1957〜1987年あたりの本格ミステリ作家達

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6343:2007/09/18(火) 12:08:47 ID:ifvYF+sD
連投スマソ

三好徹「天使が消えた」(中公文庫)★★★★
1972年の「天使」シリーズ長編。
横浜の新聞社支局の記者である「私」は、病院の放火事件を取材していたが、事件は街娼の
殺人事件へと発展、しかも後輩記者の野尻が容疑者として警察に追及されていることを知る。
「私」は野尻の無実を信じて、徒手空拳で事件の渦中へと飛び込んでゆく・・・。
かつてハードボイルドや警察小説として評価されていたロス・マクドナルドやヒラリー・ウォー
が、謎解きの点から「本格」としても再評価されているようなので、その観点からブン屋もの
の「天使」シリーズを読んでみました。
トリッキーな趣向は少ないし、「私」が「犬も歩けば」式で関係者をあちこち訪ね歩き、とき
にはチンピラに殴られ、政治家のスキャンダルに絡んだりするうちに解決するだけ、にも見え
ますが、ちゃんと推理と謎解きによるフーダニットの基本は踏まえており、「私」も無闇矢鱈に
歩き回るのではなく、ちゃんとヒントを掴んで推理した上で行動しています。伏線も十分とは
言えないながら、要所は押さえており、特に野尻が絡む或る登場人物二人の秘密は、ロスマクの
某名作のトリックを連想させます。
またデクスの横山や伏見警部など脇役陣も魅力的で、ストーリーの雰囲気も含めて、横山秀夫に
影響を与えているようにも思えます。
まあ悪く言えばロスマクのパクリとも言えますが、「本格」としても十分楽しめる佳作でした。

佐野洋「不幸な週末」(角川文庫)★☆
1962年の長編。
豊原悦子はかつての不倫相手に久々に呼び出されるが、すっぽかされ、待ち合わせ場所で声を
かけてきた淀川という男と酒を飲みに行く。一方、私立探偵の樋田は姓名不詳の男の依頼で、
悦子と淀川を尾行し、二人の写真を撮る。やがて淀川が殺され、悦子に容疑がかかる。だが悦子
の知っている淀川と殺された淀川は、似ても似つかない別人だった。しかし樋田の写真には悦子
と被害者が写っているのだが・・・。
これは駄作。悦子のストーリーと樋田のストーリーの間に、物凄いトリッキーな趣向が隠されて
いるのだろうと思ったら、何のことはない、非常に陳腐な真相でガッカリ。こんな偶然に頼った
トリックを使っているようではダメ。
635名無しのオプ:2007/09/19(水) 22:28:41 ID:i39Qpub3
森村誠一の★4つ以上の作品をずらずらっと並べてみてください
636名無しのオプ:2007/09/19(水) 22:44:07 ID:OVVziMR1
今のところ、森村の★4つ以上は出ていない
紹介されたのは「死の軌跡」(★★☆)だけだし
637名無しのオプ:2007/09/19(水) 22:59:51 ID:CBOg53o8
わざとマイナーな作品選んでレビューしてるからでしょ
638名無しのオプ:2007/09/19(水) 23:46:40 ID:fPvcSXeK
森村誠一の大傑作って何?
639名無しのオプ:2007/09/20(木) 03:25:36 ID:GKo7gti7
大傑作ではないかもしれないが、捜査線上のアリアはいいよ
6403:2007/09/21(金) 12:11:14 ID:yCU8x5ND
森村誠一は専用スレもあるし、高木彬光や都筑道夫、土屋隆夫と同様、紹介せずとも名作、
佳作は知れ渡っていると思ってました。紹介するなら次のとおり。

「高層の死角」(講談社文庫)★★★★☆
1969年刊。ホテルの密室トリックは正直、良さが分からないが、難攻不落のアリバイは、
一つのトリックが解明されても、更にアリバイが出現して、三重、四重の壁を崩して行く
過程が非常に面白い。東京と福岡を跨る設定で「点と線」を連想したが、トリックそのもの
は「高層の死角」の方が上だと思う。
「虚構の空路」(講談社文庫)★★★★
国際線搭乗手続、出入国管理の網の目を潜った緻密なアリバイ工作が圧巻。でも現代
では古めかしさが目立つ。なお最後のヒネり方は上手い。
「新幹線殺人事件」(角川文庫)★★☆
当時のハイテクも三十年も経てば陳腐の一言。結末の破局もヒステリック過ぎる。
「密閉山脈」(角川文庫)★★★
山岳を舞台にした一種の「密室」トリックだが、これも良さが分からない。長井彬の山岳物
の方が本格ミステリとしては上。但し小説としては面白い。
「超高層ホテル殺人事件」(ハルキ文庫)★☆
何もかもが強引、ドンデン返しも効果が上がらず。
「日本アルプス殺人事件」(中公文庫)★★
写真ネタのアリバイ物だが、複雑すぎる。ラストのヒロインの絶望感も、戦前の悲恋小説
みたい。
「東京空港殺人事件」(文春文庫)★★
これは珍しく、全ての真相を見破ってしまった。簡単すぎる。
「殺意の接点」(講談社文庫)★★☆
短編集。山岳物の本格「虚偽の雪渓」「裂けた風雪」を収録しているが今ひとつ。巻末の
「高燥の墳墓」がベスト。「死体の隠し場所」がスゴい。
641名無しのオプ:2007/09/21(金) 13:24:55 ID:PCCEcEZD
作家自体はメジャーでも知られざる傑作みたいなものはあるかも
知れないじゃん? 高木とかでも「刺青」や「人形」は有名だけど
642名無しのオプ:2007/09/21(金) 13:35:32 ID:olga2VG2
個人的には有名作家の知られざる傑作よりも
今のように地雷作家・無視されている作家の知られざる傑作を紹介してくれた方が有り難い
643名無しのオプ:2007/09/21(金) 14:01:58 ID:PCCEcEZD
別にどっちかに絞れとは言ってないよw
644名無しのオプ:2007/09/21(金) 16:23:09 ID:ccYVngHp
このスレを最初から読んでいて知ったんだけど、Wikiに纏めた人がいたんだな
645名無しのオプ:2007/09/24(月) 09:12:52 ID:s6uYZfB9
キャサリン・エアード3冊を一気読み!なんで3冊しか出ていないのか不思議。
他のも出してくれ>ハヤカワ文庫
6463:2007/09/26(水) 12:01:29 ID:iJF7snpX
辻真先「ブルートレイン北へ還る」(徳間文庫)★★★☆
1980年の瓜生慎・真由子ものの長編で、前作「死体が私を追いかける」の続編。
取材旅行で大阪から寝台特急「日本海」に乗り込んだ瓜生は、発車早々に死体騒ぎに巻き込ま
れるが、死体は何故か消失、その後も怪しい出来事が続発する。一方、東京から寝台「あけぼの」
に乗り込んで、秋田で瓜生と合流しようとした真由子は、家出少年やダイナマイトを持つ青年、
曰くありげな老夫婦との珍道中で、こちらも前途多難。秋田で二人は再会し、二つの列車に乗る
胡散臭い連中も合流して、一行は一路、北海道の果て、根室へと向かう・・・。
これも前作同様、単なるドンチャン騒ぎと思われた描写に重要な伏線を仕込ませるなど、なかなか
の出来栄えです。特にある人物が着込んでいたコートの一件は渋く決まっており、「日本海」と
「あけぼの」を跨ぐ或る仕掛けも面白い。トリックはごく基本的なものばかりですが、ユーモア
調にして「全ては冗談なんじゃないか」と思わせたのが良い方向に働いたと思います。ドタバタな
がらも「本格」の芯は一本通した佳作。

