが「優れた短編集」「それぞれ5冊以上」は
まるて思いつかないよ。
341 :
299:2008/06/24(火) 18:40:13 ID:zJgVK33d
私めの歴代短編パズラーベスト3の話題でこれほど盛り上がってしまうとは
ある意味非常に嬉しいです。「方壺園」はもう30年ぐらい前に読んだので
今読むとどうか・・・当時は非常に衝撃を受けたのは事実なんですが。
それと、あくまでも「パズラー」のベスト3ですので、短編ミステリ全体まで
範囲を広げると、宮部や山風、連城もいいですね。
342 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 18:55:13 ID:rgKthds2
鮎川先生のこともたまには・・・それほど評価高くないのかな。
343 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 19:57:20 ID:x8jnArcK
『薔薇荘殺人事件』(ヴィーナスの心臓)は俺の中ではパズラー短編集ベスト1ですよ
鮎川初期短編は本格モノでは並ぶものなしって出来だけど
中期に入って倒叙形式が増えるとクオリティも低いし同じのばっかで飽きるしで
近年の鮎川復刊ラッシュで相手にされないのもしょうがないという感じ
三番館モノになるとまた面白くなるんだけど
344 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 23:22:01 ID:G3wzg4gv
ベスト集とかじゃなくてオリジナルでハイレベルな作品ばかりの短編集って
めったにないね。しかもパズラーでってくくりだと。
あげられたのを探してみよう。
345 :
名無しのオプ:2008/06/24(火) 23:40:33 ID:Hefz4gll
泡坂妻夫「亜愛一郎の狼狽」
城昌幸「みすてりい」
木々高太郎「柳桜集」
346 :
323:2008/06/25(水) 00:19:39 ID:mycoLV6o
>>324=340
すまんな。
確かに「駄作がほぼ含まれておらず、全体的に高水準な短篇集」
という条件を厳密な意味で満たすってのはむつかしいかもしれん。
つか、全体的な印象で好短編集ってのはあるけど、内訳がどうだったなんてところまでは
正直覚えてないのが普通じゃないかと思うし、おれの記憶もその程度。
だから、直近で方壺園読んだ印象と過去の記憶を比べるなんてのもあまり意味がないかもしれないが
連城だったらあと「宵待草余情」「変調二人羽織」「美女」あたりは少なくとも方壺園以上のインパクトはあったし
泡坂には亜三部作と曾我佳城もある。
山風は好きなので勢いで書いたが、ガチパズラーの短編集で凄いのはあと「明治断頭台」くらいかも。
平成で20作っていうのもあげればあげられるんだけど、まあ、ありきたりの好短編集っていうのが並ぶくらい
なので、あんまり意味がないかななどと思ったりする。
つまるところ、おれの読書量じゃとてもおまいさんには及ばんと思うので言うだけ無駄かも。
347 :
名無しのオプ:2008/06/25(水) 00:28:41 ID:VDQ3X46y
「妖異金瓶梅」が何故出ない
348 :
名無しのオプ:2008/06/25(水) 00:29:23 ID:VDQ3X46y
349 :
名無しのオプ:2008/06/25(水) 06:50:28 ID:51sf3bi3
陳さんの「景徳鎮からの贈り物」という短編集読んでるんですが、
正直ぜんぜん面白くない。
陳さんは1975年に華僑として個人で中国にいってるんだから
もっと面白い話できるだろうになあ。
当時は一元が130円だったんだって。今は16円くらいかな。
350 :
名無しのオプ:2008/06/25(水) 14:13:17 ID:Gu+Va47O
これだけ盛り上がれるならこの短編でぶっとんだ!スレにもっと人がいてもいいはずw
351 :
名無しのオプ:2008/06/25(水) 16:30:04 ID:2dQtZ91e
352 :
299:2008/06/25(水) 18:54:19 ID:dQvfeZ5g
私が思うパズラー短編集とはこういった作品です
大阪圭吉「とむらい機関車」
高木彬光「妖婦の宿」
山田風太郎 歓喜先生シリーズ
井沢元彦「修道士の首」以下の信長推理帖シリーズ
山口雅也 キッド・ピストルズもの5冊
法月綸太郎 ほぼ全短編
天城一の密室短編もの
鮎川哲也 「赤い密室」など初期短編
今邑彩 「時鐘館の殺人」
泡坂妻夫 亜シリーズおよび「奇跡の男」
都筑道夫 なめくじ長屋シリーズの初期4作、キリオン・スレイもの
平石貴樹「スラムダンク・マーダー他」
綾辻行人「どんどん橋、落ちた」
353 :
名無しのオプ:2008/06/25(水) 20:23:03 ID:W9iyt0JI
354 :
名無しのオプ:2008/06/25(水) 22:51:50 ID:f/SEs2j0
355 :
名無しのオプ:2008/06/25(水) 22:52:49 ID:f/SEs2j0
日下圭介「啄木が殺した女」(祥伝社ノンノベルス)★★★☆
1991年の長編。
石川啄木の事跡を巡る北海道・東北旅行ツアーの最終日、盛岡でツアー客の香奈子がホテルで
殺された。同室だった由紀は、友人と会うために一日早く帰京しており、残ったメンバーにも
アリバイがあった。捜査が混迷する一方、由紀やツアー客のメンバーたちは意気投合し、香奈
子が持っていたとされる啄木の失われた日記の内容を推理するうち、啄木が馴染みの女性を殺
したのではないかとの疑惑を持つ。だが事件と無関係と思われた由紀の別の友人が殺されるに
及んで、事件は意外な方向に・・・。
石川啄木の悪評については嵐山光三郎「文人悪食」などで以前から知っており、谷口ジローの
漫画「坊っちゃんの時代」第3部で決定的になり、「コイツは人間のクズだな」と見放したので
すが、それはさておき、序盤の展開がどうも緊密感に欠けるし、スキだらけで、こりゃダメか
な、と思ったのですが、終盤、或る登場人物の言動がオカしくなり、サイコホラー風味が漂っ
てくる辺りから俄然、面白くなってきます。そして・・・。なるほど、そういうことかと納得。
普通ならバレバレだったはずの×××が上手く隠されたことに感心しました。ミエミエの伏線
もあるのですが、まあ終盤の迫力に免じて・・・。啄木の日記を巡る謎解きの方も、幾らかヒ
ネっており楽しめます。
でも脇役陣の描き方がどうも良くないなあ。特に啄木の日記を推理するメンバーたちの能天気
なこと、幾瀬勝彬の「推理実験室」の面々かと思いましたよw
津村秀介「異域の死者」(講談社文庫)★★★☆
1989年、講談社の「推理特別書下ろしシリーズ」として出た浦上伸介物の長編。同シリーズは、
山田正紀「ブラックスワン」、小杉「崖」、連城「黄昏のベルリン」、黒川「ドアの向こうに」など
力作・傑作が目白押し、ということで、津村秀介もかなり力を入れて書いたようです。
東京・不忍池で発生した殺人事件。被害者は女性で、目撃者によると犯人は長身の男らしい。
被害者の宮本淑子は夫との仲は冷え切っており、別に愛人の村松がいた。その村松もまた妻の
真理と不仲で、真理にもまた愛人の手塚がいるという状況だった。事件は宮本夫妻と村松夫妻
で最後の話し合いをしようという矢先の出来事だった。だが宮本、村松、手塚とも身長180
センチを越す長身で、またアリバイにも決め手がなかった。事件を嗅ぎつけた浦上と谷田の記者
コンビが調査を始めるうち、或る男の容疑が濃厚になってきたのだが、その男には鉄壁のアリバ
イがあった・・・。
メイントリックは鮎川哲也にも類似のものがあり、少々綱渡り気味で危なっかしいですね。鮎川
の時代には国鉄だからOKでも、本作ではJRで、アレがバレたら一挙に解決だものなあ・・・。
しかし、アレを成立させるための脇の細かい部分の整合性を詰めているのに感心したので、まあ
合格でしょうか。
なお、そのアリバイが崩れた後にも最後のアリバイが立ちふさがりますが、こっちは蛇足。時刻
表をジックリと見れば一目瞭然じゃないか。浦上は、一体いつになったら時刻表を読みこなせる
ようになるのだろう?
福田洋「別府−東京殺人ライン」(廣済堂文庫)★☆
1987年の、女探偵・夏川和香を主人公としたシリーズの第?作。
和香は人探しの依頼を受け、別府、大阪を飛び回り、無事に任務を果たした。一方、東京では
総会屋まがいの情報サービス会社社長・宮岡が殺され、和香の友人である郡司刑事が捜査を担
当、妻の公子と元運転手の杉下の共謀ではないかと疑っていた。杉下には別府で殺人を犯して
服役した前科があったのだが、その杉下が有馬温泉で他殺体となって発見され、その容疑者と
して、和香が探しだした男が浮かび上がる・・・。
ただ事件を追っかけているだけで謎解きが殆ど無いじゃん、と心配してたら、最後までそのと
おりだった・・・orz決して通俗的すぎるストーリーではないのですが、ノンフィクションや
犯罪小説を書いていた頃から全く進歩していないです。恐らく、硬派な「冤罪」のテーマをトラ
ミス風の展開で主張するのが主眼で、謎解きは二の次だったのでしょうが、全てが噛み合わな
いまま終わってしまった。ダイイングメッセージの件も途中でどこかに行っちゃうしさあ・・・。
しかし、全てが解決したかと思った後に起きた最後の事件については、ちゃんとヒントが最初
から示されていたのには驚いた。確かにそうだった、でもアンタ、伏線の張りどころを間違え
ているよw
以前に紹介した「空白の交換殺人」(前スレ参照)の方が、ブッ飛んだ「交換殺人」テーマとは
言え、遥かにマシ。
高柳芳夫「モスクワから来たスパイ」(講談社文庫)★★☆
1983年の長編。
「プラハの春」で混迷の続く1968年のチェコ・プラハ。日本大使館の明日香大使が自室から
謎の転落死を遂げ、直前に彼に会っていた新聞記者の雨田もまた、ソ連の諜報部員により
惨殺される。雨田は1948年のチェコ共産党政権樹立とマサリク外相の謎の転落死事件に関
する極秘文書を入手しており、それを受け取った恋人の日本語専攻の女子学生ヤーナに魔
の手が迫り、明日香大使の事件を追及していた書記官の木暮もまたソ連の謀略に巻き込ま
れてゆく・・・。
序盤の主要人物の殆どが中盤までに消えてしまって、以降はプロの諜報部員が活躍する話
になる辺り、前年の「モスクワの星を撃て」(
>>238参照)に似たパターンですが、ドンデン
返しまで似通っているのはどうかと思う。「モスクワの星を撃て」には驚いたけど、続けて
では少々白けてしまうよ。ソ連の大物スパイがホワイトハウスで要職にあるが、実はアメ
リカのスパイもクレムリンの中枢にいて、アメリカの謀略は、実はそれを見越したソ連側の
泳がせで、でもアメリカもそれを見越していて、でもソ連は更にそれをも見込んでいて・・・、
のイタチごっこだよなあ。本作でも最後に全てを引っくり返す真相が用意されていますが、
裏の裏の裏を・・・という引っくり返し方は、巧みな伏線があるならばともかく、やはり「本格」
とは違うものですね。
あと、タイトルは変えた方が良いと思う。全く味も素っ気もないし、別の重大な理由からも
良くないと思う。「プラハに死す」とか「遥かなりモルダウ」とか、或いはトラミス風に、
「モスクワ・プラハ殺人ライン」とかw
風見潤「津軽神話殺人事件」(エイコー・ノベルス)★★★☆
1985年の前作「出雲神話殺人事件」(前スレ参照)に続いて、羽塚たかしと朝倉麻里子のコンビ
が活躍する1987年のシリーズ第2作。
大阪・十三の旧友を訪ねる途中で羽塚は殺人事件に遭遇。被害者は青森県・十三村の出身者
だったが、その十三村を取材で訪れていた後輩でトラベルライターの三村佐知子もまた、行方
不明の末に十和田湖近くの山中で殺されているのが発見される。事件の背景には、「東日流
外三郡誌」に記されているという財宝伝説と、十三村への核再処理工場誘致に絡む対立がある
らしい。羽塚と朝倉のコンビは現地に飛び、やがて一人の容疑者が浮かびあがるのだが、その
男には鉄壁のアリバイがあった・・・。
第一の殺人の寝台車と或る交通機関を絡めたアリバイトリックは大した出来ではなく、「何故
気づかないんだよ」というレベルですが、第二の事件の或る件を誤認させるトリックとその
描写が、なかなか大胆で面白かったです。なお今回は例の「東日流外三郡誌」が彩りを添えて
いますが、かなり批判的な記述で、この当時、既に偽書ということで落着していたのかな。
6連投スマソカッタ
豊田行二「ひかり10号殺人事件」(双葉ノベルス)(採点不能)
売れない探偵社の社長・浅村志摩男と、その助手兼恋人の久保山倫子のコンビが活躍する
1987年の連作集。この作家ってデビュー作は確かミステリだったけど、どうも官能小説の
書き手としか認識していないので心配だったのですが・・・。
「ダンディな死人」は、夫の浮気調査を依頼された浅村・久保山コンビが、その男の愛人宅
を突き止めるが、男が殺されており、死体に香水をかけられていた、という話。香水のト
リックはごく初歩的なものだが、一応、「本格」のセオリーには従っており、一安心w
「飛べないエンジェル」は病院長の依頼で妻の浮気調査、妻はどこにも出かける様子がない
のだが、そこに看護婦の転落死が勃発して・・・。凡作。
「蒸発するマネー」は代議士秘書の裏金横領の話。作者は政界物も得意だったと思うけど、
確かに手堅く纏めている。でもミステリとしては凡作。
続いて表題作。浅村は故郷の下関で開かれた高校の同窓会に出席、その帰りに旧友が東京
行きの新幹線車内で殺されるが、容疑者にはアリバイがあった・・・。アリバイトリックは
ごく基本的なものだが、まあまあの出来。それより官能描写が増えてきて辟易。
「同級生心中」は山口・湯田温泉が舞台だが、これまた初歩的なトリックで凡作。「ウグイス
の亡骸」も同様。
一応、ベストは「不倫の匂い」かなあ。浅村・久保山コンビは福島県の秘境・五色温泉に
旅行に出かける。途中、ガケに引っ掛かった女性の全裸死体を発見、警察を連れてくると
死体は消えていた。犯人は山を下った様子がないので終点の五色温泉に行ってみると、泊り
客には胡散臭い連中が何名かいた。やがて消えたはずの死体が浴室に現れる。いったい犯人
は誰なのか・・・。
クローズド・サークルというほどではないですが、限定的な状況からの推理が一応あり、し
かも犯人の死体移動のトリックが何と言うか・・・。突拍子もないトリックのバカミスですけ
ど、この連作集では一番出来が良かったです。まあ探して読む価値はないですが、海渡英祐
あたりの「ユーモア・お色気物の本格」の成れの果て、といった感じの怪作でしょうかw
362 :
名無しのオプ:2008/07/03(木) 03:23:29 ID:G8GhtIJj
スレ違いかも知れないが昨夜ファミリー劇場で観た特捜最前線が
全編母を殺したとされる少年の法廷シーンだけで構成されてて凄く面白かったよ
青い鳥の死骸に関するやりとりとか痺れる
最後に判決が言い渡されて即チリアーノの歌うEDが流れてちょっと格好よかった
363 :
名無しのオプ:2008/07/03(木) 21:12:52 ID:yYWhJY0D
>>362 #418 「少年はなぜ母を殺したか!」ってやつかな?
脚本は長坂秀佳らしいね。
小説はさておき、特捜最前線では評判のいい脚本多いんだよな、この人。
観たくなってきた。
364 :
名無しのオプ:2008/07/03(木) 22:36:33 ID:e06J5fJV
『特捜最前線』は本格ファン必見のエピソードが多いね(殆どが長坂脚本回)
そういえば、『太陽にほえろ!』の山さん主役編で何回か本格ミステリ回があったな
>>363 DVDの傑作選に収録されてたと思うよ
多島斗志之「聖夜の越境者」(講談社文庫)★★★★
1987年の長編。
アレクサンダー大王遠征時のギリシャ人の末裔が住むというアフガニスタンの秘境ヌーリス
タン。そこで発見されたらしき新種の小麦は、ソ連の食糧事情を一気に好転させるものだっ
た。ソ連はアフガニスタンへ侵攻、麦の入手を阻もうとするアメリカとの間で争奪戦が開始
された。小麦の発見者で今は亡き日本人植物学者の友人だった大学助教授・片桐はソ連に拉
致され、米ソの謀略戦へ巻き込まれてゆく・・・。
この作者お得意の、突拍子もないホラ話めいた謀略が楽しい。そして真相は、「え、これだけ?
だって、ソレは想定していたし、片桐より・・・・・・が狙いなのもお見通しだったよ」と思った。
・・・が、実は「エピローグ」を読み忘れていたw
そうか、そこまで裏があったのですね。ヒントはあちこちにあったのに気付かなかった。この
伏線と切れ味の鋭いオチがこの作家の本領ですね。特に最後の一節、あの大統領だからこその
あのセリフが、ドス黒いユーモアを醸し出していると思う。
この辺りのセンスが、同じドンデン返しの謀略スパイ小説を書いても、高柳芳夫と決定的に違う
部分だと思う。彼の佳作「悪夢の書簡」「モスクワの星を撃て」「モスクワから来たスパイ」辺り
のドンデン返しなど、それ自体は多島作品に匹敵するかそれ以上とも言えるけど、高柳は良くも
悪くもマジメで、元外交官としての長所もあるけど、国際政治を知り尽くしている故か、破天荒
な「冒険」は書けないし、スパッとした切れ味や伏線の巧みさにもやや欠けており、その辺りで多島
に一歩譲るのかな、と思います。
井原まなみ「Vの密室」(日文文庫)★★★☆
1990年の「シーラカンスの海」を改題した長編。
横浜の名門高校の同窓会で起きた市民運動家の市議会議員毒殺事件。同窓生で健康食レスト
ランを経営し、市議側と対立していた横須賀の旧家・新見家の功が疑われる。彼の妻で旧友
の由紀とともに同席していた元ニュースキャスターの彩子は功の犯行とは信じられず、むし
ろ功と由紀の仲が冷え切っていたことから、新見家の内情に絡んでいるのではないかと独自
に調べ始めるのだが、新見家に招かれた晩、功は離れの密室でガス中毒死してしまう。だが
現場のガスの元栓は長いこと使われておらず、どこにもガス漏れも見当たらなかった。いった
いどこからガスが部屋に入れられたのか・・・。
主人公の彩子は検事の夫と別居中で、友人の由紀、増井なども皆、家庭に問題を抱えている、
というのが本作のテーマになっており、本格の謎解きも含め、読み応えのある力作です。
しかし、ガス中毒死のトリックは面白いのに、アレに関する伏線の一部があからさまだったり、
第一の事件の解釈が反転する場面がさほど鮮やかでなかったりして残念。とはいえ真犯人の
意外性にも凝っており、先ず先ずの作品と言えると思います。一部の登場人物のDQNぶりに
は辟易しましたが・・・。
草川隆「京都発ひかり252号の死角」(立風社ノベルス)★★★☆
1990年の長編。
アイドルから渋い俳優に転身した神谷が京都からの帰途、何故か無断で静岡で途中下車した
末に市内の川原で殺されているのが発見される。同じく元アイドルでライバルだったが今は
売れない物マネ芸人になった大原が容疑者として浮かび上がるが自殺してしまい、証拠も見
つかって大原の犯行で一件落着かと思われた。だが彼の元恋人の道子は犯行を信じておらず、
彼を慕うルポライターの新井は道子のために事件の再調査に乗り出す。やはり事件に疑念を
抱く静岡県警の伊東刑事と協力の末、別の容疑者が浮かび上がるが、その男には鉄壁のアリ
バイがあった・・・。
この作者には珍しく、恋愛の屈折した心理に筆を費やしており、それが犯人側のみならず探偵
側にもシンクロして展開しているのが見所でしょうか。トリックそのものは従来のパターンの
応用に過ぎないですが、静岡に現れた被害者の指に巻かれていた包帯の件が、小味な伏線とな
っているのがシブい。これまた先ず先ずの作品です。
4連投スマソカッタ
中薗英助「暗殺者の椅子」(双葉文庫)★★
1977年のスパイ物で固めた短編集。
「やさしい密使」は香港が舞台。香港でインドシナ和平に関する秘密会議が開かれる、との
情報を得た特派員が現地に飛ぶが・・・。うーん、結末の意外性が今ひとつ。
「外人遊撃隊」は中東のダルモンという架空の国が舞台。学生時代の教え子が、同国の外交官
と結婚しているので訪ねていった教師が主人公。ダルモンでは対イスラエルのゲリラを極秘に
養成しているらしいのだが・・・。凡作。セリフ回しなどに、けっこう通俗なところがあって驚いた。
「国籍無用」は下関と思しきSという港町。入国管理事務所から脱走した国籍不明の男。どう
やら海峡を通過する原子力潜水艦を隠し撮りしようとしているらしい。だが・・・。これは佳作。無国
籍の不気味な男といい、スパイ行為と思わせて実は・・・、という意外性も上手くいっていると思う。
「夜のカアニバル」も秀作。某国の在京大使館のパーティに招かれた作家、終了後、東京の街
を歩いていると、大使館から重大な情報が盗まれたらしく、一緒にいた女性とともにスパイと
して捕らえられてしまう。そこに米ソ両国も絡んできて・・・。これまた真相の意外性に優れた作品。
「キム婦人への手紙」はベイルートが舞台だが凡作。
「4+3=1」は、タイトルが真相そのもので秀逸なのだが、ストーリーがどうも面白くなくて・・・。
「詩人の囮」は最新兵器を盗んだ男の話。これも結末の意外性に支えられているが、それだけ。
最後の表題作は、スペインが舞台だが、これまた凡作。
全体的にスパイ小説としては先ず先ずでも、三好徹などと比べると、通俗的な部分が多い点など、
この作家の作品がかつて東側の国々で多く翻訳されたいたらしいことを考えると、かなり意外だっ
たし、結末の意外性という点でも、一部の秀作を除いて不満の残る出来栄えでした。
369 :
名無しのオプ:2008/07/06(日) 21:34:40 ID:m7iytGek
外国に紹介されてるミステリー作家で乱歩清張戸川夏樹ぐらいしか
知らなかった
370 :
名無しのオプ:2008/07/06(日) 22:46:32 ID:RIxRVzo/
横溝がいるだろ
371 :
名無しのオプ:2008/07/06(日) 23:03:52 ID:jRXOdZXY
3の感想読んでてこのトリックは誰々の作品で使われてた
というのを覚えてるのを読むとと感心してしまう
自分がよっぽど強烈なトリックでないと
すぐに忘れてしまうタイプの人間なんでw
372 :
名無しのオプ:2008/07/07(月) 03:08:40 ID:/gS+QPW+
閣下を呼び捨てにするとは何事か!
不敬であるぞ!
結城昌治「赤い霧」(上下)(中公文庫)★★★★☆
1975年のノンシリーズ長編。
足を怪我して俳優業を退き、友人の俳優・中橋の事務所でマネージャーを務める真野。荒れ
た生活の中で知り合った看護婦・直子と結婚して安定したかに見えた中橋だったが、最近は
約束をすっぽかすなど不審な行動が多い中、中橋の昔の恋人で大女優の花井が殺される事件
が発生し、真野はスキャンダルから中橋を守るため奔走する。だが直子は自殺未遂の末に失
踪、事務所に所属する下っ端俳優の宮地もヤクザに追われているのか行方をくらましてしま
う。中橋が隠している秘密とは一体何なのか・・・。
ロスマク風の枯れた味わいのハードボイルド、もうベテランの境地に達しているのか、スト
ーリー、構成、登場人物など全てが危なげなく出来上がっている佳作。またハードボイルド
でありながら、どこかクリスティの中期から後期の作品を読むような雰囲気もあり、トリッ
クらしいトリックも無いのに、淡々とした展開そのものが読者の目を逸らして意外な真犯人
を隠しており、結末の意外性を盛り上げるという逸品です。文句の付けようも無いですが、
敢えて言えば、あの人物の言動の整合性に疑問があるのと、一部の女性の描き方に未だ甘い
部分がある点でしょうか。
アンソロジー「疑惑の構図−オール読物推理小説新人賞傑作選U』」(文春文庫)★★★☆
「オール読物」誌の歴代の推理小説新人賞を収録したアンソロジー。
赤川次郎「幽霊列車」など著名作はもちろん、その後プロの作家にならなかった人の作品も
読めるお得な一冊。本編には、1971年度受賞者の高柳芳夫から1983年の小杉健治までを収録。
先ずは高柳芳夫「『黒い森』の宿」。ドイツ出張中の学者が相次いで謎の死を遂げる話。既
に作者の短編集で読んでいるので割愛。
康伸吉「いつも夜」。終戦直後の中国で孤児となった少女と、彼女を育て続けてきた青年の
お話。感動的な話で、大技のトリックもありますが、ラストが良くない。何であんなことを
書くのだろう?
岡田義之「四万二千メートルの果てには」は、渡辺剣次のエッセイで「消失物のトリック」と
して紹介されており、あの赤川「幽霊列車」と同時受賞ということで期待していた作品。将来
を嘱望されるマラソン選手が大会の本番、ゴール間近で消失する話ですが、トリック自体は
大したものではなかった。むしろ主人公の特異なキャラクターが巧く描かれていた。
次はその赤川次郎「幽霊列車」。既に紹介済みなので略しますが、再読して、改めてその凄さ
に感心した。他の収録作とはレベルが違う。
横田あゆ子「仲介者の意志」。カネを強奪した病院長への脅迫話ですが、意外な真犯人の秀作。
まあ一発アイディアといえばそれまでですが。
もりたなるお「真贋の構図」は絵画の真贋を巡る話。真作を持つ実業家と、偽作と知りつつ保
持し続ける法律家。彼は何故、偽物を大事に持ち続けるのか・・・。「本格」ではないけどこれ
は傑作。
弘田静憲「金魚を飼う女」は教師同士の不倫話が殺人に発展して・・・。死体の隠し場所に関す
る大胆なトリックやユニークな刑事コンビの掛け合いなど楽しめる。
胸宮雪夫「苦い暦」は愛人を殺して保険金をせしめるホステス母子への復讐。これは凡作。
本岡類「歪んだ駒跡」は作者お得意の将棋ネタ。将棋担当の新聞社カメラマンが殺される。いわ
ゆる当時「新人類」と呼ばれたタイプの若手刑事が出てきて、新聞の棋譜から意外な真相を解き
明かす話。
そして巻末は小杉健治「原島弁護士の処置」。あの「・・・の愛と悲しみ」の原題。説明不要の傑作。
矢島誠「双曲線上の殺人」(ハルキ文庫)★★★☆
1988年に「霊南坂殺人事件」で」デビューする前に書かれていたという長編。
女性カメラマンの藤沢由貴は元恋人ですっかり堕落した片倉を殺そうと決意、万全のアリ
バイ工作をして現場に臨んだ。だが片倉は一足先に殺されており、現場は由貴の企んだと
おり密室状態になっていた。誰が由貴の計画を先取りしたのか。警察と謎の脅迫者に追わ
れるなか、由貴は現場に残されていた「はが」というダイイングメッセージを頼りに真犯
人の追及に乗り出したのだが・・・。
事実上の処女作ということで意気込みは伝わりました。アリバイ工作自体はやや弱いけど、
二重の意味をもつダイイングメッセージや密室にした真相など、それなりに考えられてい
ます。真犯人の動機の一部に、かなりコジ付け気味のところがあるのが残念。
もう一方の主人公である若手刑事のキャラや、コンビを組んでいる本庁のエリート刑事の
イヤミっぷり、本庁から左遷された古参刑事など、類型的とは言え、良く描かれています。
佳作とは言えないけど、先ず先ずの作品でしょう。
志茂田景樹「悪魔の宿る森」(徳間文庫)★
1981年の長編。
茶道界に君臨する扶桑茶道会の本部茶室で起きた毒殺事件。茶をたてた家元の息子・晴雄が
疑われる中、同席していた女性たちに魔の手が迫る。やがて晴雄の父親である家元・晴道と
その愛人、晴雄の妻などの色と欲に満ちた素顔が明らかになる。密命を帯びて潜入捜査を行
う藤村刑事の掴んだ真相とは・・・。
駄作の一言。マトモな人間が一人も出てこないで、どうでも良い話が延々と続いた挙句の脱力
の真相・・・と思わせてのドンデン返しがあるが、これまた全く効果なし。被害者の九官鳥が喋る
一種のダイイングメッセージにトリッキーな部分もあるけど、まあ読む価値はないです。
「月光の大死角」(前スレ参照)という突然変異の大怪作に最初にブチ当たったので、この作者
を時折り読んでいるけど、あれ以外はどうもダメだなあ。まあ「月光の大死角」も素っ頓狂な
バカミスなんですけどねw
先週に引き続き連投スマソ
高木彬光「裂けた視覚」(角川文庫)★★☆
1969年のノンシリーズの長編、というか連作集か。三部構成で、第一部「虚像の死角」は、アメ
リカの航空会社の子会社と称して、ホテル会員を募集するアヤしい会社のお話。ヒロインの伊東
裕子は、社長らに騙されてセールスに精を出した挙句、何者かに殺されてしまう。恋人の記者・
佐々木は事件を追及するのだが・・・。詐欺の手口に気付かないヒロインがもどかしいことこの上
ないですが、結末では、佐々木の上司・山西が意表を突く真相を指摘して、ひとヒネり効かせて
います。
第二部「魔の偶像」は宗教ビジネスのお話。変人が生臭坊主と組んで仏像の売買で一儲けを企む。
そこに第一部で出てきた詐欺師グループの生き残りと、詐欺師グループ殲滅を誓う佐々木記者も
絡んできて・・・。うーん、この辺りから、本作の意図するところは見えてきたようですが、どうも
今ひとつ乗り切れない。佐々木がワトソン役で山西がホームズということらしいが、ミステリ的
なトリッキーな趣向が乏しいのでどうもなあ・・・。
第三部「勝負の映像」は商品相場に絡む話。佐々木は大豆相場の神様と呼ばれる男に接近、第一部
の最後の生き残りに接近するも相手が殺されてしまう・・・。うーん、今ひとつの出来栄え。
結局、連作形式にして、「本格ミステリ」として何をしたかったのか、作者の狙いが見えてこない。
第三部の終わりで全てを引っくり返せとは言わないが、もっと一貫した謎解きの趣向が出てこない
と面白くないと思う。
田中雅美「放課後名探偵」(祥伝社ノンノベルス)★☆
1987年の長編。
或る中学校で、学年トップの優等生・川上礼子が謎の飛び降り自殺を遂げた。成績抜群だった
彼女が何故?同級生の千佳子は妹の幸子や友人の美名とともに事件の謎を追う。だが隣のクラ
スの男子生徒・西崎が殺され、その父親も殺されるに及んで事件は意外な方向へ・・・。
学園物ミステリとみせて実は・・・、という意外性を狙ったのでしょうが、完全に失敗、大人の
世界の事情を調べさせるのに中学生が主人公ではムリがあり過ぎ。作者は、ちょっと早熟な子
供を描きたいのか知らないが、年齢不相応を通り越して、そのこまっしゃくれた品格の無さに
は不愉快にすらなってくる。前スレで紹介した「あっちゃんシリーズ」と同様の欠点に満ちてお
り、おまけに、あの真犯人の設定はないだろ。駄作。
高城高「墓標なき墓場」(創元推理文庫)★★★
創元推理文庫で出た高城高の唯一の長編。1962年の作品。
北海道のローカル新聞の釧路支局長を務める江上は、根室沖で起きた漁船の沈没事故に関する
疑惑を聞き、現地の通信員らとともに調査を開始する。どうやら他の漁船と衝突したのが真相
らしい。だが決め手に欠けるまま事件はウヤムヤとなり、そして三年の月日が過ぎた。網走の
支局に左遷されていた江上は、あの事件の関係者が二人も相次いで謎の死を遂げているのを知
り、再び釧路に戻ってきた・・・。
惜しい。事件の背景には色々と手の込んだ錯綜した謎があり、漁船沈没に隠された意表を突く
裏の真相は結構トリッキーだし、結末にはひとヒネり入れているし、これで伏線を工夫してお
けば立派な「本格」となり得たのに・・・。だが謎を前面に出す書き方が弱いし、そもそも江上は
どうやって事件の真相に到達し得たのか、あれだけのヒントじゃ無理だよなあ。しかも後半に
なってから取って付けたような部分もあるし。まあ飽くまで「ハードボイルド」として書いた
のでしょうから、難癖を付けても意味ないですけど。あと昭和三十年代の根室や花咲など道東
地方の荒涼とした風景や、釧路の街の独特な雰囲気は結構良く描かれていたとは思います。
・・・でも勿体ないよなあ。
原田康子「素直な容疑者」(講談社文庫)★★☆
釧路を舞台にした往年のベストセラー「挽歌」で有名な女流作家の、1963〜78年の短編集。
表題作はクスリでラリッた浪人生がナンパされた女性の家で翌朝目覚めると、その女性は手首
を切られて死んでおり、浪人クンは逮捕される・・・。無実を訴える彼の論理展開には「本格」風
味が感じられるのですが、真犯人とその動機が藪から棒も良いところw
「空巣専門」はプロの空巣狙いの一人称の語りで、空巣に入った家で遭遇した射殺事件のお話。
真相は面白いけど、もうひとヒネり欲しい。旧「宝石」誌に掲載された作品。
「朝までの五時間」は深夜、敵対する暴力団幹部を公園で待ち伏せするスナイパーのお話。先ず先ず。
「峠」は確か「まりもの客」という題で別のアンソロジーに収録されたもので既読だが凡作。
「窓辺の娘」は、ホステスのヒモがマンションの向かいに建つアパートの窓にヌードの娘を見か
ける話。当時にしては強烈なオチ。何となく折原一の某作品を思い出した。「犬を飼う男」は凡作。
そして「街の神秘と憂愁」。1965年発表。恐らく、日本人女性作家によるハードボイルドの嚆矢
ではないかと思う。釧路の不良少女が足を洗って地元新聞の記者になり、サツ廻りを担当させら
れる話。自伝的な内容だそうだが、日活無国籍アクションのような釧路の街や、警察とのハード
な付き合い、特に釧路川に浮かんだ溺死体を見せられる辺りの描写は鬼気迫る。そして或る刑事
との淡い交情などなど、乾いた文章が冴えまくった佳作。残念ながら「本格」ではないですが。
・・・で、カンの良い人は感づかれたかも知れませんが、本書の解説はあの高城高です。
昭和30年代の釧路で高城と原田に接点があったことは、前レスの高城「墓標なき墓場」のあとがき
でも触れられていますが、言われてみれば、本書の「町の神秘と憂愁」と「墓標なき墓場」の釧路
の街の描写などには共通するものが感じられますね。
で、解説は「原田康子とモダン・ジャズの時代」と題して、昭和30年代の北海道におけるミステリ・
シーンや原田との交友を回想した非常に興味深いもの。これを読むだけでも価値はあるでしょう。
380 :
名無しのオプ:2008/07/21(月) 22:12:12 ID:MMEYoLmz
>>379 へえ、原田康子のミステリなんてあったんだ。
読んでみたい。
佐野洋「未完の遺書」(角川文庫)★★★☆
1960年の長編表題作と、中編「甘い罠」を併録。
先ずは表題作。夫を亡くして小学校四年生の息子を女手一つで育てているバー勤めの葉子。
客に絡まれている写真を週刊誌に載せられ、更に相談に行った弁護士がカバンを奪われる
強盗事件で容疑者扱いされた新聞記事が出たことから、息子が自殺してしまう。葉子は写真
を盗み撮りした男、記事を書いた記者、弁護士、刑事など関係者への復讐を決意する。先ず
は写真を盗み撮りした男を突き止め、彼女に協力する新聞記者・長谷とともに殺害計画を実
行に移そうとするのだが・・・。
ありふれた倒叙形式で進行しつつ、実は・・・、という趣向。当時はかなり斬新な構成だったの
でしょうが、やはり登場人物の一部に不自然さがあるため、「多分アレだな」と推測は付いて
しまいます。とは言え、終盤にもう一つ予想外の展開が用意されており、そっちは予想外で
結構楽しめました。ただ、文庫版で200ページ足らずの長さのため、どうしても後半が駆け
足気味になっており、その分、リアリティ不足というかドタバタした感じが否めません。
もう一編の「甘い罠」も内容的に1960年代の作品だと思いますが、コールガール組織に客と間
違われた三流新聞の記者が、地元市長のスキャンダルを掴み、脅迫を計画するが、市長が殺
されてしまい容疑者として追われる・・・、という話。これは先が全て見えてしまった。
石井竜生、井原まなみ「見返り美人を消せ」(角川文庫)★★★
1985年の横溝正史賞受賞作。
亡父の後をついで切手商を営む朝海雅子。自宅マンションで植木鉢が転落して、下を通りかかっ
た男が死亡する事故が発生、単なる不運な事故かと思われたのだが、彼女の元パトロンの西野、
切手マニアの大学教授で、大学移転に絡む利権の鍵を握る神崎、そして神崎らの支援を受けて
