ジム・トンプスン「鬼警部アイアンサイド」を読んだ。
日本でも70年代に人気を博した車椅子に乗った警部が活躍するテレビドラマを
元ネタにしたオリジナル作品である。
退廃感漂う逝っちゃてるノワール得意のトンプスンが、典型的な正義の味方を
書いたという点では、彼氏にとっては異色作ということになろうが、
ストーリーがたいしたことない上に、主人公のアイアンサイドをはじめ、
テレビシリーズのキャラ像とのギャップが大き過ぎるという感がある。
本書におけるアイアンサイドのプロファイル「逞しいハンサムな巨漢の男」
レイモンド・バーを知る者にはハンサムという形容には思わず「?」に
なるし、アイアンサイドと部下である女性刑事イヴがほのかな恋愛関係にあるのも
「?」である。
助手の黒人マークもカムイで有名な中田浩二氏がアテていたこともあって、
もっと落ち着いた雰囲気のイメージがあり、本書の血の気が多いマーク
(彼自身が事件に巻き込まれ拘置されてしまうため、ほとんど活躍しない)
には違和感があり、また、ハンサムな部長刑事エドもテレビよりも飄逸過ぎる感がある。
人間の善性を示唆したかのようなエピローグは、徹底して「悪」を
描いて間断するところがなかったトンプスンらしからぬ虫酸が走るようなヘタレぶり、
テレビシリーズオンエア時ならともかく、トンプスンを中心としたノワールブームも
一息ついた感がある現在に、古本を引っ張り出して来てまで、こんな作を
わざわざ翻訳する必要があったのか疑問を感じざるを得ない。
>>7 いつ頃?