阿井渉介「卑弥呼殺人事件」(講談社ノベルス)★★☆
1983年のノンシリーズ長編。例の「列車」シリーズよりも前の作品。
「ぼく」ことテレビ局のAD水沢は、敏腕プロデューサーの赤城、ディレクターの原らと「邪馬台
国発見」なる番組を制作していたが、邪馬台国の候補地の一つである静岡・焼津の山中をアマチュ
ア学者が発掘中に人骨を発見する。卑弥呼の骨かと騒がれたが、その骨はたかだか二十年前の
ものだった。だが状況に不審な点があり警察が乗り出す。やがて水沢は、事件が自分のテレビ局
の過去に繋がっていることを知る。不審な行動をとる赤城たち。やがて番組出演予定の女優が殺
され、水沢の恋人もまた殺される・・・。
アゲハチョウを絡めた主人公と恋人のエピソードなど、どこか暗い、作者独特の抒情などもあり、
トリックもテレビらしい仕掛けだし、伏線もあり、そこまでは良いのですが、真犯人の隠し方が
ミエミエだし、いかにもテレビ業界の人、といったステレオタイプの登場人物たちには閉口しま
した。
6473:2007/09/26(水) 12:08:31 ID:iJF7snpX
連投スマソ

典厩五郎「シオンの娘に告げよ」(集英社文庫)★★★☆
1988年の長編。
昭和25年の米軍占領下の東京。映画会社に勤務する木暮は、会社の危機を救うため、「M資金」
による融資話に飛びつく。しかも相手は、満州で自殺したと思われていた、あの甘粕正彦だった。
さらに一緒に渡されたダイヤモンドは、ロシア・ロマノフ王朝にまつわる伝説のダイヤ・オルロフ
と鑑定されるが、ダイヤはいつの間にか偽物とスリ替えられ、木暮は警察に追われる羽目に。
終戦直後に北陸・小松で起きたドイツ空軍機の不時着事故の謎も絡んでくる中、木暮は都内に潜伏
して事件の謎を追うが、背後にGHQの謀略と派閥争いがあることを知る・・・。
これは娯楽に徹しきったスパイ物、というか歴史ミステリの佳作。ちょっと類型的だけど、個性溢
れる脇役陣、特に関西弁を操るヘンなGHQ将校のトミー・ジョーダンの造形が面白い。
かなり意外な結末を迎えた後に、エピローグで更なるドンデン返しを仕掛けているのがスゴいので
すが、いかんせん伏線が不足気味。歴史上、周知の事実だから省略したのかも知れないけど、作品
中でもそれとなく事前に匂わせておく方が良いと思う。あと主人公の木暮も、事件の渦中に巻き
込まれてゆくだけで、自分で事件を推理する場面が少ないのも残念。昭和20年代の雰囲気は、まあ
こんなもんでしょうか。決して「本格」とは言いがたいが、結末の意外性に溢れた佳作。

矢島誠「『六大都市』Kの殺人」(エイコーノベルス)★★☆
1988年の作者の長編第2作。
東京、大阪、札幌、名古屋、神戸の各都市の北区で発見されたバラバラ死体と脅迫状。そして頭部
は、京都駅に着いた急行「きたぐに」の車内から発見される。北区に拘った犯人の狙いは何なのか。
京都府警の上原刑事は、被害者の姉・真美子ともに事件の追うのだが・・・。
一言で言えば、劣化版の深谷忠記。アリバイ工作やら脅迫状の謎などトリックをちりばめてはいる
けど、オリジナリティがないし、そもそも死体をバラバラにして各地に送った理由が弱い。一応説明
されているが、非常に苦しい言い訳でしかない。最後に明らかになる意外な真犯人も想定内。
6483:2007/09/26(水) 12:13:00 ID:iJF7snpX
山村美紗「目撃者ご一報下さい」(集英社文庫)★★☆
1967年のデビュー作となる表題作の他、1973〜1982年までの作品を収めた短編集。
「偽装の回路」は、もう電話トリックは好い加減にしろ、と言いたいです。「その日、あなたは
死亡し・・・」のアリバイトリックは大したものではないが、占い師の予言がハズれた理由が面白い。
今の作家なら、コレをメイントリックにしたヒネった好短編を書きそう。「虹への疾走」「人気
作家の秘密」ともに×。駄作。「京都・映画村殺人事件」は2時間ドラマ用に書いたものだが、割り
切って読めば面白い。派手に徹したのが却って良い方向に収まった佳作。
「人形寺殺人事件」「尼僧殺人事件」ともに×。これまた手抜きの駄作。「椅子とりゲーム」「青い
札束」とも狙いは分かるけど佳作とは言い難い。「死ぬ前に電話を!」はまあまあの出来。巻末の
表題作はデビュー作らしく初々しくも文章が生硬だが、アイディアとしては面白いと思う。
全体に傑作短編集とは言い難く、佳作と凡作、駄作の差が激しすぎる。

