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書斎魔神:
クライド・B・クレイスン『チベットから来た男』を読んだ。
解説では絶賛状態(『謎・論理・意外な結末の三位一体を、独創的なストーリー
とあざやかな雰囲気のなかでなしとげた、まさに本格好きの琴線をゆさぶる逸品と
いえます』だそうである)だが、全集初期の刊行物だったこともあって売らんかなという
気持ちはわからぬではないものの、あまりに持ち上げ過ぎである。
全327頁の作品であるにもかかわらず、メーンなネタである密室殺人の発生する
のは物語もとうに半ばを過ぎた第九章(224頁から)というのも気の長い話であり、
ここに至るまで、あくまで物語の装飾に過ぎない作者の仕入れたチベット密教ネタを
たっぷりと拝聴させられることになる。
(ネタ本に『西蔵旅行記』まで挙げられており、その薀蓄は結構本格的なものに
思えるが、読書人ならぬ単なるミスオタにはきついものがあろう)
そして、最大のセールスポイントである密室トリックもやや物理的小技過ぎるきらいが
ある。ジョンならロマンス等もまぶしながらも、もっと切り詰めて書いたのではないか。
探偵役の歴史学者の爺ちゃんのキャラも地味過ぎでインパクトを欠く。
ただし、謎解き終了によるあっさりとした幕切れはしっこさがなくて良し。
97年の邦訳作品だが、黄色人種に対する作者の蔑視を感じさせるような
部分もあってか、この作者の刊行物は後が続かなかったようである。
(第十三章で探偵と警部が日本料理屋で食事するシーンは、ちょっと面白いものがある。
タマネギ、キノコ、スライスしたヒシの実入りのスキヤキとは・・・(w )