287 :
書斎魔神 ◆qGkOQLdVas :
ローリー・リン・ドラモンド「あなたに不利な証拠として」を読んだ。
今更ながらではあるが、昨年度のこのミス、文春の両ランキングのベスト1、
ダブルクラウンに輝いた警察小説(というか実態は婦人警官小説とでも称すべき内容)
の佳作である。
深夜の屋外捜査の緊張感、単独で死体を目前とした際の恐怖感、
犯人と対峙した緊迫感等々、警察官という職業上、当然対面するであろう状況が
作者の実体験(5年の警察勤務)を活かし、ヒラリー、ニコラス、エド、
ペール&マイ夫妻といった過去の警察小説の名手たちも書き得なかったほど
ビビッドに息詰るような迫力で描かれ、読む者に強烈な印象を残す。
ただし、警察小説をミステリの1分野と把握する以上、本作をミステリと言えないことも
ないが、最終話「わたしがいた場所」はどう見てもミステリとは言い得ない領域の作と
なっており、MWA探偵作家クラブ賞最優秀短篇賞受賞作の「傷痕」にしても、
最終話への布石となる女性警官グループが遭遇するアクシデントの顛末を描いた
「生きている死者」にしても、収録作品中では比較的ミステリ色が濃いものさえ、
意外性と言えるほどの展開は無い。
288 :
書斎魔神 ◆qGkOQLdVas :2007/02/03(土) 23:39:13 ID:Z5KHaM9p
むしろ「傷痕」などは、こういった作品にありがちな悪徳警官や無能な捜査官ではなく、
むしろ腕利きゆえの捜査の誤びょうの可能性を抉ったものとして、
ひとつの小説として読んだ場合は非常に面白いものがあるのだ。
こういった点で言えば、本作はネタばれを恐れさせない、ネタばれされても十分に
読み応えがある(反面、ミステリとしては、ばらすほどのネタが無いとも言えるのだが)
単なる読み捨てミステリを越えた「ホンモノの小説」だとも言い得るのだ。
ただし、一点だけ不満点を挙げれば、まえがきを部分成す作者の謝辞にもあるとおり、
12年のにわたって書かれた作品を集成したもののためか、前半の作と後半の作では
作風の変遷が際立っており、やや調和を欠く感があることである。
3つの短篇連作により敏腕女性警官の波瀾の一代記をクールに描き切った
キャサリン・シリーズと比較した場合、
前述した最終話「わたしがいた場所」は心の癒しの世界を描いたヒーリング小説
とでも称すべきものへと転じているのである。
各個別の作品の出来は悪くないだけに、編集にもう一工夫が欲しかったところである。
本作を読むことにより、ミスヲタが安手の謎解きに傾斜したミステリを焚書するだけの
良識を持ち得るか否か、これはひとつ試金石ともなる作である。
各人、心して読め!