鷹羽十九哉「津軽逆転の3重殺」(講談社ノベルス)☆
1987年の長編。
フリーのルポライター梓弓甲矢は、自らの出生の秘密を探るため、故郷の津軽を旅するうち、十三
湖畔の旧家・蘭麝家の美人姉妹と知り合う。蘭麝家は、「東日流外三郡誌」に出てくる長脛彦、安東
氏の末裔で、代々超能力を操るという。やがて梓弓は、長姉の夫や愛人を巡る殺人事件に巻き込まれ
てゆく・・・。
「書きおろしアクション&トリック」とあり、タイトルからも深谷忠記ふうの「本格」かなと期待し
ましたが、全く騙された。単なる「ヒヒ爺のロリコン妄想爆発エロ小説」です。
若者やジャーナリズムなどの描き方は梶龍雄並み、伝奇的な雰囲気を出そうとする変な詠嘆調の文章
がそれに輪をかけたヒドさで、エロ描写の時だけ作者がノリノリという、久々に焼き捨てたくなるほど
酷い作品でした。
因みにトリックは、京都で起きた殺人事件に一つキテレツなのが出てきますが、京都の或る地域でなく
ては成立不可能なトリックで、まあ、それはそれで面白いか。ともかく、これは草野唯雄「アイウエオ
殺人事件」をはるかに凌ぎ、藤村正太「魔女殺人」に迫る最低最悪の似非ミステリ。
649名無しのオプ:2007/09/28(金) 00:34:34 ID:a+HBu0yw
「本格ミステリフラッシュバック」11月に単行本出るみたいですね。
楽しみ♪
650名無しのオプ:2007/09/28(金) 00:38:54 ID:wKTA0FUW
藤村正太「魔女殺人」が気になる
651名無しのオプ:2007/09/28(金) 00:50:52 ID:SVj28L2R
>>649
創元社だから油断してはいかんぞw

>>650
俺も気になる
スーパー源氏を検索してみたら1500円で売ってたけど、怖くて買えないわ
100円だったら買ってもいいんだけど
6523:2007/10/01(月) 12:08:59 ID:jpsWfOuD
嵯峨島昭「愛と死の幕営」(廣済堂ブルーブックス)★★★☆
1981年の酒島警視ものの短編集。グルメから猛獣狩り、登山にヨットと作者のスノッブぶりが
堪能できる一冊。
巻頭の表題作は、寒村の宿が舞台。脱サラして山宿を経営する若夫婦、山中でクマに襲われて
死んだ男は彼らの旧友だった。たまたま登山で現場を訪れた酒島警視はクマの仕業ではないと
疑う。これは結末まで全てミエミエですが、酒島がクマの仕業ではないと見破る或る伏線だけ
は上手い。「蛍の森」はインド。猛獣狩りツアーのアマチュアカメラマン一行と現地商社員を
巡る殺人。密輸のトリックが面白い。
「星の女」は佳作。北海道を放浪する学生が外国人サーカス団に合流するが、ナイフ投げの男が
焼死する。トリックはともかく真相が意表を突いているが、独特の侘しい雰囲気と叙情が、つげ
義春にも通じる雰囲気を持っている。
「満漢全席殺人事件」の舞台は香港。中華料理の究極・満漢全席を味わおうというツアー客がホテ
ルで殺され、被害者と部屋を代わった医師が狙われる。血液型に関する思い切ったトリックが出て
くるけど、これは本当かなあ?
「殺意の太陽」は湘南。金持ちのドラ息子に家来のように使える父子。そこに現れた謎の美少女。
やがてドラ息子が殺されるのだが・・・。これもユニークなトリックが使われているが、映画
「狂った果実」や「八月の濡れた砂」を連想させる独特のアンニュイでニヒルな雰囲気が上手い。

栗本薫「黒船屋の女」(文春文庫)★★★☆
1982年のノンシリーズ長編。
深夜に散歩中だったイラストレーターの寺島は強盗事件に遭遇する。大正時代を思わせる古びた
洋館の現場では、主人の千藤が殺されていたが、後妻の紫乃は無事だった。竹久夢二の美人画から
抜け出してきたような妖艶で果敢ない美女・紫乃に心を奪われた寺島は、紫乃の最初の夫で戦争中
に夭折した天才画家・鷹取を巡る事件へと巻き込まれてゆく・・・。
或るトリックの扱いが上手い。鷹取と紫乃の或る秘密に関しても伏線は色々あり、大正浪漫あふれ、
乱歩や谷崎への言及もあるなど、サービス満点の作品。結末の付け方もなかなか上手い。腐った花
を思わせる「耽美」一辺倒の作品、と思わせて、実は伏線を張り、「本格」の構成にも気を配って
いる佳作。
6533:2007/10/01(月) 12:15:38 ID:jpsWfOuD
連投スマソ

笹沢左保「海の晩鐘」(角川文庫)★★☆
1978年発表の「絶望岬」改題の長編。
西ドイツにバイオリン留学中の八千代は、母・貴子が幼馴染の森田と心中したことを知り急遽
帰国。だが地元警察の山ノ内刑事は他殺ではないかと疑い、単独で捜査を継続していた。八千代
は母親の死後、その妹の秋子と再婚しようとする父・夕紀夫に反発、山ノ内と行動をともにする
うち、犯人は父親ではないかと疑い始める。だが彼には鉄壁のアリバイがあった・・・。
アリバイトリックは大したものではない。既にバレバレなのに延々と話を引っ張るのはウンザリ。
しかし心中を偽装した遺書のトリックは秀逸。どう読んでも心中を決意した遺書でしかなかった
のが、ほんの些細な指摘でガラッと意味が変わってしまう部分は圧巻。でもコレ以外に褒めるべき
箇所が少ないのが残念です。やはり凡作でしょう。

藤村正太「魔女殺人」(立風書房、品切)
1975年の短編集。「異色推理」なる副題が付いていますが・・・。
先ず表題作は、ゼネコンの営業マンが公団住宅の入札情報を探ろうと、恋人を使ってSM趣味の
相手方を篭絡する・・・、という話。SMのテクニックの数々が、まあ何と言うか(以下略)。
「仮面の貞操」は死んだ恋人と瓜二つの女性に会った男の陥ったワナ。またS(以下略)。
「夜の罠」もマゾヒスト男の話ですが、一応、アリバイ工作が出てきて、ようやく安心しましたw
しかし続く「偽りの脂粉」で、またもフェティシズムと女装趣味に惑溺。
「夜の受刑者」は一応の水準作。婚約者の女性の秘密を探るうち、旧陸軍の化学兵器開発に至る
話で、やや強引ながらも、ラストのオチが強烈なホラーの異色作。
ラスト「美貌の母」も、もうどうしようもない話だが、毒殺トリックを導入しており、一応読ませ
ます。
以上6編、幾瀬勝彬もブッ飛ぶ、トンデモC級ミステリ。特に作者のマゾヒズム、フェティシズム
に対する興味は只事ではありません。こういう作家だったのか?
なお巻末の既刊目録にあった「実用推理−女房を殺す法」も読みたくなったw
・・・が、あれから5年、まだ見つからない・・・。
6543:2007/10/09(火) 12:19:45 ID:yiNEASEa
また今週も連投でスマソ