国会議員になろうとする元官僚の多賀矢など、彼女の周辺には胡散臭い男たちが集い、アフリカ
で発行された高価な切手シートにまつわる疑惑も持ち上がる。果たして西野を強請っていた画家
が殺され、更には行方不明になっていた朝海もまた、自殺を装って殺される・・・。
うーん、いかにも二時間ドラマ向けのお話しですね。切手収集に関する知識や情報を披瀝しつつ
殺人事件をまぶし、ついでに新興宗教やら国会議員選挙の生臭いネタも盛り込んじゃいましょう、
とサービス精神満点。しかし肝心の謎解きの部分が今ひとつの出来栄え。レッドヘリングは先ず
先ずでしたが、「ミッシング・リンク」を少々勘違いした意味で使っているのには笑った。横溝正史
賞を受賞したときに誰も気付かなかったのか。切手を媒体とした暗号の趣向も、ユニークで凝っ
ているとは思うけど、この世界を知らない人には、ああそう、で終わってしまうレベルですよ。
真犯人の悪役ぶりも、徹底しているとも言えるけど、悪く言えばマンガ並み。凡作と言うには躊躇
うが、佳作でもないです。
夏樹静子「ベッドの中の他人」(徳間文庫)★★★
1974〜77年の作品を収めた短編集。
表題作は、不倫の男女が男の仕事場で「あること」をしようとしていたところ、空き巣やら隣人
のホステスやらが押しかけてきて・・・。些細なセリフや計算され尽くした展開、ラストの一行に
至るまで一切ムダがない佳作。
「社長室の秘密」は老境に至ろうとする社長が、彼の秘書にまとわりつく不良社員を葬ろうとする
が・・・。読者の意表を突くにはもうひとヒネり欲しい。
「故人の名刺」は福岡に来た女優が見知らぬ老人に会ったところ、老人は一年前に死んだはずの
女優の恋人の名刺を差し出す・・・。まあまあの出来。
「ある失踪」は短く佳作とも言えないが、何とも哀しい気分になってしまった。
「猫が死んでいた」は倦怠期の夫婦とネコの話。夫が早朝に出張に出かけ、寝坊した妻が起きて
みると、可愛がっていたネコが風呂場で溺死していた。妻は夫の仕業だと思い、復讐のため自殺
するのだが・・・。悪くない出来ですが、自殺しようとする妻の描写で不覚にも笑ってしまった・・・。
「山手線殺人事件」は三角関係にある男女3人、婚約を迫る男が山手線で下車した後、女が車内
で殺されているのが発見される。もう一人の男は先に下車しており、どちらにもアリバイが成立
したかに見えたが・・・。真相のトリックよりも、山手線の特徴を考えれば、もっとトリッキーな
真相を幾らでも考えられるでしょう。ちょっと残念。
「階段」はサイコホラー風味だが凡作、「まえ置き」はタイトルそのまんまの結末が笑えるブラッ
クユーモア風の作品。ダイイングメッセージに対する一種のパロディめいた批判かも。作者の傑作
短編「特急夕月」がミステリにおけるアリバイそのものをパロディにしたのと似た趣向かな。
「動機なし」「一年先は闇」は、ともに工夫を凝らしているが今ひとつの出来栄えでした。
384 :
名無しのオプ:2008/07/27(日) 14:50:25 ID:aOGi1lja
懐かしいな、見返り美人。20代の頃読んだけど全然覚えてないやw
切手といえば月に雁と、これだった。
結城昌治「暗い落日」(中公文庫)★★★★
1965年の、日本ハードボイルド史上、不朽の名作。
資産家で傲慢な性格の磯村英作は、私立探偵の「私」こと真木に、家出した孫娘・乃里子の
捜索を依頼する。真木は乃里子の恋人も行方を絶っていることに注目し、関係者を訪ね歩く
うち、或る秘密に絡む殺人事件へと巻き込まれてゆく・・・。
うーん、「ゴメスの名はゴメス」を読んだときにも感じたのですが、もっと早めに読んでおけ
ば良かったなあ、というのが正直な感想。似たパターンの後年の傑作群を先に読んでしまっ
ていると、どうしても先行作にはショボい感じが否めません。特に本作は、作者自身が言っ
た、ロスマクの某作品への別の回答、という狙いが上手く行っているとは思えませんでした。
それを置いといても、或る重大な事実に関し、たとえそれを隠す理由が或る人物にあったと
しても、最後の最後まで匂わせもしないのはフェアじゃないと思うし、あのメイントリック
もヒントはあるけど、それがどうも、まさにアレだしねえ・・・。
日本のハードボイルドで初めて「リアルな私立探偵」を主人公にした点と、その主人公の造形
の秀逸さが、原ォを筆頭とした多数の作家に現代に至るも多大な影響を与えてきたという意
義から、「ハードボイルド史上不朽の名作」という評価は妥当だと思うけど、ミステリとして
の謎解きの観点から評価すべき部分があるのかは疑問です。ハードボイルドとしてはそれで
十分じゃないか、とは思うけど、ミステリとしてはまた別。ラストの一行がズシンと腰に響
いたのはスゴかったですけどね。
西村京太郎「黄金番組(ゴールデンアワー)殺人事件」(徳間文庫)★★★
1979年の私立探偵・左文字進ものの長編。
左文字はテレビプロデューサーの野中から、人気バラエティ番組「ザ・リクエストタイム」の
ゲスト出演を頼まれるが、早速「番組に出ると殺す」との脅迫状が届く。調べてみると他のゲ
スト出演者にも同様の脅迫状が届いていた。そして収録の日、レギュラー出演者の俳優や歌手、
タレントら5名が忽然とスタジオから姿を消してしまい、身代金を要求する誘拐犯からの手紙
が届く。やがて誘拐された俳優の死体が発見され、身代金も巧妙な手口で奪われてしまうのだ
が・・・。
芸能界が舞台ということで、実在のタレントが何名か登場するのは、読者サービスにしても少々
安っぽい。ミステリとしては、スタジオからの人間消失の真相が肩透かしでガッカリだが、国鉄
鶴見線を使った身代金奪取のアイディアが抜群に上手い。宮脇俊三の名著「時刻表二万キロ」は
本作の前年に発表されているので、全てが西村の手柄とは言えないけど、ミステリに応用する
先見性の高さは評価したいです。
また事件の真相も、当時にしてはなかなかヒネッている。しかし伏線の殆どが後出し気味でフェ
アではないし(身代金をアレで要求したというヒントだけは上手い)、左文字が何故アレに注目
し続けたのかも納得できない。まあ水準作、といったところでしょうか。
・・・しかし、和田アキ子に脅迫状を送りつけるとは良い度胸だなw
大岡昇平「最初の目撃者」(集英社文庫)★★★
「野火」「俘虜記」「レイテ戦記」などで知られる純文学作家が昭和20年代から50年代にかけて
発表したミステリ短編集。長編「歌と死と空」(前スレ参照)が今ひとつの出来栄えでした
が、短編群の方は、さて。
表題作は辛口評論家の自殺の真相に推理作家が迫る話。ミステリとしての仕掛けよりも、海外
ミステリの薀蓄や、二人の作家の心理的な暗闘に優れています。
「秘密」は、後書きにあるとおり、W・アイリッシュの某短編と同趣向。著者が捕虜収容所で、
戦後の乱歩よりも先にアイリッシュやクリスティの代表作を読んでいた、という話が興味深
いです。
「ゴルフ殺人事件」はゴルフ場での殺人事件、これなどは完全に「本格」の構成なのですが残念
ながら散漫になってしまった失敗作。むしろ、木々高太郎の大心地博士に言及した後、同様
の探偵役を登場させつつも、それがミスディレクションとなって意外な結末を迎える「真昼の
歩行者」の方が意外性という点からも優れていると思います。
巻末の「夜明け前のさようなら」は、ごく基本的なトリックですが、結末での真犯人のカタスト
ロフを描く筆力を誉めるべきでしょう。
集中のベストは「夕照」。初老の男が再婚した年若い妻が殺される話で、結末の付け方に驚いた
のですが、それよりも、殺される寸前、最後に夫が見た若妻の描写に、ゾクッとするほどの感
動を覚えました。何気ない文章とも言えるのですが、未だかつて、こんなに素晴らしい文章を
ミステリで読んだことがありません。全く「本格」ではないですが。
以上の他、「盗作の証明」「お艶殺し」など全10編。文章の上手さでは、ミステリ・プロパーの作
家を凌駕していますが、そこからもう一歩、ミステリの持つ意外性や論理性、謎解き興味の面
に踏み込んで欲しい、と思いました。
388 :
名無しのオプ:2008/08/04(月) 17:11:09 ID:rE08KurO
>和田アキ子に脅迫状を送りつけるとは
読んでみたくなったw
赤川次郎「過去から来た女」(角川文庫)★★★★
1983年の「田園殺人事件」を改題した長編。
七年前に生まれ故郷の田舎町・田(でん)村から家出した地元旧家の一人娘・常石文江。東京で
デザイナーとして成功し、七年ぶりに故郷に戻ったところ、怪事件が続発する。七年前の家出
事件では「文江は実は殺されたのでは?」と疑われて幼馴染みの青年が自殺していたが、その
父親が出奔先の東京で殺されたのを始め、駅の倉庫の放火騒ぎに駅長の毒殺などなど・・・。村人
の冷たい視線の中、文江と恋人の草永は事件の真相を追う。七年前の家出の夜に一体何があっ
たのか、そして今回の一連の事件の真相は・・・。
解説にあるとおりクリスティお得意の「回想の殺人」テーマですが、かなり細部まで練られてお
り感心しました。脇役陣も類型的なところはあるけど上手いものだし、特に文江の母親のキャラ
は秀逸。ユーモア調でありながら苦い「毒」も隠し持っており、結末の余韻も良い。
全体に淡々としたストーリーで大技のトリックがある訳でもないですが、真犯人の設定はじめ、
幾つかの部分で、「コレはクリスティのアレじゃないか」とか「アレは横溝のアレのパロディかな」
など、幾らでも「深読み」が出来るのもスゴいです。もうちょっとトリッキーなヒネりが欲しい
ところなので、★4つの評価はやや甘いですが。
梶山季之「夢の超特急」(角川文庫)★★☆
1963年の長編。
横浜郊外の土地を買収し続ける関西から来た謎の不動産ブローカー・中江。実は将来、新幹線
の新駅が出来る情報をキャッチして大儲けを企んでいたのだが、事態はやがて政・官・財を巻
き込んだ大規模な汚職事件へと発展し、警視庁捜査二課の多山刑事らが捜査に乗り出した。
一方、週刊誌のフリーライター・桔梗は、八丈島で謎の失踪を遂げた娘の安否を訴える母親の
手紙に応え、八丈島へ飛んだ。空路からも海路からも娘が島を出た形跡はなく、狭い島内を捜
索しても全く手がかりは見出せない。不可解な消失事件はやがて、新幹線汚職事件へと繋がっ
てゆくのだが・・・。
いわゆる「社会派」の代表作でありますが、新幹線土地買収を巡る汚職事件の追求よりも、人間
消失事件の真相に対する興味で読みました。なるほど、序盤に出てくる或る別の事件などの伏
線も張られており、この真相はなかなかに「本格」を意識したものにはなっています。秀逸なトリ
ックとは言い難いですけどね。
因みに汚職事件の方は、まあ絵に描いたような結末。当時の読者は、こういう結末の付け方に満
足していたのでしょうか。俺は物凄くフラストレーションが溜まりましたが・・・。
3連投スマソカッタ
日下圭介「三千万秒の悪夢」(トクマノベルス)★
1992年の警視庁捜査一課の女刑事・倉原真樹を主人公としたシリーズ長編。
能登半島に浮かぶ能登島で発生した中年女性の殺人事件。被害者は十五年前に起きた迷宮
入り事件の重要な関係者であり、また東京で起きた連続放火事件にも絡んでいるらしい。
上司から時効間近となった十五年前の事件を再調査するよう命令された倉原真樹は、三つ
の事件の意外な接点を追うのだが・・・。
「啄木を殺した女」(
>>356)を読んだときにも感じたのですが、序盤の展開が退屈だし文章
のリズムも悪い。1970〜80年代の作品ではそんなことはなかったのに、この作家も年を取
ってしまった、ということか。で肝心の事件の真相はどうかというと・・・。
ダメだこりゃ。本格どころかミステリとしての最低限の構成すら維持できていない。ただ
漫然とした、謎解きにすらなっていない話が続くだけで、作者のやる気の無さが伝わって
くる。ヒロインの倉原も全く精彩がなく、佳作「女たちの捜査本部」(前スレ参照)と比べ
ると悲しくなってくる。駄作。
392 :
名無しのオプ:2008/08/10(日) 16:39:50 ID:hvzGgsi5
「読みました」報告・国内編31
南條範夫「三百年のベール」(批評社 1991年)★★★★
昭和30年代に発表された歴史推理ものの代表作。
明治20年代末、静岡県庁職員の主人公はひょんなことから新田源氏の系譜に
つながるといわれる徳川家康の出生に疑問をいだき、その驚くべき秘密を
突き止める・・・・現在では語りつくされた感がある家康の出生の秘密ですが
当時としてはこの「真相」は相当物議を醸したものと思われます。いまでもタブー視
された問題に触れていますから。
また、この作品は時代背景を明治として徳川時代の謎を解くという構成になって
いる点がユニークといえるのではないでしょうか。二重構造の歴史ミステリと
なっています。
393 :
名無しのオプ:2008/08/10(日) 17:24:04 ID:iyX4yYbA
>いまでもタブー視 された問題に
そうなの? いわゆる(メール)でいいのかな?
394 :
名無しのオプ:2008/08/13(水) 23:53:02 ID:263jphww
笹沢左保コレクション
来月は『招かれざる客』か。
395 :
名無しのオプ:2008/08/14(木) 02:38:59 ID:T3y35KuN
396 :
名無しのオプ:2008/08/14(木) 08:45:05 ID:c51mBjdn
作家と寿命って興味深いよねえ。
梶山さんなんかは、朝8時から夕方6時まで執筆。その後夜半まで銀座でしょ。
これが毎日なんだからさ。おそらく三連投さんより若く死んだのでは。
かと思えば20代で死ぬといわれた横溝や岡本綺堂なんかは、一切の交際を絶って
長生きするし。
佐賀潜なんかも働きすぎでしょ、やっぱし。
397 :
MIC:2008/08/14(木) 10:08:37 ID:Eico5Pg7
山村美佐も書き過ぎの感。
だが同じ多作家でも、佐野御大は今年80歳でかくしゃく。
398 :
名無しのオプ:2008/08/14(木) 21:29:42 ID:+c1WDr//
土屋御大は逆に最近かなり寡作だがまだまだ元気だ。
399 :
名無しのオプ:2008/08/15(金) 01:23:33 ID:fNVwmaMS
70超えた辻真先のコラムに徹夜でエヴァンゲリオン全話観たと書いてあって
どんだけ元気なんだよと思たw
400 :
名無しのオプ:2008/08/15(金) 09:12:47 ID:+g5K/7/V
年取ると夜行性になる人いるよな
401 :
名無しのオプ:2008/08/15(金) 11:31:12 ID:REKujtjD
辻真先、スーパー爺さんすぎるぜw
いま連載してるケータイ小説読んでる人いる?
402 :
MIC:2008/08/15(金) 13:14:59 ID:zGGOLRaS
このスレの時期にも該当する京太郎御大も、完全に夜行性だと読んだ。
夕方遅く起き出し、床に腹ばいになって執筆(手書きらしい)を早朝まで
行い、午前10時頃就寝。
このライフスタイルだと、ほぼ世間とは没交渉なので、執筆に集中でき
ると思った。 ちなみに、私のお勧めも、殺しの双曲線。動機はちょっと
?だと感じたが、 状況設定が巧み。
403 :
名無しのオプ:2008/08/16(土) 01:47:11 ID:YuhaGvIe
404 :
名無しのオプ:2008/08/23(土) 18:07:27 ID:GPCHmvXh
大元帥は五輪見物中かな?
夏休み旅行中でした。東北の赤湯、米沢、鶴岡、本荘、秋田、弘前、青森の各古書店で掘り
出し物を見つけましたので、いずれまた感想を。
清水一行「最高機密」(角川文庫)★★★☆
1973年の長編。
電機メーカーで教育機器の開発に当たっている立川は、取引先の矢野と飲んだ帰り、自分を
狙うクルマを避けて、矢野が代わりに轢殺される事件に遭遇する。更に自宅で、立川の飲ま
なかった牛乳を飲んだ飼い犬が毒殺されたのを皮切りに、連続殺人事件が勃発する。被害者
はいずれも、立川がかつて参加したセミナーの受講者たちだった。メンバーが相次いで殺さ
れてゆくうち、立川はそこに、セミナーとは関係のない矢野の未亡人・恵子が絡んでいるこ
とに気づくのだが・・・。
これは何と言うんでしょうかね。従来の推理小説仕立ての経済小説、というより、むしろ逆
で、経済小説仕立ての推理小説、なんでしょうか。連続殺人の趣向に、あまりにも有名な海外
古典ミステリが下敷きになっているのがミソらしいのですが(解説にはその作品名があるので
要注意)、しかし、ソレとは違うんじゃないかなあ。むしろ、アレではないかと。
そしてタイトルどおりの「最高機密」が明らかになって幕、「何だ、やはり社会派ミステリだっ
たか」と思ったら、最後の最後に別の真相が・・・。これには驚きましたよ。言われてみれば、
ポルノ小説かと見紛う官能的なプロローグで、実に隠微な形で大胆に伏線が示されていました。
「最高機密とはひょっとしてコッチの秘密のことだったのか」と唖然。しかしなあ・・・。
コレをどう評価するかがポイントでしょうね。俺は個人的にはスッキリまとまった「神は裁か
ない」(前スレ参照)の方を高く評価したいと思いますが・・・。
いずれにしても非常に異色の作品です。
都筑道夫「宇宙大密室」(ハヤカワ文庫)★★★
1974年の短編集。主要な収録作はSFですが、若干ミステリとして言及したい作品もあるので、
この作者専用のスレもありますが、ここで紹介したいと思います。
先ずは巻頭の表題作。はるかな未来、流刑地となった星で囚人が殺される。彼に最後に会った
名探偵グレゴリイ・サワが事件の顛末を元上司の「先生」に報告するのだが、サワもまた殺され
てしまう・・・。一種の密室趣向によるSFミステリですが先ず先ずといったところか。
「凶行六十年前」は二人の男がタイムマシンで未来から現れたロボット刑事より、六十年後の
二人の最期の様子を聞き、「あと六十年は生きられるのなら」と、或る計画を実行に移すが・・・。
オチは突拍子もないものでSFそのもの。
「イメージ冷凍業」は自殺を禁じられている未来社会のお話。取り立てて言うことはないが、
主人公の古いタイプの小説家が「ケータイ小説」を予言している発言をしているのが興味深い。
その他、「忘れられた夜」は破滅テーマSFの秀作、「変身」はミステリ風に進んだ話がラスト
のマッドサイエンティストの出現で台無し、作者のSFデビュー作「わからないaとわからない
b」は親殺しパラドックス物、「カジノ・コワイアル」は007のパロディ、後半の「一寸法師
はどこへいった」以下は日本の民話に取材した、やや艶笑物の連作といったところ。
表題作を読めたので、まあ満足です。
藤沢周平「消えた女」(新潮文庫)★★★
1979年の「彫師伊之助」シリーズの第1作。作者の江戸市井物や海坂藩を舞台にした短編群は
好きで読んでいるのですが、長編はこれが初めて。
元岡っ引きで現在は版木彫師で生計を立てる伊之助は、先代岡っ引きの弥七から、失踪した娘・
おようの捜索を依頼される。伊之助はおようの内縁の夫・由蔵の言動に不審を感じ、彼を追及
するうち、材木商・高麗屋と作事奉行の陰謀に巻き込まれてゆき、やがて由蔵も殺されてしま
う。更に事件は同心の半沢が追いかけている謎の怪盗・ながれ星の一件にもかかわっているら
しい。果たしておようは一体どこに消えたのか・・・。
これはハードボイルドそのものですね。十手も鑑札も持たずに己の才覚とプライドだけでスト
イックに事件に立ち向かってゆく姿など、作者はハードボイルドを良く理解・消化して江戸の
時代小説に上手く移植していると思います。しかし、ミステリの謎解きまで気が回らなかった
のが残念。伊之助は色々と推理を巡らせているけど、およそ「本格」のそれとは違うものだし、
或る人物に関する伏線などはチラッと描かれているけど、肝心の秘密の部分はフェアでないし、
何より、結末のおようの行方に関してまったくの偶然に頼っている点がダメ。
まあ時代物のハードボイルドとしては実に楽しく読めましたが・・・。
小峰元「ソロンの鬼っ子たち」(文春文庫)★★
1985年の長編。初期の「アルキメデスは・・・」と「ピタゴラス・・・」は読みましたが、若者を理解
している積りのオッサンが「全共闘世代からの差別化を図って新しい若者像を描いてみよう」と
考えたのか知らんが、登場する高校生や浪人生のキャラがどうにもヘンテコで、全共闘世代以上
のバケモノとしか思えず、上記2作で止まっていました。中学生ぐらいの時に読んでいれば違う
感想だったでしょうが、大人になってから読むと非常に気に障るもので・・・。ともかくも本作は
かなり後年の作品なので大丈夫かな、と再チャレンジしてみました。
東西新聞の副社長・黒坂は経営危機に陥った会社のため、或る機密文書を政財界の黒幕・前谷に
渡して資金提供を受けようとする。一方、高校に通いながら新聞社の給仕を務める亀谷は、自宅
アパートの放火騒ぎを発端に事件に巻き込まれてゆく・・・。
機密文書の行方とアパート放火事件、ジャリ船から発見された死体の事件など、全てを「記者の
カン」だけで関連付けてゆく力技には唖然。恐ろしい見込み捜査だな。まあ「斜に構えたインテ
リ崩れで妙に才走った高校生」は登場しないので一安心。しかし、謎解きの顛末がどうにも退屈。
記者の見込み捜査ということもあるけど、結末は「だから何?」としか思えませんでした。
やはり俺は、この作者との相性は悪いようです。
近藤富枝「鹿鳴館殺人事件」(中央公論C★NOVELS)★☆
1986年の長編。作者が初めてミステリに挑戦した作品とのこと。
テレビ局の女性ディレクター夏川は、終戦直後から進駐軍に取り入るなどして暗躍してきた
謎の女・小河原三千代の自伝出版記念パーティの取材中、会場で放火騒ぎに巻き込まれる。
ホステスが殺され、三千代の著書は全て燃えてしまった。出版社や印刷所からも著書が盗ま
れ、夏川の持ち帰った分までも盗難に遭ってしまう。夏川は事件を追及するが、どうやら明
治維新の直後に佐幕派で結成され、薩長政府の打倒を目指していた結社「皐月会」の闇資金
に三千代が絡んでいるらしい。そして三千代は別荘で、訪ねてきた夏川の目の前で転落死を
遂げてしまう・・・。
著書を根絶やしに出来るのか、また警察は何をやっているのかとか、弱点を突っ込んでゆけ
ばキリがないですが、前半の面白さで読者を引っ張ってゆく力量はあります。でも、あんな
真相ってないだろ。犯人が別荘の転落死を目撃させた理由など、もう脱力もの。ふつうの本
格ミステリなら、そこはアリバイ工作とか不可能犯罪とかの一番の見せ場なのにねえ・・・。
最初のホステス殺しの凶器も、鹿鳴館時代ならではの意表を突いたユニークな小道具で、幾ら
でも「本格」仕立てに出来るのに、そっちには向かわないし・・・。
題材は良いけど、作者が本格ミステリを理解していないので駄作になった残念な作品としか
言えないです。
6連投スマソカッタ
高山洋治「怒りの情報車(ハイテクカー)」(エイコー・ノベルス)(採点不能)
1988年の長編。「4WD怒りのシリーズT」と何だか良く分からない副題があり、シリーズ第1作
のようです。
フリーライター滝沢の自宅マンションのベランダで発見された全裸女性の首なし死体。折からの
雪が降り積もり、何の痕跡や足掛かりになるものもないのに、どうやって2階のベランダに死体
を運び込めたのか。一方、滝沢は先輩の男から、豊臣秀吉の埋蔵金に関する伝説の文書「将車覚
書」の調査を依頼されるが、その文書に詳しい京都の大学教授に会ったところ、ニセ者と判明、
本人は京都の大学で体中を針金で巻かれて木に吊るされ殺されているのを発見される。どうやっ
て高い木の枝に吊るすことができたのか。滝沢は愛車のハイテク装備の4WDを駆って事件の調
査に乗り出すのだが・・・。
久々に素っ頓狂なバカミスを発見。J・D・カーも裸足で逃げ出す「雪の密室の首なし死体」の真相
には爆笑しました。誰でも知っている或る単純な「装置」なんですが、何でこんな面倒なことを
したのか、理由は書かれているけど全く納得できない。大学教授の吊るし事件も同様。
更には秀吉の埋蔵金の行方やら終戦直後に大阪城を接収した進駐軍の暗躍やら、果ては日本の古
代史における銅鐸のトンデモない用途、ハイテク装備の4WDの装備品がファックスと暗視カメ
ラと自動車電話にベッドというチープさなど、もう脳ミソがデングリ返りそうです。
一点だけ褒める部分があるとすれば、真犯人が滝沢の介入を許した理由かな。これは、なるほど、
と感心しました。
これは何なんだろうなあ、発表年からみて、「台頭してきた新本格への勘違い便乗」だろうかw
ともかく、シリーズ第2作を早く見つけて読みたいですw
411 :
名無しのオプ:2008/08/24(日) 17:54:21 ID:HXTBX2qp
「読みました」報告・国内編32
結城昌治「仲のいい死体」(1974年 角川文庫)★★★★
ひげの郷原部長刑事シリーズ第3作。
山梨県の宿場町に舞台を移し、突如湧き出した温泉騒動、寺の住職・医師・旅館主人
らの欲望と葛藤が渦巻く中、巡査と旅館女中の不可解な心中事件の解決に奔走します。
洒落た文体と独特のユーモアにのめり込んで、あらかさまの伏線に気づきませんでした。
意外な結末という点ではシリーズ随一ではないでしょうか。
梶龍雄「女名刺殺人事件」(1988年 桃園新書)★★
探偵姉妹トリオ・シリーズ第1作。
設定は赤川次郎の三姉妹探偵団(1982年)シリーズのイタダキでしょうか、清楚で聡明な長女、スポーツ万能
の次女、SEXに自由奔放な三女の姉妹が探偵を務める連作ミステリ。
ミステリ的にもトリックに新味・工夫なく駄作でした。
続編「殺しのメッセージ」も同様。
412 :
名無しのオプ:2008/08/25(月) 02:52:44 ID:NKse92md
>>410 作者も出版社も知らんがおもしろそう。
「六色金神殺人事件」みたいなかんじかな。
413 :
名無しのオプ:2008/08/25(月) 23:58:28 ID:HE4sq3he
>>412 内田康夫と津村秀介のデビュー作をハードカバーで出した出版社だよ。
当時、少年ものしか出してなかった深谷忠記が大人向けの作品を初めて出したのもエイコーノベルス。
黒江壮が初登場した『信州・奥多摩殺人ライン』も出しているね。
414 :
名無しのオプ:2008/08/26(火) 01:11:48 ID:dc+iFZXb
栄光出版社が出したノベルス?
415 :
名無しのオプ:2008/08/26(火) 06:48:20 ID:Rr+sHIvq
>>414 そうです。
>>413が挙げた三人以外では草川隆、筑波耕一郎、矢島誠などの作品を出している。
>>412 >「六色金神殺人事件」みたいなかんじかな
全然違います、それは「六色・・・」に対して失礼ではないかとw
あれは上手いバカミス、こっちはダメダメでベタベタな「バカそのもの」に近いバカミスかな
新谷識「ピラミッド殺人事件」(双葉文庫)★★★★
1991年の長編。作者自身をモデルにした阿羅教授とその姪・由美子を主人公としたシリーズの
2作目(第1作は「ヴェルレーヌ詩集殺人事件」)のようです。
一代で中小企業を中堅商社に発展させたCFC社の会長・福崎新生は学究肌の穏やかな性格で、
商売で繋がりのあったエジプトの古代史を趣味としていた。かつてエジプトに留学していた阿羅
教授のエッセイに目を留め、自宅に招待したのも束の間、次男で社長の永生が、掛け持ちで理事
を務めている大学に新築したピラミッドホールで殺される事件が発生する。現場には「パピルス・
マニー」なるダイイング・メッセージが。更に会社が接待で使っていたクラブのホステスも殺さ
れ、長男で道楽息子の寛生もまた、自宅で衆人環視の中、毒殺されてしまう。阿羅教授と姪の由
美子は連続殺人事件に巻き込まれてゆくのだが・・・。
アマチュアの余技にしては出来すぎでしょう。登場人物の設定がステレオタイプなのと、大技の
トリックが無いのは残念ですが、ダイイング・メッセージの何通りもの解釈や、終盤、関係者を
一堂に集めて真犯人を暴露する場面、推理の過程や伏線の回収など、海外古典の本格ミステリど
おりの展開で、切れ味は鈍いですが、まあまあ満足できる出来でした。毒殺トリックも小技なが
ら後半で効いています。お勧めの佳作です。
結城昌治「遠い旋律」(中公文庫)★★★
1979年の長編。
ヘアデザイナーの比呂子が妊娠中絶手術から目を覚ますと、婚約者の利根は姿を消していた。
調べてみると昔の知り合いである波多部を尋ねて高知・中村に行ったらしい。婚約者を放った
まま何故?比呂子は利根の親友・野上とともに中村を訪れるが、波多部は殺され、利根は行方
をくらましていた。更に東京に戻った比呂子らを待っていたのは別の殺人事件だった・・・。
女性週刊誌に連載されたこともあって、ヘアデザイナーやらモデルやら芸能界などの業界を、
なかなか器用に描いているけれども、どこかプロットに緊密さが感じられない。それでも犯人
当て興味で最後まで引っ張ってゆく力量は流石。利根の登場の仕方や、冒頭の何気ない描写が
重大な意味を持ってくるラストなど心憎いばかりですが、でもミステリの謎解きとしてはカタ
ルシスを得られず、今一つとしか言えないです。
この作者の女性向けに書かれた作品では、「夜は死の匂い」(前スレ参照)の方が出来は上でしょ
うね。
三好徹「風は故郷に向かう」(集英社コンパクト・ブックス)★★★
この作者を代表する「風の四部作」、1963年の第1弾。結局、最初の作品を最後に読むことに。
自動車メーカーに勤める「私」こと清川は、革命直後のキューバに赴任。だが日系二世のビル・
黒崎と結婚した妹が新婚旅行中に失踪したらしい。しかしキューバでは国際電話も電報も制限
され、連絡もままならない。そして清川もまた、同じホテルに滞在する米国人ジョン・スミス
の謎の焼死をきっかけに謀略に巻き込まれてゆく・・・。
冒頭の妹とビル・黒崎失踪の真相について説明不足なのが残念。まだ第一作目ということもあっ
て、謀略の構図も割りと単純で、しかも後の3作を先に読んでいるのでパターンは全てお見通し
でした。ミステリとしての謎解きは、キーとなるスパイの正体を巡る推理や、ジョン・スミス
黒焦げ焼死のトリックなどに垣間見られますが、後年の「風塵地帯」や「風葬戦線」の方が出来は
良いでしょう。特に黒焦げトリックは何というか・・・、海野十三かよ。でもラストの解明の場
面は洒落ていましたけどね。
結局、四冊読み終わっての「風の四部作」の出来栄えは、「風葬」、「風塵」、本作、「風に消えた
スパイ」の順ですね。最後の「風に消えた・・・」は、本スレでは未紹介ですが駄作でした。
川方夫「親しい友人たち」(講談社文庫)★★★★★
1963年のショートショート集の名作。
一応、「本格」として感想を書けるのは「はやい秋」と「非情な男」の2作のみ。残念ながら、
何のトリックかここには書けませんが。前者は××を誤認させるもので、後者は○○を錯誤
させるもの。但し小説としての出来栄えは凡庸。
「本格」を全く離れれば、何といっても名作中の名作「待っている女」と「夏の葬列」。鋭い
切れ味と、その後に残る余韻は日本のショート・ショート中、随一だと思う。なお前者は「ドッ
ペルゲンガー」テーマのホラーとしても読めるかも。
「蒐集」は、チラッと覗くグロテスクさが印象に残る、所謂「奇妙な味」の作品。「博士の目」
「恐怖の正体」も同様だが出来は良くない。
「メリイ・クリスマス」は佳作だが、ミステリとは言い難い。残りの「ジャンの新盆」「赤い手
帖」「愛の終わり」と「菊」は、どこが良いのか分かりませんでした。
その他、表題の連作以外のショート・ショートでは、「十三年」と「お守り」が有名だが、これ
らは星新一風のオチに拘って、著者の作風が伝わってこないと思う。「予感」「箱の中のあなた」
も同様。
むしろ、余り知られていない「トンボの死」「新年の挨拶」の方が、「奇妙な味」系の作品とし
て優れていると思う。
いずれにせよ、日本のショートショート史に残る名作集。なお★5つの評価は「本格」としての
ものではありませんのでご容赦を。
× 川方夫「親しい友人たち」
○ 山川方夫「親しい友人たち」
421 :
名無しのオプ:2008/08/31(日) 18:08:51 ID:Hej0PGYP
どっちにしても知らない作家だ
本格は新谷のみじゃん、もっと本格の作家の作品を!
422 :
名無しのオプ:2008/08/31(日) 18:27:29 ID:GI0dxskq
夏の喪列は教科書に載るぐらい有名な小説だぞ
423 :
名無しのオプ:2008/08/31(日) 19:21:24 ID:aVMivLU5
ぜひ佐賀潜、藤村正太、樹下太郎のラインナップで
読後感想お願いします。
探してるんですが、なかなか見当たりません。
424 :
名無しのオプ:2008/08/31(日) 20:13:15 ID:qzwK8YQR
これがほんとの、さがせry
425 :
名無しのオプ:2008/09/01(月) 01:01:58 ID:glEHhIj7
>>419 地味に取り上げてくれてありがとう。
教科書で読んだ後どんな作家か気になって調べてみたら
ヒッチコック・マガジンにも掲載してたと知ってびっくりした。
三好徹「乾いた季節」(河出ペーパーバックス)★★★★
1962年の誘拐ミステリの佳作。あの黒澤明の某映画を盗作したとの「冤罪」で当時騒ぎに
なった作品。むろん、映画会社側の言いがかりだったようですが。
総選挙を控えた衆議院議員・堀越栄造の若い妻が誘拐された。選挙を取材中の新聞記者・
門田は堀越の不審な行動をいち早くキャッチし、事件へと食い込んでゆく。警察側は報道
を抑えようとし、捜査陣と新聞社、そして犯人側の虚々実々の駆け引きが続く・・・。
やはり身代金受け渡しの場面がクライマックス、確かに黒澤の某名画とほとんど同じアイ
ディアですね。しかしそれ以外には似たところはないと思います。ミステリとしては無論、
こっちの方が上出来。真犯人の動機に納得できない部分があるけど、最後の最後、身代金
の行方のドンデン返しも利いている。現代の感覚から言えば、ずいぶんノンビリした話だ
とも思うけど、それは誘拐物ミステリがその後、格段の進歩を遂げてきたからで、当時は
高木彬光の「誘拐」が前年に書かれているくらいだから、高木には及ばないものの、この
ジャンルのミステリとして先駆的な評価は出来ると思います。
島田一男「鉄道公安官」(徳間文庫)★★★
1960年の鉄道公安官・海堂を主人公とした連作集、中短編3作収録。
表題作は、スリ捜査のため熱海から東京行きの寝台に乗った海堂が出くわした、大学助教授の
不可解な消失事件。助教授は石油に関する画期的な発明で石油会社と組んで一儲けを企んでい
たのだが・・・。列車からの消失トリックは大したことはないが、犯人の動機の設定が上手い。
ちょっとしたことだが指摘されるまで完全にダマされていた。なお新幹線が登場する前の、全
盛期の国鉄の描写が楽しいです。国鉄本社の前に丸ビルがあり、東京発の大阪行き普通列車や
九州まで行く急行列車があったり、横浜駅でシューマイ買って、浜松駅ではウナギ弁当・・・、時
代だなあw
「ループ・トンネル」はカメラを掏られた男が海堂に訴えるが、スリの男はカメラが爆発して死亡、
被害者の男はいつの間にか姿を消していた。海堂は姿を消した男を追って上越線へ・・・。結末は
ヒネッているが中だるみで凡作。しかし上野駅を朝発って、新潟着が午後3時って・・・。ノンビリ
した時代のお話し。
「タブレット区間」は東京駅のグリルで起きた団体旅行の毒殺事件。被害者ほかメンバーは仙台郊
外の土建屋やら医師やら村長の息子などなど。事情聴取のため泊めさせた東京駅前のホテルでまた
も殺人事件が。更に地元に戻っても連続殺人が続く・・・。犯人の設定が不満ですが、第二の事件の
パズルめいた推理は楽しい。本作でも列車ボーイに頼んで駅から電報を打ったりなど、レトロな描
写は冴えています。そう言えば、慶弔電報以外で、今も電報を使う人っているのだろうか?
