『読みました』報告・国内編Part.4

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219書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
黒木亮「巨大投資銀行 バルジブラケット」を読んだ。
「再生巨流」に関する論考でも指摘しておいたことだが、
現代における冒険小説の「形」は本書のような専門知識に裏打ちされた
経済冒険小説とでも称すべきものしかないのではなかろうかと思う。
最早、大海原や険峻な山岳といった大自然を背景にした作品は、
オールドファッションとした感があり、また、ソ連を中心とした共産圏の解体、
戦争のハイテク化等により、従来の戦争冒険小説やスパイ小説は成立し難く
なって来ているのは良く知られたところである。
本作は、通俗的な経済小説にありがちな色事(なにしろ女性に関する詳細な描写さえ
ない)や陰謀といった創りものめいた要素は一切捨象され、本筋の80年代バブル期
から90年代平成不況の金融情勢をビビッドに描くと共に、そこに生きるディーリングに賭ける3人の男たちの日々の冒険、
これに伴う挫折と再生を描いたリーマン・ロマンとでも言えるものである。
作者がこれでもかこれでもかと書き込んで来る金融取引の専門知識は、
エンタメとして見た場合は、いささか辟易とさせられぬでもないが、
(金融業界志望の大学生にテキスト的に読まれているとも聞く)
先日逝去された城山三郎先生が本格的に開拓された経済小説の久々の本流とも
言い得る作である。
この板には、本書で書かれている金融に関する知識を十分に理解出来る者は存在
しないが、前半部分のポイントを成すアービトラージ(裁定取引)くらいは、
しっかりと理解しておきたいものである。
220書斎魔神 ◆qGkOQLdVas :2007/03/31(土) 14:37:16 ID:EVa8w31t
面白いのは、メーンキャラ3人中では、一番地味なコース(東海銀行ならぬ東都銀行から
モルガン・スタンレーならぬモルガン・スペンサー、以後もリーマンとしての金融マンの
道を歩む)桂木英一の人生に大きく頁数が割かれ、主人公となっていることである。
作家によっては、外資トレーディング部門のヘッドで資産形成しスピンオフ、
独立へとひた走る時代の風雲児的存在である竜神宗一や同じく外資系証券会社の
資本市場部ディレクターを経て独立、悠々自適の道を進む藤崎清治といった
キャラ立ちし易い人物を主に持って来たいところであろうが、
彼らはあくまで桂木との対比で描かれているに過ぎない。
このあたりは金融界での実務経験が長い作者の人間観が覗えるようでいて面白いものが
ある。