小杉健治「原島弁護士の愛と悲しみ」(文春文庫)★★★★☆
デビュー作の表題作を含む1986年の最初の短編集。長らく探していて、やっと読めました。
とにかく巻頭の表題作と巻末の「牧島博士、最後の鑑定書」の2作が圧巻。前者は、度重なる
前科を持つ凶悪な男に妻子を殺された男が、再審無罪となった被告を殺す話。だが被告を弁護
し、無罪を勝ち取った弁護士の原島もまた、彼に妻子を殺された過去があった。何故そんな男
を弁護し、無罪を勝ち取ったのか・・・。カンが良ければ真相は読めてしまいますが、これは傑作。
意外性という点では今ひとつだが、或る意味、裁判制度そのものを揺るがす問題作でしょう。
後者も問題作。精神病に罹った過去を持つ男が団地で大暴れ、或る男に重傷を負わせるのだが・・・。
これも「心神喪失者は無罪」の法律の裏を突いた傑作。チラッと描写された或る件との繋がり
が見事で、そのトリックだったのか、と驚いた。
その他、父親の後をついで刑事になった男が、幼馴染みを強盗殺人の容疑者として取り調べる
うち、過去の迷宮入り事件と父親の辞職の真相に行き当たる「赤い記憶」、「冬の死」は、自殺
した妹の後を追って自殺した兄、更には妹の恋人だった男の上司が転落死するが実は、という話。
「愛の軌跡」は、恋人のエリート坊ちゃんのために身代わりで轢き逃げ事件の犯人となった女性の話。
これも読者に例のパターンと思わせて、引っくり返す真相が見事。
「本格」としての評価はまた別でしょうが、ともかく傑作、佳作ぞろいの一冊。

西村京太郎「悪女の舞踏会」(角川文庫)★★
1963〜65年の駆け出し時代に大衆誌に掲載された通俗作品を収めた短編集。
本格物は、典型的な毒殺トリックだが、関係者全員が容疑者と判明した瞬間に真犯人が一人に
特定されるという点が一寸だけ面白い表題作と、宝石の隠し場所トリックで、読者のスケベ根性
を誘導しておいて背負い投げを食らわせる「女とダイヤモンド」の2作のみ。
他の「女に気をつけろ」「拾った女」「女と逃げろ」は三流アクション小説の典型。「女が消えた」
は、ヒネり方によってはホラー物の佳作となり得るのに、真相の出し方や結末の付け方がアッケ
無さ過ぎる。
6553:2007/10/09(火) 12:23:59 ID:yiNEASEa
福田洋「空白の交換殺人」(光風社ノベルス)(採点不能)
1991年の長編。この人の作品って、犯罪実録風のものとか、春陽文庫でお馴染みのアクション・
猥雑系しかないのかなと思って触手が動かず未読でしたが、本書は「本格推理」とあり、内容も
ソレらしいので読んでみましたが、さて。
フリーのルポライター朝岡は、幼い頃に川で溺れたのを助けて身代わりで死んだ男の妻が通り魔
殺人の被害者となっていたことを知り、命の恩人に報いるため、事件の調査に乗り出す。そして
別の轢き逃げ事件を起こし自首した或る人物をマークしていたのだが、その男は出所後に放火で
殺される。朝岡はやがて、通り魔事件と轢き逃げ事件は「交換殺人」だったのではないかと思い
至るのだが、しかしどちらの事件にも全く接点は見出せなかった・・・。
これは中盤で明言されているのでネタバレになりませんが、ネタは「交換殺人」です。しかし、
互いの事件の被害者や容疑者たちの間に、いくら調べても繋がりを見出せない、というところが
ミソ。そして真相は・・・。そりゃ「繋がり」は分からないはずだよ。恐れ入りました、というか、
空恐ろしくなったw
「交換殺人」の真相としては或る意味で前代未聞。笑って許せるか、フザケるな、と怒るかの
どっちかでしょう。

皆川博子「北の椿は死を歌う」(光文社カッパノベルス)★★☆
1988年の長編。
画廊を経営する村上は、ふとしたことで知り合った斎原茜と結婚式を挙げるが、当日、茜は花嫁
衣裳のまま式場から不可解な消失を遂げてしまい、郷里から来ていた茜の父母も直後に消えてし
まう。村上はかつての恋人・明子とともに茜の実家があるという山形県・温海を訪ねるが、そこで
出会った斎原茜は全くの別人だった。村上の恋人だった茜の正体は、そして別人の名を騙っていた
理由は・・・。
序盤から中盤までは快調ですが、画家志望の素人探偵・永井の登場が全体の雰囲気を壊してしまい
ます。伝奇的な方向に向かうかと思えば、突如コメディ調になったり一定しません。結末の真相で
は、色々なトリックが仕込まれていたことを知って感心しましたが、ちょっと説明がバタバタし過ぎ。
200ページ程度では短すぎて、もう一寸終盤を膨らませた方が良かったと思います。
656名無しのオプ:2007/10/23(火) 20:20:12 ID:pSB61tek
お邪魔します。