中津文彦「元禄討入り異聞」(実業之日本社ジョイノベルス)★★☆
1985〜87年に発表された、読売り(後の瓦版)発行人の銀次郎を主人公とした連作集。
巻頭の表題作は、幼馴染の商人に依頼され、長崎で起きた町人と武家の仇討ち騒ぎを取材した
銀次郎、友人の狙いが何処にあるのか分からないのだが・・・。これは佳作。同じ年に起きた
あまりにも有名な事件との関連と深慮遠謀ぶりがスゴい。
「ものを言う馬」はコロリ騒ぎの最中、江戸市中によからぬ噂を巻いたとして遠島を申し付け
られた噺家が赦免されて江戸に戻ってみると恋女房が殺されていた・・・。先ず先ずの出来。
「お犬殺し」は生類憐みの令で悪政を極めた綱吉時代の話。今ひとつだな。
「淫風止まず」は巨根男の相次ぐ不審死と尾張徳川家の藩主の生母の秘密。これも謎の構成が
甘い。その他、「死一倍の陥し穴」は商家のボンボンの博打騒ぎ、「団十郎外伝」は歌舞伎役者
のスキャンダル、「遊蕩無残」は一世を風靡した二人のお大尽、紀文こと紀伊国屋文左衛門と
奈良茂の対立のお話し。
虚実ないまぜにしたストーリーと読売り屋が主人公というユニークさは買うけど、謎解きとし
ては一部を除いて甘いものが多いです。
>>423 詳細は前スレを参照してください。まあ、ざっと以下の感じです。
藤村正太
「コンピューター殺人事件」(講談社文庫)★★★
1971年の長編。
経営コンサルタント会社の江幡が主人公。コンピュータ導入による人員削減の騒ぎの中で起き
た殺人事件。
タイトル自体が、人間の先入観を利用した第一の殺人に絡んできており、前作「孤独なアスファ
ルト」でも使われた手法がなかなか見事。第二の殺人の、日本の地域性における或る錯覚を利
用したアリバイなどもユニーク。更には、消えたロープの謎、被害者が死亡直前に読んでいた
本の謎など、小道具にも冴えを見せている先ず先ずの作品。
「特命社員殺人事件」(サンケイ・ノベルス)★★★
1972年の長編。
東南アジアを舞台に、木材の中から出てきた死体に係る意外な真相。レッド・ヘリングなどは
上手いのですが、最終的な真犯人の設定とラストは凡庸。
「脱サラリーマン殺人事件」(廣済堂ブルーブックス)★★★☆
1972年の長編。
電機メーカーで出世競走に敗れ、趣味の写真に逃避した野上が失踪。彼に脱サラを勧めていた
男が殺され、野上の妻は事件の渦中へ。やがて容疑者が明らかになるが鉄壁のアリバイが・・・。
第一の事件のアリバイは簡単に見破れました。第二の事件の写真に関するアリバイ工作は、当
時では斬新なもので、似た趣向を或る新本格作家なども使っていますが、本作はスケールが小さ
くなってしまったのが残念。まあ、新本格お得意の「あの趣向」の先駆作品として評価できると
思います。
(承前)
「原爆不発弾」(光文社カッパノベルス)★★
1975年の長編。
絶命寸前に「ゲ、ン、バ、・・・、フ、ハ、ツ、ダ」と言い残して死んだ男。新聞記者の江島は、
原発取材中に知り合った被害者の娘とともに事件を追ううち、原発建設を巡る謀略へと巻き込
まれてゆく・・・。
ダイイング・メッセージはトリックとして意味をなしていない。アリバイ崩しもカメラを使っ
たトリックで面白いものでなく、ラストも余り深みがありません・・・。
あと「本格」じゃないけどこんな作品も。
「外事局第五課」(ポケット文春)★★☆
1965年の国際謀略物の長編。
当時の米ソ冷戦、ベトナム情勢などが色濃く出た作品ですが、主人公の蔵王麟太郎の造形が今ひと
つ。ベトナム現地の描写も、1980年代の冒険小説作家と比べるのは酷ですが、迫力に欠けます。
最後のドンデン返しも予想していたとおり。やはりこのジャンルは、この作者のホームグラウンド
ではないなあ。
「魔女殺人」(立風書房)(採点不能)
1975年の短編集。「異色推理」なる副題が付いていますが、「異色」どころか・・・。
表題作、SM。「仮面の貞操」「夜の罠」はマゾヒズム。「偽りの脂粉」フェティシズムと女装趣味。
「夜の受刑者」は一応ホラーの異色作。ラスト「美貌の母」も、下らない話ながらも、毒殺トリッ
クを導入しており、一応読ませます。以上6編、トンデモ超C級ミステリ集。
(承前)
あと、代表作のコレが未紹介でしたか・・・。
「孤独なアスファルト」(講談社文庫)★★★☆
1963年度乱歩賞受賞作。
東北地方から上京した青年。言葉の訛りにコンプレックスを持ち、鬱々としていたが、転職の件
で上司に叱責された直後、その上司が他殺体で発見される。青年はヤケ酒を飲み、その間の記憶
がなく、容疑者と目される。一方、現場近くでは土木作業員が失跡の後、これも殺されていた。
前の殺人事件を目撃したため、犯人に消されたのだと判断した警察は捜査を開始するが・・・。
二つの殺人事件に対する心理的錯覚が、人間の先入観を利用していて見事です。アリバイ工作で、
東京都区内と都下の或る違いに着目したのも面白く、作品の舞台が俺の近所、というほど近くも
ないけど、妙に納得できました。
ただ、青年の容疑者として追われる部分の苦悩が書き足らない気がします。そして悲惨なラスト、
社会派らしいとも言えますが、少々、後味の悪さが残ってしまいました。
(承前)
樹下太郎は、どれも「本格」とは思えませんが以下のとおり。
「銀と青銅の差」(文春文庫)★★
なるほど、ストーリーは面白いし、登場人物のキャラや描写も上手いものです。でも、ミステリと
しては小味で、トリッキーな趣向も無く、犯罪が絡んだサラリーマン小説というところ。
「目撃者なし」(光文社文庫)★★
まあ、昭和30年代のサスペンスとしてはこんなものか。これまた「本格」とは言い難い。文章に、
さほど古びた感じがないのは流石ですが。
「散歩する霊柩車」(光文社文庫)★★★☆
昭和30年代の代表的な短編を収めた短編集。
表題作は、自殺した妻の不倫相手を巡って走る霊柩車、夫の真の狙いは?という話。ラストのオチ
は予想できるが、夫のすっ呆けた風貌が印象的。「夜空に船が浮ぶとき」は、船の形をしたバーの
ネオンが、毎月、或る時間に消えてしまう。その時に限って、石神井川で謎の水死事故が起きるが・・・。
意外とオーソドックスな本格の佳作。
「ねじれた吸殻」「悪魔の掌の上で」は悪女物の好編。どこか呆けた独特の雰囲気。「泪ぐむ埴輪」
は、佐野洋・編のアンソロジー「最大の殺人」で既読。太平洋戦争を舞台にした、やはり悪女物。
一番気に入ったのは「孤独な脱走者」。恋人に裏切られ、自殺しようとした女性と、留置場を脱走
してきた男が出会う。男は女性に同情し、彼女のために一肌脱ぐことに。痛快な結末に溜飲を下げ
ました。爽やかな読後感が残ります。
その他「星空に花火を」「日付のない遺書」で全8編。全体として、「呆けたユーモアと哀感」に
満ちた好短編集だと思いました。でも「本格」として評価できる作品は少ないです。
佐賀潜は、一冊も読んでいません。「華やかな死体」ぐらいは読もうと思うのですが。
以上。7連投スマソカッタ
433 :
名無しのオプ:2008/09/08(月) 06:49:05 ID:28PBete5
藤村正太のソノラマ「謎の環状列石」「盗まれた表札」はわりとおすすめ
ソノラマ一作目の「星が流れる」は大人向けをむりやりジュヴナイルにしたような
凡作だけど、のちの2作品はいかにもジュヴナイルなふっきれた感で面白い。
「盗まれた表札」はミステリとしてもなかなか読ませる。
434 :
名無しのオプ:2008/09/09(火) 20:40:44 ID:DXsBb29N
新谷識「殺人願望症候群」(中公文庫)★★★☆
1975〜1982年までに発表された作品を収めた短編集。
「死は誰のもの」は「オール読物新人賞」受賞の処女作。電車に飛び込み自殺した男から直前に渡さ
れた包みに入っていた毒薬。渡された初老の男はストリップ小屋で出会う病気の男と親しく
なり、或る「計画」を思いつくのだが・・・。結末のヒネり方と純情で健気なストリッパーの造形
は上手い。
「殺意の十字路」は学者がライバルの教授の死ぬ夢を見たら翌日、その教授が本当に死んでいた。
彼は病気がちの妻もまた死ねば良い、と思うようになり、それがエスカレートして・・・。真犯人
の意外性を狙ったのだが甘く凡作。
「夜霧がいっぱい」は上司の娘と婚約した男が、上司が失脚し婚約者が邪魔になった挙句・・・。
これは鮎川風の倒叙物。アリバイ工作のどこに手抜かりがあったかを推理するもの。
「聖者の行進」は劇団の受賞パーティで起きた毒殺事件。被害者の夫、彼と敵対する演出家、
俳優、女優などなどアヤしい連中を巡って、更に殺人が起こる。犯人当て物として水準は維持
しており、遺書のトリックは先ず先ずだが、電話のアリバイ工作は、コレが得意な某女流作家
で飽き飽きしたネタ。
「天国への階段」は堅物の教授の後妻が財産を狙って夫殺しを企むが皮肉にも・・・。ここでも
薄幸のサウナ嬢の造形が素晴らしく、結末も清々しいが、この作者は本当に、「水商売だけど
純情で素直な女性」が好きみたいですねw
「最後の審判」はホラー風の秀作。評論家が入院した病院で知り合った入院患者たちを巡る殺人
事件。入信を勧めるバアさんに、洗礼を施そうとする牧師・・・。何といっても結末のオチが怖い。
以上、「本格」と「奇妙な味」が半々ぐらい、という構成です。「本格」の作品がやや物足りない
出来なのが残念。
西村京太郎「ミステリー列車が消えた」(新潮文庫)★★★☆
1982年の十津川警部物の長編。
国鉄が企画した行先不明のイベント列車「ミステリー号」。満員の乗客を乗せて東京駅を出発
したのだが、京都で見かけられたのを最後に列車ごと姿を消してしまう。十二両もの車両と四
百人の乗客をどうやって消失させたのか。やがて犯人側より国鉄に十億円の身代金要求があり、
十津川警部らが出動するが、東北本線を走る寝台車から、まんまと身代金を奪われてしまう・・・。
警察は何故アレを調べないのか、など、まあマジメに考えれば突っ込みどころ満載な訳ですが、
それは作者も百も承知で、わざと無視して「ゲーム」に徹しているのでしょう。ひたすら「四百
人の乗客と列車を消すにはどうしたら良いか」のアイディアを追求した作品。阿井渉介の「列車
シリーズ」のように荒唐無稽にはならず、一応、あり得そうな真相を用意しています。国鉄の
アレの件に気付いてミステリに応用したのは流石。列車&人質消失が解決した後の展開もサービ
スに徹しています。
難波利三「天城越え殺人行」(双葉文庫)★★
1986年の「TVロケ殺人事件」の文庫改題版。
女流作家・丘野が案内するワイドショーの旅行コーナーのホスト役に抜擢された大学生の塚田。
だがロケ先では不振な出来事が相次ぐ。松江では丘野が襲われ、京都ではディレクターが轢き
逃げに遭い、伊豆半島では終に新しいディレクターが絞殺されてしまう。塚田は、丘野には隠
された秘密があるのではないかと疑うのだが・・・。
「×××のための○○○」という真相は意表を突いていますけど、そのための人物の配置やら伏線
やらがまるでなっちゃいない。結末近くになって慌てて辻褄を合わせているだけ。事件の真相
以外には何も採るところのない作品。
斉藤栄「嫌煙権殺人事件」(光文社文庫)★★☆
1975年の短編集。解説は鮎川哲也。
表題作の原題は「たばこ殺人」。1975年までには未だ「嫌煙権」という言葉は無かったのでしょう。
しかし、このタイトルはダメ。メインの趣向そのものを台無しにしているとしか思えない。
「ヨコハマ殺人旅情」。一応、これがベストかな。四国から来た女性が殺され、その土地を狙う
親戚夫婦が疑われるが、彼らには鉄壁のアリバイがあった。作家の「わたし」は知り合いの謎の
奇術師・道庵に相談すると彼はアッという間に解決。奇矯なアリバイ工作が先ず先ず面白いで
すが、ラスト、道庵の或る行動にビックリしました。
「真夏の夜の証言」は花火大会の最中に起きた殺人事件。目撃者の一人は、犯人は女だったと言
うが、もう一人の目撃者である少年は絶対に男だったと主張する・・・。精神医学ネタですが今
ひとつ。
「大型保障殺人」は保険金サギをネタにした倒叙物だが凡作、「王冠の罠」「処刑の女」は結末は
ヒネっているが駄作というかクズそのもの。解説の鮎川が一番嫌いなネタだと思うが、ちゃんと
解説を書いているのが気の毒で・・・。
藤沢周平「ささやく河」(新潮文庫)★★★
1985年の彫師・伊之助シリーズの第3作。
島送りになっていた長六という初老の男が赦免され江戸に戻ってくるが、何者かに殺されてし
まう。男は昔の仲間だったが更正した商人・伊豆屋を脅迫して三十両もの大金を貰っていたが、
その商人にはアリバイがあった。どうやら事件は二十年以上も前に起きた三人組による押し込
み強盗事件に関係するらしい。だが三人組の一人だったらしき伊豆屋も何者かに殺されてしま
う。残る一人が昔の仲間を次々と殺しているのか。だが事件は意外な方向へ・・・。
第1作「消えた女」よりはミステリ的な趣向が上手くなっています。三人組の仲間割れと見せて
の真犯人の意外性は先ず先ず。幾人もの怪しい連中と伊之助との会話に含ませた渋いヒントな
ど、伏線もバレやすいけど頑張った方でしょう。まあ現代の本格ミステリと比べるのは酷です
が、謎解き趣向のあるハードボイルド時代小説としては、なかなかの出来だと思います。
高城高「暗い海 深い霧」(創元推理文庫)★★★
1958〜60年に発表された作品を収めた短編集。本スレの主旨に従って、先に「本格」系の作品
の紹介を。
何といっても「汚い波紋」。釧路の地方新聞支局の記者が知り合いの女に頼まれて、行方不明
のホステスを探すのだが・・・。この作者にしては「おっ!?」と思わせるトリックと真犯人の
意外性に秀でた佳作。
「アリバイ時計」は推理クイズに近い短い作品。デパート泥棒の侵入に警備員が気づかなかっ
たのは何故か?トリックの根幹を成す「もの」がどんなものなのか思い浮かばなかったが、こ
れも作者らしからぬ珍品。
「暗い蛇行」も、「本格」というほどではないが、さり気ない描写が心憎い逸品。
その他は作者の本領であるハードボイルド、スパイ謀略物。表題作は国後島に米国側のスパイ
として密航した男が逮捕され、数年後に帰国を果たし、妻を捜すのだが・・・。結末の意外性と
簡潔な文体は冴えていますが、簡潔過ぎて説明不足のような気も・・・。
「ノサップ灯台」は銀行の移動車(どんなんだろう?銀行の無い町で引き出しや振込みサービス
を行う車だろうか?)を襲撃した男たちが迎える運命。これは凡作。
「微かなる弔鐘」は岬で発見された若い女性の死体。ありふれた情痴絡みの殺人事件かと思われ
たが・・・。スパイ謀略物としては先ず先ず。
「海坊主作戦」は米軍のレーダー基地の情報を巡る米ソの争い。稚内やオホーツク海沿岸を舞台
にした荒涼とした描写が実に渋く決まっている。
「追いつめられて」は、網走のホテルを舞台に、刑務所を出所してくる男を待つホテル副支配人、
その情婦、そして別の密命を受けた男たち・・・。もう日活無国籍アクションそのまんまの世界。
結末の余韻も良い。あと「アイ・スクリーム」は凡作、「死体が消える」はホラー風の異色作、
「雪原を突っ走れ」はアイヌを扱った佳作、「冷たい部屋」は凡作。
6連投スマソカッタ
新田次郎「空を翔ける影」(光文社カッパノベルス)★☆
1963年発表の「道化師の森」を1976年に全面改稿の上、改題した長編。
父親が社長を務める機器メーカーで若くして専務に就任した丸宮利秋。視察のため初めてヨー
ロッパ出張に出かけるが、目付役の森常務にイビられ、言葉もままならずノイローゼ気味。しか
もドイツでは危うく自動車事故で命を落とすところだったり、スイス・アルプスでは何者かに
崖から突き落とされそうになる。一方、日本では社長の追い落としを狙う重役らの暗躍が。一体、
誰が専務や社長を狙っているのか・・・。
最初に発表されたのが昭和30年代、未だ海外旅行が自由化されていなかった頃のお話。とはいえ、
たかがヨーロッパ出張で、何十名もの空港お見送りやら今生の別れかも、とは・・・。遣唐使かよw
更に森常務の吹聴するテーブルマナーやら欧州の常識が、今となっては何というか・・・。当時の
日本人は本当にそんなことも知らなかったのだろうか?
それはともかく、ミステリ的にはやはり失敗作。これまた、結末近くになって慌てて手がかり
を出したり、辻褄合わせやらが著しい。しかも真相は誰もが想像するとおり。
昭和30年代、欧州が遠い世界だった頃に思いを馳せ、専務と常務の欧州珍道中を笑って楽しめ
ば良いだけの作品。この作者にはミステリは他にもあるけど、余り期待はできなさそう。
「強力伝・孤島」の短編集は好きなんですけどねえ。
441 :
名無しのオプ:2008/09/14(日) 23:34:38 ID:T1FSHZWy
米沢といえば羽陽書房という本屋で「オルドスの鷹」を400円で買ったことを思い出す
幻影城版「匣の中の失楽」がも700円だった
「占星術」の袋とじ未開封版が200円だったが当時興味がなかったので買わなかった
442 :
名無しのオプ:2008/09/15(月) 01:07:47 ID:2Ri0RWAC
>>440 昭和30年代は父親が飛行機に乗ったことがあるというだけで子どもの自慢になる時代。
あんな鉄のかたまりが空を飛んで安全なわけないと思ってる人が多かったし、
出発前に遺書を家族に宛てた遺書を書いたなんて話も珍しくありません。
それに海外旅行自由化以前の海外出張はエリートビジネスマンの晴れ舞台みたいなもので、
それこそ出征兵士を送るみたいに社を挙げて見送りにやって来たそうです。
443 :
↑:2008/09/15(月) 01:49:01 ID:LYS/rkow
一人か二人だかの思い出話か伝聞を聞いただけで
その時代がそうだったと決め付けてしまう人の例
444 :
名無しのオプ:2008/09/15(月) 09:00:39 ID:iJNrYEJl
↑
引きこもり人間の典型。
調査方法は「ググる」
情報ソースは「ウィキペディア」
445 :
名無しのオプ:2008/09/15(月) 22:37:57 ID:LcM/32mF
446 :
名無しのオプ:2008/09/15(月) 22:41:25 ID:2PSyL/v8
そこは
>情報ソースは「ウィキペディア
の部分に突っ込むべきだろ…
447 :
名無しのオプ:2008/09/16(火) 09:56:21 ID:+k9+cAW8
>>442 今だと失笑ものの「点と線」のアリバイトリックもこの時代背景があればこそだからなあ
448 :
名無しのオプ:2008/09/16(火) 13:18:16 ID:mh66bmkj
>>447 確かに(笑)
なんか、このスレも3氏崇拝厨が出てきて、うざいなぁ。
3氏自体は非常にいい仕事してるんだが。
449 :
名無しのオプ:2008/09/16(火) 13:22:55 ID:Utzhb1zg
>>443が「3氏崇拝厨」とは思わないけど
自分は大元帥を敬愛しているが、
>>442の指摘にはさもありなんと思うし。
450 :
名無しのオプ:2008/09/16(火) 13:31:31 ID:mh66bmkj
451 :
名無しのオプ:2008/09/16(火) 21:49:53 ID:QqcmyFby
作家だって評者だっていつも平均点以上取るわけじゃないしね。
津村秀介「北の旅 殺意の雫石」(祥伝社ノン・ポシェット)★★★★☆
1988年の浦上伸介物の長編。
熱海の旧家の娘でありながらグレて家を飛び出し、東京でホステスをしていた藤本昌代が、東北
旅行の帰途、岩手・雫石の河原で死体となって発見された。現場には「川口」と書かれたダイイ
ングメッセージが。昌代を慕っていた妹の亜紀は、事件を追う浦上と知り合い、姉の旅行した十
和田湖、弘前、秋田、盛岡を訪ね回り、事件の謎を追う。旅行先のあちこちで目撃された謎の男
の正体は、最有力の容疑者である姉の元ヒモ、牧内なのか。だが牧内には、事件のあった日には
愛人と四国を旅行していたアリバイがあった。さらに同じ時期に同じく東北を旅行していたその
男の別の愛人の意図は何なのか・・・。
いかにもトラミス、といったタイトルで損をしていますが、これは傑作です。一連の浦上シリー
ズとは異なり、妹の視点からストーリーが展開する点も新鮮ですが、「津村秀介=鉄道などのア
リバイ崩し」という先入観があったので完全に騙されてしまった。この作品では「アリバイ」の
意味が全く他作品とは異なっており、他作家のアリバイ物でも、この真相と似た作品は今ちょっ
と思い浮かびません。ダイイングメッセージの真相は気付きましたが、冒頭のプロローグなども
なかなか秀逸。
ということでお勧めの作品ですが、一つだけ注意を。この祥伝社ノン・ポシェット版の裏表紙の
「あらすじ」は読まないこと。或る仕掛けの一部が書かれてしまっています。カンが良い方なら
真相に気付いてしまうかも。もしも読まれるのであれば、裏は見ないまま購入して、さっさとカ
バーを掛けてください。しかしこんなことを平然と書くなんて、出版社の担当者は何を考えてい
るんだ・・・。
アンソロジー「私だけが知っている−第2集」(光文社文庫)★★★★
昭和30年代の伝説の人気テレビ番組の脚本を収めた作品集、第2弾。第1集(前スレ参照)に続い
て、鮎川、笹沢、夏樹、山村らの作品を収録。
戸板康二「金印」はお正月特番の作品。福岡・志賀島で発見されたとかいう金印が消えてしまう。
犯人はカネに困る年賀の客か、それとも家族の中にいるのか?まあ、お正月だから深刻な真相では
なく、こんなものでしょうか。でもあのロジックでは犯人は一人に特定できないよ。なおこの回は
特番ということで常連作家陣が探偵として特別出演。出演者は土屋隆夫、鮎川哲也、藤村正太、
笹沢左保、夏樹静子の5作家。なんて豪華な取り合わせ。見てみたかったなあ・・・。
笹沢左保「深夜の客」は、社長に恨みを持つ男とその恋人、妹が、社長の宿泊先の旅館に乗り込み、
殺害を企む。実は旅館の女将もまた社長に恨みがあるのだが、殺害を企んでいた男が逆に殺されて
しまう・・・。犯人はバレバレだが、或る人物の証言に関するトリッキーな趣向が光る。また被害者
の男に「女は信用できない」と喋らせるなど笹沢節も好調ですw
土屋隆夫「落とし穴」は、金持の叔父さんを殺したのは、借金で切羽詰まった甥や姪の三人組のう
ち誰か?犯人特定のロジックは、まあ頑張った方だと思います。
夏樹静子「コーヒー裁判」、新章文子「浴室殺人事件」は凡作。
藤村正太「水」は別荘で起きた溺死事件。水道は工事で断水中、井戸のモーターも或る時間帯に
は停電で使えないという状況で、被害者を溺死させることが出来た者とその方法は?これはミス
ディレクションが効いた佳作。或る小道具ばかりに気を取られてしまった。
(承前)
鮎川哲也「占魚荘の惨劇」は冒頭、警察への電話の描写が読者を瞞着する、技巧を凝らした佳作。
でもテレビドラマでどうやって映像化したのかな。あと登場人物のセリフを借りてクラシック
音楽の薀蓄を垂れているのもご愛嬌。
夏樹静子「崖の上の家」も力作。2つの殺人事件が起こるのだが、まさか短いテレビドラマで
あのトリックを使うとは思いもしなかった。後年、この作者は同じトリックで傑作を書いてい
ますね。
山村正夫「華やかなる結婚」「高原荘事件」はともにレベルが低く残念。
藤村正太「雪の証言」は先ず先ず。或る有名なトリックかと思わせて、些細な描写からそれを
否定して別の真相を導き出す手際は見事。
日影丈吉「奇跡ホテル」は番組最終回のシナリオだが、出来は良くなかった。
付録の、旧「宝石」誌に掲載された、鮎川哲也と番組出演者らの「座談会」、鮎川が番組の思い
出を語るエッセイも興味深かったです。
赤川次郎「東西南北殺人事件」(講談社文庫)★★★
1981年に発表されたシリーズキャラクター大貫警部ものの第1シリ−ズの連作集。大貫は無能で
厚顔無恥でケチ・・・と、J・ポーターのドーヴァー警部や海渡英祐の吉田警部補シリーズに連な
る系譜のドタバタ、ブラックユーモア調のミステリですね。
第1話「典型的殺人事件」は評論家が自宅の離れの仕事場で殺される話。大貫警部は部下の井上
刑事を振り回した挙句、全くの見込み捜査で自宅に乗り込み家族らを取り調べるが・・・。或る人物
と井上のドタバタめいたやり取りが真相に大きく絡んでくる、なかなかトリッキーな佳作。
第2話「迷宮入り殺人事件」は二十年も前に起き時効済みの殺人事件を大貫・井上コンビが再調
査すると、またも事件の関係者を巡って殺人が・・・。二十年前の事件で「被害者は何故、××××
だったのか」の真相は上手い。
第3話「本人殺人事件」は大貫警部のライバル木下警部、大貫からの贈り物を食べて木下の妻が
死んでしまう。実は・・・。これは上手くない。宛名の謎はともかく、あの人物がアレとアレを間
違えるとは思えないのだが・・・。
第4話の表題作は、ヒマを持て余した大貫が、最近起きている殺人事件の被害者の苗字が、東、西、
南、と続いていることに注目、次は北という苗字の者が危ない、と言い出すのだが・・・。これは
もちろん有名な古典的な趣向のパロディだが失敗に終わっている。更に大貫の描き方も非常に不愉
快。こういうキャラを描くには微妙なバランスが必要なようで、赤川をもってしても上手くいかな
い場合もあるのだなあ・・・。
第1話、2話は好調でしたが、後半の2話は粗さが目立つ作品。
5連投スマソカッタ
笹沢左保「白昼の囚人」(集英社文庫)★★★☆
1971年の長編。
重電メーカーのしがないサラリーマン小木曾は、重役の岩波と飲んだ帰り、タクシーの車内で
三千万円もの現金を見つけ、そのままネコババしてしまう。口うるさい妻に愛想を尽かし、岩
波を通じて知り合った銀座のホステス夏子との新しい生活を夢見る小木曾だったが、身辺に不
審な出来事が続く。三千万円の落とし主は誰だったのか。そして遂にネコババを知る脅迫者が
現れたのだが・・・。
当時は「脱サラ」と言う言葉が流行り始めた時期でしょうか、会社組織に束縛されたサラリーマ
ンを「白昼の囚人」と捉え、そこからの脱却を目指して挫折する主人公の顛末を淡々と描いてい
ます。本作のミステリ的な趣向は唯一つ、「真の黒幕の正体」なのですが、これがなかなか秀逸。
「容疑者」は何人もいるのですが、普通、ああいう形でストーリーが終盤に転機を迎えれば、読
者としてはオミットしてしまうよなあ。そこを付け狙ってくる作者の企みはやはり冴えています。
ただしそこに至るまでの序盤から中盤までは「退屈」の一言でしたが。
藤沢周平「漆黒の霧の中で」(新潮文庫)★★☆
1982年の彫師・伊之助シリーズ第2作。
河に浮かんだ死体に出くわした伊之助、死体の耳の裏側には鋭利な刺し傷が。それをきっかけに
またしても事件の渦中に。失踪した被害者の妻、彼らの元勤め先だった商家の不審な様子、殺さ
れた仲間の下引きが掴んだらしき秘密とは・・・?
やはりシリーズ全3作の中では一番落ちる出来かな。聞き込みに次ぐ聞き込みで事件の真相に
迫ってゆく地道な展開は良かったのですが、結局、それだけで終わってしまい、ヒネりが何も
無いのではねえ・・・。
457 :
名無しのオプ:2008/09/21(日) 17:15:32 ID:c2hzebWU
山村正夫って不思議ですよね。18歳でデビューして
さしたる業績はないけど、戦後推理文壇裏話と、
作家養成講座で、受講生の女食いまくった偉業が残る。
彼こそ大物作家だと思う。
458 :
名無しのオプ:2008/09/21(日) 17:33:52 ID:mur2MmOp
おお、津村が高評価だね
読もう
459 :
名無しのオプ:2008/09/21(日) 17:46:06 ID:v1IOqE0x
またブクオフを巡る仕事が始まるお・・・
と思いきや文庫版が現役で売ってるんだ
460 :
名無しのオプ:2008/09/21(日) 22:59:48 ID:cYYBbux+
他人の評価をあてにして「読もう」だの「ブクオフ巡り」だの
自分で作品を掘り起こして再評価しようって気はないのかよ
461 :
名無しのオプ:2008/09/21(日) 23:02:24 ID:v1IOqE0x
ないよ
462 :
名無しのオプ:2008/09/28(日) 00:50:53 ID:XbClBOhN
>10月17日刊
>陳舜臣推理小説ベストセレクション 『炎に絵を/青玉獅子香炉』(集英社文庫)
『炎に絵を』を探してたから、復刊は嬉しい
海渡英祐「悪夢と恋人たち」(徳間書店)★★★
1976〜84年に発表された作品のうち、恋愛をテーマにしたミステリで固めた短編集。1986年刊。
海渡の未読作を読むのは何年ぶりだろうか。本当に久々で期待しました。
「満点以上」はバツイチで女優と結婚した男。性格の不一致でまたも離婚し、今度は彼女の元付き人
の女性と結婚するのだが・・・。シャレた味わいですが、ヒネりが足りない。
「情熱」は学生時代にパリで知り合った男女が日本で再会するのだが。これももうひとヒネり欲しい。
「あなたの赤ちゃん」はプレイボーイの主人公が恋人をマンションに連れ込もうとすると、赤ん坊を
抱いた女が待っていた・・・。先の「満点以上」と似た話ですが、こちらはヒネりも決まって先ず
先ずの出来でしょうか。
「執念」、これがベスト。〆切に苦しむミステリ作家の仕事場に作家志望の女性が訪ねてきて、自作
を読んで欲しいと言う。作家には二十年前に恋人の小説を盗作して世に出た過去が。女性の持込み
原稿を読むと・・・。「本格」味はやや薄いが、ヒネり方と言い、オチの付け方と言い、なかなかの
佳作。
「風が吹けば・・・」は冴えない妻子持ちの男の妄想じみた行動からトンデモない事件に巻き込まれ・・・。
これも水準といったところか。
「笑顔」は上手い。地方都市に転勤した夫婦が知り合った隣家の夫婦の話。良くあるオチとみせて
終盤で引っくり返した挙句、実は、というオチは上手い。
(承前)
「過去から来た女」は地方都市で絶世の美女と知り合ったカメラマンが、女性の邸宅に招待されるの
だが、屋敷の様子がどこかおかしい・・・。ちょっとオチが弱いかな。
「分身」はサイコホラー風の作品。何ともいえない結末の付け方は上手い。
「やきもち実験室」は倦怠気味の婚約者カップル。男は女と別れようと、従妹に頼んで一芝居企むの
だが・・・。取るに足りない出来。
「汚点」は銀行の地方支店に転勤してきたエリート銀行員。彼に一目ぼれした女性が殺人事件に巻き
込まれてゆく・・・。ラストの作品らしく、ハッピーエンドでスッキリとした作品。
全体に「本格」味は薄味でした。むしろホラーやただの恋愛小説に近い味か。確かに、装丁やイラス
トなども、1980年代風の女性向け恋愛小説かと見紛うデザインでした。
どうやら本作が競馬物を除いては、作者の現代ミステリにおける最後の作品らしい(文庫版があった
かな)。もうムリな注文かも知れないけど、今後、海渡や陳舜臣の新作ミステリが出ないものだろう
か・・・。
津村秀介「西の旅 長崎の殺人」(祥伝社文庫)★★★
1989年の浦上伸介物の長編。
長崎のホテルで発見された男の死体。泊り客だった若い男女が殺して逃亡したのか。浦上が調査に
乗り出したところ、被害者は容疑者の姉の病死の件で脅迫をしていたらしい。警察と浦上の捜索に
より容疑者夫婦の居所は判明するが、二人には鉄壁のアリバイがあり、またホテルの宿泊カードに
残されていた容疑者の指紋は、二人のものとは全く異なっていた・・・。
前作「北の旅 殺意の雫石」は傑作でしたが、こちらは・・・、嗚呼、いつもどおりの凡作。アリバイ
工作は本作より十数年も前のアリバイ物の名作と同じ。もう一つの指紋の謎は、単純ながらも上手
いとは思うけど、やはり小技だしなあ・・・。
やはり、少数の傑作とその他多数の凡作に差があり過ぎる作家ですね。
小杉健治「犯人のいない犯罪」(光文社文庫)★★★☆
1991〜93年に発表された、東京・浅草で天野屋という質屋を営む籐吉と籐一郎の父子が巻き込ま
れる事件を、質屋の歴史を研究するため天野屋に通いつめる大学講師・岩崎映子が解決するとい
う形式の連作集。
「質草・象牙の撥」は若い女性が高価な象牙で出来た三味線の撥を持ってきて、金を貸して欲しい
という。だが彼女は信用金庫の横領犯と関わりがあるらしい・・・。これは大胆なトリックを用い
た佳作。伏線もシブく決まっている。
「怪異な質草」は質流れになった蒲団をバーゲンで買った税理士が「この蒲団で寝ると怪奇現象が
起こる」と主人公の質屋にネジ込んでくる。実は・・・。全てが合理的に解決した後のオチが怖い。
小杉には珍しいタイプの作品だと思う。
「蘇る古仏像」よりこの連作は新たな展開に。古い屋敷に住む藤一郎の幼馴染の美人姉妹。嫁いだ
はずの妹・美登里が訳ありで戻ってきて、高価な和服を質に入れる。更に国宝級の仏像を持って
きて、代わりに和服を質から出すのだが・・・。手の込んだ詐欺の手口が面白い。
「密室の質草」は前作に登場した美登里が暗躍する話。連続放火事件に地元区議の息子が関わって
いるらしい。父親の区議もまた、スキャンダルの渦中に。これは伏線不足。映子はどうやってアレ
を知り得たのだろう。
「人情質屋の打算」「質札のお守り」でも美登里と放火事件が絡んでくる。前者は腕の良い江戸小物
の職人が、自分の「腕前」を質に入れてくれとやって来る話。後者の質草は現金三十万円。公に使
えないヤバいカネではないかと疑うが。どちらも「ちょっと良い話」系で今ひとつ。
そして最終話の「質屋廃業」で、一連の事件に絡んできた美登里と連続放火事件の真相が明かされる。
放火事件の真相は、東京の下町の或る「事実」に絡んだ盲点を突くもので秀逸だったが、最後の「大
岡裁き」はどうもなあ。あと美登里の秘密も拍子抜け。
全体に、北森鴻の「孔雀狂想曲」などの連作集を彷彿とさせますね。小杉の下町・芸事趣味がやや
年寄り臭さを感じさせることもあってか、現代的なセンスとしては北森の方が上でしょうが、連作
ならではの趣向は決して劣っていません。ただ最終回はもうちょっと驚天動地のラストかと思った
ので期待はずれでしたが。
辻真先「ローカル線に紅い血が散る」(徳間文庫)★★★★
1982年の慎・真由子シリーズの長編第3作?
大学の友人・鞠子から「故郷で議員の息子と強制的に結婚させられるのを説得してほしい」と頼ま
れ、石川県の片田舎にある鞠子の故郷に同行した真由子。鞠子の父親は地元ローカル線の廃止を
推進したとして村人たちから恨まれており、鞠子の恋人の中学教師が廃止反対派の急先鋒だった
こともあって説得は物別れに。だが廃線となった翌日、鞠子の父は線路で無残な轢死を遂げる。
廃止となって列車などは一本も走っていないのに何故?現地に合流した慎の推理や如何に?
シリーズ最高傑作との評判はあちこちで聞いていたのですが、うーん、確かに佳作とは思うし、
これより出来が良いシリーズ作を挙げるのも難しいけど、でもそんなに傑作でしょうか。廃線で
の轢死も、トリックは結局、××××で、阿井渉介を少々大人しくした、一応実現可能、という
レベル。伏線には文句はないですが、もっと心理的な錯覚を突いた感じのトリックだと思ってい
たので肩透かし。
何故、廃線で轢死となったのかの動機については、まあ意表を突いているけど、だからどうした?
とも思えるし。国鉄赤字ローカル線に対する作者の愛情と義憤は良く分かりますけどね。
5連投スマソカッタ
池田雄一「不帰水道」(徳間文庫)(採点不能)
徳間文庫創刊記念の懸賞受賞作。1982年の長編。
昭和41年の年末。贈収賄事件の渦中にある商社マン桂木は、代議士秘書の小沼に呼ばれて鹿児島
県・指宿の海岸に来た。汚職事件の口封じを狙う小沼に殺されかけるが、逆に小沼が死んでしま
う。桂木は小沼の用意したアリバイ工作を逆利用して鹿児島県警の老刑事・及川らの手を逃れ、
事件は迷宮入りに。それから十数年、昭和の激動を駆け抜けてきた桂木は、定年間近の及川の執
念の捜査に追い詰められてゆく。時効まであと数ヶ月、勝負の決着は如何に・・・。
うーん、昭和40〜50年代の社会世相をたくみにストーリーに織り込んだり、特攻隊帰りの主人公
の屈折した心情を描いたりと盛り沢山の趣向で、まさに戦後史を生き抜いた男と男の意地がぶつ
かるミステリ、といったところで、それはそれで面白いのですが、どうも「良くあるパターン」を
揃えただけのようでもあるし、懸賞小説での賞狙いやテレビドラマ化を狙ったような底意も見え
隠れします。
そして何よりも、被害者・小沼の用意したアリバイトリックがスゴ過ぎて・・・。冒頭からあちこち
に伏線はあり、その点は上手いのですが、でもなあ・・・。「絶対にムリ」というヒトには、ちゃん
と今から三十年くらい前に現実に起きた某事件を以って反論しているのが却ってオカしい。
とにかくスゴいよ、このトリック。この点だけ見れば、やはりバカミスかなあ・・・。
468 :
名無しのオプ:2008/09/28(日) 16:36:00 ID:rDxBiFpc
こうゆう文庫本ってだいたい、一冊3時間くらいで読めるもんなんですか?
