『読みました』報告・国内編Part.4

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482書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
増田俊成「シャトゥーン ヒグマの森」を読んだ。
シャトゥーンとは、穴持たずの意、冬眠に失敗し徘徊するヒグマのことだそうである。
体高3メートル弱、体重350キロにも達し強力な破壊力とスピードも持つ
「怪獣」とでも称すべきヒグマが棲む携帯電話も圏域外の山中に孤立した
人々(プロのハンターは皆無)のサバイバルを描いた冒険小説である。
(あとがきで大森望氏は、一種のモンスター小説でもあると評している)
ブンヤ出身の作家だけあって、グロ、アクション等の即物的シーンは詳細、かつ、
的確で迫力に富んではいるのだが、
本書中にも記されている故吉村昭先生の傑作「羆嵐」と比較すると、極限状態
(特に他者の死に遭遇したシーン)に置かれた人間心理の描写が薄く、
説得力を欠くものとなっている。
「羆嵐」が現実の事件(三毛別事件)を材としたドキュメントノベルということもあるが、
小説として評価した場合、結局、人間が描けているか否かという根本問題が、
両作品の出来栄えの差となって如実に顕在化していると言わざるを得ない。
(余談ながら、フィクションで本作中で確認出来る犠牲者は7名、
三毛別事件は8名であり、この点では現実がフィクションを上回っている凄まじさ
なのである)
しかしながら、全体的に見れば予想外に楽しめたのも事実であり、
映画「エイリアン」のヒロイン、リプリーを想起させるようなタフで優しい
長身の美形ジャーナリストのヒロイン(子有り、30代後半)の大奮戦を描いた
エンタメとして気軽に読み流せば、前記したことは過重な期待ということにもなろうか。
作者の作家歴はまだ浅く、しかも、「このミス」大賞優秀賞受賞作品というエンタメに過ぎないのであるから。
483書斎魔神 ◆qGkOQLdVas :2007/08/25(土) 17:55:00 ID:xSiSc9Cf
半藤一利「日本のいちばん長い日」を読んだ。
最近もNHKBSでオンエアされていたが、今回、決定版で再読し、
あらためて国産ポリティカル・スリラーの最高峰は本作であると確信した。
昭和20年8月14日正午から翌15日正午の天皇の玉音放送オンエアに
至るまでの、いわゆる「日本のいちばん長い日」に繰り広げられた宮城占拠、
録音盤争奪を巡る陸軍内部の抗争、
そして周辺で発生する終戦反対行動(厚木基地叛乱、佐々木大尉による襲撃等)
詳細な調査による事実のみが持ち得る強烈なサスペンスは、
萌え狙いの新書ミステリに耽溺するミスオタあたりがうっかり手に取れば失禁状態に
なってしまうのではないか(w
映画版では、阿南陸相の「米内を斬れ」の言がカットされていること、
原作のエピローグにその後が描かれていながら映画では触れられていない人物がいること。
(なんと映画版で天本英世氏が演じた佐々木大尉は、14年間潜伏後、社会復帰、
存命中であった首相秘書鈴木一氏に謝罪にゆき、逆に慰められたそうである)