各作家のナンバー1を決めよう!スレにて、企業経済ミステリの第一人者
「清水一行」作品投票中。

締切りは、平成19年10月26日(金)、〜12:00まで。1人1票でよろしくご参加を。

http://love6.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1191850300/

投票したい作品を<<作品名>>のように、
<< >>で括って投票するのがローカル・ルールになってます。
6573:2007/10/28(日) 15:52:01 ID:m16WUMvs
高柳芳夫「闇からの呼び声」(双葉文庫)★★★☆
1985年の珍しいゴシック風の長編。
弘前郊外に屋敷を構える津軽の旧家・多香城家。元外交官の男が、二人の娘と隠棲していたが、
末娘の由里は或る日、自分の日記帳に書いた覚えのない未来の出来事が書かれているのに気付く。
そこには来年の3月、自分が姉の麻里を殺すことが詳細に記されていた。多香城家には、予言を
した伯母や、精神病で自殺した長姉の絵里がおり、由里は自分にも呪われた血が流れているので
はないか、いや、既に自分は狂っているのではないかと怯える。やがて日記に書かれた予言どお
りの出来事が次々と起こり、運命の3月を迎える。由里は父親とともに屋敷から脱出しようとする
のだが、大雪に閉じ込められ、遂に惨劇が起こる・・・。
津軽の陰鬱な風土、古びた洋館、雪の密室の惨劇・・・、完全なゴシックロマンとして結末が付くの
かと思いきや、終盤で由里が学ぶ大学の助教授が登場、奇怪な出来事の数々を論理的に解明し、
真犯人を指摘、「本格ミステリ」として見事に秩序だった解決かと思ったら、エピローグ手前で或る
人物が登場して全てが崩壊、そして・・・。この作者には珍しい作風の異色作。
6583:2007/10/28(日) 15:59:53 ID:m16WUMvs
阿井渉介「銀河列車の悲しみ」(講談社ノベルス)(採点不能)
1992年の「列車」シリーズ第8作。
冬のある日、北海道のローカル線で列車が消失。後に発見された乗客たちは、列車は太陽系の
惑星やら恐竜のいる原始時代に飛んでいったのだと証言する。そして肝心の列車は、現場から
百キロも離れた旭川郊外の原野で焼け焦げた死体とともに発見される。しかも列車は大木に寄り
かかって、今にも空に飛んでゆきそうな状態、雪の降り積もった原野には延々二十キロにもわた
って列車が走った車輪の後が残っていた・・・。
カネに糸目を付けないハイテクで人海戦術なら、そりゃこんなことも出来るでしょうが、だから
何だと言うのか。「奇怪な謎が論理的に解かれる」という本格ミステリの前提を、ヘンな方向で
突き詰めてゆくとこうなる、という悪しき典型。何とも言えない脱力の真相。

阿井渉介「黒い列車の悲劇」(講談社文庫)★☆
1993年の「列車」シリーズ第10弾にして最終作。
岩手県を走る三陸鉄道の列車が、トンネルに入ったまま消失するという怪事件が発生。更に、現場
近くの沖合で、海の上を列車が走っていたという怪情報も。やがて列車は消失地点に戻っていると
ころを発見されるが、乗客は何者かに誘拐され、犯人は警視庁の牛深警部補を身代金の持参人に指名
してくる・・・。
今度はトンネルからの列車消失に、海を走る列車ですかw
松島刑事は電話での会話のみで、牛深とのまるで噛み合わないボケとツッコミのやり取りが無いのが
寂しいw
列車消失の真相は、これが最強の脱力もの(今に始まったことではないが)。いくら岩手県の過疎地帯
でも、全く第三者に気付かれないのはおかしい。消失させる必然性も全くない。今までは苦しい言い訳
ぐらいはあったのに、それすらない。第10作目で、作者もシリーズ最終作ということを意識していたと
思うが、中途半端な終わり方で残念。或いは作者自身が飽きてしまったのだろうか?
6593:2007/10/28(日) 16:02:34 ID:m16WUMvs
三好徹「風葬戦線」(中公文庫)★★★☆
1967年の「風の四部作」シリーズ第4作。
アメリカ人と結婚して日本からハワイに移住したが、ベトナム戦争で行方不明となった夫を
探すため、従兄弟で医師の卓也とともにサイゴンに乗り込んだ妻の「私」。米軍司令部や前線
基地を訪ねたり、更にはベトコンが潜伏する村にまで乗り込んで、夫の生存に関する情報を
集めるうち、ついにベトコン側が接触してきた。果たして夫は生きているのか・・・。
うーん、幾らなんでも米兵の護衛もなく、女だてらにベトナムの村に足を運ぶのは無理じゃない
か、とも思うのですが、まあ、そこはそれw
「本格」の観点から読むと、読者を或る方向に誘導するテクニックが上手い。どうしたって××××
にばかり目が行くものなあ。そして何故か活躍の場が無かった或る人物と、チラッと紹介されて
いる或る事件の扱いが、終盤で突然クローズアップされ、真相に絡んでくる点も見事。良く考えれ
ばヒントははっきりと書かれていたのに、事件の真相がアレだったとは気付かなかった・・・。
死屍累々の末に迎える結末の付け方も申し分なし。
むろん本作は謀略スパイ小説であり、「謎解き」を主眼とするものではないですが、「ミスディレク
ションによる真相の隠し方」という点では、十分「本格」風ではあります。
6603:2007/10/28(日) 16:11:58 ID:m16WUMvs
4連投スマソ
たまには巨匠の作品でも。

高木彬光「最後の自白」(角川文庫)★★★☆
「グズ茂」こと近松検事が神戸を舞台に活躍する短編集。
「パイプの首」は神戸の山中で起きた外国商社員殺し。第一の事件のアリバイ工作は大した
ものではないが、第二の事件の密室状況と現場に残されたパイプの謎が面白い。
「影の男」はワンマン社長の死去と、その臨終の直前に密室状態の書斎で殺された長男の謎。
手垢の付いた密室トリックでヒネりがなく、面白くない。
「愛と死のたわむれ」は、心理的にヒネッたトリックが出てきますが、それより真犯人の最後
のセリフが非常に印象に残った。
「かまきりの情熱」は倒叙形式で完全犯罪を目指す女の話。本文でも指摘されていますが、或る
偶然がなければ完全犯罪は達成できており、しかもかなりご都合主義。犯人に同情しましたw
「消えた死体」は実もフタもないタイトルですが、アパートの窓越しに殺人の瞬間を見た男が見張
りを残して警官を呼んでくると、現場は何事もなく犯罪の痕跡すら無かった、だが数時間後、その
部屋に本当に死体が現れて・・・、という話。まずまずの出来。
巻末の表題作は、関係者がみな、自分が犯人だと名乗り出てくる話。C・ブランドみたいですね。
真犯人のアリバイ工作は周到ですが、ここまで裏の裏をかかなくても、とは思います。
全体的に、やはり「本格」としてのトリックなどのレベルが安定していて、安心して読めますね。
どれもこれも同じようなストーリー展開にはウンザリですが、それでも「愛と死のたわむれ」の
真犯人の鬼気迫るキャラクターなどに人物の描き方の工夫は見えます。
661名無しのオプ:2007/10/28(日) 22:01:06 ID:xvKf4ul0
毎回乙。
662名無しのオプ:2007/10/28(日) 22:41:17 ID:Bh5QouDF
なんでそんなに読めるんだろ
663名無しのオプ:2007/10/29(月) 00:39:21 ID:6HOUxTRZ
>>658
牛深シリーズは島田御大流の奇想を目標に書かれていたシリーズだけど、
どこをどう勘違いしたらああなるんだろ(笑)
元々は脚本家だったから、インパクトがある「列車消失」や「集団誘拐」を
やるようになったんじゃないかと俺は邪推してる
(初期でやっていた見立ての方が俺は好きなんだが)
だから、必然性がないうえに苦しい言い訳をすることになるんだけど、
残念なことに殆ど失敗しているってのが……ね(笑)
まぁ、良くも悪くも“奇想ミステリを誤解した作家”ですよ、阿井は