469 :
名無しのオプ:2008/09/28(日) 23:24:10 ID:2MF8TZqR
>>468 この頃のやつは、そんなに長くないから、2時間もあれば大抵読み終わる。
470 :
名無しのオプ:2008/09/30(火) 09:24:14 ID:lwJnpH0K
手書きの時代だしね。
小林久三「冬列島」(角川ノベルス)★★★☆
1984年の長編。
高校教師の宮川は、テレビで放映していたフランス映画を見ていて、或る不思議な事実に気付く
が、その直後に失踪してしまう。一方、成城にある映画会社スタジオのセットの豪邸で、二重に
施錠された浴室から他殺死体が発見される。被害者は美術商のセールスマンと判明、現場が密室
だったのは何故なのか。宇多と志村の刑事コンビが事件を追ううち、事件の背後には終戦直後の
美術品の海外流出と、消えた日銀ダイヤの謎、そして二十年近く前に突如引退し、隠遁生活を送
る大女優が絡んでいることを知るのだが・・・。
密室トリックはその方法、動機を含めて脱力の真相。あと刑事たちの推理がトンチンカンで事実
誤認もあり、「大丈夫か」と思っていたら、それは真相では無かったので一安心。でもなあ・・・。
本作で評価できるのは、或る人物の謎めいた行動とその理由が、事件の構図を180度引っくり
返す部分だと思います。ただし鮮やかな出来栄えではないので、さほど驚きを与えていないのが
残念。しかし、日銀ダイヤやら美術品流出などの華々しい題材を並べて、或る事実を隠すのは先ず
先ず上手くいったとは思います。
なお「突如引退し隠遁生活を送る大女優」のモデルは原節子ですね。小技ですが、彼女を知ってい
る人ほど、本作における大女優の秘密に騙されやすくなっている点がちょっと面白いです。映画界
に通暁した作者ならではの小味なトリックですね。
辻真先「迷犬ルパンの挑戦」(光文社文庫)★★★☆
1986年のシリーズ第6作。
従妹の結婚式でスピーチと司会を頼まれた朝日刑事とランは、カーフェリーに乗って一路、九州・
宮崎へ。一方、そのフェリーを運航する南九観光では、別荘の密室で謎の死を遂げた社長の後釜
を狙って、社長の息子と専務がお家騒動を繰り広げていた。フェリーではシージャック事件も勃
発するが、朝日とルパンの活躍で無事解決、しかし宮崎に着いた一行を待っていたのは、専務の
轢き逃げ事件とその犯人の飛び降り自殺だった。捜査が進むうち、自殺した男は冤罪で、別に或
る容疑者が浮かぶのだが、その人物は朝日たちの乗ったフェリーに同乗しており、鉄壁のアリバ
イがあった・・・。
第一の殺人の密室トリックも第二、第三の事件におけるアリバイ工作も、トリック自体は大した
ものではないです。しかし、伏線の張り方とフェアな描写がそれを補って、なかなか読み応えの
ある作品に仕上がっています。特にカーフェリー内の或る描写は絶妙の出来。内容はいつものと
おりで、シージャック事件の収拾の付け方などに少々不満がありますが、全体的には水準以上は
保っていると思います。
森村誠一「レジャーランド殺人事件」(講談社文庫)★★
1971年の7冊目の短編集。1970年に最初の短編集が出ているらしく、1年ちょっとで7冊とは、そんな
に売れっ子だったのか・・・。
先ずは表題作。自動車のセールスマンが遊園地のゴンドラ内で刺殺される。密室状態のゴンドラでどう
やって殺されたのか・・・。まあこんなものか。トリックよりも裏の真相の方が上手く行っている。
「初夜の陰画」は若手ホテルマンが競争相手の実情調査のため、新婚旅行を兼ねてライバルのホテルに
泊まる。上司は心中未遂を起こして翌日の予約をメチャクチャにしてやれ、と指示するのだが・・・。
スゴいよな、この作者の描く会社組織は。どれもこれも犯罪集団だよwそれに唯々諾々と従うサラリー
マンというのも毎度お馴染みだが、どうも違和感がある。「明日からは俺も会社の歯車として邁進する
ぞ!!」などと主人公が爽やかに叫んで終わる、筆舌に尽くしがたい怪作。
「殺人環状線」は腐れ縁の男を殺した女がアリバイ工作のため逃走中に交通事故に遭い、加害者に助け
られるが・・・。倒叙物をヒネッたものだが後味悪過ぎ。
「暗合殺人事件」は電車内で網棚から落下した荷物で死んだ赤ん坊、その父親であるヤクザに脅される
男の話。荷物を落としたもう一人の張本人が、男の上司に瓜二つなことから一計を案じるのだが・・・。
子煩悩なヤクザが笑えるが、大したものではない。
「自殺殺人事件」はハイミス女の仕掛けた罠にハマる男の話。先の先まで読んでいる罠がスゴいが、それ
以外は特になし。
「供血殺人事件」は売血会社の社長と提供者が殺されるが実は・・・。この真相はスゴい。売血者の鬼気
迫る心理が見所です。
「垂直の陥穽」。かつて冬の北アルプスで遭難したとき、雪洞にいたベテランの登山家を殺して一命を取
り留めた男、その息子が大学に入学して登山部に入り、ロッククライミング中に遭難する。実は・・・、と
いう話。登山の遭難現場の凄惨さは「密閉山脈」などでもお馴染みですが、この作者らしく迫力がある。
しかし真相は取り立てて言うことはなし。
4連投スマソカッタ
赤川次郎「一日だけの殺し屋」(角川文庫)★★★
1978〜80年発表の作品を収めた初期短編集。
本格物としては、「消えたフィルム」「高慢な死体」の2作が面白い。ともに売れないシナリオ
ライターと駆け出しの女優、シナリオライターの友人の警部のトリオが活躍するもので、シリー
ズ化を狙っていたのかな。前者は新作映画の試写会で主演女優が殺される、被害者に近づくこと
は出来なかったのだが・・・。後者は映画のロケ先で撮ったはずのフィルムが行方不明、やがて
そのロケ先で死体が発見されるのだが・・・。どちらもトリッキーな趣向を盛った佳作。
その他、「闇の足音」は追いはぎに失敗、警官を射殺して逃走した若者がアパートに住む盲目の
女性の部屋に侵入、ところが女性は男に親切にしてくれたばかりか逃亡を手伝ってくれる・・・。
ヒロインの「足音で人を区別できる」という特技が伏線となり、悲しい結末まで間然とするとこ
ろのない佳作。
「探偵物語」、これは薬師丸ひろ子・松田優作による角川映画の原作ですか。但し映画は本作に
かなりの脚色がなされているようですね。この原作は取り立てて言う出来ではないです。
「脱出順位」は高層ビルで火災発生、最上階でパーティをしていた客たちは・・・。パニック物と
しては面白い。「特別休日」、「共同執筆」は取り立てて言うことはなし。
表題作は、殺し屋に瓜二つのサラリーマンが、空港で雇い主のヤクザに間違われて殺しを請け負
わされる。一方、本物の殺し屋はサラリーマンに間違われて業者の接待に精を出す・・・。こうい
う作品は本当に上手いですね。荒唐無稽な一種のファンタジーめいたストーリーに、この作者の
真骨頂があると思います。
先週に続いて連投スマソ
赤川次郎「三毛猫ホームズの騎士道」(角川文庫)★★★★☆
1983年のシリーズ第8作目の長編。
幾つもの会社を経営する永江一族の長男・和哉に要請され、ホームズら一行はドイツ・ロマン
ティック街道沿いの古城に隠棲する和哉の弟・英哉を訪ねる。彼の住む古城は中世さながらに
秘密の抜け穴やら武器、拷問用具やらが残る陰鬱な雰囲気。英哉の妻は数年前に何者かによっ
て、悪名高い拷問具「鉄の処女」で殺されており、英哉は狂っているのではないかと心配する中、
その英哉が失踪してしまう。麓の警察を呼びに行こうとした和哉の秘書・北村はクルマごと跳
ね橋とともに転落、一行は古城に閉じ込められてしまう。深夜には、無人のはずの塔から響く
謎の女性の歌声が・・・。そして和哉の妻、使用人の梶本が相次いで殺され、和哉の息子・紳也
もまた、塔の最上階の密室で、矢で射殺されてしまう。外部からの助けが来ない中、ホームズ
らは事件を解決することができるのか・・・。
これはシリーズ屈指の傑作。第1作「・・・の推理」に匹敵する出来栄えでしょう。典型的なクロー
ズド・サークル物で、その設定を遺憾なく発揮し、意外な真相までグイグイと読者を引っ張って
ゆきます。第一の事件の真相もさることながら、塔の密室トリックも先ず先ず上出来。或る人物
の意外な正体も効いています。一部、厳密に言うとアンフェアな部分もありますが仕方がないで
しょう。
ただ、中世の暗鬱な古城を舞台にしても、J・D・カーのようにはならず、いつもの軽妙な文体
であったのは良かったのかな。思い切ってカーになりきって陰鬱なストーリーにしても面白かっ
たのでは、と思います。
あとラストの一行、作者は単なるオチとして書いたのかも知れませんが、俺にはミステリにおけ
るCC物の或る種のバカバカしさを批判しているようにも思えました。
更に目次までも楽しめます。お勧めの傑作。
清水義範「H殺人事件」(光文社文庫)★★★☆
1985年の、不破・朱雀の「躁鬱コンビ」によるシリーズ第1作。
不破は大学研究生の傍らテレビ局で番組制作のバイトに精を出しているが、自宅アパートで発生
した風俗嬢の殺人事件に巻き込まれる。被害者には意外な素顔があったらしい。不破は上司のディ
レクターから、被害者を追跡したドキュメンタリー番組制作のための取材を命じられて事件を追
う。しかし、同じ風俗店の女性もまた殺され、店の呼び込みのオヤジも殺されてしまう。同じ店
に勤めているだけで他に共通点のない被害者たちが狙われたのは何故なのか・・・。
「ユーモアは風俗的な部分から古びてゆく」を地で行っている部分もあり、「こりゃダメかな」と思
っていたら、後半からかなり盛り上がってきます。不破がワトソン役で、親友の鬱々としたキャ
ラの朱雀がホームズ役。連続殺人の被害者たちを巡るミッシング・リンクの推理も、軽いノリな
がら、なかなか「本格」に忠実。明かされる真相は海外古典の有名トリックながらも真犯人は結
構意外で、その伏線をギャグ絡みで描いている点も秀逸。ミステリは付け足しのユーモア小説か
と思っていたので掘り出し物でした。
それにしても、1970年代以前の風俗よりも80年代頃の近い過去の方が、読んでいて余計に恥ずか
しく感じられるのは何故でしょうか・・・。
仁木悦子「夏の終る日」(角川文庫)★★★
1975年の三影潤ものの短編集。
「色彩の夏」は真夏の海水浴場が舞台。ホテルから女性が転落死した事件で知り合った女性と
東京で再会するのだが、彼女もまた命を狙われているらしい。或るネタが如何にも女性らしい
のですが、ちょっと分かりにくいよな。
「どこかの一隅で」は女房に逃げられた冴えない男。殺人事件が起こり、警察に疑われるがア
リバイが判明、しかし自殺してしまう。実は・・・。アリバイ工作にちょっと疑問がありますが、
或る女性のドライな描き方が興味深い。
「白い時間」は真冬の東京。スキーに行く直前に入った仕事で三影はご機嫌斜め。売れない俳
優の息子を探し出して欲しいという母親からの依頼なのだが・・・。アリバイ工作は在り来たりだ
が、その解明のヒントがシブく決まっている。
「しめっぽい季節」は、散歩中の親子が娘を攫われそうになり、父親が突き飛ばしたら犯人は
崖から落ちて死亡、だが事件は意外な方向に・・・。まあこんなものか。
表題作は、以前に浮気調査の依頼をしてきた女性から呼び出された三影、自宅に駆けつけると
彼女の夫が殺されていた・・・。やや錯綜ぎみだが、先ず先ずの水準。
本作は飽くまでハードボイルドですが、構成は一本、「本格」の芯を通しており、大仰なトリッ
クはないけれども、まあ楽しめます。
藤原審爾「贅沢な殺人」(角川文庫)★★
1969年の長編。この作者は「新宿警察」シリーズがミステリの代表と思われているようですが、
あのシリーズは謎解き要素の少ない警察小説、一方、本作は珍しい純粋なミステリ作品。
亡くなった銀行家の娘と元秘書の夫婦が住む広壮な屋敷。夫が趣味の空気銃を試射したところ、
庭の木の上にあった植木バサミが落下、下にいた妻は間一髪で大怪我を免れた。一方、夫の方
も階段の手すりから落ちたプランターで九死に一生を得る。偶然の事故とも思えない。一体、誰
の仕業なのか。夫婦はそれぞれ、相手が自分の命を狙っているのではないかと疑心暗鬼に駆ら
れた末、各々の浮気相手と共謀して、相手を先に殺してしまおうと画策するのだが・・・。
確かに「本格」というには物足りない出来で、ではサスペンスかと言うと、どうも緊迫感に欠け
ます。何より文章が古臭いのが難点。もちろん、夫婦を最初に狙った真犯人はおり、結末で明ら
かになりますが、現代の読者には簡単に予想されてしまうレベル。だから「最後に笑うのは誰か」
といった趣向も楽しめません。
以前に読んだJ・アンダーソン「殺意の団欒」より十年以上も先に、似たプロットを展開した点は
評価できるかな、と思ったけど、考えてみれば、「互いに相手を疑う夫婦」というのは昔からよく
あるパターンでもあるし・・・。
なお短編「欲望火山」を併録。これまた古臭いことこの上なし。引ったくりを画策していたチンピ
ラとブルジョワ不良中年たちが或る事件で交錯して・・・、というお話。
479 :
名無しのオプ:2008/10/13(月) 23:01:14 ID:/tC0PyoD
あー、「騎士道」は面白いですよねー
三毛猫ホームズは小学中学時代に読み漁って
殆ど中身忘れたけど、これは未だに印象に残ってるわ
480 :
名無しのオプ:2008/10/15(水) 19:24:49 ID:TWOdb4qc
>◇『本格ミステリ・フラッシュバック』 千街晶之ほか著(キイ・ライブラリー)
>清張以後から綾辻登場までの本格ミステリを網羅する瞠目のガイド。
創元のメルマガによると12月以降らしい
予告したけど出さないよってことですかねw
481 :
名無しのオプ:2008/10/15(水) 19:26:30 ID:n2H/sOMf
3度目?の予告になるのかしらw
482 :
名無しのオプ:2008/10/17(金) 02:12:38 ID:Y/MPtGkJ
80年代半ばの赤川次郎ブームの頃に小学高学年〜中学生だった人たちにとって、赤川次郎は親の前でも読める「ライトポルノ」でもあったと思う。
別にあからさまな描写があるわけでもないのに、なぜかどきどきしながら読んでた。
483 :
名無しのオプ:2008/10/17(金) 08:35:52 ID:RWvHHqUX
同じく小峰元もその類だったよなー。
パンドラの恋愛能力共通一次テストなどドキドキしながら読んだものだ。
西村京太郎「夜間飛行殺人事件」(光文社文庫)★★★
1979年の十津川警部物の長編。
十津川警部は直子と結婚し、北海道へ新婚旅行に向かったが、早くも事件に遭遇。ちょっとした
ことで知り合った新婚夫婦が小樽近郊の寂しい海岸で失踪。北海道警の依頼を受けて旅行を切り
上げて捜査に協力することになったのだが、二人の行方は見当も付かない。更に第二、第三の新
婚カップル失踪事件が発生、一体、何が起きているのか、誘拐であるならば犯人の目的は何なの
か・・・。
本作の謎解きの趣向は唯一つ、「新婚カップルを失踪させて得るもの」に尽きると思います。それ
が解けてしまえば、もうそれまで。とは言え、なかなか意表を突いたところを狙っています。
発表当時の社会世相なども踏まえて、久々に熱血漢だった作者の怒りが前面に出た作品。
佐伯泰英「ピカソ 青の時代の殺人」(ハルキ文庫)★★★
今や時代小説の書き手として売れっ子の作者ですが、ブレイクする前に冒険小説などを書いていた
頃の、1992年の長編。
東京・府中の駐車場で発見された、絵具で奇怪な装飾を施された他殺体。府中署の刑事・夏苅らが
捜査を進めるうち、被害者の骨董商・阿澄は、ピカソの幻の名画を扱っていたことが判明、それを
巡ってのトラブルと推測された。名画は果たしてピカソの真作なのか、夏苅は被害者の店で働いて
いた美術専攻の大学院生・三枝しおりとともにスペインへと飛んだ・・・。
発表年はバルセロナ・オリンピックのあった年で、その便乗効果も狙ったのでしょうか、でも売れ
なかったのでしょうか。内容的にはピカソの絵画を巡るスケールの大きな作品なのですが、やはり、
五木寛之や逢坂剛などに比べると、どこか「華」に欠けているようです。しかも連続殺人事件が起き
ているのに、ミステリとしての謎解きのレベルが薄味なので、今ひとつ乗り切れません。
で、このまま幕かな、と思ったら、結末で意表をついたトリックが判明。最近では余りお目にかか
れない古典的なもので、驚くには驚いたのですが、やはりアレを使うには、杜撰さとご都合主義を
免れていません。
それなりに面白かったけれど、作者がこの分野から離れたのも納得できるものでした。
3連投スマソカッタ
水野泰治「吉原遊郭2039年の殺人」(双葉ノベルス)(採点不能)
1989年の長編。
西暦2039年、平成51年の東京インテリジェンスシティ。ローヤルゼリーから抽出した秘薬「王乳」に
より世界は超高齢化社会に突入していた。だが「王乳」を開発した和久総裁が突如失踪。「王乳」の
生み出す莫大な利益により独裁政権を樹立した長門総理と秘密警察が極秘裏に捜査を進めると、どう
やら和久総裁は自発的に失踪したものの、潜伏した国際特殊観光地区「吉原遊郭」で何者かに幽閉さ
れてしまったらしい。秘密警察に捜査権を奪われアタマに来ていた警視庁の沖・松原巡査は、同じく
長門政権打倒を目指す一派と合流、事件を追って、江戸時代を再現した「吉原遊郭」に潜入する。だ
が外人観光客に化けたスパイが惨殺され、更に秘密警察の副部長もまた殺される。和久総裁が失踪し
たのは何故なのか、彼を監禁し殺人を繰り返している犯人の正体は誰か、そしてその狙いは何か・・・。
・・・もうね、ブクオフでタイトルを見たとたん、「あっ!バカミスだっ!」と迷わず購入しましたよ。で、
読んでみたら、やはり期待を裏切らない怪作でした。
一応、「SFミステリ」の範疇に入るのでしょうが、この作者には「センス・オブ・ワンダー」など
欠片もない。数十年前にSFの先達が考えたSF小道具やアイディアを、そのまんま並べれば、SF
一丁上がり、と思っているようです。しかも、江戸時代を再現した「吉原遊郭」ってのがこれまた・・・。
中に入る人間も江戸時代の装束になる決まりで、沖・松原コンビも、沖助、松造と名乗って岡っ引き
の格好で活躍・・・。失踪の鍵を握る「天プラのスシ」なる暗号(?)、第一の殺人の「生首どっかーん
事件」(本当に文中にそう書いてある)、非合法集団「殺そう教団」など、ネーミングセンスもバツグンw
事件の展開はハデですが、謎解きとしての中身はボロボロの出来。従って誘拐犯の正体が判明しても、
ああそうですか、というレベル。SFとしてもミステリとしても評価すべき部分は全くありません。
吉原の江戸風俗も専門書から引き写しただけのレベル。全く毒にもクスリにもならない小説。苦笑し
たい時にだけ有効かも。
487 :
名無しのオプ:2008/10/19(日) 14:23:00 ID:louzEy/0
>>486 やはりバカミスですか
古本屋で見かけるたびに気になっていたんだけど、買う勇気がなかったですw
488 :
名無しのオプ:2008/10/23(木) 11:17:42 ID:T+xq/q/t
age
辻真先「紺碧(スカイブルー)は殺しの色」(徳間文庫)★★★★☆
1979年の「離島ツアー殺人事件」を改題したノンシリーズ(?)の長編。
劇画の原作者・大日方と劇画家の城は取材旅行で沖縄の宮国島と近くの小島・神島を訪れる。
神島には古い租神信仰が残り、村の年寄りたちは聖域と崇めていたのだが、商社と不動産会社
がレジャー開発を狙っていた。そんな折り、土地買収の交渉にやって来た不動産会社社長の愛
人・可奈江が何者かに殺される。容疑者は彼女を追ってやって来た正妻の寿美か、買収に応じ
ない島のインテリ・池間か、あるいは大日方の昔の恋人で、今は池間と付き合いのあるらしい
響子か。だが被害者を最後に目撃した大日方らによって、容疑者にはアリバイが成立していた。
東京に戻った大日方は、響子を脅している寿美を説得すべく自宅マンションを訪ねる。だがそ
こでも事件が起こって事態は混沌としてくる・・・。
これは傑作。トリック自体の出来はともかくも、伏線の張り方が素晴らしい。思わせぶりなプ
ロローグから、劇画家・城の何気ない会話、第一の事件直前のさりげない描写、島の分校で起
きた他愛のないエピソードなど、あちこちに散りばめられたヒントが終盤ですべて収束して、意
外な真犯人を明らかにします。おまけにエピローグにまで小味なサプライズを持ってくるなど
サービス満点。少々後味は悪いし、謎解きの部分での或る人物の「熱血ぶり」にも白々しい感じ
が残るけど、「伏線はこう張るんだよ」という教科書のような作品。お勧めです。
夏樹静子「二人の夫をもつ女」(講談社文庫)★★★
1973〜1976年の作品を収めた初期短編集。
「あなたに似た子」は、自分の子と浮気相手の子がソックリとの噂に苦悩するヒロイン。その
可能性はないのだが、やがて恐喝者が現れ、殺されてしまう・・・。読者が予想するところを途中
でヒネッてはいるものの、やはりソッチではなくアレだったな、と予測されてしまう結末。
「波の告発」は福岡に転任早々の兄が海水浴で溺死したことに疑いを持つ妹。兄の妻と部下の
不倫が絡んでいるのではないかと疑うのだが・・・。凡作。
表題作は失踪した夫が見つからないまま、妻は新しい男との結婚を決意する話。犯罪から離れ
たちょっと異色の作品。
「朝靄が死をつつむ」は友人の自殺を疑う女性の話だが、構成が雑駁な失敗作。
「ガラスの中の痴態」は、レイプの被害者が相手に仕掛けた復讐とは・・・。かなり意外ではある
けど、意外性を狙いすぎでムリがある。あのヒトにとっては迷惑千万だよw
「朝は女の亡骸」は佳作。恋人から電話が掛かってこないで悲観して自殺した妹。姉は自殺を
疑うのだが・・・。自殺ではなかった理由が単純ながらも上手く隠されている。更に真相を突き
止めたヒロイン自身に跳ね返ってくるラストのオチが素晴らしい。
「幻の罠」は、夫殺しの容疑をかけられた女性のアリバイを証明できるにも拘らず、警察に黙っ
ていたヒロイン。数年後、その時の女性が近所に引っ越してきて以来、不審な出来事が相次ぐ・・・。
アリバイを潰しあう二人の暗闘が上手く描写されているけど、本格とは言いがたいな。
「夜明けまでの恐怖」も佳作。別の女性と婚約した裏切り者の男を殺すべく、親友にアリバイ工
作を頼んだ女性。男の自宅に行ってみると留守で、しかも近所の住人に目撃されてしまう。
諦めて家に戻ると、自宅で自分のフリをしていた友人が殺されていた・・・。このオチは素晴ら
しい。現代では大したことはないかも知れんが、当時にしては切れ味鋭い作品。
前半の作品群がパッとしなかったが、後半にはレベルの高い作品があり、まあ先ず先ずでしょ
うか。
西村京太郎「炎の墓標」(講談社文庫)★★★
1978年の十津川警部物の長編。
ペルシャ湾より日本に向け航行中のタンカー・洋平丸に爆弾を仕掛けたとの脅迫電話が石油
会社に入る。社長ら会社幹部は身代金要求を無視したのだが、南シナ海でタンカーは爆発炎
上。更に犯人側は関連商社の社長を誘拐、身代金100万ドルをインドネシア・バリ島の小
さな商店の口座に振り込めという。捜査に乗り出した十津川警部の活躍や如何に・・・。
さすがにこれは「本格」とは言いがたかったですね。ではサスペンスか冒険小説なのか、或い
は国際謀略物か、というと、それも一寸違うような・・・。序盤のタンカー爆破予告からの展
開が実に上手く、先の先を読みつつ飽くまでフェアに徹する犯人に読者が感情移入してしま
うよう、作者が計算済みなのもスゴい。
終盤、或る殺人事件が起こるのですが、これは或る「もの」から読者を誤誘導させる点が効い
ているとは言え、余計だったような気がします。この辺りで犯人の正体はバレていますが、
この犯人像は初期の佳作「殺人者はオーロラを見た」「ハイビスカス殺人事件」(どちらも未紹
介だったかな?)にも共通するものがあるように思えました。
いずれにせよ、犯人当てではないし、他の謎解きの要素も薄いので評価は低いですが、かなり
楽しめる作品ではあります。
4連投スマソカッタ
阿井渉介「雪花嫁の殺人」(講談社文庫)(採点不能)
堀刑事と菱谷刑事のコンビが活躍する「警視庁捜査一課」シリーズ、1994年の第3作。
雪の降り積もった夜、政財界の黒幕・壬生の長男・道安がグラウンドの真ん中で殺されていた。
周囲には被害者自身の足跡しかなく、死亡推定時刻から見ても、犯人が足跡を残さずに現場を
行き来することは不可能な状況だった。不可解な殺人事件は、やがて一族を巡る連続殺人に発
展、越後湯沢に舞台を移して、またも足跡のない殺人、そして三男が犠牲となった第三の殺人
では、現場で雪女が目撃され、更に第四の殺人では足跡だけで姿の見えない犯人が逃亡するな
ど、奇怪な出来事が相次ぐ中、堀と菱谷が暴いた事件の真相は・・・。
この作者といい池田雄一といい、シナリオライター出身の作家には或る特徴がありますね。
「テレビドラマで使い古されたキャラクターとワイドショー並みの道徳観」というところ。
それはさておき、久々に「列車」シリーズのバカバカしさが復活した怪作ですね。事件の真相、
先ずはメインの雪の不可能犯罪。なるほど、コレなら可能だな、・・・ってアホか。「犯人の心情
に迫る」と解明できるのだそうですが、支離滅裂。ちょっと似た例は、かの有名な寡作家の作
品で読んだ覚えがありますが、コッチはどうもなあ、「必然性」が全く理解できない。
その他にも、第二、第三、第四、第五の殺人にも、各々趣向がありますが、どうにもバカバカ
しくて・・・。一点だけ、「姿の見えない謎の足音」だけは、俺もスキーで経験したことがあるの
で、まあ納得できますが。
で、いつもどおり、人間のイヤな部分をワイドショー並みに突きつけてくる動機が解明されて幕。
不良刑事の菱谷がいつにも増して鬱屈してますが、これも三流浪花節レベル。
・・・久々の阿井作品だったので疲れましたw
493 :
名無しのオプ:2008/10/27(月) 18:46:03 ID:IWKTS593
>>489 乙。
これは読んでみたいな。
古本屋でも見かけたことはついぞないがw
494 :
名無しのオプ:2008/10/27(月) 20:02:51 ID:9ViOnwGj
>>493 事件自体はどんなんだが忘れたが、オチで明かされるある真実に大笑いした記憶があるw
495 :
名無しのオプ:2008/10/27(月) 22:48:29 ID:Cs9dJT5u
>>489のやつって、たしか乱歩賞に投稿した作品じゃなかったっけ?
496 :
名無しのオプ:2008/11/02(日) 16:52:25 ID:fhptWHDd
>紺碧は殺しの色
旧題は「離島ツアー殺人事件」
作者が最初に付けた題は「たかが殺人じゃないか」だったが
反道徳的という理由でボツ。
山崎洋子「ヨコハマ幽霊(ゴースト)ホテル」(講談社文庫)★★★☆
乱歩賞受賞作「花園の迷宮」に続く1987年の長編第2作。
亡父の残した借金でサラ金に追われる21歳のみずきは、未だ会ったことのない祖母・文乃に
救われ、借金を完済してもらい、文乃が経営する横浜・中華街のホテル「コーストホテル」の
経営を任される。だがホテルは老朽化して破綻寸前、宿泊客の面々も、ゲイバーに勤めるルル、
怪しげな中国人夫婦、謎のフランス人親子、旅芝居の役者親子など、得体の知れない連中が、
なかば部屋を占拠して長期滞在していた。祖母の文乃も冷淡になり、どこか様子がおかしい。
更に前年、ここの宿泊客が殺される事件も発生しており、幼馴染みの三郎やカメラマンの青柳
とともにホテルの謎を追うみずきにもまた、魔の手が迫っていた・・・。
「花園の迷宮」や後年の「横浜秘色歌留多」(前スレ参照)などと同じく横浜が舞台で、序盤から
全体に明るいトーンでストーリーは進むのですが、後半、ようやく事件の本質が「アリバイ」
にあることが判明する辺りから一転、陰惨極まる事件の深層が明らかになってきます。アリバ
イ工作そのものは取り立てて言うほどのものではないですが、見落としがちな、さり気ない伏
線がシブく決まっています。陰惨な真犯人の狂気と対照的な、ロクでもないと思われていた怪
しげな宿泊客たちの素顔が明らかになる結末も上手い。先ず先ずの作品でしょうか。
赤川次郎「三毛猫ホームズの幽霊クラブ」(角川文庫)★★☆
1985年のシリーズ第?作。「・・・の騎士道」に引き続いてドイツが舞台です。
「騎士道」事件の後、ホームズ、片山ら一行はドイツの古城を改装したホテルに滞在していた。
だが迷路になった庭園で日本人女性客がレイプに遭う事件が発生、何故か被害者は片山が犯人だ
と主張し、責任を取って結婚しろと部屋に居座るハメに。どうやら片山が刑事だと知って、自分
を狙う相手から保護してもらおうとしたらしい。さらに宿泊客の子供が池に投げ込まれるなど不
審な出来事が続く中、栗原警視が日本から飛んできて、日本の有名人たちが参加する秘密クラブ
「幽霊クラブ」の会合がこのホテルで開かれるが、メンバーを何者かが狙っているという。「幽霊
クラブ」は有名人らが身元不明者や失踪した人間の戸籍を買って、別人になりきって世間の目を
ごまかして遊ぼうというクラブらしい。そのメンバーが揃ったのも束の間、いよいよ殺人事件が
起きるのだが・・・。
当時既にベストセラー作家で多忙だったことと思われますが、ここまで錯綜した人間関係と複雑
な事件を一応、破綻なく纏めたことには感心します。しかし、「本格」の観点からみれば、やはり
「辻褄合わせ」と「ご都合主義」が目立ちすぎでしょう。伏線不足という点もあり、真犯人の意外
性も上手く行っていません。「・・・の騎士道」でも使われた或る人物の意外な正体も空振り気味。
とはいえ、人気作家のやっつけ仕事の駄作にはなっていない点は評価すべきでしょうか。
平岩弓枝「黒い扇」(角川文庫)★★☆
デビュー間もない1960年に新聞連載された長編で、文庫版で600ページ近くある大作。
銀座の老舗料亭「浜の屋」の一人娘・八千代と、その幼馴染みで大物歌舞伎俳優の御曹司なが
ら変わり者で映画俳優になった能条寛。八千代の日本舞踊の師匠・茜ますみの愛人が修善寺温
泉で不審死を遂げたのを皮切りに、能条のライバル俳優の自殺、茜の新しい愛人の轢き逃げ死
など怪事件が相次ぐ。茜ますみを巡る男たちが狙われるのは何故なのか。また事件の背後にチ
ラ付く「黒い扇」の謎とは。八千代と能条の素人探偵コンビが事件を追うのだが・・・。
邦楽界、梨園、芸能界を巡る連続殺人事件の趣向ですが、「本格」としては物足りない出来。
トリッキーな趣向が殆ど無いのでは仕方が無いです。一応「犯人当て」の形式は忠実に守って
おり、結末には「意外な犯人」が明かされ、「そう言えば、そんなヒントもあったっけ」とは思
うけど、切れ味が悪いというか、何か全体にスカスカした冗漫な感じしか残りません。
地方新聞各紙に連載されたこともあってか、東京や大阪の世相風俗や流行に触れたり、温泉に
行ったりするのは、娯楽の少なかった時代の読者サービスなんでしょうね。東京・大阪間が7
時間とか、長距離電話は申し込み制、といった話はすっかり慣れっこになってますが、赤坂見
附の弁慶堀に蛍がいるとか、しゃぶしゃぶを食わせる店が東京に一軒しかなくて、登場人物が
珍しそうに食べるなど、「本当かよ」と思えることも書かれており、何か隔世の感があります
ね。そういった「昭和の風景」を小説で味わうのも実は大好きなんですけどね。
まあ、序盤の小事件や謎、伏線らしきものは一応、全て回収されており、その点では、支離滅
裂な怪作「華やかな魔獣」(
>>66参照)よりはマシというレベルでしょうか。
日下圭介「悪夢は三度見る」(講談社文庫)★★☆
乱歩賞受賞の「蝶たちは今・・・・」に続く1976年の長編第2作。
富豪一家の長男・浩一を訪ねてきた娘・雪子は「二年前に毒殺された貴方の妹・絹代は、自殺
した私の兄・貞夫が殺した」と告白。浩一は加害者だという雪子の兄が貧しい工員であること
から、新たなスキャンダルに巻き込まれるのを恐れて、元部下の関根に内密で調査を依頼。
だが関根は行方不明になった末に殺されてしまう。代わって道楽者の浩一の弟・謙二と、絹代
の元恋人の大河内、そして雪子の三人が事件を追及するのだが・・・。
序盤の曰くありげな複数の視点による描写が興味を盛り立てますが、だんだんと失速、終わっ
てみればお粗末な電話トリックによる下手なアリバイ物に終わってしまったのが残念。とはい
え、探偵役の謙二・大河内・雪子の何ともユニークなトリオぶりや、「何故、貞夫は絹代を殺し
た末に自殺したのか」というポイントのヒネり具合、結末で明らかになる或る人物の「企み」
などは面白く、また日下圭介にしか書けない、独特のムードに満ちた作品ではあります。
「本格」としては凡作ですけどね。
津村秀介「××××××急行列車」(講談社文庫)(採点不能)
1988年の浦上伸介物の長編。
東京・蒲田で闇金融の男が失踪の後、殺されているのが発見される。やがて浮かんだ容疑者は、
借金の担保で秋田市の土地の権利書を被害者にいったんは差し出したものの、後から取り返し
て殺したのではないか、と疑われる。だが容疑者には秋田の実家の金庫から取り出すことも、
また金庫に戻すことも不可能な状況で、しかも被害者が殺された時間には鉄壁のアリバイがあ
ったのだが・・・。
容疑者は早々に絞られ、何やらお粗末なアリバイ工作が出てきて、それでも、簡単には崩れな
いのですが、「まさかとは思うけど、題名から類推されるアレじゃないよな」とイヤーな予感。
そして真相は・・・。タイトルどおりだったwwww
・・・ええと、作者と出版社はミステリファンをナメているのでしょうか。どうしてこんなタイ
トルを付けるのかなあ。ネタバレそのもの。生まれて初めてアリバイ物のミステリを読んだ
初心者以外、誰も引っかからないと思うんですけど。「ひょっとして『××××××急行列車』
とは、俺が想像したものとは別の、意外極まるものを指しているのではないか」などと期待し
た俺がバカだった・・・orz
まあ、たとえ別のタイトルであっても、このトリックは駄作でしかないですけどね。とにかく、
ネタバレそのものだし、余りにも気の毒なので、題名そのものを伏せさせていただきますw
502 :
名無しのオプ:2008/11/03(月) 19:43:46 ID:+RHppPo9
>阿井渉介
160キロを投げる豪腕投手みたいですな。
(ただしストライクはほとんど入らない)
503 :
名無しのオプ:2008/11/04(火) 14:43:31 ID:D3Se108n
高柳芳夫の作品で、おすすめのものありますか?
あんまり古本屋でも見ないんですが。
504 :
名無しのオプ:2008/11/04(火) 15:49:03 ID:T8S4zQCV
505 :
名無しのオプ:2008/11/04(火) 17:14:28 ID:T/l2wYcj
>本格ミステリ・フラッシュバック
>千街晶之 他 【キイ・ライブラリー/A5判並製】
>記念碑的名作から幻の作品まで――松本清張が頭角を現した1957年から、新本格ミステリ発足の
>1987年までに書かれた傑作怪作を徹底的に紹介する充実のガイドブック!
創元のサイトに予告キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
今度は出せよ!w
3氏が紹介した作品があらかた掲載されていそうな予感がするのは俺だけだろうか
506 :
名無しのオプ:2008/11/04(火) 18:39:52 ID:BOXPvLlz
多岐川恭の、「綾小路卿暗殺」っていうのが、実家にあったんですけど、
これはどんなもんでしょうか?面白いですか。
507 :
名無しのオプ:2008/11/04(火) 22:59:33 ID:2o6Q8J4b
読めばわかるだろ……
508 :
名無しのオプ:2008/11/04(火) 23:44:52 ID:Aaw2lj4J
509 :
名無しのオプ:2008/11/05(水) 06:12:34 ID:rLnJx02o
山本周五郎が、現代推理探偵小説を書いていると
聞いたことあるんですが、本当でしょうか?
