『読みました』報告・国内編Part.3

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90書斎魔神 ◆qGkOQLdVas
高橋いさを著「オリジナル・パラダイス 原作小説の映画論」を読んだ。
ミステリも多く取り上げられているゆえ、あえてこの板でも紹介しておく。
うーん、著者(劇団主宰・劇作・演出家)が、いかに映画評論家や書評家という
プロではないとはいえ、果して、まともに原作を読み、映画を見ているのか否か、
疑問を感じさせるような説明不足や基本的な間違いが目に付くのが気にかかる。
いくつか例を挙げておくと、
(1)「サブウェイ・パニック」のガーバー公安官(映画ではウオルター・マッソーが
演じた)は、「原作ではさほど目立った活躍はしない」どころか、物語途中で…なのである。
本作に関しては、原作と映画のラストの比較論も欲しかったところである。
(原作の人間心理に着眼したリアルなラストも、作り物の面白さを狙ったユーモラスな
映画のラストとは異なる捨て難い味がある)
(2)「ブラックサンデー」の項で、関連して、同じ作者(トマス・ハリス)の
「羊たちの沈黙」にも触れられているが、作品世界の雰囲気を大きく左右する
スターリング捜査官の性別が変更されている点に言及されていないのはまずい。
(3)「ローズマリーの赤ちゃん」を現代的ゴシックホラーと称しているが、
本作はモダンホラーと理解するのが通念である。
ゴシックホラーの定義まで引用されているが、不適当な形容であることが、
なぜわからなかったのであろうか。
91書斎魔神 ◆qGkOQLdVas :2006/03/05(日) 10:54:43 ID:UZCdegFa
(4)「夜の大走査線」の項に基本的な間違いが散見される。
「クインシー・ジョーンズの歌う雄叫びのような主題歌も印象的だ」
とあるが、クインシーは作曲者であり、歌っているのはレイ・チャールズ。
共にビッグネームだけに、余りに基本的な間違いに過ぎる。
また、「シドニー・ポワチエはこの作品の刑事役でアカデミー主演男優賞を受賞した」
とあるが、本作で主演男優賞を受賞したのは共演のロッド・スタイガー(警察署長役)
である。ポワチエの主演男優賞受賞作は「野のユリ」である。
(5)「裏窓」のジェームス・スチュワート演じる主人公の恋人役の女優は
イングリッド・バーグマンではなく、グレース・ケリーである。(ただし没年は同年)
「この伝説の映画を見に映画館に足を運んだわたしの胸は、
すでに期待ではち切れそうになっていた」と記されているが、であるならば、
こういった基本的な間違いは頂けないものがある。

さらには、ハードボイルドの定義が硬直的過ぎる(「三つ数えろ」の項)といった
面などもある。
私は著者に下記の言葉を贈りたい。
「心して書け!」
著作は、対象が好きだから、語りたいからで済むものではないのである。