「黒い列車〜」は牛深自身の事件でもありますし、幕引きとしてはまずまずではないかと
『IN★POCKET』に発表の「名探偵の自筆調書(阿井渉介編)」は牛深の人物像を理解する
うえで重要な掌編だけど、埋もれたままなのが残念
(『列車消失』復刊時に付録として収録すればよかったのに)

ってことで、牛深シリーズ後に書かれた「警視庁捜査一課事件簿」(6冊で打ち切り)も是非
664名無しのオプ:2007/10/29(月) 22:13:24 ID:Dk0Emfee
脚本家出身繋がりで辻・生田・山浦・金春等の知られざる名作をよろ
665名無しのオプ:2007/10/31(水) 01:34:39 ID:4dMvarFm
>>664
お前が書けよ
666名無しのオプ:2007/10/31(水) 11:01:23 ID:rv6XQDOF
知らないから頼んでるんだろ
馬鹿だなあきみ
667名無しのオプ:2007/10/31(水) 18:47:20 ID:RaMMgkqS
自分で買って読んで感想書けばいいだけじゃん
668名無しのオプ:2007/11/01(木) 00:25:19 ID:fXnnwSu6
>>666
スレ違い
669名無しのオプ:2007/11/01(木) 16:39:14 ID:5EwBp+ot
スレ違いではないが他力本願は良くない
670名無しのオプ:2007/11/01(木) 22:27:39 ID:uwEqthU9
リク厨は死ね
671名無しのオプ:2007/11/04(日) 17:17:40 ID:aymv81w9
平岩弓枝も昔ミステリー書いてたみたいだけど読んだ人いる?
672名無しのオプ:2007/11/04(日) 19:19:09 ID:vkD5dXQU
「御宿かわせみ」ってまだ現役じゃないか?
673名無しのオプ:2007/11/04(日) 19:26:08 ID:XfHC+nNR
「御宿かわせみ」は明治編に入ったね
ってそういうことではなくて、>>671は平岩の現代ミステリーのことを言っていると思われ
6743:2007/11/06(火) 13:27:39 ID:7DBKRT83
森真沙子「青い灯の館」(角川文庫)★★★★
1987年の長編。
霧生冴子は将来あるバイオリニストだったが交通事故で同乗の母親を亡くし、自分も音楽家
生命を絶たれ、精神科医の治療を受けていたが、湘南の旧家・楡家の娘・美也のバイオリン
教師を頼まれる。繊細で病弱な美也も母親を亡くしていたが、洋館には母親の幽霊が出ると
いう。古めかしい洋館には明治時代に作られた、迷路のある奇怪な庭園などもあり、過去には
刃傷沙汰や自殺なども起きていた。或る日、イタズラ半分に連れてきた霊能力者が庭園に作ら
れた密室状態の四阿で謎の死を遂げ、以来、冴子と美也を巡って奇怪な出来事が続発する・・・。
これはゴシック・ロマンの典型。謎めいた一族と美少女、古びた洋館、奇怪な庭園に幽霊、そこ
にやって来た家庭教師を襲う怪事件・・・。しかし、結末はごく常識的に解決されます。「本格」
というほど論理的な推理やトリックがある訳ではないが、全ての謎がスッキリと解明される結末
で満足できました。この作家の作品では今まで読んだ中で一番の出来、なかなかの佳作。
・・・でも、「美少女の美也が先生への嫌がらせで、バイオリンで‘とんねるず’を弾いた」とい
う一節だけは何とかならんものか・・・。ゴシックロマン台無しw

佐野洋「未亡記事」(集英社文庫)★★★
1961年の長編。
地方新聞・四七新聞の政治部長・亀沢が列車に轢かれて死んだ。その直前には新聞社に妻と名乗
る女性から亀沢が脳溢血で死亡したとの電話があり、自宅に確かめると、妻はそんな電話はして
いない、という騒ぎがあったばかりだった。轢死体は顔と指紋が判別できなかったため他殺の疑い
が濃厚になる。新聞記者・浅田は婚約者の寺崎が亀沢と関係があり破談となったことから彼を恨ん
でいたが、上司の命令で事件の謎を追うことに・・・。
いわゆる「顔のない死体」で、むろん定石どおりには終わりませんが、今では、このパターンも容易
に真相を見破られてしまうかも。真犯人の設定も、さほど意外ではないです。結末の決着の付け方は
良かったと思うし、タイトルも意味深長で良かったのですが。
6753:2007/11/06(火) 13:31:01 ID:7DBKRT83
本岡類「桜島一○○○キロ殺人空路」(講談社ノベルス)★★★
1987年の高月警部補ものの長編。これは「本格ミステリフラッシュバック」で紹介済みの作品
ですね。
弁護士夫人が絞殺された。捜査の結果、夫の弁護士以外に容疑者はいなかったのだが、弁護士に
は、事件当時、鹿児島の桜島にいたという鉄壁のアリバイが。彼の部下が東京から現地に電話を
しており、もちろん電話器には転送装置など、何の仕掛けも無かった。部下も絶対に嘘はついて
いない。迷宮入りが心配される中、捜査一課長直属で、捜査本部からは独立して捜査を行う、高月
警部補が出馬した。高月は鉄壁のアリバイを崩すことができるのか・・・。
なるほど、アレとアレの違いに着目した、まあまあ面白いトリックですね。山村美紗ふうの「電話
トリック」とは違う発想で、誰でも知っているけど気付き難いネタをメインに据えています。
さり気ない伏線も上手い。でも、この仕掛けを施すのは、ちょっと危険な場面があるような。また
メイントリック以外には謎らしい謎がないので、ちょっと物足りない点も。