本当なら入手可能ですか。
510 :
名無しのオプ:2008/11/05(水) 09:00:42 ID:aKtkAbvu
511 :
名無しのオプ:2008/11/05(水) 13:09:33 ID:mxqDtGq4
512 :
名無しのオプ:2008/11/05(水) 16:10:22 ID:ZZzqR5f2
佐野洋が、書いたSFの設定の推理小説があったようなんですが、
知りませんか? 読んでみたいんです。
あとSFみたいな世界で殺人なんていう推理小説ありますか?
513 :
名無しのオプ:2008/11/05(水) 16:36:13 ID:QTlDoxgi
514 :
名無しのオプ:2008/11/05(水) 21:26:24 ID:xaGHboMk
12月9日刊、結城昌治「真夜中の男」って聞いたことない作品だけど
情報求む
515 :
名無しのオプ:2008/11/05(水) 21:52:01 ID:mxqDtGq4
516 :
名無しのオプ:2008/11/05(水) 22:52:06 ID:iEDO8tQu
517 :
名無しのオプ:2008/11/05(水) 23:58:43 ID:KjVOnbGT
>>514 以前、講談社文庫に入っていた事以外わからない。
518 :
名無しのオプ:2008/11/07(金) 00:29:30 ID:7m5jWmQa
>>514 ハードボイルド系の長編。
無実の罪で服役した元警官が、出所後、恋人を殺した真犯人を探すうちに彼女の過去が浮き彫りにされていく…みたいな話。
真木シリーズや紺野シリーズの後で方向を探っていたのか、結城ハードボイルドとしては物足りない感じだった。
もちろんこの作者だから謎解きの基本は押さえてます。
519 :
名無しのオプ:2008/11/07(金) 10:08:54 ID:gJbjhMNG
三好徹って本格ミステリー書いてるんですか?
なんか歴史モノ作家みたいなイメージあるんですけど。
520 :
名無しのオプ:2008/11/07(金) 13:14:28 ID:/WSoa4cb
>>519 三好徹も1980年代以降、現在までは、幕末や明治維新物の時代小説ばかり書いていますね。
しかし、
>>520さんご指摘の「閃光の遺産」の他、「帰らざる夜」、「消えた蜜月」、「円形の賭け」、
「乾いた季節」、「幻の美女」など、1960〜70年代には、本格を目指した作品が幾つかありま
す。しかし、これらのストレートに本格風の構成を取った作品よりもむしろ、ハードボイル
ド風の「天使」シリーズや、スパイ物の「風」シリーズの方に、謎解きとして優れたものがあ
ると思います。
内田康夫「シーラカンス殺人事件」(講談社文庫)★★★☆
1983年の初期長編。
南アフリカのコモロ沖合で発見された巨大なシーラカンス。調査隊をバックアップしていたの
は大東新聞だったのだが、そのスクープを報じたのはライバル社の新聞だった。特ダネを抜か
れたのは何故なのか。調査隊に同行した大東新聞の記者・一条秀夫は行方不明となり、やがて
調査隊のメンバーが殺される。他社に特ダネを売った調査隊に対する一条の復讐なのか。一条
の妹・万里子と、その恋人で秀夫の後輩に当たる恵木記者が事件を追及するのだが・・・。
万里子と恵木のコンビが途中で目立たなくなってしまい、代わりに警視庁の敏腕警部・岡部が
前面に立って活躍するというのは、少々チグハグな感じ。また、こんなお粗末な初動捜査はな
いよな、とも思いますが、岡部警部の、ハデではないが盲点を突くような指摘によって、事件
の様相がガラリと変わってゆく辺りは見事。これと言ったトリックも無いのに、なかなか読み
応えのある「本格」になっています。但し、ストーリーの展開上、どうしても「コイツが真犯人
なんだろ」と読者に推測されてしまうのが難点でしょうか。
生田直親「死の大滑降」(徳間文庫)★☆
1975年の代表作の長編。
厳冬の立山をスキーで滑降しようとしたプロ・スキーヤーの九頭竜修一は、悪天候を押し切っ
て決行したために雪崩に遭って遭難死してしまう。だが恋人の牧子は、雪崩は人為的なもので
九頭竜は殺されたのではないかと修一の弟・浩司に訴える。浩司は真相を探るべく、事故時の
スタッフらとともに、自ら立山滑降に挑戦しようとするのだが、病魔が彼を蝕んでいた・・・。
うーん、スキーを題材にした小説としては大変読み応えがあったのですが、ミステリとしては
中途半端。黒幕の意外性はあるし、その人物のアンビバレントな心理も丁寧に描かれているけ
ど、「本格」としての鑑賞に耐えるものではないです。それに、ミステリの本筋とは関係ない
スキーテクニックの話やらスキー連盟批判が飛び出すなど、別の底意が見えてきて、スキー界
の現状批判をしたいだけで、ミステリの形式は借り物じゃないかとも思いました。
これなら、漫画家の世界を描いた作者の作品群では異色の「劇画殺人事件」(前スレ参照)の方が、
まだミステリとしての構成は上でしょうね。
今週の感想は2作で少なかったですが、俺だってたまには、有栖「妃は船を」とか、法月「しら
み時計」とか多島「黒百合」、柳「ジョーカー」、ポージス「八一三号車」などの新刊を読みたいと
きもありますのでご容赦をw
523 :
名無しのオプ:2008/11/09(日) 15:12:37 ID:hRfkVcmC
新田次郎さんって、推理小説書いてるんでしょうか?
山岳推理なんかがあれば読んでみたいです。
524 :
名無しのオプ:2008/11/14(金) 19:31:42 ID:RTViYX5c
>>523 「チンネの裁き・消えたシュプール」が山岳推理の古典として知られているよ。
南里征典「オリンピック殺人事件」(講談社ノベルス)★★★★
1982年の長編で、講談社ノベルス最初期の一冊。著名な官能小説作家のミステリ、どんなもんか
と読んでみたら・・・。
昭和39年10月、東京オリンピック開会式当日に発生した殺人事件。被害者は破産間近の不動産会
社の社長だったが、現場は内側から施錠された完璧な密室だった。社長は建設中止になったマン
ションの契約者たちから恨まれており、一方で、私財を投げ打ってでも救済しようとしていたこ
とから、家族からも恨まれていた。やがてマンション契約者の一人が容疑者として浮かぶが、彼
もまた殺されてしまう。その死に際に残したメモから、最有力の容疑者が浮かぶ。しかしその人
物には鉄壁のアリバイがあった・・・。
密室とアリバイ崩しの二段構えで来る辺り、森村「高層の死角」に倣ったものでしょうか。第二の
殺人で被害者が残したメモから、アッサリと第一の事件の密室トリックがバレてしまって、どう
なるのかな、と心配してしまったが、三段構えのなかなか巧妙なアリバイ工作(ハガキの件は単
純だけど上手い)が崩れた後、ストーリーは二十年前の戦争末期へと繋がる意外な展開に。
てっきりアリバイが崩れて幕、だとばかり思っていたら、終盤、思いもかけぬ人物が探偵役とし
て登場。「アンタ、そんなキャラクターじゃなかっただろ!」と突っ込みを入れたいですが、何と
最初の密室トリックが引っくり返ってしまい、意外なトリックと真犯人が指摘されます。これに
は驚いた。
「そうか、だから東京オリンピック当日だったのか!」と感心しましたよ。まあ他のイベントでも
可能だったでしょうが、戦争の悪夢とアレとを繋げてトリックを施すなら、昭和39年の東京オリ
ンピックが一番だものなあ。
登場人物の何人かのキャラが不安定だし、肝心の場面がフェアではないし伏線も不足していると、
欠点は色々ありますが、これは面白かった。お勧めです。
笹沢左保「幻の島」(角川文庫)★★★
1965年、学研の産業推理小説シリーズ「ミステリー9」の一冊として発表された長編。
伊豆諸島の離れ小島・瓜島で起きた若い男女二人の殺害事件。古い因習が支配するこの島での
捜査が思うように進まないことから、警視庁本庁から刑事が派遣されるが、その刑事もまた射
殺されてしまう。警視庁は管轄外の神奈川県警の刑事・保瀬に潜入捜査を依頼。彼は一切感情
に左右されない女嫌いの冷徹、ニヒルでも残酷でもなくユーモアも解するのだが、自分も含め
人間には興味のない男だった。東京港から乗った船上で早くも襲撃を受けるなど前途多難。
一方、島では観光開発を巡る業者の対立と、それに絡む町長選挙の最中だった。保瀬は宿泊し
ていた旅館の女将から、事件当時、その旅館に泊まっていた男が行方不明になっている話を聞く。
だが女将も殺され、よそ者を寄せ付けない瓜島での保瀬の困難な捜査が続く・・・。
保瀬刑事は、酒を幾ら飲んでも酔わず、女にも興味なし、感情ゼロ、という、笹沢作品では良
く見かけるキャラですが、他のキャラと変わっているのは、美しい自然の風景を見ると猛烈に
感動してしまうというところ。何だソリャwしかし、そのキャラが十分、活かされずに終って
しまったのは残念。てっきり事件の現場で島の風景を見ながら滂沱の涙を流すのかと思ってい
た、て、クライングフリーマンかw
それはともかく、行方不明の男の正体、そこから派生した事件全体の意外な構図など、構成は
それなりに「本格」を狙ってはいるし、伏線にも努力しているとは思いますが、どこか中途半端
なまま終ってしまっている。最後の一行でも意外な事実を明かしてはいますが、これも空振り
気味。笹沢左保らしい話とも言えるけど、彼の実力から言えば、やはり凡作でしょうね。
527 :
名無しのオプ:2008/11/16(日) 13:44:32 ID:XaaXvkd3
>>525 そんなのがあるんだ。
なんでこの人がミステリを書かされたんだろうね?
落合恵子「氷の女」(集英社文庫)★★☆
1981年のミステリ初挑戦作。
女性週刊誌の記念パーティに出席していた名士たちが、スキャンダルによってマスコミから葬り
去られてゆく。有名弁護士はレイプ未遂の疑いをかけられ、気鋭の女性評論家は自宅マンション
から謎の転落死を遂げ、その夫の評論家は容疑者として拘留される・・・。週刊誌記者の田所は一連
の事件に正体不明の女が関わっていることを知り、その行方を追うが、更に第四の犠牲者が出て
しまう・・・。
まあ初挑戦ならこんなもんでしょうか。田所の周囲にいる数名の女性のうち、誰が謎の女なのか、
という興味でグイグイと読者を引っ張ってゆき、終盤、その正体が判明したところで、今度は鉄壁
のアリバイが立ちはだかるという趣向。但し、アリバイのネタは一般人には馴染みのないもので、
「ああ、そんなものがあるんだ」という感想しかないですね。もう一つの、田所を脅迫する謎の男
の真相も、はっきり言ってバカバカしいネタです。
なおプロローグの内容から、読者は真犯人の設定について推測できるのですが、そこに一寸した引っ
掛けがあるのが面白い。権田萬治が解説で評価するほどの効果は上がっていないと思いますけど。
・・・それにしても、この作者の小説を読んだのは何十年ぶりだろうか。中学・高校生の頃に、カッコ
付けて良く読んでいました。今思えば、「奇妙な愛の物語」だか「女が別れを告げるとき」などの短編
集には、「奇妙な味」としか言いようのないミステリアスな作品もあったよなあ。当時は全共闘
崩れ気味のところもあるけど才気煥発な女性だなあと思っていたが、今じゃただの団塊丸出しオバ
サンで哀しい・・・。
4連投スマソカッタ
南里征典に続いて、またも有名な官能小説作家のミステリを。
川上宗薫「夏が殺した」(光文社カッパノベルス)(採点不能)
1984年の長編。
三流医大を卒業するも国家試験に失敗して浪人中の「ボク」こと葉山昭は、以前に遊んだことの
あるデートクラブの風俗嬢が殺されたことから警察の取調べを受ける。被害者は密室で絞殺され、
壁の高いところに吊るされるという凄惨な状況だった。「ボク」の友人の吉本もまた警察に調べら
れるのだが、やがてデートクラブの経営者・上原という男もまたホテルの密室で絞殺されてしまう。
「ボク」と吉本、吉本の恋人の美香の三人は濡れ衣を晴らすべく事件を追及するのだが・・・。
うーん、これは何だろう、「お色気コメディミステリ」というか何というか、主人公がおバカなら、
ストーリーから何から、とにかく何もかもが間の抜けた、脱力の一冊。
密室トリックも開いた口が塞がらない真相。伏線は押さえているけど、特に第二の殺人、被害者の
バカっぷりと言ったらもう・・・。そんな行動を取るなよなあ。何となくJ・D・カーの某バカトリッ
クを思い出してしまった。とにかくネジが緩みっぱなしの作品ですので、疲れているときに読むと
良いかも。
530 :
名無しのオプ:2008/11/16(日) 14:22:20 ID:AQuJSsWq
>>525 数ヶ月前、南里氏が逝去した時に冒険小説スレで良いの無いか訊いた際は
出てこなかったけど、流石大元帥は頼りになるね
是非読もう!
531 :
名無しのオプ:2008/11/16(日) 18:05:15 ID:gIQWoVH/
宇野鴻一郎が、嵯峨島昭名義で、グルメミステリーを何作か書いていた
ように記憶してるんですが、
いいのありますか?
532 :
名無しのオプ:2008/11/16(日) 18:58:35 ID:y5Lm8iCw
533 :
名無しのオプ:2008/11/16(日) 21:14:43 ID:lYvz5+jp
前スレってhtml化されてたっけ。
534 :
名無しのオプ:2008/11/16(日) 22:11:53 ID:XaaXvkd3
535 :
533:2008/11/16(日) 22:17:16 ID:lYvz5+jp
>>534 うわ、気まぐれで言ったのにすいませんorz
ありがとうございます。
536 :
名無しのオプ:2008/11/16(日) 22:20:42 ID:XaaXvkd3
いえいえ、自分も3氏の偉業が埋もれるのが惜しいと思って
537 :
名無しのオプ:2008/11/16(日) 22:49:09 ID:AnoBHxII
ミステリじゃないが、南里の「未完の対局」もよかった
538 :
名無しのオプ:2008/11/17(月) 18:35:07 ID:yUxhAv2J
◇『獅子座』 藤雪夫・藤桂子著
父娘合作で話題を呼んだ長編推理。菊地警部登場のシリーズ第1作。
09年1月以降、創元推理文庫より。
539 :
名無しのオプ:2008/11/17(月) 20:05:16 ID:MLhx2uI6
『黒水仙』も復刊しそうだな
540 :
名無しのオプ:2008/11/17(月) 23:38:19 ID:rArL5264
合作名義の「黒水仙」は「渦潮」のリライトだっけ。
父親には「黒水仙」という中篇もあるのに
なんでまぎらわしいタイトルにしたのか・・・
「渦潮」と元祖「黒水仙」は読んだことあるが
新「黒水仙」は読んでないな・・・
541 :
名無しのオプ:2008/11/18(火) 08:46:33 ID:/od0teDk
エラリークイーンとか岡島二人とかミステリーの合作って
いったいどうゆう役割で、書くのですか?
アイデア担当と、書く担当なの?
542 :
名無しのオプ:2008/11/18(火) 13:58:20 ID:FSQgrbj8
岡嶋二人はアイディア担当徳山、執筆担当井上と完全分業制だったね。途中からは井上のほうがアイディアも担当するようになったみたいだけど。
543 :
名無しのオプ:2008/11/25(火) 07:47:22 ID:NB8F9LEc
いつの間にか、
内田康夫の初期のユーモア短編集「パソコン探偵の名推理」が復刊されててちょっと驚いた。
シーラカンスも復刊してくれないかなあ。
544 :
名無しのオプ:2008/11/25(火) 11:27:33 ID:kpgFV1AN
>>543 他の短編集に収録されてた1編を追加した完全版のようだね
『シーラカンス殺人事件』って切れてるの?
545 :
名無しのオプ:2008/11/29(土) 12:17:06 ID:2MwEIj1t
◆12月20日刊◆
◇『本格ミステリ・フラッシュバック』
千街晶之・市川尚吾・大川正人・戸田和光・葉山響・真中耕平・横井司著
キイ・ライブラリー(A5判並製)/税込定価2,415円
記念碑的名作から幻の作品まで――松本清張が頭角を現した1957年から、
新本格ミステリ発足の1987年までに書かれた傑作怪作を徹底的に紹介する充実のブックガイド!
嵯峨島昭「白い華燭」(光文社文庫)★★★★
1974年、「踊り子殺人事件」に続くミステリ第2弾。
白馬のスキー場で知り合った無骨な山男の高木と朝子。愛し合いながらも別れてしまってから
六年後、高木は冬山登山で親友の斉藤を雪崩で喪ってしまうが、遭難現場で朝子と運命の再会
を果たす。だが二人の愛は会社の横領・乗っ取りの抗争に巻き込まれてしまう。斉藤は重役ら
の横領事件の鍵を握っていたらしい。やがてその秘密を探る重役の腰巾着の課長が殺されてし
まう・・・。
既に読んでいる後年の「〜夫人」シリーズに顕著な、ベタベタのメロドラマ。ヒーローとヒロイ
ンは飽くまでカッコ良くて清廉潔白、悪役とその腰巾着は戯画的なまでにブザマで俗悪、親友
は良いヤツだが悲運に泣き、何度となく貞操の危機に陥るヒロインをバカバカしいほどタイミ
ング良く守り続けるのはダンディな酒島警視。
そんなミエミエのストーリーながらも、高木と朝子の悲恋、会社乗っ取り工作の陰に隠れた殺人
事件の真相と真犯人はかなり意外で、読者の盲点を突く見事なもの。先ず大抵の読者は読み落と
してしまうでしょう。まあトリックには法医学的に上手く行く訳がないだろ、とも思いますが、
コレには驚いた。作者の持ち味を考えれば、本作がベストかも。
高木彬光「二幕半の殺人」(角川文庫)★★★
1970年の検事霧島三郎シリーズの短編集。
「被害者を探せ」は、住宅の庭に残されていた防空壕からコンクリ積めの死体が出てくる。以前
の住人だった男にはネズミ講サギの共犯を疑われたが無罪になった過去があり、行方不明になっ
ている主犯格の男がその死体ではないかと思われたが。サギ師事件の或るトリックが判明して・・・、
と思わせての真相の隠し方が上手い。
「毒の線」は怪しげな薬を作る町の発明家が殺人事件の後に失踪、どうやら麻薬製造に絡んでの
事件と思われたが実は・・・。凡作。
「同名異人」は同じ町内に住む二人の鈴木一郎。毒入りチョコレートで年長の方の妻が殺される
が・・・。これは先ず先ずの出来栄え。
「鬼と鯉」は得意の刺青ネタ。若手弁護士が幼馴染の女に入れあげた挙句・・・。刺青のアレを
使ったトリッキーなネタかと思っていたら肩透かしでガッカリ。
表題作は毒殺されたクラブのママ。犯人は売れないシナリオライターの夫か、或いは愛人の中国
人実業家か・・・。ミスディレクションが効いた良作。
全体にコレといった傑作が無かったのが残念。
小杉健治「最終鑑定」(集英社文庫)★★☆
1990年の長編。
若手の法医学者・江崎は学界の権威・嵯峨教授に嫌われ、大学を追われてホステスのヒモのよう
な生活を送っていた。嵯峨への復讐を誓う江崎は、かつて自分が鑑定した事件の被告で、無実を
訴えながら事故死した若者の母親が不審死したことを利用して嵯峨の失脚を狙う。その夫が殺人
容疑で逮捕され、裁判の行方は死因の法医学鑑定が焦点となるのだが、果たして江崎が仕掛けた
事件の秘密とは何なのか・・・。
復讐に燃える江崎、彼と組んで病院の医療ミスをネタに脅迫まがいの仕事をしてきた弁護士の馬目、
三流紙記者の小清水、江崎と嵯峨を手玉にとって暗躍するレストラン・オーナーの麻子など、登
場人物が個性豊かで、ストーリーもなかなか迫力があります。しかし、肝心のミステリ的な謎解き
の趣向が弱すぎて、その点は余り評価できません。終盤の逆転劇も効果が上がっていないし、法医
学と司法のあり方に関する問題提起としては評価できますけどね。
宗田理「ガラスの靴」(徳間文庫)★★
1981年の初期長編。
老舗デパート桜屋の創業者一族の御曹司・大川修一は、母親の決めた政略結婚の相手を振って、
若手演歌歌手の花村絵里との婚約を発表しようとしていた。だが前日に所属プロダクション社
長が身元不明の女性と焼身自殺、肝心の花村は無事だったが、大川修一などという男は知らな
いという。大川が付き合っていたのは花村の替え玉だったのではないか、そして死んだ女性が
その替え玉だったのではないか、また無理心中ではなく、二人は何者かに殺されたのではないか
との疑惑が浮かび上がる。事件の背後に蠢くデパートの権力争い、芸能プロの暗躍・・・。修一の
クラスメートで桜屋での出世を狙う栗橋と友人の芸能記者・睦子のコンビが事件の謎を追うが・・・。
世間知らずのお坊っちゃんに、立身出世を狙う男に芸能記者、みんな後ろ暗いところがあったり、
策略を巡らせたりしているのに、妙なところで正義感を振りかざしたりして、どうも感情移入しに
くいです。で、事件の真相はというと、なるほど意外性のある結末ではあるけど、警察がちょっと
調べれば直ぐに判明することだろ。大きな謎は用意されているのだが、その解き方がやはり従来の
本格ミステリとは根本的に異なるところがあり、ピントの外れた話を読まされている気分でした。
やはりこの作者は「人牛殺人伝説」(前スレ参照)が一番の出来かなあ。
5連投スマソカッタ
福本和也「謎の雲中飛行(インクラウド)」(徳間文庫)★★
1977年の作者お得意の航空ミステリ長編。
英国のパイロット養成学校を規則違反でクビになり、今は大阪空港のレーダー室に勤務する天野。
宿直の晩に小型機から緊急信号が入ったが、レーダーが捉えていた機影は何故か消えてしまい、
やがて紀伊半島・枯木灘で破損した機体が見つかる。だが乗員は行方不明のままだった。天野と
新聞記者が独自に調査を続けるうち、行方不明の男は広告代理店に勤める新進気鋭のCFディレ
クター新郷であることが判明するのだが・・・。
航空機に関する描写は危なげなく、小型機を使った大技のトリック、消えた乗員の謎などは非常
に面白かったのですが、それ以外は最悪の内容。広告業界やらヤクザやら風俗上がりの代理店の
女社長なども絡んでくるのですが、ソッチはもうどうしようもない三流小説。航空関連以外の部
分は斜め読みしたほど。それでも最後まで把握できたのだがら、いかに余計な話だったかは分か
ろうというもの。航空ネタのトリックの秀逸さが泣いているよ。
551 :
名無しのオプ:2008/12/01(月) 15:09:11 ID:cbs7OZiS
大元帥復活キター!
嵯峨島は手を付けなきゃなぁ
高木彬光「失踪」(角川文庫)★★☆
1962年の百谷弁護士シリーズの長編。
プロ野球イーグルスのピッチャー渡部選手が、久々の好投を続ける試合中に、突如体調不良を
訴えて球場から失踪してしまう。同じ時刻、百谷弁護士の自宅を訪ねていた若い女性もまた姿
を消してしまう。その女性が渡部選手の恋人であることを突き止めた百谷弁護士は、彼女の叔
父の殺害事件に遭遇。現場には渡部選手が立ち寄った形跡が。渡部が殺したのか、そしてその
行方は・・・。
作者は野球に殆ど興味がないまま本作を書いたそうですが、まあ野球を知らないにしては上手
く書けている方だと思います。事件の真相には本シリーズではお馴染みの或る「業界」のネタが
絡んでくるのですが、それが野球の話とのバランスを欠いているところが残念。犯人の意外性
もそれなりに工夫しているのですが、どうもパッとしません。やはり凡作でしょうね。
松本清張「黄色い風土」(講談社文庫)(採点不能)
1961年の長編、文庫版で750ページ近くある大作。中島河太郎「ミステリ・ハンドブック」に「余りにも意外
な犯人に、割り切れないものを感じる」とあり、どんなものかと期待して読んだのですが・・・。
週刊誌記者の若宮四郎が熱海に取材に向かう列車内で見かけた奇妙な新婚夫婦。果たして翌日、熱海の
断崖から新郎が飛び込み自殺し、新婦は行方不明に。だが新郎の身元は全く判明せず、若宮は事件の背
後に不審なものを感じ、追求を続ける。やがて事件は北海道・小樽の公安刑事の不審死、新婦の叔父と
見られる男の変死へと繋がり、更に真鶴、名古屋、犬山での連続殺人へと発展してゆく。やがて若宮は
国際的な贋札製造団が背後にあることを知るのだが・・・。
なるほど、こりゃ意外な真犯人だ。推理して解明することはほぼ不可能。だって伏線皆無だものw
それどころか、若宮の推理も強引過ぎる。全く関係ない事件同士を繋げてしまう力技は、小峰元「ソロン
の鬼っ子たち」レベル。重要人物に遭うのも偶然頼りだし、「何故そんなことが断言できるのか?」など、
あちこちに突っ込みどころが満載。
そして長い長いお話の終盤、意外な真犯人が登場するのですが、その直前までの犯人の行動も意味不
明。何だそのお芝居はwwww
で、青木が原樹海での若宮との対決場面で語られる一連の事件の真相も、既に周知のこと以外は伏線
が全く無かった事実の羅列を説明するだけ。犯人の意外性どころか、作品全体に割り切れないものを
感じる怪作でした。
554 :
名無しのオプ:2008/12/08(月) 20:17:43 ID:1xRv78We
来月の笹沢左保コレクション、
『求婚の密室』だって。
555 :
名無しのオプ:2008/12/08(月) 21:58:46 ID:OKfruMQ4
来月の陳舜臣推理小説ベストセレクション、
『枯草の根』だって。
556 :
名無しのオプ:2008/12/08(月) 22:28:22 ID:SpHoLe42
中津文彦「特ダネ記者殺人事件」(講談社文庫)★★★★
1984年の初期長編。
盛岡と思しき東北の地方都市にある県警本部の記者クラブ内で起きた殺人事件。被害者の根来
記者が青酸カリで毒殺された。クラブ内に出入りできた記者仲間の中に犯人がいるのか、だが
事件は折から県庁を揺るがしていた県知事がらみの汚職事件に絡んでゆく。県知事の影の懐刀
と言われた土建屋の男が殺され、更にキャバレーのホステスもまた密室状況の自室で自殺を遂
げる。東朝新聞の中堅記者・姿は仲間を疑わざるを得ないジレンマの中、事件を追及するのだ
が・・・。
記者クラブとは言え、県警本部庁舎内で殺人事件が起きたというのに、ずいぶんノビリした捜
査ではあります。「記者クラブの自立性」などと言ったジャーナリズム礼賛も鼻につきますが、実
はなかなかの力作です。県警本部や記者クラブを巡る人間関係や地方都市の状況なども活き活
きと描かれているし、真犯人の意外性やレッドヘリングなども上手く、一気にラストまで読ま
せます。特に犯人特定の決め手となる些細な描写がシブく効いています。密室トリックだけは
山村美紗レベルのヒドいものでしたけどね。
また地方の新聞記者や支局、記者クラブを舞台にした辺りに、三好「天使」シリーズや、伴野「野獣」
シリーズの影響も見えますが、県警本部の本部長、警務部長、捜査二課長がキャリア組で地元
の叩き上げ組と乖離しているとか、キャリアの坊ちゃんのお守り役がいるとか、掘り下げ方は
弱いですが、現代の横山秀夫にも通じる作品で、少なくとも「本格」としての出来は、三好や伴野
よりも上、横山の佳作群に並ぶレベルでしょうね。「黄金流砂」や「喪失荒野」(前スレ参照)以上
の出来で、この作者のベストかも。
加納一朗「にごりえ殺人事件」(双葉文庫)★★★
1984年の長編。
時は明治20年、文明開化の東京。弱小紙「文明新聞」の社主兼記者の前沢天風は、ひょんなこと
から呉服橋辺りにたむろする街娼たちを狙った連続殺人事件に遭遇する。腹を鋭利な刃物で抉
る残忍な犯行手口で、単なる異常者の通り魔的な犯行ともみえない。廃娼運動を続けるうちに
或る街娼に恋してしまった学生の滝沢や、作家志望の柳下らが事件に絡む中、前沢は、内職で
暮らす薄幸の才媛・樋口奈津の助言を得ながら事件を追及するのだが・・・。
樋口奈津はむろん、あの天才女流作家ですね。彼女の描き方がやや弱いですが、明治時代の風
俗描写はなかなか上手くいったと思います。肝心のメイントリックが古典的なアレで、パッと
しないのですが、ラストの後日談には驚きました。まさかあの有名な犯罪事件に絡んでいると
は・・・。ヒントは色々あったのに気づかなかった。この点だけは見事です。
夏樹静子「遠ざかる影」(講談社文庫)★★★
1980年の長編。
中谷遼子は母親の死に際して、実の父親が別にいることを知る。戦争中に母親が中国にいた頃
に知り合ったのだという。その父親・龍門寺は無事に帰国し、今では中堅の宝石会社を経営し
ていた。だが遼子が会いに行った直後に龍門寺は失踪、青木ヶ原樹海で消息を絶ってしまう。
彼には会社の経営方針を巡って対立する養子や、再婚相手の女流彫刻家など、問題を抱えていた
らしい。更に、復員したときの戦友が十数年も前に同じく青木ヶ原樹海で行方不明になってい
たことから、覚悟の自殺ではないかと思われた。だが、彼の養子もまた何者かに殺されてしま
う・・・。
中盤辺りで読者は或る真相を容易に予想できるのですが、それは否定的な流れになってゆき読者
の興味を繋ぎます。で、真相はどうかというと、なるほど、トリックも先ず先ずの出来だし、真犯
人の意外性もまあまあ、ストーリーも破綻していない。では佳作かというと、どうもピリッとし
ていない。ヒロインの魅力不足が原因とも言えるし、何より、重いテーマが絡んでいるはずなの
に、良く言えば淡々とし過ぎているというか、悪く言えば覇気がないというか・・・。クリスティの
影響も見える、イヤミなく纏まった作品なんですけどね。
大谷羊太郎「偽装他殺」(トクマノベルス)★☆
1978年のお得意の芸能界を題材にした長編。
完全な密室状態のマンションで男が毒物で自殺。被害者は元カントリーバンドのメンバーで、バン
ド解散後、各メンバーは作家に転身したり、故郷で音楽に携わっている者もいる一方、麻薬取引に
手を染める者もいるなど、様々な人生を送っていた。更に別のメンバーが事故で死亡。元メンバー
で作家になっていた宮下は、自殺や事故死ではなく殺人なのではと不審を抱き、真相を探るべく昔
の仲間たちを訪ねまわる。一方、このバンドのファンだった刑事の澄川もまた自殺に疑念を持って
いた・・・。
この作者の芸能界物は危なげがなくてそれなりに楽しめますが、トリックが詰まらないと、本当に
しょうもない出来になる場合も多く、その点が心配だったのですが、さて。
心配どおりだった・・・orzこんなトリック、現代は勿論、1970年代当時でも通用しないよ。ただゴチャ
ゴチャなだけ。しかも初動捜査では自殺で片付けられたとは言え、何で鑑識が見逃すかなあ・・・。
あと登場人物の描き方も、宮下やその親友、澄川刑事辺りは丁寧に書かれているのに、事件の真相
に絡む辺りの人間がゾンザイに扱われているので、真相解明の段になって、「今更そんなことが明か
されてもなあ」と感じざるを得なかったです。駄作。
5連投スマソカッタ
五代駿介「酒中死美人の謎」(祥伝社ノンノベル)★
1977年の長編で、作者のミステリ初挑戦の作品とのこと。前スレの
>>60さんが既に挙げておら
れましたね。かなり低評価だったようですが、俺も最近入手できましたので読んでみました。
兵庫・灘で急成長を続ける酒造メーカー「孔雀光」のタンクで発見された死体。被害者は新潟の
老舗の蔵元「寒中梅」の主人・千石だった。なりふり構わず粗悪な日本酒で儲ける「孔雀光」の
専務・田島と対立し、嫌がらせを受けていたことに対する抗議の自殺なのか。だが可児刑事は、
被害者の小指がタンクから発見されなかったことから自殺説に疑問を持つ。更に「孔雀光」の技
師・寺村を自社に引き抜こうと画策する秋田の酒造メーカー「北の天女」の美人重役・桜庭もまた
事件に絡んでくる・・・。
何だコレはwww作者は殺人事件が起きて犯人が指摘されれば、それでミステリ一丁上がりだと
でも思っているのか。どこに謎解きがある?単に日本酒業界の裏側の事情を題材に小説を書きた
かっただけじゃないのか。しかも犯人の設定に致命的な欠陥がある。結末も後味悪いし。消えた
指の行方と、可児刑事のキャラだけは一寸だけ面白かったけど、ダメだコリャ。駄作。
562 :
名無しのオプ:2008/12/14(日) 14:55:00 ID:YjDW8V+b
いちいち「連投スマソ」って書き込まなくてもいいんじゃない?
あなたの書き込みはこのスレの一番の参考になってるし
5連投でも10連投でも不快に感じる人いないと思うよ。
563 :
名無しのオプ:2008/12/14(日) 15:52:18 ID:+ytaLYCY
それが大元帥の慎みなんですよ
書きやすいスタイルでどうぞ
564 :
名無しのオプ:2008/12/15(月) 08:28:13 ID:ej9l7bMD
こうゆう星ひとつとか二つくらいの評価の作品でも二時間ドラマにすれば、
案外見られるもんなんですかね?
565 :
名無しのオプ:2008/12/15(月) 15:57:42 ID:ynsNY3WQ
トリックだけは良い作品なんかだと
かえって余計な描写が減って見られる作品になるかもw
566 :
名無しのオプ:2008/12/15(月) 21:49:26 ID:kvxinsx+
>>562,
>>563 双方共に納得。561氏の書き込み、実際の話大いに参考になります。
彼の言葉がなかったら、今後沢山の埋もれた良作に接しなかった人多
いでしょう。
567 :
名無しのオプ:2008/12/17(水) 08:17:56 ID:ceUvu0RE
でもけっこう、駄作凡作箸にも棒にもかからない、迷作など、続けて
二冊も読んだら、当分なにも読みたくなくなるじゃないですか。
何時間か無駄になるわけですから。
連投さんはそうゆうとこすごい。
めげない性格なんですね、裏山しいです。
568 :
名無しのオプ:2008/12/18(木) 13:10:57 ID:YWrcs4iJ
フレンチ警部も言ってるじゃないですか。
100あるうちの99は無駄足だって。
569 :
名無しのオプ:2008/12/18(木) 14:18:40 ID:2BsDNpKm
ミステリ・フラッシュバック、これだけ待たせたってことは
もちろん書き下ろしの項目あるんだよな?w
570 :
名無しのオプ:2008/12/21(日) 01:50:33 ID:Y8j60H1J
>>もちろん書き下ろしの項目あるんだよな?w
『ミステリーズ』の連載は読んでなかったけど、前スレに紹介作として
あげられていた作品数より遥かに多い収録数。たぶん、メチャクチャ
書き下ろされてるよ。正直、感動した!
このスレの住人はマジで買うべき!
571 :
名無しのオプ:2008/12/21(日) 01:54:55 ID:Plh4cs/K
もう出たの?
この目で見るまでは信じないぜ!
