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書斎魔神 ◆qGkOQLdVas :
今さらながら、トマス・H・クック「緋色の記憶」を読んだ。
エドガー賞受賞作にして、日本でも刊行当時は好評、テレビドラマ化までされた作で
はあるが、カバー(裏)の紹介文を読んだだけで「先が読める」感があり、
長く積読にしていた一冊。
今回、一読したが、やはりミステリとしては予想どおりの展開であった。
主人公の少年(語り部たる老弁護士の少年時代)の事件への絡み方を注視してゆけば、
おのずから「展開」は見えて来るのである。
また、水圧に関して無視又は無知な部分があるが、これは本筋に絡む部分だけに
頂けないものがある。
ただし、後に新潮文庫版「嵐ヶ丘」の新訳を担当(作品中には「嵐ヶ丘」への言及もある)する鴻巣友季子嬢の起用は、この暗く重い運命的な「小説」の雰囲気にはマッチしており、
適役であった。ミステリとしては、ニ級品以下の作と評せざるを得ないものの、
雰囲気とテーマに着目すれば、十分に再読に堪え得る作とも言える。
人間を描くこと、本作では人間の心の暗い奥底に迫ること、このような文学的試みが
ミステリでなされるのは決して悪いことではない、かと思う。