辻真先「火の国死の国殺しを歌う」(徳間文庫)★★
1982年の慎・真由子シリーズの第4作。
取材旅行で熊本の謎の遺跡「トンカラリン」を訪ねた慎は、地元老人の消失事件に遭遇。失踪した
老人は真由子の昔の知り合いだったが、数日後、老人の死体が遠く離れた阿蘇山で見つかる。そして
老人の友人たちを狙う連続殺人が勃発するのだが・・・。
うーん、事件の動機がコレというのは、なかなかユニークではあるけど、どうも面白味に欠けるなあ。
メインのトリックもそれほどではないし、動機が動機だけに暗い結末となるのはやむを得ないけど、
やはり救いがないな・・・。
6763:2007/11/06(火) 13:47:11 ID:7DBKRT83
斎藤栄「青い耳の謎」(徳間文庫)★★☆
1967〜69年頃に旧「宝石」誌に掲載の短編を中心にした初期短編集。
表題作は、横浜と思しき町の市立大学で起きた教授殺害事件、発見者が姉妹都市のイベントで来日
中の外国人だったことから、市長の厳命で市役所の渉外係が探偵役となるという中編。擬音に関する
英語表現の錯誤がミソですが、それ他のアリバイ工作や、巻き添えで死んだ男の話、ドンデン返し
など、アイディアを詰め込みすぎて、ゴタゴタで整理されておらず残念。
「炎の根」は銀行強盗に誘拐された男が無事救出されたが、強盗二人組は盗んだカネを燃やし、仲間
割れで主犯が相棒を殺す、という不可解な展開。真犯人の登場場面がアヤシすぎてカラクリが読めた。
「強盗と被害者の××××」というアイディアはユニークだが。
「昼の花火」も外国人による英語表現の感覚のズレを狙った作品。真犯人の設定と文章の表現振りに
努力しています。
「メバル」は「本格」ではないが異色の力作。叔父の火葬を見送る夫婦の描写から始まり、妻は叔父
の臨終時における夫の行動に疑惑を抱く。自宅へ帰る途中、釣り帰りの隣家の主人から魚をもらう
が・・・。これはR・ダール辺りの味を狙ったのか。
「春の陰謀」は駄作、「勝負手」は将棋ネタの話だが今ひとつ。
全体に出来は良くないが、新人ゆえの文章や構成の拙さはあっても、「本格」や「奇妙な味」の様々な
アイディアを投入して斬新なミステリを書こうとした姿勢は好感が持てます。

平岩弓枝「ハサウェイ殺人事件」(集英社文庫)★☆
1960〜1975年の作品を収めた短編集。
表題作は、ちょっとした早業トリックだが△、「夏の翳り」は×、「オレンジ色の口紅」も鑑識は何を
してるの?という感じで△、「右手」はただの犯罪小説で×、「石垣が崩れた」も犯人の心情は上手く
描けているけど、それだけ。「青い幸福」も主人公の犯罪に走るまでの心の動きは秀逸だが、結局のと
ころ犯罪を扱ったホームドラマ。全体に「犯罪がらみの一般小説」といった感じでしかないです。
今度は「華やかな魔獣」を読む予定ですが、果たしてどうかなあ。
6773:2007/11/06(火) 14:07:02 ID:7DBKRT83
小杉健治「夏井冬子の先端犯罪」(集英社文庫)★★☆
1987年の長編。
コンピュータ・コンサルタントの純子は、かつて自分の恋人を奪って駈落ちした親友の弘美
を見かける。一方、電機メーカーの大東電機では、コンピュータから特許の情報が盗まれ、
五億円と引き換えに売り渡してもよい、という脅迫状が届く。同社に勤める井川は、事件の糸
を引く冬子と名乗る謎の女性を追ううち、その女性が弘美ではないかと行方を追っていた純子
と出会う・・・。
真犯人はかなり意外だが、伏線の出し方が遅く残念。また、もう一つの殺人と連動してないのも
惜しい。コンピュータ・ネットワークに関しては、二十年も前の作品なので、今の感覚ではチャチ
に見えますが仕方ないでしょう。

浅利佳一郎「いつの間にか・写し絵」(ケイブンシャ文庫)★★
1979〜87年頃の作品を収めた短編集。
「いつの間にか・写し絵」は1979年のオール讀物新人賞受賞作。サスペンスだが下手だし、
ラストもヒネり不足。「いつの間にか」と「写し絵」という二つの作品かと思った。当時は
斬新なタイトルだと思われたのか。
「冬から、秋に」は謎の手紙の差出先を訪ねた男、訪ねた廃屋には一本の筆が・・・。凡作。
「枯花」は旅行先で入った美術館で、自宅の絵と同じ構図の絵を見つける話。オチが唐突。
「思い出しましたか」もオチが唐突。
「つき」は電車にカバンを忘れた男。どういう訳か、中身の品がバラバラに警察に届けられる。
最後にカバンが届けられてくるが・・・。これは上手い。
「豪華本」は蔵書マニアにはキツい話。本を集めるだけで読みもしない奴に「ざまみろ」と言って
いるようで、個人的には爽快だった。
「逢いびき」が一番の「本格」。車でネコを轢いて鬱の女性。同じ日に子供の轢き逃げ事件があり、
目撃者の証言から夫が乗っている車ではと疑う・・・。小栗虫太郎風のトンデモなトリックだが、
切れ味の鋭い結末。「爪」は凡作。
全体として作風が掴めない。奇妙な味でもなく、連城風でもあるが深みや伏線が足りない。
1、2作を除いてオチの付け方も不味く切れ味も乏しい。
6783:2007/11/06(火) 14:29:47 ID:7DBKRT83
5連投スマソカッタ
なお
>斎藤栄「青い耳の謎」(徳間文庫)★★☆
>1967〜69年頃に旧「宝石」誌に掲載 ×
>1962〜64年頃に旧「宝石」誌に掲載 ○