572 :
名無しのオプ:2008/12/21(日) 01:55:59 ID:0cN5BXWJ
>>570 お前幻影城スレで山田悠介呼ばわりされてただろ
「連投スマソカッタ」と書くのは「本日の書き込みはここまで」の意味もあるので、まああまり気に
しないで下さいな。
あと、駄作、凡作を立て続けに読んだときは、「傑作」と評判の新刊や海外古典を読むなどして、
精神衛生上、ストレス解消していますw
佐野洋「脳波の誘い」(講談社文庫)★★★★
1960年の長編。
週刊誌記者の水崎はテレパシーで他人を操られると自称するキ印の老人・林田を取材する。自著
を出版して欲しいという林田に対し、水崎は「テレパシーで他人を自殺させることができるならば」
と挑発、自分の愛人の内縁の夫を指名する。だが本当にその男が自殺してしまう・・・。
警察自身がいったん自殺と断定した事件、しかもテレパシーで自殺に追い込んだ、なんてアレな
連中に対し、作者も「不能犯」を知らない訳では無かろうに、警察に強引極まりない捜査をさせて
います。作者自身の「推理日記」で真っ先にヤリ玉に上がりそうな話で大丈夫かな、と危惧したの
ですが、果たして真相は・・・。
おお、これはなかなかの佳作。終盤、或る人物が逮捕、起訴され法廷に持ち込まれるのですが、
ここから俄然、面白くなってきます。法廷における「奇襲戦法」はこの当時としては斬新なもの
だったのでしょう。或る人物の「特徴」に絡む伏線も上手い。さして意外な真犯人でもないです
が、高木彬光「破戒裁判」に一年も先立ち、迫真の法廷場面を持ち込んだ功績は評価すべきでしょ
う。しかも、高木の法廷ミステリとは異なり、むしろ後年の小杉健治辺りが使いそうなトリッキー
な法廷戦術が描かれていることに感心しました。でも全体で250ページ程度の作品なので、折
角の法廷場面が短くて重厚感に欠けてしまったのが残念ですけどね。
それにしても、「推理日記」で批判されそうな作品こそ面白い、というのを自作そのもので証明して
いるよなあw
新田次郎「雪の炎」(文春文庫)★☆
1969年に雑誌連載されたものを改稿した長編。
谷川岳で遭難した男女5名のパーティ。滑落した女性を救いに行ったリーダーの華村敏夫だけが
死亡し、他のメンバーは無事に下山した。妹の名菜枝は兄の遭難死に疑問を抱き、兄の属してい
た山岳会の幹事・高田とともに事件を追及するが、複雑な人間関係、会社でのトラブルなど、名
菜枝の知らなかった兄の素顔が見えてくる。更に名菜枝の知り合いであるドイツ人カール・ロック
ナーもまた事件に異常な興味を示して介入してくる。兄の遭難現場では一体何が起きたのか・・・。
ヒロインのキャラが非常に微妙ですね。気が強くムカつく一面もありながら、絶妙なバランスで読
者が不快に感じる一歩手前で抑えています。高田も登山中とそれ以外では全く性格が一変しちゃう
し。で、事件の真相はというと・・・。うーん、短編ネタですね。長編に耐えられる謎解きになって
いないです。華村が巻き込まれていた会社のトラブルも腰砕けで終っちゃうし、カールの謎の行動
の真相も詰まらない。はっきり言って、登山のシーン以外は非常に出来が悪いとしか言えません。
しかもこのネタは、登山の遭難物だけで固めた名短編集「冬山の掟」(文春文庫)の或る一編と同じ趣
向。本当にアノ手の女はムカつくよなあ。作者も大嫌いなんだろうな・・・。
なお「冬山の掟」はその作品を含め広義のミステリと言えそうな作品が幾つかありますが、本格ミス
テリは全くないので紹介は割愛します。
山村正夫「三食昼寝死体つき」(祥伝社ノンポシェット)★★
1971〜1983年に発表された作品を収めた短編集。
「厄介な荷物」は夫の浮気相手が誘拐される。狂言誘拐ではないかと妻は疑うのだが、やがて
夫ともども死体が発見され・・・。ヒネッた状況に或るトリックを絡めた佳作。以下の作品にも
期待したのですが・・・。
「気になる投書」は倦怠期の夫婦、妻が新聞に投書して夫の気を惹こうと企むが・・・。凡作。
「夜の落とし穴」は轢き逃げ事件を起こしたプロボウラー、死体を山中に埋めたのだが脅迫者が
現れて・・・。これもヒネりが足りない。
「スケープ山羊」はモテない男が女性と知り合うが殺されてしまい、容疑者にされてしまう話だ
が、先まで全てお見通し。「危険な疑惑」は愛人バンクなどが出てくるから80年代初め頃の作品で
しょうか。これもヒネりがないなあ。最後の表題作もまるでダメ。
結局、巻頭の「厄介な荷物」以外は本格として見るべきものなし。同時代の海渡英祐の短編を劣化
コピーしたような印象。
邦光史郎「幻の騎馬王朝」(徳間文庫)★★
「幻の近江京」「幻の高松塚」に続く1976年のシリーズ第3作。
歴史学者・神原東洋は雑誌編集者の長谷川とともに、蒼井と名乗る読者から届いた「丹後、若狭、
奈良に古代から続いている語り部の老婆たちを取材して欲しい」という投書に従い、取材
旅行へ。だが二人が到着する直前に、丹後と若狭の語り部の老女が相次いで不審死を遂げて
しまう。現場では蒼井の影がチラ付くのだが、彼が犯人だとすると、取材を勧めながら先回
りして殺してしまう動機は一体何なのか?やがて長谷川は事件の関係者の娘と恋に落ちるの
だが、果たして彼女の秘密とは・・・。
古代史に関する薀蓄は楽しかったのですが、ミステリとしての構成は今一つ。真犯人の設定
も、ああいう描写の仕方をすれば、読者にクサいな、と感づかれてしまうでしょう。蒼井の
矛盾した行動の秘密は結構面白かったですけどね。古代史に興味がある方のみお勧めの凡作。
津村秀介「大阪経由17時10分の死者」(講談社文庫)★☆
1988年の浦上伸介物の長編。
横浜と奈良で同日に発生した殺人事件。事件現場には梶井基次郎「桜の木の下には」が収録された
文庫本が。目撃者の証言から、長髪の男が同一犯と目されたのだが、二人の被害者には何の接点
も見出せない。やがて、別のホステス殺しの捜査から、その事件の被害者家族が容疑者として浮
かぶ。だが彼らには鉄壁のアリバイが・・・。
はい、いつものダメダメなアリバイ崩し物でした。誰だって先回りして真相を見破れるよ。時刻
表を見るのもイヤ、という読者以外、誰も騙せません。浦上が珍しく犯人に共感するラストに、
彼の秘密の前半生がチラッと顔を覗かせているのは興味深いですけどね。
ともかく、俺の好きな梶井基次郎の作品を、こんな駄作に出すなよなw
6連投スマソカッタ
斎藤栄「殺意の時刻表」(徳間文庫)(採点不能)
1980年のノンシリーズ長編。
神奈川県庁の次長・三島は知り合いの宝石詐欺に引っ掛かり、莫大な負債を抱えてしまう。
家では浪人生の息子がまたも大学受験に失敗し、自殺未遂を図るなど内憂外患。
一方、サラ金業者が殺される事件が発生、その愛人もまた殺され、更には三島を騙した木下
という男も殺されてしまう。捜査当局は三島を追及するが、木下はともかく、サラ金業者と
はまったく無関係で、またサラ金業者と木下にも何の繋がりも無かった。だが三島の老父が
旅行先の京都で殺されるに及んで、一連の事件は意外な方向へ・・・。
題名から、姉妹作「死角の時刻表」(前スレ参照)と同様の展開を予想したのですが、実はそれ
が作者の策略だったとは(かどうかは分からんが、もしそうならスゴい)。終盤、鉄道に絡む
アリバイ崩しに移行するので、やはりそうか、と思わせての大ドンデン返し。そんなバカなの
真相と意外も良いところの真犯人。確かに伏線はあった。しかし、前述のとおり先入観があった
ので全くノーマークだし、まさかそんな事実があったとは・・・。ハッキリ言って卑怯ではないか、
とも思うのですが、肝心の箇所を読み返したら、確かにチラッと匂わせていた。でもなあ・・・。
そして、いわゆる「時刻表トリック」とは異なる、文字通りの「時刻表トリック」もスゴい。これは
盲点だよなあ。
ひょっとしたら傑作かも知れませんが、そう断言するのは勇気が要るので、良い意味での「採点
不能」としました。そう言えば本作は、あの大ケッサク「金糸雀の唄殺人事件」(前スレ参照)に近
いテイストがあるなあw
579 :
名無しのオプ:2008/12/21(日) 20:32:36 ID:ztEPTm5O
本格ミステリ・フラッシュバック、町田の大きめの書店を数件回っても見つからず
「はいはい創元創元」とか思ってたらやっと一冊見つけた
これから読むぞー
580 :
名無しのオプ:2008/12/21(日) 22:38:57 ID:Plh4cs/K
>>597 いいなー
俺は見つけられず、雪の中をとぼとぼ歩いて帰宅した
581 :
名無しのオプ:2008/12/21(日) 22:39:49 ID:r8Tf8q63
582 :
名無しのオプ:2008/12/21(日) 22:42:01 ID:Plh4cs/K
583 :
名無しのオプ:2008/12/21(日) 23:34:25 ID:TgiPm79U
近所にないからネットで注文してんのに
まだ届かない。おせー。ストレス溜まる。
584 :
名無しのオプ:2008/12/27(土) 10:07:24 ID:9i+eaYSo
何冊くらい解説されているん?
585 :
名無しのオプ:2008/12/27(土) 12:53:49 ID:/08Ncjxy
>>584 480冊位だったかと。結構読み甲斐あり。
586 :
名無しのオプ:2008/12/27(土) 17:57:59 ID:m9j0bOwB
そういうときは「読み甲斐」じゃなくて「読み応え」って書くもんだろ
587 :
名無しのオプ:2008/12/27(土) 21:12:46 ID:E5pQbDSS
フラッシュバック、ようやくゲット
ミステリーズ掲載分にも追加されてるのがいくつかあるね
「影丸極道帖」「戦艦金剛」は3氏の紹介で知ったけど、この本でも紹介されていた
588 :
名無しのオプ:2008/12/27(土) 21:54:33 ID:/6i4/cjT
フラッシュバック、時間かかっただけあってボリュームは満足
3氏や他の方のレビューと読み比べるのも一興ですな
589 :
名無しのオプ:2008/12/28(日) 01:52:15 ID:o+o9IiKS
>フラッシュバック
各作家のプロフィールが載っている点もすごく良いね。
辻真先の紹介欄で「ピーターパンの殺人」がスルーされたのは少し残念。
「本格ミステリ・フラッシュバック」、俺も楽しんで読んでいます。未読の作品は興味が湧く
し、既読作は、紹介文に共感したり、ちょっと反発したり、俺が読み落とした趣向の指摘に
感心したりと、これは「ミステリ・ハンドブック」に並ぶ俺のバイブルになりそうです。
しかし、三好徹と小杉健治、斎藤栄は、少々漏れがあるよなあ(担当者が未読なのかは知りま
せんが)。特に井沢元彦で、傑作「殺人ドライブ・ロード」と「陰画の構図」を無視しているの
は不可解です(「陰画の構図」は傑作というよりケッサクに近いからまあ良いか)。
でもせめて、三好徹のスパイ小説のどれか、斎藤栄「方丈記殺人事件」「爆破都市」、小杉「陰の
判決」、多岐川恭「13人の殺人者」ぐらいは紹介してほしかったなあ。あと作家自体が紹介
されていないけど、清水一行「神は裁かない」、森真沙子「青い灯の館」、水上勉「巣の絵」など
も追加してほしかったです(志茂田景樹「月光の大死角」を紹介しろ!とは流石に言いませんw)。
・・・ともかく今後、このスレでは、同書で紹介されている作品を追随して感想を書いていって
も意味ないので、出来るだけ同書で未紹介の作品を紹介することにしますね。
・・・では早速。
桜田忍「殺人回路」(文華新書)★★★★
1977年の長編。
佐賀県に生まれた剣持功は、母親の狂信的な教育から民族主義に目覚め、上京して右翼の大物・
大前の書生となる。
一方、東京では折からの70年安保闘争のさなか、或るセクトの活動家学生が密室状態のマンショ
ンで殺される事件が発生。対立セクトの内ゲバか、セクト内の粛清か。だが若手の高間刑事は、
全く別の動機が隠されているのではと疑う。そして大阪・梅田の喫茶店で衆人環視の中で起きた
毒殺事件。被害者は剣持少年だった。高間は剣持こそが学生殺しの主犯で、剣持は黒幕の大前に
消されたのではないかと追求する。だが大前には鉄壁のアリバイがあった・・・。
冒頭、大江健三郎「セブンティーン」のような情けないヤツではない、純真な政治少年の生い立ち
からして、かなり力が入っています。高間刑事や小悪党の総会屋・荒尾の造形も上手い。密室と
アリバイ崩しのオーソドックスな本格の展開で、刑事の丹念な捜査は松本清張ばりだし、「これは
ひょっとして、傑作かも・・・」と期待は高まりましたが・・・。
うーん、傑作とは言いがたいが楽しく読めました。密室トリックは中盤で解かれてしまうけど、そ
れが容疑者の範囲を狭めてゆくのは上手く行ったと思うし、アリバイ工作も、二段構え、三段構え
で構築されており、最後の壁も、1977年発表ならば、まあ山村美紗より早かった(かな?)ことを
考えれば、ギリギリ合格でしょうか。
ついでながら、「ジャカジャカ踊ってゴーゴーは肉体のコカコーラ」、「マルキシズムは頭脳の清涼剤」、
「刑事のヌーベルバーグ」なんていう、ゲバゲバで昭和元禄で万博だった時代のイカれたセリフが
飛び出してきて楽しめます。
ほぼ同時期に発表されたらしき「二重死体」(
>>195参照)よりも小説としては纏まっています。ただ、
トリッキーな趣向では、錯綜気味ながらも「二重死体」の方が面白いでしょうか。甘いですが★4つ。
三好徹「特ダネ哀歌(エレジー)」(徳間文庫)★★
1960〜70年代頃の作品をテーマ別に収めた作者自選集。これは記者編その2?
「黒い構図」は町の発明家が何故か電機メーカーの顧問になり、喧嘩をして警察の厄介に。
気になった週刊誌記者が追求する。どうやら新製品開発に絡む産業スパイか・・・。そう思わ
せての意表を衝いた真相が実に上手い秀作。
「細菌は嘘をつかない」は病院に入院中の記者がチフス菌による医師殺害事件を追及、女医
が容疑者として挙げられる。一方で宝クジの当選券をプレミア付きで引き取ったという話が
展開、実は・・・。宝クジの意外な扱い方が面白い、これもヒネッた良作。
「火の影」は銀座のバーなどを相手に金貸しを営む老女が火事で死亡。実は・・・。或るもの
を使った放火とアリバイ工作がユニークな、作者らしからぬ本格風の佳作。
「天の壁」はバーで知り合ったホステスの自宅に見知らぬ男が訪ねて来たと言う。付き添っ
ていった記者はやがて、自分の母親を自殺に追い込んだ過去の詐欺事件の主役に巡り会う・・・。
まあまあ。
「渦の中で」「泥沼の風景」はいずれも新聞社の政治部記者が主役。ミステリとして取り立
てて言うことはなし。しかし政治部記者も好い気なもんだよなあ。
松本清張「喪失の儀礼」(新潮文庫)★★★☆
1969年に雑誌連載された「処女空間」の改題版の長編。
名古屋の学会に出席後、ホテルで殺された内科医の住田。体中の血液を抜かれるという異常
な犯行手段、一緒にいたとみられる謎の女の行方を追うが、事件は迷宮入りに。
だが別の事件で東京に来ていた愛知県警の大塚刑事は、住田が参加していた俳句の同人誌か
ら或る手掛かりを掴む。その矢先に東京郊外の深大寺で殺人事件が。被害者は医師で、失血
死という手段に名古屋の事件と共通するものを感じる大塚だったが、やがて、病院と製薬会
社の癒着関係の中から一人の容疑者が浮かび上がる・・・。
本作は「本格ミステリ・フラッシュバック」の作者紹介文に「意表を衝く真相の構図が印象的」と
のみ紹介されていますね。確かにフーダニット興味と意外性に溢れた佳作だと思います。大
塚刑事の丹念な捜査過程の描写も冴えています。そして製薬会社のスキャンダルを絡めなが
らも、むしろ作者は自分に貼られた「社会派」のレッテルを一種の目くらましにして、真相
を読者から隠しているようにも思えました。真犯人の動機も現代でも十分通じる、否、今まさ
に問題になっている或る事象ですね。
ただ、中盤の真相を暗示するエピソードは出し方が少々ベタなのでは、と思いました。その
ため残念ですが★4つには至りませんでした。
赤川次郎「沈める鐘の殺人」(講談社文庫)★★★★
1983年のノンシリーズ長編。
武蔵野郊外の女子高・鐘園学院に赴任した教師・迎三千代。着任早々、学園の池で溺れてい
る女子生徒・中沢爽香を助け、その池で起きた二十年前の鐘の盗難事件で、学院長・岡江の
夫が殺されたことを知る。この学校はどこかがおかしい・・・。やがて、学園の土地買収を巡る
ゴタゴタの中、狭山と名乗る謎の男が殺される。現場には呆然とした表情の学院長が。謎の
男の正体は、そして学院長が犯人なのか・・・。
使われているトリックは、古典的な基本パターンばかりですが、全くスキのない佳作です。
或る重要人物が自殺して以降の息つくヒマもない展開、二転三転した末の真相とカタストロ
フ・・・。
ストーリーはもちろん、新任教師が古い学校世界を引っ掻き回すという、漱石「坊っちゃん」
以来の典型的なお話ですが、実はそこにもう一つ、ミステリ史上、否、文学史上有名な、あ
の作品の趣向も踏まえていることが重要。「そうか、だから主人公は冒頭、××ならぬバス
で登場した訳か」と納得(解説にネタバレがあるので後で読むこと)。
もっとも、最後の二転三転のうち、三転目は、少々クドいというか余計な気もしますけどね。
赤石宏「送り絵美人−津軽殺人風土記」(北の街社)★★
地方在住アマチュア作家のミステリ短編集。1974年刊。版元は弘前を中心にした地方誌?「北の街」
等を発行。本作は同誌に掲載された連続短編を纏めたもので、青森県警・弘前署の猿渡刑事を主人
公に、津軽地方に起きた事件を扱ったものです。
巻頭の「地獄のわらべ唄」は、弘前郊外、鎌で刺された惨殺事件。農村の地縁社会のドロドロした
面の描写が卓抜で、知的障害の青年が口ずさむ奇怪な童唄が、男女関係のもつれと見られた事件の
裏面に潜む真相に一役買っているのも秀逸な佳作。
「大童子沢目の踊子」は、猿渡刑事と同僚が休暇中、西津軽の渓流釣りで迷い込んだ山奥で遭遇し
た殺人事件。これは今ひとつの出来。
「生首肥料」。スゲえタイトルwこれは倒叙形式で、戦争中のドサクサに他人になりすまして医者
になった男が妻と愛人を殺す話。凡作。タイトルは江戸時代、「山林の濫伐や盗伐を行った者は、首
を刎ねて山林の肥しにする」と津軽藩主が定めた「生首肥料の掟」に由来するのだとか。
次の「民次郎異聞」は傑作で集中のベスト。猿渡刑事が急病で入院、無聊を慰めるため同僚が持っ
てきた郷土史の資料から、江戸時代、津軽地方で起きた一揆の英雄、「義民・民次郎」の正体と、
一揆の裏に隠された真相に迫る。即ち津軽版「時の娘」。題材が面白く、民次郎の後半生と最期を
推理する部分などは、松本清張の歴史物を髣髴とさせる筆致で迫力あり。
「北の祭り」は駄作、別にミステリじゃなくても良い話。「梵珠山・鶴ケ坂」も駄作。
「ゆきおんな抄」は、ショートショートといって良い短さで、母親の情事の相手を殺す少女の話。
古典的な凶器トリックが童話風な筆致にマッチした小品の佳作。
巻末の表題作は、河出文庫「津軽ミステリ傑作選」にも採られているが、これも郷土色は豊かだ
がミステリとしては凡作。
以上8編。未熟な部分が多いが、地元の風俗、郷土色豊かな描写は一級。でもそこに本格ミステ
リの面白さが不可分に絡んでくる作品が「地獄のわらべ唄」「民次郎異聞」「ゆきおんな抄」の3
編くらいしか見出せないのは残念。同書は弘前にて購入。たまには地方出版物に目を通すのも楽
しいものです。
7連投スマソカッタ
南里征典「鍾乳洞美女殺人事件」(講談社ノベルス)(採点不能)
1985年の長編。
東北地方随一の企業グループ・東北交通の会長・橋場文造の娘夫婦のもとに届いた脅迫状。
何故かミロのヴィーナスの写真が同封されていたのだが、やがて岩手県の鍾乳洞で石灰岩
のヴィーナス像が発見されるに及んで、夫の秀彦は、自らの犯罪を知る何者かが脅迫状を
送ってきたのではないかと疑う。秀彦には、元婚約者で会長を恨んでいた娘を殺し、鍾乳
洞に死体を隠した過去があった。鍾乳洞のヴィーナス像は石灰化した恋人の死体ではない
のか。更に会長の情婦、ライバル会社の暗躍など事態は混沌としてくる・・・。
最近読んだ「オリンピック殺人事件」が意外な良作だったので、またもこの作者のミステリ
を読んでみましたが・・・。アハハハハ・・・。ダメだコリャ。
ネタバレにはならないと思いますが、同時多発的に、秀彦を巡って・・・・・・が・・・・・・して
いた、というのが真相なのですが、プロットの構成を上手く整理して、謎の出し方に配慮す
れば佳作となりうるし、ラストの意外な真相も驚きを増したでしょうに、もう何が何やら、
プロットが煮詰まりすぎて鍋ごと破裂したような出来栄え。全く整理されていないので、読
んでいても、どこがミソやらキモやら理解不能。最後の最後で、或る真相と動機が明らかに
なって、ようやく了解。
材料は良かったのに、書き方を間違えるとこうなるよ、という見本でしょうか。しかも不要
なベッドシーンも多くて、本作あたりで作者は道を誤ったのかなw
597 :
名無しのオプ:2009/01/01(木) 20:28:56 ID:zFYQiQ9I
ごめんなさい。森村誠一のスレってないんですか?
598 :
名無しのオプ:2009/01/01(木) 20:48:41 ID:eNoiMWf0
連投さんは本格捕り物帳とかは読まないんでしょうか?
599 :
草間 滴:2009/01/02(金) 03:02:55 ID:Ggy+TjFw
>595の作品など、思わぬところから拾い上げて来る前スレの
>>3さんには脱帽です。
親戚のお歳暮まわりの際に寄ったブックオフで志茂田景樹先生の『月光の大死角』をゲット! 楽しみ楽しみ。
600 :
名無しのオプ:2009/01/03(土) 00:13:06 ID:UE668O1u
600 だったら海老名みどり新作発表
>>598 綺堂「半七」、久生「顎十郎」は大好きですね。全作読みました。都筑「なめくじ長屋」は初期の
4冊ほど、横溝「佐七」、多岐川「ゆっくり雨太郎」は1、2冊。
今年は城「若さま侍」辺りに本格風味の作品がないか探してみようかと思っています。
生田直親「殺意の大滑降」(廣済堂ブルーブックス)★★★★
1981年のスキー、山岳物で固めた中・短編集。長編「劇画殺人事件」(前スレ参照)「死の大滑降」
(
>>522参照)の出来が悪いので期待せずに読んだのですが・・・。
先ずは中編「G線上の狂想曲」。五竜遠見スキー場が舞台。ゲレンデ中腹の小屋で起きた殺人
事件。二階の部屋でストックで刺し殺された被害者は、スキースクール校長で冒険家の見城
竜策を脅迫していたらしい。だが一階の住人は、二階には誰も出入りしなかったと断言、また
見城を含む関係者にもアリバイがあった・・・。見城の妻・優香や彼女をひそかに慕う見城の友人・
丹生寺など、中編なのに人物もシッカリと描かれており、しかもトリックがスキー場ならでは
の豪快なもの。密室トリックとしてもアリバイ物としても優れており、ラストの真犯人の悲劇
的な最期も良く、これ一作で作者を見直しました。
「白い猿を見たか」は大糸線沿線の爺ガ岳スキー場。スキーメーカーの社長が滑降中に事故で瀕
死の重傷を負う。彼の愛人が待ち伏せして被害者を突き倒したのではないか。だが彼女にはアリ
バイがあった・・・。大糸線と篠ノ井線の或る特徴を生かしたアリバイ物とみせて実は・・・。
これも合格点。
「死体が戸をたたく」は尾瀬ヶ原湿原が舞台。失意の画家が山小屋で働いているところに彼の元
婚約者がやって来るが殺されてしまう。彼女の後を追って来た関係者たちにはアリバイがあるの
だが・・・。これも尾瀬の「クルマ進入禁止」という特徴を生かして、一種の密室状況を設定した佳作。
冒頭の「深夜、戸をたたく幽霊」「湿原の人魂」といったホラー話が伏線になっているのも上手い。
残りの「場末の女」「カウ・ベル鳴らして」は本格じゃないので略。しかし、前3作で十分満足。
斎藤栄「『星の王子』殺人事件」(徳間文庫)★★★
主に1960年代の作品からなる1973年の初期短編集。どれもこれも一種独特の暗いパッションに満ち
た異色作ぞろい。
表題作は、断崖から子供が突き落とされるのを目撃した男女。女は、突き落とした女性は同僚の保
母だと言う。男が事件を追及するが、その保母は母親に頼まれたのだという。だが母親は意外なこ
とに・・・。これはアンフェアぎりぎりのテクニカルな作品。上手いとは思えませんが、一読忘れが
たい、笹沢左保作品を読むような暗いトーンの問題作。
「土曜日の訪問者」は、会社社長に将棋を教えている棋士が主人公。彼が自宅を訪ねた頃に事件が起
きたらしいのだが、何の物音も聞かなかったことから警察に疑われるハメに。トリック的には大し
たことは無いが、一応、フーダニット物として纏まっている。
「翳りの眼」は、これまた大藪春彦風の作品。専門学校の授業料を強奪した男女、しかし隠したカネ
を奪われ、そこには学校の警備員の死体が。更に二人に付きまとう謎の女の影・・・。大藪風ではある
が、やはり本家には敵わないな。でもトリックを入れないでは済まないところが作者らしい。
「燃える四月」は県知事選での両陣営の暗闘のさなか、運動員の急先鋒が殺されてしまう。対立候補
側の仕業か?選挙への影響を考えて死体を隠してしまうが、その死体が消失してしまう・・・。トリッ
キーな趣向を盛っているが、少々ギコチない出来。
「盲将棋」は離婚寸前の棋士の話。アリバイ物だが大した出来ではない。
全体的に非常に暗い、独特の雰囲気を持った作品が多いのが興味深いです。出来は玉石混交ですけ
どね。
菊村到「運河が死を運ぶ」(講談社文庫)★☆
1968〜69年に発表された作品で固めた短編集。
表題作は、松本清張「アムステルダム運河殺人事件」(
>>225参照)と同じ実在の事件に取材
した作品なのですが、本格に忠実な清張作品に比べて、ブッ飛んだ真相を用意。面白いけど
そりゃ無いだろw
「金庫室の翳」は銀行の金庫から大金が消失。当日の宿直者二人が疑われるが・・・。これは
「犯人当て」ではありますが、やはり「本格の謎解き」のレベルをクリアしていない。
「蛇の棲む部屋」は犯罪小説風だが特に言うことなし。「師よ安らかに眠れ」は医大教授殺し
の顛末で、結末のヒネりが上手い、先ず先ずの作品。
「他殺という形式」は愛人宅で殺された男。自殺願望があったらしいのだが、果たして自殺か、
それとも愛人による嘱託殺人か、または無理心中なのか。犯人の心理は面白いけどそれだけ。
「身を灼く」は自宅の庭で焼身自殺した女子大生の話、「汚れた町」は地方都市に左遷された
新聞記者が地元の選挙戦に巻き込まれて・・・。どちらも凡作。
やはりこの作者は、謎解きの面からみて評価すべき作品は殆ど無いですね。かと言って、人を
引き付ける他の要素にも乏しいと思う。いったいどこが良いのか皆目分かりませんんねえ・・・。
北川健「山本五十六の決断」(祥伝社ノン・ノベル)★★★☆
1983年の長編。以前に同じ作者の「S公団醜聞事件」(前スレ参照)という長編を読んでいますが
大した出来では無かった。果たして本作は如何?
昭和13年、海軍省次官の山本五十六を狙った狙撃事件の直後、省庁舎内のエレベーターで起きた
機関将校殺害事件。日独伊三国同盟に反対する海軍首脳を狙った陸軍の陰謀か?少年給仕の深町
は怪しい主計将校を目撃するが、山本次官から口止めされてしまい、一連の事件は迷宮入りして
しまう。
・・・それから43年後の昭和55年、厚生省旧館で起きた殺人事件。現場のエレベーターは、あの海軍
省事件のエレベーターだった。あの時の少年給仕だったルポライターの深町は、奇妙な符合に驚
き、事件を追及するが、何と今回の事件の関係者は、あの海軍省事件の関係者たちの息子たちだっ
た。やがて一人の容疑者が浮かび上がるが、その人物には鉄壁のアリバイがあった。43年前、一体
何があったのか、そして今度の事件との関係は何処に・・・。
惜しい。非常に惜しい。これは昭和13年の事件だけに絞って、完全な歴史推理物にすれば良かった
と思います。海軍省庁舎内の構造を生かしたアリバイの趣向、エレベーターに残されたダイイング・
メッセージ、海軍の階級章に関する小味なトリック、そして何よりも山本五十六、一世一代の大バ
クチの真相と豪快なトリックの驚き、これだけで十分、本格ミステリとして合格だったと思う。
ところが、現代に起きた事件の方が、どうも上手くシンクロし切れていない。こっちの事件にも、
新幹線を用いた細かいアリバイ工作などがあるんですけどね。どうも作品の格調を低めてしまった
余計なものであるような・・・。終戦後の現代にならばなければ解けない真相であるのは分かります
けどね。
あと、作者自身が海軍省の給仕だったこともあって、日本海軍の雰囲気や、山本、米内、井上ら
海軍名将たちの肖像も良く描けているけど、本筋に関係ない瑣末なことまで自慢たらしく紹介す
るのはマイナス。
それでもラスト、連合艦隊司令長官となった山本の深町宛ての手紙など万感胸に迫るものがあり、
捨て去るには惜しい作品です。
・・・では今年もどうぞ宜しく。
605 :
名無しのオプ:2009/01/03(土) 20:48:32 ID:fRqVBOtt
生田が上のオカズにもなるとは……ごっつぁんです
606 :
名無しのオプ:2009/01/05(月) 09:01:02 ID:iYgUwUi0
実は実家の私の部屋6畳ほどに、本が5000冊ほどあるんですが、
母親が全部捨てる、っていうんですよ。
まあ私としては読み返すこともないけど、なんか捨てられるのはしのびないです。
これだけのミステリーを読んだあとは、いったいどうしてるんですか?
607 :
名無しのオプ:2009/01/08(木) 11:52:54 ID:uC3+V90f
捨てるぐらいなら近所の図書館に寄贈されては如何かな
608 :
名無しのオプ:2009/01/08(木) 20:46:31 ID:FuTmTJC5
図書館が引き取るわけないですよ
609 :
名無しのオプ:2009/01/08(木) 21:10:18 ID:GV6tVZ+v
んなこたー(ry
610 :
名無しのオプ:2009/01/08(木) 21:57:29 ID:/ggiIqbp
古本屋に売るかオークションだな
611 :
名無しのオプ:2009/01/08(木) 22:10:55 ID:GV6tVZ+v
まあ、確かに図書館で引き取り出来ませんとか言われたら悲しいなw
メトロ文庫とかは?
