376 :
書斎魔神 ◆qGkOQLdVas :
新田次郎「アルプスの谷 アルプスの村」を読んだ。
山岳小説のマエストロの軽い紀行エッセイという先入観に囚われて
今までノーマークな作であったが、60年代初頭におけるヨーロッパアルプス旅行は
正に「冒険談」そのもの、現代ほどに都市化・俗化が進行していない時代でもあり、
観光地とはいえ、状況によってはそこは死と隣り合わせの世界なのであるということが
わかる。
同行者が語呂から「異端者の谷」と称したエタンソンの谷踏査シーンなどは、
山岳冒険小説のワンシーンのまんまである。
一流の小説家らしい風景描写の美麗さは読む者を魅了して離さないが、
適宜、気象に関する客観的なコメントが挿入されるのは、いかにも気象庁勤務者で
あったこの作者らしく、良きコントラストを成しているのが、かえって面白い。
また、人や風物に対する所感が驚くほどストレートに綴られており、
この作者、意外に「難しい人」なのかと思わす部分も多い。
小説に関しては、「ユーモアが無い」「女性に関する描写が弱い」等の批判がある作者
ではあるが、本作に関しては、一部例外(チューリッヒ行きの列車で乗り合わせたピザな
シシリー女等)を除いて女性(特に若い女性)に対する優しい眼差しの数々が印象に
残るものがある(例えば、作者にサインをせがむショートパンツ姿のベルギーの
ガールスカウトたちとの出会い等)、
大氷河(メールドグラース)でのエピ。
『・・真紅のキルティングコートを着た女に出会った。二人は霧の中で言葉を交わした。
「どっちへ行ったらいいでしょうか」女が心細そうに私に訊いた。
「私の後へついて来るがいい」
もう心配のないところに来ていた。ちょっとした下り斜面があり、そこで女の手を
取ってやった。その青い眼の女の手はひどくやわらかで、つめたかった』
「私の後へついて来るがいい」って、イエスか?(w
このくだりは、新田先生は笑いを狙ったところであろうか?
377 :
名無しのオプ:2007/07/14(土) 23:15:43 ID:a+WsLb/c
読後感の迷走ぶりを見るに付け、書斎さんの偉大さが浮かび上がるなぁ。