『読みました』報告・国内編Part.4

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249書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
里見ク「極楽とんぼ他一篇」を読んだ。
志賀直哉、武者小路実篤、実兄の有島武郎ら他の白樺派の作家と比較すれば、
娯楽性がある大衆小説的な書き手として知られる作者であるが、
「多情仏心」と並ぶ代表作とされている表題作は、
同窓で主人公の義弟でもある安藤可阿児の発狂の謎、これに関連する安藤姉弟の母の死
(なんとその名は「安藤みき」(w )、総領息子謙一に対するテロ…
ミステリな事件が続出しながら、痛快なまでにスルーされてゆくのが面白く、
極楽とんぼと称された吉井市蔵の生涯を描き切ってしまう。
(ここが「文学」の凄味である)
密室とか怪事件とか言うて喜んでいるミスオタに、まさに突き付けて読ませたい作
であり、本作を一読したオタはミステリ如きに耽溺している自己のむなしい人生に
ついて一考するやもしれぬ。
作者は、作中に記す。(謙一テロに関して)
「迷宮入りの推理を得手とする作家もあることゆえ、そのうち週刊雑誌でお目にかかる折
もあろうか。筆者にはさらに興味がないし、事実これ以上のことは知らない。」と。
併録された「かね」は、これもまた里見氏でなければ書き得ないと言うてよい飄々とした
クライムノベル・ピカレスクロマン(?)である。
「一生の間に、何かひと仕事し残さなくては駄目だ。死ぬ前に、ああ、俺も、
あれだけのことをしたんだからと思えば、ほんとうに、にッこり笑って死ねる。
残念ながら、俺には、それがないのだ…」
父が今際の際に残したこの言葉を胸に奉公先での拐帯行為を繰り返す他吉…
小品ながら、読み応え十分なものがある。