612 :
名無しのオプ:2009/01/09(金) 01:30:42 ID:PeO6DWDH
ここにアップしてもらってみんなで引き取ろう
613 :
名無しのオプ:2009/01/11(日) 00:20:25 ID:jYXQ7wjP
「読みました」報告・国内編33
関口甫四郎「北溟の鷹」(1991年青樹社)★★★★
間宮林蔵を探偵役とした歴史ミステリ、80年の乱歩賞最終候補作。(この年の
受賞は井沢元彦「猿丸幻視行」)
文化四年、蝦夷測量掛であった間宮は知床沿岸の探検に赴くが、その地で隊員が密室状態
の廃屋で殺されるなど連続殺人事件に巻き込まれる。やがて事件の裏には江戸における
田沼派と松平派の抗争、さらにロシアの陰謀の影がみえてくる・・・若干硬質な文体ながら
壮大なスケールの歴史ミステリで、拾いものの一冊でした。
眉村卓「消滅の光輪」(1979年早川書房 2008年東京創元社)★★★★☆
太陽の新星化により遠からず消滅することが判った人類の植民惑星ラクザーン。連邦から統治
を委任された司政官マセはすべての住民を他惑星に移住させる計画に取り組むが、なぜか先住民
たちだけは、惑星からの退避を拒否するのであった・・・・
はい、まっとうなハードSFです。本格ミステリではありません。「星を継ぐもの」のごとく
究極の謎はありません、謎はただひとつ「なぜ、先住民たちは消滅が迫っている惑星から離れよう
としないのか?」です。文庫上下1000ページに及ぶ超大作のなかにその謎を解く伏線がいくつも
ちりばめられています。読む終えるまでが大変ながらラストに感動、保証します。
614 :
名無しのオプ:2009/01/11(日) 00:31:44 ID:dQie+w1+
SFには興味ないので
615 :
名無しのオプ:2009/01/11(日) 13:19:42 ID:gqKj1UHh
お前の好みは聞いてないので
616 :
名無しのオプ:2009/01/11(日) 13:31:32 ID:E/enCVUj
好みというより板違いだよね
617 :
名無しのオプ:2009/01/11(日) 13:38:52 ID:c8GBVuLI
SFでもミステリしてれば板違いじゃないだろう
初心者スレのテンプレに「星を継ぐもの」が入ってたりするし
618 :
名無しのオプ:2009/01/11(日) 13:48:16 ID:/0y+MvGG
この程度の謎なら普通小説にだっていくらでもあるだろ
それだけで「ミステリして」るなんて意味不明な日本語で擁護されても困る
619 :
名無しのオプ:2009/01/11(日) 14:04:33 ID:c8GBVuLI
とりあえずおれが言いたかったのはSFだからって板違いじゃないってこと
夏樹静子「アリバイの彼方に」(徳間文庫)★★★☆
1976年の短編集。
表題作は、ホステス殺しの容疑者を追及する学生時代の旧友の刑事。相手には鉄壁のアリバイ
があるのだが・・・。先ず先ずといったところか。
「滑走路灯」は昔の恋人にばったり出くわした女性、相手の様子がおかしいので聞いてみると、
たった今、妻を殺してきて、アリバイ工作の真っ最中だという。今夜中に北海道に戻ればアリ
バイは完璧なのだが・・・。ラストの女性の決断が心に残る良作。
「止まれメロス」がベスト。パトロンの男を殺したと自首した女。だが数日後、突如自供を取り
下げ、文句のないアリバイを申し立てる。そのとおりだったのだが真相は・・・。もちろん、題名
から読者は或るアイディアに気づくかも知れませんが、それを更にヒネッているので真相を見破
るのは容易ではないです。
「彼女の死を待つ」も秀作。亡くなった同僚から頼まれ、その娘の後見人のような立場にある男、
ところがその娘が子宮外妊娠で急死してしまう。相手の男を追及するのだが・・・。宮原龍雄の某
作品を思わせる、意表をついた豪快なトリックが冴えています。
「遺書をもう一度」は自筆遺書を使ったトリックの基本的なパターン、「霜月心中」は女性二人の
心中事件の真相ですが、どちらも今ひとつ。
「便り」は、福岡と群馬に離れて暮らす兄妹、兄が急死するのだが、妹は、兄の死亡推定時刻より
も後に兄から連絡があったと主張する・・・。ラストの謎解きがけっこう泣かせる、爽やかな暖かい
作品。
そして「特急”夕月”」。別のアンソロジーなどで既読で以前にも紹介済みですが、ミステリにお
けるアリバイ工作そのものを茶化した傑作。
豊田行二「関門海峡殺人事件」(双葉文庫)★
1989年の、フレンド探偵社の志摩男と倫子のコンビが活躍するシリーズの長編。
フレンド探偵社を訪ねてきた資産家の影山源治郎が、山口・萩の実家の蔵に眠る財宝を探し
出してほしいと依頼、だが志摩男・倫子コンビが途中で立ち寄った下関で早くも事件勃発。
源治郎の娘婿・久太郎が氷付けの死体となって発見され、更に津和野では探偵コンビと間違
えられた人違い殺人、そして第三、第四の殺人が相次ぐ・・・。
このコンビの作品は「ひかり10号殺人事件」(
>>361参照)を既読でしたが、ベタながらも
トリックをいろいろ工夫したあの連作集の方が未だしもマシな出来でした。これは駄作の一言。
ただのご当地観光三流トラミスじゃないか。真犯人の意外性も考えられているけど、ロクな
伏線もなしに指摘されても白けるばかり。
草川隆「二階建〈ひかり〉号の殺人」(双葉文庫)★★
1990年の長編。
製薬会社の部長殺害事件。被害者は妻の不倫を疑い、大阪から東京に向かうひかり号の車内で
妻と元恋人がいるところに殴りこんだ後に行方を絶って殺されたらしい。殴られて気絶してい
たイラストレーターの男が容疑者として逮捕されるが、その無実を信じる恋人が叔父の新聞記
者とともに事件を追及する・・・。
ストーリーのヒネり方も古臭ければ、登場人物の造形も薄っぺら、トリックは従来のパターン
とは一寸異なりますが、アリバイ工作の根幹となるキモの部分がどこなのかが非常に分かりや
すくなっているため、簡単に底が割れてしまいます。やはり凡作でしょう。
三好徹「銀座警察25時」(光文社文庫)★★☆
銀座の警察署の面々を主人公とした1985年のシリーズ連作集。
巻頭の「幽霊銀座を歩く」だけが佳作。銀座署にバーのママから「店に幽霊が来た」との電話が。
バカバカしいながらも現場に行ってみると、バーにはただ一人、女性客が気絶していた。彼女が
言うには「バーの前で変な女性に声をかけられ一緒に店に入ったのだが、バーのママにはその女
性が見えていなかったようだ」と話す。本当に幽霊が現れたのか・・・。
冒頭の奇怪な謎とその合理的な解決、という教科書のような作品。特に警察署に電話をかけた理
由が読者の意表を衝いており、意外な真相まで間然とするところのない佳作。
残念ながらその他の収録作は、「偽りの輝き」や「見知らぬわが子」に似たパターンの意外性があ
るだけで、あとは取るに足らない出来。
大田蘭三「三人目の容疑者」(祥伝社文庫)★★
1979年の長編第3作。
北多摩署管内で相次ぐ怪事件。時価2千万円のニシキゴイの誘拐に始まり、バイクによる強盗事
件、自動車から発見された焼死体、ホステス殺し・・・。一見無関係に思えた事件を追及するう
ち、バラバラだと思われた事件の真相が意外にも一つへと・・・。
あらすじは面白そうでした。ミッシングリンク物かと思ったので。しかし読んでガッカリ、何と
いうか、オッサン刑事の人情ヨタ話じゃないか。謎解きミステリとしては非常に出来が悪い。
あの真相はないだろ。犯罪を追う刑事の風俗小説でしかない。唯一、ホステス殺しの被害者が残
した「謎」だけ、その伏線も含めて少々感心した程度。
4連投スマソカッタ
赤江瀑「アニマルの謝肉祭」(文春文庫)★★★
1978年の長編。この作者もカルト的な人気があるようですが、若干の短編しか読んだことはなく、
長編はこれが初めて。
新進気鋭のヘアデザイナー楯林を巡って起こる不審な出来事。ライバルの美容師は新宿で新規開店
祝い中に店ごと焼死してしまい、京都にいたはずの楯林を現場でみたという不可解な証言も。だが
楯林も祇園祭の最中に何者かに美容用のハサミで腹を刺されて入院、そのとき助けてくれた京都の
陶芸家・反藤の妻にも怪しい行動が。事件にはどうやら焼死したライバル美容師の弟子が関わって
いるらしいのだが、その弟子も博多で殺されてしまう。またも楯林に瓜二つの謎の男が目撃される。
楯林は事件の真相を追ってパリに飛ぶ・・・。
耽美的な幻想小説で有名な作者にしては、かなり通俗的な筋ですが、やはり独特の感覚がみなぎっ
た一種独特のミステリでした。楯林が幼い時に知らずに覚えたという「ソロモン・グランディー」と
いうマザー・グースの歌詞が不気味さを盛り上げます。ミステリ的には、一寸した先入観に基づく
トリックや、マザー・グースの歌詞の秘密が明らかになるラストなど工夫も凝らされていますが、
謎解きのロジックとしては瑕疵も目立ち、やはり幻想小説の一種として読むべきでしょうか。
624 :
名無しのオプ:2009/01/11(日) 14:37:35 ID:zyn2RRc+
「アリバイの彼方に」ナツカシス(`・ω・´)
現役本のはずだから、今度買ってくるか
625 :
名無しのオプ:2009/01/11(日) 14:53:57 ID:7SzsJ6qG
>>623 まさか赤江瀑を紹介するとは思いもよりませんでしたw
まあ、幻想小説にプラスして
まとまってればめっけもんという類だと思います。
>>624 うん。夏樹静子の短編集は大体徳間文庫から復刊されてる。
斎藤栄「春夏秋冬殺人事件」(祥伝社ノン・ポシェット)★★★★
1982年の、横浜郊外の団地に住む美大助教授の画家・菊水を主人公に、近所で起こる数々の
事件を解決する、という趣向の連作集。
先ずは「春の部」として「団地美女殺人事件」。近所のスーパーの脇で発見された全裸の美女
の死体。「犯人は何故、死体を途中で遺棄したのか」の真相が意外なほど見事に決まってい
る。真犯人の意外性、伏線なども十分な出来。「ひょっとして、この作品は当たりなのか?」
と嬉しい誤算の予感w
続く「夏の部」は「団地密室殺人事件」。第1話で登場したスーパーの店長が睡眠薬自殺。遺書
もあったのだが、やがて他殺と判明して・・・。遺書のトリックが今一つの出来栄え、やっぱり
買い被っていたか・・・。
第3話「秋の部」の「団地アリバイ殺人事件」は電器店の店長殺し。囲碁に絡むアリバイ工作だ
がこれはダメ。しかし、伏線を既に第1話、第2話で出しているなど、ちょっと侮れない感じ。
そして最終話「冬の部」は「団地警察殺人事件」。前の話で話題になった県会議員の夫婦が自宅
離れの茶室で無理心中。だが左利きの議員が右手に凶器を持っていたことから他殺の疑いが濃厚
に。現場は完全な密室状態にあったが、議員に依頼されて肖像画を描いていた菊水の推理は・・・。
これは傑作。「茶室の密室」という点で、山村美紗「花の棺」を連想しますが、こっちのトリッ
クも盲点を突いた秀逸なもの。そして真犯人も・・・。まあコレは途中で気づきましたけどね。
この連作集における作者の「企み」は、まあ当時にしては斬新なものだったでしょう。中盤の2話
の出来は悪いが、知られざる佳作、お勧めです。
清水一行「敵意の環」(角川文庫)★★★
1977年の長編。
大手商社マンの多木は、最近、正体不明の敵意に満ちた視線に悩まされていた。出世競争の
トップに立つ彼への社内の嫌がらせか、或いは遺産がらみの親戚たちの仕業か。不審な出来
事は、スキー場での衝突事故を皮切りに、妻・欧子の流産、多木への轢き逃げ未遂とエスカ
レートする。多木は部下の遠藤の紹介で、オデン屋を副業に営む私立探偵・松永に奇妙な依
頼をする。多木自身を調査対象にして、その身辺に迫る敵意の正体を探ってほしい、という
ものだった。だが事態は、多木とソリが合わない課長・上島が会社の非常階段から転落死を
遂げ、部長秘書である北村杏子が失踪したことにより意外な方向へ・・・。
一応フーダニット物となっており、ラストまで真犯人は伏せられています。一種の密室状況
にあった非常階段の事件で、現場に出入りするための方法から犯人を特定しようと松永らが
推理する場面など、かなり期待したのですが、結局は大したトリックではなくて尻すぼみ。
むしろ、「真犯人の屈折した動機」が上手く隠されている点を褒めるべきでしょうか。
大谷羊太郎「予告自殺」(ビッグバードノベルス)★
1976年の「芸能界内幕ミステリー」と副題のついた短編集。
「赤い炎と黒い罠」はラスベガスで借金まみれになった歌手の陥ちた罠。どこがミステリなのか。
ただの週刊誌の事件記事も同然じゃん。ヒネりも何にもない・・・。
「そこに証拠が」は幾分持ち直したか。人里離れた倉庫に住み込みで働く男のもとに暴力団から
追われたアイドル歌手が逃げてくる。だが意外にも・・・。二転三転する筋とトリッキーな趣向は
楽しめるけど、まさかオチがダジャレとはねえ・・・。
表題作はマネージャーに自殺を予告する歌手、駆けつけたマネージャーが交通事故に巻き込まれ・・・。
駄作。「スター病患者を狙え」もアリバイ工作が出てくるけど取り立てて言うことなし。
「狙われた部屋」は落ちぶれた歌手の部屋を格安で手に入れた若手歌手が殺される話。下らない。
「栄光は別れの使者」は、あの国民的有名番組に絡めた真相、とみせて実は・・・という趣向です
が、やはり謎解きとしてはタガが外れている。
ここまで駄作、凡作ばかりが集まった短編集というのも珍しい。狙って出来ることではないよw
4連投スマソカッタ
広山義慶「贋作の神話」(ケイブンシャ文庫)★★☆
1986年の長編。この作者、ヴァイオレンス、ハードアクション系ばかりかと思っていたら、こん
な真っ当なミステリも書いていたんですね。
異端の日本画家・五木がホステスと仙台青葉城址の崖から飛び降り自殺。娘の葉子は、父親の死
の直前に相次いだ不審な出来事から、何者かに殺されたのではないかと疑いを持つ。一方、葉子
の不倫相手である雑誌編集部キャップの宮川は、日本の画商が高額で落札したレンブラントの絵
の贋作疑惑を追及していたが、やがて事件が五木の死に絡んでくることを知る。レンブラントの
偽造一味は日本にいるのではないか、五木の死の真相は果たして・・・。
まあ、「本格」というほどの謎解き興味はなく、良くある二時間ドラマ風サスペンスなのですが、
一点だけ、五木が娘に送った絵ハガキの暗号解読がなかなかの出来栄え。或る知識がないと面白
くないのですが、謎の組み立て方がかなり豪快なネタで、これは大変感心しました。それ以外は
取り立てて言うことはないですけど。
630 :
名無しのオプ:2009/01/19(月) 10:41:04 ID:wPnN0iUc
このスレを見つけて、またミステリーを読むようになりました。
いいスレだ。
近所のブックオフに行ったら、
>>578の斎藤栄「殺意の時刻表」(徳間文庫)があり、
早速購入して読んで見ました。
前スレの3氏が書かれているように、
>そんなバカなの真相と意外も良いところの真犯人。
>ハッキリ言って卑怯ではないか、とも思うのですが、
というのは、私も感じました。
読み易い文章で、まあまあ面白かったですけど、
私には「傑作を読んだ」という読後感は一切ありませんでした。
★★☆かせいぜい★★★程度の評価ではないでしょうか。
現在は佐野洋の「高すぎた代償」★★★★☆ を読んでおります。
631 :
名無しのオプ:2009/01/19(月) 14:57:14 ID:7FzG80VB
山之内家の惨劇って83年にTBSでドラマ化されてるんだね
出来はどうだったのかな?
まだ原作も読めてないけど
632 :
630:2009/01/22(木) 10:04:48 ID:EyDpIhpw
佐野洋の「高すぎた代償」を読了しました。
3氏が前スレで「★★★★☆」と評価し(
>>26参照)、「これは傑作」と書かれていた作品です。
ただ、私には、好奇心から私立探偵を開業した素人が、
名刺一枚でこんなに上手く情報を入れられるものかなあという疑問が、
読んでいる最中に常にありまして、ちょっとご都合主義かなという感じがします。
推理小説としては、凝った、面白い作品であることは間違いありません。
最後の数ページは3氏と同様に私も驚きました。
(私もなんとなく変だなと感じるところはあったのですが・・・)
私としては★★★☆か★★★★(点数で言うと75点位)かなと思います。
>>630 「殺意の時刻表」と「高すぎた代償」を読んでいただきまして、紹介した甲斐がありました。やはり
「殺意の時刻表」は傑作というより、「ケッサク」の類でしょうかね。「高すぎた代償」はラストで
は驚くけど、やはり主人公の設定に難あり、ですか・・・。
俺は昔からJ・D・カー、横溝、高木辺りが好きで、クイーンとかヴァン・ダイン、クリスティ
は少々苦手でして、やはり「四の五の言ってないで、ラストでドカンと驚かせてくれよ」という
タイプで、設定やリアリティなど無視しちゃってますのでw
栗本薫「グルメを料理する十の方法」(光文社文庫)★★★☆
1986年のノンシリーズ長編、「フラッシュバック」では「ユーモラスなタッチの軽本格」とのみ
紹介されていますね。
正体不明の大女の小林アザミと、「私」ことデザイナーの鮎川えりか。ともにグルメで大飯喰
らいの親友だったが、有名なイタリアンレストランで食事中に、グルメ評論家・沢崎らの席で
起きた毒殺事件に遭遇。沢崎の連れが農薬で殺され、席を立って厨房に入った沢崎はそのまま
消失、厨房のコックたちは「誰も来なかった」と証言する。大喰らいコンビは独自に事件を追及、
被害者がゆすりたかりのプロで、沢崎の友人である評論家の玉本や作家の村井、女優の有栖川
由紀らを脅していたことを知る。彼らは「被害者友の会」なるものを結成していたのだが、やが
て女優の有栖川が殺され、更に有名シェフの吉村も殺されてしまう。行方不明の沢崎が犯人な
のか・・・。
第一の殺人における消失トリックはチェスタートンばりでなかなか秀逸。一方で毒殺トリック
が平凡だったり、意外な真犯人の動機などに関して伏線不足なのが残念。確かに「軽い本格」と
いう評価は妥当なものでしょう。なお、描写される料理の数々が、余り美味くなさそうで、この
点は、北森鴻や嵯峨島昭を見習ってほしいです。
和久峻三「鏡のなかの殺人者−代言人・落合源太郎の推理」(新潮文庫)★★
1980年の長編。
時は明治18年、所は文明開化の京都。祇園の売れっ子芸者・お加代が惨殺されて放火される事件
が勃発。警察は被害者と出来ていた大工の九兵衛を逮捕、拷問して自白を引き出す。カネはない
が正義感と反骨精神に溢れる代言人の落合は、知り合いの芸者に頼まれ、九兵衛の弁護を引き受
け、被告は無罪だと必死の弁護を行うのだが・・・。
「久々に和久峻三の法廷ミステリを読みたくなったけど、『赤かぶ検事』はどうもなあ・・・」と思い、
少々毛色の変わった作品でも、と読んでみました。
明治初期の司法制度の状況や当時の京都の街の様子など、非常に面白く読むことはできましたし、
意外な真犯人、レッドヘリングなども一応考えられてはいますけど、およそ伏線もヒネりもない
作品では、評価はできません。主人公と脇役たちは魅力的なのですが、謎解きのミステリとして
は力不足、凡作でしょう。
西村京太郎「消えたドライバー」(廣済堂文庫)★★
1965〜68年の中・短編3作を収めた初期作品集。
先ずは表題の中編。テレビ番組の視聴者プレゼントで当選し、クルマをゲットした山田一郎なる
青年。ADの田島は彼の態度に不審なものを感じていたのだが、上司のディレクターが何者かに
殺されたことから事態は急変する。更に山田もクルマごと転落死を遂げてしまう。
一方、海岸で見つかったバラバラ死体。首が見つからないことから身元が判明しないまま迷宮入
りかと思われたのだが、やがて全ての事件が一つに収束して意外な真相に・・・。
まあこんなもんでしょうか。バラバラ死体の身元も、序盤を注意深く読んでいれば推測は付くし、
事件の結び付け方が強引なのもマイナス。あの被害者を、あんな理由で殺すのも無理やり過ぎる。
それから題名も意味不明とは言わないが、ピントが外れている。
短編「死を呼ぶトランク」は、貧乏学生が大阪に住む友人に、数十冊の本を積めたトランクを新幹
線にタダ乗せして送ったところ、大阪に着いたトランクから女性の首なし死体が発見される。誰が
トランクをすり替えたのか・・・。大したトリックではないし、「誰が学生たちの話を盗み聞きして
トランクをすり替えたのか」の真相も今一つの出来でガッカリ。
「九時三十分の殺人」は、警察に届いた「4月16日9時30分」と書かれた謎の予告状。その時
間は売出し中の歌手が出演するワイドショーのご対面コーナーの開始時間なのだが・・・。サスペンス
の積み上げ方は上手いのですが、あの真相ではなあ・・・。結末の付け方も中途半端。
4連投スマソカッタ
辻真先「迷犬ルパンと『坊っちゃん』」(光文社文庫)★★☆
1987年のシリーズ第7作。
公園で発見された女子中学生の他殺死体。朝日刑事は被害者が以前に住んでいた四国の徳島、松山
へ飛ぶ。一方、ランは同じ事務所の新人歌手・御幸とともに松山の歌謡ショーの仕事に出かける。
被害者が松山で通っていた中学校には、何故か漱石「坊っちゃん」の登場人物にソックリな教師た
ちが。教頭の赤シャツに野だいこ、校長のタヌキにうらなり。そして正義感溢れる女性の体育教師・
坊っちゃんは御幸の姉で、教え子だった被害者に慕われていた。やがて、うらなりが校舎移転の工
事現場で岩石の下敷きになる事件が勃発。一連の事件の真相は・・・。
うーん、これは残念ながら失敗作ではないでしょうか。容疑者のアリバイがメインの謎となるので
すが、どうも精彩を欠いています。或る「偽装手段」に関する伏線は上手かったのですが、その手段
そのものが面白くないし、そもそも、登場人物の動きが悪い。漱石「坊っちゃん」にソックリな面々
に魅力がないし、ランの活躍の場が少ないのも残念。凡作でしょう。
今週は不調だった・・・orz
クロフツ「少年探偵ロビンの冒険」でも読んでストレス解消しよう。
637 :
名無しのオプ:2009/01/25(日) 18:43:58 ID:IXJY40Ri
幻影城関係の本格ってどうなんですか?
638 :
名無しのオプ:2009/01/26(月) 00:55:46 ID:Ez9i0mo7
> 俺は昔からJ・D・カー、横溝、高木辺りが好きで、クイーンとかヴァン・ダイン、クリスティは少々苦手でして
俺と嗜好が同じすぎて驚いた
笹沢左保「眠れ、わが愛よ」(集英社文庫)★★★★
1977年の長編。
体調不良で家にいた化粧品会社のサラリーマン村雨敏夫は、テレビのニュースを見て愕然と
した。沖縄・石垣島に向かった旅客機が事故で墜落、死亡した乗客の中に、妻の礼美の名前
が。礼美は速記の仕事で都内にいるのではなかったのか。悪友の日下部四郎とともに沖縄に
向かった村雨は礼美の死亡を確認、何故、石垣島などに行こうとしていたのか、村雨は不倫
の男の存在を疑うが、礼美は一人で搭乗していた。更に礼美の妹・梨花が不可解な遺書を残
して服毒自殺、また村雨に礼美の不倫相手では、と疑われた医師の久留米もまた、講演旅行
先の下関で謎の溺死を遂げる。村雨と日下部は一連の事件を追求するのだが・・・。
登場人物たちの何気ないセリフ、村雨の謎めいた行動、梨花の遺書の真相から、果ては冒頭、
村雨が体調不良だったことに至るまで、実に巧妙に伏線が張り巡らされており、ラスト、或
る人物が名探偵よろしく一同を集めて謎解きをする場面で、それらの伏線が一気に回収され、
読者を圧倒します。そして探偵役の人物の或る事実を伝えるセリフの衝撃度と言ったら・・・。
では傑作か、というと、全く残念なことに、序盤で作者は地の文に虚偽を書くという致命的
なミスを犯してしまっています。これだけ巧みに伏線に気を配った作者が気付かない筈はな
いと思うのですが、これ一点で大傑作になり損なった惜しい作品。
でも伏線の上手さと、男女の愛情に対する不信など「笹沢節」絶好調なところ、そして作者
の分身とも言える日下部のニヒルなキャラなど、読みどころの多い佳作だと思います。お勧
めです。
山村美紗「ミス振袖殺人事件」(光文社文庫)★★☆
1983〜84年に発表されたキャサリン物の作品を収めた短編集。
「京絵皿の秘密」は東寺の終い弘法が発端。絵皿2枚を買ったキャサリンはその秘密に気付く。
だが、残りの絵皿を買った連中を巡って殺人事件が・・・。しょーもないアリバイ工作はともかく、
絵皿に隠された暗号の着想は良いものの、もうひとヒネり欲しい。
「呪われた密室」は老舗旅館で相次ぐ首吊り自殺。現場は密室だったが・・・。動機に関して後
出しがあるのはダメだが、密室トリックに関する或る「小道具」のさり気なさは上手い。更に
最後の一行のブラックユーモアじみた、突き放したようなオチがキツい。
表題作は和服メーカー主催のミスコンで起きた連続殺人。駄作。何のヒネりもない。
「針供養殺人事件」は嵐山・法輪寺が舞台。嫁姑を巡る殺人事件だが、これも駄作。
「割りこんだ殺人」は万福寺が舞台。複雑な家系に生まれた青年が毒殺される。異母兄弟を巡
ってのトラブルか。冒頭のエピソードが結末で効いているけど、他には取り立てて言うこと
なし。
「京菓子殺人事件」はヒネりの効いた佳作。有名な茶会で起きた毒殺事件。毒が入った菓子を
作った菓子匠が誘拐されるのだが・・・。珍しく、真っ当な小説に仕上がっている。結末の意外
性と哀しみも先ず先ず。この作品と「呪われた密室」の2作は良作だと思う。残りはどうでも
良いです。
森村誠一「真昼の誘拐」(光文社文庫)★★
1973年の長編。
大学助教授・宮本が人気女優・八木橋紀子との密会を終えて帰宅すると、妻の邦子は惨殺され、
一人息子の操は姿を消していた。息子は誘拐されたのか。やがて犯人と思しき男から電話連絡
が入る。宮本と紀子は警察に届けず、操の救出に奔走するのだが・・・。
序盤で本筋とは別に、牧野という作家が起こした轢き逃げ事件が起きており、それが誘拐事件
とどう関わってくるのか、またプロローグで宮本がコインロッカーに隠した秘密など、色々、
後半に効いて来る仕掛けなんだろうな、と興味が湧いたのですが・・・。
・・・・・・。森村誠一のバカ。何であの人を殺した?不愉快だ。
それはともかく、ホテルでの身代金奪取の辺りから目まぐるしい展開を見せ、一体どこに向か
うのかとハラハラ、サスペンスだけは十分です。ただ予想よりも早めの段階でカタストロフを
迎え、森村の初期作品に何度か登場する那須警部が事件を洗い直すことになり、いよいよミス
テリ的な謎解きに移るのですが、結局は余りにも偶然とご都合主義を重ねただけの話で、しか
も現代の読者なら、中盤過ぎで、かなりの部分まで誘拐事件と轢き逃げの真相を見抜くことが
出来るでしょう。伏線の張り方が甘すぎるよ。
そして最後、或る人物の悲劇的な死、これが俺には非常に不愉快だった。そこまで悲惨な運命
の皮肉を読者に突きつける必要があるのかなあ。更にその後、宮本と八木橋にも・・・。まあこれ
はどうでも良いけど、コインロッカーの秘密にはガッカリ。何となく予想はしていたけど、そ
んなものかよ。
サスペンスに満ちた誘拐ミステリの異色作であることは保証しますが、「本格」としては謎の構
成が甘すぎる作品でしょう。
草野唯雄「怨霊島」(トクマノベルス)★
1985年の、警視庁顧問・尾高一幸が活躍するシリーズの長編。
東京のOL阿部純子は連日、首のない戦国武将が「首を返せ!」と迫る悪夢に悩まされていた。
ルームメイトから精神科医の樋口貴子を紹介され、更にその友人である小児科医やカメラマン、
テレビプロデューサー山根らの尽力で、夢に出てくる武将は関ケ原の合戦で豊臣方につき無念
の自害を遂げ、首を刎ねられた九鬼嘉隆の怨霊ではないか、ということで、尾高を含めた一行
は九鬼の墓がある三重県・鳥羽沖の答志島へ向かう。島には九鬼一族の末裔で精神科医を引退
した久一郎夫妻と息子、娘らが住む屋敷があった。屋敷では家宝の黒真珠が金庫から消えると
いう事件が起きていたが、久一郎は一行の話を一笑に付す。だが彼の妻が四阿で凄惨な焼死を
遂げ、更には息子の元雄もまた首を切られて殺される・・・。
「ホラーと本格ミステリの結合」を目指したようですが、どちらの面でも大失敗ですw
「合理的な結末で終わりながらも怪奇的な解釈も可能」なミステリということで、J・D・カー
の某傑作をお手本にしたのか知りませんが、まるで違います。両者が渾然一体となって読者を
幻惑するカー作品とは大違い、解決した後で気持ち悪い出来事が起こりました、というだけの
三流ホラ話じゃないか。
しかも合理的な解決の方も出来が悪い。最後まで犯人の動機や幾つかの事実を隠しているので
話にならないです。ホラーの面も、ちっとも怖くない。作者だけが「怖いぞー」と煽っている
だけで、お下劣な気持ち悪い描写をすれば読者が怖がるとでも思っているのか。苦笑して読み
終えるだけの駄作。
5連投スマソカッタ
結城昌治「花ことばは沈黙」(集英社文庫)(採点保留)
1983年の長編。
妻を亡くし息子は留学、今は娘のカオリと暮らす「私」こと風間は、雨宿りで入った喫茶店で、
謎の女・祐子と運命の出会いをする。彼には牧江という五年越しの愛人がいたのだが、祐子の
魅力にのめりこんでゆく。だが彼の所業を脅迫する男が現れる。男には陰で操っている黒幕が
いるらしいのでが、それは一体誰なのか・・・。
主人公の風間は、親の遺産もあって愛人を二人も養えるという羨ましい立場にありますが、後
半、全てが反転し、カタストロフに見舞われます。この辺りの作者の計算は周到で、ストーリ
ーは風間の「私」という一人称であり、風間の知っていること、風間の「主観」だけでストーリー
を進めておき、彼の周囲の人間たちは実は・・・、というラストの驚きに至るまで、フェアに徹し
ています。
この辺りの恋愛関係における「騙し」の技巧は、あの連城三紀彦の作品に通じるものだと思い
ます。しかし俺は、連城作品のスゴさについて、理屈では分かっているものの、どうも「男女の
心理のドンデン返し」といったものが感覚的にピンと来ない部分もあるため、この作品がどの
程度スゴいのか、今一つ、把握しかねているかも知れません。
そこで「採点保留」としました。どなたか、こういった「技巧的な恋愛ミステリ」に得意な方、
読んでみて評価してください。
644 :
名無しのオプ:2009/02/01(日) 18:57:06 ID:d6IGVnib
↑のように、自分がよく解らない要素について強引に評価して
しまわないところが信頼出来るね
645 :
630:2009/02/03(火) 09:51:29 ID:iT3Xexxo
笹沢左保の「眠れ、わが愛よ」がブックオフにあったので買ってきました。
只今、鮎川哲也の短編集を読んでいるので、
読み終わり次第、取り掛かろうと思っております。
646 :
630:2009/02/07(土) 15:41:03 ID:zE8kjAH5
>>639の「眠れ、わが愛よ」を読了しました。
これは非常に面白い小説ですね。
★★★★も納得です。
悪友の日下部四郎という人物が、
チョット癖のありすぎる人物として書かれていたのが若干気になりましたが。
読み終えてから序盤をパラパラ見直すと、確かに虚偽が書かれてますね。
これは「致命的なミス」ではなく、作者が故意にやっているのだと思います。
作者としては、本格推理ということをあまり意識してなかったのかもしれません。
推理小説としてはアンフェアなんでしょうけど、娯楽小説としては非常に面白い作品です。
>>630 「眠れ、わが愛よ」を気に入っていただけたようで嬉しいです。
斎藤栄「影絵の女殺人事件」(ケイブンシャ文庫)★★★☆
1978年のノンシリーズ長編。
新進の画家・旭は画商の桑名から手ひどい仕打ちを受け、殺害を決意。完全犯罪を狙う旭は、
「将棋だおし殺人」という奇想天外な手段を思いつく。別会社の副社長である桑名を恨む部長
の垣内に彼を殺させる、垣内に桑名殺害を決意させるため、垣内の心酔するもう一人の副社
長を殺す。それは彼と遺産相続でモメている妹にやらせる。妹に兄殺害を決意させるために
は・・・・・。旭は延々6人もの人間を間に置くという連鎖殺人を計画、これで桑名から自分まで
捜査陣が辿ってくることは不可能だろうと確信する。そして手始めに、妻の経営するアクセ
サリー店の店員に付きまとうチンピラ学生を、最初の「将棋だおしの駒」として殺害。計画は
見事に当たり、遂に桑名殺害に至るのだが・・・。。
「奇想天外」というより「荒唐無稽」だよなあ。一種の「あやつり」の例は、山田風太郎の某傑
作を始め、幾つか前例はありますけどね。本作は、あやつる側の人間を描いたところが一寸
ユニークか。しかし、旭はあちこちで色々な人間と接触し過ぎ。案の定、後半が始まるや、
アッという間に警察に察知されてしまいます。今まで延々と描いてきたことは何だったんだ
よwアホか。
しかし、ここからが本作の読みどころ。連続殺人には旭の知らない謎の第三者が関与してい
るのでは・・・、これも読者は容易に推測できます。そしてあの人物がアヤしいな、と予想が
つきます。
だが真犯人は意外にも・・・。これは先ず分からないでしょう。だが読み返してみれば、やや
バカバカしいながらも、ちゃんとあちこちに伏線が張ってあります。
作者は「倒叙物でありながら真犯人の意外性を狙った」らしいのですが、それなりに努力の
跡は伺える先ず先ずの作品だと思います。
佐野洋「蜜の巣」(中公文庫)★★★
1963年の長編。
地方署の刑事から県警本部警務課に異動となった森永刑事は、警務課長じきじきの指示で警察
官の身分を隠した隠密捜査を命ぜられる。或る町の警察署で、現職の警察官が売春グループを
組織しているとの密告があり、その真偽を確かめるべく森永は町に向かう。彼は保険会社の調
査員を装い、密告書にあったホステスの律子に接触、彼女と同棲を始める。どうやら近郊の温
泉で発生した会社員の自殺事件に彼女と売春グループが絡んでいるらしい。森永は悪徳警察官
の正体を突き止めるべく事件の追及に乗り出したが・・・。
終盤になっても、ちっとも盛り上がらないなあ、悪徳刑事を摘発するだけで終わるのかよ・・・、
と思っていたら、最後の最後に、軽いジャブのような少々意外な真相のパンチに見舞われまし
た。そんなに冴えたドンデン返しではないですが、予想外の方向から来たので少しビックリし
た。なるほど、伏線もちゃんと張られていたなあ(預金通帳の件など上手いものです)。
本作は警察本部の警務部門による「監察」を扱った先駆的な作品ですが、横山秀夫のようなシ
リアスで緊迫した対決場面などは殆ど無く(或る人物が最後まで・・・・・・・なのにもビックリし
ました)、ホステスとの同棲場面が主となっているため、随分とホンワカした感じですね。
ラストの思わせぶりな余韻を残す結末もスマート。まあユニークな良作ではあります。
小杉健治「汚名」(集英社文庫)★★★
1988年の長編。
阿倍野電工の専務が工場を案内中に産業用ロボットに叩き潰されて死亡。プログラムが何者か
に改竄されて暴走したのではないか。だがロボットのオペレーター石倉は謎を残したまま自殺。
一方、大手メーカーに勤める折原は、脳性マヒの息子を育てている芹沢涼子と知り合い、会社
の方針転換で辞職した先輩の森岡らに誘われ、婚約者の反対を押し切って新しい会社に転職、新
会社に出資する涼子らとともに、障害者が働ける環境を目指してソフトの開発を進める。だが
涼子はロボットに殺された会社専務の愛人だった。やがて折原らは昔の会社からソフトを盗んだ
疑いで逮捕されてしまう・・・。
名作「絆」と同様、「障害者にとって真の幸せとは何か」を追求した骨太の作品。「絆」は名作です
が、とても「本格」とは言えないのですが、本作は、或る人物の意外な動機が最後まで伏せられて
おり、それがソフト横領事件とロボット暴走事件の謎解きに意外性を与えています。しかし、最
後のドンデン返しは、前述したテーマを際立たせるためとは言え、やや無理があるように思いま
した。
4連投スマソカッタ
陳舜臣「小説マルコ・ポーロ」(文春文庫)★★★
元の皇帝フビライに仕えていた頃のマルコ・ポーロを主人公にした1979年の連作集。
第1話「冬青の花咲く時」はフビライの密命で、滅亡した南宋の歴代皇帝の墓を破壊するラマ
僧の監視をするマルコ。ラマ僧の真の狙いは・・・。うーん、マルコが名探偵という訳ではなく、
狂言回しに近い役割かな。以降、マルコはフビライの隠密として活躍することに。
「移情の曲遅し」では楽曲に絡めた暗号、「電光影裡春風を斬る」では行方不明の名僧を探すが実
は・・・、といった奇談風の話、「燃えよ泉州路」や「南の天に雲を見ず」はどちらも或る大掛かり
なトリックとドンデン返しが上手い佳作。
その他、「盧溝橋暁雲図」「白い祝宴」「明童真君の壺」などは謎解き興味は薄く、「男子、千年の志」
や「獅子は吼えず」はシャーロック・ホームズ譚に近い味か。
中国史に興味のある方にはお勧めですが、謎解きのミステリとしては、さほどのものではなかった
です。
651 :
名無しのオプ:2009/02/08(日) 15:34:55 ID:PiX/AQPq
3氏、毎週乙です
集英社文庫の陳舜臣ベストコレクション第2巻にこれまでアンソロジーでしか読めなかった
名探偵・陶展文シリーズの「縄」3部作が収録されております
652 :
名無しのオプ:2009/02/08(日) 18:28:21 ID:JjROH3M8
「縄」で岩下俊作を思い出した
この本、古書店でやたら見かけるんだが読んだ人いる?
653 :
名無しのオプ:2009/02/09(月) 00:00:28 ID:/E0I4U7+
「蜜の巣」飛鳥部が自作の中で佐野のイチオシとして紹介していたね
654 :
名無しのオプ:2009/02/10(火) 13:50:01 ID:VcxXqmB2
来月の笹沢左保コレクションは『愛人岬』です。
小粒だけど笹沢左保らしい心理的トリックが個人的にはお気に入りで★★★★。
655 :
名無しのオプ:2009/02/10(火) 20:20:39 ID:daPiL98k
逃亡岬が好きなんだけどな
656 :
名無しのオプ:2009/02/11(水) 08:45:00 ID:UjeUzLN4
いやーびっくりしました。
というのは実家の書庫探してたら、
陳瞬臣さんの油の乗った、40〜50代の推理モノが
大量に出てきました。
20冊以上あると思いますが、
これがベスト3みたいなのありますか?
