『読みました』報告・海外編Part.3

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44書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
ダシール・ハメット「ガラスの鍵」を久々に再読した。
ハメット自身が最も気に入っていた長編とのことだが、確かに著名な「マルタの鷹」
「赤い収穫」よりも、ハードボイルド・ミステリとしてのまとまってが良いと
思われる作である。
市会議員の息子殺しに他の殺しも絡み、物語はスピーディに二転三転し、
解説の中島河太郎氏は、ハードボイルド作品の謎解きの興趣の薄さを指摘しているが、
本作に関しては、本格としてはともかく、サスペンス・ミステリとしては十分に面白い
物語足り得るものとなっている。
また、既に元祖ハメットの段階にして、
ハードボイルド・ミステリ=私立探偵小説という固定観念を打ち破る作でもある点も
指摘しておきたい。
(主人公はギャンブラーだが、実態はヤーさんである。選挙を巡る裏社会の攻防は
時代性を感じさせる部分はあるが、かなりリアルな感がある)
文豪ジードは、ハメットはミステリに自己の才能を浪費していると見ていたらしいが、
同時代のアーネスト、ウィリアム、ジョン等(全てノーベル賞作家)と比較して
その評価を鑑みると、この評は正鵠を射ていると言わざるを得ないものがある。
ダシールが、ハードボイルド・ミステリの祖となり、金銭的な成功を得るのとは
引き換えに大きなものを失う結果となったように思うのは、果してジードと私のみ
であろうか?