『読みました』報告・海外編Part.3

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852書斎魔神 ◆AhysOwpt/w
J・M・クッツエー「恥辱」を読んだ。
駄目ミスを連続して読んだ後だと、さすがにブッカー賞受賞作品の凄みを感じさせる作である。
教え子のJDといい仲になり大学を追われた初老の男(大学教授)が娘が暮らす田舎の農場に
ひきこもる。その地でクライムあり、色事あり、そして意外な「職」にもめぐり会う・・・
なんか現代日本でもありそうな、無さそうな話なのだが、意外に先が読めず、
犯罪も絡むところからコンパクトに纏まったサスペンス小説としても堪能出来る作に
仕上がっているのはさすがだ。
これならアホなミスオタにも読破可能なのではないかと思い、ここに謹んで紹介する次第である。
表面的には救いが無いものの、ドン引きの暗さにはならないこの作者独自と言い得るテーストに
富んだラストが読ませどころであり、このラストのシークエンスのみだけでも読む価値十分な
これは「文学」であると言い得る。
一点気になったのは、鴻巣嬢の訳文は全体的にこなれており読み易くで良いのだが、
あまり使用しないような読み難い漢字がルビ無しのまま目につく部分があること、
これは「嵐が丘」(訳書として全体評価は新訳中でも高なのだが)でも感じたことであった。
この点につき、各人、十分に心しておけ!
853書斎魔神 ◆AhysOwpt/w :2008/07/21(月) 00:11:35 ID:Z6s9xfsc
チャールズ・ボーモント「夜の旅その他の旅」を読んだ。
意外に収穫があった作品集である。
「トワイライト・ゾーン」や「ヒッチコック劇場」のライターとして活躍した作家のわりには、
本書の収録作品には普通小説といったものが多く、人生の哀感や妙味、アイロニーを痛烈に
感じさせる文学性に富んだものが多いのが予想外であった。
大好評な全話講評逝ってみよう!!
「黄色い金管楽器の調べ」
今風に言えば負け組である主人公ファニー青年に訪れた好運とは・・・
皮肉なオチが効いた好短篇である。
「古典的な事件」
これも意外性に富んだラストな一編、カー好きなら主人公ハンクの心理がわかるような
わかないような、といったところか。
くどくどしたカーに関する因縁話に帰結させなかったのが成功している。
「越して来た夫婦」
これは先が見えるスリラー、それなりにサスペンスフルではあるがそれだけとも言い得る。
「鹿狩り」
ハンティングが広く趣味として定着していれば、日本の会社でもありそうなエピ。
キャラも展開もお約束と思いながらも、主人公の心情に共感してまうのは優れた語りの巧さゆえ
であろうか。
「魔術師」
人の良さゆえ、マジシャンとしてタブーを犯してしまう老いた主人公に待つ残酷な展開・・・
最後に一応な救いが用意され、後味は悪くないこれも好短篇である。
「お父さん、なつかしいお父さん」
タイム・パラドックスねたの短めの作、ねらーが大好きなビッチねた(ただし、ビッチは登場しない。
これはオチに関係する)でもある。途中で結末が見えるのが難。
854書斎魔神 ◆AhysOwpt/w :2008/07/21(月) 00:12:25 ID:Z6s9xfsc
「夢と偶然」
夢をネタにしたサイコ・ミステリだが、綺麗にまとまり過ぎたスレッサー風なオチが創り過ぎな感が
強く、この作者の持ち味である独自のリリシズムを欠くのが惜しまれる。
「淑女のための唄」
老朽化した客船と老人たちと来れば、これもオチは見えるし、少し甘過ぎで高評価は
出来かねる一編。
「引き金」
名探偵が登場する典型的な短篇ミステリだが、オチがわかり難い面があるのがマイナス。
「かりそめの客」
共作によるSF短篇。ゆえにボーモント風のリリシズムは皆無といってよいものとなっている。
プレジデントをはじめ芸術家が政務あたる世界、人間精神を動力とする宇宙船等、
面白そうなアイデアはあるので、長編として書き込めばそれなりに仕上がった作かとは思う。
「性愛教授」
セックスカウンセラーを主人公にしたエロねた。オチはまずまず面白いが、
副主人公である依頼主カビスンの声質が気になるところ、ここへ伏線を張って欲しかったもの
である。
「人里離れた死」
中年ロードレーサーが主人公なこれもミステリとは言い難い作。
主人公の死を予想していると・・・哀愁に富んだラストが印象的。
「隣人たち」
Neighborsと言えば、ジョン・ランディスの不条理コメディの傑作が想起されるところだが、
同題の本作は、人種問題を背景に当時の社会状況を反映したかの如き作、
オチではなく作者の思想を反映したようなラストをエンタメの読者はいかに評価するかという
ことであろう。
「叫ぶ男」
ドイツ(*これがミソ)の修道院を舞台にしたサスペンスフルなサイコ・ミステリ。
スケール感溢れるオチも面白い。
「夜の旅その他の旅」
これもミステリとは言い難い作だが、ズージャをやっている連中のビビッドな姿が鮮やかに描かれた表題作だけあって収録作品中随一の傑作である。
バンマスの「思い込み」がわかるような、わからないようなという微妙なところが
何とも巧さを感じさせるものがある。