『読みました』報告・国内編Part.4

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855書斎魔神 ◆AhysOwpt/w
鮎川哲也初期コレクション1『楡の木荘の殺人』を読んだ。
初期作品集ではあるが、正月に読んだ自選集に収録された初期作品が面白かったゆえ、
手にしてみたが、残念ながら着目すべき作品は無いと言わざるを得ない。
『月魄』
記念すべきマエストロ鮎のデビュー作だが、今となっては「それだけ」の意味しかない作とも
言い得る怪談。作者の思い入れ深い満州情緒満載ながら、やはりこの手ものは似合わない。
『地虫』
これは戦後東京談。幻想ファンタジーだが、これも作者の「柄」ではないという感じ。
『楡の木荘の殺人』
満州時代の鬼貫事件簿のひとつ。
既に後に作者が好み繰り返し使用する犯行トリックが見られるものの、特筆すべき点は皆無と
言い得る。
『雪姫』
大乱歩風の怪奇ファンタジー(「人でなしの恋」を想起させる雰囲気もある)。
それなりに読ませるが、やはり大乱歩の語りの巧さには及ばず。
作者の淡々とした筆致(『マガーロフ氏の日記』はこれが効果を上げているが)は、
この手の作には不似合いか。
『ジュピター殺人事件』
3部構成の中間部分(発展篇)のみを担当。
果たして厳密な意味で鮎作品と言うてよいかどうか。
発端篇(藤雪夫)が、作者が最も忌避する顔が無い屍体テーマなのが皮肉で、
ここからストーリーを発展させるのは苦渋もあったのではと思う。
解決篇(狩久)も鮎作品では考えられないメロドラマおちとなっている。
書き手が変わることによる作風の変化、主要キャラ(特にヒロイン)の変貌が目立ち過ぎ
統一感を欠く作となっているため連作としては失敗作と言い得よう。
『影法師』
戦前の横溝御大の短編にでもありそうな小品。
だが、本作も「それだけ」という感じである。