井上ひさし「十二人の手紙」(中公文庫)★★★★☆
>>353さんが紹介してくれたので読みました。全編、手紙や届け書などを混ぜて構成された
1978年の連作集。傑作でした。
プロローグの「悪魔」は、集団就職で上京した娘の転落の人生。「葬送歌」は或る作家宛て
に送られた創作の脚本と返事。何故、下らない出来の脚本を作家に送ったのかの理由が意表
を突く。
「赤い手」は出生届、転居届など役所への届出書や誓約書などの公文書ばかりで構成された
或る女性の人生。この構成で薄幸の女性の人生が鮮やかに浮かび上がるのがスゴい。そして
ラストの手紙・・・。
「ペンフレンド」もトリッキー。北海道旅行を計画する女性が、現地に住む男性をペンフレ
ンドとして募集する。折原一の或る短編を思い出した。
「第三十番善楽寺」はホームレスの家出話。「隣からの声」は夫が海外赴任した妻の孤独。
これはオチが読めた。
「鍵」は山中に篭った画家と妻のやり取り。留守宅で事件が起きるが、画家は手紙の文面だけ
から全てのカラクリを見破る。これも上手い本格もの。
「桃」は慈善団体の寄付を断る施設の話。「シンデレラの死」は上京して劇団に通う女性の話。
「玉の輿」は、やり取りされる手紙が、実は殆ど全て・・・・・・だったという技巧的な短編(だが、
たまたま最終ページを先に見てしまった・・・orz)。
「里親」はミステリ作家とその弟子の間に起きた殺人事件。タイトルに絡む錯誤が効いている。
この作家について「あれ?」と思ったが、まあそれはエピローグまでのお楽しみ。「泥と雪」は
高校時代の初恋の女性を巡る話。
そしてエピローグの「人質」。こう来たか。今から三十年も前にやっているのはスゴい。
以上、ミステリとは全然関係ない話もあるけど、非常にトリッキーな趣向や技巧が隅々まで凝ら
されている。面白かった。
679名無しのオプ:2007/11/06(火) 18:10:59 ID:Ek1O70yY
どんどん連投してくれ
680名無しのオプ:2007/11/06(火) 21:39:53 ID:6Nf/SrZM
平岩弓枝のミステリはそこそこ楽しめるけど、本格ってほどでもなかった。
2時間ドラマ感覚で割り切って読むのが吉かと。

「ふたりで探偵を」は妻が実働、夫が安楽椅子探偵のコンビでほほえましい。
681名無しのオプ:2007/11/06(火) 22:15:27 ID:Ek1O70yY
直木賞の選評で繰り返し「ストーリーよりもキャラクター」を
強調するのは自分が気の利いたプロットを捻り出せない裏返しなのかな
6823:2007/11/11(日) 14:22:12 ID:7SDvQwlI
高木彬光「捜査検事」(角川文庫)★★
1964年のグズ茂物の短編集、名古屋地検に勤務している頃のお話し。
「灰色に見える猫」は団地で起きた恐喝屋の殺害事件。J・D・カーの有名なトリックを導入
しているが、さほどの出来ではない。「黒と白の罠」も凡作だが、違法捜査スレスレの手を使う
グズ茂が面白い。「新妻への疑惑」は駄作。全くヒネりがない。
「灰の軌跡」のトリック自体は面白いのだが、そのネタの名が出た瞬間に読者に感づかれてしま
う。それに鑑識でバレなかったのもおかしい。
「身元不明」は無駄に長いだけ。「顔のない死体」と見せて、実は・・・、と見せて、更にユニーク
な動機面から説明するのだが、その動機に無理がある。
こないだ読んだ「最後の自白」に比べると格段に落ちる出来。

高木彬光「波止場の捜査検事」(角川文庫)★★★
1966年のグズ茂ものの短編集。「捜査検事」に続く第二弾で神戸に転勤してのお話し。
「黒い波紋」は海外から指名手配犯を送還してきた貨物船で肝心の指名手配犯が殺される。更に
船員の一人も殺されて・・・。第一の殺人は面白くないが、第二の殺人の密室状況の桟橋での犯行
方法が面白い。
「情熱なき犯罪」は会社のカネを横領した男が恋人と一芝居打って逃亡しようとしたところ、二人
の仲を疑う同僚が何故か横領男の自宅で殺されてしまい、更には横領男も殺されてしまう。横領男
の視点に立った前半が後半鮮やかに反転して、裏の真相が暴かれる佳作。
「第三の顔」は暴力団を追っていたやり手のブン屋が殺される話。アリバイものだが先ず先ずの出来。
「第四の脅迫」は技術屋の重役が目障りな社長を殺そうと計画、社長に瓜二つの弟に脅迫状を出し、
弟と間違われて兄の社長が殺されるという筋書きを企むが、本当に弟のほうが殺されてしまう。これ
も力作だが、「情熱なき犯罪」に似ている点はマイナス。「鎖の環」は凡作。
前作に比べて本格味は増えたが、やはり「最後の自白」の方が上かな。
6833
富島健夫「容疑者たち」(徳間文庫)★★★
1961年の長編。
さち子は順平と結婚した後も元恋人の沖津と浮気をしていたが、或る日、何者かに殺されて
しまう。容疑者は四人。沖津はさち子に未練が募っており、隣家の学生は慕っていたさち子の
浮気を目撃してヤケになり、順平の元恋人の節子もさち子を恨んでいた。そして夫もまた出世
のために専務の娘との再婚を企んでいた。果たして真犯人は誰なのか?
冒頭で正体を隠した犯人による犯行が描写され、それは誰なのか?という興味で惹きつけます。
そして通夜の席では四人が互いにお前が犯人だと名指し合って、もうシッチャカメッチャカ。
そして結末・・・。なるほど、或る現代きっての人気作家の某作品の先駆、とも言えますが、
これは「本格」かなあ・・・。まあこれ以上は書けないので・・・。
なお「解説」は先に読まないこと。

笹沢左保「夜の声」(徳間文庫)★★
1963年の短編集。
突如記憶を失った女性の原因を探る「死んだ記憶」△。「雨の中の微笑」もヒロインの心理の
豹変ぶりが良く分からん。「男妾」△。「作品・死の跡」もダメ。「若すぎた未亡人」も△。
とにかく前半の作品群は全く取るところなし。
バカバカしいけど密室トリックを扱った「灰色の空間」辺りから持ち直してくる。福岡、高知、
松山・・・、と泊り歩いたアベックの片割れが殺される「身許不明の女」はまあまあ。時代的な
ものもあるけど、現代ならハワイ、グアムといったところかなw
自殺願望の女性を描いた「敗北の運命」、「被害者の顔」も今ひとつ。
「流れる血も美しく」がベスト。作家の「わたし」は、ふと盗み聞きした男女の会話から、二人が
女の夫を殺そうと計画していることを知る。決行の日、「わたし」と警官が犯行現場に踏み込むと・・・。
これは上手い。男女の会話の真相は確かにフェア。2ちゃんの「面白い叙述トリック考えた」スレに
出てきそうなネタw
巻末の表題作も佳作。会社のカネを横領した男が料亭で突然、仲居に襲い掛かり、仲居は男を殺して
しまう。だが男は不能で、女性を襲うはずは無いのに何故?という話。オチが効いている。
後半の3作ほどを除いては読む価値はないです。