31 :
書斎魔神 ◆qGkOQLdVas :
木彬光「人形はなぜ殺される」の光文社文庫新装版を読んだ。
ベストセラーを連発した時期もあったこの作者の作品も、
光文社文庫のコレクションぐらいでしか読めない時代となってしまった。
本作は、作者の代表作のひとつであり、本格ミステリでありながらも保全経済界事件等
(近年のライブドア事件で話題となった投資事業組合の一件を想起させて面白い)の
経済事件ネタが取り入れられているのは、「白昼の死角」「人蟻」等、
社会派ミステリ的素材の作も書いた作者らしいものを感じさせるが、
清張作品が社会的な時事ネタをあくまで背景のひとつとしてあっさりと書いているのに
比較して、くどく記し過ぎているのが難ではある。
作品の肝となる謎解き部分に関しては、今読むと強引な展開が目立ち過ぎる感が強い。
(余談ながら、シマソウ作品は彼氏が敬慕する鮎作品よりも、
作風的には探偵の造型(神津と御手洗)も含めて木作品の影響の方が強いやに思う。
トリックを成立させるための強引なまでのストーリー展開は、両作家の魅力でもあり
弱点でもあると言い得る)
32 :
書斎魔神 ◆qGkOQLdVas :2007/02/03(土) 23:44:28 ID:Z5KHaM9p
特に、本作の売りである列車トリックにおける「月光」が停車しなかった場合の想定は、
あまりに大雑把過ぎるし、そもそもこれは短篇使用で光る程度のトリックかと思う。
また、怪奇探偵小説好きには、冒頭に登場する「ガラスの塔」のマジックが本筋に
絡んで来ないのは、がっかりさせられるところでもある。
客観的に見た場合、併録されている禿人のエッセイ(「彬とカー」)における本作への
絶賛は、あまりに度を過ぎたものに思える。
なお、併録された「罪なき罪人」「蛇の環」の2短篇は、木君がある程度のボリューム
がないと力が発揮出来ない長編向きの作家あることをあらためて実感させる
「逝ってよし作品」である。