657 :
名無しのオプ:2009/02/11(水) 14:30:38 ID:bIodQAMS
書庫(笑)
大量→20冊以上(苦笑)
658 :
名無しのオプ:2009/02/11(水) 15:30:50 ID:DIwncdnB
659 :
名無しのオプ:2009/02/11(水) 19:31:16 ID:BioL2sYu
660 :
名無しのオプ:2009/02/11(水) 19:33:07 ID:UqdNiNGN
661 :
名無しのオプ:2009/02/12(木) 00:06:57 ID:7lPwgb/A
662 :
名無しのオプ:2009/02/12(木) 01:49:48 ID:2JxjlM5H
子供の頃一度だけ入った親父の部屋(開かずの間)は間違いなく書庫であって書斎じゃなかったぜ
(あとでめっちゃ怒られた…たぶん子供が見ちゃいかん本も置いてあったんだろう)
663 :
名無しのオプ:2009/02/13(金) 11:05:02 ID:p8CV5g/b
私は読んでないですけど、
>>648の説明を読むと、
「蜜の巣」はいかにも佐野洋らしい作品のようですね。
現職の警察官が売春グループを 組織しているとか、
隠密捜査とはいえ、刑事がホステスと同棲したりとか、
佐野洋の「警察官嫌い」がストレートだ。
「保険会社の調査員を装い」というのも、いかにも佐野洋。
ただ、私は佐野洋のそこが嫌いなんだけどね。
探偵役を無理に新聞記者とか保険の調査員にする必要はないと思うんだけどなあ。
664 :
630:2009/02/14(土) 07:00:43 ID:WmIRyblK
斉藤栄の「方丈記殺人事件」を読了しました。集英社文庫版です。
前スレの3氏の評価は★★★★でした(
>>26参照)が、私には採点不能です。
読み終えて、こんなに疑問が残る推理小説は初めてです。
最後に書かれている事件の真相を読んでも釈然としません。
あまり詳しくはかけませんが、時間的な問題があるような気がするのだけど・・・
思わせぶりな書き方をしていながらスルーしている問題がいくつもあるし。
私には評価の対象にならないなあ。
以前読んだ、「殺意の時刻表」より文章が丁寧で、その部分はよいのですけど。
>>651 情報サンクスです。すっかり失念してました。「縄」三部作は、河出書房新社のムック「日本の
名探偵」収録の「引きずった縄」以外は未読、さっそく購入してきました。楽しみです。
>>630 >時間的な問題があるような気がする
うーん、失踪した宇賀神助教授のアレの件かなあ。俺は全く気づきませんでした・・・orz
清水一行「合併人事−噂の安全車」(角川文庫)★★★
1973年の作者のミステリ処女作。
中堅自動車メーカーのシバ自動車が社運を賭けて製作した低公害安全車アポロ。宣伝部の柳田は
キャンペーンのための日本縦断ラリーを決行するが、最後のドライブ中に、同行する車を運転す
る俳優の三条が人を轢いてしまった。会社の浮沈がかかるため、柳田は死体を隠し、ラリーを続
けさせるが、隠したはずの死体が何故か消えてしまった。数日後、柳田と三条が死体を運んでい
る写真が会社に届き、脅迫者が現れる。だが待ち合わせ場所のホテルの一室で柳田が見たものは、
消失した死体だった・・・。
消失した死体が再び他殺体で発見・・・、という飛び切りの謎は良かったと思います。しかし中盤
過ぎからだんだんと凡庸な社会派モロ出しの展開に。そしてガッカリ極まる終盤と犯人の指摘で
幕・・・、と思いきや、読者の予想を上回る「真の黒幕は誰だったのか」の意外な事実が。これで多少、
息を吹き返しました。いっそのこと、アイツを本当の真犯人にすればフーダニットの佳作になっ
たのに。ちょっと惜しい作品です。
仁木悦子「三日間の悪夢」(角川文庫)★★★☆
1960〜73年頃の作品を収めた短編集。
表題作は、息子が家出し、ボケた姑と暮らす女性。強盗殺人事件の容疑者として息子が逮捕され
てしまったことを知る・・・。謎の構成は甘いが、ボケていたはずの姑の鋭い推理が楽しい。
「罪なき者まず石をうて」は最も古い作品だが、浮世離れした牧師父娘と、そこに転がり込んで
きたチンピラのトリオが活躍する話。三者三様の推理も面白いし、伏線も上手く決まっているが、
何よりも、赤川次郎の作品といっても通用しそうなほど古びていないのは流石。シリーズ化され
なかったのは残念。
「虹色の犬」は、十数年前に病気を苦に自殺した母親は、実は殺されたのではないか、と疑う女性。
唯一の手掛かりは、その日、虹色の毛をもつ犬がいたと記憶していることだった。婚約者の新聞
記者とともに真相を探るが・・・。これもコンパクトに纏まった良作。
「ただ一つの物語」は浅田悦子物。病死した童話作家が残した童話の謎とは・・・。これはヒントが
簡単すぎた。
「恋人とその弟」は小学生を主人公にした作者得意の作品。初恋の女の子の弟が誘拐されてしま
う。行方を追ううちに自分も捕まってしまうが・・・。風船の扱い方が見事。まさに短編本格ミステ
リのお手本と言える佳作。
「壁の穴」は作者の別の一面を代表する、暗く救いのない物語。作者の怒りとやるせなさが伝わ
ってくる。重い作品だが、コレをラストに持ってくるのはなあ・・・。
以上6編。やはり安心して読めるのが何よりも嬉しい。
黒岩重吾「背信の炎」(角川文庫」)★★☆
1960〜68年の作品を収めた短編集。
何と言っても注目は、「宝石」誌デビュー作の「青い火花」。大阪ミナミのマンモスキャバレーで、
踊り子が突然ゴンドラから墜落死した。一部始終を見ていたマネージャーの野刈は、不可能状況
下での殺人を追及するのだが・・・。解説にあるとおりJ・D・カー風のトリックの異色作、やや
ヒントが露骨過ぎるとはいえ、楽しく読めました。
次点は「流木の終駅」。飛田遊郭でトランプ占いで生計を立てる中川。ホステスのかなえと結婚
の約束を交わすのだが、突如失踪してしまう。飲んだくれの父親から逃げたのか・・・。これといっ
たトリックは無いのですが、幾人かの登場人物の心理や行動などに配慮を払って、些細な伏線を
活かした佳作。さらに小説としての出来も一品。哀しいラストまで間然とするところのない作品。
あと、表題作は倒産して偽装自殺した男が自宅の天井裏に潜み、節穴から妻や友人の裏切りを知
る話。乱歩「屋根裏の散歩者」かよw
残りの「牙の洞」や「乾いた湖底」はミステリというには無理があるかな。
森村誠一「夕映えの殺意」(講談社文庫)★★☆
1974年の長編にして作者初の冒険小説とのこと。
家出人探しの探偵・片山竜次は、知り合いのシカゴの富豪ハサウェイから人探しを依頼される。
第二次大戦中、満州爆撃の際にB29が不時着したときにハサウェイの命を救ってくれた日本人
開拓農村の生き残り5名を探しているのだという。その開拓村は裏切り者の日本人の手引きで匪
賊の襲撃に遭い、ほぼ全滅したらしい。そして数少ない生き残り5名のうち3名までが、最近に
なって不審な死を遂げていた。裏切り者で今は財界の巨頭に成り上がった志沢真三と用心棒・半間
の仕業か。だが片山の調査は突如ハサウェイから中止を命じられる。ハサウェイの矛盾した行動
の秘密は何か。志沢、ハサウェイ、そして片山と彼を助ける謎の男による三つ巴の争いは、信州の
寒村からシカゴのスラム街へと広がってゆくのだが・・・。
確かに冒険小説風ではありますが、謎解き興味も盛られています。志沢が犯人かと思えば、彼が知
らない謎があり、ではハサウェイかと思えば、彼もまた・・・といった感じで、かなり錯綜した展開。
更には後半で或る重要人物が密室状態の浴室で殺されるなど、かなり「本格」を意識した作品、とい
うか、冒険小説としても謎解きとしても、どっちつかずになってしまった作品。
密室トリックはかなりユニークではあるけど、そう上手くゆくものかと思うし、後半、片山を援助
する謎の人物の正体も、やや伏線不足。最後の最後のダメ押しも、冒険小説には馴染まない。謎の
構成に拘ってしまい、片山や真三、半間などの個性的な登場人物の躍動感を損なってしまった感じ
です。
冒険小説にチャレンジするのも結構ですが、最初から本格として書けば良かったのに・・・。
新谷識「インド宮廷秘宝殺人事件」(双葉ノベルス)★★
作者自身がモデルの阿羅教授とその姪・久美子が活躍するシリーズの第4作。1995年の作品で本ス
レがカバーする時代からは外れていますが、余り紹介されることもないのではと思い、挙げておき
ます。
商社が経営する美術館で開催される予定のインド中世の宮廷秘宝展。ところが直前に宝石デザイナー
の山村が謎のメッセージを残したまま館内で殺される。展覧会にも関係しているインド美術の親睦
団体「デリーの会」のメンバーの中に犯人がいるのか。そしてメンバーの一人で古美術商の梶川もま
た謎の走り書きを残して殺される・・・。
うーん、ダイイング・メッセージ解読がメインの謎解きなんですが、ウルドゥー語でああだこうだ、
と議論されても、シロウトが分かる訳ないだろwそれ以外にはトリッキーな謎解きが殆どないので、
コレが面白くなかったら、もうどうしようもないです。その上、オヤジ臭いギャグも上滑りしている
し、どこか集中力の欠けたようなプロットの甘さも目立つ。プロローグや中盤に、作中人物による
インド美術史に関するエッセイが挿入されているなど、深水黎一郎「エコール・ド・パリ殺人事件」に
先駆けた趣向もあるけど、それも謎解きには余り関係ないしなあ・・・。やはり凡作でしょう。
6連投スマソカッタ
たまには「フラッシュバック」紹介作品の感想でも。
関口甫四郎「鉄道回文殺人事件」(エイコー・ノベルズ)★☆
1987年の長編。
推理作家の天童一馬は、奈良で行方不明の友人らを探す萌子に出会う。彼女の三人の友人のうち、
一人はダイビング中に事故死、残りの二人は相次いで失踪してしまったという。うち一人の友人
からは日本各地から写真入りのハガキが届くので無事らしいのだが行方は掴めない。やがて天童
と萌子は、大阪の大学教授・宇野のスキャンダルに事件が絡んでいることを知るのだが・・・。
うーん、ここまでヘタな小説は、麓昌平「影の白衣」(前スレ参照)以来かも。登場人物の整理が全
くなされていないし、ストーリー展開も退屈の一言。二重、三重の意味を持つ回文のトリックも、
確かに凝りに凝ってはいるけれども、解き方が唐突、何のヒントも無しに、いきなり解読が始まっ
たりするんだものなあ。で、あの真犯人は何だよ・・・。
これを「フラッシュバック」で紹介する意義がどこにあるのか疑問です。
671 :
名無しのオプ:2009/02/15(日) 18:14:12 ID:34HoDoL0
「読みました」報告・国内編34
鮎川哲也「白の恐怖」(1967年 文華新書)★★★
資産家の死により雪の山荘に呼び集められた親族たち、やがて遺産管理者の
弁護士とお手伝いが殺害される。遺産相続をめぐる殺人なのか・・・著者の
唯一文庫化されていないノンシリーズの長編ミステリ。出来が悪いため作者
が再販を拒絶、「白樺荘事件」と改題し改稿の予定があったとのこと。期待値
を低くして読んだためか、そんなに失望はしなかった。たしかに一発ネタ
トリックだけの小品ではありますが・・・
梶龍雄「殺人回廊」(1990年 大陸書房)★★☆
第二次大戦末期、目白のお屋敷町に不審な男たちが出没していた。新田侯爵邸から
通報を受けた警視庁強力班刑事はやがて男たちが特高と知り、侯爵の次男の失踪が
あきらかとなる。ついで屋敷の離れで三男の死体が・・・・梶作品でよくある
「いったい何が起こっているのか」が主題の最後期作。往年のさえなく凡作。
672 :
名無しのオプ:2009/02/15(日) 20:18:46 ID:MV/MOI48
横田順彌の「奇想天外殺人事件」てのが気になるんだけどどう?
673 :
名無しのオプ:2009/02/15(日) 21:39:19 ID:uG3LVdLc
持ってるのか白の恐怖……
674 :
名無しのオプ:2009/02/15(日) 22:02:38 ID:+1titMB3
>>672 少なくともミステリに分類される作品ではないな。
俺は好きだけど、たぶん読んだ人の8割くらいは「くだらねー」の一言で
終わると思う
675 :
名無しのオプ:2009/02/15(日) 22:10:19 ID:kvjSI7H4
>>670 フラッシュバックに掲載されている作品でも、
疑問に思う部分があればこれからも意見お願いします。
>>673 図書館で借りたという可能性も・・・
676 :
名無しのオプ:2009/02/15(日) 22:48:10 ID:VYnQDX7q
私の場合は図書館で借りた口
まあ言われてるほど酷いとは思わなかったな
あとノンシリーズじゃなくて星影モノだろう
677 :
名無しのオプ:2009/02/15(日) 23:32:33 ID:oCAAfhNj
今週リブロ西武池袋でやってた古書展で函欠本が700円ほどで出てたよ>白の恐怖
手にとって棚に戻したとたん、隣にいた人が待ってたとばかりに抜き取っていったけど
678 :
名無しのオプ:2009/02/20(金) 23:40:08 ID:4KEMhAOb
小杉健治「法廷の疑惑」(双葉文庫)★★★★★
1986年の長編。長らく探していた作品、ようやく入手できました。
父親のいない私生児だった李奈子は結婚を控えて幸せの絶頂にあったが、母親の交通事故に
より人生が一変する。母親は元恋人の医師・上林らの手術により一命は取りとめたが植物状
態になり、延々と続く介護の中で李奈子は疲れ果て、婚約者の御木本とも別れてしまう。
一方、加害者のトラック運転手・北川の人生も暗転、刑期を終えたものの、ショックで流産し
た妻の初恵とも別れ、ドヤ街で自暴自棄の生活を送っていた。ヤケになった北川は元の勤め先
の金庫を襲って逮捕される。その弁護を買って出たのは水木弁護士だった。だがその裁判が決
着したのも束の間、今度は李奈子が母親と無理心中を図るという事件を起こしてしまう・・・。
「医師の倫理」「交通事故の補償」「在宅介護」「尊厳死」・・・、これでもかと作者は重いテーマ
を次々と突きつけてきます。こうした社会問題が二十年以上経った現在も全く古びていない辺
り、作者の見識の高さが伺われます。
しかし本作は、それらの問題を追及する一方で、かなり高いレベルの謎解きにも成功した稀有
な作品です。或る人物の「思惑」が序盤でハッキリ描写されているので、「コイツ絡みの真相で
全てバレバレだろ?」と思っていると、まんまと騙されます。無理心中未遂の真相にはアッと
驚きました。そして冒頭の描写の妙、或る人物によるミスディレクションなど、スケールは大
きくないし、かなり地味ではありますが、破綻なく構成された、ほぼ完璧な作品。そして、ラ
ストで或る人物の動機を知ったとき、不覚にも、漱石「坊っちゃん」じゃないけど「俺は泣かな
かった。しかしもう少しで泣くところであった」でしたよ。
強いて欠点を挙げるとすれば、題名でしょうか。こんな味も素っ気もない陳腐なタイトルは、
この傑作には全く似合わないです。
ともかくも、「陰の判決」や「裁かれる判事」を凌ぐ、社会的テーマと謎解きが不可分に結合した、
これまでに読んだ小杉健治作品の最高傑作です。
田中芳樹「流星航路」(徳間文庫)★★★
1978年の「幻影城」でのデビュー作「緑の草原に・・・・」はじめ、李家豊のペンネームで同誌に
立て続けに発表されたSF及びSFミステリなど8編を収めた短編集。
先ずは「緑の草原に・・・・」。地球に酷似した環境の惑星で、調査隊が三度にわたって消息を絶っ
た。A級捜査官の「私」が加わった第4次調査隊が現地で見たものは、殺し合いで全滅した調査
隊員の死体だった・・・。おお、これはSFミステリの佳作だ。調査員が持ち込んだ植物に関する
ミスディレクション、真相を特定する「私」の推理もさることながら、冒頭の会話などに含まれ
た或る「事実」に関する伏線など、「本格」味が満載。
その他、SFミステリの作品として、西部劇調の「懸賞金稼ぎ」が、辺境の惑星に逃げた強盗のお
尋ね者を追う男。だが強盗の正体は意外にも・・・。伏線を凝らした軽い本格ミステリ風の作品。
「黄昏都市」は、政府高官の息子を狙う連中と、彼を保護しようとする捜査官。その息子は実は・・・。
これも些細な伏線が光る良作。
「品種改良」は、火星が舞台。火星の北極に棲息していた生物スウェル。食肉用に品種改良され
たのだが、試食した連中が死んでしまう・・・。これはヒントが露骨かな。
残りは純然たるSF、「いつの日か、ふたたび」は、濡れ衣を着せられタイムマシンで古代の地
球に逃亡した恋人たちと、追いかける男たちの話。表題作は惑星間航路で流星群に遭遇した宇宙
船の話。
「白い断頭台」はSFから離れた冒険小説。テレビ局主催のスキー大会に張り巡らされた陰謀と
は・・・。「深紅の寒流」はアラスカで行方を絶った従弟を探す男。従弟は撃沈されたナチスの潜
水艦を引き揚げようとしていた。潜水艦の秘密とは・・・。
バラエティに富んだ作品集ですが、デビュー作がダントツの出来栄え。光瀬龍の「宇宙年代記」
シリーズに似た雰囲気の作品が多いかな、と思います。なお解説は連城三紀彦。
佐野洋「おとなの匂い」(集英社文庫)★★
1984年の長編。
弁護士の猫尾恭介は出張先の浜松で、柏木品子という女性と知り合う。彼女は九年前の小学
生時代に、恭介の従兄の陽介が起こした未成年者誘拐事件の被害者だった。品子は事件を気
にしていないのか、陽介に会わせてくれと依頼、猫尾は絶交状態で音信不通だった陽介に会
おうとするが、陽介は殺されてしまう。一方、品子の行動にも不審なものがあるなど、恭介
は事件の渦中に巻き込まれてゆく・・・。
中盤まで読んだところで、以前に読んだ結城昌治「花ことばは沈黙」(
>>643参照)に近い味か、
どちらも1980年代初めで、連城の技巧的な恋愛ミステリが出てきた頃で、先輩作家たちも影
響を受けていたのかな・・・、と思ったのですが、連城風の「離れ業」を佐野洋に期待すべくも
なく、理屈っぽいばかりで、最も常識的で詰まらない結末に落ち着いてしまう作品。
品子の不可解で矛盾に満ちた行動の真相がポイントでしょうか、なるほど、ラストで全ての謎
は過不足なく解明されるけど、どうもカタルシスを得られない、まあシブいといえばシブいの
ですが、「ああ、そうですか。・・・それで?」といった感じの凡作。
伴野朗「通り魔」(カドカワノベルス)★★☆
秋田と思しき東北の県庁所在地を舞台に、地方新聞支局でサツ回りを勤める名無しの新聞記者
「おれ」を主人公にした「野獣」シリーズ、1983年の連作集。
表題作は、秋田の歓楽街・川反通りならぬ川連通りで起きた通り魔殺人。更に第二の殺人が駅
前で起きるのだが・・・。小栗虫太郎ばりの錯覚トリックとアリバイ工作が印象的なトリッキーな
佳作。
「さまよえる野獣」は、郊外の住宅街で起きたヘンな連続空き巣事件。侵入しても何も盗らず、
しかも同じような白壁の家ばかりが被害に遭う・・・。シャーロック・ホームズのアレかと思った
ら、違っていた。でも些細な会話に伏線を潜ませた、これも良作。
「小さな眼」はライバル紙に掲載された子供の詩から、「おれ」が医療ミスを暴く話。伴野朗らし
くない泣かせる作品だが、謎解きの趣向が弱い。
「年賀状の女」は記憶喪失の女性の唯一の所持品である年賀状。その宛先の名がその女性の正体か
と思われたが、その女性は既に火事で死んでいた・・・。これは凡作。
「シスター・コンプレックス」は坂本竜馬の写真に絡んで「おれ」は竜馬ファンの富豪を訪れる。
一方、東京・羽田で起きた航空機事故の犠牲者が富豪のダイヤを所持していた・・・。ダイイングメ
ッセージ物だが凡作。
「失踪」は弁護士事務所に勤める女性が失踪、事務所が扱っていた離婚訴訟に絡んでいることを
知った「おれ」は・・・。大胆なトリックが出てくるけど伏線不足で物足りない出来。
前半の2作は良かったのですが、後が続かずに息切れしたか、残りは凡作。このシリーズも既に
3冊読んだけど、主人公のキャラがどうも気に入らない、三好徹「天使」シリーズの「私」の方が
俺は好きだなあ。
草川隆「ひかり223号逆転殺人」(廣済堂ブルーブックス)★★★
1991年のノンシリーズ長編。
スキャンダルで滋賀県のホテルに隠れていた女優の森川由紀が、バラバラ死体となって琵琶湖
で発見される。生前、彼女の所属プロダクションと確執のあった元芸能記者の高松が容疑者と
して浮かび上がるが、彼もまた東京で溺死。兄の無罪を信じる妹の美奈子は、バイト先の上司
の後輩である大内記者とともに事件を追及する・・・。
例によってバラバラ殺人とアリバイ工作の組み合わせ。終盤、意外な人物が突如クローズアッ
プされ、異様な動機が立ち上がる辺りには感心したのですが、残念なことに、そこに至る前に
メイントリックに気付かれてしまっています。バラバラにした必然性は分かりますし、序盤の
或る描写がフェアであることも良いのですが、やはり「・・・・・がダメならば、逆に・・・・・だろ?」
と容易に推測されるトリックではなあ・・・。終盤の出来が良いだけに残念な作品です。
新田次郎「チンネの裁き・消えたシュプール」(新潮文庫)★★
1958〜65年に発表された山岳物のミステリ長・短編で固めた作品集。
>>524さんが紹介されてま
したね。探して読んでみました。
先ず長編「チンネの裁き」。剣岳で起きた落石事故で、ヒマラヤ登山隊のリーダーに内定して
いた蛭川が死亡。事故当時、現場には被害者と確執のある陣馬、鈴島、京松らの登山家が揃っ
ていた。誰かが故意に落石を引き起こしたのではないか・・・。その事件が決着したのも束の間、
今度は鈴島が雪崩に巻き込まれて死亡、これも何者かの手による人為的な犯罪ではないか・・・。
元々は3つの短編だったようですね。そのためか、ヒロインの心理などにギクシャクした感じ
が残っています。最終的に一応謎解きはなされるし、色々な小道具や機械的なトリックなども
出てくるのですが、やはり「本格」というには無理があります。タイトルどおりに、主人公は
剣岳のチンネそのものであり、卑小な人間たちに裁きを下す、というのがテーマだと思います。
「錆びたピッケル」はスイスで滑落死した友人の墓を訪ねた男が、友人の折れたピッケルを見つ
ける。ピッケルは何者かが粗悪品とすり替えられ、被害者を死に至らしめたのではないか・・・。
すり替えを行ったのは誰か、の点で意外性はありますが、それだけの話。
「新雪なだれ」の舞台は富士山。雪崩が発生して多数の死傷者が発生。山頂近くにいたパーティ
が雪崩を引き起こしたのではないかと疑われ、奇跡的に生き残った男が濡れ衣を晴らそうとす
る・・・。山岳小説としてはともかく、ミステリとしては「だから何?」というレベル。
「消えたシュプール」は二十五年前に志賀高原で行方不明になった父親、その遺品のスキー板が
旅館の物置から見つかったという知らせを受けて息子が現地に向かい、行方不明の真相を探る
話。これも小説の構成が謎解きのミステリに向いておらず、どうもピントがズレています。
全体に、山岳ミステリのジャンルを開拓したという先駆的な意義以外には、今となっては価値
を見出せないと思います。
西村京太郎「完全殺人」(角川文庫)★★☆
1962〜80年までの作品を収めた短編集。
「奇妙なラブ・レター」特にコメントなし。横溝の戦前の短編「青い外套を着た女」をヒネった感じ
の作品。「幻の魚」。これも真相が丸分かり。
表題作は変わった趣向で、時効まで逃げおおせた殺人犯4人が謎の人物により山荘に集められ、
一人ずつ完全犯罪の経緯を話す。謎の人物の目的は何か。これのオチは読めなかった。余りに
バカバカしい動機に唖然w
「殺しのゲーム」は奇妙な味の作品。ガンで余命わずかの男2人が、互いに相手を殺しあうゲー
ムを始めようとする。それによって死の恐怖を忘れようというのだが・・・。ラストの展開に少々
驚いたが、所詮は一発アイディア、S・エリンや阿刀田辺りが書きそうな話。
「アリバイ引受けます」が一番の佳作か。妻の浮気相手を殺そうと企む夫のもとに「アリバイ引受
会社」の男が訪ねてくる。殺害時には全くの第三者をアリバイの証人に仕立ててあげるから、カネ
を払えという。これは或るオチを読者に予想させるよう誘導しておいてのヒネッた結末が冴えてい
る。ラストの意味深長なセリフも上手い。
「私は狙われている」は凡作、「死者の告発」はダイイング・メッセージ物だが飛躍し過ぎで面白くな
い。「焦点距離」は私立探偵の「おれ」が同僚の親友の殺害事件を追う話。「ピンボケだった写真」の
真相は面白いけど、オチが平凡。なお亀井刑事が単独で顔を出します。
8連投スマソカッタ
笹沢左保「解剖結果」(徳間文庫)★★
1963年の短編集。
「悪すぎる女」は祖母の遺産に絡む従妹2人の話。遺書のトリックに見るべきものはあるけど、
それだけ。「ある決闘」は妻が夫の愛人と対決するが・・・。凡作。
表題作は或る食べ物の消化状態に絡むアリバイ工作が一寸珍しいだけの話。「枯葉の女」はごく
短い話で救いがない笹沢ならではのお話。
「空漠の記憶」は目撃者の記憶の曖昧さを衝いた話だがやはり出来が悪い。「悪女の海」も最後
に意外な人物が浮かび上がるけど、どうも面白くない。
以上全6編、どれも大した出来ではない。残念。笹沢左保にだって駄作はあるなあ・・・。
石沢英太郎「殺意の断面図」(トクマノベルス)★
1984年の長編。
文学の登竜門「A大賞」を受賞したアメリカ在住の作家・白川一虹。故郷の福岡に暫く滞在する
こととなり、雑誌社の編集部に勤める石塚は編集長の坪内から密着取材を命じられる。マンショ
ンの隣室を借り、白川の取材に随行するのだが、行く先々で不穏な出来事が相次ぐ。自動車事故
にバイクの襲撃、更には水中銃での狙撃・・・。白川は何の秘密を隠しているのか、更に編集長も何
かを隠しているらしい。そして遂に殺人事件が発生する・・・。
前半は非常に面白そうでした。白川のキャラもユニークだし、次々と起こる事件がどう収束する
のか、後半に期待を持たせる展開だったのですが・・・。何だ、そんな真相かよ、とガッカリの終盤。
一番しょーもないところに落ち着いてしまい、これまた時間のムダとしか思えない作品でした。
伏線も無しに、あんな人物を出してくるところに、この作家のセンスの悪さが露呈している。
「つるばあ」や「視線」、「羊歯行」などの傑作短編群に比べると雲泥の差。長編は「カーラリー殺人
事件」以外はロクなものがないなあ・・・。
687 :
名無しのオプ:2009/02/28(土) 18:10:30 ID:yR0BRDmx
小杉は一作しか読んでないから期待
688 :
名無しのオプ:2009/02/28(土) 19:31:06 ID:3ZMrt6XO
石沢さんってホモだったんでしょ。
自殺の動機はやはりホモがらみで最愛の男と別れたのがげいいんなんでしょうか?
689 :
名無しのオプ:2009/02/28(土) 21:38:15 ID:ltTcW42H
石沢さんにはまさしくソレを題材にした「少数派」という本があったような。
690 :
名無しのオプ:2009/02/28(土) 23:02:43 ID:ekADIQKt
ミステリ板で「流星航路」を見るとは思わなかった。
691 :
630:2009/03/01(日) 20:22:37 ID:jaEYpcmF
前スレで★★★★だった、中町信「女性編集者殺人事件」(ケイブンシャ文庫)を読了しました。
(
>>27参照)
ダイイングメッセージは簡単に解けちゃうし、犯人の意外性もあんまりないし、
そんなに凝ったトリックはないしで、私としては★★程度の評価です。
前スレなどをよんでも、中町作品としては評価はあまり高くないようですね。
あと、この小説は、地の文の書き方が駄目だと思います。
あと、3氏が書かれていた、
>本作のストライキのDQNぶりが大変に不愉快。
これには同意します。
第一の被害者は殺されて当然ですね。
692 :
630:2009/03/06(金) 20:35:27 ID:5H2240Q9
斎藤栄の「殺人の棋譜」を読了しました。
第12回江戸川乱歩賞(昭和41年)の受賞作ですし、
誘拐ミステリーの傑作と聞いていたもので期待していたのですが、裏切られました。
これはアンフェアではないでしょうか。
確かに犯人の意外性はありますが、重要そうなところを再度読み直してみても、
犯人は殺人事件の被害者の具体的な居場所を知っていたとは思えません。
警察が捜査に向かうよりも早く殺人を犯すのはどう考えても無理です。
殺害するにいたった、動機もかなり疑問があります。
(○○がからんでいるのなら、もっと早く警察が分かっているはずです。)
あと、この作品は後味がよくないです。
事件は解決しても、問題は幾つも残されたままですから。
乱歩賞らしい作品ではありますが、私の評価は★★ですね。
前半を読む限りは、なかなか良さそうな感じなんですけど・・・。
693 :
名無しのオプ:2009/03/07(土) 11:50:44 ID:8HKPQYfm
歴史ミステリーが好きで、海渡英祐さんのを探してるんですが、
あんまりでてこないですね。
お勧めの歴史ミステリーありますか?
>>693 森鴎外のドイツ留学時代を題材にした乱歩賞受賞作「伯林−一八八八年」、軍神・広瀬武夫が
主人公の「白夜の密室」、太平洋戦争秘史の「燃えつきる日々」、福沢諭吉の活躍する「咸臨丸
風雲録」などなど、海渡の歴史ミステリは傑作、佳作が目白押しだと思いますが・・・。
「本格」としての出来栄えは、「白夜の密室」が一番かな、と個人的に思います。詳しくは前
スレ等を参照ください。
三好徹「野望の猟犬」(集英社文庫)★★★☆
1965年の長編。
政界のゴシップ紙を発行している太刀川は「槍」の異名を持つ切れ者で、易々と買収に応じる
かと思えば、容赦なく政治家を叩くなど、アンビバレントな性格の持ち主だった。国策会社・
電力資源の社長交代に伴うスキャンダルを察知し、部下の福地、田代とともに追及するうち、
北アルプスのダム建設工事の入札疑惑を突き止める。だがその矢先、太刀川は事務所で射殺さ
れる。現場近くにいた福地と田代らが駆けつけるが、ビルには人っ子一人いない、一種の密室
状況であった。上司を喪った福地は一人、事件の真相に立ち向かうのだが・・・。
ゼネコンの入札疑惑、ダム建設の便宜供与、大物政治家への献金・・・、何やら、今世間を騒が
せている事件と同じような題材で、ただの社会派かと思えますが、実は「本格」の手法も取り
入れた意欲作です。もちろん、事件の中身は社会派べったりの内容ですが、或る小道具を用い
た密室状況とアリバイ工作、水も漏らさぬ監視下にあった入札額のトリッキーな漏洩手段、ちょ
っとした言葉の錯誤、そして伏線の張り方やレッドヘリングなど、なかなかの出来栄えです。
傑作というほどではないですが、佳作と言って良いと思います。
司城志朗「誰もが一度は殺人者」(大陸ノベルス)★★★
1990年のユーモア物の長編。「フラッシュバック」では「本格読者をその気にさせるが解決には
強引なところがある」などと評されていましたが、さて。
岡科刑事は警視庁捜査一課のお荷物。重大事件の捜査から外されて、大学教授夫人の失踪事件を
押し付けられる。教授夫妻がレストランで食事中、夫人が店内の電話ボックスから、ハンドバッ
グとハイヒールを残して消えてしまったという不可解な事件だった。夫の教授がクサいのだが、
レストランからは一歩も出ないまま警察を呼んでおり、アリバイが成立する。一方で、売り出し
中の女性ニュースキャスターを脅迫していた男が、走行中の寝台列車の個室から靴とバッグを残
したまま消失するという事件も勃発。岡科刑事は二つの事件の関連を追及するのだが・・・。
なるほど、アイディア自体は非常に面白いものだと思います。しかし、その演出の仕方、という
か、伏線の張り方などに不満が残る出来栄えです。伏線が足りないから、第3の事件を起こして
結末に?げるしか手がなくなったのだろうし、そもそも、あの人物を出してくるタイミングも遅
すぎる。だから、行方不明となった人たちは実は・・・、というギョッとするようなアイディア(実は
その後で引っ繰り返りますが)が全く活きていない。第2の事件における、或る事態が引き起こ
した錯綜した謎には、感心しましたが。
「本格」の視点から離れて読む分には、ユーモアもまあまあだし、それなりに楽しめますが、やは
りアイディア倒れの凡作でしょうか。本格ミステリとしては「そして犯人(ホシ)もいなくなった」
(前スレ参照)の方がお勧めです。
中津文彦「“翔んで”もない殺人」(角川文庫)★★☆
長編「特ダネ記者殺人事件」(
>>557参照)でも活躍する、東北の県庁所在地の新聞社支局でサツ
回りをしている記者・姿を主人公とした1984年の連作集。
先ずは表題作。「翔んでる女」とかいう流行語は、この時代でしたっけ?特にコメントするほど
の内容ではない。「芸者おと若殺人事件」は市内の一等地にある名門女子高の郊外移転を巡る事件。
これまた、ヒネりが殆ど無い。
「すれ違った殺意」、この辺りから多少持ち直したかな。中国残留孤児に絡めて、ラストでひと
ヒネりした意外な真相は先ず先ずといったところ。
「山吹温泉心中事件」も、何ら不審な点のない単純な心中事件を、ちょっとした発想の転換で引っ
くり返す手際は上手いと思う。「鈍色のコーヒー」は凡作。
「鉛の告発」が一番無難な出来でしょうか。郊外の農家で起きた殺人事件。現場にあった新聞紙に
絡めたアリバイ物。このトリックは三好徹の某短編で既に使われているが、細かい点にも配慮した
良作。
「櫟荘殺人事件」も或るトリックを使っており、些細な伏線など上手いのだが、もうひとヒネり
欲しかった。
前半の作品の出来が悪かったので、どうなることかと危ぶんだが、後半持ち直して一安心。でも
全体としても凡作でしょうね。やはり、ブン屋物の連作集は、先達・三好徹「天使」シリーズが
一番かな。
4連投スマソカッタ
陳舜臣「彼草の根」(集英社文庫)★★★★(再読)
昔の講談社文庫版で既読ですが、この集英社文庫版には単行本未収録の「縄シリーズ3部作」が
収録されているので、再購入しました。
先ずは表題の名作長編。十数年ぶりの再読でしょうか。かなりの部分を忘れてしまっており、新鮮
な気分で読むことが出来ました。トリックは今となっては肝心の箇所が丸分かりですが、その他の
細かい部分でも読者にも手掛かりを与えていることに感心しました。そして何といっても、これが
デビュー作とは思えないほどの、大人の小説としての完成度、出来栄えが素晴らしい。やはり名作
でしょう。
あと「神獣の爪」収録作で、現時点で陶展文が登場した最後の作品「王直の財宝」。これも再読、まあ
ごく軽いものでコメントも特に無いですが、陶展文が出てくるだけで嬉しい。
そしてお待ちかねの「縄シリーズ三部作」。先ずは「くたびれた縄」。これはまあ凡作かな。トリック
が弱すぎる。
次いで第2作は「ひきずった縄」。これは河出書房新社のムック、横溝監修&新保編集の「日本の名探
偵」で既読。雪の密室状況の大胆なトリック。やはりこれが一番の出来。
第3作は「縄の繃帯」。写真トリック物だが、これまたトリックが簡単すぎる。
未読の2作は、陶展文が登場するのが何より嬉しかった、とだけコメントしておきますw
>>695 × 結末に?げるしか手がなくなった
○ 結末につなげるしか手がなくなった
>>697 × 「彼草の根」
○ 「枯草の根」
699 :
名無しのオプ:2009/03/08(日) 19:54:45 ID:fGYvauHf
>>696 ユーキャンの流行語年表では「翔んでる」が登場したのは1977年となっています。
ちなみに「男はつらいよ 翔んでる寅次郎」が1979年で、胡桃沢耕史の「翔んでる警視」シリーズが始まったのが1980年。
こうしてみると、1984年に「翔んでる」を使うのは流行遅れですね。
中津文彦の小説って同時代の他の作家の者に比べて古くさい感じがしてましたから、こういうのも中津文彦らしいなという気もしますが。
700 :
名無しのオプ:2009/03/08(日) 21:15:07 ID:JPyjSu33
700なら山浦弘靖と今春智子のレビューも誰かが書いてくれるに違いない
701 :
名無しのオプ:2009/03/09(月) 06:52:54 ID:8R9j0Sm+
胡桃沢こと清水正二郎さんが60年代に大量のエロ小説書いて、
それを一冊5万円100冊分の版権を500万円で売り払って世界旅行にいった
と本人は書いてますが、
こうゆう自分の著作の版権を売り買いするってのは普通にあるんでしょうか?
702 :
名無しのオプ:2009/03/09(月) 16:55:11 ID:yMuHJceD
>>699 翔んでる警視が出た当時、筒井康隆が使い捨てた富豪刑事をそのままいただいちゃったんじゃんって気がしてた。
703 :
名無しのオプ:2009/03/10(火) 13:54:39 ID:FlAbCPdV
来月、弁護側の証人が再び集英社文庫から出るようだ
704 :
名無しのオプ:2009/03/12(木) 15:55:17 ID:LkMYuCsn
どうせなら「ダイナマイト円舞曲」も復刊して欲しい
705 :
名無しのオプ:2009/03/12(木) 18:21:55 ID:GUjfQQXz
>>703 帯に書店員様(笑)の有り難いコメントがありそうだな
706 :
名無しのオプ:2009/03/12(木) 20:02:46 ID:3b1lUxFA
どうせなら血の季節(ry・・・ってあれは文春だったorz
笹沢左保「さよならの値打ちもない」(角川文庫)★★★★
1972年の長編。
社長令嬢と結婚し部長の地位に上り詰めた五味川、急病で自分の代わりにヨーロッパの視察
旅行に同行した妻がスペイン・マドリード郊外で毒殺されてしまう。妻が死の直前に寄越し
た絵葉書には「旧友に偶然再会した」と書かれていたことから、五味川はその旧友・野添美
沙子が何らかの事情を知っているのではないかと福島市を訪ねる。だが美沙子は二年も前に
自殺していた。妻がマドリードで旧友に出会ったというのは一体どういうことなのか。更に
五味川の出世を疎む社長の弟らの一派も不穏な動きをする中、五味川は福島で知り合った美
女・井石麻衣子と運命的な恋に落ちる。だが二人が一夜を過ごした晩に、麻衣子の夫が殺さ
れしまう・・・。
作者お得意のアリバイ物ですが、さすがに笹沢作品をもう数十冊は読んできたので、肝心の
トリックは事前に見破ることができました。しかしその他の細かいトリックにも配慮した作
品で、特に絵葉書の仕掛けは秀逸。そして笹沢作品でも一、二を争う悲劇的なラストシーン
が胸に突き刺さります。構図は異なりますが、J・D・カー「囁く影」のラストにも匹敵する
名シーンだと思います。
ということでやや甘い評価ですが星4つ。
山崎洋子「聖母の牙」(光文社カッパ・ノベルス)★★
1987年の長編第3作。
ワイドショー番組のディレクター兼レポーターの立原涼子は、看護婦殺害事件と病院爆破事件
の容疑者が田所奈津という女性だと知って仰天する。彼女は、かつて取材した腎臓移植手術で、
息子に腎臓を提供した母親だった。手術が失敗して息子が死亡したのを恨んでの犯行なのか。
涼子はひょんなことから知り合った大学生・三次淳とともに事件を追及するのだが・・・。
ヒロインよりも奈津の造形が実にユニークで、果たして彼女が真犯人なのか、という興味で読
ませるのですが、真相は微妙な感じ。確かに意外性やドンデン返しなどにも配慮していますが、
どうも構成が緊密でないというか、中途半端なものを読んだなあ、というのが率直な感想。
謎解きとしては一応の水準はクリアしていますが、むしろ、女性同士の風変わりな友情が読み
どころでしょうか。
本岡類「成田空港 空白の殺人ダイヤ」(立風ノベルス)★★☆
1990年の長編。
成田空港近くの農家の主人が殺された。田畑を切り売りして酒色に溺れていた被害者には、妻や
息子の家族を始めカネに絡んだヤクザのヒモなど容疑者が多数いた。千葉県警の桜田警部補らが
捜査を進めるうち、被害者の弟の疑惑が高まる。だが彼には事件当時、大阪にいたという鉄壁の
アリバイがあった・・・。
作者が社会派的傾向を強めていった作品だそうですが、時あたかもバブルの最終期ということで
「土地問題」を取り上げていますが、この程度の掘り下げ方で「社会派」といわれてもなあ・・・。
それはともかく、謎解きはアリバイ崩しに焦点が絞られるのですが、大阪、成田・・・、と来れば誰
でもアレを思い浮かべるはず。しかし、そのネタだけではアリバイが崩れないところがミソです。
まあちょっとばかり意表を衝いた小道具を絡めて意外性を出しているのですが、どうも面白くな
い。凡作でしょう。
西村京太郎「死者はまだ眠れない」(双葉文庫)(採点不能)
1983年の十津川警部物の長編。
多摩川の河川敷で発見された死体、だが発見者が警察とともに戻ってみると、死体は消失して
いた。続いて、夫婦喧嘩の末に妻を殺したと夫が自首した事件でもまた、警察が踏み込んだ現
場のアパートから死体が消えてしまっていた。更に交番の巡査が空き家で発見した死体もまた
消えてしまう・・・。連続する死体消失事件の裏には何が隠されているのか、十津川警部は、死体
の臓器売買に関する闇のルートがあるのではないかと疑い、捜査線に浮かんだ或る人物に狙い
を付けるが、その男は事故死してしまう・・・。
のっけから、十津川夫人がムチャな調査をするわ、十津川警部も違法スレスレの捜査をするわ
で、どうなることやら、と思っていたのですが、ラストに明らかになる「死体を使って何を企ん
だのか」の真相がトンデモも良いところ。今から二十五年以上も前に、アレに目をつけた点は
流石だと思うけど、この真相は現代では一寸なあ・・・。何というか、2ちゃんねるで槍玉に挙げ
られそうw
そして、結末の付け方も少々呆気にとられるもの。あのアイディアで話を締めれば後は野とな
れ・・・、という態度は如何なものか。「怪作」の一言です。