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書斎魔神 ◆qGkOQLdVas :
山田風太郎「幻燈辻馬車」を読んだ。
風太郎(以下「フータロー」と略す)の明治ものは、やはり初期に面白いものが多いが、
本書を第一に推したい。(GW前の週刊文春の特集等を見ると、同様の考えの識者は多い
ことがわかる)
「警視庁草紙」もあるが、こちらは少々遊び過ぎという感も強い。
明治開化後の東京、亡き息子の一粒種お雛を横に乗せ、元会津藩士(言わば当時の負け組)干潟干兵衛の辻馬車は幻燈の中を行く!
そして2人を取り巻く虚実取り混ぜた多彩な人物が繰り広げる人間ドラマ…
こう俺が書くと面白そうだが、実在の人物や事件を絡ませ展開するという作品の趣旨が、
逆に制約となり、同じ著者による忍法帳シリーズやミステリのような破天荒な面白さは
欠く結果となっている点は否定出来ないものがある。
本作に関しては、干潟干兵衛と孫娘お雛のエピのみを抜粋し、脚色したラジオドラマが
印象深いものがあり、干兵衛役は佐藤慶、原作以上に落ち着いた雰囲気のキャラとなっている。
(ストーリーの大筋は原作と同様だが、柿ノ木義康を巡る復讐談の展開が異なる。
ここは物語のポイントのひとつをなす部分なのだが、
「果して復讐は本当に成就したことになるのか?」という、原作には無い重い問い掛けが描かれている)本作のような大部の作のドラマ化は困難であり、成功の例は少ないと思われるが、登場人物が多過ぎて煩雑な感があり、かつ、御都合主義が目立ち過ぎる原作が、
巧く整理された「ホン」は見事の一言に尽きる。
いずれこのような「ホン」をモノにしたいと思うのは、誰しも同じかと思う。