第14回?モナギコ蜘蛛の会

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881名無しのオプ
力作の後にこんなのを出すのもアレだけれども。まぁゆるーいネタをどうぞ。

「かなみさんと電車を巡る冒険」

「よし、解った」滝町 美里は眉をひそめたまま、金田一映画の警部みたいなことを言った。
「お姉さんがお小遣いをあげますから、君はそれで文庫本でも買って電車で読みなさい。
二時間もボケーッと電車に揺られてるからつまんないことが気になるんだよ。よくもまぁ
毎朝毎朝あんなド田舎から登校してくるよなアンタは」
 「お言葉ですけど、土井仲県はれっきとした関東圏内です。ちゃんとテレ東映るし」
 曽根川 加奈未は少々ムッとした様子で、美里に食ってかかる。
 「あそこが関東?ばーか言っちゃいけないよ」美里は苦笑した。「あそこが関東なら
北方領土だって関東だよ」
 「焼野原駅のそばにはマックもあるし、コンビニもあるし、ジャスコだってあるんですよ!」
 マック・コンビニ・ジャスコ。加奈未の思う、都会の三種の神器であった。
 ただ、その駅前にあるコンビニが、セブンやローソンといった全国チェーンでなく
『いそいちフレッシュマート』という、夜八時には閉まってしまう「自称」コンビニ
であることを美里は知っていたが、武士の情けで突っ込まなかった。
 「はいはい大都会大都会。…で、今回はなんなの?」
 美里が呆れ果てたように冷淡に言うと、加奈未はここぞとばかりに胸を張った。
 「実はワタクシ、列車テロを未遂に防いだのであります!」

  加奈未の話はこうだ。
彼女はいつものように自宅最寄りの焼野原駅で電車に乗った。昨日までの陽気が
嘘のように曇って肌寒い今朝、車内の暖かさが嬉しかった。
車内には四人の乗客が、ロングシートに向かい合って腰を下ろしていた。
 ファンデをぱふぱふやって、スキマ時間活用術に余念がない中年の女性。
 その隣は、高校生だろうか、難しい顔で英単語帳を見ているセーラー服の女の子。
 その向かいには、手帳になにやら書き込み、ペットボトルのお茶に口を付け、膝の上の
ノートパソコンを睨んでいるエリート風の男性と、脚を放り出し、グースカ鼾を掻いて
寝ているはげたおじさんという、まさに対照的なサラリーマンらしき二人。
お互いに距離を開けて座っているから、みんな一人客のようだ。
882名無しのオプ:2009/04/20(月) 00:39:55 ID:4TolpKA1
 加奈未は「エリート」の隣に座った。「グースカ」の隣は遠慮願いたかった。
 彼女の次に乗ってきた、小柄なジャンパー姿でロゴの入ったコンビニの袋を持った
中年男性もそれは同じだったようで、なおかつ「ぱふぱふ」の方を横目でちょっと
不快そうに見て、加奈未の隣に腰を下ろした。
 加奈未が言うには、「ジャンパー」は最初から少し挙動が怪しかったという。
 どう見てもたいした物も入っていなさそうなコンビニの袋を、抱きかかえるように
やけに大事そうに持っていたのだ。
 席についてからも、「ジャンパー」は落ち着かない様子だった。「セーラー」を
ちらりと見たと思えば、急に目を伏せ(加奈未は最初それが、「セーラー」が丈の
短いスカートを履いていたので、目のやり場に困っていたのだと思った)、それから
抱えていた袋を、どういう訳か背中に隠すように置いて本人はそれに体重を掛けない
ように浅く腰掛け、腋に挟んでいた週刊誌を読み始めた。
 が、ページをめくる手は止まっており、時折チラチラと車内を盗み見ているのは
隣に座る加奈未からも見て取れた。
 加奈未はだんだん、コンビニ袋が気になり始めた。あの中には「ジャンパー」にとって
そんなに大切で、なおかつ私たちの目に触れさせたくない物が入っているのだろうか。
 その時、加奈未の耳に「セーラー」の呟く声が聞こえた。
 「Explosion……爆発……」
 爆発?
 その時、「あっ、」と短い叫びが上がった。
 床に置いてあった「エリート」のペットボトルが倒れ、お茶が水たまりを作っていた。
「グースカ」がううん…、とうなり声を上げて立ち上がったのはちょうどその時だったから
彼は水たまりで滑り、その場で尻餅をついてしまった。「ぱふぱふ」が吹き出す。
 「すいません!」と慌てて「グースカ」を抱き起こす「エリート」。
しかし「グースカ」は首を振って、
「いや、はは。…んもう、すべってコケちまったよ」と「エリート」の肩を叩く。
意外と大人物だな。和やかな雰囲気に、「ぱふぱふ」も、
 「もう、笑っちゃって涙で化粧が落ちちゃいましたわ」
 などと笑っている。
 そんな中、「ジャンパー」は一人蒼白な表情できょろきょろ辺りを見回していた。
883名無しのオプ:2009/04/20(月) 00:40:45 ID:4TolpKA1
 「ちょっと、君なにを…」
 「ジャンパー」が眼を剥く。
 「既に発熱してるわ!!」加奈未は叫んだ。そして、列車の窓を押し上げると
「伏せて!」と叫びコンビニ袋を外に放り投げた。
 周りはまだ長閑な田園が広がっている。ここなら爆弾を捨てたとしても被害は少ないはずだ。
 加奈未の脳細胞は瞬時にそこまで計算していた。
 一仕事終え、加奈未は全員に向き直った。
 「みんな、グルだったんですね」
 「…何を言ってるんだ?」
 「エリート」が呆然とした様子で言った。
 「隠しても無駄ですよ。皆さんの計画は全てお見通しですからね」
 加奈未は「ジャンパー」と、その共犯者たちに向かって言い放った。
 「はぁ?それより君、」
 加奈未は怪訝な顔のジャンパーに「警察には通報しませんよ。これに懲りて、
こんなテロ計画など、二度と企まないことですね、留吉さん」と微笑みかけた。
 みんなポカーンとしている。演技が上手いなぁ、みんな。
 「あなた、一体…」
 「ぱふぱふ」が何が何だか、といった戸惑いの声を上げた。
 加奈未はびしっ、と格好良いポーズを決め、決め台詞を吐いた。
 「曽根川 加奈未、探偵さ!」
 電車は所沢を超え、やっと東京都に入ったところだった。

 加奈未が自分の手柄を熱く語っていく程に、美里の目にはげんなりした茫然の色が浮かぶ。
 やっと名探偵が全て話し終えたところで、美里は一言吐き捨てた。
 「君は馬鹿なのか」
 だが、加奈未はどこ吹く風で、得意げに笑ってこう言った。
 「美里先輩には分かんないでしょう?あの時電車内で何が起きていたのか」

Q、どういうことだったのでしょうか?「ジャンパー」の行動の意味は?